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論  説 チョウドリ マハブブル アロム BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略 北九州市立大学法政論集第 45 巻第 3・4 合併号 (2018 年 3 月)抜刷

KITAKYUSHU SHIRITSU DAIGAKU HOU-SEI …...BOP層及びBOP ビジネスの定義と概要について論じる。1.BOP 層定義 BOP層について正確な定義はされていないが、世界の人々の所得階層を

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論  説

チョウドリ マハブブル アロム

BOP型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略

Reprited from

KITAKYUSHU SHIRITSU DAIGAKU HOU-SEI RONSHUI

Journal of Law and Political Science. Vol. XLV No.3 ・4

March, 2018

International strategy of the multinational

enterprise about the BOP business

Chowdhury Mahbubul Alam

北九州市立大学法政論集第 45 巻第 3・4 合併号 (2018 年 3 月)抜刷

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論  説

Ⅰ はじめに

 今日まで途上国における貧困問題は、解決すべき国際的課題として、国

際機関や先進国政府などの公的機関、非政府組織(NGO)や非営利組織

(NPO)などの市民社会が中心となって努力を払い続け、過去半世紀以上の

間に、2.5 兆ドル以上を費やしてきた ( Lodge and Craig, 2002, 13-18 頁 )。それにもかかわらず、世界の半数以上の人々が、貧困に苦しんでいるとい

う現実がある。しかし、近年、新たなアプローチとしてビジネスを通した

貧困解消へ向けた努力への関心が高まっている。それは途上国の低所得階

層を対象に、製品・サービスなどを購入可能な価格帯、販売形態で提供す

る持続可能なビジネス・アプローチである。

 現在アジア新興国⑴は低所得階層の人々の収入上昇させ貧困層から脱却、

生活水準の向上に寄与し、新所得階層を成立させた。その背景には、国際

貿易特に多国籍企業の直接投資の飛躍的な拡大と一人当たりの GDP が上昇

である。多国籍企業よる所得階層別の消費者をターゲットとした新型ビジ

BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略*

チョウドリ マハブブル アロム**

北九州市立大学法政論集第45巻第3・4合併号 (2018年3月)

*  本論文は 2017 年 1 月 28 日に南山大学、経営研究センター主催、アジア諸国経

営の理論と実践の研究、 ワークショップ及び日本経営学会九州部会北九州市立大学

2017 年 11 月 11 日に「多国籍企業によるアジア新興国の BOP 型ビジネスに関す

る考察」報告した後書き加えたものである。

** 公立大学法人福岡女子大学・国際文理学部・国際教養学科、大学院人文社会科学

研究科教授。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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ネスは注目伸びている。それは、世界の所得階層の底辺層を BOP(Bottom of the Pyramid 又は Base of the Pyramid)と呼び、その購買力は未

だ埋もれている巨大な市場である。BOP 層に対する国際社会の関心が高い、

多国籍企業の重要な役割が必要になっている。つまり BOP ビジネスのニー

ズに応えることが求められるようになってきた。

 本論文では、以上のことに集点を当てて、筆者の個人的経験を生かして

取りまとめることにした。この 30 年間にアジア新興国・地域を研究訪問し

た際それぞれの国・地域などの研究のために、現地のビジネスマンの実状

の変化を見聞し、さらに、企業立ち上げに携わっているが、各国を訪れる

たびにその経済成長と共に社会発展の速度と多様性に驚かされている。高

い成長を続ける中、アジア各国において消費・購買層が急速に拡大し、関

連のビジネスチャンスを国内外にも注目を浴びている。BOP 層が示すのは、

安価な商品を購入するという特徴であり、これによって大量の消費市場が

拓かれるというビジネスの見通しである。このビジネスチャンスに対し、

先進国の多国籍企業、あるいは、急速に経済力をつけたアジア新興国自身も、

主たる出資者なってきている。

 世界人口の約7割以上を占める年間所得が 3000 ドル未満で生計を立

てる BOP 層の人々の依存は、市場規模にして5兆ドルといわれている

(WRI, 2007, 1 頁)。世界のさまざまな企業が BOP ビジネスに参入し、BOP層の雇用の創出や、人々の生活向上にも貢献している。このような状況か

ら本研究は2つの領域観点から述べる。その一は「開発領域」いわゆる社

会的な問題貧困問題、その二は「国際ビジネス領域」いわゆる BOP ビジネ

ス特にアジア諸国・地域における BOP 層に対する多国籍企業貢献である。

 本研究において使用している主要データは、まず、総合的文献、BOP ビ

ジネスや多国籍企業に関す文献、つまり基本的に UNDP(国連開発計画)

UNIDO、UNTACD(国際連合貿易開発会議)、WRI(世界資源研究所)

と IFC(国際金融公社)ユニセフなどの国際機関や二国間援助機関(英国

DFID、米国 USAID)、及び JETRO(日本貿易振興機構)の文献、JICA(国際協力機構)の文献、民間企業の BOP ビジネスの所属研究者の発表デー

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タをベースとしている。BOP 市場に関する実証的な分析を行った調査報告

書として、本稿では、上記の問題意識を考慮しながら、主に、第二節で、

BOP 層及び BOP ビジネスにおける先行研究を示し、第三節で多国籍企業

における BOP ビジネスに関して考察し、第四節でアジア新興国における多

国籍企業と BOP 層に関する分析を行い、第五節でまとめた。アジア新興国

に存在する BOP 市場とそれをターゲットとした企業の取り組みや多国籍企

業の戦略とくに、多国籍企業によるアジア諸国・地域の社会の発展への貢

献を中心に取り上げ本研究を考察する。

Ⅱ BOP 層及び BOP ビジネス先行研究

 最近マスメディアや研究者、国際機関などが BOP ビジネスについて論文

や記事を取り上げ、官民連携の分野でもそれを促進しようとする機運が高

まってきている。国連(UNDP、UNIDO 等)や世界銀行、アジア開発銀行

やアフリカ開発銀行といった国際機関等、JETRO や JICA、USAID など国

主導の機関や制度、様々な公的機関が支援策を打ち出している。こうした

支援の存在は、多国籍企業や海外直接投資が BOP ビジネスへ参入すること

が多くなってきている。

 そもそも、BOP についてはアメリカ大統領フランクリン=ルーズベルト

が、1932 年4月7日のラジオ演説の際に、大恐慌で打ちひしがれている人

たちをボトム・オブ・エコノミック・ピラミッド(BOP)、つまり経済の最

底辺部に押し込まれている人たちと表現して以来のことであった。1963 年

に日本で始まったヤクルトレディによる宅配は、女性に雇用を創出し自立

をうながすと同時に、健康効果をもたらしてきたことも BOP 層として考

えられる。現在では、アジアの多くの国々でヤクルトレディが活躍してい

る。例えばバングラデシュ・グラミン・レディは、ヨーグルトを販売する

だけではなく、ヨーグルトの製造にも携わっている。グラミングループの

とりわけ、フランスのダノン社は、高栄養のヨーグルトを低価格で販売し

てもいる。マイクロファイナンス利用、ソーシャル・ビジネス、一村一品

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運動なども BOP ビジネスを行っている。そして、1998 年に C. K. プラハ

ラード(Coimbatore Krishnarao Prahalad)は BOP 層について研究報告書

の発表後世界的に注目をあびてきた。プラハラードの報告書では、企業に

とっての新たな市場として活躍可能性、BOP ビジネスにおける低所得層の

人々の基本的のニーズは、衣食住や医療といった対する必要性の高いであ

る。日本の経済産業省、JICA(国際協力機構)、JETRO(日本貿易振興機

構)などの公的機関は日本企業の BOP ビジネス活動を推進するために、本

格的な支援制度を次々に打ち出し、日本企業の BOP ビジネスの実践を推進

⑵している。BOP 層及び BOP ビジネスの定義と概要について論じる。

1.BOP 層定義

 BOP 層について正確な定義はされていないが、世界の人々の所得階層を

三分類し、高所得層を Top of the Pyramid (TOP)、中間所得層を Middle of the Pyramid(MOP) とすると低所得層が BOP 層である。国際的に代表的

な研究機関である世界銀行の支援機関 WRI と IFC は、2007 年に BOP 層の人口と市場規模の家計調査データを基に共同報告書を発表した。この家

計調査データは 110 カ国・地域(アフリカ 22 カ国、アジア 19 カ国、東欧

28 カ国、中南米・カリブ海諸国 21 カ国、その他 20 カ国である)を対象に

して取集したものである。BOP 層を「開発途上地域において 1 人当たり年

間所得(購買力平価換算)が 3000 ドル未満の世帯」と定義し、BOP 層は

「世界の総調査対象人口 55 億 7500 万人のうち 72%を占めており、BOP 家

計所得は総額年間 5 兆ドルに達する」と報告している(Hammond, A. L, et . al., 2007 頁)。

さらに、WRI の報告書では、2010 年の時点で、世界人口所得階層を年間

所得 2 万ドル以上は TOP 層が約 2 億人、3000 ドルから 2 万ドルまでの

MOP 層が約 26 億人、年間所得 3000 ドル未満の BOP 層は 41 億人いる。

年間所得 3,000 ドル 未満の BOP 層を、さらに 500 ドルごとに 5 区分に細

分類し、BOP 500 (500 ドル以下)、BOP 1,000 (500 ドル超 1,000 ドル 以下)、

BOP 1,500 (1,000 ドル超 1,500 ドル以下)BOP-2,000、BOP-2,500、BOP-

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3,000 に区分した。それは、ブラジル 3.35 ドル、中国 2.11 ドル、ガーナ 1.89ドルとインド 1.56 ドルである。これは、プラハラードやハートによる BOPの収入基準と異なった見解である(Hammond et . al., 2007, 1-3 頁)等と表

示している。

 プラハラードとハートは、2002 年に、世界の経済段層を、4 つに分類し

てピラミッド型に表現されている。購買力平価換算の年間所得 2 万ドル以

上の高所得層を TOP 第 1 層、1,500 ドルから 2 万ドルまでの中間所得層を

MOP 第 2 ~ 3 層とすると、年間所得 1,500 ドルの低所得層は BOP 第 4 層、

年間所得 1,500 ドル以下の低所得層は BOP 第 5 層となる。彼らはこれまで

多国籍企業が「購買力がない」として顧客として無視してきた貧困層に着

目し「貧困層にも購買力がある」と主張した (London, 2016, 16-17頁)。プ

ラハラードはさらに、21 世紀の真の挑戦は「商取引の民主化」であるとい

う。すなわち、あらゆるマイクロ消費者、マイクロ生産者、マイクロ革新者、

マイクロ投資家、マイクロ起業家がグローバリゼーションの恩恵を享受で

きるようにすることである(Prahalad, 2014, 20頁)。「すべての人は最低

でも、尊厳と自尊心を持ったマイクロ消費者として扱われなければならな

い。すべての人は自ら選ぶことができ、世界レベルの製品とサービスを手

に入れることができなければならない」。そのためには、情報の提供、機会

の提供、金融機関や市場へのアクセスなどを実現していくことが必要であ

る。そしてそれは、利益を伴う企業活動を通じて行うことで、持続していく。

「かつては富裕層が権利意識を持っていた。企業がこれまで以上に貧困層に

かかわるようになった結果として、貧しい人々も自分たちには尊厳や選択、

社会的上昇の権利があると感じるようになってほしいと思う。この変化は

世界中の人々のみならず、社会や環境も救うものだと私は確信している」。

プラハードは、民間企業が貧困の緩和に果たす役割に向けられていたため、

当初は「多国籍企業を含む大規模な民間企業から不十分にしか顧客として

扱われていない40~50億人の人々に目を向けさせる」(Prahalad, 2014, 6頁)。

その結果、広い共感をもたらし、例えば、Fast Company は 2004 年度の最

も素晴らしい著作だと発表した。プラハラードとハートによるこの研究報

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告書の発表以前にも、ハート (1997) は、世界の貧困、格差の拡大、第三世

界における環境破壊について問題提起をするとともに、「持続可能性」の側

面からみた経営戦略について述べていた(Prahalad and Hart, 2002: 2頁)。

 国連人口基金が発表した「世界人口白書」によれば、2011 年 10 月 31 日

に、世界の人口が 70 億人に達し、一人当たりの年間所得が 2 万ドルを越え

る高所得者は約 2 億人弱で同 3,000 ドルから 2 万ドル未満の中間層人口は

約 14 億人で残り 3,000 ドル以下の低所得人口(BOP)は約 40 億人で全人

口約 72%を占め、そのうちアジア諸国・地域では7割である。中間所得層

は、上位中間層、下位中間層に分けた上でそれぞれ将来推計を行った。上

位中間層についてみると、2010年に 2.5億人であった人口が 2030年には 7.7億人に増加する。世界経済フォーラム(WEF)の調査によれば、世界 BOPトップ層(1日当たり 1 人の所得が購買力平価で 2 ~ 8 ドルに当たる層で、

11 億人もいる)の自由裁量支出は所得の約 32% もあり、商品選択に必要な

「購買力」は十分あると考えられる(WE website)。 日本の経済産業省は、BOP 層「主として、途上国の低所得階層(年収

3000 ドル以下、全世界の 人口の 7 割、40 億人)を対象とした持続可能な、

現地での様々な社会課題(水、生活必 需品・サービスの提供、貧困削減等)

の解決に資することが期待されるビジネス」と定義 している(経済産業省 , 2010, 6頁)。

 さらに、ハーバード大学ビジネススクールの教授 V. K. Rangank、Michael Chu 及び Djorjiji Petkosk は、低所得層(Low Income、3 ~ 5 米

ドル /PPP)、生活ギリギリ層(Subsistence、1 ~ 3 ドル /PPP)、最貧困層

(Extreme Poverty、1 ドル /PPP 以下)の 3 つに分類した(図1)。所得の

分類基準は異なるが、戦略的な考え方は同じである。富士通総研 経済研究

所の金 堅敏 (Jin Jianmin) もプラハラードと同様に BOP 層の個々の支出は

小さく、消費者もマイクロ・コンシューマーしかいない。しかも、物理的

にも都市部周辺から農村エリアまで分散している。したがって、マイクロ・

コンシューマーにどう対応するか、また、分散する市場をいかに集中させ

るか、あるいは市場アクセスのコストをいかに下げるか、が課題となると

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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述べている(金 2012, 8頁)。

2.BOP ビジネスの定義

 BOP ビジネスの定義については、多様な議論、考え方が存在する。BOPビジネスは低所得者層を単なる「援助対象」ではなく、ビジネスのアクティ

ブな構成要素と捉え、BOP 層を積極的にビジネス活動する ビジネスである。

プラハラードの BOP 層についての問題提起は、BOP 層向けの製品・サー

ビスの製造・販売が利益を生み出すビジネスとして成立する。一方で市場

の意識を喚起したととともに、他方で、格差を埋めるような社会性のある

ビジネスが可能になる。40 億人のマイクロ消費者とマイクロ生産者が相当

規模の市場を構成し、イノベーション、活力、成長の原動力となってくる

(Prahalad, 2014, 26-30頁)。ことによって貧困層を新たな消費者ととらえ、

ビジネスチャンスと見ることによって、今までにない可能性が開けてくる

ということについてプラハラードは次のように述べている。

Four billion poor can be the engine of the next round of global trade

and prosperity. It can be a source of innovations. Serving the BOP

consumers will demand innovations in technology, products, services

and business models. More importantly, it will require large firms to

図1:2015BOP 層における購買力

出所:世界経済フォーラム(WEF)、金 堅敏 (2012)、8頁より作成。

11 億人

10 億人

16 億人

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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work collaboratively with social organizations and local governments.

Market development at the BOP will also create millions of new en-

trepreneurs at the grass roots level from women working as distribu-

tors and entrepreneurs to village-level micro enterprises(Prahalad,

2014,6頁).

 従来、BOP ビジネスが関心を持たれることはなかったが、プラハラード

の研究報告後徐々に、ボストン大学の経済学のミシェル・カハネら(Michele Kahane, Jessica Landis, Steve Rochlin, and John Weisner, 2005)や、マサチューセッツ工科大学(MIT)経済学部のアビジット・バネルジー、

エスター・デュフロ(Abhijit Banerjee, Esther Duflo, 2007, 147-167頁)、ハー

バード大学の経営学のジョージ・ロッジとクレイグ・ウィルソン(George Lodge and Craig Wilson, 2006)などのアメリカの経済学者や経営学者に

よって BOP 層の市場規模について「数字」の研究が進められるようになっ

た。その結果として、民間企業による BOP 層への参入活動が活発化になり、

世界中で BOP に関する研究機関が次々と設立されるようになった。また貧

困に関連する社会的な投資も高まってきている(Prahalad, 2005: 16頁)。

 プラハラードは、「ネクスト・マーケット」のなかでBOP層の人々について、

⑴お金がないというのは誤り、⑵意外にもブランド志向、⑶高度な技術を

難なく受け入れる、と指摘した上で、BOP 市場は今後の成長と世界のビジ

ネスの中心的な原動力になると予想した。今まで誰からも相手にされてい

なかった眠れる巨大市場を世の人の前に喚起し、貧しい人々は犠牲者であ

り、重荷であるという先入観を捨て、彼らはうちに力を秘めた創造的な企

業家であり、価値を重視する消費者であるという認識に改めれば、ビジネ

スチャ ンスにあふれた新しい世界が開かれるということを主張したのであ

る。そして、その後,民間企業 による BOP 層への参入活動が活発化するよ

うになり、世界中で BOP に関する研究機関が次々と設立され、また貧困に

関連する社会的な投資も高まってきている(Prahalad, 2014, 6-15頁)。

 WRI 及び IFC の報告書は世界中で広く用いられ、年間所得が 3,000 ドル

以下の開発途上国の低所得階層を意味し、彼らを消費者、生産者、あるい

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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は流通関係者として取り込むビジネスが BOP ビジネスである。新世紀入っ

てから 10 年に、世界人口は約 10 億人増加したが、所得階層別に見ると、

年間 3,000 ドル未満の BOP 層が約 10 億人減少する一方、3,000 ~ 5,000 ドルの中間層が約 20 億人増加することが期待している。同報告書では、BOPの特徴について次の通りに挙げられている。第一に、BOP 層は地域によっ

て大きな違いがある。第二に、消費ロットが極めて小さい。第三に、イン

フォーマル・セクター依存⑶である。第四に、消費者としてのニーズはその

多くが満たされていない。最後に、BOP ペナルティー⑷の打撃である。こ

のような特徴を鑑みた場合、企業にとっては、それぞれの現地ニーズにあ

わせ、市場特性に基づいた製品やサービスを開発すれば、潜在需要が高い

巨大な市場を獲得することができる。BOP 層をフォーマル経済へ参入させ

ることは、重要な戦略的要素であると言える(IFC & WRI, 2007, 3-6頁)。

 ハートら (2010) は、「BOP ビジネスとは、BOP 層で暮らしている人々を

消費者、販売者あるいは起業家として取り扱い、収益を創出する企業である」

と定義している。彼等は商品を BOP 層へ販売するだけでなく、資源あるい

は商品を BOP 層から購入することもある。BOP ビジネスには「BOP 消費

者へサービスを提供すること」と「BOP 生産者へサービスを提供すること」

という二つのアプローチがあり、BOP ビジネスはその両方に取り組むこと

が可能である。これまで多国籍企業は、発展途上国の豊富な資源や安い労

働力を利用して富裕層の需要にこたえてきたが、持続可能なグローバル企

業であるためには、世界全体の経済、社会、環境に利益をもたらす競争力

のある企業戦略を追求し、実践しなければならないと述べる (Hart, S. T. & T. London, 2010, 9-10頁 )。 日本では経済産業省によって、BOP ビジネスは「主に途上国における

BOP 層を対象(消費者、生産者、販売者のいずれか、またはその組み合わ

せ)とした持続可能なビジネスであり、現地における様々な社会的課題(水、

生活必需品・サービスの提供、貧困削減等)の解決に資することが期待さ

れる、新たなビジネスモデル」と定義されている。BOP ビジネスとは、企

業が途上国において BOP 層をターゲットにビジネスを行いながら、生活改

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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善を達成する取り組みのことである。つまり、単純に BOP 層をターゲット

に商品やサービスを提供するのではなく、そのビジネスによって彼らの成

長を促さなければいけない。そのためにはまず、低所得者である BOP 層の

購買力を引き出すこと、そして BOP ビジネスによって彼らに資産が蓄積さ

れる仕組みをつくることが重要である(経済産業省, 2010, 21頁)。

 BOP ビジネスの定義について菅原秀幸 (2010) は、「貧困層を援助の対象

としてみるのではなく、市場とみなし、これまで無視されてきた貧困層固

有のニーズを見つけ出す。そのニーズを満たすための製品・サービスを既

存市場では考えつかなかったような方法で提供する。その結果として、企

業が利益をあげると同時に、低所得層の底上げや貧困社会の抱える社会的

課題の解決に寄与する」としている。つまり、「企業と貧困社会が共に発展

するビジネス」が BOP ビジネスであり、「企業利益と社会利益の同時実現」

がキー・コンセプトである。企業が本業を通じて貧困社会の発展に貢献す

ることが、BOP ビジネスに他ならない(澤田、2011、207頁)。

 菅原は貧困層のニーズを見つけ出し、そのニーズを満たすための製品・

サービスを、既存市場で考えた。企業が利益をあげると同時に、貧困層の

削減や貧困社会の抱える社会的課題の解決に寄与するというビジネスであ

る(菅原、2009: 2頁)。さらに菅原は、BOP ビジネスの特徴を、慈善事業

ではなく本業であり収益のある中核事業として長期にわたって持続可能で

あること、BOP 層の抱える社会的課題(貧困削減、環境改善、生活向上)

を革新的、効率的、持続的なビジネスの手法で解決すること、現地の人々

をパートナーとして価値を共有すること、の 3 つとし、収益性と社会的課

題の解決の両方を重視する(菅原、2009, 4頁)。

 BOP ビジネスについてアニル・カルナリ(Aneel, Karnani, 2007)は、

次ようにのべている、貧困層の人々に「もの」を販売することに未来は

ないし、貧困が削減できるわけでもないという(Karnari 2007, 1351-1357頁)。品質が多少劣っても商品は低コストで販売され、貧困層にも購入可能

(acceptable)なものでなければならないが、BOP ビジネスに参入する多国

籍企業には徹底した品質管理とコスト削減が必要であること、パッケージ

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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ングにもコストがかかること、株主利益を常に念頭に置かなければならな

いことなどから BOP ビジネスは不向きであるという。カルナリは、さら

に、BOP ビジネスの考え方はマーケットを過大評価しているという。貧困

層が多く住む農村は集落が散在しており、ローカル企業も存在するので利

益が薄いマーケットである。BOP 層は確かに商品選択の機会に恵まれては

いないが、まずは可処分所得が少ないところに注目すべきである(Karnani, 2005. 99-110頁)。

 野村総合研究所は次のように述べている、BOP ビジネスの特徴は、「ビ

ジネス(営利活動)と社会課題の解決の両立を目指す」という点にある。

BOP ビジネスを通じて、企業は、自らの利益や新たな市場開拓を追求しつつ、

それと同時に、発展途上国の現地における様々な課題(水や保健衛生、教

育や健康、生活インフラや生活必需品の提供、貧困緩和など)の解決に貢

献していく。例えば、現地で求められているのは、単に貧しい人々に価格

の安い粗悪な商品を売るといったことではなく、彼らの生活の向上に貢献

するような商品やサービスを提供することでなる(野村総合研究所、2010、10-15頁 )。BOP 市場が発展するに伴いさまざまな問題が生じる可能性があ

る。しかし BOP ビジネスのもたらす利益は貧困層の人々にとって必要不可

欠で、国や NGO などとの連携や、さらなるイノベーションによってこれら

の懸念に対して有効な対策を打ち出すことが可能と考えられる。

3. 開発援助観点から BOP ビジネス

 BOP ビジネスは、政府や開発援助機関などによる貧困削減に向けた取り

組みにおける課題を補い、低所得層が貧困状態から脱却するための環境を

つくる役割を担っている。BOP ビジネス活動においては、取り組みが始まっ

たのは、世界銀行の PPI(Private Participation in Infrastructure、1996 年)や BPD イニシアチブ(Business Partners for Development Initiative、1997 年)、USAID(米国国際開発庁)の GDA (Global Development Alliance、2001 年)、UNDP( 国連開発計画 ) の GSB(Growing Sustainable Business、2002 年)、GIM(Growing Inclusive Markets)、BCA(Business

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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Call to Action)、JETRO(日本貿易振興機構)、JICA(国際協力機構)である。

これらのすべての機関は、途上国への開発援助行う国際的な援助機関であ

る。世界銀行、UNDP 等の国際機関や各国の政府開発援助機構、NGO・

NPO などの民間組織との連携を通じて現地社会における高い信頼性を獲得

した。強いネットワーク、BOP 市場や社会に対する豊富な知見を活用し、

ビジネスの効率やコストパフォーマンスを高めている戦略的アライアンス

も数多くみられる。現地住民と民間企業による市場取引を通じた地域経済

の発展を行い。例えば、日本の大分県の「一村一品運動」⑸の例が挙げられる。

したがって、現地住民の購買力増強と企業にとっての収益の上がる市場の

出現は公的支援機関の望む結果である。なぜなら、収益性よりも途上国の

社会問題解決や生活向上あるいは貧困緩和という公益性を実現させようと

する。これらの公的機関や NGO にも、民間企業の技術、人材、事業遂行能

力を活かしてより効率的に社会課題解決を図るインセンティブが働くから

である。従来、こうした途上国貧困層のニーズ充足は、公的・私的扶助等

に依存してきた。しかし、社会的問題解消の継続性・拡張性という観点から、

多国籍企業や企業活動との併存・連携によるニーズ充足への期待が、特に

開発領域分野でも考えられる。多国籍企業が事業活動をグローバルな規模

で展開する中で、新興経済圏の市場開発と貧困解消を解決していく。または、

BOP ビジネスは国際ビジネスとの同じビジネスである以上、「資本主義およ

び市場原理をツールとして社会に存在するニーズを解決していく」という

原則である。利益を確保するために、経済効率あるいは経営効率を追求し、

社会のニーズにこたえるという意味では、国際ビジネスと同じである。

 BOP ビジネスは、政府・地方自治体、企業、NPO・NGO などの多様な

主体の協力・協働が開発途上国で の BOP 層重要となる。BOP 層向けた活

動が課題解決や事業の対象となる。具体的には地域の貧困削減・所得向上

と自立支援を目指すことになる。途上国の BOP ビジネスとは、国際開発協

力とビジネスとの接点を模索するビジネスモデルであり、そこに今後新し

い多様なビジネスチャンスと共に、国際社会の開発協力への新しい道が拓

かれていることが地域開発につながる。BOP ビジネスは、企業展開、市場・

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 80(258)— — 81(259)—

技術・資金・人材へのアクセスし、自立性、収益性そして継続性の確保が

前提となることである。

 多国籍企業が BOP 市場を開拓するには、国際機関や現地政府、NPO・

NGO などの組織との協働が必要不可欠である。BOP ビジネスの成功のカ

ギを握るのが、ネットワークの構築である。実際多くの成功例では、政府

機関や NGO とのパートナーシップを組んでおり、現在も新たなパートナー

シップ・モデル⑹が多数形成されつつある。BOP ビジネスには、これまで

の国際ビジネスにはあまり登場してこなかった多種多様なセクターが存在

している。途上国での情報や BOP ペナルティーに対する知見を持ち合わ

せているなど、BOP ビジネスの実現に向けて新たなパートナーとなる可能

性を持っている。すなわち、生産高は資本の投入にもっぱら依存しており、

経済成長率を高めるためには資本投入量の拡大が鍵を握るということにな

る(辻、2013、36頁)。

 また JETRO は、BOP ビジネスの目的は「あくまでも収益(持続可能性)

である」と収益性を強調する(稲葉、2011: 7-10頁)。JICA は、「開発途上

国の貧困層及び社会や開発プロセスから除外されている状態にある人々が

抱える様々な課題に改善をもたらしうるビジネス」と捉え、収益性よりも

社会的課題の解決を重視している。BOP 市場は先進国市場と異なり、世界

各地に散在していることが大企業の進出を難しくしている(JICA, website)。 IFC は BOP ビジネスの「次なる 40 億人」と呼んで市場として有望性を

強調している。それは、BOP 市場は、水道 ; 200 億ドル、ICT:510 億ドル、

保健医療 ; 1580 億ドル、運輸 ; 1790 億ドル、住宅 ; 3320 億ドル、エネルギー:

4330 億ドル、食品 ; 2 兆 8950 億ドル)(表1)。経済産業省が BOP ビジネ

スの普及拡大に向けた対応策を検討した BOP ビジネス政策研究会は、諸外

国の BOP ビジネス先進事例の成功要因と日本企業が直面する課題を整理し

対応策の方向性を抽出している(経済産業省、2010, 17頁)。このように、

BOP 向けに作られた解決策は、多国籍企業にとっても非常に魅力あるもの

になり得る。経済ピラミッドの下層から上層へというアプローチにより、

多国籍企業でのビジネスにも応用できるメリットもあると考えられる。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 82(260)—

Ⅲ BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略

 第二次世界大戦以来長期的な年間にわたる開発援助の失敗から、貧困削

減のために効率的で持続的な変革のエージェントとして、多国籍企業を考

えられる。営利追求を目的とする多国籍企業こそが、慈善活動としてでは

なく本来の事業として、効率的、効果的な活動を期待されるようになって

いる。最終的には、所得による現在のピラミッド型社会構造からダイヤモ

ンド型社会構造に変わることが期待される(図2)。つまり、BOP ビジネス

によって、42 億人以上貧困層をなくし、貧困問題も解決することができる

という考え方である。BOP 層は、最も早く確実に BOP 層から MOP 層へ

推移する方法は、雇用や起業などの形で何らかの仕事を持つことだと考え

られる。

 多国籍企業において BOP ビジネスについて重要動機の 2 つである。一つ

は、「企業の営利」。それは、市場創造及び市場獲得を通じて成長利益を増

表1: 産業分野別・地域別市場規模             (単位:億ドル、%)

分野 アフリカ アジア 東欧 中南米 全体 実践企業 日本企業

保健医療 180(11.4)

955(60.3)

209(13.2)

240(15.2)

1,584(100)

SC ジョンソン

住友化学のタンザニアにおけるオリセットネット事業;SARAYA のガーナにおけるアルコール消毒事業など

情 報 通信 技 術(ICT)

44(8.6)

283(55.1)

53(10.3)

134(26.1)

514(100)

トムソン・ロイター

モバイル・テクニカのバングラデシュにおける農業取引携帯電話事業

水道 57(28.4)

64(31.8)

32(15.9)

48(23.9)

201(100)

P&G 日本ポリグルのバングラデシュにおける浄水剤事業;ヤマハ発動機のインドネシアにおける小規模浄水供給システム事業など

運輸 245(13.7)

983(54.8)

107(6.0)

459(25.6)

1,794(100)

コカコーラ・ サ ブコ

ホンダのタンザニア二輪車事業など

住宅 429(12.9)

1,714(51.7)

608(18.3)

567(17.1)

3,318(100)

セメックス

なし

エネルギー 266(6.1)

3,509(81.0)

254(5.9)

305(7.0)

4,334(100)

フィリップス

京セラのバングラデシュにおける太陽光パネル事業;三洋電機のケニアにおけるソーラーランタン事業など

食料 2,150(7.4)

22,360(77.3)

2,440(8.4)

1,990(6.9)

28,940(100)

キックスタート

雪国まいたけのバングラデシュにおける緑豆事業;味の素のガーナにおける KOKO Plus 事業など

金融 不明 億ドルの家計がアクセス)

マイクロファイナンス・インターナショナル・コーポレーションの BOP 層向けの送金システム構築など

(出所:WRI/IFC、野村総合研究所 ( 2010 )113頁より作成)

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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やす。市場創造及び市場獲得あるいはローカル市場の確保を目指する発展

途上国の経済成長のチャンスが生まれると考えられる。多国籍業は〔進出

→生産→販売〕というプロセスにおける工場進出で工業化が進んでいる。2つ目は、所得階層別の消費者ある人々を事業パートナーと捉えたビジネス

である。つまりほとんど貧困状態のなくなった社会で行われる、相対的低

所得者に対する BOP ビジネスである。BOP 層が中所得層(MOP)に移行

し、彼らの必要とする製品・サービスが生きるために基本的なニーズを満

たすものでなければならないという必要性が低くなっても、ビジネスは続

く。その例として、挙げられるのは新興工業地域 NIEs や(韓国、台湾、香港、

シンガポール)、ASEAN 諸国(タイ、マレーシア、インドネシア)である。

その後、中国、インド、ベトナム、バングラデシュなども急成長⑺を遂げて

内需拡大している。アジア諸国・地域で貧しい暮らしを強いられてきた貧

困層の生活水準も十分引き上げられ、貧困の解消、購買力上昇、市場獲得

にも重要な役割を果してきた。

 多国籍企業が BOP 層向けにビジネスを展開して、企業と社会の間に相

互利益を生み出すことができ、持続的な発展もできると考えられる。各国

の地域社会が抱えている諸問題の解決や地域社会のニーズに応えるために、

当該国の政府機関の力だけでは不十分であり、それを補うために、多国籍

企業や国内企業のような民間部門の協力も必要である。また、そのためには、

利益を上げながら、社会貢献を果たしている民間企業、NGOs、や NPOsなどのビジネス・パートナーとしての役割も重要である。低所得層を対象

とした BOP ビジネス・アプローチが盛んに議論されている。つまり、低所

図2:ピラミッド型からダイヤモンド型へ変換

      現在          2030   出所:Prahalad,2014,136頁。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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得層を企業による寄付などの援助を受ける対象としてではなく顧客(市場)

または、ビジネス・パートナーとして捉えることである。それによって、

途上国での新市場の創造や開拓とともに、BOP のニーズに応えるような製

品・サービスを提供しながら、雇用の創出や収入の上昇などによって BOP層から MOP 層への推移することができる。新興国の多国籍企業は 1980 年

代以降徐々に世界中でその数を増していて、世界の多国籍企業数に占める

割合も 92 年の 8%から 2008 年には 28%に増えている。現在多国籍企業の

数は 7 万 7000 の企業と関連会社を含めると 77 万社にのぼる、世界全体の

富の 10% 世界貿易の 40% である(江夏 、2014, 1頁)。アジア諸国・地域に

おける多国籍企業、海外直接投資増加見られる(表2)。この数年多国籍企

業の方針に変化がみられる。多国籍企業の商品は先進国だけでなく、広く

途上国市場でも販売され、またそれらの多くはコストの安い途上国の製造

工場でつくられ、多くの取引先から原材料などを調達する。新興国企業に

は BOP 層が身近にいるという「地の利」がある。そのため、世界的に見て

も革新性のある取り組みにつながることがある。

表2:アジア諸国・地域における海外直接投資 (MNCs 含まれる )    (million $)

国・地域 2010 2011 2012 2013 2014 2015アジア 412,407 426,702 409,553 431,412 467,935 540,722

東・東南アジア 314,152 329,518 329,582 350,266 383,199 447,876中国 114,734 123,985 121,080 123,911 120,500 135,610

インドネシア 13,771 19,241 19,138 18,817 21,866 15,508マレーシア 9,060 12,198 9,239 12,115 10,877 11,121

タイ 14,568 3,271 16,517 16,652 3,537 10,845ベトナム 8,000 7,519 8,368 8,900 9,200 11,800

フィリピン 1,298 1,852 2,449 2,430 6,813 5,234南アジア 35,069 44,352 32,413 35,629 41,446 50,485インド 27,417 36,190 26,196 28,199 34,582 44,208

パキスタン 2,022 1,162 859 1,333 1,865 865バングラデシュ 913 1,136 1,293 1,599 1,551 2,235

スリランカ 478 956 941 933 894 681

出所:UNCTAD, WIR website

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

1. 多国籍企業における BOP 層の市場規模

 新興国・途上国の安定的経済成長が続き、人々の所得増加によって、

BOP 層は貧困から脱し MOP 層へ推移し続けている。このような人々がま

さに市場経済に参入し始めた市場の構成要素として規模の拡大に与ってい

る。まず新しい衣服を購入し、必要な家電製品を買い求めていく。テレビ、

洗濯機、冷蔵庫などを競って購入していくのがこの階層である。最近では、

BOP 層にまで携帯電話が普及をしている。たとえば、洗濯機や他の家電製

品は携帯電話のように普及してはいないが、BOP ビジネスのなかで、とく

に優先すべきとされる分野に食品、繊維、雑貨などの軽工業がある。これ

らの業種が産出する品目は生活必需品であり、幅広い所得層からの支出の

対象なのである。また、生産過程で労働を集約的に用いるため、多くの雇

用を創出する。労働者の平均的な教育水準が決して高くない途上国におい

ては、農業部門から非熟練労働者が工業部門に転じる際の受け皿として、

多数の単純労働を生み出す労働集約的な軽工業の存在が不可欠である。

 経済産業省 (2011) 報告書と野村総合研究所(2012)においては、この

BOP 層に関して 2005 年から 2030 年までの人口変化に着目して人口推計

と市場推計を実施している。この報告書においては、世界人口が 2010 年か

ら 2030 年で 69.1 億人から 83.1 億人に増加することが見込まれている。さ

らに野村総合研究所は、BOP 市場は 2030 年には 2005 年比の半分程度まで

減少し、2.5 兆ドル程度の市場規模になることが見込まれる。そして、BOP市場が縮小していく中で、MOP 層市場は 2030 年には 2005 年比の 3 倍以

上に拡大し、55 億人・70 兆ドルの超巨大市場が形成されている。すなわち、

— 84(262)— — 85(263)—

表3:世界の階層別人口・市場推計     

階層区分 2005 2010 2015 2020 2025 2030BOP 46.6 41 36 31.7 27.8 24.4

New MOP ― 8 15.4 22.4 28.9 35.2MOP 16.3 17.8 19 19.7 20 19.7TOP 2 2.3 2.6 3 3.4 3.8

出所:A.L. Hammond (2007), World Bank, 2005, 野村総合研究所、 2015 年、6 頁、Website より作成。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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2030 年時点の MOP 層の内約6割は元 BOP 層で構成されている(表3)。

 IFC 家計調査結果も、圧倒的多数の BOP 人口が携帯電話を利用し(表

4)、その数が増え続けていることを裏付けている。携帯電話によって、雇

用、医療サービス、市場価格、出稼ぎ家族とその送金へのアク セス、そし

て徐々に金融サービスへもアクセスができるようになり利益を享受してい

る(IFC, 2007)。また、ASEAN 先発国のマレーシア、タイ、インドネシア

及びフィリピン、そして ASEAN 後期加盟国のうちベトナム、ミャンマー

などと続いて南アジア諸国は、経済発展や貧困の状況において、差を抱え

ながらもこれら先行した国々に続く動きを示している。

 従来、先進国の企業はこうした層をあまりにも貧しく、購買力も小さい

ため、マーケット規模としては取るに足らない、魅力に乏しい市場とし認

識してきた。BOP は潜在的な市場であり、多くの大企業や多国籍企業はこ

のような市場を無視してきたが、これは民間企業のビジネスに不可欠なも

のとなるはずであると BOP 市場の将来性について主張している(Prahalad, 1998,29)。新 BOP 層は、貧困から脱し、まさに市場経済に参入し始めた人々

から構成される。まず新しい衣服を購入し、必要な家電製品を買い求めて

いく。テレビ、洗濯機、冷蔵庫などを競って購入していくのがこの階層で

ある(表 5)。

表4:アジア諸国における電話の利用者

国 携帯電話利用者(100 人当たり) 固定電話利用者(100 人当たり)

2000 2005 2010 2012 2000 2005 2010 2012インド 0.3 7.9 61.4 68.7 3.08 4.40 2.87 2.47中国 6.7 30.1 64.0 81.3 11.41 26.80 21.95 2060

インドネシア 1.7 20.6 88.1 115.2 3.12 5.94 17.06 15.52タイ 4.8 45.7 103.8 120.3 8.85 10.55 10.02 9.14

フィリピン 8.3 40.7 89.2 106.8 3.96 3.94 3.58 4.04出所:Euromonitor, The Random Walk: Mapping World Consumption

2014, 29-30頁 .

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 87(265)—— 86(264)—

2. 多国籍企業の BOP ビジネスへの挑戦 

 多国籍企業においては市場拡大特に BOP 層市場に向けた製品の低コス

ト・低価格戦略が、ひとつの挑戦として重要性を増している。主な理由は、

BRICs⑻、VISTA⑼、ネクスト 11⑽、Next 4 Billion あるいは BOP 層の市場

規模の絶対的拡大である。BOP 層のニーズに応えることができるとともに、     

BOP の生産性や収入も上げつつ、彼らをフォーマルな経済システムに参加

させることも期待する(菅原、大野、槌屋、2012、14-20頁)。

 多国籍企業の最も重要な挑戦は、BOP 層の情報アクセス・地理的な悪条

件・法的信用力の欠如・インフラの不整備など、貧困であるが故に BOP 層

が抱えている制約条件貧困ペナルティを乗り越える必要性がある。アジア

諸国・地域 BOP 層の多くは農業従事者や日雇い労働者である、収入は不定

期に入ってくる場合が多い。BOP 層を動かす新たな原動力ある多国籍企業

の挑戦は、収入が少ないと不安定な BOP 層のために、日常生活に必要な商

品を安く供給することである。さらに、現地に潜在する人的資源を雇用し、

若者を発掘・育成することで人件費を抑える、発掘した才能ある若者を使っ

て技術を活用の効率化によって革新的なビジネスモデルを開発すること。

表5:主要各国の世帯当たり耐久消費財普及率 耐久消費財 年 インド 中国 インドネシア マレーシア タイ ベトナム フィリピン

エアコン 2009 1.8 53.0 6.7 26.2 13.6 4.58 10.6

2011 6.5 58.0 7.3 34.2 14.6 9.5 12.9カラー TV 2009 33.8 96.5 86.5 96.5 96.6 6.0 90.3

2011 65.9 96.8 70.9 98.8 93.1 89.5 72.9乗用車 2009 3.9 3.9 7.8 61.5 13.3 1.1 11.8

2011 8.4 14.6 8.7 63.2 14.8 1.5 10.9パソコン 2009 6.2 30.9 14.6 37.7 27.5 11.0 23.8

2011 9.1 34.6 13.2 65.8 26.3 19.5 17.2冷蔵庫 2009 17.9 60.1 25.1 84.8 87.3 29.9 47.5

2011 20.1 73.5 30.6 97.2 90.1 50.0 41.4洗濯機 2009 21.1 71.4 28.0 91.8 50.8 12.6 37.9

2011 ― 74.8 30.5 89.8 55.8 22.5 32.1電子レンジ 2009 16.2 29.0 22.8 37.2 61.0 17.1 29.1

2011 18.1 32.2 24.7 27.4 39.9 20.9 31.8

出所:Euromonitor, 2014, 22頁 .

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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 BOP ビジネスに対する有効な、日経新聞や読売新聞がまとめた。それは、

第1に途上国の BOP 層向けに日用品や食料品などの商品を販売するビジネ

ス形態である。貧困層でも購入できる程度の価格帯にまで引き下げて販売

するという方法である。第 2 に BOP 層における人間の安全を優先すること

を目的として行われるビジネス形態である。あるいは、途上国が抱える諸

問題の解決に BOP ビジネスが貢献しようというものであるといえばわかり

やすいといえよう。第 3 は BOP 層に属する人々を雇用して商品を生産し、

それを先進国市場へ輸出するという形態である。いわば開発輸入型の BOP ビジネスである。第 4 の形態は BOP 層向けに販売する商品を BOP 層の人

たちが生産するというも のである。『日本経済新聞』2012 年 11 月 26 日

11)。 特にアジアの新興国の低所得者層は、安価で生活向上に役立つ製品やサー

ビスであれば、BOP の中でも工夫して購入する、大きな潜在的顧客層であ

ることがわかってきた。BOP ビジネスの中で多国籍企業に求められている

役割は「貧困ペナルティの解消」に繋がるイノベーションの種を持って途

上国へ赴く、先進国市場向けに開発しつづけてきた技術を押し付けるので

はなく、現地で直面する課題に即した技術、即したイノベーションを持ち

こまなければならない。その際に、自社のみで活動するのではなく、既に

市場で活動をすすめていく、現地の人々によって進められてきたインフォー

マル・ビジネスと密着した関係を築き、協働開発を進めることが求められ

ている。そのイノベーションの恩恵を一人でも多くの BOP 層に届けること

が可能になる。

 多国籍企業の BOP ビジネスは BOP 層の経済的活性化が必要な課題であ

る。それは、雇用、貿易(販売国内・海外)、利益獲得による工業化と共に

BOP 層市場拡大が可能となる。その結果として貧困緩和の重要なアプロー

チとなる。以上のように、多国籍企業は様々な挑戦を通して、設備投資の

拡大は、生産および雇用の増加を促す。したがって、投資を受け入れるこ

とで、生産性の上昇が期待できる。所得水準、貧弱なインフラなどを背景

とし、これまで市場としてはとらえられてこなかった層を対象にした事業

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 88(266)— — 89(267)—

だけに、ほとんど手つかずの市場であり、その分、競争相手もない魅力的

なビジネス挑戦であると考えられる。

3. 多国籍企業の BOP 層市場戦略 

 企業において代表的な経営戦略である競争戦略、それをマイケル・E・ポー

ターは、3 つの基本類型がコスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中

戦略である (Porter, 2004, 35-37頁 )。この視点から BOP ビジネスを考える

と、徹底した低コストの追及ということになり、BOP ビジネス戦略はコス

ト・リーダーシップ戦略に他ならない。これは、低コスト体質を実現して、

競合他社よりも低価格で製品・サービスを提供する戦略であり、これによっ

て 5 つの競争要因(新規参入者、競合、代替品、買い手、売り手)におい

て優位性をもてるのである(菅原、大野泉、槌屋詩野 2012)。プラハラー

ドとハートによる研究報告書では、世界の貧困、格差の拡大、第三世界に

おける環境破壊について問題提起をするとともに、「持続可能性」の側面か

らみた経営戦略について述べている (Prahalad,2014, 27-35頁 )。さらに、プ

ラハラードと Liberthal(1998) は、中国とインドの新興市場を中心に、これ

まで多国籍企業の唯一の戦略的ターゲットであった富裕層だけでなく、中

流層や低所得者層に進出する機会と課題について取り上げた。貧困層市場

は、極度に低所得であるがゆえに市場として考えられることはなく無視さ

れてきた。BOP にある人々を慈善や援助の対象ではなく「顧客」とみなし、

そのためには製品やサービスの開発にイノベーションが必要であるという。

プラハラードによれば多国籍企業は唯一の戦略的ターゲットだった富裕層

の下の層に進出するべきであるが、多国籍企業が成長を求めるかぎり、巨

大新興市場にで競争しなければならない。BOP 層とその市場規模も上昇し

ている。このような現実のなかに、多国籍企業新たな戦略への関心が高まっ

ている。そこで、多国籍企業が本社へのこだわりを捨て、事業機会のある

ところにはどこにでも進出し、ヒト、モノ、カネ、情報といった経営資源

の調達 ・分配の権限を地域の主要拠点本社に任せていこうとする動きであ

り、きわめて国際的な機動力にあふれた事業展開を言う 。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 90(268)—

 多国籍企業の市場戦略において、現地市場のニーズや特徴などを把握し

なければならないできるわけではない。またコストを追求するため、途上

国で工場を立ち上げ、安い労働力を雇用し、生産した製品を先進国に逆輸

入するビジネスモデルもあり得る。またBOP層は地域によって多様であり、

宗教や生活習慣、衛生観念、文化度、所得構造など、支出分野にも違いがある。

例えば、同じインドでも都市部会と農村部とでは生活レベルや習慣が異な

る。都市会部では農村部ではみられない冷蔵庫やDVDまで整備されており、

トイレも 農村部とは異なり比較的清潔である。またイスラム文化による宗

教観の違いから豚由来の成分を使用することが禁止されており、「ハラル」

と言われるイスラム教の戒律に沿った製造を証明する認証が必要なことな

どである。従来のビジネス戦略と BOP 層ビジネス戦略は異なる、以下に重

要な BOP 層ビジネス戦略を簡単に説明する。

⑴ BOP 層の特徴的な戦略 

 BOP 層中心の市場として開拓するための戦略は、BOP 層の特性にあわせ

たイノベーションを現地で起こし、新しいビジネスを確立しなければなら

ない。BOP 層の市場を合わせるためには、現地でのプロダクト・ イノベー

ションやプロセス・イノベーションが不可欠となってくる。この点において、

先進国でのイノベーションを後進国へ波及させるという従来のパターンと

は、まったく異なる BOP 層の特徴的な戦略である。BOP 層を変化の速い

市場で商品・サービスのイノベーションを繰り返している。BOP ベンチャー

企業を行うことで、多国籍企業は社内にイノベーション創出のためのノウ

ハウを取り込むことができる。BOP 層の基礎的ニーズに関連する公共分野、

上下水道や社会福祉、医療、金融、流通など、圧倒的にニーズがあり、高

値で商品・サービスを売り、収益性を高めようとするビジネスは幾多も存

在する。食品・電気等の生活必需品、農業や自営業等の収入を向上させる

製品等の BOP 層が消費しやすい企業戦略である。BOP 層の消費傾向を把

握したうえで、現地のニーズに適しているとともに、従来の製品よりも開

発効果の高い製品を BOP 層に提供する企業である BOP ビジネスの3類型

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 90(268)— — 91(269)—

(表6)である。BOP 層向け実際に商品開発の可能性を高めるために、現地 企業や NGO との連携して、現地ニーズ開発調査を行ない商品開発アイディ

アを模索する。

 BOP 市場戦略の可能性について、IFC による BOP 市場は重要な 4 つの

基本戦略が以下の通りである。

 第一 BOP 市場に集中 BOP のニーズに合わせ、ビジネスの発想を完全に

変えることである。

 第二価値創造のローカライゼーションフランチャイズ方式ある。地域社

会全体を顧客と位置づける戦略によって、地元密着型の価値を創造する。

 第三商品あるいはサービスへのアクセス実現資金面、あるいは物理的側

面から、商品・サービスへのアクセスを実現する。

 第四斬新なパートナーシップ 政府、NGO、多様な利害関係者との伝統

にとらわれない斬新なパートナーシップによって必要な能力を結集するこ

とができる。

 しかし、伝統的な国際経営モデルは、グローカリゼーション戦略であり、

優れた製品を自国で開発し、全世界に向けて販売し、地域特性に合わせて

部分的に変更する戦略である。グローバル化によるコスト最小化と、ロー

カル化による市場シェア最大化のトレード・オフを最適化できる。

表6:BOP ビジネスの 3 類型

アプローチ BOP ビジネスの例 貧困層の位置づけ

①貧困層の基本的ニーズに

 応える

・栄養食品 ・浄水装置 ・洗剤やシャンプー(小型化) ・衛生的な公衆トイレ ・防虫剤を織り込んだ蚊帳 ・小規

模電力ネットワーク、 太陽光発電

消費者

②貧困層の生産性を 向上さ

 せる

・送金機能を備えた携帯電話 ・安価で耐久性ある PC、

及び農業・ 教育・医療等の情報ソフト提供 ・生産資機材、

小規模灌漑システム ・マイクロファイナンス

消費者、生産者、流通・ 小売業者、従業員、企業

③貧困層の収入を増やす ・アグリビジネスのバリューチェーン 構築と技術支援 ・一村一品運動、等

生産者、流通・小売業者、 従業員、企業家

出所:大石ら、(2014)162頁.

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 92(270)—

⑵ 現地向けに商品開発戦略

 BOP ビジネスの最初の一歩は、ニーズを的確に把握して、それを満たす

商品・サービスを購入可能な価格で提供することにあるが、それはあくま

でも最初の一歩に過ぎない。続いて、商品・サービスの開発・設計から販

売にいたるバリューチェーンである。現地で需要のあるものを開発して、

BOP 層に雇用を創出し所得をもたらすこの活動の目的といえば、何よりも、

世界により多くの市場に参入して、より多くの商品をより効率的に生産し

て、流通を通じて、より多くの製品を市場に売り込む。企業のグローバル

活動の中で、戦略的提携が近年ますます重要性を増している。

⑶ コスト戦略

 BOP 層が買うことのできる価格の製品やサービスを生み出すには、コス

トを大幅に削減する必要がある。前に述べたように、ポーターは、企業は

競合の基本的には競争優位のタイプは、低コストと差異化の 2 つに絞るこ

とができるとしている。この 2 つが、ターゲットとなる市場セグメントと

結びである (Porter, 2004, 35-37頁 )。コストを削減してより低価格の製品、

サービスを提供するのがコスト戦略である。技術革新や市場変化に左右さ

れることもありますが、他社よりも低価格の商品を販売することでシェア

アップが期待でき、製品の横展開や付属品の販売がしやすい、生産規模・

量が増加して生産コストが下がる BOP 層購入範囲を拡大する。競争優位

の枠組みによる分析においては、BOP ビジネスは、ゼロから市場開拓する

ための多大なコストがかかるが、そうしたコストを踏まえた上で、「低価格

高品質」な製品・サービスを提供することで貧困ペナルティを打破できる。

インドで BOP ビジネスを活躍している HUL (Hindustan Unilever Ltd.. 2010、8-15頁 ) は以下の 4 つの要因によってコスト削減を達成した。

① スケールメリット:規模の経済を活かし、他社より低い平均費用で

商品を生産。さらに、商品を小分けにすることにより、BOP 層にも手

の届く商品を販売する。

② ニーズに合った商品:500 人以上の商品開発研究者が所属する研究

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 92(270)— — 93(271)—

開発センターや、担当社員を現地で共同生活をさせるなどしてニーズ

を掴む。

③ 販売網:農村部で女性を販売員として雇用する。

④ パートナーシップ:国際機関や NGO、農村部に特化したコンサルティ

ング会社と連携を組むことにより、市場調査・広報・販売網の構築等

のコストを大幅に削減。

 コスト削減について、日本経済新聞社『流通年鑑 2002』によると、従来

型流通業が構造疲労と消費不振に喘ぐ一方で、たとえばユニクロやしまむ

ら、大創産業やドン・キホーテなど、業界常識を覆すような型破りの勝ち

組企業たちが近年、急成長を遂げてきた。アパレル業界ではファストファッ

ション(Fast Fashion)と呼ばれ、日本のユニクロ、は、商品の企画、デ

ザイン、生産、販売を一気通貫して手がけることで中間の無駄なコストを

削減して、低コストで商品をつくり、それを商品に反映させているのである。

スペインを代表するブランド,ザラ(ZARA)、スウェーデン(H&M)へネ

ス&モーリッチ(Hennes & Mauritz)、アメリカのギャップ(Gap Inc.)も

同様に SPA(Specialty retailer of Private label Apparel) は‘自社オリジナ

ル企画ブランド’、業態であり、大量生産・大量販売が低コストの秘訣であ

る。また、100 円ショップは、より生活に密着した「必要不可欠な日常スト

ア」として確実に消費者の間に定着しつつある。百貨店、スーパー、コン

ビニに次ぐ「第4の業態」と言われる「ヒャッキン」あるいは 100 円ショッ

プである。アメリカで 100 円ショップにあたる のは「ワンダラー・ショッ

プ 」で、扱い商品は雑貨、食品、文房具など、日本とあまり差はない(日

本経済新聞社)。

 100 円ショップという小売業態が、多くの消費者の支持を得て、「こんな

ものまで 100 円!」という驚き、感動、意外性と、「一つ 100 円なら」とい

う気軽さを与える 100 円ショップは主要顧客層としての 30 代以上の主婦だ

けでなく、多くの生徒や学生などの若者を集客し、ショッピングセンター、

商店街などににぎわいをもたらしている。  大手スーパーやコンビニエンスストアの PB(private brand) 商品には

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— 94(272)—

100 円未満の商品も多く、例えば、イオンの PB「トップバリュ」では 68円の台所用品や 58 円の学習帳など一定の品質を備えた低価格商品が年々増

えている。 また、イオン、セブン&アイホールディングス、ユニーの大手

小売り 3 社の PB の合計売上高は 2012 年度、1兆 3000 億円であった。こ

のような持続的な成長をするためには、コスト戦略が必要となってくる(日

本経済新聞社)。

(4) BOP 層向けイノベーションの促進 

 BOP ビジネスで成功するためには技術力よりも、いまある技術をいかに

してニーズに適応させるかという方が重要になると考えられる。BOP 層の

人々は高等教育を受けている人が少なく、その上機械を使用するには面倒

くさくなることが多い。そこで、難しいものよりも単純なものを好んだり、

高くて高品質なものよりも安くて中品質なものを好んだりすることが多い。

BOP ビジネスには、イノベーション推進と現地化の進展も伴うことになる。

イノベーションという言葉に関しては、シュンペーターが 1912 年に『経済

発展理論』の中で書かれたものである。経済の仕組みというものは、スクラッ

プアンドビルド(scrap and build)で創造的破壊によって新しい商品が作

られ、新しいサービスが作られ既存のものが破壊されていく中で付加価値

が生まれ、そこで起業家精神が生まれて経済発展の担い手になる。そこで、

シュンペーターの提唱したイノベーションという概念は BOP ビジネスに

おいても重要である。イノベーションが BOP ビジネスとつなぎとして、低

価格化、規模の経済を利用して低価格化を実現していく。これまでとは全

く異なる価値観を背景とする革命が起こりつつある。それは環境や生態系、

さらには貧困削減といったように、地球社会の「サステナビリティ」を維

持しながら、発展を目指すイノベーションである。

Ⅳ アジア新興国における多国籍企業と BOP 層関する分析

 アジアの新興国・地域の人口が増加、生産年齢人口が増え、教育水準の

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 94(272)— — 95(273)—

向上、インフラの整備、急速な工業化などを背景に、大きく経済発展を遂

げるとともに所得の向上をもたらしており、富裕層を拡大させるとともに

新たな中間所得層を生み出している。この地域において雇用は、約 90%は

民間部門や農村部であり、企業にとってはそれぞれの現地ニーズにあわせ、

市場特性に基づいた製品やサービスを開発すれば、潜在需要が高い巨大な

市場を獲得することができる。BOP 層をフォーマル経済へ参入させること

は、重要な戦略的要素であると言える。

 世界の成長センターと言われている、アジアは、「世界の工場」から「世

界の市場」へと変化している。この原動力として、多国籍企業の直接投資、

市場の新しさ、経済発展のスピード、1 人当たりの GDP を拡大し、新所得

階層ある新 MOP 育ってきた。東アジアの国・地域では、わずか 20 年で貧

困層が半分以下に低減したが、この背景には経済成長である。世界銀行の

調査によれば、東アジアにおいて貧困人口(1 日 1 ドル未満の収入層)は、

1975 年に 7 億 1700 万人だったのが 1995 年には 3 億 4500 万人、1998 年

には 2 億 7800 万人と着実に減少した。それに対して南アジアには 1998 年

に約 5 億人の貧困層が存在する( WB, website )。国際労働機関( ILO )が

2013 年に発表した、アジア諸国・地域の中間層は 1991 年にわずか 5.0% か

ら 2011 年に 36.1 に拡大した。地域別見ると東アジア(中国含む)の中間

層 1991 年 4.7% から 2011 年 59.0% にまで上昇し、東南アジア諸国・地域

でも同年 12.4% から 31.7% に上昇した。南アジア諸国はまだ遅れて、同年

2.0% から 8.1% まで上昇した( ILO, website )。この貧困層及び貧困市場に

おける新しい考え方、そして新しいビジネス手法を提案していることであ

る。BOP 人口の規模が大きいことが明らかになっている(表7)。アジア地

域に位置している中国とインドの人口だけでも世界人口の約 3 分の 1 を占

めている。2030年には35.2億人のBOP層がMOP層へ移行することにより、

45.9 兆ドルの新たな中間層市場が誕生する。

 ユーロモニターの調査によると、アジア諸国・地域の BOP 層人口は、

2000 年の 25 億人から 2020 年には 11.5 億人に半減し、同時期に MOP層の人口は、2.2 億 BOP 人から 20 億人にまで拡大すると推定される

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 96(274)—

(Euromonitor International、website)。野村総合研究所による、アジア

においては、BOP 層が中間層へ移行しており、今後 5 ~ 10 年で中間層市

場の拡大のピークを迎える。企業が動き出した主因はインド、パキスタン、

バングラデシュ、ベトナム、中国における階層の推移する。すなわち、所

得の上昇により BOP 層が約 10 億人、中間層に持ち上がることなる収益を

求める持続可能な純然たる企業活動であるが、同時に貧困問題などの社会

課題の解決に資することが注目されている(野村総合研究所、2015 )。 チョウドリ 2013a、2013b 報告では、発展途上国の正確なデータの不足

表7:アジア諸国における層別トレンド             (千人)

国 層別 2009 2015 2020

中国

BOP 747,675 431,699 207,489新 MOP 464,807 630526 578,203MOP 90,305 226,063 412,212TOP 25,232 73,539 185,357

インド

BOP 831,005 482,323 276,113新 MOP 303,884 635,101 713,625MOP 22,207 117,424 280,114TOP 11,688 27,778 64,026

インドネシア

BOP 145,108 65,688 36,862新 MOP 76,808 138,212 133,973MOP 5,519 33,454 68,639TOP 2,530 6,837 14,745

マレーシア

BOP 2,192 1,075 589新 MOP 8,401 5,009 2,980MOP 10,424 10,201 7,924TOP 7,084 14,442 21,251

フィリピン

BOP 53,439 43,525 39,154新 MOP 31,972 45,274 52,393MOP 5,344 11,319 16,492TOP 1,382 2778 4,151

タイ

BOP 23,174 15,623 11,218新 MOP 30,100 30,611 28,012MOP 9,451 16,357 24,485TOP 2,007 4,273 7,275

ベトナム

BOP 68,850 52,015 35,442新 MOP 15,530 32,622 43,433MOP 1,294 4,712 12,410TOP 604 1,269 2,726

出所:Euromonitor International “World Income Distribution”及 び   “World Consumer Income and Expenditure Patterns”

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 96(274)— — 97(275)—

のために明確な結論は得られていないが、国際機関・先進国などはこれま

で幾つかの関連する研究を行ってきた。それを利用しつつこの研究では、

BOP 層ボトムアップ・アプローチの有効性視点から分析する(図3)。最初

準備段階に政府の経済政策に関するものであり、貿易・資本の自由化、規

制緩和民間活力の活用による発電所、道路、港湾、高架鉄道などの社会資

本整備、戦略的産業政策、外資企業の受け皿としての輸出加工区(EPZ)の設置など投資環境等の整備である。

 準備段階では、多国籍企業や国内企業にも、インフラ整備非常に重要課

題である。政府や開発援助を行なう先進諸国、世界銀行、アジア開発銀行、

国連発展計画(UNDP)各非政府組織(NGO)等にとっても、その支援、

援助の内容、進め方等が改めて問われている。基礎教育、保健医療、農村

地域インフラ整備、環境保全等を重視したプログラム、貧困者重視の開発

援助の必要性が一段と強く認識される状況にある。大塚(2014)が指摘す

るように、途上国のなかでも物的・人的いずれの面でも資本に乏しく、イ

ンフラも未整備な低所得国および一部の低位中所得国が貿易を通じて他の

国々と競争しようとすれば、安価な非熟練労働を集約的に用いる産業を発

展させるのが最善の策である。したがって、工業部門では、まずは労働集

約的産業、次に資本集約的産業、その後に知識集約的産業という順番で発

展するのが、低所得国および一部の低位中所得国が発展を遂げるうえでの

自然な順序は以下の通りである。

 BOP 層ボトムアップ・アプローチの第1段階では、多国籍企業・直接投

資である。多国籍企業・直接投資を通じての資金の流入により設備投資が

喚起される。国内の企業の投資を増加させ、多国籍企業の直接投資は様々

な手段を通して(図3)、経済成長を促進する。グローバル経済から無視さ

れてきた BOP 層を如何に市場として創造、開拓していくか、その手法を

論ずるものである。インフラ未整備、不均質で断片化といった特徴を有す

る BOP 市場においては、先進国型事業モデルは有効ではなく、現地密着と

経済エコシステムの構築、超薄利多売モデルの構築を柱とする、ビジネス・

イノベーションが必要だとしている。

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 第 2 段階では、人的資源の重要な段階である。経済成長に果たす人的資

本の蓄積の重要性が強調されている(Meier, and Rauch, 2000, 216)。人的

資本は経済成長に大きな役割を果たしてきた(図3)。その結果は、BOP層生活水準の向上において貧困を緩和する。実際東アジアの経験から見る

と、東アジアの高度成長が達成されえたのは、優秀な人材の貢献によるも

のである。チョウドリ(2013b)によれば、BOP 層が経済的に自立するた

めにはまず所得が上昇しなければならない。そのためには国全体の経済規

模が拡大する必要がある。貧困層の所得向上のみならず、彼らの起業、自

立、能力上昇エンパワメント、BOP 層から MOP 層進行などに、有効な

開発のための活性化している、のはマイクロ・ファイナンスである。バン

グラデシュで奇跡的に成功している MF は、BED 型ボトムアップモデル⑾

の重要な原動力の一つである。すなわち、三つの原動力が、統合的アプロー

チによる好循環(図 3)とピラミッド型の「ボトムアップ」によって貧困が

徐々に解消され、人的資源が発展し、国内・海外の労働市場へ貢献し、巧

みにインフォーマル・セクターがフォーマル・セクターに変化した。さら

に労働集約産業の発展がもたらされ、輸出が拡大していく。その結果、経

済成長が実現した。それは、BED 原動力のメカニズムが働いていることを

表している。言い換えると、BED 型経済成長によるボトムアップモデルは、

次のような一連の過程であると考えられる。

 第 3 段階で、直接投資によって雇用機会を増加させ、生産および輸出市

  図 3:ボトムアップモデル

  出所:Chowdhury, 2013,44頁より作成 。

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 99(277)—

場の大幅な拡大につなげ、所得水準を引き上げ、それによって生活条件を

改善し、BOP 層から MOP 層へシフトする。アジア新興経済国においては、

日本の 1960 年代と同様に、経済の高度成長に併せ中間層ともいうべき大量

の消費者層が誕生してきている。

 第 4 段階は 多国籍企業による、新しく出現する大量生産の消費者層を「新

中間層」として認識し、多国籍企業の新たな戦略領域として位置づけてい

くこととする。成長の先駆者としての知見を活かし、新興国の新中間層が

求める商品・サービス需要に応え、ともに成長していくことが重要である。

日本の経済発展の経験を振り返ってみたい。平均的な家計所得は、1960 年

の 45 万円(1,250 ドル)から 1970 年には 139 万円(3,861 ドル、1ドル=

360 円で換算)へと増大し、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫など一般家庭に普

及していった(経済産業省 2010)。 すなわち、まず貧しい人々が生活改善(MOP 層推移)のため雇用を拡大

(多国籍企業)NGO、NPO などから MF を受け、途中から就学状況が改善

し、やがて BOP 層が解消され、教育受け、人的資源開発による経済活動行

い経済格差が宿小していくと、その結果社会が安定になり、経済成長の要

因になる可能性になる。多くの人口と厚い若年層、BOP 層が起き(消費市

場が拡大)、そして安い労働コストなど、労働集約的産業が発展する可能性

がある。多国籍企業を誘致し、教育を充実し、貧困から抜け出し、中間層

を形成していけば、消費や公共投資など大きな内需が期待できる。労働集

約的産業から資本集約的産業を拡大する。なお , 努力展望段階は、軽工業・

重工業の発展である。東アジア・諸国・地域の経験から見ると、うまく行

けば、それぞれの努力段階は、短期(5 年以内)、中期(5 年から 15 年間以

内)、長期(15 年以上)に区分され、三つの原動力は、多国籍企業・直接投

資、人的資源、市場の活性化によって、ボトムアップあるいは BOP 層から

MOP 層の第 5 段階(図3)を導くことができる(チョウドリ、2013a、42-48、2013b、823 ~ 830 頁)。

— 98(276)—

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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Ⅴ まとめ

 アジアの新興国の BOP 層のなかでも、一部の新 MOP 推移、人口の多く

が貧困生活を余儀なくされている。多国籍企業が将来の MOP 層市場を獲得

するための一つの有効な手段として、BOP ビジネスを通じて、BOP 層の所

得向上、BOP 層との信頼関係を構築し、将来の MOP 層市場における競争

優位性を築き上げる。多国籍企業の BOP 層対する商品の生産力拡大に続い

て発展、とくに優先すべきとされる分野の業種が産出する品目は生活必需

品を生産する。また、生産過程で労働を集約的に用いるため、多くの雇用

を創出する。アジア新興国の BOP 層問題の解決にもつながることが考えら

れる。BOP といっても、国・地域によって市場規模や消費行動などには違

いがある。

 このような状況の中で、BOP 層の人口が膨大なアジアの新興国で、低所

得層向けのビジネスを行い、この地域社会の発展に寄与することは極めて

重要ある。近年、多国籍企業や大企業が次々に BOP 市場を対象としたビジ

ネスを念頭におきながら進みはじめている。それらの企業は、BOP 市場へ

のビジネス活動を展開することによって、社会貢献活動をしているともい

える。ここで問題なのは、それらの企業が BOP 市場に進出することによっ

て、当該市場(地域社会)においてはどのようなメリットがあるのか、ま

たは BOP 層から MOP 層推移の目標にはどのような効果があるのかという

ことである。今後とも成長がアジア新興国において、BOP 層の所得水準は

今後数十年で大幅に向上し、購買力も高まると考えることができる。特に、

BOP 層の中でも比較的所得がある層を、次なる MOP 層としてとらえ、先

行して潜在顧客を開拓することは、企業の将来にとって重要な戦略といえ

る。

 アジア新興国においては、東南アジア諸国・地域、主要国(ASEAN-3⑿)

は、既に多くの BOP 層が MOP 層へ推移しており、そのまま続けてければ、

近いうちに MOP 層市場も拡大すると考えられる。アジアの新興国の内需

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

は BOP 市場ではなく、MOP 市場と呼ばれる中間所得者層によるものだが、

この新たな購買層に対し、東アジアをはじめとするアジアの新興国企業が

早くからニーズに合った商品を導入してブランドを築き、市場の成長とと

もに価格・品質における国際競争力を強くしている。資源高を背景に徐々

に力をつけてきた南アジア市場にも、こうした新興国の商品が浸透しつつ

のある。アジアの MOP 層だけでなく、今後成長が見込まれる新市場におい

ても、ブランド(特に日本ブランド)需要が拡大する。低所得層と企業の

両者が利益を生み出せるような活動を行うために、今後、国内企業あるい

は現地・外資企業が途上国におけるビジネスに真摯に臨んでいくことを期

待できる。

— 101(279)—— 100(278)—

〈注〉

⑴ アジア新興国に含まれている、インド、中国、インドネシア、マレーシア、タイ、

フィリピン、ベトナム、ラオス、カンボジア、バングラデシュ、パキスタンである。

⑵ 経済産業省の「経済産業省委託事業に係る F/S 調査」、JICA の「協力準備調査(BOP ビジネス連携促進)」、JETRO の「BOP ビジネス・パートナーシップ構築支援事業」

などが開始され、日本企業の応募数も年々増えている。そのなかで、2012 年まで

JICA の公募制度への応募件数を見ると、すでに 200 以上の企業が BOP ビジネス

を検討している(渡辺、平本、津崎、 2012、 31)。⑶ BOP 層の大半は、自らの労働力や手工業製品・作物を売るための市場へのアク

セスが十分に確保されていない。そのため、彼らを搾取する地元の雇用主や仲買人

に売るほかに選択の余地がない。インフォーマル・セクターへの依存と自給自足状

況は彼らにとって貧困の罠となっている(WRI&IFC 2007)。⑷ BOPペナルティは、「貧しいがゆえの不利益」と訳され、高いコスト、低いサービス、

アクセスの欠如によってさらに貧しくなるといった負の連鎖の原因であるとされて

いる。多くの場合、貧困層は十分な情報を得ることができず、また市場も存在しな

いがために、追加的なコストを余儀なくされる。このコストこそが BOP ペナルティ

である。BOP ビジネスの効果として、特に「BOP ペナルティ」の削減を期待され

ている(Prahalad, 2005)。既に、これを解決するため にマイクロファイナンス が注目されている。担保となる資産を持たない人への少額貸し付けを可能にするシス

テムであ り、グループファイナンスが基本となっている。マイクロファイナンス

により、収量を上げるための肥 料やかんがい設備、付加価値を上げるための粉 砕機といったものが手に入る。さらに大切な点は、BOP 層がオーナーシップを持つ

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

— 102(280)—

  ことで、再投資や、将来のための貯蓄という概念を持つようになるこ とではない

だろうか。それがマイクロファイナンス の回収率が高い理由の 1 つになっている

と思う。

⑸ 一村一品運動とは、日本の大分県の地域活性化プロジェクトである一村一品運動

を参考にしたものです。大分県の一村一品運動は、1979 年に当時の大分県知事で

あった平松氏が提唱。町や村が有する特産品を掘り起こし、その生産方法、商品開

発や販路の拡大等に磨きをかけ、世界に通用する商品の育成を図り、地域活性化に

結びつかせることを目指した運動です。地域住民が自ら誇ることのできる特産品を

発掘し、国内のみならず、世界の市場にも通用する競争力のある商品に仕上げる活

動とも考える。全国、世界に通じるものをつくるという目標を掲げ、自主的な取り

組みを尊重し、行政は技術支援やマーケティング等の側面支援に徹することにより、

自主的に特産品を育てることができる人や地域を育てる「人づくり」「地域づくり」

を行った。また、付加価値の高い特産品を生産することによって第一次産業の収益

構造の改善に貢献した(チョウドリ、2007、46-52)。⑹ BOP ビジネスの実践において、パートナーとの連携は重要な要素となる。BOP

ビジネスにおけるパートナーは開発援助機関、マイクロファイナンス機関、NGOなど多岐にわたる。昨今の BOP ビジネスでは、これらパートナーと個別にではな

く、統合した形で連携し、事業を構築していくことが求められている。企業として

は、これらのパートナーの特徴を理解した上で、連携方法を構築していくことが重

要になってくる。

⑺ IMF の World Economic Outlook Database, October 2013 によって確認すると、

1990 年代初頭以降、発展途上国・新興国 154 カ国の実質 GDP 成長率は、先進国

35 カ国の実質 GDP 成長率(実線の折れ線)を上回っている。インド、中国、タ

イ、マレーシア、インドネシア、バングラデシュ等を含むアジア発展途上国 29 カ国の成長率(一点鎖線の折れ線)は、1980 年代初頭から既に先進国を上回っており、

アジア発展途上国を嚆矢とする先進国へのキャッチアップ現象が、世界の発展途上

国・新興国全体のトレンドとなりつつあるのが見て取れる(IMF, website)。⑻ ここで BRICs ブラジル、ロシア、中国、インドである。

⑼ VISTA はベトナム、インドネシア、南アフリカ、トルコ、アルゼンチンである。

⑽ インド、中国、インドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナム、ラオス、

カンボジア、バングラデシュ、パキスタンの合計。

⑾  BED 型ボトムアップモデルはバングラデシュ経済発展(BED: Bangladesh Economic Development)の特徴は三つの原動力マイクロ・ファイナンス (MF、Micro Finance) , 海外出稼ぎ労働者からの送金 ( RMW、Remittances of Migrant Worker)及び既製服産業(国内投資、多国籍企業の直接投資)の輸出(ERMG、

Export of Ready Made Garments)である。 MF よる生活改善、人的資源開発に

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BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ) BOP 型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略(チョウドリ)

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よる就学改善、労働集約型の輸出向産業を重視する経済成長メカニズムを考える . ERMG 衣料品輸出の伸び,輸出は特に欧米向けの衣料品輸出が拡大した , 内需拡

大等の安定的な経済成長をもたらしてきた . 同国からの RMW が国際労働市場に貢

献し ,海外からの送金の増加に支えられ,全体の結果として、実質GDP 成長率は6%以上と底堅さを示し、貧困緩和してきた。

⑿ ASEAN-3 は、タイ、マレーシアとインドネシアである。

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論  説

チョウドリ マハブブル アロム

BOP型ビジネスに関する多国籍企業の国際戦略

Reprited from

KITAKYUSHU SHIRITSU DAIGAKU HOU-SEI RONSHUI

Journal of Law and Political Science. Vol. XLV No.3 ・4

March, 2018

International strategy of the multinational

enterprise about the BOP business

Chowdhury Mahbubul Alam

北九州市立大学法政論集第 45 巻第 3・4 合併号 (2018 年 3 月)抜刷