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81 ■特集:風力発電と電力系統との融和 エネルコン社風力発電設備の制御機能と適用例 株式会社日立パワーソリューションズ 新エネルギー本部 前川 [email protected] 1.はじめに 近年、地球温暖化防止やエネルギー資源問題 の解決方法の 1 つとして、風力発電が注目され ている。国内におけるその導入量は、2012 末時点で 261 kW(世界第 12 )2012 年度 末で 264 kW であったが、東日本大震災によ るエネルギー転換政策や、2012 7 月の再生 可能エネルギーの固定価格買取制度の施行開 始により、今後、国内でもその導入加速が期待 されている。一方で、風力発電は、風速変化に 依存し、その発電出力が大きく変動しやすいこ とから、風力発電の大規模な系統連系により、 電力系統の調整電源容量や調整速度不足によ る周波数変動が懸念されている。 このため、風力発電設備に蓄電池等の電力貯 蔵システムを併設し、出力変動を緩和すること が有力とされるが、風力発電事業者にとっては、 その導入による風力発電所建設コストの増加、 蓄電池の充放電ロスに伴う売電電力の低下に より、事業収益へ悪影響を与えることになる。 一方、風力発電設備自身でも、系統への影響 を緩和する機能を有しており、この機能を有効 活用して発電事業と系統連系の両方を成立さ せることが可能となるケースもありうる。 本稿では、エネルコン社風力発電設備自身が 有している系統安定化機能を紹介し、系統連系 上の問題を解決し、風力発電の導入量を増加す る一助としたい。 2.風力発電が系統に与える影響 風力発電が系統に連系した場合、問題となる 点は、主に以下の理由による。 短周期(20 分未満)の出力変動が大きい。 ⇒調整用の発電設備による調整力が不足す る。(LFC 領域の調整容量不足) 長周期(20 分以上)の出力変動が大きい。 ⇒調整用の発電設備による調整力が不足す る。(EDC 領域の調整容量不足) 軽負荷(低需要)時に風力発電設備の出力が 増加する事がある。 ⇒火力発電設備の最低出力制限による制約 が生じる。(下げ代不足) LFC(負荷周波数制御)領域の出力変動対応は、 主に水力や石油火力など応答レスポンスが速 い発電設備の出力調整で行われるが、需要の短 周期変動に風力発電の変動が加わるため、連系 制約となることがある。しかし、風力発電の変 動は各風力発電システムで時間差があり、変動 は√N 倍に程度に収まると言われており、沖縄 電力管内や離島などの小規模独立系統を除け ば、顕著な問題とはなっていない。 EDC(経済負荷配分制御)領域では、石炭火力 など応答レスポンスが比較的遅い発電設備の 出力調整や、運転発電機数の調整で行われてい る。図1は、10 1 日から 7 日間の、全国の 風力発電設備の出力の推移を示したものであ る。10 3 日に東北地区において 60%超の発 電電力が記録されていることがわかる。これら の出力変動に対応して調整用発電設備が出力 を調整するが、北海道電力や北陸電力管内では この調整力が不足することが懸念されている。 正月やゴールデンウイークの深夜帯など、企 業や工場などが操業を行わない軽負荷時にお いて風力発電の出力が増加すると、調整用の火 力発電所の最低出力制限領域に入る場合があ る。この対策として、調整用火力発電所の運転 台数を低減する方法があるが、緊急時対応など を考慮すると、この運転台数低減にも限界があ る。 3.風力発電設備による系統安定化寄与 これらの影響に対して、電力系統の広域運用 や電力貯蔵装置の活用、需要の能動化などが対 策として考えられるが、風力発電設備自身が有 している機能も系統安定化に寄与することが できる。最近の風力発電機は、その殆ど全てが 可変速度機となっており、風車単体で有効電力 および無効電力を制御する事が可能となって いる。またウインドファームコントローラまた はパークコントローラと称している複数の風

エネルコン社風力発電設備の制御機能と適用例jwpa.jp/2013_pdf/88-23tokushu.pdf · 81 特集:風力発電と電力系統との融和 エネルコン社風力発電設備の制御機能と適用例

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81

■特集:風力発電と電力系統との融和

エネルコン社風力発電設備の制御機能と適用例

株式会社日立パワーソリューションズ 新エネルギー本部 前川 聡 [email protected]

1.はじめに

近年、地球温暖化防止やエネルギー資源問題

の解決方法の 1 つとして、風力発電が注目され

ている。国内におけるその導入量は、2012 年

末時点で 261 万 kW(世界第 12 位)、2012 年度

末で 264 万 kW であったが、東日本大震災によ

るエネルギー転換政策や、2012 年 7 月の再生

可能エネルギーの固定価格買取制度の施行開

始により、今後、国内でもその導入加速が期待

されている。一方で、風力発電は、風速変化に

依存し、その発電出力が大きく変動しやすいこ

とから、風力発電の大規模な系統連系により、

電力系統の調整電源容量や調整速度不足によ

る周波数変動が懸念されている。 このため、風力発電設備に蓄電池等の電力貯

蔵システムを併設し、出力変動を緩和すること

が有力とされるが、風力発電事業者にとっては、

その導入による風力発電所建設コストの増加、

蓄電池の充放電ロスに伴う売電電力の低下に

より、事業収益へ悪影響を与えることになる。 一方、風力発電設備自身でも、系統への影響

を緩和する機能を有しており、この機能を有効

活用して発電事業と系統連系の両方を成立さ

せることが可能となるケースもありうる。 本稿では、エネルコン社風力発電設備自身が

有している系統安定化機能を紹介し、系統連系

上の問題を解決し、風力発電の導入量を増加す

る一助としたい。 2.風力発電が系統に与える影響

風力発電が系統に連系した場合、問題となる

点は、主に以下の理由による。

① 短周期(20 分未満)の出力変動が大きい。

⇒調整用の発電設備による調整力が不足す

る。(LFC 領域の調整容量不足) ② 長周期(20 分以上)の出力変動が大きい。

⇒調整用の発電設備による調整力が不足す

る。(EDC 領域の調整容量不足) ③ 軽負荷(低需要)時に風力発電設備の出力が

増加する事がある。

⇒火力発電設備の最低出力制限による制約

が生じる。(下げ代不足) LFC(負荷周波数制御)領域の出力変動対応は、

主に水力や石油火力など応答レスポンスが速

い発電設備の出力調整で行われるが、需要の短

周期変動に風力発電の変動が加わるため、連系

制約となることがある。しかし、風力発電の変

動は各風力発電システムで時間差があり、変動

は√N 倍に程度に収まると言われており、沖縄

電力管内や離島などの小規模独立系統を除け

ば、顕著な問題とはなっていない。 EDC(経済負荷配分制御)領域では、石炭火力

など応答レスポンスが比較的遅い発電設備の

出力調整や、運転発電機数の調整で行われてい

る。図1は、10 月 1 日から 7 日間の、全国の

風力発電設備の出力の推移を示したものであ

る。10 月 3 日に東北地区において 60%超の発

電電力が記録されていることがわかる。これら

の出力変動に対応して調整用発電設備が出力

を調整するが、北海道電力や北陸電力管内では

この調整力が不足することが懸念されている。 正月やゴールデンウイークの深夜帯など、企

業や工場などが操業を行わない軽負荷時にお

いて風力発電の出力が増加すると、調整用の火

力発電所の最低出力制限領域に入る場合があ

る。この対策として、調整用火力発電所の運転

台数を低減する方法があるが、緊急時対応など

を考慮すると、この運転台数低減にも限界があ

る。

3.風力発電設備による系統安定化寄与

これらの影響に対して、電力系統の広域運用

や電力貯蔵装置の活用、需要の能動化などが対

策として考えられるが、風力発電設備自身が有

している機能も系統安定化に寄与することが

できる。最近の風力発電機は、その殆ど全てが

可変速度機となっており、風車単体で有効電力

および無効電力を制御する事が可能となって

いる。またウインドファームコントローラまた

はパークコントローラと称している複数の風

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車を統括し

も登場して

発電設備の

する。 3.1 最大出

前述の

荷時の調整

の増加に起

ーム全体の

く最大出力

している。

ンドファー

号で制御す

図2は2

において、

るが、指令

変化してい

限は直接発

は最後の手

また、こ

ィンドファ

図2

して制御する

ている。ここ

の有効電力

出力制限機

EDC(経済負

整力不足は、

起因するので

の最大出力

力制限運転を

このため、

ーム全体や個

する機能を有

2.3MW×

最大出力指

令値に追従し

いることが分

発電量の低下

手段として適

この最大出力

ァーム全体

2 2.3M

る機能を有し

こでは、エネ

の制御機能

負荷配分制

予想しない

で、欧州では

を電力会社

を行い、調整

風力発電設

個々の最大出

有している。

×6基のウィ

指令値を変化

しウィンドフ

分かる。なお

下につながる

適用されてい

力制限機能を

の出力を連

図1

MW×6基の

している機種

ネルコン社風

能に関して紹

御)領域や軽

い風力発電出

はウィンドフ

社の指令に基

整力不足に対

設備自身にウ

出力を、外部

ィンドファー

化させた例で

ファーム出力

お、この出力

るので、欧州

いる。 を利用して、

連続制御する

全国の風力

の出力制御例

82

種 風力

紹介

軽負

出力

ファ

基づ

対応

ウィ

部信

ーム

であ

力が

力制

州で

、ウ

るこ

とも

トで

例で

かけ

3.2

車の

力上

時に

でき

昇率

ウィ

てゆ

転時

を、

ィン

続制

出力

力発電設備

も可能となる

で、実際に出

であり、0~

けて変化させ

2 出力上昇

短周期の出力

の出力上昇率

上昇率を低

に風車出力

きる。図2に

率を、4MW/ィンドファー

ゆっくり上昇

エネルコン社

時に加え、系

、個別に設定

また、前述の

ンドファーム

制御するこ

力上昇率を制

備の出力の推

る。図3は、

出力制限値を

~100%ま

せた例であ

3 最大出力

昇率制御

力変動を低減

率を制御す

く設定すれ

が急増する

においてグラ

/分から 1Mーム出力が、

昇している

社風力発電設

系統事故後の

定すること

の最大出力制

ム全体の最大

とによって、

制御するこ

推移

、2MW×

を連続的に

まで50分

る。

力連続制御

減する方法

る機能があ

ば、急激な

るのを防止す

ラフの右側

MW/分として

、グラフ左

ことがわか

設備では、

の起動時の

ができる。

制限機能を

大出力を、

、ウィンド

とも可能と

時間軸:

5基のサイ

変化させた

(3000 秒)

法として、風

る。この出

風速の上昇

することが

では出力上

ているため、

半分に比べ

かる。 起動時、運

出力上昇率

利用してウ

外部から連

ファームの

なる。

7日間

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3.3 周波数

エネルコ

上昇時に自

を少しでも

静的制御

をプリセッ

はこの制限

なお、周

能であるが

格出力以下

下を招くの

一方動的

速やかにあ

で出力を低

上昇時の出

下率で絞り

3.4 系統電

送電線や

系する場合

ることがあ

一方、エ

ータで連系

御すること

して、無効

なうことが

数による出

コン風力発電

自動的に出力

も抑制する機

御では、系統

ットすること

限値以上は出

周波数低下時

が、これは予

下に設定す

ので、通常使

4 周波数

的制御では、

あらかじめ設

低下させる。

出力の大小に

り込むため、

5 周波数

電圧制御(V

や配電線の末

合、出力の変

ある。 エネルコン社

系しているた

とが可能であ

効電力調整に

ができる。

力制御

電設備では、

力を下げ、系

機能を有して

統周波数によ

とができ、周

出力されない

時に出力を上

予め通常運転

る必要があ

使用していな

による静的

周波数上昇

設定してあ

(図5)よ

に関わらず、

より効果的

による動的

Voltage Con

末端に風力

変動が系統電

社風力発電設

ため、無効電

あるため、こ

による系統電

系統の周波

系統周波数上

ている。 よって最大出

周波数上昇時

い。(図4)

上げる制御も

転最大出力を

あり発電量の

ない。

的出力制御

昇が発生する

ある出力低下

よって、周波

出力を設定

的である。

的出力制御

ntrol Syste

力発電設備が

電圧の変動と

設備は、イン

電力を自由に

この機能を利

電圧制御をお

83

波数

上昇

出力

時に

も可

を定

の低

ると、

下率

波数

定低

em)

が連

とな

ンバ

に制

利用

おこ

もの

電圧

調整

VC効電

が発

3.5

する

この

急減

時間

トア

停止

なる

図6は、コル

ので、連系点

圧制御(VC整すること

CS を off とす

電力が一定

発生している

図6 無

5 ストーム

通常、風力発

ると、運転を

のため、カ

減し系統に変

間低下する

アウト風速付

止を繰り返す

る。(図7)

ルシカ島にお

点は変電所か

CS)が on 状

で系統電圧

するとそれま

となり、出力

ることがわ

無効電力によ

ム制御

発電設備は風

を停止する。

ットアウトが

変動を与え

と再度運転

付近で運転す

すこととな

図7 カッ

図8 スト

おける実測

から 8km 離

状態では、

圧は安定して

まで調整さ

力変動に伴

かる。

よる系統電圧

風速が一定

。(カットア

が発生する

る。また、

を開始する

すると、風

り、出力変

ットアウト

トーム制御

例を示した

れている。

無効電力を

ているが、

れていた無

う電圧変動

圧制御例

以上に上昇

アウト) と、出力が

風速が一定

ため、カッ

車が運転と

動の一因と

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一方、エネルコン風力発電設備ではカットア

ウトせず、運転を継続する機能を有している。

通常は 25m/s 以上でカットアウトするが、この

機能を有効にすると、28m/s まで定格出力で運

転を継続し、28m/s 以上では出力を絞り 34m/sで出力が 0 となる。(図8)

これにより、カットアウト風速近傍で停止、

再起動を繰り返すことなく運転を継続でき、系

統への影響を最小化できる。また、カットアウ

トによる発電量の低下も防止することができ、

風力エネルギーの有効活用にも寄与している。

3.6 無効電力制御(STATCOM オプション)

エネルコン社風力発電設備は、フルインバー

タ方式と呼ばれ、発電電力はすべてインバータ

を介して系統へ供給している。このインバータ

を、より発展的に応用した機能として、

STATCOM オプションがある。 こ の オ プ シ ョ ン 機 能 を 利 用 す る と 、

STATCOM(静止型無効電力補償装置)を設置

したことと同等になり、風車のインバータが

STATCOM として動作可能となる。すなわち図

9に示すとおり、風車の出力の有無に関わらず、

常に無効電力を制御でき、系統電圧をより積極

的に制御できるようになる。

図9 STATCOM オプション

図 10は、実際の運転データを示したもので、

風車運転開始と同時に無効電力を供給を開始

し、有効電力が 0MW から定格の 2.3MW まで

一定の無効電力を維持していることがわかる。

図10 実測データ(STATCOMオプション)

4.おわりに

エネルコン社風力発電設備がもつ、系統連系

に関わる技術について、特に有効電力と無効電

力の制御を中心に紹介した。 前述したとおり、近年の風力発電機の大型化

と集合化で、電力系統への影響は無視できない

ものとなってきており、風力発電の連系量に制

約が出て来ている。 これらの連系制約を解消するため系統側の

対策として、広域運用や電力貯蔵装置の設置、

需要の能動化などが提案されているが、いずれ

も系統側の経済運用に影響を与えるため、引き

続き検討を進めていく必要がある。 一方、本論文で紹介した風力発電設備自身の

機能を積極活用することで、系統への影響を少

なくすることができる。 スペインではすでに風力発電設備の出力制

限を実施しているが、気象予測に基づく出力予

測システムを活用することで、出力制限を最小

化することに成功している。 今後は、これらエネルコン社風力発電設備の

もつ機能を最大限活用して、系統連系上の問題

を技術的にも経済的にも解決し、風力発電導入

の促進を図っていきたい。