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2016- 9「車両技術 252 号」 32 JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 ※永 えい らく しゅん 写真 1 外観 要旨 東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、世界自然遺産に登録されている白神山地と風光明 めい な日本海の沿 線を走る五能線で、“リゾートしらかみ”を運行している。“リゾートしらかみ”は、当社の観光列車の先駆けであ り、年間を通して多くのお客さまにご利用を頂いている。また、観光地にふさわしく、環境にやさしい車両によ る運行を目指して、2010年 10月からは、HB-E300系一般形ハイブリッド車両を用いたリゾートしらかみ“青池” 編成の運用を開始してきた。今回、2016 年 7 月から行われる青森・函館デスティネーションキャンペーンに合 わせて、老朽化したキハ 40 系内燃動車を用いたリゾートしらかみ“橅 ブナ ”編成を新形車両に置き換えることとし、 その後継車両として、“橅”編成用のHB-E300系ハイブリッド車両を新造することとした。車両性能は、“青池” 編成の HB-E300 系をベースとしつつも、HB-E210 系一般形ハイブリッド車両から新たに採用しているメンテナ ンス性を考慮した主回路の機能などを追加したほか、室内は、秋田県及び青森県産の木材をふんだんに使用する など、更なる観光列車にふさわしい車両となるようにデザインを一新している。以下にリゾートしらかみ“橅”編 成の概要について紹介する。 (編集部注:HB-E300 系は本誌 240 号 2010 年 9 月、HB-E210 系は 250 号 2015 年 9 月参照) 1 はじめに JR 東日本の地方観光線区の先駆けである五能線は、全 線開通 80 周年を迎え、現在も年間を通して多くのお客さ まにご利用を頂いている。今回、“青森・函館デスティネ ーションキャンペーン”の開催に合わせて、老朽化したキ ハ 40 系内燃動車を用いたリゾートしらかみ“橅 ブナ ”編成の後 継車両として、HB-E300 系一般形ハイブリッド車両を新 造することとした。 HB-E300 系“橅”編成の車両性能及び主要機器は、HB- E300系“青池”編成をベースとしつつも、HB-E210系から 採用している非常蓄電池によって発電装置の機関を始動可 能とする機能を追加したほか、メンテナンス性を考慮して 新たに主回路蓄電池用開閉器などを設けている。また、室 内は、青池編成からインテリアデザインを一新して、秋田 県及び青森県産の木材をふんだんに使用するなど、観光列 車にふさわしい内装とすることで、より多くのお客さまに ご利用いただける車両を目指して開発した。 2 編成及び車両性能と主な特徴 編成及び車両形式は、秋田・青森側から、便所付き先頭 ※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター

JR東日本 HB-E300系一般形ハイブリッド車両 リゾートしら …...32 2016-9車両技術252号 JR東日本 HB-E300系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成

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  • 2016- 9「車両技術 252 号」32

    JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両リゾートしらかみ「橅」編成

    ※永えい

    樂らく

     俊しゅん

    吾ご

     

    写真 1 外観

    要旨東日本旅客鉄道株式会社(JR 東日本)では、世界自然遺産に登録されている白神山地と風光明

    めい

    媚び

    な日本海の沿線を走る五能線で、“リゾートしらかみ”を運行している。“リゾートしらかみ”は、当社の観光列車の先駆けであり、年間を通して多くのお客さまにご利用を頂いている。また、観光地にふさわしく、環境にやさしい車両による運行を目指して、2010 年 10 月からは、HB-E300 系一般形ハイブリッド車両を用いたリゾートしらかみ“青池”編成の運用を開始してきた。今回、2016 年 7 月から行われる青森・函館デスティネーションキャンペーンに合わせて、老朽化したキハ 40 系内燃動車を用いたリゾートしらかみ“橅

    ブナ”編成を新形車両に置き換えることとし、

    その後継車両として、“橅”編成用の HB-E300 系ハイブリッド車両を新造することとした。車両性能は、“青池”編成の HB-E300 系をベースとしつつも、HB-E210 系一般形ハイブリッド車両から新たに採用しているメンテナンス性を考慮した主回路の機能などを追加したほか、室内は、秋田県及び青森県産の木材をふんだんに使用するなど、更なる観光列車にふさわしい車両となるようにデザインを一新している。以下にリゾートしらかみ“橅”編成の概要について紹介する。(編集部注:HB-E300 系は本誌 240 号 2010 年 9 月、HB-E210 系は 250 号 2015 年 9 月参照)

    1 はじめにJR 東日本の地方観光線区の先駆けである五能線は、全

    線開通 80 周年を迎え、現在も年間を通して多くのお客さまにご利用を頂いている。今回、“青森・函館デスティネーションキャンペーン”の開催に合わせて、老朽化したキハ 40 系内燃動車を用いたリゾートしらかみ“橅

    ブ ナ

    ”編成の後継車両として、HB-E300 系一般形ハイブリッド車両を新造することとした。

    HB-E300 系“橅”編成の車両性能及び主要機器は、HB-E300 系“青池”編成をベースとしつつも、HB-E210 系から

    採用している非常蓄電池によって発電装置の機関を始動可能とする機能を追加したほか、メンテナンス性を考慮して新たに主回路蓄電池用開閉器などを設けている。また、室内は、青池編成からインテリアデザインを一新して、秋田県及び青森県産の木材をふんだんに使用するなど、観光列車にふさわしい内装とすることで、より多くのお客さまにご利用いただける車両を目指して開発した。

    2 編成及び車両性能と主な特徴編成及び車両形式は、秋田・青森側から、便所付き先頭

    ※ 東日本旅客鉄道㈱ 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 33

    図1 

    編成

  • 2016- 9「車両技術 252 号」34

    会社・車両形式 東日本旅客鉄道㈱・HB-E300 系使用線区 五能線・奥羽本線など 軌間(㎜) 1 067基本編成両数 4 両 使用線区の最急勾配 33 ‰車体製作会社 総合車両製作所㈱ 用途 一般形台車製作会社 総合車両製作所㈱ 製造初年 2016 年機関製作会社 コマツディーゼル㈱ 製作両数 4 両主回路装置製作会社 ㈱日立製作所 車両技術の掲載号 252

    基本編成及び主な機器配置

    凡例 ●;駆動軸 ○;付随軸 CI;主変換装置 SIV;補助電源装置    CP;空気圧縮機 BT;主回路用蓄電池 便;便所   連結器 ▽;密着 +;半永久 ※;電気連結器編成質量(t) 154.9 編成定員(人) 142

    個別の車種形式 HB-E301-5 HB-E300-105 HB-E300-5 HB-E302-5車種記号(略号) - - - -空車質量(t) 39.4 38.9 38.3 38.3定員(人) 34 36 28 44うち座席定員(人) 34 36 28 44

    特記事項

    駆動系主要設備

    最大限流値

    力行(A)ブレーキ(A)

    電気ブレーキの方式 回生ブレーキブレーキ抵抗器

    形式/質量(㎏) -

    機関形式/質量(㎏) DMF15HZB-G / 1 865出力(kW) 331台数 / 両 1

    主発電機

    形式/質量(㎏) DM113 / 885出力(kVA) 270台数 1励磁制御方式 三相かご形誘導発電機

    油冷却方式 -燃料タンク容量(㍑) 550

    主回路用蓄電池

    種類/質量(㎏) リチウムイオン蓄電池セル数×モジュール数容量(Ah) 15.2主な用途 走行、回生電力充電、補機

    その他

    補助電源設備

    補助電源装置

    形式/質量(㎏) 主変換装置に含む方式 2 レベル PWM インバータ出力 70 kVA

    制御用蓄電池

    種類/質量(㎏) アルカリ蓄電池 / 20容量(Ah) 70(5 時間率)主な用途 制御用

    車両性能

    最高運転速度(㎞/h) 100

    加速度(m/s2)0.64(2.3 ㎞/h/s)キハ 110 系相当0.42(1.5 ㎞/h/s)キハ 40 系相当

    減速度(m/s2)

    常用 0.97(3.5 ㎞/h/s)非常 0.97(3.5 ㎞/h/s)

    編成当りの定格

    編成構成 4M出力(kW) 760引張力(kN)

    動力伝達方式 TD 継手式並行カルダン

    ブレーキ制御方式回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(応荷重・滑走再粘着機能付)、直通予備ブレーキ、抑速ブレーキ、耐雪ブレーキ

    制御回路電圧(V) DC 100抑速制御 あり運転保安装置 統合形 ATS 車上装置(Ps 形)

    列車無線デジタル列車無線(2 形)、防護無線、EB・TE 装置

    非常時運転条件 2 両編成において 1 車カットで運転可能

    駆動系主要設備

    主変換装置(コンバータ /

    インバータ)

    形式/質量(㎏) CI24 / 2 210

    制御方式2 レベル PWM コンバータ2 レベル PWM インバータ

    仕様 2MM 制御

    主電動機

    形式 / 質量(㎏) MT78 / 493方式 三相かご形誘導電動機1 時間定格(kW) 95回転数(min–1) 2 350特記事項

    表 1 JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ“橅”編成 車両諸元

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 35

    その他の主要設備

    主幹制御器形式 / 質量(㎏) MEC10方式 ワンハンドル

    速度計装置 電子式表示器車両情報制御システム

    モニタ装置 MON18A、B、Cモニタ表示器 10.4 インチ TFT カラー LCD

    標識灯前部標識灯 LED 灯後部標識灯 LED 灯その他 -

    その他前面映像カメラ、イベント用カメラ、液晶表示器、AV システム

    空気ブレーキ設備

    電動空気圧縮機

    形式 / 質量(㎏) C600N圧縮機容量 610 ㍑ / min圧縮機方式 往復単動 2 段圧縮

    空気タンク元空気タンク 168 ㍑供給空気タンク 165 ㍑

    ブレーキ制御装置

    形式 / 質量(㎏) C162

    台   車

    形式動台車 DT75A付随台車 TR260A

    車体支持装置 ボルスタレス式けん引装置 一本リンク式枕ばね方式 空気ばね上下枕ばね定数 /台車片側(N/㎜)

    動台車付随台車

    軸箱支持方式 軸はり式軸ばね方式 コイルばね

    上下軸ばね定数 / 軸箱(空車時)(N/㎜)

    コイルばね動台車付随台車

    ゴムばね動台車付随台車

    総合動台車付随台車

    軸距(㎜) 2 100台車最大長さ(㎜) 3 341(DT75A)、3 341(TR260A)車輪径(㎜) 新製時:860 計算用:820基礎ブレーキ

    動台車 踏面片押しブレーキ付随台車 踏面片押しブレーキ

    ブレーキ倍率

    踏面 3.2ディスク -

    制輪子動台車 焼結合金付随台車 焼結合金

    ブレーキシリンダの数

    動台車 踏面:4付随台車 踏面:4

    駆動方式 平行カルダン歯数比(減速比) 99:14 = 7.07継手 TD 継手軸受 密封複式円すいころ軸受

    質量(㎏)動台車 先頭:6142付随台車 先頭:4017

    車両間連結装置先頭部 密着連結器中間部 半永久連結器

    車体の構造・主要寸法・特性

    構体材料 ステンレス鋼構造 溶接組立て

    車両の前面

    形状 非貫通形構造 鋼製

    運転室の構造 全室

    客室の内装材

    天井 軽量複合パネルほか側・妻 天然銘木単板ほか床 天然木板ほか

    長さ(㎜)

    先頭車 20 600中間車 20 600

    連結面間距離(㎜)

    先頭車 21 100中間車 21 100

    心皿間距離(㎜) 14 400車体幅(㎜) 2 920高さ(㎜)

    屋根高さ 3 620屋根取付品上面 4 070.5(蓄電池箱上面)

    床面高さ(㎜) 1 130相当曲げ剛性(MN・m2)相当ねじり剛性(MN・m2/rad)固有振動数(Hz)

    主な旅客設備

    側窓 固定式

    側扉構造 側引戸片側数 1

    戸閉め装置

    形式 TK121方式 直動空気式

    妻引戸 電気式自動形引戸

    腰掛

    一般席:回転リクライニング(一般席)、半個室:横形クロスシート(フラット可能タイプとソファータイプ)

    空調換気システム

    空調装置

    形式/質量(㎏) AU732A / 475 ×1 台方式 天井集中形容量(kW/ 両) 38.4

    暖房装置

    方式 腰掛シーズ線ヒータほか容量(kW/ 両)

    換気方式 強制換気送風方式 天井ダクト

    室内灯照明方式 間接照明、スポットライトほか灯具方式 LED 灯

    非常通報装置 通話形(モニタ表示機能付き)車内案内表示 LED 式表示器放送設備

    車内向け あり車外向け あり

    行先表示器

    前面 LED 式表示器側面 LED 式表示器

    主な移動等円滑化対応設備

    電動車椅子対応大形便所車椅子スペース

    便所主な設備 洋式便所、男性用便所、洗面所汚物処理 真空式

  • 2016- 9「車両技術 252 号」36

    椅子

    ごみタンク

    付随台車

    台枠

    どい

    図 2-1 形式図 HB-E301-5

    ごみ

    タンク

    付随台車

    台枠

    どいどい

    図 2-2 形式図 HB-E300-105

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 37

    ごみタンク

    付随台車

    台枠

    どいどい

    図 2-3 形式図 HB-E300-5

    ごみ

    タンク

    付随台車

    台枠

    どい

    図 2-4 形式図 HB-E302-5

  • 2016- 9「車両技術 252 号」38

    車の HB-E301 形(HB-E301-5)、半個室構造の中間車の HB-E300 形 100 番代(HB-E301-105)、一般座席の中間車の HB-E300 形 0 番代(HB-E300-5)、便所なし先頭車の HB-E302形(HB-E302-5)となっている。定員は、HB-E301 形が 34名、HB-E300 形 100 番代が 36 名、HB-E300 形 0 番代が 28名、HB-E302 形が 44 名である。なお、今回の編成は、一般座席の中間車に“ORAHO(おらほ)”カウンタと呼ぶフードカウンタを設けたため、合計定員は青池編成よりも 12名少ない 142 名となっている。

    車両性能は、運転最高速度は 100 ㎞/h、加速度はキハ110 系性能と同等の 0.64 ㎞/s2(2.3 ㎞/h/s)とキハ 40 系性能と同等の 0.42 ㎞/s2(1.5 ㎞/h/s)を切換可能としている。また、減速度は 0.97 ㎞/s2(3.5 ㎞/h/s)としている。

    3 デザイン3.1 エクステリアデザイン

    エクステリア(外観)は、白神山地と日本海とに囲まれた

    沿線の美しい大自然、移ろい行く季節感、どこか神聖で神々しい空気感を“緑豊かな橅

    ぶ な

    の葉とそこから、あふれ出る優しい木漏れ日”で表現することをコンセプトに、橅の木立をグラデーションで表現し、ナチュラルなグリーンの濃淡で優しい木漏れ日を感じさせるデザインとしている。

    これらデザインを実現するため、前頭部は塗装、側面部はデザインシートをフルラッピングしている。また、前頭部の前面及び側面に、現行の“橅”編成と同様のロゴマークを配して、現行車両の DNA を継承するとともに、車両の側面には、HB-E300 系の共通である“RESORT HYBRID TRAIN”のロゴマークを配置した。3.2 インテリアデザイン

    インテリア(内装)は、“青池”編成からデザインを一新して、内装材には青森・秋田県産の“ブナ”、“スギ”、“ヒバ”などの木材をふんだんに使用するとともに、地元の工芸品や木のオブジェなどの装飾で、沿線の大自然を身近に感じていただくと同時に、温かみと安らぎとを演出している。

    図 3 車体断面

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 39

    また、腰掛の表地は、東北の夏祭りをイメージした幾何学模様をデザインしたモケットを使用している。

    2 号車(HB-E300-105)には、ソファータイプのボックス席を設け、従来よりも、さらに開放感や展望性を高めるため、個室間の仕切りの一部をガラス張りとしている。また、2 号車の通路の腰板部には、五能線の沿線図をデザインしたグラフィック(写真 4 参照)を配置した。

    3 号車(HB-E300-5)に設置した“ORAHO”カウンタは、地酒やスイーツなどの沿線の“うまいもの”を中心に販売することから、地産地消のカフェのような空間を提供するデザインとしている。

    4 車体構造4.1 主要寸法

    車体の主要寸法は、車体長 20 600 ㎜、連結面間距離21 100 ㎜、車体幅 2 920 ㎜、車体高さ 3 620 ㎜、床面高さは 1 130 ㎜とした。床下ぎ装スペースを確保するため、台車中心間距離を 14 400 ㎜とした。また、車体断面は、腰部から下を絞った裾絞り形状とした。床面高さは、レール上面から 1 130 ㎜であるが、高さ 920 ㎜の共用プラットホーム上面との段差を少なくするため、各出入台に高さ 970㎜のステップを設けている。4.2 構体

    構体は、JR 東日本の新系列電車と同様に、特に強度を要する台枠の一部を除き、ステンレス鋼材によって構成する軽量ステンレス構体を踏襲した。前頭部は、踏切事故対策として前面を強化している。また、側面からの衝撃に対する安全性向上策としては、側構体の柱の位置に幕板補強及び屋根構体の垂木の位置を合わせるとともに、これらの結合強度を向上させることによって、構体に数多くのリング構造を設けて、衝撃荷重を受けた際の構体の変形量の抑制を図っている。

    5 客室5.1 客室構造

    客室の床板には、秋田県産の天然木板(無む

    垢く

    材;スギ圧縮材)を使用している。床の厚さは、客室内に天然木板を用いたことによって、客室一般部が 29 ㎜、出入台部が 25㎜と異なる寸法となったが、床の境目に 3°程度の傾斜を設けて、極力段差がない構造となるよう配慮した。また、

    一般客室の座席部分及び半個室部は、床上面から 162 ㎜高い高床構造を採用して車窓の展望に配慮した。

    客室部の床構造は、台枠上面に貼ったダブテイル形状のキーストンプレートの上に、合成樹脂系床充填剤を塗り固め、その上に天然木板を接着及びねじ止めする構成である。また、高床部の床構造は、厚さ 4 ㎜のアルミニウム合金板の上に、天然木板を接着及びねじ止めする構成としている。

    なお、防音・防振対策として、“青池”編成と同様に、動台車及び発電装置の機関の直上の範囲は、高床部とキーストンプレートとの間に合成樹脂系床充填剤を塗り固めている。また、ハイブリッド車両の特徴を最大限活かすためには、軽量化に配慮する必要もあり、動台車及び機関の直上以外の一部通路部並びに出入台の床には、軽量床パネルを採用している。

    腰板及び吹寄板は、秋田県産のスギ天然銘木単板を採用した。天井材は、“青池”編成と同様に印刷焼付塗装アルミニウム板とペーパーハニカムの軽量複合パネルとで、空調吹き出し部を含んだ風道と一体となったユニット構造を採用した。中央部には、天井パネル材の上に、秋田県産のスギ天然木化粧シートを貼付した。この天井材は、表板であるアルミニウム合金板の厚みを“青池”編成よりも 1.4 ㎜厚くすることによって、不燃性のほか、放射熱に対する耐燃焼性及び耐溶融滴下性を有した構造となっている。

    写真 2 室内(一般客室)

    写真 4 室内(2 号車個室 廊下)

    写真 3 室内(2 号車個室)

  • 2016- 9「車両技術 252 号」40

    5.2 室内設備一般座席の腰掛は、ゆったりとした空間を提供するた

    め、2 人掛け回転リクライニングシートを前後ピッチ1 200 ㎜で配置した。この腰掛は、背ずりの背面に収納式のテーブルを設けたほか、インアームテーブルを設置して、グループのお客さまなどが座席を向かい合わせでご利用される場合にもテーブルを使用できるように配慮している。半個室の座席は、9 室のうち両サイドの 2 室ずつは、“青池”編成と同様に室内をフラット化できる構造となっている。また、中央の 5 室は、ソファータイプの腰掛を採用している。

    照明は、全て LED 灯を採用している。間接照明を中心に、出入台部や半個室にダウンライトを用いるなどの照明による演出を図り、お客さまに快適にご乗車いただけるように配慮した。また、客室の前後妻壁には、LED 式車内案内表示装置、天井には 17 インチ液晶表示器を設置した。液晶表示器は、前方展望カメラ、イベントカメラ、DVD 映像などの放映を行う。5.3 窓及び扉

    側窓ガラスは、可視光線、日射熱線及び紫外線の透過率を抑えた平面複層合わせガラスで、全て固定窓としており、一般客室及び半個室には、ブラインドカーテンを設けている。窓の高さは 1 120 ㎜、幅は、展望室では 1 800㎜、半個室では 1 200 ㎜、一般客室では 950 ㎜として、風光明

    め い

    媚び

    な五能線の車窓を堪能いただけるよう配慮した。側引戸は、内外板ともにアルミニウム合金板を使用し

    て、ハニカム心材を用いる軽量構造とした。側引戸の有効幅は 1 001 ㎜、運転室仕切引戸の有効幅は 510 ㎜、妻引戸の有効幅は 805 ㎜である。側引戸の戸尻部には、風止めゴムを設けており、構体の側入口フレームに取り付いた風止めゴムと接することで、耐寒対策としている。5.4 バリアフリー・ユニバーサルデザイン対応設備

    車椅子スペースは、1 号車(HB-E301-5)の出入台寄りに設けている。車椅子が固定できる腰掛は、車椅子から乗り移りしやすいように腰掛の回転方向を通路側回転としている。また、同スペースには、車椅子に着座した状態で使用可能な高さに非常通話装置を設けた。なお、客室妻部に設置している車内案内表示器は、設備案内、停車駅案内及び次駅のドア開方向などを表示する。

    5.5 便所・洗面所設備 便所・洗面所設備は、1 号車(HB-E301-5)及び 3 号車

    (HB-E300-5)の出入台の車端寄りに、車椅子対応の大形洋式便所、小便所及び洗面所を設置した。車椅子対応洋式便所は、JIS に適合する車椅子で使用可能な空間を確保するとともに、汚物処理装置を真空吸引式として臭気対策を図った。洋式便所の扉は、ボタン操作で開閉できる自動扉を採用し、便所内には、非常通報装置を設置したほか、転倒時にも通報可能とするため、足元にも通報ボタンを設置した。なお、便所・洗面設備の近くには、手荷物が置けるようにテーブルを設けている。5.6 その他の旅客サービス設備

    1 号車(HB-E301-5)及び 4 号車(HB-E302-5)の運転室と客室との間には、運転室越しに前方や側面からの眺望を楽しんでいただけるように展望室を設けている。同スペースには、“橅”編成のデザインシンボルとなる木のオブジェを本物の“ブナ”の木を用いて装飾している。また、展望室の腰掛には、秋田・青森県内の家具製造業者のスツールを採用した。

    3 号車(HB-E300-5)には、1・3 位側(五能線内の山側)に“ORAHO”カウンタ、2・4 位側(五能線内の海側)に着席可能な側カウンタを設置している。カウンタには、青森県産の“ヒバ”の木を用いている。

    6 運転室設備運転室は、非貫通全室構造の高床運転台で、乗務員の居

    住空間及び視認角の確保に努めた。運転台ユニットは、運転士側から助士側に渡る直線的な運転台を有し、運転士の扱いを十分に考慮した形状としている。

    前部標識灯は、“青池”編成では、ハロゲンシールドビームと高輝度放電灯(HID)とを併設していたが、“橅”編成では、取付けに互換性のある LED 灯を採用している。また、前部標識灯は、側寄りに電球色、中央寄りに白色を配置して、降雪時の運転を考慮した色味を選定した。なお、標識灯の灯具ユニットは、車外から交換できる構造としている。

    前面窓ガラスは、2 次曲面をもつクリア・グリーンガラスを採用しており、日射透過率を抑えている。また、窓ガラスは、押え金で固定して、交換しやすい構造とした。ワイパは、運転士側及び助士側に各 1 本づつ設けた 2 本の主

    写真 5 室内(展望室) 写真 6 室内(3 号車フードカウンター)

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 41

    図4 

    運転

    室機

    器配

    写真

    7 運

    転台

  • 2016- 9「車両技術 252 号」42

    図5 

    床下

    機器

    配置

    b) 

    床下

    機器

    配置

     H

    B-E

    302-

    5

    a) 

    床下

    機器

    配置

     H

    B-E

    301-

    5

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 43

    広帯域空中線

    広帯域空中線

    主回路用蓄電池箱

    主回路用蓄電池箱

    元空気タンク

    元空気タンク

    空気笛

    広帯域空中線

    主回路用蓄電池箱

    主回路用蓄電池箱

    元空気タンク

    元空気タンク

    空気笛

    広帯域空中線

    空気笛

    図6 

    屋根

    上機

    器配

  • 2016- 9「車両技術 252 号」44

    輪軸

    主電動機

    空気ばね

    台車枠

    排障器

    軸箱

    左右動ダンパ

    セラミック噴射装置

    雪かき器

    図7 

    動台

    車(D

    T75A

    写真

    8 

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 45

    輪軸

    空気ばね

    台車枠

    排障器

    軸箱

    速度発電機

    左右動ダンパ

    セラミック噴射装置

    図8 

    付随

    台車(

    TR25

    0A)

    写真

    9 

  • 2016- 9「車両技術 252 号」46

    図9 

    主回

    路つ

    なぎ

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 47

    ワイパに加えて、ワイパに不具合が生じた場合に備えて補助ワイパを運転士側に設けた。なお、これらのワイパは、立てた状態を定位としている。

    主幹制御器は、左手操作のワンハンドルマスコンを採用しており、勾配起動スイッチを右手グリップに設けている。主幹制御器卓内には、リセット、システム停止の各スイッチ及び定速ボタン取り付けている。計器盤には、速度計、双針圧力計、運転士知らせ灯、P・Ps 統合形動作表示器の表示部、ブレーキ表示器、モニタ表示器、防護無線装置及び EB リセットスイッチを配置した。運転台右側のユニット中央部には、電子閉塞装置、運転台操作スイッチ盤、時刻表(タブレット充電対応)などに加えて、展望カメラを配置している。

    7 機器配置7.1 床下機器配置

    各車の床下には、ディーゼル機関、発電機、主変換装置(CI)、空気圧縮機、ブレーキ制御装置、機関冷却装置などを搭載した。形式ごとの配置の違いは、先頭車、中間車、便所の有無などに応じて、ATS 車上子や汚物タンクの有無が異なるのみである。7.2 屋根上機器配置

    各車の屋根上には、集中式の空調装置、主回路電池箱を2 箱ずつ搭載したほか、元空気タンク(42㍑)を 3 本配置している。

    8 主要機器8.1 ハイブリッドシステムの概要

    ハイブリッドシステムの構成は、大きく分けて、シリーズハイブリッドシステム及びパラレルハイブリッドシステムの 2 種類がある。シリーズハイブリッドシステムは、機関の機械的動力を一旦、電気的エネルギーに変換して、そのエネルギーと蓄電池の電気的エネルギーとを組み合わせて主電動機を駆動する。一方、パラレルハイブリッドシステムは、機関の機械的動力を直接に車輪に伝えるとともに、それと平行して蓄電池の電気的エネルギーで駆動した電動機の動力を車輪に伝えることが可能な方式であるが、機関と電動機との出力を機械的に混合させるため、機器構成が複雑になる。そのため、JR 東日本では、機械系の駆動装置を簡素化できて、電車の技術を最大限に活用できるシリーズハイブリッドシステムを採用している。

    システム構成は、発電用の発電装置(機関及び発電機)、エネルギーを蓄積するための主回路用蓄電池、主変換装置及び車輪駆動用の主電動機から構成される。主回路用蓄電池は、出力密度が高く、軽量高出力とすることが可能なリチウムイオン蓄電池を使用している。蓄電池ユニットの電圧は、電池の耐電圧性を考慮して 680 V としている。また、蓄電池に不具合が生じた場合の冗長性を考慮して 2 群構成としている。

    力行時は、機関の作動状態及び蓄電池の充放電を最適に制御して、発電装置からの電力と蓄電池からの電力とを用いて、主電動機を主変換装置のインバータ回路で駆動する。また、ブレーキ時には、回生電力を蓄電池に蓄えて、回生電力を有効に利用することでエネルギー利用効率向上を図るシステムとなっている。なお、機関の停止及び起動

    は、車両の走行状態、蓄電池の充電状態などによって自動的に行われるため、乗務員の操作を必要としない。

    車両の加減速の状態、走行速度、蓄電池の充電状態などによって、具体的なシステムの動作は異なるが、代表的な車両状態におけるシステムの動作は、次の通りである。

    a)  駅発車時:駅での騒音低減のため、駅発車時は蓄電池のエネルギーのみでスタートする。速度が 15 ㎞/h 程度に達してからは、次の力行時の状態に移行する。

    b)  力行時:発電装置からの電力と蓄電池からの電力とを用いて走行する。また、走行負荷に応じて、蓄電池の充放電を行う。

    c)  上り坂走行時:発電装置の機関は、最高出力で稼動する。

    d)  下り坂走行時:回生ブレーキによって得られた電力を蓄電池に充電するとともに、機関の排気ブレーキを用いて速度制御を行う。

    e)  ブレーキ時:発電装置の機関を停止して、回生ブレーキによって得られた電力を蓄電池に充電する。

    f)  駅停車時:発電装置の機関を停止して、蓄電池からサービス用エネルギーを供給する。

    8.2 発電装置発電機は、機関に直結されており、機関の駆動によって

    車両運行に必要な発電を行う。発電機の保全周期は、機関のメンテナンス周期に合わせることとしているが、非解体走行期間の延長を目的に、軸受部は中間給油可能な構造としている。また、軸受は、絶縁軸受を採用している。

    機関は、キハ E120 系及びキハ 130 系から採用しているDMF15HZ を基本として開発した DMF15HZB-G である。DMF15HZB-G は、4 サイクル直列 6 気筒横形直接噴射式のディーゼル機関で、ターボチャージャー及びアフタークーラを備えている。スタータがないこと、過給機が水冷式であることが DMF15HZ との相違点である。定格出力 /回転数は、331 kW/2 100 min–1 である。この機関は、燃料噴射系に高圧電子制御システム(コモンレール・高圧フュエルサプライポンプ)を採用することで、クリーンな排出ガス性能と低騒音とを実現した次世代の環境にやさしい機関である。また、抑速ブレーキとして、排気ブレーキを使用している。8.3 主変換装置

    主変換装置は、HB-E300 系“青池”編成では CI20 を搭載していたが、HB-E300 系“橅”編成は、HB-E210 系と同様に CI24 を採用した。CI24 は、主電動機 2 台を制御するインバータ、主発電機 1 台を制御するコンバータ及び補助電源装置から構成されている。インバータ、コンバータ及び補助電源装置の入力段には、それぞれ断流器を設けており、個別に制御される。

    CI24 主変換装置の特徴は、次の通りである。a)  コンバータ及びインバータの主回路のほかに、補助

    電源装置及び関連する回路も含めて一体箱に収納することで、床下占有面積の小形化を図っている。

    b)  主スイッチング素子として、安定した耐圧特性を有し、高熱疲労耐量を確保した車両用 1.7 kV 1 200 A の IGBT モジュールを採用して、信頼性の向上を図っている。

  • 2016- 9「車両技術 252 号」48

    c)  主回路電圧を定格 DC 680 V に設定したことによって、主回路方式を 2 レベルスナバレス方式とし、シンプルかつ小形・軽量なパワーユニットを実現している。また、コンバータ、インバータ及び補助電源装置の全てのパワーユニットは、共通化を図ることで、保守性の向上を図っている。

    d)  主スイッチング素子の冷却方式に、純水を冷媒としたヒートパイプによる自然空冷方式を採用しており、保守性の向上と無公害化とを図っている。

    e)  主電動機及び主発電機の制御は、全 PWM モード対応形単一制御系ベクトル制御方式を採用しており、全運転領域に渡って制御モードの切換えなしに、トルク制御の高精度化及び応答性の向上を図っている。

    f)  主回路用非常蓄電池ユニットを搭載したことで、主回路蓄電池の開放運転中に機関が停止状態となった場合でも、運転台の“エンジン非常始動”スイッチを扱うことで、この非常蓄電池からの出力で機関を始動し、コンバータ発電を確立して、通常走行を可能とする。

    g)  主回路用非常蓄電池ユニットを主変換装置の箱内に搭載したが、補助電源装置出力用トランスにリーケージトランスを採用することで、従来必要であった交流リアクトル(ACL)を省略することができたため、CI20 と同等の寸法を実現している。

    8.4 主電動機主 電 動 機 は、 定 格 出 力 95 kW、 定 格 回 転 速 度 2 350

    min–1 の開放形自己通風方式の三相かご形誘導電動機である。この主電動機は、新保全体制の 240 万 ㎞走行非解体使用を目標に中間給油可能な構造としたほか、低騒音化を目的に排気方向を下方向のみとし、軸受の電食防止を目的に絶縁軸受を採用するなどの特徴がある。8.5 主回路用蓄電池

    主回路用蓄電池は、容量 15.2 kWh のリチウムイオン蓄電池を 1 つの蓄電池箱に収めたものを屋根上に一両当たり2 個搭載している。8.6 ブレーキ装置

    ブレーキ方式は、回生・発電ブレーキ併用電気指令式空気ブレーキ(応荷重・滑走再粘着機能付き)である。その他の機能として、直通予備ブレーキ、抑速ブレーキ及び耐雪ブレーキを有している。また、各車両は、1 両に動台車と付随台車とを各 1 台ずつ取り付けた構成のため、ブレーキ制御装置は 0.5M-0.5T に対応したものとなっている。動台車の回生・発電ブレーキ力を最大限有効活用するために、動台車の必要ブレーキ力以上に、回生・発電ブレーキが作用する場合には、付随台車の必要ブレーキ力も動台車の回生・発電ブレーキで負担する。なお、ユニットとしての必要ブレーキ力に対して、回生・発電ブレーキ力の不足分は、付随台車に優先的に空気ブレーキを作用させる制御を行っている。8.7 電動空気圧縮機

    空気圧縮機は、当社にて実績を持つ往復形単動 2 段圧縮機方式を採用しており、誘導電動機にて駆動する。電動空気圧縮機のぎ装は、防振ゴムを介して車体につり下げる方式としている。

    8.8 空調装置及び暖房装置空調装置は、冷房能力 38.4 kW(33 000 kcal/h)の集中式

    クーラ AU732A を屋根上に各 1 台を搭載している。暖房装置は、腰掛の下に配したつり下げ式ヒータ、空調装置内蔵の電気ヒータ、出入台部の壁に設置したヒータなどを搭載している。8.9 戸閉め装置

    戸閉め装置は、直動空気式で各車の片側当たり 1 か所ずつに設置した。この装置には、万が一、荷物などが挟まった場合でも、側引戸が閉まった後に一旦戸閉め力を弱めて、容易に引き抜くことができる戸閉め力弱め機構を設けている。また、側引戸の開閉時には、各出入口部に設置したチャイムを鳴動させるとともに、側かもい点検ふたの下部に設置した赤色の扉開閉表示灯を点滅させるバリアフリーに対応した仕様としている。8.10 車両情報制御システム

    車両情報制御システムは、各車両に搭載されているモニタ制御装置とモニタ表示器とモニタ装置運転状況記録装置との間をシリアル伝送路で結合して、機器動作情報の収集及び授受を行い、運転士支援、車掌支援、検修支援などの機能を有している。また、乗客に対するサービス向上を図るため、前面及び側面の行先表示器、車内案内表示装置、その他のサービス機器への指令機能をもっている。

    図 10 カ行性能曲線

  • JR 東日本 HB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ「橅」編成 49

    8.11 運転保安装置運転保安装置は、E129系(本誌 250号 2015年 9月参照)

    及び HB-E210 系と同様の統合形 ATS 車上装置(Ps 形)を搭載した。この装置は ATS-P 及び ATS-Ps の機能を 1 台に集約し、さらにブレーキ出力を非常ブレーキのみとすることで、装置自体の小形化を実現したものである。

    運転台の動作表示器には、P・Ps 統合形動作表示器を採用した。この表示器は、従来の P 表示灯と Ps 表示灯、パターン速度インジケータを 1 つのユニットに集約したほか、ATS ブレーキの動作要因や装置の故障要因などを表示できる機能を追加している。8.12 車内案内表示装置

    車内案内表示装置は、16 ドット 3 色 LED 式の表示器を各車両の妻部に設置した。モニタ装置からの受信データによって、一文字当たり 64 ㎜角の大きさで現在駅、次停車駅、行先駅、各種案内文章などを表示する。8.13 行先表示器

    行先表示器は、前面に 1 か所、1 号車と 3 号車の両側面に 1 か所ずつに設置している。前面行先表示器は、16 ドットルーバ付き高輝度 3 色 LED を使用して、一文字当たり 96 ㎜角の大きさで運転路線名、列車種別及び行先駅名を表示する。側面行先表示器は、64 ㎜角の大きさで表示するほかは、前面行先表示器と同じである。8.14 放送装置及び非常通報装置

    放送・連絡・非常通報装置は、乗務員から乗客への放送(車内、車外、車内+車外)、乗務員間連絡通話、乗務員

    と客室間の非常通報通話が行える。放送の車内外の切替え機能は、速度条件(5 ㎞/h)及び車外スイッチのオン・オフによって行う。非常通話押しボタンは、各車の妻部に 1 か所及び車椅子対応洋式便所内に 1 か所ずつ設置されており、非常通話押しボタンが押されると運転台のモニタ画面に通報号車が表示され、インターフォンにて乗務員と客室間の通話が行える。

    9 台車台車は、動台車が DT75A、付随台車が TR260A であ

    る。フランジ塗油装置、セラジェット噴射装置を装備している。車輪は、動台車用が B 形波打車輪(油圧抜き穴付き)、付随台車用が N-A 形波打車輪(油圧抜き穴付き)を採用した。車輪径は、いずれも 860 ㎜である。車軸軸受は、E129 系及び HB-E210 系で使用している円すいころ軸受JT12H を採用した。歯車装置は、歯数比 7.07 であり、軸箱支持装置は、軸はり式で各台車共通構造とし、ブレーキ装置も踏面片押しブレーキで各台車共通である。

    10 おわりにHB-E300 系一般形ハイブリッド車両 リゾートしらかみ

    “橅”編成は、2016 年 7 月 16 日から営業運転を開始した。この車両が、“青森・函館デスティネーションキャンペーン”後も、多くのお客さまに秋田・青森地区にお越しいただく一助となることを期待している。

    図 11 路線図(出典:鉄道要覧)