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Jpn. J. Personality 21(2): 138-151 (2012)

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大学生における動機づけ調整方略 1),2)

梅 本 貴 豊 田 中 健 史 朗名古屋大学大学院 名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 教育発達科学研究科

本研究では大学生における動機づけ調整方略尺度を作成し,その尺度の構成概念妥当性と,動機づけ調整方略が学習の持続性と学習の取り組みに与える影響について検討した。まず大学生156名に自由記述の質問紙調査を実施し,動機づけ調整方略尺度を作成した。次に大学生272名に動機づけ調整方略尺度,CAMI (Control, Agency, and Means-Ends Interview),持続性の欠如,学習の取り組みからなる質問紙調査を実施した。探索的因子分析の結果,7つの動機づけ調整方略が明らかにされ,またCAMIとの関連を通してその尺度の一定の構成概念妥当性が確認された。そして重回帰分析を用いて,自律的調整方略,協同方略,成績重視方略が学習の持続性と学習の取り組みに与える影響について検討したところ,自律的調整方略が促進的な影響を,協同方略と成績重視方略が抑制的な影響を示した。これらの結果から,大学生における動機づけ調整方略について議論を行った。

キーワード: 動機づけ調整方略,Control, Agency, and Means-Ends Interview(CAMI),学習の持続性,学習の取り組み

問題と目的

学習を進めていくにあたって,学習内容が難しかったり,退屈であったりしてどうしてもやる気が出ないときがある。このようなやる気がでないときに,自分をいかにして動機づけるかは学習において重要な側面である。このような「やる気の調整」を学習方略の 1つと位置づけて概念化したものが,動機づけ調整方略である(Wolters, 2003)。

Wolters(1998)はこの動機づけ調整方略に注目してそのカテゴリー化を試み,大学生を対象として14の動機づけ調整方略を特定している。具体的には,ご褒美などの外的な報酬を用意する「外的報酬(Extrinsic Rewards)」,学習内容を自分の興味あることと関連づける「興味(Interest)」などである。また, Schwinger, Steinmayr, & Spinath(2009, 2012)は,ドイツの高校生,大学生を対象に,状況的興味の高揚,自己重要性の高揚,環境調整,自己報酬などの8つの動機づけ調整方略を特定している。我が国では伊藤・神藤(2003a)が,中学生を対象として8つの自己動機づけ方略 3)を明らかにしており,さらに各方略の上位概念として内発的動機づけに関連する「内発

3)本研究における動機づけ調整方略と同義のため,以降は「動機づけ調整方略」という名称で統一する。

1)本論文の一部は,日本教育心理学会第 53回総会 (2011年7月)において発表された。

2)本論文作成あたり,丁寧なご指導をいただきました中部大学人文学部の速水敏彦先生,名古屋大学大学院教育発達科学研究科の中谷素之先生に深く感謝申し上げます。また,調査にご協力頂いた学生の皆さまに感謝申し上げます。

パーソナリティ研究2012 第 21巻 第 2号 138–151 原  著

© 日本パーソナリティ心理学会 2012

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的調整」と,外発的動機づけに関連する「外発的調整」という2つの潜在因子が想定されている。そして,この研究では中学生に特有な動機づけ調整方略として,音楽を聞きながら勉強するといった「ながら方略」が示されており,動機づけ調整方略に学年差があることが示唆されている。学年差と同様に,動機づけ調整方略には文化差があると考えられる。例えば伊藤・神藤(2003a)では他者との協同を扱う「社会的方略」が確認されているが,アメリカ人の中高生を対象としたWolters(1999),中学生を対象としたWolters & Rosenthal(2000)では,他者との協同による動機づけ調整方略については扱われていない。アメリカ文化に対して日本文化では,関係志向的,相互協調的側面が強調される傾向があり(北山 , 1994),集団目標や協調的な行動に関心が高いとされている。このような文化背景から,伊藤・神藤(2003a)において,協同を重視する動機づけ調整方略が確認されたと考えられる。このように学年や文化による違いが考えられる

が,これまで日本の大学生を対象とし,動機づけ調整方略を体系的に扱った尺度はない。例えば,大学生を対象とした藤田(2010)や山田・堀・國田・中條(2009)においては,「学習内容が難しくても,自分に必要だと思いながら頑張る」「自分で自分の成果をほめる」といった動機づけの調整に関した方略が扱われており,また,日本でも訳され頻繁に使われているMotivated Strategies for Learning Questionnaire(MSLQ; Pintrich, Smith, Garcia, & McKeachie, 1993)においても,「集中できる場所で学習をする」「やっていることがつまらなくても頑張ってやる」などの動機づけの調整に関する方略の項目が見られる。しかし,これらの研究は,「動機づけ調整方略」に焦点化し,体系的に扱っているわけではない。また,「やる気の調整」という観点から,大学生の学習について考えることは,以下に示すような点から重要であると考えられる。大学生は,中

学や高校とは違い生活の自由度が高くなり,親から「勉強をしなさい」とうるさくいわれることも少なくなる。つまり,自分のやる気をうまく調整して学習に向かうことが重要なポイントとなってくる。しかし,2008年に行われた「大学生の学習・生活実態調査」によると,「自分の意思で継続的に勉強する」「卒業論文や卒業研究に積極的に取り組む」という項目に「とてもあてはまる」「まああてはまる」と答えたのは全体(4070名)の約50%であり,この調査結果から,自由度の高い大学生生活の中で継続的,積極的に学習を進める学生がいる一方,そうでない学生も少なからず存在することがわかる(Benesse教育研究開発センター,2009)。そこで,今まで体系的に検討されてこなかった

「やる気がでないときに,いかに自分のやる気を調整して学習に向かわせるのか」という観点から日本の大学生の学習過程を捉えるため,本研究では,大学生における動機づけ調整方略の測定尺度を作成する。また,学習場面における各動機づけ調整方略の機能についても検討を行う。これにより,学習改善のために,適切な方略を促す介入などにも活かすことができると考えられる。さらに本研究では伊藤・神藤(2003a)と同様に,各動機づけ調整方略の上位概念についても検討を行う。これにより各動機づけ調整方略の概念的な関係が明確になると考えられる。本研究では,各動機づけ調整方略が,学習場面

においてどのような役割を果たすのかを,学習行動(学習の持続性,学習の取り組み)との関連を通して検討する。伊藤・神藤(2003b)は,自分にご褒美を与えるような外発的動機づけに関連した方略が学習の持続性を阻害し,内容を興味のあることと関連づけたり,行きたい高校に受かった時のことを考えたりするような内発的動機づけや自律的な動機づけに関連する方略が学習の持続性を促すことを示唆している。そこで,興味や課題の価値に焦点を当てた,内発的・自律的な動機づ

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け調整方略が学習の持続性に関連すると予想される。一方,先行研究においては,学習に対して積極

的に努力し,取り組むことを示す「学習の取り組み(Behavioral Engagement)」と動機づけ調整方略との直接的な関連は検討されていない。しかし,「課題を終わらせるためにできるだけ頑張る」といった「努力」や,「努力の調整」と,課題に熟達することを考える,学習環境を調整する,下位目標を設定するなどの動機づけ調整方略との間に正の関連が示されている(Schwinger et al., 2009; Wolters, 1999)。また,動機づけ調整方略の研究ではないが,学習の取り組みと,面白いからやるといった内発的動機づけや重要だからやるといった自律的な動機づけとの間に正の関連が示されている(Skinner, Kindermann, & Furrer, 2009)。以上のことから,外的報酬に頼るなどの他律的なものではなく,学習の持続性と同様に興味や有用性に着目した,内発的・自律的な動機づけ調整方略が学習の取り組みを促すと考えられる。さて,学習方略の使用には,動機づけ要因が影

響するとされている(e.g., Pintrich & DeGroot, 1990)。動機づけ要因の中でも特に期待 4)概念は重要視されており,その1つである自己効力感と学習方略との関連が,多くの研究で検討されている(e.g., Zimmerman & Cleary, 2006)。動機づけ調整方略についても,自己効力感との関連が検討されている。例えば伊藤・神藤(2003b)は,自己効力感が内発的調整の使用を促すことを示している。このように自己効力感は動機づけ調整方略

の使用において重要な役割を持つが,これまでそれ以外の期待概念についてはほとんど扱われてこなかったという問題があり,さまざまな側面の期待概念と動機づけ調整方略との関連を検討することも重要である。これにより,学習過程をより具体的に捉えることができ,また,「この方略の使用を促すにはこの側面の期待に働きかる」などの方略使用を促す具体的な介入にもつなげていけると考えられる。そこで本研究では,期待を精緻に測定することができるCAMI(Control, Agency, and Means-Ends Interview)に注目し,動機づけ調整方略との関連を検討する。

CAMI は Skinner, Chapman, & Baltes(1988a, 1988b)によって提起された期待概念を測定する尺度であり,統制信念(Control beliefs),手段保有感(Agency beliefs),手段の認識(Means-Ends beliefs)という3つの信念から構成される(Figure 1)。統制信念は,自分が目標を達成できるかどうかに関する信念である。手段保有感は,行為者が目標達成に必要な手段をどれくらい保有しているかに関する信念であり,具体的な手段として努力,能力,運,他者の援助が挙げられている。例えば「運」についての手段保有感は運保有感であり,「自分には運があるんだ」という期待を意味する。手段の認識は,一般にどのような手段で目標が達成できるかに関する信念であり,上記の4つの手段に加えて未知の原因という手段も挙げられている。CAMIは努力や能力などの手段が想定

4)本研究で用いる「期待」と「信念」という用語の使い分けは,上淵(2008)による。すなわち,期待とは状況固有的な一時的な評価であり,信念とは長期的で固定的な表象である。なお,期待と信念は,「長期的で固有的な表象である信念に基づいて,状況固有的な一時的な評価である期待が形成される」という関係にあると考えられる。

Figure 1  統制信念,手段保有感,手段の認識の関係(Skinner et al., 1988a)

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大学生における動機づけ調整方略 141

されていることが特徴であり,精緻に期待の具体的な側面を捉えることができる。最近の研究では,CAMIにおける新たな手段について検討が行われている。例えば,従来の研究では,他者の援助という手段は具体的には「教師(の援助)」として扱われてきた(e.g., Skinner et

al., 1988a, 1988b)が,梅本(2010)は,学習場面において「教師」以外にも「友人」からの援助を受けることが考えられるとして,他者の援助を「友人(の援助)」として扱っている。さらに梅本・中西(2010)では,Anderson & Jennings(1980)の「努力と方略の弁別」の主張に基づき,新たな手段として「方略」を加え,検討を行っている。そこで,本研究においても他者の援助を「友人」として,また「方略」という手段についても扱うこととする。そしてこのCAMIとの関連を通して,動機づけ調整方略尺度の構成概念妥当性を検討する。また本研究では,CAMIの3つの信念のうち,統制信念と手段保有感に注目する。もう1つの信念である手段の認識は,「一般的に」どのような手段で目標が達成できるかという信念であるため,友人などについて尋ねることで測定される。例えば努力の認識は,「友達の成績が良いのは,がんばって勉強しているからだ」という項目で測定される。そのため,他者について尋ねる手段の認識と,自分の学習行動はそれほど関連を示さないと予想される。実際に梅本・中西(2010)においても,手段の認識と学習方略,学習の持続性,授業選択との関連はほとんど示されていない。そこで本研究では,関連がより強いと考えられる統制信念と手段保有感を扱う。なお,動機づけ調整方略とCAMIとの関連についての具体的な仮説は,本調査の結果部分にて詳細に示す。本研究では,まず予備調査から大学生を対象とした動機づけ調整方略の測定項目を作成する。次に動機づけ調整方略とCAMIの関連を通して,尺度の構成概念妥当性を検討する。さらに動機づけ

調整方略と学習の持続性,学習の取り組みとの関連を検討することで,各方略の特徴を明らかにする。

予 備 調 査

目 的

動機づけ調整方略の尺度項目を作成する。方 法

実施手続き 2010年7月下旬に,京都府内のK大学と三重県内のM大学の大学生を対象とし,156名(男子60名,女子96名)に質問紙調査を行った(平均年齢19.44, 標準偏差1.26)。学年の内訳は,1年生43名,2年生88名,3年生18名,4年生6名,科目等履修生1名であった。調査は,それぞれの大学の心理学に関連した授業において質問紙を配布し,その場で回答を求め回収する一斉配布,一斉回収方式により行われた。倫理的配慮 本研究では,以下に述べるように

調査対象者に対する倫理的配慮を行った。質問紙のフェースシートに,「回答に正解,不正解はないこと」「答えたくない質問があった場合答えてなくても良いこと」「調査内容は統計的に処理されるためプライバシーの問題はないこと」「調査用紙は責任を持って処分すること」を明記した。また,調査に協力することに同意する人には「同意します」という項目にチェックを,同意できない人には「同意しません」という項目にチェックをするように求めた。さらに,本研究は,第一著者の所属研究科における研究倫理委員会から研究実施の承諾を経た後,実施されている。調査内容

自由記述(4場面) 動機づけ調整方略について考えやすいように,Wolters(1998)を参考に,代表的だと思われるやる気が出ない4つの学習場面を具体的に設定した。想定した場面は「授業の内容が難しいためやる気が出ない」「授業の内容が退屈で面白くないためやる気がでない」「授業で出された課題が難しいためやる気が出ない」

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「授業で出された課題が退屈で面白くないためやる気が出ない」であった。それぞれの場面について,勉強を続けるためにどのようにしてやる気を出すかを自由記述で尋ねた。結 果

予備調査により,動機づけ調整方略に関連した424の記述が得られた。そこで本研究の著者2名がKJ法を参考に記述の分類を行い,39の質問項目を作成した。その39項目について心理学を専攻する大学院生4名が各項目の表現をそれぞれ確認したところ特に問題はなかったため,動機づけ調整方略の測定にこの39項目を用いることとした。

本 調 査

目 的

大学生用の動機づけ調整方略尺度を作成する。そしてCAMIとの関連を通して,その尺度の構成概念妥当性を検討する。また動機づけ調整方略と学習の持続性,学習の取り組みとの関連を検討する。方 法

実施手続き 2010年10月下旬~11月上旬に,京都府内のK大学の大学生を対象とし,283名に質問紙調査を行った。そのうち,データに不備のなかった272名(男子68名,女子202名,未記入2名)を分析対象とした(平均年齢20.51,標準偏差 1.45)。学年の内訳は,1年生 48名,2年生50名,3年生136名,4年生33名,科目等履修生1名,未記入4名であった。調査手続きは予備調査と同様であった。倫理的配慮 予備調査と同様に,調査対象者に

対する倫理的配慮を行った。調査内容

動機づけ調整方略尺度 予備調査により作成された39項目を用いた。なお,教示文は,「あなたの学校や家での普段の学習について教えてください。学習に対してやる気がでないとき,どのよう

にしてやる気をだしていますか。それぞれの項目について,4つの答えの中から選んで,あてはまる番号に丸印をつけてください」というものであった。CAMI 梅本(2010),梅本・中西(2010)の

CAMIを修正して用いた。特に方略保有感に関しては,より厳密に「行為者と手段との間」(Figure 1)について測定できるように,項目の修正を行った。例えば従来の項目を,「私は勉強のやり方を工夫することができる」などに修正することで,「行為者(自分)と手段(方略)との間」における期待を測定できるようにした。修正された項目はTable 2の項目5,11,17である。全体としては統制信念4項目,手段保有感15項目であった。持続性の欠如 学習の持続性を測定するため,下山(1985)の,学習意欲検査(GAMI)における「持続性の欠如」の5項目を用いた。学習の取り組み 学習の取り組みを測定するため,Skinner et al.(2009)の“Behavioral Engage-ment” を,原著者の許可を得た上で翻訳して用いた。それらの項目は「私は学校で頑張って勉強している」「私は集中して授業を受けている」「私はできるだけ頑張って学校の課題に取り組んでいる」「授業中は,先生の話を注意深く聞いている」の4項目であった 5)。以上すべての尺度における項目の回答形式は,

「1  全くあてはまらない」「2 あてはまらない」「3 あてはまる」「4 よくあてはまる」の4件法であった。結 果

尺度の構成 動機づけ調整方略尺度の39項目について,まず各項目の得点分布を検討したとこ

5) Skinner et al. (2009) における “Behavioral Engagement” は,本来5項目から構成されており,本研究で用いた4項目に加えて「私は授業中,議論に参加している」という質問項目も含まれた。しかし,日本の大学の授業は講義型が多いと考えられるため,この項目は調査に用いなかった。

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大学生における動機づけ調整方略 143

ろ,いずれの項目についても極端な回答の偏りはみられなかった。次に,39項目について探索的因子分析(重みなし最小二乗法/プロマックス回転)を行った。解釈可能性の観点から7因子解を採用し,すべての因子に .35以下の負荷や,複数の因子に .35以上の負荷を示した項目を除外しながら,同じ手続で分析を繰り返していった。計14項目を除外したところ,Table 1に示すような因子負荷量となった。第1因子には,「勉強の内容が面白くなるように工夫する」などの項目が負荷を示し,興味を高めてやる気を出す方略であることから「興味高揚方略」とした。第2因子には,「勉強の内容が将来の役に立つと考える」などの項目が負荷を示し,学習を価値づけてやる気を出す方略であることから「価値づけ方略」とした。第3因子には,「勉強をやり遂げた時の達成感を考える」などの項目が負荷を示し,勉強後の達成感を考えてやる気を出す方略であることから「達成想像方略」とした。第4因子には,「友だちと一緒に勉強する」などの項目が負荷を示し,友人との協同によってやる気を出す方略であることから「協同方略」とした。第5因子には,「単位を取るためだと考える」などの項目が負荷を示し,成績を意識してやる気を出す方略であることから「成績重視方略」とした。第6因子には,「自分の好きな場所で勉強をする」などの項目が負荷を示し,周りの環境を調整してやる気を出す方略であることから「環境調整方略」とした。第7因子には,「今やっている勉強は簡単だと考える」などの項目が負荷を示し,自分の認知を積極的に変容させてやる気を出す方略であることから「認知変容方略」とした。そして,各因子について下位尺度ごとの点数を足し合わせて項目数で割った値を下位尺度得点とした。次に,尺度の信頼性(内的整合性)の検討のため,下位尺度ごとにα係数を算出した。その結果,α係数の値は .57~.83であった(Table 1)。これにより,動機づけ調整方略尺度が一定の信頼性(内

的整合性)を有していることが示された 6)。CAMIの統制信念は,全4項目についてα係数

を算出した。その結果,α=.71となったため,それら4項目を用いて尺度構成を行った。

CAMIの手段保有感は,それぞれの因子を想定した15項目について,構造方程式モデリングによる確認的因子分析を行った。その結果,CFI=.89,RMSEA=.08となったため,このモデルを採用した(Table 2)。そして,動機づけ調整方略尺度と同様の手続きで下位尺度得点を作成した。手段保有感の各下位尺度におけるα係数は,Table 2にあわせて示す。手段保有感は,統制信念や他の各手段保有感と関連することが示されており(e.g., Skinner et al., 1988a),本研究の方略保有感についても,これと一貫する結果が見られたため,修正された項目は妥当であると判断した。持続性の欠如は,全5項目についてα係数を算

出した。その結果,α=.82となったため,それら5項目を用いて尺度構成を行った。学習の取り組みは,全4項目についてα係数を

算出した。その結果,α=.81となったため,それら4項目を用いて尺度構成を行った。以上の各下位尺度の平均値,標準偏差はTable

4に示した。二次因子分析 各動機づけ調整方略間には多くの因子間相関,下位尺度間相関(Table 1, 4)が示されていることから,伊藤・神藤(2003a, 2003b)と同様に,各動機づけ調整方略に上位概

6)環境調整方略,認知変容方略については比較的α係数の値が低かった。これは伊藤・神藤 (2003a)の動機 づ け 調 整 方 略(α=.50~.60)や,Pokay & Blumenfeld(1990)の学習方略(α=.55~.75)においても同様の傾向がみられている。Pokay & Blumenfeld(1990)はこの理由として,学習方略が特定の状況に依存して用いられるということを挙げ,α係数の低い学習方略も含めて分析を進めている。本研究においてもこの考えを採用し,すべての動機づけ調整方略を分析に用いた。

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144 パーソナリティ研究 第 21巻 第 2号

念を想定することは妥当であると判断した。そこで,7つの動機づけ調整方略の下位尺度得点を用いて探索的因子分析(重みなし最小二乗法/プロマックス回転)を行った。ここでは固有値1以上

という基準から 2因子解を採用した。結果をTable 3に示す。第1因子は5つの動機づけ調整方略からなり,報酬などに頼らない自律的な方略であるとして「自律的調整方略」とした。一方,第

Table 1 動機づけ調整方略における探索的因子分析結果および各項目の平均値と標準偏差(n=250)

Mean SD F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 共通性

〈興味高揚方略〉 α=.7835 勉強の内容が面白くなるように工夫する 2.46 .69 .82 -.13 .08 .06 .02 .00 .11 .7322 勉強内容で面白そうな部分を探してみる 2.64 .73 .67 .04 .08 -.13 .04 .00 -.06 .4630 身近な話題に置き換えて考えてみる 2.42 .71 .65 .05 -.04 .00 .02 -.22 .16 .4713 自分の興味があることと関連させる 2.70 .77 .47 .13 -.03 -.01 -.12 .20 .12 .5226 絵や図などを入れてノートの書き方を工夫する 2.56 .84 .45 -.07 .08 .10 -.03 .01 .02 .25 1 興味のある分野の勉強を合間に挟む 2.80 .76 .37 .26 -.21 -.08 -.02 .22 -.10 .29〈価値づけ方略〉 α=.72 9 頑張って勉強している人を見る 3.08 .75 .17 .84 -.07 -.04 -.08 -.10 -.26 .5019 勉強の内容が将来の役に立つと考える 2.85 .77 .13 .57 .06 .05 .09 -.03 .11 .5811 成績を良くするためだと考える 2.74 .74 -.14 .51 -.04 .03 .25 .02 .06 .3410 早く勉強を終わらせてしまった方が楽だと考える 2.84 .72 -.07 .48 .06 -.01 .12 .06 -.12 .2439 他の人に負けたくないと考える 2.93 .80 -.02 .42 -.02 .01 .06 .06 .20 .34〈達成想像方略〉 α=.80

37 勉強が終わった後のことを考える 2.76 .76 -.03 -.07 .89 -.05 .05 .08 -.08 .7238 勉強をやり遂げた時の達成感を考える 2.77 .76 .10 .03 .75 -.03 .00 -.02 -.05 .6118 勉強をやり遂げた自分を想像する 2.52 .79 .06 .17 .53 -.02 -.08 -.09 .22 .57〈協同方略〉 α=.83

36 友だちと協力しながら勉強する 2.26 .77 .03 .07 .04 .92 -.05 -.05 -.09 .8624 友だちと一緒に勉強する 2.13 .82 -.02 -.05 -.13 .80 .04 .01 -.02 .62〈成績重視方略〉 α=.76

33 単位を取るためだと考える 2.74 .76 -.01 .03 .00 -.04 .89 -.05 .09 .8029 勉強をしないと単位が取れないと考える 2.86 .71 .03 .18 .02 .04 .69 .05 .03 .59〈環境調整方略〉 α=.59

28 自分の好きな場所で勉強をする 3.09 .69 -.12 -.01 .07 -.08 .00 .73 .04 .53 5 部屋を勉強に集中できる環境にする 2.89 .73 -.02 .05 -.18 -.04 -.10 .46 .21 .2725 勉強の合間に気分転換をする 3.18 .61 .10 -.11 .17 .07 .13 .43 -.25 .2927 分からない部分を先生や友だちなどに聞いて 2.97 .66 .18 .03 .11 .10 -.02 .37 .00 .33

勉強内容を理解する〈認知変容方略〉 α=.57 4 今やっている勉強は簡単だと考える 2.04 .64 .24 -.26 -.15 .01 .16 .07 .67 .42 8 今の勉強よりも将来はもっと大変なことがあると 2.30 .79 .00 .09 .07 -.14 -.02 -.05 .49 .31

自分に言い聞かせる12 この勉強は自分に必要なことだと言い聞かせる 2.83 .71 -.15 .32 .19 .12 -.11 .12 .38 .58

寄与 3.86 4.34 3.77 2.07 1.77 2.66 3.13

因子間相関 F2 .47F3 .38 .58F4 .19 .23 .25F5 -.11 .11 .22 .26F6 .37 .45 .41 .17 .04F7 .44 .61 .41 .15 .02 .28

注.太字は因子負荷量が .35以上。

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大学生における動機づけ調整方略 145

2因子には成績重視方略のみが高い負荷を示した。また協同方略はどちらの因子にも高い負荷を示さなかった。相関分析においてもこれら2つの方略は,他の方略とそれほど高い関連を示してい

ない(Table 4)。そこで,この2つの方略はそれぞれ特有な動機づけ調整方略であると判断し,上位概念を設けず以降の分析に用いることとした。動機づけ調整方略とCAMIとの関連 動機づけ調整方略とCAMIとの関連について,仮説を以下に述べる。これまでCAMIは,知能,認知的方略,メタ認知的方略,学習の持続性,授業選択,学業成績などとの関連については扱われているが(Chapman, Skinner, & Baltes, 1990; Oettingen, Little, Lindenberger, & Baltes, 1994; 鈴木,1999;梅本,2010;梅本・中西,2010),動機づけ調整方略との関連については検討されていない。このように,動機づけ調整方略との関係を直接に扱ったものはないが,熊谷・山内(1999)は動機づけの調整を含む自己調整方略(Pintrich & DeGroot, 1990)に対して,統制信念と努力保有感が正の影響を示すことを見出している。また,統制信念や

Table 2 手段保有感における確認的因子分析結果および各下位尺度のα係数(n=251)

F1 F2 F3 F4 F5

〈努力保有感〉 α=.71 8 やる気になったら,私は学校の勉強で一生懸命頑張れる .72 2 私は授業中,頑張って勉強することができる .6914 その気になれば先生の説明を頑張って聞くことができる .59〈能力保有感〉 α=.69 9 私は頭がいい方なので,特に頑張らなくても学校でよくできる .80 3 特に頑張らなくても,授業の内容はすぐ理解できる .6615 私は学校の勉強ではよくできる方に入る .52〈運保有感〉 α=.72

10 学校の勉強では,私は運がよく,ついていることが多いと思う .79 4 私は,運よくテストで良い点が取れることが多い .7116 学校で,私は運よく問題に答えられることが多い .59〈方略保有感〉 α=.77 5 私は勉強のやり方を工夫することができる .7917 私はやり方を工夫して勉強に取り組むことができる .7711 私はいろいろなやり方で勉強できる .65〈友人保有感〉 α=.68

12 私には,勉強について相談ができる友だちがいる .8618 私には,勉強について協力してくれる友だちがいる .66 6 私は友だちから,勉強についてアドバイスを受けることができる .48

因子間相関 F2 .20F3 .19 .69F4 .51 .44 .30F5 .26 -.12 .07 .14

Table 3  動機づけ調整方略における二次因子分析結果(n=250)

F1 F2 共通性

興味高揚方略 .71 -.16 .47価値づけ方略 .65 -.19 .53認知変容方略 .65 .02 .42達成想像方略 .64 .12 .46環境調整方略 .51 -.02 .26成績重視方略 -.06 .99 .95協同方略 .11 .20 .07

寄与 2.14 1.29

因子間相関 .28

注.太字は因子負荷量が .50以上。

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146 パーソナリティ研究 第 21巻 第 2号

努力保有感の高さが,コントロール感を支えるとされており(Skinner, 1995),このコントロール感は,自律的な動機づけの中心的な構成要素であるコンピテンスに対応するとされている(Connell & Wellborn, 1991)。そこで本研究においては,自律的調整方略に区分される各動機づけ調整方略と,統制信念,努力保有感との間に正の関連が予想される。また梅本・中西(2010)は,方略保有感が特にメタ認知的/認知的方略に影響することを示しているため,動機づけ調整方略の中でもより認知的であると考えられる,興味高揚方略,価値づけ方略,認知変容方略と方略保有感との正の関連が予想される。さらに運保有感は,学習方略と無相関(鈴木,1999),もしくは負の関連(梅本・中西 , 2010)を示すことが明らかにされており,熊谷・山内(1999)においても,動機づけの調整を含む自己調整方略との関連が見られていない。そこで,いずれの動機づけ調整方略も,運保有感との正の関連は見られないと予想される。そして,他者との協同を重視する協同方略

は,友人保有感との正の関連が予想される。以上の仮説を検討するため,各変数間における相関係数を算出した(Table 4)。その結果,予想された関連が見られた。例えば,自律的調整方略に区分される各方略と統制信念,努力保有感との間に正の相関が見られ,また興味高揚方略,価値づけ方略,認知変容方略などの認知的な動機づけ調整方略と,方略保有感との間に正の相関が見られた。一方,いずれの動機づけ調整方略も,運保有感との関連が見られなかった。また協同方略は,唯一友人保有感との正の相関を示した。以上の結果から,動機づけ調整方略尺度の一定の構成概念妥当性が確認された。動機づけ調整方略と持続性の欠如,学習の取り

組みとの関連 動機づけ調整方略と持続性の欠如との関連を検討したところ,認知変容方略以外は相関が示されなかった(Table 4)。さらに,動機づけ調整方略と学習の取り組みとの関連を検討したところ,多くの正の相関が示されたが,協同方略,成績重視方略について相関が見られなかっ

Table 4  動機づけ調整方略,CAMI,持続性の欠如,学習の取り

Mean SD 1 2 3 4 5

動機づけ調整方略 1 興味高揚方略 2.60 .52 2 価値づけ方略 2.89 .52  .42*** 3 達成想像方略 2.67 .65  .42***  .50*** 4 協同方略 2.21 .74  .11  .17**  .10 5 成績重視方略 2.79 .66  .02  .31***  .26***  .22*** 6 環境調整方略 3.03 .46  .38***  .34***  .36***  .10  .11 7 認知変容方略 2.40 .53  .45***  .49***  .44***  .08  .15CAMI 8 統制信念 2.50 .49  .25***  .24***  .13 -.09 -.03 9 努力保有感 3.09 .48  .23***  .36***  .28*** -.09  .0010 能力保有感 2.06 .51  .15  .02 -.03 -.02 -.1511 運保有感 2.26 .54  .08 -.09 -.09  .00 -.0812 方略保有感 2.54 .58  .33***  .26***  .19** -.09 -.1113 友人保有感 2.81 .54  .28***  .28***  .15  .30***  .15学習行動14 持続性の欠如 2.97 .63 -.13 -.07 -.06  .14  .1615 学習の取り組み 2.73 .55  .25***  .31***  .20** -.13  .05

注.欠損値のあるデータを除いたため相関分析に関してはn=246~267であった。**p<.01, ***p< .001

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大学生における動機づけ調整方略 147

た。次に,動機づけ調整方略が,学習の持続性と学

習の取り組みに影響を与えるという因果関係を想定し,重回帰分析を用いて検討を行った。その際,協同方略と成績重視方略については下位尺度得点をそのまま用いて,またその他の5つの動機づけ調整方略については,二次因子分析の結果から,それぞれ5つの方略の下位尺度得点を平均し,「自律的調整方略」という下位尺度を新たに構成した(Mean=2.72, SD=.39)。この自律的調整方略と各変数との相関を検討したところ,協同方略 (r=.15, p<.05),成績重視方略(r=.24, p<.001),学習の取り組み(r=.37, p<.001)との正の相関が,持続性の欠如(r=-.16, p<.05)との負の相関が示された。そして,自律的調整方略,協同方略,成績重視方略を独立変数,持続性の欠如と学習の取り組みを従属変数とした重回帰分析を行った(Table 5)。その結果,自律的調整方略は,持続性の欠如に負の,学習の取り組みに正の影響を示した。一方,協同方略は,持続性の欠如に正の

影響を,学習の取り組みに負の影響を示し,成績重視方略は,持続性の欠如に正の影響を示した。

考  察

大学生における動機づけ調整方略

大学生の対象とした本研究において,興味高揚方略,価値づけ方略,達成想像方略,協同方略,成績重視方略,環境調整方略,認知変容方略という7つの動機づけ調整方略が確認された。興味高揚方略,価値づけ方略,協同方略,成績重視方略,

Table 5  動機づけ調整方略を独立変数,持続性の欠如と学習の取り組みを従属変数とした重回帰分析結果

持続性の欠如 学習の取り組み

自律的調整方略 -.21***  .39***協同方略  .15* -.18**成績重視方略  .16*  .00

自由度調整済R2  .07***  .16***n 246 250

*p<.05, **p<.01, ***p<.001

組みの平均値と標準偏差および各変数間における相関分析結果

6 7 8 9 10 11 12 13 14

 .29***

 .34***  .19** .41***  .30***  .40*** .14  .02  .34***  .20**-.03 -.02  .24***  .17**  .50*** .32***  .27***  .44***  .38***  .38***  .27*** .33***  .19**  .07  .31***  .04  .08  .20**

-.10 -.20** -.35*** -.26*** -.20** -.20** -.42*** -.03 .41***  .21**  .36***  .54***  .23***  .07  .31***  .15 -.32***

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148 パーソナリティ研究 第 21巻 第 2号

環境調整方略,認知変容方略については,先行研究(伊藤・神藤, 2003a; Schwinger et al., 2009; Wolters, 1998; Wolters & Rosenthal, 2000)においてほぼ同様の方略が示されている。一方,達成想像方略は,本研究により明らかにされた方略である。達成想像方略は,「勉強後のご褒美」について扱う外的報酬(Wolters, 1998)や報酬方略(伊藤・神藤 , 2003a)と同様に「学習後」に関連したものであるが,「達成感」に焦点を当てている点が特徴である。このように先行研究とは異なる特徴的な動機づけ調整方略が示され,本研究により作成された動機づけ調整方略尺度の独自性が確認された。また協同方略は,伊藤・神藤(2003a)についてもほぼ対応する社会的方略が確認されているが,一方でアメリカ人の中高生を対象としたWolters(1999),Wolters & Rosenthal(2000)や,ドイツ人の高校生,大学生を対象としたSchwinger et al.(2009, 2012)については確認されていない。他の国についても調査が必要ではあるが,協同を通した動機づけ調整方略は日本に特徴的である可能性が示唆された。さらに本研究では,動機づけ調整方略間に多くの相関が示されたことから上位概念を想定し,各方略間の関係を検討した。二次因子分析の結果「自律的調整方略」という因子が得られた。これはやる気を出すために賞罰などに頼らない,自律的な動機づけ調整方略である。一方,協同方略と成績重視方略については上位概念を想定せず,それぞれ特有の方略と判断した。このような結果から,大学生における各動機づけ調整方略間の関係が明らかとなった。動機づけ調整方略とCAMIとの関連

CAMIとの関連を通して,動機づけ調整方略尺度の一定の構成概念妥当性が確認された。まず,自律的調整方略に区分される各動機づけ調整方略と統制信念,努力保有感との関連が示され,先行

研究から予想される結果となった。また,興味高揚方略や価値づけ方略などの認知面に関連した方略と方略保有感との関連が示され,梅本・中西(2010)と整合する結果となった。先行研究において,自分は成功できる(統制信念),努力ができる(努力保有感),方略を用いることができる(方略保有感)という期待が高いと,さまざまな側面のメタ認知的/認知的学習方略が使用されることが示唆されている(e.g., 鈴木,1999;梅本・中西,2010)。今回の結果からは因果関係は特定できないが,上述したような期待が高いと認知的な学習方略を用いるというだけでなく,やる気が出ないときでも多くの動機づけ調整方略を用いて,積極的に学習を行うことができると考えられる。また,いずれの動機づけ調整方略も,運保有感との関連が見られなかったが,これは鈴木(1999)の結果に整合するものであった。自分には運があるという期待が高いと「ついているから大丈夫だ」と思ってしまい,動機づけ調整方略の積極的な使用には結びつかないのであろう。他者について扱う協同方略は,予想されたように友人保有感との関連を示した。協同方略は,唯一友人保有感との関連を示しており,勉強について助けてくれる友人がいるという期待と,やる気が出ないときに他者と協同する方略は関連が深いと考えられる。上述したような結果から,動機づけ調整方略尺度の一定の構成概念妥当性が確認された。そして動機づけの重要な要素である期待を精緻に扱うCAMIとの関連を検討することで,学習方略と動機づけとの関連に新たな示唆を与えることができたといえる。動機づけ調整方略と学習の持続性,学習の取り組

みとの関連

重回帰分析を用いて,動機づけ調整方略が学習の持続性,学習の取り組みに与える影響について検討した。その際,二次因子分析の結果から,自

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大学生における動機づけ調整方略 149

律的調整方略の下位尺度を構成して分析を行った。その結果,自律的調整方略は,両者に対して有用であることが示された。やる気が出ないときに,例えば達成感を意識したり,学習内容についての興味を高めたりしてやる気を出そうとするような自律的な動機づけ調整方略を用いることで,学習が長く続くだけでなく,学習の取り組みも促されると考えられる。一方,協同方略は,学習の持続性と学習の取り組みに対してネガティブな影響を示した。中学生を対象にした伊藤・神藤(2003a)においては協同を扱う社会的方略の有用性が示されているが,大学生を対象とした本研究では協同方略が学習を阻害する可能性が示唆された。例えば大学生においては,やる気が出ないときに友人と一緒に勉強をしても,おしゃべりなど勉強以外のことに興味が向いてしまい,学習が進まず,また学習にも取り組めなくなってしまうのだろう。そして,成績重視方略が,学習の持続性にネガティブな影響を与えることが示唆された。成績を意識してやる気を出そうとしても,学習が続かないと考えられる。本研究では,新たな大学生用の動機づけ調整方略尺度を作成し,検討を行った。その結果,大学生に特有の新たな動機づけ調整方略と,その方略が学習行動(学習の持続性,学習の取り組み)に与える特徴的な影響が見いだされた。中学生や高校生に比べて,特に生活の自由度の大きい大学生は,学習内容が難しかったりつまらなかったりしてやる気が出ないとき,いかに自分のやる気を調整して学習に向かわせるのかという点が重要になる。本研究において,動機づけ調整方略という視点から,大学生の学習過程の新たな一側面が明らかにされたと考えられる。今後の課題

本研究では,大学生用の動機づけ調整学習方略尺度を作成したが,本調査における対象人数はそれほど多くなく,1つの大学での調査になっているため,その結果の一般化には慎重になるべきで

ある。そのため,さまざまな大学を対象として,研究を積み重ねて行くことが望まれる。また,Wolters & Rosenthal(2000)は,自己効力感以外にも達成目標などの動機づけ要因と,動機づけ調整方略との関連を検討しており,今後はこれらの動機づけ要因と本研究で得られた動機づけ調整方略との関連を検討していくことが重要である。また本研究で扱った学習の持続性や学習の取り組み以外の変数との関連を通して,学習場面における各動機づけ調整方略の特徴を検討していくことも必要であろう。

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150 パーソナリティ研究 第 21巻 第 2号

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―2011.2.4受稿,2012.7.10受理―

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大学生における動機づけ調整方略 151

Motivational Regulation Strategies in Undergraduates

Takatoyo Umemoto and Kenshiro TanakaGraduate School of Education and Human Development, Nagoya University

The Japanese Journal of Personality 2012, Vol. 21 No. 2, 138–151

�is study developed a motivational regulation strategy scale, and examined its construct validity and the e�ects of motivational regulation strategies on persistence in learning and behavioral engagement. First, a self-report questionnaire with open-ended questions was administered to 156 undergraduates. �e �ndings were used to develop a motivational regulation strategy scale. Next, this self-report scale was administered to 272 undergraduates. An exploratory factor analysis indicated a seven-factor structure of motivational regulation strategies. �e relationships between motivational regulation strategies and learning beliefs, measured by the Control, Agency, and Means-Ends Interview (CAMI), supported the construct validity of the new scale. �e results of multiple regression analysis indicated that an autonomy regulation strategy positively in�uenced persistence in learning and behavioral engagement, and that cooperation and performance strategies negatively in�uenced persistence in learning and behavioral engagement. �e implications of motivational regulation strategies for undergraduates are discussed.

Key words: motivational regulation strategy, Control, Agency, and Means-Ends Interview (CAMI), persistence in leaning, behavioral engagement