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Instructions for use Title 先生-園児関係から見た遊びと場の創造に関する研究 -札幌市の市立幼稚園をケース・スタディーとして- Author(s) 吉田, 祥子; 森, 傑; 奥, 俊信 Citation こども環境学研究, 1(2), 106-111 Issue Date 2005-12 Doc URL http://hdl.handle.net/2115/15813 Type article (author version) File Information こども環境1-2.pdf Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

Instructions for use...-CASE STUDY OF MUNICIPAL KINDERGARTEN IN SAPPORO- 吉田 祥子,森 傑,奥 俊信 Shoko YOSHIDA, Suguru MORI, Toshinobu OKU For young children, it is very important

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Title 先生-園児関係から見た遊びと場の創造に関する研究 -札幌市の市立幼稚園をケース・スタディーとして-

Author(s) 吉田, 祥子; 森, 傑; 奥, 俊信

Citation こども環境学研究, 1(2), 106-111

Issue Date 2005-12

Doc URL http://hdl.handle.net/2115/15813

Type article (author version)

File Information こども環境1-2.pdf

Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP

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1 はじめに

 本論は、幼稚園における様々な遊びの中に見られる先生と

園児の相互行為をエスノメソドロジー注1) の観点から詳細に

記述することを通じて、先生と園児の協働注2) による場の創

造注3) が、いかに遊びの成立と密接に結びついているのかを

明らかにすることを目的とする。

 幼児にとって、家庭とは異なる生活環境かつ初めての社会

的環境である幼稚園や保育所における遊びは、幼児が他者と

協調し合いながら自己を形成し社会性を獲得していく上で非

常に重要とされる。園児の社会性獲得に関しては、佐藤将之

らが遊び場面における園児の社会性獲得と物理的環境の相互

関係について考察し、保育園・幼稚園の担う役割を明らかに

するための基礎的研究に取り組んでいる 1)。

 一方、本研究の研究アプローチであるエスノメソドロジー

に関しては、森傑が住環境デザインに関する一連の研究を通

し、エスノメソドロジーをエスノメソッド(ethnomethod)

の分析が主題となる理論的立場として理解することの重要性

を論じている 2)。

 本論ではこれらの既往研究を踏まえ、札幌市の市

立幼稚園における入園初期の園内活動を対象とした

ケース・スタディを通して、遊びを成立させている先

生・園児の様々な「やり方」を、先生・園児の遊びの

エスノメソッドとして捉えることで、先生 - 園児関係

から見た遊びと場の創造に関する分析と考察を試みる。

2 研究方法

2ー1. 調査方法 

 札幌市の市立幼稚園(図 1)を対象として 2003 年 5月 22

日から 6月 27 日の 26 日間、園児の登園時間から降園時間

までをビデオ撮影による調査を行った。社会性獲得の初段階

である 3歳児を対象とし、園児と先生の会話・空間活用の場

面を重点的に追跡調査する可動カメラと、園児や先生の出入

りを把握するための固定カメラを保育室に設置し、観察を行

った。

先生 -園児関係から見た遊びと場の創造に関する研究 -札幌市の市立幼稚園をケース・スタディーとして -

PLAY AND PLACES IN TEACHER AND CHILDREN INTERACTION -CASE STUDY OF MUNICIPAL KINDERGARTEN IN SAPPORO-

吉田 祥子 , 森 傑 , 奥 俊信Shoko YOSHIDA, Suguru MORI, Toshinobu OKU

For young children, it is very important to play in the kindergarten and the nursery school which living environment differs from home environment, and new social environment where children keep acquiring sociality.In this study, the various mutual behavior of teacher and children,who are observed playing in the kindergarten, is described in detail from the viewpoint of ethnomethodology. This study aims to clarify how playing places are created by cooperation of teacher and children. And how their activities are closely connected with the formation of play. As a result, the teacher uses different ethnomethods of play and the combination of them in the same play in the different case of playng places. And the teacher uses same ethnomethods of play and the combination og them in the different play in the same case of playng places. It shows that ethnomethods of play are always used in connection with space. In addition, play is not to be run format by the type of play prepared beforehand, it is expanded flexibly by ethnomethods based on play is not prepared for in advance as a matter of form.

* 北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 修士課程                        Graduate Student, Graduate School of Engneering, Hokkaido Universsity** 北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 助手・博 (工 )   �������������������������������       ����� Instructor, Graduate School of Engineering, Hokkaido University, Ph.D.in. Eng. *** 北海道大学大学院工学研究科都市環境工学専攻 教授・工博   �����������������������������������������������������Professor., Graduate School of Engineering, Hokkaido University, Dr.Eng.     

ホール

昇降口

ステージ

保育室

保育室便所

保育室

図3ー2、A幼稚園配置図兼一階平面図

水遊び場

図1 幼稚園平面図兼配置図(1:1,500)及び主な屋内の遊び場

図書スペース

保育室

(3歳児)

水遊び場

ジャングルジム

ログハウス

鉄棒

滑り台

ブランコ

花壇

滑り台

ステージ

ホール

保育室(3歳児)

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2ー2. 調査対象の概要

 調査対象である市立幼稚園では、年齢別の時間割りを極力

避けたカリキュラムを実施しており、お弁当とおやつの時間

を除いた朝 9時の登園から降園直前に帰る準備をするまで、

子供達がクラス単位を越えて自由に好きな場所で好きな遊び

をすることができる時間を多く設けている。園側は園児達の

自由な活動を促す環境を子ども達に与え、補助するという姿

勢を取っている。ある一週間の活動の概要を例として以下に

示す(表 1)。

 しかし市立幼稚園の 3歳児に関しては、園児間の交流は少

なく、年齢の異なる園児と遊ぶこともほとんどなかった。ま

た、園児達は興味のある遊び場か先生の周りにいる状況が多

く見られた。3歳児クラスは 1クラスだけであり、園児が 20

人、先生が 2人である。1人が担任として全体を見ていく立

場をとっており、もう一人の先生は副担任として個別の対応

が必要な園児を担当している。したがって、遊びの発生は担

任の先生が中心となった遊びの発生が主になっている。 

2ー3. 分析方法

 遊びとそれに対応する空間での先生による遊びの進め方

の工夫、それに呼応する園児の発話・行為に着目し、それら

が顕著に表れている場面を選び出した。また遊びは、先生の

引用    ��次の行為・場を連続的に移行するため、その前の発言・行為を引用すること。

行為の提示 ��遊びを発生・移行させる際、次の行為を明確にするため発話により行為を提示すること。�場の提案  ��遊びを発生・移行させる際、次の行為が行われる場を明確にし、移動をスムーズにするために      ��発話・ジェスチャーによって場を提案すること。

行為の提案 ��遊びの発生・移行のきっかけとして、次の行為を提案すること。       園児に遊びの誘いを掛ける場合などに用る。

誘導    ��園児にある行為をさせるために発話・行為によって誘導すること。�反復    ��園児に遊びを修得させるために同じ遊びを繰り返し経験させること。

理由付け  ��行為の意味を理解させるために理由を示すこと。

固定・可動家具�遊びの場の構築・場の限定のために家具を活用すること。の利用・移動 

遊び道具の ��遊びを発生させる際、園児に遊びを認識させるため遊び道具を利用・製作すること。利用・製作

仕切り   ��遊びの場の創造のため、開口部の仕切りを行うこと。

たまり���������何らかの行為・発言を行うためにその場に留まること。

場の縮小   たまりをつくり出すために遊びの場を縮小させること。

回遊    ��限られた領域において、連続的に走るために回遊すること。

昇降    ��遊びにリズムをつけるためにステージの上に上がったり下がったりすること。

共働    ��行為を先導している人と共に行為を行うこと。

呼びかけ  ��次の行為に移るために園児又は先生の興味を向けさせるよう呼びかけること。

見立て   ��遊びの発生・移行・発展などを促すために、人・もの・空間をあるものに見立てること。

寄る    ��たまりに対して、その場に集まっていくこと。

座位~立位 ��次の行為・場に移るために、立ち上がること。 

先導    ��共働によって修得した行為を先導して行うこと。

停滞    ��次の行為・場を理解できないため、その場に留まること。(先生の働きかけを待つ時など)

移動    ��次の行為のために別の場に移動すること。

対面    ��人に対して対面すること。

分散    ��遊びの最中に、先生が創造した遊びの場から出て行き、散らばること。

行為の連想 ��園児が遊びを場からイメージすることで行為を連想すること。

行為の先走り��園児がすてに遊びを修得している場合、次の行為を予測することで先に行動してしまうこと。

キーパーソン��先生に対して行為を提案するために一人の園児が発話すること。�

表2 先生・園児の遊びのエスノメソッドの定義

先生

園児

先生・園児

遊びのエスノメソッド

エスノメソッドと園児のエスノメソッドが相互に組み合わさ

ることにより、発生・発展・移行・終結する。選び出した場

面から先生・園児の遊びのエスノメソッドを抽出し(表2)、

先生・園児の遊びのエスノメソッドとその組み合わせがどの

ように場の創造につながり、遊びが成り立っていくのか分析

した。

3. 分析結果

 分析結果として、特に場の創造が顕著に見られた6つの例

を以下に挙げる。

3ー1. 保育室における「かくれんぼ」(図2)

 保育室は長方形の空間で、壁沿いに家具などが連続して置

かれており、隠れる行為を誘発するような場がほとんどない。

先生の「かくれんぼ」を保育室で行うという[行為の提示]・[場

の提示]により、園児達は[座位~立位]に変わる。この時、

図2 保育室における「かくれんぼ」

見つける

保育室(3歳児)

オルガン

ハンガー掛け カーテン

カーテン

④⑤

�(先生は立ち上がって隠れる場所をつくりだす)ここもいいかなー。

この辺も隠れれるかなあ。

ここも隠れられそうだね。

みんなどこにするかちょっと選んでおいてね。

(反対側のカーテンも閉める)

あ、ここいいかなあ。

映画見るの?

んーん、見ない、見ない。

行為の提示

場の提案

固定家具の利用

可動家具の移動

場の提案

行為の連想

固定家具の利用

可動家具の利用

場の提案

T:�

T:�

T:�

あ、ここにもこうやってやっとくか。(ハンガーかけに布をかける)

映画見るの?映画ー。映画は見ないけどさ。

(オルガンを動かして壁との間に隙間を���つくる)

あのね、ここも動かしておくから隠れる人いるかなー。

(カーテンをとめるひもをはずして少し閉める

みんな待ってね。隠れる場所先生つくるからね。

C:�T:�

T:�

あ、ここもいいかなー。カーテンもしちゃおっかー。

かくれんぼ

保育室

映画鑑賞

遊びの開始

行為の連想

座位~立位

先生 園児

発話行為 行為発話

カーテンを閉める

カーテンを閉める

オルガン

ハンガー掛け

固定家具の利用

固定家具の利用

可動家具の移動

可動家具の利用

可動家具の移動

共働 呼びかけ

先導

遊びの開始

共働

隠れる場所をつくる

行為の提示

場の提示

場の提案

行為の提示

場の提案

場の提案

場の提案

行為の提案

行為の提示

隠れる

見つける

2003,6,27��AM11:27は、遊びの場の創造がなされている場である。

<場の構築>

���������������

T/T2:先生A~G:園児Z:園児全体�:音楽の歌詞

保育室(3歳児)

カーテン

カーテン

オルガン

行為の提示遊びの終結

共働

表1 一週間の活動の概要

9:00

10:00

11:00

12:00

13:00

6/9(月) 6/10(火) 6/11(水) 6/12(木) 6/13(金)

お弁当

登園

<園庭>・水遊び・かけっこ・おおかみさんごっこ・お店屋さんごっこ

<保育室>・お絵書き(父の日のための)

<保育室>・ブロック遊び<ホール>・「おおかみさん」・お家ごっこ

片づけ

片づけ<保育室>・絵本降園

<園庭>・水遊び・うさぎの世話・おおかみさんごっこ

<保育室>・お絵書き(父の日のための)・絵本<園庭>避難訓練

<保育室>・ブロック遊び・絵本<ホール>・「おおかみさん」・お家ごっこ

<保育室>・歌

片づけ

降園

<保育室>・お祭りごっこ<園庭>・水遊び<廊下>・お医者さんごっこ

<ホール>・「ジンギスカン」・かくれんぼ

おやつ<保育室>・絵本

降園

登園

<園庭>・水遊び・バッティング・おおかみさんごっこ・かけっこ<保育室>・虫観察・工作

片づけ

おやつ

<保育室>・ビデオ鑑賞

降園

片づけ

登園

降園

<保育室>・おたまじゃくし の世話<園庭>・水遊び・サッカー・クローバー探し・「おおかみさん」

片づけ

おやつ歯磨き

自由遊び 自由遊び

自由遊び

自由遊び登園

自由遊び

自由遊び片づけ

自由遊び登園

自由遊び

お弁当

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園児は先生の言葉によって遊びの開始を認識するが、先生が

「隠れる場所をつくるからね。」と[行為の提示]を行うことで、

隠れる〈場の構築〉注4) が始まる。「ここも隠れられそうだね。」

と[場の提案]をし、ヒントを与えながら[固定家具注5) の利用]

を行いカーテンを閉め、[可動家具注6) の移動]を行い棚やオ

ルガンと壁の間に隙間をつくるなどして隠れる〈場の構築〉

をしていく。これにより園児は隠れる場を理解し、先生の提

案を受け入れ、[共働]することで隠れる行為に適合する。

3ー2. ホールにおける「かくれんぼ」(図3)

 ホールは園舎の各諸室への連結の場であると共に、アルコ

ーブや段差、分散して置かれた家具や遊び道具などによって

多様な空間が形成されており、隠れる行為を誘発しやすい空

間である。先生は、「行ってはいけない場所」一つ一つに[理

由付け]をしながらその場まで行き、カーテンや扉を閉め[仕

切り]をすることで隠れる〈場の限定〉注7) をする。ここで

先生は、隠れる[場の提案]はしない。先生の「みんな隠れ

てねー」という[行為の提示]に対して園児は遊びを[共働]

しようとするが、隠れる場を自分で見つけることに適合した

園児と、見つけることに適合できずステージ前で小さくなっ

たり、隠れてはいけない場所に隠れる園児が見られた。しか

し、先生の[呼びかけ]や隠れることに適合した園児と[共働]

することにより、次第に隠れる行為に適合注8) していく。

3ー3. 保育室における「おおかみさん」(図4)

 先生は「ちょっとこれから先生、あむあむあむ…。食いし

ん坊のおおかみさんになります。」、「みんな上手にお散歩し

てね。」と言い「おおかみさん注9)」を[引用]することで先

生・園児の行為を示すと、園児は[座位~立位]に変わり、「お

おかみさん」に移行する。音楽が開始され、先生が保育室全

体を使って円形に[回遊]すると園児も[共働]する。これ

は保育室が「おおかみさん」をするには狭い空間であったこ

とから空間全体を最大限に活用するという方法で〈場の構築〉

をした事例である。音楽が変化し「さあ、人間を食べに出か

けるぞー。」という場面になる前に、逃げ出し[行為の先走り]

をする園児がいた。これは園児がこの遊びを何度も経験する

図4:�保育室における「おおかみさん」

1

図5:ホールにおける「おおかみさん」

行為行為 発話 発話

園児先生

2003,6,16��AM10:35

ステージに上がるステージに上がる

ステージの端から端へ行き来する

ステージ上を走り回る

ステージの端から端へ行き来する

遊びの移行

食べる真似

「ジンギスカン」

 (再び歩き出し、ステージのラジカセが置いてあるところ行く)

 (園児達もステージを登って上がる)

T:おおかみさんする? A:いーよ、Aちゃん。G:わたしだっていいもの。

T:あ、始まった。♪:森の小道、散歩に行こう、おおかみなんてー恐くーないよ、 おおかみなんてー恐くーないよー。 (ステージの端から端へ行き来する) (縦目に手をつないだり、後ろからついていくかたちで行き来する)

♪:さあ、人間を食べに出かけるぞー。Z:きゃー!!  (ステージの中だけで端から端までつかってぐるぐる走り回る)

 (園児達が先生を追いかけるかたちで走り回る)

 (一人ステージを降りて下で走り回る)

T:きゃー、食べられちゃうー

 (先生がステージの壁側で立ち止まる)T:あーつかまるー。 (座り込む)  (園児は先生の周りに集まる) Z:むしゃむしゃむしゃ。 (園児達は先生に抱きついたり、倒れ込む)

先導

① ②

③ ④

A

先導

先導

行為の提案

共働

分散

回遊

共働

見立て

キーパーソン

寄る

たまり

共働

「おおかみさん」

ステージの壁沿いで座り込む

適合・ステージ上を 走り回る

不適合・ステージを降り て下で走り回る

音楽の変化

音楽の開始

音楽の終了

共働

共働

行為の提案

先導

共働

共働

回遊

共働

分散

寄る

たまり

見立て

“場の構築”���������������

発話行為 発話 行為

2003,6,2 AM11:16

T:あ、始まったー。♪:森の小道、散歩に行こう、おおかみなんてー恐くーないよ、 おおかみなんてー恐くーないよー。  ��(先生は保育室いっぱいに広がって回転する)  (園児も先生の後について回転する)

 (逃げ回り出す少し前になると、AとBが輪から離れ、����壁際の棚の陰に隠れようとする)

♪:さあ、人間を食べに出かけるぞー。  (先生は回転してぐ走り出す)  (園児は先生の後ろを追いかけるように回転して走る)  (CとDが保育室から扉を開けて廊下に出ていってしまう)

 (先生が扉を閉める)

T:きゃー!食べられるー。 ��(回転する円を次第に小さくしていく)

��(保育室の中心に倒れ込む)T:あー、食べられたー。食べられたー。

 (園児が先生の周りに集まる)

Z:むしゃむしゃー。 (先生を食べる真似をする)

E:大丈夫?T:大丈夫だよ。ありがと。 �あー、食べられちゃったー。

T:おおかみさんは人間に戻って、手を洗ってジュースを����飲みますよー。

園児先生

回転して走る

遊びの終結

おおかみさん

C

A

B

B

T T2

T

T2

E

① ②

③ ④

⑤ ⑥

音楽の変化

音楽の開始

音楽の終了

見立て

引用

回遊

引用

座位~立位

回遊

共働

分散

行為の先走り

共働

仕切り

場の縮小

たまり

引用

おおかみさんになる

お散歩する

保育室いっぱいに回転する

適合

不適合・先に逃げ出す

ドアを閉める

適合

不適合・保育室から 逃げ出る

寄る

回転する円を次第に小さくする

中心に倒れ込む

回遊

共働

行為の先走り

分散

仕切り

引用

見立て

たまり

寄る

回遊

共働

場の縮小

D T

T

T

T

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より園児は分散することなく、先生と[共働]して歩き回る。

音楽が変化し、先生が[回遊]し走り回り始めると、下に降

りて [分散]した一人の園児を除いた全員が[共働]する。

先生は壁際に行き、壁沿いで座り込み、[たまり]をつくる

と園児は先生の周りに[寄る]。そして自分自身をおおかみ

に[見立て]て食べる真似をする。その後、一人の園児が[キ

ーパーソン]となり、「ジンギスカンやりたい」と発話する

ことによって、遊びは移行する。

3ー5. 保育室における「お店屋さんごっこ」(図6)

 「お店屋さんごっこ」では、お店屋さんを視覚的に[見立

て]るために[可動家具の導入]を行う。机を壁側に置くと、

園児は「いらっしゃいませー。」と言いながら先生に[対面]

して座る(机=店)。先生は園児を[誘導]することにより、

壁側を向いている状態から教室内に向かせることでお店屋さ

んの場を机から机の前まで広げようとするが、園児は適合で

きず[停滞]してしまう。そこで先生は机の向きを変えて[可

動家具の回転]を行い、机の前に座っている園児を移動させ

ることでお店屋さんの場を広げる(机の前=店)。さらに、[誘

中で、次の場面を予測できたために起こった行為である。ま

た音楽が変化し、先生が[回遊]しながら走り回ると園児も[共

働]する。二人の園児が保育室から廊下に逃げて行き[分散]

すると、先生はドアを閉めて[仕切り]をすることで、園児

の[分散]を防ぐ。先生は回遊する円を小さくすることで[場

の縮小]をし、最終的には中心に倒れ込み[たまり]をつく

りだす。それに対して園児は先生の周りに[寄る]。園児は

自分自身をおおかみに[見立て]、先生を食べる真似をする。

先生は「おおかみさんは人間に戻ってね。」と、遊びの終わ

りを示す[引用]をすることで、遊びは終結する。

3ー4. ホールにおける「おおかみさん」(図5)

 先生が[先導]してステージに上がることで、園児も[共働]

してステージに上がる。先生の「おかみさんする?」という

[行為の提案]に対して園児が承諾することで「おおかみさん」

に移行する。音楽が始まると、先生は園児を[先導]しステ

ージの端から端を往来する。ステージはホールを形成する連

続的な設えの一部であるが、段差によってある程度区切られ

ているという性質によって〈場の限定〉がなされる。それに

図5 ホールにおける「おおかみさん」

図6 保育室におけるお店屋さんごっこ

行為行為 発話 発話

キーパーソン見立て

行為の提示

可動家具の導入 対面

誘導

誘導

園児先生

移動

停滞

寄る

遊び道具の製作

分散

停滞

停滞反復

工作のジュースの��������取り合い

誘導

遊びの崩壊

机=店

机の向きを変える

教室=店

店の拡大

店の発展

机をもってくる

机をもってくる

寄る

工作する

机の前=店

可動家具の追加

可動家具の回転

共働

停滞

ジュース屋さん

2003,5,28��AM9:46

<場の構築>

���������������

ごっこ遊び

①机=店①

②机の前=店

③教室=店 ④店の拡大

保育室(3歳児)

カーテン

カーテン

カーテン

カーテン

カーテン

カーテン

カーテン

カーテン

机ABCDE

A B

ABC

ABC

T

先生の向かいに座る

お店屋さんをつくる

行為の提示

可動家具の追加

対面

誘導

移動

可動家具の回転

可動家具の導入

停滞

誘導

誘導

停滞

寄る

共働

反復

停滞

寄る

先生、ジュース売るお店やさんつくってくるかな。

 (立ち上がって材料を取りに教室を出て行く)     

 (先生が机を持ってきて、座る)

A,B:いらっしゃいませー。いらっしゃいませー。 (先生の向かえに座る)

T:あ、こちらへどうぞー。

 (AとBが飛び跳ねてはしゃぐ)

 (机の向きを変える) T:Aちゃんもこっちに座ったら?  (AとBもCの座っている方にくる) (他の園児が机の前に座る) T:いらっしゃいませー。�先生、お客さん探してくるねー。 年長さんが来てくれたよー。いらっしゃいませー。

 (A,B,Cは座っているだけで無言)�� (他の園児が集まってくる)

T:お店大きくしようかー。 (机をもう1つ取りに行って横に並べる)

(他の園児が机の前に座る)  (Fがやってきて、お店やさんに混ざる)D:いらっしゃいませー!いらっしゃませー!!  (A,Bは座っているだけ)

T:いらっしゃいませー。

A,E:いらっしゃいませー。

お店の座っているだけ

お店の座っているだけ

お店屋さんごっこ

お店屋さんごっこ

入り口を向く側に移動

先生側に移動

行為行為 発話 発話

園児先生

2003,6,16��AM10:35

ステージに上がるステージに上がる

ステージの端から端へ行き来する

ステージ上を走り回る

ステージの端から端へ行き来する

遊びの移行

食べる真似

「ジンギスカン」

先導

① ②

③ ④

A

先導

先導

共働

分散

回遊

共働

見立て

キーパーソン

寄る

たまり

共働

ステージの壁沿いで座り込む

適合・ステージ上を 走り回る

不適合・ステージを降り て下で走り回る

音楽の変化

音楽の開始

音楽の終了

共働

行為の提案

先導

共働

共働

回遊

共働

分散

寄る

たまり

見立て

T

T

「おおかみさん」共働

行為の提案<場の限定>

���������������

 (ステージのラジカセが置いてあるところ行く)

 (園児達もステージを登って上がる)

T:おおかみさんする? A:いーよ、Aちゃん。G:わたしだっていいもの。

T:あ、始まった。♪:森の小道、散歩に行こう、おおかみなんてー恐くーないよ、 おおかみなんてー恐くーないよー。 (ステージの端から端へ行き来する) (後ろからついていくかたちで行き来する)

♪:さあ、人間を食べに出かけるぞー。Z:きゃー!!  (端から端までつかってぐるぐる走り回る)

 (園児達が先生を追いかけるかたちで走り回る)

 (一人ステージを降りて下で走り回る)

T:きゃー、食べられちゃうー

 (先生がステージの壁側で立ち止まる)T:あーつかまるー。 (座り込む)  (園児は先生の周りに集まる) Z:むしゃむしゃむしゃ。 (園児達は先生に抱きついたり、倒れ込む)

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導]によって園児達を教室の入り口を向く側に移動させるこ

とで、教室の出入り口が店の出入り口となる(教室=店)。[可

動家具の追加]をし、起点となっていた机の横に並べること

で店を大きくする(店の拡大)。様々な規模での「お店屋さ

んごっこ」を経験しながら、先生の[誘導]やその[反復]

によって、園児はただ店に座るという[停滞]の状態から、

先生や先に遊びを修得した園児に[共働]することで「お

店屋さんごっこ」を修得していくようになる。先生が「お店

屋さんごっこ」の[遊び道具の製作]をするために店から離

れると、ただ店に座り[停滞]する園児や、別の場所に遊び

に行き[分散]する園児が増えていき、「お店屋さんごっこ」

は次第に崩壊していく。しかし、家具の活用の仕方により、

様々な規模のお店屋さんの〈場の構築〉をしながら遊びを繰

り返すことで園児が遊びを修得していくことから、可動家具

が「お店屋さんごっこ」を成立させる上で大きな役割を担っ

ていることが分かる。

3ー6. ホールにおける「おいかけっこ」(図7)

 「おいかけっこ」では、アルコーブや段差、ベンチなどが

ある場では[たまり]の行為、それ以外の単調で開けた場で

は[移動]・[回遊]・[昇降]の行為がなされ、空間の特徴に

合わせたそれぞれの行為により〈場の限定〉がなされる。[た

まり]をつくり出すことにより先生を追いかけていた園児が

[寄る]。そして先生は、園児が自分自身をおおかみさんに[見

立て]たことを[引用]し、「おおかみに食べられるから逃

げるぞー」と言うことで、再び[移動]がなされる。途中、

先生は[場の提示]ではなく[行為の提示]のみで「かくれ

んぼ」に移行させるが、園児は[反復]によって何度も経験

した場を[応用]することによって対応する。かくれんぼで

見つかった園児が逃げ出し[移動]したのに対し、先生が[共

働]し追いかけることで、再び「おいかけっこ」に戻る。[回

遊]・[昇降]など流れの行為にも変化をつけながら、[たま

り]と組み合わせることにより、「おいかけっこ」から逃げる・

つかまりそうになる・再び逃げるという一連の駆け引きが含

まれた遊びに発展する。

4 考察

 分析結果に基づき、遊び場・遊びの種類に注目して以下、

異なる空間での同じ遊び、および同じ空間での異なる遊びに

ついて考察を行う(表3)。

〈場の構築〉↓

“場の理解”

かくれんぼ おいかけっこ

保育室

ホール

お店屋さんごっこ

表3 空間・遊び別の遊びの性質と意味

空間遊び

*1)

*2)

図2

図3

図6

図7

*1)〈 〉は遊びの性質  *2)“ ”は遊びの意味

「おおかみさん」

〈場の限定〉↓

“場の誘発”

図5

図4 〈場の構築〉↓

“場の理解”

〈場の構築〉↓

“場の理解”

〈場の限定〉↓

“場の誘発”

〈場の限定〉↓

“場の誘発”

4ー1. 異なる空間での同じ遊びについて

(1)「かくれんぼ」

 3ー1と3ー2では、遊びの開始において〈場の構築〉と〈場

の限定〉という異なったエスノメソッドとその組み合わせを

用いており、隠れる行為に差は見られるが、どちらの場合も

隠れる行為から隠れている他の園児を見つける行為を先生と

[共働]するようになり、次第に園児達が[先導]し自発的

に見つける行為を行うという一連の変化から、園児が隠れる

場を認識できたことがわかる。したがって〈場の構築〉によ

って園児に隠れる場の選択肢を広げて“場の理解”を促すこ

と、〈場の限定〉によって隠れる場を園児自身によって発見

させ“場の誘発 "を促すことは、「かくれんぼ」の“場の創造”

をする方法として捉えることができる。先生の〈場の構築〉

による「かくれんぼ」により、園児が隠れる場をイメージで

きるようになり、“場の誘発”を促す「かくれんぼ」を繰り

返すことで遊びと場の関係が定着し園児による「かくれんぼ」

が確立していく(図2・図3)。

(2)「おおかみさん」

 3ー3と3ー4では、「おおかみさん」という音楽に合わせ

て歩き回る遊びがなされ、回転するという行為は同じである

が、それぞれ〈場の構築〉と〈場の限定〉という異なったエ

スノメソッドとその組み合わせを用いることによって回転の

仕方に差が見られる。保育室は「おおかみさん」をするには

狭い空間であるためか、先生は保育室全体に広がり円形に[回

発話行為 発話 行為

園児先生

引用

引用

寄る

寄る

引用

見立て

カーテンの中

おおかみさん

見立て

ホールの角の������ベンチ

おおかみさん

見立て

逃げるぞー

カーテンの裏に行く

行為の提示

寄る

かくれんぼ

カーテンの裏

移動共働

おおかみさん引用

ホールの角

おいかけっこ

おいかけっこ

かくれんぼ

寄る引用

逃げろー

ホールをぐるりと回る

寄る寄る

ステージに上がる

ステージの壁際 見立て

逃げろー

引用

たまり

回遊

たまり

昇降

たまり

たまり

反復

共働

図7 ホールにおけるおいかけっこ

おおかみに食べられちゃう

食べられちゃうー

追いかける

おおかみさん来たから逃げよー

おおかみさん来たから逃げるぞー

2003,5,22 AM9:15

ホール

物品庫

保健室

昇降口

機械室

用務員室

配膳室

物品庫教材室

職員便所

ステージ

図書スペース 保育室

ピアノ カラーブロック 木箱

⑤ ⑦

⑧⑨

T:おおかみさんが来ちゃった。逃げようかー。逃げろー。

 (廊下を通って、ホールへ行く)

 (長いカーテンの所で、カーテンの中に入って遊ぶ)

 (園児達も中に入っていく)

A:おおかみさんだぞー。

T:あ!おおかみさん来た。逃げるぞー。

 (ホールの窓側の方に走っていく)

 (角で先生が立ち止まる)

 (園児達が先生の周りに集まってくる)

Z:ぱくぱくぱく。おおかみさんだぞー。

T:さあ!逃げるぞー

 (再びカーテンに所へ走っていく) 

Z:きゃー!! (園児が逃げて行く)

T:待てー!! (園児を追い掛けて、廊下に方に行く)

T:わー!!くまちゃん達逃げろー おおかみに食べられちゃうー

 (ホールに窓側で先生が一度止まる)

 (園児達が先生の周りに集まる)

T:逃げろー (再び走り出す)

 (先生がホールの中をぐるぐる周りながら走る)

T:食べられちゃうぞー

 (ステージに上がって行く)

 (先生が立ち止まる)

引用

たまり

寄る

見立て

反復

移動

引用

たまり

寄る

見立て

引用

共働

引用

たまり

寄る

引用

回遊

昇降

たまり

<場の限定>

���������������

<場の限定>

���������������

Page 7: Instructions for use...-CASE STUDY OF MUNICIPAL KINDERGARTEN IN SAPPORO- 吉田 祥子,森 傑,奥 俊信 Shoko YOSHIDA, Suguru MORI, Toshinobu OKU For young children, it is very important

遊]するという非物理的要素によって〈場の構築〉がなされ

る。また反対にホールは「おおかみさん」をするには広すぎ

る空間であるためか、既存の設えをうまく活用し、段差によ

って区切られたステージを遊びの場として選ぶことで〈場の

限定〉がなされる。音楽が変化し逃げ回る場面になると、ど

ちらの場合も数人の園児が遊びの輪から離脱する[分散]の

行為が見られた。また、保育室においては音楽が変化する前

に逃げ出そうとする[行為の先走り]が見られた。これらの[分

散]や[行為の先走り]は、先生がこの場面で意図している

「おおかみさん」には不適合注10) な行為であると捉えられるが、

一方で園児がこの遊びを繰り返し経験してきたことにより遊

びを熟知していることから生まれた行為でもある。よってこ

れらもまた園児による主体的な遊びのエスノメソッドである

と考えられる。したがって、壁に囲まれた空間において動き

という非物理的要素による〈場の構築〉をすることによって、

それぞれの行為に対応した場の提示を行うことで“場の理解”

を促すこと、広々とした空間において設えを活用して〈場の

限定〉をすることによって、園児に選択性のある環境で遊ば

せ“場の誘発”を促すことで遊びと場の関係を強めること、

不適合であっても自発的な行為をすることを通して、園児に

よる「おおかみさん」を確立していく(図4・図5)。

4ー2. 同じ空間での異なる遊びについて

(1) 保育室

 保育室は棚などの可動家具が壁沿いに連続して並べられて

いる長方形の単調な空間である。3ー1・3ー5より、保育室

における遊びは、[行為の提示 ]や [ 見立て ] を可動家具を利

用し視覚的に表した遊びの〈場の構築〉をすることで、遊び

の“場の理解”を促している。この時、遊びの場が変化する

ことで遊びが発展するなど家具の活用による“場の創造”が

遊びに与える影響は大きく、それによって園児に遊びと場

の関係を定着をさせ、遊びを修得させていく(図2・図6)。

また3ー3より、保育室は「おおかみさん」をするには狭い

空間であるためか、家具を利用するのではなく中心性のある

円形の動きを繰り返す、つまり[回遊]をすることで〈場の

構築〉をし、動きという非物理的要素による場の創造がなさ

れる。このように同じ行為が反復される[回遊]により“場

の理解”を促し、園児は遊びと場の関係を修得する(図4)。

(2) ホール

 ホールは段差やアルコーブ、ベンチなどの設え、分散して

置かれた可動家具により構成された空間となっている。3ー

2・3ー4・3ー6より、ホールにおける遊びは可動家具を導

入するなどして意図的に場をつくり出すのではなく、既存の

設えや家具を活用することで遊びを発生・発展・移行させて

いく。アルコーブや段差、ベンチなどがある場では隠れる・

たまる・寄るなどの「停滞」の行為がなされ、それ以外の単

調で開けた場では探索・回遊・移動などの「流れ」の行為が

なされる。このように空間の特徴に合わせた様々な行為を行

うことにより〈場の限定〉をし、園児に遊びの“場の誘発”

を促し、遊びと場の関係を定着をさせていく。この異なる性

格を持つ場を連続させた空間を活用した場の創造によって、

園児に積極的・主体的な遊びを修得させていく(図3・図5・

図7)。

5 まとめと今後の課題

 分析の結果、先生は同じ遊びであっても遊ぶ場が異なる場

合には異なる遊びのエスノメソッドとその組み合わせを用い

ており、また遊ぶ場が同じである場合には遊びが異なってい

ても共通の遊びのエスノメソッドとその組み合わせを用いて

いることが明らかとなった。

 このことは遊びのエスノメソッドが、常に空間と一体とな

って実践されていると言える。また遊びは、あらかじめ用意

された遊びの種類によって形式的に実行されるのではなく、

むしろその場その時の先生 -園児関係にそくしたエスノメソ

ッドとその組み合わせによって、柔軟に展開されているとも

言えよう。

 本論では、園児の社会性獲得の初段階に焦点を当て、先生

がどのように“場の創造”をしながら園児に働きかけて遊び

を成り立たせているかということに注目した。今後は先生と

園児による遊びだけでなく、園児同士の関係が構築されてい

く過程で、園児が先生との経験を通して得た遊びのエスノメ

ソッドを用いて、どのように場を創造し、遊びを積極的・主

体的につくりあげていくのかということも視野に入れ、調査・

分析を重ねていく。

注 1) エスノメソドロジーとは、人々が様々な物事や出来事を日常生  �活の中で達成するやり方、つまりエスノメソッドを主題に捉え  �る学問的営みのことを指す。注 2) 本論における協働とは、遊びをつくり上げるための相互行為を  �指し、表2における共働の定義とは異なる意味を指す。注 3) 本論における場の創造とは、先生が遊びを成立させるために遊������������びの場を物理的・非物理的要素によりつくり上げることと定義  �している。注 4)〈場の構築〉とは、場の創造をしていく上で家具を移動・利用  �することや動き・発話という非物理的要素によって遊びの場を�  �つくりあげていくことを指す。注 5) 固定家具とは、カーテンや作り付けの棚などの簡単には移動す  �ることのできない家具のことを指す。注 6) 可動家具とは、作り付けではない棚や机、オルガンなどの簡単  �に移動することのできる家具のことを指す。注 7)〈場の限定〉とは、場の創造をしていく上で既存の設えや家具��������の配置を活用し、行為と場の限定をすることによって遊びの場��������をつくり上げていくことを指す。注 8) 適合とは、先生が意図した遊びの成立に関して適した行為をし  �ていることを指し、遊びを修得するしないには関わらない。注 9)「おおかみさん」とは、音楽に合わせて歌いながら歩き回り、����������音楽が変化するとおおかみ役が追いかけ、人間役が食べらなれ����������いように逃げ回る遊びである。注 10) 不適合とは、先生が意図した遊びの成立に関して適さない行   為をしていることを指し、遊びを修得するしないには関わら   ない。

参考文献

1) 佐藤将之・西出和彦・高橋鷹志、『遊び集合の移行からみた園児 と環境についての考察-園児の社会性獲得と空間との相互関係に 関する研究 その 2-』、日本建築学会計画系論文集、第 575 号、 pp.29-35、20042) 森傑、『エスノデザインメソッド-人々のデザインのやり方-』、 ����� 舟橋國男編著、建築計画読本、大阪大学出版会、pp.273-298、   2004

付記本稿は、日本建築学会 2004 年大会度(北海道)において発表したものに新たな知見を含め加筆・修正したものである。