2
1.6 (mm)� 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 60~� (歳)� 50~59 40~49 年  齢� 30~39 20~29 N/C non IGT 平均±SEM IGT DM I M T はじめに IMT(頸動脈内膜中膜複合体肥厚度)は,非侵襲的定量評価可能な早期動脈硬化病変の指 標として,その有用性が確定しつつある。ことに,高頻度に動脈硬化病変が潜在する2型糖 尿病や1型糖尿病患者の大血管合併症に有効な診断法とされている。 測定法 超音波断層装置は,7.5MHz以上の中心周波数のリニア型パルスエコープローブを有する ものを使用する。頭蓋外頸動脈は皮下浅層に存在するため,7.5MHz以上の周波数のものが 使用可能で,高解像度(距離分解能0.1mm)を得ることができる。動脈硬化の主たる病変部位 は動脈壁の内膜と中膜であるが,エコー上内膜と中膜は血管内腔側の一層の低エコー輝度部 分として描出されるため,この部位(内膜中膜複合体)の肥厚度を定量すれば動脈硬化の計測 が可能となる。動脈硬化は総頸動脈から内頸動脈にわたり均一に壁肥厚度として出現するこ とは少なく,プラーク病変として局所病変がみられることから,局所の壁肥厚として描出さ れることが実際は多く,ことに動脈硬化進展例では多い。また,さらに病変の進んだ例で は,動脈壁の潰瘍や石灰化,閉塞病変では,事実上壁肥厚度の計測は不可能となる。頸動脈 動脈硬化の指標として種々の指標が提唱されているが,いまだ一定の指標が決定されていな い。著者らは早期動脈硬化研究会のホームページ(http://www.imt-ca.com)でIMTの計測法 を詳述している。 前斜位,側面の頸動脈の各縦断像で総頸動脈から分岐部,内頸動脈まで計測する。ここで 分岐部は,頸動脈壁の変曲点とする。総頸動脈と分岐部・内頸動脈の皮膚に対する近位壁 (nearwall)および遠位壁(farwall)の最大内膜中膜肥厚度(MaxIMT)を示す部位を中心とし て中枢側1cmおよび遠位側1cmの計3ポイントの平均肥厚度(AvgIMT)を求める。各頸動 脈遠位壁近位壁の最大肥厚度のうち最大のものをMaxIMTとする。種々の指標のうち総頸 動 脈 遠 位 壁 の 最 大 肥 厚 度(MaxIMT-CCA far)とMaxIMTを 測 定 の 必 須 項 目 と す る。 MaxIMT-CCA farは,総頸動脈遠位壁は描出が容易であり,種々の比較が可能であること, MaxIMTは冠動脈疾患,脳梗塞などとの相関がよいことから必須測定項目とされている。 著者らは測定の標準化をめざし,高解像度超音波断層装置で得られた静止画像からIMTを 計測するソフトウェアを作成,市販している(http://www.mediacross.co.jp)。 IMTと糖尿病,冠動脈疾患,末梢動脈閉塞症との相関 著者らは2型糖尿病患者では,30歳代~60歳以上の年代で非糖尿病者に比べ著しくIMT が大であることを認めている。1型糖尿病では,糖尿病の罹病期間に一致してIMTが増大 するのに比べ,2型糖尿病では罹病期間にあまり一致しないことも報告している 1) 。また, 耐糖能異常者でも同年代の糖尿病患者とほぼ同等にIMTの上昇を認めている(図12) Hultheらは,総頸動脈および頸動脈球部の壁肥厚度を評価し,頸動脈球部の壁肥厚度と 冠動脈硬化は強い(r=0.68)相関を示すことを報告した 3) 。小杉らは,CAG(coronaryarterio- graphy)上の狭窄を示した分枝数と頸動脈肥厚度の関連性を検討し,最大肥厚度やプラーク の高さが狭窄分枝数とより強く相関することを認めている(図2)。著者らは,IMTが健常 人の閾値の1.1mmを越えるとECG上の心筋虚血の所見を10%に認め,1.1mm未満では心筋虚 血の所見をほとんど認めなかった 2) 。これらの事実は,IMTの進展度と冠動脈の動脈硬化所 見とが密接な関連性を有することを示している。 末梢動脈閉塞症とIMTの関連性の検討は少ない。Kawagishiらは,糖尿病性腎症を伴う2 型糖尿病患者の大腿動脈ならびに頸動脈のIMTを検索し,腎症を伴う糖尿病患者では,両 図1 境界型糖尿病(non IGT),IGT(耐糖能異常)症 例,2型 糖 尿 病 (DM),健常人(N/C)の20~60歳代以上の頸動脈肥厚度 (Yamasaki Y,et al. Diabetologia 38:585,1995) IMT ! 義光 大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学助教授 第Ⅱ章 各科領域におけるプロスタサイクリンの臨床応用 3.糖尿病・内分泌内科領域 トピックス 148 149

IMT - プロサイリン 情報サイト procylin.jpprocylin.jp/prostacyclin/prostacyclin_148.pdf1.6 (mm) 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 40~49 50~59 60~ (歳) 年 齢

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Page 1: IMT - プロサイリン 情報サイト procylin.jpprocylin.jp/prostacyclin/prostacyclin_148.pdf1.6 (mm) 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 40~49 50~59 60~ (歳) 年 齢

1.6(mm)�

1.4

1.2

1

0.8

0.6

0.4

0.2

060~�(歳)�50~5940~49

年  齢�

30~3920~29

N/Cnon IGT

平均±SEM

IGTDM

IMT

はじめに

IMT(頸動脈内膜中膜複合体肥厚度)は,非侵襲的定量評価可能な早期動脈硬化病変の指

標として,その有用性が確定しつつある。ことに,高頻度に動脈硬化病変が潜在する2型糖

尿病や1型糖尿病患者の大血管合併症に有効な診断法とされている。

測定法

超音波断層装置は,7.5MHz以上の中心周波数のリニア型パルスエコープローブを有する

ものを使用する。頭蓋外頸動脈は皮下浅層に存在するため,7.5MHz以上の周波数のものが

使用可能で,高解像度(距離分解能0.1mm)を得ることができる。動脈硬化の主たる病変部位

は動脈壁の内膜と中膜であるが,エコー上内膜と中膜は血管内腔側の一層の低エコー輝度部

分として描出されるため,この部位(内膜中膜複合体)の肥厚度を定量すれば動脈硬化の計測

が可能となる。動脈硬化は総頸動脈から内頸動脈にわたり均一に壁肥厚度として出現するこ

とは少なく,プラーク病変として局所病変がみられることから,局所の壁肥厚として描出さ

れることが実際は多く,ことに動脈硬化進展例では多い。また,さらに病変の進んだ例で

は,動脈壁の潰瘍や石灰化,閉塞病変では,事実上壁肥厚度の計測は不可能となる。頸動脈

動脈硬化の指標として種々の指標が提唱されているが,いまだ一定の指標が決定されていな

い。著者らは早期動脈硬化研究会のホームページ(http://www.imt-ca.com)でIMTの計測法

を詳述している。

前斜位,側面の頸動脈の各縦断像で総頸動脈から分岐部,内頸動脈まで計測する。ここで

分岐部は,頸動脈壁の変曲点とする。総頸動脈と分岐部・内頸動脈の皮膚に対する近位壁

(near wall)および遠位壁(far wall)の最大内膜中膜肥厚度(MaxIMT)を示す部位を中心とし

て中枢側1cmおよび遠位側1cmの計3ポイントの平均肥厚度(AvgIMT)を求める。各頸動

脈遠位壁近位壁の最大肥厚度のうち最大のものをMaxIMTとする。種々の指標のうち総頸

動脈遠位壁の最大肥厚度(MaxIMT-CCA far)とMaxIMTを測定の必須項目とする。

MaxIMT-CCA farは,総頸動脈遠位壁は描出が容易であり,種々の比較が可能であること,

MaxIMTは冠動脈疾患,脳梗塞などとの相関がよいことから必須測定項目とされている。

著者らは測定の標準化をめざし,高解像度超音波断層装置で得られた静止画像からIMTを

計測するソフトウェアを作成,市販している(http://www.mediacross.co.jp)。

IMTと糖尿病,冠動脈疾患,末梢動脈閉塞症との相関

著者らは2型糖尿病患者では,30歳代~60歳以上の年代で非糖尿病者に比べ著しくIMT

が大であることを認めている。1型糖尿病では,糖尿病の罹病期間に一致してIMTが増大

するのに比べ,2型糖尿病では罹病期間にあまり一致しないことも報告している1)。また,

耐糖能異常者でも同年代の糖尿病患者とほぼ同等にIMTの上昇を認めている(図1)2)。

Hultheらは,総頸動脈および頸動脈球部の壁肥厚度を評価し,頸動脈球部の壁肥厚度と

冠動脈硬化は強い(r=0.68)相関を示すことを報告した3)。小杉らは,CAG(coronary arterio-

graphy)上の狭窄を示した分枝数と頸動脈肥厚度の関連性を検討し,最大肥厚度やプラーク

の高さが狭窄分枝数とより強く相関することを認めている(図2)。著者らは,IMTが健常

人の閾値の1.1mmを越えるとECG上の心筋虚血の所見を10%に認め,1.1mm未満では心筋虚

血の所見をほとんど認めなかった2)。これらの事実は,IMTの進展度と冠動脈の動脈硬化所

見とが密接な関連性を有することを示している。

末梢動脈閉塞症とIMTの関連性の検討は少ない。Kawagishiらは,糖尿病性腎症を伴う2

型糖尿病患者の大腿動脈ならびに頸動脈のIMTを検索し,腎症を伴う糖尿病患者では,両

図1 境界型糖尿病(non IGT),IGT(耐糖能異常)症例,2型糖尿病(DM),健常人(N/C)の20~60歳代以上の頸動脈肥厚度

(Yamasaki Y,et al. Diabetologia 38:585,1995)

IMT

山� 義光大阪大学大学院医学系研究科病態情報内科学助教授

第Ⅱ章 各科領域におけるプロスタサイクリンの臨床応用 3.糖尿病・内分泌内科領域

トピックス

148 149

Page 2: IMT - プロサイリン 情報サイト procylin.jpprocylin.jp/prostacyclin/prostacyclin_148.pdf1.6 (mm) 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 40~49 50~59 60~ (歳) 年 齢

3.5

3

2.5

2

1.5

1

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(mm)�

IMT

AvgIMT MaxIMT

None 1vessel 2vessels 3vessels

p<0.01 p<0.01

0.3

0.2

0.1

0�

-0.1

-0.2

-0.3 0年� 1年� 2年� 3年� 4年�

対照群(n=16)�

ベラプロスト投与群(n=8)�

IMT�

(mm)�

動脈のIMTとも著明に肥厚することを報告した4)。池淵らも同様の検討を,大腿動脈,膝窩

動脈,頸動脈に行い,大腿動脈のIMTが頸動脈,膝窩動脈のIMTに比し著明に肥厚するこ

とを示した5)。

IMTと予後との関連

O’Learyら6)は,高齢者(65歳以上,5,858名)を対象にIMTを計測し,以後6.2年の心血管イ

ベント発生との関連性を検索し,IMTが高いほど心筋梗塞および脳卒中の発症率が高いこ

とを報告した。著者ら7)も,IMTの3年間の経年変化を観察し,はじめに測定したIMT値が

3年間の冠動脈硬化症発症のOdds比が6.9ときわめて強い予測因子であることを見出してい

る。

頸動脈肥厚度進展に対するベラプロストナトリウムの効果

小杉らは,糖尿病を合併した血管閉塞症患者15名を対象にベラプロストナトリウム(以下,

ベラプロスト)120μg/日を12ヵ月以上投与してIMT進展抑制効果を検討した。対照群の2型

糖尿病者24名のIMT年進展率0.06mm/年に比し,ベラプロスト投与群では0.02mm/年と有意

の進展抑制効果を認めた8)。中川らは,IMT(AvgIMT)が2mm以上と進展した頸動脈病変

を有する糖尿病者24名のうち8名にベラプロスト60~120μg/日を4年間にわたり投与し

IMTを毎年計測した。対照群では,4年間でIMTは0.179mm進展したが,ベラプロスト投

与群では,-0.133mmとIMTの退縮を認めた。対照群との差は-0.078mm/年であった(図

3)9)。

文 献

1)Yamasaki Y, Kawamori R, Matsushima H, et al:Atherosclerosis in carotid artery of youngIDDM patients monitored by ultrasound high-resolution B-mode imaging. Diabetes 43:634-639, 1994

2)Yamasaki Y, Kawamori R, Matsushima H, et al:Asymptomatic hyperglycaemia is associatedwith increased intimal plus medial thickness of the carotid artery. Diabetologia 38:585-591,1995

3)Hulthe J, Wikstrand J, Emanuelsson H, et al:Atherosclerotic changes in the carotid arterybulb as measured by B-mode ultrasound are associated with the extent of coronary atheroscle-rosis. Stroke 28:1189-1194, 1997

4)Kawagishi T, Nishizawa Y, Konishi T, et al:High-resolution B-mode ultrasonography in evalu-ation of atherosclerosis in uremia. Kidney Int 48:820-826, 1995

5)池淵元祥,森田昌子,桂賢,他:NIDDMの大腿及び膝窩動脈硬化病変に関する検討-超音波Bモード法による評価-.糖尿病大血管障害 6:22-28, 1997

6)O’Leary DH, Polak JF, Kronmal RA, et al:Cardiovascular Health Study Collaborative Re-search Group;Carotid artery intima and media thickness as a risk factor for myocardial in-farction and stroke in older adults. N Engl J Med 340:14-22, 1999

7)Yamasaki Y, Kodama M, Nishizawa H, et al:Carotid intima-media thickness in Japanese type2diabetic subjects;Predictors of progression and relationship with incident coronary heartdisease. Diabetes Care 23:1310-1315, 2000

8)小杉圭右,片上直人,岸本通彦,他:頸動脈エコーによる抗動脈硬化作用を有する薬剤の検討.糖尿病 42(Suppl. 1):S147, 1999

9)中川貴之,三家登喜夫,穴口利恵子,他:糖尿病患者における抗血小板薬ベラプロストの動脈硬化進展抑制作用-頸動脈エコーIMTを指標として-.糖尿病 41:989-994, 1998

図2 冠動脈狭窄分枝数と頸動脈の壁の平均肥厚度,最大肥厚度None:狭窄分枝なし,1~3vessels:1~3主要分枝狭窄。

図3 糖尿病患者の頸動脈肥厚度進展に対するベラプロスト投与効果9)

第Ⅱ章 各科領域におけるプロスタサイクリンの臨床応用 3.糖尿病・内分泌内科領域

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