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5.質点系と剛体の運動 ここまでは,物体を質点とみなして,1個の質点に対し,その力学について学んだ.この章では,始めに質点が2個あるときの
力学について学ぶ.次に,質点が多数個存在する質点系の力学,さらには,大きさを持った物体のうち,剛体( = 外から力を加え
ても変形しない物体)の力学について学ぶ.
5-1. 2体系の運動と運動量保存の法則
質量 mAと質量 mBとなる 2 つの質点 Aと B がある.この 2 つの質点は離れていてもお互い力を及ぼしあっているとする.また,
2 つの物体どうしに働く力以外の外から 2 つの物体に働く力である外力は働いていないものとする.質点 B が質点 A に与える力
をF→
B→A と表し,質点 A が質点 B に与える力をF→
A→B と表す.質点 A の速度がv→
A で運動していると,質点 A の運動量p→A は,「 p→A
= mA v→A 」と表され,質点 B の速度がv→B で運動していると,質点 B の運動量p→B は,「 p→B = mB v→A 」と表される.運動量を用いると
2 つの質点に対する運動方程式は下の式のように表すことができる.
dp →Adt = F
→B→A (5-1-1)
dp →Bdt = F
→A→B (5-1-2)
2 体の全体の運動量P→
tot は下の式のように 2 つの質点の運動量の総和である.
P→
tot = p→A + p→B (5-1-3)
上の式の両辺を時間微分し,右辺について,(5-1-2)式と(5-1-2)式を用いて,作用反作用の法則「F→
B→A = – F→
A→B 」 を用いると,
下の式のように,全運動量は時間変化しない.すなわち,全運動量P→
tot が一定となる「運動量保存の法則」を導出できる.
dP →
tot
dt = F→
B→A + F→
A→B = 0 (5-1-4)
P→
tot = 一定 (5-1-5)
p→B
p→A
F→
B→A
F→
A→B
A
B
71
v→A
y
x
衝突45 °
v→'B
45 °
y v→'A
x
問題 5-1 滑らかな平面上において,質量mA = 4.0 kgの物体Aが速度 v→A = ( – 3.0, 0.0) m/sで運動して,原点上に位置して,静
止している質量mB = 2.0 kgの物体Bに衝突した.衝突後,物体Aは速度 v→'A = (– 1.0 , – 2.0) m/s で運動した.
1) 衝突後の物体 B の速度 v→'B を求めよ.
2) 衝突により物体 A が受ける力積 F→
B→A Δt を求めよ.
問題 5-2 滑らかな平面で質量 mA= 2.0 kg の物体 A が速度 v→A = (4.0 , 0.0) m/s で動き,原点上で止まっている質量 mB = 4.0 kg
の物体 B に衝突した.衝突後, 物体 A と B は図のように進んだ.
1) 衝突後の物体 Aと物体 B の速さを v'A と v'B とする.衝突後の速度 v→'A と v→'B に対して,速さ v'A と v'B を用いて表せ.
2) 衝突前の全運動量p→tot を求めよ.
3) 運動量保存則を用いて,衝突前の物体 A の速さ vA を用いて,衝突後の速さ v'A と v'B を求めよ.
問題 5-3 滑らかな平面で質量 mA の物体 A が速度 v→A で,質量 mB の物体 B が速度 v→B で運動していた.2 つの物体は衝突後,
くっついて合体した.衝突後の合体した物体の速度v→'と衝突によるって物体 A に働いた力積F→
B→A Δt を求めよ.次に,
衝突前の全運動エネルギーK と衝突後の全運動エネルギーK'を求め,衝突による運動エネルギーの変化 ΔK = K' – K
を求め, 運動エネルギーが衝突によって減少していることを確認せよ.
問題 5-4 始め,全質量 M の宇宙船が速さ V0 で直線上を運動していた.この宇宙船はある時刻から,時間 δt の間,単位時間
当たりの質量 ρ の燃料を燃やし,宇宙船に対する相対速度–v で燃料を噴射した.燃料の噴射が終わった時の宇宙船
の速さ V を求めよ(宇宙船は燃料を噴射の反作用として,その速さを増大させる).
* 衝突と反発係数
2 つの物体が力を及ぼし合う現象として,2 つの物体が「衝突」する現象について考えてみよう.質量 mA と mB の 2 つの質点
A と B が衝突前は,速度v→A = (vAx , vAy)とv→B = (vBx , vBy)で運動していた.その後,2 つの物体は衝突して(衝突して力を及ぼし合っ
ていた時間 δt とし,A から B へ及ぼす力F→
A→B ,B から A へ及ぼす力F→
B→A),衝突後は,速度v→'A = (v'Ax , v'Ay)とv→'B = (v'Bx , v'By)と
なったとする.また,ここでは,衝突による作用反作用の関係にある 2 つの力は,±x 方向に作用していると仮定する.
72
この系には外力が働いていないので,「運動量保存則」,すなわち,下の(5-1-6)式が成立する.
衝突前の全運動量 = P→
tot = mA v→
A + mB v→
B = mA v→'A + mB v
→'B = P→
'tot = 衝突後の全運動量 (5-1-6)
質点 A の運動量の変化と質点 A に働く力(ここでは,+x 方向に働く力と仮定) F→
B→A の関係は下の式で表すことができる.
mA v→'A – mA v→A = F→
B→A δt = | F→
B→A | e→x δt (5-1-7)
上の運動量保存則を表す式はベクトルとしての等式なので,x 成分と y 成分とで成立するが,y 成分は力が働いていないので,速
度の y 成分の変化はない..
x 成分(運動量保存則); mA vAx + mB vBx = mA v'Ax + mB v'Bx (5-1-8)
y 成分(変化なし); vAy = v'Ay, vBy = v'By (5-1-9)
さらに,衝突による力は x 方向に作用するとして,反発係数(跳ね返り係数)e を下の式のように定義する.反発係数 e は衝突する
2 つの物体の衝突時の様子(衝突する面の形状や衝突する角度)や 2 物体の材質にもよる.
e = |衝突後の2物体間の速度のx成分の差||衝突前の2物体間の速度のx成分の差| =
| v'A x – v'B x || vA x – vB x | (5-1-10)
したがって,この場合,反発係数 e には速度の y 成分の変化は寄与しない.衝突は 1 回だけ発生するので,衝突前後の速度の x
衝突前
v→'Av→'B衝突後
衝突
v→A
A
v→B
B
F→
A→B F→
B→A
73
成分は下の式のように 2 つに分類でき,この関係を用いると,反発係数 e は下の(5-1-12)式のように表すことができる.
vAx ≥ vBx なら,衝突後 v'Ax ≤ v'Bx
(5-1-11)
vAx ≤ vBx なら,衝突後 v'Ax ≥ v'Bx
e = –v'A x – v'B x vA x – vB x (5-1-12)
* 座標変換(省略してよい) → 速度変化の向きを x 方向にする回転変換
2 つの物体間に働く力が x方向でない場合は,(5-1-7)式の左辺の速度変化 Δv→A (= v→'A– v→A) = (ΔvAx , ΔvAy )につい
て回転変換して,X 方向に力が作用するような座標系で扱うとよい(その座標系では速度変化は X 成分のみ).
その回転角度を(– β)とすると,次のような回転変換を行う.ここで,変換後の速度変化 ΔV→
A= (ΔVA , 0)である.
ΔVA
0=
cos (– β) – sin (– β)
sin (– β) cos (– β)
ΔvAx
ΔvAy=
cos β sin β
– sin β cos β
ΔvAx
ΔvAy
変換後の速度変化 ΔVA と角度 β は下の式で表すことができる.
ΔVA = (ΔvAx)2 + (ΔvAy)2 , tan β = ΔvAy/ΔvAx
* 壁との衝突
2 物体間の衝突で,一方が壁(ここでは,物体 B を壁とする)とすると,
壁の質量は物体 A の質量と比べて,非常に大きいので,壁は衝突後も
実際は動かない.(5-1-6)式や(5-1-8)式で表されている「運動量保存則」
は成立しているが,現実的には使えない.右の図に示されているような
壁との衝突では(5-1-12)式で表されている反発係数 e の式は下のように
表すことができる(図の衝突では,vAx > 0, v'Ax < 0, v'Ay = vAy となる)
e = | v'A x || vA x | = –
v'A xvA x (5-1-13)
Y
X– β
ΔV→
A
Δv→A
O
v→A
v→'A
74
* 衝突後の速度(省略してよい)
衝突後の速度の x 成分である v'Ax と v'Bx は,(5-1-8)式と(5-1-12)式より,衝突前の速度の x 成分である vAx と vBx
および,反発係数 e を用いて下の式のように表すことができる.
v'Ax =1
mA + mB { (mA – mB e) vAx + mB (1 + e) vBx }
(5-1-14)
v'Bx =1
mA + mB { mA (1 + e) vAx + ( mB – mA e) vBx }
特に,同じ質量の物体(mA = mB = m)が衝突する場合は下の式のように表すことができる.
v'Ax =1 – e
2 vAx + 1 + e
2 vBx
(5-1-15)
v'Bx =1 + e
2 vAx + 1 – e
2 vBx
* 衝突の分類
反発係数 e はその定義式である(5-1-10)式より正(「0(ゼロ)以上」)の値になるが,その値の違いで衝突は下のように 2 種類に
分類できる.衝突では,外力が働いていない場合,「運動量保存則」が成立するが,必ずしも「力学的エネルギー保存則」が成立
するとは限らない.その観点から,衝突前後で全運動エネルギーが変わらない衝突を「弾性衝突」と呼び,衝突で全運動エネルギ
ーが減少する衝突を「非弾性衝突」と呼ぶ.
e = 1 → 弾性衝突
(5-1-16)
0 ≤ e < 1 → 非弾性衝突 (特に, e = 0 のとき,完全非弾性衝突)
① 弾性衝突
弾性衝突では,衝突前と後で物体が持つ合計の運動エネルギーが一定で変わらない衝突である.例えば,壁との衝突では,
(5-1-13)式より,衝突後の速度 v'Ax は反発係数 e を用いて,「v'Ax = – e vAx 」と表すことができるが,衝突前と後の運動エネルギー
KA と K'A は下の式で表すことができる(質量 m とした).
KA =12 m vAx
2 , K'A =12 m v'Ax
2 =12 m (e vAx )
2 = e 2 KA (5-1-17)
上の式から反発係数 e = 1 のときは運動エネルギーが減少しないことがわかる.さらに,質量が等しい物体が衝突する場合は,
75
(5-1-15)式を用いて,衝突前と後の全運動エネルギーKtot と K'tot は下の式で表すことができる.
Ktot = 12 m (vAx
2 + vAy 2) +12 m (vBx
2 + vBy 2) = 12 m (vAx
2 + vBx 2 + vAy 2 + vBy 2) (5-1-18)
K'tot =12 m (v'Ax
2 + v'Ay 2) +12 m (v'Bx
2 + v'By 2) =12 m ({
1–e2 vAx +
1+e2 vB}
2 + vAy 2 +{1+e
2 vAx +1–e
2 vB}2+ vBy 2 )
= 12 m (
1+e 22 vAx
2 + (1– e 2) vAx vBx +1+e 2
2 vBx 2 + vAy 2 + vBy 2 ) (5-1-19)
この例でも,反発係数 e = 1 のときは運動エネルギーが減少しないことがわかる.
② 非弾性衝突
非弾性衝突では,衝突前に比べて,衝突後に物体が持つ合計の運動エネルギーが減少する.減少した運動エネルギーは
衝突の際,摩擦によって熱エネルギーに変換された.
例えば,壁との衝突の場合は(5-1-17)式より,質量が等しい物体が衝突する場合は(5-1-18)式より,反発係数 e < 1なら,運動エ
ネルギーは減少することがわかる.
特に,反発係数 e = 0 (完全非弾性衝突)となる場合は,(5-1-10)式より衝突後 2 つの物体はくっつく. 壁との衝突の場合はく
っついて動かなくなるので,衝突後の運動エネルギーK'A= 0 となる.質量が等しい物体が衝突する場合も 2 つの物体はくっついて
移動し,衝突後の全運動エネルギーK'tot = m ( (vAx + vBx)2/2 + vAy 2 + vBy 2)/2 と計算でき,全運動エネルギーの変化ΔKtot = K'tot –
Ktot = –m(vAx – vBx)2/4 と負の値となる.もし,始め物体 B が静止していたとすると,衝突後の運動エネルギーは衝突前の半分にな
る.
問題 5-5 右向きを+方向とする.質量 mA = 2.0 kg の物体 A が速度 vA = 1.0 m/s で動いているところに後ろから質量 mB = 3.0 kg
の物体 B が速度 vB = 5.0 m/s でぶつかった.衝突後も 2 つの物体は一直線上を運動した.この衝突の反発係数 e =
0.25 であった.衝突後の物体 A と B の速度 v'A と v'B を求めよ.
問題 5-6(省略してよい) (5-1-14)式から,質量が異なる2つの物体が弾性衝突したとき,全運動エネルギーが保存(衝突前後で
全運動エネルギーが一致 Ktot = K'tot )することを確認せよ.
問題 5-7 直線上を質量mA の物体Aが速度vで動いている.その後,物体Aは静止している質量mB の物体Bに衝突した.衝突
後も直線状を運動するものとして,反発係数eを用いて衝突後の物体AとBの速度v'A とv'B を求め,次に衝突後の全
運動エネルギーK'totを求め,弾性衝突の場合,全運動エネルギーが保存されることを確認せよ.
76
5-2. 2体系の重心運動と相対運動
質量 mA と質量 mB となる 2 つの質点 A と B がある.この 2 つの質点 A と B の位置をr→A と r→B とする.下の図のように,質点
A には質点 B からの力F→
B→A と外力F→
A が作用している.質点 B には質点 A からの力F→
A→B と外力F→
B が作用している(作用反作
用の関係にある力のことを内力と呼ぶ.下の図では作用反作用の力は斥力として示した.また,作用反作用の関係の力は,2 つ
の物体間の相互作用の関係にある力とも呼ぶ).
2 つの質点に対する運動方程式は下の式のように表すことができる.
mAd2 r→Adt 2 = F
→B→A + F
→A (5-2-1)
mBd2 r→Bdt 2 = F
→A→B + F
→B (5-2-2)
2 つの質点の質量の中心となる位置を重心と呼び,重心の位置R→
G は下の式で定義される.
(mA + mB)R→
G = mA r→A + mB r→B → R→
G = mA r
→A + mB r
→B
mA + mB (5-2-3)
さらに,質点 B からみた質点 A の相対位置(B を基準とした A の位置) r→B→A を下の式で定義する.
r→B→A = r→A – r→B (5-2-4)
(5-2-1)式と(5-2-2)式を加えると,下の式のように左辺は重心の位置R→
G に関する時間の 2 階微分となり,右辺は作用反作用の関
係の力が打ち消される.
(mA + mB)d2R
→G
dt 2 = F→
A + F→
B (5-2-5)
さらに,下の式のように系の全質量 M と外力の合力F→
を表すと,重心に関する運動方程式は(5-2-8)式で表すことができ,重心の
運動は外力の総和F→
tot が関与し,作用反作用の関係の力は関与しない.
F→
B
F→
A
F→
B→A
F→
A→B
A
B
77
M = mA + mB (5-2-6)
F→
tot = F→
A + F→
B (5-2-7)
Md2R
→G
dt 2 = F→
tot (5-2-8)
一方,「(5-2-1)式/mA – (5-2-2)式/mB」の計算をすると,左辺は相対位置 r→B→Aに関する時間の 2 階微分となる.右辺は作用反作用
の関係を用いて下の式で表すことができる.
d2r→B→Adt 2 = (
1 mA +
1 mB) F
→B→A +
F→
A
mA –F→
B
mB (5-2-9)
ここで,下の式で表される換算質量 μ を用いると,上の式は下の式のように換算質量を持った質点の運動方程式のようになる,
1 μ =
1 mA +
1 mB → μ =
mA mBmA + mB (5-2-10)
μd2r→B→A
dt 2 = F→
B→A + mB
M F→
A – mA
M F→
B (5-2-11)
特に,外力が働いていない場合(F→
A = F→
B = 0)は下の式で相対位置に関する運動方程式を表すことができる.この運動は作用反
作用の関係の力が関与する.
μd2r→B→A
dt 2 = F→
B→A (5-2-11)
例えば,質点(物体)A として惑星,質点(物体)B として太陽を考えた場合(mA
78
r→A = R→
G +mB M r
→B→A
(5-2-12)
r→B = R→
G –mAM r
→B→A
上の式で時間微分をとって,質点 A と B の速度v→A ,v→
B について,重心の速度V→G と相対位置の速度v→B→A を用いて表すことがで
きる.さらに,2 体の全運動エネルギーKtot を計算すると下の式のように重心運動の運動エネルギーと相対運動の運動エネルギ
ーの和で表すことができる.
Ktot = 1 2 mA vA
2 +1 2 mB vB
2 =1 2 M VG
2 +1 2 μ v B→A
2 (5-2-13)
さらに,外力が働いていない場合(F→
A = F→
B = 0)は,(5-2-8)式より,重心の速度V→G は一定となり,重心運動の運動エネルギーも一
定となる.作用反作用の関係の力となるF→
B→A に対し,「F→
B→A = –▽→
U」を満たす位置エネルギーU(r→B→A)が存在する場合は,相
対運動に関して,下の式で表すことができるような,力学的エネルギー保存則が成立する.
1 2 μ v B→A
2 + U(r→B→A) = 一定 (5-2-14)
* 運動量
2 つの質点 A と B の運動量をp→A とp→B として,全角運動量p→tot は(5-2-12)式を用いると下の式のように重心の運動による運動
量p→G と相対位置の運動による運動量p→B→A の総和p→tot として表すことができる.
p→tot = p→A + p→B = mA d r→A
dt + mB d r→B
dt = Md R
→G
dt + μdr→B→A
dt = p→
G + p→B→A (5-2-15)
* 角運動量
2 つの質点 A と B の角運動量をL→
A とL→
B として,全角運動量L→
totは(5-2-12)式を用いると下の式のように重心の運動による角
運動量L→
G と相対位置の運動による角運動量L→
B→A の総和L→
tot として表すことができる.
L→
tot = r→A × mAd r→Adt + r
→B × mB
d r→Bdt = R
→G × M
d R→
G
dt + r→
B→A × μdr→B→A
dt
= L→
G + L→
B→A (5-2-16)
79
* 力のモーメント
同様に力のモーメントも計算すると下の式で表すことができる.
M→
tot = r→A × (F→
B→A + F→
A) + r→A × (F→
A→B + F→
B)
= (R→
G × F→
tot) + (r→B→A × F→
B→A) + r→B→A × (mBM F
→A –
mA M F
→B) (5-2-17)
上の式から,力のモーメントにおいても,外力が作用しない場合(F→
A = F→
B = 0)は,力のモーメントは,「M→
tot = r→B→A × F→
B→A」となり,
相対位置と作用反作用の力の外積で表すことができる.
* 角運動量に関する(並進運動に関する)運動方程式
角運動量の総和として表された(5-2-16)式に対して,時間微分し,角運動量に対する運動方程式を求めると,(5-2-17)式より,
下の式で表すことができる.
dL→totdt = (R
→G × F
→tot) + r→B→A × (F
→B→A +
mBM F
→A –
mA M F
→B) (5-2-18)
問題 5-8 同じ質量mとなる2つの物体AとBが,図のようにばね定数k,自然の
長さℓのばねによって,鉛直につながれている.時刻t=0で2つの物
体(物体Bの初期位置yB(0) = 0とする)が自由落下したとすると,時
刻tでの重心の位置YGと相対位置y B→Aの運動を調べよ(運動方程
式をたてて解く).
問題 5-9(省略してよい) 質量mと3mとなる2つの物体AとBが,上の図のように
ばね定数k,自然の長さℓのばねによって,鉛直につながれている.
時刻t=0で2つの物体(物体Bの初期位置yB(0) = 0とする)が自由落下
したとすると,時刻tでの重心の位置YGと相対位置y B→Aの運動を調べよ.
問題 5-10(省略してよい) 質量mAとmBとなる2つの物体AとBが,右の図のように
ばね定数k,自然の長さℓのばねによって,摩擦の影響がない水平面
に置かれている.時刻t=0で2つの物体(物体Bの初期位置xB(0) = 0と
yBB
A yA
y
xB
B A
xAx
80
する)の,時刻tでの重心の位置XGと相対位置x B→Aの運動を調べよ.
また,物体AとBの運動エネルギーをそれぞれ求め,その和が,相対
位置に関する運動エネルギーと等しくなっていることを確認せよ.
問題 5-11(省略してよい) 速さvで水平に動いていた質量mAとの物体Aが
ばね定数kのばねにつながっていたmBの物体Bに弾性衝突し,
跳ね返えされた.衝突後に跳ね返された物体Aの速さv',物体
Aの失った運動エネルギーΔK,ばねの最大の縮みxmaxを求めよ.
5-3. 質点系と剛体の運動
* 質点系
N 個の質点がある系を考えよう.1 番目の質点は質量 m1 で位置r→1 とする.2 番目以降も同様にし,i 番目の質点は質量 mi
で位置r→i (i = 1 ~ N)とする.このような多数の質点からなる系を「質点系」と呼ぶ.
質点系における全体の質量 M と重心(質量中心)の位置R→
G は下の式で表すことができる.
M = (m1 + m2 + … + mN) = i=1
Nmi (5-3-1)
M R→
G = (m1 r→1 + m2 r→2 + … + mN r→N ) = i=1
Nmi r→i (5-3-2)
x
0
BA v
yi
zi
xi
i 番目の質点
j 番目の質点
1 番目の質点
N 番目の質点
O
r→i
81
① 重心の並進運動に関する運動方程式
i 番目の質点には,(i 番目(自分自身)を除いた)j 番目の質点からの力F→
j→i と外力F→
i が作用している.質点系内部の他の質
点からの力は内力であり,力F→
j→i とF→
i→j とは作用反作用の関係の力である(F→
j→i = – F→
i→j).i 番目の質点に対する運動方程式は
下の式のように表すことができる.
mid2 r→idt 2 = j=1
N
(j≠i)
F→
j→i + F→
i (5-3-3)
(5-3-2)上の式で両辺に対し,時間の 2 階微分をとり,(5-3-3)式と作用反作用の関係式を用いると,重心の並進運動に関する運動
方程式を得ることができる.
i=1
Nmi
d2 r→idt 2 = i=1
Nj=1
N
(j≠i)
F→
j→i + i=1
NF→
i =1 2 i=1
Nj=1
N
(j≠i)
(F→
j→i + F→
i→j ) + i=1
NF→
i = i=1
NF→
i
→ Md2R
→G
dt 2 = i=1
NF→
i = F→
tot (5-3-4)
上の式より,重心の運動は外力の合力の総和F→
tot に関係し,内力(作用反作用の力)は寄与しない.
② 重心の回転運動に関する運動方程式
i 番目の質点に対する角運動量L→
i は下の式で表すことができる.
L→
i = r→i × mi d r→i
dt (5-3-5)
したがって,総和をとって全系での角運動量L→
tot に関する(回転運動に関する)運動方程式(角運動量L→
tot に対する 1 階の時間微
分)は下の式のように,外力による力のモーメントの総和M→
tot となる.
dL→totdt =
ddt i=1
NL→
i = i=1
Nr→i × mi
d2 r→idt 2 = i=1
Nr→i ×{
1 2 j=1
N
(j≠i)
(F→
j→i + F→
i→j ) + F→
i }
= i=1
Nr→i × F
→i = M
→tot (5-3-6)
0 (作用反作用の法則より)
0
82
* 剛体
「剛体とは大きさをもった物体で,力を加えても変形しない物体」を指す.「剛体」は微小な質点が連続的につながっており,
微小質量をもつ質点間の距離は変わらない.
剛体全体の質量 M は,剛体の微小質量要素を dm とすると,剛体全体に積分したものとなる.剛体が立体的な大きさを持つ
場合は,密度 σ と微小体積 dV を用いて,「dm = σ dV」と表すことができるので下の積分で表すことができる.
M =
(剛体内)
dm =
(剛体内)
σ dV (5-3-7)
質点系と同様に剛体の重心(質量中心)の位置R→
G は下の式で表すことができる.
M R→
G =
(剛体内)
r→ dm =
(剛体内)
r→ σ dV (5-3-8)
③ 重心の並進運動に関する運動方程式
剛体は連続体で変形しないので,微小質量要素の間には作用反作用の法則となる力を考慮しなくともよい.そこで,微小質
量要素 dm に対して微小外力 dF→
が作用するものとすると,運動方程式は下の式で表すことができる.
dm d2 r→
dt 2 = dF→
これを剛体全体で積分すると,剛体の重心の並進運動に関する運動方程式をえることができる.下の式でF→
tot は剛体全体に働く
O
z
y
剛体
x
r→
微小質量要素 dm
83
外力の総和F→
tot となる(外力が剛体の各部分r→i で作用し,外力の数が J 個あるときは,「F→
tot = i=1
JF→
i 」).
(剛体内)
dmd2 r→
dt 2 = d dt 2
(剛体内)
dm r→ =d dt 2 (M R
→G ) = M
d 2R →
G
dt 2 =
(剛体内)
dF→
= F→
tot (5-3-9)
④ 重心の回転運動に関する運動方程式
質点系と同様に微小質量要素 dm での微小角運動量 dL→
は下の式で与えられ,全角運動量L→
tot は剛体全体で積分する.
dL→
= r→ × dm d r→
dt
したがって,剛体全体の回転運動の関する運動方程式は下の式で与えられる(右辺は外力による力のモーメントの総和M →
tot であ
る.外力が剛体の各部分の位置r→i で作用し,外力の数が J 個あるときは,「M →
tot = i=1
Jr→i × F
→i 」となる).
dL→tot
dt = ddt
(剛体内)
dL→
=
(剛体内)
(r→ × dmd2 r→
dt 2 ) =
(剛体内)
r→ × dF→
= M →
tot (5-3-10)
* 質点系と剛体におけるつりあい
質点系,または,剛体において複数の場所(位置) r→i ( i = 1 ~ J )に外から力F→
i が作用していて,質点系全体,または,剛体
全体について,つりあいがとれていて,動き始めたり,回転し始めたりしない条件を考えてみよう.
O
剛体
F→
J
r→i
r→J
F→
i
F→
1
r→1
84
質点系全体,または,剛体全体が並進運動しないためには,「外からの力がつりあっていること」,すなわち,下の式のように「合
力 = 0 」となっていることが必要である.さらに,それらが回転運動しないためには,「力のモーメントがつりあっていること」,すな
わち,下の式のように「力のモーメントの総和 = 0」が必要である.
合力 = F→
tot = i=1
JF→
i = 0 (5-3-11)
力のモーメントの総和 = M →
tot = i=1
Jr→i × F
→i = 0 (5-3-12)
* 位置の基準点(原点 O)をずらしたときの「つりあい」
(5-3-12)式は,剛体がある位置を原点 O にとったときに回転し始めないための条件式であった.これとは別な位置
を原点にとっても回転し始めないはずである.これを確認する.
あらたな原点 O'として,元の原点と位置r→o だけずれているとしよう.原点 O'からみた位置をr→'i とすると下の関係
式が成り立つ.
r→'i = r→o + r→i (5-3-13)
「つりあっている」場合は,原点 O'からの力のモーメントの総和M →
'tot は,下の式のように,1 項目は「合力 = 0」より,2項
目は元の原点 O における「力のモーメントの総和M →
tot = 0」より,「0」となる.そのため,新たな原点 O'のまわりでも回転
し始めない.
M →
'tot = i=1
Jr→'i × F
→i =
i=1
J( r→o + r→i ) × F
→i = r→o ×
i=1
JF→
i + i=1
Jr→i × F
→i = 0 (5-3-14)
問題 5-12 質量m1 = 2.0 kgの質点1が位置r→1 = (1.0 , 2.0 , –2.0) mに,質量m2 = 3.0 kgの質点2が位置r→2 = (–3.0 , 1.0 , 4.0) mに,
質量m3 = 5.0 kgの質点3が位置r→3 = (1.0 , –3.0 , 2.0) mにある.系全体の質量Mと重心の位置R→
Gを求めよ.
問題 5-13 線密度σ1 = 2.0 kg/mの長さℓ1 = 4.0 mの棒1に,線密度σ2 = 4.0 kg/m
の長さℓ2 = 3.0 mの棒2が棒1の横にくっついている.系全体の質量M
と重心の位置XG(棒1の端からの位置)を求めよ. x
O
0 0
85
問題 5-14 面密度σ で半径a の半円がある.半円の直径部分をx軸に
選ぶと,この半円の重心の位置R→G = (0, YG)を求めよ.
問題 5-15 面密度σ で半径2a の半円の中で半径aとなっている部分が
中空となっている.この中空がある半円の重心の位置R→G =
(0, YG)を求めよ.
問題 5-16 図のように,面密度σ で1辺の長さ2a の正三角形がある.
この正三角形の重心の位置R→G = (XG , 0)を求めよ.
問題 5-17 密度σ で半径a の半球がある.半球の底面をxy平面に選ぶと,この半球の重心の位置R→G = (0, 0, ZG)を求めよ.
問題 5-18 図のように,質量Mの一様な長さ2ℓの剛体棒の1端が自由に回転
するちょうつがいで壁に取りつけられ,もう一つの端には質量mの
おもりと糸がつけられていて,剛体棒はひもで水平に支えられて
いる.図にかいてある糸の張力の大きさSとちょうつがいのところ
で剛体棒に働く抗力の大きさNをを求めよ.
問題 5-19 図のように質量M ,長さ2ℓ の剛体棒が摩擦の影響がある床面
と摩擦の影響がない壁に立てかけられている.剛体棒の中央か
ら長さaとなる場所には質量mのおもり(質点)が埋め込まれている.
剛体棒が滑り降りないときの静止摩擦力の大きさf を求めよ.
5-4. 質点系と剛体の慣性モーメント
物体が回転している場合は,ある回転軸の周りに回転する.ここでは,z 軸を回転軸として回転しているとする.したがって,
角運動量L→
は z 方向を向いている(L→
= Lz e→z ).
* 質点系
図のように,N 個の質点があり,z 軸の周りに質点が回転しているとしよう(xy 平面が回転する).
x
y
y
x
x
y
a
θ ℓ
ℓ
摩擦力f→
張力S→θ
θ
抗力N→
86
i 番目の質点の位置r→i = (xi , yi , zi )であるが,回転半径 ρi は z 軸からの距離となるので,下の式で表すことができる.
ρi = xi 2 + yi 2 (5-4-1)
質量 m となる質点が 1 個の場合は,角運動量の z 成分の Lz は(4-2-9)式より,回転半径 ρ と回転の角速度 ω 用いて,「Lz = m ρ2 ω
= I ω」と表すことができたので,質点系全体の角運動量の z 成分の Lz は下の式で表すことができる.
Lz = i=1
Nmi ρi 2 ωi (5-4-2)
さらの,各質点の回転の角速度が等しい場合(全ての質点が同じ角速度で回転する場合)「ωi = ω」は角運動量の z 成分の Lzは系
全体の慣性モーメント I を用いて下の式で表すことができる.
Lz = i=1
Nmi ρi 2 ω = (
i=1
Nmi ρi 2 ) ω = I ω (5-4-3)
I = i=1
Nmi ρi 2 (5-4-4)
* 剛体
図のように,z 軸の周りに質点が回転しているとしよう(xy 平面が回転する).
回転半径 ρi
yi
zi
xi
i 番目の質点
j 番目の質点
1 番目の質点
N 番目の質点
O
r→i
z 軸の周りで回転
87
微小質量要素の位置r→ = (x , y , z )であるが,回転半径 ρ は z 軸からの距離となるので,下の式で表すことができる.
ρ = x 2 + y 2 (5-4-5)
剛体では,全ての微小質量要素が同じ角速度 ω で回転する.剛体全体の角運動量の z 成分の Lz は,剛体全体の慣性モーメント
I を用いて下の式で表すことができる.
Lz = (
(剛体内)
dm ρ 2 ) ω = I ω (5-4-6)
I =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
ρ 2 σ dV (5-4-7)
したがって,剛体の回転運動に関する運動方程式は(4-4-3)式と同様に下の式で表すことができる(右辺は力のモーメントの総和
の z 成分である).
Idω dt = Mtot z (5-4-8)
問題 5-20 質量M で長さ2ℓ の棒があり,棒の中央を回転軸とした場合の慣性モーメントI1 と端を回転軸とした慣性モーメントI2
を求めよ.
問題 5-21 質量M で1辺の長さ2a のと2bの長方形の板がある.板の中央を回転軸とした場合の慣性モーメントI1 と板の端(4角
のうちの一つ)を回転軸とした慣性モーメントI2 を求めよ.
z 軸の周りで回転
O
z
y
剛体
x
r→
微小質量要素 dm
回転半径 ρ
88
問題 5-22 質量M で半径R の円板がある.円板の中央を回転軸とした場合の慣性モーメントI を求めよ.
問題 5-23 質量M で外半径a ので内半径bの円環がある.円環の中心を回転軸とした場合の慣性モーメントI を求めよ.
問題 5-24 質量M で半径Rの球がある.球の直径を回転軸とした場合の慣性モーメントI を求めよ.
問題 5-25 質量M で半径Rで高さaとなる円柱がある.円柱となる円の中心を回転軸とした場合の慣性モーメントI を求めよ.
* 平行軸の定理
剛体において,重心 G を通過する回転軸 AG とし,その回転軸 AG
と平行で長さ h だけ離れた新しい回転軸 A'を考えよう.回転軸を AG と
したときの慣性モーメントを IG とする。回転軸 AG から見た微小質量要素
dm までの位置ρ→ = (x , y , 0)として,回転軸 A'から見た微小質量要素 dm
までの位置ρ→' = (x' , y' , 0)とする.そして,回転軸 AG から見た回転軸 A'ま
での位置ρ→0 = (x0 , y0, 0)とする.3 つの位置ベクトルの関係は下の式で表
され,2 つの回転軸の間の距離 h も下の式で表すことができる.
ρ→ = ρ→' + ρ→0 (5-4-9)
h = | ρ →0 | = x02 + y02 (5-4-10)
これらの関係から新しい回転軸 A'のまわりの慣性モーメント I 'は回転軸 AG のまわりの慣性モーメント IG と下の式のような関係が
成り立つ.
I ' =
(剛体内)
dm ρ ' 2 =
(剛体内)
dm | ρ→– ρ →0 | 2
=
(剛体内)
dm ρ 2 – 2 ρ →0 ・
(剛体内)
dm ρ → + (
(剛体内)
dm ) | ρ →0 |2
0 (この積分式は重心の位置R→
G とすると,MR→
G となる
が,重心を原点にとるとR→
G = 0)から, 「0」になるIG (重心を通る回転軸
の慣性モーメント)→
ρ→0重心 G
AG
剛体
A'
89
= IG – 0 + M (x02 + y02) = IG + M h 2 (5-4-11)
慣性モーメントに関するこの関係を「平行軸の定理」と呼ぶ.
問題 5-26 問題5-20と5-21で求めた慣性モーメントI1 とI2 の結果より,「平行軸の定理」が成立していることを確認せよ.
5-5. 剛体の回転運動
並進運動と回転運を含んだ剛体の運動について,いくつかの例を上げて,その運動を調べてみよう.
① 物理振り子
全体の質量Mの剛体がある.剛体の一部を通っている回転軸のまわり
に回転し,振り子として運動している.重心の通る軸を回転軸としたときの慣
性モーメントIGとし,回転軸と重心Gの間の長さをhとする.図のように,x方向,
y方向,z方向を選び,x軸からの回転角をθ とする.この振り子の運動をしら
べ,振り子の周期Tを求る.
重心に剛体全体の重力M ɡ→が作用しているものとして,重力による力のモーメントのz成分Mzは,「Mz = – M ɡ h sin θ」となる.
また,回転軸のまわりの慣性モーメントI は,平行軸の定理より,「I = IG + M h 2 」となるので,回転の運動方程式は下の式で表す
ことができる.
Id 2θdt 2 = – M ɡ h sin θ (5-5-1)
ふり幅が小さい場合(角度θ
90
できる.
T = 2πω = 2π
IM ɡ h = 2π
IG + M h 2M ɡ h (5-5-3)
② 滑車の運動
図のように,質量が無視できる糸の両端に質量mAとmB (mA > mB)
となる2つの物体AとBをつけて,全体の質量Mとなる半径Rとなる円板
の滑車をつけた.円板の中心を回転軸とした慣性モーメントI = MR 2/2
である.2つの物体に発生する加速度の大きさaと滑車と2つの物体間
に働く糸の張力の大きさTAとTBを求める.
図のように反時計まわりに動く向きを「+」方向にとり,滑車の回転
する角速度をωとする.物体Aには重力mA ɡと張力(物体Aと滑車の間
に働く力)TAが働いている.物体Bには重力mB ɡ と張力(物体Bと滑車
の間に働く力)TBが働いている.物体Aと物体Bにおける運動方程式
は正負の向きに注意して,下の式で表すことができる.
物体A; mA a = mA ɡ – TA (5-5-4)
物体B; mB a = TB – mB ɡ (5-5-5)
また,滑車の回転運動に対する運動方程式は,2つの張力による力のモーメントを考慮して,下の式で表すことができる.
回転運動; Id ωdt =
R TA – R TB (5-5-6)
滑車の円周上を糸が動く速さvは,「v = R ω」の関係があるので,2つの物体での加速度aと,「 a = R dω/dt」がなりたつので,上の
式は加速度aを用いて,さらに,慣性モーメントI (= MR2/2)より,下の式のように表すこともできる.
I a = R2 (TA – TB) → M a /2 = TA – TB (5-5-7)
+
a
a
TB
TB
TA
TA
mA ɡ
mB ɡ
91
上の3つの式より加速度の大きさaと2つ張力の大きさTAとTB求めると,下の式で表すことができる.
a = mA – mB
mA + mB + M/2 ɡ (5-5-8)
TA = 2mB + M/2
mA + mB + M/2 mA ɡ , TB = 2mA + M/2
mA + mB + M/2 mB ɡ (5-5-9)
③ 斜面上を転がる物体
質量M,半径Rの球が摩擦のある斜面上を
滑らずに回転しながら,落下する場合,球の重心
G の加速度の大きさ a を求めてみよう.ここで,
球の重心のまわりの慣性モーメント I = 2 M R 2/5
とする.
上の図のようにx方向とy方向を選ぶ.物体には鉛直下方向に重力M ɡ→(大きさ M ɡ),斜面と垂直上方向に垂直抗力N→
(大きさ N),
斜面に沿って上方向に摩擦力F→
(大きさ F)が働いている.重心が移動する速度v→G = (vGx , vGy)として,重心Gの並進運動に関する
運動方程式は下の式で表すことができる(y成分は力がつりあい,移動しない).
x成分; Md vGx
dt = M ɡ sin φ – F (5-5-10)
y成分; Md vGy
dt = N – M ɡ cos φ = 0 (5-5-11)
回転運動に関する運動方程式は,角速度ω (= dθ/dt)として,力のモーメントに寄与するのは,摩擦力のみなので下の式で表すこ
とができる.
Id (–ω)
dt = – R F (5-5-12)
速度の x 成分が球の外周の速さと等しいので,「vGx = Rω」が成立し,慣性モーメント I = 2 M R 2/5 を用いると,上の式は「F = (2/5)
M ɡ→
N→
y
x
θ
φ
F→
z
92
d vGx/dt 」と変形できる.これを(5-2-10)式に代入して,加速度の大きさ a は下の式となる.
a = d vGx
dt = 57 ɡ sin φ (5-5-13)
問題 5-27 質量 M,長さ 2ℓ の棒(棒の重心を回転軸としたときの慣性モーメント I = M ℓ 2/3)が摩擦の影響のある床面に斜めに
置かれている.棒には図のように重力 M ɡ→(大きさ M ɡ)と床からの垂直抗力N→
(大きさ N)と摩擦力f→
(大きさ f)が作用
して,棒は滑り落ちている.垂直抗力の大きさ N と摩擦力の大きさ f を求めよ.
問題の答
問題 5-1 1) 運動量保存則を用いて,衝突後の物体Bの速度 v→'B は下のようにして求める.
「衝突前の全運動量 = 衝突後の全運動量」 → mA v→A + mB v→B = mA v→'A + mB v→'B
→ 4 * ( – 3.0, 0.0) + 2 * ( 0 , 0) = 4 * (– 1.0 , – 2.0) + 2 v→'B → 2 v→'B = (– 12+4 , 8) = (–8 , 8) kg m/s
→ v→'B = (–4.0 , 4.0) m/s
2) 衝突により物体Aが受ける力積 F→B→A Δt = 物体Aの運動量変化 = mA v→'A – mA v→A = (– 4, – 8) – (– 12, 0)
= (8.0 , – 8.0) N s
問題 5-2 1) 図より,速度 v→'A = (v'A cos 45 ° , v'A sin 45 °) = ( 2 v'A /2 , 2 v'A /2 ),速度 v→'B = (v'B cos 45 ° , – v'B sin 45 °)
= ( 2 v'B /2 , – 2 v'B /2 )
2) 衝突前の全運動量p→tot = mA v→A + mB v→B = 2 (4 , 0) + 4 (0 , 0) = (8.0 , 0) kg m/s
3) 運動量保存則より, 「 衝突前の全運動量 = 衝突後の全運動量 」 → mA v→A + mB v→B = mA v→'A + mB v→'B
→ (8 , 0) = ( 2 v'A , 2 v'A ) + (2 2 v'B , –2 2 v'B ) = ( 2 v'A + 2 2 v'B , 2 v'A – 2 2 v'B )
→ x 成分; 8 = 2 v'A + 2 2 v'B ① , y 成分; 0 = 2 v'A – 2 2 v'B ②
①式+②式 より, 8 = 2 2 v'A → v'A = 2 2 = 2.82 ~ 2.8 m/s, ②式より,v'B = v'A/2 = 2 =1.41 ~ 1.4 m/s
z x
y θ
θ M ɡ→N→
G
f→
93
問題 5-3 運動量保存則より, 「 mA v→A + mB v→B = (mA + mB ) v→' 」 が成立する. → v→' = (mA v→A + mB v→B)/(mA + mB )
物体 A に働いた力積F→
B→A Δt = 物体 A の運動量変化 = mA v→' – mA v→A =mB
mA+mB (v→
B – v→A)
衝突前の全運動エネルギーK=1 2 mA vA
2 +1 2 mB vB
2
衝突後の全運動エネルギーK' =1 2 (mA + mB) v'
2 =1 2
mA2 vA2 + 2 mA mB v→A· v→B +mB2 vB2mA+mB
運動エネルギーの変化 ΔK = K' – K = –1 2
mA mBmA+mB vA
2 +mA mBmA+mB v
→A·v→B – 1 2
mA mBmA+mB vB
2
= –1 2
mA mBmA+mB (v
→A – v→B)2 < 0 → (運動エネルギーが衝突によって減少する)
問題 5-4 運動量保存則より,「始めの運動量 = 時間 δt だけ経過した後の運動量」から求める.宇宙船は噴射した燃料の分
だけその質量が減少している.
→ M V0 = (M – ρ δt) V + ρ δt (V – v) → V = M V0 + ρ δt v
M = V0 +ρ δtM v
問題 5-5 運動量保存則と反発係数の関係式を連立方程式にして求める.
運動量保存則より, mA vA + mB vB = mA v'A + mB v'B → 2 * 1 + 3 * 5 = 2 v'A + 3 v'B → 17 = 2 v'A + 3 v'B ①
反発係数の関係式より, e = –v'A – v'BvA – vB → 0.25 = –
v'A – v'B1 – 5 → 1 = v'A – v'B ②
①式+3*②式 → 20 = 5 v'A → v'A = 4.0 m/s → ①式に代入, 3 v'B = 9 → v'B = 3.0 m/s
問題 5-6 (5-1-14)式から,弾性衝突(e = 1)では,衝突後の速度のx成分はそれぞれ下の式で表すことができる.
v'Ax =1
mA + mB { (mA – mB) vAx + 2 mB vBx }, v'Bx =1
mA + mB { 2 mA vAx + ( mB – mA) vBx }
衝突前の全運動エネルギーKtotは次の式で表される. Ktot =12 mA (vAx
2 + vAy 2) +12 mB (vBx
2 + vBy 2)
衝突後の全運動エネルギーK'totは次の式で表される. K'tot =12 mA (v'Ax
2 + vAy 2) +12 mB (v'Bx
2 + vBy 2)
全運動エネルギーが保存されていることを確認するために,下の計算を行う.
mA v'Ax 2 + mB v'Bx 2 = ( )1mA + mB 2 { mA (mA – mB)2 vAx2 + 4 mA mB2 vBx2 + 4 mA mB (mA – mB) vAx vBx + 4 mA2 mB vAx2 + (mB – mA)2 mB vBx2 – 4 mA mB (mA – mB) vAx vBx }
= ( )1mA + mB 2 { mA (mA + mB)2 vAx2 + (mB + mA)2 mB vBx2}= mA vAx2 + mB vBx2 → K'tot = Ktot → この場合,全運動エネルギーは保存される.
問題 5-7 運動量保存則より, mA vA + mB vB = mA v'A + mB v'B → mA v = mA v'A + mB v'B ①
94
反発係数の関係式より, e = –v'A – v'BvA – vB
= –v'A – v'B
v→ e v = – v'A + v'B ②
①式 + mA * ②式 より, v'B =mA (1+e)mA + mB
v , ①式– mB * ②式 より, v'A =mA – e mBmA + mB
v.
衝突後の全運動エネルギーK'tot は, K'tot =12 mA v'A
2 +12 mB v'B
2
= 12 ( )1mA + mB 2 { mA (mA – e mB)2 + mB mA2 (1+e)2 } v 2
→ 弾性衝突(e=1)では, K'tot = 12 ( )1mA + mB 2 { mA (mA – mB)2 + 4 mB mA2 } v 2
=12 ( )1mA + mB 2 mA (mA + mB)2 v 2 = 12 mA v 2 → 衝突前の全運動エネルギーKtot に等しい
問題 5-8 物体AとBの運動方程式は下のように,ばねの弾性力が2つの物体間の作用反作用の力になっている.
md 2yAdt 2 = – m ɡ – k (yA – yB – ℓ) ①, m
d 2yBdt 2 = – m ɡ + k (yA – yB – ℓ) ②
また,2つの物体の重心の位置YGと相対位置y B→Aは下の式で表される.
重心の位置 YG = (yA + yB)/2 相対位置 y B→A = yA – yB
①式+②式 より, 2md 2YGdt 2
= – 2m ɡ ③, ①式– ②式 より, md 2yB→A
dt 2= – 2k (y B→A – ℓ) ➃
③式より,重心の位置 YG は重力加速度 ɡ で落下運動,➃式より,相対位置 y B→A は(相対質量 m/2), ばね定数 k で
で単振動する.
問題 5-9 同様に,2つの物体に対し,運動方程式を立てる.
md 2yAdt 2 = – m ɡ – k (yA – yB – ℓ) ①, 3m
d 2yBdt 2 = – 3m ɡ + k (yA – yB – ℓ) ②
2つの物体の重心の位置YGと相対位置y B→Aは下の式で表される.
重心の位置 YG = (yA + 3 yB)/4 相対位置 y B→A = yA – yB
①式+②式 より, 4md 2YGdt 2
= – 4m ɡ ③, ①式–②式/3 より, md 2yB→A
dt 2= –
34 k (y B→A – ℓ) ➃
③式より,重心の位置 YGは重力加速度ɡで落下運動,➃式より,相対位置 y B→Aは角速度 ω=3k4m で単振動する.
問題 5-10 2つの物体に対し,運動方程式を立てる.
mAd 2xAdt 2 = – k (xA – xB – ℓ) ①, mB
d 2xBdt 2 = k (xA – xB – ℓ) ②
2つの物体の重心の位置XGと相対位置xB→Aは下の式で表される.
重心の位置 XG = (mA xA + mB yB)/(mA+mB) = (mA xA + mB yB)/M 相対位置 x B→A = xA – xB
①式+②式 より, d 2XGdt 2 = 0 ③, ①式/mA – ②式/mB より,
d 2xB→Adt 2 = –k (x B→A – ℓ)(
1mA +
1mB) ➃
95
重心は移動しない.相対位置 x B→A は角速度 ω =k (mA+mB)
mA mB で単振動する(換算質量 μ = mA m B/(mA+mB)).
2つの物体の位置を重心の位置と相対位置を用いて,xA = XG + mB x B→A/(mA+mB), xB = XG – mA x B→A/(mA+mB)と
表すことがで,2つの物体の運動エネルギーKA = mA{ mB vB→A/(mA+mB)}2/2,KB = mB{ mA vB→A/(mA+mB)}2/2 となり,
全運動エネルギーK = KA + KB =mA mB
2(mA + mB)vB→A2 =
μ2 vB→A
2 となる.一方,相対位置x B→Aに関する運動エネルギ
ーK B→Aは換算質量μを用いて,K B→A =μ2 vB→A
2 なので,「K = K B→A 」となることが確認できる.
問題 5-11 衝突後の物体 B の速度を v'B とすると,衝突で,運動量保存則が成立するので, 「 mA v = mA v' + mB v'B ① 」
また,弾性衝突なので, 「 e v = v = – v' + v'B ② 」が成立する.2つの式より,2つの物体の衝突後の速度は,
「 v' = (mA – mB) v/(mA+mB), v'B = 2 mA v/(mA+mB) 」と求めることができる.物体Aの失った運動エネルギーΔK =
K'A – KA = mA( v' 2 – v 2 )/2 = –4 mA mB
(mA + mB)2v 2.
衝突後,物体 B において,エネルギー保存則を用いる. 「 mB v'B 2/2 = k xmax 2/2 」より,ばねの最大の縮み xmax =
mB/k v'B = 2 mB/k * mA v/(mA+mB).
問題 5-12 系全体の質量 M = m1 + m2 + m3 =10 kg, 重心の位置R→
G は, M R→
G = (m1 r→1 + m2 r→2 + m3 r→3) = (2*1+3*(–3)+5*1,
2*2+3*1+5*(–3), 2*(–2)+3*4+5*2) = (–2, –8, 18) kg m, より,R→
G = ( –0.2, –0.8, 1.8) m.
問題 5-13 系全体の質量M = m1 + m2 = σ1 ℓ1 + σ2 ℓ2 = 2*4 + 4*3 = 20 kg. 重心の位置XGは, M XG =
= σ1
0
4xdx + σ2
4
7x dx = [ ]x2
4
0+ 2 [ ]x2
7
4 = 16 – 0 +2*(49 – 16) = 82 kg mより,重心の位置XG = 4.1 m.
問題 5-14 系全体の質量M = 面密度*面積 = σ πa2/2.x軸からの角度をθ,中心からの距離をrとすると,y座標は,「 y = r sin θ」
と表すことができる.また,微小面積要素 dS = dx dy = r dr dθ なので,重心の位置のy座標YGは,下の式のように計
算できる.
M YG = σ
(剛体内)
y dS = σ
(剛体内)
dx
y dy = σ
0
ardr
0
πdθ r sin θ = σ [ ]r33 a0 [ ]– cos θ
π
0=
23 σ a
3 .
したがって,重心の位置のy座標YGは,「 YG =43π a 」と求めることができる.
問題 5-15 この形状の面積Sは,「S = π (4a2 – a2)/2 = 3πa2/2 」となるので,全質量Mは,「 M = 3πσa2/2 」である.重心の位置
のy座標YGも,上の問題と同様に計算して求める. M YG = σ
(剛体内)
y dS = σ
a
2ardr
0
πdθ r sin θ
96
z
O
円板の半径 r
微小幅 dz
球の半径 a y
x
= σ [ ]r33 2aa [ ]– cos θπ
0=
23 σ * 7a
3 → 重心の位置のy座標YG =289π a .
問題 5-16 1辺の長さ2aで,図のように置かれた正三角形の上端における位置の
y座標は位置のx座標を用いて,「y = x/ 3 」と表すことができる.
したがって,正三角形の面積Sは,重積分を用いて下のように
計算することができる.
S =
(剛体内)
dS =
0
3 adx
(–x/ 3 < y < x/ 3 )
dy =
0
3 a 2x3
dx
=
x
2
33 a
0= 3 a 2 .
正三角形の質量Mは,「M = σ S = 3 σ a 2」となる.さらに,この正三角形の重心の位置R→G のx座標XGは下のよう
にして求めることができる.
M XG = σ
(剛体内)
x dS = σ
0
3 ax dx
(–x/ 3 < y < x/ 3 )dy = σ
0
3 a 2x 2
3 dx
= σ
2x
3
3 33 a
0= σ 2 a 3 . → 重心の位置のx座標XG =
23
a =2 3
3 a.
問題 5-17 密度σ で半径a の半球がある.半球の
体積V = 2πa3/3 であるので,半球の質
量Mは,「M = 2σπa3/3 」となる.
球の中心からz方向に微小幅dzの円板
を考える.この円板の半径rは,「a2 =
r2 + z2」の関係が成り立ち, その面積S
= π r2 である.この半球の重心の位置R→G
のz座標ZGは下のように求めることができる.
M ZG = σ
(剛体内)
z dV = σ
0
az dz
(剛体内)
dS = σ
0
az dz π r2 = σ π
0
az(a2– z2) dz
= σ π { a2 [ ]z22 a0 – [ ]z44
a
0} = σ π
a 44 → 重心の位置の z 座標 ZG =
3a8 .
なお,半球の体積Vは,積分を用いて下のように求めることができる.
V =
(剛体内)
dV =
0
adz
(剛体内)
dS =
0
adz π r2 = π
0
a(a2– z2) dz = π [ ]a2 z – z33 a0 =
2πa 3
3 .
3 a
y
x
y =13
x
97
問題 5-18 剛体棒に作用する全ての力を右に図示する.剛体棒の
中心(重心)には,重力Mɡ→,左端には棒を支える力R→と
抗力N→,右端には糸の張力S→と質量mのおもりによって
引かれる張力T→(張力T→の大きさTは,作用反作用の法
則(糸を介しておもりと剛体棒の間に働く力が張力T→)よ
り,おもりに働く重力の大きさm ɡと同じである)が作用し
ている.
力のつり合いを考える.x方向(水平方向)とy方向(鉛直方向)にお
ける力のつり合いは,下の式で与えられる.
x方向; N – S sin θ = 0 ①
y方向; R + S cos θ – M ɡ – T = 0 ②
さらに,長さ2ℓの剛体棒は回転しないので力のモーメントがつりあっている.ちょうつがいを原点Oとして,力の
モーメントの総和(反時計まわりの回転する向きを正とする)は,下の式が成り立っている.
力のモーメントの総和 = – M ɡ ℓ + S 2ℓ sin(π/2+θ) – T 2ℓ = – M ɡ ℓ + S 2ℓ cos θ – T 2ℓ = 0
→ S cos θ – T = M ɡ/2 → S cos θ = m ɡ – M ɡ/2 (②式に代入すると, R = M ɡ/2 )
S = (m ɡ – M ɡ/2)/cos θ, ①式より N = S sin θ = (m ɡ – M ɡ/2) tan θ
問題 5-19 剛体棒に作用する全ての力を右に図示する.剛体棒の中心(重心)
に重力Mɡ→,中心から右に長さaの場所に重力mɡ→,剛体棒の右端
に抗力N→と摩擦力f→,棒の左端に抗力R→が作用している.
x方向(水平方向)とy方向(鉛直方向)における力のつり合いは,
下の式で与えられる.
x方向; R – f = 0 ① y方向; N – M ɡ – m ɡ = 0 ②
剛体棒は回転しないので力のモーメントがつりあっている.棒の右端を原点Oとして,力のモーメントの総和(反時
計まわりの回転を正の向きとする)について,下の式が成り立っている.
力のモーメントの総和 = – R 2ℓ sin(π/2– θ) + M ɡ ℓ sin θ + m ɡ (ℓ –a) sin θ
= – R 2ℓ cos θ + M ɡ ℓ sin θ + m ɡ (ℓ –a) sin θ = 0 ③
①式と③式より,摩擦力の大きさ f = R = (M ɡ + m ɡ (1 – a/ℓ)) sin θ/(2 cos θ) = 12 (M + m (1 – a/ℓ)) ɡ tan θ.
(注意;剛体が壁や床に接触している場合,剛体は壁や床からその垂直方向に(垂直)抗力を受ける.さらに,壁や床
に摩擦があるとすると,摩擦力は壁や床と平行な向きに,剛体が動かないように作用する)
張力S→
抗力N→ θ
重力 m ɡ→
張力T→
重力 M ɡ→
θ支える力R
→
摩擦力f→
θ
抗力N→重力 Mɡ→
抗力R→
重力 m ɡ→
98
問題 5-20 棒の質量Mで長さが2ℓなので,線密度σは「σ = M/(2ℓ)」
である.棒の中央を回転軸とした場合の慣性モーメン
トI1 と端を回転軸とした慣性モーメントI2 は回転半径
ρを用いて下のように求めることができる.
I1 =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
x 2 σ dx
= σ
– ℓ
ℓx 2 dx = σ [ ]x33 ℓ– ℓ = σ
23 ℓ
3 =13 M ℓ
2,
I2 = σ
0
2ℓx 2 dx = σ [ ]x33 2ℓ0 = σ
83 ℓ
3 =43 M ℓ
2 .
問題 5-21 面密度σは「σ = M/(4ab)」となる.板の中央を回転軸とした場合の
慣性モーメントI1 と板の端(4角のうちの一つ)を回転軸とした慣性
モーメントI2 は下のように求めることができる。
I1 =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
ρ 2 σ dS
= σ
(剛体内)
(x 2 + y2) dS = σ
–a
adx
–b
b(x 2 + y2) dy
= σ
–a
adx [ ]x2 y + y33 b–b= σ
–a
adx (2x 2 b+
23 b
3)
= σ [ ]2x33 b + 2 3 b 3 x a–a = σ (43 a
3 b +43 a b
3 ) = 13 M (a
2 + b 2),
I2 = σ
0
2adx
0
2b(x 2 + y2) dy = σ
0
2adx [ ]x2 y + y33 2b0 = σ
0
2adx (2x 2 b+
83 b
3)
= σ [ ]2x33 b + 8 3 b 3 x 2a0= σ (163 a
3 b +163 a b
3 ) = 43 M (a
2 + b 2).
問題 5-22 面密度σは「σ = M/(πR2/2) = 2M/(πR2)」となる.半円板の中央を
回転軸とした場合の慣性モーメントI は,極座標系の微小面積
要素dS = dx dy = ρ dρ dθ なので,下のように求めることができる.
I =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
ρ 2 σ dS = σ
0
Rρ 3 dρ
0
πdθ = σ
R 44 π =
12 M R
2.
O2ℓ
x
z 軸
O ℓx
z 軸
– ℓ
Ox
yz 軸
x
y
z 軸
z 軸
O
99
問題 5-23 面密度σは「σ = M/(π(b2– a2))」となる.円環の中央を回転軸
とした場合の慣性モーメントI は下のように求めることができる.
I =
(剛体内)
ρ 2 σ dS = σ
a
bρ 3 dρ
0
2πdθ
= σ [ ]ρ44 ba 2 π = σb 4 – a 4
2 π = 12 M (b
2 + a2).
問題 5-24 密度σは「σ =M/V= 3M/(4πR 3)」となる.球の直径を回転軸
とした場合の慣性モーメントI は下のように求めることがで
きる(問題5-17の解法を参照).
I =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
ρ 2 σ dV
= σ
– R
Rρ 2 dz
(剛体内)
dS = σ
– R
Rdz
(剛体内)
ρ 2 dS
(微小面積 dS = dx dy = ρdρ dθ , 剛体内の領域; 0 < ρ < r (円板の半径 r = R2 – z2 ), 0 < θ < 2 π)
= σ
– R
Rdz
0
R2– z2ρ 3 dρ
0
2 πdθ = σ
– R
Rdz [ ]ρ44 R
2 – z2
0 2π
= σ
– R
Rdz
12 (R
2 – z2)2 π =σ π2
– R
R(R4 – 2 R2 z2 + z4) dz
= σ π2 [ ]R4 z – 23 R2 z3 + 15 z 5 R– R =
σ π2 (2 R
5 –43 R
5 +25 R
5 ) = σ π8
15 R5 =
25 M R
2.
問題 5-25 密度σは「σ =M/V=M/(a πR 2)」となる.円柱の円の中心を
回転軸とした場合の慣性モーメントI は下のように求める
ことができる.
I =
(剛体内)
dm ρ 2 =
(剛体内)
ρ 2 σ dV
= σ
0
adz
0
Rρ 3 dρ
0
2πdθ = σ a
R 4 4 2π = σ π a
R 4 2 =
12 M R
2.
問題 5-26 問題5-20に平行軸の定理(I ' = IG + M h 2 ; 重心の慣性モーメントIG, 重心からの距離h )を適用する.
ここでは,重心の慣性モーメントIG = I1で,重心からの距離h = ℓ である.したがって,IG + M h 2 = I1 + M ℓ 2
= M ℓ 2/3 + M ℓ 2 = 4M ℓ 2/3 = I2 となり,平行軸の定理が成り立つことを確認できた.
z 軸
z 軸
z 軸
100
さらに,問題5-21に平行軸の定理を適用する.重心の慣性モーメントIG = I1で,重心からの距離hの2乗=h2 = a 2+b 2
である.したがって,IG + M h 2 = I1 + M (a 2+b 2) =13 M (a
2 + b 2) + M (a 2+b 2) = 43 M (a
2 + b 2) = I2 となり,平行軸
の定理が成り立つことを確認できた,
問題 5-27 図より,棒の左端を原点とすると重心の位置R→
G = (XG , YG) = (ℓ cos(π/2– θ), ℓ sin(π/2– θ)) = (ℓ sin θ, ℓ cos θ) ①
となる.これより,重心の速度v→G = ( dX Gdt ,
dY Gdt ) = ℓ (cos θ
dθdt , – sin θ
dθdt ) となる.
加速度a→G = ( d 2XGdt 2 ,
d 2YGdt 2 ) = ℓ ( –sin θ ( )dθdt 2 + cos θ d
2θdt 2 , – cos θ ( )dθdt 2 – sin θ d
2θdt 2 )
と表すことができる.
さらに,重心の運動方程式は下のように表すことができる.
Md 2XGdt 2 = f ②,
Md 2YGdt 2 = N – M ɡ ③,
図のように時間経過とともに,角度 θ は時計回りに回転し,
回転角が増加するので,回転軸(重心)のまわりの回転の運動方程式は下の式で表すことができる.
– Id 2θdt 2 = – N ℓ sin θ + f ℓ cos θ ➃
②式より, M ℓ (–sin θ ( )dθdt 2 + cos θ d2θ
dt 2 ) = f ②'
③式より, M ℓ ( cos θ ( )dθdt 2 + sin θ d2θ
dt 2 ) = M ɡ – N ③'
cos θ * ②'式 + sin θ * ③'式 → M ℓd 2θdt 2 = f cos θ + M ɡ sin θ – N sin θ
上式に➃式から変形した( f cos θ = – (I/ℓ) d 2θ/dt 2 + N sin θ )を代入 → M ℓd 2θdt 2 = –
Iℓ
d 2θdt 2 + M ɡ sin θ
→ (M ℓ +Iℓ )
d 2θdt 2 = M ɡ sin θ → (慣性モーメント I =
M ℓ 23 を代入) →
d 2θdt 2 =
3ɡ4ℓ sin θ ➄
→ 両辺にdθdt をかけて時刻 t で積分する(このとき,時刻 t=0 で角度 θ = θ0 とする).
→ ( )dθdt 2 = 3ɡ2ℓ ( – cos θ + cos θ0 ) → ②'式に代入 f = 9Mɡ4 sin θ ( cos θ – 2 3 cos θ0 ), → ③'式に代入 N =
Mɡ4 (1 + 9 cos
2 θ – 6 cos θ cos θ0 ).
* 別解
時刻 t=0 で動き始めたとすると,エネルギー保存則より,下の式のように角速度 dθ/dt を求めることができる.
0 + M ɡ ℓ cos θ0 = (1 2 M vG
2 +1 2 I ( )dθdt 2 ) + M ɡ ℓ cos θ = 2M ℓ
2
3 ( )dθdt 2 + M ɡ ℓ cos θ → ( )dθdt 2 = 3 ɡ2 ℓ ( cos θ0 – cos θ ).
θ
θ M ɡ→N→
G
f→