8
粘土科学 第46巻 第2号131-138(2007) ― 粘 土 基 礎 講 座I― 粘土基礎講座1ワーキ ンググルーブ連載解説 ベン トナイ トの特性とその応用 株式会社ホージュン応用粘土科学研究所 〒379-0133群 馬 県 安 中 市 原 市1433-1 e-mail:[email protected] Characteristics and Application of Bentonite Masanobu ONIKATA HOJUNCO., LTD. Laboratory of Applied Clay Thechnology 1433-1, Haraich,Annaka, Gunma 379-0133, Japan 1.は じ め に 「ベ ン トナイ ト,モ ンモ リロナ イ ト,ス メ クタイ トは, 何 が違 うので しょうか 」「ベ ン トナ イ トは何 故,膨 らむ の で す か 」.この よ う な 内 容 の 質 問 を,粘 土(ベ ン トナ イ ト)を これか ら扱 お うとす る技術 者の方 々か ら時々受 け ます.ベ ン トナ イ ト,モ ン モ リロ ナ イ ト,ス メ ク タ イ トが ま る で 別 の 種 類 の 粘 土 で あ る か の よ う に捉 え ら れ, ま た,同 列 に 記 載 して い る 特 許,文 献 も 時 々見 受 け られ ます.ベ ン トナ イ トは,タ ルクや カオ リ ン といった無 機 工 業 材 料 と比 べ て,あ ま りポ ピ ュ ラ ー で は あ り ませ ん が,水 中で自身の体積の数十倍に水を吸収 して結晶が膨 らみ,ナ ノサ イ ズ に分 散 す る とい うユ ニ ー ク な特 性 を有 して い る た め,古 くか ら人 間 に利 用 さ れ て き た粘 土 です. ベ ントナイ トは ,今 か ら数 千 万 年(新 世 代 第3紀 中 新 生)か ら数 億 万 年(中 世 紀 白亜 紀 新 期)前,火 山が噴火 し,こ の火山灰が風によって運搬されて,海 底や湖底に 堆 積 し,そ の堆積物 が,温 度 ・圧力 と ともに浸食,風 化 作 用 を 受 け る こ とに よ って,ま た,地 熱 に よ る熱 水 作 用 を受 け る こ とに よっ て,鉱 床 が 生 成 さ れ ま した.1888年 に 米 国 ワ イ オ ミ ン グ州FortBentonで 発 見 され,そ の 地 名 に 因ん でベ ン トナ イ トと命 名 され ま した.ア メ リ カ,ロ シア,ギ リシャ,イ タリア,日 本,イ ン ド,中国 等,世 界 各 地 で 産 出 され,日 本 で の 年 間 生 産 量 は50万ト ン程 度 で,輸 入 品 を含 め て,65万トン程 度 が 日本 国 内 で 使用 され てい ます.ベ ン トナイ トは粘土鉱 物 モ ンモ リロ ナ イ トを主 成分 とし,ク ォー ツ,ク リス トバ ライ ト,ゼ オライ ト,長石,方 解石等の随伴鉱物を含んでいる粘土 で す.水 中 で 膨 潤 し,各 種 化 学 物 質 を吸 着,イ オ ン交 換 す る等,無 機 物 質 と して は特 異 な多 機 能 を 有 し,ま た, 層状のナノサイズの結晶であるため,今 日,様 々な工業 分野,例 えば,土 木におけるレオロジー性,泥 壁形成性 及び潤滑性付与剤,鋳 物における粘結剤,動 物における 排泄物の固化材,農 薬における粘結剤,除 放剤,農 業に おける土壌改良材,廃 棄物処分における遮水材,バ リヤ 材,食 品等における吸着剤,最 近ではプラスチックにお ける機能性 フィラー材等,化 学工業に利用される分野は 多岐 に渡 って い ます.本 稿 で はベ ン トナ イ トの特性 とそ の 応 用 と して 工 業 的 な用 途 に つ い て述 べ ます. 2.ベ ン トナ イ トの特性 2-1.結 晶構造 モ ンモ リ ロ ナ イ ト,バ イ デ ラ イ ト,ヘ ク トラ イ ト,サ ポナイ ト,ス チブ ンサ イ トの よ うに,膨 潤 す る機能 等 を 有 す る 粘 土 鉱 物 の グ ル ー プ を ス メ ク タ イ トとい い ます. こ の ス メ ク タ イ トの代 表 的 な粘 土 鉱 物 で あ るモ ンモ リ ロ ナ イ トを主 成分 と した粘土がベ ン トナイ トであ り,ベ ン トナ イ トの特性 は,モ ンモ リロナ イ トの性 質及 びその含 有 量 に よ っ て 決 定 され ます.モ ンモ リロナ イ トは,厚 み

―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

  • Upload
    letuyen

  • View
    224

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

粘 土科学 第46巻 第2号131-138(2007)

―粘 土基 礎 講 座I―

粘土基礎講座1ワ ーキンググルーブ連載解説

ベン トナイ トの特性とその応用

鬼 形 正 伸

株 式 会 社 ホ ー ジ ュ ン応 用 粘 土 科 学 研 究 所

〒379-0133群 馬 県 安 中 市 原 市1433-1

e-mail:[email protected]

Characteristics and Application of Bentonite

Masanobu ONIKATA

HOJUN CO., LTD.Laboratory of Applied Clay Thechnology

1433-1, Haraich, Annaka, Gunma 379-0133, Japan

1.は じめに

「ベ ン トナイ ト,モ ンモ リロナイ ト,ス メクタイ トは,

何が違 うので しょうか」「ベ ントナイ トは何故,膨 らむ

のですか」.こ のような内容の質問を,粘 土(ベ ントナ

イ ト)を これか ら扱おうとする技術者の方 々から時々受

けます.ベ ントナイ ト,モ ンモリロナイ ト,ス メクタイ

トが まるで別の種類の粘土であるかの ように捉えられ,

また,同 列に記載 している特許,文 献も時々見受けられ

ます.ベ ントナイ トは,タ ルクやカオリンといった無機

工業材料 と比べて,あ ま りポ ピュラーで はあ りません

が,水 中で自身の体積の数十倍に水を吸収 して結晶が膨

らみ,ナ ノサイズに分散するというユニークな特性 を有

しているため,古 くから人間に利用されてきた粘土です.

ベ ントナイ トは,今 から数千万年(新 世代第3紀 中新

生)か ら数億万年(中 世紀白亜紀新期)前,火 山が噴火

し,こ の火山灰が風によって運搬されて,海 底や湖底に

堆積 し,そ の堆積物が,温 度 ・圧力とともに浸食,風 化

作用を受けることによって,ま た,地 熱 による熱水作用

を受けることによって,鉱 床が生成されました.1888年

に米国ワイオ ミング州FortBentonで 発 見 され,そ の

地名に因んでベ ン トナイ トと命名され ま した.ア メリ

カ,ロ シア,ギ リシャ,イ タリア,日 本,イ ン ド,中 国

等,世 界各地で産出され,日 本での年間生産量は50万 ト

ン程度で,輸 入品を含めて,65万 トン程度が 日本国内で

使用されています.ベ ン トナイ トは粘土鉱物モンモリロ

ナイ トを主成分 とし,ク ォーツ,ク リス トバライ ト,ゼ

オライ ト,長 石,方 解石等の随伴鉱物を含んでいる粘土

です.水 中で膨潤 し,各 種化学物質を吸着,イ オン交換

する等,無 機物質としては特異 な多機能を有 し,ま た,

層状のナノサイズの結晶であるため,今 日,様 々な工業

分野,例 えば,土 木におけるレオロジー性,泥 壁形成性

及び潤滑性付与剤,鋳 物における粘結剤,動 物における

排泄物の固化材,農 薬における粘結剤,除 放剤,農 業に

おける土壌改良材,廃 棄物処分における遮水材,バ リヤ

材,食 品等における吸着剤,最 近ではプラスチックにお

ける機能性 フィラー材等,化 学工業に利用される分野は

多岐に渡っています.本 稿ではベ ントナイ トの特性 とそ

の応用 として工業的な用途について述べ ます.

2.ベ ン トナイ トの特性

2-1.結 晶構造

モンモリロナイ ト,バ イデライ ト,ヘ ク トライ ト,サ

ポナイ ト,ス チブ ンサイ トのように,膨 潤する機能等を

有する粘土鉱物のグループをスメクタイ トといいます.

このスメクタイ トの代表的な粘土鉱物であるモ ンモリロ

ナイトを主成分とした粘土がベ ン トナイ トであ り,ベ ン

トナイ トの特性 は,モ ンモリロナイ トの性質及びその含

有量によって決定 されます.モ ンモリロナイ トは,厚 み

Page 2: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

第46巻 第2号(2007) ベ ン トナイ トの特性 とその応用 132

が約1nmの 薄い板状結晶が積み重 なった層状構造を形

成 してお ります.1枚 の結晶は,4つ の酸素 を頂点 と

し,そ の中央 に珪素が入 りこんだSi1O6(OH)4の 四面体

構造,そ の構造がシー ト状に連なった四面体 シー トの問

に,6つ の水酸基を頂点 とし,そ の中央にアル ミニウ

ム,ま たはマ グネシウムが入 り込んだ,Al2(OH)6,ま

たはMg3(OH)6の 八面体構造,そ れがシー ト状 に連なっ

た八面体 シー トが挟 まれた三層か らなるアルミノシリ

ケー ト層 で す.結 晶 の横 方 向の長 さは学 術 的 には

1000nm程 度 と言われていますが,実 際の電子顕微鏡観

察や レオロジー解析結果か らは,200か ら30onm程 度で

す.八 面体構造中の3価 のAlが,部 分的に2価 のMg,

Feに 置 き替わっている,学 術的には,こ のことを同形

置換 と呼びますが,即 ち,結 晶が電荷的に歪んでいるた

め1枚 の結晶は電荷が不足 し,そ の結果,結 晶層面には

マイナスの永久層電荷を帯びます.そ の電荷 を補償する

ために結晶同士の間である層間には,地 中に多 く存在 し

ているNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+ の

ようなアルカ リ土類金属 の陽イオンが吸着 されてい ま

す.こ れらの陽イオンは,水 分子を水和 した状態で存在

し,他 の陽イオ ン,例 えば有機陽イオン等 と自由にイオ

ン交換することが可能ですP.天 然ベ ン トナイ トの交換

性の陽イオ ンはNa+,Ca2+,Mg2+,K+の4種 類 か ら成

り,Na+イ オンが主であるベ ントナイ トをNa型 ベ ン ト

ナイ トといい,水 中での膨潤性,増 粘性,分 散性が優れ

てお ります.Ca2+ イオンが主であるベ ン トナイ トをCa

型ベントナイ トといい,Na型 ベントナイトよりも膨潤性,

増粘性 分散性は劣 りますが,吸 着性が優 れてお りま

す.工 業的にCa型 ベ ン トナイ トに数wt.%のNa2CO3を

加えて,Ca型 をNa型 にしたものを活性化ベ ン トナイ

トといい,Na型 ベ ントナイ トと同様な特性を示 します.

2-2Iイ オン交換

Na+イオンを層問に持つ理想的なNa型 モンモリロナ

イ トの構造 式 は[Na2/3Si8(Al10/3Mg2/3)O20・(OH)4]で

表 され,化 学式量 は734で す.667meqのNa+イ オ ンを

吸着 している ことか ら理論 陽イオ ン交換容量(CEC)

は91.5meq/100gと なり,モ ンモリロナイ ト100g当 た り

5×1022個 のNa+ イオンを結晶層面に吸着 している計算

とな ります.層 間の交換性陽イオンはイオン交換によっ

て,イ オン濃 度にも依存 しますが原子価の高いイオン

程,同 じ原子価の場合はイオン半径の大 きい程,よ り選

択的にそれ ら陽イオ ンが層間に挿入(イ ンターカ レー

ト)し ます.無 機陽イオンにおける順列は,以 下の通 り

です2).

Li+<Na+<K+<Mg2+<Ca2+<Ba2+<Al2+<Fe3+<H+

H+イオンはモ ンモリロナイ ト結晶層面に存在する酸

素 と特別な結合,即 ち,水 素結合することにより,多 価

陽イオンよりも優先的に結晶層間にインターカレー トし

ます.ベ ン トナイ トを塩酸や硫酸にて処理 した酸処理ベ

ントナイ トは結晶層間の陽イオンがH+イオ ンか らなり,

また,酸 による結晶の溶解により,表 面積が増加するた

め,優 れた吸着性 を示 します.

これ ら無機陽イオ ンよりも分子量の大 きな有機陽イオ

ンは,よ り優先的に層間にインターカレー トします.長

鎖アルキル基を有する4級 アンモニウムイオンがイオ ン

交換によって層間にインターカレー トした複合体である

有機ベ ントナイ トは,強 い親油性 を示 し,石 油系炭化水

素類やベ ンゼ ン,ト ルエ ン,キ シレンのような比較的低

極性の有機溶剤が長鎖 アルキル基 と溶媒和するこ とに

よって層問に取 り込 まれて膨潤 します3).こ のため有機

溶剤系のレオロジーコントロール剤 として広 く利用 され

ています.陽 イオン染料であるメチ レンブルーイオンは

1分 子あた り1.3nm2の 分子占有面積 を有 し,モ ンモ リロ

ナイ トと定量的にイオン交換によって吸着 し,メ チ レン

ブルーイオン-モ ンモリロナイ ト複合体を形成します.

モンモ リロナイ トのメチレンブルーイオン吸着量は,モ

ンモ リロナイ ト100g当 た り100mmol程 度なので,モ ン

モリロナイ トが水中で分散した時の表面積である内部表

面 積 は,100mmol/100g/100×6×1023×130×10-10=

780m2/g程 度 と計 算で きます.こ の値 は体積 基準 で

2000m2/cm3(粘 土)と な り,活 性炭に匹敵 します.ま

た,メ チ レンブルーイオンはモ ンモリロナイ トのみに吸

着 され,ベ ントナイ ト中の随伴鉱物には吸着 されないた

め,ベ ン トナイ ト中のモンモリロナイ トの定量方法 とし

ても利用 されています.乾 燥 したNaベ ントナイ ト粉末

を水に十分に分散させ,モ ンモ リロナイト以外の比重の

大 きな随伴鉱物 を自然沈降及び遠心分離機を使って強制

的に除去 した高純度モンモリロナイ トは精製ベ ントナイ

トといわれ,膨 潤性,増 粘性,分 散性,吸 着性に優れ,

化粧品,塗 料,食 品等のファインな分野で使用 されてい

ます.こ の精製ベ ン トナイ トを1molのNaCl,ま たは

CaCl2の ような電解質水溶液中に数時間,分 散 させ,遠

心分離 上澄液の除去操作を数回繰 り返し,最 後にエ タ

ノール水溶液を加 えて,上 澄液中に塩素が観察されな く

なるまで洗浄 を繰 り返 して作製 したモ ンモ リロナイ ト

は,層 間の交換性陽イオンが人工的に一種類の陽イオン

か らな り,ホ モイオニ ックモ ンモ リロナイ トをいわれ,

学術研究用に利用 されています.

2-3.膨 潤,分 散,会 合

モ ンモリロナイ トは水 と接触すると,層 間の交換性陽

イオンに水分子が次々に水和するため結晶の底面同士の

間隔である底面間隔が増加 して膨潤 します.Na型 モ ン

モ リロナイ トは,Na+イ オンの介在によるアル ミノシリ

ケー ト層同士の電気的引力が弱いため,Na+ イオンに水

分子が水和 して層問に次々に水分子をインターカレー ト

し,底 面間隔が4nm以 上に広が った状態であるオスモ

チ ック膨潤(Osmotic Swelling)を 示 し,巨 視的な体積

膨張を示 します.一 方,2価 陽イオンのCa2+,Mg2+イ

オンを層間 に持つCa型,Mg型 モンモ リロナイ トは,

これ らの交換性陽イオンの介在によるアル ミノシリケー

Page 3: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

133 鬼形正伸 粘土科学

ト層同士の電気的引力が強いため,層 間への水分子のイ

ンターカレー トが制限され,底 面間隔が4nm以 下の限定

した微視的膨張である結晶性膨潤(Crystamne Swelling)

を示 します.Na+イ オンと同じ1価 の陽イオンであるK+

イオ ンを層間に持つK型 モ ンモ リロナイ トは,K+ イオ

ンの大 きさが,モ ンモリロナイ ト結晶層面の酸素か ら成

る表面酸素六員環のサイズとほぼ一致 し,K寺 イオンが

結晶層面に固定化 されて安定な構造 を形成するため,結

晶性膨潤を示 します.

アルコール,ア セ トンのような有機溶剤もまた,層 間

の交換性陽イオ ンと溶媒和 して有機溶剤 をイ ンターカ

レー トすることがで きます・ しか し,こ れ らの有機溶剤

は,層 間に1な い し2分 子層(底 面間隔で1.4か ら1-9nm

程度)し かインターカレー トできず,結 晶性膨潤 を示 し

ます-表1に 各溶剤の物理特性 とそれらの溶剤 を混合 し

た時のNa型 モンモ リロナイ トの底面間隔を示 します.

水以外でモ ンモリロナイ トをオスモチック膨潤 させる有

機溶剤 としては,ホ ルムアミド,N-メ チルホルムアミ

ドが知 られています4),水 及びこれ らの有機溶剤 は,交

換性陽イオンに溶媒和することができる性質である電子

対供与性の尺度を示す ドナー数(DN)5),溶 剤 同士が分

子間水素結合を形成することがで きる性質である電子対

受容性の尺度を示すアクセプター数(AN)6)が ともに大

きい溶剤です.

図1に,モ ンモリロナイ トにDNの 大きい溶剤・並び

にDN,ANが ともに大きい溶剤 を混合 した時の膨潤挙

動を示 します・モンモリロナイ トにDNの 大 きな溶剤を

混合すると,DNの 大 きい溶剤は,モ ンモ リロナイ トの

交換性 陽イオンと溶媒和 し交換性陽イオンの回 りにDN

の大 きい溶剤か ら成る第1溶 媒和殻 を形成します.し か

し,DNの 大きい溶剤は,新 たに層間ヘインターカレー

トする能力がないため,結 晶性膨潤を示 します(図1―

a).一 方,水,ホ ルムアミドのようなDN,ANが とも

に大 きい溶剤は,先 ず交換性陽イオンと溶媒和 して第1

溶媒和殻を形成 し,ま た,溶 剤同士が分子間水素結合を

形成す る能力を有 しているために第1溶 媒和殻の回 りに

第2溶 媒和殻が発達 しオスモチ ック膨潤 を示すようにな

ります(図1-b).

つま り,DNとANの ともに大きい2官 能性の溶剤が,

モ ンモリロナイ トをオスモチ ックに膨潤することがで き

る溶剤 といえます7).

八面体構造 に由来する水酸基 を有す る結晶端面は,

pHに よって電荷が変化するpH依 存電荷 を示 し,酸 性

領域ではプラス,中 性領域では中立,ア ルカリ領域では

マイナスの電荷を帯びます8).酸 性領域でのモンモリロ

ナイ トの陰イオン交換容量(AEC)は20meq/100g程 度

Crystalline Swellhg(a) Osmotic Swelling

(b)

図1 溶剤の ドナー数(DN),ア クセプタ→数(AN)に よ

るモンモリロナイ トの膨潤挙動

表1 溶剤の物理特性と各溶剤を混合 した時のモンモリロナイ トの底面間隔

※MontmoriHonite/solvent=1/2wt.%

Page 4: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

第46巻 第2号 (2007) ベ ン トナ イ トの特性 とその応用 134

で,無 機及び有機陰イオンが結晶端面に吸着 します.ヘ

キサメタリン酸ソーダ,ト リポリリン酸 ソーダは,こ の

結晶端面に吸着 して水中におけるモ ンモリロナイ トの分

散剤 として作用 し,水 中で膨潤 したモ ンモリロナイ ト結

晶同士をより分散させ ます.ま た,結 晶端面の水酸基は

シリル化剤 と反応することができます.例 えば,ア ルキ

ル トリアルコキシシランで処理 したモンモリロナイ ト

は,結 晶層面は親水性のままで結晶端面にアルキルシリ

ル基が付加 して疎水性 となった部分疎水性のモ ンモリロ

ナイ トが形成できます.そ の水分散液の レオロジー特性

は,ア ルキル トリアルコキシシランのアルキル基の炭素

数の増加 とともに,分 散性が向上 し,粘 性が急激に増加

します9).

水中で十分に分散させたモンモ リロナイ ト水分散液を

静置状態に置 くと,マ イナスの電荷を有する結晶層面 と

プラスに帯電する結晶端面がお互いに引き合い,立 体的

な会合構造(カ ー ドハウス構造)を 形成することによっ

て構造粘性(チ キソトロピー性)を 発現 します.図2に

モンモリロナイ トの水中における膨潤及び会合構造モデ

ルを示 します10).

図2モ ンモリロナイ トの水中における膨潤及び会合構造

2-4.ベ ン トナ イ ト水 分 散 液 の 粘 性11)-15)

ベ ン トナ イ ト水分 散 液 の 粘性 は,モ ンモ リロ ナ イ ト結 晶

同 士 の相 互作 用 に よ って大 き く影 響 します.モ ンモ リ ロナ

イ ト結 晶 同士 の相 互 作用 と して,集 合(Aggregation),分

散(Dispersion),凝 結(Flocculation),解 膠(Denocculation)

の 各 状 態 が あ り,そ の モ デ ル を図3に 示 します.そ れ ら

の特 徴 を述 べ る と以 下 の通 りで す.

集 合(Aggregation)は 結 晶 同 士 の 層 面-層 面 との 結

合 で あ り,水 分 散 液 中 で の 結 晶粒 子 数 が 減少 し,そ の結

果,粘 性 が低 下 します.集 合 はCa2+イ オ ン の よ う な 電 解

質 の 添 加 に よ っ て 生 じ,最 初,粘 性 は 増 加 し,そ の 後,

Aggrigation(face to face)

Disperslon

7F-occulation

(edgetoface)(edgetoedge)

Dlflocculation

図3モ ンモリロナイ ト結晶同士の相互作用

時間とともに低下 します.分 散(Dispersion)は 集合の

逆の状態であ り,結 晶粒 子数は増加 し粘性 は増加 しま

す.凝 結(Flocculation)は 結晶同士の端面一端面,ま

たは層面一端面結合であり,粘 性 とゲル形成能が増加 し

ます.解 膠(Denocculation)は 凝結 した結晶同士の分

離であり,解 膠剤を添加することによって結晶同士の端

面-端 面,ま たは層面-端 面の引力を弱め られ,粘 性 は

低下 します.

2-5.電 解質,pHが 粘性に与える影響

図4に ベ ントナイ ト水分散液に各濃度の電解質(NaC1)

を添加(図4-a),高 濃度のベ ン トナイ ト水分散液に

各 濃度 のNaClを 添 加(図4-b),並 びに各濃 度の

NaCl水 溶液 にベ ン トナイ トを直接添加(図4-c)し

た時の粘性挙動を示 します11.12).NaCl無 添加では結晶

層面,端 面における電気二重層(モ ンモ リロナイ トの層

電荷 と層面に吸着 しているNa+ イオ ンの ような対イオ

ンを併せた層)は 十分に発達し,層 面-端 面結合である

カー ドハウス構造が形成 され,高 い粘性を示 します.し

か し,ベ ン トナイ ト水分散液 に数10mg/1のNaClを 添

加することにより結晶層面,端 面の電気二重層は圧縮さ

(b)

(a)

(c)

図4 各濃度のNaCl水 溶液での粘性挙動

Page 5: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

135 鬼形正伸 粘土科学

れ,層 面-端 面の引力及び層面-層 面反発力が減少 し,

その結果,カ ー ドハウス構造が崩壊 されるため粘性 は低

下 します16).数100mg/1のNaCl添 加によって結晶層面,

端面の電気二重層は更に圧縮 され,層 面 と端面 との引力

は強められ,再 び,層 面一端面引力と層面一層面反発力

とのバ ランスによってカー ドハウス構造を形成 しやす く

なります.そ れと同時にファンデアーワールス引力によ

る端面一端面結合が形成され,粘 性は増加 します.更 に

数1000mg/1のNaCl添 加 によって層面一層面結合が発

達 し,ま たはモンモリロナイ トが脱水 して結晶粒子数の

減少することにより粘性は低下 します.こ の ように,予

め水和 させたベン トナイ ト水分散液に電解質を添加して

い くと,上 述 したような特異な粘性挙動を示 します(図

4-a).ま た,高 濃度のベ ン トナイ ト水分散液に電解

質を添加すると,電 解質濃度の増加 とともに粘性は増加

します(図4-b).し か し,各 濃度のNaCl水 溶液 中

にベ ン トナイ トを直接添加する と,そ の粘性 はNaCl濃

度の増加 とともに急激に低下 し,全 く増粘性 を示さず,

モンモ リロナイ ト結晶同士が凝集,沈 殿 して しまいます

(図4-c).

電解質水溶液中でのモンモリロナイ トの分散安定性 を

高めるためには,マ イナスの電荷を帯びる結晶端面への

無機及び有機陰イオンの吸着 よって分散安定性が向上し

ます.ま た,予 めモ ンモリロナイ トに極性有機溶剤のプ

ロピレンカーボネー ト(PC)を 添加,混 合 して作製 し

た複合体を各濃度のNaCl水 溶液に分散 させると粘性は

増加 します.図5に 各濃度のNaCl水 溶液 におけるモン

モ リロナ イ ト及び モ ンモ リロナイ トに対 してPCを

25wt.%複 合 した時のモンモ リロナイ ト結晶の底面間隔

を示 してい ます.底 面間隔は0.3mol-NaCl濃 度で2.0か

ら4.Onmへ 急激 に増加するのに対 して,PC複 合体は1.0

molで2.0か ら4.5nmへ 急激 に増加 します.つ まり,PC

処理によってモンモリロナイ トの結晶性膨潤か らオスモ

チ ック膨潤 を示すNaC1水 溶液濃度は,03molか ら1.0

図5 各濃度のNaC(水 溶液中におけるプロピレンカーボ

ネート(PC)複 合体の底面間隔

molに 増加 します17).PC処 理量を増加するとオスモチ ッ

ク膨潤を示すNaCl水 溶液濃度は,更 に高濃度側にシフ

トします.PC以 外で電解質水溶液中でのモンモ リロナ

イ トの膨潤 性 を発 達 させ る溶剤 と して はア セ トン

(DN=17),ス ル ホ ラン(DN=14.8),ア セ トニ トリル

(DN=14.1)等 が あ ります.こ れ らの溶剤は,DNが 水

の18よ りも小 さい溶剤です.水 よりもDNの 小 さい溶剤

は,電 解質水溶液中でモンモ リロナイ ト層間の交換性陽

イオンに水和 している減少した水和核の回りに,こ の水 よ

りもDNが 小 さい溶剤が溶媒和殻 を形成するために膨潤

性が向上し,そ の結果,粘 度が増加すると考えられます.

ベ ントナイ ト水分散液のpHを 変動 した時の粘性挙動

を図6に 示 します13)'14).pHが7か ら95の 範囲で粘性 は

最 も低下 します.ア ルカリ領域ではpHが9.5か ら12程 度

に増加するとともに粘性 も増加 します.一 方,酸 性領域

で はpHが7.5か ら4程 度 まで低下す ると粘性 は増加 し,

pH4以 下になると逆に粘性は低下する傾向を示 します.

モ ンモ リロナイ トの結晶端面の等電点はpH7付 近であ

り,酸 性領域では,端 面はプラス電荷 となるため層面一

端面会合は強め られ ます.pH4付 近の粘度の増加は,

結晶層面一端面の会合であるカー ドハウス構造の形成の

発達 と考えられます.pH4以 下での粘度低下は,層 間

に優 先的に吸着 されるH+イ オンに よるNa+イ オンとの

イオン交換による膨潤性,分 散性の低下によると考えら

れ ます.pH4以 上ではプラス電荷 を有する端面の電荷

密度が低下 して,カ ー ドハウス構造が破壊 されるため粘

度が減少 し,ア ルカリ領域下では、層面,端 面ともにマ

イナスの電荷になり,層 面-層 面会合の発達 により粘性

が増加 します.

図6各pHで の粘性挙動

2-6.有 機物の分解

有機溶剤の ような有機分子は,層 間の交換性陽イオン

と配位結合,ま たはイオン上双極子相互作用することに

よって層間に有機分子をインターカレー トして有機分子

複合体 を形成 します18)-21).通常,モ ンモリロナイ ト層

Page 6: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

第46巻 第2号 (2007) ベ ン トナ イ トの特性 とそ の応用 136

問の交換性陽イオンには,水 分子が水和 してお り,交 換性

陽イオンに直接水和 した第1水 和殻の水(水0.2g以 下/g

粘土)は,通 常の水(自 由水)と は異なった特性 を示

し,密 度は1.4,粘 性 は 自由水の100倍,誘 電率 は3~

60,pHは1,特 にCa2+やMg2+の ような分極力(Z/R;

陽イオンのイオン半径Rに 対す る電荷Zの 比)の 大 き

な陽イオ ンに直接水和 した水 は,500℃ の高温でも蒸発

せず,高 圧でも流出しない等,特 異な物性 を示 します81.

水分子または有機分子が交換性陽イオンに配位する順序

は,前 述 したように電子対供与性の尺度を示 している溶

剤の特性値であるDNの 大きさによって決定 されます.

水分子のDN(=18)よ りも有機分子のDNが 小 さいな

らば,水 分子は,交 換性陽イオンに有機分子 よりも優先

的に水和 し,有 機分子はこの水分子を介在 として交換性

陽イオンと配位 します.交 換性陽イオンに直接水和 した

水分子は,酸 として,ま たはプロ トン供与体 として働 く

ために22)-25),モンモ リロナイ トによる各種有機化合物

の分解が報告 されてい ます26)鋤.交 換性陽 イオ ンに優

先的に水和 した水分子の一部は,交 換性陽イオンの分極

力,ま たは加熱によって分極を高め られてOH-とH+に

解離 し,こ の極性化 された水分子を介在して有機分子が

配位すると有機分子は分解 し,そ の分解量は層間の交換

性陽イオンに水和 した水の量 に制限されます30).

3.ベ ン トナイ トの応用

ベ ントナイ トの国内年間生産量50万 トン程度の内,用

途別では土木,鋳 物分野が各15か ら20万 トン程度 を占

め,動 物における排泄物の固化材(猫 砂)が8万 トン程

度で,こ れ らの3つ の用途で全体の90%を 占めます.次

に農薬,肥 料,ボ ーリングがこれに続 きます.

3-1.土 木工事の レオロジ上性,泥 壁形成性及び潤滑

性付与剤31)-34)

基礎工事 において,ド リルで地中に円筒状の深い穴を

開けていくと,単 に穴を掘 り進んでいったのでは側壁が

崩壊 してしまいます.こ のため,ベ ントナイ ト泥水(安

定液)を この掘削孔に満たしなが ら掘削を行うと,ベ ン

トナイ ト中のモンモリロナイ トの板状結晶が地層中に浸

透 して薄い泥のケーキ(マ ッドケーキ)を 形成 し,地 層

が安定 します.そ の結果,深 い深度の掘削が可能となり

ます.ま た,ベ ントナイ ト泥水 はチキソトロピー性 を有

しているため,掘 削液中に混入する土砂などの堀 くずの

沈澱を抑 え,泥 水中にこれらを留めてお くことができま

す.最 終的にこの掘削孔に鉄筋を挿入し,掘 削孔を満た

している安定液 とコンクリー トを置 き換 えることによっ

て,地 中にコンクリー トからなる柱を形成することがで

きます(ア ース ドリル工法).そ の他,ト ンネル工事に

おいて,地 中に トンネルを掘る場合,外 径が2mか ら4m

程度の泥水シール ドマシーンの先端から泥水を流 し,掘

削のための潤滑剤 として掘削土砂を排出し易 くするため

に使用 されています(シ ール ド工法).ま た,ト ンネル

の裏側 に生 じた隙間に注入するセメン ト,ベ ン トナイ

ト,水 を混合 した裏込め材 として,ボ ー リング用の潤滑

剤 としても利用 されています.

3-2.鋳 物の粘結剤35)

鋳物 とは鋳型内に作 りたい物 と同 じ空洞 を作 り,そ こ

に溶融金属 を流 し込み,凝 固させてで きた物をいい ま

す.鋳 物の技術がわが国へ渡来 したのは弥生時代の初

め,紀 元前300年 頃と言われてお り,大 仏から仏像,釣

鐘などで知られるように仏教 により栄えたと言えます.

仏像や鐘などは粘土で型を成形 して空洞を作 り,乾 燥 さ

せて鋳型を作 ります.こ れに対 して川砂や浜砂にベ ント

ナイ トを加えて水で練 り合わせ て成形す る方法が有 り,

乾燥 させないで成形するため,生 型(な まがた)と 呼ば

れています.ベ ントナイ トは砂の粒子同士をつなぎ合せ

る"の り"の 役 目で使用されてお り,安 価でしかも簡単

に入手できること,鋳 型の成型が加圧成型で済むこと,

少量補填するだけで数十回の繰 り返 し使用が可能である

ことから,自 動車のエ ンジンや部品成形の粘結剤 として

良 く利用されています.欠 点は,鋳 型の強度が制限され

るため,工 作機械や船舶のエ ンジン等,大 型鋳物 にはあ

まり適しません.

3-3.動 物における排泄物の固化材(猫 砂)

粒状のベ ン トナイ トは,動 物 の尿 を吸収することに

よって,ベ ン トナイ ト粒子同士が粘結 して固化 し,そ の

部分を取 り出して除去することができ,動 物用 トイレを

清潔に保つことができます.ベ ン トナイ トが尿を吸収 し

て封 じ込め,更 に尿中のアンモニアの分子サイズがモ ン

モリロナイト結晶層面の表面酸素六員環に近 く,ア ンモ

ニア分子が結晶層面 に固定され,臭 いの発散を防ぐこと

がで きるため1991年 頃から日本で も動物の尿の固化材 と

して大量に使用 されるようにな りました.

3-4-農 薬の粘結剤,除 放剤36)-37)

除草剤における粒剤を作製するときの粘結剤 としてベ

ン トナイ トは使用 され,粒 剤の強度が増加 し,粉 化の防

止に役立ちます.ま た,農 薬 を染み込ませた粒剤 を水田

に散布すると,ベ ントナイ トの膨潤性,崩 壊性を利用 し

て農薬成分が水田中に徐々に放出され,農 薬の効果が長

続きします.

3-5.吸 着剤

ベ ントナイ トは化粧品原料,食 品添加物 として認知 さ

れ,重 金属が50ppm以 下,砒 素が2ppm以 下等の基準

のもとに医薬品にも使用で き,食 品衛生法にも記載され

てお ります.例 えば,精 製 したベ ントナイ トはワインや

酢の清澄剤として利用されています.利 点は,1)タ ン

パク質の除去,2)銅 の除去,3)ポ リフェノールオキ

シダーゼの吸着及び除去,4)機 械的吸着による清澄化

Page 7: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

137 鬼形正伸 粘土科学

です.欠 点としては,1)赤 色色素の吸着,2)ビ タミ

ン及びアミノ酸の除去等です.白 ワイン,ロ ゼにはベン

トナイ トを使用できますが,赤 ワインはポリフェノール

が吸着 されて しまうためベン トナイ トは使用 されていま

せん.そ の他,ベ ン トナイトの吸着性を利用 して排水処

理剤にも利用 されており,硫 酸バ ンド(硫 酸アルミニウ

ム),PAC(ポ リ塩化 アルミニウム)の ような凝集剤 と

一緒に凝集剤の働 きを助けるため粉末活性炭,ア ルギン

酸 ソーダとともに凝集助剤として使用 されています.

3-6-土 壌改良材38)-42)

水 田は適度の排水のあることが稲作に対 して好 ましい

と考 えられてお り,日 浸透量 は20~25mm/dayが 適当

です.漏 水の全 く無い水田では,潅 漑水による酸素の供

給が不足するため,土 壌は強い還元状態 となり,水 稲は

被害を受けます.一 方,漏 水が多い水田では,水 温地温

の低下をまねき,冷 水の害を受けやす くなります.漏 水

田10ア ールあた りベ ン トナイ トを1か ら15t程 度施用

し,充 分に混合,シ ロカキを行 うことにより,土 壌の漏

水が著 しく抑制 され,肥 料の流出は減少するため肥料成

分の持続性が増 大 して施肥料 を1/2~2/3に 節約 で き

す.ま た水温地温が2~4℃ 高 まるので,そ れ らの総合

結果 として水稲 の収量は10~20%増 収する と言われて

います.

3-7.遮 水材,バ リヤ材43)-45)

農業用やゴルフ場のため池の遮水材として,ま た各種

廃棄物処分場の汚染物質の封 じ込めバリヤ材 として高密

度ポ リエチレンやゴム ・アスフ ァル ト,ポ リ塩化 ビニー

ルの ような高分子 のジオメンブ レンや,ジ オメンブレン

に顆粒状のベ ン トナイ ト粘土 を複合 させたジオシンセ

チッククレーライナー等が,遮 蔽構造に広 く利用 されて

います.ベ ン トナイ トは,水 による膨潤及び水 の移動 を

拘束することによ り低い透水係数 を有 し,地 殻変動や,

施工時によって生 じたジオメンブレンの亀裂部分を塞 ぎ,

拡散による汚染物質の漏洩を防止することがで きます.

3-8.機 能性 フィラー材46)-52)

二軸押出機等 を用いて溶融 したプラスチ ック中に有機

ベ ン トナイ トを混練 し,有 機ベ ン トナイ トの層状結晶構

造をナノレベルまでに剥離分散 させることによって,プ

ラスチ ックの強度,弾 性率,熱 変形温度等の機械的特

性,並 びに難燃性,ガ スバ リア性等の向上を目的 とした

ポ リマーナノコンポジット材料 が研究,実 用化 されてい

ます.

4.お わ りに

ベ ントナイ トの特性 とその応用 として工業的な用途に

ついて述べました.上 述 した ようにベントナイ トの工業

的用途では,土 木,鋳 物,猫 砂 で大部分を占め ます.し

か し,過 去十数年間のベ ントナイ トに関する出願特許内

容を分析 してみると,土 木,鋳 物,猫 砂,農 業のような

既存分野での特許件数に対 して,新 規分野での特許件数

はその3倍 以上にのぼ り,新 規分野の中でもプラスチ ッ

ク関連の特許が半分以上を占めています.そ の次にセラ

ミック,吸 着剤,紙 化粧品の順番 となってお ります.

このことか らも,ベ ン トナイ トは工業材料 として今後,

益々可能性 を秘めた粘土であるといえます.

引用文献

1) Grim R. E.(1953) Clay Mineralogy, 43-81.

2) 和 田 信 一郎 (1987) 粘 土ハ ン ドブ ック2版, 106-131.

3) Jordan J. W.(1949). J. Phys. Colloid Chem., 2,294-306.

4) Oljnic S., Posner A. M. and Quirk J. P.(1974) Claysand Clay Minerals, 22, 361-364.

5) Gutmann V.(1976) Electrochimia Acta., 21, 661-670.6) Mayer U., Gutmann V. and Gerger W.(1975)

Monatsh. Chem., 106, 1235-1257.7) Onikata M., Kondo M. and Yamanaka S.(1999)

Clays and Clay Minerals., 47, 678-681.8) 浅川実利, 嘉門雅史 (1988) 土木学会編, 新体系土

木工学16土 の力学 (I), 技報堂出版, 43-45

9) Onikata M., Kondo M.(1995) Clay Science., 9, 5,

299-310.

10) 近 藤 三 二 (1987) 粘 土 ハ ン ドブ ック2版, 960-963.

11) Rogers W. F.(1953) Composition and Properties of

Oil Well Drilling Fluids, Chapter VIII, pp.278-309.12) Chilingarian G. V., Vorabutr P.(1981) Drilling and

Drilling Fluids, Developments in Petroleum Science11, Chapter 8, pp.295-344.

13) Brandenburg U., Lagaly G,(1988) Applied ClayScience, 3, 263-279.

14) Gueven N.(1992) Clay-Water Interface and its

Rheological Implications, CMS Workshop Lectures, 4,82-125.

15) Heller H., Keren R.(2001) Clays and Clay Minerals,49, 4, 286-291.

16) Van Olphen H.(1977). An Introduction to Clay

Colloid Chemistry. 2nd Ed., J. Wiley and Sons, NewYork, 92-110.

17) Onikata M. and Kondo M.(2001) Clay Science forEngineering, Adachi and Fukue eds, 115-120.

18) MacEwan D. M. C.(1944) Nature, 154, 577-578.19) MacEwan D. M. C.(1948) Trans Faraday Sci., 44,

349-367.20) MacEwan D. M. C.(1960) Clays and Clay Minerals.,

9, 431-443.21) Reynolds R. C.(1965) Am. Minerals., 50, 990-1001.

22) Farmer V. C. and Mortland M. M.(1966) J. Chem.

Page 8: ―粘土基礎講座I― - 一般社団法人 日本粘土学会¦いるNa+,K+の ようなアルカリ金属やCa2+,Mg2+の ようなアルカリ土類金属の陽イオンが吸着されていま

第46巻 第2号 (2007) ベ ン トナイ トの特性 とその応用 138

Soc.,(A), 344-351.

23) Mortland M. M. and Raman K. V.(1968) Clays and

Clay Minerals., 16, 393-398.

24) Mortland M. M.(1970) Adv. Agron., 22, 75-117.

25) Theng B. K. G.(1974) The Chemistry of Clay-

Organic Reactions, 69-84.

26) Fusi P., Ristori G. G. and Malquori A.(1980) Clay

Minerals, 15,147-155.

27) Ristori G. G., Fusi P., Franci M.(1981) Clay

Minerals, 16,125-137.

28) Fusi P., Ristori G. G., Cecconi S. and Franci M.

(1983) Clays and Clay Minerals., 31, 312-314.29) Pantani O., Calamai L. and Fusi. P.(1994) Applied

Clay Science., 8, 373-387.

30) 鬼 形 正 伸 (2002) 表 面,40, 昼203-214.

31) 沖 野 文 吉 (1986) 新 版 ボ ー リ ン グ用 泥 水, 技 報 堂 出

版.

32) 地 下 連 続 壁 工 法 設 計 施 工 ハ ン ドブ ッ ク (1975) 日本

建 設 機 械 化 協 会 編, 技 報 堂, 110-186.

33) 宮 澤 政, 山本 公 夫 (1981) ア ー ス ド リル 工 法-そ

の 施 工 とベ ン トナ イ ト安 定 液, 理 工 図 書

34) 平 岡 成 明 (1991) 地 中 連 続 壁 の安 定 液, 山 海 堂.

35) 峯 田 俊 明, 株 式 会 社 ホ ー ジ ュ ン鋳 物 技 術 資 料.

36) 粉 体 工 学 会 誌 (1979) Vol.16, No.6, 造 粒 技 術-機

種 とバ イ ン ダー-, 粉 体 工 学 会/日 本 粉 体 工 業 協 会.

37) 近 藤 三 二 (1987) 粘 土 ハ ン ドブ ッ ク, 日本 粘 土 学

会, 技 報 堂 出 版, 948-957

38) 富 士 岡 義 一 (1959) ベ ン トナ イ トNo.1, 漏 水 田 の

ベ ン トナ イ トに よ る浸 透 抑 制 につ い て .

39) 沼 尾 林 一 郎 (1976) 日本 土 壌 肥 料, ベ ン トナ イ トの

土 壌 改 良へ の 利 用 と効 果.

40) 松 村 金 蔵 (1968) ベ ン トナ イ トNo.9, 農 業 土 木 へ

の ベ ン トナ イ ト施 用 例.

41) 長 堀 金 造 (1970) ベ ン トナ イ ト, ベ ン トナ イ ト関 す

る最 近 の進 歩, ベ ン トナ イ トの 農 業 的利 用.

42) 江 川 友 治 (1969), 土 じ ょ う ・肥 料 学, 農 芸 化 学 の

基 礎.

43) 水 野 克 己, 近 藤 三 二, 嘉 門 雅 史 (2003) 粘 土 科 学,

43, 1, 1-13.

44) 勝 見 武 (1999) ス メ ク タイ ト研 究 会92, 11-22.

45) 近 藤 三 二 (2005) 無 機 シ ー トの 科 学 と応 用, シ ー エ

ム シー 出版, 406-416.

46) E. P. Giannelis (1996) Adv. Mater., 8, 29-35.

47) Usuki A., Kojima Y., Kawasumi M., Okada A.,

Fukusima Y., Kurauch T. and Kamigaito O.(1993) J.

Mater. Res., 8, 1179-1184.

48) Shi H., Lan T. and Pinnavaia T. J.(1996) Chem.

Mater, 8, 1584-1587.

49) Grande J. A.(1999) Mod. Plas. Inter., Jan, 35.

50) Gilman J.(1999) Applied Clay Science, 15, 31-49.

51) Wang Z., LeBaron P. and Pinnavaia T.(1999)

International Conference on Additives, 8th, 87-95.

52) Wang H., Elkovitch M., Lee L. J. and Koelling K.

(2000) Soc. Plast. Eng. Annu. Tech. Conf. 58th, 2,2402-2406.