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CT画像診断におけるアルツハイマー病による
内側側頭葉の萎縮度自動評価法の開発
秋田県立脳血管研究センター 放射線医学研究部
特任研究員 高橋 規之
(共同研究者)
秋田県立脳血管研究センター 放射線医学研究部 部長 木下 俊文
はじめに
高齢化に伴い10年後には国内で380万人が認知症になると予測されており、その半数以
上はアルツハイマー病である。現在、高度専門病院では、positron emission tomography
(PET)や magnetic resonance imaging(MRI)という最新技術を用いた検査により早期発見
できるようになってきた。しかし、高額機器であるために検査が行える施設は限られている。
今後急増するアルツハイマー病患者に対応するためには、医療費を抑えた汎用性がある検査
が求められる。MRIでは、アルツハイマー病によって内側側頭葉領域が萎縮することを利用
し、コンピュータによる画像統計解析を用いて、側頭葉内側部の萎縮度をZスコアで表示す
るシステムが開発された[1-3]。内側側頭葉領域の萎縮を客観的に同定でき、臨床で広く用い
られるようになっている。computed tomography(CT)装置は、診療所等にも広く普及して
おり早期発見に寄与することが期待できる。しかし現状では、CTによるアルツハイマー病
の診断能力は高くない。
現在、CTがアルツハイマー病の診断に用いられることは多くない。CTは、MRIと比較して
脳組織間のコントラストが低く、また量子ノイズの影響により画像がざらついて見えてしま
い、内側側頭葉領域の萎縮を医師が判定することは困難である。同様に、コントラストと解
像度の問題から、MRIのようにコンピュータによる画像統計解析を用いて、側頭葉内側領域
の萎縮度を直接定量化することは難しい。
アルツハイマー病では、側頭葉内側領域の萎縮に伴って側脳室下角が拡大することが知ら
れている[4-6]。CT画像上で側脳室下角の径をマニュアルで計測する方法があり、アルツハイ
マー病の判定に有効であることがわかっている[5,6]。しかし、その煩雑性や計測者間の測定
値のばらつきなどの問題により、臨床では広く普及していない。本研究では、この問題を解
決しCT検査におけるアルツハイマー病の診断能力を向上させるために、側脳室下角容積自
動推定法を開発する。側脳室下角は、内側側頭葉領域とは異なり周りの組織とのコントラス
トが高いために、何らかの画像解析手法を用いて側脳室下角の容積を定量化することができ
ると考えた。
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本研究で提案する側脳室下角容積推定法は、我々が開発を行ってきたボクセル統計解析の
1つであるZスコアマッピング法をベースとする。この方法は、急性期脳梗塞によって発生
する、CT値が低下した領域を高Zスコア値として抽出し、カラー化して医師に提示すること
ができる[7,8]。側脳室下角領域は、拡大するにつれてCT値が低下していくため脳梗塞と同様
に高Zスコア値を示す可能性がある。本研究では、この仮説を基に側脳室周囲にvolume of
interest(VOI)を設定し、VOI内から求めたZスコアを利用して側脳室下角容積を推定する
システムを開発する。
方 法
本提案法のアルゴリズムは、主に、Zスコアマッピング法、ノーマルデータベースの構築、
VOIの設定とZスコアの算出からなる。初めに、すべてのCT画像をstatistical parametric
mapping2(SPM2)software(The Welcome Department of Cognitive Neurology, London,
United Kingdom) [9,10] を用いて解剖学的標準化を行い、個々の脳形態をアトラスに変形す
る。次に、Zスコアを算出するために、ノーマルデータベースを作成する。ノーマルデー
タベースは、平均値データと標準偏差データからなり、正常40例から構築した。対象とす
るCTデータのボクセルごとに、以下の式からZスコアを求めた。
z- score (x,y,z ) = ( M (x,y,z )- I (x,y,z ) ) / S (x,y,z ) (1)
ここで、I (x , y, z ) はアトラス座標上の入力データのCT値、M (x , y, z ) とS (x , y, z ) は、それぞれ同座
標上のノーマルデータベースの平均と標準偏差データの値である。
次に、アトラス座標上に左右の側脳室下角をカバーするようにそれぞれVOIを設定した。
VOIを設定した側頭葉の周囲の脳脊髄領域は、疑陽性として高Zスコア領域を示す可能性が
あるため、VOIを側頭葉辺縁からマージンをとって設定した。図1に、設定したVOIの一部
を示す。
図1 ノーマルデータベースの平均値画像上に重ね合わせたVOI
両側のVOIは、 Zスコアデータに自動設定され、VOI内から0以上のZスコア値を抽出し平
均Zスコア値を求めた。本提案法では、この平均Zスコア値を側脳室下角容積の指標とした。
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結 果
本提案法から求めた平均Zスコアが、側脳室下角の容積を正確に推定することができるか、
CT画像50例を用いて評価した。50例のCT画像は、大小様々なサイズの側脳室下角を有して
いた。CT画像データは、マトリクスサイズが512×512、表示サイズが205 ~ 246mm、スラ
イス厚は4.8mmであった。側脳室下角容積のゴールドスタンダードは、オリジナルCT画像
上のピクセル数で表わした。2名の放射線科医師が、側脳室下角の輪郭をオリジナルCT画像
上でトレースし、その内側領域のピクセル数を合計し、2名の平均値を側脳室下角容積のゴ
ールドスタンダード値とした。
図2に、側脳室下角容積と得られたZスコア値の関係を表すグラフを示す。回帰分析を行
った結果、側脳室下角容積のゴールドスタンダード値とZスコア値との間には、二次多項式
Y = 0.599 + 0.0017X - 1.39E-7X2 が、決定係数0.94、有意水準0.01%でフィットすること
がわかった。また、100個のうち92個の側脳室下角が95%信頼区間内に存在していた。
図2
50例の100個の側脳室下角に対するZスコア値と側脳室下角容積ゴールドスタンダード
値との関係を表すグラフ。 黒線は回帰曲線、 点線は95%信頼区間を表している。
図3に、本提案法を適用した例を提示する。拡大した両側の側脳室下角がCT画像に現れて
いる[図3(a)]。それらに一致してZスコアマップ上に高信号領域が見られる[図3(b)]。この
ときの左右の側脳室下角のZスコア値は、それぞれ2.91と4.30であった。
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図 3
拡大した側脳室下角にZスコア
マップ法を適用した例。
a) CT画像上に拡大した側脳
室下角が見られる (白矢印)。
b) Z スコアマップ上に側脳室
下角に一致して高信号領域が
現れている (黒矢印)。
考 察
本研究では、側脳室下角の容積に応じたZスコアが得られると仮定し、側脳室下角容積の
推定法を開発した。一般に、小さいサイズの側脳室下角は、CT撮像によるパーシャルボリ
ューム効果により実際のCT値よりも高くなり、大きいサイズの側脳室下角は、逆にパーシ
ャルボリューム効果の影響が少なくなり水のCT値に近づくためにCT値が低くなる傾向があ
る。したがって、サイズの大きい側脳室下角は小さいものよりも高Zスコアになる。本研究
では、実験結果から側脳室下角容積とZスコアとの間に関係が見られ、仮説の妥当性が明ら
かになった。
開発した手法は、Zスコアを用いて側脳室下角容積を推定する能力を持つことが明らかに
なった。今後、アルツハイマー病患者のCTデータに適用し、本提案法の臨床的有用性を検
証する予定である。アルツハイマー病では、側頭葉の萎縮が進んでいることが多く、側脳室
下角の周囲の脳溝が、本研究で設定したVOI内に入り込み、偽陽性領域を生み出す可能性が
ある。そこで、次のステップでは、アルツハイマー病患者に対する側脳室下角容積の定量化
の精度を高めるため、Zスコア画像上から脳溝による偽陽性領域を削除するアルゴリズムを
開発し、本手法に組み込む予定である。
現在臨床では、CTがアルツハイマー病の診断を目的として用いられることは多くない。
しかし、認知症症状を呈する水頭症、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫などを診断から除外する目的
で、CTは頻繁に広く使用されている。その時に、本提案法をCTデータに適用することにより、
アルツハイマー病の判定を行いスクリーニング検査することができれば、一般病院において
もMRIを用いることなくアルツハイマー病患者の拾い上げに貢献することができると考える。
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結 語
本研究では、アルツハイマー病の診断を支援する目的として、コンピュータを用いたCT
画像における側脳室下角容積の自動推定法を開発した。様々な容積をもつ側脳室下角100個
に本手法を適用した結果、本手法から得られる統計値Zスコアは、側脳室下角容積を正確に
推定できることが明らかになった(P < 0.0001)。今後、VOIの最適化などをさらに検討し、
実用的なアルツハイマー病の支援診断システムの構築を目指す。
要 約
本研究では、50例のCT画像を用いて100個の側脳室下角の容積を、提案法から求めたZス
コアによって推定した。回帰解析の結果、95%信頼区間に100個中92個の側脳室下角が含ま
れていた。この結果から、Zスコアによる統計解析法を基にした本提案法は、側脳室下角の
容積を定量化できる可能性が示唆された。
文 献
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