7
FUJITSU. 63, 4, p. 388-394 07, 2012388 あらまし 地上デジタル放送などに用いられているMPEG-2方式の画像圧縮データをより圧縮率 の高いH.264方式の画像圧縮データに,またH.264方式の画像圧縮データをより低いビッ トレートにそれぞれ変換することで,記録時間をより長く,ネットワークのトラフィッ クをより低くすることが求められている。本稿では,これらの用途に必要となるトラン スコード処理をリアルタイムで実行するLSIを紹介する。本LSIは画質面で最も有利とさ れる,画像圧縮データを一旦伸張し,再度圧縮するトランスコード方式を採用しており, 変換処理に伴う画質の劣化を最小限にしている。また,USBバスパワー(2.5 W以下)で の動作やPCI Express Mini Cardサイズ(30 mm×50.95 mm)への搭載などを可能とする ため,小型かつ低消費電力を実現しており,現状では地上デジタル,BSデジタル,CSジタルなどの放送の長時間記録の実現を目的として主にPC-TVPVRに採用されている。 昨今,スマートフォンやタブレットなどの携帯端末の普及に伴い,動画像のネットワー ク経由での視聴・録画の需要が増大しており,ネットワークのトラフィック低減や携帯 端末で再生可能な画像圧縮形式への変換などへの採用が見込まれている。富士通セミコ ンダクターでは,これらの用途に対応するため,新たなソリューションの構築を進めている。 Abstract Video data are compressed in MPEG-2 format for use in terrestrial digital broadcasting and such like. To extend the recording time and reduce network traffic, it is necessary to convert such data into H.264 format, which features an even higher compression rate, and also convert data in H.264 format into data of a lower bit rate. This paper introduces an LSI capable of transcoding, which is necessary for these conversions in real time. This LSI uses a transcoding method that is regarded as being the most advantageous in terms of image quality. With this method, encoded video data are decoded once and then re-encoded to minimize the degradation of video quality caused by the conversion processing. The LSI, which has also been given a small size and low power consumption to allow it to operate with USB bus power (up to 2.5 W) and be used in devices with the size of a PCI Express Mini Card (30×50.95 mm), is mainly used at present for PC-TVs and PVRs with a view to achieving long time recording of broadcasting including terrestrial digital, BS digital and CS digital broadcasting. As mobile devices such as smartphones and tablets have become widespread recently, the demand for viewing and recording videos via a network is increasing and it is hoped that the adoption of this LSI will reduce network traffic and convert data into video formats that allow them to be decoded on mobile devices. Fujitsu Semiconductor is working on coming up with new solutions to support these applications. 田中和幸 H.264 トランスコーダ LSI H.264 Transcoder LSI

H.264 Transcoder LSI

  • Upload
    others

  • View
    18

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4, p. 388-394 (07, 2012)388

あ ら ま し

地上デジタル放送などに用いられているMPEG-2方式の画像圧縮データをより圧縮率の高いH.264方式の画像圧縮データに,またH.264方式の画像圧縮データをより低いビットレートにそれぞれ変換することで,記録時間をより長く,ネットワークのトラフィッ

クをより低くすることが求められている。本稿では,これらの用途に必要となるトラン

スコード処理をリアルタイムで実行するLSIを紹介する。本LSIは画質面で最も有利とされる,画像圧縮データを一旦伸張し,再度圧縮するトランスコード方式を採用しており,

変換処理に伴う画質の劣化を最小限にしている。また,USBバスパワー(2.5 W以下)での動作やPCI Express Mini Cardサイズ(30 mm×50.95 mm)への搭載などを可能とするため,小型かつ低消費電力を実現しており,現状では地上デジタル,BSデジタル,CSデジタルなどの放送の長時間記録の実現を目的として主にPC-TVやPVRに採用されている。昨今,スマートフォンやタブレットなどの携帯端末の普及に伴い,動画像のネットワー

ク経由での視聴・録画の需要が増大しており,ネットワークのトラフィック低減や携帯

端末で再生可能な画像圧縮形式への変換などへの採用が見込まれている。富士通セミコ

ンダクターでは,これらの用途に対応するため,新たなソリューションの構築を進めている。

Abstract

Video data are compressed in MPEG-2 format for use in terrestrial digital broadcasting and such like. To extend the recording time and reduce network traffic, it is necessary to convert such data into H.264 format, which features an even higher compression rate, and also convert data in H.264 format into data of a lower bit rate. This paper introduces an LSI capable of transcoding, which is necessary for these conversions in real time. This LSI uses a transcoding method that is regarded as being the most advantageous in terms of image quality. With this method, encoded video data are decoded once and then re-encoded to minimize the degradation of video quality caused by the conversion processing. The LSI, which has also been given a small size and low power consumption to allow it to operate with USB bus power (up to 2.5 W) and be used in devices with the size of a PCI Express Mini Card (30×50.95 mm), is mainly used at present for PC-TVs and PVRs with a view to achieving long time recording of broadcasting including terrestrial digital, BS digital and CS digital broadcasting. As mobile devices such as smartphones and tablets have become widespread recently, the demand for viewing and recording videos via a network is increasing and it is hoped that the adoption of this LSI will reduce network traffic and convert data into video formats that allow them to be decoded on mobile devices. Fujitsu Semiconductor is working on coming up with new solutions to support these applications.

● 田中和幸

H.264トランスコーダLSI

H.264 Transcoder LSI

Page 2: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012) 389

H.264トランスコーダLSI

ま え が き

録画機能付きテレビやハードディスクレコーダでは,トランスコーダ(注1)を用いたH.264方式での長時間録画機能は今や標準となり,多くの機器にトランスコーダLSIが搭載されている。また,スマートフォンやタブレット製品などのモバイル機器でもHDコンテンツを視聴する機会が増えており,帯域幅の狭いワイヤレス伝送路上でデータ量の多いHDコンテンツを高圧縮して伝送するために,トランスコード機能が広がりつつある。富士通セミコンダクターは,フルHDの動画像を

H.264方式でリアルタイムに圧縮・伸張するコーデックLSI「MB86H51」を2007年5月に発表(1)した。また,同LSIの映像処理技術をベースに,第1世代のトランスコーダLSI「MB86H52」を2007年8月(2)に,更に機能強化,小型,低消費電力化を進めた第2世代のトランスコーダLSI「MB86H57」「MB86H58」を2009年5月に発表(3)している。今回,ハードディスクレコーダなど据置き機器や,ノートパソコン用アクセサリーなどのモバイル機器にも幅広く採用された第2世代のトランスコーダLSI「MB86H57」「MB86H58」に機能追加を行った,第3世代トランスコーダLSI「MB86M01」「MB86M02」「MB86M03」(以下,MB86M0x)を開発した。本稿では,現行製品の課題,MB86M0xの概要を述べた後,本LSIのシステム構成例および今後の開発予定を概説する。

現行製品の課題

MB86H57,MB86H58は,上述のとおり様々な製品に採用されているが,更なる用途拡大のために解決が必要な以下の課題を有している。(1) 世界各国の放送規格への対応

MPEG-2からH.264へのトランスコードのみの対応となっているため,H.264方式の放送向けの製品に用いることができない。(2) 携帯端末の表示解像度向上への対応サイマルトランスコード(フルHD解像度の入力

ま え が き

(注1) MPEG-2などの圧縮データをH.264などのより圧縮率の高い方式で再圧縮する(トランスコード)処理を実行する装置やLSI。

現行製品の課題

データからフルHDと,フルHD未満の解像度の2種類のストリームを同時に生成)時に,フルHD未満の解像度としてQVGAにしか対応できない。そのため,昨今のスマートフォンなどの携帯端末向けとしては解像度が不十分である。(3) USB運用時のデュアルトランスコード対応ホストインタフェースとしてUSBを選択した場合,マスタ/スレーブ接続機能(専用インタフェースでトランスコーダ2個を接続することでマスタ側のトランスコーダからスレーブ側のトランスコーダの制御を可能とし,ホストCPUから2個のトランスコーダを1個に見せる機能)に対応していないため,デュアルトランスコーダとして使用できない。(4) 画質改善高画質であることをお客様にも評価いただいているが,今後も業界トップクラスの画質を維持するためには,継続した画質改善が必要となる。(5) ダブルチューナ対応チューナ入力が1系統しかないため,裏番組録画などチューナが2個必要な場合は,本LSI 1個では対応できない。(6) USBロゴ認証取得対応

USBサスペンド時の消費電力が規格を満たしていないため,USBバスパワー運用時にUSBロゴの取得ができない。

MB86M0xの概要

MB86M0xは,前章の課題に対応する製品として開発した。MB86M0xのブロック構成を図-1に示す。映像データを変換するH.264/MPEG-2トランスコーダ/エンコーダ部は,既存のコーデック・トランスコーダLSIなどで実績のある,エンコーダおよびデコーダコアをベースとしており,低消費電力化と,富士通研究所独自のアルゴリズムにより高画質化と処理量低減を実現している。また,MB86H57,MB86H58で実現しているMPEG-2からH.264へのフルHDトランスコード機能に加えて,H.264方式の映像データを更に高圧縮のH.264方式の映像データに変換するトランスレート機能にも対応している。オーディオトランスコーダ/エンコーダ部は各種フォーマットのオーディオトランスコード/エンコード処理を実行し,システム多重化部は映像デー

MB86M0xの概要

Page 3: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012)390

H.264トランスコーダLSI

マートフォンやタブレット向けのアクセサリー製品やノートパソコンなどのモバイル関連製品向けに13 mm角の小型パッケージ,据置き機器向けにボールピッチが0.8 mmと広い21 mm角パッケージをラインナップしている。

MB86M0xのチップ外観を図-2に,主要諸元を表-1に示す。

タとオーディオデータをTS/MP4コンテナに多重化する。システム多重分離部はTS/MP4コンテナから映像データとオーディオデータを分離する。

MB86M0xは上記のブロックのほか,サムネイル画像を生成するJPEGエンコーダ部,画像の拡大/縮小を行うスケーラ部,セキュリティ機能を実現するAES暗号化部とMULTI2/AES復号部,1 Gbit FCRAM(Fast Cycle RAM,富士通セミコンダクター独自技術の低消費電力メモリ)のアクセス制御を行うFCRAMコントローラ部を内蔵する。更に,SMPTE 274M/296M-2001,ITU-R BT.656など非圧縮のデジタルビデオデータを入力するビデオ入力部,I2S形式でデジタルオーディオデータを入力するオーディオ入力部,ストリームデータを入力するストリーム入力部と出力するストリーム出力部,外部のホストCPUとコマンド,ストリームまたはJPEGデータをやり取りするPCI Express/USB部やI2C/SPI/B-CASなどの各種インタフェースとLSIの動作クロックを生成するPLLなどを1チップに集積し,1 Gbit FCRAMを含め1パッケージに封止した。消費電力はフルHDでのH.264トランスレート時に1.2 W(メモリ込み)と業界トップクラスの低消費電力を実現している。加えてパッケージもス

デジタルビデオ入力

デジタルオーディオ入力

ストリーム出力部(8 bitパラレル/シリアル)

FCRAMコントローラ部

PLL

ストリームトランスコーダ制御,ストリーム/JPEG ストリーム/JPEG

ストリーム入力部(8 bitパラレル/シリアル)

AES暗号化部

PCI Express USB

システム多重化部

JPEGエンコーダ部 スケーラ部H.264/MPEG-2

トランスコーダ/エンコーダ部

オーディオトランスコーダ/エンコーダ部

システム多重分離部

オーディオ入力部各種インタフェース

B-CASI2C SPI

1 GbitFCRAM

SiPロジックチップ

・・・

ビデオ入力部

MULTI2/AES復号部

図-1 MB86M0xのブロック構成

図-2 MB86M0xのチップ外観

Page 4: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012) 391

H.264トランスコーダLSI

主 な 特 長

MB86M0xは以下の特長を有しており,様々な用途での使用を可能としている。(1) H.264トランスレート,各種オーディオトランスコード対応従来製品は,MPEG-2方式での放送圏である日本,米国向け製品のみへの対応であった。今回,H.264トランスレート機能を追加することで,H.264方式での放送圏である欧州・南米・アジアなど世界各地域の製品や,日本国内でもH.264方式の放送となっているスカパー!HD対応機器への搭載が可能となった。本機能によりH.264方式の放送であっても,データを再圧縮することができるため,記録時間を延ばすことができる。また,各種フォーマット{MPEG-2/4 AAC-LC,HE-AACやDolby®

Digital(AC-3),(注2) MPEG-1 Audio Layer2など}のオーディオトランスコードにも対応し,再生機

主 な 特 長

(注2) Dolbyはドルビーラボラトリーズの登録商標です。

器の仕様に合わせた変換を可能とした。(2) 更なる高画質化参照B-pictureへ対応することで圧縮率を更に向上し,低レートでの画質を改善した。(3) 視聴番組と録画番組の同時制御機能二つのチューナ入力端子により,チューナモ

ジュールを二つ接続することで,視聴番組と同時に録画番組の制御を可能とした。(4) USBデュアルトランスコード機能従来製品ではPCI Express使用時でしか使用できなかった,マスタ/スレーブ接続機能をUSB使用時でも使えるようにした。本機能により本製品2個を接続し,デュアルトランスコーダとしての使用を可能とした。(5) USBサスペンド時の消費電力低減従来製品では対応できなかったUSBバスパワー動作でのUSBロゴ認証取得を可能とするため,USBサスペンド時の消費電力を規格内に収まるように低減した。

表-1 MB86M0xの主要諸元機 能 仕 様

トランスコード

ビデオ

MPEG-2HD→H.264HD/SD+H.264SD/QVGAH.264HD→H.264HD/SD+H.264SD/QVGAMPEG-2HD→MPEG-2SDH.264HD→MPEG-2SD*トランスコードのスピードは1.n~ 2倍速

オーディオMPEG-2/4 AAC-LC,HE-AAC,MPEG-1 Audio Layer2,Dolby®Digital(AC-3)Re-mux

データ再多重化 ARIB Data,Closed Caption,Teletext

エンコードビデオ H.264 HD/SD/QVGA,MPEG-2 SD

オーディオ MPEG-2/4 AAC-LC,HE-AAC,MPEG-1 Audio Layer2,Dolby®Digital(AC-3)

ストリームフォーマット MPEG-2 TS,MP4

インタフェース

PCI Express,USB2.0(Device),Stream-I/F(Serial or 8bit Parallel)[2 input,3 output streams],Video I/F(SMPTE 274M/SMPTE296M-2001,ITU-R BT.656),Audio I/F(I2S)

そのほかの機能

セキュリティ:AES(暗号化/復号),MULTI-2(復号のみ)JPEG QVGAエンコーダ(サムネール用)I2C,SPI-ROM(EEPROM)I/F,B-CAS I/F

消費電力 1.1 W(typ.,MPEG-2 HD to H.264 HD トランスコード時)1.2 W(typ.,H.264 HD to H.264 HD トランスレート時)

メモリ 1 Gbit FCRAM内蔵

パッケージ(SiP)MB86M01:FBGA 490ピン 13 mm角(ボールピッチ 0.5 mm)MB86M02:FBGA 490ピン 21 mm角(ボールピッチ 0.8 mm)MB86M03:FBGA 289ピン 13 mm角(ボールピッチ 0.65 mm)※

※:PCI Expressインタフェースなし

Page 5: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012)392

H.264トランスコーダLSI

(3) 多チャネル同時録画対応レコーダ(図-5)トランスコーダの2系統チューナ入力とマスタ/スレーブ接続機能を利用することで,モジュールあたり4チャネルの同時視聴/録画が可能となるソリューションである。本構成により地上デジタル放送のみに対応するシステムであれば,BOMコストアップの要因となっているB-CASカードの枚数を4枚から1枚に減らすことが可能である。

今後の開発予定

前記のWi-Fi TVチューナ,多チャネル同時録画対応レコーダのシステム構築には,トランスコーダを制御するホストCPUが必要となるが,性能やコスト面で最適な製品がない状況である。この課題へ対応するため,現在トランスコーダのコンパニオンLSIの開発を進めている。また,フルHDよりも更に高解像度の4K2K(4096×2160または3840×2160画素)などの動画への対応も今後,要求が高まると予想されており,トランスコーダなどの製品向けに4K2K対応コーデックの技術開発も進めている。以下,これらについて概説する。

今後の開発予定

(6) サイマルトランスコード解像度向上従来品ではQVGAサイズまでしか対応できなかった同時トランスコード解像度をSDサイズまで拡張した。

システム構成例

MB86M0xでのシステム構成例を示す。(1) USBドングルTVチューナ(図-3)

TVやSTB(Set Top Box)などUSBインタフェースを有する機器に接続することで,長時間録画が可能なチューナを増設できるソリューションである。USBバスパワー動作が可能であるため,ACアダプタが不要で非常にシンプルなシステム構成が可能である。(2) Wi-Fi TVチューナ(図-4)スマートフォンやタブレットなどの携帯端末でのTV視聴を可能とするソリューションである。携帯端末でフルHD放送をそのまま表示するのはデコード性能やネットワーク帯域面で問題があるため,トランスコーダで解像度やビットレートを変換することで対応が可能となる。

システム構成例

チューナ モジュール MB86M03

トランスコーダ

チューナ モジュール

MB86M02 トランスコーダ

チューナ モジュール

ホストCPU

Wi-Fi

図-3 USBドングルTVチューナ

図-4 Wi-Fi TVチューナ

Page 6: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012) 393

H.264トランスコーダLSI

International CESでは4K2K対応TVが複数のメーカより発表され,2012年4月に市場投入されたIntelの次期メインストリームCPU(Ivy Bridge)は4K2K動画の再生をサポートするとしている。また,4K2K対応のカメラは既に多数製品化されており,コンテンツの作成は可能となっている。4K2K動画においてもデータ量が膨大であることから,何らかのフォーマットでの圧縮が必要となるが,フルHD動画に対して4倍のデータ量となるため,更なる圧縮率の向上が求められている。この要求に対応するため,H.264の2倍の圧縮率を実現する新方式としてHEVC(High Effi ciency Video Coding)の標準化作業がISO/IECのMPEGとITU-TのVCEGによる研究開発チームJCT-VC(Joint Collaborative Team on Video Coding) で進められている。規格化完了は2013年1月の予定であるが,富士通研究所は標準化作業に参画しており,既にアルゴリズムの検討にも着手している。このような状況を鑑み,4K2K,HEVC対応のコーデックコア開発の検討を開始したところである。

む  す  び

本稿では,動画像をリアルタイムで変換するトランスコーダLSIと今後の開発予定について紹介した。今日までフルHD対応のコーデックLSI,トランスコーダLSIの開発を進めてきたが,MB86M0xは現状のコーデック技術を用いた製品として一つ

む  す  び

(1) コンパニオンLSI現状のWi-Fi TVチューナソリューションではメインCPUとしてマルチデコーダや通信プロセッサが用いられているが,マルチデコーダLSIでは性能に余裕がなく,機能追加に対応できない。逆に通信プロセッサは性能が過剰であり,消費電力や価格面で同ソリューションには適していない。また多チャネル同時録画対応レコーダソリューションでは,複数のトランスコーダを制御する必要がある。しかし,同時にHDDやネットワークへの接続を考慮すると,多数のインタフェースが必要となるが,現状,この要求を満足する最適なLSIは存在しない。現在,これらの課題を解決し,過不足なく実現するトランスコーダ専用のコンパニオンLSIを開発中である。本LSIはCPUとしてARM社製のCortexTM-A9デュアルコアプロセッサ(~ 500 MHz動作)を搭載し,各ソリューションで必要となる各種インタフェース(USB2.0/3.0,S-ATA,PCI Express,Gbit Ether MACなど)を1チップに集積したものである。性能および機能をトランスコーダの各ソリューションに最適化することにより消費電力の低減,低価格化を実現する予定である。(2) 4K2K,HEVC対応コーデック開発地上アナログ放送が2011年7月に終了し,放送のフルHD化が完了したばかりではあるが,各方面で4K2K動画への対応が始まっている。2012

B-CAS

チューナモジュール

コンパニオン LSI

チューナモジュール

MB86M01 トランスコーダ

デコーダ

MB86M01 トランスコーダ

地上デジタル放送のみの場合

チューナモジュール

チューナモジュール

図-5 多チャネル同時録画対応レコーダ

Page 7: H.264 Transcoder LSI

FUJITSU. 63, 4 (07, 2012)394

H.264トランスコーダLSI

参 考 文 献

(1) 富士通:業界初!フルHD対応,H.264映像処理1チップLSIを新発売.

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/05/21-3.html(2) 富士通:フルHD対応H.264トランスコーダLSI新発売.

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2007/08/23.html(3) 富士通セミコンダクター:H.264/MPEG-2対応 フルHDトランスコーダLSI新発売.

http://jp.fujitsu.com/group/fsl/release/20090508.html

の完成形に到達したと考えている。今後はコンパニオンLSIとトランスコーダLSIのチップセットを用いた新たなソリューション構築により用途の拡大を図るとともに,長年にわたり蓄積してきたコーデック関連の技術を生かし,早期に4K2K,HEVC対応のコーデックを開発し,新たな映像世界を切り拓いていきたい。

田中和幸(たなか かずゆき)

富士通セミコンダクター(株)アドバンストプロダクト事業本部映像ソリューション事業部 所属現在,トランスコーダLSIの開発に従事。

著 者 紹 介