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昭和43年6月20日 Griseofulvinに関する知見補遺 第3報 Griseofulvin内服人爪角末培地における白癖菌 並びにアミノ酸代謝 一木 Studies on the Mechanis”IS of Antifungal Effect of Griseofulvin in Report : The Influences of Griseofulvin on Fungus in the Synthetic Media Including Keratin Powder derived from Healthy Nail of Subjects taking Griseofulvin KeiichiUeda I● Griseofulvin (GF)がin vitroでも白癖菌に作用する ことは既に知られ,余も第2報でその際における菌体並 びに培地のアミノ酸動態について詳述したが,GFはい うまでもなく内服によって奏効するところに特徴があ る.そこで本報では健康人にGFを長期に亘り内服せし め,その内服前及び後の精製健爪角末培地に白辨菌を培 養して,菌の発育状態と該培地におげるアミノ酸の動態 を比較検討した.謂わばsemi in vivo の実験といって よい. n● 文献概要 GF内服時における体液或いは組織内等のGF濃度 にっいては,数多くの報告がみられる.既にAsh ton et al." (1956), Bedford" (1959), Abbot" (1959)ら はspectrophotometricに血中,尿中,さらに諸種臓器 内のGFの濃度について測定し, Gentles='=' (1959)は GF投与モルモットの毛髪よりGFを検出,さらにCP=- GFを蝋に経口投与し, e,5%を尿,18%を糞便,6%を 消化器官など,1%をその他に見出している.また三浦 ら49)は血中,皮膚内濃度について追試した.一方Blank et al."' (1959)は50%が尿中に排泄されること,さら にRobinson et al."' (1959)はGF 100昭を犬に経口 投与したが血液及び尿中には極めて微量しか認められな い点から,その奏歌はGFの代謝産物にあるのではない かと述べている.他方Roth et al."' (1959)はin vi- troで培地内にGF内服患者の血清を混じても,抗菌作 用が全く認められたいこと,さらに樋口ら3o)は同様の実 験で,GF内服患者血清加培地内では,菌の発育は却っ て促進された事実を認めている.またSulzberger-Baer "' (1959)は,これらの事実から勘案し,GFの奏効機 序は恐らく血管外組織においてGFが濃縮され,また生 体内の代謝機構によりGFが活性化され,抗菌作用を発 揮するのではないかとしている. しかしGF内服者爪内におけるGFの存否にっいて は,未だ検索されておらず,余は爪自癖の治癒機構に関 する菌のepidermal flow が何故に起るかを,アミノ酸 代謝を中心に検索した. m● 健康成人にGFを1日1 g (4回分服),第1例(31 才,めでは4ヵ月内服,第2,3例(20才, S : 31才, 6)では6ヵ月内服せしめ,夫々内服前と後にその趾爪 角末培地を第2報と同一方法により作製し,各培地に Trichophyton rubrum (T.r・)及びTrichophyton menta- grophytes (T.m・)を培養し,培養10, 20, 30日に亘り 菌の発育状態と培地内アミノ酸の動態とを,第2報と同 一方法により,内服前及び後につき比較検討した. 1)菌の発育状態(表1,図1):肉眼的にはT,r・ の発育は,第1例(4ヵ月内服)では,内服前には10日 *京都府立医科大学皮膚科教室(主任 岩下健三教授) 昭和42年3日27ロ受付 ― 517 ―

Griseofulvinに関する知見補遺 - ただいまサーバー …drmtl.org/data/078060517.pdf昭和43年6月20日 Griseofulvinに関する知見補遺 第3報 Griseofulvin内服人爪角末培地における白癖菌

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昭和43年6月20日

Griseofulvinに関する知見補遺

第3報 Griseofulvin内服人爪角末培地における白癖菌

        並びにアミノ酸代謝

上 田 宙  一木

Studies on the Mechanis”IS of Antifungal Effect of Griseofulvin

 in Report : The Influences of Griseofulvin on Fungus in the

  Synthetic Media Including Keratin Powder derived from

      Healthy Nail of Subjects taking Griseofulvin

               KeiichiUeda

          I● 緒 論

 Griseofulvin (GF)がin vitroでも白癖菌に作用する

ことは既に知られ,余も第2報でその際における菌体並

びに培地のアミノ酸動態について詳述したが,GFはい

うまでもなく内服によって奏効するところに特徴があ

る.そこで本報では健康人にGFを長期に亘り内服せし

め,その内服前及び後の精製健爪角末培地に白辨菌を培

養して,菌の発育状態と該培地におげるアミノ酸の動態

を比較検討した.謂わばsemi in vivo の実験といって

よい.

          n● 文献概要

 GF内服時における体液或いは組織内等のGF濃度

にっいては,数多くの報告がみられる.既にAsh ton et

al." (1956), Bedford" (1959), Abbot" (1959)ら

はspectrophotometricに血中,尿中,さらに諸種臓器

内のGFの濃度について測定し, Gentles='=' (1959)は

GF投与モルモットの毛髪よりGFを検出,さらにCP=-

GFを蝋に経口投与し, e,5%を尿,18%を糞便,6%を

消化器官など,1%をその他に見出している.また三浦

ら49)は血中,皮膚内濃度について追試した.一方Blank

et al."' (1959)は50%が尿中に排泄されること,さら

にRobinson et al."' (1959)はGF 100昭を犬に経口

投与したが血液及び尿中には極めて微量しか認められな

い点から,その奏歌はGFの代謝産物にあるのではない

かと述べている.他方Roth et al."' (1959)はin vi-

troで培地内にGF内服患者の血清を混じても,抗菌作

用が全く認められたいこと,さらに樋口ら3o)は同様の実

験で,GF内服患者血清加培地内では,菌の発育は却っ

て促進された事実を認めている.またSulzberger-Baer

"' (1959)は,これらの事実から勘案し,GFの奏効機

序は恐らく血管外組織においてGFが濃縮され,また生

体内の代謝機構によりGFが活性化され,抗菌作用を発

揮するのではないかとしている.

 しかしGF内服者爪内におけるGFの存否にっいて

は,未だ検索されておらず,余は爪自癖の治癒機構に関

する菌のepidermal flow が何故に起るかを,アミノ酸

代謝を中心に検索した.

          m● 成 績

 健康成人にGFを1日1 g (4回分服),第1例(31

才,めでは4ヵ月内服,第2,3例(20才, S : 31才,

6)では6ヵ月内服せしめ,夫々内服前と後にその趾爪

角末培地を第2報と同一方法により作製し,各培地に

Trichophyton rubrum (T.r・)及びTrichophyton menta-

grophytes (T.m・)を培養し,培養10, 20, 30日に亘り

菌の発育状態と培地内アミノ酸の動態とを,第2報と同

一方法により,内服前及び後につき比較検討した.

 1)菌の発育状態(表1,図1):肉眼的にはT,r・

の発育は,第1例(4ヵ月内服)では,内服前には10日

*京都府立医科大学皮膚科教室(主任 岩下健三教授)

 昭和42年3日27ロ受付

                         ― 517 ―

  後

百線的発介

直線的発介

-

518

日本皮膚科学会雑誌 第78巻 第6号

     J< 1 (; !・■内服前並びに悦の健康人肌角七培皿における|如?)発育状態

肉眼的所見

 経

 過

(目)

 一一- 10

前上

T.r.  20    +

JO

T.m. 20

 一 30

■=+

(2)駅微鏡的所見

‥ 一 一 一 一 一 一

T

.

r

.

T.m.

経過

(川)

30

-一一

10

20

30

  第

 前

直線的発育--一直線的発介一

㈹線的発ずf

   -心線的発介

直線的発介

直線的発介

後 二土

    一

--一士

一 一-

     +

jレU伺はGF4ツ; )j

   後

 心線的発介    ‥一一 ぐべ膨化一一一一

 膨化

内線的発介

心線的見介  一

心線的発介

前+

一班

-一廿

-一桁

第 2 例

一 一 一 一

  前

心線的発介

-・--一穴線的発介---一

心線的発介

巾:線的発育

後土

前+

第  3  例

後士

㎜㎜㎜㎜

一冊

・ = 〃 ふ 〃 W -

第  3  例

線的発介一 一 -

一一

一一

第2,3例はGF6ヵ月内服(以ドの人は総て[ln].

第 2 例

心線的発介

心線的発育

直線的発介

  -白線的発育一・---一一一一・-心線的発介 丿 吐線的発育

線的発介部膨化

  前

八緑的発介

穴線的発介   一

白o勧 二言坪'illlllll

収線的発育  直線的発育 !

  ll″

-

心線的発育 紅線的見介

     [第]例)            (第2例)            (第3例)

図! GF内服(1 g/卜4~6カリ)前役び後の角帽宮地における r.m.の片複所見:ノヘいり官

    卜 2,3例千各々ノづ卜だ内服汗,社側は内服前で,内服後にぱ肉の発育が抑制されている.

昭和43年6月20日

図2 GF内服前:菌糸は直線的発育を示す.

図3 GF内服後:菌糸尖端が川曲を示す像が認め

   られた.

 図4 GF内服後:膨化を示す菌糸が認められた.

目管底でやや認められ,20日目には軽度に増殖し,30日

日には水面,管底に増殖が明らかに認められたが,内服

後は10日目には全く認められず,20日目にやや認めら

れ,30日目には軽度しか認められなかった.第2,3例

 (共に6ヵ月内服)でも同様の傾[司が認められ,内服前

には10日目に水面,管底で発育し,20日目には同部で著

明に,30日目には綿状に発育した.ところが内服後には

10日目にやや,20日目には軽度に,30日目に至り比較的

519

著しく増殖した.

 T.m.の発育は,内服前では第1例より第3例さらに

第2例に著明に認められたが,内服後には何れも発育が

抑制され, T.r.の際と特に相違は見出されなかった.

 検鏡的には,菌糸はT.r.では内服前には第1,2,

3例何れも常に直線的に発育したか,内服後には第1例

では20日目に一部の菌糸がやや膨化,屈曲傾向を示し,

30日目には多くの菌糸が膨化傾向を示し,第2例では内

服後も殆んど総ての菌糸に変形が認められず,第3例で

は30日目に直線的発育を示せる菌糸の中に膨化せる菌糸

がみられた.

 T.m.もT.r.と同様に,内服前には全例にて全経過

を通じ直線的に発育したが,内服後には第2例では30日

目に膨化せる菌糸が認められたが,第1,3例では著明

な菌糸の変形が認,められなかった.

 即ちGF内服後にはT.r.は第1,3例, T.m.は第

2例で膨化傾向を示せる菌糸がみられたが,その他では

著明な菌糸の変形はみられなかったT.m.に比しT.r.

の発育抑制がややより著明であった.

 2)培地内におけるアミノ酸の動態:両菌種培養時共

に確実に同定し得た5種アミノ酸即ち asparagin酸,

glutamin酸arginine, alanine, valineの変動は次の

如くであった.

表2 GF内服前,後の健康人爪角末培地における

   培地内遊離アミノ酸(Trichophyton rubrum)

                     (%)

フミノ酸 培 養

(日)

第1例 第2例 第3例

前|

後 前 後 前 後

Asparagin酸

10 6.5 7.0 6.0 7.2 7.1 2.6

20 15.526.5 14.5 12.0 12.0 11.5

30 5.520.6 10.6 20.0 8.0 23.9

Glutamin酸

10 13.0 27.6 17.5 19.9 13.0 25.6

20 19.2 29.0 19.7 10.3 19.5 12.0

30 14.7 19.9 13.9 14.4 11.2 20.1

Arginine

10 28.1 23.1 29.0 35.2 31.1 39.1

20 27.2 21.2 21.9 27.4 27.8 26.6

30 28.3 16.7 27.0 30.7 30.8 28.1

I Alanine

10 31.0 23.6 37.4 26.4 36.1 27.8

20 26.1 10.9 27.3 14.6 26.5 28.4

30 31.0 30.1 31.7 14.835.0 11.6

Valine

10 9.0 13.8 9.7 15.7 12.7 5.2

20 13.0 14.2 17.3 18.5 14.3 21.5

30 7.2 14.4 17.0 19.7 14.5 16.4

520

 (i) T.r.では(表2),1) Asp.は内服前では全例何

れも200目に最も多く,次いで第1例では10日目,30日

目の順に少なく,第2,3例では30日目,10日日の順に

少なかった.これに対し内服後では第1,2例では共に

30日目に最も多く,次いで20口口,10日目の順に少な

く,第3例では内服前と同様に20日口最も多く,次いで

30日目,10日目の順に少なく,全3例が何れも10ロ目に

最も少なかった.

 2) Glut.は内服前には全例何れもAsp.と同様20日

目に最も多く,次いで第1例では30日目,10日目の順に

少なかった.これに対し内服後には第1例では内服前と

同様にやはり20日目最も多かったが,次いで10回目,30

日目の順に少なく,第2,3例では共に10日目に最も多

く,次いで30回目,20回目の順に少なかった.

 3) Arg.は内服前には第1例では30日目に最も多

く,次いで10日目,20日口の順に少なく,第2,3例で

は10回目に最も多く,次いで30日目,20日目の順に少な

くなり,全例何れも20日目に最も少なかった.ところが

内服後には全例で10日日に最も多く,次いで第1例では

20日目,30回目の順に,第2,3例では30日目,20日目

の順に少なくなった.即ち内服前に対し内服後には第1

例では異なった変動を示したが,第2,3例では特に異

なった変動はみられなかった.

 4) Alan.は内服前には3例何れも10日目に最も多

く,次いで30日日,20日目の順に少なかったが,内服後

には第1例では30日目に最も多く,次いで20ロ目,10日

目の順に少なく,第3例では20日目に最も多く,次いで

10日目,30日目の順に少なくなり,第2例のみは内服前

と同じ傾向を示した.即ち一定した影響は見出されなか

ったといってよい.

 5) Val.は内服前には第1,2例共に20日日に最も

多く,次いで第1例では10日目,30回目の順に,第2例

では30日目,10日目の順に少なく,第3例では30日日に

最も多く,次いで20日日,10日目の順に少なかった.こ

れに対し内服後には第1,2例共に30日目最も多く,20

日日これに次ぎ,10日目に最も少なく,また第3例では

20日日に最も多く,30日目,10日目の順に少なく,3例

総て内服後には10日目に最も少なかった.即ちVal.で

は3例総てが内服とは異なった相対的変動を示した.

 (ii) T.m.では(表3),1) Aspぺよ内服前には第1例

では20日目最も多く,次いで10日目,30日目の順に少な

く, T.r.と同様の変動傾向を示したが,第2,3例で

はT.r.の際とは異なり10日目に最も多く,次いで20日

日本皮膚科学会雑誌 第78巻 第6号

表3 GF内服前,後の健康人爪角末培地にお

   ける培地内遊離アミノ酸(Trichophyton

mentagrophytes)        (%)

-J-一一J-r-一心←S

        培ァ ミ ノ酸 

|

       |(目)

第1例i第2例 第3例

前 後 前 後 前 後

ユ0 16.8 8j 14.011.5 16.8 10.3'

Asparagin酸20 19.5 10.1 12.3 16.1 12.8 14.7

30 n,9 7.3 8.5 15.7 1肌0 15.0

Glutamin酸

10 17.0 18.2 16.0 13.5 18.1 1瞑

20 20.2 26.2 29.5 24.6 26.2 22.8!

30 20.9 30.9 19.7 25.7121.2 25.7

Arginine

10 36.2 35.5 31.0 31.4 31.5 33.0

20 29.5 22.1 29.525.9 28・0|21.6

30 34.2 28.3 36.0 25.3 33.0 35.2

Alanine

10 19.5 26.2 21.0 26.4 27.0 29.0

20 19.5 21.7 23-0 25.4 19.0!22.3

30 21.1 13、6 29.5,15・.0 29.8 U、41

110 10.5 11.7 13.0 16.9 6.9 11-0

Valine 20 11.319.9 15.3 18.0 11・.0 18.4

30 11.9,19.7 5.318.0 6.012.4

目,30日目の順に少なかった.それに対し内服後には第

1例では内服前と同様に.20日目に最も多く,次いで10日

目,30日目の順に少なかったが,第2,3例では内服前

と異り,第2例では20日目に最も多く,次いで30日目,

10回目の順に,また第3例では30日目に最も多く,次い

で20日目,10日目の順に少なく,ここでもT.r.培養時

とやや異なっていた.

 2) Glut.では内服前には3例何れ乱T.r.培養時

と同様に20日目に最も多く,次いで30日目,10日日の順

に少なかったが,それに対し内服後には3例総て30日目

に最も多く,20日目これに次豹O日目に最も少なかっ

た.即ち10日目に最も少なかった点は内服前後を通じ同

様であったが,その他の点は内服前と異なっていた.

 3) Arg,では内服前には第1例では10日目に最も多

く,次いで30日日,20日目の順に少なく,第2,3例で

は共に30日日に最も多く,10日日,20日目の順に少なか

った.これに対し内服後には第1例では内服前と同様10

日目に最も多く,30日目,20日目の順に少なく,また第

3例でも内服前と同様に30ロ目に最も多く,次いで10回

目,20回目の順に少なかったが,第2例では内服前と異

なり10日目に最も多く,次いで20日口,30日目の順に少

なかった.

 4) Alan.では内服前には3例総て30日目に最も多

く,次いで第1例では10日目,20日日には同値,第2,

昭和43年6月20日

3例では20日日,次いで10日日に少なかった.これに対

し内服後には3例総て10日目に最も多く,20日日これに

次ぎ,30回目最も少なかった.即ち,全3例が内服前と

は全く反対の変動傾向を示し,この点ではT.r.培養時

とはやや異なっていた.

 5) Val.では内服前には第1例では30日目に最も多

く,次いで20日目, 30H目の順に少なく,第2,3例で

は20日目に最も多く,次いで10日目,30日目の順に少な

かった.これに対し内服後には第2例では20日目,30日

目が同値を示し多く,他の2例では20日目に最も多く,

次いで,30日目に少なく,全3例何れも10日目には最も

少なく,この点はT.r.培養時と同様であった.

 小括 健康成人に,GFを1例には4ヵ月,2例には

6ヵ月内服せしめ,内服前及び後の趾爪角末培地にTri-

chophyton rubrum及びTrichophyton mentagrophytes

を培養し,培養10, 20, 30日に亘り菌の発育状態並びに

培地内におけるアミノ酸0動態を比較検討し,次の成績

を得た,

 1)菌は肉眼的には両菌種共に,内服前には遂目的に

旺盛に発育したか,内服後には培養全期間を通じ発育が

抑制され,両菌種間に著しい相違はみられず,検鏡的に

は菌糸が,内服前では両菌種共に直線的に発育したが,

内服後では一部に膨化及び屈曲傾向を示し,かかる影響

はT.m.よりT.r.にややより著しかった.

 2)培地内遊離アミノ酸として内服前,後共に両菌種

を通じAsp., Glut., Arg., Alan。Val,の5種を検出し

得た.

 その際, (1) Asp.は両菌種何れで乱内服前に比し

内服後には増量したものが多かった.

  (2) Glut.は内服前には両菌種何れでも増量後減量

し,内服後にはT.r.では減量後増量し, T.ra.では増

量の一途をたどった.

  (3) Alan.は, T.r.では内服前には減量後増量し,

内服後には一定の変動を示さず, T.m.では内服前には

増量し,内服後には減量した.

  (4) Val.は, T.r.では内服前後を通じ増量し有意

の差がみられず, T.m.では内服前には減量し,内服後

には増量した.

  (5) Arg.はTよ, T.m.何れでも内服により有意

の変動を示さなかった.

           IV● 考 按

 健康人の精製爪角末培地に白癖菌を培養した際,角末

分解により遊離アミノ酸が培地内に産生されているこ

521

とは知られている.川]ち木村3・・ま本邦土壌より分離した

keratin分解菌についてpaper chromatographyにより

keratin分解能を検索し,また岡田9は皮膚病原糸状菌

のkeratin分解能並びにその産生アミノ酸について実

験しTrichophyton rubrumはleucine, phenylalanine,

valine, tyrosine, threonine, glutanine酸7 asparagin

酸, lysineをTrichophyton asteroidesは leucine,

phenylalanine, valine, tyrosine, threonine, arginlne,

glutamin酸asparagin酸, lysineを, Trichophyton

interdigitale (J. leucine, phenylalanine, valine, threo-

nine, glutamin酸asparagin酸, arginlne, cystine,

lysineを産生することを証明している.一方,早川゛

は内癖罹患爪と非罹患爪の遊離アミノ酸を高圧濾紙電気

泳動法により検索し,両者間のアミノ酸に異なった比率

を見出している.しかしGF内服により,かかる培地に

おけるアミノ酸が如何に影響されるかを検討した文献は

見当らない.

 一体GF内服の抗白辨菌作用の機序については,血中

濃度からはAshton""はspectrophotometry, Bedford"は

spectrophotofluorometric assay, Abbot"はmicrりspect-

rophotometryとbioassay,三浦41)はspec tropho tofluo-

roraetric assayで,夫々その濃度を測定しそいるが,何れ

も治療量の内服により臨床的には卓効がみられているに

も拘らず,そ0濃度は極めて低値が示されており,従っ

て単に血中濃度からその作用機序を説明することはでき

ない.さらにこのことを裏付けているのは,樋口らの

in vitro における実験で,同氏らは治療量のGF内服患

者の血清を培地に添加しても,培地における自癖菌の発

育は,特に抑制されなかったことを報告している.結局

GFが表皮或いは毛髪,爪に達し,そこで濃縮するか或

いは何らかの形で菌に作用するのであろう力乳その作用

がGF自体によるか,或いはその活性化物質(代謝産

物)によるかが問題になる, Abbotら当よGF内服によ

り代謝産物は生ぜず,その作用はGF自体によるものと

しているが,他方Sulzberger-Baer"' JよGFがその局所

で濃縮し,それ自体が作用するか,或いはGFの活性化

物質による作用の可能性をも想像している.事実Bar-

nesら7)はGF内服例の尿中より,GFに由来する代謝産

物を抽出し, 6-Deniethyl-Griseofulvinがその主なもの

であるとした.然し植松ら75)がこのものの抗自辨菌作用

の有無をin vitroで検討した成績は,全く陰性に終って

いる.またFreedraan"'はkeratin基質を用いたin vitro

の実験で,GFはkeratin表面に附着し抗内府菌作用を

522

示すのではなく,むしろkeratin分子の中に入り込み,

結合した状態で抗白癖菌作用を示すのではないかとして

いる.

 何れにせよ,余が既に第1報で確認した如く,GF内

服の敬果は肝及び網内系障害,勝則により,特に影響さ

れなかった事実からすると,代謝産物説はむしろ否定さ

れてよいと思う.恐らく角質の性状に変化を来たし,そ

の結果,菌をして発育し難くならしめるものと考えられ

るが,上来練述して来た菌のアミノ酸代謝への影響が,

モの際果して菌の発育抑制に対して原因的役割を演じて

いるのか,或いは発育抑制の結果としてみられたかにつ

いては,にわかに断じ難い.

          V● 結 論

 GF内服(1日194及び6ヵ月)前,並びに後の健

康人爪角末培地にT.r.及びT.m.を培養し,培養10,

20, 30日に亘り,内服前後における菌の発育状態とpa-

per chromatography により培地内遊離アミノ酸の動態

日本皮膚科学会雑誌 第78巻 第6号

とを比較検討し,次の成績を得た.

 1)内服後には菌の発育は肉眼的に抑制され,検鏡的

に菌糸の一郎が膨化,屈曲し,かかる影響はT.m.より

T.r.にややより著しかった.

 2)培地内に産生されるアミノ酸は,内服前及び後

共に,両菌種を通じ,5種のアミノ酸(asparagin酸,

glutamin酸, arginine, alanine, valine)を検出し得た.

 3)その際,GF内服後にはasparagin酸, glutamiii

酸は両菌種培養時共に相対的に増量し, Val.はT.m.

培養時には相対的に増量し, T.r.培養時には有意差を

示さずalanineはT.m.培養時には相対的に減量し,

T.r.培養時には有意差を示さず, arginineは両菌種培

養時共に有意差を示さなかった.

 以上よりGF内服の奏効過程においては,それが原因

であるか結果であるかは暫らくおき,菌自体のアミノ酸

代謝への影響が大きな役割を演じていると考えられる.

  文   献

第4報にゆずる.