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Gravitational Waves from Braneworld Inflation 大学大学院 学・宇 学第 体核 January 2003

Gravitational Waves from Braneworld Inflation · 景重力波として宇宙に満ちていると考えられ[62]、重力波検出実験の重要なターゲットになってい

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修士論文

Gravitational Waves from Braneworld Inflation

小林 努

京都大学大学院理学研究科物理学・宇宙物理学専攻 物理学第二分野

天体核研究室

January 2003

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Abstract

われわれのこの 4次元時空が高次元時空中に埋め込まれた 4次元の面 –ブレーン– であるとする考え方は、近年大きな注目を集めてきた。中でも、Randall-Sundrumモデルは一般相対論的な時空の幾何学、動力学としても大変興味深い側面を持っており、このような時空描像にもとづいた宇宙論の研究など、ブレーンワールドに関連する話題は豊富だ。この修士論文では、まず、ブレーンワールドシナリオの基本的なアイデアを紹介し、それにもと

づいて展開されている宇宙論の現状をレビューする。より現実的な宇宙モデルの構築や将来の観測的検証という観点から、ブレーンワールドにおける宇宙論的摂動論 (cosmological perturbation)の研究は重要である。しかしながら、その取り扱いは難しく、満足のいく解析は行われていないのが現状である。そこで、本論文後半ではブレーン宇宙でのテンソル型摂動 (重力波)に注目し、新しい手法により解析を試みる。考えている宇宙論的な重力波の起源は、インフレーションによって増幅された場の量子ゆらぎで

ある。このような重力波の進化は、曲がった時空における場の理論を用いて議論される。質量ゼロの 4次元的な graviton(ゼロモード)に加えて、Kaluza-Kleinモードとして質量をもった gravitonが存在することが、余剰次元を考える際の特徴である。インフレーション中に一般にハッブルパラメーターH はわずかに時間変化することを踏まえ、今回は、その変化が不連続であるという状況設定を行う。それにより、解析的なアプローチが可能となる。ハッブルパラメーターの変化の影響が重力波のパワースペクトラムにどう現れるかを、通常の 4次元理論における結果と比較し、違いを調べることがこの研究の目的である。そのために、まずBogoliubov係数を求めてゼロモード gravitonの生成を議論し、続いて、パワースペクトラムの分析を行った。その結果、以下で述べることが判明した。余剰次元の曲率半径から決まるエネルギースケール �−1と比べて低エネルギーでのインフレー

ション (�H � 1)では、パワースペクトラムは通常の 4次元理論におけるそれとまったく同一であった。この場合、ゼロモードから生成されるゼロモードだけで 4次元の結果を再現し、Kaluza-Kleinモードからの寄与はまったくなかった。一方、高エネルギーでのインフレーション (�H � 1) では次のような結果を得た。まず、Kaluza-Kleinモードから生成されるゼロモードの粒子数は抑制されている。また、パワースペクトラムはあるスケーリングのもとで、4次元のそれときわめてよく一致する。しかし、gravitonの余剰次元方向の運動量の再配分が起こっており、その意味でのKaluza-Kleinモードの寄与を考え合わせて初めて、そのような一致を見る。これは示唆に富んだ結果ではあるが、ハッブルパラメーターの一般の時間変化に対して、パワースペクトラムにスケール変換のもとでの対応関係があるのかどうかは明らかではない。

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2

Contents

1 Introduction 4

2 4次元理論における背景重力波 72.1 宇宙膨張による量子論的粒子生成 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82.2 インフレーション起源の重力波 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

3 高次元時空の考え方 153.1 Kaluza-Klein的アプローチ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 153.2 ブレーン上に局在した物質場 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 173.3 大きな余剰次元 –ADD モデル– . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 193.4 Randall-Sundrum モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

3.4.1 2枚のブレーンと新しいコンパクト化の方法: RS1 . . . . . . . . . . . . . . 203.4.2 無限に大きな余剰次元: RS2 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

4 ブレーンワールドにおける重力 28

5 ブラックホールとブレーンワールド 335.1 AdS時空中のブラックストリング解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 335.2 3 + 1次元の厳密解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

6 ブレーンワールド宇宙論 436.1 ブレーン上の Friedmann方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 436.2 Schwsrzschild-Anti de Sitter時空とDark Radiation . . . . . . . . . . . . . . . . 486.3 ブレーン宇宙におけるインフレーション . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 526.4 摂動論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 53

7 ブレーンワールドにおける重力波 587.1 de Sitterブレーンとテンソル摂動 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 587.2 セットアップ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 657.3 Bogoliubov係数の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68

7.3.1 グリーン関数の方法 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 687.3.2 結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70

7.4 重力波の振幅 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 757.5 まとめ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 82

8 結論 84

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3

Acknowledgments 85

Appendix 87

A 長く困難な計算 88A.1 KKモード関数の空間部分 χκ(ξ) . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 88A.2 複雑な積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 91

B 変分原理による Israelの接続条件の導出 96

C Notation and Conventions 100

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4

1 Introduction

われわれの住むこの宇宙が、空間 3次元、時間 1次元からなるということは、誰の目にも明らかであろう。少なくとも現在までのところ、4次元を越える次元の存在を示唆するような物理現象は、何一つとして観測されていない。それにもかかわらず、高次元の時空を考える理論はすでに 20世紀初頭からあった (Kaluza-Klein理論 [40])。さらに、重力をふくめた統一理論の有力な候補として超弦理論 [74]が登場した現代では、高次元時空という考え方はより現実味を帯びてきた。弦理論では、アノマリーが現れないという条件から時空の次元が決まってしまうので、矛盾のない理論であるためには、高次元時空は必然である。このような統一理論の試みを背景として、ブレーンワールドというアイデアが注目されている

[4, 5, 75, 76]。これは、Fig. 1.1に描かれているように、高次元時空の中に埋め込まれた 4次元の面 (ブレーン)が「われわれの世界」である、というモデルだ。このモデルでは、標準模型にあるような場はブレーン上に閉じ込められていなくてはならないが、実験的な制限が比較的弱い重力に関しては、余剰次元方向へも伝播することが許される。これは相対論的な時空の幾何学、動力学として大変興味深いシナリオである。高次元時空におけるブラックホールを議論したり、ブレーンワールドシナリオにもとづいた宇宙論を考えたりすることは面白い問題である。実際、ここ数年の間にこれらの問題に関する数多くの研究がなされた。仮にブレーンワールドの描像が正しければ、観測技術、実験技術の進歩により、そう遠くない

将来、現実に高次元を「見る」ことができる可能性がある。ブレーンワールドシナリオでは、高次元のプランクスケールが例えばTeV程度の低いスケールであってもよいので、加速器によるブラックホール生成が起こるかもしれない [20, 82]。また、宇宙背景放射 (CMB)の温度ゆらぎの観測によって余剰次元を検証できるかもしれない。これは非常に excitingである。あるいは、このような観測によって逆にブレーンワールドを否定することができるかもしれない。ブレーンワールドシナリオは、実験、観測による検証可能性をもったモデルなのである。

これまでの研究で、ブレーンワールド宇宙論は、少なくともビッグバン元素合成以降の宇宙の進化について標準宇宙論をよく再現することがわかっている。このことは、宇宙モデルとして成功するためにみたすべき条件ではあるが、宇宙論的な観点からブレーンワールドの検証を試みるのであれば、通常の宇宙モデルとブレーンワールドシナリオにもとづいた宇宙モデルとの明確な違いを見出す必要がある。そこで、初期宇宙に目を向ける。上でも述べたCMBの温度ゆらぎなどの一様等方性からのずれは、初期宇宙の物理と密接な関係がある。宇宙論的摂動論 (cosmologicalperturbation) の研究から、CMBの温度ゆらぎ (スカラー型摂動) あるいは重力波 (テンソル型摂動)について、通常の 4次元理論とは異なる予言がもし得られれば、それがブレーンワールドの検証につながる。今回は、インフレーションに起源をもつ重力波に注目することにしよう。重力波の検出に関しては、現在、世界各地で検出装置の開発及び建設が行われている。重力波

は宇宙を見る新しい「目」である。初期宇宙の uniqueな情報をもった重力波がCMBと同様に背

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Figure 1.1: ブレーンワールドと重力波

景重力波として宇宙に満ちていると考えられ [62]、重力波検出実験の重要なターゲットになっている。そのような背景重力波の起源としてよく考えられるのは、インフレーションである。宇宙初期のインフレーション的膨張により場の量子ゆらぎが増幅され、それが現在の背景重力波の源となる。本論文で扱うRandall-Sundrumタイプのブレーン宇宙でも、インフレーションを考えることは

自然である。ブレーンワールドにおけるインフレーションを起源とする重力波に、なにか通常の宇宙論におけるそれとは異なる特徴を見出すことはできるだろうか。ブレーン上に純粋に de Sitter的な幾何が実現されるような、ハッブルパラメーターH =一定のインフレーションを考える場合[54]には、重力波の取り扱いは比較的易しい。しかし、インフレーション中に実際はH がわずかながら時間変化するだろう。できる限りの解析的な取り扱いを行うために、本論文ではその変化が不連続であるという特殊な状況を設定する。本論文の目的は、このような場合にテンソル型摂動の進化を計算する手法を提示し、重力波のパワースペクトラムに現れる可能性のある 4次元理論との違いを明らかにすることである。

本論文は以下のように構成されている。2章では、4次元のスタンダードな宇宙論におけるインフレーション起源の重力波について解説する。次の章から以後ずっと、高次元の時空を取り扱うことになる。3章でブレーンワールドシナリオの基本的なアイデアを紹介する。この章は、主に素粒子論的視点からのレビューになっている。4章では、幾何学的な手法によってブレーン上の有効アインシュタイン方程式を導く。また、ブレーン上で成り立つ重力理論と通常のアインシュタイン重力理論との違いを述べる。物理学の対象の中で、特に重力が重要な役割を果たしているものとして、ブラックホールと宇宙全体が挙げられる。そこで、5章ではブレーンワールドにおけるブラックホールについていくつかの話題を紹介する。ただし、この章は本論文全体の流れからはやや外れた内容を扱っている。続いて、6章でブレーンワールドシナリオにもとづいた宇宙モデルを構築し、その現状をレビューする。7章ではブレーンワールドのインフレーションを起源とする重力波について議論する。この章で述べることが、本論文で得られたオリジナルな成果である。8章

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6 1 Introduction

を本論文のまとめとする。付録 Aには、7章で省略した骨の折れる計算過程を収録した。付録 Bには、本文中に幾度となく使われる Israelの接続条件の導出方法を記した。最後に、付録 Cに本文中で登場する記号の定義や用法をまとめた。

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2 4次元理論における背景重力波

現在、重力波検出計画は最も注目すべきサイエンス・プロジェクトのひとつである。アメリカのLIGO、イタリアとフランスの協力によるVIRGO、低周波領域をカバーするために宇宙空間で観測を行う LISA、そしてこの日本ではTAMA300など、様々なプロジェクトが立ち上がり、あるいはすでに重力波干渉計が稼動している。そして、インフレーションなどの宇宙論的な起源をもつ背景重力波は、これらのプロジェクトの重要なターゲットとなっている。背景重力波の観測により、われわれは初期宇宙の姿を探ることができる。理由はこうである。宇

宙の温度が T ∼ Tdec の時代に熱平衡から decoupleした粒子は、その時代の宇宙の姿の「スナップショット」を抱えているだろう。その粒子の相互作用が弱ければ弱いほど、高いエネルギースケールで熱平衡から decoupleするはずである。したがって、重力波は非常に初期の宇宙の情報を持っていると言えるのである。もっとも、相互作用が弱いということは、検出を異常に難しくするという面ももっているのであるが。少し定量的な議論をしよう。相互作用のタイムスケールを Γ−1 とする。宇宙膨張のタイムス

ケールは ハッブルパラメーターで H−1 と与えられ、Γ � H ならば熱平衡を保てるであろう。さて、 Γ はその粒子の数密度 n ∼ T 3 、相互作用の散乱断面積 σ 、典型的な速度 v(∼ 1) を用いてΓ = nσv と書ける。いま、例えばニュートリノを考えると、σ ∼ G2

F〈E2〉 ∼ G2FT

2 となる。一方、宇宙が輻射で満ちているときH ∼ T 2/MPl であるから、(

ΓH

)neutrino

∼ G2FT

5

T 2/MPl≈(

T

1 MeV

)3

(2.1)

である。すなわち、ニュートリノでは、大雑把に言って宇宙の温度が 1 MeV 以上の時代を見ることはできない。では、これが gravitonの場合はどうであろう。graviton の場合を考えるにはフェルミ定数 GF を重力定数 GN = 1/8πM2

Pl に変えてみればよい。すると、(ΓH

)graviton

≈(

T

MPl

)3

(2.2)

を得る。gravitonはプランクスケール以下程度で decoupleすることがわかる。

次章以降でブレーンワールドの議論に入る前に、この章では、4次元のスタンダードな宇宙論における背景重力波 [3, 62]について基本的なことを解説する。それには、曲がった時空の場の量子論 [11] の手法が利用される。なお、この章で得た結果の一部は後の議論に使われる。

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8 2 4次元理論における背景重力波

2.1 宇宙膨張による量子論的粒子生成

Robertson-Walker時空における重力波

特にホライズンを越えるような長波長の重力波にとって、宇宙膨張というものは重要である。そこで、Robertson-Walker(RW)計量

ds2 = a2(η)(−dη2 + δijdx

idxj)

(2.3)

から出発する。これに対して、tensor perturbation

gµν = a2(η)(ηµν + hTT

µν

)(2.4)

を考よう。ただし、TT(Transverse-Traceless)ゲージをとった。TTゲージとは

hµ0 = 0, ∂jhij = 0, hii = 0, (2.5)

をみたすようなゲージのことで、真空中ではいつでもとることができる。これでゲージ自由度は完全に固定されている。このゲージのもとで摂動を

hTTµν =

∑A=+,×

h(A)e(A)µν

=∑

A=+,×

√2

MPl· 1(2π)3/2

∫d3p φ(A)(η; p)ei�·�e(A)

µν (2.6)

とフーリエ分解する。(A) という添字は偏極の自由度を表していて、以下では特に必要がなければ省略する。規格化をこのように決めた理由についてはすぐに説明する。アインシュタイン方程式を摂動の 1次まで書き下すことにより、φ(η; p) の従う方程式が得られ、それは

φ+ 2a

aφ+ p2φ = 0 (2.7)

である。ここで、 ˙= d/dη と定義した。この方程式は、バックグラウンドをRW計量としたときのmassless scalar場に対する Klein-Gordon方程式

�φ =1√−g∂µ

(√−ggµν∂ν)φ = 0 (2.8)

に他ならない。あるいは、(2.7)を固有時間 τ で微分する形に書き直すと

∂2

∂τ2φ+ 3H

∂τφ+

(pa

)2φ = 0, (2.9)

となる。ここで、ひとつ重要な性質を指摘しておこう。k � aH のときには (2.9)の左辺第 3項は無視できる。すると、φ = const.という解が得られる。したがって、ホライズンより十分大きな波長をもつ重力波の振幅は一定である。さて、(2.6)のように場を規格化した理由を説明しよう。重力場の actionは

S =M2

Pl

2

∫d4x

√−gR (2.10)

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2.1. 宇宙膨張による量子論的粒子生成 9

であった。R を hµν について展開した結果を 2次まで記すと(hµν の線形の運動方程式を導くためには、actionを 2次まで展開する必要があることに注意しよう)、

R = 6a

a3− 1

4∇λhµν∇λhµν + ∇λ

(hµν∇λhµν

)+ · · ·

= 6a

a3− 1

2

∑A=+,×

∇λh(A)∇λh(A) + · · · (2.11)

となる。第 1項はバックグラウンドの曲率を表している。各 h(A) の effective action を考える際には第 2項のみが重要である。のちに正準量子化の手続きを踏むので、場は canonicalに規格化されるべきである。そこで、(2.6)のように

√2/MPl をかけて規格化するのが適切である。こうして

得られた φ の effective actionはもちろん、freeのmassless scalar場の actionになっている。なお、ψ = aφ と定義し、運動方程式 (2.7)を ψ について書き直すと、

ψ +(p2 − a

a

)ψ = 0 (2.12)

というように、Schrodinger方程式タイプになることをここで指摘しておく。

スカラー場の量子化

gravitonの場はmasslessの Klein-Gordon方程式に従うことがわかった。そこで、スカラー場の量子化を膨張宇宙のバックグラウンドで行うことを考える。まず、われわれはMinkowsiki時空における場の理論をよく知っている。(2.7)で a = 0の場合がMinkowski時空の場合に対応していて、モード関数は自然に

u(±)(η; p) =1√2pe±ipη (2.13)

と決めることができる。このモード関数を基底として、(2.8)の解を次のように書くことができる。

φ(η,x) =∫

d3p

(2π)3/2

[a(p)u(−)(η; p)ei�·� + a†(p)u(+)(η; p)e−i�·�

]=

∫d3p

(2π)3/2

[a(p)u(−)(η; p) + a†(−p)u(+)(η; p)

]ei�·�. (2.14)

種々の交換関係は [a(p), a†(q)

]= iδ(3)(p − q), (2.15)

[φ(η,x), ∂ηφ(η,y)] = iδ(3)(x − y), (2.16)

......,

などで与えられる。ここで、a†(p), a(p) はそれぞれ生成、消滅演算子であり、真空は

a(p)|0〉 = 0, (2.17)

で定義される。このような真空の定義は、モード関数の選び方に依存していることに注意しよう。いまの場合、(2.13)のような選び方が「自然」であるとするのには根拠がある。それは、Minkowski

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10 2 4次元理論における背景重力波

時空の等長変換群である Poincare群の作用に対して、このような真空が不変なことである。あるいは、モード関数が時間推進のKillingベクトル ∂η の固有関数になっていることである。いずれにせよ、Minkowski時空のもつ高い対称性が鍵となっている。Minkowski時空だけで場の理論を考える場合には、真空の定義ということを特に意識する必要はなかった。しかし、すぐわかるように、曲がった時空で場の理論を扱う場合にはこのことが重要になってくる。場 (のフーリエ成分) φ(η; p) = a(p)u(−)(η; p) + a†(−p)u(+)(η; p) の 2乗の真空期待値は、ゼロ

でない有限の値をもつ:

〈0||φ(η; p)|2|0〉 =∣∣∣u(+)(η; p)

∣∣∣2=

12p. (2.18)

調和振動子のゼロ点振動、真空の量子ゆらぎ (vacuum fluctuation)である。

Bogoliubov変換

いま見たように、自由なスカラー場の正準量子化はたやすい作業であった。これと同じことを膨張宇宙のバックグラウンドで行うと、量子論的な粒子生成という概念に出会う。一般に曲がった時空には、Minkowski時空にはあったような対称性がない。例えば、定常でない(時間的なKillingベクトルがない)時空では、時間座標の「自然な」選び方ということについて、指導原理になるようなものがない。したがって、曲がった時空では全時空に渡る一意的な真空の定義は存在せず、真空や粒子数の定義に任意性が残る。

Fig.2.1のように膨張する一様等方宇宙を考えてみよう。領域 1と領域 2では、真空の定義が異なっているであろう。領域 1でのモード関数を u

(+)� , u

(−)� 、消滅、生成演算子を a(p), a†(p)とし

て、この領域での真空を

a(p)|0〉1 = 0, (2.19)

によって定義しよう。領域 2ではモード関数を v(+)� , v

(−)� 、消滅、生成演算子を b(p), b†(p)とし、

ここでの真空は

b(p)|0〉2 = 0, (2.20)

で定義する。ホライズンより小さな波長 (p� aH)は、時空が曲がっていることを感じないであろう。あるいは、膨張を非常にゆっくりとしか感じないと言ってもよい。このような波長にとって時空はMinkowskiのようなものだから、真空や粒子の個数の概念にあいまいさはない。そこで、場の短波長でのふるまいから真空を定義するのが適切である (adiabatic vacuum [11])。

{u

(+)� , u

(−)�

}も

{v

(+)� , v

(−)�

}も、同じ場の方程式の解に対する 2つの異なる完全直交系にすぎないから、互い

に線形変換で結ばれている。それを

v(−)� =

∑�

(�u

(−)� + β��u

(+)�

), (2.21)

v(+)� =

∑�

(α∗��u

(+)� + β∗

��u

(−)�

), (2.22)

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2.1. 宇宙膨張による量子論的粒子生成 11

Figure 2.1: スケールファクター a(η)で膨張

と書くことにしよう。この変換をBogolubov変換といい、係数 α, β達をBogoliubov係数という。ある時刻でのモード関数を別の時刻のモード関数の線形結合で表したとき、符号が逆の振動数をもつモードが混入する場合に、係数 β が現れることに注意しよう。消滅、生成演算子に関しては

a(p) =∑�

[α��b(q) + β∗

��b†(q)

], (2.23)

a†(p) =∑�

[α∗��b†(q) + β��b(q)

], (2.24)

となり、逆変換は

b(p) =∑�

[α��a(q) − β∗

��a†(q)

], (2.25)

b†(p) =∑�

[α∗��a†(q) − β��a(q)

], (2.26)

である。また、Bogoliubov係数は次の関係をみたすことが容易にわかる。∑�

(α�1�α

∗�2�

− β�1�β∗�2�

)= δ�1�2 , (2.27)

∑�

(α�1�β�2� − β�1�α�2�) = 0. (2.28)

さて、それぞれの領域での個数演算子はN�,1 = a†(p)a(p), N�,2 = b†(p)b(p) と書ける。状態が領域 1で真空 1〈0|N�,1|0〉1 = 0 であったとしても、領域 2での粒子数の期待値は

1〈0|N�,2|0〉1 =∑�

|�|2 , (2.29)

となって、一般にこれは 0でない。この結果は、宇宙膨張により粒子が生成されることを示している1。なお、この |β|2という量は、生成粒子の「位相空間における数」である。もし、初期状態

1gravitonの場の方程式が conformal不変でないことは重要である。例えば、一様等方な膨張宇宙の中では、∇νFµν = 0に従うベクトル場 Aµ をつくることはできない [81]。∇νFµν = 0 は (4次元では)conformal不変であるから、バックグラウンドが膨張しても場の方程式の解は conformal factorの何乗かをかけた分の変化しかせず、異なる符合の振動数モードが混じり合うことが決して起こらないからである。一般に、conformally flatな時空で conformal不変な場の方程式に従うような粒子をつくることはできない [73]。

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12 2 4次元理論における背景重力波

として運動量 qをもつ粒子が n� 個ずつあるような状態 |s〉 = |{n�1 , n�2, · · · }〉 をとったら、

〈s|N�,2|s〉 =∑�

[(|�|2 + |�|2)n� + |�|2

], (2.30)

となる。右辺の第 1項は元からあった粒子数 n� が変化することを表しており、第 2項は、それに加えて、真空の量子ゆらぎが増幅され粒子が生成されていることを表している。特に、空間的に一様等方な宇宙を考えているのならば、重力場が粒子に運動量を受け渡すことはあり得ないので、α�� = α�δ��, β�� = β�δ�� という形になる。そのときには、(2.30)は (1 + 2|β�|2)n� + |β�|2 となる。重力場が(急激に)変動することで、このように gravitonが生成されたのである。これは、急

激に変動する電磁場により photonが生成される現象に似ている。さて、ここでひとつ述べなければいけないことがある。もし重力場が非常にゆっくりと、断熱的に変化したのならば、粒子生成は起こらないだろう。つまり、宇宙膨張の時間スケール T に対して a/p � T をみたすような大きな pに対して、β� ∼ 0 であろう。これはきわめて一般的な性質である [11, 72]。

2.2 インフレーション起源の重力波

ホライズンの外での量子ゆらぎ

ハッブルパラメーターが一定の、de Sitter的なインフレーションをしている宇宙を考えよう。スケールファクターを conformal timeで書くと、

a(η) =−1Hη

, η < 0, (2.31)

となる。この de Sitter時空におけるモード関数は次のように選ぶのが適切である。

u(±)p (η) =

H√2pe±ipη

(η ± i

p

). (2.32)

ホライズンの十分内側 p|η| � 1で a(η)u±p (η) ∼ e±ipη/√

2p とふるまうことから、このモード関数で真空を定義してよいだろう。de Sitter時空は、もちろん正の宇宙項をもつ曲がった時空であるが、実のところ、Minkowski時空と同じく対称性がきわめて高い (4次元では 10個のKillingベクトルをもつ)。この対称性と関連して、(2.32)で定義される真空は、de Sitter時空の等長変換群である de Sitter群O(4, 1)の作用に対して不変であることを指摘しておく。

vacuum fluctuationについて分析しよう。それは次のように計算できる。

〈0|∣∣∣a(p)u(−)

p + a†(−p)u(+)p

∣∣∣2 |0〉 =∣∣∣u(+)p

∣∣∣2=

12pa2

+H2

2p3. (2.33)

第 1項がMinkowski時空での量子ゆらぎに対応していることは明らかであるが、この項は宇宙膨張により急激に小さくなる。ホライズンの十分外に出てしまうと、第 2項が効くことにより量子ゆらぎの振幅は一定値H2/2p3 をとることがわかるであろう。したがって、ホライズンの外側で

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2.2. インフレーション起源の重力波 13

重力波の (単位 logスケールあたりの)振幅は、前節で述べた規格化を思い出して

PGW(p) ≡ 4πp3

(2π)3h2p =

2M2

Pl

(H

)2

, (2.34)

となる。この量は、重力波のパワースペクトラム (power spectrum)と呼ばれる。重力波の振幅は、インフレーション中にホライズンの外に出ると一旦は凍結される。そのあと宇宙が進化するうちに、再びホライズンの内側に入ってきた重力波をわれわれは観測するのであるが、そのときに振幅は時間発展している。

計算テクニック – 2つの簡単な例 –

例 1) de Sitterインフレーション期から輻射優勢期へ

η = η0 で、インフレーション期から輻射優勢期に突然移り変わることを考えよう [2]。すなわち、スケールファクターは

a(η) ={−1/Hη −∞ < η < η0

(η − 2η0)/Hη20 η0 < η

, (2.35)

という変化の仕方をする。このとき、a(η)は 1階微分まで連続であるが、2階微分は不連続である。したがって、η = η0 で時空の曲率は不連続につながっている。

de Sitter時空のモード関数は (2.32)であった。一方、輻射優勢期のモード関数は次のように選べばよい。

v(±)p =

H√2p

η20

2η0 − ηe±ipη. (2.36)

これは、av(±) = −1√2pe±ipη であるから、真空を定義するのに適切である。η > η0 であるひとつの

モード、例えば v(−)に注目し、これが η < η0の時期には (2.32)の線形結合で書けているとする。この 2つの波動関数は、η = η0で 1階微分まで一致していなくてはならない。したがって、η = η0

v(−)p = αpu

(−)p + βpu

(+)p , (2.37)

∂ηv(−)p = αp∂ηu

(−)p + βp∂ηu

(+)p , (2.38)

が成り立っていることを要請する。この連立方程式を解けば、Bogoliubov係数を計算することができる。結果は

αp = 1 − i

pη0− 1

2p2η20

, (2.39)

βp =1

2p2η20

e−2ipη0 , (2.40)

となる。|αp|2 − |βp|2 = 1 が成り立っていることを確かめるのは、計算のチェックによいだろう。生成された gravitonのうち、エネルギー pをもつものの個数は

|βp|2 =1

4p4η40

, (2.41)

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14 2 4次元理論における背景重力波

である。しかしながら、あるカットオフ周波数 pcutがあって、p � pcutに対してのみこの表式が正しいことに注意しよう。というのも、いまのような de Sitter インフレーション期から輻射優勢期へと突然に移り変わる近似のもとでは、すでに述べたとおり aが不連続につながっている。より現実的には、aはさらに滑らかに変化すると考えてよく、その変化のタイムスケールと比べて短い波長の gravitonは生成されないであろう。そこで、p の大きいところでの生成量は、この表式よりも実際のほうが小さくなるのである。

例 2) インフレーション中にハッブルパラメーターが変化する

インフレーション中に、一般にはハッブルパラメーターはわずかに変化する。そこで、ハッブルパラメーターが突然変化するという近似のもとで、Bogoliubov係数を計算してみよう。まず、ハッブルパラメーターをH = H1として、計量は

ds2 =1

(H1η)2(−dη2 + δijdx

idxj), η < η0, (2.42)

である。η = η0にハッブルパラメーターが突然変化し、H2 になったとすると、計量は

ds2 =1

(H2η)2(−dη2 + δijdx

idxj)

=1

[H2η + (H1 −H2)η0]2(−dη2 + δijdx

idxj), η > η0, (2.43)

と書ける。ここで新たな座標 η = η + (H1/H2 − 1)η0 を導入した。いまの場合、スケールファクターの連続性は非常に悪い。aは連続であるが、aはすでに不連続である。η < η0 と η > η0 のそれぞれの領域で、モード関数は

φ(±) =H1√2pe±ipη

(η ± i

p

), (2.44)

φ(±) =H2√2pe±ipη

(η ± i

p

), (2.45)

である。 先ほどと同様にして、η = η0で

φ(−) = αpφ(−) + βpφ

(+), (2.46)

∂ηφ(−) = αp∂ηφ

(−) + βp∂ηφ(+), (2.47)

という要請をして接続する。こうして、次の Bogoliubov係数を得る。

β(4D) =i

2pη0

δH

H1e−2ipη0−ipη0δH/H2 , (2.48)

α(4D) =(

1 +i

2pη0

δH

H1

)e−ipη0δH/H2 . (2.49)

ここで、δH = H1 −H2と書いた。この結果は、あとでブレーンワールドにおける 5次元の計算結果との比較に使われるため、β(4D)などという記法を使った。

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15

3 高次元時空の考え方

われわれの住む 4次元時空が高次元時空の中に埋め込まれている、という考え方は、近年大きな注目を集めてきた。過去には、Kaluza, Kleinらによる「古典的」な高次元時空のモデルがあった。現代に目を移せば、重力をふくむ統一理論の有力な候補として超弦理論、M理論があるが、これらは高次元の時空でのみ矛盾のない理論である。そのような fundamental thory に触発されて研究がはじまった高次元時空の「新しい」アイデア– ブレーンワールドシナリオ – は、もはや素粒子論の分野だけでなく、相対論・宇宙論の分野にまで大きな影響を与えている。そして、ブレーンワールドの考え方にもとづいた宇宙モデルや高次元のブラックホールなど、興味深い話題が研究されている。この章では、ブレーンワールドシナリオの基礎を解説する。まず、§3.1でKaluza-Klein的な高次

元時空の描像について述べる。§3.2では、ブレーンに物質場を局在させるということに関して、あるモデルを説明する。ADDモデルについてはごく簡単に §3.3 に記す。§3.4は、Randall-Sundrumモデルについて述べた節である。特に、RS2モデルは重力理論的な観点から面白く、この修士論文の残り全体を通しての議論の土台となるものである。なお、Kaluza-Klein理論の相対論的側面からのレビューとして [71]がある。また、ブレーンワー

ルドシナリオについて主に素粒子現象論的な観点から書かれたレビューとしては [78] がある。

3.1 Kaluza-Klein的アプローチ

空間的な余剰次元をもつモデルは、20世紀初頭に G. Nordstromと T. Kaluza、O. Kleinらによって野心的に研究された [40]。その「古典的」理論とは次のようなものである。まず、(4 + d)次元の時空が

E4+d = M4 ×Kd, (3.1)

のように直積で書ける構造をしていると仮定する。ここで、M4は 4次元の時空、Kdは d次元のコンパクトな空間で、その典型的なスケールを Lとする (Fig.3.1)。直積の構造に対応して、計量は

GAB(x)dxAdxB = gµν(x)dxµdxν + γαβ(x, y)dyαdyβ, (3.2)

と選ぶことにする。xは 4次元の座標で、µ, νは 0から 3までを走る。また、yは余剰次元の座標を表しており、α, βは 4から 3 + dまでを走る。以下では、M4はMinkowski時空と思ってよい。このようなセットアップのもとで、簡単な (4 + d) 次元のスカラー場の action

S =∫d4+dx

√−G

[−1

2∂Aφ∂

Aφ− m2

2φ2 − g4+d

4!φ4

], (3.3)

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16 3 高次元時空の考え方

を考え、4次元の有効理論としてどのようなものが得られるのか見てみよう。そのためには、φを次のように展開する。

φ(x, y) =∑{n}

φ{n}(x)Y{n}(y). (3.4)

ここで、Y{n}は、Kd上の Laplace演算子Kd の固有関数で、規格直交化されているものとする:

KdY{n}(y) = −λ{n}L2

Y{n}(y). (3.5)

簡単のために、余剰次元はトーラス状にコンパクト化されているとしよう。すなわち、Kd = T d

とし、半径はすべて等しく Lとしよう。このとき、固有関数 Y{n}とその固有値 λ{n}は

Y{n4,n5,...,n3+d} =1√Vd

exp(i∑nαy

α

L

), (3.6)

λ{n4,n5,...,n3+d} = n24 + n2

5 + · · · + n23+d, (3.7)

となる。nα達は整数値をとり、Vd = (2πL)2 はトーラス T dの体積である。固有値が λ0 = 0となる余剰次元方向に一様なモード(ゼロモード)と、それ以外 λ{n} > 0 のモード(KKモード)が存在することがわかるだろう。このモード展開を action (3.3)に入れ、Kdに渡って先に積分してしまうと、次のような actionを得る。

S =∫d4x

√−g{

− 12

(∂µφ0)2 − m2

2(φ0)

2 − g4+d

Vd4!(φ0)

4

−∑n�=0

[12

∣∣∂µφ{n}∣∣2 +12

(m2 +

λ{n}L2

) ∣∣φ{n}∣∣2]− g4+d

Vd4!(φ0)

2∑n�=0

∣∣φ{n}∣∣2 − · · ·}.(3.8)

ここから読み取れるのは、KKモードの質量が

m2KK = m2 +

λ{n}L2

, (3.9)

と表されることと、4次元の有効理論として見たときの結合定数 g4が

g4 =g4+d

Vd, (3.10)

と書けることである。Kaluza-Klein理論ではすべての場が余剰次元方向にも拡がるとしているので、(3.9)のようなmass spectrum (Kaluza-Klein タワーと言う) がすべての粒子について現れる。このようなKKモードの兆候は、∼ 1/L程度のエネルギースケールで現れるはずである。しかしながら、標準模型の粒子についてそのような兆候は観測されていないことから、1/L � O(100 GeV)であるべきことが言える。すなわち、余剰次元は

L � 10−16 cm (3.11)

程度にコンパクト化されていなくてはならない。あるいは、Lはプランク長LPl ≈ 8.10×10−33 cm程度と通常は考える。いずれにせよ、この「古典的」Kaluza-Klein理論においては、余剰次元のサイズは「小さい」。

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3.2. ブレーン上に局在した物質場 17

Figure 3.1: Kaluza-Klein理論。余剰次元は非常に小さくなくてはならない。

なお、もともとのKaluza-Klein理論の動機は、4次元の Einstein重力とMaxwellの電磁気学を高次元時空を導入することで統一することにあった。元来のモデルは、S1にコンパクト化された余剰次元を加えた 5次元時空でのEinstein重力理論は 4次元のEinstein-Maxwell理論に等価であり、計量の成分 G0µが U(1)ゲージ場 Aµとみなせる、というものである。

3.2 ブレーン上に局在した物質場

前節で説明した「古典的」Kaluza-Klein理論には、ブレーン上に局在した物質場、という概念はなかった。高次元的にふるまう場に対し、余剰次元を非常に小さくコンパクト化することによって 4次元の理論を再現していたのであった。しかしながら、ブレーンワールドシナリオでは、物質場をブレーン上に局在化させるというアイデアが重要である。そこで、この節では、ひとつの例としてM4 ×R1のような(余剰次元が無限に大きい)構造をもつ 5次元時空において、フェルミオンをブレーン上に局在化させるモデルを紹介しよう。まず、actionが次のように与えられる実スカラー場の理論を考える。

Sϕ =∫d4xdz

[−1

2(∂Aϕ)2 − V (ϕ)

]. (3.12)

ここで、zは余剰次元を表しており、ポテンシャル V (ϕ)は、ϕ = ±vで極小値をとるFig. 3.2の左の図のような形を仮定する。この理論には、zにのみ依存し、ϕc(z → ∞) = v, ϕc(z → −∞) = −vをみたす古典解が存在する (kink解)。その様子は、Fig. 3.2 の右の図に描かれている。この解は、2つの真空を分けるドメインウォールが z = 0にあるような解を表しており、余剰次元方向の並進対称性を壊しているが、4次元の Poincare対称性は保っている。具体的には、例えば

V =λ

4(ϕ2 − v2

)2, (3.13)

に対して kink解

ϕc(z) = v tanh

(√λv2

2z

), (3.14)

が存在する。

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18 3 高次元時空の考え方

Figure 3.2: ポテンシャル V (ϕ)(左)と kink解(右)

このモデルにフェルミオンを導入しよう1。スカラー場 ϕとの間には Yukawa相互作用を入れ、フェルミオンについて次のように 5次元的な actionを書く。

Sψ =∫d4xdz

(−ψΓA∂Aψ − gϕψψ). (3.15)

ドメインウォールのバックグラウンドで、Dirac方程式は

ΓA∂Aψ + gϕc(z)ψ = 0, (3.16)

となる。このフェルミオンの 4次元的な質量mは、γµ∂µψ = −mψ によって与えられ、m = 0の解、すなわちゼロモード ψ0 が存在する。それは

iγ5∂zψ0 = gϕc(z)ψ0, (3.17)

をみたす。解としては、γ5ψ0 = +iψ0 をみたす 4 次元的な見方で left-handed になるものと、γ5ψ0 = −iψ0 をみたす right-handedのものとが存在する。そこで、4次元の left-handed Weyl スピノール ψL もしくは right-handed Weyl スピノール ψR を用いて、解は

ψ0 = exp[∓∫ z

0dz′gϕc(z′)

]ψL,R, (3.18)

という形になる (符号は “L”のときマイナス)。|z|の大きいところで ψ0 ∼ exp (−gv|z|) のように指数関数的に小さくなる解が求めるものであるから、ここでは left-handedのものを採用する。このように、フェルミオンのゼロモードを z = 0近傍に局在させることができた(もちろん、現実的なモデルには、局在化されたフェルミオンに小さな質量を与えるメカニズムが必要である)。しかしながら、KKモードはドメインウォールに束縛されておらず、|z| = ∞に逃げていくこ

とができる。したがって、高エネルギーで KKモードが励起された場合には、例えば、e+e− →nothing のような過程が起こり得る。

15次元時空のフェルミオンは 4次元と同じく 4成分である。記法は次のように定めた。4次元のときの通常のDirac行列

γ0 =

� −i−i

�, γj =

� −iσj

iσj

�, γ5 = γ0γ1γ2γ3 =

�i

−i�,

に対して、5次元のガンマ行列は Γµ = γµ, Γz = −iγ5 というように、Γz を加えたものを全体のガンマ行列とすればよい (D 次元のスピノールについては [74]の 2巻 Appendix B 参照)。この記法では (γ5)2 = −1 だから γ5 の固有値は ±iである。4次元的なスピノールの、固有値 +iをもつほうが left-handed、固有値 −iをもつほうが right-handedとなる。

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3.3. 大きな余剰次元 –ADD モデル– 19

3.3 大きな余剰次元 –ADD モデル–

近年、N. Arkani-Hamed, S. Dimopoulos, G. Dvali (ADD)らによって、新しい現象論的モデルが提唱された [4, 5]。彼らのモデルは、張力を無視できるようなブレーンを、コンパクトで平坦な余剰次元をもつ高次元時空2に埋め込んだものである(張力とは、ブレーンが単位体積あたりにもつエネルギー密度のことである)。物質場をブレーンに局在させ、重力のみが余剰次元に伝わるとする考えにより、比較的大きなサイズの余剰次元が許される。ここに、Kaluza-Klein的描像が復活した。

ADDモデルの動機として、hierarchy問題を解決するということが挙げられる。すなわち、このモデルは、弱い相互作用のスケールMEM = (GF)−1/2 ≈ 300 GeV とプランクスケール MPl ≈1018 GeV との間に、これほどまでに膨大な差がある理由を説明できる新たな可能性を開くのである。

少し詳しく見ていくことにしよう。D = 4 + d次元の重力場の actionは

S =(MD)D−2

2

∫dDx

√−g(D)(D)R, (3.19)

と書ける。4次元的な長距離の重力は、gravitonのゼロモードを介して伝わるとする。ゼロモードgravitonの波動関数は余剰次元に渡って一様である。そこで、計量は余剰次元の座標には依らないとして、(3.19)の積分のうち、余剰次元の部分を先に実行してしまうことができる。そして、4次元の effective actionとして

Seff =(MD)D−2Vd

2

∫d4x

√−g(4)(4)R, (3.20)

を得る。ここで、Vdは余剰次元の体積であり、簡単のためにすべての余剰次元が同じサイズであると仮定すれば、Vd ≈ Ldである。この effective actionから、D次元の “fundamental mass” MD

とわれわれの 4次元時空のプランク質量MPlとが、

MPl = MD(MDL)d/2, (3.21)

のように関係づけられることがわかる ((3.10)と比較してみよう)。この関係から、“fundamentallength” M−1

D が余剰次元のサイズより大きければ、プランク質量をMDよりはるかに大きくできることが容易にわかる。いま、MD ≈ 1 TeV ≈MEW にとってみよう。すると、hierarchy問題は、実は大きな余剰次元

のために現れたのだという説明ができるであろう。もちろん、これは単なる「言い換え」に過ぎない。なぜなら、余剰次元が大きい理由を説明しなくてはならないからである。MD ≈ 1 TeVを仮定すると、(3.21) からただちに

L ≈M−1D

(MPl

MD

)2/d

≈ 1032/d × 10−17 cm, (3.22)

という評価を得る。d = 1のとき、L ≈ 太陽系のサイズとなってしまい、明らかに現実と矛盾する。d = 2は L ≈ 1 mm を与えるが、これは悪くない。Newtonの逆 2乗則が O(mm) 以下で

2ブレーンが埋め込まれている高次元時空全体のことをバルクと言う。以下ではこの呼び名を使うことがある

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20 3 高次元時空の考え方

確かに成り立っているかどうかが、未だ精度良く検証されてはいないからである [36]。あるいは、MD ≈ 30 TeV ととった場合にはL ≈ O(µm) となる。今後、短距離におけるNewtonの逆 2乗則からのずれを測定する実験が進歩することで、この程度のサイズの余剰次元を検証できる可能性はあり、たいへん興味深い。さらに他の場合はどうであろうか。再びMD ≈ 1 TeVととることにして、d = 3ではL ≈ 10−6 cm

となる。このスケールでニュートン則の実験を行うことはまず無理であろう。超弦理論が定式化されている次元D = 10、つまり d = 6では L ≈ 10−12 cm となる。大きな余剰次元が許されるということの鍵になったのは、ブレーンに物質場を局在させるとい

う考え方であった。重力については短距離における実験的制限が弱い、というところに抜け道があったわけである。

Brane

Figure 3.3: ADDモデル。余剰次元は大きいことが許される。

3.4 Randall-Sundrum モデル

1999年に L. Randall, R. Sundrumによって提案された 2つのモデル [75, 76]は、

• ブレーンの張力 (自己重力)を考慮にいれ、

• 負の宇宙項をもつ曲がったバルク時空を考える、ということを特徴とする。また、余剰次元の数は 1とする。ブレーンの厚みを無限に小さいとみなすと、それはデルタ関数的な重力源としてはたらき、時空の幾何学として面白い結果が得られる。これから、そのRandall-Sundrumモデルについて説明しよう。

3.4.1 2枚のブレーンと新しいコンパクト化の方法: RS1

まずは、余剰次元を S1/Z2にコンパクト化し、その固定点に 2枚のブレーンを配置したモデル[75]について述べよう。これは通称で RS1モデルと呼ばれることがある。余剰次元の座標を yとして、固定点 y = 0, y = yc にブレーンがあるとする (Fig. 3.4)。S1/Z2コンパクト化というのは、Horava-Wittenモデルの考え方を踏まえてのものである。6章でRandall-Sundrumモデルの宇宙論的な拡張を行う際などにも、このように Z2対称性を仮定するのであるが、実際問題として、それによりブレーンのところでの境界条件が簡単になる。

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3.4. Randall-Sundrum モデル 21

Identify

Figure 3.4: S1/Z2コンパクト化。黒丸が固定点である。

[75]で用いられた actionは次のようなものである。

S = Sgrav + Svis + Shid, (3.23)

Sgrav =M3

5

2

∫ yc

−yc

dy

∫d4x

√−g(5)

((5)R− 2Λ(5)

), (3.24)

Svis =∫d4x

√−gvis(Lvis − Vvis), Shid =∫d4x

√−ghid(Lhid − Vhid). (3.25)

Shid, Svisは、それぞれ y = 0にあるブレーンと y = ycにあるブレーンの actionであり、ghid, gvis

は各ブレーン上の induced metricの determinantを表している。Lはブレーン上の物質のラグランジアンであるが、いまは定数の “vacuum energy” Vvis, Vhid のみを考えることにする。上の actionを変分して得られるアインシュタイン方程式は

√−g(5)

((5)GAB + Λ(5)g

(5)AB

)= −M−3

5

[Vvis

√−gvisgvisµν δ

µAδ

νBδ(y − yc)+

+Vhid√−ghidg

hidµν δ

µAδ

νBδ(y)

], (3.26)

である。計量の形を

g(5)ABdx

AdxB = a2(y)ηµνdxµdxν + dy2, (3.27)

と置いて、(3.26)の解を求める。この計量では、ycはそのまま 2枚のブレーン間の固有距離になっている。これがコンパクト化のスケールに対応している。また、4次元の部分はPoincare対称性が明確に保たれているような形に書いた (ブレーン上がMinkowski時空になっている)。アインシュタインテンソルの成分は

(5)Gµν = 3

[(a′

a

)2

+a′′

a

]g(5)µν , (3.28)

(5)Gyy = 6(a′

a

)2

, (3.29)

(5)Gyµ = 0, (3.30)

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22 3 高次元時空の考え方

であり、これらから解くべき方程式を整理すると、結局

6(a′

a

)2

= −Λ(5) (> 0), (3.31)

3(a′

a

)′= −M−3

5 [Vvisδ(y − yc) + Vhidδ(y), ] (3.32)

ということになる。ここで、′は yで微分したことを表す。(3.32)は、ブレーンの位置で計量の微分が不連続になっていることを示しており、y = 0 もしくは y = yc の近傍で積分すれば、そこでの境界条件を与える式になっていることがわかるであろう。(3.31)からΛ(5)は負であるべきで、これを Λ(5) = −6/�2 と書くと、これらをみたす解として

a(y) = e−|y|/, (3.33)

Vhid = −Vvis =6M3

5

�≡ σ, (3.34)

を得る。‘hid’で表される正張力ブレーンと ‘vis’で表される負張力ブレーンがあり、それらの張力の絶対値は等しくなくてはならないということがわかる。さらに、(3.34)により、バルクの宇宙項とブレーンの張力は

Λ(5) = − σ2

6M65

, (3.35)

の関係で結ばれている。ブレーン上がMinkowski時空になっているためには、宇宙項と張力の間にこのような fine-tuningが必要である。2枚のブレーンの間は、負の宇宙項をもつ時空 (Anti-deSitter(AdS)時空) になっていて、その半径が �である。a(y) のことを “ワープファクター”と呼んでいる。

(3.27)の代わりに、z = �ey/ と座標変換することで得られる

ds2 =�2

z2

(ηµνdx

µdxν + dz2), (3.36)

という計量もよく利用されるので、記しておく。この座標系で見ると、正張力ブレーンは z = � にあることになる。

スケール間の指数関数的な階層性

RS1モデルが、どのように hierarchy問題に対する解決策を提示するのかを見てみよう。それには、この時空の幾何学が重要な役割を果たしている。重力相互作用の強さを知りたいので、(3.27)に摂動を加える。

ds2 = a2(y)[ηµν + hµν(xλ, y)

]dxµdxν + dy2, a(y) = e−|y|/. (3.37)

いまは radionにまつわることは考えず、ブレーン間の距離は ycに固定されているとする。また、∂νhµ

ν = 0, hµµ = 0 なるゲージを取ることにする3摂動の従う方程式は、線形化されたアインシュ3一般には、バルクでこのようなゲージをとると、ブレーンの位置が y = const. になるとは限らない (Gaussian

normal座標になっていない) [27]。ブレーン上に (張力以外で)物質がなければ、このゲージをとることとブレーンの位置が y = const. になることが両立する。

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3.4. Randall-Sundrum モデル 23

タイン方程式より導かれて

(a2hµν

)′′ − 4�2(a2hµν

)+m2

a2

(a2hµν

)= 0, (3.38)

である。ただし、質量mは ηρσ∂ρ∂σ(a2hµν

)= −m2

(a2hµν

)によって決まる。一方、ブレーンの

位置 y = 0, ycでの境界条件は (a2hµν

)′ + 2�−1(a2hµν

)= 0, (3.39)

と書かれる。(3.38),(3.39)をみたす解としてゼロモードm = 0 が存在して、それは

a2(y)h0µν ∝ e−2|y|/, (3.40)

である。すなわち、ゼロモードはワープファクターと同じ y依存性をもつので、h0µν 自体は yに依

存しないことがわかった。ゼロモードのこのような y依存性は、負張力ブレーン上の物質同士の重力相互作用が、正張力ブレーン上のそれと比べて弱いことを示唆している。ブレーン上での重力結合定数は、Sgrav を y について先に積分したものから読み取ればよい。

y = yB (yB = 0 or yc) にあるブレーンが「われわれの世界」だとすると、ワープファクターがy = yB で 1に規格化されているように、ブレーン上では x′µ = a(yB)xµ という座標を用いるべきである。このことに注意すれば、正しい積分測度を得ることができる。有効理論のゼロモードセクターは、

Seffgrav =

M35

2

∫ yc

−yc

dy

∫d4x

√−g(5)a2(yB)a2(y)

(−1

4ηρσ∂ρ

′h0µν∂σ

′h0 µν

)

=M3

5

2

∫ yc

−yc

dya2(y)a2(yB)

·∫d4x′

√−gBRB, (3.41)

と計算できるので、y = yB のブレーン上にいるわれわれにとってのプランク質量は

M2Pl = M3

5

∫ yc

−yc

dya2(y)a2(yB)

= �M35

(1 − e−2yc/

) 1a2(yB)

, (3.42)

で与えられることがわかる。(3.42)によると、負張力ブレーンが「われわれの世界」だとすれば

M2Pl = �M3

5

(e2yc/ − 1

), (3.43)

ということになる。そこで、コンパクト化のスケールを yc/� ∼ 35程度に選べば、M5 ∼ �−1 ∼O(TeV) となって階層性がなくなる。このように、RS1モデルは、階層性を指数関数型の幾何学的因子に押し込めるという、斬新なアイデアを提示した。これにより、hierarchy問題はO(10)程度の別の階層性を導入しただけで解決されるわけである。

なお、KKモードの波動関数は Bessel関数 J2とN2の線形結合で

a2(y)hmµν ∝ N1(m�)J2(m�ey/) − J1(m�)N2(m�ey/), (3.44)

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24 3 高次元時空の考え方

と与えられる。係数 (の比) は y = 0 での境界条件をみたすように選んだ。これが同時に y =yc での境界条件もみたしていなくてはいけないことから、mass spectrum が決まる。すなわち、J1(m�)N1(m�eyc/) −N1(m�)J1(m�eyc/) = 0 をみたすm しか許されない。これをみたすmは

m ∼ �−1e−yc/ (3.45)

程度の間隔で現れる。ただし、これは正張力ブレーン上で測った質量 (の差)であるから、負張力ブレーン上の観測者が測った場合には、a−1∆m ∼ �−1 という値を得ることに注意しよう。

RS1モデルと、次に説明する RS2モデルに関して、模式図と因果構造を Fig.3.5と Fig. 3.6 に記した。

RS1 RS2

Figure 3.5: RS1モデル(左)とRS2モデル(右)。RS1モデルでは、大きさが同じで符号が反対の張力をもつブレーンが 2枚、有限の距離を離れて配置されている。RS2モデルは、負の張力をもつブレーンを無限遠にもっていったものである。

3.4.2 無限に大きな余剰次元: RS2

通称RS2と呼ばれるモデルは、RS1におけるコンパクト化のスケール ycを無限大 yc → ∞にすることで得られる [76]。負張力ブレーンは無限遠 (実は Cauchy ホライズン)に飛ばされ、正張力ブレーン 1枚のみがあるようなモデルである。コンパクト化していないのだから、モデルからひとつスケールが消えたことになっており、hierarchy問題の解決には何ら役立っていない。実際、(3.42)から

M2Pl = �M3

5

(1 − e−2yc/

)→ �M3

5 , (3.46)

という関係がなりたつ。�−1 とM5の間に大きな階層性を導入しない限りは、問題は解決されない。このモデルの面白さのひとつは、無限に大きな余剰次元を導入したのにもかかわらず、低エネ

ルギーで 4次元のNewton重力 (あるいは一般相対論)を再現するというところにある。余剰次元が無限に大きい場合、素朴には重力ポテンシャルは V ∝ −1/r2となることが予期される。しかしながら、ゼロモードの波動関数 (3.40)は、yc → ∞の極限をとっても規格化可能である。このこと

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3.4. Randall-Sundrum モデル 25

RS1 RS2

Figure 3.6: Randall-Sundrumモデルの大域的構造。ブレーンを境界にもつような灰色の部分がバルクである。y = ∞はCauchyホライズンになっていることがわかる。

は、ゼロモード gravitonがブレーンの近傍に局在していることを示唆している。したがって、ゼロモードを介して行われる重力相互作用については 4次元的なふるまいをすると考えられる。もうひとつの面白さは、AdS/CFT対応 [1] に関連した物理にある。これについては、興味深い

研究 [21, 22, 33, 35] が行われているということを指摘するにとどめ、具体的に紹介することはやめておく。

RS2モデルの大域的構造は Fig. 3.6 に示した通りである。負張力ブレーンは無限遠方に持っていかれたわけであるが、それでもなおこれが y = ∞での境界条件を与えることに変わりはない。ブレーンから y = ∞に向かう時間的測地線を考えよう。xi = const. として、測地線方程式の解は

t(τ) = � tan(τ/�), (3.47)

y(τ) =�

2ln[1 + tan2(τ/�)

], (3.48)

となる。y = 0 を出発した「粒子」が y = ∞にたどり着くまでにかかる時間は、座標時間 tで計ると無限大である。しかし、有限の固有時間 τ = �π/2 で y = ∞にたどり着いていることがわかる。このように、y = ∞はホライズンの性質をもっている。ここでの境界条件は、「過去側にあるホライズンを越えて進入する進行波がない」ということを課す場合が多い。

KK gravitons と Newton則への補正

RS2モデルにおける gravitonの波動関数について調べてみよう。計量の摂動が従う方程式はRS1のときのものがそのまま使える。見通しをよくするために、z = �ey/, ψ = a3/2(y)hµν で定義された量を用いて (3.38),(3.39) を書き直すと、

∂2ψ

∂z2− 15

4z2ψ +m2ψ = 0, (3.49)[

∂ψ

∂z+

32�ψ

]z=

= 0, (3.50)

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26 3 高次元時空の考え方

となる。このふたつをまとめると{− ∂2

∂z2+[

154z2

− 3�δ(z − �)

]}ψ = m2ψ, (3.51)

と Schrodinger方程式の形に帰着する。ポテンシャルは Fig. 3.7 に描かれたような「火山」の形をしている。この方程式の解として、m = 0の束縛状態を表すゼロモード

ψ0 ∝ z−3/2, (3.52)

と、m > 0 で連続スペクトルをなすKKモードがある。いずれも、規格化因子を除けば前節で求めてあった。KKモード関数を規格化因子もふくめて書いておくと4

ψm =√mz

2N1(m�)J2(mz) − J1(m�)N2(mz)√

J21 (m�) +N2

1 (m�), (3.53)

となり、遠方では

ψm ∼√

sin (mz + phase) , (3.54)

のように振動的なふるまいをすることがわかる。この KKモード関数は、y = ∞ に逃げていくgraviton、もしくは y = ∞からブレーンに向かってくる gravitonを表している5。

Figure 3.7: 火山型ポテンシャルと無限遠に伸びるKKモードの波動関数

4規格化は

2

� ∞

dzψmψm′ = δ(m−m′)

と決める。5Bessel関数を Hankel関数に書き直してみれば、この波動関数が内向き進行波と外向き進行波の両方を含んでいる

ことが容易にわかる。したがって、これは先ほど述べた遠方での境界条件 (ホライズンを越えて進入する進行波がない、という境界条件) をみたすものではない。

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3.4. Randall-Sundrum モデル 27

ブレーン上にある 2個の質点がKK gravitonを交換することで発生する静的なポテンシャルは

VKK(r) = −G(5)m1m2

∫ ∞

0dm

[a2(0)hmµν(0)

]2 e−mrr

≈ −�−1G(5)m1m2

r· const ·

∫ ∞

0dm�2me−mr

= −const · GNm1m2

r· �

2

r2, (3.55)

である。各KK gravitonが Yukawa型ポテンシャルをつくることに注意しよう。ニュートン重力部分に関係するゼロモードの寄与を合わせて、重力ポテンシャルは全体で

V (r) = −GNm1m2

r

(1 +

α�2

r2

), (3.56)

となる。r � � では補正項が小さいことがわかるであろう。この結果は [76]で与えられていたが、J. GarrigaとT. Tanakaによって詳しく調べられ [27]、補正項の係数まで

V (r) = −GNm1m2

r

(1 +

2�2

3r2

), (3.57)

と求められた。また、[21]でM. J. Duffたちは、gravitonのプロパゲーターの 1-loop補正が重力ポテンシャルに対して r−3の補正を与えることに注目して、その係数を AdS/CFT対応を用いて計算したところ、まったく同じ結果を得た。ニュートン則はO(mm)のスケールまでは実験的に確かめられている [36]から、(3.57)の補正項

はこのスケールでも小さくなくてはならない。このことから、粗い評価で

� � 0.1 mm ≈ 5 × 1011 GeV−1, (3.58)

という制限が課される。これと、M2Pl = �M3

5 の関係から

M5 � 1010 GeV, (3.59)

という制限をつけることもできる。

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28

4 ブレーンワールドにおける重力

この短い章では、前章で説明したブレーンワールドにおける重力を、Randall-Sundrum モデルを念頭に置いて幾何学的に非常に洗練された方法 [64, 79]でとらえ直す。

ブレーン上のEinstein方程式

負の宇宙項をもつような 5次元時空 (バルク時空) (M, gAB)の中に、4次元超曲面 (3-ブレーン)Σ が埋め込まれているような状況を考えよう。Σ上の induced metricを qAB = gAB −nAnB とする。ここで、nAはΣに垂直な単位ベクトルである (Fig.4.1)。

Gauss方程式:

(4)Rµνρσ =(5) RABCDqAµqν

BqρCqσ

D +KµρKνσ −Kµ

σKνρ, (4.1)

Codacci方程式:

DνKµν −DµKB

B =(5) RBCnCqµ

B , (4.2)

から出発しよう。ここで、KAB = 12LngAB = qA

CqBD∇CnD は Σの外的曲率、Dµ は induced

metric qµν からつくった共変微分である。(4.1)で νと ρとを縮約すると、

(4)Rµν =(5) RABqµAqν

B −(5) RABCDnAqµBnCqν

D +KAAKµν −Kµ

AKνA, (4.3)

となるので、これから

(4)Gµν = (5)GABqµAqν

B +(5) RABnAnBqµν +KA

AKµν −KµAKνA

−12qµν

[(KA

A)2 −KABKAB

]− Eµν , (4.4)

を得る。ただし、

Eµν =(5) RABCDnAnCqµ

BqνD, (4.5)

と定義した。さらに、5次元の Einstein方程式

(5)RAB − 12gAB

(5)R = −Λ(5)gAB + κ2(5)TAB , (4.6)

をつかうと、

(4)Gµν = −12Λ(5)qµν +

2κ2(5)

3

[TABq

Aµ q

Bν +

(TABn

AnB − 14TA

A

)qµν

]+KA

AKµν −KµAKνB − 1

2qµν

[(KA

A)2 −KABKAB

]− Eµν , (4.7)

Eµν = (5)CABCDnAnCqµ

BqνD, (4.8)

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29

Figure 4.1: (M, gAB)の中の 3-ブレーン (Σ, qµν)

という関係を得る。ここで、Weylテンソルの定義式

(n)Rµανβ =2

n− 2

(gµ[ν

(n)Rβ]α − gα[ν(n)Rβ]µ

)− 2

(n− 1)(n− 2)(n)R gµ[νgβ]α +(n) Cµανβ , (4.9)

を用いた。Eµν はトレースレスであることに注意しよう。(4.2)と (4.6)から

DAKµA −DµKA

A = κ2(5)TABn

BqµA, (4.10)

という関係があることもわかる。さて、これからは特定の座標系をとることにしよう。すなわち、wという座標を、w = 0がブ

レーンの位置になり、nAdxA = dw となるようなものとする。このとき、nA∇AnB = 0 であるか

ら、nAが接する曲線は測地線になっている。したがって、これはGaussian normal座標をとったことになっていて、計量は ds2 = qµνdx

µdxν + dw2 という形になる。energy-momentum tensorについては次のような形であるとする:

TAB = SABδ(w), (4.11)

SAB = −σqAB + τAB. (4.12)

すなわち、バルクには宇宙項のみが存在し、ブレーン上には、一定の張力 σと通常の物質 τµν があるとする。物質のほうは、τABnA = 0をみたす。この energy-momentum tensorはw = 0で特異性をもっていて、Israelの接続条件 [39]によって、外的曲率と関係がつけられている。それは[

KAB −KδA

B]

= −κ2(5)SA

B , (4.13)

である。記号 [ ] は [F ] = F |w=0+ − F |w=0− を表している。つまり、qµν は w = 0で連続であるが、その 1階微分は不連続である。w > 0サイドとw < 0サイドの間にZ2対称性を仮定することにして、

KAB |w=0+ = −KAB|w=0− = −κ2

(5)

2

(SAB − 1

3SgAB

), (4.14)

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30 4 ブレーンワールドにおける重力

を得る。これを (4.7)に入れることにより次の非常に重要な式が導かれる。

(4)Gµν = −Λ(4)qµν + 8πGN τµν +48πGNσ

πµν − Eµν , (4.15)

ただし、

Λ(4) =Λ(5)

2+κ4

(5)σ2

12, (4.16)

8πGN =κ4

(5)σ

6, (4.17)

Eµν = (5)CABCDnAnCqµ

BqνD∣∣∣w=0+

, (4.18)

πµν = −14τµατν

α +112ττµν +

18qµνταβτ

αβ − 124qµντ

2. (4.19)

である。(4.15)がブレーン上の重力を記述する Einstein方程式である。(4.16),(4.17) によって定義されたΛ(4),GN はそれぞれ、ブレーン上の宇宙項およびニュートン定数とみなしてよいだろう。通常の 4次元 Einstein方程式との違いは、

• τµν の 2乗からなる項 πµν

• Weylテンソル Cαβγδ からつくられる項 Eµν

に現れている。前者は、ブレーンの張力 σ と比べて低エネルギーを考えているときには無視できる量である。

具体的に、τµν が完全流体の形

τµν = ρuµuν + p(qµν + uµuν) (4.20)

に書けている場合を想定するとわかりやすい。uµは 4元速度場で、Σに接していて nAと直交する。このとき、

8πGN τµν +48πGNσ

πµν = ρ(1 +

ρ

)uµuν +

[p+

ρ

2σ(ρ+ 2p)

](qµν + uµuν) (4.21)

となる。ρ/σ � 1 の低エネルギーでは、πµν に起因する項は無視できることがすぐにわかるであろう。πµν の効果はこのように現れるのである。ブレーンの外の重力場の影響はEµν を通じて入っている。Weylテンソルが 0のとき、この量も

0であるから、逆に Eµν �= 0 ならばバルクは厳密な AdS時空にはなっていない。(4.10)と (4.14)とを組み合わせることにより、ブレーン上の物質に関する保存則

Dντµν = 0, (4.22)

が導かれる。これと、さらにビアンキ恒等式: Dν (4)Gµν = 0 および (4.15) を組み合わせると、

DµEµν =48πGNσ

Dµπµν

=12πGNσ

[ταβ(Dνταβ −Dβτνα) +

13(τµν − qµντ)Dµτ

](4.23)

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31

という関係があることがわかる。しかしながら、このようにブレーン上の物質による拘束条件がついているのは、Eµν の縦波成分だけであることに注意しよう。重力波に対応する transverse traceless成分ETT

µν については、5次元的な伝播の方程式を解く必要があり、取り扱いは非常に複雑である。計算が続いたので、ここでまとめておこう。ブレーン上で成立する方程式は、Einstein方程式

(4.15)、ブレーン上の物質に関する保存則 (4.22)、およびWeylテンソルの射影に対する拘束条件(4.23) の 3つである。重要なことは、これらがブレーン上だけでは閉じていないということである。Eµν は、一般にはバルク全体で解かなければ決まらない。例えば、ブレーン上でそろえた初期データだけでは決まらない、バルクから降り注ぐ重力波の自由度を想像すればよい。このことが、ブレーンワールドの幾何学を非常に面白くする。

重力の局在化の幾何学的解釈

前章では、gravitonの波動関数、言い換えれば計量の摂動のふるまいを調べることで、重力がブレーン近傍に局在化される様子を見た。このことをとらえ直してみよう。ブレーン上で4元速度uµをもつ観測者を考える。4元速度といっても、ブレーンを離れたところに

まで5次元的に拡張して、uAと記す。これは、uAuA = −1, uAnA = 0をみたすベクトルである。この観測者がブレーンに垂直なnA方向に感じる潮汐力による加速度は、−nA(5)RABCDu

BnCuD と書ける [83]。一方、5次元のEinstein方程式 (4.6)とWeylテンソルの定義式 (4.9)、および τµAn

A = 0であることから、容易に

−nA(5)RABCDuBnCuD =

16Λ(5) − EABu

AuB , (4.24)

という関係が成り立つことがわかる。この式をブレーン上 w → 0+で評価して、ブレーン上の観測者が nAの向き (ブレーンから離れる向き) に感じる潮汐力による加速度は

16Λ(5) − Eµνu

µuν (4.25)

となる。この結果は次のように解釈できる。宇宙項 Λ(5)は負であったから、これはブレーンに向かう力として寄与する。つまり、バルクの曲率が重力場をブレーン近傍に局在化させるようにはたらいている。また、このブレーンに向かう潮汐力は、Eµνuµuν > 0 ならば増大する。これは、バルクのWeylテンソルがブレーン上で負のエネルギー密度としてはたらいている場合に対応する。

バルクのWeylテンソルの効果

ブレーン上の Einstein方程式 (4.15) の右辺、特にWeylテンソルの射影Eµν をさらに詳しく調べてみよう。τµν については、簡単のために理想流体の形

τµν = ρuµuν + phµν , hµν = qµν + uµuν , (4.26)

を仮定する。このとき、すでに計算したように πµν = 112ρ

2uµuν + 112ρ(ρ+ 2p)hµν となる。

Eµν は常に次のように分解することができる。

Eµν = −8πGN[ρWuµuν + pWhµν + ΠW

µν + qWµ uν + qWν uµ]. (4.27)

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32 4 ブレーンワールドにおける重力

各項の意味は以下のように説明できる。バルクの重力場により生じるブレーン上のエネルギー密度が

ρW = − 18πGN

Eµνuµuν , (4.28)

である。この値は、正でも負でもよい。Eµν はトレースレスであることを思い出せば

pW =13ρW , (4.29)

であることがわかる。この部分は見ての通り輻射のようなふるまいをしていて、6章で登場する“Dark Radiation”の存在と関係がある。物質がたとえ完全流体であっても、Eµν は非等方ストレスとエネルギー流束を供給する。これらはそれぞれ

ΠWµν = − 1

8πGNE〈µν〉, (4.30)

qWµ = − 18πGN

Eλνhµλuν , (4.31)

と書かれる。ただし、記号 〈µν〉は

E〈µν〉 =[h(µ

ρhν)σ − 1

3hρσhµν

]Eρσ, (4.32)

を表すために用いてあり、テンソルを uµに垂直な面に射影し、対称かつトレースレスな部分を抜き出す役割をしている。以上のような 3つの項で、Eµν を分解して書き表すことができる。(4.15)の右辺のうち宇宙項を除いた部分を

8πGN τ effµν = 8πGN τµν +

48πGNσ

πµν − Eµν

= ρeffuµuν + peffhµν + ΠWµν + qWµ uν + qWν uµ, (4.33)

ρeff = ρ(1 +

ρ

)+ ρW , (4.34)

peff = p+ρ

2σ(ρ+ 2p) + pW , (4.35)

と書くと、ブレーン上の重量源として、ブレーン上の物質とバルクのWeylテンソルの効果とがどのようにはたらくか明確にわかる。

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33

5 ブラックホールとブレーンワールド

重力理論的観点から、ブラックホール解というものは重要な研究対象である。この章では、Randall-Sundrumモデルとブラックホール解に関連する話題を紹介しよう。

4次元の一般相対論の範囲内では多くのブラックホール解が知られており、特に Schwarzschild解が基本的で重要である。これは、球対称静的で漸近的に平坦な時空を記述していて、物質が球対称に重力崩壊したあとに残されるブラックホールは、この解で表されると考えられる。そこで、ブレーンワールドシナリオにおいても、ブレーン上で球対称静的、漸近的に平坦なブラックホール解を探し求めることは自然な成り行きである。特に、以下で述べるように、ブレーンに局在しているものが物理的に自然なブラックホール解であると考えられるが、そのような厳密解がいまだ発見されていないのである。なお、高次元ブラックホールはブレーンワールドの文脈を離れても話題が豊富な分野であり、興

味深い研究がなされている (例えば [15, 24, 25])。

5.1 AdS時空中のブラックストリング解

宇宙項 Λ(5) = −6/�2をもつAdS5時空の計量は

ds2 =�2

z2

(ηµνdx

µdxν + dz2), (5.1)

と書けることはすでに述べた。RS2モデルでは、このような計量で記述される時空の z = �の場所にブレーンを配置したのであった (3章)。ここで、この計量の ηµν を一般の gµν に置き換えても、もし gµν からつくったRicciテンソルが (4)Rµν = 0 をみたしていれば (Ricci flat)、そのような計量は再びアインシュタイン方程式 (5)GAB = −Λ(5)gAB の解になっている。証明は簡単であるから、参考文献 [13] を挙げるにとどめる。この事実を利用すると、ブレーン上では Schwarzschild計量となるが、ブレーンに局在していないブラックホール (ブラックストリング) 解をただちに構成することができる [18]。すなわち、ηµν を Schwarzschild計量に置き換えるだけでよい:

ds2 =�2

z2

[−U(r)dt2 + U−1(r)dr2 + r2(dθ2 + sin2 θdφ2) + dz2]. (5.2)

ただし、U(r) = 1 − 2M/rである。ワープファクターのせいで、z = z0におけるホライズン半径は r∗ = 2M�/z0となる (Fig. 5.1)。この解のRicciスカラー (5)RおよびRicciテンソルの 2乗 (5)RAB

(5)RAB はいたるところで有限である。これは明らかであろう。しかし、Riemannテンソルの 2乗

(5)RABCD(5)RABCD =

1�4

(40 +

48M2z4

r6

), (5.3)

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34 5 ブラックホールとブレーンワールド

のふるまいには注目すべき病的な点がある。まず、r = 0ではこの量が発散するため特異であるが、この特異点が z = �から z = ∞まで伸びていることがわかる。さらに、AdSホライズン z = ∞自体も特異である。

Figure 5.1: AdS時空中のブラックストリング解

この解の安定性はどうであろうか。漸近的に平坦な時空でのブラックストリング解については、長波長の摂動に対して不安定であることが知られており [31]、さらにいまのようなAdS時空でのブラックストリング解も不安定であることが示されている [32]。ブラックストリング解 (5.2)の持つ以上の性質は、ブレーン上に Schwarzschild時空を実現する

ようなブラックホール解として他に適切な安定解が存在するであろうことを示唆している。[18]の著者たちは、それはブレーンに局在した解であろうと予想しているが、いまだにそのような厳密解は発見されていない。

5.2 3 + 1次元の厳密解

もともとのRSモデルよりも 1次元低い、AdS4時空に 2-ブレーンを埋め込んだモデルでは、ブレーンに局在しているブラックホールの厳密解が知られている [23]。次元は 1つ低いものの、この解が、探し求める 4 + 1次元のブラックホール解のヒントになっている可能性がある。そこで、この節ではこの 3 + 1次元のRSモデルにおけるブラックホール解について述べよう。

RSモデルの n+ 1次元の拡張

まずはじめにRSモデルを n+ 1次元に拡張しておこう。n+ 1次元の次のような計量を考える(ここでは、n+ 1次元的な量はˆをつけて表し、n次元的な量には何もつけないことにする)。

gABdxAdxB =

�2

z2

[gµνdx

µdxν + dz2]. (5.4)

このとき、gAB からつくられる Ricciスカラー Rと gµν からつくられる RicciスカラーRとの関係は

R =z2

�2R− n(n+ 1)

�2, (5.5)

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5.2. 3 + 1次元の厳密解 35

で与えられる。このことを使って、(n+ 1)次元重力の actionについて

S =1

2 · 8πG(n+1)

∫dnxdz

√−g

(R− 2Λ(n+1)

)+ Sbrane

=1

8πG(n+1)

∫dnx

√−g∫ ∞

dz

(�

z

)n+1 [z2

�2R+ · · ·

]

=�/(n− 2)8πG(n+1)

∫dxn

√−gR+ · · · , (5.6)

というように z積分を先に実行する。これにより、n+ 1次元の重力定数と n次元の重力定数との関係が

G(n) =n− 2

2�G(n+1), (5.7)

で与えられることがわかる。Sbraneは (n− 1)-ブレーンの張力 σn−1で書けているが、ブレーン上に effectiveな宇宙項が現れないようにこれを調整すると、

σn−1 =n− 1

4πG(n+1)�, (5.8)

となることがわかる。

厳密解とその分析

とりあえずはブレーンの存在を考えず、負の宇宙項をもった 4次元のアインシュタイン方程式の解になっている、次の計量から出発する。

ds2 =�2

(x− y)2

[H(y)dt2 − dy2

H(y)+

dx2

G(x)+G(x)dϕ2

]. (5.9)

ここで、

H(y) = −y2 − 2µy3, (5.10)

G(x) = 1 − x2 − 2µx3, (5.11)

である。実際に GAB = (3/�2)gAB をみたすことは、計算により確認することができる。この解は“AdS C-metric”[43] と呼ばれる計量の特別な場合であり、等加速度運動するブラックホールを表している。この解を分析しよう。まず、計量の成分が tと ϕには依っていないことから、Killingvector ∂t, ∂ϕ が存在する。いまのところ、xと yはどのような座標なのかわからないが、大雑把には動径座標ともうひとつの角度座標によって、y−1 ∼ r, x ∼ cos θ のように表される座標だと思ってよい。

0 < µ < 1/3√

3のとき、G(x) = 0 の解は 3つある。これを x0, x1, x2としよう。x0 < x1 <

−1 < 0 < x2 < 1である。Lorentz符号の計量を想定しているから、今後は x1 < x < x2の範囲で考えよう。計量全体に (x− y)−2というファクターがかかっている。このことは、x = yという点が x �= yである点から無限に遠いところにあることを示している。そこで、−∞ < y < xの範囲で考えることにする。RµνρσRµνρσ = (24/�2)[1 + 2µ2(x− y)6] は y = −∞で発散するため、

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36 5 ブラックホールとブレーンワールド

Figure 5.2: G(x)のふるまい。0 < µ < 1/3√

3のときは左図、µ < 1/3√

3のときは右図のようになる。

(i) y = ∞は特異点 (curvature singularity)である。この特異点を覆うブラックホールのホライズンが存在する。それはH(y) = 0となるところで、(ii) y = −1/2µ ≡ y0 がイベントホライズンになっていることがわかる。さらに、(iii) y = 0は AdS時空のコーシーホライズンであるということも言える。G(x1) = G(x2) = 0であることは、この 2点がちょうど θ = 0, π のような回転軸上の点に対応していることを示している。以上のことを手がかりにして、このブラックホール時空の模式図を Fig. 5.3のように描くことができるだろう。回転軸上の点 x1, x2では、角

AdS HorizonB.H. Horizon

Infinity

Figure 5.3: 0 < µ < 1/3√

3の場合のブラックホール時空の模式図。y =一定面のトポロジーは、y < x1ならば S2、逆に y > x1ならばR2である。特に、イベントホライズンのトポロジーは S2

である。

度座標 ϕの周期をうまく決めないと円錐状特異点 (conical singularity)が現れてしまう。しかも、

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5.2. 3 + 1次元の厳密解 37

1点で conical singularityを解消しても、もう 1点でのそれを同時に解消できるとは限らない。このことを見てみよう。y =一定の 2次元面上で x = x2の近傍に注目すると、計量は

ds22 =�2

(x− y)2

[dx2

G(x)+G(x)dϕ2

]

≈ �2

(x− y)2

[dx2

|G′(x2)|(x2 − x)+ |G′(x2)|(x2 − x)dϕ2

], (5.12)

と表すことができる。ここで、わかりやすくするために R = 2√

(x2 − x)/|G′(x2)|と座標変換すると、これは

ds22 ∝ dR2 +R2

( |G′(x2)|2

)2

dϕ2, (5.13)

となる。これを見ると、座標 ϕの周期∆ϕを

|G′(x2)|2

∆ϕ = 2π, (5.14)

をみたすようにとらない限り、x = x2に conical singularityが発生してしまうことがわかる。一方で、∆ϕを (5.14)のように選ぶことにすると、Fig. 5.4にあるように、x = x1では自動的に欠損角 (deficit angle)が生じる。それは

δ =4π

G′(x1)− ∆ϕ, (5.15)

で与えられる。張力 T をもつ宇宙ひも (cosmic string)があると、そこに deficit angle δ = 8πG(4)T

が生じることが知られている [48]。このことから、計量 (5.9)が記述するのは、中心から伸び出たcosmic stringによって引っ張られ加速しているブラックホールである、という解釈ができる。

Figure 5.4: 円錐状特異点 (conical singularity) と欠損角 (deficit angle)

これまでは、パラメーター µが 0 < µ < 1/3√

3の場合を分析してきた。µ > 1/3√

3のときには、G(x) = 0の解はただひとつ x = x2であり、x < x2に対して必ずG(x) > 0になる。ただし、yは相変わらず y < xの範囲で考えているから、ある固定された yについて y < x < x2の範囲しか動けない。特に、y = y0(ホライズン)においても x = y = y0に到達することが可能であるから、ホライズンは無限遠にまで伸びている。模式図は Fig. 5.5 のようになる。

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38 5 ブラックホールとブレーンワールド

AdS HorizonB.H. Horizon

Infinity

Figure 5.5: µ > 1/3√

3の場合のブラックホール時空の模式図。ホライズンもふくめ、y =一定面のトポロジーはR2である。

µ = 0の場合を見てみることには意義がある。このとき、−1 < x < 1, ∆ϕ = 2πであり、イベントホライズンも y = −∞の特異点も消えてしまう。実際、

z = �

(1 − x

y

), r = −

√1 − x2

y, t = �t, (5.16)

と座標変換して計量を書き直すと

ds2 =�2

z2

(−dt2 + dr2 + r2dϕ2 + dz2), (5.17)

という見慣れた形になる。y = −∞は z = �, r = 0に対応していて、もはや特異ではない。x = y

はAdS時空の無限遠の境界 z = 0に対応し、y = 0はコーシーホライズン z = ∞に対応していることもわかる。そして、z = � にブレーンを置き、z > �の部分のコピーをブレーンを境界にして貼り合せることで、RS2モデルの (3 + 1)次元版を構築することができる。それでは、ホライズンがある µ > 0の場合に 2-ブレーンを導入することを考えよう。張力 σ2以

外には物質場が乗っていないブレーンを、接続条件をみたすような位置に置きたい。張力以外に物質場がないということは、ブレーン上の energy-momentum tensorが Sµν = −σ2gµν と書けることに他ならないから、この時空中の時間的な 3次元超曲面で、その外的曲率がKµν ∝ gµν となる場所を探せばよいことになる。実際にKµνを計算してみれば、そのような都合のよい場所は x = 0以外にはないことがわかる。以上のような考察により、ブラックホールが 2-ブレーンに局在しているような解を得ることが

できた。すなわち、計量 (5.9)によって表される時空で x = 0にブレーンを置き、0 < x < x2の部分とそのコピーを x = 0に沿って張り合わせればよい。x < 0の部分は切り落とされるため、もはや conical singularityはなく、ホライズンはいたるところで regularである。

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5.2. 3 + 1次元の厳密解 39

B.H. Horizon

Figure 5.6: ブレーンを置き、x < 0の部分を切り落とす様子。この操作により conical singularityは隠れてしまい、いたるところで regularなホライズンが得られる。

再び先ほどの座標 (5.16)を利用して、このブラックホール時空を解析することにしよう。この座標系では、x = 0が z = �に対応する。また、ホライズン y = y0 = −1/2µは z = �(1 + 2µx)という曲面で表される。

z < zmax = �(1 + 2µx2) < �(1 + 2µ), (5.18)

から、ホライズンが余剰次元方向にどこまで伸びているかがわかる。また、特異点 y = −∞はz = �, r = 0に対応しているので、ブレーン上かつブラックホールの中心にあることもわかる。そして、ブレーン上の induced metricは

ds2 = −(

1 − 2µ�r

)dt2 +

(1 − 2µ�

r

)−1

dr2 + r2dϕ2, (5.19)

である。この計量から、ブレーン上の重力のふるまいを見ることにしよう。素朴には、重力場が弱いときには、ブレーン上に (2 + 1)次元重力が再現されていることが期待される。実のところ、この induced metricからRicciテンソルを計算すると、0でない成分

Rtt =µ�

r3gtt, Rrr =

µ�

r3grr, Rϕϕ = −2µ�

r, (5.20)

があって、(2 + 1)次元重力の真空解にはなっていない。特に、r ∼ µ�では (2 + 1)次元重力理論との違いが大きく現れると言える。しかしながら、遠方 r � µ�では (局所的に)平坦な時空になっていて、しかも座標 ϕの周期が 2πではないために、時空は円錐のような構造になっている。この性質は、(2 + 1)次元の重力の性質に一致している1。なお、(5.19)の gttおよび grr は、質量が µ�

で与えられる Schwarzschild時空のものとまったく同じ形をしていることは注目に値する。13 次元時空では、Rµν = 0はただちに Rµνρσ = 0 を意味するので、物質のない場所は必ず局所的に平坦なのであ

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40 5 ブラックホールとブレーンワールド

2つの極限的な場合、すなわち、µ � 1の場合と µ � 1の場合にこのブラックホールの性質を調べることは興味深い。まず、µ� 1の場合は x1 ≈ −1 − µ, x2 ≈ 1 − µ と近似できることから

∆ϕ ≈ 2π(1 − 2µ), (5.21)

となる。ここで、欄外の注釈で述べている (2 + 1)次元重力における質量と deficit angleの関係を見直そう。その関係から、パラメーター µとブラックホールの「3次元的」質量m3とは

G(3)m3 =µ

2, (5.22)

の関係にあることがわかる。したがって、µ� 1のときの µは質量に比例したようなパラメーターである。µ � 1であるということは、そのままブラックホールが小さいということを意味している。ホライズンの表面積は

A = 2∫ x2

0dx

∫ ∆ϕ

0dϕ

√gxx

√gϕϕ ≈ 4π(2µ�)2, (5.23)

と計算できる。(5.19)によるとブレーン上で測った “Schwarzschild半径”は 2µ� であったことを思い出そう。

zmax − � ≈ 2µ�, (5.24)

であることも言えるが、これは、ホライズンが余剰次元にどの程度突き出しているかを表している量である (µ� 1ならば実際に固有距離と等しくなる)。それが、ブレーン上で測った Schwarzschild半径に等しいという結果である。これは、ブラックホールが 4次元の Schwarzschil解とほとんど同じであることを示している。小さなブラックホールは、おおむね 4次元的 (高次元的)にふるまうと言える。それでは、反対に µ� 1の場合はどうであろうか。このときにはG(x) = 0解はただひとつで、

それは x2 ≈ (2µ)−1/3 と近似できる。今度は、ϕの周期は

∆ϕ ≈ 4π3(2µ)1/3

, (5.25)

である。先ほどと同様にして、deficit angleから「3次元的」質量を計算すると

G(3)m3 =14

[1 − 2

3(2µ)1/3

], (5.26)

る。いま、(x, y) = (0, 0)に質点mがあるとしよう。このとき、energy-momentum tensorは T00 = mδ(2)(x, y) であり、アインシュタイン方程式を解くと解は

ds2 = −dt2 + r−8G(3)m(dr2 + r2dθ2),

であることがわかる。ρ = r1−4g(3)m/(1 − 4G(3)m), ϕ = (1 − 4G(3)m)θ と座標変換すると、

ds2 = −dt2 + dρ2 + ρ2dϕ2

となるから実際に時空は平坦であるが、θの周期はもともと 2πであったため、deficit angleが生じる。したがって、時空は円錐のような構造をしている。新座標 ϕの周期 ∆ϕ と質量mとの間に

2π − ∆ϕ = 8πG(3)m,

という関係が成り立つこともわかる。すなわち、deficit angleは質量に比例している [6]。

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5.2. 3 + 1次元の厳密解 41

という結果を得る。これは、µ → ∞の極限でも有限の値にとどまる。このことは、deficit angleが 2πを越えることができないために、(2 + 1)次元重力では質量に上限が存在することと関係している。しかし、それにもかかわらず、ホライズンの表面積は無限に大きくなる:

A ≈ 8π�2

3(2µ)2/3. (5.27)

さて、ブレーン上でホライズンの周囲の長さは

C = 2µ�∆ϕ ≈ 4π�3

(2µ)2/3, (5.28)

なので、A ≈ 2�C である。これはあたかも、ブレーン上では大きな半径をもつブラックホールが余剰次元には ∼ �程度しか突き出していない、ということを物語っているようである。実際に固有距離 Lzを求めると、余剰次元には Lz ≈ 2

3� ln(2µ) 程度突き出していることがわかる。これは、ブレーン上で測ったホライズンの半径よりも十分に大きいから、ブラックホールは平らなパンケーキの形をしていると言える。

Figure 5.7: µ � 1の小さなブラックホール (左)と µ � 1の大きなブラックホール (右)。小さなブラックホールは 4次元 Schwarzschildブラックホールのようである。一方、大きなブラックホールはパンケーキのような形状をしている。

3 + 1次元の厳密解の性質を見たわけであるが、ここから、次元を 1つ上げた場合の解について何らかの示唆を得られないものだろうか。AdSの曲率半径 � ∝ σ−1 と比べてホライズン半径2G(4)mが非常に小さいブラックホールは、ブレーンの存在を関知しないと考えられるので、やはり 5次元 Schwarzschildブラックホールのようにふるまうことが期待される。一方、大きなブラックホールの場合について、[23]の著者たちは次のような期待をしている。ある定数 αを用いて zmax ∼ �

(G(4)m�

−1)α という次元解析に頼った見積もりが正しいとすれば、バルクにどの程度

突き出しているかを固有距離で測って

Lz ∼ � ln(G(4)m�

−1) � 2G(4)m, (5.29)

ということが言えるだろう。したがって、4 + 1次元の解がもし存在するのなら、ホライズン半径が大きい場合にはやはりパンケーキのような形状であろう。

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42 5 ブラックホールとブレーンワールド

C-metricを利用して 3 + 1次元の厳密解を得られたことの類推から、仮に等加速度運動している 5次元ブラックホール解が存在すれば、その解に適宜ブレーンを導入し、一部分を切り落とすことによって、ブレーンに局在した 4 + 1次元のブラックホール解が得られるかもしれない。しかしながら、C-metricをそのように 5次元に拡張した計量は知られていない。なお、数値的にブラックホール解を求める試みもあり [53]、熱力学的諸量や上で述べた高次元ブラックホールの形状に関して興味深い議論がなされている。

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43

6 ブレーンワールド宇宙論

物理学の基礎理論、あるいは現象論的モデルは、現実に確かに観測されている事実と矛盾してはならない。できることならば、それらを「うまく、自然に」説明することが望まれる。宇宙モデルを構築することは、理論に対するテストのひとつである。この章では、3章で紹介したRandall-Sundrumモデルの宇宙論的な拡張を行い、その様々な側

面について議論する。Randall-Sundrumのブレーンワールドは toy model的な要素を含んでおり、シンプルなモデルではあるが、バルクが曲がった時空になっているため非自明な結果が期待される。§6.1および §6.2では、一様等方宇宙を記述する Friedmann方程式のブレーンワールドにおける

拡張版を導出する。§6.3では、宇宙論の重要な要素のひとつであるインフレーションについて議論する。さらに現実的な宇宙モデルとして、一様等方性からのずれ、cosmological perturbationを§6.4で考える。

6.1 ブレーン上のFriedmann方程式

一様等方な宇宙を考えるので、ブレーンの空間的な切断面は 3次元の最大対称空間になっている。その断面曲率が k = −1, 0, + 1 の場合をまとめて、計量を γij と書くことにする。時間座標と余剰次元を表す座標については、Fig. 6.1 のようにGaussian normal 座標を使おう。すなわち、ブレーンの軌道に沿って時間座標 τ を取り、その座標軸に直行する測地線に沿って余剰次元の座標 w を取る(ブレーンの位置を w = 0 とする)。このような座標系は、ブレーンの近傍でいつでも張ることができる。このとき、5次元の計量は

gABdxAdxB = −n2(τ, w)dτ2 + a2(τ, w)γijdxidxj + dw2, (6.1)

となり、ブレーン上の induced metric は

ds2B = −dτ2 + a20(τ)γijdx

idxj , (6.2)

となる。ただし、τ がブレーン上の固有時間を表すように n(τ, 0) = 1 と決め、スケールファクターを a(τ, 0) = a0(τ) と書いた。これは、Friedmann-Robertson-Walker 計量のような形になっている。Gaussian normal 座標は、一般に、D 次元の多様体の中に埋め込まれた (D − 1) 次元の超曲面の十分近傍を考えるときに有用であるが、その超曲面から離れたところでは測地線が交わってしまうなどして、よい座標系になっていないことがある [83]。つまり、いまの座標系はブレーンのごく近傍(あるいは、ブレーン上)の時空を見るのには便利な座標であるが、バルク時空の構造を記述するのには必ずしも適切な座標とは言えないことに注意しよう。

5次元のアインシュタイン方程式

GAB = RAB − 12RgAB = −Λ(5)gAB + κ2

(5)TAB , (6.3)

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44 6 ブレーンワールド宇宙論

Brane

Figure 6.1: ブレーンの近傍で張った Gaussian normal 座標

の解で、上のような計量の形をもつものを見つけよう [16, 9, 10, 26, 41, 66]。ここで、κ2(5) = 8πG(5)

とし、バルクは AdS5 時空を考えているので、その曲率半径を � とすると

Λ(5) = − 6�2, (6.4)

である1。また、energy-momentum tensor に関しては、ブレーンの張力 σ とブレーンに局在した物質によって次のように書けているとしよう(σ は定数とする):

TAB = SABδ(w)

= diag (−σ,−σ,−σ,−σ, 0) δ(w) + diag (−ρ, p, p, p, 0) δ(w). (6.5)

計量 (6.1)について、Einstein tensor GAB の成分は

Gττ = 3a2

a2− 3n2

(a′′

a+a′2

a2

)+ 3k

n2

a2, (6.6)

Gij = a2

(2a′′

a+n′′

n+a′2

a2+ 2

a′n′

an

)γij

+a2

n2

(−2

a

a− a2

a2+ 2

an

an

)γij − kγij , (6.7)

G0w = 3(an′

an− a′

a

), (6.8)

Gww = 3

(a′2

a2+a′n′

an

)− 3n2

(a

a+a2

a2− an

an

)− 3

k

a2, (6.9)

となる [10]。˙は τ による微分を、′ は wによる微分を、それぞれ表している。これらを Einstein方程式の右辺に等しいと置けばよいのだが、energy-momentum tensor はデルタ関数 δ(w) を含んでいる。そこで、Einstein方程式を w �= 0 で解き、w = 0 での SAB の影響は、境界条件として

1一般に、AdSn 時空の宇宙項は Λ(n) = − 12(n− 1)(n− 2) 1

�2である。

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6.1. ブレーン上の Friedmann方程式 45

考えるのがよいだろう。GAB は計量の 2階微分を含んでいるから、g′′ = sδ(w) のような方程式を、g′′ = 0 と、w = 0 の近傍で積分して得られる境界条件 g′(0+)− g′(0−) = s のように分けて考えるということである。これらはもちろん等価である。このような境界条件は Israel の接続条件[39] と呼ばれ、よく用いられる。では、その接続条件を書き下そう。それは外的曲率 KAB = qA

CqBD∇CnD を用いて

[KAB −KqAB] = −κ2(5)SAB, (6.10)

と書ける。ただし、記号 [ ]は [F ] = F |w=0+ −F |w=0− を表し、nA はブレーンに対して垂直な単位法ベクトル(w が正の方向を向くように定義する)、qAB = gAB − nAnB はブレーン上の inducedmetric である。ブレーンワールドにおける宇宙モデルを考えるときにも、[KAB ] = KAB |w=0+ −KAB |w=0− =

2KAB |w=0+ という Z2 対称性を Randall-Sundrumモデルから引き継いで課すことが多い。われわれもいまは簡単のために Z2 対称性を仮定することにするが、[38]ではこの仮定を外した場合の議論がなされている。Z2 対称性を課すと接続条件は

KAB = −κ2

(5)

2

(SAB − 1

3SqAB

), (6.11)

と書き直せて、具体的に計量等の成分を入れれば

n′

n

∣∣∣∣w=0+

=κ2

(5)

6(3p+ 2ρ− σ), (6.12)

a′

a

∣∣∣∣w=0+

= −κ2

(5)

6(ρ+ σ), (6.13)

となることがわかる。整理すると、(6.6)-(6.9)で与えられるGAB について、GAB = −Λ(5)gAB を境界条件 (6.12), (6.13) をみたすように解けばよい、ということになる。それでは Einstein方程式を解こう。まず、G0w = 0 から ∂w (a/n) = 0 、すなわち a/n は τ だ

けの関数であることがわかる。そして、n(τ, 0) = 1 であることから、

a

n= a0(τ), (6.14)

を得る。これをGττ = Λ(5)n2 に入れると、

a20

a2− a′′

a− a′2

a2+

k

a2=

13Λ(5), (6.15)

となって、これの両辺に a3a′ をかけるとただちに wで積分することができる。その結果、

(aa′

)2 − a20a

2 − ka2 +Λ(5)

6a4 + C = 0, (6.16)

となる。ここで、C は任意の積分定数である。これを w = 0+で評価して、(6.13) から第 1項目の a′ を消去すると、

H2 =a2

0

a20

=κ4

(5)

36(ρ+ σ)2 +

Λ(5)

6− k

a20

+Ca4

0

, (6.17)

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46 6 ブレーンワールド宇宙論

を得る。これがブレーン上の Friedmann方程式である。この時点では、右辺のエネルギー密度部分が、ブレーン上のエネルギー密度 ρ+ σ の 2乗の形で入ってきていること(通常の Friedmann方程式 H2 = (8πGN/3)ρ を思い出そう)と、方程式には 5次元の重力定数G(5) しか現れていない(GN がない)ことに注意を喚起しておく。なお、Gww = −Λ(5) を τ で積分しても同じ Friedmann方程式を得る。続いて、保存則を導出しよう。G0w = 0 を w = 0+ で評価し、(6.12)と (6.13) を入れると、

∂ρ

∂τ+ 3H(ρ+ p) = 0, (6.18)

が導かれる。これは、4次元の場合の保存則と完全に同じ形をしている。言い換えれば、ブレーン上の induced metricからつくった共変微分Dµ について、DµSµν = 0 が成立しているということである。さて、Friedmann方程式 (6.17)について議論しよう。これを次のように書き直す:

H2 =κ4

(5)σ

18ρ+

κ4(5)

36ρ2 +

(κ4

(5)σ2

36+

Λ(5)

6

)− k

a20

+Ca4

0

. (6.19)

右辺の括弧の中の部分は宇宙項とみなせるので、これを

Λ(4)

3=

κ4(5)σ

2

36+

Λ(5)

6

=κ4

(5)σ2

36− 1�2, (6.20)

と書くことにしよう。また、低エネルギー ρ � σ の近似のもとで通常の 4次元の Friedmann方程式を再現するべきであると考え、

κ4(5)σ

18=

8πGN3

, (6.21)

のように同一視する。すると、(6.17)は結局

H2 =8πGN

3ρ(1 +

ρ

)+

Λ(4)

3− k

a20

+Ca4

0

, (6.22)

となる。こうして見ると、4次元の Friedmann方程式との違いが 2点あることに気づく。

• ρ2 に比例した項

• あたかも輻射であるかのようなふるまいをする項 C/a40

である。まず、ρ2 に比例した項は、ρ� σ のときに効いてくることが読み取れる。したがって、そのよ

うな状況が実現されている可能性のある初期宇宙の進化は、通常の Friedmann 方程式で記述される宇宙の進化とは異なっているであろう。簡単のために k = 0, C = 0 と仮定して、状態方程式が

p =13(q − 3)ρ, (6.23)

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6.1. ブレーン上の Friedmann方程式 47

で与えられる場合に、(6.22)を解いてみよう。この状態方程式と (6.18) からただちに

ρ ∝ a−q0 , (6.24)

とわかる (ブレーン上での保存則は 4次元の通常のものと同じ形なので、ここまでは 4次元の場合とまったく同じである)。したがって、a0/a0 = q−1ρ∂τρ

−1 であるから、(6.22)は等価な式

(∂τρ

−1)2 =

Λ(4)q2

3ρ−2 +

8πGNq2

3ρ−1 +

8πGN q2

6σ, (6.25)

に書き直すことができる。この ρ−1 についての微分方程式には解析解が存在し、それは、Λ(4) の正負によって以下のように与えられる。

aq0 ∝ ρ−1 =

√4πGNΛ(4)σ

sinh

(q

√Λ(4)

)+

4πGNΛ(4)

[cosh

(q

√Λ(4)

)− 1

](6.26)

(Λ(4) > 0),

aq0 ∝ ρ−1 = q

√4πGN

3στ +

2πGNq2

3τ2 (Λ(4) = 0), (6.27)

aq0 ∝ ρ−1 =

√4πGN−Λ(4)σ

sin

(q

√−Λ(4)

)+

4πGNΛ(4)

[cos

(q

√−Λ(4)

)− 1

](6.28)

(Λ(4) < 0),

(6.29)

それぞれについて、σ → ∞ の極限で消える右辺第 1項目が、ρ2 に比例する項によってもたらされた効果である。(6.27) を見ると、輻射優勢期 (q = 4) に右辺第 2項が効いていれば、いつものように a0 ∝ τ1/2 となるが、もし右辺第 1項が大きい場合には、a0 ∝ τ1/4 のように膨張が遅くなることがわかる。

finite

Figure 6.2: Λ(4) > 0の宇宙の進化の様子。4次元のスタンダードな宇宙と同じ進化 (σ → ∞、点線)に比べ、初期に ρ2の項が効く宇宙 (実線)の方は、膨張が遅くなる。

次に、C/a40 という項についてであるが、この項は見ての通り輻射のようなふるまいをするので、

“Dark Radiation” と呼ばれる [66]。すぐ後に述べることが示唆するように、これはバルクのWeylテンソルと関係した量である。この Dark Radiation についての議論は次の節で行うのが適切であろう。

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48 6 ブレーンワールド宇宙論

なお、張力を Randall-Sundrumの値 (3.34) に調整すると Λ(4) = 0 であり、真空のブレーン(ρ = 0)、バルクが厳密に AdS5(C = 0)、k = 0ならば、H = 0になる。このときには、もちろんRS2モデルが再現されている。

この節では、Friedmann方程式は 5次元のアインシュタイン方程式を書き下し、それを積分することで得られた。もちろん、4章で導いたブレーン上でのアインシュタイン方程式を利用しても同じ結果が得られる。Dark Radiaiton を、(4.34)の中で

8πGN3

ρW =Ca4

0

, (6.30)

と置くと、Friedmann方程式は

H2 =8πGN

3ρeff +

Λ(4)

3− k

a20

, (6.31)

と書ける。これは、4次元の Friedmann方程式のエネルギー密度の項を ρeff に差し替えたものに過ぎないが、当然そうあるべき結果である。また、(6.20)と (6.21) のような同一視も、(4.16)と(4.17) を見れば納得がいく。

さて、ブレーンの張力 σ、あるいは 5次元のプランク質量M5 などに対して、宇宙論からの制限をつけることはできないだろうか。ビッグバン元素合成 (Big bang nucleosynthesis, BBN) [70]以降の宇宙の進化は、すでに確立されている通常の宇宙の進化と大きく異なっていてはいけない。したがって、張力のエネルギースケールは元素合成の時代のエネルギースケールより高くなくてはならない。もし σのエネルギースケールが小さすぎると、ρ2の項が BBNに影響を与えてしまうのである。このことから、

σ1/4 � 1 MeV, (6.32)

という制限をつけることができる。これと、(6.21)から

M5 � 104 GeV, (6.33)

が言える。ただし、これはRandall-Sundrumモデルについて、ニュートン則の補正項が小さいという条件からつけた制限 (3.59) よりは弱いことを指摘しておく (こちらの場合は、宇宙項 Λ(4) がキャンセルして消えるようなパラメーターの値を選んでいるが)。

6.2 Schwsrzschild-Anti de Sitter時空とDark Radiation

前節では、Gaussian normal 座標という、ブレーンに「貼り付いた」座標系を用いてFriedmann方程式を導出した。この節では、前節とは異なるアプローチで得られた宇宙論的な解 [38, 52] について述べる。それは、Schwarzschild-Anti de Sitter (Sch-AdS) 解で記述され、Einstein方程式(6.3)のバルクでの解 (GAB + Λ(5)gAB = κ2

(5)TAB = 0) になっている。計量は

gABdxAdxB = −f (r)dT 2 +

1f(r)

dr2 + r2γijdxidxj , (6.34)

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6.2. Schwsrzschild-Anti de Sitter時空とDark Radiation 49

f(r) = k − Λ(5)

6r2 − µ

r2, (6.35)

で与えられる。ここで、前節と同じように γij は 3次元定曲率空間の計量で、k = −1, 0,+1 のそれぞれの場合に応じて具体的な形は変わる。計量の成分が時間座標 T に依存していないので、Sch-AdS時空は静的である。µ は 5次元 Schwarzschild ブラックホールの質量という見方ができるだろう。r−2 という依存性は、時空の次元が 5であることに由来する。もちろん、µ = 0 ならばこれは単に AdS5 時空を表しているに過ぎない。この時空の中にブレーンがあるとし、その軌道を τ でパラメータ付けして (T = T (τ), r = r(τ))

と書こう。以下では、イベントホライズンの外側のみを考えることにする。dT = T dτ, dr = rdτ

から、ブレーン上の induced metricは

ds2B = −(fT 2 − f−1r2

)dτ2 + r2(τ)γijdxidxj , (6.36)

となる。˙は τ による微分を表す。このとき、ブレーンの速度(軌道の接ベクトル)uA は

uA =(T , r

), uA =

(−f T , f−1r

), (6.37)

と書ける。ただし、3次元の空間成分は自明なので省略した。τ がブレーン上での固有時間に一致するように、これを

uAuA = −f T 2 + f−1r2 = −1 (6.38)

と規格化することにしよう。uA に垂直な単位ベクトルは

nA =(r,−T

), nA =

(−f−1r,−f T

), (6.39)

である。これから、外的曲率の 3次元空間成分Kij は簡単に計算することができて、Israel の接続条件と組み合わせることにより、再び Friedmann方程式を導出することができる。すなわち、

Kij = qiAqj

B∇AnB

=12nA∂Agij

= −f Tr−1gij , (6.40)

と、(6.38)、および前節の接続条件 (6.11) (Z2対称性を仮定している)から

Kij = −

κ2(5)

6(ρ+ σ)δij = −

√f + r2

rδij, (6.41)

を得る。ただし、T > 0 とした。これに f の表式を入れて変形すると

r2

r2=κ4

(5)

36(ρ+ σ)2 +

Λ(5)

6− k

r2+µ

r4, (6.42)

となるから、r(τ)をスケールファクターとみなせば、これは (6.17)と同様の Friedmann方程式である。ブレーンをはさんでZ2対称性を仮定したので、時空構造としては、r < r(τ) の部分を切り落とし、そこに r > r(τ)の部分のコピーを貼り合せたものになる。

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50 6 ブレーンワールド宇宙論

Brane

Figure 6.3: Sch-AdS 時空の中を動くブレーン

一方、保存則は Kττ = KABuAuB に接続条件を課すことで得られる。(6.11)から、

Kττ = −κ2

(5)

6(2ρ+ 3p− σ)

= uAuB∇AnB =1r

d

(fT

). (6.43)

これより、保存則 ρ+ 3(r/r)(ρ+ p) = 0 が導かれる。ここまでの結果を整理しよう。Sch-AdS 時空という静的時空の中をブレーンが動いている、と

いう描像にもとづいて、ブレーンの位置 r = r(τ) が従う方程式を、Israelの接続条件から導出した。r(τ) をスケールファクターとみなすと、その方程式とは Friedmann方程式であった。さて、(6.34)に戻って k = 0, µ = 0、すなわち f = −(Λ(5)/6)r2 = (r/�)2 の簡単な場合に r = �e−y/ と座標変換すると、計量は

ds2 = e−2y/ηµνdxµdxν + dy2, (6.44)

となることがわかる。したがって、座標 r は大雑把に言って �e−y/ のようなものである。こう考えると、Fig.6.4 に示されたように状況を直観的に理解することができる。AdS時空は、y の大きくなるほうにワープファクター e−y/によって幾何学的に「小さくなっている」。r の大きくなる向きはこれと逆なので、ブレーンがその向きに動くことによって、ブレーン上で膨張宇宙が実現されているのである。

Dark Radiation

(6.17)と (6.42)とを見比べると、前者における積分定数 C は後者における Schwarzschild質量µ に対応していると言える。以下では、これを Cと書くことに統一しよう。Dark Radiationと呼ばれるこの項は、バルクの重力場のブレーンに対する影響を表していて、§6.1で触れたように、Weylテンソルの射影Eµν と

Cr4

=8πGN

3ρW =

13Eτ

τ , (6.45)

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6.2. Schwsrzschild-Anti de Sitter時空とDark Radiation 51

Warp Factor

Figure 6.4: 膨張宇宙を表すブレーンを直観的に解釈した図

という関係にある。宇宙の進化の過程では、Dark Radiationは余分な相対論的物質 (輻射)の自由度として寄与する。したがって、BBN2と宇宙背景放射 (CMB)の非等方性3から、この量に観測的な制限をつけることが可能だろう [8, 9, 10, 37, 57]。そこで、[10]に沿って BBNから大雑把に制限を与えてみよう。BBNの時代は輻射優勢であり、また、ρ2項はすでに効かなくなっている。このときの輻射のエネルギー密度は

ρrad|BBN = g∗π2

30T 4

BBN, (6.46)

で与えられる。ここで、g∗は相対論的物質の自由度で、標準模型では g∗ = 10.75である。g∗のこの値からのずれ∆g∗ には、軽元素量の観測による制限がついていて、∆g∗ < 2でなくてはならない。したがって、

ρW |BBN <π2

15T 4

BBN, (6.47)

あるいは

ρWρrad

< 0.16, (6.48)

をみたす必要がある。この比は一定に保たれるが、ρW 自体はもちろんスケールファクターの−4乗に比例して落ちていくので、現在の宇宙では無視できるはずである。

2BBNが標準模型を越える物理に対して非常に強い制限を与える仕組みを、簡単に説明しておこう。現在の宇宙の 4Heの量は、BBN直前の中性子-陽子の個数の比 n/pで決まる。この n/p比はある時期に凍結する (“freeze-out”) のであるが、その時期は、弱い相互作用のタイムスケールと宇宙膨張のタイムスケールとの比較で決まる。このとき、もし宇宙の全エネルギー密度に標準模型の粒子以外の余分なものが寄与していると、宇宙膨張を速くすることになるから、その分だけ freeze-outの時期が昔になる。すると、n/p比は大きくなり、4Heがさらにたくさん作られてしまう。これがモデルに対する強い観測的制限としてはたらく理屈である。n/p比の freeze-outは、温度で言えば ∼ 800 keVくらいの時代に起こり、光子、電子-陽電子対、3つのフレイバーのニュートリノの自由度を順に足すと、g∗ = 2+ 7

8·2 ·2+ 7

8·2 ·3 = 10.75

を得る。3CMBの非等方性については、本質的には一様等方性からのずれ、cosmological perturbationの文脈での議論を含

むべきである。しかし、Dark Radiationの存在が一様等方なバックグラウンドの膨張率に影響するのだから、その効果も CMBの非等方性に現れるであろう。

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52 6 ブレーンワールド宇宙論

K. Ichikiたちは [37]でBBN、CMB双方からの制限について詳細な計算を行い (CMBについては cosmological perturbationの影響を無視している)、BBNのみから

−1.23 ≤ ρWργ

≤ 0.11, (6.49)

という制限を、さらにCMBの非等方性も考慮に入れた結果、

−0.41 ≤ ρWργ

≤ 0.105, (6.50)

という制限を得ている。ここで、ργ は光子のエネルギー密度である。輻射全体のエネルギー密度ρradではなく光子のエネルギー密度との比なので、負の値も許されることに注意しよう。

6.3 ブレーン宇宙におけるインフレーション

計量 (6.1)について、変数分離可能な解を求めよう (ここでは k = 0とする)。すなわち、

a(τ, w) = a0(τ)A(w), A(0) = 1, (6.51)

とおく。(6.14)から、n(τ, w) = A(w) である。(6.51)を接続条件 (6.12)および (6.13) に入れることにより得られる 3p+ 2ρ− σ = −(ρ+ σ) = const. という関係は、状態方程式が

p = −ρ = const., (6.52)

で与えられなくてはならないことを示している。このような状態方程式は、例えば、ポテンシャルが一定で運動項が無視できるようなスカラー場で実現され、インフレーションと密接な関係があることが予想される。実際、(6.51)を Einstein方程式の (ττ)成分 (6.15) に入れることにより

H2 =a2

0

a20

= A2

(A′′

A +A′2

A2+

Λ(5)

3

), (6.53)

という関係が成り立つ。右辺はwだけの関数であるから、ハッブルパラメーターHは時間に依存しない定数なのである。よって、a(τ) = eHτ である。また、(6.53)の解でA(0) = 1をみたすものは

A(w) = cosh(w/�) −√

1 + (�H)2 sinh(w/�), (6.54)

である。Hが一定であることと Friedmann方程式 (6.22)から、このときには C = 0であることも言える。したがって、バルクは厳密にAdS時空になっている。得られた計量の形を書いておくと、

gABdxAdxB = A2(w)

(−dτ2 + e2Hτ δijdxidxj

)+ dw2, (6.55)

となる。ブレーン上の induced metricは de Sitterであり、H = const. でインフレーションする宇宙を表している [42, 54, 69]。ここで、

−1/Hη = eHτ , η < 0, (6.56)

�H/ sinh ξ = A(w), (6.57)

という座標変換を施すと、計量を

gABdxAdxB =

�2

(sinh ξ)2

[1η2

(−dη2 + δijdxidxj) + dξ2

], (6.58)

のように書き直せることを指摘しておく。このとき ηは conformal timeになっている。

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6.4. 摂動論 53

Slow-rollインフレーション

ブレーン上の slow-rollインフレーションについて、ごく簡単なモデルで考えてみよう [63]。C = 0とし、ブレーンの張力 σ は、Λ(4) = 0 となるように fine tuneされたものとしておく。したがって、次のような Friedmann方程式を考えることになる:

H2 =8πGN

3ρ(1 +

ρ

). (6.59)

インフラトン場として、ブレーン上に束縛されたスカラー場 φ を考え、そのポテンシャルを V (φ)としよう。ρ = 1

2 φ2 + V, p = 1

2 φ2 − V であり、ブレーン上での保存則から、運動方程式はいつも

のように φ+ 3Hφ+ V ′(φ) = 0 となる。ここでは、V ′は φで微分したことを表す。インフレーションするためには a > 0 をみたす必要がある。このためには、条件:

p < −ρ3

(1 +

ρ/σ

1 + ρ/σ

)(6.60)

がみたされていなくてはならない。ρ/σ � 1ならば、これは当然ながら 4次元での条件: p <

−13ρ [61] に帰着する。しかし、有限の値の ρ/σを想定すれば、宇宙を加速膨張させるためにより絶対値の大きな圧力が要求されることがわかる。

slow-rollパラメーターについてはどうだろうか。ハッブルパラメーターによる通常の定義: ε ≡−H/H2[61] をいまの場合にも用いるが、(エネルギーはポテンシャル項が優勢として)H2 ≈(8πGN/3)V (1 + V/2σ) なので、これと slow-roll近似: φ ≈ −V ′/3H とを合わせて、

ε ≈ 116πGN

(V ′

V

)2 1 + V/σ

(1 + V/2σ)2, (6.61)

を得る。V/σ � 1 ならば、もちろん 4次元の場合の slow-rollパラメーターと同じである。しかし、V/σ � 1のときの様子を調べると、これが 4σ/V というファクターで抑えられることが見てとれるだろう。したがって、このときには slow-rollインフレーションをたやすく起こすことができる。理由はこうである。ρ2の項が効く場合には、通常よりハッブルパラメーターH が大きくなる。H が大きいほど、インフラトン場がポテンシャルの坂を転がるときに受ける摩擦力は大きい。そのため、坂が急過ぎても slow-rollインフレーションを起こせるのである。

6.4 摂動論

宇宙は第 0近似では一様等方であるから、まず一様等方な宇宙モデルをつくることは大切である。ところが、宇宙には様々な構造がある。したがって、より現実的な宇宙モデルをつくるために、宇宙論的摂動論 (cosmological perturbation) の研究が不可欠である。cosmological perturbationの研究は、理論の観測的なテストという観点からも重要である。例えば、宇宙背景放射 (CMB)の非一様性について、ブレーンワールドシナリオが通常の 4次元理論と異なる新たな効果を予言できれば、将来の精度よい観測により、モデルの白黒をはっきりさせることができるかもしれない。ブレーンワールドにおける cosmological perturbation について、すでに多くの研究が行われている [12, 14, 19, 29, 30, 44, 49, 50, 51, 54, 55, 56, 57, 59, 60, 64, 67, 68, 77]。しかしながら、現状では満足のいく定量的な評価がなされたとは言い難く、残された研究課題のひとつである。

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54 6 ブレーンワールド宇宙論

cosmological perturbationは、scalar perturbation、vector perturbation、tensor pertur-bationの分類のもとで議論される。CMBの非一様性は主にスカラー型と関係がある。テンソル型はいわゆる背景重力波のことであり、7章で扱う。この節では、[55, 56]にもとづいて scalarperturbationを議論しよう。具体的に方程式を解くことはせず、ブレーンワールドにおける摂動の発展方程式が 4次元の通常のそれとくらべてどのような変更を受けるか、という点に着目したい。

計量 (6.1)に摂動を与える。

(gAB + hAB) dxAdxB = −n2(1 + 2A)dτ2 + 2n2∂iBdτdxi +

+a2 [(1 + 2C)δij + 2∂i∂jE] dxidxj + dw2. (6.62)

A,B,C,Eがスカラー型の線形摂動で、t, xiはもちろん、余剰次元の座標wにも依っている。ここでは簡単のために、バックグラウンドは k = 0の平坦な空間を仮定した。いまはGaussian normal座標で考えていることに注意しよう。摂動を受けたあとのブレーンの位置も、相変わらず w = 0なのである。ブレーン上での摂動は、A,B,C,E を w = 0で評価することで得られる。さて、この計量の 4次元の部分からつくるアインシュタインテンソルの摂動は、(nがあるという以外は) 4次元のスタンダードなもの [45, 46, 65] と同じで、それを δGst

µν と書くことにしよう:

δGstττ = n2

(6aan2

C − 2a2

∆C)

+{B, E

}, (6.63)

δGstij =

a2

n2

[−2C +

(−6

a

a+ 2

n

n

)C + 2

a

aA+ ∆A+

+∆C +2(a2

a2− 2

an

an+ 2

a

a

)(A− C)

]δij −

−∂i∂j(A+ C) +{B, B,E, E, E

}(6.64)

δGstτi = ∂i

(−2C + 2

a

aA

)+ {B} . (6.65)

ただし、˙はいつものように τ による微分を表し、∆ ≡ δij∂i∂j である。ここで、BとEからなる項を {} に入れて簡略化したのは、通常の 4次元理論ではB = E = 0というゲージを取ることが可能だからである (conformal Newtonian gauge、または longitudinal gaugeと呼ばれる)。そのときには、これら δGst

µν の右辺を energy-momentum tensorの摂動に等しいと置くことで、発展方程式が得られたのであった。ところが、ブレーンワールドの場合にはそう簡単にはいかない。アインシュタインテンソルの

摂動には δGAw の 5つの成分が増えているし、摂動量は座標wにも依っている。まず、(µν)成分はいま求めた δGst

µν を使って、

δ(5)Gµν = δGstµν +

{hα, h

′α, h

′′α

}, (6.66)

という形に書くことができる。hαはA,B,C,Eをまとめて表していて、′はwによる微分を表す。Bも Eも wに依存しているから、たとえw = 0でB = E = 0となるゲージを選んでも、その微分B′, B′′, E′, E′′までは消せないことに注意しよう。摂動をブレーン上の物理量と結びつけるためには、(6.66)をw = 0で評価する。その際、2階微

分 a′′, n′′は、バックグラウンドのアインシュタイン方程式 (その左辺は (6.6)-(6.9)である) を使っ

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6.4. 摂動論 55

て消去することができる。また、1階微分 a′, n′は、接続条件を通して (6.12), (6.13) のようにブレーン上の物質と関係づけられており、それに置き換えることができる。同様にして、摂動の 1階微分A′, B,′C ′, E′は、接続条件によってブレーン上の物質の摂動と関係づけられている。摂動量に関しての接続条件は次のように計算する。まず、(6.11)を摂動について書くと

δKµν =12∂whµν = −

κ2(5)

2

(δSµν − 1

3δSqµν − 1

3Shµν

), (6.67)

となる。速度場の摂動が

δuµ =(−n−1A, a−1vi

), δuµ = (−nA, avi + n∂iB) , vi = δijv

j , (6.68)

と書けることから、energy-momentum tensorの摂動は

δSττ = n2δρ+ 2(ρ+ σ)n2A, (6.69)

δSτi = −(ρ+ p)navSi − (ρ+ σ)n2∂iB (6.70)

δSij = a2δpδij + (p− σ)hij + a2ΠSij , (6.71)

である。ただし、viも非等方ストレスΠij もスカラーパート (あるスカラー関数の微分で書ける)

vSi = ∂iv, (6.72)

ΠSij =

(∂i∂j − 1

3δij∆

)Π, (6.73)

だけを考えている。これらを (6.67)に入れれば、次の 4つの関係式を得る。

A′∣∣w=0+ =

κ2(5)

6(2δρ+ 3δp), (6.74)

B′∣∣w=0+ = κ2

(5)(ρ+ p)a0

n0v, (6.75)(

C ′ +13∆E′

)∣∣∣∣w=0+

= −κ2

(5)

6δρ, (6.76)

E′∣∣w=0+ = −

κ2(5)

2Π. (6.77)

この結果を (6.66)に入れて、B|w=0 = E|w=0 = 0, n0 = 1 という座標系を選ぶと、最終的に以下のようなアインシュタイン方程式を得る。

δGstττ − 8πGN (2ρA+ δρ) = 8πGN

(ρσ

)(ρA+ δρ) + 3θC + ∆θE, (6.78)

a−2δGstij − 8πGN [(2pC + δP )δij + Πij ] = 8πGN

(ρσ

×{

(2p+ ρ)Cδij +[δp+

(1 +

p

ρ

)δρ

]δij −

(1 +

3pρ

)Πij

2

}+

+∂i∂jθE − (∆θE + θA + 2θC)δij , (6.79)

δGstτi + 8πGN (ρ+ p)a∂iv = 4πGN

(ρσ

)(ρ+ p)

(1 +

3pρ

)a∂iv +

+12∂iθB. (6.80)

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56 6 ブレーンワールド宇宙論

ただし、ここで

θA =1n2

(n2A′)′ , θB =

1n2

(n2B′)′ , θC =

1a2

(a2C ′)′ , θE =

1a2

(a2E′)′ , (6.81)

という量を定義して用いた。当然のことながら、θに添えられているAなどは、テンソルの足を表すものではない。(6.78)-(6.80)の左辺と右辺の分け方には意図がある。右辺はすべて補正項であり、4次元の通常の一般相対論の場合には左辺だけで 0 になるのである。右辺に注目すれば、補正項が2種類あることに気付くであろう。まず第 1に、ρ/σに比例した項がある。これは、Friedmann方程式の ρ2の項に由来していることが明らかであり、ρ� σ の高エネルギー領域で効いてくる。第 2の補正は、θA, θB , · · · によって表されている項である。定義 (6.81)からわかるように、こ

れらの項は計量が余剰次元の座標wに依存しているために現れる。θ達が w方向に沿った勾配の形に書けていることは、この量がバルクの重力場の情報のうち、スカラー的なものを運んでいるということを物語っている。したがって、バルクのWeylテンソルに由来するエネルギー密度 ρW

の摂動や、非等方ストレス ΠWµν のスカラーパートなどに関係していることが予想される。

δ(5)GAB の中で、まだ使っていない成分がある。このうち、δ(5)Gτw = δ(5)Rτw = 0 からはエネルギー保存の式

δρ+ 3H(δρ + δp) + (ρ+ p)(3C + a−1∆v

)= 0, (6.82)

が得られ、δ(5)Giw = δ(5)Riw = 0 からはオイラー方程式

∂τ [(ρ+ p)avi] + 3H(ρ+ p)avi + (ρ+ p)∂iA+ ∂iδp+ ∂jΠSij = 0, (6.83)

が得られる。このことから、これら 4成分はブレーン上での保存則DµSµν = 0 の摂動に等価であ

ることがわかる。残る最後の 1成分は、θたちが実は互いに独立でないことを言っている:

−δ(5)Gww = θA + 3θC + ∆θE = 0. (6.84)

さて、(6.78)-(6.80)をよく観察すれば、θたちを用いて以下のように有効エネルギー密度 etc.を定義するのが自然であると言えるだろう。

8πGN δρW = 3θC + ∆θE, (6.85)

8πGNδpW = −θA − 2θC − 23∆θE, (6.86)

8πGNΠSW = θE , (6.87)

8πGN (ρ+ p)avW = −θB2. (6.88)

ここではもはや、Weylテンソルを表す “W”というラベルを使うことが許される。なぜならば、(6.84), (6.85), (6.86)から「トレースレスの性質」

δpW =13δρW , (6.89)

が成り立つからである。4次元的な観点では、δρW , ΠS

W , vW はまったく任意の値をとることのできる場である。そのような場が、ソース項として (6.78)-(6.80) の右辺に現れるのである。これらを正しく評価するため

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6.4. 摂動論 57

には、5次元的にバルクの摂動まで解くことが要求される。これは、3次元の空間部分をフーリエモードに分解したところで、2変数の偏微分方程式を解く問題である。したがって、時間に関する常微分方程式の問題であった 4次元のスタンダードな宇宙論の場合とくらべて、格段と難しい課題なのである。

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58

7 ブレーンワールドにおける重力波

6章では、RSモデルにもとづいて展開された宇宙論について解説した。一様等方宇宙モデルを構築する段階では、スタンダードな宇宙モデルとの違いが Friedmann方程式に Dark Radiationおよび ρ2に比例した項の 2点で現れるのであった。前者はバルクの重力場の自由度であり、少なくとも観測的には制限がつけられること、後者はごく初期の宇宙進化にのみ影響し、宇宙膨張によりただちに効かなくなることなどを見た。さらに、最後の節で cosmological perturbationを考えた。ブレーン上の摂動量を正しく評価するためには 5次元的な取り扱いが必要であり、一般には解析が困難であるということを述べた。この章では、cosmological perturbationの中でも特にテンソル摂動 (tensor perturbation)に注

目し、ある背景時空のもとでその進化を解くことを試みる。2章で 4次元の宇宙モデルにおける通常の tensor perturbationを扱ったが、ブレーンワールドでそれに対応したものを考えると思ってよい。まず、インフレーション等の具体的な状況設定を説明し、そのセットアップのもとで tensorperturbation を解く手法を提示する。Bogoliubov係数を求めて重力波のパワースペクトラムを計算し、得られた結果を 4次元の同様の状況下での計算結果と比較しながら議論を行う。なお、この章にまとめられている内容は、田中貴浩氏、工藤秀明氏との共同研究によって得ら

れたオリジナルな結果にもとづいている。関連の深い研究として、同様の解析を別のセットアップのもとで行った [29]がある。本研究で

はこれと同じ手法を用いている。

7.1 de Sitterブレーンとテンソル摂動

AdS5時空の計量を static coordinate で書くと

ds2 =�2

z2

(−dt2 + δijdxidxj + dz2

), (7.1)

となる。� はAdS時空の半径であり、バルクの曲率スケールを表す。z が余剰次元の座標である。まずここから出発して、座標変換によって de Sitter ブレーン(induced metric が de Sitterであるようなブレーン)の座標が一定に見えるような座標系に移りたい。そのような座標変換は

t = η cosh ξ + t0, (7.2)

z = −η sinh ξ, (7.3)

で与えられる。t0 は任意の定数でよい。(η, ξ) 座標で計量 (7.1) は

ds2 =�2

(sinh ξ)2

[1η2

(−dη2 + δijdxidxj) + dξ2

], (7.4)

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7.1. de Sitterブレーンとテンソル摂動 59

と書き直すことができる。こうして得た計量は式 (6.58)と同一のものである。ξ = ξB = const. 面上の induced metric は実際に de Sitter になっている(η は−∞ < η < 0 の範囲にあることに注意しよう):

ds2 = a2(η)(−dη2 + δijdxidxj), a(η) =

−η · sinh ξB. (7.5)

したがって、ξ = ξB にブレーンを置いてインフレーションするブレーンを表すことができる。ハッブルパラメーターは

H = �−1 sinh ξB, (7.6)

と書け、すでに §6.3で述べたように、η が conformal time になっている。(t, z) 座標と (η, ξ) 座標の関係を図示すると、Fig. 7.1 のようになる。static coordinate で見る

と、de Sitter ブレーンは速度 tanh ξB で等速運動しているように見えるのである。また、(η, ξ)座標で覆われる領域をペンローズダイヤグラムに描くと、Fig. 7.2 のようになる。この図を描くために必要な座標変換は

η cosh ξ + t0 = tanT +X

2+ tan

T −X

2, (7.7)

−η sinh ξ = tanT +X

2− tan

T −X

2, (7.8)

であり、この変換により計量 (7.4)は

ds2 =�2

η2(sinh ξ)2· sec2 T +X

2sec2 T −X

2(−dT 2 + dX2

), (7.9)

となる。(η, ξ)座標が覆う領域は、static coordinate (t, z)が覆う領域の一部にすぎないことに注意しよう。特に、η = 0, ξ = ∞の無限遠を表す直線X + T = 2 tan−1(t0/2)よりも下の領域しか覆っていない。さて、このバックグラウンドのもとで tensor perturbation

ds2 =�2

(sinh ξ)2

{1η2

[−dη2 +(δij + hTT

ij

)dxidxj

]+ dξ2

}, (7.10)

を議論したい。これをフーリエ分解し、

hTTij (η,x, ξ) =

√2

(M5)3/2· 1(2π)3/2

∫d3pφ(t, z; p)ei�·�eij , (7.11)

とする。eij は偏極テンソルであり、TTゲージをとった。また、規格化は §2.1で述べたのとまったく同じ理由で、canonicalな規格化を意識している。アインシュタイン方程式を摂動の1次まで書き下すことにより、φは massless scalar場に対する Klein-Gordon方程式 (1/

√−g)∂A(√−ggAB∂B)φ = 0

に従うことがわかる。すなわち、[η2 ∂

2

∂η2− 2η

∂η+ p2η2 − ∂2

∂ξ2+ 3coth ξ

∂ξ

]φ = 0, (7.12)

である。

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60 7 ブレーンワールドにおける重力波

Figure 7.1: static coordinateにおける de Sitterブレーンの軌道。等速運動をしているため、軌道は直線である。

続いて、ブレーンの位置 (ξ = ξB) での境界条件を与えよう。ブレーンの位置での接続条件により、tensor perturbation のブレーンに対して垂直な方向への微分は、非等方ストレスのテンソル部分Πij と ∂ξhij ∝ Πij のように関連付けられているであろう。しかし、いまはブレーン上に非等方ストレスはないと仮定し、Neumann 境界条件:

∂ξφ∣∣∣ξ=ξB

= 0, (7.13)

を課す。重力波は横波であるから、ブレーンが鏡のように重力波を反射しているという見方ができる。すでにここまででわかるように、ブレーンが de Sitter膨張をしている状況下での tensor pertur-

bationはとりわけ扱いやすい。(7.12)は変数分離で解くことのできる偏微分方程式であるし、境界条件 (7.13) も易しいからである。バックグラウンドの膨張則が一般の場合には、同じ (η, ξ)座標を使おうとすれば、(7.13)の条件の替わりに動く境界条件のもとで (7.12) を解かなければならないし、ブレーンの座標が一定になるような座標系をまた新たに導入すれば、今度は場の方程式が変数分離不可能な形になってしまう。

モード関数

(7.12)の解の基底、言い換えれば gravitonの真空を定義するためのモード関数を見つけよう。通常のような 4次元的ふるまいをするゼロモード関数に加えて、質量をもった gravitonを表すKaluza-Klein モードの存在が特徴的である。

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7.1. de Sitterブレーンとテンソル摂動 61

Figure 7.2: de Sitter ブレーンを境界にもつバルク時空の大域的構造。Z2 対称性を仮定しているので、これと同じ時空のコピーがブレーンをはさんで反対側にもある

• Zero modeゼロモードは (7.12)で微分演算子の空間部分の固有値が 0 となる解であり、

φ(±)0 = �−1/2C(H)

H√2pe±ipη

(η ± i

p

), (7.14)

で与えられる。�−1/2がかかっていることとHに依存する規格化因子C(H)を除けば、§2.2で議論したモード関数 (2.32)と同じ形である。C(H)は正準量子化の手続きに基づき、Klein-Gordon内積を使って決める。場の方程式 (7.12)と境界条件 (7.13) とを共にみたすような関数 F (η, ξ), G(η, ξ)についてKlein-Gordon内積を

(F ·G) = −2i∫ ∞

ξB

�3dξ

(sinh ξ)3η2(F∂ηG∗ −G∗∂ηF ) , (7.15)

と定義する。ファクター 2 は Z2 対称性により同じ時空のコピーがブレーンをはさんで反対側にもあることに由来する。ここで幾分細かいことを述べよう。一般に、globally hyperbolicな時空においてCauchy surface1

Σ をとり、内積は

(f · g) = −i∫

Σ(f∂ag∗ − g∗∂af)

√gΣn

adΣ, (7.16)

1Cauchy surface Σ をもつ時空 (M, gab) のことを globally hyperbolic な時空という。時空 (M, gab) の空間的断面 Σ に対して、点 p ∈ M を通過する時間的もしくはヌル測地線が Σ と交わるような p の全体がM を覆っているとき、そのような面 Σ を Cauchy surcfaceという。そのような時空では、Σ にとって未来の点 p の情報が、Σ の上の情報(初期値)で決まるということを言っている。詳細は [34] [83] を参照のこと。

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62 7 ブレーンワールドにおける重力波

で定義される。ここで、na はΣに垂直な未来向き単位ベクトルで、gΣ はΣ上の induced metricの determinantである。このように定義された内積の値は、Σ のとり方によらず一定である。このことは、2枚の面で囲われた領域(「端」となる空間的無限遠が「点」のようなものである)にGaussの定理を適用し、場の方程式と合わせることで証明できる [47]。しかしながら、AdS時空は空間的無限遠が時間的な「面」になっており、globally hyperbolic でない。そのため、内積の値が、空間的断面Σの選び方に依ってしまう可能性がある。このことを避けるために、いまは積分する面を Fig 7.3のように取る。バルク時空 (影のついた領域)では η =一定面で積分するようにしておき、その外へは適当に面を延長する。Fig 7.3の左側の小さな三角形の領域は、バルク領域と因果的なつながりを持ち得ないので、この延長された領域内で場の値は 0と勝手に決めて問題はない。定義 (7.15)の積分領域には延長された領域が一見含まれないが、そこでは場の値は 0なのだから、これでよい。このようにすれば、内積が ηの選び方には依らないことを納得できるだろう。実際、2つの η =一定面とそれを延長した面、およびブレーンとで囲われた領域にGaussの定理を適用してみればよい (ブレーンの位置で場に対してNeumann境界条件を課していることにも注意しよう)。なお、AdS時空で正準量子化を行うことの一般論は [7]で研究されている。

Figure 7.3: 延長された η =一定面 (Σ)。延長された左側の三角形の領域では、場の値は 0であるように勝手に定義してよい。

さて、規格化であるが、 (φ

(±)0 · φ(±)

0

)= ∓1, (7.17)

を要請することで

C2(H) =[2(sinh ξB)2

∫ ∞

ξB

dξ1

(sinh ξ)3

]−1

=[cosh ξB + (sinh ξB)2 ln

(tanh

ξB2

)]−1

=[√

1 + �2H2 + �2H2 ln(

�H

1 +√

1 + �2H2

)]−1

, (7.18)

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7.1. de Sitterブレーンとテンソル摂動 63

と決まる。これは �H の単調増加関数で、�H � 1 のときは

C2(H) ≈ 1 − (�H)2[12

+ ln(�H

2

)]→ 1, (7.19)

となる。また、�H � 1 のときは

C2(H) ≈ 32�H +

920�H

∼ 32�H, (7.20)

のようにふるまう。

• Kaluza-Klein modes(7.12)はそもそも変数分離で解くことができる形であった。そこで、

φκ = ψκ(η) · χκ(ξ), (7.21)

と変数分離する。ψκ と χκ はそれぞれ(η2 ∂

2

∂η2− 2η

∂η+ p2η2 + κ2 +

94

)ψκ(η) = 0, (7.22)(

∂2

∂ξ2− 3 coth ξ

∂ξ+ κ2 +

94

)χκ(ξ) = 0, (7.23)

をみたし, κ ≥ 0 についてこれらの微分方程式の解が存在する。規格化は、正振動数モードと負振動数モード φ

(+)κ = ψ

(+)κ · χκ と φ

(−)κ = ψ

(−)κ · χ∗

κ について、いつものように(φ(±)κ · φ(±)

κ′

)= ∓δ(κ − κ, ), (7.24)

を要請することで定める。これから、ψκ と χκ

のそれぞれについて

i�3

η2

(ψ(+)κ ∂ηψ

(−)κ − c.c.

)= 1, (7.25)

2∫ ∞

ξB

(sinh ξ)3χ∗κ′χκ = δ(κ − κ′), (7.26)

と決めればよいことがわかる。(7.22)と (7.23) を、物理的示唆が得られる形に書き換えてみよう。de Sitter 時空では conformal

time η と固有時間 τ の関係は a(η) = −1/Hη = eHτ で与えられた。この τ、および新たに定義された関数 χκ(ξ) = (sinh ξ)−3/2χκ(ξ) を用いて(

∂2

∂τ2+ 3H

∂τ+p2

a2+m2

)ψκ = 0, (7.27)[

− ∂2

∂ξ2+(

94

+15

4(sinh ξ)2

)]χκ =

m2

H2χκ, (7.28)

のように書ける。ただし、

m2 =(κ2 +

94

)H2 ≥ 9

4H2, (7.29)

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64 7 ブレーンワールドにおける重力波

である。(7.27)を眺めると Kaluza-Klien モードが質量 (7.29) をもった gravitonを表していることがわかるであろう。質量が 0からではなく、∆m = 3H/2から始まる連続スペクトルをなしていることに注意すべきである。また、(7.28) は Schrodinger方程式のようである。モード関数の具体的な形を求めよう。(7.22) の解はHankel関数を用いて次のように書ける:

ψ(−)κ (η) =

√π

2�−3/2e−πκ/2|η|3/2H(1)

iκ (p|η|), (7.30)

ψ(+)κ (η) =

√π

2�−3/2e−πκ/2|η|3/2H(2)

−iκ(p|η|). (7.31)

p|η| � 1 (ホライズンの内側)での漸近形は

ψ(−)κ ∼ �−3/2|η| 1√

2pe−ipη−iπ/4, (7.32)

である。一方、空間部分 χκ(ξ) はやや複雑である。計算の詳細は Appendix A.1 に記した。解は一般の Legendre関数の線形結合

χκ = C1(sinh ξ)2[P−2−1/2+iκ(cosh ξ) − C2Q

−2−1/2+iκ(cosh ξ)

], (7.33)

で与えられ、定数 C1, C2 はそれぞれ規格化条件と境界条件から決められる。のちの計算では境界での値 χκ(ξB) が特に重要である。しかも、ある特別な場合には、これは以下のように簡単な形で書くことができる。• sinh ξB � 1 かつ κ sinh ξB � 1 のとき

χκ(ξB) ≈√κ tanhπκ

2

√κ2 + 1/4κ2 + 9/4

(sinh ξB)2. (7.34)

• sinh ξB � 1 または κ sinh ξB � 1 のとき

χκ(ξB) ≈ 1√π

(sinh ξB)3/2κ√

κ2 + 9/4. (7.35)

KKモード関数についてひとつ注意するべきことは、κ は 0 から始まる連続パラメーターであるが κ = 0 でラベルされるモードはゼロモードに対応しているわけではない、ということである。ゼロモードとの間には ∆m = 3H/2 の mass gap がある。特に、記法の上でもゼロモードを表すのに添字 0 を使うことにするので、紛らわしいが混乱しないようにする。

ゼロモードの真空ゆらぎ

ゼロモードの真空期待値

〈0|∣∣∣a0(p)φ(+)

0 + a†0(−p)φ(−)0

∣∣∣2 |0〉 =∣∣∣φ(+)

0

∣∣∣2 , (7.36)

について考えよう。ここで、a0, a†0はゼロモードの消滅演算子、生成演算子である。これは (7.14)

からただちに計算できて

�−1C2(H)(

12pa2

+H2

2p3

), (7.37)

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7.2. セットアップ 65

である(ここでの a はスケールファクターである)。ホライズンの十分内側のゆらぎは時空が曲がっていることを感じず、そのようなゆらぎにとって時空は平坦なMinkowski のようなものだろう。2章と同様のこのような考察から、括弧の中の第 1項は平坦な時空での量子ゆらぎに対応していることがわかる。時間が経過し(η → 0)、ゆらぎがホライズンの外側に出てしまうと括弧の中の第 2項の方が大きくなる。以下では、第 2項が効くとして議論を進める。いま計算した scalar場の真空期待値を重力波の振幅 h2

p になおすためには、2/(M5)3 をかけてやればよい。特に、単位 log スケールあたりの重力波の振幅について考えたいから、われわれの興味がある量はパワースペクトラム

4πp3

(2π)3h2p =

2C2(H)�(M5)3

(H

)2

, (7.38)

である。さて、C2(H) は �H � 1 のときに C2 ≈ 1、�H � 1 のときには C2 ∼ 3�H/2 のようにふるまうことを思い出そう。�H � 1 というのは低エネルギーを考えていることに他ならなかった。4次元のプランク質量 MPl と 5次元のプランク質量 M5 との間に (MPl)2 = �(M5)3 という関係があったことを思い出すと、この場合には (2.34) を再現していると言える。一方で、�H � 1のときの C のふるまいから、高エネルギー領域では振幅が大きく増幅されることがわかる [54]。なお、gravitonの場の真空期待値としては、ゼロモードの他にKKモードも勘定しなくてはな

らない。したがって、真空ゆらぎ 〈Ψ2〉 は全体として次のように書ける。

〈Ψ2〉 =∣∣∣φ(+)

0

∣∣∣2︸ ︷︷ ︸zero mode

+∑κ

∣∣∣φ(+)κ

∣∣∣2︸ ︷︷ ︸KK modes

. (7.39)

7.2 セットアップ

ふつう、インフレーション中にハッブルパラメーターはわずかに変化する: H = H(η)。このような状況を単純化して、インフレーション中にハッブルパラメーターが突然

H1 = �−1 sinh ξB, (7.40)

から

H2 = H1 − δH = �−1 sinh ξB, (7.41)

のように変化するような状況を考えよう (Fig. 7.4)。そのためには、次で定義するもうひとつの座標系を用意する:

t = η cosh ξ − η0 cosh ξB

= η cosh ξ − η0 cosh ξB, (7.42)

z = −η sinh ξ

= −η sinh ξ. (7.43)

これらの座標系の間の関係は Fig. 7.5 に示した。ブレーンは最初 ξ = ξB にあるが、ある時刻

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66 7 ブレーンワールドにおける重力波

Figure 7.4: ハッブルパラメーターのわずかな変化

η = η0 (あるいは、t = 0, η = η0 )に不連続にハッブルパラメーターの値を変え、ξ = ξB に移る。このような場合に、Bogoliubov係数を計算して粒子生成を議論しよう。また、重力波の振幅がどうなるかも見てみよう。必要なモード関数はすでに得られている。座標系 (η, ξ) で記述されている領域でのモード関数は、§7.1で求めた表式で η → η, ξ → ξ, H → H2 と書き換えてやるだけでよい。こうして得た、この領域でのモード関数を φ0, φκ というように書くことにする。ここで、ふたつの座標系 (η, ξ), (η, ξ) の関係についてもう少し考え、のちに利用する表式を

記しておこう。まず、δH � H1 < H2 と仮定し、ハッブルパラメーターの変化量を表す小さな量εH を

εH =η0

η0cosh ξB − cosh ξB

=sinh(ξB − ξB)

sinh ξB

=�H1

√1 + (�H2)2 − �H2

√1 + (�H1)2

�H2, (7.44)

で定義しておく。εH が実際小さいということは、次のように書き直すとわかる:

εH =1√

1 + (�H1)2δH

H1+

2 + 3(�H1)2

2(1 + (�H1)2)3/2

(δH

H1

)2

+ · · · . (7.45)

特に、�H2 < �H1 � 1 のとき δH/H1 の 2次までの近似で

εH ≈ δH

H1+(δH

H1

)2

, (7.46)

となり、一方で �H1 > �H2 � 1 のときには

εH ≈ 1�H1

[δH

H1+

32

(δH

H1

)2], (7.47)

となる。δH/H1 の 1次までの近似で、H1 の値によらず常に εH cosh ξB ≈ δH/H1 であることにも注意しておきたい。さて、(7.42)と (7.43) から tと zを消去して

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7.2. セットアップ 67

Figure 7.5: インフレーション中にハッブルパラメーターが変化した場合のブレーンの軌道

η = −√η2 + 2εHη0η cosh ξ + ε2Hη

20 (< 0), (7.48)

tanh ξ =η sinh ξ

η cosh ξ + εHη0, (7.49)

を得る。これらを εH で展開すると

η = η + εHη0 cosh ξ − ε2Hη20(sinh ξ)2/(2η) + · · · , (7.50)

ξ = ξ − εHη0 sinh ξ/η + ε2Hη20 cosh ξ sinh ξ/η2 + · · · , (7.51)

となる。ここで、無限の過去にさかのぼり η → −∞ の極限をとると、

η − η = εHη0 cosh ξ, (7.52)

ξ − ξ = 0, (7.53)

のような関係があることがわかる。

様々なスケール

重力波の波長 p−1、インフレーション中のホライズンスケールH−1 に加えて、4次元の理論を考えていたときにはなかった新たな長さスケール �が存在する。バルク時空の曲率半径である。これらのスケールの大小関係について、ここでまとめておくことにしよう。• 重力波の波長とホライズンサイズ

p/a ≷ H ⇔ p|η0| ≷ 1. (7.54)

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68 7 ブレーンワールドにおける重力波

• ホライズンサイズと余剰次元のサイズ (宇宙のエネルギースケールの大小)

�H ≷ 1. (7.55)

• 重力波の波長と余剰次元のサイズ

p/a ≷ �−1 ⇔ p|η0| · �H ≷ 1. (7.56)

7.3 Bogoliubov係数の計算

7.3.1 グリーン関数の方法

グリーン関数の方法を使って境界条件 (7.13) のもとで (7.12)を解き、Bogoliubov係数を計算しよう。ここでは、[29]で使われたものと同じ手法をとることにする。まず、ハッブルパラメーターの値が変わったあと、すなわち t > 0 で gravitonの波動関数が

ϕ = ϕout であったとしよう。このときに時空全体での解を

ϕ = ϕout + δϕ, (7.57)

のように書くことにする。t > 0 ではもちろん δϕ = 0 であるが、t < 0 でこれは 0 でない値をもつ。δϕ は先進グリーン関数Gadv(η, ξ; η′, ξ′) を使って求めることができる。先進グリーン関数は[

η2 ∂2

∂η2− 2η

∂η+ p2η2 − ∂2

∂ξ2+ 3coth ξ

∂ξ

]Gadv(η, ξ; η′, ξ′) = δ(η − η′)δ(ξ − ξ′), (7.58)

をみたすものである。まず、(7.57) のように書いたとき、ϕも ϕout も Klein-Gordon方程式の解になっているので、δϕ もKlein-Gordon方程式の解になっている。一方、ブレーンの位置での境界条件は ∂ξϕ = 0 だから、δϕ にとってこれは ∂ξδϕ = −∂ξϕout となる。したがって、[

η2 ∂2

∂η2− 2η

∂η+ p2η2 − ∂2

∂ξ2+ 3coth ξ

∂ξ

]δϕ = 2∂ξϕoutδ(ξ − ξB), (7.59)

をみたすような解を構成すればよい。両辺をブレーンの位置 ξ = ξB を含むような微小区間で積分すればわかるように、これの解は自動的に境界条件をみたすからである。これは、境界での ∂ξϕout

がソース項となるような波動方程式であり、解は次のように与えられる。

δϕ = 2∫ η0

−∞dη′Gadv(η, ξ; η′, ξB)

[∂ξ′ϕout(η′, ξ′)

]ξ′=ξB

, (7.60)

また、先進条件をみたすようなグリーン関数の具体的な形はこうである。

Gadv(η, ξ; η′, ξ′) =∑κ

i�3

(sinh ξ′)3η′4θ(η′ − η) ×

×[φ(+)κ (η, ξ)φ(−)

κ (η′, ξ′) − φ(−)κ (η, ξ)φ(+)

κ (η′, ξ′)]. (7.61)

実際に η > η0 で δϕ = 0 になることは簡単にチェックできるであろう。

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7.3. Bogoliubov係数の計算 69

いま、ϕout = φ(−)0 にとろう。これを (7.60) の公式にしたがって逆向きに時間発展させ、η < η0

の領域で φ(+)κ , φ

(−)κ たちの線形結合で表したい。それには、グリーン関数の具体的な表式を入れ

て φ(+)κ , φ

(−)κ にかかる係数から読み取るだけでよい。すなわち、係数 v0κ, u0κ を

v0κ ≡ 2i�3∫ η0

−∞

(sinh ξB)3η4φ(−)κ (η, ξB)

[∂ξφ

(−)0 (η, ξ)

]ξ=ξB

, (7.62)

u0κ ≡ −2i�3∫ η0

−∞

(sinh ξB)3η4φ(+)κ (η, ξB)

[∂ξφ

(−)0 (η, ξ)

]ξ=ξB

, (7.63)

と定義されるものだとして、η → −∞ で

δϕ(η, ξ) =∑κ

[v0κφ

(+)κ (η, ξ) + u0κφ

(−)κ (η, ξ)

], (7.64)

というように書けていることがわかる。ただし、Σ 記号でKKモードの積分 + ゼロモードをまとめて表した。次にするべきことは、ϕout = φ

(−)0 自身を φ

(+)κ , φ

(−)κ たちの線形結合で表すことである:

φ(−)0 =

∑κ

(U0κφ

(−)κ + V0κφ

(+)κ

). (7.65)

この U0κと V0κ は、内積 (7.15)を使って U0κ =(φ

(−)0 · φ(−)

κ

)と V0κ = −

(−)0 · φ(+)

κ

)のように

与えられる。ただし、φ(−)0 は η の関数であるが、形式的に (7.48)の関係からこれを η, ξ の関数

に書き直し、ξ による積分を実行すればよい。この内積は η → −∞ で評価するのが適切であるから、(7.52)および (7.53) の表式を用いて、V00 = V0κ = 0[29]と

U00 ≈ H2C(H2)H1C(H1)

e−iεHpη0 cosh ξB

[1 − iεHpη0

(C2(H1) − cosh ξB

)− 12(εHpη0)2(sinh ξB)2

],(7.66)

U0κ ≈ εHpη0−2ieiπ/4

κ2 + 1/4�H2

(�H1)2C(H2)χκ(ξB), (7.67)

を得る。この表式は p|η0|δH/H � 1 のときにのみ近似的に正しい。計算の詳細は Appendix A.2にある。ここまでに記したことを使って、ゼロモードの真空および KKモードの真空からゼロモード

gravitonを生成する、ということを表す Bogoliubov 係数を形式的に書き下すことができる:

ϕ =∑κ

[(v0κ + V0κ)φ(+)

κ + (u0κ + U0κ)φ(−)κ

](7.68)

=∑κ

(β0κφ

(+)κ + α0κφ

(−)κ

). (7.69)

ふたつの係数を見比べて、

β0κ = 2i�3∫ η0

−∞

(sinh ξB)3η4φ(−)κ (η, ξB)

[∂ξφ

(−)0 (η, ξ)

]ξ=ξB

, (7.70)

α0κ = U0κ − 2i�3∫ η0

−∞

(sinh ξB)3η4φ(+)κ (η, ξB)

[∂ξφ

(−)0 (η, ξ)

]ξ=ξB

, (7.71)

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70 7 ブレーンワールドにおける重力波

ということがわかる。これにモード関数の表式を入れさえすれば、Bogoliubov 係数を具体的に計算することが可能である。今回は、ゼロモードの真空もしくはKKモードの真空からゼロモードを生成する過程にだけ注目する。これらの量と比べて、βκ0 (ゼロモードの真空からKKモードgravitonを生成) を求めるのにはさらに複雑な計算を要するし、ακ0の計算にも α0κと同様のテクニックを利用しようとすれば、Appendix A.2で述べているような技術的困難が伴う。βκ′κの計算はさらに複雑である。

7.3.2 結果

zero mode to zero mode

まず最初に ∂ξφ(−)0

∣∣∣ξ=ξB

を η と ξ で表すことから始めねばならない。それは、

∂ξφ(−)0

∣∣∣ξ=ξB

=εHη0η sinh ξB

η∂η ∂ξφ

(−)0

∣∣∣ξ=ξB

= −�−3/2 sinh ξBC(H2)√

2pip eip

√η2+2εHη0η cosh ξB+ε2Hη

20εHη0η sinh ξB, (7.72)

である。これと (7.14) を (7.70)に入れ、積分変数 η を x = −pη に変換すると、

β00 = C(H1)C(H2)sinh ξBsinh ξB

εHη0

∫ η0

−∞dη

(1η2

− i

pη3

)e−ip

�η−

√η2+2εHη0η cosh ξB+ε2Hη

20

= −C(H1)C(H2)sinh ξBsinh ξB

εHpη0 ×

×∫ p|η0|

+∞dx

(1x2

+i

x3

)ei�x+

√x2+2xεHp|η0| cosh ξB+ε2Hp

2η20

�, (7.73)

となるが、小さな量 δH/H1 について 2次まで計算することを目標としているので、積分の中のε2H は無視することができる(全体に 1つ εH がかかっていることに注意しよう)。このように、εHの 3次以上の高次の微小量を無視する、という近似だけを行って

β00 ≈ C(H1)C(H2)sinh ξBsinh ξB

εHp|η0|∫ p|η0|

+∞dx

(1x2

+i

x3

)e2ix−ipη0εH cosh ξB

= C(H1)C(H2)sinh ξBsinh ξB

εHi

2pη0e−2ipη0−ipη0εH cosh ξB , (7.74)

を得る。同様にして α00 を δH/H1 の 2次まで計算することができて、

α00 ≈ U00 + C(H1)C(H2)sinh ξBsinh ξB

εH

(1 +

i

2pη0

)e−ipη0εH cosh ξB , (7.75)

となる。U00を計算する必要があるが、これはすでに一度述べたように、p|η0|δH/H1 � 1 の条件のもとでのみ正しい解析的な形 (7.66) が得られている。したがって、以下で α00 の具体的な表式があったら、それは p|η0|δH/H1 � 1 のときにのみ正しい形であると考えなくてはいけない。

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7.3. Bogoliubov係数の計算 71

さて、興味深いのは低エネルギー領域 �H � 1 あるいは高エネルギー領域 �H � 1 の極限的な場合である。まず、�H � 1 のときには

β00 ≈ i

2pη0

δH

H1e−2ipη0−ipη0δH/H2 , (7.76)

α00 ≈[1 +

i

2pη0

δH

H1

]e−ipη0δH/H2 , (7.77)

となる。注意するべきことは、位相因子をこのように抜き出しておくと、δH/H1 の 2次までを保ちつつ計算しても、O(δH/H1)2 の項は現れないということである。そして、この結果は 4次元で同様の計算を行った結果 (2.48), (2.49) と完全に一致している。4次元の計算では、このような位相因子を別にすれば δH/H1の 2次の項はもともと現れなかった。一方、�H � 1 のときには

β00 ≈ 32

i

2pη0

δH

H1e−2ipη0−ipη0 δH

H1−ipη0 3

2

�δHH1

�2

, (7.78)

α00 ≈[1 +

38

(δH

H1

)2

− ipη0

2δH

H1− (pη0)2

2

(δH

H1

)2

+32

i

2pη0

δH

H1

×e−ipη0δHH1

−ipη0 32

�δHH1

�2

, (7.79)

を得る。特に、β00の絶対値の 2乗は �H � 1のときと比べてちょうど 9/4倍になっている。ゼロモードの真空から生成されるゼロモード graviton の個数 |β00|2 を �H の関数としてプロッ

トしたのが Fig. 7.6 である。すでにいま述べた通り、低エネルギー領域では 4次元の結果を再現し、高エネルギー領域ではその 9/4倍になっていることが見てとれるであろう。

Figure 7.6: |β00|2 を 4次元における結果∣∣β(4D)

∣∣2 で規格化してプロットしたもの

KK modes to zero mode

α0κ, β0κ は δH/H1 の 1次まで求めればよいのだが、計算は込み入っている。そのため、詳細はAppendix A.2に掲載することにして、ここではその結果のみを議論する。その計算結果とはこう

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72 7 ブレーンワールドにおける重力波

である。

β0κ =√

2p �3/2C(H2)χ∗κ(ξB)

sinh ξB(sinh ξB)2

εHη0

∫ η0

−∞

η3ψ(−)κ (η)eip

√η2+2εHη0η cosh ξB+ε2Hη

20

=√π

2C(H2)χ∗

κ(ξB)sinh ξB

(sinh ξB)2εHpη0e

−πκ/2 ×

×∫ p|η0|

∞dxx−3/2H

(1)iκ (x)ei

√x2+2xεHp|η0| cosh ξB+ε2Hp

2η20

≈√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)1�H1

εHpη0 ×

×[+

eπκ/2

sinh(πκ)1

iκ− 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)−1/2fκ(p|η0|)+

+ ieπκ/2

sinh(πκ)1

iκ+ 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)1/2gκ(p|η0|) + (κ→ −κ)

], (7.80)

α∗0κ = U∗

0κ −√π

2C(H2)χ∗

κ(ξB)sinh ξB

(sinh ξB)2εHpη0e

−πκ/2 ×

×∫ p|η0|

∞dxx−3/2H

(1)iκ (x)e−i

√x2+2xεHp|η0| cosh ξB+ε2Hp

2η20

≈√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)1�H1

εHpη0 ×

×[− eπκ/2

sinh(πκ)1

iκ− 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)−1/2fκ(p|η0|)+

+ ieπκ/2

sinh(πκ)1

iκ+ 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)1/2gκ(p|η0|) + (κ→ −κ)

].(7.81)

ただし、fκ(p|η0|), gκ(p|η0|) は、一般化された超幾何関数を簡単に表すために

fκ(p|η0|) = 2F3

(−1

4+iκ

2,14

+iκ

2;12,12

+ iκ, 1 + iκ;−p2η20

), (7.82)

gκ(p|η0|) = 2F3

(14

+iκ

2,34

+iκ

2;32, 1 + iκ,

32

+ iκ;−p2η20

). (7.83)

というように定義して用いた。近似 ‘≈’は、εH を小さい量としてその 1次まで計算した、という意味である。また、α0κ の計算には U0κ の計算が付随し、そのために p|η0|δH/H1 � 1 の仮定も必要である (β0κの計算にこちらの仮定は必要ない)。以上 2点が、この計算で用いた近似である。

(7.80), (7.81)からただちに読み取れることとして、まず、α0κも β0κ も微小量 εH の 1次から始まる (0次の項がない) 量であるということが挙げられる。興味のある量として、KKモードの真空から生成されたゼロモード gravitonの個数

∫ |β0κ|2dκがある。これを、再び �H � 1, �H � 1 の両極限の場合に順に調べてみよう。(7.80) から gravitonの個数を数値的に積分したものが Fig. 7.7 および Fig. 7.8 であり、それぞれ、�H � 1の場合と�H � 1の場合である。

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7.3. Bogoliubov係数の計算 73

�H � 1の場合に積分する際、χκについては近似形である (7.34)の表式を用いている。AppendixA.2でも述べているが、κのきわめて大きい領域は積分にほとんど寄与しないと考えられるので、十分小さな �Hを考えるならば (7.34)を使ってもよい。このとき、

∫ |β0κ|2dκ のH1や δHに対する依存性は、(7.80) の 1行目の因子の低エネルギー領域でのふるまいによって決まっている。そのふるまいの様子とは∫

|β0κ|2dκ = (pに依存する部分) × (�H1)2(δH

H1

)2

, (7.84)

である。これからわかるのは、低エネルギー極限 �H � 1では (�H1)2という因子のせいで、KKモードの真空からのゼロモード gravitonの生成がほとんど起こらない (�H1 → 0の極限で β0κ → 0)、ということである。β00が 4次元の計算を再現していたことは先ほど確認したので、このことと合わせて、�H � 1のときには 4次元とまったく変わりがないということが言える。�H � 1の場合には、近似形 (7.35)を χκ に入れて κで積分する。いまの場合も、積分結果の

δHなどに対する依存性は (7.80) の 1行目の因子の高エネルギー領域でのふるまいによって決まっていて、 ∫

|β0κ|2dκ = (pに依存する部分) ×(δH

H1

)2

, (7.85)

となる。�H � 1のときにはあったような抑制因子が、この場合にはない。p依存性については、以下で議論する。

Figure 7.7: �H � 1 の場合に KK モードから生成されるゼロモード graviton の個数。(�H1)2(δH/H1)2 で規格化してある。

p|η0| � 1のときに、(7.80) の絶対値 2乗のうちもっとも主要な項を取り出すと∫|β0κ|2dκ ≈ p|η0|π2C

2(H1)ε2H ×

×∫ ∞

0dκ

[|χκ(ξB)|2 eπκ

sinh2(πκ)1

κ2 + 1/41

|Γ(1 + iκ)|2 + (κ→ −κ)], (7.86)

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74 7 ブレーンワールドにおける重力波

Figure 7.8: �H � 1 の場合にKKモードから生成されるゼロモード graviton の個数。(δH/H1)2

で規格化してある。

となる。極限的な場合に、積分を数値的に行うと

∫ ∞

0|β0κ|2dκ ≈

0.52 × p|η0|(�H1)2(δHH1

)2�H � 1

0.32 × p|η0|(δHH1

)2�H � 1

, (7.87)

という評価を得る。いずれにせよ、インフレーション時のホライズンを越える大スケール p|η0| � 1では

β0κ ≈ −α∗0κ ∼ (p|η0|)1/2, (7.88)

となって、どちらの係数も 0に近い。このようにホライズンの外側では、pが増加するにしたがってKKモードから生成される graviton

の量は増加する傾向にある。しかし、ホライズン程度のスケール p|η0| ∼ O(1)でピークが訪れ、ホライズンの内側では生成量は少なくなる。ホライズンの内側 p|η0| � 1での α0κおよび β0κ のふるまいは、解析的に調べることができる。

それには、Hankel関数の漸近形

H(1)ν (x) ∼

√2πxei(x−(2ν+1)π/4) (x→ ∞), (7.89)

を用いて、(7.80), (7.81) の積分を p|η0|の大きいところで評価すればよい。まず、p|η0| → ∞でβ0κは

β0κ ∝ p|η0|∫ p|η0|

∞dxx−2e2ix ∼ 1

p|η0| → 0, (7.90)

のように 0に近づく。ただし、積分については部分積分を行い、主要な寄与をする項を取り出している。一方、α0κに関してはU0κが主要な寄与をする。なぜなら、(7.67)からわかるようにU0κ ∝ p|η0|

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7.4. 重力波の振幅 75

であるが、これに対してHankel関数の積分を含む項 u0κは p|η0| → ∞で

u0κ ∝ p|η0|∫ p|η0|

∞dxx−2 = const. (7.91)

のように定数にとどまるからである。このことは、次節で重力波の振幅を計算する際に気にとめておくべき事実である。ここで、2つの注意を喚起しておく。1つは、U0κの計算で用いた近似のため、上記の α0κの議

論に関して、実際には p|η0|δH/H1 � 1 をみたす範囲でしか pを大きく取れないことである。もう 1つは、2章で述べた断熱性の議論に関連している。より現実的にハッブルパラメーターのゆるやかな時間変化を考えれば、β0κはさらにはやく 0に収束するであろう。このことは、もちろんβ00に対しても主張できる。

7.4 重力波の振幅

われわれが真に注目すべき量は重力波の振幅 (パワースペクトラム)である。インフレーション期に純粋に de Sitter的な宇宙膨張をしていた場合には、重力波の振幅のうち、特にゼロモードが担う部分はパワースペクトラム (7.38) によって表された。いまのように、ハッブルパラメーターが途中で変化する場合には、パワースペクトラムは Bogoliubov係数を使って表すことができる。いま取り扱っているのは、2つの de Sitter時空をつなげたような幾何がブレーン上で実現されて

いる状況であった。最初、スケールファクターは a(η) = 1/(−ηH1)であり、後に a(η) = 1/(−ηH2)のようにふるまっていたから、η = −∞は無限の過去に、η = 0は無限の未来に対応している。gravitonの波動関数Ψが、無限の過去 (η → −∞)で初期状態

Ψκ,in = φ(+)κ , (7.92)

であったとしよう。すでに求めたBogoliubov変換の逆変換をこれに施すことにより、無限の未来(η → 0)での終状態は

Ψκ,out = α0κφ(+)0 − β∗0κφ

(−)0︸ ︷︷ ︸

zero mode

+∑κ′

(ακ′κφ

(+)κ′ − β∗κ′κφ

(−)κ′

)︸ ︷︷ ︸

KK modes

, (7.93)

というように、ゼロモードとKKモードの和で書くことができる。すべてのモードについて足し上げると、場の絶対値 2乗の真空期待値は∣∣∣φ(+)

0

∣∣∣2 +∑κ

∣∣∣φ(+)κ

∣∣∣2 =∣∣∣α00φ

(+)0 − β∗00φ

(−)0 + “KK modes”

∣∣∣2 +

+∑κ

∣∣∣α0κφ(+)0 − β∗0κφ

(−)0 + “KK modes”

∣∣∣2 , (7.94)

となる。ここで、“KK modes”と書いた部分は、(7.93)右辺のシグマ記号の部分に対応している。いまは特に、ゼロモードの真空ゆらぎを議論したいので∣∣∣α00φ

(+)0 − β∗00φ

(−)0

∣∣∣2 +∑κ

∣∣∣α0κφ(+)0 − β∗0κφ

(−)0

∣∣∣2 , (7.95)

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76 7 ブレーンワールドにおける重力波

という量に注目する。η → 0で

φ(±)0 → ±�−1/2C(H2)

H2√2pi

p, (7.96)

であるから、単位ログスケールあたりの重力波の振幅は

P5D(p) ≡ 2M3

5

· 4πp3

(2π)3·(∣∣∣α00φ

(+)0 − β∗00φ

(−)0

∣∣∣2 +∑κ

∣∣∣α0κφ(+)0 − β∗0κφ

(−)0

∣∣∣2)

=2C2(H2)�M3

5

(H2

)2

·(|α00 + β∗00|2 +

∫ ∞

0dκ |α0κ + β∗0κ|2

), (7.97)

というようにBogoliubov係数を用いて書き表すことができる。ただし、便宜上KKモードの総和をシグマ記号で表していたのを、ここで積分に書き改めた。この量を議論するときには、各Bogoliubov係数の位相因子もおろそかにしてはいけないことが読み取れる。また、いまのように、2つの deSitter時空を接続した状況で重力波の振幅を考えるときには、係数 α00, α0κ も重要な役割を果たしていることがわかる。このことは、[29]で扱われているような de Sitter時空からMinkowski時空に転移する状況と対比すべき点である。Minkowskiブレーンを配置したときのモード関数は、無限の未来で振動的なふるまいをする (t → +∞で ∼ e±iptのようなふるまい)[29]。このことから、この場合に (7.95)に相当する量は

|α00|2 + |β00|2 +∫dκ

(|α0κ|2 + |β0κ|2), (7.98)

と書き表すことができる (激しく振動する干渉項は落として構わない)。ここで、Bogoliubov係数についての公式

|α00|2 − |β00|2 +∫dκ

(|α0κ|2 − |β0κ|2)

= 1, (7.99)

を利用すれば、(7.98)を |β00|2 および |β0κ|2 だけを用いて書き直すことができる。したがって、Minkowskiブレーンを接続する状況では、重力波の振幅を議論するのと gravitonの生成量を議論するのとに、実質的な差はなかったのである。de Sitterブレーンを配置したときのモード関数の未来でのふるまい (7.96) は、明らかに事情を異なったものにしている。

4次元の理論において、いまの P5D (7.97) に対応する量を Bogoliubov係数 (2.48), (2.49) を用いて表すと、

P4D(p) ≡ 2M2

Pl

(H2

)2

·∣∣∣α(4D) + β∗(4D)

∣∣∣2 , (7.100)

となる。これに関しては、特に計算過程を示さずとも明らかであろう。P5Dと P4Dとを比較した際に認められる式の形の上での相違点は、規格化が異なることと、(7.97) の最後の積分で表されるKKモードからの寄与が前者には存在することの 2点である。規格化に関しては、§7.1の最後でも述べたように、�H � 1で C(H) = 1となることと �M3

5 = M2Plという関係があることから、

�H1 � 1の極限で両者の規格化因子が一致するということを指摘しておく。

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7.4. 重力波の振幅 77

それでは両者を具体的に解析しよう。まず、P4DをH1のまわりに δH/H1の 2次まで展開する。

P4D ≈ 2M2

Pl

(H2

)2{

1 +sin(2pη0)pη0

δH

H1+[sin2(pη0)(pη0)2

+ 2cos(2pη0)](

δH

H1

)2}

≈ 2M2

Pl

(H1

)2{

1 +[sin(2pη0)pη0

− 2]δH

H1+

+[1 +

sin2(pη0)(pη0)2

+ 2cos(2pη0) − 2 sin(2pη0)pη0

](δH

H1

)2}. (7.101)

この量は、p|η0| → 0の極限で

P4D → 2M2

Pl

(H1

)2

, (7.102)

となる。このことは、ホライズンの十分外側で重力波の振幅が確かに保存されていることを表している。p|η0| → ∞では、∣∣α(4D)

∣∣ → 1, β(4D) → 0 だから

P4D → 2M2

Pl

(H2

)2

, (7.103)

である。P4D(p)は、pが大きくなるにつれて振動しながら右に下がって 2M2

Pl

(H22π

)2に近づく。H =

一定の純粋な de Sitterインフレーションの場合には pに依らないスケール不変なスペクトラムが得られたわけだが、ハッブルパラメーターの時間変化H = H(t)を考慮に入れると、一般に重力波のパワースペクトラムはスケールに依存 (P4D = P4D(p))し、傾く (tilted spectrum)。P5Dも同様に展開して調べる。こちらの方は計算が煩雑なので、順を追って計算を示そう。

|α00 + β∗00|2 ≈ 1 +sin(2pη0)pη0

C2(H1)√1 + (�H1)2

δH

H1+

+

{(pη0)2

[1 + C4(H1)1 + (�H1)2

− 2C2(H1)√1 + (�H1)2

]+

sin2(pη0)(pη0)2

C4(H1)1 + (�H1)2

+

+ cos(2pη0)

[C2(H1)√1 + (�H1)2

+C4(H1)

1 + (�H1)2

]+ (7.104)

+sin(2pη0)

2pη0

C2(H1)√1 + (�H1)2

[2 + 3(�H1)2

1 + (�H1)2− 2C2(H1)√

1 + (�H1)2

]}(δH

H1

)2

,

C2(H2)H22 ≈ C2(H1)H2

1

{1 − 2C2(H1)√

1 + (�H1)2δH

H1+

+

[4C4(H1)

1 + (�H1)2− 3 + 4(�H1)2

1 + (�H1)2C2(H1)√1 + (�H1)2

](δH

H1

)2}, (7.105)

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78 7 ブレーンワールドにおける重力波

とを合わせれば

P5D(p) =2C2(H1)�(M5)3

(H1

)2{

1 +

+[sin(2pη0)pη0

− 2]

C2(H1)√1 + (�H1)2

δH

H1+

+

[(pη0)2

(C−2(H1) + C2(H1)√

1 + (�H1)2− 2

)+

sin2(pη0)(pη0)2

C2(H1)√1 + (�H1)2

+

+ cos(pη0)(

C2(H1)1 + (�H1)2

+ 1)

+sin(2pη0)

2pη0

(2 + 3(�H1)2

1 + (�H1)2− 6C2(H1)√

1 + (�H1)2

)+

+4C2(H1)√1 + (�H1)2

− 3 + 4(�H1)2

1 + (�H1)2

]C2(H1)√1 + (�H1)2

(δH

H1

)2}

+

+ (KK modes), (7.106)

を最終的に得る。この式の近似が正しいための条件は、p|η0|δH/H1 � 1である (もちろん、δH/H1 �1も仮定している)。最後の KK modes と書いた部分は、KKモードの真空から生成されるゼロモード

∫dκ|α0κ + β∗0κ|2 に対応していて、δH/H1の2次の大きさである。

Figure 7.9: �H � 1のときに P5D(p)と P4D(p) とをプロットした図。両者は一致しており、KKモードからの寄与はない。横軸は |η0|で規格化してあるので、1がインフレーション中のホライズンスケールに対応している。なお、パラメーターの値は、�H1 = 10−2, δH/H1 = 10−3 を採用し、

2M2

Pl

(H12π

)2が 1になるように適当に定数倍してプロットしてある。

まずは、低エネルギー極限 �H � 1でのスペクトラム P5D(p) のふるまいを見てみよう。このと

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7.4. 重力波の振幅 79

きは、 ∫dκ|α0κ + β∗0κ|2 ∝ (�H1)2 → 0 (�H1 → 0), (7.107)

となって KKモードからつくられたゼロモードの寄与は消えてしまう。その上、残りの部分は規格化因子も含めてP4D(p)(7.101) に一致する。したがって、�H � 1の極限では当然のことながら4次元のスタンダードなパワースペクトラムとまったく同じものが得られる。この様子をプロットしたものが Fig. 7.9である。

次に、�H � 1の極限的な場合に限定せず、一般の �Hに対してP5D(p) のふるまいはP4D(p) と比較してどうなっているのかを考察しよう。規格化因子C2(H)のせいで両者の大きさがまったく異なってしまうので、この影響を取り除いて比較するために、P4Dを rescaleする必要がある。具体的には、P4Dを線形変換によって Pres に rescaleし、

P4D �−→ AP4D +B = Pres(p) →

2C2(H1)(M5)3

(H12π

)2(p|η0| → 0)

2C2(H2)(M5)3

(H22π

)2(p|η0| → ∞)

, (7.108)

をみたすように定数A, Bを選べばよい。これは、H21 をC2(H1)H2

1 に、H22 をC2(H2)H2

2 に対応させるような変換である。こうして得た Pres(p) を δH/H1で展開すると、次のようになる。

Pres(p) =2C2(H1)�M3

5

(H1

)2{

1 +[sin(2pη0)pη0

− 2]

C2(H1)√1 + (�H1)2

δH

H1+

+

[2 cos(pη0) +

sin2(pη0)(pη0)2

+

+sin(2pη0)

2pη0

((�H1)2

1 + (�H1)2− 4C2(H1)√

1 + (�H1)2

)+

+4C2(H1)√1 + (�H1)2

− 3 + 4(�H1)2

1 + (�H1)2

]C2(H1)√1 + (�H1)2

(δH

H1

)2}. (7.109)

P5D(p)(7.106)とPres(p)(7.109)とを比較すると、δH/H1の 1次の項まで両者は完全に一致していることがわかる。差異は δH/H1の2次の項から現れるのである。KKモードからの寄与もO(δH/H1)2

であった。したがって、線形のスケール変換のもとで、2つのパワースペクトラムの差異は小さいことが予想される。両者の間で違いが現れる O(δH/H1)2 の部分を分析しよう。KKモードからの寄与以外では、

Pres(p) と比較して認められる最も顕著な差異は、P5D(p) の中の (pη0)2 に比例した項にある。(p|η0|δH/H1 � 1をみたす範囲で) p|η0|が十分大きいとき、この項は他の pに依存した項と比べて大きいし、pに依らずに �H1だけに依っている項は両者で同一である。�H1は諸量を展開できる程度に小さいと仮定して、P5D(p)の中のこの (pη0)2 に比例した項を �H1で展開すると、結果は

(pη0)2[

1 + C4(H1)1 + (�H1)2

− 2C2(H1)√1 + (�H1)2

](δH

H1

)2

≈ −(pη0)2(�H1)2(δH

H1

)2

, (7.110)

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80 7 ブレーンワールドにおける重力波

となる。p|η0|�H1 = (p/a) · � であり、バルクの曲率スケールと重力波の波長との大小関係に依存した効果が現れている。�H1を大きくしていくとこの項の絶対値は増加し、�H1 � 1では

(pη0)2[

1 + C4(H1)1 + (�H1)2

− 2C2(H1)√1 + (�H1)2

](δH

H1

)2

≈ −34(pη0)2

(δH

H1

)2

, (7.111)

に近づく。今度は、重力波の波長とホライズンスケールとの大小関係に依存した効果が現れている。整理すると、次のようなことが言えるだろう。ゼロモードからの寄与によるO(δH/H1)2の差異のうち主要な部分は、波長の短い重力波の振幅を減少させるようにはたらく。この効果が効き始める重力波の波長は、バルクの曲率スケール �とホライズンスケールH−1のうち小さい方のスケールで決まっている。

5D (including the KK contributions)

5D (NOT including the KK contributions)

4D

Figure 7.10: �H � 1のとき、P5D(p) (KKモードからの寄与を含む場合と含まない場合の両方)と Pres(p) とをプロットした図。パラメーターの値は、�H1 = 103, δH/H1 = 10−3 を採用し、2C2(H1)M3

5

(H12π

)2が 1になるように適当に定数倍してプロットしてある。

特に高エネルギー極限 �H � 1で P5D(p)と Pres(p)とをプロットしたものが Fig. 7.10である。KKモードからの寄与

∫dκ|α0κ + β∗0κ|2 を加算しなかった場合、先ほど述べた効果によってホライ

ズンの内側の重力波の振幅が減少している。しかしながら、KKモードから生成されたゼロモードを足し合わせた結果、この両者はきわめてよく一致していることがわかる。スケール変換のもとでのこのような対応を見せる理由のひとつとして、そもそも差異は (�H1 � 1

の場合に限らず) 現れたとしても δH/H1の 2次の微小量であるということが挙げられる。さらに、その 2次の微小量に関しては次のようなことが起こっている。ホライズンの外側 p|η0| � 1 では

P5D(p) ≈ 2C2(H1)�(M5)3

(H1

)2[1 +O

((p|η0|)2

)× (δH

H1

)+O

((p|η0|)2

)× (δH

H1

)2]

+

+(KK modes), (7.112)

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7.4. 重力波の振幅 81

という評価ができる。さらに、(7.88)から、p|η0| � 1のときのKKモードからの寄与∫dκ |α0κ + β∗0κ|2

は少なくともO(p|η0|)より高次の微小量であることはわかるが、実際、O((p|η0|)3

)である。この

ことから、差は

|P5D − Pres| � O((p|η0|)2

)× (δH

H1

)2

, (7.113)

というように抑えられている。なお、p|η0| → 0で

P5D(p) → 2C2(H1)�(M5)3

(H1

)2

, (7.114)

となることは、ホライズンの十分外側でゼロモードの振幅が保存されることを物語っている。p|η0|が 1と比べて大きいホライズンの内側では、β00, β0κはすばやく小さくなって、β00, β0κ ≈ 0である。これと公式 (7.99)から

|α00|2 +∫

|α0κ|2dκ = 1 (p|η0| � 1), (7.115)

という関係が成り立つ。したがって、p|η0| � 1で

P5D(p) ≈ 2C2(H2)�(M5)3

(H2

)2 (|α00|2 +

∫|α0κ|2dκ

)

=2C2(H2)�(M5)3

(H2

)2

, (7.116)

となる。この中には、あまり自明でない点がふくまれている。�H � 1の場合に、|α00|だけを考えていたのでは p|η0|の大きい領域で振幅は減少傾向にあった。この振幅の減少を補うものとして、KKモードから ∫

|α0κ|2dκ �= 0, (7.117)

が寄与していた。α0κが 0でないということは、過去 (η = −∞)に余剰次元方向の運動量をもっていた gravitonが、未来 (η = 0)には余剰次元方向の運動量をもっていないことがある、と

いうことを示している。これは、�H → 0の極限においてはなかったことである。�H1が大きい場合の δH/H1の 2次の微小な差異が、

∫ |α0κ|2dκ の存在によって相殺されていることは、具体的に以下のように示すことができる。p|η0|が大きいときに、(7.106)の中でゼロモードからの寄与を減少させている主要な項は

(pη0)2[

1 + C4(H1)1 + (�H1)2

− 2C2(H1)√1 + (�H1)2

](δH

H1

)2

≈ −34(pη0)2

(δH

H1

)2

, (7.118)

であった。一方、7.3.2節の終盤で行った議論によると、p|η0|が大きければ α0κ ≈ U0κ であった。�H � 1のときの (7.67)を調べると

|α0κ|2 ≈ |U0κ|2 ≈ 6π

κ2

(κ2 + 1/4)2(κ2 + 9/4)× (pη0)2

(δH

H1

)2

, (7.119)

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82 7 ブレーンワールドにおける重力波

となることから、∫ ∞

0|α0κ|2dκ ≈ 6

π

∫ ∞

0

κ2

(κ2 + 1/4)2(κ2 + 9/4)dκ× (pη0)2

(δH

H1

)2

= +34(pη0)2

(δH

H1

)2

, (7.120)

である。ゼロモードからの寄与だけでは減少しているのを、KKモードからの寄与がちょうどキャンセルしていることがわかる。なお、�H1 � 1の場合には、ゼロモードだけを考えたときの減少を主に担う項 (7.110) とKKモードからの寄与はともに (�H1)2により抑制される微小量であるが、それでもこの両者が互いにキャンセルすることも計算により示すことができる。この場合も再び、p|η0|が大きい領域で α0κ ≈ U0κ である。�H � 1のときの (7.67)のふるまいを調べることにより、∫ ∞

0|α0κ|2dκ ≈

∫ ∞

0

2κ tanh(πκ)(κ2 + 1/4)(κ2 + 9/4)

dκ× (pη0)2(�H1)2(δH

H1

)2

= +(pη0)2(�H1)2(δH

H1

)2

. (7.121)

これは、(7.110)とちょうど打ち消しあう。以上の計算により、いずれの項が主要な働きをしているのかが明確にされた。

7.5 まとめ

この章で行ったことと、得られた結果をまとめよう。インフレーション中にハッブルパラメーターがH1 → H2 = H1 − δH とわずかに変化するという状況設定のもとで Bogoliubov係数を計算し、重力波のパワースペクトラムがどうなるかについて 4次元の同様の計算結果と比較しながら議論した。ゼロモードの真空ゆらぎから生成されるゼロモードに加えて、KKモードの真空ゆらぎからのゼロモードの生成も考えられる。パワースペクトラムの式の形の上では、このKKモードからの寄与が 5次元の場合にはあるという違いと、規格化因子による違いとがある。余剰次元があることにより、AdS5時空の曲率半径 �という長さスケールが出現することに注意する。

• �H � 1のときゼロモードからの寄与 α00, β00に関しては 2章で計算した 4次元の結果を再現した。一方で、KKモードからの寄与は

α0κ, β0κ ∝ (�H1)2(δH

H1

)2

∼ 0,

のように、無視できるほど小さかった。このため、重力波の振幅に目を移したとき、パワースペクトラム P5D は 4次元のときのものP4Dとまったく同じものが得られるのであった。これは予想された結果であると言えよう。

• �H � 1のときP4Dを変換 (7.108)で

P4D �−→ Pres(p)

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7.5. まとめ 83

とスケーリングすることにより、P4D と P5D との間に対応関係があることがわかった。�H � 1の場合には、何らかの形で余剰次元の効果を見られることが期待されたのであるが、このスケール変換のもとで得られるスペクトラムに違いは現れなかったと言える。しかし、ゼロモードから生成されるゼロモードだけを考えてこの対応関係が成り立つわけではない。KKモードからの寄与がホライズンの内側で

(KK contributions) ∝ (pη0)2 �= 0,

のようにはたらくことで、対応関係が成り立つのである。すなわち、gravitonの余剰次元方向の運動量の再配分は起こっている。

なお、�Hが小さいとして (�H)2までを考慮に入れた計算でも、このようなKKモードからの寄与による相殺が起こっていることもわかった。

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84

8 結論

この修士論文では、ブレーンワールドシナリオの宇宙論的な側面に注目して関連話題を含むレビューを行ったのち、Randall-Sundrum的なブレーン宇宙のインフレーションを起源とする重力波に関する研究を行った。6章でブレーン上の一様等方な宇宙モデルを解説した。そこでは、標準宇宙論との違いが確かに存在するものの、元素合成以降を記述する確立された宇宙モデルに矛盾するような顕著な差異を与えるということはなく、ブレーン宇宙論は標準宇宙論をよく再現していることを見た。一方で、一様等方性からのずれということに目を向ければ、ブレーンワールドにおける cosmological perturbationの取り扱いは難しく、いまだに発展途上の研究分野であることを述べた。このことを踏まえ、7章で tensor perturbationの解析を試みた。その 7章では、インフレーション中にハッブルパラメーターH が時間変化した場合の重力波の

パワースペクトラムに、4次元理論との違いが現れるか、という点に着目して解析を行っている。実際に計算を行うために、ハッブルパラメーターの変化がある時刻にH1 → H2 = H1 − δH のように不連続に起こるという仮定をおいた。このような仮定のもとで場の量子ゆらぎの時間発展を解き、Bogoliubov係数を計算した。余剰次元がある場合の特徴として、4次元的なふるまいをする graviton(ゼロモード)に加えて、Kaluza-Klein(KK)モードとして質量をもった gravitonが存在する。したがって、KKモードの真空のゆらぎからゼロモードのゆらぎの生成が起こることも考えられる。また、バルクの曲率半径として 4次元理論のときには存在しなかった長さスケール �

が現れる。このようなことを考慮して、得られた結果について述べる。まず、Bogoliubov係数の計算から

• 低エネルギー (�H � 1)のインフレーションでは、ゼロモードからゼロモードへの寄与を表す係数 α00, β00は 2章で計算した 4次元での係数と同一になり、KKモードからの寄与を表す係数 α0κ, β0κは、�H の因子により抑制されてきわめて 0に近い。

• 高エネルギー (�H � 1)のインフレーションでは、KKモードからの寄与を表す係数α0κ, β0κ

に抑制因子はかからず、0でない寄与をする。ただし、粒子生成を表す係数 β0κは、α0κと比べて、以下で述べるように振幅に対して非常に小さな寄与しかしない。

ということが判明した。続いて、これらの Bogoliubov係数をもとに重力波のパワースペクトラムを計算したところ、

• 低エネルギーのインフレーションでは、KKモードからの寄与はなく、ゼロモードからの寄与だけで 4次元のパワースペクトラムとまったく同一のものが得られた。

• 高エネルギーのインフレーションでは、4次元のパワースペクトラムに対して、H21をC2(H1)H2

1

に、H22 をC2(H2)H2

2 に対応させるようなスケール変換を施しさえすれば、ブレーンワールドにおける結果との違いが現れない。自明でないのは、ゼロモードからの寄与だけではホライズンの内側で減少傾向にある重力波の振幅を、KKモードからの寄与が補い、両方の寄与

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85

を足し合わせてはじめて、スケール変換のもとでの一致が見られるという点である。β0κ(の絶対値)は小さいから、0でないKKモードからの寄与はほとんど係数 α0κ によるものである。このことは、過去に余剰次元方向の運動量をもっていた gravitonが、未来には余剰次元方向の運動量をもたないゼロモードの gravitonになっている場合があるということを表している。すなわち、gravitonの余剰次元方向の運動量の再配分が起こっている、

ということがわかった。低エネルギーの場合の結果は予想されたものである。高エネルギーの場合には、余剰次元の何

らかの効果が見られることが期待されたが、結果的には、スケール変換を施しさえすればパワースペクトラムに違いが現れないということが明らかになった。しかしながら、このようなスケール変換のもとで存在する対応関係は、以下で述べるように大変示唆的でもある。

上で述べた結果は、ハッブルパラメーターが不連続に変化するという特殊な状況のもとで判明したことである。今回の結果から、インフレーション中のハッブルパラメーターの一般的な時間変化H = H(η) に対して、パワースペクトラムは 4次元のそれをスケール変換するだけで得られるということが予想される。しかし、今回の状況設定が特殊であるということと、余剰次元方向の運動量の再配分が起こるということを考え合わせれば、予想が果たして正しいのかどうかは自明でない。ハッブルパラメーターがスムーズに変化する一般的な場合のパワースペクトラムを、数値的に、あるいは新たな解析的手法を開発することで計算し、今回得られた結果と比較検討することは残された課題である。また、今回はKKモード gravitonの生成を議論することはしなかった。KKモード gravitonの

生成は、6章で述べたDark Radiation C の生成、時間変化を意味している。Dark Radiationの生成については、例えば [58, 80]の研究が最近なされているが、本論文で扱ったようなプロセスにより生成されるDark Radiationの量を正しく評価し、それが宇宙の進化に影響を与えるのかどうかを議論することも、今後取り組むべき課題である。

Acknowledgments

修士論文を書くにあたって、丁寧な指導をしていただいた基礎物理学研究所の田中貴浩助教授に感謝いたします。工藤秀明氏との活発な議論も非常に有益でした。天体核研究室、基礎物理学研究所の皆様にはコロキウム、宇宙論セミナー等の機会を通じて様々なことを教えていただき、また、日々の研究生活でお世話になりました。特に、中村卓史教授には物理学を楽しむ心も教えていただきました。同期の田代寛之君との議論は、基礎的な事柄を深く理解する上で大変役に立ちました。また、本修士論文の研究に関して、研究会等で多くの方々にご意見をいただきました。この場を借りて、皆様に感謝いたします。

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Appendix

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88

A 長く困難な計算

ここでは、本文中に現れた計算のうち、幾分冗長になり話の本筋からは外れるものを記す。

A.1 KKモード関数の空間部分 χκ(ξ)

KKモード関数の空間部分 χκ(ξ) は(∂2

∂ξ2− 3 coth ξ

∂ξ+ κ2 +

94

)χκ(ξ) = 0, (A.1)

を満たすもので、境界条件は

∂ξχκ(ξB) = 0, (A.2)

で与えられた。また、規格化条件は

2∫ ∞

ξB

(sinh ξ)3χ∗κ′χκ = δ(κ − κ′), (A.3)

であった。微分方程式 (A.1) は z = cosh ξ と変数変換することにより[(1 − z2)

d2

dz2+ 2z

d

dz−(κ2 +

94

)]χκ = 0, (A.4)

と書き換えることができる。さて、微分方程式[(1 − z2)

d2

dz2− 2(µ+ 1)z

d

dz+ (ν − µ)(ν + µ+ 1)

]w = 0, (A.5)

の解は、一般の Legendre陪関数

w1 = (z2 − 1)−µ/2Pνµ(z), (A.6)

w2 = (z2 − 1)−µ/2Qνµ(z), (A.7)

で与えられることが知られている(ただし、z > 1とした)。従って、この微分方程式の解は、(z2 − 1)P−2

−1/2+iκ(z)と (z2 − 1)Q−2−1/2+iκ(z)の線形結合で

χκ = C1(sinh ξ)2[P−2−1/2+iκ(cosh ξ) − C2Q

−2−1/2+iκ(cosh ξ)

], (A.8)

と書くことができる。定数 C1、C2は、それぞれ規格化条件と境界条件から決められる。公式

(z2 − 1)d

dzPν

µ(z) = (ν − µ+ 1)Pν+1µ(z) − (ν + 1)zPνµ(z), (A.9)

(ν + µ+ 1)zPνµ(z) − (ν − µ+ 1)Pν+1µ(z) +

√z2 − 1Pνµ+1(z) = 0, (A.10)

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A.1. KKモード関数の空間部分 χκ(ξ) 89

と境界条件 (A.2) とを合わせて

C2 =P−1−1/2+iκ(cosh ξB)

Q−1−1/2+iκ

(cosh ξB)(A.11)

と決まる。続いて、規格化条件から C1 を決めるためには、χκ の ξ が大きいところでの漸近形を見る必要がある。ξ → ∞で

P−2−1/2+iκ(cosh ξ) ∼ 1√

π

[Γ(iκ)

Γ(5/2 + iκ)e(−1/2+iκ)ξ +

Γ(−iκ)Γ(5/2 − iκ)

e(−1/2−iκ)ξ], (A.12)

Q−2−1/2+iκ(cosh ξ) ∼ √

πΓ(iκ− 3/2)Γ(1 + iκ)

e(−1/2−iκ)ξ, (A.13)

ということから、 χκは漸近的に

χκ(ξ) ∼ C1√2π

(eξ

2

)3/2 [ Γ(iκ)Γ(5/2 + iκ)

eiκξ +(

Γ(−iκ)Γ(5/2 − iκ)

− πC2Γ(iκ− 3/2)Γ(1 + iκ)

)e−iκξ

], (A.14)

のように振舞うことがわかる。ここで、規格化条件 (A.3) を眺めると、ξ の大きいところで χκ は

χκ ∼ (sinh ξ)3/21√2π

(aeiκξ + be−iκξ

), |a|2 + |b|2 = 1, (A.15)

のように振舞うべきである。このことから

C1 =

[∣∣∣∣ Γ(iκ)Γ(5/2 + iκ)

∣∣∣∣2 +∣∣∣∣ Γ(−iκ)Γ(5/2 − iκ)

− πC2Γ(iκ− 3/2)Γ(1 + iκ)

∣∣∣∣2]−1/2

, (A.16)

と決まる。解析的な解の形は以上によりわかったわけであるが、さらに、ある特別な場合に境界での値 χκ(ξB) を求めておくと便利である。すなわち、「 sinh ξB � 1 かつ κ sinh ξB � 1 」の場合と「 sinh ξB � 1 または κ sinh ξB � 1 」の場合について、境界での値を求める。ただし、C2

を小さい ξB で展開したり大きい ξB での漸近形を求めたりすることは困難な計算を伴うため、より簡単な方法を示す。まず、「 sinh ξB � 1 かつ κ sinh ξB � 1 」の場合を考えよう。cosh ξ ≈ 1のときに

P−2−1/2+iκ(cosh ξ) =

(sinh ξ)2

8+ · · · , (A.17)

Q−2−1/2+iκ(cosh ξ) =

√π

21/2+iκ

Γ(iκ− 3/2)Γ(3/4 + iκ/2)Γ(5/4 + iκ/2)

×

×[

1(sinh ξ)2

−∣∣∣∣ iκ2 +

34

∣∣∣∣2 + · · ·], (A.18)

と展開できることに注目すると、式 (A.8) は ξ が小さいときに

χκ(ξ) ∝ (sinh ξ)4

8− C2

√π

21/2+iκ

Γ(iκ− 3/2)Γ(3/4 + iκ/2)Γ(5/4 + iκ/2)

×

×[1 −

∣∣∣∣ iκ2 +34

∣∣∣∣2 (sinh ξ)2]

+ · · · , (A.19)

Page 92: Gravitational Waves from Braneworld Inflation · 景重力波として宇宙に満ちていると考えられ[62]、重力波検出実験の重要なターゲットになってい

90 A 長く困難な計算

と書ける。このような展開が正当であるためには、κξ が小さくなくてはならないことにも注意する必要がある。これを微分して、ξ = ξB � 1で

∂ξχκ(ξB) ∝ cosh ξB(sinh ξB)3

2+

+C2

√π

21/2+iκ

Γ(iκ− 3/2)Γ(3/4 + iκ/2)Γ(5/4 + iκ/2)

∣∣∣∣ iκ2 +34

∣∣∣∣2 · 2 cosh ξB sinh ξB + · · ·= 0, (A.20)

を満たしていなくてはならない。この式からC2 ≈ O(sinh2 ξB) であることを読み取れる。なぜなら、それより次数が低いと第 2項が、次数が高いと第 1項が、それぞれ主要な項として残ってしまい、これを 0にすることができなくなってしまうからである。すなわち、これを 0にするためには、上に書かれた 2項が互いにキャンセルしなくてはならない。このような考察により

C2

√π

21/2+iκ

Γ(iκ− 3/2)Γ(3/4 + iκ/2)Γ(5/4 + iκ/2)

≈ − (sinh ξB)2

4|iκ/2 + 3/4|2 , (A.21)

と、これを C1の表式に入れることによりただちに

C1 ≈ 1√2

∣∣∣∣Γ(5/2 + iκ)Γ(iκ)

∣∣∣∣ , (A.22)

であることがわかる。従って、sinh ξB � 1 かつ κ sinh ξB � 1 が満たされるとき、χκ(ξB) の最も主要な項はQ−2

−1/2+iκ の展開の第 1項から来る

χκ(ξB) ≈ −C1C2

√π

21/2+iκ

Γ(iκ− 3/2)Γ(3/4 + iκ/2)Γ(5/4 + iκ/2)

, (A.23)

である。式を簡単にするために、ガンマ関数に関する公式

Γ(z + 1) = zΓ(z), (A.24)

|Γ(iκ)|2 =π

κ sinh(πκ), (A.25)

|Γ(1/2 + iκ)|2 =π

cosh(πκ), (A.26)

を使うと

χκ(ξB) ≈√κ tanhπκ

2

√κ2 + 1/4κ2 + 9/4

(sinh ξB)2, (A.27)

を得る。さて、次に「 sinh ξB � 1 または κ sinh ξB � 1 」の場合を考えよう。ここでは上で求めた複雑な表式は必要ない。χκ(ξ) = (sinh ξ)−3/2χκ(ξ) で定義される χκ を用いると (A.1) はSchrodinger方程式の形 (

∂2ξ +

154 sinh2 ξ

)χκ = κ2χκ, (A.28)

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A.2. 複雑な積分 91

に書けるのであるが、sinh ξB � 1 または κ sinh ξB � 1 が満たされている場合には、ポテンシャル項は効かない。すなわち、解は

χκ(ξ) ≈ 1√π

(sinh ξ)3/2 cos[κ(ξ − ξB) + ακ], (A.29)

で与えられ、位相は境界条件から

tanακ =3cosh ξB2κ sinh ξB

, (A.30)

のように決まる。従って、

χκ(ξB) ≈ 1√π

(sinh ξB)3/2κ√

κ2 + 9/4, (A.31)

を得る。

A.2 複雑な積分

§7.3.1の係数 U

まず、U00 の計算を簡単に示そう。内積の定義 (7.15) にしたがいつつ、積分を η → −∞ で評価すると

U00 = −2i�3∫ ∞

ξB

η2(sinh ξ)3(φ

(−)0 ∂ηφ

(+)0 − φ

(+)0 ∂ηφ

(−)0

)∣∣∣∣η→−∞

=H2

H1C(H1)C(H2) · 2�2H2

1

∫ ∞

ξB

dξe−iεHpη0 cosh ξ

(sinh ξ)3

≈ H2C(H2)H1C(H1)

e−iεHpη0 cosh ξB · 2�2H21C

2(H1) ×

×eiεHpη0 cosh ξB

∫ ∞

ξB

dξ1

(sinh ξ)3

[1 − iεHpη0 cosh ξ − 1

2(εHpη0)2(cosh ξ)2

].(A.32)

ここで、被積分関数を εH について展開して、2次まで残した。こうすると、各項ごとに積分することができる。積分の前の eiεHpη0 cosh ξB も εH について展開し、最終的に

U00 ≈ H2C(H2)H1C(H1)

e−iεHpη0 cosh ξB ×

×[1 − iεHpη0

(C2(H1) − cosh ξB

)− 12(εHpη0)2(sinh ξB)2

], (A.33)

を得る。このような展開が正しい近似であるためには、εHp|η0| cosh ξB ≈ p|η0|δH/H が小さいことが必要である。厳密には、積分区間の端 ξ = ∞に近づいたときに、指数関数をこのように展開することが正しいとは言えない。しかしながら、被積分関数を見ればわかるように、ξ = ξB 近傍がもっとも大きく積分に寄与する。したがって、近似が正しいための条件はこれでよい。

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92 A 長く困難な計算

U0κ は εH の 1次まで求めればよいのだが、その計算には込み入ったことを要する。まず、上と同様に内積を η → −∞ で評価して

U0κ = −2i�3∫ ∞

ξB

η2(sinh ξ)3(φ

(−)0 ∂ηφ

(+)κ − φ(+)

κ ∂ηφ(−)0

)∣∣∣∣η→−∞

= −2i�3 · �−1/2C(H2)H2√2p

· �−3/2

√2p

∫ ∞

ξB

η2(sinh ξ)3χκ(ξ) ×

×[(η − i

p

)e−ipη · (−1 − ipη)eipη+iπ/4 − (−η) eipη+iπ/4 · (−ipη)e−ipη

]∣∣∣∣η→−∞

= −2eiπ/4�H2C(H2)∫ ∞

ξB

dξe−iεHpη0 cosh ξB

(sinh ξ)3χκ(ξ), (A.34)

を得る。この式変形の途中で、η → −∞ での ψκ の漸近形 (7.32) (使う式はこの式の複素共役である) と、ηと ηの関係 (7.50)を用いた。これで、問題はこの最後の積分を計算することに帰着した。そこで、この積分を I とおき、まず被積分関数を εH で展開しよう:

I ≈∫ ∞

ξB

dξχκ(ξ)

(sinh ξ)3(1 − iεHpη0 cosh ξ) . (A.35)

さて、χκ は

(sinh ξ)3∂

∂ξ

[1

(sinh ξ)3∂

∂ξχκ

]= −

(κ2 +

94

)χκ, (A.36)

の解であり、境界条件 ∂ξχκ(ξB) = 0 をみたしていたことを思い出そう。さらに、(sinh ξ)−3/2χκ

は遠方で ∼ eiκξ のように振動的なふるまいをする、すなわち、遠方では (sinh ξ)3/2 程度でしか大きくならないということに注意しよう。以上のことを踏まえると、(A.35) の右辺の第 1項目の積分は消える。第 2項目は次のように部分積分を繰り返して計算する:(

κ2 +94

)I ≈ iεHpη0

∫ ∞

ξB

dξ cosh ξ∂

∂ξ

[1

(sinh ξ)3∂

∂ξχκ(ξ)

]

= −iεHpη0

∫ ∞

ξB

dξ1

(sinh ξ)2∂

∂ξχκ(ξ)

= iεHpη0χκ(ξB)

(sinh ξB)2+ iεHpη0

∫ ∞

ξB

dξ−2 cosh ξ(sinh ξ)3

χκ(ξ)

≈ iεHpη0χκ(ξB)(�H1)2

+ 2I,

⇐⇒ I ≈ iεHpη0χκ(ξB)(�H1)2

1κ2 + 1/4

. (A.37)

これから、

U0κ ≈ εHpη0−2ieiπ/4

κ2 + 1/4�H2

(�H1)2C(H2)χκ(ξB), (A.38)

を得る。再び、p|η0|δH/H � 1 のときに正しい近似である。

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A.2. 複雑な積分 93

最後に 1つ指摘しておくべきことがある。それは、Uκ0, Uκ,κ′ の計算はさらに困難になる、ということである。例えば、Uκ0の計算には χκ(ξ) をふくむような関数を ξで積分する必要がある。χκのみたす境界条件は ∂ξχκ(ξB) = 0 であるが、これは積分の下端 ξ = ξB での条件を与えるものではないため、上のようにうまく計算することができないのである ( η → −∞の極限では ξ = ξ であるが、ξB �= ξB であることに注意しよう)。このような困難のため、今回はKKモード gravitonの生成を表すような係数は計算しないことにする。

§7.3.2の ‘KK to zero mode’

最初に、必要な公式を 2つ記す。まず、

e−πκ/2H(1)iκ (x) =

eπκ/2

sinh(πκ)Jiκ(x) + (κ→ −κ) (A.39)

≈x1

eπκ/2

sinh(πκ)(x/2)iκ

Γ(1 + iκ)+ (κ→ −κ), (A.40)

という関係式がある。2行目は Bessel関数を級数展開して、最初の項をとったということである。次に、積分公式:∫ a

∞dxJiκ(x)x−3/2e±ix =

√2π

e∓i(π/4±+κ/2)

κ2 + 1/4+

1iκ− 1/2

1Γ(1 + iκ)

(a2

)iκa−1/2fκ(a)

±i 1iκ+ 1/2

1Γ(1 + iκ)

(a2

)iκa1/2gκ(a), (A.41)

である。ただし a > 0 とし、fκ(a) と gκ(a) と書いたのは一般化された超幾何関数である:

fκ(a) = 2F3

(−1

4+iκ

2,14

+iκ

2;12,12

+ iκ, 1 + iκ;−a2

)(A.42)

= 1 − iκ− 1/22(iκ+ 1)

a2 +(iκ− 1/2)(iκ+ 5/2)24(iκ+ 1)(iκ+ 2)

a4 + · · · , (A.43)

gκ(a) = 2F3

(14

+iκ

2,34

+iκ

2;32, 1 + iκ,

32

+ iκ;−a2

)(A.44)

= 1 − iκ+ 1/26(iκ+ 1)

a2 +(iκ+ 1/2)(iκ+ 7/2)120(iκ+ 1)(iκ+ 2)

a4 + · · · . (A.45)

それぞれの 2行目は、a による級数展開である。α0κ, β0κ の計算に移ろう。(7.70), (7.71) にモード関数の表式を入れ、積分変数を x = −pη に

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94 A 長く困難な計算

取り直して、

β0κ =√

2p �3/2C(H2)χ∗κ(ξB)

sinh ξB(sinh ξB)2

εHη0

∫ η0

−∞

η3ψ(−)κ (η)eip

√η2+2εHη0η cosh ξB+ε2Hη

20

=√π

2C(H2)χ∗

κ(ξB)sinh ξB

(sinh ξB)2εHpη0e

−πκ/2 ×

×∫ p|η0|

∞dxx−3/2H

(1)iκ (x)ei

√x2+2xεHp|η0| cosh ξB+ε2Hp

2η20

≈√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)1�H1

εHpη0 ×

×[

eπκ/2

sinh(πκ)

∫ p|η0|

∞dxJiκ(x)x−3/2eix + (κ→ −κ)

], (A.46)

となる。ここで、δH/H1 の 1次まで計算することが目的だったので、全体にひとつ εH がかかっていることを考慮して、積分の中の εH を無視することと、あらゆる部分で H2 を H1 に換えてしまうことができる。また、最後の行では上の公式によってHankel関数をBessel関数に書き換えている。これと同様にして、

α∗0κ = U∗

0κ −√π

2C(H2)χ∗

κ(ξB)sinh ξB

(sinh ξB)2εHpη0e

−πκ/2 ×

×∫ p|η0|

∞dxx−3/2H

(1)iκ (x)e−i

√x2+2xεHp|η0| cosh ξB+ε2Hp

2η20

≈ iεHpη02e−iπ/4

κ2 + 1/4�H2

(�H1)2C(H2)χ∗

κ(ξB)

−√π

2C(H2)χ∗

κ(ξB)sinh ξB

(sinh ξB)2εHpη0e

−πκ/2∫ p|η0|

∞dxx−3/2H

(1)iκ (x)e−ix, (A.47)

この積分は上の積分公式の助けを借りて実行することができる。結果は、

β0κ ≈√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)1�H1

εHpη0 ×

×[+

eπκ/2

sinh(πκ)1

iκ− 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)−1/2fκ(p|η0|)

+ ieπκ/2

sinh(πκ)1

iκ+ 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)1/2gκ(p|η0|) + (κ→ −κ)

],(A.48)

α∗0κ ≈

√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)1�H1

εHpη0 ×

×[− eπκ/2

sinh(πκ)1

iκ− 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)−1/2fκ(p|η0|)

+ ieπκ/2

sinh(πκ)1

iκ+ 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)1/2gκ(p|η0|) + (κ→ −κ)

],(A.49)

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A.2. 複雑な積分 95

となる。超幾何関数を級数展開すると、ホライズンの外側 p|η0| � 1 でのふるまいを見ることができる。

p|η0| ≈ 0 でもっとも効く項を取り出すと、

β0κ ≈ −α∗0κ ≈

√π

2C(H1)χ∗

κ(ξB)εH�H1

eπκ/2

sinh(πκ)1

iκ− 1/21

Γ(1 + iκ)

(p|η0|

2

)iκ(p|η0|)1/2, (A.50)

となることがわかる。α0κ, β0κのH1や δH に対する依存性は、(A.48), (A.49)で [ ]の外に集められた項が担ってい

る。すなわち、β0κ ∝ C(H1)χ∗κ(ξB)εH/�H1 である。具体的には、�H � 1かつ κ�H � 1のとき

に (A.27)の表式が使えて、

|β0κ|2 ∝ (�H1)2(δH

H1

)2

, (A.51)

�H � 1または κ�H � 1 のときには、(A.31)の表式が使えて

|β0κ|2 ∝(δH

H1

)2

, (A.52)

という依存の仕方をする。実際には、|β0κ|2を κについて積分した量も調べたい。このとき、κがきわめて大きい領域は積分にほとんど寄与しないであろう。したがって、�Hを十分小さく取れば、「�H � 1かつ κ�H � 1」という条件は破られず、近似形である (A.27)をそのまま使って積分してもよい。�H � 1の場合には、(A.31)の近似形を用いても何ら問題はない。以上のことから、KKモードからの寄与を積分した量

∫ |β0κ|2dκ についても、(A.51), (A.52) のような依存性は保たれる。

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96

B 変分原理によるIsraelの接続条件の導出

本文中でたびたび登場する Israelの接続条件を、[17]にしたがって変分原理から正しく導いておこう。ここに限っては、κ2

(D) = 1 という単位系を使うことにする。

D次元の多様体 (M, gAB) があって、それがドメインウォール ((d− 2)-ブレーン) Σによって 2つの部分M+, M−にわけられているとしよう。Σ の各面をそれぞれ Σ+, Σ− と書くことにする(Fig.B.1)。gAB は連続とし、gAB の微分はΣの上以外では連続と仮定する。

Einstein方程式をみたす gAB に対して、変分 δgAB を考える。このとき、全体の actionの変分は 0になっていなくてはならない。まず、Einstein-Hilbert action

SEH =12

∫MdDx

√−gR, (B.1)

の変分は、

δSEH =12

∫MdDx

√−g[(RAB − 1

2RgAB

)δgAB + gABδRAB

], (B.2)

となる。このとき、公式: δ√−g = −1

2

√−ggABδgAB を使う。積分の中の ( )で囲まれた項は、バルクの energy-momentum tensorおよび宇宙項と合わせてEinstein方程式を導き出す部分である。Einstein方程式をみたすような gAB に対して変分をおこなっているので、この部分は考えなくてよい。いまは最後の項が重要である。gABδRABを計算するには、ある与えられた点の近傍でRiemann normal座標をとるのが便利で

ある。Riemann normal座標とは、与えられた点ですべての ΓCAB が 0となる座標のことで、任意の点の近傍でいつでも張ることができる [83]。この特別な座標で計算したのち、結果を共変な形に書き直せばよい。Riemann normal座標をとれば、ある与えられた点で RAB の中の ΓCADΓDBC のような項の変分が 0になることと、∂CgAB = 0となることを用いると

gABδRAB = gAB(∂CδΓCAB − ∂AδΓCBC

)= ∂A

(gBCδΓABC − gABδΓCBC

), (B.3)

となる。ΓABC の変分も、Riemann normal座標のもとでは容易に計算できて、

ΓABC =12gAD (∂BδgDC + ∂CδgBD − ∂DδgBC) , (B.4)

となる。これらを共変形に書き直して

gABδRAB = ∇A

(gMN∇MδgAN − gMN∇AδgMN

), (B.5)

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97

Figure B.1: ドメインウォールΣによって 2つにわけられた時空M

を得る。これから、Einstein-Hilbert actionの変分は

δSEH =12

∫MdDx

√−g∇A

(gMN∇MδgAN − gMN∇AδgMN

)= −1

2

∫Σ±

dD−1x√−qnAgMN (∇MδgAN −∇AδgMN )

= −12

∫Σ±

dD−1x√−qnAqMN (∇MδgAN −∇AδgMN ) , (B.6)

となることがわかる。2行目に移るときには Gaussの定理を利用し、3行目に移るときには、( )の中を nMnNnAで縮約すると 0になることを用いた。ここで、nAは Σ±に垂直な単位ベクトルで、向きは Fig. B.1 に描かれているように決めた。qAB = gAB −nAnB はΣ上の induced metricである。省略して ∫

Σ±· · · =

∫Σ+

· · · −∫

Σ−· · · , (B.7)

という書き方を使うことにする。nAの向きの決め方から、2つの積分の引き算になっていることに注意しよう。全体の actionとして、これに Gibbons-Hawking項 [28] を付け加えることを忘れてはならない。Gibbons-Hawking項とは

SGH = −∫

Σ±dD−1x

√−qK, (B.8)

と書かれる項であり、(B.6)の最後のΣに垂直な微分の項を消すのに必要である。この項なくしては、Einstein方程式をみたす gAB が actionの極値を与えることはないのである。ここで、K は、Σの外的曲率KAB = qA

MqBN∇MnN のトレースK = qABKAB である。

Gibbons-Hawking項の変分を計算しよう。計量を変分したことにより、nA も変わる。なぜなら、nAの大きさは常に 1に規格化されているからである。δ

(gABn

AnB)

= 0 から、その変化分は

δnM =12nMn

AnBδgAB , (B.9)

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98 B 変分原理による Israelの接続条件の導出

であることがわかる。したがって、K の変分は

δK = −KMNδgMN − qMNnA(∇MδgNA − 1

2∇AδgMN

)+

12KnAnBδgAB , (B.10)

と計算できる。これが、計量の変分の Σに垂直な微分をふくんでいることに気づくだろう。さらに

√−qの変分も加えて、Gibbons-Hawking項の変分は

δSGH = −∫

Σ±dD−1x

√−q(δK +

12KhMNδgMN

), (B.11)

となる。全体の変分としては、結局

δSEH + δSGH = −∫

Σ±dD−1x

√−q(−1

2qMNnA∇MδgNA−

−KMNδgMN +12KnMnNδgMN +

12KqMNδgMN

), (B.12)

を得る。ここで、Σ上の induced metricからつくった共変微分DAとΣ上のベクトルXB について次の式が成り立つことを思い出そう。

DAXB = qA

MqNB∇MX

N . (B.13)

特に、ここではXM = qMNnAδgNA について上式を縮約したものを適用する。nMXM = 0であることに注意して、∇MX

M = DMXM −XMnN∇NnM というように変形できるので、このこと

と∇B

(nAnA

)= 2nA∇BnA = 0 を用いて、多少技巧的な計算を行うことにより

qMNnA∇MδgNA = ∇M

(qMNnAδgNA

)− δgNA∇M

(qMNnA

)= DM

(qMNnAδgNA

)+KnMnNδgMN −KMNδgMN , (B.14)

を得る。これを (B.12)に入れる。Σ上の積分なので、DM による全微分項は落とすことができて、

δSEH + δSGH = −12

∫Σ±

dD−1x√−q (−KAB +KqAB

)δgAB , (B.15)

である。Σで不連続になる可能性のある δgMN のΣに垂直な方向への微分は、Gibbons-Hawking項を加

えることで消した。KMN もΣで不連続になることが許されるので、一般に (B.15)だけでは変分が 0にならない。これと相殺するものが、ウォール上の energy-momentum tensor tABである。ドメインウォールの actionを

SDW =∫

ΣdD−1x

√−qLDW (B.16)

と書くと、energy-momentum tensorの定義と tABnA = 0であることから、変分は

δSDW =12

∫ΣdD−1x

√−q tABδgAB , (B.17)

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99

となる。これも加えて、δSEH + δSGH + δSDW = 0 より Israelの接続条件

[KAB −KqAB] = −κ2(D) tAB, (B.18)

が導かれる。ただし、[f ] = f |Σ+ − f |Σ− であり、また、重力定数を復活させた。最後に tAB の保存則についてコメントしておこう。接続条件の両辺を微分して

κ2(D)DAt

AB = − [DAKAB − qABDAK

], (B.19)

となる。右辺に Codacci方程式を適用すると

DAtAB = −κ−2

(D)

[qABRACn

C]

= − [qABTACn

C], (B.20)

を得る。ただし、ここでバルクで成り立つD次元の Einstein方程式: RAB − 12gABR = κ2

(D)TAB

を使った。いまは TAB に宇宙項も含まれる。(B.20)は、バルク-ウォール間でのエネルギーの流れを記述する保存則である。本文中ではそうであったように、(B.20)の右辺が 0になるとき、ブレーン上だけで保存則が成り立つ。

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100

C Notation and Conventions

ここでは、本文中によく登場する記号等の定義や使い方について記す。

計量の符号、Riemannテンソル、Ricciテンソル

• ηµν = diag(−1,1, 1, 1)

• Rabcd = ∂bΓdac − ∂aΓdbc + ΓeacΓdeb − ΓebcΓdea

• Rab = Racbc

添字

• µ, ν, λ, ... : 0, 1, 2, 3 の 4次元を表す添字

• i, j, k, ... : 1, 2, 3 の 3次元の空間部分を表す添字

• A, B, C, ... : 0, 1, ...,5, ...など、高次元全体を表す添字

関係子

• ∼ : 「漸近的に等しい」または「オーダーが等しい」の意

• ≈ : 「近似的に等しい」の意

fundamental mass

• MPl = (8πGN )−1/2 ≈ 2.436 × 1018 GeV : 4次元の (reduced)プランク質量

– tPl ≈ 2.70 × 10−43 sec : プランク時間

– LPl ≈ 8.10 × 10−33 cm : プランク長

• M5 =(8πG(5)

)−1/3 =(κ2

(5)

)−1/3: 5次元のプランク質量

• MD : D次元のプランク質量

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