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榊原 敏之 図解学ぶ ガイド PIC / S GMP 最新のEU GMPガイドラインを 取り入れて

GMP 001-010 1章 PIC/S GMP - jiho...PIC/S GMP ガイド 最新のEU GMPガイドラインを 取り入れて 11 2.1 品質に係る用語 医薬品品質システムを解説する前に,品質に係る用語

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榊原 敏之 著

図解で学ぶ

ガイドPIC/S GMP最新のEU GMPガイドラインを取り入れて

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2.1 品質に係る用語医薬品品質システムを解説する前に,品質に係る用語の一般的な意味を確認しておこう(図解2.1)。「品質」とは品物,サービス,組織等の「質」のことである。品物を対象に使用することが多いが,サービス等の無形のものや会社や国等のヒトの団体についても「品質」を使用する。「保証」には3つの意味が含まれている。間違いないと請け負うこと,将来の結果等に責任を持つこと,悪い結果等のときは償いをすることの3つである。一般的な意味における「保証」にはこれら3つすべてが含まれている。間違いないと請け負うことだけに留まることはない。「品質保証」とは,製品,サービス,組織等の品質が

所定の水準にあることを保証することである。医薬品の品質保証なら,医薬品が品質目標に合致し,市場で所定の効果を発揮することに責任を持ち,もし発揮しないときは償いをすることである。品質保証と似た用語に「品質管理(QC)」がある。品質

管理は数多くの意味を持って使用されている。その代表は「国語辞典の品質管理」と「ISOの定義の品質管理」である。国語辞典では,統計的な手法を使用して工業製品の品質を一定にし,不良品が出ないようにすることを品質管理としており,一般的にはこの意味で品質管理が使用されている。医薬品でもこの「国語辞典の品質管理」が使用されることが多い。一般的には品質管理は品質保証より下位の概念であ

る。一方,ISOでは,品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品質マネジメントの一部と定義し,品質保証と同格または上位の概念としている。「品質システム」は品質保証システムと同義語であり,

品質目標に合致した製品を製造するシステムのことである。EU GMPガイドライン第1章の欄外記載文によると,GMPガイドラインとICH Q10(医薬品品質システムガイドライン)の整合性を保つために2013年に品質システムが使用されだしたという。それまでは品質保証システム

医薬品品質システム(医薬品品質保証システム)

第2章

一般的な意味(国語辞典等による)

品  質:品物,サービス,組織等の質保  証: ①間違いないと請け負うこと

②将来の結果や行為について責任を持つこと③悪い結果や行為のときの償いを含む

品質管理: <国語辞典>統計的な手法を使用して工業製品の品質を一定に保つこと<ISOの定義> 品質要求事項を満たすことに焦点を合わせた品質マネジメントの一部

品質保証:製品,サービス等の品質が所定の水準にある ことを保証すること

品質システム=品質保証システム:品質目標に合致した製品を製造するシステム<品質システムと品質保証システムは同義語である>

品質マネジメント:品質を組織で作りだし,証明すること

“品質”に係る用語の意味

GMP

QC製造

保証品質システム

品質マネジメント医薬品

医薬品製造における品質用語の関係(筆者案)

図解2.1

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包装材料の取り扱い

手順書に従う

■手順書に従って包装材料を取り扱う(5.2 項)■手順書に記載がない作業をしない■手順書に記載されていない事態が発生すれば,それは「逸脱」の発生である■手順書に記載されていない作業を行えば「逸脱」である ➡逸脱処理の手順書に従い処理をする

■承認済み供給業者から購入する■包装材料製造業者から直接購入する(できれば)(5.27 項)■製造業者,供給業者,配送業者に関する情報を常に更新する(5.27 項)■包装材料の取り扱いについて供給業者と取り決めておく …ラベル表示,包装,苦情処理,不合格品取り扱い等(5.28項)

包装材料の発注

①包装材料台帳に記入②隔離保管または不合格品置場へ

受け入れ (5.3, 5.4, 5.30 項)

発注書,納品書と照合

*日付,責任者印*試験項目,出荷元で試験合格

*発注内容および納品内容と差異がないことを確認

出荷元試験表の確認

*出荷元のラベル表示*容器破損の有無*封緘状態*添付資料の完全性(書換えなし等)*汚染の有無   問題あれば調査し,   結果を品質部門に連絡する

外観目視検査

外面清掃

合否判定

■合格判定済みの包装材料のみを払い出す(5.34 項)■使用期限内の包装材料のみを払い出す(5.34 項)■「先入れ先出し」のルールで払い出す(一般論)■払い出した包装材料の種類と数量を記録する(5.38 項)

払い出し

■試験中の包装材料を隔離保管する■受け入れ直後に行う(5.5 項)■物理的または管理的手法で隔離する(5.5 項)■「隔離保管」と「保管」は明確に区別する …部屋,棚,場所 and/or 区画棒,色分け,表示等で (隔離保管中の包装材料を絶対に使用させないため)

隔離保管(Quarantine)

隔離保管場所受入検査合格

試験中

保管

保管場所

包装材料が受入試験に合格すれば場所を移し,ラベルを貼りかえる

■合格ラベルが貼付された包装材料を保管する■適切な環境下で保管する(5.7 項)■保管環境は製造業者が定める(5.7 項)■整然と保管する(5.7 項)■適切な表示をする(5.32 項)-製品の名称,社内の参照コード番号(あれば)-受け入れ時に付けたバッチ番号-状態(できれば)…合格,容器清浄済等-使用期限またはリテストが必要となる期限(完全にコンピュータ化された保管システムなら省略できる)■各容器の内容物が表示通りであることが保証できる手順を定めておく(5.33 項)

保 管

■必要に応じて在庫を確認する(5.8 項)■数量収支を確認する(5.8 項)

包装材料の在庫確認

■サンプリングは手順書に従って行う(第 6章)■品質管理部がサンプリングを行う(第 6章)■バッチごとにサンプリングを行う(5.31 項)■サンプリングした容器には「サンプリング済み」の表示をする (5.33 項)■バッチを代表するサンプリングを行う(第 6章)■サンプリングの教育訓練を行う(Annex 8)■抜き取りサンプリングの条件(Annex 8)■参考品サンプル,保存サンプル(Annex 19)

サンプリング

出入り制限

防 虫

温・湿度

清浄度(空中微粒子)

微生物

*包装材料庫の施錠と出入り制限は必須*入室者管理記録(台帳)が必要

*汚染防止のために防虫対策が必要

*必要な項目を設定する*安定性試験結果,製造条件,原材料規格などをもとに,原料ごとに設定し,保管する

包装材料の保管環境例

本書第 8章参照

図解6.24

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最終製品の取り扱い作業の内容を図解6.27にまとめた。試験については本書の第8章(品質管理)にあるのでここでは省略する。最終製品の取り扱いはすべて手順書に従って行う。手

順書に記載がない作業をしてはならない。手順書に記載されていない事態が発生すれば,それは逸脱である。逸脱処理を逸脱処理の手順書に従って行う。試験中の最終製品を隔離保管する。製造後すぐに行う。

隔離保管の概念は出発原料および包装材料の場合と同じで,隔離保管中の最終製品を絶対に使用させないためである。隔離保管は製造業者が定めた適切な条件下で行わねばならない。出荷可の判定が出るまで隔離保管する。出荷可判定は,製造条件,工程管理試験結果,製造文

書,製品試験結果,包装製品検査結果等をもとに行う。品質管理部の出荷判定担当者が出荷判定作業を行い,品質責任者がその報告を受けて最終判定する。組織によっては品質保証部の担当者が判定を行い,品質責任者が最終判定する。品質責任者自身が出荷可判定作業すべてを行ってもよい。製品試験が合格し,出荷可の判定が出た最終製品を保管庫に保管する。製造業者が定めた保管環境下で保管する。整然と保管する。なお,異なる製品の保管作業を同時に行ってはいけない。混同を防止するためである。最終製品の在庫確認は必須である。在庫確認は製品の

品質保証(間違いのない製品の出荷を保証するという点で)の1つである。数量収支の確認および表示内容の確認を行う。経理部や管理部が行う製品の棚卸し作業と同時に行え

ばよい。しかし在庫確認は製造部の仕事なので医薬品製造の関係者が行う。経理部や管理部という事務部門に任せきりではいけない。

■出荷可の判定が出た最終製品を保管する(5.65 項)■異なる製品の保管作業を同時に行わない(5.9 項)■適切な環境下で保管する(5.7 項)■保管環境は製造業者が定める(5.7, 5.63 項)■整然と保管する(5.7 項)

保 管

■製造条件の確認■工程管理試験の結果■製造文書(包装を含む)の照査■製品試験結果(製品規格合格)■包装製品の検査結果■その他の製品関連事項

出荷可判定

■必要に応じて在庫を確認する(5.8 項)■数量収支を確認する(5.8 項)

在庫確認

■試験中の最終製品を隔離保管する(5.5, 5.63 項)■適切な環境下で隔離保管する(5.63 項)■隔離保管環境は製造業者が定める(5.63 項)■製造後すぐに行う(5.5 項)■物理的または管理的手法で隔離する(5.5 項)■「隔離保管」と「保管」は明確に区別する …部屋,棚,場所 and/or 区画棒,色分け,表示等で (隔離保管中の最終製品を絶対に出荷させないため)

隔離保管(Quarantine)

隔離保管場所

製造

判定中

試験中

保管

保管場所

出荷可の判定が出れば場所を移し,「保管」する

手順書に従う

■手順書に従って最終製品を取り扱う(5.2 項)■手順書に記載がない作業をしない■手順書に記載されていない事態が発生すれば,それは「逸脱」の発生である■手順書に記載されていない作業を行えば「逸脱」である ➡逸脱処理の手順書に従い処理をする

最終製品の取り扱い

(6.3 項)

図解6.27

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● 108

7.1 適格性評価とバリデーションEU GMP ガイドラインAnnex 15「適格性評価とバリデーション」が改訂された。最終版が2015年3月30日に公表され,2015年10月1日には有効になる(図解7.1)。PIC/S GMPにも取り入れられる可能性が高い。本章では,EU GMPの適格性評価とバリデーションに関する新たな考え方を紹介する。旧版(2001年発出)が10ページだったのに対し,2015年版は16ページ(glossaryを含む)であり,記載項目および内容が豊かになった。特に目立つのはプロセスバリデーションの内容である。旧版では,プロセスバリデーションとして,予測的バリデーション,コンカレントバリデーション,回顧的バリデーションの3種のバリデーションが2ページで紹介されていた。2015年版では,プロセスバリデーションとして,コンカレントバリデーション,伝統的プロセスバリデーション,継続的プロセスベリフィケーション,複合手法,ongoingプロセスベリフィケーションの5種のバリデーションが4ページにわたって解説されている。回顧的バリデーションは認められなくなった。輸送ベリフィケーション,包装バリデーション,ユー

ティリティの適格性評価,試験法バリデーションという項目が追加された。新医薬品の商業生産を開始する前に行うバリデーションの種類が増えたといえる。図解7.2にAnnex 2015年版の筆者日本語訳を載せた。

7.2 いろいろな「確かめる」バリデーションではいろいろな種類の「確かめる」行為を実施する。それらの意味の違いを明確にしておこう(図解7.3)。qualifyは,設備等がプロトコールや仕様書通りであることを確かめて,「準備ができている」との資格を与えることである。一般的には「適格性を評価する」と日本語訳

「適格性評価とバリデーション」EU Guidelines Annex 15(2015):Qualification and Validation

●2015 年 10月1日には有効になる●目次 1. 組織と計画 2. 文書化(バリデーションマスタープランを含む) 3. 適格性評価…DQ, IQ, OQ, PQ 4. 再適格性評価 5. プロセスバリデーション *プロセスバリデーションの一般論 *コンカレントバリデーション *伝統的プロセスバリデーション *継続的プロセスベリフィケーション *複合手法 *ongoingプロセスベリフィケーション 6. 輸送ベリフィケーション 7. 包装バリデーション 8. ユーティリティの適格性評価 9. 試験方法バリデーション10. 洗浄バリデーション11. 変更管理

●記載項目および内容が詳しくなった…項目が8件から11件に,10ページから16ページに増えた

●プロセスバリデーションの内容および種類が変化した●予測的,回顧的,再バリデーションという用語が使われなくなった

●回顧的バリデーションは認められない●輸送ベリフィケーション,包装バリデーション,ユーティリティの適格性評価,試験法バリデーションという項目が追加された

EU GMP

適格性評価とバリデーション第7章

図解7.1

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する。qualifi cationは「適格性評価」である。設備,施設等のハードウエアばかりでなく,手順やプロセス等が手順書または工程書通りに実行できることを確かめるときにも「適格性を評価する」と表現する。verifyは,記録や文書で「何か」を確かめて,そのこと

を主張するときに使用する。「裏づける」が最も適した日本語訳である。最近,「ベリフィケーション」という日本語訳がよく使われるようになった。図解7.2のAnnex日本語訳では,verifi cationを「ベリフィケーション」または英語付きで「確認する」と翻訳した。verifyを,「意図をもって始めた記録をすべて検証したら何ら問題が発生しておらず,意図通りであった。ゆえに,今後も同じことが続けられるであろう」という,未来に向けた主張をするときにも使用する。「回顧的(retrospective action)」と似ているようで内容は異なる。回顧的は,別の意図を持って始めた作業のデータを,何らかの意図を持って収集し解析するのに対して,verifyは意図を持って始めた作業のデータを解析して,意図通りであったことを確かめるのである。上記のqualifyをするときの1つひとつの作業はverifyである。validateは「十分なデータ・考察+バリデーション検証

によって得られた結果から,今後も同じことが行える」とし,得られる製品の品質を保証することである。「バリデートする」と日本語訳する。Annex 15 2015年版には,以前から行われているバリデーション(予測的バリデーション)を伝統的バリデーションと呼び,新たな種類のバリデーションまたはその代替法が提供されている。バリデーションの特別な場合として,バリデーション

検証を数回に分けて実施し,バリデーション中に得た製造物を実使用するバリデーションが存在する。コンカレントバリデーションまたは同時的バリデーションと呼んでいる。患者に不利益が発生しないように,特別なケースとして認められる手法である。approve, ensure, assure, confi rmという「確かめる」行

為もバリデーションのなかで行う。それぞれ,承認する,間違いないと確約する,誰かに対して何かを保証する,本当だと確かめる,という意味の「確かめる」である。意味が少しずつ異なる。図解7.2のAnnex日本語訳では,違いを意識して翻訳した。「確かめる」等の単語が出てきたら,原英文と比較して意味を確かめていただきたい。

qualify

verify

validate

バリデーションで使用する「確かめる」

過去

十分なデータ・考察+バリデーション検証

コンカレントバリデーション数回に分けて検証

回顧的バリデーション

過去の記録書からデータ収集

バリデートする,検証する,確かめる

現在未来

(予測的)バリデーション

現在

verifyverification

裏づける,確かめる,実証する,証拠立てる,検証する

適格性を評価する,資格を与える,プロトコールや仕様書が実行されたことを確かめる

approve 承認する,確かめる,認可する

ensure 間違いないと確約する,保証する

assure 誰かに対して何かを保証する,確約する

confirm 本当だと確かめる,確立する

「何か」を

主張する

記録や文書で「何か」を裏づける

保証する

保証する

保証する

図解7.3

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● 118

に,プロトコールおよび報告書を作成,照査,承認しておかねばならない。次にプロセスバリデーションバッチを実施する。プロ

トコールに従って工程を運転する。原料はバッチごとに品質変動(設定範囲内で)する。工程も常に一定で運転できるわけではない。作業は人が行うのだから日々小変動する。つまり,工程および作業はバッチごとに変動する。製造,試験,文書,職員という取り巻く環境を一定にしても,工程・作業はバッチごとに変動する。これらが変動しても同じ結果(設定した品質の製品を得る)が得られることを証明するのがプロセスバリデーションバッチである。プロセスバリデーションには5種類ある。①は従来の

プロセスバリデーションで伝統的プロセスバリデーションと呼ぶ。重要パラメータ,重要品質特性,合格基準を設定し,3バッチ以上を実施する。②は継続的プロセスベリフィケーションである。中間

製品や最終製品の品質の高度管理道具(PAT等)およびデザインスペース等のデザインベース管理手法を確立した工程に適用できる。バリデーションではなく,得られた結果を裏づけ確認(verify)して「バリデートされた」とみなす。生物学的製剤や再生医療用の医薬品にも適用できるプロセスバリデーション手法といえる。③複合手法とは,伝統的プロセスバリデーションと継

続的プロセスベリフィケーションを複合させた手法である。いろいろなレベルで,難易度を組み合わせてプロセスバリデーションを実施できる。変更後のバリデーションとして便利に利用できるであろう。④のコンカレントバリデーションは,1バッチの実施に

多大な費用や時間がかかり,結果的に患者の不利益につながる製品に行うプロセスバリデーションである。特別な場合として認められる。数カ月または数年にわたって3バッチ以上を実施し,その結果を用いてバリデーションを行う。バリデーションバッチは,「商業用に使用する」ことをプロトコールに明記しておいて商業使用することができる。⑤のライフサイクルのなかで行うongoingプロセスベリフィケーションは,商業生産開始後に行う「継続的なプロセス確認」と言えるものである。期待通りの結果(目的の品質の製品を製造できた)を得る。しかも,連続3回以上行ってすべて同じ結果を得る。これなら,今後,同じ準備下で製造を繰り返しても同じ

照査

プロトコール

×

プロトコール通りの結果

(1.3, 2.1~2.9, 3.3, 5.14, 5.16, 5.17 項)

承認

②継続的プロセスベリフィケーション (Continuous process verification)

…(5.1~5.14, 5.23, 5.24 項)●デザインスペース,プロセス管理を確立して実施する(5.13項)●PAT等の高度管理道具,科学的管理手法を駆使する③複合手法(Hybrid approach)…(5.26, 5.27 項)●伝統的-と継続的-との複合手法●変更後のバリデーションにも使用できる④コンカレントバリデーション(Concurrent Validation)

5.16, 5.17 項⑤ライフサイクルのなかで行う ongoingプロセスベリフィケーション (Ongoing Process Verification during Lifecycle)

(5.28~5.32 項)

文書処理

今後も同じことが実行できるだろう!!

3 回以上

照査 承認照査 承認

文 書

図解7.6-2

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PIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイド第11章

PIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイド筆者訳

緒言(Introduction)

*本ガイドはEUの「ヒト用医薬品の流通ガイドライン,(2013/C343/01)4」を基にしている。GDP 専門家グループが EUガイドラインをPIC/S 用に改訂した。ただし,本ガイドではEUに固有の項目は除外している。

*PIC/Sは本ガイドをガイド文書に採用する。PIC/S 加盟の各規制当局は本ガイドを法令に結び付く基準として規定すること。

*医薬品の卸流通業務はサプライチェーン管理の重要な活動である。今日の医薬品流通網は複雑になり,多くの業者が関係している。これらのガイドラインは,卸流通業者の業務の遂行を助け,偽造医薬品が合法的なサプライチェーンに侵入してくるのを防ぐ手段を定めたものである。これらのガイドラインを遵守することで,流通チェーンが管理でき,医薬品の品質と完全性を保持できるであろう。*医薬品の卸流通業務には,医薬品の入手,保管,供給,輸入,輸出に係るすべての業務が含まれる。公衆に医薬品を提供する業務を含まない。卸流通業務は製造業者または保管業者,輸入業者,他の卸流通業者とともに行う。または薬剤師および医薬品を公衆に提供する資格のある者とともに行う。PIC/S 加盟の規制当局には,医薬品輸入業務にGMPが必要なところがある。製造業者許可が必要なところもある。*卸流通業者として業務を行うものはすべて,国の法令に従った卸流通業許可証を保有しなければならない(has to)。

*製造業許可証には当局による医薬品流通業許可を含んでいる。それゆえに,自社製品の医薬品の流通業務を行う製造業者はGDPを遵守しなければならない(must)。*「卸流通業務」の意味は,独立の卸業者とか特定の顧客エリア(例えば,自社の自由活動地域や自由に使用できる倉庫が存在する等)を有しているかどうかは関係ない。卸流通業者は卸流通業務(輸入,輸出,保管,供給等)に係る責務を全うすること。医薬品の流通に係る他の業者は,本ガイドラインの関係箇所を遵守すること。

*本ガイドで使用する用語の意味をAnnex 1に示した。

*以下のことを目的として本医薬品流通ガイドを定める。①医薬品の品質保証および流通過程の完全性を高く維持する②統一した医薬品の卸業許可を促進する③医薬品取引の障壁排除をより容易にする

*各国の厚生行政当局は,本基準の適用に向けて指導すること。そして,新または改訂卸流通法令は少なくとも本ガイドのレベルに合わせること。

卸流通業者が必要に応じて作成する具体的なルールのベースとして,これらの基準が助けとなることを目的としている。本ガイドの「原則」を実行するのに,このガイドに記載された内容より実施可能な手法が他にあると思う。本文書は査察受け入れの準備用のガイダンスを提供するものであり,たたき台として使用すればよい。

*本基準はヒト用の医薬品およびその類似製品に適用する。また,同様の注意を動物用医薬品の流通にも適用することを勧める。このガイドラインは治験用医薬品(IMP)にも適用することができる。*発出の時点において本文書は最新の技術を駆使して作成している。本ガイドで述べる内容と同等の品質保証および流通過程の完全性のレベルを確認できるものならよい。技術向上や優秀なものの追求を妨げるつもりはない。新概念や新技術の開発を遅らせたりするつもりもない。

1.1 原則(Principle)卸流通業者は,品質システムに自らの業務の責務,プロセス,リスクマネジメントの原則を定めて保持する。すべての流通活動を手順書に明確に規定し,それを組織的に照査する。流通の主要プロセスおよびそれらの大きな変更は内容の妥当性を評価し,時にはバリデーションを実施する。品質システムは組織マネジメントそのものであり,トップのリーダーシップおよび積極的な参加が必要である。さらに,職員の協力も必要である。

1.2 品質システム1.2.1 品質を管理するシステムには,組織,手順書,プロセス,実行

力が必要である。保管中および輸送中の出荷後製品がその品質と完全性を維持し,あらかじめ定めたサプライチェーンに存在することを確認する活動もシステムに必要である。

1.2.2 品質システムはすべてを文書化し,その有効性をモニターする。活動に係る品質システムを明確にして文書化する。品質マニュアルまたはその類似文書を身近に設置しておく。

1.2.3 経営者が品質システムの責任者を任命する。責任者は明確な権限を有し,品質システムが実行され維持されていることに責任を持つ。

1.2.4 流通業者の「マネジメント」とは,品質システムに関わるすべての部署に,能力のある職員,適切で十分な施設,設備,備品が備わっていることを保証することである。

1.2.5 品質システムを更新するまたは変更するときには,流通業者の業務量,業務構造,構成を考えに入れること。

1.2.6 変更管理システムが必要である。変更管理は品質リスクマネジメントと関係し,また連動し,効果を与えあっている。

目的(Purpose)

範囲(Scope)

第 1章 品質マネジメント

図解11.1-1

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PIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイド

187●

第11章

11.1 PIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイドと医薬品流通

PIC/S医薬品流通基準ガイドの筆者日本語訳を図解11.1に示す。本章ではPIC/Sの医薬品流通基準ガイド(PIC/S Guide to Good Distribution Practice for Medical Products)を紹介する(図解11.2)。PIC/Sが推薦する文書で,GMP文書ではない。医薬品製剤製造後の保管~医薬品顧客の手元までが範囲のガイドで,品質保証活動の一部である「流通」に関するものである。医薬品を取り扱うには必須のガイドといえる。医薬品卸売販売業者(医薬品卸業者)を含む「医薬品流通業者」用の医薬品取扱基準ということもできる。 「GDP」を日本語に翻訳するのは難しい。医薬品の適正流通規範,適切な流通基準,適正な物流に関する基準等と訳されているが,本稿では「医薬品流通基準」と訳す。ガイド末の用語解説によるとGDPは「品質保証活動の一部で,医薬品の品質がサプライチェーン全体で保持されていることを保証するための基準」である。本ガイドは2014年5月に公表され,2014年6月1日に

有効になった。2013年公表の同名のEUガイドラインをベースにしているが,EU特有の事項は削除されている。なお,EUでは同名のガイドラインの初版を1994年に公表しており,2013年版はその改訂版である。本ガイドはA4紙で27ページとボリュームがある。緒

言,目的から始まって全9章からなる。細かいことまで規定しており,本文も用語解説も難解である。その筆者日本語訳を図解11.1に示した。医薬品流通のなかで,医薬品流通業者と製造業者・製造販売業者はお互いに監視しあう関係にある。その監視の基準となるのが本ガイドである。GMPとGDPの内容は似ているところが多いが異なる箇所もある。本ガイドを大いに参考にしてほしい。

医薬品の流れ

医薬品流通業者

PIC/S Guide to Good Distribution Practice(GDP)for Medical Products

●PIC/Sが推薦する「医薬品流通」のガイド文書●2014 年 5月公表され,2014 年 6月1日に有効になった●EUガイドライン(2013 年 11月公表)がベース●「医薬品製造後の保管~顧客保管庫へ流通」が範囲…医薬品流通業者(卸売販売業者等)用の基準 医薬品製造販売業者にも必要な基準

●A4紙で27 ページ(用語解説 3ページを含む)のガイド

GDP:品質保証活動の一部で,医薬品の品質がサプライチェーン全体(製造業者のサイトから薬局,専門者,公衆に医薬品を提供できる資格者まで)で保持されていることを保証するための基準

PIC/S GDPガイドの用語解説より

文書履歴緒言目的範囲第 1章 品質マネジメント第 2章 職員第 3章 施設および設備第 4章 文書化第 5章 業務第 6章 苦情,返品,偽造医薬品,回収

第 7章 外部委託業務第 8章 自己点検第 9章 輸送Annex:用語解説

医薬品製造販売業者

病院,薬局等

職員輸送

自己点検

外部委託業務業務 苦情

返品偽造品回収

文書

施設・設備

PIC/S「GDP(           )ガイド」医薬品流通基準

医薬品製造業者

図解11.2

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PIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイド

189●

第11章

11.2 PIC/S GDPガイド

(1)緒言,目的,範囲

PIC/S GDPガイドの緒言,目的,範囲のポイントを図解11.4に示した。卸流通業務は医薬品にとって重要な業務である。品質

保証された医薬品が患者に届くには,製造業者から医師,薬剤関係者,薬局等に至るサプライチェーンが管理されていなければならない。このサプライチェーンを管理するためのガイドがGDP(医薬品流通基準)ガイドである。そして,PIC/S加盟国の卸業務を統一するために定められたGDPがPIC/S GDPガイドである。PIC/Sは,PIC/S加盟国の行政当局がPIC/S GDPの適用を指導することを求めている。医薬品の入手,保管,供給,輸入,輸出に係るすべて

の業務が卸流通業務である。ただし,患者に医薬品を提供する業務を含まない。卸売業許可を受けた卸流通業者ばかりでなく,製造販売業者等は卸流通業務を行うことができる。卸流通業務を行うときにはPIC/S GDPを遵守する。PIC/S GDPを遵守して,医薬品サプライチェーンを管

理し,医薬品の品質と完全性を保持し,偽造医薬品を排除する。PIC/S GDPの適用範囲はヒト用医薬品およびその類似

製品であるが,動物用医薬品の流通にも適用できる。治験用医薬品にも適用できるとしている。

(2)流通業者の品質マネジメント

医薬品流通における「品質」に係る用語の意味を確認しておこう(図解11.5)。これらの用語は,関係者全員が同じ理解をしている必要がある。機会を見つけて全員で学習しよう。本ガイドには「品質」という用語がしばしば登場する。

医薬品の品質というと,医薬品の品質規格,製造販売承認に含まれる品質事項,GMPを遵守して製造したという証拠が含まれる。これらの事項の1つでも外れると品質不良医薬品となる。流通業者は製造販売業者から医薬品の品質について詳

しく聞いて知っておく必要がある。適切な品質維持業務を行うためである。品質保証とは,医薬品の品質が所定の水準にあり,市

●医薬品卸流通業者および医薬品流通に係る業者はPIC/S GDPを遵守する*卸流通業務とは,医薬品の入手,保管,供給,輸入,輸出に係るすべての業務をいう*患者に医薬品を提供する業務を含まない

●PIC/S GDPガイドを遵守して,①医薬品サプライチェーンを管理する②医薬品の品質と完全性を保持する③偽造医薬品を排除する

●PIC/S 加盟国の行政当局はPIC/S GDPの適用を指導する●PIC/S GDPは,①ヒト用医薬品およびその類似製品に適用する②治験用医薬品にも適用できる

「緒言」,「目的」,「範囲」のポイントPIC/S GDP(医薬品流通基準)ガイド

図解11.4

「品質」に係る用語の意味医薬品流通における

品質:医薬品の品質には次の項目が含まれる(一般に)①品質規格(安全性,安定性を含む)②製造販売承認事項(包装,表示を含む)③GMPを遵守して製造したこと…流通業者は「医薬品の品質」を製造販売業者から詳しく聞いて知っておく

品質保証:医薬品の品質が所定の水準にあることを保証すること

品質システム=品質保証システム(品質保証体制):品質を維持して医薬品を流通させるシステム<品質システムと品質保証システムは同義語>

品質マネジメント:品質の保持を組織で証明すること

図解11.5

Page 11: GMP 001-010 1章 PIC/S GMP - jiho...PIC/S GMP ガイド 最新のEU GMPガイドラインを 取り入れて 11 2.1 品質に係る用語 医薬品品質システムを解説する前に,品質に係る用語

● 206

●規制当局がGMP査察に利用する文書●医薬品製造業者が作成する「自社のGMP紹介文書」 ・品質マネジメントポリシー ・品質業務,製造業務,品質管理業務 ・近隣の施設の業務 ・文書は定期的に照査し,更新する

●日本でも「サイトマスターファイル」が必要になった●PIC/Sから解説ノートが発出されている (直近改訂は2011 年 1月)●A4紙 25~30 ページ+添付資料●製剤,原薬,治験薬に適用する

Explanatory Note for Pharmaceutical Manufactures on the Preparation of a Site Master File

PIC/S「              」概要サイトマスターファイル

図解12.2

12.1 サイトマスターファイル日本がPIC/Sに加盟し「サイトマスターファイル」が必要

になった。規制当局による査察ばかりでなく,企業によるGMP監査時にも先方がサイトマスターファイルを要望する場合があると聞く。PIC/Sから発出されている解説ノート(Explanatory Note for Pharmaceutical Manufactures on the Preparation of a Site Master File)の筆者日本語訳を図解12.1に,図解12.2にその概要を示した。サイトマスターファイルは医薬品製造業者が作成す

る。サイトマスターファイルはGMP査察を行う規制当局が査察の計画立案および実施時に利用する文書である。当局が日ごろの製造業者管理にも利用するという。サイトマスターファイルとは「自社のGMP紹介文書」である。品質マネジメントポリシー,業務,製造業務,品質管理業務,近隣の施設の業務について記載する。A4紙で25~30ページ+添付資料というボリュームで

作成する。文書形式より,シンプルな図面,箇条書き,図解レイアウトが望まれる。サイトマスターファイルにはバージョン番号を付け,

使用開始日を記入する。定期的に照査し,常に最新の内容が記載されているように更新する。サイトマスターファイルの概念は製剤製造業者ばかりでなく,原薬製造業者にも治験薬製造業者にも適用するとしている。本ノートに沿ったサイトマスターファイルが作成され

ていたら,規制当局も外部企業もGMP査察や監査をするときに当該業者のGMPを理解するのが容易になると思う。事前に読んでいれば,すぐに「GMP」の話を開始でき,査察や監査の実効性が上がり,時間と労力が短縮できる。当該業者も自社の説明が簡略化でき,より有効な査察または監査の受け入れができる。両者にとってたいへん有効な文書である。ぜひ整ったサイトマスターファイルを作成しておくことを勧める。