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GL 2 に対する Gross-Zagier 2009 11 1 はじめに ノート Xinyi Yuan, Shou-wu Zhang, Wei Zhang 3 による F GL 2 に対する Gross-Zagier [YZZb] するこ ある。こ ある Gross-Zagier されているが、 題を らかにする ためにそ してみよう。 ある Γ 0 (N ) に対する ェイト 2 楕円カスプ f (z ) E/Q イデアル χ ある。 ちろん f (z ) Hecke ある しており、 E/Q N を割ら する。X 0 (N ) Jacobi 体を J 0 (N ) く。E x X 0 (N ) E O E する き、 E に対する Heegner れる。Heegner E Hilbert H E されてお り、x GL 2 (Q)R × + \GL 2 (A Q )/K 0 (N ) した Gal(H E /E) それらに rec H E /E して E イデアル による して する。そこ Heegner x に対する 0 (x) () J 0 (N )(H E ) [x] N き、 c χ := 1 h E X τ Gal(H E /E) χ(rec 1 H E /E (τ ))τ ([x] N ) J 0 (N )(H E ) Z C おく。ここ h E E ある。一 Heegner Hecke ており、c χ Hecke f (z ) する c χ,f す。 Hecke χ Hecke によって ェイト 1 カスプ f χ されている。f 大学大学院 メール : [email protected] ホームページ : http://knmac.math.kyushu-u.ac.jp/konno/ およびコメント ありましたら、 メールアドレスま さい。 1

GL の保型表現に対する Gross-Zagier 公式chida/Gross-Zagier/Konno.pdf · もこの公式を用いる。ついでGross-Zagier 公式の定式化と証明の雛形となるWaldspurger

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GL2 の保型表現に対する Gross-Zagier公式

今野拓也∗

2009年 11月 1日

はじめに

このノートの目的は Xinyi Yuan, Shou-wu Zhang, Wei Zhangの 3人による総実体 F 上

の GL2 の保型表現に対する Gross-Zagier公式の証明 [YZZb]を紹介することである。こ

の報告集には原典である Gross-Zagier の公式が解説されているが、問題を明らかにする

ためにその結果を簡単に思い出してみよう。

登場人物はある Γ0(N)に対するウェイト 2の楕円カスプ新形式 f(z)と虚二次体 E/Qのイデアル類群の指標 χ である。もちろん f(z) は Hecke 固有形式であるとしており、

E/Q で惰性的な素数は N を割らないと仮定する。X0(N) の Jacobi 多様体を J0(N) と

書く。E で虚数乗法を持つ点 x ∈ X0(N)は E の整数環 OE を自己準同型環とするとき、

E に対する Heegner点と呼ばれる。Heegner点は E の Hilbert類体 HE 上定義されてお

り、x ∈ GL2(Q)R×+\GL2(AQ)/K0(N)と同一視したとき Gal(HE/E)はそれらに類体論

の相互律射 recHE/E を経由して E のイデアル類群による乗法として作用する。そこで

Heegner点 xに対する次数 0因子 (x) − (∞)の J0(N)(HE)での像を [x]N と書き、

cχ :=1

hE

∑τ∈Gal(HE/E)

χ(rec−1HE/E(τ))τ([x]N ) ∈ J0(N)(HE) ⊗Z C

とおく。ここで hE は E の類数である。一方、Heegner点の集合には Hecke環も作用し

ており、cχ の Hecke環が f(z)と同じ固有値で作用する成分を cχ,f で表す。虚二次体の

Hecke 指標 χ には Hecke によってウェイト 1 のカスプ形式 fχ が構成されている。f と

∗ 九州大学大学院数理学研究院メール : [email protected]ホームページ : http://knmac.math.kyushu-u.ac.jp/konno/訂正およびコメントなどありましたら、上記の電子メールアドレスまでお寄せ下さい。

1

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fχ の Rankin-Selberg積 L函数を L(s, f, χ)と書く。このとき Gross-Zagierの公式は

L′(1, f, χ) =8π2∥f∥2

hE |DE/Q|1/2h(cχ,f ) (0.1)

で与えられる。ここで s = 1は L(s, f, χ)の函数等式の中心であり、∥f∥2 は f(z)とそれ

自身の Petersson内積、DE/Q は E の判別式である。また h(·)は J0(N)上の Neron-Tate

の高さである。

ここで Gross-Zagier の結果は彼らの設定では最良のものであることに注意しよう。実

際、Heegner点に限定する限り χは至るところ不分岐でなくてはならず、また Zagierに

よる L′(1, f, χ)の計算法は N と DE/Q が互いに素な場合にしか使えない。Heegner点で

あることは Grossの局所高さ函数の計算に不可欠な条件であったことを思い出そう。すな

わち楕円保型形式の場合であっても Gross-Zagier公式の拡張には、高さ函数および L函

数の微分値双方で新しいアイディアが必要であった。

S.-W. Zhangは f(z)を総実体 F 上の Hilbert保型形式に、X0(N)を F 上の四元数環の

乗法群に付随する志村曲線 XK に拡張した状況での Gross-Zagier公式の確立を進めてき

た。(これは F = Qの場合でも CM点や χ, f(z)の分岐に関する制限を外すことを意味す

る。)彼はまず Neron-Tateの高さペアリングを Arakelov幾何を用いて数論的交叉ペアリ

ングに帰着した ([Zha92], [Zha01b])。これにより数論的交叉ペアリングの分解に現れる局

所 Green函数を計算すればよいことになる。ただしレベルが深い素点では局所 Green函

数は具体的に計算できず、漸近挙動が調べられるだけである。また数論的交叉ペアリング

は自己交叉の寄与を書くことができない。

一方の L函数の微分値では新形式のゼータ積分を考えていては Gross-Zagierの場合し

か扱えないため、条件を弱めた準新形式を導入している [Zha01a]。これにより L函数の

微分値を準新形式のゼータ積分の微分として記述したが、ここでも具体的に書けない項が

いくつか現れる。これら幾何、保型両サイドの決定不可能な項は、Waldspurger-Tunnell-

齋藤の局所周期の消滅定理 (1節参照)から寄与がないことを示すのが、[Zha01a]のメイン

トリックである。こうして Zhangは χの導手 f(χ)と E/F の判別式が DE/F が互いに素

で、f(χ)DE/F を割る素点 v で Hilbert保型表現 π が不分岐かスペシャル表現 (Steinberg

表現)の場合に Gross-Zagier公式を拡張した。

この最後の保型形式の分岐の条件は本質的である。実際この条件がなしでは L(s, π, χ)

は複数のゼータ積分の和としてしか書けず、(0.1)の形の公式自体が意味をなさない。そこ

でこのノートで紹介する Yuan-Zhang-Zhangのプレプリントでは Rankin-Selberg積 L函

数の中心値を CM 周期で表す Waldspurger の公式 [Wal85] に倣った新たな Gross-Zagier

2

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公式の定式化を与え、それを証明している。その詳細は技術的なので本文に譲るが、証明

の方法もWaldspurgerの公式の証明に倣うためにWeil表現 (テータ対応)を系統的に用い

ることになる。

このノートの構成は以下の通りである。まず 1 節では Waldspurger の公式と Gross-

Zagier 公式の場合を分ける局所条件を与える齋藤・Tunnell の公式を復習する。前作

[Zha01a] の場合と同様に、証明の最後に計算不可能な項の寄与が消えることを示す際に

もこの公式を用いる。ついで Gross-Zagier公式の定式化と証明の雛形となるWaldspurger

の公式とその証明を解説する (2節)。これを踏まえて 3節でようやく Gross-Zagier公式が

定式化できる。続く 4節では Hilbert保型形式と Petersson内積を取ると L函数の微分値

と局所項の積をはじき出すスペクトル核函数を計算する。Leibnitzルールによりスペクト

ル核函数は Euler積を 1つの素点 v の成分だけ微分した局所項たちの和に書ける。この局

所項たちの計算が同説の主結果である。次に CMサイクルの Neron-Tate高さペアリング

の法を考察する。Hilbert保型形式との内積が Neron-Tate高さペアリングを与える Height

核函数は 5節で、部分テータ級数に Hecke対応をかませて構成される。次にこの核函数を

局所項の和に書くため、数論的曲面上の数論的交叉を復習する (5.2節)。特に Neron-Tate

高さペアリングを数論的交叉ペアリングで表す Hodge の指数定理が重要である*1。これ

により幾何核函数を数論的交叉ペアリングで書くことによりそれを局所項の和に分解でき

る。局所項、ないし局所 Green函数は幾何的交叉数からなる i部分と、スペシャルファイ

バーでの還元の悪さを量る j 部分からなる。続く 6節ではこの局所 i函数を計算し、それ

をスペクトル核函数の局所項と比較する。最後に 7節でこれらの結果を使ってスペクトル

核函数と height核函数を比較し、Gross-Zagier公式の証明を完成する。段落の最初で触れ

たように両核函数の差は計算できないがある種の保型形式であることが示され、それらの

寄与は齋藤・Tunnellの公式により消えることが保証される。

ひとこと この原稿ではもともと東北大学での「Heegner点と Gross-Zagier公式の勉強

会」でお話しした [Zha01a]の内容についての概説をする予定であった。私は同勉強会に

飛行機の都合で半日遅れで 1日目の午後から参加したのだが、着いてみるとなぜか午前中

の講演が行われていた。その後も勉強会はプログラムに縛られないワイルドな進行を見せ

たが、そうした奔流のような勉強会を成し遂げた千田雅隆、山内卓也、石川佳弘さん始め

参加者の皆さんのバイタリティにはただただ圧倒された。また安田正大さんは講演に、コ

*1 Hodgeの指数定理は交叉ペアリングの実対称双線型形式としての符号数を与える定理で、ここで用いるのは Faltings によるその数論的曲面版である。我々には数論的交叉ペアリングの符号数ではなく、それがNeron-Tate高さと結びつくという Faltings, Hriljacの主張の方である。

3

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メントに、独り (聴衆無し) 講演と八面六臂の大活躍を見せていてこちらもいつもながら

感謝、感心させられた。

報告集に関しては私はあまり書く気が起こらずうっちゃっていたのだが、今年の春にプ

レプリント [YZZb]を見て非常に面白く感じたため、これを紹介しようと考えた。ところ

がこの前期は記録的に忙しかったため、8月半ばまでほとんど自分の時間が取れない日々

が続いた。執筆をあきらめようかと考えていたところ、親切な千田さんは 9月 15日まで

締め切りを引き延ばしてくださった。しかしこの 9月はこれまた多忙であったため、結局

タイトルの下にある日付にようやく完成を見ることになった。飴と鞭で執筆を支えてくだ

さった千田雅隆さんに改めて感謝したい。

目次

1 齋藤・Tunnellの公式 5

2 Waldspurgerの公式 6

2.1 Weil表現とテータリフト . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.2 Petersson双対性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 13

2.3 周期積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

3 Gross-Zagier公式 24

4 スペクトル核函数 27

4.1 準備的考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

4.2 積分範囲の変形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

4.3 Eisenstein級数の微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

4.4 局所項の計算 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34

4.5 整型射影 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 41

5 Height核函数 45

5.1 高さを与える級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 46

5.2 数論的交叉 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 48

5.3 高さペアリングの分解 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52

6 局所項の比較 55

4

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6.1 アルキメデス的な場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 56

6.2 通常的な場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 59

6.3 超特異的な場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 64

6.4 超スペシャルな場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68

7 最終比較—定理 3.1の証明 70

7.1 擬テータ級数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 70

7.2 Gross-Zagier公式の証明 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 72

1 齋藤・Tunnellの公式

F を代数体、g := [F : Q]として F のアデール環を A = AF と書く。F 代数群 GL2,F

を G∗ と書き、G∗(A) の既約カスプ保型表現 π ≅⊗

v πv を取る。2 次拡大 E/F を止

めて E のアデール環などは AE などと E を添字にして表すほか、F の素点 v に対し

て Ev := E ⊗F Fv などと書く。Galois 群 Gal(E/F ) の生成元 σ は G∗(AE) の保型表

現 Πに σ(Π) := Π σ−1 と作用する。Langlandsにより π のベースチェンジリフトと呼

ばれる G∗(AE) の既約保型表現 πE ≅⊗

v πEv が得られており、これは σ(πE) ≅ πE ,

ωπE= ωπ NE/F を満たす ([Lan80], [今野 06] も参照)。ただし ωπ は π の中心指標で

ある。

E のイデール類指標 χ : A×E/E× → C1 で

χ|A× = ω−1 (1.1)

を満たすものを固定する。すると G∗(AE) のカスプ保型表現 Π := χ(det) ⊗ πE は

Π∨ ≅ ω−1Π (det) ⊗ Π ≅ σ(χ)(det) ⊗ πE ≅ σ(χ(det) ⊗ πE) = σ(Π)を満たし、L函数は

Galois不変だから、Πの標準 L函数

L(s, π, χ) := L(s,Π), ε(s, π, χ) := ε(s,Π)

の函数等式はL(s, π, χ) = ε(s, π, χ)L(1 − s, π, χ) (1.2)

となる。A/F の非自明指標 ψ =⊗

v ψv を固定して、上の L, ε 函数の F 上の Euler 積

5

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展開

L(s, π, χ) =∏v

L(s, πv, χv), ε(s, π, χ) =∏v

ε(s, πv, χv, ψv),

L(s, πv, χv) :=∏w|v

L(s,Πw), ε(s, πv, χv, ψv) :=∏w|v

ε(s,Πw, ψEw)

を考える。ただし ψEw := ψv TrEw/Fvと書いている。再び ε因子の Galois不変性から

ε(1/2, πv, χv, ψv)2 = ε(1/2, Πv, ψE,v)ε(1/2, σ(Πv), ψE,v)

= ε(1/2, Πv, ψE,v)ε(1/2, Π∨v , ψE,v) = ωΠv (−1) = 1

ゆえ ε(1/2, πv, χv, ψv) = ±1である。

さて、Fv 上の中心的四元数環Bv を取り、その乗法群B×v を Fv 代数群と見たものを

Gv と書く。これは G∗v の内部形式だから πv の G(Fv) での局所 Jacquet-Langlands 対応

と呼ばれる G(Fv)の既約ユニタリ表現 πBv がある [JL70]。ただしBv が斜体で πv が二

乗可積分表現 (L2(G∗(Fv))の部分表現)でない場合は πBv = 0とする。G(Fv)共役を除

いて一意な単射準同型 jT : ResEv/FvGm → Gv を固定し、その像を T と書く。

事実 1.1 ([Sai93]+[Pra90]). χv を jT により T (Fv)の指標と見なす。

(i) dimHomE×v

(πBv |T (Fv), χ−1v ) ≤ 1;

(ii) dimHomE×v

(πBv |T (Fv), χ−1v ) = 1であるためには、

ε(1/2, πv, χv, ψv) = (−1)2invBvχv(−1)

が必要十分。

この結果を受けて ε(1/2, πv, χv, ψv) = χv(−1)なる F の素点 v の集合を Sπ,χ と書く。

積公式から

ε(1/2, π, χ) =∏

v∈Sπ,χ

−χv(−1)∏

v/∈Sπ,χ

χv(−1) = (−1)|Sπ,χ|

である。特に函数等式 (1.2)から |Sπ,χ|が奇数なら L(1/2, π, χ) = 0である。

2 Waldspurgerの公式

この節では |Sπ,χ|が偶数の場合を考える。すると F 上の中心的四元数環Bでその分岐

素点が Sπ,χ であるものが取れる。B× を F 代数群と見たものを G,その中心を Z ≅ Gm

6

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と書く。Sπ,χの定義と齋藤・Tunnellの公式から、πB :=⊗

v πB,v は消えておらず、G(A)

のカスプ保型表現になる [JL70]。その保型形式の空間での実現を A(πB)と書こう。また

単射準同型 jT : ResE/F Gm → Gがあるので、その像として定まる Gの極大トーラスを

T と書く。事実 1.1から HomT (A)(πB|T (A), χ−1) ≅ Cだが、その元であるχ周期積分

Pχ(ϕ) :=∫

T (F )Z(A)\T (A)

ϕ(t)χ(t)dt

dz, ϕ ∈ A(πB)

を考える。ここで dt/dz は T (A)/Z(A)上の正規化していない玉河測度を表す。(2.1節の

事実 1.1の直前で止めているもの。玉河測度については [今野]を参照。)

πB の反傾表現は π∨B = ω−1

π νB ⊗ πB で与えられる。ただし νB : G → Gm はB の

被約ノルムである。A(πB) と A(π∨B) の間の G(A)/Z(A) 上の玉河測度 dg/dz に関する

双対性を

⟨ϕ,ϕ∨⟩G :=∫

G(F )Z(A)\G(A)

ϕ(g)ϕ∨(g)dg

dz

と書く。制限テンソル積分解 A(πB) ≅⊗

v (πBv ,VBv ), A(π∨B) ≅

⊗v (π∨

Bv,V∨

Bv) の v

成分上の G(Fv) 不変双対性 ⟨ , ⟩v を、ϕ, ϕ∨ がそれぞれ⊗

v ϕv ∈⊗

v VBv ,⊗

v ϕ∨v ∈⊗

v V∨Bvに対応するとき

⟨ϕ,ϕ∨⟩G =∏v

⟨ϕv, ϕ∨v ⟩v

が成り立つように選ぶ。これを使って πBv の行列成分 fϕv,ϕ∨v(g) := ⟨πBv (g)ϕv, ϕ∨

v ⟩ および、その正規化された局所 χv 周期

αχv (ϕv, ϕ∨v ) :=

L(1, ωEv/Fv)L(1, πv, Ad)

ζFv (2)L(1/2, πv, χv)

∫T (Fv)/Z(Fv)

fϕv,ϕ∨v(t)χv(t)

dt

dz

を導入する。ここで ωE/F =⊗

v ωEv/Fv: A×/F×NE/F (A×

E) → ±1 は E/F に

類体論で対応する 2 次指標であり、L(s, π, Ad) は Gelbart-Jacquet により定義された

随伴平方 L函数である [GJ78]。

7

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定理 2.1 ([Wal85]). ϕ ∈ A(πB), ϕ∨ ∈ A(π∨B)が

⊗v ϕv ∈ VBv ,

⊗v ϕ∨

v ∈ V∨Bvに移ると

する。

(i) Peterssonペアリングの Euler積展開 ⟨ϕ,ϕ∨⟩G =∏

v ⟨ϕv, ϕ∨v ⟩v を適当に取れば、有限

個を除く全ての非アルキメデス素点で αχv (ϕv, ϕ∨v ) = 1とできる。特に

∏v αχv (ϕv, ϕ∨

v )

は収束 Euler積である。

(ii)次の等式が成り立つ。

Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) =ζF (2)L(1/2, π, χ)

2L(1, π, Ad)

∏v

αχv (ϕv, ϕ∨v ).

この定理は直交群上の保型形式の周期に関する Gross-Prasadの予想 [GP92]の池田・市

野による精密化 [II]の出発点となった例である。一方、Waldspurgerの公式とGross-Zagier

の公式を統一的に見る試みは Gross自身によっても進められており [Gro04]、その成果の

一つとして Gross-Prasad予想を生み出したと推測される。Yuan-Zhang-Zhangのプレプリ

ント [YZZb]ではこのプログラムが実行されており、Gross-Zagier公式の証明でも上の定

理の証明とパラレルな議論を行う。そこでこの節の残りでは Waldspurger の公式の証明

をもう少し詳しく説明することにする。まずは必要となる Weil表現とテータリフトに関

する事項をざっと復習する。なお、私の手元の [YZZb]では相似群のWeil表現の空間や

Eisenstein級数の使い方の細部が [Wal85]と異なっているが、それでは証明に現れるいく

つかの無限和が発散してしまうためWaldspurgerの正確な記述の方に従うことにする。

2.1 Weil表現とテータリフト

ここでは記号を簡略化するため、一時的に F を標数が 2 でない局所体とする。(V,Q)

を F 上の n次元 2次空間とする。その等距線型変換の群を V の直交群と呼んで O(V )と

書く。SL2(F )はメタプレクティク被覆と呼ばれる同型を除いてただ一つの非自明な二重

被覆 1 → µµ2 → SL2(F ) → SL2(F ) → 1を持つ。ここでは SL2(F )を SL2(F ) × µµ2 に演

算を(g1, ϵ1)(g2, ϵ2) = (g1g2, ϵ1ϵ2c(g1, g2)), gi ∈ SL2(F ), ϵi = ±1

8

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と定めたものとして実現する。ただし F の Hilbert記号を ( , )F として

c(g1, g2) := (d(g1g2),−d(g1)d(g2))F (d(g1), d(g2))F

d(g) :=

a c = 0のときc それ以外のとき

g =(

a bc d

)は久保田の 2コサイクルである。

非自明指標 ψ を止めるごとに、O(V ) × SL2(F ) のWeil 表現 (ωV,ψ,S(V )) が定まる。

ここではWeil表現が明示公式

ωV,ψ(g)Φ(v) =Φ(g−1.v), g ∈ O(V )

ωV,ψ

((a 00 a−1

), ϵ

)Φ(v) =ϵnχV (a)|a|n/2

F Φ(v.a),

ωV,ψ

((1 b0 1

), ϵ

)=ϵnψ

(bQ(v)

2

)Φ(v),

ωV,ψ

((0 −11 0

), ϵ

)Φ(v) =

ϵn

γψ(V )FV Φ(−v).

(2.1)

で特徴付けられていることだけを注意しておく。ただし γψ(V )は 2次空間 V のWeil定

数と呼ばれる 1の 8乗根で、χV (a) := γψ(V )/γψ(aV )と書いている。また

FV Φ(v) =∫

V

Φ(u)ψ((v, u)Q) du

は自己双対測度に関する Fourier 変換である。上三角 Borel 部分群 B′(F ) ⊂ SL2(F ) の

SL2(F )での逆像を B′(F )と書く。Weil定数と Hilbert記号 ( , )F の関係式

γψ(1)γψ(xy)γψ(x)γψ(y)

= (x, y)F

と久保田の 2コサイクルの式から

χψ : B′(F ) ∋((

a b0 a−1

), ϵ

)7−→ ϵ

γψ(1)γψ(a)

∈ C1

は定義可能な指標である。これから χV ((

a b0 a−1

), ϵ) := ϵnχV (a)も B′(F )の指標である

ことに注意しておく。

次に (V, ( , ))の相似変換群を

GO(V ) := g ∈ GLF (V ) |Q(g.v) = νV (g)Q(v), ∃νV (g) ∈ Gm

9

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と書く。V が偶数次元のときには、上の Weil 表現は GO(V ) × GL2(F ) の表現

(ωV,ψ,S(V × F×))に次のように延びる。

ωV,ψ(g)Φ(v; t) =Φ(g−1.v; νV (g)t), g ∈ GO(V ),

ωV,ψ(g′)Φ(v; t) =ωtV,ψ(g′)Φ(v; t), g′ ∈ SL2(F ),

ωV,ψ

((a 00 d

))Φ(v; t) =

γψ((t/ad)V )γψ((t/d)V )

∣∣∣ad

∣∣∣n/4

(av;

t

ad

).

(2.2)

F がアルキメデス的な場合には (ωV,ψ,S(V × F×))の Harish-Chandra加群を使うことに

なるが、以下ではこの点は無視することにする。

さて F が代数体の場合に戻り、やはり (V,Q) を F 上の n 次元 2 次空間とする。

非アルキメデス素点 v では Fv の極大コンパクト部分環を Ov と書く。2 を割らない

有限素点 v では極大コンパクト部分群 SL2(Ov) を SL2(Fv) の部分群と見なせて、そ

れに関する制限直積∏

v SL2(Fv) が考えられる。アデール群のメタプレクティク被覆

1 → µµ2 → SL2(A) → SL2(A) → 1を

SL2(A) :=∏v

SL2(Fv)/

(ϵv)v ∈⊕

v

µµ2 |∏v

ϵv = 1

と定義する。各素点 v での局所 Weil 表現 (ωVv,ψv ,S(Vv)) の制限テンソル積として

O(VA) × SL2(A)のWeil表現 (ωV,ψ,S(VA))が定まる。Φ ∈ S(VA)に付随するテータ核

函数をθΦ(g, g′) =

∑(ξ,γ)∈V

ωV,ψ(g, g′)Φ(ξ), g ∈ O(VA), g′ ∈ SL2(A)

と定義する。これは絶対収束して、Φ がよい無限成分を持つときには O(V )\O(VA) ×SL2(F )\SL2(A)上の保型形式を定める。これを積分核としてテータリフトを作るわけだ

が、特に直交群上の定数函数のテータリフトを Eisenstein級数で表すのが Siegel-Weilの

公式である。

Siegel-Weilの公式 我々の目的には n = 2, 3の (V,Q)に対する Siegel-Weil公式が必

要である。

(A) (E, 2NE/F )で O(E)は SO(E) := ker(NE/F : ResE/F Gm → Gm)の Gal(E/F )

による半直積。SO(V )E 上の不変微分形式 ωU(1) と書けば、それと ψv に付随して

SO(V, Fv)上の不変測度 |ωU(1)|v が定まる。SO(VA)上の不変測度 dg を

dg :=∏v

dgv, dgv := L(1, ωEv/Fv)|ωU(1)|v

10

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と選ぶ。すると SO(V )\SO(VA)の測度は玉河数 τ(SO(V )) = 2の L(1, ωE/F ) 倍

である。

(B) (V,Q) := (B0 := kerτB, 2νB)とすれば、G/Z ∋ g 7→ Ad(g) ∈ SO(V )でO(V ) ∼=G/Zo⟨ι⟩である。ただしBの主対合 ι = ιBはG/Zに g 7→ g−ι := (gι)−1で作用

する。SO(V )上の不変微分形式 ωGad を取れば、これと ψv に付随する SO(V, Fv)

上の不変測度 dgv := |ωGad |v が定まる。なおBv ≅ M2(Fv)で ψv の位数が 0であ

る非アルキメデス素点 v では∫SO(V,Ov)

dgv = ζFv (2)−1 が成り立つ。SO(VA) 上

の測度としては玉河測度 dg :=∏

v dgv を採用する。すると SO(V )\SO(VA)の測

度は玉河数 τ(SO(V )) = 2である。

B = T0U ⊂ G∗ を上三角 Borel部分群とし、B′ = T ′0U := B ∩ SL(2)を思い出す。極

大コンパクト部分群K =∏

v Kv ⊂ G∗(A)を [今野 09, 1.4]の通りとすれば、岩澤分解

G∗(A) = B(A)K が成り立つ。これを使って

hB : G∗(A) ∋ g =(

a b0 d

)k 7−→

∣∣∣ad

∣∣∣1/2

A∈ R×

+

((

a b0 d

)∈ B(A), k ∈ K)と定める。(2.1)から分かる通り Φ ∈ S(VA)に対して

fΦ(s, (g, ϵ)) := hB(g)s+1−n/2ωV,ψ(g, ϵ)Φ(0), (g, ϵ) ∈ SL2(A)

は大域的な放物型誘導表現 indfSL2(A)eB′(A)

(χV | |sA ⊗ 1U(A))の元である。よいアルキメデス成

分を持つ Φに対しては、これを使って Eisenstein級数の::::変形 (γgではなく γ での fΦ の値

を使っている)

E(fΦ, s, g) :=∑

γ∈B′(F )\SL2(F )

(n

2− 1, γ

)hB(γg)s+1−n/2, g ∈ SL2(A)

を定義する。これは ℜs > 1で絶対収束して s ∈ Cの有理型函数に延び、s = n/2 − 1の

ときだけ SL2(F )\SL2(A)上の保型形式になっている。

11

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事実 2.2 (Siegel-Weil公式). よいアルキメデス成分を持つ Φ ∈ S(VA)に対して

I(Φ, g′) :=∫

SO(V )\SO(VA)

θΦ(g, g′) dg, g′ ∈ SL2(A)

とおけば、

I(Φ, 1) = E(fΦ,

n

2− 1, g′

L(1, ωE/F ) (A)のとき2 = τ(SO(V )) (B)のとき

が成り立つ。右辺は g′ によらず fΦ(s)に付随する Eisenstein級数の g′ = 1での値になっ

ている。

最後に n = dimF V が偶数の場合には、(2.2)で与えられる (ωVv,ψv ,S(Vv × F×v ))たち

の制限テンソル積として GO(VA) × G∗(A) の Weil 表現 (ωV,ψ,S(VA × A×)) が定まる。

やはり Φ ∈ S(VA × A×)に付随するテータ核函数を

θΦ(g, g′) =∑

(ξ,γ)∈V ×F×

ωV,ψ(g, g′)Φ(ξ, γ)

と定める。

清水対応 特に (V,Q) := (B, 2νB) の場合を考えよう。このとき GO(V ) の単位元の

連結成分 GSO(V )は同型

j : G × G/∆Z ∋ (g1, g2) 7−→ (x 7→ g1xg−12 ) ∈ GSO(V )

で与えられる。ただし∆Z は対角埋め込み∆ : G → G × Gによる Gの中心 Z の像であ

る。GO(V ) = GSO(V ) o ⟨ι⟩であり、ιは GSO(V )に j(g1, g2) 7→ j(g−ι2 , g−ι

1 )と作用す

る。G∗(A)の不変測度 dg′ を一つ固定し、φ ∈ A(π)に対して

θΦ(φ, g) :=∫

G∗(F )\G∗(A)

ϕ(g′)θΦ(g, g′) dg′, g ∈ GO(VA)

とおき、θΦ(ϕ) |Φ ∈ S(VA × A×), φ ∈ A(π) の張る GO(VA) 上の保型形式の空間を

θ(π, V )と書く。

事実 2.3 (清水対応 [Shi72]). θ(π, V ) の GSO(VA) への制限は j∗θ(π, V ) = A(πB) £A(π∨

B)で与えられる。

12

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2.2 Petersson双対性

上の事実を用いて ⟨ϕ,ϕ∨⟩ =∏

v ⟨ϕv, ϕ∨v ⟩v , (ϕ ∈ A(πB), ϕ∨ ∈ A(π∨

B))を計算しよう。

事実 2.3からある φ ∈ A(π), Φ ∈ S(VA × A×)に対して

θΦ(φ, j(g1, g2)) = ϕ(g1) £ ϕ∨(g2), gi ∈ G(A) (2.3)

であるとしてよい。対角部分群 ∆G/Z ⊂ G × G/∆Z ≅ GSO(V )は 2次空間の直和分解

(V,Q) = (V1, Q1) ⊕ (V2, Q2), (V1, Q1) := (B0, 2νB), (V2, Q2) := (F, 2)

に対する部分群 SO(V1) (×SO(V2))にほかならない。

計算のおおざっぱな仕組みは次のようである。求める Peterssonペアリングは θΦ(φ)の

対角部分群 ∆G/Z ⊂ G × G/∆Z 上の積分だが、それはシーソーデュアルペア

×SO(V)

SO(V )×SO(V ) SL(2)

SL(2) SL(2)

1 2

に関するシーソー双対性から

⟨ϕ, ϕ∨⟩G = ⟨θΦ(φ),1⟩SO(V1)×SO(V2) = ⟨φ, θΦB0 (1SO(V1)) ⊗ θΦF(1SO(V2))⟩

と書ける。一方 Siegel-Weil 公式から θΦB0 (1SO(B0)) は SL2(A) 上の Eisenstein 級数、

θΦF(1SO(F ))は 1変数テータ級数だから、それらとカスプ形式 φをかけたものの積分は

志村による L(s, π, Ad) の積分表示である [GJ78]。よってこの右辺は L(1, π, Ad)/ζF (2)

と局所項の収束する Euler積となるわけである。

実際の計算は SL(2)と GL(2)の差や収束の問題から少し複雑になる。まず

⟨ϕ, ϕ∨⟩G =∫

G(F )Z(A)\G(A)

θΦ(φ, j(g, g))dg

dz

=∫

SO(V1)\SO(V1,A)

∫G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)θΦ(g, g′) dg′dg

積分順序の交換 (シーソー双対性)を使って

=∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∫

SO(V1)\SO(V1,A)

∑ξ∈V

α∈F×

ωV,ψ(g, g′)Φ(ξ; α) dgdg′

13

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である。ここで ωV,ψ(g′)Φ(v1, v2; α) = Φ1,g′(v1; α) ⊗ Φ2,g′(v2; α), (Φi,g′ ∈ S(Vi,A, A×))

と書けるとしてよい。すると右辺のテータ級数は∑α∈F×

∑(ξ1,ξ2)∈V1⊕V2

ωV1,ψα(g)Φ1,g′(ξ1; α)Φ2,g′(ξ2; α)

=∑

α∈F×

(θΦ1,g′ (α)(g)

∑ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2; α))

となるので、Siegel-Weil公式 (事実 2.2 (B))を使って

⟨ϕ,ϕ∨⟩G =∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

α∈F×

∫SO(V1)\SO(V1,A)

θΦ1,g′ (α)(g) dg

×∑

ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2; α) dg′

=2∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

α∈F×

E(fΦ1,g′ (α),

12, 1

) ∑ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2;α) dg′

を得る。そこで一般に s ∈ Cに対して

B(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)

:= 2∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

α∈F×

(E

(fΦ1,g′ (α), s +

12, g′

) ∑ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2;α))

dg′

とおく。これは ℜs ≫ 0で絶対収束することが知られている。

そこでまず ℜsが十分大きいとして上を計算しよう。Eisenstein級数が絶対収束してい

るので右辺の括弧内は

E(fΦ1,g′ (α), s +

12, 1

) ∑ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2; α)

=∑

γ∈B′(F )\SL2(F )

ωV1,ψα(γ)Φ1,g′(0;α)hB(γg′)s∑

ξ2∈V2

Φ2,g′(ξ2; α)

テータ級数 θΦ2,g′ (α)(x) =∑

ξ2∈V2ωV2,ψα(x)Φ2,g′(ξ2; α)は左 SL2(F )不変だから

=∑

γ∈B′(F )\SL2(F )

hB(γg′)s

×∑

ξ2∈V2

ωV1,ψα(γ)Φ1,g′(0; α)ωV2,ψα(γ)Φ2,g′(ξ2; α)

14

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SL2(A)同型 ωV1,ψα⊗ωV2,ψα ≅ ωV,ψα とΦ1,g′(v1; α)⊗Φ2,g′(v2; α) = ωV,ψ(g′)Φ(v1, v2; α)から

=∑

γ∈B′(F )\SL2(F )

hB(γg′)s∑

ξ2∈V2

ωV,ψα(γg′)Φ(ξ2; α)

となる。よって B′(F )\SL2(F ) = B(F )\G∗(F ) に注意して ξ2 が 0 か否かで分けると

B(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)は

2∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑α,ξ2∈F×

ωV,ψ(γg′)Φ(ξ2; α)hB(γg′)s dg′,

2∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑α∈F×

ωV,ψ(γg′)Φ(0; α)hB(γg′)s dg′

の和に等しい。第 2式の γ ∈ B(F )\G∗(F )についての和は Eisenstein級数であるからそ

れとカスプ形式 φとの積分は消える。

次に (2.2)から

ωV,ψ(γg′)Φ(ξ2;α) = ωV,ψ

((ξ2 00 α−1

)γg′

)Φ(1; 1)

ゆえ、φの G∗(F )不変性に注意して第 1式は

B(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) = 2∫

G∗(F )\G∗(A)

φ(g′)∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑α,ξ2∈F×

ωV,ψ

((ξ2 00 α−1

)γg′

)Φ(1; 1)hB(γg′)s dg′

=2∫

G∗(F )\G∗(A)

∑γ∈U(F )\G∗(F )

φ(γg′)ωV,ψ(γg′)Φ(1; 1)hB(γg′)s dg′

=2∫

U(F )\G∗(A)

φ(g′)ωV,ψ(g′)Φ(1; 1)hB(g′)s dg′

=2∫

U(A)\G∗(A)

(∫U(F )\U(A)

φ(ug′)ωV,ψ(ug′)Φ(1; 1) du

)hB(g′)s dg′

du

となる。ただし du =∏

v duv は U(F )\U(A)の測度が 1となる U(A)上の不変測度であ

る。再度 (2.2), (2.1)にうったえて括弧内は∫A/F

φ((

1 b0 1

)g′

)ωV,ψ

((1 b0 1

)g′

)Φ(1; 1) db =Wψ(φ; g′)ωV,ψ(g′)Φ(1; 1)

15

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と書ける。ここで φの ψ-Whittaker係数

Wψ(φ; g′) :=∫

A/F

φ((

1 b0 1

)g′

)ψ(b) db

は制限直積分解Wψ(φ; g′) =∏

v Wv(g′v), (Wv は πv のWhittaker模型 Wψv(πv)の元)を

持つとしてよい。結局、ℜs ≫ 0のときには Euler積展開

B(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) =2∏v

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s),

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) :=

∫U(Fv)\G∗(Fv)

Wv(g′v)ωVv,ψv (g′v)Φv(1; 1)hB(g′v)s dg′vduv

(2.4)

が成り立つ。ただし局所的な場合にも hB((

av bv

0 dv

)kv) := |av/dv|1/2

v と書いている。

これを有理型函数の等式として全 s平面に延ばすには不分岐局所因子の計算が必要であ

る。簡単のために G∗(A)やその閉部分群上の不変測度を次のように選ぶ*2。

(i) G∗ 上の不変微分形式 ωG, 例えば(

a bc d

)で

da ∧ db ∧ dc ∧ dd

(ad − bc)2となるものを取り、

それと ψv から定まる G∗(Fv) 上の不変測度を |ωG|v と書く。G∗(Fv) 上の不変測

度 dg′v = ζFv (2)ζFv (1)|ωG|v はほとんど全ての非アルキメデス素点で∫

Kvdg′v = 1

を満たすから、その積測度 dg′ =∏

v dg′v は定義可能である。

(ii) A上には ψ 自己双対測度 dxを取る。これにより U(A)上の不変測度も定まる。

(iii) A× 上の不変測度 dx× を各 F×v 上の測度 dx×

v := ζFv(1)dxv/|xv|v 上の積測度とす

る。これにより対角極大トーラス T0(A) ⊂ G∗(A)上の不変測度が定まる。

(iv) 極大コンパクト部分群K =∏

v Kv ⊂ G∗(A)上の不変測度 dk =∏

v dkv を岩澤

分解の積分公式∫G∗(Fv)

f(g′v) dg′v =∫

Kv

∫T0(Fv)

∫U(Fv)

f(uvtvkv) duvhB(tv)−2dtvdkv

が成り立つように選ぶ。ほとんど全ての非アルキメデス素点で dkv は dg′v のKv

への制限に一致する。

また非アルキメデス素点 v で

• v は 2を割らない。

*2 周期や Peterssonペアリングの値はG(A)サイドの測度にのみ依存しており、G∗(A)サイドの測度は自由に選ぶことができる (φや Φが定数倍されるが)。

16

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• Bv ≅ M2(Fv) で Ev ≅ F⊕2v または Fv の不分岐 2 次拡大。χv は E×

v の不分岐

指標。

• πv は不分岐主系列表現で Wv は W 0v (1) = 1 なる不分岐 Whittaker 函数 W 0

v に等

しい。

• ψv は位数 0で Φv がM2(Ov) ×O×v の特性函数 Φ0

v .

が成り立つものを単に不分岐素点と呼ぶ。

補題 2.4. 不分岐素点 v では次が成り立つ。

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

L(s + 1, πv,Ad)ζFv (2s + 2)

.

証明. 岩澤分解の積分公式とW 0v , Φ0

v のKv 不変性から

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

∫Kv

∫T0(Fv)

W 0v (tvkv)ωVv,ψv (tvkv)Φ0

v(1; 1)hB(tv)s−2 dtvdkv

=∫∫

(F×v )2

W 0v

((av 00 dv

))ωVv,ψv

((av 00 dv

))Φ0

v(1; 1)∣∣∣∣av

dv

∣∣∣∣s−2

v

da×v dd×

v

である。ここで (2.2)から

ωVv,ψv

((av 00 dv

))Φ0

v(1; 1) =∣∣∣∣av

dv

∣∣∣∣2v

Φ0v

(av;

1avdv

)であり、特に右辺の積分は実際には av ∈ Ov ∩ F×

v , dv ∈ a−1v O×

v 上の積分となる。不分

岐主系列表現 πv を indG∗(Fv)B(Fv) (µ1 £ µ2)と書く。[今野 09,命題 3.11]の証明中の式 (3.16)

で Φとして O⊕2 の特性函数を取ることでW 0v の明示公式

W 0v

((av 00 dv

))=

∣∣∣∣av

dv

∣∣∣∣1/2

v

µ1(avϖv)µ2(dv) − µ1(dv)µ2(avϖv)µ1(ϖv) − µ2(ϖv)

(2.5)

が得られる。ここにϖv はOv の素元である。これらを代入して簡単のため α := µ1(ϖv),

17

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β := µ2(ϖv), X := q−s−1v , (qv は剰余体 Ov/pv の位数)と書けば、

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

∑n∈N

W 0v

((ϖn

v 00 ϖ−n

v

))|ϖn

v |sv

=∑n∈N

αn+1β−n − α−nβn+1

α − βXn

=1

α − β

1 − αβ−1X− β

1 − α−1βX

)=

1 − X2

(1 − αβ−1X)(1 − X)(1 − α−1βX)

=L(s + 1, πv, Ad)

ζFv (2s + 2)

が従う。

これを受けて正規化されたペアリング

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) :=

ζFv (2s + 2)L(s + 1, πv, Ad)

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)

を導入すれば次が成り立つ。

命題 2.5. (i) Euler積∏

v Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)は実際には有限積で s ∈ Cの整型函数となる。

次は複素平面上の有理型函数の等式である。

B(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) = 2L(s + 1, π, Ad)

ζF (2s + 2)

∏v

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)

(ii)特に ⟨ϕ,ϕ∨⟩G = 2L(1, π, Ad)

ζF (2)

∏v

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(0).

2.3 周期積分

ここでは周期積分のダブル Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) を計算する。ある β ∈ F× に対して、2

次空間の直和分解 (V,Q) = (E, 2NE/F ) ⊕ (E,−2βNE/F ) があって jT (t) = (t, 1) ∈E× × E× ⊂ GLF (V )が成り立つとしてよい。上の右辺の 2次空間を順に E, −βE と略

記することにする。

ここでもまずおおざっぱな仕組みを解説しよう。今度はシーソー

18

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×

× G*

G* G*

SO( )

)

ESO( )E ¯

SO(V

を考える。清水対応から Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨)はだいたい θΦ(φ)の SO(E)× SO(−βE))上で

の χ £ 1との Petersson双対性であり、シーソー双対性から

Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) =⟨θΦ(φ), χ £ 1⟩G(SO(E)×SO(−βE))

=⟨φ, θΦ1(χ) ⊗ θΦ2(1)⟩G∗

となる。Siegel-Weilの公式から θΦ2(1)は G∗ 上の Eisenstein級数、θΦ1(χ)は二面体型カ

スプ表現 π(χ), (χからの automorphic induction)の元だから、これらと πの元の積の積分

である右辺は Gross-Zagier 公式の証明で用いられ続けてきた L(s, π, χ) の積分表示にほ

かならない。これにより右辺は L(1/2, π, χ)/L(1, ωE/F )と局所項の収束する Euler積の

積となる。この局所項が先の Petersson内積の局所項の局所周期 αχv (ϕv, ϕ∨v )であること

を示せばWaldspurgerの公式が証明できる。

それではもう少し正確な議論を紹介するが、正当化の道筋は 2.2節のペアリングの計算

とパラレルである。我々の ϕ ⊗ ϕ∨, Φ, φの取り方から

Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) =∫∫

(T (F )Z(A)\T (A))2θΦ(φ, j(t1, t2))χ(t1t−1

2 )dt1dz

dt2dz

=∫∫

(T (F )Z(A)\T (A))2

∫G∗(F )Z(A)\G∗(A)∫

Z(A)/Z(F )

θΦ(j(t1, t2), zg′)φ(zg′) dzdg′χ(t1t−12 )

dt1dz

dt2dz

(2.2)から ωV,ψ(j(t1, t2), zg′)Φ(ξ; α) = ωV,ψ(j(t1, t2z), g′)Φ(ξ; α)ゆえ

=∫

G∗(F )Z(A)\G∗(A)

φ(g′)∫∫

(T (F )Z(A)\T (A))2∫Z(A)/Z(F )

θΦ(j(t1, t2z), g′)ωπ(z)χ(t1t−12 ) dz

dt1dz

dt2dz

dg′

t′ := t2z として (1.1)に注意すれば

=⟨φ,

∫T (F )Z(A)\T (A)

∫T (F )\T (A)

θΦ(j(t1, t′))χ(t1/t′) dt′dt1dz

⟩G∗

19

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である。右辺の二重積分は t := t1/t′ として∫∫∆Z(A)T (F )2\T (A)2

θΦ(j(t1, t′), g′)χ(t1/t′)dt1dt′

dz

=∫

T (A)/T (F )

(∫T (F )Z(A)\T (A)

θΦ(j(tt′, t′), g′)dt′

dz

)χ(t) dt

となる。分解 V = E ⊕ −βE を思い出そう。同型 j : ∆(T/Z) ∋ (t′, t′) 7→ t′/σ(t′) ∈SO(−βE)に注意する。また ωV,ψ(j(t, 1), g′)Φ(ζ1, ζ2;α) = Φ1,t,g′(ζ1; α)⊗Φ2,t,g′(ζ2; α),

(Φi ∈ S(AE × A×))と書けるとしてよい。

θΦ(j(tt′, t′), g′) =∑

α∈F×

∑ζ1∈E

ζ2∈−βE

ωV,ψ(j(t′, t′))Φ1,t,g′(ζ1; α)Φ2,t,g′(ζ2; α)

=∑

α∈F×

∑ζ1∈E

Φ1,t,g′(ζ1; α)∑

ζ2∈−βE

ω−βE,ψα(t′/σ(t′))Φ2,t,g′(ζ2;α)

=∑

α∈F×

∑ζ1∈E

Φ1,t,g′(ζ1; α)θΦ2,t,g′ (α)(t′/σ(t′))

であるから、Siegel-Weil公式 (事実 2.2 (A))により∫T (A)/T (F )

( ∫T (F )Z(A)\T (A)

θΦ(j(tt′, t′), g′)dt′

dz

)χ(t) dt

=∫

T (A)/T (F )

∑ζ1∈Eα∈F×

χ(t)Φ1,t,g′(ζ1; α)

∫SO(−βE)\SO(−βEA)

θΦ2,t,g′ (α)(g) dgdt

=L(1, ωE/F )∫

T (A)/T (F )

∑ζ1∈Eα∈F×

Φ1,t,g′(ζ1; α)E(fΦ2,t,g′ (α), 0, g′)χ(t) dt

を得る。そこでやはり ℜs ≫ 0で絶対収束する

Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) :=⟨φ(g′),

∫T (A)/T (F )

∑ζ∈E

α∈F×

Φ1,t,g′(ζ; α)E(fΦ2,t,g′ (α), s, g′)χ(t) dt

⟩G∗

を考える。後で見るようにこれは全 s平面に有理型に解析接続されるが、その仮定の下で

Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) = L(1, ωE/F )Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(0) (2.6)

20

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が成り立つ。

ℜs ≫ 0では前節と同様に θΦ1,t,g′ (α) の SL2(F )不変性を使って∑ζ∈E

α∈F×

Φ1,t,g′(ζ; α)E(fΦ2,t,g′ (α), s, g′)

=∑

α∈F×

∑γ∈B′(F )\SL2(F )

∑ζ∈E

ωE,ψα(γ)Φ1,t,g′(ζ; α)ω−βE,ψα(γ)Φ2,t,g′(0;α)hB(γg′)s

=∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑ζ∈E

α∈F×

ωV,ψ(j(t, 1), γg′)Φ(ζ; α)hB(γg′)s

であるから、Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)は ζ = 0かどうかで分けて∫T (A)/T (F )

⟨φ(g′),

∑γ∈B(F )\G∗(F )

∑α∈F×

ωV,ψ(j(t, 1), γg′)Φ(0;α)hB(γg′)s⟩

G∗χ(t) dt,

⟨φ(g′),

∫T (A)/T (F )

∑γ∈B(F )\G∗(F )

∑ζ∈E×

α∈F×

ωV,ψ(j(t, 1), γg′)Φ(ζ;α)hB(γg′)sχ(t) dt⟩

G∗

の和に等しい。後者はカスプ形式と Eisenstein級数の Petersson内積だから消えて、

Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) =∫

B(F )Z(A)\G∗(A)∫T (A)/T (F )

φ(g′)∑

ζ∈E×

α∈F×

ωV,ψ(j(t, 1), g′)Φ(ζ; α)hB(g′)sχ(t) dtdg′

dz

ωV,ψ(j(t, 1), g′)Φ(ζ; α) = ωV,ψ(j(t/ζ, 1),(

1 00 αNE/F (ζ)

)−1

g′)Φ(1; 1)だから

=∫

U(F )Z(A)\G∗(A)

∫T (A)

φ(g′)ωV,ψ(j(t, 1), g′)Φ(1; 1)hB(g′)sχ(t) dtdg′

dz

=∫

T (A)

∫UZ(A)\G∗(A)

∫A/F

φ((

1 b0 1

)g′

)ψ(b) db

× ωV,ψ(j(t, 1), g′)Φ(1; 1)hB(g′)sχ(t)dg′

dudt

=∏v

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)

21

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を得る。ただし

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) :=

∫T (Fv)

∫UZ(Fv)\G∗(Fv)

Wv(g′v)ωVv,ψv (j(tv, 1), g′v)Φv(1; 1)hB(g′v)sχv(tv)dg′v

dzvduvdtv

(2.7)

である。この Euler積展開を sの有理型函数の等式に延長するにはやはり不分岐因子の計

算が必要である。

補題 2.6. 不分岐素点 v では次が成り立つ。

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

L((s + 1)/2, πv, χv)L(s + 1, ωEv/Fv

).

証明. Ev/Fv が 2 次拡大であるか分解するかによって場合分けが必要だが、ここでは 2

次拡大の場合を解説する。補題 2.4の証明と同様に岩澤分解の積分公式、Kv 不変性を使

い、積分順序を入れ替えて

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

∫F×

v

W 0v

((av 00 1

))(∫

T (Fv)

ωVv,ψv

(j(tv, 1),

(av 00 1

))Φ0

v(1, 1)χv(tv) dtv

)|av|s/2−1

v da×v

を得る。括弧内の積分は (2.2)を使うと

|av|v∫

E×v

Φ0v

(avzv;

1avNE/F (zv)

)χv(zv) dz×v

avzv を zv と置き直して

=|av|v∫

E×v

Φ0v

(zv;

av

NE/F (zv)

)χv(a−1

v zv) dz×v

=

χ(ϖv)valv(av)/2q

−valv(av)v valv(av) ∈ 2Nのとき

0 それ以外のとき

となる。これと (2.5)を代入して再び α = µ1(ϖv), β = µ2(ϖv), X := q−s−1v などと略記

22

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すれば、χ(ϖv) = ωπ(ϖv)−1 = (αβ)−1 に注意して

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

∑k∈N

α2k+1 − β2k+1

α − βq−kv (αβ)kq−ks

v

=1

α − β

1 − (α/β)X− β

1 − (β/α)X

)=

1 + X

(1 − α2(αβ)−1X)(1 − β2(αβ)−1X

=L((s + 1)/2, πv, χv)

L(s + 1, ωEv/Fv)

.

Ev の母数は qEv = q2v であることに注意せよ。

そこで正規化された局所周期

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) :=

L(s + 1, ωEv/Fv)

L((s + 1)/2, πv, χv)Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨

v )(s)

を導入する。次は今や明らかである。

命題 2.7. (i) Euler積∏

v Pχv (ϕv ⊗ϕ∨v )(s)は実際には有限積で s ∈ Cの整型函数となる。

次は複素平面上の有理型函数の等式である。

Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) =L((s + 1)/2, π, χ)L(s + 1, ωE/F )

∏v

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)

(ii)特に Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) = L(1/2, π, χ)∏v

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(0).

定理 2.1の証明 定理を示すにはもはや Pχv (ϕv ⊗ϕ∨v )(s)を Bv(ϕv ⊗ϕ∨

v )(s)で表すだ

けでよい。テータ核函数の構成 Φ 7→ θΦ は GO(VA)同変だから (2.3)は

θeωV,ψ(j(t,1))Φ(φ, j(g1, g2)) = ϕ(g1t) £ ϕ∨(g2) = π(t)ϕ(g1) £ ϕ∨(g2)

を意味し、従って Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)の定義は

Bv(πv(tv)ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)

=∫

U(Fv)\G∗(Fv)

Wv(g′v)ωVv,ψv (j(tv, 1), g′v)Φv(1; 1)hB(g′v)s dg′vduv

を与える。これを (2.7)と見較べて

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(s) =

∫T (Fv)/Z(Fv)

Bv(πv(tv)ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)χv(tv)

dtvdzv

23

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を得る。言い換えれば∫T (Fv)/Z(Fv)

Bv(πv(tv)ϕv ⊗ ϕ∨v )(s)χv(tv)

dtvdzv

=L((s + 1)/2, πv, χv)ζFv (2s + 2)L(s + 1, πv, Ad)L(s + 1, ωEv/Fv

)Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨

v )(s)(2.8)

である。

さて F の素点 v0 を一つ止める。命題 2.5から局所双対性 ⟨ , ⟩v : VBv ⊗C V∨Bv

→ Cを

⟨ϕv, ϕ∨v ⟩v =

2L(1, π, Ad)

ζF (2)Bv(ϕv ⊗ ϕ∨

v )(0) v = v0 のとき

Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(0) それ以外のとき

と取れる。すると (2.8)から

αχv (ϕv, ϕ∨v ) =

L(1, ωEv/Fv)L(1, πv, Ad)

ζFv (2)L(1/2, πv, χv)

∫T (Fv)/Z(Fv)

⟨πv(tv)ϕv, ϕ∨v ⟩vχv(tv)

dtvdzv

=

2L(1, π, Ad)

ζF (2)Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨

v )(0) v = v0 のとき

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(0) それ以外のとき

である。これと補題 2.6から定理の主張 (i)が従う。さらに命題 2.7と組み合わせれば

Pχ(ϕ)Pχ−1(ϕ∨) =L(1/2, π, χ)∏v

Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨v )(0)

=ζF (2)L(1/2, π, χ)

2L(1, π, Ad)

∏v

αχv (ϕv, ϕ∨)

となって 2つ目の主張も従う。 ¤

3 Gross-Zagier公式

ここからは前節とは逆に |Sπ,χ|が奇数の場合を考える。さらに以下の条件を要求する。

(i) F は総実体で E/F はその総虚 2次拡大。

(ii) χは位数有限。(特に χ∞ :∏

v|∞ C× → µµ∞(C)は自明である。)

(iii) 任意のアルキメデス (実)素点 vで πvはある擬指標 ωv : C× ∋ z 7→ (z/z)1/2|z|λv

C ∈C× に対する二面体型表現 π(ωv) ([今野 09, 命題 2.18] 参照)。さらに条件 (1.1) と

併せれば λv = 0でなくてはならない。

24

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すると [今野 09,定理 3.15]直後の表から直ちに分かるように全ての実素点は Sπ,χ に属す

る。よって実素点 τ ∈ Sπ,χ を固定するごとに F 上の中心的四元数環B = τB でその分

岐素点の集合が Sπ,χ r τであるものがある。B× に付随する F 代数群をやはり Gと

書く。

定義から同型G(F∞) ∼→ GL2(R)×∏

v =τ,v|∞ H× がある。この τ 成分 GL2(R)への準

同型

h0 : C× ∋ x + yi 7→(

x y−y x

)∈ GL2(R) ⊂ GL2(R) ×

∏v =τ,v|∞

の G(F∞)での中心化群を K∞ と書く。開コンパクト部分群 K ⊂ G(Afin)を止めるごと

に志村曲線 XK :

XK(C) = G(F )\G(A)/K∞K = G(F )\H± × G(Afin)/K

が定まる。XK は [Del71, §6]の modele etrangeの構成により F 上の標準モデル (canoni-

cal model)を持つことが知られている。

やはり単準同型 jT : ResE/F Gm → Gを固定し、その像を T と書く。必要なら上の同

型を取り替えて jT,τ : C× → G(Fτ )が h0 であるとしてよい。すると KT := j−1T (K) ⊂

A×E,fin として単射

jT : E×\A×E,fin/KT ∋ E×tKT 7−→ G(F )(i, t)K ∈ XK(C)

を考える。(右辺の i ∈ H+ は虚数単位である。)その像 CK ⊂ XK(Eab)の各点は E で虚

数乗法を持ち、それらへの Gal(Eab/E) 作用は志村の相互律で与えられる。ここで次を

仮定する。

(iv) χはKT 上自明である。

後で見るように XK の各連結成分 Xi 上にはHodge類と呼ばれる標準的な因子類 ξi があ

る (5.1節)。A×E,fin ∋ tに対して jT (t)の XK での因子類を [t], jT (t)を含む連結成分上の

Hodge類を ξt と書き、χ-CM因子を CK の点に付随する次数 0の因子 [t] − ξt の重み付

き和YK,χ :=

∑t∈E×\A×

E,fin/KT

χ(t)([t] − ξt)

と定義する。

以前の Gross-Zagier公式ではφ ∈ A(π)が new formの場合に局所項 αχv も含めて明示

的な等式を与えていたため、π, χの分岐が十分浅く L(s, π × χ)が new vector 1本のゼー

25

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タ積分で与えられる場合しか扱えなかった*3。今回の論文 [YZZb]では new formに限定

せず、YK,χ の heightに Hecke環のうまい元を作用させることで考えている保型形式の寄

与を切り出している。

2節で πfin, π∨fin の実現 VB,fin, V∨

B,fin とそれらの間の G(Afin)不変ペアリング、局所周

期 αχv を定義していた。G(Afin)上のコンパクト台付き両側 K 不変函数たちのなす畳み

込み代数をHK(G(Afin))と書く (レベルK のHecke環)。ただし畳み込み積に用いる不変

測度 dKgはK の測度が 1となるものを用いる。これはコンパクト台付き局所定数函数の

なす畳み込み代数 H(G(Afin))の部分環である。H(G(Afin))は右および左移動作用 R, L

により G(Afin) × G(Afin)の滑らかな表現と見なせる。

R(g1)L(g2)h(x) = h(g−12 xg1), (g1, g2) ∈ G(Afin) × G(Afin), h(x) ∈ H(G(Afin)).

G(Afin)の既約許容表現 π′finに対して (R,H(G(Afin)))の π′

fin等型商はG(Afin)×G(Afin)

の表現として π′fin ⊗ π′∨

fin に同型で、その射影は

H(G(Afin)) ∋ h 7−→ πfin(h) :=∫

G(Afin)

h(g)π(g) ∈ dKg ∈ VB,fin ⊗ V∨B,fin

で与えられる [MVW87, 3 章補題 II.3]。また Harish-Chandraの結果により π∞ ⊗ π′fin が

カスプ保型表現で (π′fin)K = 0であるような G(Afin)の既約許容表現 π′

fin は有限個しかな

い。以上から任意の ϕfin ∈ VKB,fin, ϕ∨

fin ∈ VB,fin に対して、

• πfin(h) = ϕfin ⊗ ϕ∨fin;

• πfin 以外の π∞ ⊗ π′fin がカスプ保型表現である既約 G(Afin) 加群 π′

fin に対しては

π′fin(h) = 0.

となる h ∈ HK(G(Afin)) がある。これは一意ではないがその Hecke 対応による χ-CM

因子への作用を Tϕfin⊗ϕ∨fin

YK,χ として、Neron-Tateの高さ ⟨YK,χ, Tϕfin⊗ϕ∨fin

YK,χ⟩NT は h

の取り方によらず定まる。

定理 3.1 (Gross-Zagier公式). ϕ ∈ A(πB), ϕ∨ ∈ A(π∨B)が

⊗v ϕv ∈ VBv ,

⊗v ϕ∨

v ∈ V∨Bv

に移るとき次の等式が成り立つ。

⟨YK,χ, Tϕfin⊗ϕ∨fin

YK,χ⟩NT =ζF (2)L′(1/2, π, χ)

4L(1, π, Ad)

∏v-∞

αχv (ϕv, ϕ∨v ).

*3 一般に分岐素点で L(s, πv , χv)をゼータ積分で表すには πv の線型独立なベクトルが高々 2本必要なことに注意しよう [Jac72]。

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定理は 2節の Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)を変形して得られるスペクトル核函数と、Neron-Tateの

高さペアリングを局所交叉ペアリングで書いて得られる幾何的核函数を計算することで証

明される。スペクトル核函数と φ ∈ A(π)との Petersson内積が L函数の中心微分値を与

える。一方、幾何的核函数は多くの計算不可能な項を含むのだが、それらの寄与は φとの

内積を取ると消えて定理の左辺が得られる。次節ではまずスペクトル核函数の構成を概説

する。

4 スペクトル核函数

4.1 準備的考察

前節で止めた四元数環 B = τB に付随する 2 次空間を (V,Q) := (B, 2νB) と書き、

2.3節と同様に直和分解

(V,Q) = (E, 2NE/F ) ⊕ (E,−2βNE/F )

を固定しておく。従って E = F (√

δ), (δ ∈ F×) と書いたとき、Hilbert 記号 (β, δ)Fv が

−1 となるためには v が B の分岐素点の集合 Sπ,χ r τ に属することが必要十分である。定理の ϕ ∈ A(πB), ϕ∨ ∈ A(π∨

B)はある Φ ∈ S(VA × A×), φ ∈ A(π)に対して

θΦ(φ, j(g1, g2)) = ϕ(g1) £ ϕ∨(g2) (4.1)

を満たすとしてよい。さらにこれらは Euler積分解 Φ =⊗

v Φv , Wψ(φ) =∏

v Wv を持

つとしてよく、それらに対して 2.2, 2.3節の

Bv(Φv,Wv, s) := Bv(ϕv ⊗ ϕ∨v )(s), Pχv (Φv,Wv, s) := Pχv (ϕv ⊗ ϕ∨

v )(s)

が定まる。ただしB の取り方と事実 1.1から Pχτ (Φτ ,Wτ , 0) = 0である。それでも非ア

ルキメデス素点 v0 を固定して、非アルキメデス素点での局所周期 αχv (ϕv, ϕ∨v )を 2.3節

の定理 2.1の証明の通りに取ることができる。するとその場合と同様に定理 3.1の右辺の

局所項は ∏v-∞

αχv (ϕv, ϕ∨v ) =

2L(1, π, Ad)ζF (2)

∏v-∞

Pχv (Φv,Wv, 0) (4.2)

となる。

次に L′(1/2, π, χ)を計算しよう。各 Fv 上の 2次空間

(Vv,qv) :=

(Vv, Qv) v = τ ;(H, 2νH) v = τ ,

(Ev,nv) :=

(Ev,−2βNEv/Fv

) v = τ ;(Eτ ≅ C, 2NEτ /Fτ

) v = τ(4.3)

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を導入して

V := lim−→S

(∏v∈S

Vv ×∏v/∈S

Λv

), E := lim−→

S

(∏v∈S

Ev ×∏v/∈S

(Λv ∩ −2βEv))

とおく。ここで S は全てのアルキメデス素点を含む F の素点の有限集合を走り、Λv ⊂ Vv

は適当な Qv 自己双対 Ov 格子である。すると上の直和分解の τ 成分を差し替えた分解

V = AE ⊕ E が成り立つ。これに対しても 2.1 節のように GO(Vv) × G∗(Fv) の Weil

表現 (ωVv,ψv,S(Vv × F×

v )) の制限テンソル積を取って、GO(V) × G∗(A) の Weil 表現

(ωV,ψ,S(V × A×))は定まる。ただしテータ級数は考えられない。

さて、2節で ℜs ≫ 0のときには Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)は

Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s) =⟨φ,

∫T (F )\T (A)

J(ωV,ψ(j(t, 1))Φ, s)χ(t) dt⟩

G∗,

J(Φ, s; g′) :=∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑ζ∈E

α∈F×

ωV,ψ(γg′)Φ(ζ; α)hB(γg′)s

と書けていた (20頁参照)。この J(Φ, s, g′)は Φ ∈ S(VA × A×)を S(V × A×)の元で置

き換えても、内側の和を取っている格子 E ⊂ AE ⊂ Vは大域 2次空間だからその和は左

B(F )不変となって意味をなす (!)。そこで Φ :=⊗

v Φv ∈ S(V × A×)を

Φv =

S(Vτ × F×

τ )の任意の元 v = τ のとき

Φv v = τ のとき

と選び、

J(Φ, s; g′) :=∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑ζ∈E

α∈F×

ωV,ψ(γg′)Φ(ζ; α)hB(γg′)s,

Iχ(Φ, s; g′) :=∫

T (F )\T (A)

J(ωV,ψ(j(t, 1))Φ, s)χ(t) dt

とおく。2.3節 21頁以降の Pχ(ϕ ⊗ ϕ∨)(s)の計算は (E, NE/F )の方の大域性のみを用い

ているから、この状況でも次のように命題 2.7が成り立つ。

命題 4.1. 有理型函数の等式

⟨φ, Iχ(Φ, s)⟩G∗ =L((s + 1)/2, π, χ)L(s + 1, ωE/F )

∏v

Pχv (Φv,Wv, s)

が成り立つ。

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以下では f1(0) = 0, f2(0) = 0ならば

(f1f2)′(0) = f ′1(0)f2(0) + f1(0)f ′

2(0) = f ′1(0)f2(0) (4.4)

という単純な考察がポイントになる。

まず 1節で見た通り Pχτ (Φτ ,Wτ , 0) = L(1/2, π, χ) = 0だが、Pχτ (Φτ ,Wτ , 0) = 0で

あることに注意する。そこで (4.4)を使って命題の式を s = 0で微分し、(4.2)を代入すれ

ば次を得る。

系 4.2.

⟨φ, I ′χ(Φ, 0)⟩G∗ =L′(1/2, π, χ)2L(1, ωE/F )

∏v

Pχv (Φv,Wv, 0)

=ζF (2)L′(1/2, π, χ)

4L(1, ωE/F )L(1, π, Ad)

∏v-∞

αχv (ϕv, ϕ∨v ) ·

∏v|∞

Pχv (Φv, Wv, 0).

よってスペクトルサイドでは L(1, ωE/F )⟨φ, I ′χ(Φ, 0)⟩G∗ およびアルキメデス局所項∏v|∞ Pχv (Φv, Wv, 0)を計算すればよい。以下、実素点 v では ψv(x) = ψR(x) := e2πix

と取っておくことにする。すると v では

vol(T (Fv)/Z(Fv)) = 2, Pχv (Φv, Wv, 0) = 1 (4.5)

である。

最後の準備として ⟨φ, Iχ(Φ, s)⟩G∗ の s = 0での零点は J(Φ, s)のそれから来ているこ

とを見ておこう。実際、Φ = Φ1 ⊗ Φ2, (Φ1 ∈ S(AE × A×), Φ2 ∈ S(E × A×))であると

してよい。すると

J(Φ, s; g) =∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑ζ∈E

α∈F×

ωE,ψ(γg)Φ1(ζ; α) ⊗ ωE,ψ(γg)Φ2(0;α)hB(γg)s

=∑

α∈F×

∑γ∈B′(F )\SL2(F )

(∑ζ∈E

ωE,ψ(γg)Φ1(ζ; α))ωE,ψ(γg)Φ2(0; α)hB(γg)s

括弧内はテータ級数なので左 SL2(F )不変だから γ についての和の外に出して

=∑

α∈F×

θΦ1(α)(g)E(fΦ2(α), s, g)

と書ける。ここでfΦ2(α)(s, g) := ωE,ψ(g)Φ2(0;α)hB(g)s

29

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は放物型誘導表現 indSL2(A)B′(A) (ωE/F | |sA ⊗ 1U(A))の元、E(fΦ2(α), s, g)はそれに付随する

Eisenstein級数であった (11頁)。E で分解しない素点 v での既約分解

indSL2(Fv)B′(Fv) (ωEv/Fv

⊗ 1U(Fv)) ≅ π+v ⊕ π−

v

を思い出す。ここで π+v は ψ−αβ

v -generic (ψ−αβv に関するWhittaker模型を持つ), π−

v はそ

うでない極限離散系列表現である。Weil表現の公式 (2.1)から

fΦ2,v(α)(0) ∈

π+

v v = τ のとき

π−v v = τ のとき

がわかる。(E/F が総虚であることから (−1, β)Fτ = 1,つまり τ(β) > 0であることに注

意せよ。) E(fΦ2(α), 0)は保型形式だが、SL2(A)が π−τ ⊗

⊗v =τ π+

v の形の保型表現を持

たないことは [LL79],または [KR94], [KRS92]によって知られている。よって SL2(A)準

同型 fΦ2,v(α)(0) 7→ E(fΦ2(α), 0)は消えるほかない。

4.2 積分範囲の変形

任意の実素点 v を取り、式を簡単にするために ψv(x) = ψR(x) = e2πix であると

する。ウェイト 2 の離散系列表現 π(ω(2)v ), (ω(2)

v : C× ∋ z 7→ (z/z)1/2 ∈ C×) は

H× の単位表現の Jacquet-Langlands 対応表現だった。一方 GO(Vv) × G∗(Fv) の Weil

表現 (ωVv,ψv,S(Vv × F×

v )) の空間を S(Vv, F×v ) = S(Vv) ⊗ C∞(F×

v ) まで拡げると、

S(Vv × F×v )の GO(Vv)不変商 S(Vv × F×

v )GO(Vv) ≅ π(ω(2)v )は S(Vv, F×

v )の GO(Vv)

不変ベクトルの空間

S(Vv, F×v )GO(Vv) =

Φv(x;u) = e−π|u|vqv(x)

(P1(|u|vqv(x))

+sgn(u)P2(|u|vqv(x))) ∣∣∣∣ Pi(t) ∈ C[t]

と同一視される。特にそのウェイト 2のベクトルの空間は

Φ(2)v (x; u) :=

1 + sgn(u)2

e−π|u|vqv(x)

で張られる*4。特に z = x + yi ∈ H± に対して

ωVv,ψv

((y x0 1

)(cos θ sin θ− sin θ cos θ

))Φ(2)

v (ξ; u) =1 + sgn(uy)

2e2πiuνH(ξ)z|y|e2iθ

*4 この事実はここで採用しているWeil表現の Schrodinger実現では分かりづらく、Fock模型と呼ばれる別の実現を用いて確かめられる。

30

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は π(ω(2)v ) の ψ

uνH(ξ)v -Whittaker 模型のウェイト 2 ベクトル W

(2)

ψuνH(ξ)v

(gv) にほかならな

い。W(2)ψa

v(gv)は後で整型射影を構成する際に必要となる。

Eisenstein 級数の微分の計算にはこの明示式が必要なので、Φ ∈ S(V × A×) の無

限成分を上の Φ(2)v で置き換えたい。もちろんただ置き換えたのでは Iχ(Φ, s) の計算

中に R×+ ⊂ Z(F )\Z(A) 上で定数函数を積分することになってしまう。そこで Φ∞ =⊗

v|∞ Φv ∈ S(V∞ × F×∞)を

Φ∞(x; u) :=∫

Z(F∞)

ωV,ψ(j(z∞, 1))Φ∞(x; u) dz∞ =⊗v|∞

Φ(2)v (xv;uv) (4.6)

となるように選び、Φ := Φ∞⊗Φfin ∈ S(V∞, F×∞)GO(V∞) ×S(Vfin ×A×

fin)と書く。Φfin

を固定する開コンパクト部分群KV ⊂ GO(VAfin)を取り、j(KT , 1) := KV ∩j(T (Afin), 1),

j(µK , 1) := KV ∩ j(Z(F ), 1)とおく。後者は単数群 j(O×F , 1)の部分群である。定義積分

を分割して

Iχ(Φ, s; g) =∫

T (A)/T (F )Z(F∞)KT(∫T (F )Z(F∞)KT /T (F )

J(ωV,ψ(j(tz, 1))Φ, s; g) dz

)χ(t)

dt

dz

を得る。ここで T (F )Z(F∞)KT /T (F ) ≅ (Z(F∞) × KT )/µK ≅ Z(F∞)/µK × KT に注

意すれば、括弧内の積分は∫Z(F∞)/µK

∫KT

J(ωV,ψ(j(tz∞, 1))Φ, s; g) dzfindz∞

=vol(KT )∫

Z(F∞)/µK

∑γ∈B(F )\G∗(F )∑

(ζ,α)∈E×F×

ωV,ψ(j(tz∞, 1), γg)Φ(ζ; α)hB(γg)s dz∞

=vol(KT )∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑(ζ,α)∈(E×F×)/µK∫

Z(F∞)/µK

∑ε∈µK

ωV,ψ(j(tz∞, 1), γg)Φ(ε−1ζ; ε2α)hB(γg)s dz∞

=vol(KT )∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑(ζ,α)∈(E×F×)/µK∫

Z(F∞)

ωV,ψ(j(tz∞, 1), γg)Φ(ζ; α) dz∞hB(γg)s

31

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=vol(KT )∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑(ζ,α)∈(E×F×)/µK

ωV,ψ(j(t, 1), γg)Φ(ζ;α)hB(γg)s

となる。さらに T (F )Z(F∞)\T (A) ≅ T (F∞)/Z(F∞)×T (F )\T (Afin)と (4.5)を使って

次が得られる。

命題 4.3. 前ページの記号で

Iχ(Φ, s; g) = 2g · vol(KT )∑

t∈T (F )\T (Afin)/KT

J(ωV,ψ(j(t, 1))Φ, s; g)χ(t),

J(Φ, s; g) :=∑

γ∈B(F )\G∗(F )

∑(ζ,α)∈(E×F×)/µK

ωV,ψ(γg)Φ(ζ; α)hB(γg)s

である。特に第一式の和は有限和なので次が成り立つ。

I ′χ(Φ, s; g) = 2g · vol(KT )∑

t∈T (F )\T (Afin)/KT

J ′(ωV,ψ(j(t, 1))Φ, s; g)χ(t)

4.3 Eisenstein級数の微分

命題 4.3 に現れる微分 J ′(Φ, s; g) を計算しよう。やはり Φ も Φ1 ⊗ Φ2 ∈ S(AE ×A×)GO(E∞) ⊗ S(E × A×)GO(E∞) の形であるとしてよい。すると 29頁と同様にして

J(Φ, s; g) =∑

α∈F×/µ2K

θΦ1(α)(g)E(fΦ2(α), s, g)

であり、再び (4.4)により

J ′(Φ, 0; g) =∑

α∈F×/µ2K

θΦ1(α)(g)E′(fΦ2(α), 0, g) (4.7)

を得る。よって Eisenstein級数の微分を計算すれば十分である。これには Eisenstein級数

の Fourier展開:

E(fΦ2(α), s, g) =∑a∈F

Wψa(Φ2(α), s, g),

Wψa(Φ2(α), s, g) :=∫

A/F

E(fΦ2(α), s,

(1 b0 1

)g)ψa(b) db

を用いる。

32

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まず ℜs ≫ 0のときには

Wψa(Φ2(α), s, g) =∫

A/F

∑γ∈B(F )\G∗(F )

fΦ2(α)

(s, γ

(1 b0 1

)g)ψa(b) db

Bruhat分解 G∗(F ) = B(F ) ⊔ B(F )wU(F ), (w =(

0 −11 0

))を使って

=∫

A/F

ωE,ψ

((1 b0 1

)g)Φ2(0;α)hB(g)sψa(b) db

+∫

A/F

∑β∈F

ωE,ψ

(w

(1 β + b0 1

)g)Φ2(0;α)hB

(w

(1 β + b0 1

)g)s

ψa(b) db

=

fΦ2(α)(s, g) + M(s)fΦ2(α)(s, g) a = 0のとき∏v

Wψav(Φ2,v(α), s, gv) a = 0のとき

が成り立つ。ここで

M(s)fΦ2(α)(s, g) =∫

AfΦ2(α)

(s, w

(1 b0 1

)g)

db

は絡作用素で全 s 平面に有理型函数 (作用素) として延びて、虚軸上では正則であること

が知られている。また

Wψav(Φ2,v(α), s, gv)

:=∫

Fv

ωEv,ψv

(w

(1 bv

0 1

)gv

)Φ2,v(0; α)hB

(w

(1 bv

0 1

)gv

)s

ψav (bv) dbv

と書いている。測度 dbは vol(A/F ) = 1となるように取っていたことに注意する。

上の等式は有理型函数の等式として全 s平面上で成立しており、問題の微分は

E′(fΦ2(α), 0, g) =ωE,ψ(g)Φ2(0; α) log hB(g) +(M(s)fΦ2(α)(s, g)

)′

s=0

+∑

a∈F×

∑v

W ′ψa

v(Φ2,v(α), 0, gv)

∏u =v

Wψau(Φ2,u(α), 0, gu)

(4.8)

となる。さらに 4.1節末で見た通り fΦ2,v(α)(0) ∈ indSL2(Fv)B′(Fv) (ωEv/Fv

⊗ 1U(Fv))は各素点

v で ψαnv(Ev)/2v -genericな既約成分に入っているから、

Wψav(Φ2,v(α), 0) = 0, ∀a ∈ F× r

αnv(E×v )

2

33

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である。再び (4.4)から a /∈ αnv(E×v )/2なる v の成分を微分した項だけが生き残る。微

分は一階なので

F×(v) := F× ∩((

F×v r

nv(E×v )

2

∏u =v

nv(E×v )

2

)(4.9)

として (4.8)は次のようになる。

E′(fΦ2(α), 0, g) =ωE,ψ(g)Φ2(0;α) log hB(g) +(M(s)fΦ2(α)(s, g)

)′

s=0

+∑

v

∑a∈αF×(v)

W ′ψa

v(Φ2,v(α), 0, gv)W v

ψa(Φv2(α), 0, gv)

(4.10)

E で分解する素点 v では nv(E×v ) = F×

v なので F×(v) は空であることに注意せよ。

(4.10)を (4.7)に代入すれば次が得られる。

命題 4.4. 前頁の記号を使えば、命題 4.3において

J ′(Φ, 0; g) =∑

v

J ′(Φ, 0; g)(v) +∑

α∈F×/µ2K

θΦ1(α)(g)(M(s)fΦ2(α)(s, g)

)′

s=0

+ log hB(g)∑

α∈F×/µ2K

θΦ1(α)(g)ωE,ψ(g)Φ2(0;α)

である。ただし

E′(fΦ2(α), 0; g)(v) :=∑

a∈αF×(v)

W ′ψa

v(Φ2,v(α), 0, gv)W v

ψa(Φv2(α), 0, gv),

J ′(Φ, 0; g)(v) =∑

α∈F×/µ2K

θΦ1(α)(g)E′(fΦ2(α), 0; g)(v)

であり、一つ目の v についての和は E で惰性的な素点のみを走る。

4.4 局所項の計算

ここでは J ′(Φ, 0; g)の展開中の各項を計算する。まず主要項 J ′(Φ, 0; g)(v)から始めよ

う。E で分解しない素点 v に対して、対称和

Sπ,χv =

Sπ,χ ∪ v v /∈ Sπ,χ のとき

Sπ,χ r v v ∈ Sπ,χ のとき

34

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を分岐素点の集合とする F 上の中心的四元数環を vB, vB× を F 代数群と見たもの

を vG と書く。(3 節の B = τB は v = τ に対する vB である。) 従って 2 次空間

(vV, vQ) := (vB, 2νvB)は次を満たす。

• E = F (√

δ)として u ∈ Sπ,χvでのみ (vβ, δ)Fu = −1となる vβ ∈ F× を取っ

て (vE, vN) := (E,−2vβNE/F )と書けば、

(vV, vQ) = (E, 2NE/F ) ⊕ (vE, vN), ∃vβ ∈ F×.

• (vV, vQ), (vE, vN)はそれぞれ (V,Q), (E,−2βNE/F )の Hasse不変量を τ と v で

1回ずつ反転したものである。(v = τ のときは τ で 2回反転する。)

局所Whittaker函数を

vWψau(Φ2,u(α), s, gu) := γψu(αvE)Wψa

u(Φ2,u(α), s, gu)

で置き換えても、Weil定数の積公式∏

u γψu(αvE) = 1から同じ Euler積展開および

E′(fΦ2(α), 0; g)(v) :=∑

a∈αF×(v)

vW ′ψa

v(Φ2,v(α), 0, gv)vW v

ψa(Φv2(α), 0, gv)

命題 4.5. E で惰性的な素点 v に対して

J ′(Φ, 0; g)(v) =1

L(1, ωE/F )

∫T (F )Z(A)\T (A)

vKΦ(j(t, t), g)dt

dz

が成り立つ。ただし

vKΦ(j(t1, t2), g)

:=∑

α∈F×/µ2K

∑ξ∈vV rE⊕0

keωVv,ψv (j(t1,v,t2,v))Φv(α)(ξ; gv)ωvV,ψv (j(tv1, t

v2), g

v)Φv(ξ; α),

kΦv(α)((ζ1, ζ2); gv) :=L(1, ωEv/Fv

)vol(SO(Ev))

ωEv,ψv (gv)Φ1,v(ζ1; α)vW ′ψ

αvN(ζ)v

(Φ2,v(α), 0, gv)

とおいた。

35

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証明. (スケッチ)鍵は次の局所 Siegel-Weil等式である。つまり公式 (2.1)から

ωvE,ψu

(w

(1 bu

0 1

)gu

)Φ2,u(x; α)

=1

γψu(αvE)

∫Eu

ωvE,ψu(gu)Φ2,u(yu; α)ψu(αvN(yu)bu − (x, yu)αvN ) dyu

なので

vWψ

αvN(ζ)u

(Φ2,u(α), 0, gu)

=γψu(αvE)∫

Fu

ωvEu,ψu

(w

(1 bu

0 1

)gu

)Φ2,u(0; α)ψ−αvN(ζ)

u (bu) dbu

=∫

Fu

∫Eu

ωvE,ψu(gu)Φ2,u(yu;α)ψu(αvN(yu)bu) dyu ψu(−αvN(ζ)bu) dbu

=∫

Eu

ωvE,ψu(gu)Φ2,u(yu;α)

(∫Fu

ψu

(αbu(vN(yu) − vN(ζ))

)dbu

)dyu

内側の積分において、1の Fourier変換は 0での Dirac分布だから

=∫

vN(yu)=vN(ζ)

ωvE,ψu(gu)Φ2,u(yu; α)dy×

u

dNE/F (yu)×

1 → SO(Eu) → E×u

NE/F→ F×u についての測度の分解 ζF (1)dNE/F (zu)× = ζE(1)dz×u dhu

を使って

=1

L(1, ωEu/Fu)

∫SO(Eu)

ωvE,ψu(gu)Φ2,u(ζhu;α) dhu.

さて F×(v) の定義 (4.9) から F×(v) = vN(vE×) である。よって全単射vE×/SO(E) ∋ ζ 7→ vN(ζ) ∈ F×(v)があって

E′(fΦ2(α),0; g)(v)

=∑

ζ∈vE×/SO(E)

(vW ′

ψαvN(ζ)v

(Φ2,v(α), 0, gv)∏u =v

vWψ

αvN(ζ)u

(Φ2,u(α), 0, gu))

36

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u = v で局所 Siegel-Weil等式を使って

=1

Lv(1, ωE/F )

∑ζ∈vE×/SO(E)

vW ′ψ

αvN(ζ)v

(Φ2,v(α), 0, gv)

×∫

SO(EAv )

ωvE,ψv (gv)Φv2(ζhv;α) dhv

=1

Lv(1, ωE/F )vol(SO(Ev))

∫SO(EA)

∑ζ∈vE×/SO(E)

vW ′ψ

αvN(ζhv)v

(Φ2,v(α), 0, gv)ωvE,ψv (gv)Φv2(ζhv; α) dh

=1

Lv(1, ωE/F )vol(SO(Ev))

∫SO(E)\SO(EA)∑

ζ∈vE×

vW ′ψ

αvN(ζhv)v

(Φ2,v(α), 0, gv)ωvE,ψv (gv)Φv2(ζhv;α) dh.

よって θΦ1(α)(g)の定義と併せて

J ′(Φ, 0; g)(v) =1

Lv(1, ωE/F )vol(SO(Ev))

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E

ωE,ψ(g)Φ1(ζ1;α)

∫SO(E)\SO(EA)

∑ζ2∈vE×

vW ′ψ

αvN(ζ2)v

(Φ2,v(α), 0, gv)ωvE,ψv (gv)Φv2(ζ2h

v; α) dh

=1

Lv(1, ωE/F )vol(SO(Ev))

∑α∈F×/µ2

K

∫SO(E)\SO(EA)

∑ξ=(ζ1,ζ2)∈vV rE⊕0

ωEv,ψv (gv)Φ1,v(ζ1; α)vW ′ψ

αvN(ζ2)v

(Φ2,v(α), 0, gv)ωvV,ψv (gv)Φv(ζ1, ζ2hv; α) dh

A×E/E×A× ∋ t 7→ t/σ(t) ∈ SO(E)\SO(EA) および (ζ1, ζ2t/σ(t)) = t(ζ1, ζ2)t−1 を使って

=1

vol(SO(Ev)Lv(1, ωE/F ))

∑α∈F×/µ2

K

∫A×

E/E×A×

∑ξ=(ζ1,ζ2)∈vV rE⊕0

ωEv,ψv(gv)Φ1,v(ζ1; α)vW ′

ψαvN(ζ2)v

(Φ2,v(α), 0, gv)ωvV,ψ(gv)Φv(tvζt−1v ; α)

dt

dz

37

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(2.2)を使って

=1

L(1, ωE/F )

∫A×

E/E×A×

∑α∈F×/µ2

K

∑ξ=(ζ1,ζ2)∈vV rE⊕0

keωVv,ψv (j(tv,tv))Φv(α)(ξ; gv)ωvV,ψ(j(tv, tv), gv)Φv(tvζt−1

v ; α)dt

dz

=1

L(1, ωE/F )

∫T (F )Z(A)\T (A)

vKΦ(j(t, t), g)dt

dz

を得る。

kΦv(α)(ξ; gv)の計算結果を紹介する前に、正則 Schwartz函数の空間

S0(Vv × F×v )

:=

Φv ∈ S(Vv × F×

v ) |Φv|(Vsingv ∪Ev)×F×

v= 0 Ev/Fv が 2次拡大のとき

Φv ∈ S(Vv × F×v ) |Φv|Vsing

v ∪Ev)×F×v

= 0 Ev ≅ F⊕2v のとき

を導入する。ただし Vsingv := x ∈ Vv |qv(x) = 0と書いている。非アルキメデス的な

場合には、G∗(Fv)の無限次元表現 πv への局所テータ対応を与える射 S(Vv ×F×v ) ³ πv

の S0(Vv × F×v )への制限は消えていないことが示せる。

38

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命題 4.6. (i) vが非アルキメデス的で a ∈ αF×(v)とする。Ev/Fv が不分岐か vが 2を割

らないとき、

kΦv(α)(ζ1, ζ2; 1) = −L(1, ωEv/Fv

)vol(Ov)vol(SO(E))

log qv · Φ1,v(ζ1;α)

valv(αβNE/F (ζ2))+ordψv∑n=0

qnv

∫αβNE/F (xv)dv∈pn

v

Φ2,v(xv; α) dxv

である。ただし dv ∈ F×v は valv(dv) = ordψv となる元 (different の v 成分) である。

Ev/Fv が分岐あるいは剰余標数が 2 であっても、Φv ∈ S0(Vv × F×v ) なら (ξ, α) 7→

kΦv(α)(ξ; 1)は S(Vv × F×v )の元に延びる。

(ii) v が実素点で a ∈ αF×(v)のとき、gv = zv ( y x0 1 )

(cos θ sin θ− sin θ cos θ

)と書けば、z = x + yi

として

kΦv(α)(ζ1, ζ2; gv) =1 + sgn(αy)

2Ei(4παnv(ζ2)y)|y|e2πiαnv(ζ2)ze2θi

2.

ここで Eiは指数積分

Ei(z) =∫ z

−∞

et

tdt = γ + log(−z) +

∫ z

0

et − 1t

dt

(γ は Euler定数)である。

この命題の証明はWeil表現を用いたWhittaker函数の積分表示の詳しい解析によるが、

些末なのでここでは割愛する。

主要項以外の項については簡単な変形を施すだけでよい。ℜs ≫ 0 のとき、絡作用素

M(s)fΦ2(α)(s)は類似の局所作用素

Mv(s)fΦ2,v(α)(s, gv) :=∫

Fv

fΦ2,v(α)

(w

(1 bv

0 1

)gv

)dbv

による Euler積展開を持つ。そこで正規化された絡作用素

Nv(s, ψv)fΦ2,v(α)(s) := r(s, ψv)−1Mv(s)fΦ2,v(α)(s),

r(s, ψv) :=L(s, ωEv/Fv

)L(s + 1, ωEv/Fv

)ε(s, ωEv/Fv, ψv)

を導入する。N(s)fΦ2(α)(s) :=∏

v Nv(s, ψv)fΦ2,v(α)(s) は Gindikin-Karepelevich の公

式 [都築 09,補題 35]から実質的に有限積で、ψ によらない sの整型函数に延びる。

39

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命題 4.7. J ′(Φ, 0; g)の J ′(Φ, 0; g)(v)以外の α ∈ F×/µ2K に付随する項は

θΦ1(α)(g)((

M(s)fΦ2(α)(s, g))′s=0

+ log hB(g)ωE,ψ(g)Φ2(0; α))

=∑

ζ1∈E

(2(log hB(g) + cE)ωV,ψ(g)Φ(ζ1;α) −

∑v

cΦv(α)(ζ1; gv)ωVv,ψv (gv)Φv(ζ1; α))

と書ける。ただし cE := d log L(1, ωE/F ) (対数微分)であり、

W ′1(Φ2,v(α), 0, gv) :=

(Nτ (s, ψ−αβ

τ )fΦ2,τ (α)(s, gτ ))′s=0

v = τ のとき(Nv(s, ψ−αβ

v )fΦ2,v(α)(s, g))′s=0

それ以外のとき

として

cΦv(α)(ζ1, ζ2; gv)

= ωEv,ψv (gv)Φ1,v(ζ1;α)W ′1(Φ2,v(α), 0, gv) + log hB(gv)ωVv,ψv (gv)Φv(ζ1, ζ2; α)

とおいた。

注意 4.8. 不分岐な素点 v で gv ∈ Kv に対しては Gindikin-Karepelevich公式から

W ′1(Φ2,v(α), 0, gv) =

d

dzfΦ2,τ (α)(−s, gv)

∣∣∣s=0

= − log hB(gv)fΦ2,τ (α)(0, gv)

なので cΦv(α)(ζ1; gv) = 0である。つまり上の v についての和は実質的に有限和である。

証明. まず Ev は v = τ では −βEv に等距で、τ ではその Hasse不変量を入れ替えたもの

であった。このとき [KT,補題 8.3]から

N(0, ψ−αβv )fΦ2,v(α)(0) =

−fΦ2,τ (α)(0) v = τ のとき

fΦ2,v(α)(0) それ以外のとき

が成り立つ*5。この意味で正規化された絡作用素の加法指標 ψv への依存は重要である。

*5 従って [YZZb, 2.6.2] (1) の主張 M(0)fΦ2,v(α)(0, gv) = W0(0, gv , α) = r2(gv)Φ2,v(0; α) =

fΦ2,τ (α)(0, gv) は絡作用素が恒等射であることを主張していて正しくない。Harish-Chandra の自己準同型環定理によれば正規化された絡作用素は放物型誘導表現の自己準同型環を生成するはずである。

40

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さらに L(s, ωE/F )の函数等式から

r(0) =L(0, ωE/F )

L(1, ωE/F )ε(0, ωE/F )= 1,

r′(0) =d

ds

L(1 − s, ωE/F )L(1 + s, ωE/F )

∣∣∣s=0

= −L′(1, ωE/F )L(1, ωE/F )

−L(1, ωE/F )L′(1, ωE/F )

L(1, ωE/F )2

= −2d log L(1, ωE/F )

がわかる。これらを使えば左辺の絡作用素の微分は(M(s)fΦ2(α)(s, g)

)′s=0

= r′(0)N(0)fΦ2(α)(0, g) + r(0)(N(s)fΦ2(α)(s, g)

)′s=0

=2d log L(1, ωE/F )fΦ2(α)(0, g)

+∑

v

((Nv(s, ψ−αβ

v )fΦ2,v(α)(s, g))′s=0

∏u =v

Nu(0, ψ−αβu )fΦ2,u(α)(0, g)

)=2cEfΦ2(α)(0, g) −

∑v

W ′1(Φ2,v(α), 0, gv)fΦv

2(α)(0, gv)

と書ける。よって log hB(g) =∑

v log hB(gv)に注意して、命題の式の左辺を計算すると∑ζ1∈E

ωE,ψ(g)Φ1(ζ1; α)(2cEfΦ2(α)(0, g)

−∑

v

W ′1(Φ2,v(α), 0, gv)fΦv

2(α)(0, gv) + log hB(g)fΦ2(α)(0, g)

)=

∑ζ1∈E

ωE,ψ(g)Φ1(ζ1; α)((2cE + 2 log hB(g))ωE,ψ(g)Φ2(0;α)

−∑

v

(log hB(gv)ωE,ψ(g)Φ2(0;α) + W ′

1(Φ2,v(α), 0, gv)fΦv2(α)(0, gv)

))となって主張が従う。

4.5 整型射影

核函数 I ′χ(Φ, 0) はウェイト 2 の正則保型形式 φ ∈ A(π) との内積だけが問題となる。

そこで G∗(A)上の中心指標 ωπ を持つ保型形式の空間を A(G∗)ωπ と書き、

A0(G∗)(2)ωπ:=

⊕π′ カスプ保型表現

π′v=π(ω(2)

v ), ∀v|∞ωπ′=ωπ

A(π′)(2) ⊂ A(G∗)ωπ

41

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を導入する。ただし A(π′)(2) は、全ての無限素点でウェイト 2ベクトルである A(π′)内

の保型形式の空間を表す。射影 Pr(2) : A(G∗)ωπ ³ A0(G∗)(2)ωπ を

⟨Pr(2)(φ1), φ2⟩ = ⟨φ1, φ2⟩, φ1 ∈ A(G∗)ωπ , φ2 ∈ A0(G∗)(2)ωπ

で定め、これを単に整型射影 (holomorphic projection)という。

これを具体的に書くには 4.2節の最初に用意したウェイト 2整型Whittaker函数W(2)ψv

を使う。引き続き無限素点 v では ψv(x) = ψR(x) = e2πix としておく。

命題 4.9. 二乗可積分な f ∈ A(G∗)ωπ に対して、無限成分をW(2)ψ∞

=⊗

v|∞ W(2)ψvに差し

替えたWhittaker函数

W(2)ψ (f, s; g)

:= (4π)gW(2)ψ∞

(g∞)∫

U(F∞)Z(F∞)\G∗(F∞)

Wψ(f, (h∞, gfin))W (2)ψ∞

(h∞)hB(h∞)s dh∞

を用意する。このときWψ(Pr(2)(f)) = lims→0 W(2)ψ (f, s; g)である。

これは両辺と Poincare 級数との内積が一致することにより確かめられる。Iχ(Φ, s; g)

は Eisenstein級数と χからのテータリフト π(χ) ≅⊗

v π(χv) ([今野 09,命題 2.18]参照)

の元をかけ合わせたようなものだった。σ(χ) = χのときには π(χ)がカスプ保型表現 (特

に急減少)となるため、Eisenstein級数が緩増加なことと併せて Iχ(Φ, s; g)は二乗可積分

だから、上の命題がそのまま適用できる。

一方、σ(χ) = χのときは χ = µ NE/F となる F のイデール類指標 µがあって π(χ)

は放物型誘導表現indG∗(A)

B(A) ((µ ⊗ µωE/F ) ⊗ 1U(A))

の元から得られる Eisenstein 級数からなる。従って Iχ(Φ, s; g) も二乗可積分ではなく命

題は使えない。そこで f : U(F )\G∗(A) → Cに対してW(2)ψ (f, s; g)が s = 0のまわりで

有理型函数になっている場合に、

Wψ(Pr(2)† (f), g) := c0(W

(2)ψ (f, s; g))s=0,

Pr(2)† (f)(g) :=

∑α∈F×

(Pr

(2)† (f),

(α 00 1

)g)

とおく。ここで c0(·)s=0 は s = 0での Laurent展開の定数項を表す。f ∈ A(G∗)ωπ が二

乗可積分ならこれは Pr(2)(f)に等しいが、二乗可積分でない保型形式に対しては保型形

式にもならないことに注意する。

42

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命題 4.10. χ = µ NE/F と書けるとき、放物型誘導表現 indG∗(A)B(A) ((µ⊗µωE/F )⊗1U(A))

から得られる Eisenstein級数 Eχ(Φ, s)であって、Iχ(Φ, s)−Eχ(Φ, s)が二乗可積分とな

るものがある。

これから特に (Pr(2)† (Eχ(Φ, s)) = 0に注意して)いずれの場合にも

Pr(2)(I ′χ(Φ, 0)) − Pr(2)† (I ′χ(Φ, 0))

=Pr(2)† (I ′χ(Φ, s) − E′

χ(Φ, s)) + Pr(2)(E′χ(Φ, s)) − Pr

(2)† (I ′χ(Φ, 0))

=Pr(2)† (E′

χ(Φ, s))

は Eisenstein級数およびその微分の線型結合であることが示せる [YZZb, 3.6.3], [Zha01b,

4.4.4]。

さて、命題 4.4, 4.5, 4.7で計算した

J ′(Φ, 0; g) =∑

v

J ′(Φ, 0; g)(v)

+∑

α∈F×/µ2K

∑ζ1∈E

2(log hB(g) + cE)ωV,ψ(g)Φ(ζ1; α)

−∑

α∈F×/µ2K

∑ζ1∈E

∑v

cΦv(α)(ζ1; gv)ωVv,ψv (gv)Φv(ζ1; α)

に Pr(2)† を施すことで幾何サイドと比較可能なスペクトル核函数が得られる。

43

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定理 4.11. Eisenstein級数およびその微分の有限線型結合を法とした等式

Pr(2)† (J ′(Φ, 0; g)) =

∑v|∞

J ′(Φ, 0; g)(v) +∑v-∞

J ′(Φ, 0; g)(v)

+ 2∑

α∈F×/µ2K

∑ζ1∈E×

(log hB(gfin) +

12

log |αNE/F (ζ1)|Afin

)ωV,ψ(g)Φ(ζ1; α)

−∑

v

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E×

cΦv(α)(ζ1; gv)ωVv,ψv (gv)Φv(ζ1; α)

− c1

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E×

ωV,ψ(g)Φ(ζ1; α)

が成り立つ。ここで c1 := −2cE +γ + log 4π

2[F : Q]であり、アルキメデス素点 v では

J ′(Φ, 0; g)(v) :=1

L(1, ωE/F )

∫T (F )Z(A)\T (A)

vKΦ(j(t, t), g)dt

dz,

vKΦ(j(t1, t2), g)

:=∑

α∈F×/µ2K

c0

( ∑ξ∈(vV+rE⊕0)/µK

ωvV,ψ(j(t1, t2), g)Φ(ξ; α)kVv (s; ξ))

s=0

kVv (s; y) :=Γ (s + 1)2(4π)s

∫ ∞

1

1t(1 − vN(y2)t/vQ(y))s+1

dt

と書いている。vV+ := ξ ∈ vV | v(vQ(ξ)) > 0である。

証明. (スケッチ) まず主要項 J ′(Φ, 0; g)(v) を考えよう。非アルキメデス素点 v での

J ′(Φ, 0; g)(v)は無限成分を変更していないから、Φ∞ の取り方により最初から整型であ

る: Pr(2)† (J ′(Φ, 0; g)(v)) = J ′(Φ, 0; g)(v). 一方の実素点 v では v 成分を微分してしまっ

ているので vでの整型射影は非自明である。この場合には実際に命題 4.6 (ii)の中の Ei(z)

の整型射影を計算することで標記の結果が得られる。

次に (E, 2NE/F ) からのテータリフトに関しては ζ1 ∈ E についての和を ζ1 ∈ E×

乗の和に取り替えたものが整型射影を与える。(0 ∈ E の項は Siegel-Weil 公式により

Eisenstein級数を与えるが、E× の項は Shalika-田中 (あるいは Hecke)により整型カスプ

形式を与える。)

44

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最後に log hB(g)を含む項を考える。和を ν = αNE/F (ζ1)ごとにまとめて∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E×

log hB(g)ωV,ψ(g)Φ(ζ1;α)

=∑

ν∈F×

∑(ζ1,α)∈E××F×

αNE/F (ζ1)=1

log hB

((ν 00 1

)g)ωV,ψ

((ν 00 1

)g)Φ(ζ1; α)

である。log hB(( ν 00 1 ) gfin)を含む方は上と同様にして整型射影で不変だが、無限成分を含

む項は

Pr(2)†

(log hB(g∞)W (2)

ψ∞(g∞)

)= −γ + log 4π

2[F : Q]W (2)

ψ∞(g∞)

となる。よって

Pr(2)†

( ∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E×

log hB(g)ωV,ψ(g)Φ(ζ1; α))

=∑

ν∈F×

∑(ζ1,α)∈E××F×

αNE/F (ζ1)=1

(log hB

((ν 00 1

)gfin

)− γ + log 4π

2[F : Q]

)

× ωV,ψ

((ν 00 1

)g)Φ(ζ1; α)

hB の定義と ν = αNE/F (ζ1)から

=∑

α∈F×/µ2K

∑ζ1∈E×

(log |αNE/F (ζ1)|Afin

2+ log hB(gfin) − γ + log 4π

2[F : Q]

)

× ωV,ψ(g)Φ(ζ1; α)

となって主張の式が得られる。

5 Height核函数

L函数の微分値を与えるスペクトル核函数に対して、この節ではHeegner因子の高さペ

アリングを与える幾何的な核函数を構成する。

45

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5.1 高さを与える級数

記号を少し変えて 3 節の XK に有限個のカスプを付け加えてコンパクト化した曲

線を XK と書く。もちろん F = Q なら XK は最初から射影曲線でカスプはない。

D = D(K) := νB(K) とおけば、よく知られているように XK の連結成分たちは

F×+ \A×

fin/D(K)でパラメタライズされる [Del79]:

XK =∐

a∈F×+ \A×

fin/D(K)

XK,a.

K ⊂ K ′ のときにはエタール被覆 πK,K′ : XK → XK′ があり、また g ∈ G(Afin)に対し

ては移動射 Tg : XK → Xg−1Kg が定まる。前者から定まる射影極限を X := lim←−KXK

と書く。

簡単のため以下では K が十分小さく、従って XK が滑らかであるとする。標準束

ωXK = ΩXK の Picard 群 Pic(XK) でのクラス [ωXK ] は XK の全ての連結成分上で同

じ次数を持つ。その適当な有理数倍 ξ ∈ Pic(XK)Q := Pic(XK) ⊗ Qで XK の任意の連

結成分上で次数 1のものを XK 上のHodge類と呼ぶことにする。これにより各連結成分

XK,a 上で次数が 0の因子の群を Pic0(XK)として、射影

Pic(XK)Q ∋ [D] 7−→ [D] := [D −∑

a

deg(D|XK,a) · ξ|XK,a

] ∈ Pic0(XK)Q

が定まる。一方、XK の Jacobi 多様体 J(XK) は F のある有限次拡大の上で分解

J(XK)(F ) =∐

a J(XK,a)(F ) を持つ。各 J(XK,a) 上には Neron-Tate の高さペアリ

ング ⟨ , ⟩a があるから、J(XK)(F ) = Pic0(XK)上のNeron-Tateの高さペアリングをそれ

らの和 ⟨ , ⟩NT :=∑

a ⟨ , ⟩a と定義する。これを Pic0(XK)C に C線型に拡張したものもやはり ⟨ , ⟩NT と書くことにする。

生成函数 以下、KV := K × K としてMKV := XK × XK ,第 i射影を pi : MKV ³XK , (i = 1, 2)と書くことにする。X の場合と同様にM = lim←−KV

MKVが定まる。両側

剰余類KgK, (g ∈ G(Afin))のHecke対応とは

πK∩gKg−1,K × (πg−1Kg∩K,K Tg) : XK∩gKg−1 −→ XK × XK

の像として定まるMKV内のサイクル Z(g)K のことだった。またMKV

上のHodge線束

LKV :=12(p∗1ωXK + p∗2ωXK )

46

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と定める。

(V,q)を 27頁の通りとする。V × A× ∋ (x; a)に対してサイクル Z(x, a)K ⊂ MKVを

Z(x, a)K :=

Z(xfin)K aq(x) ∈ F× のとき

LKV |(‘

b/c=afinXK,b×XK,c) のMKV への順像 x = 0のとき

0 それ以外のとき

と定義する。さらに Φ ∈ S(V×A×)KGO(V∞) = S(V∞, F×

∞)GO(V∞) ⊗S(Vfin ×A×fin)K に

対するサイクルの生成函数を

ZΦ(g′)K :=∑

(x,a)∈(GO(V∞)×KV )\V×A×

ωV,ψ(g′)Φ(x; a)Z(x; a)K , g′ ∈ G∗(A)

と定める。MKV 内の余次元 1サイクル (の有理同値類)のなす Chow群を CH1(MKV )と

して、ZΦ(g′)K は CH1(MKV )C := CH1(MKV ) ⊗ Cに値を取る G∗(A)上の函数と見な

される。K ⊂ K ′ で Φ が K ′ 不変なときには πK,K′ が定める Chow 群の引き戻し射で

ZΦ(g′)K′ は ZΦ(g′)K に移る。そこでこれらが定める CH1(M)C := lim−→KCH1(MKV )C

の元を ZΦ(g′)と書く。

ZeωV,ψ(j(g1,g2))Φ(g′)K =

∑(x,a)

ωV,ψ(g′)Φ(g−11 xg2; νB(g1g

−12 )a)Z(x; a)K

=∑(x,a)

ωV,ψ(g′)Φ(x; a)Z(g1xg−12 ; νB(g−1

1 g2)a)K

において Z(g1xg−12 ; νB(g−1

1 g2)a)K は Kg1xg−12 K の Hecke 対応、つまり Xg−1

1 Kg1×

Xg−12 Kg2

上の g−11 Kg1xg−1

2 Kg2 の定める対応の j(g1, g2)による右移動の引き戻し、また

は XbνB(g1) × XcνB(g2) 上の Hodge束の順像である。つまり h := j(g1, g2)による右移動

での引き戻しを ρ(h) : CH1(Mh−1KV h)C → CH1(MKV)C と書けば、

ZeωV,ψ(j(g1,g2))Φ(g′) = ρ(j(g1, g2))ZΦ(g′) (5.1)

が成り立つ。次の事実は [YZZa]で証明されている。

事実 5.1. G∗(A) ∋ g′ 7→ ZΦ(g′) ∈ CH1(M)C の定義級数は絶対収束して G∗(A)上の保

型形式になる。

47

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高さ級数 25頁の jT を思い出す。そこでの設定を使えば XK 内の E で虚数乗法を持

つ点の集合 CMK は jT : T (F )\T (Afin)/KT∼→ CK(Eab)を拡張した

jT : T (F )\G(Afin)/K ∋ T (F )gK 7−→ G(F )(i, g)K

∈ G(F )\H± × G(Afin)/K = XK(C)

の像である。CMK の元は全て E の極大アーベル拡大 Eab 上の有理点であり、CMK =

CMK(Eab)への Gal(F /E)作用は類体論の相互律射 A×E,fin/E× → Gal(Eab/E)を通じ

て T (Afin)/T (F ) ≅ A×E,fin/E× による右移動作用で与えられる (志村の相互律)。そこで

gfin ∈ G(Afin)に対して jT (gfin)の XK での因子類を [gfin]K ∈ Pic(XK),その Pic0(XK)

への射影を [gfin]K で表す。

Φ ∈ S(V × A×)KGO(V∞) のとき、上で定義された生成函数をかませた Neron-Tateの高

さペアリング

ZΦ(j(g1, g2), g′) := ⟨ZΦ(g′)[g1,fin]K , [g2,fin]K⟩NT , gi ∈ G(A), g′ ∈ G∗(A)

を考える。これは Φ ∈ S(V×A×)KGO(V∞) となるK によらず定まり、(5.1)から jT の (元

をたどれば jT の)取り方にもよらない。同じ式から同変性

ZeωV,ψ(j(g1,g2))Φ(j(x1, x2), g′) = ZΦ(j(g1x1, g2x2), g′)

も従う。イデール類指標 χ : A×E,fin/E× → C1 が 25頁の (iv)を満たすとすれば、積分

Hχ(Φ; g′) :=∫∫

(T (F )\T (Afin))2ZΦ(j(t1, t2), g′)χ(t1t−1

2 ) dt1dt2

が考えられる。これらの構成から次は明らかである。

補題 5.2. Φ ∈ S(VA × A×)K を (4.1) が成り立つように選び、(4.6) の Φ∞ を使って

Φ := Φ∞ ⊗ Φfin ∈ S(V × A×)KGO(V∞) とおけば、

⟨YK,χ, Tϕfin⊗ϕ∨fin

YK,χ⟩NT = ⟨φ,Hχ(Φ)⟩G∗

が成り立つ。

5.2 数論的交叉

上で登場した Neron-Tateの高さペアリングは Faltingsによる Hodgeの指数定理により

数論的因子の交叉に帰着される [Fal84]。数論的交叉は局所交叉ペアリングの和であるか

48

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ら、幾何的核函数 Hχ(Φ)の計算は局所交叉ペアリングの計算に帰着できる。まずは必要

となる数論的因子の交叉理論を [GS90]からざっと復習しておこう。

数論的因子とエルミート線束 F の整数環を O と書こう。正則な 2 次元スキーム X

からの射影的平坦射X → SpecO を O 上の数論的曲面という。簡便のためにX の生成

ファイバーを X と書くことにする。

X の因子 D と X(C) :=∐

v|∞ Xv(C)上の D に関するGreen函数 g,すなわち X(C)

上の (0, 0)カレントである (1, 1)形式 ω に対する Greenの微分方程式

∂∂

πig + δD(C) = [ω]

を満たすものの対 D = (D, g)をX 上の数論的因子という*6。ここで δD(C) は D(C)の

Dirac型 (1, 1)カレントで、[ω]は ω を (1, 1)カレントと見たものである。ω = ωbD を D

の Chern形式という。X 上の数論的因子のなす加法群を Div(X )と書こう。例えばX

上の有理函数 f に対して

divf = (divf,− log |f |) ∈ Div(X )

である。こうして得られる数論的因子を主数論的因子と呼び、それらのなす Div(X ) の

部分群を Pr(X )と書く。商群 CH1(X ) := Div(X )/Pr(X )は数論的因子類群、あるい

は 1次の数論的 Chow群と呼ばれる。

X 上の線束L とL (C) =∐

v|∞ Lv(C)上のエルミート計量 ∥ ∥の対L = (L , ∥ ∥)をX 上のエルミート線束という。エルミート線束 L = (L , ∥ ∥)に対して L の有理切

断 sを取れば、その因子D = c1(L ) := divsと g = − log ∥s∥は Div(X )の元 (D, g)を

定め、その CH1(X )でのクラスは切断 sによらず決まる。こうしてエルミート線束の同

型 (等距)類がテンソル積に関してなす群 Pic(X )からの同型 (数論的第一 Chern類写像)

c1 : Pic(X ) ∼−→ CH1(X )

が得られる。逆写像は D = (D, g)に D に付随する線束 L (D)と計量 ∥s∥(x) := e−g(x)

の対L (D)を対応させることで得られる。

数論的交叉ペアリング 一般の数論的 Chow群の間の交叉ペアリングが Gillet-Souleに

よって与えられている [GS90, 4.3]。それを今考えている状況に適用したもの

CH1(X ) ⊗ CH

1(X ) −→ CH

2(X ) −→ CH

1(SpecO)

deg−→ R

*6 このノートでは Zhangに倣って通常の Greenカレントの 1/2倍を g としている。

49

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は次のように書ける。CH1(X ) の 2 つのクラスの代表 Di = (Di, gi) として、生成ファ

イバー内で交わらないものが取れる: |D1,F | ∩ |D2,F | = ∅. このとき Di のクラスの間の

交叉ペアリングは

D1 · D2 = (D1 · D2)∞ + D1 · D2,

(D1 · D2)∞ :=∫

X(C)

g1 ∗ g2, g1 ∗ g2 := ωbD1

g2 + g1δD2(C)

に等しい。ただし D1 · D2 はスキームX 内の因子としての交叉数である。

非アルキメデス素点 v での局所交叉ペアリング (D1 · D2)v を次のように定めれば、

D1 · D2 =∑v-∞

(D1 · D2)v

である。D ∈ Div(X )は D の生成点が全てX のスペシャルファイバーに含まれている

とき垂直 (vertical)、逆に全てが生成ファイバー X に含まれているとき水平 (horizontal)

であるという。Di が既約な場合に (D1 · D2)v を記述すれば十分である。

• D1 が垂直なとき、(D1 · D2)v := degD1(L2) log qv . ここで L 2 = (L2, ∥ ∥2) は

c1(L 2) = D2 となる Pic0(X )の元である。

• D2 が水平なとき、(D1 · D2)v :=∑

x∈|Xv| log |OX,x/(f1, f2)|. ここで |Xv|はXv

の閉点の集合で、fi は xの近傍での Di の定義方程式である。

そこで実素点 v でも局所交叉ペアリングを

(D1 · D2)v :=∫

Xv(C)

g1 ∗ g2

と定義しよう。こうして数論的交叉の分解

D1 · D2 =∑

v

(D1 · D2)v

が得られる。

数論的交叉は Hodge 指数定理により Neron-Tateの高さペアリングと関係づけられる。

まず数論的交叉はペアリング

Pic(X ) × Pic(X ) ∋ (L 1, L 2) 7−→ c1(L 1) · c1(L 2) ∈ R

を与える。L ∈ Pic(X )が鉛直 (vertical)とは L ≅ OX なることとする。鉛直なクラス

のなす Pic(X )の部分群を V (X )と書けば、完全列

0 −→ V (X ) −→ Pic(X ) −→ Pic(X) −→ 0

50

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がある。先のペアリングに関する V (X ) ⊂ Pic(X )の直交補空間を Pic0(X )と書き、そ

の元を平坦なエルミート線束という。すると完全列

0 −→ Pic0(O) −→ Pic0(X ) −→ Pic0(X) −→ 0

が成り立つ。L ∈ Pic0(X )の Pic0(X) (Jacobi多様体)での像を Lと書く。

事実 5.3 (Hodgeの指数定理の数論的バージョン、[Fal84] 5節、[Zha92]定理 7.1も参照).L i ∈ Pic0(X )に対して

⟨L1, L2⟩NT = −c1(L 1) · c1(L 2)

が成り立つ。

平坦な延長と局所 Green 函数 次数 1 の生成ファイバーを持つ L ξ ∈ Pic0(X )Q を

固定する。任意の x ∈ X(F ) に対して数論的因子 x = (x + D, gx) ∈ Div(X )Q で、

c1(L ξ) = (Dξ, gξ)として

• L (x) ⊗ L−1

ξ ∈ Pic0(X ).

• 非アルキメデス素点 v での X のスペシャルファイバー上の D の既約成分を Dv

として、Dv · Dξ = 0.

• アルキメデス素点 v で ∫Xv(C)

gx ∗ gξ = 0

を満たすものがただ一つ存在する。これを用いて各素点 v での局所 Green函数を

gv : (X(F ) × X(F )) r ∆X(F ) ∋ (x, y) 7−→ − (x · y)v

log qv∈ R

と定める。ただし v が実のときには log qv = 1とする。(数論的交叉は生成ファイバーが

交わらない数論的因子に対して定義されていたので、対角部分集合は抜いておかなくては

ならない。)実は gv たちは生成ファイバー X のみにより、その O 上の正則モデルX に

よらないことが知られている。また F の有限次拡大 Lにベースチェンジしても同じ局所

Green函数が得られる。そこで x, y ∈ X(L)に対して

gv(x, y) :=1

|Sv(L)|∑

w∈Sv(L)

gw(x, y)

51

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とおくことで、X のみによる局所 Green函数

gv : (X(F ) × X(F )) r ∆X(F ) −→ R

が定まる。ここで Sv(L)は v を割る Lの素点の集合を表す。最後に x ∈ X(F )に付随す

るX の切断を xと書けば、非アルキメデス素点 v では分解

(x · y)v = (x · y)v + (Dv · y)

がある。対応して局所 Green函数も

gv(x, y) = iv(x, y) + jv(x, y), iv(x, y) = − (x · y)v

log qv, jv(x, y) = − (Dv · y)

log qv

と分解する。ここで iv(x, y) は代数閉包上の幾何的交叉数であり、jv(x, y) の方はスペ

シャルファイバーでの x, y の還元のみで決まることに注意しよう。

5.3 高さペアリングの分解

ここでは前節の結果を使って 5.1節の最後に導入した ZΦ(j(g1, g2), g′)を計算する。志

村曲線 XK は O 上の (標準)モデルXK を持つ。これが我々の考える SpecO 上の数論的曲面である。

Hodge類の数論的延長 Hodge類を Pic(XK)Q の元に拡張するには Hodge線束 ΩXK

をXK 上のエルミート線束に拡張しなくてはならない。

総虚 2 次拡大 F ′/F を取るごとに四元数環 A := B ⊗F F ′ とその上の第 2 種対

合 ι : A ∋ x 7→ σ′(x)ιB ∈ A opp が決まる。ここで σ′ は Gal(F ′/F ) の生成元であ

り、ιB : B ∼→ Bopp は B の主対合を表す。するとユニタリ相似群 GUB(R) := g ∈A ⊗F R | ν(g) := g · gι⊗idR ∈ R×への同型

ResF ′/F Gm ×Gm G ∋ (z, g) 7−→ zg ∈ GUB

がある。開コンパクト部分群 J ⊂ A×F ′,fin に対してユニタリ志村多様体MJK :

MJK(C) =GUB(F )\H± × GUB(Afin)/JK

=(F ′×\A×F ′,fin/J) × XK(C)

はXK を含む。(右辺の第 1項は有限集合である。) MJK はある (PEL)データ付きのアー

ベル多様体のモジュライ空間と見なされ、これがMJK の F ′ 上の標準モデルを与える。

52

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XK (の標準モデル)はさまざまな F ′/F に対するMJK 内の部分多様体として構成されて

いた。

簡単のためK は十分小さいとしているので、MJK 上の普遍アーベル多様体 Aがある。ベクトル束 LieAの双対束の行列式線束を LJK = det(LieA)∨ と書けば、小平・Spencer

写像により LJK はMJK 上の標準線束 ωJK に移る。各アルキメデス素点 v で LJK,v は

XK,v(C) ⊂ MJK,v(C)上の標準束に制限される。一方、LJK,v 上にはWeil-Petersson計量

∥α∥2 := (−i)g2∫

A(C)

α ∧ α, α ∈ Γ(Ax, Ω4gAx

) = (LJK,v)x

がある。(Ax は x ∈ MJK,v(C) がパラメタライズするアーベル多様体。) こうして

LK = ωX に対して LK,v(C)上のエルミート計量 ∥ ∥が定まる。次に非アルキメデス素点 v に対しては、v が分解するような総虚 2 次拡大 F ′/F を取

る。MJK はモジュライ解釈により Ov 上の正則なモデルMJK を持ち、アルキメデス的

な場合と同様に普遍アーベルスキームを使ってMJK 上の線束 LJK,v が得られる。極大

不分岐拡大の整数環の完備化を Onrv とすれば、埋め込みXK,Onr

v→ MJK,Onr

vがある。

これによる LJK,v のXK,Onrvへの制限を取ることで、標準束 ωXK のXK,Onr

vへの拡張

が得られる。

標準束のXK への拡張LK を全ての非アルキメデス素点 v でLK,v = LK ⊗O Onrv と

なるものとする。こうしてエルミート線束 L K = (LK , ∥ ∥)が得られた。これを LK の

次数で割ったものを ξ ∈ Pic(XK)Q と書く。

ZΦ(j(t1, t2), g′) の分解 上記により得られた数論的 Hodge 類 ξ を L ξ として、各

x ∈ X(F )の数論的因子への延長 x,ペアリング

⟨x, y⟩ := −x · y,

および各素点 v での局所 Green函数 gv(x, y), (x = y)が得られる。

Pic0(XK) 上だけで意味を持つ Neron-Tate の高さと違い、このペアリングは任意の因

子類に対して定義されているから、jT (ti) ∈ CK(Eab), (i = 1, 2)に対して

ZΦ(j(t1, t2), g′) = ⟨ZΦ(g′)([t1] − deg([t1])ξ), [t2] − deg([t2])ξ⟩=⟨ZΦ(g′)[t1], [t2]⟩ − deg([t1])⟨ZΦ(g′)ξ, [t2]⟩ − deg([t2])⟨ZΦ(g′)[t1], ξ⟩

+ deg([t1]) deg([t2])⟨ZΦ(g′)ξ, ξ⟩

と分解できる。次の補題から右辺の第 1項 ⟨ZΦ(g′)[t1], [t2]⟩を計算すれば十分である。

53

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補題 5.4 ([YZZb]命題 4.6.1). 右辺の 3項

−deg([t1])⟨ZΦ(g′)ξ, [t2]⟩ − deg([t2])⟨ZΦ(g′)[t1], ξ⟩ + deg([t1]) deg([t2])⟨ZΦ(g′)ξ, ξ⟩

は Eisenstein級数およびその微分のWhittaker函数の有限線型結合である。

定義から x = y ならば、

⟨x, y⟩ =∑

v

gv(x, y) log qv = i(x, y) + j(x, y),

i(x, y) :=∑

v

iv(x, y) log qv, j(x, y) :=∑

v

jv(x, y) log qv

である。異なる CMK(Eab) ≅ T (F )\G(Afin)/K ∋ T (F )giK, (i = 1, 2)に対して簡単の

ために

iv(g1, g2) := iv(jT (g1), jT (g2)), jv(g1, g2) := jv(jT (g1), jT (g2)) (5.2)

などと書くことにする。

iv(g1, g2) =1

|Sv(E)|∑

w∈Sv(E)

iw(g1, g2), jv(g1, g2) =1

|Sv(E)|∑

w∈Sv(E)

jw(g1, g2)

であった。ここで T (F )giK ∈ CMK(L) となる有限次アーベル拡大 L/E を取れば、

CMK への Gal(Eab/E) 作用は類体論の相互律射を通して T (F )\T (Afin) 移動で与えら

れるから、

iw(g1, g2) =1

[L : E]

∑ι:L→Ew

iw(ι(jT (g1)), ι(jT (g2)))

=1

vol(T (F )\T (Afin))

∫T (F )\T (Afin)

iw(tg1, tg2) dt,

jw(g1, g2) =1

vol(T (F )\T (Afin))

∫T (F )\T (Afin)

jw(tg1, tg2) dt

(5.3)

である。以上のうち jw(g1, g2)は (定義から)アルキメデス素点 w や XK,E がよい還元を

持つ非アルキメデス素点 w では消えている。また g1 = g2 でも jw(g1, g1)は意味を持ち、

上記の式が成立する。

従って残る問題は g1 = g2 のときに iv(g1, g1)が定義されていないことであるが、これ

は iv(g1, g2)の明示的な計算と共に次の節で扱われることになる。

54

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6 局所項の比較

まず計算する局所項を特定する。5.1節の ZΦ(g)の定義を α := aq(x) ∈ F× が 0かど

うかで分けて

ZΦ(g) =∑

(x,a)∈(GO(V∞)×KV )\V×A×

ωV,ψ(g)Φ(x; a)Z(x; a)K

Vfin = VAfin だったことに注意して

=∑

a∈A×/F×∞D(K)

ωV,ψ(g)Φ(0; a)c1(LKV)

+∑

α∈F×

∑x∈KV \G(Afin)

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)Z(x)K

を得る。右辺の 1行目を ZΦ,0(g), 2行目を Z∗Φ

(g)で表す。これを使って、⟨ZΦ(g)t1, t2⟩の主要項を

i(Z∗Φ

(g)t1, t2) := ⟨ZΦ(g)t1, t2⟩ −(⟨Z0

Φ(g)t1, t2⟩ +

∑v

jv(Z∗Φ

(g)t1, t2) log qv

)(6.1)

と定める。

この節では

• 局所高さペアリング iv(g1, g2)を自己交叉でない場合に計算し、

• その結果を自己交叉の場合も含めた函数 iv(g1, g2)に拡張する。

こうして拡張した函数と上記の i函数の間の補正項を

i0(g1, g2) := i(g1, g2) −∑

v

iv(g1, g2) log qv

と書けば、最終的に主要部は

i(Z∗Φ

(g)t1, t2) =∑

α∈F×

∑x∈K\G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)i(Z(x)Kt1, t2)

Hecke対応の定義:Z(x)Kt1 =∑

y∈KxK/K t1y を使って

=∑

α∈F×

∑y∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(y;

α

Q(y)

)i(t1y, t2)

55

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自己交叉の項を補正項と局所項に分けて

=∑

α∈F×

∑y∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(y;

α

Q(y)

) ∑v

iv(t1y, t2) log qv

+∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωV,ψ(g)Φ(ζ;

α

Q(ζ)

)i0(t2, t2)

[t2]は [1]を Galois作用 t2 ∈ T (Afin)/T (F )で移したものだから

=∑

v

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) log qv + i0(1, 1)∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωV,ψ(g)Φ(ζ;

α

Q(ζ)

)である。ただし

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) :=∑

α∈F×

∑x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)iv(t1x, t2) (6.2)

とおいた。以下では局所高さペアリング iv(g1, g2)を計算し、それを用いて iv(Z∗Φ

(g)t1, t2)

を求める。不分岐な場合には結果はスペクトルサイドの対応する部分と一致することが確

かめられ、それ以外の場合には両者の差を評価することになる。

計算は幾何的な状況の違いにより

• アルキメデス的な場合• Bv ≅ M2(Fv)となる非アルキメデス素点の場合

– 通常 (ordinary)な場合 (Ev ≅ F⊕2v のとき)

– 超特異 (supersingular)な場合 (Ev/Fv が 2次拡大のとき)

• Bv が斜体のとき (超スペシャルな場合と呼ばれる)

に場合分けされて実行される。

6.1 アルキメデス的な場合

実素点 vを考える。4.4節の記号でXK,v(C) = vG(F )+\H+× vG(Afin)/K である。ア

ルキメデス Green函数の計算には Gross-Zagierの方法 [GZ86, II §2]がそのまま使える。

iv(t1, t2)の計算 Gross-Zagierの構成をざっと復習すると

iv(x1, x2) = gv(x1, x2) = −∫

XK,v(C)

gx1 ∗ gx2

(xj = (zj , gj) ∈ H+ × vG(Afin)/K)は

56

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• 左 vG(F ) × vG(F )不変

• iv((z, g), (z0, g))は z = z0 で調和的で、z0 のまわりで対数型特異点を持つ

を満たす函数である。このようなものを作るには調和函数mg : H+ ×H+ r∆H+ → Cで

• 左∆SL2(R)不変

• ∆H+ に沿って対数型特異点を持つ

を満たすものを vG(F ) 上で平均を取ればよさそうである:iv((z1, g), (z2, g)) =∑γ∈SL2(F )∩gKg−1 mg(z1, γ.z2). しかしこの和の収束性が問題となるため、mg に対する

Laplaceの微分方程式にパラメーター s ∈ Cを付けて指数 sの Legendreの微分方程式と

し、その解 (第 2種 Legendre函数)

Qs(t) :=∫ ∞

0

(t +√

t2 − 1 cosh u)−(s+1) du, (t > 1, s > 0)

から得られるms(z1, z2) = Qs(d(z1, z2)), z1 = z2 ∈ H+

を考える。ここで

d(z1, z2) = 1 +|z1 − z2|2

2y1y2, zj = xj + yji

は H+ の双曲 (SL2(R)不変)計量の双曲コサイン函数である。([GZ86]の s − 1を sと書

いている。)これをアデール群上の函数とするため K の特性函数 1K ∈ C∞c (G(Afin))を

付けてgs((z1, g1), (z2, g2)) :=

∑γ∈vG(F )+/µK

ms(z1, γz2)1K(g−11 γg2)

とおけば、望む局所 Green函数は

iv((z1, g1), (z2, g2)) = c0

(gs((z1, g1), (z2, g2))

)s=0

で与えられる。

特に (zj , gj) = jT (gj) = (i, gj) ∈ CMK(Eab), (gj ∈ T (F )\G(Afin)/K)の場合を考え

よう。分解 (vV, vQ) = (E, 2NE/F ) ⊕ (vE, vN)を思い出す。

T (Fv)\vG(Fv)/T (Fv) ∋ (z, z′) 7−→vN(z + z′) := vN(z′)

vQ(z + z′)∈ F

(z ∈ E, z′ ∈ vE)は定義可能な単射である。これを用いると gv ∈ vG(Fv) = GL2(R)に

対して

d(i, gv.i) = 1 − 2vN(gv)vQ(gv)

57

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と書ける。そこで γ ∈ vG(F ) r T (F )に対して

ms(γ) :=

Qs(1 − 2vN(gv)/vQ(gv)) vN(gv)/vQ(gv) > 0のとき0 それ以外のとき

とおけば、jT (g1) = jT (g2)に対しては (5.2)の記号で

iv(g1, g2) =c0

(gs(jT (g1), jT (g2))

)s=0

,

gs(jT (g1), jT (g2)) =∑

γ∈vG(F )+/µK

ms(γ)1K(g−11 γg2) (6.3)

が得られる。

自己交叉への拡張 上で γ ∈ T (F ) とすると d(i, γ.i) = d(i, i) = 0 となって ms(γ)

は定義されない。しかし T (F )g1K = T (F )g2K の仮定から、γ ∈ T (F ) に対しては

1K(g−11 γg2) = 0となるので (6.3)の和は

gs(jT (g1), jT (g2)) =∑

γ∈(vG(F )+rT (F ))/µK

ms(γ)1K(g−11 γg2)

となって定義可能になっていることに注意する。これは jT (g1) = jT (g2)のときでも意味

を持つから、gs(jT (g1), jT (g2))をの定義をこの式で差し替え、それを使って iv(g1, g2)を

G(Afin) × G(Afin)全体に延ばしておく。

命題 6.1. t1, t2 ∈ T (F )\T (Afin)/KT に対して vMΦ(j(t1, t2), g) := iv(Z∗Φ

(g)t1, t2)は∑α∈F×

c0

( ∑γ∈(vG(F )+rT (F ))/µK

ωV,ψ(j(t1, t2), g)Φ(γ; α)ms(γ))

s=0= vKΦ(j(t1, t2), g).

に等しい。

証明. 上で得られた式を (6.2)に代入すれば

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) =∑

α∈F×

∑x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)iv(t1x, t2)

=∑

α∈F×

x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)c0

( ∑γ∈vG(F )+/µK

ms(γ)1K((t1x)−1γt2))

s=0

=∑

α∈F×

c0

( ∑γ∈vG(F )+rT (F )/µK

ωV,ψ(g)Φ(t−11 γt2;

α

Q(t−11 γt2)

)ms(γ)

)s=0

58

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=∑

α∈F×

c0

( ∑γ∈(vG(F )+rT (F ))/µK

ωV,ψ(j(t1, t2), g)Φ(γ; α)ms(γ))

s=0

は命題の式に等しい。その式が vKΦ(j(t1, t2), g)に一致すること見るには、定理 4.11のvKΦ(j(t1, t2), g)の定義と見較べて

Γ (s + 1)2(4π)s

∫ ∞

1

1t(1 − at)s+1

dt, Qs(1 − 2a)

の s = 0 での挙動が一致することを見ればよい。これは [GZ86, IV] の計算から従う

([YZZb, p.58]参照)。

6.2 通常的な場合

まずは非アルキメデス素点での局所高さ函数を計算するために志村曲線の還元について

非常に簡単に復習しておこう。詳しくは [Car86]を参照されたい。

志村曲線の還元 XK(C) は h0 と同じタイプの Hodge 構造と K レベル構造が付いた

階数 1自由B 加群 (V, h, κ)の同型類を分類する。XK の連結成分の集合 π0(XK)はB

の被約ノルムにより ZD = F×+ \A×

fin/D と同一視されていたが、こちらは 1次元 F ベク

トル空間 L とその positivity: ϵ ∈ Isom(L,F )/F×+ および D レベル構造からなる三つ組

(L, ϵ, λ)の同型類を分類している。XK(C) → ZD(K) は行列式を取る、すなわち V に対して、シンボル ⟨x, y⟩, (x, y ∈ V) で張られる F ベクトル空間を、対称性、F 双線型性、

⟨bx, y⟩ = ⟨x, bιBy⟩, (b ∈ B)の生成する部分空間で割った 1次元空間を対応させることで

得られる。

簡単のためにK は十分小さいとしていたので、XK 上の普遍対象

(VK = G(F )\(V × (H± × G(Afin)/K)

), hK , κK)

がある。同様に ZD の普遍対象 (LD := F×+ \F × A×

fin/D, ϵD, λD) も考えられる。極

大整環 OB ⊂ B で K ⊂ OB となるものを固定する。ただしアーベル群 A に対して

A := A ⊗Z Zと書いている。OB ⊂ B を V 内の OB 加群と見たものを VZ と書けば、各

x ∈ XK に対して VK,x 内の部分 OB 加群 (VK,Z)x := κx(VZ) が定まる。同様の考察が

ZD にも適用される。特に XK , ZD(K) 上の可除群系

VK := VK/VK,Z, LD(K) := LD(K)/LD(K),Z

が得られる。

59

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XK の O 上のモデル XK を思い出す。類体論で F×+ D ⊂ F×

+ \A×fin

∼→ Gal(F ab/F )

に対応する有限次アーベル拡大を FD と書けば、ZD の O モデルは ZD = SpecOD

(OD ⊂ FD は整数環を表す) である。行列式を取る写像 XK → ZD から射 XK → ZD

が得られる。一方、F での O の整閉包を O と書けば、ZD ⊗ F の O 上のモデルはZD := (SpecO)ZD(F ) である。よって還元を調べたい XK ⊗ F の整モデルは

XK := XK ×ZDZD

となる。

ここからはB が不分岐であるような有限素点 v とその F への拡張 v を取り、

XK,v := XK ⊗O Ov, XK,v := XK ⊗O Ov

を考える。K = Kv × Kv , (Kv ⊂ G(Fv), Kv ⊂ G(Avfin)) であるとしてよい。

XK 上の可除群系 VK の pv 部分 VK ⊗ Ov はスペシャル形式 OB,v 加群系 VK と

Drinfeldのレベル構造 α ∈ Isom(p−nv OB,v/OB,v, VK [pn

v ])/K の対 (VK , α) に延びる。

これがモジュラー曲線の法 p還元における楕円曲線の p可除群に当たる役割を果たす。

Fv の剰余体 Fqvの代数閉包 Fを取る。森田同値により OB,v = M2(Ov)上のスペシャ

ル形式加群はある 1次元形式 Ov 加群 E の 2つの直和になる: V = E ⊕ E . Drinfeldレベ

ル構造も E のレベル構造の直和になっている。モジュラー曲線の場合と同様に、XK,v の

スペシャルファイバーの点 xは Ex が連結 (エタール部分を持たない)とき超特異、そうで

ないとき通常であると言う。やはり [KM85]と同様にスペシャルファイバーは超特異点で

交わる井草曲線たちの合併になっている。通常点 xを含むただ一つの井草曲線は Ex のレ

ベル構造の核 λ ∈ P1(Fv)/Kv で決まる。各連結志村曲線XK,v に |P1(Fv)/Kv|だけ井草曲線があるのだから、スペシャルファイバー XK,F 全体の既約成分の集合は

(G(F )+\G(Afin)/K) × P1(Fv)/Kv

と同一視される。

通常点 XK,F ∋ xを通常点とすれば、End(x)Q は v で分解する総虚 2次拡大である。

我々はこの総虚 2次拡大が E である場合だけに関心があるので End(x)Q = E であると

してよい。定義から Ex = E etx ⊕ E 0

x , (エタール部分と単位元の連結成分への分解)があり、

分解 Ev ≅ Evet ⊕ Ev0 で Ev∗ ≅ Fv がそれぞれ E ∗x に作用するようなものが取れる。

このような点 x0 = (E0, Vv0 , κ0)を取り、同一視 E et

0 = Fv/Ov , Vv0 = BAv

fin/Ov

B を固定

する。任意の End(x)Q = E なる通常点 x = (E , Vv, κ)は x0 への同種射 α : x → x0 を

60

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持つので(h, g) := α κ ∈ Hom(O2

v,Ov)× × G(Avfin)

が得られる。(p可除群のレベル構造が h, pの外での通常のレベル構造が gに移る。)ただ

し Hom(−)× は全射準同型の集合を表す。また同種射 αの取り方には

T (F )1v := z ∈ E× = T (F ) | |z|vet = |z|v0 = 1

の元をかけるだけの自由度がある。Hom(O2v,Ov)× を第1成分への射影 pr1 : O2

v ³ Ov

の GL2(Fv)軌道と同一視することで、E による虚数乗法を持つXK,F 内の通常点の集合

は両側剰余類T (F )1v\(P2(Ov)\G(Ov)) × G(Av

fin)/K

でパラメタライズされる。ここで P2 := ( 1 ∗0 ∗ ) ∈ GL2と書いている。この際に

T (Fv) = E×v ∋ z 7−→

(vet(z) 0

0 v0(z)

)∈ G(Fv) = GL2(Fv) (6.4)

と実現していることに注意しよう。通常点 x にそれが乗っている既約成分を対応させる

写像は自然な射影 P2(Ov)\G(Ov) ³ B(Ov)\G(Ov) = P1(Ov)で与えられる。XK,F の

通常点はXK,F の通常点と行列式のレベル構造のペアであり、

T (F )1v\(Uvet(Ov)\G(Ov)) × G(Avfin)/K

でパラメタライズされる。ただし Uvet ⊂ Gv は実現 (6.4)での上三角ユニポテント部分群

である。最後に岩澤分解 G(Fv) = T (Fv)Uvet(Fv)G(Ov)を使えば次が得られる。

補題 6.2. XK,F 内の通常点の集合は

T (F )1v\(Uvet(Ov)\G(Ov)) × G(Avfin)/K

でパラメタライズされる。CMK(Eab)から通常点の集合への法 pvet 還元および、そこか

ら連結成分への射は、次の自然な射で与えられる。

T (F )\G(Afin)/K −→ T (F )1v\(Uvet(Fv)\G(Fv)) × G(Avfin)/K

νB×射影−→ F×+ \A×

fin/D × P1(Fv)/Kv

61

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iv(Z∗Φ

(g)t1, t2). Fv の素元 ϖv を止めておく。x, y ∈ CMK(F ) の幾何的交叉指数

ivet(x, y)は x = y (mod ϖtv)となる最小の有理数 tであった。(xは xの XK での閉包

を表す。)上の補題により法 pvet 還元は Uvet(Fv)で割ることに当たるので、この交叉指

数を Uvet(Fv)Kv/Kv の函数として計算できる。すなわち、Kv = 1 + M2(pnv ) (主合同部

分群)で、共通の還元 xを持つ CMK(F )の元 x(b), (b ∈ Fv)が ( 1 b0 1 ) ∈ Uvet(Fv)に対応

するとき、

ivet(x(0), x(b)) =1

qn−valv(b)−1v (qv − 1)

である [Zha01a,補題 5.5.1]。Uvet(Fv)上の測度 µv を

dµv

((1 b0 1

)):=

1qv − 1

db

|b|vと取れば、上の式は任意の xKv , yKv ∈ G(Fv)/Kv に対して

ivet(xKv, yKv) =1

vol(G(Ov))

∫Uvet (Fv)

∫G(Fv)

1xKv (ugv)1yKv (gv) dgvdµv(u)

=vol(Kv)

vol(G(Ov))

∫Uvet (Fv)

1Kv (x−1uy) dµv(u)

となる。

これらから x1 = T (F )g1K = x2 = T (F )g2K, ∈ CMK(Eab)の局所ペアリングは

ivet(g1, g2) =∑

ζ∈T (F )/µK

ivet(g1,v, ζg2,v)1Kv ((gv1)−1ζgv

2)

で与えられる。アルキメデス的な場合と同様に自己交叉の場合も含めるため、この定義を

ivet(g1, g2) :=∑

ζ∈(T (F )rg1Kg−12 )/µK

ivet(g1,v, ζg2,v)1Kv ((gv1)−1ζgv

2)

と変形しておく。

さて、これを代入して

ivet(Z∗Φ

(g)t1, t2) =∑

α∈F×

x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)ivet(t1x, t2)

=∑

α∈F×

x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)∑

ζ∈(T (F )rt1xKt−12 )/µK

ivet(t1,vxv, ζt2,v)1Kv ((x−1t−11 ζt2)v)

62

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ζ /∈ t1xKt−12 から x /∈ t−1

1 ζt2K だが、(x−1t−11 ζt2)v ∈ Kv から xv ∈ (t−1

1 ζt2K)v なので、

=∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωVv,ψv (gv)Φv((t−1

1 ζt2)v;α

Q(t−11 ζt2)v

( ∑xv∈(G(Fv)r(t−1

1 ζt2K)v)/Kv

ωVv,ψv (gv)Φv

(xv;

α

Q(xv)

)ivet(t1,vxv, ζt2,v)

)

を得る。ここで右辺の括弧内は、dµv が Ad(T (Fv))で不変なことに注意して∑xv∈(G(Fv)r(t−1

1 ζt2K)v)/Kv

ωVv,ψv (gv)Φv

(xv;

α

Q(xv)

∫Uvet (Fv)

1Kv (x−1v t−1

1,vuζt2,v) dµv(u)

=∫

Uvet (Fv)

∑xv∈(G(Fv)r(t−1

1 ζt2K)v)/Kv

ωVv,ψv (gv)Φv

(xv;

α

Q(xv)

)× 1Kv (x−1

v t−11,vζt2,vu) dµv(u)

=∫

Uvet (Fv)rKv

ωVv,ψv (gv)Φv

(t−11,vζut2,v;

α

Q(t−11,vζut2,v)

)dµv(u)

の vol(Kv)/vol(G(Ov))倍に等しい。結局、

ivet(Z∗Φ

(g)t1, t2) =∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωVv,ψv (gv)Φv((t−1

1 ζt2)v;α

Q(t−11 ζt2)v

)∫

Uvet (Fv)rKv

ωVv,ψv (gv)Φv

(t−11,vζut2,v;

α

Q(t−11,vζut2,v)

)dµv(u)

=∑

α∈F×/µ2K

ζ∈T (F )

ωVv,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(ζ; α)nvet

(ωVv,ψv

(j(t1,v, t2,v), gv)Φv; ζ; α),

ただし

nvet(Φv; ζ; α) =vol(Kv)

vol(G(Ov))

∫Uvet (Fv)rKv

Φv(ζu; α) dµv(u)

=vol(Kv)

vol(G(Ov))Φ1,v(ζ;α)

∫Fvruvet

Φ2,v

(0 b0 0

); α

) db

(qv − 1)|b|v

が得られる。ここで uvet := x ∈ Fv | ( 1 x0 1 ) ∈ Kvと書いている。

63

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最後に vet の代わりに v0 を考えると、T (Fv)の実現の仕方から上三角ユニポテント部

分群 Uvet が下三角部分群 Uv0 で置き換えられた結果が得られる。これらを併せて次が得

られる。

命題 6.3. (i) t1, t2 ∈ T (F )\T (Afin)/KT に対して

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) = ivet(Z∗Φ

(g)t1, t2) + iv0(Z∗Φ

(g)t1, t2)

= vNΦ(j(t1, t2), g)

:=∑

α∈F×/µ2K

ζ∈T (F )

ωVv,ψv (j(t1, t2), g)Φv(ζ; α)nv

(ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v), gv)Φv; ζ;α

).

ただし uv0 := x ∈ Fv | ( 1 0x 1 ) ∈ Kvとして

nv(Φv; ζ; α) =vol(Kv)

vol(G(Ov))Φ1,v(ζ; α)

qv − 1

×(∫

Fvruvet

Φ2,v

(0 b0 0

); α

) db

|b|v+

∫Fvruv0

Φ2,v

(0 0c 0

); α

) dc

|c|v

)である。

(ii) Weil表現についての同変性 nv(ωVv,ψv (b)Φv; z; a) = ωVv,ψv (b)nv(Φv; z; a), b ∈ B(Fv)

が成り立つ。さらにKv = G(Ov)で Φv = 1OB,v×O×vならば

nv(ωVv,ψv (gv)Φv; z; a) =(log hB(gv) +

log |aνB(z)|v2

)ωVv,ψv (gv)Φv(z; a)

である。

(iii)分岐している場合でも Φv ∈ S0(Vv × F×v )ならば、nv(Φv; z; a)は S(Ev × Fv)の元

に延びる。

6.3 超特異的な場合

ここでもBv ≅ M2(Fv)となる v を固定して、XK,F の超特異点を考える。(Fは Fv の

剰余体の代数閉包。) K0 := G(Ov)Kv と書けば、XK,F の超特異点はXK0,F のそれと一

致する。超特異点 x0 = (V0, Vv0 , κ0)を取れば、4.4の記号で End(x0)Q = vB である。特

に x0 が E で虚数乗法を持つなら、E ⊂ vBから Ev/Fv は二次拡大でなくてはならない。

やはり κ0 によって Vv0 = V v

Afinと同一視しておく。任意の超特異点 x = (V , Vv, κ)に

64

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対して、pv と素な同種射 α : x → x0 が vG(F )1 := vG(F ) ∩ O×vB,v 倍を除いてただ一つ

ある。これに g := α κ ∈ G(Avfin)を対応させれば、XK,F の超特異点は

vG(F )1\G(Avfin)/Kv = vG(F )\vG(Afin)/vK

でパラメタライズされる。ただし vK := O×vB,v × Kv と書いている。これに行列式のレ

ベル構造のパラメーターを加えて次が得られる。

補題 6.4. XK,F 内の超特異点の集合は

vG(F )1\O×v × G(Av

fin)/K = vG(F )\F×v × vG(Afin)/vK

でパラメタライズされる。ただし後者で vG(F ), vK は F×v に被約ノルムを通じて作用す

る。CMK(Eab)から超特異点の集合への法 pv 還元および、そこから連結成分への射は

T (F )\G(Afin)/K −→ vG(F )\F×v × vG(Afin)/vK −→ F×

+ \A×fin/D

で与えられる。ここで最初の射は g 7→ (det gv, gv), 2 つ目は (av, gv) 7→ avνB(gv) で

ある。

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2). 補題の CMK(Eab)から超特異点の集合への法 pv 還元は

vG(F )\(vG(F ) ×T (F ) G(Fv)) × G(Avfin)/K −→ vG(F )\F×

v × G(Avfin)/vK

と書ける。よってこの場合の幾何的交叉指数は

νvBνB : vG(Fv) ×T (Fv) G(Fv)/Kv −→ F×v /Dv

のファイバー上の分布として記述される。ただし実際には、Grossの (準)標準リフトの理

論が適用できる Kv が極大コンパクト部分群Kv = G(Ov)のとき以外は、交叉指数を明

示的に記述することはできない。

そこでまずは Kv = Kv の場合の結果を紹介する。非アルキメデス対称多様体

T (Fv)\G(Fv)の Cartan分解

G(Fv) = GL2(Fv) =∐n∈N

T (Fv)(

ϖ−n 00 1

)Kv

がある [JL70, §7]。よって (vG(Fv)×T (Fv)G(Fv))/Kv ≅ vG(Fv)×T (Fv)\G(Fv)/Kv の

元を (γ, e∨1 (ϖ−n) :=(

ϖ−n 00 1

))と書ける。このとき幾何的交叉指数 iv((h, e∨1 (ϖ−n), (1, 1))

65

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mv(h, e∨1 (ϖ−n)) :=

12

(1 + valv

(vN(h)vQ(h)

))n = 0のとき

1/q2n−2v (q1

v + 1) n > 0で Ev/Fv が不分岐

1/2qnv n > 0で Ev/Fv が分岐

で与えられる [Zha01a, 補題 5.5.2]。一般の Kv の場合には mv を具体的に書くことはで

きず、ただ

mv((h, 1), (1, 1)) =12valv

(vN(h)vQ(h)

)1vK(h) + m′

v(h)

の形の表記の存在が示せるだけである。ここで m′v(h) は vG(Fv) 上の局所定数函数で

ある。

いずれにせよ vG(Fv)×T (Fv) G(Fv)/Kv r (1, 1)上の函数mv があって、局所高さペ

アリングは

iv(g1, t2) =∑

γ∈vG(F )/µK

iv((1, g1,v), (γ, t2,v))1Kv ((gv1)−1γtv2)

(γ, t2,v) = (γt−12,v, 1)だから

=∑

γ∈vG(F )/µK

mv(γt2,v, g−11,v)1Kv ((gv

1)−1γtv2)

と書ける。ここでも自己交叉 (γt2,v, g−11,v) = (1, 1),すなわち γ ∈ T (F ) ∩ g1Kt−1

2 の場合

を含めるために、

iv(g1, t2) :=∑

γ∈(vG(F )rT (F )∩g1Kt−12 )/µK

mv(γt2,v, g−11,v)1Kv ((gv

1)−1γtv2)

=∑

γ∈(vG(F )rT (F ))/µK

mv(γt2,v, g−11,v)1Kv ((gv

1)−1γtv2)

+∑

γ∈(T (F )rg1Kt−12 )/µK

mv(γt2,v, g−11,v)1Kv ((gv

1)−1γtv2)

(6.5)

と定義を変形しておく。

目標である iv(Z∗Φ

(g)t1, t2)を記述するために次の函数を導入する。

mv(Φv, hv, av) =∫

G(Fv)

mv(hv, g−1v )Φv(hv, aνB(hvg−1

v ))dgv

vol(Kv),

nv(Φv, hv, av) =∫

G(Fv)rhvKv

mv(hv, g−1v )Φv(hv, aνB(hvg−1

v ))dgv

vol(Kv).

66

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前者は (G(Fv) r T (Fv)) × F×v ,後者は E×

v × F×v 上の函数である。

命題 6.5. (i) t1, t2 ∈ T (F )\T (Afin)/KT に対して

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) = vMΦ(j(t1, t2), g) + vNΦ(j(t1, t2), g)

である。ただし

vMΦ(j(t1, t2), g) :=∑

α∈F×/µ2K

∑γ∈vV rE

ωV,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(γ; α)

mv(ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v), gv)Φv, γ, α),

vNΦ(j(t1, t2), g) :=∑

α∈F×/µ2K

∑ζ∈E×

ωV,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(ζ; α)

ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v))nv(ωVv,ψv (gv)Φv, γ, α).

(ii) Φv がOB,v ×O×v の特性函数で、ψv が位数 0, Kv = Kv (極大コンパクト部分群)、さ

らに Ev/Fv が不分岐か v - 2であるとする。このとき命題 4.5の記号で

keωVv,ψv (j(t1,v,t2,v))Φv(α)(y; gv) = mv(ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v), gv)Φv, y, α) log qv,

nv(ωVv,ψv (gv)Φv, z, a) log qv =(log hB(gv) +

log |ανB(z)|v2

)ωVv,ψv (gv)Φv(z; a),

従って vKΦ(j(t1, t2), g) = vMΦ(j(t1, t2), g) log qv が成り立つ。

(iii)一般の場合でも Φv ∈ S0(Vv × F×v )なら、mv(Φv), nv(Φv)はそれぞれ S(Vv × F×

v ),

S(Ev × F×v )の元に延びる。

証明. (スケッチ) (i) (6.5)を代入して、iv(Z∗Φ

(g)t1, t2)は∑α∈F×

∑x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)∑

γ∈(vG(F )rT (F ))/µK

mv(γt2,v, x−1v t−1

1,v)1Kv ((tv1xv)−1γtv2)

∑α∈F×

∑x∈G(Afin)/K

ωV,ψ(g)Φ(x;

α

Q(x)

)∑

ζ∈(T (F )rt1xKt−12 )/µK

mv(ζt2,v, x−1v t−1

1,v)1Kv ((tv1xv)−1ζtv2)

67

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の和である。ここでは第 2 式の方を解説する。まず (tv1xv)−1ζtv2 ∈ Kv から xv ∈

(tv1)−1ζtv2K

v だが、内側の和の条件から xv /∈ t−11,vζt2,vKv でなくてはならない。よって

第 2式は∑α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωVv,ψv (gv)Φv(tv1

−1ζtv2;α

Q(tv1−1ζtv2)

)∑

xv∈(G(Fv)rt−11,vζt2,vKv)/Kv

ωVv,ψv (gv)Φv

(xv;

α

Q(xv)

)mv(t−1

1,vζt2,v, x−1v )

=∑

α∈F×/µ2K

ζ∈E×

ωVv,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(ζ; α)

∑xv∈(G(Fv)rt−1

1,vζt2,vKv)/Kv

ωVv,ψv (gv)Φv

(xv;

αQ(ζ)Q(xv)

)mv(t−1

1,vζt2,v, x−1v )

となって vNΦ(j(t1, t2), g)に一致する。同様に第 1式が vMΦ(j(t1, t2), g)になることも

示せる。

(ii) は不分岐な場合に mv(Φv, y, α) を計算して、それを kΦv(α)(y; 1) と比較して得

られる。(両辺とも j(T (Fv), T (Fv)) × B(Fv) の作用が Weil 表現になっていて Kv 不

変だから、岩澤分解 G(Fv) = B(Fv)Kv を使えば、j(1, 1) × 1 のときの等式を任意の

j(t1,v, t2,v) × gv のそれに延ばせる。)

6.4 超スペシャルな場合

最後にBvが斜体である有限素点 vとその F への拡張 vを取って、XK,v := XK⊗OOv ,

XK,v := XK ⊗ OOv の法 pv 還元を考える。例によって剰余体 Ov/pv の代数閉包 F を固定しておく。

まず Kv := O×B,v ⊂ G(Fv) として K0 := Kv × Kv ⊂ G(Afin) とおく。Cherednik-

Drinfeldの p進一意化定理により、XK0 の pv でのスペシャルファイバーにそっての形式

完備化 XK0 はXK0

∼−→ vG(Fv)\ΩFv ⊗Onrv × G(Av

fin)/Kv

と一意化される [BC91]。ただし ΩFv は p進上半平面 ΩFv を性性ファイバーに持つ形式

スキームで、自然な vG(Fv) = GL2(Fv)作用を備えている。一方、Onrv への gv ∈ vG(F )

の作用は Frobenius自己同型の −valv(det gv)乗で与えられる。Ωは連結なので、上の同

型からXK,F の連結成分の集合は vG(F )\Z × G(Avfin)/Kv と同一視される。さらに ΩFv

68

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のスペシャルファイバーの既約成分は階数 2の Ov 格子の F×v 軌道 (PGL2 の Titsビルの

スペシャル点の集合)でパラメタライズされるから、XK0 の既約成分の集合は

vG(F )\(vG(Fv)/F×v

vG(Ov)) × Z × G(Avfin)/Kv ≅ vG(F )e\vG(Afin)/vG(Ov)Kv

と同一視される。ここで vG(F )e := g ∈ vG(F ) | valv(det g) ∈ 2Zと書いている。今の場合、可除群系 V の pv 部分は連結な形式群に延びるため、XK,v → XK0,v は v で純非

分離になっている。従ってXK,v の既約成分の集合も上で記述したXK0,v のそれと同じ

である。

次に F上の 1次元で高さが 2の形式Ov 加群 ΩF は同型を除いて一意である。XK0,F 上

の点 xは対応する形式OB,v 加群 VF が Ω⊕2F に同型なとき、超スペシャルと呼ばれる。原

点となる超スペシャル点 x0 = (V0, V0, κ0)を止め、κ0 で V0 = VAvfinを同一視しておく。

超スペシャル点 x = (V , V, κ)に対して準同種射 α : x → x0 が与える α κ ∈ G(Avfin)を

対応させることで、XK0,F 内の超スペシャル点の集合は

vG(F )1\vG(Avfin)/Kv

と一対一対応する。ただし vG(F )1 = vG(F ) ∩ vG(Ov)である。

現在の状況では Ev ⊂ Bv は分解し得ないことに注意する。点 x ∈ CMK(Eab) が

v スペシャルとは、その自己準同型環が v で OE,v であることとする。詳細は略すがこれ

までと同じような議論により次が得られる。

補題 6.6. CMK0(Eab)内の v スペシャル点の集合は T (F )v,1\G(Av

fin)/Kv と同一視され

る。ただし T (F )v,1 := T (F ) ∩ vG(F )1 である。さらにこれらの点の法 pv 還元は超スペ

シャル点となり、法 pv 還元およびその既約成分を取る写像は自然な射

T (F )v,1\G(Avfin)/Kv −→ vG(F )1\vG(Av

fin)/Kv −→ vG(F )e\vG(Avfin)/vG(Ov)Kv

で与えられる。

よってこの場合の局所交叉ペアリングは vG(F1)/T (F )v,1 で計算される。v スペシャル

点 x0 を止め、もう一つの v スペシャル点が gv ∈ vG(Ov)/T (Ov) に対応するとすると、

それらの間の幾何的交叉指数は

mv(gv) =

valv(vN(gv)/vQ(gv))/2 Ev/Fv が不分岐のとき

(valv(vN(gv)/vQ(gv)) + 1)/2 Ev/Fv が分岐するとき

で与えられる [Zha01a, 補題 5.5.5]。K0 を一般の K にするとこのような明示式は得られ

ないが、超特異点の場合と同様にある開コンパクト部分群 vKv ⊂ vG(Fv)と局所定数函

69

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数m′v があって

mv(gv) =valv(vN(gv)/vQ(gv))

21vKv (gv) + m′

v(gv)

と書けることが示せる。これらを使って超特異点の場合と似た議論をすることにより次が

得られる。

命題 6.7. (i) t1, t2 ∈ T (F )\T (Afin)/KT に対して

iv(Z∗Φ

(g)t1, t2) = vMΦ(j(t1, t2), g) + vNΦ(j(t1, t2), g).

ただし

vMΦ(j(t1, t2), g) :=∑

α∈F×/µ2K

∑γ∈vV rE

ωV,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(γ; α)

mv(ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v), gv)Φv, γ, α),

vNΦ(j(t1, t2), g) :=∑

α∈F×/µ2K

∑ζ∈E×

ωV,ψv (j(tv1, tv2), g

v)Φv(ζ;α)

ωVv,ψv (j(t1,v, t2,v))nv(ωVv,ψv (gv)Φv, γ, α).

であり、mv(Φv, gv, av), nv(Φv, gv, av)は命題 6.5と同じ式で定義される。

(ii)一般の場合でも Φv ∈ S0(Vv × F×v )なら、mv(Φv), nv(Φv)はそれぞれ S(Vv × F×

v ),

S(Ev × F×v )の元に延びる。

7 最終比較—定理 3.1の証明

ここでは 4, 5 節でそれぞれ導入されたスペクトル、幾何核函数を比較して、それらと

ウェイト 2の正則 Hilbert保型形式 φ ∈ A(π)の内積が一致することを示す。得られた等

式と系 4.2,補題 5.2から Gross-Zagier公式 (定理 3.1)が従う。

7.1 擬テータ級数

スペクトル、幾何核函数の比較の際に両者の計算できない項を相殺する際に用いられる

擬テータ級数を用意しておく。

70

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全ての実素点で正定値な F 上の二次空間の列 (V0, Q0) ⊂ (V1, Q1) ⊂ (V2, Q2) を考え

る。素点の有限集合 S と ΦS ∈ S(V2,AS × (AS)×)KS

GO(V2,∞) を止めておく (4.2 節参照)。

各 S ∋ v での局所定数函数 Φv : G∗(Fv) × (V1(Fv) r V0(Fv)) × F×v → Cで

• G∗(Fv)の右移動作用に関して滑らか (ある開コンパクト部分群の作用で不変)。

• 各 gv ∈ G∗(Fv)に対して Φv(gv, xv; av)は (V1(Fv) r V0(Fv)) × F×v 上で有界。

であるものに対して、擬テータ級数を

A(S)

Φ(ΦS ; g) :=

∑α∈F×/µ2

K

∑ξ∈V1rV0

ωV2,ψS (gS)ΦS(ξ; α)ΦS(gS , ξ; α), g ∈ G∗(A)

と定める。これは 4.2節のスペクトル核函数と同様に収束する。

ΦS(gS)がWeil表現と U(FS)同変:

ΦS

((1 b0 1

)gS , xS ; aS

)= ψS

(αbQ(xS)

2

)ΦS(gS , xS ; aS), b ∈ FS

であるとき、A(S)

Φ(ΦS ; g) はWhittaker型であると言われる。また ΦS(1) が S(V1(FS) ×

F×S ) の元に延びるとき、A

(S)

Φ(ΦS ; g) は非特異であるという。非特異擬テータ級数

A(S)

Φ(ΦS ; g)に対しては第1テータ級数

θ(S)

Φ,V1(g) :=

∑α∈F×/µ2

K

∑ξ∈V1

ωV1,ψ(g)(ΦS ⊗ ΦS(1))(ξ; α)

および第 2テータ級数

θ(S)

Φ,V0(g) =

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ∈V0

ωV1,ψ(g)(ΦS ⊗ ΦS(1))(ζ; α)

が定まる。ただし簡略のため Φ := ΦS ⊗ ΦS(1)と書いている。

71

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補題 7.1 ([YZZb],補題 6.1.1). 二次空間列 Vj,0 ⊂ Vj,1 ⊂ Vj,2 に対するWhittaker型非特異

擬テータ級数の有限族 A(Sj)

Φj(ΦSj ; g)j と、T0(A)の保型指標の同値類 µ

k= µk,1 £ µk,2

に付随する Eisenstein級数 Ek と Eiesenstein級数の微分 Dk の有限族 (Ek, Dk)k が与

えられているとする。 ∑j

A(Sj)

Φj(ΦSj ; g) +

∑k

(Ek + Dk)(g)

が G∗(A)上のカスプ形式ならば∑j

A(Sj)

Φj(ΦSj ; g) =

∑j ; Vj,2=Vj,1

θ(Sj)

Φj ,Vj,1(g),

∑j ; dim Vj,2−dim Vj,1=k

θ(Sj)

Φj ,Vj,1(g) =

∑j ; dim Vj,2−dim Vj,0=k

θ(Sj)

Φj ,Vj,0(g),

∑k

Dk = 0

が成り立つ。

7.2 Gross-Zagier公式の証明

まず系 4.2と命題 4.3から

ζF (2)L′(1/2, π, χ)4L(1, π, Ad)

∏v-∞

αχv (ϕv, ϕ∨v ) = L(1, ωE/F )⟨φ, I ′χ(Φ, 0)⟩G∗

=2gL(1, ωE/F )vol(KT )

×⟨φ,

∑t∈T (Afin)/T (F )KT

Pr(2)† J ′(ωV,ψ(j(t, 1))Φ, s; g

)χ(t)

⟩G∗

(7.1)

である。定理 4.11で Φを ωV,ψ(j(t, 1))Φで置き換えたものの右辺のうち

(a) 3行目の項

A(v)Eis(t, g) :=

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ∈E×

ceωVv,ψv (j(tv,1))Φv(α)(ζ; gv)ωVv,ψv (j(tv, 1), gv)Φv(ζ;α)

は 0 ⊂ E ⊂ vV に対する非特異擬テータ級数である。

72

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(b) 同様に 4行目の項

A(τ)spec(t, g) := −c1

∑α∈F×/µ2

K

∑ζ1∈E×

ωV,ψ(j(t, 1), g)Φ(ζ1;α)

も 0 ⊂ E ⊂ τV に対する非特異擬テータ級数である。

次に幾何サイドの結果をまとめてみよう。5.1節に戻って

Hχ(Φ; g) =∫∫

(T (F )\T (Afin))2⟨ZΦ(g)[t1]K , [t2]K⟩NT χ(t1t−1

2 ) dt1dt2

=∫∫

(T (F )\T (Afin))2⟨ZΦ(g)[t1t−1

2 ]K , [1]K⟩NT χ(t1t−12 ) dt1dt2

=vol(KT )2|CK |∑

t∈T (F )\T (Afin)/KT

⟨ZΦ(g)[t]K , [1]K⟩NT χ(t)

(7.2)

である。ただし CK = CK(Eab) と T (F )\T (Afin)/KT を jT により同一視している。6

節の結果を使うと

⟨ZΦ(g)[t]K , [1]K⟩NT(6.1)= i(Z∗

Φ(g)t, 1) +

∑v

jv(Z∗Φ

(g)t, 1) log qv

+ ⟨Z0Φ

(g)[t]K , [1]K⟩NT

=∑

v

(iv(Z∗

Φ(g)t, 1) + jv(Z∗

Φ(g)t, 1)

)log qv

+ i0(1, 1)∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωV,ψ(g)Φ(ζ;

α

Q(ζ)

)+ ⟨Z0

Φ(g)[t]K , [1]K⟩NT

命題 6.1, 6.3, 6.5, 6.7および (5.3)を使って

=∑

v ; Ev ≅F⊕2v

1|CK |

∑t′∈CK

vMΦ(j(tt′, t′), g) log qv

+∑

v

1|CK |

∑t′∈CK

(vNΦ(j(tt′, t′), g) + jv(Z∗

Φ(g)tt′, t′)

)log qv

+ i0(1, 1)∑

α∈F×

∑ζ∈T (F )/µK

ωV,ψ(g)Φ(ζ;

α

Q(ζ)

)+ ⟨Z0

Φ(g)[t]K , [1]K⟩NT

が得られる。

ここで不分岐な素点以外では Φv を正則 Schwartz函数の空間 S0(Vv × F×v )から取って

おく。すると

73

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(c) アルキメデス素点では vMΦ(j(tt′, t′), g) log qv = vKΦ(j(tt′, t′), g) (命題 6.1)。

よって我々の測度の選び方 (10ページ (A))から

1|CK |

∑t′∈CK

vMΦ(j(tt′, t′), g) log qv =1

|CK |∑

t′∈CK

vKeωV,ψ(j(t,1))Φ(j(t′, t′), g)

=1

vol(T (F )Z(A)\T (A))

∫T (F )Z(A)\T (A)

vKeωV,ψ(j(t,1))Φ(j(t′, t′), g) dt′

=L(1, ωE/F )J ′(Φ, 0; g)

2L(1, ωE/F )=

J ′(Φ, 0; g)2

.

(d) E で惰性的な非アルキメデス素点 v を考える。

vMΦ(j(tt′, t′), g) log qv − vKΦ(j(tt′, t′), g)

は命題 6.5 (ii)からほとんど全ての v で消えていて、同命題 (iii)から残る素点でも

E ⊂ vV ⊆ vV に対する非特異擬テータ級数 A(v)vV (j(tt′, t′), g) である。よって (c)

と同様にして

1|CK |

∑t′∈CK

vMΦ(j(tt′, t′), g) log qv =J ′(Φ, 0; g)

2+ A

(v)vV (t, g)

を得る。ここで A(v)vV (t, g)は A

(v)vV (j(tt′, t′), g)を t′ ∈ CK について平均した擬テー

タ級数である。

(e) 非アルキメデス素点 v での

vNΦ(j(tt′, t′), g) log qv

−∑

(ζ,α)∈(E××F×)/µK

(log hB(gv) +

log |αNE/F (ζ)|v2

)ωV,ψ(j(tt′, t′), g)Φ(ζ; α)

はほとんど全ての v で消えており (命題 6.3, 6.5の (ii))、残る非アルキメデス素点

では 0 ⊂ E ⊂ vV に対する非特異擬テータ級数 A(v)E (j(tt′, t′), g)である (命題 6.3,

6.7, 6.5の (iii)より)。その t′ ∈ CK についての平均を A(v)E (t, g)で表す。

(f) jv(Z∗Φ

(g)tt′, t′) log qv はそれ自体が 0 ⊂ vV ⊂ vV に対する非特異擬テータ級数の

有限線型結合である。その t′ ∈ CK についての平均を B(v)(t, g)とおく。

(g) i0(1, 1) に始まる項も 0 ⊂ E ⊂ V に対する非特異擬テータ級数である。その

t′ ∈ CK についての平均を A(τ)geo(t, g)で表す。

(h) Hodge 類の寄与 ⟨Z0Φ

(g)[t]K , [1]K⟩NT は Eisenstein 級数およびその微分の線型結

合である。

74

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これらを上の式に代入すれば、Eisenstein級数とその微分を法とした等式

⟨ZΦ(g)[t]K , [1]K⟩NT =∑v|∞

J ′(Φ, 0; g)2

+∑v-∞

E で惰性的

(J ′(Φ, 0; g)2

+ A(v)vV (t, g)

)

+∑

(ζ,α)∈(E××F×)/µK

(log hB(gfin) +

log |αNE/F (ζ)|Afin

2

)ωV,ψ(g)Φ(ζ; α)

+∑v-∞

(A

(v)E (t, g) + B(v)(t, g)

)+ A(τ)

geo(t, g)

=12Pr

(2)† J ′(Φ, 0; g) +

∑v-∞, E で惰性的

A(v)vV (t, g)

+∑v-∞

(A

(v)E (t, g) + B(v)(t, g) −

A(v)Eis(t, g)

2

)+ A(τ)

geo(t, g) − A(τ)spec(t, g)

(7.3)

が得られる。よって擬テータ級数や Eisenstein級数の微分と φの Petersson内積を法とす

れば (7.1)は

ζF (2)L′(1/2, π, χ)4L(1, π, Ad)

∏v-∞

αχv (ϕv, ϕ∨v )

≡2g+1L(1, ωE/F )vol(KT )⟨φ,

∑t∈CK

⟨ZΦ(g)[t]K , [1]K⟩NT χ(t)⟩

G∗

同一視 CK = T (F )\T (Afin)/KT と (7.2)を使って

=2g+1L(1, ωE/F )|CK |vol(KT )

⟨φ,Hχ(Φ; g)⟩G∗

|CK |vol(KT ) = vol(T (F )\T (Afin)) = vol(T (F )Z(F∞)\T (A))vol(Z(F∞)\T (F∞)) =2g+1L(1, ωE/F )だから、補題 5.2と併せて

=⟨YK,χ, Tϕfin⊗ϕ∨fin

YK,χ⟩NT

となって Gross-Zagier公式を与える。

(7.3)の右辺の擬テータ級数および Eisenstein級数の微分の和を∑

j A(Sj)

Φj(ΦSj ; t, g) +∑

k (Ek + Dk)(t, g)と書く。その各項に対して

A(Sj)

Φj(ΦSj ; g)χ :=

∑t∈CK

A(Sj)

Φj(ΦSj ; t, g)χ(t)

Dk(g)χ :=∑

t∈CK

Dk(t, g)χ(t)

75

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などと定める。後は∑

j A(Sj)

Φj(ΦSj ; g)χ +

∑k Dk(g)χ と φの Peterssonペアリングが消

えることを示せばよい。実際にはこの和をそのカスプ成分(∑j

A(Sj)

Φj(ΦSj ; g)χ +

∑k

Dk(g)χ

)0

で置き換えてよい。補題 7.1を適用すれば、このカスプ成分は擬テータ級数の第1テータ

級数である vV に対するテータ級数の和∑v

∫∫(T (F )Z(A)\T (A))2

vθ(j(tt′, t′), g)χ(t) dtdt′

となる。ここで 19ページのシーソーデュアルペアに関する議論から⟨φ,

∫∫(T (F )Z(A)\T (A))2

vθ(j(tt′, t′), g)χ(t) dtdt′⟩

G∗=

∑i

Pχ(vϕi)Pχ−1(vϕ∨i )

であることに注意しよう。ただし vϕi は π の vG への Jacquet-Langlands リフト πvB

に属する保型形式である。ところが vB の定義と齋藤・Tunnell の公式 (事実 1.1) から

HomT (Fv)(πvBv , χ−1v ) = 0だから Pχ(vϕi) = 0とならねばならず、問題のペアリングは

消えるしかない。

この証明では常に Φv ∈ S0(Vv × F×v )であることを仮定してきた。しかしこれを満た

す Φに対するテータ積分 θΦ(ϕ)たちは A(πB) £ A(π∨B)を張っているから、定理 3.1は

任意の ϕ ∈ A(πB), ϕ∨ ∈ A(π∨B)に対して成り立つ。 (証明終)

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