19
X線分析の進歩 第 41 集(2010)抜刷 Advances in X-Ray Chemical Analysis, Japan, 41 (2010) アグネ技術センター ISSN 0911-7806 (社)日本分析化学会X線分析研究懇談会 © 高感度ハンディー全反射蛍光 X 線分析装置 国村伸祐,河合 潤 Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

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X線分析の進歩 第 41 集(2010)抜刷Advances in X-Ray Chemical Analysis, Japan, 41 (2010)

アグネ技術センターISSN 0911-7806

(社)日本分析化学会X線分析研究懇談会 ©

高感度ハンディー全反射蛍光 X線分析装置

国村伸祐,河合 潤

Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometerfor Ultra Trace Elemental Determination

Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

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X線分析の進歩 41 29

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

Adv. X-Ray. Chem. Anal., Japan 41, pp.29-44 (2010)

京都大学大学院工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 〒606-8501

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

国村伸祐,河合 潤

Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometerfor Ultra Trace Elemental Determination

Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

Department of Materials Science and Engineering, Kyoto UniversitySakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan

(Received 8 January 2010, Revised 25 January 2010, Accepted 26 January 2010)

   It has been believed that the use of high power monochromatic incident X-rays such asmonochromatic synchrotron radiation is essential for improving detection limits in the total reflectionX-ray fluorescence (TXRF) analysis. On the other hand, we have reported that polychromaticexcitation improves detection limits in the TXRF analysis compared with monochromatic excitation.We have developed portable TXRF spectrometers using polychromatic X-rays from a low power(several watts) X-ray tube, and a 10 pg (10–11 g) detection limit is achieved with the weak polychromaticX-rays. This low detection limit is obtained using the following methods with polychromaticexcitation: (1) measuring smaller amounts of a sample, (2) optimization of a tube voltage, and tubecurrent, (3) optimization of a glancing angle, (4) the use of an appropriate target material of an X-ray tube, and (5) the use of an X-ray waveguide. In the present paper, experimental set-up of thepresent portable spectrometer and the change of detection sensitivity by changing experimentalconditions such as tube voltage are explained. Applications to trace elemental analysis of urine andpigments are also shown.[Key words] Total reflection X-ray fluorescence, Portable spectrometer, Polychromatic X-rays,Low power X-ray tube

 全反射蛍光X線分析では,入射X線の単色化およびシンクロトロン放射光のような高強度X線源の利用によ

り,スペクトルの信号対バックグラウンド強度比を高めることが検出感度を向上させるために必要不可欠であ

ると考えられてきた.一方,われわれは数ワットの自然空冷式X線管からの非単色X線を用いるハンディー全

反射蛍光X線分析装置を開発してきた.従来の定説に反して,入射X線を単色化せずに使用する方が検出下限

を改善できることを本装置の開発過程で明らかにした.また,非単色X線を使用する際には試料量を少なくし

て測定することで試料自体からの入射X線の散乱を減少させ,検出感度を向上させることができた.さらに,最

適なX線管ターゲットの選択,X線管の管電圧,管電流,入射X線の視射角の最適化,X線導波路の利用によ

り,本装置は微弱X線管を使用しているにもかかわらず,シンクロトロン放射光に迫る 10 pg (10–11 g)の検出

下限を達成した.本稿では,ハンディー装置の概要,管電圧などの測定条件を変えると検出感度がどのように

解 説

Page 4: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

30 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

Fig.1 Improvement of detection limits in the TXRF analysis 11).

変化するかについて解説し,生体試料や顔料の元素分析への応用例を紹介する.

[キーワード]全反射蛍光X線分析,ポータブル装置,非単色X線,微弱X線源

1. はじめに

 1971年にYonedaら 1)は全反射蛍光X線分析

法を提唱し,1 ngの検出下限を達成した.続い

て,Wobrauschekら 2)は,ng量の検出下限を得

るとともに,一から数百 ppmの濃度範囲におい

て試料溶液中の元素濃度に比例して蛍光X線強

度が強くなることを報告した.1980年に Knoth

ら3)は,ローパスフィルターを用いた全反射蛍

光X 線分析装置を開発し,数pgの検出下限を達

成した.ローパスフィルターを利用して全反射

しない入射X 線の高エネルギー成分を除去する

ことにより,散乱 X線スペクトルの低エネル

ギー側のテーリングによるバックグラウンドを

低減することができる.1984年に Iidaら 4)は,

入射X線を単色化することでバックグラウンド

が減少し,検出感度を向上させることができる

と報告した.当時 Si(Li)検出器がよく用いられ

ていたが,最大積算計数率は104 counts/s程度で

あり,シンクロトロン放射光や回転対陰極X線

管のような高強度X線源を使用すると,試料自

体や試料台表面の凹凸による散乱X線が強くな

りすぎて検出器が飽和するといった問題があっ

た.モノクロメータを用いることで強力X線源

の本来の能力を発揮して使用することが可能に

なった.Iidaら5)は1986年に単色シンクロトロ

ン放射光を利用した全反射蛍光X線分析を行い,

シンクロトロン放射光が全反射蛍光X線分析に

おいて最も良い光源であると報告した.このIida

らの報告以降,全反射蛍光X線分析では,大型

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 201010

-4

10-3

10-2

10-1

100

101

102

103

104

Year

De

tectio

n lim

it / p

g

Yoneda and Horiuchi1)

Iida and Gohshi4)

(Rotaing anode X-ray tube, monochromatic)

Iida et al.5)

Wobrauschek et al.6)

Pianetta et al.9)

Awaji et al.8)

Sakurai et al.10)

Monochromatic Synchrotron radiation5-10)

Ortega et al.7)

Knoth et al.3)

(Low-pass filter)

1

Page 5: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 31

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

放射光施設を利用することにより検出下限が改

善されてきた.1990年代後半から2000年代前半

には単色シンクロトロン放射光 6-9)を利用する

ことにより数から数十fgの検出下限が得られた.

2002年にSakuraiら 10)は,シンクロトロン放射

光と小型化したヨハンソン型分光器を組み合わ

せ,波長分散型全反射蛍光X線分析を行うこと

で,0.3 fg (3 × 10–16 g)の検出下限を達成した.

全反射蛍光X線分析法による検出下限の改善の

推移をまとめたもの 11)を Fig.1に示す.

 1993年にWobrauschekら12)は回転対陰極X線

管とモノクロメータを組み合わせて用いること

で 0.2 pgの検出下限を達成した.この検出下限

はシンクロトロン放射光に次ぐものである.全

反射蛍光X線分析法は,シリコンウエハ表面汚

染元素分析法として I S O に定められており,

Nishihagiら 13)が開発してきた全反射蛍光X線

分析装置は,国内外のシリコンウエハや半導体

デバイスのメーカーで使用されてきた.Iidaら4)

やWobrauschekら12)の報告と同様に,この装置

も回転対陰極X線管とモノクロメータを組み合

わせたものであり,109 atoms/cm2(重量に換算

すると数百 fg)の元素を検出することを可能に

した.また,この装置はシリコンウエハ分析を

主目的として開発されたものであることから,

シリコンウエハからの回折線が検出されないよ

うにするためにも単色化X線が利用された.し

かし,半導体の高性能化に伴い,より高純度な

シリコンウエハがデバイスメーカーから求めら

れるようになり,現在では108 atoms/cm2の検出

下限が必要とされている.この要求に対応する

ために,気相分解法を利用して表面汚染物質を

予備濃縮する方法が用いられている.

 2000年代に入り,40から 50 Wの強制空冷式

X線管をモノクロメータ 14,15)またはローパス

フィルター16)と組み合わせた卓上型全反射蛍光

X線分析装置が開発された.これらの卓上型装

置では半導体分析用全反射蛍光X線分析装置と

比較して3桁微弱なX線管が使用されているが,

数から数十pgの検出下限が達成された.これら

卓上型装置は環境分析や食品分析などに応用さ

れており,これら試料にppb濃度含まれる元素を

分析することができる.以上のように,低出力

X 線管を使用する場合でも,モノクロメータや

ローパスフィルターを用いてスペクトルのバッ

クグラウンドを低減する方法が微量元素を分析

するために用いられてきた.

 われわれは,1 W(9.5 kV)の自然空冷式X線

管を用いてハンディー全反射蛍光X線分析装置17)

を試作した.装置開発当初の 2006年には,平行

入射X線ビームを得るためにスリットを使用し

ていたが,その後,スリットの代わりにX線導

波路を用いた.この装置では,微弱X線管から

のX線を単色化せずに使用したが,X線導波路

と組み合わせて用いることで1 ngの検出下限を

得ることができた.しかし,9.5 kV X線管を使

用していたので,ひ素,水銀,鉛のような元素

の分析に用いることができなかった.そこで,最

大で50 keVまでのX線を発生できる自然空冷式

X線管を用いてハンディー装置18)を試作し検出

可能な元素範囲を広げ,このX線管を 5 W(25

kV),モノクロメータなしの条件で使用すること

で,1 W(9.5 kV)X線管を用いたハンディー

装置よりも検出下限を 2桁改善することができ

た 19).これまでに開発してきたハンディー装置

の代表例と検出下限をFig.2に示す.Fig.2aの装

置は 9.5 kVのX線管とスリットを用いたもの,

Fig.2bの装置は 9.5 kVのX線管とX線導波路を

用いたもの,Fig.2cは最大50 kVのX線管とX線

導波路を使用したものである.強力な単色化X

Page 6: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

32 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

Detection limit: 3 ng

Detection limit: 1 ng

Detection limit: 0.01 ng a

b

c

線を用いる従来法とは真逆の微弱な非単色X線

を利用する方法により,高感度化を達成できる

ことを明らかにし,小型かつ高感度な元素分析

装置を実現した.また,非単色X線の利用の他,

X線導波路の利用,試料量,X線管の管電圧,管

電流,入射X線の視射角の最適化,最適なX線

管ターゲットの使用も本装置の高感度化に寄与

した.本稿では,ハンディー装置の装置構成の

Fig.2  Portable TXRF spectrometers anddetection limits. (a) portable spectrometerwith a 9.5 kV X-ray tube and slit, (b) portablespectrometer with a 9.5 kV X-ray tube andwaveguide, and (c) portable spectrometerwith a 50 kV X-ray tube and waveguide.

概要,励起方法,試料量などの測定条件を変え

ると検出下限がどのように変化するかについて

解説し,本装置の応用例を紹介する.

2. ハンディー全反射蛍光X線分析装置

 Fig.2cに示した装置のバラックの写真をFig.3に

示す.X線源として最大管電圧,管電流がそれぞ

れ50 kV,200 µAの透過式X線管“50 kV Magnum”

Waveguide

Si-PIN detector

High voltage generator Sample holder

X-ray tube

Fig.3  Experimental setup ofthe present portable TXRF spec-trometer.

Page 7: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 33

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

(Moxtek製)を用いた.検出器として Si-PIN検

出器“X-123”(Amptek製)を用いた.シグマ光

機の石英オプティカルフラット(反射波面精度:

λ / 20 (λ = 632.8 nm))を試料台として使用した.

入射X線を平行化するためにX 線導波路を用い

た.ゴニオメータを用いて試料を傾けることに

より,入射X線の視射角を調整した.本装置に

よる検出下限を Fig.4に示す.Fig.4に示すよう

に,10 pg (Co)から 200 pg (Sb)までの検出下限

を達成した.

3. ハンディー装置の高感度化

3.1 X線導波路の使用

 装置開発当初,スリットを使用して平行入射

X線ビームを得ていたが,その後,スリットの代

わりにX線導波路を用いた.X線導波路の模式

図および写真をFig.5に示す.Fig.5aに示すよう

に,この導波路は,2枚のX線全反射ミラー(シ

リコンウエハ)を用いて入射X線を平行化する

ものである.本装置では,X線導波路を水平に配

置しコリメータとして使用しているが,入射 X

線の発散成分の一部はシリコンウエハ上で全反

射し試料に照射されるので,X線の反射面を持

たない平板で構成されるコリメータを使用する

よりも強いX線を試料に照射することが可能で

ある.

 X線管は発散光源であることから,入射X線

の平行性を良くするために,10 cm程度の長さを

もつ光学素子が全反射蛍光X線分析に用いられ

てきた.スリットを使用する場合には,X線管と

試料間距離を10 cm程度にし,X線管および試料

側にスリットを1枚ずつ配置することにより,平

行化入射X線ビームが得られてきた.一方,わ

れわれは,できるだけ装置を小型化する目的も

あり,Fig.5bに示すようにX線導波路の長さは1

cmとした.このX線導波路を用いることでX線

管と試料台中心間の距離を 3 cmにまで短くし,

装置を小型化することができた.X線導波路お

X-ray reflectors

(Silicon wafers)

Spacer

X-rays

a

b

1 cm

1 cm

Slit

Fig.5 (a) Schematic view and (b) photograph of an X-ray waveguide.

10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 851

10

100

1000

S Zr

Y

L-line excitation

PbEu

ErNd

LaSb

SrAs

CoCrSc

Det

ectio

n lim

its /

pg (l

og s

cale

)

Atomic number

K-line excitation

Fig.4 Detection limits obtained by the present portableTXRF spectrometer. A tungsten X-ray tube was oper-ated at 25 kV and 200 µA.

Page 8: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

34 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

よびスリットを用いて得られた全反射蛍光X線

スペクトル例を Fig.6に示す.Fig.6は 9.5 kV,1

WのタングステンターゲットX線管を使用して

得られたスペクトルである.スリット使用時に

は,入射X線の平行性を良くするためにX線管

と試料間の距離を 10 cmとした.Fig.6に示すよ

うに,X線導波路を用いることで,スリットを使

用する場合よりも蛍光X線強度を増大させ,検

出感度を改善することができた.この小型X線

導波路を用いることでX線管と試料間の距離が

短くなるので,入射X線の空気による減衰を抑

えることができ,微弱X線管を用いているにも

かかわらず,微量元素からの蛍光X線を検出可

能にした.このように,小型X線導波路を利用

したことが高感度化を達成した一因である.装

置開発当初は,2枚のシリコンウエハの間隔を

50 µmとしていたが,その後の実験で,ウエハ

の間隔を狭め試料台上での入射 X線の照射範

囲を狭めることで散乱X線が減少し,スペクト

ルのバックグラウンドが低減することがわかっ

た 20).また,X線光学素子の長さを長くしなく

てもウエハ間隔を狭めることで入射X線の平行

性を改善し,散乱X線を減少させることができ

る.溶液試料を分析する際にはその乾燥残渣は

直径1 cm以内のサイズになり,その範囲内にX

線が照射するようにすれば良いので,2008年以

降に試作した装置ではスリット幅を10 µmにし,

1 cm四方の領域に入射X線が照射するようにし

ている.

3.2 微弱な非単色X線の利用

 全反射蛍光X線分析では,単色化X線を用い

ることが検出感度を向上させるために必要不可

欠と考えられてきた.この定説に反して,われ

われは入射X線を単色化せずに利用する方が単

色化するよりも検出下限が良くなることをハン

ディー装置の開発過程で明らかにした18).入射

X線のモノクロメータとして厚さ 40 µmの銅

フィルターを使用する場合および用いない場合

に得られたアクリル板からの散乱X線スペクト

ル例をFig.7に示す.アクリル板により散乱され

たX線スペクトルを測定することにより,入射

X線スペクトルを見積もった.また,銅フィル

ターを用いる場合および用いない場合に得られ

0 2 4 6 80.0

0.2

0.4

0.6

0.8a Slit

1 W tungsten X-ray tube(tube voltage: 9.5 kV)

20 ng Cr

X-ray energy [keV]

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / s

]

0 2 4 6 80.0

0.2

0.4

0.6

0.8b Waveguide

1 W tungsten tube(9.5 kV)20 ng Cr

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / s

]

X-ray energy [keV]

Fig.6 Total reflection X-ray fluorescence spectra of 20ng of Cr obtained with (a) a slit and (b) waveguide. Atungsten target X-ray tube was operated at 9.5 kV and150 µA. Spectra in a and b were measured for 2000 and600 s, respectively. The slit restricted the incident X-ray beams to 100 µm in height, and the waveguiderestricted the incident X-ray beams to 50 µm in height.

Page 9: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 35

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

たそれぞれ 500 pgのSc,Cr,Co,As,Srを含む

試料の全反射蛍光X線スペクトル例をFig.8に示

す.Figs.7,8はタングステンターゲットX線管の

管電圧を25 kV(管電流はFig.7では10 µA,Fig.8

では200 µA)として測定したスペクトルである.

Fig.7に示すように,入射X線を単色化せずに用

いる方が,単色化X線を使用するよりも入射X

線のエネルギー範囲が広く,各元素の吸収端エ

ネルギー以上のX線強度が強くなるので,蛍光

X線強度を増大させることができる.Fig.8に示

すように,非単色X線を用いることにより,ス

ペクトルのバックグラウンドは上昇するが,そ

れを補って余りあるほどに元素の励起効率が向

上するので検出下限を改善することができた.

単色化X線を用いて得られた Sc,Cr,Co,As,

Srの検出下限は 68,36,37,135,321 pgであっ

たが,非単色X線を用いることで29,18,14,48,

212 pgに改善することができた.本稿ではモノ

クロメータとして銅フィルターを用いたが,市

販装置やシンクロトロン放射光を利用した全反

射蛍光X線分析では,多層膜や単結晶がモノク

ロメータとして用いられている.多層膜や単結

晶を使用するとX線管と試料間距離が長くなり

(例えば20 cm),X線の発散や空気による吸収の

影響が増大するので,入射X線強度は弱くなる.

したがって,銅フィルターを用いる場合と同様

に,これらのモノクロメータを使用することに

より著しい蛍光X線強度の低下が起こり,検出

下限は悪化すると考えられる.以上のように,全

反射蛍光X線分析では,非単色X線を用いる方

が単色化X線を使用するよりも検出感度を改善

するために有効であるが,シンクロトロン放射

光のような高強度X線源からのX線を単色化せ

ずに利用すると検出器の飽和が起こりうる.

SDD検出器の最大積算計数率は106 counts/sであ

り,この検出器を利用することで強力X線源を

単色化せずに使用することが可能になるが,こ

の計数率で測定を行うためには波形整形時間を

短くする必要があり,蛍光X線分析線のエネル

ギー分解能は悪化する(半値幅300 eV程度にな

0 5 10 15 20 250

1000

2000

3000

4000

5000

Monochromatic

PolychromaticLγ, Compton

Lβ, Compton

W Lα, Compton

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s/12

0 s]

X-ray energy [keV]

Fig.7 Spectra of scattered X-rays from a 1 cm thickacrylic plate measured (a) without or (b) with a 40 µmthick Cu absorber. The Cu absorber was used as a mono-chromator. A tungsten target X-ray tube was operatedat 25 kV and 10 µA.

0 5 10 15 20 250

1000

2000

3000

4000

5000

Monochromatic

Polychromatic

Sr

As

CoCr

Sc

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s/18

00 s

]

X-ray energy [keV]

Fig.8 Total reflection X-ray fluorescence spectra of500 pg each of Sc, Cr, Co, As, and Sr measured (a)without or (b) with the Cu absorber. A tungsten target X-ray tube was operated at 25 kV and 200 µA. A glancingangle was set to 0.04°.

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36 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

る).蛍光X線分析線のエネルギー分解能が悪く

なると隣接ピーク同士が重なり合い,分析対象

となる元素の検出感度が悪くなる.本装置では

微弱X線管を使用しているので,たとえ入射X

線を単色化せずに利用しても検出器が飽和する

ことはなく,波形整形時間を長くして測定を行

うことができる.そのために,本装置では微弱

X線管を使用しているにもかかわらず,単色化

が必要な高強度X線源を用いる場合に匹敵する

検出下限を達成することができた.

3.3 試料量

 非単色X線を用いる場合には試料自体や試料

台表面粗さによる入射X線の散乱が強くなるた

めに,単色化X線を使用する場合よりもスペク

トルのバックグラウンドは高くなる.しかし,非

単色X線を用いる場合でも,検出可能な量の元

素が含まれている必要はあるものの,試料残渣

の重量を少なくすることによりバックグラウン

ドを低減し,検出下限を改善できることを2009

年に示した 21).滴下量をそれぞれ 100,200 µL

として測定した日本分析化学会河川水標準物質

(JSAC0302-3)の全反射蛍光X線スペクトル例を

Fig.9に示す.河川水標準試料中のCr,Mn,Feの

認証濃度はそれぞれ10,5,58 ppbである.また,

Fig.9はタングステンターゲットX線管の管電圧,

管電流を 25 kV,50 µAとして測定したスペクト

ルである.Fig.9に示すように,試料量を少なく

することで,スペクトルのバックグラウンドを

減少させることができた.例えば,Cr Kα線の

バックグラウンド強度は,14916(counts/1800 s)

(200 µL)から 9136(100 µL)へと弱くなった.

また,試料量を少なくしても元素重量あたりの

蛍光X線面積強度は弱くならないので,バック

グラウンドが低減する分検出下限を改善するこ

とができた.本稿で,蛍光X線面積強度は,X線

をエネルギー毎に1024チャンネルで選別し(53

eV/チャンネル),各元素の蛍光X線分析線のカ

ウント数の合計からバックグラウンド成分を差

し引いたものである.

3.4 視射角

 ハンディー装置では入射X線として非単色X

線を用いているが,視射角を最適化することに

より,スペクトルのバックグラウンドが減少

し,検出下限を改善できることを2009年に報告

した22).試料残渣の厚さやX線管の管電圧など

の測定条件が変われば,視射角の最適値も変わ

るが,それぞれの測定条件において最適な視射

角を選択することにより,複数微量元素を同時

分析することができる.視射角を 0.00°,0.05°,

0.10°,0.15°として測定したそれぞれ 1 ngのSc,

Cr,Co,Asを含む試料の蛍光X線スペクトル例

をFig.10に示す.ここで,視射角はゴニオステー

5 10 15100

1000

10000

MnCr

Fe

W Lγ

W LβW

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s] (l

og s

cale

)

200 µL

100 µL

X-ray energy [keV]

Fig.9 Total reflection X-ray fluorescence spectra of a200 µL portion and a 100 µL portion of a river watercertified material for trace elements (JSAC0302-3). Atungsten target X-ray tube was operated at 25 kV and 50µA. These analytes were measured at a glancing angle of0.05°.

Page 11: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 37

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

ジの目盛りから読み取った値であり,相対的な

角度である.タングステンターゲットX線管の

管電圧,管電流をそれぞれ 25 kV,50 µAとし

て測定した.Fig.10に示すように,視射角を大

きくしていくにつれてスペクトルのバックグラ

ウンドが上昇し,視射角0.10°以上の条件ではひ

素を検出できなくなった.視射角を0.00°,0.05°

にすることにより,それぞれ1 ngのSc,Cr,Co,

Asを検出することができた.本装置ではゴニオ

メータを使用し試料を傾けることで視射角を調

整したが,入射X線の角度発散のために視射角

を 0.00°にしてもスペクトルのバックグラウン

Fig.10 X-ray fluorescence spectra of 1 ng each of Sc, Cr, Co, and As at glancing angles of 0.00°, 0.05°, 0.10°,and 0.15°.

ドが現れた.Fig.10に示すように,視射角が0.00°

の時でもスペクトルの 15から 25 keVの領域に

バックグラウンドの“山”が現れたので,この

条件において 15から 25 keVの入射 X線は,全

反射していなかったと考えられる.それぞれの

視射角での測定により得られたSc,Cr,Co,As

の検出下限を Fig.11に示す.Fig.11に示すよう

に,Co,Asの検出下限は 0.05°の時に最も良く

なった.視射角 0.05°での測定により得られた

Sc,Crの検出下限は0.10°の時と同等であった.

以上のように,蛍光X線エネルギーが低いScや

Crのような元素では高感度分析するための視射

0 5 10 15 20 2510

100

1000

10000

100000

10

100

1000

10000

100000

10

100

1000

10000

100000

10

100

1000

10000

100000

0.05o

0.15o

0.10o

0.00o

Sc

Sc

Sc

Cr

Cr

Cr

As

Co

Co

Co

As

Cr Co

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s] (l

og s

cale

)

X-ray energy [keV]

Sc

Page 12: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

38 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

角の範囲は広かった.一方,蛍光X線エネルギー

の高いひ素のような元素では検出下限を良くす

るための角度範囲は狭くなった.これらの元素

を同時に高感度で分析するために最適な視射角

は0.05°辺りであり,この条件で得られたSc,Cr,

Co,Asの検出下限はそれぞれ 87,49,32,159

pgであった.

3.5 X線管ターゲット

 タングステンターゲットおよびロジウムター

ゲットX線管を用いて得られた全反射蛍光X線

スペクトル例をFig.12に示す.タングステン管,

ロジウム管の管電圧,管電流をそれぞれ30 kV,

50 µAとした.タングステン管を用いた測定で

は,それぞれ 1 ng の Sc,Cr,Co,As,Srを含

む試料,ロジウム管ではそれぞれ1 ngのSc,Cr,

Co,Zn,As,Srを含む試料を測定した.タング

ステンL特性X線はロジウムK特性X線よりも

Sc,Cr,CoのK吸収端エネルギーに近いので,

タングステン管を使用することでこれら 3元素

の励起効率を向上させ,検出下限を改善するこ

とができた.例えば,ロジウム管ではコバルト

の検出下限は 121 pgであったが,タングステン

管を利用することで30 pgにまで改善することが

できた.ロジウム管を用いる場合,As,Srは連

続X線およびロジウムK特性X線により励起さ

れ,タングステン管を使用する場合,これら 2

元素は連続 X線のみから励起される.しかし,

Fig.12に示すように,タングステン管を用いて

0 5 10 15 20 25 300

1000

2000

Pb Lβ

a Tungsten tube

Sr

W Lβ

W

As

CoCr

Sc

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s]X-ray energy [keV]

0 5 10 15 20 25 300

1000

2000Rhodium tubeb

Sr

Zn

Rh

As

Co

Cr

Sc

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s]

X-ray energy [keV]

Fig.11 Detection limits at glancing angles of (□)0.00°, (▲) 0.05°, (○) 0.10°, and (●) 0.15°.

Fig.12 Total reflection X-ray fluorescence spectra of(a) 1 ng each of Sc, Cr, Co, As, and Sr measured with atungsten target X-ray tube and (b) 1 ng each of Sc, Cr,Co, Zn, As, and Sr measured with a rhodium X-ray tube.The tungsten tube and the rhodium tube were operated at30 kV and 50 µA. These analytes were measured at aglancing angle of 0.05°.

20 25 30 350

50

100

150

200

250

300

CrCo

As

Det

ectio

n lim

it / p

g

Atomic number

Sc

Page 13: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 39

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

得られたAsおよびSr Kα線面積強度(counts/1800

s)は,それぞれ 1397,372であり,ロジウム管

を使用する場合(As Kα線面積強度:760,Sr Kα

線面積強度:226)よりも強くなった.なお,タ

ングステン管使用時には Pb Lβ線が検出された

ので,Fig.12でのPb Lβ線面積強度および管電圧

30 kVの条件で得られるPb Lα/Lβ線強度比を用

いて Pb Lα線面積強度を算出し,この強度を差

し引くことでAs Kα線面積強度を見積もった.X

線管から発生する連続X線の強度はターゲット

材の原子番号に比例して大きくなるので23),タ

ングステン管(タングステンの原子番号:74)か

ら発生する連続 X 線の強度の方がロジウム管

(ロジウム:45)よりも強くなる.タングステン

管を利用し,強い連続X線を発生させることで

As,Srの励起効率を向上させ,検出下限を改善

することができた.例えば,ロジウム管ではス

トロンチウムの検出下限は 733 pgであったが,

タングステン管を利用することで388 pgにまで

改善することができた.一方,タングステン管

を用いる場合にはW Lα特性X線(8.4 keV)が

Zn Kα線(8.6 keV)と重なり合うために,微量

の亜鉛を分析することはできないが,ロジウム

管を用いることでFig.12bに示すように1 ngの亜

鉛を検出することができた.タングステン管を

使用することで検出下限は良くなるが,分析対

象となる元素がタングステン特性X線と重なり

合う場合には,ターゲットの異なるX線管を用

いる必要がある.

3.6 管電圧

 タングステンターゲットX線管の管電流を50

µAとし,管電圧を 20,25,30,35 kVと変えて

測定した各 500 pgの Sc,Cr,Co,Asを含む試

料の全反射蛍光X線スペクトル例をFig.13に示

す.入射X線の視射角は,第3.4項で示した最適

な視射角に近い0.04°とした.管電圧を上げると

入射X線のエネルギー範囲が広くなるとともに,

連続X線の強度が管電圧の 2乗に比例して強く

なる 23).また,第 3.4項で示したように 15 keV

以上の入射 X線は全反射していなかったので,

Fig.13に示すように管電圧を上げるとこのエネ

ルギー以上の散乱X線が強くなった.15 keV以

上の入射X線の散乱は Sc,Cr,Co,As Kα線の

バックグラウンドに寄与しないはずであるが,

散乱X線が強くなると,スペクトル全体のバッ

クグラウンドが上昇する4).したがって,Fig.13

に示すように,管電圧の上昇に伴いそれぞれの

蛍光X線分析線のバックグラウンド強度は増大

した.例えば,各管電圧で測定したCo Kα線の

バックグラウンド強度(counts/1800 s)は,1508

(20 kV),2200(25 kV),3808(30 kV),6788

(35 kV)であった.管電圧を上げると入射X線

強度が強くなるので,Fig.13に示すように管電

圧の上昇に伴い蛍光X線面積強度も強くなった.

Fig.13 Total reflection X-ray fluorescence spectra of500 pg each of Sc, Cr, Co, and As. A tungsten target X-ray tube was operated at 50 µA and 20, 25, 30, or 35 kV.The analyte was measured at a glancing angle of 0.04°.

0 5 10 15 20 25 30 350

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

Pb Lβ

35 kV

30 kV

25 kV

20 kV

As

CoCrSc

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s]

X-ray energy [keV]

Page 14: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

40 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

例えば,各管電圧で測定したCo Kα線の蛍光X

線面積強度(counts/1800 s)は,1555(20 kV),

2812(25 kV),3861(30 kV),4833(35 kV)で

あった.なお,管電圧が 30,35 kVの時には Pb

Lβ線が検出されたので,Pb Lα/Lβ線強度比およ

びFig.13でのPb Lβ線面積強度を用いてLα線面

積強度を算出し,この強度を差し引くことでAs

Kα線面積強度を導出した.管電圧とSc,Cr,Co,

Asの検出下限の関係をFig.14に示す.管電圧の

上昇に伴い蛍光X線強度は増大したが,バック

グラウンド強度が二次関数的に強くなったので,

管電圧を上げすぎると検出下限が悪くなった.

この結果は1984年の Iidaら4)の報告と同様であ

り,管電圧を最適なものにすることで検出感度

を改善できることがわかった.Fig.14に示すよ

うに,管電圧が25 kVの時にSc,Asの検出下限

は最も良くなった.一方,管電圧が 30 kVの時

にCr,Coの検出下限は最も良くなったが,25 kV

の時に得られた検出下限と同等であった.例え

ば,それぞれの管電圧での測定で得られたスカ

ンジウムの検出下限は67 pg(20 kV),54 pg(25

kV),67 pg(30 kV),81 pg(35 kV)であり,

コバルトの検出下限は37 pg(20 kV),25 pg(25

kV),24 pg(30 kV),26 pg(35 kV)であった.

以上のように,本装置を用いてスカンジウムか

らひ素までの範囲の元素をK線励起で高感度同

時分析するために最適な管電圧は 25 kVという

結論を得ることができた.管電圧 25 kVの条件

でK線およびL線励起を用いることにより,ひ

素,水銀,鉛のような有害元素を分析すること

ができる.

3.7 管電流

 タングステンターゲットX線管の管電圧を25

kVとし,管電流を20,50,100,150,200 µAと

変え,入射X線の視射角を0.04°として測定した

各 500 pgの Sc,Cr,Co,Asを含む試料の全反

射蛍光X線スペクトル例を Fig.15に示す.X線

管から発生する連続X線の強度は管電流に比例

して強くなる 23)ので,Fig.15に示すように,管

電流の上昇に伴い蛍光X線面積強度,バックグ

ラウンド強度ともに強くなった.例えば,各管

電流で測定したCo Kα線面積強度(counts/1800 s)

は,1144(20 µA),2812(50 µA),4778(100

15 20 25 30 35 400

50

100

150

CoCr

Sc

As

Det

ectio

n lim

it / p

g

Tube voltage / kV

Fig.14 Relationship between tube voltage and detec-tion limits of (●) Sc, (□) Cr, ( ■) Co, and (○) As.

0 5 10 15

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

150 µA

200 µA

100 µA

50 µA

As

CoCrSc

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 1

800

s]

X-ray energy [keV]

20 µA

Fig.15 Total reflection X-ray fluorescence spectra of500 pg each of Sc, Cr, Co, and As. A tungsten X-raytube was operated at 25 kV and 20, 50, 100, 150, or 200µA. A glancing angle was set to 0.04°.

Page 15: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

µA),7033(150 µA),9351(200 µA)であり,

Co Kα線のバックグラウンド強度(counts/1800 s)

は,872(20 µA),2200(50 µA),4324(100 µA),

6316(150 µA),7680(200 µA)であった.管

電流とSc,Cr,Co,Asの検出下限の関係をFig.16

に示す.管電流にほぼ比例して蛍光X線強度お

よびバックグラウンド強度ともに強くなったの

で,検出下限の式を考えればわかるように管電

流を上げることにより検出下限を改善すること

ができる.実際,Fig.16に示すように,管電流

の上昇により検出下限を改善することができた.

例えば,コバルトの検出下限は 39 pg(20 µA),

25 pg(50 µA),21 pg(100 µA),17 pg(150

µA),14 pg(200 µA)へと改善することができ

た.管電流の上昇に伴いSi-PIN検出器の積算計

数率(counts/s)が増加したが,X線管の管電流

を最大(200 µA)にした時でも,検出器の積算

計数率は約300 counts/sであり,検出器の最大積

算計数率(2 × 105 counts/s)よりも3桁小さかっ

た.したがって,本装置では,管電流を最大に

して発生させた非単色X線を用いる場合でも検

出器は飽和せず,入射X線を単色化する必要は

なかった.

4. ハンディー装置の応用例

 これまでに報告してきたハンディー装置の応

用例は以下の通りである.

 1. アルコール飲料 19,24)

 2. 雨水 20)

 3. 土壌浸出水 24,25)

 4. 飲料水 26)

 5. 茶 27)

 6. 玩具からの浸出水 27,28)

 7. 河川水 28)

 8. 金属材料浸出水 24,29)

 ハンディー装置を使用することにより,上述

した試料に ppmまたは ppb濃度含まれる元素を

分析することができ,鉛のような有害元素によ

る環境汚染調査,食品や玩具の品質および安全

管理,金属材料の耐食性評価の目的で本装置を

利用可能なことを示してきた.

 生体試料の代表例として尿中のひ素を測定し

Fig.16  Relationship between tube current and detec-tion limits of (●) Sc, (□) Cr, (■) Co, and (○) As.

0 50 100 150 2000

50

100

150

200

CoCr

Sc

As

Det

ectio

n lim

it / p

g

Tube current / µA Fig.17  Total reflection X-ray fluorescence spectrumof a 1 µL portion of urine containing 1 ppm of As. Atungsten X-ray tube was operated at 25 kV and 200 µA.A glancing angle was set to 0.04°.

9 12 150

500

1000

1500

2000

X-r

ay in

tens

ity [c

ount

s / 6

00 s

]

X-ray energy [keV]

W Lβ

W Lγ

Rb

As

Page 16: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

42 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

た結果をFig.17に示す.測定試料は,尿乾燥残渣

中のひ素の重量を1 ngとしたものである.Fig.17

に示すように1 ngのひ素を検出することができ,

検出下限は 0.4 ngであった.本稿では,試料滴

6 9 12 150

2000

4000

6000

8000

10000

Fe

W L

b Blue

W L

X-r

ay in

ten

sity [

co

un

ts /

60

0 s

]

W

X-ray energy [keV]

6 9 12 150

2000

4000

6000

8000

10000

SrFe W L

c White

W L

X-r

ay in

ten

sity [

co

un

ts / 6

00

s]

W

X-ray energy [keV]

6 9 12 150

2000

4000

6000

8000

10000

Pb L

Pb L

Pb

Fe W L

d Yellow

W L

X-r

ay in

ten

sity [

co

un

ts / 6

00

s]

W

X-ray energy [keV]

6 9 12 150

2000

4000

6000

8000

10000

FeW L

e Red

W L

X-r

ay in

ten

sity [

co

un

ts /

60

0 s

]

W

X-ray energy [keV]

6 9 12 150

2000

4000

6000

8000

10000

Pb LPb

FeW L

f Green

W L

X-r

ay in

ten

sity [

co

un

ts / 6

00

s]

W

X-ray energy [keV]

a

下量を 1 µLとしたが,10 µLとすれば尿中で 40

ppbまでのひ素を検出することが可能である.尿

中のひ素濃度はひ素曝露の指標として有効であ

ると考えられており,この目的のために本装置

Fig.18 (a) Photograph of cake ink and total reflection X-ray fluorescence spectra of (b) a blue, (c) white, (d) yellow,(e) red, and (f) green cake ink. A tungsten X-ray tube was operated at 25 kV and 100 µA. The measurements wereperformed at a glancing angle of 0.04°.

Page 17: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 43

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

ある.また,国村は日本学術振興会特別研究員

制度の支援を受けて研究を行った.本研究を行

うに際してご助力を頂きましたエックスレイ・

プレシジョン 細川好則氏,京都府警察本部科

学捜査研究所 井田博之博士に厚く御礼申し上

げます.

参考文献

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反射蛍光X線分析装置を用いた金属材料浸出水中

の微量元素分析”,日本学術振興会製鋼第 19委員

会 製鋼計測化学研究会第41回会議,大阪,2007

年 11月 8日での発表.

12) P.Wobrauschek, P.Kregsamer, W.Ladisich, R.Rieder,

C.Streli: Spectrochim. Acta, Part B, 48, 143 (1993).

を利用可能と考えられる.青,白,黄,赤,緑色

の墨の写真および全反射蛍光X線スペクトル例

を Fig.18に示す.測定試料は,カッターナイフ

で削りだした少量の墨を 50 µLの超純水に加え

て懸濁液とし,5 µLを滴下乾燥したものである.

Fig.18に示すように,黄および緑色の墨から顔

料由来の鉛が検出された.一方,青,白,赤色の

墨から鉛は検出されなかった.粉末をそのまま

試料台に載せると飛散してしまうが,本稿で示

したように懸濁液とし,乾燥させると粉末が飛

散することはなくなる.

5. おわりに

 われわれは,数ワットの自然空冷式X線管を

用いて小型全反射蛍光X線分析装置を開発して

きた.本装置では微弱X線管を使用しているが,

非単色X線の利用,X線導波路の使用,試料量

を少なくすること,適切なX線管ターゲット材

の選択,X線管の管電圧,管電流,入射X線の

視射角の最適化により,大型シンクロトロン放

射光施設にあと4桁まで迫る10 pgの検出下限を

達成した.小型軽量かつ高感度な本装置を利用

することにより,南極調査のように試料をサン

プリングする機会が得にくく,やり直しがきか

ない分析をオンサイトで行えるようになる可能

性がある.本研究では微弱X線源を使用するこ

とで極微量元素を分析できることを示したが,

高強度X線源を用いる場合にも励起方法や装置

のジオメトリーなどを最適化することにより,

これらX線源を使用して得られてきた検出下限

をさらに改善できる可能性があると考えられる.

謝 辞

 本研究は,(独)科学技術振興機構の先端計測

分析技術・機器開発事業により得られた成果で

Page 18: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

44 X線分析の進歩 41

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置

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14) U.Waldschlaeger: Spectrochim. Acta Part B, 61,

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15) 河原直樹,清水雄一郎,稲葉 稔,神鳥恒夫,山

田 隆,山本勝彦:X線分析の進歩,38, 341 (2007).

16) R.E.Ayala Jiménez: “Bench top X-ray fluorescence

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17) S.Kunimura, J.Kawai: Anal. Chem., 79, 2593 (2007).

18) 国村伸祐,河合 潤:化学と工業,61,1050 (2008).

19) 国村伸祐,河合 潤:分析化学,58,1041 (2009).

20) S.Kunimura, J.Kawai: Powder Diffr., 23, 146 (2008).

21) 国村伸祐,井田博之,河合 潤:X線分析の進

歩,40,243 (2009).

22) S.Kunimura, D.Watanabe, J.Kawai: Spectrochim.

Acta, Part B, 64, 288 (2009).

23) 宇田川康夫 編:X線吸収端微細構造-XAFSの測

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24) S.Kunimura, S.Hatakeyama, N.Sasaki, T.Yamamoto,

J.Kawai: AIP Conf. Proc., in press.

25) 国村伸祐,河合 潤,丸茂克美:X線分析の進

歩,38,367 (2007).

26) S.Kunimura, J.Kawai: Anal. Sci., 23, 1185 (2007).

27) 国村伸祐,渡辺大輔,河合 潤:分析化学,57,

135 (2008).

28) S.Kunimura, J.Kawai: Adv. X-ray Anal., submitted

29) S.Kunimura, D.Watanabe, J.Kawai: Proceedings of

the 4th International Congress on the Science and Tech-

nology of Steelmaking 2008, Gifu, October 6-8, 2008,

p.481 (2008).

Page 19: for Ultra Trace Elemental Determination Portable …Portable Total Reflection X-Ray Fluorescence Spectrometer for Ultra Trace Elemental Determination Shinsuke KUNIMURA and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 45

高感度ハンディー全反射蛍光X線分析装置