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The Current Status and Future of Ai (Autopsy imaging) Center in Japan Seiji Yamamoto, M.D. Summary This article introduces the activities of Ai (Autopsy imaging) Center and postmortem imaging prior to pathological and judicial autopsy at the forensic medicine department, Chiba University, Japan. Ai Center was organized in August 2007. In this Center, postmortem imaging is performed before pathologic autopsy for patients who die in Chiba University Hospital and another hospital in Chiba prefecture. In the forensic field, postmortem imaging has been performed since 2006 in Chiba University with more than 200 cases examined. In the pathological field, Ai Center offers the first organized system with the capability of performing postmortem imaging in Japan. Ai Center performs not only postmortem imaging before pathological autopsy, but also postmortem imaging to verify the accurate cause of death, which may replace autopsy. To date, our experience amounts to over 75 cases of postmortem imaging before pathological autopsy in this hospital starting 2005. Since August 2007, postmortem imaging has been performed in not only my hospital but also another hospital in Chiba prefecture, thanks to medical association of Chiba prefecture. What distinguishes Ai Center from others is multidetector CT (MDCT) capable of producing high quality image data and reconstructing 3D images. The imaging data acquired from head to knee as a continuous data accumulat in computer and are analyzed in Ai Center. While this process is performed when death occurs, we can present imaging data as evidence of a legal case. In future, Ai Center is expected to perform autopsy imaging for all cases of death under the initiativie of Chiba prefecture to determine a murder case or not and to investigate the accurate cause of death. The homepage address is http://radiology.sakura.ne.jp/Ai/ (Autopsy is divided into two categories in Japan: judicial autopsy and pathologic autopsy. Judicial autopsy is performed by forensic doctors for murder cases. Pathologic autopsy is performed by pathologists for death from sickness in hospitals) Department of Radiology, Chiba University Hospital NICHIDOKU-IHO Vol. 53 No. 3·4 116-129 (2008) Aiセンターの設立 千葉大学では20086 月、医学部附属病院の正式な組 織としてAiセンターを立ち上げた。実際には20078 から、外部の病院からの検査を依頼する窓口としてのセ ンターを開設していたが、料金設定などを行うことがで 千葉大学医学部附属病院 放射線科 2.オートプシー・イメージング(Ai)センターの設立と現状 山本 正二 特別企画 Autopsy imaging 日獨医報 第53巻 第 3 ・ 4 号 426-439(2008) 116(426)

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The Current Status and Future of Ai (Autopsy imaging) Center in Japan

Seiji Yamamoto, M.D.

Summary

This ar ticle introduces the activities of Ai (Autopsy imaging) Center and

postmortem imaging prior to pathological and judicial autopsy at the forensic

medicine department, Chiba University, Japan.

Ai Center was organized in August 2007. In this Center, postmortem imaging is

performed before pathologic autopsy for patients who die in Chiba University

Hospi ta l and another hospi ta l in Chiba prefecture . In the forensic f ie ld,

postmortem imaging has been performed since 2006 in Chiba University with

more than 200 cases examined. In the pathological f ield, Ai Center offers the f irst

organized system with the capability of performing postmortem imaging in

Japan. Ai Center performs not only postmortem imaging before pathological

autopsy, but also postmortem imaging to verify the accurate cause of death, which

may replace autopsy. To date, our experience amounts to over 75 cases of

postmortem imaging before pathological autopsy in this hospital starting 2005. Since August 2007, postmortem

imaging has been performed in not only my hospital but also another hospital in Chiba prefecture, thanks to medical

association of Chiba prefecture.

What distinguishes Ai Center from others is multidetector CT (MDCT) capable of producing high quality image

data and reconstructing 3D images. The imaging data acquired from head to knee as a continuous data accumulat in

computer and are analyzed in Ai Center. While this process is performed when death occurs, we can present imaging

data as evidence of a legal case. In future, Ai Center is expected to perform autopsy imaging for all cases of death

under the initiativie of Chiba prefecture to determine a murder case or not and to investigate the accurate cause of

death.

The homepage address is http://radiology.sakura.ne.jp/Ai/

(Autopsy is divided into two categories in Japan: judicial autopsy and pathologic autopsy. Judicial autopsy is

performed by forensic doctors for murder cases. Pathologic autopsy is performed by pathologists for death from

sickness in hospitals)

Department of Radiology, Chiba University Hospital

NICHIDOKU-IHOVol. 53 No. 3·4 116-129 (2008)

Aiセンターの設立

千葉大学では2008年 6月、医学部附属病院の正式な組

織としてAiセンターを立ち上げた。実際には2007年 8月から、外部の病院からの検査を依頼する窓口としてのセンターを開設していたが、料金設定などを行うことがで

千葉大学医学部附属病院 放射線科

2.オートプシー・イメージング(Ai)センターの設立と現状

山本 正二

特別企画 Autopsy imaging

日獨医報 第53巻 第 3・ 4号 426-439(2008)116(426)

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きず、無料奉仕という状態での活動を行っていたというのが実情である。現在、全国に 1万 5千台ともいわれる多数のCT装置が各病院で稼動しているが、「病院内で亡くなった方」に対して死後画像検査を実施しようとする動きはほとんどなかった。唯一救急医療の分野で、CPA

(cardio pulmonary arrest:心肺停止状態)で搬送された方、死亡しているが救急車で搬送され、警察から死体検案書の作成を依頼された場合などに「生きていることとして」画像検査が行われてきたというのが現状である。これらも「病院の外で亡くなった方」が救急車で運ばれてくる症例なので、厳密には「病院内の死」ではないかもしれない。私の文章のなかに「病院内の死」と「病院外の死」という言葉が出てくる。千葉大学では、法医学分野のAiと、病院内でのAiがそれぞれ解剖する場所が別であるという物理的な問題もあり別々に機能してきた。このことが逆に、同じAiといっても全く別のものを対象にしていることを浮き彫りにしてきた(図 1)。一般病院で亡くなる方は、今まで、通常死である「病

院内の病死」であったので、こういった症例に対して死後画像検査を行おうということは、ほとんど考えられる

ことはなかった。しかし、近年、医療事故、医療関連死などという問題が広く社会的に認知され、活発な議論が行われるようになってきた。われわれ臨床医にとっても「病院内の死 = 自然死」という考えが成り立たなくなってきているのである。では、患者が亡くなり、体表から観察、診断し死因がわからなかった場合、次に取り得る医学的アプローチ方法は何であろうか。今なら死後画像検査(Ai)という方法が認知されてきたが、つい先頃までは解剖が唯一無二の死因を究明する方法であった(死後医学検索 = 病理解剖)。ただし、この解剖が行われる割合は、現在 2%台にまで落ち込み、病理医の常勤がいない一般病院では実施することさえ困難な状況に陥っている。それでは、この解剖の前に行われるであろうAiについてはどうであろう。どの病院でも公平に実施することができるであろうか。私が所属している千葉大学医学部附属病院は、800床

規模の病院で、CT装置、MRI装置などが揃っており、病理の先生、法医学の先生との協力体制もでき、病理解剖および司法解剖なども実施可能である。それでは、市中病院はどうであろう。CT装置を備えている病院は多

病院外で死亡病院内で死亡

医師 死亡診断書・死体検案書

検察官(医師ではない !!)検視

通常の病死 異常死(医療関連死など) 事件性のある症例

厚生労働省管轄 法務省管轄

病理解剖 司法解剖

正確な死因究明(医療行為)

事件性の有無=裁判の証拠

異常死届け出をすること=犯罪を届け出ること

患者を助けるために医療行為を行ったのになんで警察官から犯罪者扱いされなければならないのか!!

図 1 病院内の死と病院外の死は管轄,解剖の目的が異なる

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いと思うが、画像診断医が常勤として在籍する病院は少なくとも千葉県では限られている。さらに専門医の数が少ない、病理医が常勤で在籍する病院はある程度の規模の病院に限られてしまう。私も 3年以上Aiに携わっているが、個人の産婦人科で乳児が突然死し、そのAiを行った経験がある。こういった病院では、CT装置すらなく、ましてや病理医もいない。突然死のリスクが高いのは、実はこういった産婦人科、小児科なのかもしれない。このような状況に危機感を抱いていたのは、私たちだ

けではなく、千葉県の医師会の先生方も同様であった。実際の症例に直面し、医療訴訟などを起こされる可能性がある医師会の先生方のほうが実は切実な問題として捉えていた可能性もある。こうして、附属病院だけではなく、千葉県下の各病院からの症例を集め、検査を実施できるAiセンターの構想が出来上がった。

Aiセンターの現状および検査の実際

Aiセンターといっても、現状では専用の建物があるわけではなく、検査自体は生きている患者さんと同じ機械を使用し、死後画像検査を実施している。検査自体は放射線技師の方たちが実施してくれる。画像についてはサーバーに自動転送される。現在、コストなどの問題もあり、フィルムに焼くという方法はとっていない。検査終了後、放射線科医が読影し、レポートを作成する。ただし、夜間に救急外来へ搬送された症例や、土日祝日で、レポートの作成ができなかった場合には、とりあえず、主治医の先生方に読影しておいていただき、後日私たちがレポートを作成するということになる。また、この画像情報は、病理解剖前に、主治医からの

臨床情報と併せ、病理の先生方にお伝えしている。現在、Aiセンターでは附属病院内で死亡した症例だけではなく、他院からの依頼についても受け付けている。院内の症例については、2005年から検査を継続して実施しているため、既にフローチャートなど体制が出来上がっていた。他院からの依頼に関しては、県医師会にAiセンターで検査をすることをファックスなどで届けていただいたうえで、センター窓口に検査が可能かどうかの問い合わせをしていただく形となっている。検査が可能と判断された場合は、必要書類を記載していただき(Aiセンターのホームページからダウンロード可)、申し込みとなる。現在はCTを使用したAiについては検査料を 4~5

万円に設定している。ご遺体の搬入方法などについてもホームページに写真などを載せ説明している。遺体の到着後、検査まで時間がある場合は、霊安室に安置されることになる。検査開始後のフローは、院内での検査実施と同様の流れとなる。CTなどの画像検査だけが実施となる場合は、ご遺体を搬出し検査は終了となる。その後病理解剖が実施される場合は、病理解剖室に搬送、また解剖開始まで時間がある場合は冷蔵庫で遺体をお預かりすることも可能である。

Aiセンターの現在かかえている問題点

1.検査時間Aiの実施については、さまざまな問題点が浮かび上がってくる。第一に、検査に使用しているCT装置が一般患者と共同のものであることだ。Aiを実施しようとしたいくつかの病院で、「死体を普通のCT装置で撮るなんて!!」という意見が出て、実施を断念した所もあると聞く。防水シーツを使用すれば装置が汚染されることはないし、通常、一般業務が一段落したところで実施するので、シーツなどもすべて交換する。反対意見には、「病棟で使っているベッドは亡くなるごとに焼却しているのか?」と聞くと、皆黙ってしまう。『癌と臨床』という雑誌で、「Aiに関する担癌患者遺族アンケートの解析」を行っているが、このなかでも、「ほぼ100%の遺族が通常の装置を使用して検査をしても構わない」との意見であった1)。ただ、やはりできれば人目につかないで検査を実施したいので、検査時間が限られてしまう。検査開始当初は平日の夕方以降という形で検査を開始した。その後順次、通常検査が始まる 8時30分より前、お昼休みという形で検査時間を追加して行っている。病理学の検査受付が平日の 8時30分からということになっているので、その時間にまず、解剖の受付をしてしまった場合、CT

検査を行うことはお昼まで待たないとできないので、Ai

を断念するという例がいくつか発生している。こういった事例を発生させないためには、Ai専用CT装置が必要となるであろうが、現時点では設置場所、費用および操作する技師の問題などもあり、実現は困難である。

2.検査の費用次に問題となってくるものはやはり費用である。対外的には 4~5万円という金額を請求することにしている

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が、内部の検査については病院持ちで検査を実施している。フィルムに焼いたりしないため、物理的なコストの発生は最小限で済ませているが、やはり、ランニングコスト、検査の実施に伴う人件費(放射線技師、読影する放射線科医)などについては、今後やはり検討していかなければいけないと思う。

3.検査方法の確立単にCTを撮像すればいいと言えばそれまでなのだが、

Aiの目的をどうするかによってかなり検査自体が変わってきてしまう。生きている患者を相手にする場合、医療費や被ばくの関係もあり、照射野をできるだけ絞り、撮像範囲も限定して検査を行っている。Aiの場合、生前の情報が分かっていてこの部分だけ検査をすればよいという症例もあるだろうが、死因不明でまわってくる症例がかなりの部分を占めると思われる。こういった場合は全身の検索を行った方が良いと思う。院内で経過観察を行っていた症例でも、自分が関心のある領域、例えば脳外科の先生の場合、頭部の検査については生前からかなり頻繁に行っていたが、体幹部の検査については一度も行ったことがないということは結構あるようだ。頭部の病

気が死因ではなく、実は胸部の解離性大動脈瘤の破裂が死因だったり、またその逆に、胸部の間質性肺炎で経過を追っていた人が突然くも膜下出血で亡くなったということは十分に考えられる。「スクリーニングという意味でも全身のCTを撮像しておく」という方向で、今後Aiは進んでいくと思う(図 2)。これは体幹部だけではない。幼児虐待などの場合、脳挫傷などの病変のほかに、何度も虐められることが多いため、治癒した四肢の骨病変が認められることがある。体幹部の臓器は病理解剖でも検査することが可能だが、治癒した骨折などは皮膚の変化も認められないため、画像診断を行わない限りその部分に骨折があったことがわからない。司法解剖でも皮下出血などが認められる部分については解剖を行うが、皮膚所見が認められない、上下肢については病変を見逃す可能性がある。時津風部屋のリンチ事件での報道については、まだ記憶にあることだと思う。ある新聞記事では大きく、「所見見逃し」と書かれている。「誰が何を見逃したか」だが、記事の内容を読んでみると、司法解剖でみつかった肋軟骨の骨折を、救急搬送された病院で行った「胸部単純写真」で見逃したという書き方になっている。画像診

スクリーニングとしてのAi

解剖前の情報提供としてのAi

新しい死亡時医学検索

検案(体表)

Ai(画像情報)

解剖(手術)

図 2 今まで体表の情報だけで判定していた死因を,体表→Aiと順序だてて実施することにより,より精度の高い死亡時医学検索の実施が可能となる

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断に詳しくない記者が書いた記事なので致し方ないが、彼らにとっては胸部単純写真もCT検査も同じ画像検査になってしまう。このケースでは、体格のいい力士の肋軟骨の骨折を、胸部単純写真で(もちろん死んでいるので深吸気での撮像など無理)、おそらく背臥位のAP像で撮像したと思う。これで肋軟骨の骨折などみつけることができるだろうか。おそらく誰が読影しても無理だと思う。CTを撮影しても肋軟骨であるから、この部分の骨折をみつけられたかどうか不明だが、少なくとも司法解剖の結果と照らし合わせ病変の存在部位を正確に評価することは可能である。また、この肋軟骨の骨折は死因とは直接関係がない。こういった些末的なことを大きく報道されてしまう可能性があることも十分知っておく必要がある。したがって、手足を含めた全身を撮像することを、今

後検討する必要があるであろう。この件に関しては、放射線科の専門医会ニュースに「日本医師会における『死亡時画像病理診断(Ai)活用に関する検討委員会』設置に対する放射線科医の対応」という内容で提言している2)。

Aiの目的とは?

現在、一般に考えられているAiは、それぞれ関係する部署により目的が異なっている。このことが事態を複雑にしているようである。まず、各々の部署からみたAiの役割について考えてみたい。

1.病理解剖からみたAi死後医学検索の最終手段である病理解剖にとってAiの

役割は何であろう。多くの病理医にとって、剖検は業務の一部であるが、日常業務としては術中迅速検査や、針生検など、病院業務が中心となっているようだ。ここに発生する病理解剖はいわば、「外科医の先生にとっての緊急手術」、「放射線科医にとっての緊急アンギオ」といった位置づけになると思われる。病理解剖が 1件入ったとすると少なくとも 2時間は解剖に時間をとられてしまう。後の日常業務は当然のことながら押せ押せとなる。ただ、読影依頼と同様に「依頼されてなんぼ」の世界なので、よほどのことがない限り解剖を断ることはないはずである。ただ、やはり日常業務からすると「余分な」検査(解剖を一生懸命やっていらっしゃる先生方もたくさんいるのでご不快に感じるかもしれません。申し訳ありま

せん)であるから、できれば短時間に済ませたいというのが心情だと思う。この場合、2つの意見があって、「今まで画像などなくてもできたんだから余計なことをするな」という考えと、「外科手術の前に画像検査をするのは当たり前じゃないか、使えるものは使おう」という考え方である。前者の考えでは、病理解剖の目標は、語弊があるかもしれないが「顕微鏡で覗くプレパの標本を作製すること」であるから、代々病理学教室に伝わってきた伝統の系統解剖の手法で臓器を取り出せばいいのだから画像なんて必要がないというものだ。この場合でも、最終的なCPCカンファ(clinico-pathological conference)では画像と病理の対比に、Aiが役に立つと考える。後者の場合は、さらに意義が増える。病理解剖が「破壊検査」であるのに対し、Aiは「非破壊検査」だからだ。胸水、腹水の貯留量を事前に評価することができるので、開胸して慌てて柄杓であふれ出た胸水の量を計測するということはなくなる。このように液体の場合、解剖を行った時点で、亡くなったときの状態を保存することができなくなる。さらに問題なものは気体である。気胸や失血死の場合は、事前に情報がなく解剖をしてしまうと、メスを入れた時点で、死亡時の胸腔内の状況がわからなくなってしまう。法医学分野の話になってしまうが、アイスピックで自分の胸をさして、緊張性気胸となり死亡した症例があった。この場合、事前にCTを撮像したため、緊張性気胸が判明したが、凶器はアイスピックで皮下出血も少なく、虚脱した肺と位置も一致しないため、通常の司法解剖でも穿刺部位の特定は困難であった可能性がある。もちろん開胸した段階で、気胸があったこと自体わからなくなってしまう。このように病理解剖前に行うAiには、「解剖の精度を向上させる」という大きな意味がある。これには「病理解剖のガイド」という意味合いと、「病理解剖の補完」という意味合いが含まれている。1)病理解剖のガイド外科手術が行われる際に画像検査を行わない医師は現在ほとんどいないであろう。病理解剖が「臨床診断の妥当性、治療の効果の判定、直接死因の解明、続発性の合併症や偶発病変の発見など」を目的としているのだから、どこにどんな病気があり、どのような手順で解剖を進めるか判断をすることは当然だと思う。解剖前の臨床の先生からの情報や生前の画像情報なども必要だが、生前の画像情報はターミナルの患者さんに対しては医療費

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削減の問題もあり、3カ月も前ということもあり得る。今までのセンターでの症例を検討すると、経過観察している生前の画像と、死亡時画像はかなりダイナミックに変化する症例がある。病理と画像の対比には、やはり「同じ時期の」もので評価する必要があるのではないだろうか。臨床の先生は通常書記係として、解剖所見の筆記役として立ち会うが、行われる解剖が平日の勤務時間内のことが多いため、ただでさえ忙しい臨床医が 2時間張り付くことはなかなか困難で、研修医が代役を務めたりする場合もある。こうした場合、解剖中に新たに発見された所見が、生前どうだったか質問しても、「私にはちょっと」という事態も起こり得るし、数カ月後に行われるCPCでは担当していた先生が、ローテーションや移動でいなくなってしまったという事態も起こり得る。こういった場合にAiを実施しておけば、解剖とほぼ同じ時相の画像が入手でき、解剖所見との対比が可能となる。また生前画像があった場合には、生前と死亡時の画像比較が可能になる。2)病理解剖の補完ご存じのことと思うが、病理解剖は承諾解剖である。

頭部の解剖についてはまた別に承諾が必要となる。このことがネックとなり、解剖を行ったといっても、実は「体幹部だけ」の解剖というのが結構ある。今までは、こういったことについて誰も異議を言う人はいなかった。それも当然で、頭部の解剖の許可が得られなかった場合、誰も「頭部に病変があるかどうかわからない」わけだから、文句の言いようがないのである。Aiを行った場合、少なくとも粗大な出血を見逃すことはないと思う。そうなれば「少なくとも頭部に粗大な病変はない」から、「死因は体幹部にあるのでは?」ともいえるし、くも膜下出血があった場合には「死因は解剖を行わなかった部位だが死因はくも膜下出血である」と言える。今までこういった情報もなしに、病理解剖を行っていたので、病理の先生たちのストレスはかなりのものであっただろう。「頭部に病変がない」といっても「Aiを行って粗大な病変がない」と確認したうえで病理解剖を行うのと、Aiなしで「生前の臨床情報では頭部の所見はなかった」と言うのでは、病理医の心構えとして雲泥の差が出てくることと思う。また病理解剖では、一応体表の所見も拾うが、病院内

の死で事件性がないというのが原則であるので、司法解剖ほど、詳しく死後硬直や、皮下出血などの所見を拾っ

たりはしない。したがって、小児虐待の症例で、もし仮に病理解剖が行われたとしたら(ゆさぶりっこ症候群などで体表所見がないことはかなりある)、体幹部の解剖だけで終わってしまい、頭部の解剖許可が下りなければ脳挫傷などの所見もわからない可能性がある。また虐待の場合は何度も繰り返し暴行が加えられるので、上腕骨などの骨折の治癒などの所見は、画像検査を行わないと全くわからない。このように、「解剖が行われない部位」の補完的な検査としてAiはかなり威力を発揮すると思われる。

2.救急医療から見たAi救急医療の分野では以前からAiがAiと認識されずに行われていたようだ。というのも保険制度の問題で亡くなった後だと医療費を請求できなくなってしまうからである。千葉救急医療センターのように、きちんと遺族にAiの必要性を説明し、保険診療外として検査を実施している病院もわずかにあるが、多くの病院では「生きているものとして」死後画像検査を実施している病院が多いようだ。2005年に行った「救命救急センターにおける死後画像撮影の現状に関するアンケート調査」では、183施設のうち121施設から回答があり、そのうち107施設(88

%)で実施経験ありという報告もされている。これはAi

という言葉を使うか使わないかの違いだけで、救急医療の先生方にとって、死後画像検査がどうしても必要だという事実があるということである。それでは一体何のために死後画像検査を行っているのだろうか。基本的に、救急搬送されてくる患者の多くは、「病院外で負傷あるいは容態が急変した患者」である。このため、それまでの臨床情報がほとんどないか、あっても急変時にかかりつけ医がわかっている以外取り寄せようがないのである。このような患者に対して、体表からみただけで死体検案書を作成することは可能だろうか。おそらく当初は、外傷の程度を確認するためにCTや単純写真などの検査を実施していたと思われるが、「急変した患者の状態を的確に判断する」ための画像検査と、「正確な死体検案書を作成する」ための画像検査が同じだということを言葉にしないまでも実感していただろう。したがって、救急の現場では、体表からは評価することが困難な頭部のCTと、死因に直結する可能性が高い、胸部の単純写真が最低限の画像検査として取り入れられたと考える。これは、原則として「生きている患者

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と同様の検査」となるので、被ばくをできるだけ少なくという方向で、限られた部分の撮影をということになるのも当然だと思う。ただし、こういった検査を行った場合、さまざまな問

題が発生する。最も問題になるのは、「画像検査を行ったのに死因がわからないではないか = 画像検査は無意味」という解釈をする人々がいるということだ。私も画像検査を行えば、死因のすべてがわかるなどと言うつもりは毛頭ない。実際に、第 3回Ai学会で、中国労災病院の吉田先生から 5年間に経験したCPA 395症例のうち、外因、窒息、疾患末期を除いた260症例について検討し、心拍再開せず、死亡した症例のうち主病名が特定できたものは25%という報告がある。おそらくこれが、救急医療に携わる先生方の認識ともそれほどずれはないと思う。この 3割前後を高いととるか、低いととるかだが、プロ野球でいうところの 3割バッターはなかなかのものだと思う。それに、現状の解剖が 2%で、病理、法医の人数も足りていないという現状では、まずスクリーニングの意味も含めて、こういった、救急の現場で、Ai

を実施し、できるだけ正確な死体検案書を作成する意義はあるだろう。

3.法医学(行政解剖を含む)からみたAiテレビシリーズ「科捜研の女」などでも有名な(?)法医学だが、最近は、殺人事件や時津風部屋のリンチ事件などで、メディア露出も増え注目されている。法医学にAi

を取り入れたのは、2004年、レンタルCTを使い変死体20症例を検討した、千葉大学法医学教室がおそらく日本では端緒ではないかと思う3)。現在では、放射線医学総合研究所から格安で購入した車載式CT装置を使用して、検査を継続している。基本的には司法解剖前にCTを撮像するという使い方である。これは、「病理解剖前のガイド」としての使用方法とほぼ同じだが、この場合、「司法解剖 = 裁判のための証拠集め」なので、外因死の特定が中心となる。こういった使い方ももちろん有用なのだが、やはり重

要なことは「スクリーニングとしてのAi」をこの分野でも行うことだと思う。「病院外で」人が死んでいた場合、警察に連絡が行く。生きている可能性がある場合は救急車が呼ばれ、病院に搬送されることになるが、死亡していた場合は、検視が行われる。ここに大きな罠がある。警察にとって最も重要なことは、その死体が「他殺か、そ

うでないか」である。これを見極めるのが検視官だが、法医学者同様、専門にしている人数が少なく、すべての事例に出動するわけではない(因みに千葉県は 6人の検視官で警察が扱う死体は約 7千体である)。年間病院外で死亡するのは、おおよそ15万人といわれている。以前の統計だが、検死官が対応するものは、11%程度との報告もある。つまり、残りの 9割が普通の警官によって、「他殺か、そうでないか」の判断が行われているということになる。検視官にしても普通の警官にしても、知識の差こそあるが、体表から所見をとり、身体に傷を付けられないということには代わりがない。救急の先生方ですら、事実上Aiを行っているのだから、医学知識に乏しい彼らにとっても、体表所見 + Aiという組合せで検視を行えば、少なくとも今よりは正確な死因を究明することができると思う。ただし、この場合はいろいろと制約がある。まず、損壊が激しかったり、死後経過時間がかなり経っていたりすると臭いがしたり、場合によっては血だらけになったりする可能性がある。こういった症例を一般の人々が使用するCTで撮像することには、やはりかなりの抵抗があるだろう。この問題を解決するためには、警察からの検視依頼専用のCTを使用することだろうが、現時点では、費用などの問題から難しいであろう。代替案として、現様の装置を使用する場合に、少なくとも遺体の臭いや汚染を防ぐために、完全防水のシーツや袋で包装した状態での検査をするという手段があるかもしれない。皆さんは行政解剖についてご存じだろうか。行政解剖も「病院外の死」について行う解剖だが、位置づけとしては他殺など、犯罪が絡まないものについて公衆衛生上の目的などで行う解剖である。ここで重要なことは、司法解剖が法務省の管轄で費用の出費などが行われるのに対して、行政解剖はまさに行政機関(多くの場合は県単位)の管轄になるということだ。また行政解剖についても、監察医務院制度が存在する地域(東京、横浜、大阪など6都市、ただし東京23区以外の市部などは管轄外)とそうでない地域で、ものすごい格差が存在する。監察医務院制度がある東京都区内では、潤沢な予算が付き、解剖が実施可能なのだが、それ以外の地域では年間100万円などという予算しかついていない。今まで何回も言っているように、体表からの検視には限界がある。そのうえ、解剖が行われる予算が限られて年度末には行政解剖ができない事態になる。「病院外の死」で検視では他殺の

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可能性がないと判断されたもののなかに「実は他殺が含まれていた」などという事実は十分に考えられる。「江戸川を超えると(= 千葉県ならではですが)殺人天国」という冗談はあながち間違いではない。ただし、こういった状態のなかでも、筑波メディカルセンターでは10年以上行政解剖前に死後画像検査に取り組んでいる実績があり、多くの死後変化についての研究も行われている。東京、大阪など監察医務院制度がない地域では、最終的にはAiセンターで死体専用のCT装置などの画像診断装置を購入し、すべての症例に検視の段階で実施できればと考える。

4.遺族から見たAi最近、取材などで「遺族からの依頼はないのですか」と

質問されることがある。治療に納得がいかないあるいは不信感をもった遺族からAiを引き受けないのか、という意味合いが含まれている質問だと思う。自分の病院内の事例であれば、当然検査を行い、異状死の場合は届け出を出すという形になるが、他院で亡くなった場合、まず遺体をその病院から搬出しなければならない。これには死亡診断書が必要なため、必然的に相手の病院の先生の承諾が必要となる。したがって、現在のAiセンターでは遺族からの直接の申し込みは受け付けていない。まずは入院先の医療機関と遺族の間で話し合いをしていただき、了解が得られた症例についてAiを実施している。一般の方の意見でよく耳にすることは、「解剖はいやだけれど、なぜ亡くなったのかは知りたい」というものだ。「今まで元気だったのに、何故急に亡くなったのか」、「私たちが看病していたが落ち度がなかったのか」などと医療過誤を疑うわけではないが、遺族が亡くなられた方に対する最後の看護行為として、正確な死因を究明したいというものである。また長い闘病生活で遺族としても、ただ「お亡くなりになりました」と言われるより、「身体がこうなるまでがんばったんですよ」などと説明されることで故人の死亡に納得するようだ。これは心のケアにもつながり、「死後看護」としても脚光を浴びている。短時間で検査が終了し、身体に傷を付けないAiは私たち医療従事者以上に、一般の方々に認知され、受け入れられているようだ。また万が一医療事故などが起こった場合は、Aiを行うことで、死亡時の状況を客観的に残すことも可能である。この検査は、解剖と異なり即時性があるので、その時点でどのようなことが起こったか

を、医師、遺族の双方に呈示でき、状況の把握が可能である。いわば医療版の「ボイスレコーダー」の役割を果たす(図 3)。この情報を基に、さらなる検索が必要であれば解剖を行うことも可能だし、双方が納得した場合には訴訟に発展することなく、和解することも可能である。

5.AiセンターからみたAi上記のすべての満たしたものが最終的なAiセンターに

なると考えられる(図 4)。ただし現状では、遺体の損壊の具合や、関与する人々の差(医療従事者と警察官)という違いがあるので、まずは、医療におけるAiを中心とした(つまり病院内の死)センターを設置するということが、現時点のマンパワーなどを考えても妥当だと思う。その場合、センターの仕事は以下のようになるのではないだろうか。

①病理解剖前の死亡時画像検査を実施することによる剖検の精度上昇 ②病理解剖の同意が得られなかった症例に対する代替的な死因究明 ③ ②をさらに進めた、死亡診断書・検案書を作成する場合の死亡時画像検査④外部からの症例に対する①、②、③の実施

こういった内容を行うセンターの目的は、 ①地域の中核としての解剖を含めた死因究明を行う施設 ②公平、公正、中立的な死亡時画像情報を提供できる第三者機関 ③各病院で行われた死亡時画像のデータの集積と解析を行い、社会にフィードバックするといったところだろうか。

将来的には、司法分野だけではなく、解剖学教室とも共同で、死後画像のデータを蓄積し、学生の解剖実習に応用したり、集めたデータから人体骨格の年齢別再構築などを行い、人類学の分野でも研究を行う、Ai教育センターも必要かと思う。これらを統合した形でのAiセンター化を目指していくこととなる。

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病院内の異常死

遺族からの依頼医療におけるボイスレコーダー

医療版事故調

ADR

解剖と異なり,即時性がある。非破壊検査で証拠保全が可能 

殺人事件(警察)

Aiでの死亡時医学検索

図 3 Aiは医療におけるボイスレコーダーになり得る

Aiセンター構想

病院内 県医師会 県庁 警察

Ai センター

遺族からのAi要請

死亡時医学検査 医療版事故調裁判

ADRへの資料提出

病理解剖 行政解剖 司法解剖

図 4 Aiセンター構想

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Aiセンターの設立・運営に際しての留意点

誰が中心となってセンターを運営するのか?千葉大学では、放射線科医である私が中心となってセ

ンター立ち上げを行った。その他の病院で実際にAiを運営している施設をみてみると、病院内のさまざまな部署の方々がこのAiに取り組み、運営している現状がみえてくる。それには、①病理医が中心となって検査を実施②医療安全部が中心となって検査を実施③救急の先生が中心となって検査を実施

という 3つのパターンがある。現時点では放射線科医が中心となって取り組んでいる病院は少ないようである。これにはいくつか理由があるのであろう。まず、「生きている患者で忙しくて死体なんて見ている暇がない、また興味もない」ということである。MDCT、モニター診断などにより検査効率が上がっているが、放射線科医のマンパワーは不足している。彼らにこれ以上仕事を増やせ、それも無給でといったら誰も手伝いたくないということは当然だと思う。次に考えられることは「どうやって撮ればいいかよくわからないし、死後画像に関して経験がないからできれば読影したくない」ということだ。「小児は小さな大人ではない」ということはよく言われるが、「死後画像診断は造影剤を使えない単純CT検査というわけでない」ということがやはりいえるだろう。生前の画像や情報がある程度わかっていたとしても、癌患者のターミナルでは生前画像が 3カ月前、また脳外科で経過観察していた人は頭部の画像しかないなどということはざらである。まして救急の場合は生前情報がないことの方が多いと思われる。こういった臨床情報がないような状態で、死後変化が起こり修飾された画像を読影しなければならないという状況に私たち診断医は直面する。以上が放射線科医が中心となって検査を実施している病院が少ない理由だと考えている。では放射線科医以外が中心となって運営している施設

ではどうだろう。「Aiは有用である」という認識を持ち、積極的に取り組んでいると思うが、撮像方法、撮像範囲などを具体的に指示することが難しいかもしれない。また死後画像は撮れば検査終了ではなく、所見を拾って初めて検査が終了である。やはり画像の専門家である放射線科および放射線技師の協力は必要であろう。今後は、放射線科が中心となり撮影方法などを提案する必要があ

ると思っている。春の専門医会ニュースに投稿したが、どの施設でも均一な死後画像検査が実施できるように、ある程度ガイドラインのようなものを設ける必要があるのではないだろうか。

Aiが有用であった症例

今回は、Aiセンターについて説明した。症例の呈示も単なる死後画像ではなく、Aiの有用性を説明できるものをいくつか提示したいと思う。

1.病理解剖で頭部の解剖の承諾が得られなかった例(図5)頭部の解剖は体幹部の解剖と別に遺族の承諾が必要である。この症例も50歳女性、肺リンパ脈管筋腫症で経過観察されていたが、急変時、頭痛を訴え、その後、嘔吐、意識消失のため救急隊を要請、千葉大学に搬送された。このとき撮像されたCTで脳幹部の出血が認められた。家族の希望もあり、人工呼吸管理や心臓マッサージも行わずnatural courseで経過観察し、36時間後死亡確認された。ご遺族は病理解剖には同意したが、頭部の解剖については承諾してもらえなかった。死後CTだが、脳幹部の出血を認め、側脳室後角に穿破している。脳幹周囲のCSFは確認できず、今回の死因は脳幹部の出血であることが考えられる。今回の症例のように、突然死の場合、原病が急変するという病態のほかに、くも膜下出血や梗塞などのように頭部の病変が存在する可能性がある。急性心筋梗塞などの可能性も考えられるが、一番の問題は頭部については病理解剖のハードルがかなり高いということである。もともと頭部の疾患で経過観察されていた患者さんであれば、承諾を得ることは難しくないかもしれないが、体幹部の病気で経過観察され、容態が急変したとき「もしかしたら頭部に病気があるかもしれないから解剖させてもらえないだろうか」と遺族に提案することはかなり難しいかもしれない。今回のように、脳幹出血があることが分かっていても、遺族は頭部の解剖を承諾してくれなかった。病理の先生はいつも「頭部に病変があるかもしれないが承諾してもらえなかった」という自体に直面しながら、体幹部の解剖を行っているケースがあると思う。Aiを行うことにより少なくとも粗大な出血を検出することができる。逆に「頭部に大きな病変がない」という情報を病理の先生に提供できることは、病理医のストレスをかなり軽減することにもつなが

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ると考えられる。

2.病理解剖では形態の保持が困難な症例(図 6)司法解剖(千葉大学法医学教室 岩瀬博太郎先生より)の例だが、一例提示する。36歳男性が、自宅のベッドで血だらけになって倒れているところを発見された。体表には、リストカットなどの傷が認められるのだが、すべて浅い傷で致命傷には至らないようだ。胸部CTでは気胸を認め、縦隔は健側に変位している。画像から緊張性気胸が疑われ、司法解剖を行ったところ、左乳首より頭

側のアイスピックによる刺殺であることが確認された。このように、空気や胸水、腹水などの液体は破壊検査である解剖を行うことにより形態の保持が不能になる。気胸の場合、傷口は小さく見逃してしまう可能性さえある。

3.生体ではあまり読影時気にかけることがない部分(図7)生きている患者ではあまり問題にならない部分が、死後画像では死因に結びつくことがある。特に、救急車で搬送された場合、服薬自殺などの可能性もあり、胃の内容物に注意が必要だ。薬剤が溶けずに残っている場合

図 5 症例 1A 脳幹部に出血を認める.B 側脳室にも出血を認める.C  肺は肺リンパ脈管筋腫症により肺気腫様の変化が起こり,呼吸機能が低下している.背側の液体貯留は鏡面形成があり,死後変化である.

A B C

A B図 6 症例 2

A 左気胸を認め,縦隔は右側に変位している.このことから緊張性気胸と診断できる. B 刺入痕はごくわずか.解剖でもアーチファクトとして見逃してしまう可能性もある.

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は、高濃度の結節として描出される。逆に、手術後急変した患者の場合、通常飲食を控えているはずなので、胃は空っぽのことが多いはずである。液体が大量に貯留していた場合、胃内部への出血が疑われる。

4.児童虐待が疑われる症例(図 8)小児虐待の場合、頭部、体幹部以外に繰り返される虐

待で手足に骨折の治癒像が認められることがある。小児の場合、被ばくの問題からこれらの部位が撮像範囲外になることが多いと思われる。骨折などは外表をみればわかるという方もいるかもしれないが、小児虐待のように陳旧性のものは、皮下出血などの所見も認められず、骨膜を剥がさなければ確認できない所見もある。アメリカ

小児放射線科学会などからの推奨では手足を含んだ全身の骨サーベイを行うようにとあるが、かなり撮影に時間と手間がかかる。これが全身CTで代用できれば、検査時間の短縮につながり、放射線専門医以外でも骨折の発見が容易になる可能性があるかもしれない(「骨の異常は単純写真が基本」だという先生方がいらっしゃるのも当然だと思う。ただ日本中で同じレベルの検査を行おうとするときはCTが有用かと思う)。

5.癌末期の症例(図 9)通常の病死でAiは必要ないではないかと考える方も多いであろう。ただ実際にCPCに参加して感じることは、いかに画像と病理画像の時相の一致が重要かということ

A B図 7 症例 3

A 生前の画像(左)と比較して,死後画像(右)では胃が拡張し,かなりの量の液体が貯留していることがわかる. B 解け残った薬は高濃度として描出される.

A B図 8 症例 4

A 虐待により左尺骨に骨折の治癒が認められる. B 画像で指摘されない場合,陳旧性の骨折であり,皮下出血などから骨折の存在を指摘することは困難.

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だ。生前最後の画像が 3カ月前で、それと病理を比較していったい何を言えばいいのだろうか。状態が悪化したから死亡したわけで、3カ月間画像に変化がないということはあり得ない。癌患者の場合は末期に新たな転移が出現したりする可能性が高いと思われる。この症例は63

歳喉頭癌で、上咽頭に再発腫瘍がみつかり、TS-1の内服治療のみが行われていた。左側の画像は死亡 3カ月前。死亡時画像では、左胸膜播種と骨転移が認められる。

6.骨格系の異常(図10)病理解剖の弱点は、頭部の解剖の承諾が得られにくい

ことと、体幹部の臓器以外の解剖が困難な点である。そんなことはないと反論がくるかもしれないが、例えば病

理解剖で脊椎を確認する部位は腰椎の一部である。摘出した内臓側から確認できる部分は視認できるが、それも表面だけである。やはり、転移があるかどうかなどについては画像で事前に確認しなければならない。千葉大学で行われた第一例目がまさに骨格系の異常を伴う症例で、マルファン症候群に伴う、頸胸椎の側弯が確認できる。この場合は、3Dによる再構成画像が有用かもしれない。

A B図 9 症例 5

胸膜播種の出現および骨転移が指摘できる. A 死亡 3カ月前 B 死後CT

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【参考文献】1)江澤英史:剖検およびオートプシー・イメージング(Ai)に関する担癌患者遺族.アンケートの解析.癌と臨床

50,2004

2)山本正二:投稿(提言)日本医師会における「死亡時画像病理診断(Ai)活用に関する検討委員会」設置に対する放射線

科医の対応.JCRニュース 向春 163,2008

3)Hayakawa M, Yamamoto S, Motani H, et al: Does imaging

t e c h n o l o g y ov e r c o m e p r o b l e m s o f c o nv e n t i o n a l

postmortem examination? A trial of computed tomography

imaging for postmortem examination. Int J Legal Med 120: 24-26, 2006

図10 症例6マルファン症候群.頸胸椎の側弯が明瞭に描出されている

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