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2013. No.23 ヒューマンニュートリション 3 温かいスープで早期治癒を! 術後第 1日目から提供される 早期経口摂取への取り組み 医療法人 秀和会 秀和綜合病院 (埼玉県春日部市) 350 床を擁する秀和綜合病院。同院では五関謹秀院長が着任した2001年 7月からNSTが発足。 当初、外科病棟を中心に活動を開始。五関院長が提唱する術後早期経腸栄養を実践し、 在院日数の短縮や予後の改善など、着実にアウトカムを示してきた。 現在、同院 NSTが取り組んでいるのは、術後第 1日目からの早期経口摂取の実践だ。 ERAS プログラムが周知されるなか、同院のこの取り組みは急性期医療に大きな影響を与えそうだ。 Clinical Nutrition Practice 臨床栄養の 実践活動 撮影 = 増田 Enhanced Recovery After Surgery:周術期の集学的全身管理 皮膚科の病棟で対象患者の褥瘡の写 真をモニターで確認するNSTメンバー。 たんぱく質を強化したスープの経口摂 取で早期治癒につなげている Copyright (C) 2013 . All rights reserved.

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2013. No.23 ヒューマンニュートリション 3

温かいスープで早期治癒を!術後第1日目から提供される早期経口摂取への取り組み

医療法人秀和会

秀和綜合病院(埼玉県春日部市)

350床を擁する秀和綜合病院。同院では五関謹秀院長が着任した2001年7月からNSTが発足。当初、外科病棟を中心に活動を開始。五関院長が提唱する術後早期経腸栄養を実践し、

在院日数の短縮や予後の改善など、着実にアウトカムを示してきた。現在、同院NSTが取り組んでいるのは、術後第1日目からの早期経口摂取の実践だ。

ERAS※プログラムが周知されるなか、同院のこの取り組みは急性期医療に大きな影響を与えそうだ。

Clinical

Nutrition

Practice

臨 床 栄 養 の

実 践 活 動

撮影=増田 智※Enhanced Recovery After Surgery:周術期の集学的全身管理

皮膚科の病棟で対象患者の褥瘡の写真をモニターで確認するNSTメンバー。たんぱく質を強化したスープの経口摂取で早期治癒につなげている

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4 ヒューマンニュートリション 2013. No.23

「まず、75歳のKさんです。肝切パスを使用し、術翌日に術後食を開始しています。ただし、食事が多いとの訴えがあります。だいたい全量食べられているのですが、まれに半分ほど残すことがあります」3月中旬のある水曜日の午後1時、外科病棟のナースステーションにNSTメンバーとリンクナース、実習生らが集合し、NSTカンファレンスが始まった。リンクナースからの報告を受け、メンバー全員で問題点を把握。多職種それぞれが意見を挙げていく。「肝切の患者さんの場合、術後に食欲不振になることが多い。これを想定し、あらかじめ経鼻胃管を留置し

て経腸栄養ができるようにしてもよかったが、だいたい食べられているのであればこのままでいいでしょう」と、五関院長が提言する。同院の消化器術後の患者は、基本的にすべて術後第1日目から、術後食の適用となる。提供されるのは当初、ゼリーとスープ。1日目に600㎉、2日目に900㎉をこの形で提供し、3日目から五分粥などを付加し、5日目に全粥食にステップアップして約1週間で退院となる。同院NSTの対象患者の抽出は、血清アルブミン3.0g/㎗以下を基準としている。ただし、前例のような消化器術後の食欲不振、イレウスなどが生じてパスを逸脱した場合もNSTの対象となる。「ほとんどの場合、このプロトコルどおりに経過するので、NSTの対

象患者さんは毎回、10人弱です」とNST専従の管理栄養士、山崎珠絵さんは説明する。「術後食として提供するスープは、五関院長と当院栄養科が開発に深くかかわったプロミア(テルモ株式会社)です」甘い栄養補助食品が多いなか、甘いものが苦手な患者はなかなか摂取量が増えず、栄養状態の改善が難しくなることもあった。一方、コンソメ味、コーンスープ味、和風味の3種の味がラインナップされたこの製品は、粉末をお湯で溶くタイプのもので、さっぱりと食べやすい塩味。1包あたり100㎉のエネルギーと10gのたんぱく質を摂取できることから、術後の患者の喫食率の向上、および栄養状態の早期改善につながっている。

第1日目から経口摂取し約1週間で退院する

3 栄養科の管理栄養士、津賀祥子さん(右)と坂口恵里子さん。「すべては患者さんのため」をモットーとする栄養科の結束は固い4 対象患者のベッドサイドを訪れるNSTメンバー。親身に食事の要望に応えてくれることから、訪問を心待ちにする患者も多い

1 NSTチェアマンの五関謹秀院長とNST専従の管理栄養士、山崎珠絵さん(左)。2001年のNST発足からともに術後早期の経腸栄養を実践し、現在は術後早期の経口摂取に取り組んでいる2 NST回診を終え、各部署に戻るメンバー。2006年から術後早期の経口摂取に取り組んでいるが、チューブフィーディングに比べて患者の発語や顔色が確実によいことを実感しているという

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「さらに糖質の豊富なゼリーで1食200㎉を補っています。口から食べていただくこと、それが当院NSTの活動の根源と言えます」(山崎さん)このスープは現在、消化器術後の患者だけでなく、低栄養状態にある褥瘡の患者などにも提供されており、たんぱく質を効率的に摂取することで褥瘡の早期治癒につなげている。

術後、早期に口から食べてもらうこと。そこには五関院長の強い思いがある。「1980年代の後半から、食道がんの術後第3病日からの経腸栄養など、術後の早期経腸栄養に取り組んできましたが、これは最終手段ではありません。より生理的で早期治癒

につなげる方法として術後早期の経口摂取を考えるようになりました。その理由は咀嚼です」(五関院長)咀嚼によって唾液が分泌されると、唾液中の上皮成長因子が胃酸による胃壁粘膜の障害を修復する。しかし、静脈栄養や経腸栄養管理下では咀嚼が行なわれないため、胃内の

pHが上昇し、胃潰瘍やびらんなどのリスクが高くなる。これを防ぐために投与されるのが制酸剤だが、結果として胃酸による殺菌作用が低下。MRSAなどの感染症のリスクが高くなる。そのために抗生剤を投与することになる。こうした悪循環を断ち切るため、術後早期に経口摂取し、しっかりと咀嚼することが大切であると、五関院長は強調する。「人がこの世に誕生したとき、当然ですがまだ視覚も聴覚も備わっていません。唯一、備わっているのが口唇の触角なのだそうです。すぐに母親の母乳を摂取するための大切な感覚であり、人が生きるうえで根源的な能力と言えるでしょう。その力を可能なかぎり支えていく。それが私たちNSTの使命であると考えています」(五関院長)

5 対象患者の転院先での介護体制を確認するため、急遽、ソーシャルワーカーが呼ばれた。「いくらここでの栄養管理がうまくいっても、誤嚥などですぐに再入院しては意味がない」と五関院長。栄養管理の地域連携が大きな課題だ

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患者さんの食べる力を

支えていくこと

それが私たち

NSTの使命です。

(五関謹秀院長)

食べることは生きることその力をしっかりと支える

患者の発語がしっかりとしていることに安心し、笑みを浮

かべる山崎さん。「食べて元気になってもらうこと」。それ

がNSTメンバーのモチベーションの源だ

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