19
プロが教える翻訳基礎講座 レッスン1 レッスン1では、基本的なパソコンの設定と、翻訳の基礎のキソ、納品方法について学びます。 パソコンの設定は、今すぐ同じに設定する必要はありません。でも、翻訳の仕事を始めたら、結 局はこの設定にすることになるので、今のうちに設定することをお勧めします。 翻訳の基礎のキソは、訳し方のテクニックなどよりずっと大切なことです。 これを守らないと、プロとしての仕事は一切ありません。 今後、100%守ってください。 納品方法は、翻訳会社によって違うので、一般的な方法をお伝えします。メールに添付するだけ なら簡単ですが、そうではないのです。 一般的な翻訳講座では、翻訳方法だけしか学ぶことができません。しかし、実際に仕事を始める と、翻訳そのもの以外にも知っておくべきことがたくさんあるので、かなり悩むことになります。 そこで、この講座では、できるだけ実際の仕事に近い環境で納品などをしてもらうことで、翻訳 の仕事を仮想体験しながら翻訳の勉強をしていただきます。 仕事を始めたときに、そのまま使えることばかりですので必ず役に立つはずです。

プロが教える翻訳基礎講座 レッスン1todahon-english.com/transkiso/lesson1/lesson01.pdfプロが教える翻訳基礎講座 レッスン1 レッスン1では、基本的なパソコンの設定と、翻訳の基礎のキソ、納品方法について学びます。

  • Upload
    others

  • View
    6

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

プロが教える翻訳基礎講座

レッスン1

レッスン1では、基本的なパソコンの設定と、翻訳の基礎のキソ、納品方法について学びます。

パソコンの設定は、今すぐ同じに設定する必要はありません。でも、翻訳の仕事を始めたら、結

局はこの設定にすることになるので、今のうちに設定することをお勧めします。

翻訳の基礎のキソは、訳し方のテクニックなどよりずっと大切なことです。

これを守らないと、プロとしての仕事は一切ありません。

今後、100%守ってください。

納品方法は、翻訳会社によって違うので、一般的な方法をお伝えします。メールに添付するだけ

なら簡単ですが、そうではないのです。

一般的な翻訳講座では、翻訳方法だけしか学ぶことができません。しかし、実際に仕事を始める

と、翻訳そのもの以外にも知っておくべきことがたくさんあるので、かなり悩むことになります。

そこで、この講座では、できるだけ実際の仕事に近い環境で納品などをしてもらうことで、翻訳

の仕事を仮想体験しながら翻訳の勉強をしていただきます。

仕事を始めたときに、そのまま使えることばかりですので必ず役に立つはずです。

■ 著作権について

「プロが教える翻訳基礎講座」(以下本マニュアル)は著作権法で保護されている著作物です。

本マニュアルの使用に関しましては、以下の点にご注意ください。

本マニュアルの著作権は戸田亮に属します。

著作権者の許可を得ずして、本マニュアル(付録、特典含)の一部または全部をあらゆるデータ

蓄積手段(印刷物、ビデオ、CD、DVD、テープレコーダなどの電子メディア、インターネッ

トサーバ等)により複製、転載することを禁じます。

■ 使用承諾許可書

本契約は、あなたと戸田亮との契約となります。

本マニュアルの開封を持って、あなたは本契約に同意したとみなされます。

本契約とは以下の通りです。

第1条使用目的

本契約では、本マニュアルに含まれる情報をあなたが非独占的に使用する権利を承諾する

ものです。

第2条一般公開の禁止

本マニュアルに含まれる情報は、著作権法によって保護され、また秘匿性の高い内容であ

ることを踏まえ、あなたはその戸田亮との書面による事前許可を得ずして出版及び電子メ

ディア等の配信により、一般公開並びに転売してはならないものとします。

第3条契約解除

あなたが本契約に違反した場合には、戸田亮は何の通告もなく、この使用承諾契約を解除

することができるものとします。

第4条損害賠償

あなたが本契約第2条の規定に違反した場合、本契約の解除に関わらず、直ちに戸田亮に

対して、違反金として違反件数と販売価格を乗じた金額の10倍の金額を支払うものとし

ます。またインターネット等で公開した場合には、一律500万円を支払うものとします。

第5条その他

本マニュアルはあなたが行う事業における収益増加を目的としておりますが、期待通りの

収益が見込めず万一損害が生じた場合においても、戸田亮は責任を負わないものとします。

目次

1.データの保存方法 ......................................................................................................................................... 4

2.ワードの設定 ................................................................................................................................................. 7

3.入力仕様 ...................................................................................................................................................... 10

4.全角文字と半角文字の違い ......................................................................................................................... 11

5.翻訳の仕事をするときに、ぜったいに守るべきこと................................................................................. 12

6.「読みやすさ」か「忠実さ」か ................................................................................................................... 14

7.長い文を2文に分割してもいいか .............................................................................................................. 15

8.申し送り書について .................................................................................................................................... 16

9.納品前にするべきこと ................................................................................................................................ 17

10.納品のしかた ........................................................................................................................................... 18

11.推薦図書 .................................................................................................................................................. 19

1.データの保存方法

翻訳の仕事を続けていると、データがどんどん増えてきて、どこに何を保存したのか分からなく

なってきます。

そこで最初に、私が過去10年間使ってきて、ほぼ満足しているデータの保存方法を紹介します。

次にフォルダ構造のポイントを説明します。

1.翻訳用のフォルダを作り、西暦ごとに時系列に並べる。

2.西暦の次は、取り引き先名のフォルダを作る。

3.取り引き先名のフォルダの中に、月ごとのフォルダを作る。

4.月ごとのフィルダの中に、仕事を受注した日と、翻訳を発注した会社の名前や覚えやすい言

葉を使ったフォルダを作る。

5.4のフォルダの中に、「orig」、「final」、「trans」というフォルダを作る。

「orig」:取り引き先から受け取ったファイルの原本をそのままの形で取っておきます。

「final」:最終的に納品する完成ファイルを入れます。

「trans」:作業用のファイルを入れます。つまり、「orig」フォルダから翻訳対象ファイルをコ

ピーして作業します。

6.「backup」フォルダには、作業中のファイルをコピーして保存します。ファイルの破損など

に対応するためです(Wordファイルは、ときどき破損して再起不能になることがあります)。

バックアップファイルは、読み取り専用に設定しておきます。

ファイルを右クリックして「プロパティー」を選択します。

下の画面が表示されるので「読み取り専用」をオンにします。

Windowsのバージョンによって画面は異なりますが基本は同じです。

バックアップファイルには、世代別に「01」、「02」などの連番を付けます。

バックアップ用のファイルは「読み取り専用」に設定しておかないと、作業用のファイルと間違

えて編集してしまう可能性があります。注意してください。

※Macの場合は、Macのヘルプファイルなどで設定方法を確認してください。

7.フォルダ名はすべて半角英数字にします。

平仮名、カタカナ、漢字、スペースは使いません。まれにですが、外国製の翻訳支援ソフトを使

ったときなどに不具合が発生するからです。

上記のようにファイルを分類しておくと、10年分のデータがたまっても、どこに保存したか分

からなくなって探し回ることがほとんどありません。

もちろん、自分でやりやすいように保存すればいいですが、私の経験から上の方法をお勧めしま

す。

2.ワードの設定

ワードには、おせっかいな修正機能がたくさん付いているため、入力した文字が自動的に別の記

号に変換されたり、勝手にスペースが挿入されたりすることがあります。

ワードのおせっかい機能は、翻訳の仕事では不要なので、以下のようにすべてオフにします。

「ファイル」-「オプション」を選択します(古い Word バージョンでは、「ツール」-「オー

トコレクトのオプション」)。

「文章校正」-「オートコレクトのオプション」を選択します。」

「入力オートフォーマット」のオプションをすべてオフにします。

「オートフォーマット」のオプションを下図のように設定します。

「オートコレクト」や「数式オートコレクト」は、必要ないと感じたときに設定を変更してくだ

さい。

3.入力仕様

仕事のときには、さまざまな入力仕様に完璧に準拠することが求められます。以下に代表的な仕

様を記載しますので、今後、参考にしてください。

ちなみに、大手の企業になると、このような仕様だけで何百ページにも及ぶ文書を作っています。

最初はかなりあせりますが、ポイントだけ押さえていると大丈夫です。

項目 仕様例1 仕様例2 備考

文体 ですます である ただし、箇条書きは「で

ある」体

英数字 半角 半角

記号 半角

()「」?!は全角

すべて半角

文字間スペース 半角と全角の間にスペ

ースを入れない。

例)ABC 社が提供する

サービス

半角と全角の間にスペースを

入れる。

例)ABC△社が提供する△1△

つのサービス

△はスペースを表しま

す。

カタカナ複合語 間にスペースあり

例)コンピューター△テ

クノロジー

間に中黒を入れる

例)コンピューター・テクノロ

ジー

スペースも中黒も使わ

ない場合もあります。

末尾の長音記号 単語の末尾に長音記号

を使う

例)ユーザー、コンピュ

ーター

長音を除く文字が3文字未満

の場合は、長音記号を付ける

例)ユーザー、メモリ、コンピ

ュータ。「ユーザー」は長音を

取ると「ユ」と「ザ」の 2 文

字なので長音を付ける

UI(ユーザーインタ

ーフェース:画面に

表示される文字な

ど)

「ファイル」を選択しま

す。

[ファイル]を選択します。 [ ]は全角にする場合もあ

ります。

参照文 の詳細については、~を

参照してください。

については、~をご覧くださ

い。

こういうお決まり表現

は、必ず統一します。

数字 ○1人のアメリカ人、

×一人のアメリカ人

○百発百中

×100発 100中

左と同じ 数えられる表現のとき

は数字、数えられない表

現のときは漢数字

4.全角文字と半角文字の違い

以下を見ると違いは一目瞭然だと思います。

1234567890

1234567890

ABCDEFGGI

ABCDEFGGI

上が全角文字で、下が半角文字です。パソコンの設定によって違いますが、全角文字は、日本語

入力をオンにした状態で数字や英文字を入力すると表示されます。

翻訳の仕事では、ほとんどの場合、英数字(数字とアルファベット)は半角文字を使います。

たいていは、仕事のたびに取り引き先から前ページの仕様書(翻訳指示書・ハウススタイルとも

呼ぶ)のようなもので指定されます。

こうした細かい指示に従えない人は、

少しくらい訳文が良くても信用されませんので注意してください。

5.翻訳の仕事をするときに、ぜったいに守るべきこと

実務翻訳(産業翻訳)の仕事をするときに、ぜったいに守らなければいけないことが1つありま

す。これがレッスン1で一番大切なポイントです。

これを守らない人には、ぜったいに仕事は来ません。

最初の1回は仕事が来ても、2回目はありません。

逆に、これをしっかり守る人は、少しくらい訳文がぎこちなくても、継続して仕事を受注できる

可能性があります。

それは、

「何も足さない、何も引かない」

ということです。

「何も足さない」というのは、原文に書かれていないことを付け足さないということです。

確かに、原文をそのまま日本語に訳したら、文化の違いなどから意味が分かりにくくなることは

あります。でも、絶対に原文にないことを加えてはいけません。原文に書かれていることだけを

訳しながら、日本語でも意味が分かるように工夫をしてください。

もし、どうしても補足が必要な場合は、

1.原文にない言葉を加えて訳しておいて、「原文どおりに訳すと意味が分からなくな

るので、「・・・」という言葉を補足して訳しました。」のように申し送り書(後述)に

書く。

2.原文に忠実に訳して、申し送り書には、「原文どおりに訳しましたが、「・・・」の

ように補足して訳すと意味が明確になります。」のように書いておく。

のどちらかを選んでください。

勝手に言葉を付け加えておきながら知らん顔していると、

次回の仕事はありません!

次に、「何も引かない」というのは、原文に書かれている単語はすべて訳すということです。

翻訳をしていると、「これは訳出しないほうが分かりやすいだろうな。」という単語が含まれてい

ることがあります。

そういう場合でも訳出してください。

なぜなら、原文を書いた人は、ちゃんとした理由があってその単語を使っている可能性があるか

らです。その単語は大切なのか、それとも大切でないのか。外部の人間である翻訳者に判断でき

ることではありません。

もし、翻訳者の独断で省略してしまうと、原文作者の意図を離れてしまう可能性があります。

もしそれが、会社間でやり取りする文書だった場合、正しい意図が伝わらず、2社の間で問題が

発生する可能性があります。

だから、日本語としてできるだけ分かりやすく、読みやすい文になるように工夫して訳出してく

ださい。

訳出すると、どうしても意味が分からなくなる場合は、「何も足さない」のときと同じように

1.その部分を省略して訳しておいて、「原文どおりに訳すと意味が分からなくなるの

で、「・・・」という単語は訳出しませんでした。」のように申し送り書に書く。

2.原文に忠実に訳して、申し送り書には、「原文どおりに訳しましたが、「・・・」を

訳出しないほうが意味が明確になるかと思います。」のように書いておく。

のどちらかを選んでください。

ちなみに、「it」や「the」をどう訳すかについては文脈から決めます。

たとえば、「it」は「それ」と訳す場合もあれば、何を指しているか具体的に書く場合もありま

す。

「the」は、「その・・・」と訳す場合もありますが、たいていは訳出不要です。

6.「読みやすさ」か「忠実さ」か

「読みやすさ」、「理解しやすさ」はとうぜん大切ですが、実務翻訳の仕事では「正確さ」、「忠実

さ」のほうがさらに大切です。

もちろん、読みやすいにこしたことはありません。でも、小説などの翻訳とは違い、少しくらい

読みにくくても正確で原文に忠実なほうが好まれます。

「正確で忠実な訳」であれば、翻訳を依頼した企業(クライアント)に損害が発生する可能性は

ほとんどありません。

しかし、「読みやすいけれど正確でない文章」は、取り引きで誤解が生じ、クライアントに大き

な損害を与える可能性があるので、ぜったいに受け入れられません。

小説や映画を翻訳するなら、「読みやすさ」が一番重視されますが、実務翻訳では「正確さ」、「忠

実さ」を重視してください。

ただし、「忠実」といっても、中学や高校でやるような英文和訳ではプロとしての仕事はありま

せん。日本語として不自然でなく、一度読むだけで理解できるレベルの訳文を書く必要がありま

す。

「原文に忠実でありながら、自然な日本語に訳す」

これが実務翻訳で最も大切なことです。

※消費者向けのカタログなど、読みやすさが重視される場合もあります。

その際は、原文から離れすぎない範囲で「意訳」することが許されます。

どこまで「意訳」が許されるかは、取り引き先に確認してください。

7.長い文を2文に分割してもいいか

「忠実さ」が大事という話をしましたが、原文が長すぎるために、そのまま訳したのでは読みに

くいことがあります。

特に、1文に関係代名詞が何度も使われているときなどは、分かりづらくなります。

そんなときには、取り引き先から「分割するな」と指示されていないかぎり、2文に分けても大

丈夫です。

ただし、できるだけ原文から離れない形で分割してください。

逆に、2文を1文つにつなげてもいいかというと、必要ならつなげてもかまいませんが、そのこ

とを申し送り書に書いておく必要があります。

8.申し送り書について

別ファイルで、サンプルの申し送り書をお渡ししました。

moushiokuri.doc

moushiokuri.xls

Word版と Excel版がありますが、どちらを使ってもかまいません。取り引き先からひな形を渡

されることもありますが、ひな形を渡されなければ、上のファイルを使って問題ありません。

また、上のファイルはあくまで一例ですので、使いやすいように変更しても大丈夫です。

翻訳をしていると、原文に間違いがあったり、意味不明だったりすることがよくあります。

そういうことは、申し送り書に書いてください。

ただし、何でもかんでも書けばいいのではなく、ある程度、重要なものを厳選してください。

また、お客様に渡すファイルなので、「ですます」体で丁寧に書いてください。

「この文は意味が分かりません」というようなのは、ぜったいにダメです。

分からなくても文脈から想像して訳したうえで、「この文からは意味を明確に把握できません。

前後関係から判断して訳しましたので、ご確認ください」のように記載してください。

また、明らかに原文に不備があり、意味不明なこともあります。そういう場合でも、文脈から判

断して必ず訳出してください。

訳出したうえで、「この文には動詞が存在しません。文脈から判断して訳しましたのでご確認く

ださい。」のように記載します。

申し送り書をしっかり書くことで、取り引き先の信頼を得ることができます。

「おまけ」的に書くのではなく、商品の一部として真剣に書いてください。

9.納品前にするべきこと

納品する前には、最低1回は、原文と訳文を照らし合わせて見直しをしてください。

できるだけ、翻訳した日に見直しをするのではなく、次の日以降に見直しをします。

1日置くことで頭がリフレッシュされるので、翻訳時には気付かなかったミスが見つかることが

あります。いくら考えても分からなかったことが、閃くように分かることもあります。

その後に、Wordの「校閲」-「スペルチェックと文章校正」機能を使ってチェックをします。

(古いWordでは、「ツール」-「文章校正」)

ただし、この機能は万能ではありません。

シンプルな入力ミスなどを指摘してくれるだけなので、目視での見直しもしっかりとしてくださ

い。

10.納品のしかた

納品方法は、取引先の指示に従います。

主な方法は、

1.メールに添付して納品する。

2.FTPを使って取り引き先のサーバーにアップロードする。

3.取り引き先のファイル管理システムを使って納品する。

です。

セキュリティを大切にする企業は、2か3の方法を指定してきますが、1を使う会社もまだまだ

あります。

今回は、1の方法について説明します。

メールに添付する前に、データを zip形式に圧縮してパスワードをかけるのが一般的です。

zip形式に圧縮する方法は、別ファイル「Lhaplus.doc」を参照してください。

Lhaplus の動作は、Windows のバージョンなどによって違うので完璧には説明できませんが、

難しくないので少し使ってみると分かってきます。

では、以下のように納品してください。

1.翻訳済みファイルと申し送り書をまとめて圧縮します。圧縮すると、複数のファイ

ルが1つのファイルにまとめられます。圧縮するときに、パスワードを指定します。

2.メールに添付して、ファイルを納品します。

3.別のメールでパスワードだけ知らせます。

こうすることで、ファイルをそのまま納品するのと比べて、セキュリティが少し向上します。

11.推薦図書

『日本語の作文技術 (朝日文庫)』

本田勝一著

http://www.akirasblog.com/web/54/ (アマゾン)

少し古い本ですが、ぜひ読んでください。

続編に『実戦・日本語の作文技術』というのもありますが、大切なポイントは上記の本に書かれ

ているので、続編は読まなくても大丈夫です。