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30 ビジネスコミュニケーション 2020 Vol.57 No.5
特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ
—IOWNを構成する3つの要素2019年 5月、NTT 澤 田 社 長 は
「IOWN」という革新的なネットワーク構想を発表した。
インターネット内の情報流通量の増大に伴い、IT機器が処理すべきデータ量や消費電力は増大し続けている。一方で、半導体集積回路(LSI)の集積率が 18ヶ月で 2倍になるというムーアの法則は限界に近いと言われている。コンピュータの性能は従来のペースでは伸びることが期待でき
なくなりつつある。こ れ ま で、 コ ン
ピュータで演算を行うチップには、使い勝手の良い電子技術が使われてきた。しかし、近年の高集積化に伴い、チップ内における配線の発熱量が増加し、性能を制限しつつある。
新しいイノベーションが求められるこのような背景を受け、IOWN 構想は発表された。IOWN 構想は、3つの要素か ら 成 り 立 ち、 ① ネ ッ ト ワ ー ク
(NW)から端末まですべてにフォトニクス技術の導入を図るオールフォトニクスネットワーク(APN)、
NTT デバイスイノベーションセンタ(DIC)のフォトニックネットワークデバイスプロジェクト(PDP)では、IOWN構想の実現に向けたオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の実現に向けて技術開発を進めている。APNの最初の段階であるいわば、Pre-IOWNとして、光電融合型デバイスCOSAの開発状況について述べる。
IOWN構想による新たなイノベーション
2 シリコンフォトニクス /光電融合型デバイス /COSA
光トランシーバの小型化と短距離化をけん引するシリコンフォトニクス技術
フォトニックネットワークデバイスプロジェクト
(右)研究主任 菊池 清史氏(左)主任研究員 那須 悠介氏
COSA
QSFP-DD-DCO*2チップ内のコア間光伝送チップ内の光信号処理
チップ間光伝送
チップ周辺の接続
超低消費電力化
超高速処理電気のレイヤー
光のレイヤー
*2) Source: QSFP-DD MSA QSFP-DD Hardware Specification for QSFPDOUBLE DENSITY 8X PLUGGABLE TRANSCEIVER Rev 5.0 July 9, 2019 http://www.qsfp-dd.com/wp-content/uploads/2019/07/QSFP-DD-Hardware-rev5p0.pdf
図1 IOWNにおける光電融合デバイスの開発ターゲット
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特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ
②実世界とサイバー世界の掛け合わせによる新たな価値創造を実現するデジタルツインコンピューティング
(DTC)、③ ICT リソースすべてを柔軟に制御し、調和させるコグニティブ・ファウンデーション(CF)である。
—APNを支える光電融合技術以下に、IOWN 構想の要素技術の
ひとつである APN に向けた光電融合デバイスについて述べる(図 1)。APN とは、NW における短距離から長距離伝送に至るあらゆる情報伝送において、フォトニクス(光技術)の利用を図るものである。これにより、エンド・ツー・エンドで可能な限り光のままでの伝送を実現し、現状のインターネット技術の限界を打ち破り、圧倒的な低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送が可能になる。図 1は、昨年の NTT R&Dフォーラムにおける川添取締役 研究企画部門長の講演の中から引用した図面を示す。図 1では、左下から右上の目標に向かって研究開発を行う様子が描かれている。
光の技術は、まずは長距離の情報伝送から使われ始めた。日本が世界 に冠たるブロードバンド、FTTHの普及国となったのも NTT の光技術が貢献している。一方で、CPUな ど の 情 報 処 理 に は CMOS
(Complementary Meta l Oxide Semiconductor)という電子の技術でつくられている。IOWNでは、ネットワークだけでなく端末やサーバなど半導体の内部に至るまで、あらゆる場所に光の技術、つまりフォトニクスベースの技術の導入拡大を図っている。その根本となるのが光と電
—シリコンフォトニクスによるCOSAデバイス
シリコンフォトニクスとは、LSI技術によって培われてきた微細加工技術を用い、通信波長帯(1.5μ m)において透明なシリコンを集積光回路プラットフォームとして活用する技術である。シリコンフォトニクスは、シリコン上に、単純な光受動素子だけでなく、変調器や Ge(ゲルマニウム)PD(Photo Detector)などの集積も可能であるという特徴を持つ。 NTT でも、2000年代初頭より、基盤的研究としてシリコンフォトニクスに取り組み、さまざまな要素技術の検討を進めてきた。デジタルコヒーレントトランシーバ内の光デバイスは、従来、それぞれ異なる材料系を用いて実現され、光ファイバや空間光学系などで相互に接続されていた。そこで、NTT は、キーとなる光デバイス群をシリコンフォトニクスによりワンチップ上に集積し、電子回路とともにパッケージへ実装することでデバイスの超小型化が達成できるCOSA を提案し、トランシーバの小型化をけん引してきた。
—デジタルコヒーレント用トランシーバの変遷
図 2は、デジタルコヒーレント伝送用のトランシーバモジュールの時代とともに小型化・省電力化されてきた経緯を示す。2012年頃には、5× 7インチ(1インチは 2.54 cm 相当なので 12.7× 17.8 cm)の大きさのものが、最近では、QSFP-DD(Quad small form factor pluggable-Double
Density)では、2× 8 cm と小型化し、伝送速度も 100Gb/s から 400Gb/sへと向上している。
気 の処理を 1つのチップ上で動作可能とする光電融合技術である。
—小型・低消費電力型の光電融合デバイスであるCOSA
実は、NW のインタフェース部分では、すでに、この光電融合の技術が使われ始めている。シリコンフォトニクスという技術を用いて、シリコンチップ上に小型の光送受信デバイス、光と電気の変換機能を実現している。これをデジタルコヒーレント用光モジュールに適用し、圧倒的な小型化を実現したものが、COSA
(コサ:Coherent Optical Subassembly)である。このような光電融合技術は、情報処理部分の光入出力部分の劇的な小型化を可能とし、コパッケージ実装、そしてチップ間の通信の光化に寄与していく。将来 IOWN では、右端の図のように、CMOS のチップの上層に光の入出力機能を直接実装し、光の処理と電気の処理を融合した光電融合型プロセッサの実現により大幅な低消費電力化をめざしている。
—Pre-IOWNとは?IOWN 構想は 2030年頃を目標に
進めているが、これを実現するために PDP では、光送受信器の究極の小型化を行っており、その初期段階を Pre(前の)-IOWN という呼び方をしている。APN のうちデバイス関連の光電融合型デバイスの実現に向けて貢献したいと考えている。PDP では、究極の小型化に向けて、シリコンフォトニクスの技術を研究開発している。小型・省電力型の光電融合型デバイスとして、COSA というデバイスの開発を行っている。
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特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ特集 世界最先端の光技術導入を推進するデバイスイノベーションセンタ
光トランスポート NW 用デバイスに関する標準規格やプロトコルを策 定 す る 業 界 団 体 OIF(Optical Inter networking Forum)は、デジタルコヒーレントトランシーバの消費電力やサイズについて規格を定めている。デジタルコヒーレントトランシーバは 2012年ごろから使われるようになり、技術の進展が速く、3年でサイズが約 2分の 1となっており、小型化・低消費電力化が進
んでいることが分かる。
—シリコンフォトニクスを用いたワンチップ光集積技術
デジタルコヒーレントトランシーバの小型化に向け、シリコンフォトニクスを活用した COSA の開発を進めてきた。シリコンフォトニクスチップの回路構成を図 3に示す。1つの
シリコンフォトニクスチップに、変調器、Ge PD、コヒーレントミキサ、偏光分離器 / 結合器 / 回転器、光減衰器、モニタ PD の、レーザを除く全ての光機能がシリコンフォトニクスで実現され集積されている。
このように、シリコンフォトニクスを用い、トランシーバ内のさまざまな光デバイスをシリコンチップ上にワンチップ集積することで、トランシーバの抜本的な小型化をめざし
100 Gb/s
200 Gb/s
400 Gb/s
2012 2014 2016 2018 2020
CFP
CFP2QSFP-DD
Size and Power dissipation
Year
~30 GbaudPM-QPSK
~30 GbaudPM-16QAM
~60 GbaudPM-16QAM
5x7”OIF MSA
図 2 デジタルコヒーレント用トランシーバモジュールの進化
偏波回転・結合
ミキサ
ミキサPDPDPDPDPDPDPDPD
変調器
受信器
モニタPD光減衰器
偏波分離・回転
図 3 シリコンフォトニクスチップの回路構成
ドライバ
TIA光ファイバ
シリコンフォトニクスチップ
図 4 COSAパッケージ
COSA
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ている。加えて、小型化に寄与する要素として、温度コントロール部を省略できたこと、気密性のあるパッケージが必要ではないこと、などがあげられる。これらは、シリコンの持つ高い屈折率や材料安定性など、
—シリコンフォトニクスの経済性を発揮する実装技術
図 4に、COSA パッケージの構成を示す。COSA パッケージの内部は、シリコンフォトニクスチップ、ドライバ、TIA から構成される。これらを 1つのパッケージに集積できたことも小型化を図るうえで重要である。図 5に、COSA の写真と、指先に乗せたシリコンフォトニクスのチップを示す。COSA のパッケージ部 の サ イ ズ は、13.5 × 10.5 ×2.2mm で あ り、BGA (Ball Grid Array) インターフェースの採用により一層の小型化が推進された。
図 6に、COSA の組み立て時及び使用時のプロセスを示す。パッケージ上に半田印刷とリフローした後、チップを搭載する。その後、BGAを形成し、リッドを固定する。これらのプロセスでは、電気実装の完全自動化が実現されている。この構造は、チップとパッケージの電極が平面に配置されるためフットプリントの大幅な削減に寄与する。また、PCB 基板に実装する工程は、従来は電子部品をリフロー実装した後に光デバイスだけ後から個別に実装していたが、COSA は BGA 技術の採用により、他の電子部品と同時かつ自動でリフロー実装が可能となった。これらの技術は、LSI で培われてきた実装技術であり、シリコンフォトニクスの本質的な経済性の発揮に貢献することとなる。
材料特性を最大限に活用しつつ、独自の光回路設計を適用することで特性の温度無依存化を図ったことにより、小型化が実現されたものである。また、光ファイバの端面を直接接続できたのも小型化には貢献している。
13.5×10.5×2.2 mm
図 5 COSAとシリコンフォトニクスチップ
半田印刷 部品搭載&リフロー チップ搭載
COSAの組立時
COSAの使用時半田印刷 部品搭載&リフロー
BGA形成 リッド固定
COSA他の電子部品
PCB基板
パッケージ
図 6 COSA組み立てのプロセス