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NTT技術ジャーナル 2017.8 51 グローバルスタンダード最前線 アクセスネットワークの持続的な 発展をめざし,関連の標準化機関に おいて,光アクセスシステムのさら なる高速化に関する検討が開始され ています.ここでは,標準化済の光 アクセスシステムのうちもっとも高 速な NG-PON2(Next Generation - Passive Optical Network 2 ) に つ いて簡単に説明した後に,さらなる 高速化の検討状況を紹介します. 光アクセスシステムの 標準化 光ブロードバンドサービスでは, PON(Passive Optical Network)シ ステムと呼ばれる,経済的な光ファイ バ通信システムが広く活用されていま す.PONシステムでは,通信局舎に配 置されるOLT(Optical Line Terminal) と各ユーザ宅に配置されるONU(Optical Network Unit)と,光スプリッタを介し て,1 対 多(Point-to-MultiPoint) の 通信を行います.現在広く導入されて いるPONシステムは,各ONUが異な る時間スロットでOLTにアクセスす る 時 分 割 多 重 ア ク セ ス(TDMA: Time Division Multiple Access) 式を採用しており,1 Gbit/s級および 10 Gbit/s級の総伝送容量を有する PONシステムが,IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engin- eers)において,GE(Gigabit Ether- net)-PONお よ び10G-E(10Gigabit- Ethernet)PONとして,また,ITU-T (International Telecommunication Union - Telecommunication Standard- ization Sector)において,G(Gigabit- capable)-PONおよびXG(10Gigabit- capable)-PONならびにXGS(10Gigabit- capable Symmetric)-PONが標準化され ています.さらに,TDMAに波長分割多 重(WDM: Wavelength Division Multiplexing) 技 術 を 組 み 合 わ せ た TWDM(Time and Wavelength Division Multiplexing)-PON方式を採 用 し た40 Gbit/s級 のPONシ ス テ ム (NG-PON2: Next Generation - PON 2 )が,ITU-Tで標準化されています. ここでは,標準化済のPONのうち もっとも高速なNG-PON2について簡 単に説明したうえで,IEEE,ITU-T, およびこれまでG-PON,XG (S) -PON, NG-PON2をITU-Tに 提 案 し て き た FSAN(Full Service Access Network Initiative)における,さらなる高速化 等に関する検討状況を紹介します. NG-PON2 2015年 7 月にITU-Tで標準化が完 了 し た,NG-PON2と 呼 称 さ れ る40 Gbit/s級光アクセスシステムを図1 に示します. NG-PON2では,マスユーザに加え て,ビジネスユーザ,およびモバイル ネットワークも同一の光アクセスシス テムにより収容することを想定してい ます.NG-PON2では,基本システム として規定されるTWDM-PON方式 に加え,オプションとして,各ONU が特定の波長を占有してOLTと通信 を 行 うPoint-to-Point(PtP)WDM 方式が規定されています.TWDM- PONにおける波長多重数を上り ・ 下 り各 4(オプションで各 8 ),波長当 りの伝送速度を上り ・ 下りとも2.5〜 10 Gbit/sと す る こ と で, 最 大40 Gbit/sの総伝送容量を実現します.最 大分岐数および最大伝送距離は,それ ぞれ最大256分岐,40 kmをサポート することが規定されています. NG-PON2の 特 長 と し て,ONUの 光送受信器に波長可変機能を具備する ことが挙げられます.各ONUの送受 信波長を動的に切り替えることで,各 波長のOLTカードにアクセスする ONUの数を調節して公平性を向上さ せたり,波長ごとのOLTカードが故 障した際に迅速に接続を回復したりす ることが可能となります. IEEE 100G-EPON NG-PON2よりもさらに高速なPON システムに関する標準化動向として, IEEEにおける100 Gbit/s級PONシス テムの検討があります.IEEEでは, 2015年12月に802.3caタスクフォースの 設立が承認され, 100G-E(100Gigabit- Ethernet)PONの標準化が開始されて います (1) 現在検討されている100G-EPONの システム構成イメージを図2 に示し ま す.100G-EPONで は,NG-PON2 と同様にWDM技術の適用が想定され ており, 1 波長当りの伝送容量は25 Gbit/sを基本とし,波長多重数は最大 4 とすることが合意されています.ま PONシステムのさらなる高速化に関する 標準化動向 りょう /可 じゅんいち /浅 /鈴 けんいち NTTアクセスサービスシステム研究所

グローバルスタンダード最前線 PONシステムのさ …NTT技術ジャーナル 2017.8 51 グローバルスタンダード最前線 アクセスネットワークの持続的な

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Page 1: グローバルスタンダード最前線 PONシステムのさ …NTT技術ジャーナル 2017.8 51 グローバルスタンダード最前線 アクセスネットワークの持続的な

NTT技術ジャーナル 2017.8 51

グローバルスタンダード最前線

アクセスネットワークの持続的な発展をめざし,関連の標準化機関において,光アクセスシステムのさらなる高速化に関する検討が開始されています.ここでは,標準化済の光アクセスシステムのうちもっとも高速なNG-PON2(Next Generation - Passive Optical Network 2 ) に ついて簡単に説明した後に,さらなる高速化の検討状況を紹介します.

光アクセスシステムの 標準化

光ブロードバンドサービスでは,PON(Passive Optical Network)システムと呼ばれる,経済的な光ファイバ通信システムが広く活用されています.PONシステムでは,通信局舎に配置されるOLT(Optical Line Terminal)と各ユーザ宅に配置されるONU(Optical Network Unit)と,光スプリッタを介して,1 対 多(Point-to-MultiPoint) の通信を行います.現在広く導入されているPONシステムは,各ONUが異なる時間スロットでOLTにアクセスする 時 分 割 多 重 ア ク セ ス(TDMA:Time Division Multiple Access) 方式を採用しており,1 Gbit/s級および10 Gbit/s級の総伝送容量を有するPONシステムが,IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engin-eers)において,GE(Gigabit Ether-net)-PONおよび10G-E(10Gigabit-Ethernet)PONとして,また,ITU-T

(International Telecommunication Union - Telecommunication Standard-

ization Sector)において,G(Gigabit-capable)-PONおよびXG(10Gigabit-capable)-PONならびにXGS(10Gigabit-capable Symmetric)-PONが標準化されています.さらに,TDMAに波長分割多重(WDM: Wavelength Division Multiplexing)技術を組み合わせたTWDM(Time and Wavelength Division Multiplexing)-PON方式を採用 し た40 Gbit/s級 のPONシ ス テ ム

(NG-PON2: Next Generation - PON 2 )が,ITU-Tで標準化されています.

ここでは,標準化済のPONのうちもっとも高速なNG-PON2について簡単に説明したうえで,IEEE,ITU-T,およびこれまでG-PON,XG(S)-PON,NG-PON2をITU-Tに 提 案してきたFSAN(Full Service Access Network Initiative)における,さらなる高速化等に関する検討状況を紹介します.

NG-PON2

2015年 7 月にITU-Tで標準化が完了した,NG-PON2と呼称される40 Gbit/s級光アクセスシステムを図 1に示します.

NG-PON2では,マスユーザに加えて,ビジネスユーザ,およびモバイルネットワークも同一の光アクセスシステムにより収容することを想定しています.NG-PON2では,基本システムとして規定されるTWDM-PON方式に加え,オプションとして,各ONUが特定の波長を占有してOLTと通信を 行 うPoint-to-Point(PtP) WDM

方式が規定されています.TWDM-PONにおける波長多重数を上り ・ 下り各 4 (オプションで各 8 ),波長当りの伝送速度を上り ・ 下りとも2.5〜10 Gbit/sと す る こ と で, 最 大40 Gbit/sの総伝送容量を実現します.最大分岐数および最大伝送距離は,それぞれ最大256分岐,40 kmをサポートすることが規定されています.

NG-PON2の特長として,ONUの光送受信器に波長可変機能を具備することが挙げられます.各ONUの送受信波長を動的に切り替えることで,各波長のOLTカードにアクセスするONUの数を調節して公平性を向上させたり,波長ごとのOLTカードが故障した際に迅速に接続を回復したりすることが可能となります.

IEEE 100G-EPON

NG-PON2よりもさらに高速なPONシステムに関する標準化動向として,IEEEにおける100 Gbit/s級PONシステムの検討があります.IEEEでは,2015年12月に802.3caタスクフォースの設立が承認され,100G-E(100Gigabit-Ethernet)PONの標準化が開始されています(1).

現在検討されている100G-EPONのシステム構成イメージを図 2 に示しま す.100G-EPONで は,NG-PON2と同様にWDM技術の適用が想定されており, 1 波長当りの伝送容量は25 Gbit/sを基本とし,波長多重数は最大4 とすることが合意されています.ま

PONシステムのさらなる高速化に関する標準化動向

胡こ

間ま

 遼りょう

/可か

児に

淳じゅんいち

一 /浅あ さ か

香 航こ う た

太 /鈴す ず き

木 謙けんいち

一NTTアクセスサービスシステム研究所

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NTT技術ジャーナル 2017.852

グローバルスタンダード最前線

た,これまでのPONシステムと同様に,NRZ(Non Return Zero) 変 調を用いることが想定されています.下り は25 Gbit/sか ら100 Gbit/sま で,上りは10 Gbit/sから100 Gbit/sまでの最大伝送速度を段階的に増加できるように,25/10G-ONU,25/25G-ONU,50/2 5G -ONU,50/5 0G -ONU,100/25G-ONU,100G/50G-ONU, および100/100G-ONUの 7 種類のONU

(数字は下り ・ 上り速度の順番)が想定されています.図 2 では,簡単のため下り速度のみに着目し, 3 種類のONUで段階的に速度の増加に対応するイメージを示しています.ここで,25 Gbit/s,50 Gbit/s, お よ び100 Gbit/sの伝送速度は,それぞれ 1 ,2 ,および 4 波長の信号(各25 Gbit/s)を同時に受信しチャネル結合することで実現することが想定されています.

各PONシステムの波長配置とともに,100G-EPONで検討中の波長配置を図 3 に示します.100G-EPONでは,1 波長当りの伝送速度の増加に伴って増加する光ファイバ分散による信号波形劣化を低減するために,上り下りとも,波長分散がゼロに近い1260 nmから1360 nmまでの波長帯(O帯)を用いることが合意されています.これら の 波 長 帯 は,従来の 1 Gbit/s級PONシステムであるGE-PON,G-PONや,10 Gbit/s級PONシステムである10G-EPON,およびXG-PONと同一波長 帯 を 用 いることとなります が,100G-EPONでは,10G-EPONとの共存が必須となっています.目下のところ,100G-EPONの用いる正確な波長は議論中ですが,10G-EPONと同一波長を用いてTDMする構成や,別の波長を用いてWDMする構成が提案されており,継続的な審議が行われています.今後は2019年 4 月の合意をめざし,引き続きPHY層の仕様や,ONUの管理,転送プロトコルなどについて

図 1  NG-PON 2 システムの概略

OLTから割り当てられた 1波長の信号を選択的に送受信

TWDM ONU

TWDM ONU

TWDM ONU

TWDM ONU

PtP WDM ONU

波長可変送受信器

波長可変送受信器

波長可変送受信器

波長可変送受信器

波長可変送受信器

2.5~10 Gbit/s

2.5~10 Gbit/s

2.5~10 Gbit/s

2.5~10 Gbit/s

2.5~10 Gbit/s

NG-PON2 OLT

時間

時間

λd1

λu1

λd2

λu2

λd3

λu3

λd4

λu4

λd5

λu5

λ

λ

TWDMλ1

TWDMλ2

TWDMλ3

TWDMλ4

PtP WDMλ5

図 2  100G-EPONシステムの概略

25 Gbit/s

50 Gbit/s

100 Gbit/s

25 Gbit/s25G-ONU

使用する波長数を増やすことで伝送帯域を段階的に向上

OLTから割り当てられた複数波長の信号を同時に受信

50G-ONU

100G-ONU

100G-OLTλ1

λ1λ2

λ1λ2λ3λ4

λ1λ2λ3λ4

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NTT技術ジャーナル 2017.8 53

議論が実施されます.

FSAN/ITU-TにおけるXGS- PONとNG-PON2の拡充

FSANおよびITU-Tでは,NG-PON2やXGS-PONの拡充の 1 要素として,波長当りの伝送速度のさらなる高速化

(10 Gbit/s以上への高速化)を視野に入れた検討が行われる予定です.2016年11月にFSANが公開した将来光アクセスシステムの標準化ロードマップ

を図 4 に示します.このロードマップでは,将来の光アクセスシステムにおいては,単純な最大伝送容量の向上だけ で な く,SDN(Software Defined Network) や NFV(Network Function Virtualization)の進展,5Gモバイルのサービス開始など,外部の状況変化に応じて,伝送速度(容量)に加えて,システム構成の柔軟性や,伝送距離,装置入手性の向上など,要求条件の多様化が進むことを想定してい

ます.ITU-Tでは, SG(Study Group)15において, 1 波長当り10 Gbit/sを超える広帯域化を実現する技術に関する補足文書である,“G.sup.HSP:G. Supplement High-Speed PON”の作成を進めています(2).

今後の展開

ここでは,PONシステムのさらなる高速化に関する最新の標準化動向を紹介しました.さらに,前述のIEEEとFSAN/ITU-Tの検討が相反するものにならないように,ブロードバンドフォーラムが「PONコンバージェンス」の議論の場を提供するといった動きがあります(3).このような標準化機関の取り組みにより,光アクセスシステムがさらに進化し,ブロードバンドサービスの持続的発展を支えていくことが期待されます.

■参考文献(1) http://www.ieee802.org/3/ca/(2) http://www.itu.int/itu-t/workprog/wp_item.

aspx?isn=13463(3) http://www.ieee802.org/3/ca/email/msg00271.

html

図 3  検討中の波長配置

1260 ~ 13601290 ~ 13301300 ~ 1320

O帯の一部を使用上り下りの正確な波長配置は議論中

TWDM上り Video

TWDM下り

15751580

15961603

1625

下り

下り

・10/10G-EPONと共存 (TDM or WDM)・10/ 1 G-EPON(デュアルレート) は共存対象外

100G-EPON 100G-EPON上り・下り

NG-PON 2 1524 ~ 1544

Shared spectrum:1603 ~ 1625

PtP WDM オーバレイExpanded spectrum: 1524 ~ 1625

10G-EPONXG-PON 上り

GE-PON

1260

1200 13001260 1400 15001480 15501560 1600 (nm)1360

1280

GE-PONG-PON G-PON Reduced:

Regular:

Narrow:

図 4  FSANの想定する標準化ロードマップ

FSAN Standards Roadmap 2.0

出典:http://www.fsan.org/roadmap/ より作成

Disruptive technologies, innovative R&D

2.5 G

10 G

Multi-λ

2015

2021+

Alternative ODNs

Enhancements

2020

Industry Trends 2016+SDN 5 G

NFV IoTConvergence

Peak Rates > 10 G

2009

2004

G-PON

XG-PON XGS-PON

NG-PON 2

XG(S)-PON+

NG-PON 2 +

Future OpticalAccess System(FOAS)

2016