29
ザ・リッツ・カールトン・ホテル における人材活用の構造 はじめに ザ・リッツ・カールトン・ホテルの沿革 ザ・リッツ・カールトン・ホテルの人材育成 クレドの浸透と実施条件の整備 2 つの満足度調査と情報の蓄積 顧客満足への接続と組織的知識創造 おわりに 現在の日本経済においては経済のサービス化が進展し,国内総生産の約 6 割を第三次 産業,いわゆるサービス産業が占めるとされ 1 る。また就業者数のうち約 7 割が第三次業 に就業してい 2 る。企業が商品を販売し利潤を獲得することを目的とする経済活動を営む にあたり,「モノ」としての有形の商品を販売する場合と,「コト」として無形の用益を 提供する部分が大きいサービスを販売する場合,その経済活動のありようは大きく異な ると思われ 3 る。本稿においては,このサービス産業のうち宿泊業,とりわけホテルビジ ネスにおける人材活用の構造に焦点をあてる。 ──────────── 内閣府の国民経済計算(GDP 統計)によると,2011 年度(平成 23 年度)の経済活動別国内総生産 (名目)は 470 6,232 億円(関税・消費税等調整後)であった。その内訳として,第一次産業(農林 水産業)が 5 4,498 億円,第二次産業(鉱業・製造業・建設業)が 113 8,327 億円,第三次産業 (電気・ガス・水道業,卸売・小売業,金融・保険業,不動産業,運輸業,情報通信業,サービス業) 294 4,387 億円である。これに政府サービス生産者と対家計民間非営利サービス生産者の 54 6,239 億円が加わる。第一次・第二次産業を除く経済活動を広義の意味での第三次産業としてとらえる と,国民経済の約 7 割を第三次産業が占めているとも考えられる(内閣府ホームページ 国民経済計算 確 報(http : //www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h23/h23_kaku_top.html)よ り 取 得)2013 1 7 日閲覧)。 平成 22 年度国勢調査によると,15 才以上の就業者のうち 70.6% が第三次産業に就業している(総務省 統計局ホームページ 平成 22 年度国勢調査 産業等基本集計結果(http : //www.stat.go.jp/data/kokusei/ 2010/index.htm2013 1 7 日閲覧)。 商品としてのサービスの特性には,形がないという「無形性」,生産と消費が同時に行われる「同時 性」,提供者によりサービスの品質が異なりうる「異質性」,そして生産と同時に消費されるため保存が きかないという「消滅性」という特性を有している。詳しくは,Bart Van Looy, Paul Gemmel and Roland Van Dierdoncked.)(2003),Service Management : An Integrated Approach, Second Edition, Prentice Hall., pp.3-36. 〔白井義男監修,平林祥訳『サービス・マネジメント-統合的アプローチ-』(全 3 巻) ピアソン・エデュケーション,2004 年〕,邦訳書上巻第 1 章を参照。 665 371

ザ・リッツ・カールトン・ホテル における人材活用 …...ザ・リッツ・カールトン・ホテル における人材活用の構造 谷本 啓 はじめに

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  • ザ・リッツ・カールトン・ホテル

    における人材活用の構造

    谷 本 啓

    はじめにⅠ ザ・リッツ・カールトン・ホテルの沿革Ⅱ ザ・リッツ・カールトン・ホテルの人材育成Ⅲ クレドの浸透と実施条件の整備Ⅳ 2つの満足度調査と情報の蓄積Ⅴ 顧客満足への接続と組織的知識創造おわりに

    は じ め に

    現在の日本経済においては経済のサービス化が進展し,国内総生産の約 6割を第三次

    産業,いわゆるサービス産業が占めるとされ1

    る。また就業者数のうち約 7割が第三次業

    に就業してい2

    る。企業が商品を販売し利潤を獲得することを目的とする経済活動を営む

    にあたり,「モノ」としての有形の商品を販売する場合と,「コト」として無形の用益を

    提供する部分が大きいサービスを販売する場合,その経済活動のありようは大きく異な

    ると思われ3

    る。本稿においては,このサービス産業のうち宿泊業,とりわけホテルビジ

    ネスにおける人材活用の構造に焦点をあてる。

    ────────────1 内閣府の国民経済計算(GDP 統計)によると,2011年度(平成 23年度)の経済活動別国内総生産(名目)は 470兆 6,232億円(関税・消費税等調整後)であった。その内訳として,第一次産業(農林水産業)が 5兆 4,498億円,第二次産業(鉱業・製造業・建設業)が 113兆 8,327億円,第三次産業(電気・ガス・水道業,卸売・小売業,金融・保険業,不動産業,運輸業,情報通信業,サービス業)が 294兆 4,387億円である。これに政府サービス生産者と対家計民間非営利サービス生産者の 54兆6,239億円が加わる。第一次・第二次産業を除く経済活動を広義の意味での第三次産業としてとらえると,国民経済の約 7割を第三次産業が占めているとも考えられる(内閣府ホームページ 国民経済計算確報(http : //www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/kakuhou/files/h23/h23_kaku_top.html)より取得)2013年 1月 7日閲覧)。

    2 平成 22年度国勢調査によると,15才以上の就業者のうち 70.6%が第三次産業に就業している(総務省統計局ホームページ 平成 22年度国勢調査 産業等基本集計結果(http : //www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm)2013年 1月 7日閲覧)。

    3 商品としてのサービスの特性には,形がないという「無形性」,生産と消費が同時に行われる「同時性」,提供者によりサービスの品質が異なりうる「異質性」,そして生産と同時に消費されるため保存がきかないという「消滅性」という特性を有している。詳しくは,Bart Van Looy, Paul Gemmel and RolandVan Dierdonck(ed.)(2003),Service Management : An Integrated Approach, Second Edition, PrenticeHall., pp.3−36.〔白井義男監修,平林祥訳『サービス・マネジメント-統合的アプローチ-』(全 3巻)ピアソン・エデュケーション,2004年〕,邦訳書上巻第 1章を参照。

    ( 665 )371

  • ホテルビジネスの基本的な機能は,まず客室等の施設を整備し,ゲストに対して宿泊

    する空間を提供することである。そして,それに付随する機能として料理・飲物(料

    飲)の提供,さらには宴会・婚礼といった宿泊を必ずしも前提としないサービスを提供

    している。また,ホテルビジネスは宿泊や料飲のための空間を提供・演出することから

    装置型産業の側面を持つ一方,施設の維持管理やゲストに対するサービスの提供,ある

    いはゲストの多様な要望に対応する必要から労働集約型産業の側面も有している。

    現在,わが国では宿泊特化型の単機能ホテルから,レストラン・宴会等にも力を入れ

    た多機能型のフルサービス型ホテル,あるいは商業・文化施設との併設など複合型のホ

    テル,リゾート地にあるいわゆるリゾートホテルなど様々なタイプのホテルが存在す4

    る。その一方で,宿泊者の人気は低価格の宿泊特化型ホテルと高価格・高級感のあるい

    わゆるラグジュアリーホテルに二極分化しているともいわれる。もちろん,ゲストにホ

    テルのサービスを満足して貰うためには,立地や施設・設備などのハードウェア,提供

    するサービスの内容やホテルの経営・運営方法としてのソフトウェア,そしてサービス

    の提供者である従業員としてのヒューマンウエアがそれぞれにゲストの期待に応える水

    準になければならない。この場合,資本力があれば立地や施設等のハードウェアの改善

    ・向上は比較的容易であるかもしれない。しかし,ゲストにサービスを提供する人材と

    その育成・活用のありようについては,一般的な業務手順のようなスキルは転職などで

    企業間移転もある程度可能かもしれないが,その一方で企業独自の業務手順や運営方法

    も存在し,それが競争優位につながる模倣困難な独自性となっているとも考えられ5

    る。

    本稿では,フルサービス型のホテルであり,外資系ラグジュアリーホテルとして評価

    の高いザ・リッツ・カールトン・ホテル(The Ritz-Carlton Hotel)を対象として人在活

    用の構造について分析・考察する。同ホテルはビジネスパーソン 6,500人への満足度調

    査をもとにした『日経ビジネス』(2012年 7月 23日)掲載のシティーホテルランキン

    グで東京ではザ・リッツ・カールトン東京が第 4位に,大阪ではザ・リッツ・カールト

    ン大阪が第 1位に選出されてい6

    る。同じく『週刊ダイヤモンド』(2012年 8月 25日)

    掲載の 12,000人を対象とした満足度調査の総合ホテルランキングで第 4位,役職別ア

    ンケートでは,経営層で第 3位,管理職層では第 1位にランキングされてい7

    る。さらに

    J. D. パワーアジア・パシフィックによる 2012年日本ホテル宿泊客満足度調査による

    ────────────4 ホテルの機能や立地,価格帯,経営方式などにより様々な分類・類型化が可能である。詳しくは,鈴木

    博・大庭祺一郎『基本ホテル経営教本』(第 7版)柴田書店,2012年,42−63ページ,を参照。5 経営資源の模倣困難性による競争優位の確保など,経営資源に基づく競争優位の確保(Resources Based

    View)について詳しくは,Jay Barney,“Firm Resources and Sustained Competitive Advantage”, Journal ofManagement, Vol.17 No.1. March 1991., pp.99−120.;伊藤健市『資源ベースのヒューマン・リソース・マネジメント』中央経済社,2008年,第 5章を参照。

    6 「特集 選ばれるホテル」『日経ビジネス』(2012年 7月 23日),47−49ページ。7 「特集 日本のベストホテル」『週刊ダイヤモンド』(2012年 8月 25日),32−45ページ。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)372( 666 )

  • と,1泊 35,000円以上の部門において,ザ・リッツ・カールトンが 7年連続第 1位とな

    ってい8

    る。

    また,ホテル・レストラン業界の専門誌である『週刊ホテルレストラン』(2012年 11

    月 2日)は独自調査として総売上高から日本のベストホテル 300を選出している。その

    うち,総売上高ランキングでザ・リッツ・カールトン大阪が第 15位に,延べ床面積 1

    m2当たりの総売上高ランキングで第 7位にランキングされている。特に総売上高上位

    30ホテルの対前年数値の比較によると,上位 30社のうち対前年比で売上げを伸ばした

    のは 6社しかなく,そのうちザ・リッツ・カールトン大阪より上位で売上げを伸ばした

    のは 1社(第 6位の東京ディズニーシー・ホテルミラコスタ)のみであっ9

    た。

    このように,ザ・リッツ・カールトン・ホテルは顧客満足度調査で高い評価を得てい

    るだけでなく経営面でも成果を上げていることが分かる。1963年の東京ヒルトンホテ

    ルの開業に始まり,1980年代以降,外資系ホテルが次々に日本に進出・営業を開始し

    ている。その中でも特に評価が高く,実績も上げているザ・リッツ・カールトン・ホテ

    ルの人材活用の構造について分析・考察することで,サービス産業における人材活用の

    あり方について検討したい。

    Ⅰ ザ・リッツ・カールトン・ホテルの沿革

    1 ザ・リッツ・カールトン・ホテルの歴史

    ザ・リッツ・カールトン・ホテル(The Ritz-Carlton Hotel)という名前の由来は,パ

    リの名門ホテル「ホテル・リッツ」(1898年開業)の創始者として知られるセザール・

    リッツ(César Ritz)までさかのぼる。リッツは近代ホテルの基礎を築き上げた人物で,

    やがて「ホテル王」とまで呼ばれるヨーロッパを代表するホテリエとなった。

    1850年,スイスに生まれたセザール・リッツは,15歳からウエイターとして働き始

    め,その後はヨーロッパの数多くの有名ホテルでホテルマンとしてのキャリアを形成し

    た。ゲストの要望をきめ細かく読み取り,それを実現するリッツのサービスは,当時の

    王侯貴族や富豪たちを魅了した。

    その後,リッツは長年の経験をもとに,1898年に「ホテル・リッツ」をパリに開業

    する。続いて 1899年には,彼が開業準備に携わったロンドンの「カールトン・ホテル」

    が開業する。いずれのホテルも華麗な装飾ときめ細かいサービス,素晴らしい料理が提

    供され,上流階級の人々から高い評価を受けた。────────────8 J. D. パワー アジア・パシフィック プレスリリース(http : //japan.jdpower.com/news/201221781/)2013年 1月 6日閲覧。

    9 「特集 総売上高から見た日本のベスト 300ホテル」『週刊ホテルレストラン』(2012年 11月 2日),21−23ページ,36−37ページ。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 667 )373

  • さらにリッツは,1905年にこの 2つのホテルの名前をとった「ザ・リッツ・カール

    トン・マネジメント・カンパニー」をアメリカに設立する。1907年には,ニューヨー

    クにリッツ・カールトンの名前を冠したホテルの第 1号が開業した。1927年には,不

    動産会社を営むエドワード・ワイナー(Edward N. Wyner)がリッツ・カールトンの名

    称使用の許可を取得し,ザ・リッツ・カールトン・ボストンを開業した。

    リッツ・カールトン・ボストンは,1961年のワイナーの死後,不動産会社の会長兼

    オーナーであるジェラルド・W・ブレイクリー(Gerald W. Blakely)がホテルを運営し

    ていたが,1983年にホテルとアメリカにおけるリッツ・カールトンの名称使用権をア

    トランタのウィリアム・B・ジョンソン(William B. Johnson)に売却した。そして,ホ

    テルの運営と名称使用権をとりまとめたジョンソンは,「ザ・リッツ・カールトン・ホ

    テル・カンパニー L. L. C.」を設立,アトランタ,カリフォルニア等でホテルを開業

    し,ホテル数を増やした。そして 1992年には,リッツ・カールトン・ホテルはその経

    営におけるクオリティの高さが評価され,マルコム・ボルドリッジ賞を受賞する。な

    お,リッツ・カールトン・ホテルは 1999年にもマルコム・ボルドリッジ賞を受賞して

    おり,サービス部門で同賞を 2度受賞した現在唯一のホテルであ10

    る。

    その後,1998年にはマリオット・インターナショナル(Marriot International Inc.)に

    株式を 100%取得されて子会社となり,マリオット・グループにおける高級ブランドホ

    テルとしての位置を占めるようになる。日本には 1997年にザ・リッツ・カールトン大

    阪,2007年にザ・リッツ・カールトン東京,2012年にザ・リッツ・カールトン沖縄が

    開業した。2014年 2月には京都にも開業予定であり,2013年 1月現在で世界 27カ国

    に 81のホテルを展開してい11

    る。

    2 ゴールド・スタンダード(Gold Standard)

    ザ・リッツ・カールトン・ホテル(以下,リッツ・カールトンと略)では,自社のビ

    ジョン,目的,価値観などを成功への指針として,あるいは文化の基軸として,従業員

    がすぐに思い浮かべることができるようにしている。具体的には,従業員が常に携帯し────────────10 マルコム・ボルドリッジ賞について詳しくは以下の文献を参照。丸山一彦「顧客満足経営を促進したマ

    ルコム・ボルドリッジ賞とデミング賞について」『成城大學經濟研究』第 160号(2003年 3月),211−226ページ。;海保英孝「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞受賞企業にみる経営品質の評価指標(1)」(研究ノート)『成城大學經濟研究』第 167号(2005年 2月),331−351ページ。;海保英孝「マルコム・ボルドリッジ国家品質賞受賞企業にみる経営品質の評価指標(2)」(研究ノート)『成城大學經濟研究』第172号(2006年 3月),57−80ページ。

    11 井上理江,藤塚晴夫ほか『リッツ・カールトン物語』(第 4版・改訂新版)日経 BP 企画,2007年,67−72ページ。;Joseph A. Michelli(2008)The New Gold Standard, McGraw Hill Books, pp.2−7.〔月沢李歌子訳『ゴールド・スタンダード』ブックマン社,2009年,11−17ページ〕。;「リッツ・カールトン悲願の京都開業が 2014年 2月,ついに実現」『月刊ホテル旅館』(2011年 7月),97−99ページ。;The Ritz-Carlton : Press : Fact sheet(http : //corporate.ritzcarlton.com/en/Press/FactSheet.htm),2013年 1月 26日閲覧。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)374( 668 )

  • ている「クレド」(クレド・カード)と呼ばれるポケットサイズのカードである。この

    カードには,「ゴールド・スタンダード」と呼ばれるリッツ・カールトンの運営に関す

    る明確な方針が記載されている。その具体的な内容は,「クレド」(第 1図),「モット

    ー」(第 2図),「サービスの 3つのステップ」(第 3図),「従業員への約束」(第 4図),

    「サービス・バリューズ」(第 5図),それに「第 6のダイヤモンド」(図 6図)であ12

    る。

    ①クレド(The Credo)

    クレ13

    ドは 1986年に作成された。リッツ・カールトンが提供しようとする究極の顧客

    経験を端的に表現するものであり,同社の哲学,理念に相当するものである。

    ②モットー(The Motto)

    「紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です」(“We are Ladies and Gentle-

    men serving Ladies and Gentlemen.”)という標語は,一見,大げさにも感じられる。し

    かしこの標語は,リッツ・カールトンが従業員やお客に対してどのような関係を築こう

    としているのか,そしてどれだけ大切にしているかを示している。つまり,リッツ・カ

    ールトンの従業員は単なる召使い(Servant)ではなく,お客が何を望んでいて,どの

    ような話題を好まれるか分かるよう自分自身も紳士淑女(Ladies and Gentlemen)であ

    るべきであること,そして従業員同士もお互いを紳士淑女としておもてなししようとい

    ────────────12 J. A. Michelli, op. cit., pp.19−33., pp.61−67., pp.98−101.〔前掲訳書,30−48ページ,82−88ページ,127−130

    ページ〕。;井上・藤塚,前掲書,250−253ページ。;The Ritz-Carlton Hotel Company, L. L. C. ホームページ(http : //corporate.ritzcarlton.com/en/About/GoldStandards.htm)2012年 1月 7日閲覧。

    13 クレド(Credo):ラテン語の「credo」(任せる・信用する,という意味)を語源とする。キリスト教のミサ曲にも「Credo」(信仰宣言,信条告白の意味)が存在する。そこから転じて「信条」「約束」の意味で用いられるが,近年は企業の経営理念を表す用語としても使用される。

    第 1図 クレド 第 2図 モットー 第 3図 サービスの 3ステップ

    この著作権はザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー L. L. C. に帰属しています。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 669 )375

  • う考え方を示している。

    ③サービスの 3つのステップ(The Three Steps of Service)

    記載されている内容そのものは,わざわざカードに書き込むほどのことに思えない基

    本的な事項に思われる。しかしリッツ・カールトンでは,基本だからといって疎かにす

    るのではなく,従業員が常に心がけることができるよう分かりやすい言葉で明記すると

    共に,基本事項を高い水準で実現できるよう務めているのである。

    ④従業員への約束(The Employee Promise)

    リッツ・カールトンの経営陣が従業員をどのように考えているかを示すとともに,従

    業員が会社に何を期待できるのかを明記している。その約束の核となるのは,従業員と

    第 4図 従業員への約束 第 6図 第 6のダイヤモンド

    この著作権はザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー L. L. C. に帰属しています。

    第 5図 サービス・バリューズ

    この著作権はザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー L. L. C. に帰属しています。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)376( 670 )

  • 会社の双方の利益になる才能の育成と,その才能が遺憾なく発揮できる職場環境の整備

    にあるとする。

    ⑤サービス・バリューズ:私はリッツ・カールトンの一員であることを誇りに思います

    (Service Values : I Am Proud to Be Ritz-Carlton)

    顧客に対するサービスの提供についてより具体的な指針を示したものであり,顧客と

    従業員の交流や関係構築,そしてそのために従業員に何ができるか(何をすべきか)に

    焦点をあてている。2006年以降,それまでカードに記載されていた「ザ・リッツ・カ

    ールトン・ベーシッ14

    ク」に代わり記載されるようになった。

    Ⅱ ザ・リッツ・カールトン・ホテルの人材育成

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルの掲げる「クレド」を実現するためには,それを可

    能とする人材の育成が不可欠である。また,従業員にとっても,どのような形で仕事が

    与えられ,どのような教育訓練を受けるかはキャリア形成の観点から重要な関心事とな

    る。

    リッツ・カールトンにおける人材活用のプロセスを方程式として表したものが,「(T

    +F)×I=G」(第 7図)である。T はタレント(Talent),F はフィット(Fit),I は投資

    (Investment),G は成長(Growth)をそれぞれ意味している。

    この方程式が表すのは,まずリッツ・カールトン独自の採用方式を用いてタレント

    (もって生まれた性格,才能)を基準に従業員を選考し,選定した人材を適材適所に配

    置することが重要となる。その上でトレーニングやレコグニション(Recognition,認

    定,表彰)といった投資を行うことで人材は成長する。そのため,いくら才能ある人材

    を選考し適材適所に配置しても,適切なトレーニングとレコグニションがなければ成長

    ────────────14 リッツ・カールトンの組織規範や価値観,従業員の行動指針,あるいは具体的な行動などを 20の条項

    でまとめたもの。しかし記載された具体的な行動内容が必ずしも状況によっては最も望ましいと行動とは限らなくなってきたため,どう行動するかではなくどう考えるかその判断基準として新たにサービス・バリューズが作成された(J. A. Michelli, op. cit., pp.33−34., pp.61−67.〔前掲訳書,48−54ページ,82−88ページ〕。;四方啓暉『リッツ・カールトンの究極のホスピタリティ』河出書房新社,2010年,43−53ページ)。

    第 7図 GIFT の公式

    出所:橋本裕之「組織活性プロセスのマネジメント」『Quality Management』第 53巻第 12号,2002年,39ページの図 9をもとに筆者作成。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 671 )377

  • はゼロになり,一方でトレーニングシステムが整備されていても,人材の選考が適切で

    なければ成長がゼロになる可能性があることを示してい15

    る。

    1 QSP(Quality Selection Process)

    QSP とは,リッツ・カールトンが人材開発コンサルティングのタレントプラス社と

    共同開発した,従業員採用における選抜のツールとして用いている独自の採用システム

    であ16

    る。リッツ・カールトンでは,タレントを「自尊心」,「積極性」,「サービス精神」,

    「気配り」,「チームワーク」など 11種類に分類しており,それぞれ 5問,合計 55の設

    問が用意されてい17

    る。その全ての質問を面接時に受験者に対して行い,その適性をチェ

    ックする。リッツ・カールトンでは,クオリティにおける会社の成功は従業員の適切な

    選考から始まると考えられており,QSP の結果は採用の可否だけでなく,採用時にお

    ける配属の決定にまで活用される。さらに QSP にはスタッフ用,スーパーバイザー用,

    マネージャー用,エグゼクティブ用の 4つがあり,テーマ内容それぞれ異なっており,

    昇進時の面接などで活用され18

    る。

    なお,採用は通年で行われており,欠員が出れば随時行われる。新卒の定期採用は行

    っていないが,新卒者を採用しないわけではなく欠員が出た時期の問題であり,アルバ

    イトを経て入社する場合もある。また,欠員の募集はまず社内公募で行われる。次に世

    界各地のリッツ・カールトンで募集がかけられ,その後に一般募集が行われ19

    る。

    2 オリエンテーション

    採用された人材は,入社後 2日間のオリエンテーションに参加する。オリエンテーシ────────────15 北原孝行・橋本裕之「組織活性プロセスのマネジメント-クレドの実践とその浸透の秘訣-」『Quality

    Management』第 53巻第 12号(2002年 12月),38−39ページ。;大橋賢也「ザ・リッツ・カールトン流『人材教育』のすべて」『商業界』(2002年 12月),62ページ。;サイモン・クーパー「危機の時こそ対話が価値を生む」『日経ビジネス マネジメント』(2008年春号),44−45ページ。

    16 「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』」『週刊ダイヤモンド』(2007年 3月 31日),44ページ。

    17 QSP の 11項目は,「気配りの度合い」(Caring),「感受性の高さ」(Empathy),「正確さ」(Exactness),「向上心」(Learner),「説得力」(Persuasion),「積極性」(Positively),「自尊心」(Self-ethic)「サービス精神」(Service),「チームワーク」(Team),「職業倫理」(Work ethic),「人間関係拡大能力」(Relationshipextension),とされる(清水 均『サービス業のためのホスピタリティコーチング』日経 BP 社,2007年,240ページ。;五十嵐元一「ホスピタリティの機能に関する研究-サービス・マーケティングからホスピタリティ・マーケティングへの展開-」『北海学園大学経営論集』第 7巻第 4号(2010年 3月),23ページ。;『ザ・リッツ・カールトン その成功に向けた 3つの秘密 part.3 企業価値と収益を支える組織と人材のマネジメント』ブレインゲイト株式会社,2005年,DISC 1収録の高野氏へのインタビュー)。

    18 北原・橋本,前掲記事,38−39ページ。;大橋,前掲記事,57ページ。;清水,前掲書,239−241ページ。

    19 月刊レジャー産業資料編集部(小長谷征弘,竹井淳子)「ザ・リッツ・カールトン大阪-従業員満足を通じ,顧客満足を創造する独自の採用・育成・定着システム-」『月刊レジャー産業資料』第 446号(2003年 11月),71ページ。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)378( 672 )

  • ョンでは,クレド,モットー,サービス・バリューズなどのゴールド・スタンダードに

    ついて学び,リッツ・カールトンの企業哲学,企業理念について理解することが求めら

    れる。そこでは,仕事の実務的な内容ではなく,クレドの精神を理解することが求めら

    れる。なお,このオリエンテーションには,新入社員だけでなく,パート・アルバイ

    ト,そして新しく出入りするテナント関係者から送迎の契約タクシー会社責任者に至る

    まで参加を義務づけられ20

    る。

    また,マネージャーや経営陣も,内部昇進,外部採用にかかわらず,昇進時にはマネ

    ージャー用のオリエンテーションを受講する必要がある。最初の 2日間は通常のオリエ

    ンテーションと同じ内容であるが,3日目にはリーダーとして期待されることを学ぶ。

    具体的には,紳士淑女としての従業員に敬意を払うこと,従業員一人ひとりのキャリア

    形成について継続的に話し合うことの重要性,指導者になることの重要性などが含まれ21

    る。

    3 「Day 21」と「Day 365」

    新入社員は 2日間のオリエンテーションを終了すると,3日目から職場に配属され,

    トレーニングマネージャーのもとで「ジョブ・ディスクリプション」(job description:

    職務記述書)に基づいた実務的な訓練(OJT : On the Job Training)を受ける。そして

    約 3週間後に「Day 21」と呼ばれる振り返り研修が行われる。そこではクレドの理解度

    や実務能力の確認,あるいは管理職による新入社員からのホテルに対する意見徴収が行

    われる。ホテル慣れていない新人から意見徴集をすることで,ベテランには気がつかな

    いホテルの問題点の発見に努めている。

    さらにリッツ・カールトンでは,「Day 365」と呼ばれる従業員が雇用された日を毎年

    祝うシステムが存在する。あわせて同一の職務に就く従業員は,毎年その技能が職務上

    の基準を満たしているか再認定が求められる。また,職務が変われば,そのつど職務上

    の基準を満たしているか認定が必要とされ22

    る。

    4 「Lateral Service」

    リッツ・カールトンでは,入社した全ての従業員は最初の 1年間で 250時間以上の研

    修を受けることとなっている(パートのスタッフにも同様に年 250時間のトレーニング────────────20 大橋,前掲記事,58ページ。21 J. A. Michelli, op. cit., p.86.〔前掲訳書,111ページ〕。22 北原・橋本,前掲記事,35ページ。;大橋,前掲記事,59ページ;J. A. Michelli, op. cit., pp.89−92.〔前

    掲訳書,115−119ページ〕。;Paul Hemp, My week as a Room-Service Waiter at the Ritz, Harvard businessReview, 2002 June., pp.60−62.〔西尚久訳「客室係の体験学習が明かす リッツ・カールトン:ハイタッチ・サービスの秘密」『Diamond ハーバード・ビジネス・レビュー』第 27巻第 7号(2002年 7月),65−66ページ〕。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 673 )379

  • を提供している。なお,従業員は部署に関係なく年 250時間,管理職になると年 320時

    間の研修が行われる)。あわせて,従業員の教育訓練を担当できるかどうか認定する各

    種のリーダーやトレーナーの認定制度,あるいはインターネットを利用した E-learning

    のコースを設けている。

    さらにリッツ・カールトンでは,本来の業務以外にも必要な仕事を行う「ラテラル・

    サービス」(Lateral Service)を実施している。これは料飲部門のスタッフが宴会部門の

    仕事を手伝う,事務職や管理職が現場部門の仕事を手伝うなど,他の従業員,他部門の

    人たちを積極的に支援するという取り組みである。これにより自然にクロス・トレーニ

    ングが行われ,また他部門の仕事に対する理解や従業員間のコミュニケーションが促進

    され23

    る。

    5 「The Global Learning Center」と「The Leadership Center」

    リッツ・カールトンの研修機関には,グローバル・ラーニング・センター(主に社内

    研修)とリーダーシップ・センター(外部のお客様向け)がある。後者は 2度目のマル

    コム・ボルドリッジ賞の受賞を契機として 1999年に設立され,2000年からリッツ・カ

    ールトンの外部にも研修機会を提供するようになった。

    グローバル・ラーニング・センターは,従業員の提供するサービスの水準向上をめざ

    すもので,「難しい場面に対処する」,「お客様が言葉にした要請と言葉にしなかった要

    請の違いを理解する」,あるいは「ミスティーク(24

    Mystique)による顧客関係のマネジ

    メント(CRM : Customer Relationship Management)のプロセス」などの領域について

    オリエンテーションやトレーニングを実施する。

    リーダーシップ・センターでは,外部の企業関係者も含めた将来の幹部候補に研修機

    会を提供する。そのカリキュラムは,「リーダーシップ・エクセレンス」(次代を担うマ

    ネージャーにリーダーシップを習得させる),「ビジネス・エクセレンス」(ミドル・マ

    ネージャーを対象としたビジネス全般に関するスキルの学習),「サービス・エクセレン

    ス」(リッツ・カールトンのサービス教育)の 3つのカテゴリーに区分されている。さ

    らに,従業員が外部企業向けトレーニングの講師を務めること(また講師として認定さ

    れること)が,従業員自身の能力開発と自信を深める契機ともなってい25

    る。────────────23 大橋,前掲記事,60ページ;J. A. Michelli, op. cit., p.83., pp.87−89., p.100.〔前掲訳書,107ページ,112

    −114ページ,130ページ〕。;高野登「リッツ・カールトンのホスピタリティと人材育成の側面から」『日本フードサービス学会年報』第 8号(2003年),80ページ。

    24 言葉自体は一般に,神秘性,奥義,秘法などの意味で用いられる。リッツ・カールトンの場合,顧客がリッツ・カールトンにおいて感動を引き起こすような経験を生み出すこと(リッツ・カールトン・ミスティーク)を意味する。

    25 高野,前掲「リッツ・カールトンのホスピタリティと人材育成の側面から」,81ページ。;サイモン・クーパー,前掲記事,46ページ。;J. A. Michelli, op. cit., pp.212−226.〔前掲訳書,262−277ページ〕。;ワークス研究所 CU 研究開発ユニット・編集部「変革へのコーポレート・ラーニングのしくみ」 �

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)380( 674 )

  • Ⅲ クレドの浸透と実践条件の整備

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルの従業員には,クレドに記載されている理念の実践

    が求められる。しかしそのためには,従業員自身がクレドを十分に理解し,その実現の

    ため顧客に対して臨機応変に質の高いサービスが提供できること,さらにそうすること

    が会社によって許容され,また促されていることが従業員に認識される必要がある。リ

    ッツ・カールトンでは,そのための施策として以下のような取り組みを行っている。

    1 「Lineup」(Daily Lineup)

    毎日,リッツ・カールトン本社から全世界の各ホテルの現場に至るまで,業務開始前

    に必ず行われるミーティングをラインナップという。時間にして 15分から 20分程度で

    あり,そこでは最初に「ゴールド・スタンダード」の内容について意見が交わされる。

    特にクレドを実践するための 12の行動指針である「サービス・バリューズ」は,1項

    目ずつ日替わりで話し合いがもたれる。なお,ラインナップで話し合われる内容は,リ

    ッツ・カールトン本社から届けられる『コミットメント・トゥ・クオリティ』(The Com-

    mitment to Quality)という冊子に基づいて行われる。冊子には,その日取り上げる「サ

    ービス・バリューズ」の項目や,世界各地のザ・リッツ・カールトン・ホテルで実践さ

    れた優れたサービスの事例(Story of Excellence, Wow Stories)などが掲載されており,

    ラインナップの際に紹介され,話し合われる。

    また,ラインナップでは,その日にホテルに宿泊・来訪する顧客に関する情報や社内

    スケジュール,社内で実施されるトレーニングに関する情報,さらに社内公募,あるい

    は他のリッツ・カールトン・ホテルにおけるスタッフ募集の連絡などもラインナップを

    通じて従業員に伝えられる。あわせて職場の祝い事(従業員の誕生日など)もこのとき

    伝えられる。

    このようにリッツ・カールトンでは,日々ラインナップ内でクレドの実践に関する話

    し合いがもたれる。「ゴールド・スタンダード」の内容や「サービス・バリューズ」の

    項目について,実体験の紹介や意見交換を繰り返し,また優れたサービスの事例を学ぶ

    ことを通じて,リッツ・カールトンの企業理念を日々思い起こし,理解を深め,そして

    実践のためにどのような行動をとることができるかを学ぶ機会となっている。さらに,

    ラインナップでは社内の様々な内部情報を共有化できることが,従業員の顧客対応力の

    ────────────� 『Works』第 53号(2002年 8−9月),5−9ページ。;DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部「企業内大学白書 4 ザ・リッツ・カールトン・ホテル・カンパニー」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』第 27巻第 12号(2002年 12月),95−100ページ。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 675 )381

  • 向上,あるいは従業員同士のコミュニケーションを促すこととなっている。またトレー

    ニングや社内公募に関する情報が随時もたらされることは,従業員自身が能力開発やキ

    ャリア形成について考える契機ともなってい26

    る。

    2 「Empowerment」(権限委譲)と「Good Idea System」

    リッツ・カールトンでは,顧客に生じた問題解決のため,あるいは顧客の期待を上回

    るサービスのためなど,従業員には臨機応変にマニュアルを超えた行動をとることが認

    められている。具体的には,トレーニングを終えて認定された全従業員に対して,「上

    司の判断を仰がず自分の判断で行動できること」,「セクションの壁を超えて仕事を手伝

    うときは,自分の通常業務から離れること」,「1日 2000ドル(約 20万円)までの決裁

    権」,という 3つの権限委譲がなされてい27

    る。

    また権限委譲とは別に,従業員がゲストにより幸せにする,あるいはプロセスの効率

    アップや収入アップを図るアイディアを部署や職位に関係なく提案するシステムとして

    「グッド・アイディア・システム」(Good Idea System)が取り入れられている。提案さ

    れたアイディアのうち,共有しやすいものは系列の他のホテルへも展開され28

    る。

    3 「First Class」カードと「Five Star」従業員表彰制度

    「ファースト・クラス・カード」(First Class recognition cards)とは,自分の仕事を手

    伝ってもらう,あるいはラテラル・サービスを通じて部門・職場を超えた協力を得た時

    などに,相手に感謝の気持ちをメッセージにして渡すというものである。その名の通り

    カードには「FIRST CLASS!」という文字が印刷されている。これは人事部門にも伝え

    られ,誰がどのような手伝いをしたかが記録され,人事考課の資料としても利用され

    る。つまり,このカードは同僚と会社からの評価の証ともなっているのである。

    また,リッツ・カールトンには「ファイブ・スター」(Five Star)と呼ばれる優秀な

    従業員への表彰制度がある。これは 3ヶ月に 1度,各部門でゴールド・スタンダードを

    基準として特に優秀な働きをした従業員を候補者として選出し,その候補者から 5名の

    受賞者が決定される。受賞者は彼らを讃える祝賀会や食事会などで表彰され,職場のラ

    インナップでもその受賞が報告される。あわせて「ファイブ・スター」の証である特別

    ────────────26 北原・橋本,前掲記事,37−39ページ。;J. A. Michelli, op. cit., pp.89−92.〔前掲訳書,54−59ページ〕。;

    四方,前掲書,123−124ページ。27 高野,前掲記事,80ページ。;高野登『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』かん

    き出版,2005年,122−125ページ。28 同上書,156−157ページ。;J. A. Michelli, op. cit.,〔前掲訳書「日本語版特別収録 ザ・リッツ・カール

    トン大阪成功の秘訣」,326ページ〕。;前掲「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』」,46−47ページ。;桐山秀樹『頂点のサービスへようこそ-リッツ・カールトン vs. ペニンシュラ』講談社,2007年,71ページ。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)382( 676 )

  • なバッジを授与され,身につけることが許される。また,この受賞者の中から年間ファ

    イブ・スター従業員が選出され,賞金や海外のリッツ・カールトンへの招待券などが贈

    呈され29

    る。

    Ⅳ 2つの満足度調査と情報の蓄積

    リッツ・カールトンにおける評価軸は,顧客満足度調査,従業員満足度調査,財務内

    容の 3つの評価軸があるとする。従業員調査は毎年,顧客満足度調査は毎月,業績につ

    いては四半期ごとに開示され30

    る。

    1 顧客満足度調査

    リッツ・カールトンには,顧客満足(CS : Customer Satisfaction)について 3つの方

    法で顧客満足度を調査してい31

    る。

    第 1は,外部のマーケティング会社と提携して,毎月,顧客に対して電話で直接実施

    する満足度調査である。この結果は,各ホテルと本社に報告される。

    第 2は,各部署の日常業務の中で問題や欠陥,不備の起きやすい項目について,各部

    署が毎日セルフチェックする。そして,その内容・結果を数値化したものを「サービス

    ・クオリティ・インディケーター」(SQI : Service Quality Indicator)と呼び,品質管理

    部門で集計・記録される。この SQI の数値が低いほど顧客満足は高いと想定している。

    各部門の数値と全体の数値は毎日計算され,ラインナップを通じて全スタッフに伝達さ

    れる。なお,SQI の数値自体は小さい方が望ましいものの,本来の目的は数値自体を完

    全にゼロにすることではなく,各従業員が自分の役割にのみ固執せず,他部門の状況も

    把握し,その中でよりよいサービスを提供するにはどうしたら良いか,広い視野をスタ

    ッフに育むことも目的のひとつとされ32

    る。

    第 3は,個々の従業員自身がゲストへのサービス提供時(接客時)など,ゲストが満

    足しているかどうかを自分自身の感性(共感性)を通じて把握することである。そして────────────29 北原・橋本,前掲記事,38ページ。;大橋,前掲記事,59−60ページ。;月刊レジャー産業資料編集部,

    前掲記事,72ページ。;高野,前掲『リッツ・カールトンが大切にするサービスを超える瞬間』,131−132ページ。;J. A. Michelli, op. cit., p.189.〔前掲訳書,234ページ〕。

    30 前掲「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』」,47ページ。31 「私たちも紳士・淑女です-リッツ・カールトン・ホテルのハイクオリティ・サービスシステムを探る

    -」『Softnomics』第 16巻第 2号(2000年 2月),16ページ。;なお,顧客満足の考え方について詳しくは,Chris Denove and James D. Power Ⅳ(2006),SATISFACTION, J. D. Power and Associates.〔蓮見南海男訳『J. D. パワー 顧客満足のすべて-信頼と品質は顧客が決める-』ダイヤモンド社,2006年〕を参照。

    32 井上・藤塚,前掲書,260−261ページ。;高野,前掲『リッツ・カールトンが大切にするサービスを越える瞬間』,133−135ページ。;四方,前掲書,176−178ページ。;桐山,前掲書,98ページ。;高野登『絆が生まれる瞬間-ホスピタリティの舞台づくり-』かんき出版,2008年,34−35ページ。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 677 )383

  • 従業員はなぜゲストがそのように感じることになったのかをラインナップで表明する,

    あるいは個人別顧客情報として記録することにより,情報の共有化によるサービスの向

    上,あるいはゲスト個々人の満足度向上に役立てることが可能となるのであ33

    る。

    2 顧客満足度向上のための情報収集

    リッツ・カールトンでは,ゲストに対して従業員がその人のニーズにあったサービ

    ス,おもてなしを提供することにより顧客満足の確保に努めている。ゲストの多様なニ

    ーズに対応するためには,個々のゲストがどのようなニーズをもっているか把握しなけ

    ればそのニーズを満たすことはできない。さらに「リッツ・カールトン・ミスティー

    ク」と呼ばれるようなゲストがまた言葉にしていないニーズを先読みして満たすような

    行動をとるためにも,ゲストを観察し,情報を把握・蓄積し,共有化することが必要と

    なる。

    そのために従業員は,様々な部門でゲストに提供したサービスの結果,あるいは接客

    時のゲストとの会話などから得られた情報を「ゲスト・パーソナル・プリファレンス」

    (Guest Personal Preference,通称:Preference Pad)というカードに記録する。その情報

    はゲスト一人一人の個人別顧客情報としてコンピューターに記録され,全部門・部署,

    さらには海外も含めた他のリッツ・カールトンでもゲストの情報が共有される。これに

    よりゲストが初めて出会う担当者であっても記録された情報をもとにより親しく会話を

    展開することが可能となり,またゲストの好みに合わせたサービスを提供することが可

    能となる。またゲストからのクレームやトラブルなども情報が記載されているため,部

    署や担当者が変わってもゲストの不満などについて一言お詫びを添える,あるいは不満

    解消のためのサービスを提供することにより,リッツ・カールトンに対するイメージの

    回復をはかることが可能となってい34

    る。特にクレームやサービスに関する指摘について

    は,「ゲスト・インシデント・アクション・フォーム」(GIA : Guest Incident Action

    form)という報告書を作成し,当該ゲストの滞在中は全部署に報告書を配布する。これ

    により不手際が発生しても,従業員間で不手際に関する情報を共有し,全従業員でフォ

    ローすることを可能としている。また同様なミスが多発する場合,その背後に制度的

    な,あるいは他に根本的な問題が存在する可能性もある。そのため発生したミスやクレ

    ームを「機会」(Opportunity)としてとらえ,その分析を通じた原因の究明と改善によ

    り,サービスの提供能力の向上をはかってい35

    る。その他,ゲストからのコメントカード────────────33 前掲「私たちも紳士・淑女です」,16ページ。34 大橋,前掲記事,60ページ。;前掲「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』」,39−40ペー

    ジ。;四方,前掲書,102−104ページ。;J. A. Michelli, op. cit., pp.147−151.〔前掲訳書,185−189ページ〕。;三浦愛美「なぜ『レストラン閉店後の利用』にも応じるのか ザ・リッツ・カールトン東京」『プレジデント』(2010年 12月 13日),68−69ページ。

    35 井上・藤塚,前掲書,258−259ページ。;四方,前掲書,103−104ページ。;「ザ・リッツ・カールトン�

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)384( 678 )

  • などもサービスの品質管理における情報として活用され36

    る。

    3 従業員満足度調査

    リッツ・カールトンでは従業員を組織内部の顧客(Internal Customer)としてとらえ,

    外部のコンサルタント会社を利用して毎年従業員満足(ES : Employee Satisfaction)の

    調査を実施している。調査の主な目的は業務環境,トレーニング実態,サポート状況,

    雇用条件などを数値による 5段階評価で行っており,調査は全従業員に対し無記名で回

    答させる。個々の回答は封印の上,本部に直送され,そこで初めて開封・分析される。

    調査結果については最終的に部門別評価・全体評価にまとめられ,各ホテルと本社にフ

    ィードバックされる。満足度の低い支店や特定の部署に対しては,マネージャーに対し

    て本部から直接改善の要求が出され37

    る。

    その背後には,「ゴールド・スタンダード」に「従業員への約束」が記載されている

    ように,同社は働く人の満足を最大のテーマのひとつとしていることがある。従業員が

    その職場に満足し仕事を楽しんでいればこそ,積極的にいきいきとしたサービスが提供

    され,それにゲストが喜び,顧客満足を通じて業績が向上することでホテル所有者の満

    足(OS : Owner Satisfaction)につながる。そしてそれがさらに従業員に還元されて職

    場環境の向上につながり,さらに従業員満足も高くなり,より良いサービスにつとめる

    ようになるという好循環が想定されているのであ38

    る。

    Ⅴ 顧客満足への接続と組織的知識創造

    1 従業員満足と顧客満足の接続

    リッツ・カールトンでは顧客満足をもたらすために従業員満足を重要性している。同

    ────────────� クレーム情報の共有が感動サービスを生む」『週刊ダイヤモンド』(2008年 1月 26日),55−56ページ。;なお,リッツ・カールトンではこのような問題を「MR. BIV」(Mistake(過ち),Rework(やり直し),Breakdown(故障),Inefficiency(非効率),Variation(ばらつき))と称し,サービス内容や提供プロセス改善の「機会」としてとらえている(J. A. Michelli, op. cit., pp.155−157.〔前掲訳書,194−197ページ〕)。

    36 「サービス品質の追求 ザ・リッツ・カールトン東京 緻密なプロセス管理がリッツ『伝説』を生む」『週刊東洋経済』(2008年 6月 28日),42ページ。

    37 大橋,前掲記事,63ページ。;前掲「私たちも紳士・淑女です」,16ページ。;J. A. Michelli, op. cit.,pp.105−107.〔前掲訳書,136−138ページ〕。;なお従業員満足度調査は毎年実施されているようであるが,資料により「毎年」,「年に 2回」,「毎年数回」と記述が分かれており,現在の年間実施回数について詳細は不明である。

    38 月刊レジャー産業資料編集部,前掲記事,73ページ。;また同社では 2006年頃から従業員満足(Em-ployee Satisfaction)とともに従業員エンゲージメント(Employee Engagement)という用語も用いている(前掲「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』,44ページ。;J. A. Michelli, op. cit., pp.105−107.〔前掲訳書,136−138ページ〕。;片山 修「S. クーパーの『サービスの哲学』[上]経営観」『The21』第 24巻第 7号(2007年 7月),50ページ)。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 679 )385

  • 様に従業員満足と顧客満足の連環を説明するものとして「サービス・プロフィット・チ

    ェーン」(Service Profit Chain)という考え方があ39

    る。サービス・プロフィット・チェー

    ンとは,「収益性,顧客のロイヤリティ,社員の満足,従業員のロイヤリティ,そして

    生産性のそれぞれを関係づけるも40

    の」とされる(第 8図)。企業の利益と成長は,主と

    して顧客のロイヤリティが原動力となって推進される。顧客のロイヤリティとは,顧客

    満足がもたらす直接的な結果である。顧客満足は,顧客に提供されたサービスの価値に

    強く影響される。サービスの価値は,満足感を持ち,会社へのロイヤルティが高い,有

    能な社員によって創造される。そして,従業員満足は,主として高い品質を備えた社内

    の支援サービスと顧客サービスの提供を実現させるための諸方策によってもたらさせる

    ────────────39 James L. Heskett, Tomas O. Jones, Gray W. Loveman, W. Earl Sasser, Jr., and Leonard A. Schlesinger,“Put-

    ting the Service-Profit Chain to Work”, Harvard Business Review, March-April 1994., pp.164−174.〔小野譲司訳「サービス・プロフィット・チェーンの実践法」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(1994年 6−7月号),4−15ページ。;「サービスの高収益モデルのつくり方」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳『顧客サービス戦略』ダイヤモンド社,2000年),13−45ページ。;「サービスの高収益モデルのつくり方」(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編訳『いかに「サービス」を収益化するか』ダイヤモンド社,2005年),1−34ページ〕。

    40 Ibid. pp.164−165.〔小野,前掲訳書,5ページ〕。

    第 8図 サービス・プロフィット・チェーンの流れ

    出所:James L. Heskett, Tomas O. Jones, Gray W. Loveman, W. Earl Sasser, Jr., and Leonard A. Schles-inger,“Putting the Service-Profit Chain to Work”, Harvard Business Review, March-April 1994.,p.166.〔DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳「サービスの高収益モデルのつくり方」(『いかにサービスを収益化するか』ダイヤモンド社,2010年),6ページ,図 1〕。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)386( 680 )

  • とするのであ41

    る。

    リッツ・カールトンでは,従業員のために社内の職場環境を整42

    え,従業員の採用選抜

    と育成に注力し,業務知識・技能を常に確認し,そして従業員に報酬と承認を与えるこ

    とで従業員もつ欲求の充足と仕事に対する動機付けをはか43

    る。さらに顧客によりよいサ

    ービスを提供するために必要な権限を行使し,同時にサービスを改善するために必要な

    様々な情報や対応すべき顧客の情報を共有することが可能となっている。これらの従業

    員に対する社内サービスの高い品質が従業員満足を高め,同社の経営理念を理解し実践

    する能力の高い従業員を組織に定着さ44

    せ,「リッツ・カールトン・ミスティーク」とい

    われるような高い品質のサービスをも提供可能とするのである。それが顧客満足の向上

    と同社に対する顧客の継続的利用につながり,売上げと利益率の向上につながるという

    のである。

    もちろん,従業員満足が必ずしも顧客満足を導くものではないという指摘もあ45

    る。顧

    客満足が事業において重要なことは,多くの調査によって顧客満足と利益との間に因果

    関係があることが実証されており,また様々な理由から従業員満足もそれ自体意味のあ

    ることとされてい46

    る。そして従業員満足と顧客満足を結びつけるには,まず従業員に顧

    客を満足させる理由と方法を示したうえで,従業員にやる気を起こさせる。その上で顧

    客満足のために適切な行動を評価し,これに報酬を与えるのである。単に従業員を満足

    させるだけでは顧客の心をつかむことはできないのであ47

    り,従業員が顧客満足のために

    適切な行動を取ることを促すしくみを構築することが必要なのである。リッツ・カール

    トンは従業員満足を重視する一方で,顧客満足につながる企業理念としてのクレドの実

    現を促す仕組みを構築している。従業員の業務遂行能力を確実なものとする一方,マニ

    ュアルをこえた事態に対応する権限を与え,「First Class」カードや「Five Star」従業員

    ────────────41 Ibid. pp.164−165.〔小野,同上訳書,5ページ〕。ただし訳文は必ずしも邦訳書と同じではない。42 井上・藤塚,前掲書,250−253ページ。43 今回,資料上の制約もあり具体的な給与水準についてホテル業界内での比較は行わなかったが,同社と

    しては給与水準について同業他社と変わらない,あるいはむしろ良い方という認識のようである(北原,前掲記事,40ページ。;J. A. Michelli, op. cit., p.74.〔前掲訳書,97ページ〕)。

    44 資料上の制約のため明確な数値を得ることができなかったが,離職率については,例えば J. A.Michelli, op. cit., p.78.〔前掲訳書,101ページ〕では,業界平均が 60%であるのに対して,同社の離職率は 20%であるとしている。また 2002年頃の情報であるが,同社の離職率は業界平均のおよそ 2分の1程度であったとされる(大橋,前掲記事,61ページ。;P. Hemp, op. cit., p.62.〔前掲訳書,67ページ〕)。

    45 Rosa Chun and Gray Davies,“Employee Happiness Isn’t Enough to Satisfy Customers”, Harvard Business Re-view, April 2009., p.19.〔DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳「従業員満足は顧客満足を保証しない」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』(2010年 7月),104−105ページ〕。;福冨言・牧野松二・黒岩健一郎「オーナーシップという価値」(黒岩健一郎・牧口松二編著『なぜ,あの会社は顧客満足が高いのか-オーナーシップによる顧客価値の創造-』同文館,2012年),9−26ページ。

    46 R. Chun and G. Davies, op. cit., p.19.〔前掲訳書,104−105ページ〕。47 Ibid., p.19.〔同上訳書,105ページ〕。ただし訳文は邦訳と同じではない。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 681 )387

  • 表彰制度などによりクレドの実現に適切な行動を評価し促す仕組みと,そのために必要

    な情報共有と品質管理の支援制度を設けている。また日々のラインナップで「ゴールド

    ・スタンダード」を学び,内省することを通じて,自社の実現すべき理念・価値観が従

    業員に浸透していく。このことが同社に従業員満足と顧客満足の連環を可能としている

    のである。

    2 組織的知識創造によるゲストへの対応力向上

    経営理念であるクレドの実現,あるいは顧客満足の向上に際して,「ゴールド・スタ

    ンダード」の「サービス・バリューズ」には,ゲストのリッツ・カールトンにおける経

    験にイノベーション(革新)をもたらし,よりよいものにする機会を常に求めることが

    記載されてい48

    る。顧客満足の向上のためには,サービス提供におけるミスを減らすとと

    もに,顧客の期待を満たす,あるいは期待を超える水準のサービスを提供する必要があ

    る。また顧客の期待水準は 1度満たされると,その期待水準は次回来訪時にさらに高ま

    る可能性がある。顧客満足のため,個々の従業員はリッツ・カールトンに来訪するゲス

    トの多様なニーズに対応するとともに,期待水準の高まりに対応するためにも多様かつ

    高度なサービスの提供能力が求められる。それを支えているのが業務知識・技能の認証

    制度であり,権限委譲であり,「ゴールド・スタンダード」やラインナップをはじめと

    する行動・価値判断基準と情報共有化などの仕組みである。しかし,実際に従業員がマ

    ニュアルを超えたサービスの提供のため行動するには,どのように行動するか参考とな

    る具体的な「知識」が必要となる。リッツ・カールトンの優れた点は,サービス提供に

    おける「知識」の組織的創造を可能としている点にあると思われる。

    組織的知識創造においては,第 1に知識は情報と異なり,「信念」や「コミットメン

    ト」に密接にかかわり,ある特定の立場,見方,あるいは意図を反映している。第 2

    に,知識は情報と違って目的をもった「行為」にかかわってくる。知識は常にある目的

    のために存在するのである。第 3に,知識と情報の類似点は,両方とも特定の文脈やあ

    る関係においてのみ「意味」をもつとされ49

    る。リッツ・カールトンにおける「知識」と

    は,経営理念であるクレドの実現という意図を反映したものであり,同時にゲストにサ

    ービスを提供するという行為に関わるものである。それはまた,ゲストがどのような状

    況でニーズを表明しているか(あるいは潜在的に有しているか)という特定の状況(文

    脈)に関わる。また個人レベルの知識は「暗黙知」(tacit knowledge)と「形式知」(explicit────────────48 「5.私は,お客様のリッツ・カールトンでの経験にイノベーション(革新)をもたらし,よりよいもの

    にする機会を,常に求めます。」(「サービス・バリューズ」より抜粋)49 Ikujiro Nonaka and Hirotaka Takeuchi(1995), The Knowledge-Creating Company : How Japanese Companies

    Create the Dynamics of Innovation, Oxford University Press., p.58.〔梅本勝博訳『知識創造企業』東洋経済新報社,1996年,85ページ〕。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)388( 682 )

  • knowledge)に区分され50

    る。「暗黙知は,特定状況に関する個人的な知識であり,形式化

    したり他人に伝えたりするのが難しい。一方,明示的な知すなわち『形式知』は,形式

    的・論理的言語によって伝達できる知識であ51

    る」とされる。

    その上で,「知識創造のプロセスは暗黙知と形式知の相互変換であり,その循環的な

    プロセスを通じた知識の質的,量的な発展である。暗黙知と形式知の関係はどちらが有

    用かという単純な議論ではない。暗黙知をどのように活性化し,形式知化し,活用する

    かというプロセスが重要であ52

    る」とされる。そして,暗黙知と形式知の社会的相互作用

    を通じて知識が創造されるという前提に基づけば,4つの知識変換モード(プロセス)

    が考えられている(第 9図)。具体的には,①個人の暗黙知からグループの暗黙知を創

    造する「共同化」,②暗黙知から形式知を創造する「表出化」,③個別の形式知から体系

    的な形式を創造する「連結化」,④形式知から暗黙知を創造する「内面化」であ53

    る。

    第 1の「共同化」(Socialization)としては,それぞれの職場での協働を通じて他者の

    観察・模倣から学ぶとともに,上長・先輩によるコーチングや OJT を通じた知識・技

    能の伝達があげられ54

    る。また新規開業時なども他のリッツ・カールトンからベテラン社

    ────────────50 暗黙知について詳しくは,Michael Polanyi(1958), Personal Knowledge : Towards a Post-Critical Philoso-

    phy, Routledge & Kegan Paul, London., pp.87−95.〔長尾史郎訳『個人的知識-脱批判哲学をめざして-』ハーベスト社,1985年,80−88ページ〕。;Michael Polanyi(1966), The Tacit Dimension, Routledge &Kegan Paul, London.〔佐藤敬三訳『暗黙知の次元-言語から非言語へ-』紀伊國屋書店,1980年〕,邦訳書第 1部を参照。

    51 I. Nonaka and H. Takeuchi, op. cit., p.59.〔前掲訳書,88ページ〕。52 野中郁次郎,紺野登『知識創造のプリンシプル-賢慮資本主義の実践論-』東洋経済新報社,2012年,

    77ページ。53 I. Nonaka and H. Takeuchi, op. cit., p.62.〔前掲訳書,91−92ページ〕。54 P. Hemp, op. cit., pp.56−60.〔前掲訳書,60−65ページ〕。

    第 9図 4つの知識変換モード

    出所:Ikujiro Nonaka and Hirotaka Takeuchi(1995), The Knowledge-Creating Company : HowJapanese Companies Create the Dynamics of Innovation, Oxford University Press., p.62., Fig-ure 3−2.〔梅本勝博訳『知識創造企業』東洋経済新報社,1996年,93ページ,図 3−2〕。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 683 )389

  • 員が指導員として派遣されるな55

    ど,職務記述書だけでは伝えきれない実務上の知識・技

    能が従業員に伝達・学習される。またラテラル・サービスを通じて,他の部署の仕事に

    ついても職場を超えて暗黙知が伝達することも考えられる。

    第 2の「表出化」(Externalization)は,日々のラインナップにより「ゴールド・スタ

    ンダード」に沿った行動がとれていたか内省し,各従業員が自らの経験を語ることとな

    る。これは同時に各従業員の接客行動にどのような意味があったのかの「意味づけ」に

    なるとともに,その経験が職場で共有される。さらに優れた取り組みについては「ワオ

    ・ストーリー」(Wow Story)として記録され,全世界のリッツ・カールトンに伝達さ

    れる。また「グッド・アイディア・システム」を通じて具体的な内容がまだ明確になっ

    ていないアイディアもすくい上げ,組織的に検討することを可能としている。一方でゲ

    ストに関するトラブルも「ゲスト・インシデント・アクション・フォーム」(GIA)に

    より従業員個人レベルの問題にとどめず文字情報化されて職場内・組織内で共有し,サ

    ービスの下支えとなっている。

    第 3の「連結化」(Combination)では,職場内では従業員の接客経験の言語による表

    明による共有化,さらに「ワオ・ストーリー」を通じた部門・組織を超えた優れた接客

    経験を知識として共有化することが可能となる。あわせてリッツ・カールトン本社は

    「ワオ・ストーリー」を蓄積することにより,ラインナップにおける「ゴールド・スタ

    ンダード」の各項目について話し合う際により適切な事例を提供可能となる。また各リ

    ッツ・カールトンにおける SQI と GIA の蓄積は,サービス提供上の潜在的・根源的問

    題の把握と改善に有益であるとされる。

    第 4の「内面化」(Internalization)では,従業員は「ゴールド・スタンダード」や

    「ワオ・ストーリー」のように共有化された知識,さらにこれまで蓄積されたゲストの

    個人別顧客情報を参照し,多様な状況において様々なニーズを有するゲストに対してよ

    り適切な接客行動を取ることが可能となり,時として「リッツ・カールトン・ミスティ

    ーク」としてゲストに忘れられない経験を提供することを可能とするのである。そし

    て,日々新たにゲストに対応することを通じて,クレドの実現と顧客満足の向上につな

    がる新たな暗黙知の蓄積がなされていると考えられる。

    以上,リッツ・カールトンの取り組みを組織的知識創造の側面からみたが,この暗黙

    知と形式知の変換プロセスを超えて,暗黙知と形式知の総合・止揚を促進するのが第 3

    ────────────55 J. A. Michelli, op. cit., pp.83−85.〔前掲訳書,108−110ページ〕。;三浦,前掲記事,67ページ。;片平秀

    貴,森摂「ザ・リッツ・カールトン 他社にも広がる究極のおもてなし哲学」『日経ビジネス Associé』(2005年 6月 7日),149ページ。;「特集『ザ・リッツ・カールトン東京』の全容」『月刊ホテル旅館』(2007年 6月),33ページ。;また「究極のサービスをめざせ」『日経スペシャル ガイアの夜明け』(2007年 5月 1日放送)から,ザ・リッツ・カールトン東京開業時にも世界各地のリッツ・カールトンから指導員が派遣されている様子が伺える。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)390( 684 )

  • の知である「実践知」(フロネシス[phronesis])であ56

    る。フロネシスは古代ギリシャの

    哲学者アリストテレスが『ニコマコス倫理学』で提唱した概57

    念であり,「賢慮」(pru-

    dence)とも訳される。そして「フロネシスは共通善(common good)の価値基準を持

    って個別のその都度の文脈の只中で最善の判断ができる実践知である。動きながら考え

    抜く『行為の只中の熟慮』と,『文脈に即した判断』と『適時・絶妙なバランス』を特

    徴とす58

    る」。つまり「実践知」とは,「価値・倫理についての思慮分別と,コンテクスト

    (文脈)依存の判断や行為を含む,実践の智59

    慧」であるとする。このことから,リッツ

    ・カールトンでは組織的知識創造にとどまらず,各従業員が「ゴールド・スタンダー

    ド」という価値判断基準を持って,ゲストのおかれた状況とニーズにあわせてタイミン

    グ良く適切に行動できるとき,それは同社の従業員が高い「実践知」を有しているとも

    解釈が可能である。「実践知」を有しているからこそ,ゲストの多様なニーズに対応で

    きる多様なサービスを提供し,クレドの実現という唯一解を導き出すことを可能として

    いるとも考えられ60

    る。

    お わ り に

    ホテルビジネスに関する様々な調査が,ザ・リッツ・カールトン・ホテルの評価が高

    いことを示している。しかし,同社がサービスの提供において間違いを犯さなかったわ

    けではない61

    し,上質なホテルではあるが利用時や宿泊時に必ず期待を超える感動体験が

    あるわけでもな62

    い。それでも同社の評価が高いだけに,利用するゲストの事前期待も高

    まり続けると思われる。今後も顧客満足を満たすと同時に,「リッツ・カールトン・ミ

    スティーク」と呼ばれる感動体験を提供し続けることは,従業員のサービス提供能力の

    さらなる向上,そしてサービス提供の基盤となる「知識」を創造し続けることにかかる

    ────────────56 野中郁次郎,児玉充,廣瀬文乃「知識ベースの変革を促進するダイナミック・フラクタル組織-組織理

    論の新たなパラダイム-」『一橋ビジネスレビュー』第 60巻第 3号(2012年 Win.),113ページ。57 フロネシス(phronesis)について詳しくは,Ingram Bywater(1894), Aristotelis Ethica Nicomachea, Oxo-

    nii : E Typographeo Clarendoniano.〔高田三郎訳『アリストテレス ニコマコス倫理学』(全 2巻)岩波文庫,2009年(改版)〕,邦訳書上巻,277−324ページを参照。

    58 野中・児玉・廣瀬,前掲論文,113ページ。59 野中・紺野,前掲書,143ページ。60 野中・児玉・廣瀬,前掲論文,113ページ。;W. Ross Ashby(1956), An Introduction to Cybernetics, Chap-

    man & Hall., pp.206−213.〔篠崎武・山崎英三・銀林浩訳『サイバネティクス入門』宇野書店,1971年,255−263ページ〕。

    61 J. A. Michelli, op. cit., pp.151−153., pp.167−168.〔前掲訳書,189−193ページ,206−207ページ〕。62 前掲「私たちも紳士・淑女です」,18−19ページ。;加藤鉱・山本哲士『ホスピタリティの正体』ビジネ

    ス社,2009年,70−72ページ。;村山貴俊「おもてなし経営の考え方」(東北学院大学経営学部おもてなし研究チーム『おもてなしの経営学[理論編]-旅館経営への複合的アプローチ-』創成社,2012年),67ページ。;その他,リッツ・カールトンとは明記されていないが同社を推定させるサービス解説本もある。

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 685 )391

  • であろう。

    最後に,リッツ・カールトンにおける人材活用の特徴をまとめると以下の通りであ

    る。

    第 1に採用へのこだわりがあげられる。履歴書に書いてあるような学歴・経歴を重視

    するのではなく,人に気配りがきく,あるいはサービス精神が旺盛であるといったよう

    なタレントを重視して選抜を行っている。それは,職務上必要な知識や技能は採用後の

    教育訓練を通じて教えることはできるが,リッツ・カールトンの経営理念に共感できな

    ければ同社のめざす水準のサービスを提供することはできないと想定しているためであ63

    る。

    第 2に経営理念(ゴールド・スタンダード)の重視と浸透である。採用後最初の 2日

    間のオリエンテーションではそれぞれの仕事に必要な知識を学ぶ前に,「ゴールド・ス

    タンダード」の内容をはじめ,リッツ・カールトンが大切にしている哲学をよく理解す

    ることが求められる。実際に業務に就いた後も,日々のラインナップや「Day 21」,「Day

    365」など,従業員には様々な機会を通じて同社のゴールド・スタンダードの理解と確

    認,そして実現にむけての取り組みが意識させられ64

    る。

    第 3に業務上必要な知識・技能の確認と権限委譲による従業員のサービス提供能力の

    確保・向上である。採用後,オリエンテーションや実習を経て担当業務について必要な

    知識・技能を身に付け認定を受けたとしても,時間の経過とともに知識が抜け落ちる,

    あるいは慣れるにつれて無意識のうちに指示された以外の手順・方法をとる可能性もあ

    る。そのため,たとえ同じ業務を担当していたとしても 1年ごとに「ジョブ・ディスク

    リプション」の内容について再認定を受ける必要があ65

    る。そのことは同じ業務であれば

    担当者が異なっても同じ手順で仕事が進められるという業務の安定性・確実性をもたら

    すことになる。

    その一方で,ホテルを訪れるゲストからの要望には,状況に応じて業務手順にはない

    様々な対応がもとめられることがある。特に「ゴールド・スタンダード」に記載されて

    いる「リッツ・カールトン・ミスティーク」を実現することや,ゲストからのクレー

    ム,その他ゲストに生じたトラブルなどへの迅速な対応のためには,通常の業務を離れ

    て,あるいは他の部門の従業員と共同でゲストの要望やクレームに対応する必要が生じ

    る。それを可能とするのが従業員への権限委譲であり,同時に部門を超えた従業員のチ

    ームワークである。

    第 4に情報の蓄積によるサービス提供基盤の改善・向上である。ゲストの個人別顧客────────────63 北原・橋本,前掲記事,34−45ページ。;前掲「特集 リッツ・カールトン極上の『おもてなし』」,44−

    45ページ。64 J. A. Michelli, op. cit., pp.79−90.〔前掲訳書,103−119ページ〕。65 大橋,前掲記事,59−60ページ。

    同志社商学 第64巻 第5号(2013年3月)392( 686 )

  • 情報を機会があるごとに記録・蓄積し,個々のゲストにあわせた接客・サービスの提供

    を可能とする。さらにサービスの優れた取り組みが「ワオ・ストーリー」として記録さ

    れ,共有化される。同時に SQI や GIA などで自己点検と問題の把握・分析をおこなう

    ことで,サービスが提供される環境や仕組みそのものを改善していくのである。

    これまで述べてきたように,「ゴールド・スタンダード」に記載されているクレドは,

    リッツ・カールトンがゲストに提供しようとする究極のゲスト経験を端的に表現したも

    のである。その実現のため,従業員にはラインナップを通じて同社の経営理念である

    「ゴールド・スタンダード」が浸透するとともに,業務上必要な情報・知識が従業員間

    で共有される。また権限委譲を通じて多様かつ臨機応変な顧客対応が可能となるが,そ

    の際に行動規範と価値判断の基準となるのが「ゴールド・スタンダード」である。さら

    に各種の研修制度を通じた知識・技能の向上,ゲストからの礼状や同僚,上司,あるい

    は会社から感謝,表彰されることは,従業員の成長欲求や他者からの承認による動機付

    けともなり,従業員にクレドの実現に向けて積極的に取り組むことを可能とするのであ

    る(第 10図)。人材活用の構造としては,ひとつひとつの取り組みは模倣不可能という

    ほど高度なことをしているわけではないし,他企業・他産業でも取り入れ,実践するこ

    とは難しくはないであろう。しかし,それを総合的かつ継続的に取り組むこと,そして

    その実践を他社が追いつけない水準まで高めたことが,リッツ・カールトンの強さであ

    ると思われる。

    第 10図 ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造

    出所:筆者作成

    ザ・リッツ・カールトン・ホテルにおける人材活用の構造(谷本) ( 687 )393

  • 参考文献/参考資料青木孝誠『五ツ星ホテルの高品位サービス ホスピタリティの原点』黎明出版,2002年。林田正光『「No」は言わない! -ナンバー 1ホテルの「感動サービス」革命-』(講談社+α 新書)講

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