8
4 特集 ビッグデータの利活用 インテックのビッグデータ・サービス ARQLID 後藤 光治 概要 インテックは、ビッグデータを活用し、的確な経営判断や業務の効率化、革新的なサービスやビジネスモデル の創出といった、お客さまが直面するビジネス課題の解決支援を目的にするビッグデータ・サービス ARQLID (アークリッド)を提供している。インテックの ARQLID は、他社のビッグデータ活用サービスとの差別化要素 として、データ・サイエンティストだけでなく、お客さまのビジネス課題を学術的に解釈できるデータ・セオリスト や課題発見と施策立案ができるデータ・ストラジストに注力している。加えて、データ蓄積技術、リアルタイムデータ 処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成 を提供できる。インテックは、お客さまのビジネス課題の高度化に対応するため、ますます進展する IoT やクラ ウドサービスを見据えて、魅力的なサービス開発を継続的に推し進める。 1. はじめに 「ビッグデータ」に関する最近の議論は、以前のようにデータ そのものの性質ではなく、ビッグデータの利活用(利用や活用) に力点を置く。この背景は、クラウドサービスやソーシャルサー ビスの定着等のネットワーク・サービスレベルでの進化と、ス マートフォン等の普及、M2M通信の進展とのデバイスレベルで の進化、また、高性能で低廉なコンピューターや分散処理アー キテクチャーの登場により、多種多様で膨大なデータの生成・蓄 積・分析が可能となった点が大きい。 インテックは、1996年から R& D(研究開発)のテーマとして B I(Business Intelligence:ビジネス・インテリジェンス)を スタートさせ [1]、現在も BI サービスをはじめ、お客さまの 意思決定に資する情報系システムサービスを提供している。

インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

4

第17号

2016特集

特集

ビッグデータの利活用

インテックのビッグデータ・サービスARQLID

後藤 光治

概要 インテックは、ビッグデータを活用し、的確な経営判断や業務の効率化、革新的なサービスやビジネスモデルの創出といった、お客さまが直面するビジネス課題の解決支援を目的にするビッグデータ・サービス ARQLID

(アークリッド)を提供している。インテックの ARQLID は、他社のビッグデータ活用サービスとの差別化要素として、データ・サイエンティストだけでなく、お客さまのビジネス課題を学術的に解釈できるデータ・セオリストや課題発見と施策立案ができるデータ・ストラジストに注力している。加えて、データ蓄積技術、リアルタイムデータ処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成を提供できる。インテックは、お客さまのビジネス課題の高度化に対応するため、ますます進展するIoT やクラウドサービスを見据えて、魅力的なサービス開発を継続的に推し進める。

1. はじめに 「ビッグデータ」に関する最近の議論は、以前のようにデータ

そのものの性質ではなく、ビッグデータの利活用(利用や活用)

に力点を置く。この背景は、クラウドサービスやソーシャルサー

ビスの定着等のネットワーク・サービスレベルでの進化と、ス

マートフォン等の普及、M2M通信の進展とのデバイスレベルで

の進化、また、高性能で低廉なコンピューターや分散処理アー

キテクチャーの登場により、多種多様で膨大なデータの生成・蓄

積・分析が可能となった点が大きい。

 インテックは、1996年からR&D(研究開発)のテーマとして

BI(Business Intelligence:ビジネス・インテリジェンス)を

スタートさせ [1]、現在も BI サービスをはじめ、お客さまの

意思決定に資する情報系システムサービスを提供している。

Page 2: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

5

第17号

2016特集

特集

ビッグデータの利活用

戦略

組織

業務

IT

データ

意思決定経営課題把握、仮説検証、施策立案・実施

人材・組織ビッグデータストラテジスト、データサイエンティスト等

業種別の業務知識 会計、調達、製造、物流、販売、アフターフォロー等

データ処理・蓄積・分析技術Hadoop、NoSQL、機械学習、統計解析等

非構造化データ(新)ブログ/SNS、センサーログ、映像 / 画像、位置情報等

非構造化データ(旧)音声、ラジオ、TV、新聞・書籍等

構造化データ顧客データ、POSデータ、GPSデータ、RFIFデータ等

2. ARQLID の概要2.1 ARQLIDとは ARQLIDは、データに基づいて、ビジネス上の効果やメリット

を生み出すためのデータ活用の枠組みであり、インテックが提

供するビッグデータ・サービスの総称である(図1)。

 企業や組織の経営課題や業務課題を解決する道具立てを提

供するとの意味においては、近年のビッグデータは、以前からの

B Iと本質的な違いはない。ただし、ビッグデータは、膨大なデー

タ量、複雑なデータ種類、多頻度発生データのリアルタイム処理

のニーズに対応することができるため、データ活用面において、

BIよりも一層、質の向上を目指すことが可能である[2]。

 ARQLIDの目的は、ビッグデータを活用し、①的確な経営判

断や業務の効率化、②革新的なサービスやビジネスモデルの創

出といった、お客さまが直面するビジネス課題の解決を支援す

ることである。多種多様なデータを大量に保有していても、その

データ自体が自然にビジネス価値を生み出すわけではない。事

業を変革したい、業務を効率化したい、といった目的意識に基

づき、データを取り扱う技術、ならびに人材・組織による分析結

果がビジネス課題の解決につながったとき、初めてビッグデータ

の価値が生まれる。そのために、インテックは、お客さまのビジ

ネス課題の文脈に沿った仮説検証を中心に置き、お客さまの経

営、組織、業務、IT、そしてデータに関する支援を行う[3]。

図1 インテックのビッグデータ・サービスの枠組み

インテックのビッグデータ・サービス ARQLID(アークリッド)

は、その情報系システムサービスの発展系であり、ビッグデータ

の利活用を目的にしたサービスである。

 本稿では、ARQLIDを紹介する。第2章で、ARQLIDの意

味と背景、そしてサービスが有する機能、ビッグデータ活用の

パターンとプロセス、およびお客さまとインテックとの共創と

いった特徴について説明する。第3章では、ARQLIDを支える

技術要素について概観する。第4章は、ビッグデータ活用モデ

ルを示すとともに、システム構成イメージも合わせて述べる。

Page 3: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

6

お客さまのビジネス課題の文脈を理解するために重要な機能群

である。

(2)「ヒト/モノ」の課題文脈によるビッグデータ活用パターン

   ARQLID は、ビッグデータの活用を2×2の4パター

ンに分 類する。分 類のための軸は、分析 観 点と処 理

形態である(図3)。分析観 点には、「ヒト中心(P2M:

Person-to-Machine) / モ ノ 中 心(M2M:Machine-

to-Machine)」がある。ヒト中心とは、生活者や消費者

を起点にして、そのクラスタリングと振る舞いに係る分析

であり、モノ中心とは、機械やデバイスを起点にして、挙動、

予測、予兆や制御に係る分析である。処理形態には「バッ

チ処理/リアルタイム処理」があり、これらの違いは分析

結果のフィードバックの即時性の有無である。

   ヒト中心バッチ処理は、ID(Identification:識別)に

よる個の特定が重要であり、クラスタリング等により、ヒ

トの振る舞いや思考を分析する。ヒト中心リアルタイム処

理は、その分析されたヒトの振る舞いや思考に基づき、ヒ

トに働きかけを行うアクションをとる。これに対して、モ

ノ中心バッチ処理やモノ中心リアルタイム処理は、モノか

らのデータ収集とその蓄積を行い、モノの動作を最適化

する。もちろん、ヒト中心とモノ中心は、絶対的な分別

基準はない。

   インテックは、お客さまのビジネス課題が、相対的に

ヒトあるいはモノのどちらに重点をおくか見極め、ビッグ

データ分析の活用の方向性を提案する。

(3) CRISP-DM ベースのビッグデータ活用プロセス

   ARQLID は、ビッグデータ活用を段階的に捉える。次に

段階と概要を示す。

2.2 ARQLIDの特徴 ARQLIDは、組織、ビッグデータ活用のパターンならびにその

プロセス、お客さまとの共創の視点から、以下に示した4つの特

徴がある。

(1)4つの機能によるチームビルディング

   ARQLID は、お客さまに対して、ビッグデータ・サービ

スを提供する時には、チーム(組織)で対応する。この組

織対応により、属人的な個人スキルへの依存を排除でき

る。以下に、チームビルディングの 4つの機能を示す(図2)。

  ①理論家(ビッグデータ・セオリスト:Big data Theorist)

   統計学に基づいた分析手法を、学術的立場からの提示

 を担当する。

  ②参謀(ビッグデータ・ストラテジスト:Big data Strategist)

   お客さまのビジネス課題の発見を行い、ビッグデータ

 分析を計画し、分析結果を解釈した上で、業務改善の

 施策立案を担当する。

  ③分析官(データ・サイエンティスト:Big data Scientist)

   データの理解・加工を行い、統計分析の実施を担当する。

  ④アーキテクト(ビッグデータ・アーキテクト:Big data

 Architect)

   ビッグデータの分析システムの設計・構築・運用を担当

 する。

 上記③分析官と同④アーキテクトの2つは、一般的なSIerに

とってできて当たり前(当たり前品質。いわゆる規定演技)の機

能である。インテックは、その規定演技に加えて、上記①理論

家、同②参謀の2つの機能を提供することで、お客さまの事前期

待を上回るサービス(魅力的品質。いわゆる自由演技)を実現す

る。この自由演技は、インテックの差別化要素のひとつであり、

図2 ARQLID のチームビルディング(4つの機能)

マクロ視点・社会レベル

セミマクロ視点・産業レベル・業界レベル

ミクロ視点・企業レベル

ビッグデータを活用してお客さまが直面するビジネス課題の解決を支援

ソフトウェア

ハードウェア

参謀 理論家 分析官

アーキテクト施策立案

ARQLIDチーム

ビルディング

統計解析モデル作成

ビッグデータ・ストラテジスト

セオリスト データ・サイエンティスト

ビッグデータ・アーキテクト

IT環境整備構築

課題発見

Page 4: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

7

  【第1段階】現状分析:見える化。定型レポートや OLAP

      (Online Analytical Processing)

  【第2段階】関係分析:統計的手法(関係性分析、相関分析)、

     マイニング

  【第3段階】将来予測:機械学習。データ分析における仮

      説検証、予兆や異常検出

  【第4段階】最適化:判断の自動化(最適化)。分析結果に

      基づいたモノ等の制御や操作

   ARQLID は、ビッグデータ活用を段階的に実現するた

めに、CRISP-DM(CRoss Industry Standard Process

for Data Mining:データマイニングのための標準ブロセス)

に基づいたビッグデータ活用プロセスを採用する(図4)。

(4)お客さまとインテックの共創

   お客さまが、データを目の前にして抱く困り事の1つが

「分析目的が不明確または未定義」である。ARQLID は、

これらを明確にするために、お客さまに対して、前述「(1)

4つの機能によるチームビルディング」の理論家と参謀の

2つの機能ともに、PoC(Proof of Concept:概念検証)

を提供する。PoC では、ビッグデータ分析により作成し

たモデルの実現可能性をビジネス課題解決の視点から確

認する。PoC に関するお客さまの誤解は、「インテックに

データを渡せば、統計的手法や機械学習により、ビジネ

スに寄与する何かがでてくるだろう」である。PoC の本

質は、お客さまとインテックのビジネス共創にある。つま

り、①ビッグデータ活用目的、②勝ち技(差別的優位性)、

③活用シナリオ(ストーリー)の合意を目標に、一旦、IT

面の検討は保留し、経営面・業務面からディスカッション

(本質追究)を進める。ここで留意すべきは、お客さま側

の PoC 推進体制である。お客さまの体制は、経営、業務、

IT の各分野からメンバーを集め、同質化しない推進体制

を組むことが重要である [4](図5)。

図5 お客さまとインテックのビジネス共創

 図4 ARQLID の活用プロセス

処理形態

バッチ処理 リアルタイム処理

ヒト中心(

P2M)

モノ中心(

M2M)

分析観点

※ 個の特定が重要 (ID による各データの紐付け)

※ Offline との連動が重要

※データ収集方法や仕掛けが重要 ※リアルタイム性とモノの制御

消費者行動 (Offline) 消費者行動 (Online)

歩留り向上

予防保全

IOT

【小売業】マーケティング(ID-POS データ)集客管理(CRM データ)販売促進 (チラシ反応/ソーシャルリスニング)情報検索(アクセスログ/閲覧履歴)

【製造業】商品企画(ソーシャルリスニング)マス広告(効果測定 )

【製造業】 製造状況管理(POP データ) 生産管理 (生産 / 在庫 / 出荷データ)

【製造業】 能動的情報アップロード (稼働ログデータ)

【小売業】 能動的集客促進(O2O データ) 受動的集客促進(GPS データ) 購買後の反応 (ソーシャルリスニング) ECネット広告 (コンテンツ連動型広告)

【電力・ガス・水道】 スマートシティ

【建設】 インフラモニタリング

【農業】 農業 IT 化

【通信】 システム稼働監視

図3 ARQLID の活用パターンの分類

①ビジネスの理解

②データの理解

③データの準備

④モデリング

⑤評価

⑥展開

経営・業務

ビッグデータに関する

お客さまの課題・ニーズ

IT

経営的視座・意思決定・PDS(Plan-Do-See)サイクル (仮説検証型 )・バリュー向上

・収集の仕組み・蓄積の仕組み・活用の仕組み

経営的視座 IT的視座

ステップ1:目的 ステップ2:手段ディスカッション(本質追究)  IT検討(条件/仕様)

(a)PoCにおける2つの視座

ステップ1ディスカッション(本質探究)  ①ビッグデータ活用目的 ②勝ち技(差別的優位性) ③活用シナリオ(ストーリー)

ディスカッション

インテックお客さま

経営

業務

IT

参謀

プロジェクト・リーダ

分析官

ディスカッション・チーム

(b)PoCの推進体制

参謀

プロジェクト・リーダ

分析官

①スキルセット・マトリックス

戦略・戦術

ビッグデータのIT知識

②データ分析を行うための スキルセット

分析官

モデル

モデル

モデル

分析手法A

分析手法B

分析手法C

統計/AI知識

インテックのメンバー

Page 5: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

8

3. ARQLID を支える技術 ビッグデータの性質は、Volume(データ量)、Variety(デー

タの多様性)、Velocity(データの速度)の3つである。これら

は、いずれもVで始まる言葉であるため、ビッグデータの3V特

性と言われる [5] 。

● Volume:データ量の大きさ。現在は、数ペタバイト規模の

 データを指す場合が多い。

● Variety:データの構造と種類。データには「構造化デー

 タ」と「非構造化データ」がある。

● Velocity:データの発生頻度・更新速度。処理のリアルタ

 イム性が重要である。

 非構造化データには、ブログ/SNS等記事(テキスト)、各種

センサーログ、電子カルテデータ、ECの商品レビュー等があ

る。また、ECサイトのアクセスログ、スマートメーターのデータ、

SNS記事、ECの閲覧履歴等は、データの生成が多頻度であり、

リアルタイム性が求められる。

 ビッグデータ活用は、3V特性を前提にした基盤技術が必要

となる。その基盤技術には、(1)データ蓄積技術、(2)リアルタイ

ムデータ処理技術、(3)解析技術、の3つに大別できる(図6)。

(1)データ蓄積技術

  ① 分散型 RDB(Relational Database:リレーショナル

 データベース)

  分散型 RDB は、構造化データ蓄積のため、複数台の汎

用的なサーバーがあたかも1つの大きな RDB のよう

に扱うことができるデータベースである。これは、MPP

(Massively Parallel Processing:超並列処理)を採用

し、構造化データを複数のコンピュータノードで並列処

理するため、高速なデータロードとクエリ処理ができる。

その他に、シェアードナッシングアーキテクチャー、列指

向(カラム指向)、データ圧縮機能、等の特徴がある。

 ② Hadoop

  Hadoop は、非構造化データも蓄積できる、オープン 

ソースの大規模分散処理技術である。また、複数の汎

用サーバーで構成するクラスタで、大規模な非構造化 

データの処理が可能なフレームワークである。また、ス

ケールアウトによって、容量不足にも対応することがで

きる。

図6 ARQLID の基盤技術

予測判断予測判断

機械学習

※多種多様で膨大なデータを蓄積しリアルタイムに処理・解析するための基盤

制御装置製造装置ECサイト車載装置センサースマホ

生産情報在庫情報売上情報顧客情報

アクセスログメール・WebM2Mデータ画像・映像音声ブログ・SNS

ストリーム

データ

構造化データ

非構造化データ

制御・操作

制御装置製造装置ECサイト車載装置センサースマホ

マイニングツール

OLAP

ビジネスアプリケーション

連携

データレイク※

ストリームデータ処理

インメモリ

インメモリDB

汎用RDB

SQL On Hadoop

Hadoop

NoSQL

分散型RDB

SQLSQL

Page 6: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

9

分類パターン発見

予測

分析結果

データ収集

データ蓄積

データ解析

人間が分析結果を判断

(a) ビッグデータの活用モデル

構造化  データ

データレイク

非構造化  データ

(b)ARQLID の構成イメージ

出典:文献 [6] p.329 の図表 6-1-2-1 を引用、一部加筆

大量なデータ蓄積

バッチ処理バッチ処理

4. ARQLID のシステム構成イメージ ARQLIDのシステム構成は、お客さまの課題解決に寄与す

るビッグデータ活用モデルごとに2つある。そのモデルは、(1)

VolumeとVariety重視、(2)Velocity重視、である。これらは、

お客さまのビッグデータ活用パターン(前述、図3)にしたがって

相対的な捉え方となる[6]。

(1) Volume と Variety 重視のビッグデータ

   主に的確な経営判断や業務の効率化を目的にして、大

量データの蓄積を前提に、構造化データだけでなく、非

構造化データの収集も行い、ビッグデータ解析を行う活

用モデルである。処理形態はバッチ処理である。今まで

のデータの範囲だけでは十分に把握することができな

かった顧客等の傾向や動向が把握できるようになるほか、

分析時間の短縮によって早く分析結果を入手することを目

指す。また、大量に収集した定量データおよび定性デー

タについてビッグデータ解析を行うため、現実の事象を

数理モデル化する精度が向上し、異常値の発見や予測精

度の向上が期待できる(図7)。

 ③ NoSQL(Not only SQL)

  NoSQL は、一時的にデータ一貫性を維持できない状

態があるものの、スケールアウトによる拡張性がある。

NoSQL は、汎用 RDB にとって代わるものではなく、

非構造化データ対応やデータ量増大など RDB が得意

でない部分に補完的に用いられる。

(2) リアルタイムデータ処理技術

   リアルタイムデータ処理は、時系列で、かつ大量に発

生するデータ(ストリームデータ)をリアルタイムに処理

する技術である。CEP(Complex Event Processing:

複合イベント処理)ともいわれる。これは、ストリームデー

タ処理技術は、あらかじめ設定された、イベントに対す

る処理条件やアクションに基づき、メモリ上でデータ処理

を行うため、高速処理ができる。

(3) 解析技術

   解析技術は、データマイニング、機械学習がある。デー

タマイニングは、大量に蓄積されたデータを分析し、知

識やパターンを機械的に探し出すものである。手法とし

て、クラスタリング、回帰分析、ディシジョンツリー、相

関分析がある。機械学習は、人工知能における研究分野

の1 つで、ある程度の数の標本データに対して解析を行

い、実用的な規則・ルールなどを抽出する。適用分野は、

図7 Volume と Variety 重視の ARQLID

時系列予測、音声認識、レコメンデーションエンジンな

どがある。

Page 7: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

10

5. おわりに ビッグデータは、収集、蓄積、分析によりデータが利活用され

て、初めて、その価値が生まれる。インテックのARQLIDは、今後

予想される、お客さまが直面するビジネス課題の高度化にとも

ない、サービス品質の向上のため、魅力的なサービスを開発す

る。また、将来において、IoTやクラウドサービスの進展がますま

す想定されるため、さまざまなデバイスや機器からのデータに

基づいた制御や操作といった最適化に関するサービスの充実化

を図る(表1)。

 本稿では、ARQLIDを総括的に紹介した。本特集号では、本

稿の他、ARQLIDのビッグデータ利活用をテーマに、金融なら

表1 ARQLIDのビッグデータ活用の具体例

活用例

経営戦略、事業戦略の策定

経営管理、予実管理

内部統制強化

顧客や市場の調査・分析

特定業務の効率化

製造工程の効率化

在庫圧縮、最適供給

予防保全、アフターフォロー

基礎研究、学術研究

売上データ等の社内情報や統計情報等の社外情報を幅広く収集・分析することによって売上への影響等を予測し、注力事業の決定や戦略を立案する。

経理データや売上データ、また各部門からのレポートデータを分析してこれまでよりも短時間で予実管理を実施する。

経理データや業務日誌等から不正の可能性や兆候のある取引を事前に検知し、内部統制を強化する。

顧客データ、ID-POS データ、SNS への書き込みデータなどから消費傾向を分析し、ニーズや企業への評価を把握する。

金融における与信管理業務、運送業における運行管理業務など、特定の業務に特化したデータ分析を行う。

RFID やセンサーを取り付け稼働状況や位置情報を収集し、そのデータを活用することによって業務プロセスの効率化・最適化を行う。

販売データや気象データなどから需要予測を行い、生産・出荷量の調整を行う。また、RFID やセンサーを取り付けてリアルタイムに在庫状況を把握する。

設備や製品にセンサー等を取り付けて利用状況を収集し、故障や部品の交換時期等を予測する。それによってきめ細やかな保守・メンテナンスを行う。

センサーなどから収集される大規模データを有効活用するための研究開発を行う。

出典:文献 [6] p.306 の図表 5-4-3-6 を引用、一部加筆

図8 Velocity 重視の ARQLID

データ収集

データ解析

(a) ビッグデータの活用モデル

(b)ARQLID の構成イメージ 出典:文献 [6] p.329 の図表 6-1-2-1 を引用、一部加筆

データレイク

予測モデル

制御装置製造装置ECサイト車載装置センサースマホ

予測モデル

社会システム自動最適制御(車 , ロボット 等も含む)

制御・働きかけ

インターネット(IoT)

リアルタイム処理リアルタイム処理

データ蓄積

制御結果データ

(2) Velocity を重視のビッグデータ

   主に革新的なサービスやビジネスモデルの創出を目的に

して、ビッグデータ解析に基づいた予測モデルを前提にし

て、リアルタイムでデバイスや機器等の自動最適制御を行

う活用モデルである。処理形態はリアルタイム処理(データ

ストリーム処理)である。IoT(Internet of Things)では、ネッ

トワーク上に多種多様で膨大なデジタルデータが生まれる。

ビッグデータでは、これらをリアルタイムで高速処理し、社

会システムへの制御・働きかけを行う。また、その制御結

果データは、再度、データ収集されることになり、IoT も含

めてビッグデータ活用の好循環サイクルを実現する(図8)。

びにテレマティクスの事例紹介、流通小売におけるサービス紹

介、ディープラーニングならびビッグデータの要素技術動向の

技術レポート、そして機械学習に係る技術サーベイの6編の論

文が収められている。より詳細な内容は、各々の論文を参照し

ていただきたい。

Page 8: インテックのビッグデータ・サービス ARQLID...処理技術、解析技術の技術要素を有することで、お客さまのビッグデータ活用モデルを意識したシステム構成

第17号

2016

特集

11

参考文献

[1] 後藤光治:ビジネス・インテリジェンスの概要とインテックの BI

  ソリューション・サービスについて, INTEC Technical Journal,

  Vol.3, pp.4-9, インテック, (2004)

[2] 城田真琴:ビッグデータの衝撃 , pp.39-45, 東洋経済新報社 ,

  (2012)

[3] 総務省編:平成 25 年版情報通信白書 , pp.143-144, 日経印刷 ,

  (2013)

[4] 堀雅和 , 後藤光治:インテックによるビッグデータビジネスの取

  り組み , ビッグデータの収集、調査、分析と活用事例 , pp.41-

  47, 技術情報協会 , (2014)

[5] McAfee, Andrew, et al. "Big data." The management

  revolution. Harvard Bus Rev 90.10 (2012): 60-68.

[6] 総務省編:平成 27 年版情報通信白書, p.329, 日経印刷 , (2015)

[7] シスコ IoT インキュベーションラボ:Internet of Everything の

  衝撃 , インプレス R&D, (2013)

 本論文には他社の社名、商号、商標および登録商標が含まれます。

後藤 光治GOTOU Mitsuharu

● 社会システム戦略事業部 社会システムプラットフォーム開発部長● ビッグデータ、IoT の事業開発に従事● 経営管理学修士(MBA)、日本消費行動学会、 日本感性工学会、情報システム学会各会員