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ナノテクノロジーのプラスチック業界への応用
~最近の注目技術と製品を見る~
長谷川 正 (長谷川国際技術士事務所)
『ポリマーダイジェスト』Web 版、2005 年 3 月
(1)はじめに
2005年2月23日から25日まで、東京ビッグサイトにおいて、ナノテク2005として新しい市場の創出のため
の国際ナノテクノロジー総合展、技術会議が開催された。
この会場では、国内企業234、海外18カ国より92企業・団体が出展し、世界 大のナノテクビジネスマッチ
ングの場となった。
これまでのナノテク分野としては IT 分野が主体であったが、今回は新しい展開として、ハイチップなどの開発
により、医療分野への応用例も多く発表されており、燃料電池や FED 等の商品化も進められている。
今回の展示で注目されたのが、これまでナノ分野でリードしてきた、米国、英国、ドイツ、ベルギー、オランダ
等の先進国だけでなく、台湾、韓国、中国からも積極的な PR が行なわれており、日本企業も実用化へのスピ
ードアップが求められている。
2005年度の文部科学省のナノテク分野への支援予算額が約70億に対し、アメリカのナノテク分野への支
援額は約1,000億と、非常に巨額の投資を行なっている。
いずれにしても、21世紀のキーテクノロジーとしてのナノテクノロジーの位置付けは も重要な基礎技術の
ひとつといえることは確かであろう。
(図 1)ナノテクノロジーが実現する新規産業分野と 10 年後の市場規模
産業分野 具体的ターゲット 市場規模
ネットワーク・ナノデバイス産業
●次世代半導体関連
●センサー部品関連
●ストレージ関連
●光ネットワーク関連
●高速無線関連
●次世代ディスプレイ関連
17~20 兆円
ナノバイオニック産業
●バイオチップ関連
●DDS、医療用マイクロマシン関連
●生体適合材料関連
●人工臓器関連
0.6~0.8 兆円
ナノ環境エネルギー産業
●燃料電池関連
●革新的材料を用いた輸送機器、発電等関連
●環境モニタリング関連
●有毒物質除去関連
●環境改善関連
0.9~1.7 兆円
革新的構造材料産業 ●高信頼性構造材料関連 0.6~1.4 兆円
●維持・補修メンテナンス関連
ナノ計測・加工
●MEMS関連、ナノ加工関連
●マイクロリアクター関連
●ナノ計測・評価関連
0.8~2.2 兆円
総合科学技術会議のナノテクノロジー産業発掘、戦略プロジェクトチーム資料(図1)によると、産業分野として
(ⅰ)ネットワーク・ナノデバイス産業の市場規模が17~20兆円、(ⅱ)ナノバイオニック産業が0.6~0.8兆
円、(ⅲ)ナノ環境エネルギー産業が0.9~1.7兆円、(ⅳ)革新的構造材料産業が0.6~1.4兆円、(ⅴ)ナノ計
測、加工分野が0.8~2.2兆円と予想している。これらの中で、もっとも期待されているのがエレクトロニクス分
野で次世代ディスプレイなどの情報通信、情報家電、インクジェット技術などで10年後には20兆円の市場に
なると予想している。
このナノテクノロジーがプラスチック産業にどのように利用できるかについて、今回はまとめることにする。
(2)ナノテク材料とプラスチック産業の関係
まず、ナノテクノロジーを大きく分類する。
ナノテクノロジー
ナノマテリアル
○カーボンナノチューブ
○フラーレン
○ケイ酸塩
○シリカ・コロイダルシリカ
○金属微粉末
ナノ加工
○混練
○塗装
○蒸着、イオンプレート等
○プラズマ、レーザー
ナノコンポジット
○ポリマーアロイ
○ポリマー/セラミック
○ポリマー/ナノフィラー
○ポリマー/ナノ粉末
ここで、プラスチック材料とナノテク材料との複合化によるメリットは、ポリマーに対し、耐熱性、剛性、高弾性
率、耐候性、ガスバリア性、電導性、耐スクラッチ性、透明性、帯電防止性など数多くの機能を与えることがで
きる。
もちろん、従来のカーボン繊維や、無機フィラーによっても、同様の効果は期待できるが、ナノテクフィラーを
使用することにより、より少量で効果を発揮することが可能になるので、全体としての軽量化や、透明性の確
保を発揮した上での機能発揮となるため、新しい用途開発、商品差別化が期待できる。今回、NEDO 技術開
発機構が発表したナノテクノロジー材料開発部からも「新規ナイロン系アロイ」として、自動車用構造材料など
を応用分野として新しいポリマーアロイをナノ単位で混練分散、反応させた新規ナイロン・エチレン・エポキシ
共重合体アロイを開発している。(図2)この場合の混練には L/D=100 の反応性二軸押出機を開発したとこ
ろがキーポイントであろう。
※カーボンナノチューブ
米国ヒューストンにあるCNI社は世界で始めて単層カーボンナノチューブの商業化に成功し、現在月産1.5
トンの生産能力を有し、製造技術だけでなく、分散、紺練り、加工技術、応用分野に多くのノウハウを有して
いるとのことであった。
単層カーボンナノチューブはグラファイト構造のシート一層で構成され、直径0.8から.2mmの筒状分子で、
多層と比較して、非常に優れた導電性、熱伝導性、物理特性を有している。図3にその特性を示す。
(図3)
※大阪ガスのカーボンナノチューブ
大阪ガスでは、すぐれた電子放出特性をもつ、鉄内包 CNT(商品名メタカーボ)と、燃料電池を目的とした水
素吸蔵用のアモルファス CNT(アモカーボ)を発表していた。図4にその内容を示す。
※JFE のカーボンナノチューブとナノコンポジット
JFE では高純度カーボンナノチューブとして、
①CNT が高密度テープ状に合成したタイプ
②高純度 CNT
③3-7 放電法により高結晶性の多層 CNT を生産
図5に示す CNT-プラスチック複合材料コンポジットのデータを示す。CNT との 0.4wt%の混練によって、見
かけのヤング率が非常に高められることが示されている。
※三井物産ナノテク研究所(BNRI 社)
三井物産の子会社としてナノテク研究所を設立し、カーボンナノテクチューブの生産だけでなく、ゼオライト
分離膜による各種分離事業なども発表していたが、プラスチック産業にとって、カーボンナノチューブを使用
しやすくした、マスターバッチを発表していた。これは PPS 樹脂に CNT を5wt%~20wt%のマスターバッチ
で、少量添加で高導電性を発揮できることが 大の特長と言えよう。図6に PPS と CNT 混合比率による体積
固有抵抗値を示す。
(図 6)
※シンセンナノテクポート社製 CNT
中国深セン省にあるシンセンナノテクポート社は中国科学院のナノテク技術をもとに2001年に設立され
た、カーボンナノチューブの量産技術を確立した会社で、単層 CNT、二層 CNT、多層 CNT、導静電防止コー
ト剤、構造触媒および、プラスチック材料(PC、PEEK、PA66、PDM 等)との CNT マスターバッチも開発中との
ことで、非常に技術力のある会社と思う。図7に同社のカーボンナノチューブの特性を示す。
(図 7)
※機能性微粒子ケミスノー(綜研科学)
この粒子はメタクリル酸メチル・スチレンおよびその共重合体をベースにした架橋官能基、無機フィラーとの
複合化で各種機能を与えることのできる粒子で、プラスチック関連では改質剤として、光拡散剤、耐熱向上
剤としての役割や、フィルムへのつや消し効果、光拡散効果を与えることができる。
世界 小レベルの MMA-ST ナノ粒子の開発により図8に示すようなフレキシブル薄膜フィルム向けのスペ
ーサーやハイブリット材料の開発が進められている。
(図 8)
※日産化学工業のオプトビーズ(図9)
オプトビーズはメラミン樹脂とシリカからなるパール状複合微粒子で、光拡散性、耐磨耗性、つや消し剤、耐
熱性向上等の目的で使用される。
同社では有機溶媒に 10 から 100nm レベルのコロイダルシリカを分散させたオルガノシリカゾルを製造してお
り、プラスチック材料やフィルムに対し耐熱性向上、帯電防止性、耐スクラッチ性の改良に役立つ。
※荒川化学工業のナノテクハイブリッド
この技術は多官能基を有するアルコキシシランを重合して得られるポリアルコキシシランで変性したポリマ
ーと微粒子シリカとのハイブリット材料を製造する技術と、エポキシやフェノール樹脂などとのレジン・シリカ
複合ハイブリットなど幅広い材料を提供している。ハイブリットの効果としては、耐熱性、密着性、難燃性、高
弾性での低吸水性等の効果を発揮させている。図 10、11、12 にその特性を示す。
(図 10)
(図 11)
(図 12)
(3)コーティング剤としての用途
ナノ単位のフィラーをプラスチックフィルム、成形品の表面にコートして、プラスチック表面の機能を高める目
的でナノテクが注目されている。メリットとしては導電性、透明導電性、耐磨耗性、ガスバリア性、スクラッチ
防止、反射防止、紫外線防止、表面加飾効果など多目的の用途で使用される。
※㈱トービでは超低抵抗導電膜を開発
透明なプラスチックフィルム(PET、PEN、PC etc)の表面に透明で電気を通す ITO(In、Sn 酸化物)を蒸着さ
せて、10Ω/□の超低抵抗膜を形成させ、全光線透過率が 94%を超える EMI シールド用フィルムとして発
表した。
用途としては太陽電池、有機 EL、透明ヒーターなどが考えられ、インモールド同時射出成形も開発中とのこ
とであった。
※日本ペルノックス㈱では導電性の各種コート剤を展示していた。
内容的にはスクリーン印刷用として、銀フィラーとエポキシ、ウレタン、ポリエステルベースとの組合せや、透
明導電性コーティング剤としては、ポリエステル、ウレタンと ITO との組合せ、銀フィラーとエポキシとの組合
せの導電性接着剤などが展示してあった。
※サカタインクス㈱では各種機能性インクと、ナノフィラーとのハイブリットタイプのコーティング剤
を各種発表していたが、その中で非塩素系高性能酸素バリア性コーティング剤(エコステージ GB)を紹介す
る。図 13 に示すように酸素ガスバリア性が従来のコート剤と比較して温度依存性が低く、高温度条件下でも
高いバリア性を示す。
(図 13)
一方、同社では LCD カラーフィルター用の顔料分散液や、インクジェット顔料分散シリーズ、紫外線吸収顔
料分散液など、市場にマッチした分野に微粒子顔料、フィラーとポリマーとの分散技術により新しい市場へ
の対応に成功しているといえよう。
※㈱アルバックによる蒸着重合ポリイミド膜
蒸着重合法とは原料モノマーである無水ピロメリット酸とオキシジアニリンとを真空中で加熱蒸発させ、基板
上で反応させてポリアシド酸膜を作成し、同時に加熱イミド化し、ポリイミドにする方法で、従来の溶液法と比
較して複雑な形状表面にも均一な膜を形成できる特長を有している。不純物を含まない完全ドライプロセス
といえる。図 14 に蒸着重合ポリイミド膜の特性を示す。ポリイミドの耐熱性、高電気絶縁性、低磨耗係数な
どの特性を有しており、断熱金型用としても使用され、ウェルドラインの解消や、高温成形、ハイスピード冷
却の金型ヒートサイクル成形に応用可能である。
(図 14)
※NEDO による各種名のコーティング技術の開発
NEDO ではナノ単位の金属、セラミックス、無機フィラーをコートする新しい方法を各種開発している。その中
で注目される方法を 2-3 紹介する。
(ⅰ) 熱プラズマスプレーと PVD、CVD の複合プロセスにより、耐熱性、耐環境性に優れたコーティ
ングを開発している。この波及効果として、自動車、構造機械、電極材料などの効率、寿命等
の大幅な向上が期待されている。図 15 にその概要を示す。
(図 15)
(ⅱ) ナノ構造高速制御
成膜技術の開発では高出力ハイブリットプラズマによる溶射スプラット(RF‐150kW・DC20kW)
と気相堆積ナノ柱状組織の高微密耐熱コンポジットコーティングを実現している。ハイブリット
プラズマと(溶射/PVD/CVD)成膜法の同時制御を可能にするコーティング装置を開発し
た。
(ⅲ) ナノ構造制御と高速合成を両立した EB-PVD の開発
この方法は電子ビーム物理蒸着により高融点酸化物セラミックスのナノ構造制御と高速合成
を両立させた。図 16 にその装置を示す。
(図 16)
(4)ナノフィラー分散、混練装置
プラスチックのナノ単位でのポリマーアロイやカーボンナノチューブや微粒子のクレー、シリカなどのフィラー
をポリマーに均一に分散、混練するためには、前にも紹介したような混練効果の優れた L/D=100 のよう
な、高 L/D の二軸押出機が使用されるケースもあり、スクリュー構造のノウハウが重要となっている。単な
る混練だけでなく、官能基を有するマクロマーや、反応性フィラーの分散にはリアクティブ押出機が効果的で
あろう。
一方、微粒子のフィラーの生成法として各種のロールミル、ニーダー、バンバリーミキサー、高速分散機など
が各社より展示されていた。
一例として㈱ホソカワ粉体技術研究所がまとめた、新しい微粒子設計法を紹介する。(図 17)
(図 17)
ホソカワミクロン㈱が開発した「ナノキュラ」は、粒子界面にせん弾力、摩擦力などの機械、エネルギーを加
えると同時にプラズマ、高磁場などの第三の励起エネルギーを付与する装置で緻密かつ強力なナノ粒子の
メカノケミカルボンドを形成させる装置である。図 18 にプラズマ照射型ナノキュラを示す。
(図 18)
図 19 は精密分散・複合化処理装置で複合化、表面改質、球形化、粒子加工等に使用できる高機能粉体処
理装置で、燃料電池電極材料の反応性向上や、セパレーター、二次電池材料、トナーなどの高機能材料の
製造に使用される。
(図 19)
(5)終わりに
今回開催されたナノテク 2005 では欧米の 先端ナノテクノロジーから、近隣の台湾、韓国、中国からの多く
の出展もあり、幅広い分野での総合展であったため、その中でプラスチック産業にどのように導入したらよい
かの判断が得られにくかったが、プラスチック産業にとっても、21 世紀の市場として重点指向すべき分野
は、プラスチックの付加価値を高め、差別化可能な分野としては、医療、光学、IT、高機能自動車部品、金
属、セラミックス代替部品、バイオ等の先端分野に技術力を集中させねば発展的成長は残されていない。今
回の展示場で注目されるのが、産、学、官の共同開発体制の展示が非常に目立っていた。
これからは、企業 1 社だけで世界に通用する先端開発商品を創出することは非常に困難なので、官、公、大
学とのパートナーを組むとか、台湾、韓国、中国の大学、企業との相互パートナー関係を確立させ、スピー
ディに商品化を実施しないとグロ-バルなハイテク競争の中で、常に二番手以下のグループになってしまう
のではなかろうか。以上、思いつくままに印象をまとめてみた。
長谷川国際技術士事務所 TEL&FAX052-802-5629E メール:[email protected] ホームページ:
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