6
1 JARI Research Journal (2018.10) JARI Research Journal 20181002 * 研究速報ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ堆積・輸送に関する研究(第二報強制再生頻度がアッシュ堆積分布に及ぼす影響 松野 真由美 1) 北村 高明 2) 薄井 陽 3) 草鹿 仁 4) 福間 隆雄 5) 武田 好央 6) 木下 幸一 7) Ash Accumulation and Transport in Diesel Particulate Filters (Second Report) Impact of Active Regeneration Frequency on Ash Distribution Mayumi Matsuno Takaaki Kitamura Yo Usui Jin Kusaka Takao Fukuma Yoshinaka Takeda Koichi Kinoshita Accelerated ash deposition techniques are established by means of diesel particulate generator (DPG) in which engine oil injector is installed. Scanning electron microscope (SEM) observations of inflow ash without heat history above 350indicate it mainly consists of several dozen nm particles. On the other hand, ash after 650heating which simulate DPF regeneration has a few hundred nm particles due to crystallization by ash sintering. In addition, it is clarified that ash distribution is drastically changed by active regeneration frequency, and soot load is important factor on ash transport during DPF regeneration. KEY WORDS: Heat engine, Post treatment system, Particulate filter, Ash, X-ray CT, Regeneration frequency (A1) 1.ま 世界的な排出ガス規制強化に伴い,ディーゼルエンジンに おいては微粒子捕集フィルタ( 以降, DPF)の採用地域が急速に 拡大している.エンジンオイルには添加剤としてカルシウム などの金属成分が含まれており,これらが再生時に DPF 内に アッシュとして残存し,圧力損失に影響を及ぼす.アッシュの 堆積形態により DPF 前後圧損の挙動が変化するためアッシュ 堆積予測は難しく,使用過程においてアッシュ堆積に起因し た再生インターバルの大幅な短縮等が生じている.従って,ア ッシュ堆積状態を人為的に制御し,使用過程中の低圧損化を 実現することが望まれるが,それにはアッシュ堆積分布に影 響する因子を特定し,アッシュ堆積メカニズムを解明する必 要がある. 本研究では,アッシュ堆積メカニズム解明のため,連続燃焼 方式の軽油バーナー(バーナー式スート発生器)により発生し たアッシュを強制再生頻度の異なる 3 条件で,フルサイズ DPF に堆積させた.フルサイズ DPF には小径のテストピースを挿 入しておき,再生前後に第一報で構築した X CT 撮影手法 (1) を用いてアッシュ堆積形態の時系列変化を観察することで, 特に強制再生によるアッシュ輸送について検討を行った. 2.実 2.1. 実験装置 本研究ではバーナー式スート発生器として Cambustion 社製 Diesel Particulate Generator(以降,DPG)を使用した.図 1 装置内部構造の模式図を示す. DPG DPF 下流に設置された 排気ブロワにより所定のガス量を吸引する方式をとっており, DPF へスートやアッシュが堆積した場合でも DPF 上流側(ーナー部含む)の圧力は概ね大気圧に保たれる.そのため,安 定したバーナー燃焼でのスートおよびアッシュ生成が可能と なる. 軽油バーナーに対しては 3 段階の空気供給がなされる.一 次空気は燃料流量との組み合わせでスート発生量を制御する ために使用されており,DPF へのスート堆積を行う場合はリ ッチ制御される.二次空気はバーナー火炎周辺から導入され, 未燃燃料の完全燃焼に使われるのに対し,三次空気は DPF 流すガス流量および温度を制御するために使用される. 供試 DPF には SiC 基材のウォールフロータイプ DPF(イビ デン製 SD082)を選択し,サイズは143.8mm×L127mm とし た.本 DPF には触媒(Pt/Pd=2/1=0.5g/L,セリアなし)が塗布さ れている.また,強制再生頻度影響検証試験では, X CT 影用に直径 1 インチのテストピース(以降,TP)をフルサイズ DPF からくりぬき,再度フルサイズ DPF に挿入し,アッシュ を堆積させた.また, DOC でのアッシュ組成変化も考慮して, アッシュ堆積試験時には DPF 上流に DOC を設置した. 1)2) (一財)日本自動車研究所 (305-0822 つくば市苅間 2530) 3)4)5) 早稲田大学 (169-8555 新宿区大久保 3-4-1) 6)7) (国研)産業技術総合研究所 (305-8564 つくば市並木 1-2-1 つくば東) *本速報は JSAE 著作権規則に基づく JSAE20185394 の転載である.

ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

  • Upload
    others

  • View
    2

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 1 -

JARI Research Journal (2018.10)

JARI Research Journal 20181002*

【研究速報】

ディーゼルパティキュレートフィルタ内の

アッシュ堆積・輸送に関する研究(第二報)

強制再生頻度がアッシュ堆積分布に及ぼす影響

松野 真由美 1) 北村 高明 2) 薄井 陽 3) 草鹿 仁 4) 福間 隆雄 5) 武田 好央 6) 木下 幸一 7)

Ash Accumulation and Transport in Diesel Particulate Filters (Second Report)

Impact of Active Regeneration Frequency on Ash Distribution

Mayumi Matsuno Takaaki Kitamura Yo Usui Jin Kusaka Takao Fukuma Yoshinaka Takeda Koichi Kinoshita

Accelerated ash deposition techniques are established by means of diesel particulate generator (DPG) in which engine oil injector is installed.

Scanning electron microscope (SEM) observations of inflow ash without heat history above 350℃ indicate it mainly consists of several dozen

nm particles. On the other hand, ash after 650℃ heating which simulate DPF regeneration has a few hundred nm particles due to crystallization

by ash sintering. In addition, it is clarified that ash distribution is drastically changed by active regeneration frequency, and soot load is important

factor on ash transport during DPF regeneration.

KEY WORDS: Heat engine, Post treatment system, Particulate filter, Ash, X-ray CT, Regeneration frequency (A1)

1.ま え が き

世界的な排出ガス規制強化に伴い,ディーゼルエンジンに

おいては微粒子捕集フィルタ(以降,DPF)の採用地域が急速に

拡大している.エンジンオイルには添加剤としてカルシウム

などの金属成分が含まれており,これらが再生時に DPF 内に

アッシュとして残存し,圧力損失に影響を及ぼす.アッシュの

堆積形態により DPF 前後圧損の挙動が変化するためアッシュ

堆積予測は難しく,使用過程においてアッシュ堆積に起因し

た再生インターバルの大幅な短縮等が生じている.従って,ア

ッシュ堆積状態を人為的に制御し,使用過程中の低圧損化を

実現することが望まれるが,それにはアッシュ堆積分布に影

響する因子を特定し,アッシュ堆積メカニズムを解明する必

要がある.

本研究では,アッシュ堆積メカニズム解明のため,連続燃焼

方式の軽油バーナー(バーナー式スート発生器)により発生し

たアッシュを強制再生頻度の異なる3条件で,フルサイズDPF

に堆積させた.フルサイズ DPF には小径のテストピースを挿

入しておき,再生前後に第一報で構築した X 線 CT 撮影手法

(1)を用いてアッシュ堆積形態の時系列変化を観察することで,

特に強制再生によるアッシュ輸送について検討を行った.

2.実 験 方 法

2.1. 実験装置

本研究ではバーナー式スート発生器として Cambustion 社製

のDiesel Particulate Generator(以降,DPG)を使用した.図 1 に

装置内部構造の模式図を示す.DPGは DPF 下流に設置された

排気ブロワにより所定のガス量を吸引する方式をとっており,

DPF へスートやアッシュが堆積した場合でも DPF 上流側(バ

ーナー部含む)の圧力は概ね大気圧に保たれる.そのため,安

定したバーナー燃焼でのスートおよびアッシュ生成が可能と

なる.

軽油バーナーに対しては 3 段階の空気供給がなされる.一

次空気は燃料流量との組み合わせでスート発生量を制御する

ために使用されており,DPF へのスート堆積を行う場合はリ

ッチ制御される.二次空気はバーナー火炎周辺から導入され,

未燃燃料の完全燃焼に使われるのに対し,三次空気は DPF へ

流すガス流量および温度を制御するために使用される.

供試 DPF には SiC 基材のウォールフロータイプ DPF(イビ

デン製 SD082)を選択し,サイズは143.8mm×L127mmとし

た.本 DPF には触媒(Pt/Pd=2/1=0.5g/L,セリアなし)が塗布さ

れている.また,強制再生頻度影響検証試験では,X 線CT 撮

影用に直径 1 インチのテストピース(以降,TP)をフルサイズ

DPF からくりぬき,再度フルサイズ DPF に挿入し,アッシュ

を堆積させた.また,DOCでのアッシュ組成変化も考慮して,

アッシュ堆積試験時にはDPF 上流にDOC を設置した.

1)・2) (一財)日本自動車研究所 (305-0822 つくば市苅間 2530)

3)・4)・5) 早稲田大学 (169-8555 新宿区大久保 3-4-1)

6)・7) (国研)産業技術総合研究所 (305-8564 つくば市並木 1-2-1

つくば東)

*本速報は JSAE 著作権規則に基づく JSAE20185394 の転載である.

Page 2: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 2 -

JARI Research Journal (2018.10)

2.2. アッシュ発生方法

DPG でのアッシュ発生方法として軽油バーナー火炎にエン

ジンオイルを噴射するオイル噴射方式を採用した.図 1 右に

示すように燃焼釜外壁に取付けたガソリン MPI 用のエアアシ

スト噴射弁を用いて,80℃に温調したオイルを軽油拡散火炎

に向けて間欠噴射した.

アッシュの生成には DL-1 オイルの金属配合比を概ね保っ

た状態で,硫黄(S),リン(P),カルシウム(Ca),亜鉛(Zn)の含有

量を 10 倍程度に高めた濃縮オイルを使用した.アッシュ生成

能の指標である硫酸灰分は 4.9%である.オイル性状を表 1 に

示す.

Fig.1 Structure of DPG

2.3. 強制再生頻度影響検証試験

本研究ではアッシュ濃度を 1g/hr に固定し,スート濃度を 0

~16g/hr の範囲で変えることにより強制再生頻度を変化させ

た.アッシュおよびスート堆積条件と強制再生条件を表 2 に

示す.堆積運転時のノルマル SV は 60,000h-1,DPF の入口温

度は 350℃とした.再生運転時は,アッシュの発生はなくノル

マル SV は堆積運転時と同様に 60,000h-1で,DPF 入口の設定

温度は 680℃とした.

表 3 に強制再生頻度検証試験条件を示す.強制再生頻度小

は連続再生を模したもので,スートは発生させずにアッシュ

のみを堆積させた.アッシュ堆積量計測のため,試験終了まで

に 6 回の強制再生を行っている.強制再生頻度中および頻度

大はスート堆積量 8g/L のタイミングでそれぞれ 18 回および

74 回の強制再生を行った.

アッシュ堆積状態の時系列変化および再生によるアッシュ

の輸送を把握するため,定期的に再生前後にフルサイズ DPF

に挿入した 1 インチ TP を取外し,X 線 CT 撮影(島津製作所

製 マイクロフォーカス X 線 CT システム SMX-225CTS)を

行った.1 インチ TP を使用することにより,拡大撮影が可能

となり,1 ヴォクセル 31mの高解像度でアッシュ堆積状態を

観察することができる.また,アッシュ堆積試験後には,全体

的なアッシュ堆積分布把握のため,フルサイズ DPF の X 線

CT 撮影も行った.さらに,X 線CT 撮影後のフルサイズDPF

の破壊検査を行い,アッシュ堆積形態の観察および堆積アッ

シュの成分分析,粒子径解析を行った.

Table 1 Engine Oil Properties

Kinematic viscosity@40℃ mm2/s 57.4

Kinematic viscosity@100℃

mm2/s 9.8

Viscosity index - 156

Salfated ash content wt% 4.9

ICP Ca wt% 0.9

P wt% 0.7

Zn wt% 0.8

S wt% 1.6

Table 2 Ash Loading and Regeneration Condition

Ash & Soot Loading

Ash concentration g/hr 1

SV@20℃ h-1 60,000

DPF inlet temperature ℃ 350

Oil consumption g/hr 27~30

Regeneration

Ash concentration g/hr 0

Soot concentration g/hr 0

SV@20℃ h-1 60,000

Run time min 35

DPF inlet temperature ℃ 680

Table 3 Regeneration Frequency Conditions

Regeneration Frequency Low Middle High

Loading time hr 12 4 1

Soot concentration g/hr 0 4 16

Number of active regeneration

Time 6 18 74

3.試 験 結 果

3.1 アッシュ堆積分布の時系列変化

図 2 に強制再生頻度小における 1 インチ TP 内堆積アッシ

ュの時系列変化を示す.図は撮影した X 線 CT 出力画像から

1 インチ TP の中央断面を表示したものである.写真上部には

フルサイズDPF へのアッシュ堆積量を記載してある.アッシ

ュ堆積量が少ない場合,プラグアッシュはほとんど観察され

ずアッシュ堆積量 20g/Lからプラグアッシュが成長し始める.

また,アッシュ堆積量 27g/L 以上ではプラグアッシュ中に空

隙が見られるようになる.さらに,基材壁面に沿ったウォール

アッシュの形成が確認できた.

強制再生頻度中における 1 インチ TP 内堆積アッシュの時

系列変化を図 3 に示す.アッシュ堆積量が増加するにつれて

プラグアッシュがほぼ一定の割合で成長している様子がわか

る.プラグアッシュ長さは強制再生頻度小に比べて非常に長

く,プラグアッシュの成長に伴い,輝度の高い領域が現れる.

図 4 に強制再生頻度大における 1 インチ TP 内アッシュの

堆積状態を示す.強制再生頻度中と同様に明確なプラグアッ

シュが観察される.頻度大では強制再生回数が多いためにア

ッシュの輸送が促進されると考えられたが,プラグアッシュ

長さは強制再生頻度中とほぼ同等であり,アッシュ堆積形態

に顕著な差異は現れなかった.

Secondary air

Tertiary air

Primary air

Diesel fuel supplyExhaust blower

Exhaust cooler

Burner air inlet

Burner exhaust

Cooling air outlet

DPF size・1”TP: Φ25×L127・1/2”TP: Φ12×L127・FS: Φ143.8 ×L127

Oil injector

1/2"TP

Oil Injector

1”TP

DOC

Page 3: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 3 -

JARI Research Journal (2018.10)

Fig. 2 Ash Accumulation in Axial Cross-section of TP for Low Regeneration Frequency

Fig.3 Ash Accumulation in Axial Cross-section of TP for Middle Regeneration Frequency

Fig.4 Ash Accumulation in Axial Cross-section of TP for High Regeneration Frequency

Fig.5 Ash Accumulation in Radial Cross-section of TP at Ash 35g/L

図 5 に 1 インチ TP の横断面スライス画像を示す.アッシュ

堆積試験前の画像との差分化処理を行うことで,アッシュ堆

積部のみを抽出している.プラグアッシュが形成されている

場合,チャネル内が白く塗りつぶされ,ウォールアッシュが形

成されている場合は中空となる.強制再生頻度小の DPF 後端

から 30mm ではプラグアッシュとウォールアッシュが混在し

ている状態であり,DPF 入口近傍までウォールアッシュが形

成されていることが明らかとなった.一方,強制再生頻度中お

よび頻度大の後端部ではプラグアッシュの形成が確認できる

が,DPF 上流側にアッシュ堆積を示す白い領域は殆ど観察さ

れず,ウォールアッシュは形成されていない.

以上より,連続再生を模した強制再生頻度小条件では,ウォ

ールアッシュが,強制再生頻度中および頻度大条件ではプラ

グアッシュが主体の堆積形態となることが明らかとなった.

ここで,ウォールアッシュ主体の強制再生頻度小試験にお

ける基材表面近傍のアッシュ堆積状態を電界放出形走査電子

顕微鏡(FE-SEM)にて観察した.結果の一例を図 6 に示す.本

試験では,基材表面空孔内にアッシュが侵入している様子は

見られず,基材表面上にウォールアッシュが形成されている.

Fig.6 FE-SEM Image near the Surface Pores for Low Regeneration Frequency

1 インチ TP のX 線CT出力画像からアッシュ堆積分布の定

量評価を行った.強制再生頻度小および頻度大の結果を図7に

示す.強制再生頻度中と頻度大では顕著な差異が観察されな

かったため,頻度大の結果のみを示してある.再生前を細線,

再生後を太線で示してある.

強制再生頻度小ではDPF 入口近傍までウォールアッシュが

形成されていることがわかる.アッシュ堆積量の増加に伴い

ウォールアッシュが成長し,プラグアッシュとの境界が不明

瞭になる.再生前後のアッシュ堆積状態を比較すると再生前

を示す細線が再生後を示す太線よりも上部に現れており,再

生によりウォールアッシュが減少していることがわかる.一

方,プラグアッシュは再生前後でほとんど変化がなく,再生時

のアッシュ輸送はほとんど生じていないことがわかる.

図 7(b)より,強制再生頻度大では,ウォールアッシュは形成

されていないことがわかる.プラグ部を見ると再生によりプ

ラグアッシュ長さが増加している.

再生時におけるアッシュのエンドプラグ側への輸送にはス

ートの存在が強く影響すると考えられる.強制再生頻度小で

は堆積時にスートが存在しないため,再生時のアッシュ輸送

が抑制される.一方,強制再生頻度中および頻度大のように堆

積時にスートが存在する場合,再生時にスートが燃焼・消失す

る際にスートケーキ層に含まれていたアッシュが排ガスの流

れに乗ってエンドプラグ側へ輸送されると考えられる.

Wall ash

50μm

Ash 3g/L Ash 8g/L Ash 14g/L Ash 20g/L Ash 27g/L Ash 35g/L

0

10

20

30

40

50

60

[mm]

Gas flow

Ash 5g/L Ash 11g/L Ash 18g/L Ash 24g/L Ash 29g/L Ash 35g/L

0

10

20

30

40

50

60

[mm]

Gas flow

0

10

20

30

40

50

60

[mm]Ash 6g/L Ash 13g/L Ash 19g/L Ash 23g/L Ash 30g/L Ash 35g/L

Gas flow

RegenerationFrequency

Axial distance from DPF rear end [mm]

30 70 110

Low

Middle

High

Page 4: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 4 -

JARI Research Journal (2018.10)

(a) Low Regeneration Frequency

(b) High Regeneration Frequency Fig. 7 Quantitative Estimation of Ash Accumulation Amount in TP

3.2 アッシュ輸送メカニズムの推定

連続再生を模した強制再生頻度小におけるアッシュ輸送メ

カニズムを図 8 に示す.スートの介在がない場合,流入アッ

シュは基材壁面に付着し,アッシュケーキ層を形成する.基材

表面空孔ではアッシュによる架橋構造が形成される.ここで

強制再生を行うことにより,高温昇温時にアッシュのシンタ

リングが進むことでアッシュが粗大化し,一部はエンドプラ

グ側に輸送される.また,基材表面空孔中に架橋構造を形成し

ていたアッシュはシンタリングの際に一部崩壊し,支えを失

ったアッシュが強制再生時にスリップするものと考えられる.

堆積および再生を繰り返すことにより,流入アッシュは元々

基材壁面に沿って堆積していたアッシュに分子間力により付

着することでウォールアッシュ厚さが増していくと考えられ

る.スートが存在しないため,エンドプラグ側への輸送が生じ

にくく,プラグアッシュは短く,空隙が生じやすくなると考え

られる.

図 9 に強制再生頻度中および頻度大におけるアッシュ輸送

メカニズムのイメージを示す.堆積運転時に流入アッシュが

スート中に混在した状態で,基材壁面にスートケーキ層が形

成される.アッシュ濃度に比べてスート濃度が十分に高い場

合,基材表面空孔にはスートによる架橋構造が形成されると

考えられる.ここで,強制再生を行うことによりスートが燃焼

し,スート中に混在していたアッシュがエンドプラグ側へ輸

送されやすくなると考えられる.基材表面空孔付近ではスー

トによる架橋構造が形成されているため,再生時におけるア

ッシュのスリップが抑制されるものと推察される.堆積およ

び再生を繰り返すことによりアッシュがエンドプラグ側へ輸

送され,高温昇温時にシンタリングにより粒子成長しながら

プラグアッシュが成長していくと考えられる(2),(3).

Fig.8 Ash Transport Mechanism for Low Regeneration Frequency

Fig.9 Ash Transport Mechanism for Middle or High Regeneration Frequency

4.ア ッ シ ュ 輸 送 メ カ ニ ズ ム の 検 証

4.1 流入アッシュのシンタリング

スートを発生させずにアッシュのみを DPF に堆積させ,強

制再生を行わずに DPF 後端からエアブローすることにより

DPF に堆積したアッシュを回収した.回収した流入アッシュ

を電気炉にて650℃に加熱し,FE-SEMにて形態観察を行った.

図 10 に 350℃以上の加熱履歴のない流入アッシュおよび,

650℃加熱後の観察結果の一例を示す.流入アッシュは数m

オーダーのアッシュも存在するものの,数十 nmの一次粒子を

有するナノ粒子が主流であることがわかる.650℃加熱後のア

ッシュは加熱によるシンタリングが進み,数百 nmの粗大な塊

状に変化することが明らかとなった.

次に,アッシュ堆積試験終了後のフルサイズ DPF を破壊し,

回収したDPF 内堆積アッシュの粒子径解析を行った.図 11 に

強制再生頻度大試験における,DPF 径方向中央部から採取し

た,プラグアッシュのFE-SEMによる観察画像の一例を示す.

図 10 に示した 650℃加熱後アッシュと同様にシンタリングに

より溶解した様子が観察された.

図 12 に流入アッシュおよび 650℃加熱後アッシュの蛍光 X

線分析(XRF)の結果を示す.炭素(C),水素(H),酸素(O)は燃焼

法による定量分析結果である.いずれの条件においても主成

分はCa,Zn,P,S である.650℃で加熱することによりC が

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 20 40 60 80 100 120

8g/L_reg20g/L_reg27g/L_reg8g/L20g/L27g/L

Local ash load [

g/L

]

Axial distance from DPF rear end [mm]

End p

lug

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 20 40 60 80 100 120

6g/L_reg19g/L_reg30g/L_reg6g/L19g/L30g/L

Local ash load [

g/L

]

Axial distance from DPF rear end [mm]

End p

lug

Gas flow

Breakup of bridge structure of ash

Loading

Regeneration

Repeat of Loading and Regeneration

Gas flow

Loading

Regeneration

Repeat ofLoading and Regeneration

Page 5: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 5 -

JARI Research Journal (2018.10)

減少し,Ca および Zn の割合が増加した.図 13 に両サンプル

の X 線回折分析(XRD)の結果を示す.650℃加熱後アッシュ

は流入アッシュに比べてベースラインが低く,ピークがシャ

ープになっていることから,加熱による結晶化が進んだもの

と判断される.両サンプルから,アッシュ主成分と考えられて

いる硫酸カルシウム(Ca(SO4)),リン酸カルシウム-亜鉛

(Ca19Zn2(PO4)14),酸化亜鉛(ZnO)が検出された.また,炭

酸カルシウム(Ca(CO3))は流入アッシュのみから,リン酸亜

鉛(Zn3(PO4)2)は 650℃加熱後アッシュのみから検出された.

流入アッシュを,DPF 再生を想定した温度(650℃)で加熱す

ることにより,アッシュの形態変化および組成変化が生じる

ことが明らかとなった.堆積試験後のアッシュからも同様の

形態変化が観察されたことから,図 8 および図 9 に示した再

生時のアッシュシンタリング現象による粒子の粗大化が確認

できた.

Fig.10 FE-SEM Images of Ash

Fig.11 FE-SEM Image of Plug Ash for High Regeneration Frequency

Fig.12 XRF Analysis of Ash

Fig.13 XRD Analysis of Ash

4.2 強制再生時におけるDPF すり抜け

図14に強制再生頻度影響検証試験でのオイル消費量を示す.

強制再生頻度中および頻度大ではほぼ同等であったのに対し,

強制再生頻度小では,頻度中および頻度大に比べて約 1.5 倍の

オイルを要した.従って,スート介在のない強制再生頻度小で

はDPF すり抜けが生じている可能性がある.ここで,強制再

生頻度小試験におけるDPF 堆積アッシュの物質収支を調べた.

図 15 に強制再生頻度小試験における主要 4 元素の収率(各

元素の供給量に対する生成量の割合)を示す.Ca,P,Zn,S に

ついて,各元素の供給量はオイル消費量から,生成量は,アッ

シュ堆積試験でDPF に堆積させたアッシュ重量から算出した.

4 元素ともに収率は低く,アッシュが DPF からスリップして

いる可能性が示唆される.PおよびSの収率は 27%および15%

と特に低い.これはDPF からのアッシュのスリップに加え,

DOC への被毒,および SO2等の燃焼生成物として気体の状態

でDPF をスリップしていると考えられる.

Fig. 14 Oil Consumption

Fig.15 Yield of Main Four Elements of Ash for Low Regeneration Frequency

図 16は強制再生頻度小試験におけるX線CT出力画像から

見積もった 1 インチ TP へのアッシュ堆積量の推移を示す.各

撮影時において再生後にアッシュ堆積量が減少している.こ

の重量減少は,アッシュが再生時に DPF からスリップしたた

めに生じたものと考えられる.

ここで,強制再生頻度小試験での強制再生時に DPF 下流で

Engine Exhaust Particle Sizer (EEPS)を用いて粒子計測を行った.

アッシュ堆積量 20g/L における計測結果を図 17 に示す.DPF

下流から分岐させた排出ガスは,400℃で揮発する SOF 成分

を除去してあり,希釈倍率は 100 倍である.DPF 入口温度が

(a) Inflow ash (b) Ash after 650℃ heating

① C

② O

③ H

④ Ca

⑤ Zn

⑥ P

⑦ S

Others

12

36

1

24

10

10

5

3

1

38

0

29

16

10

5

2

Inflow ash Ash after 650℃ heating

500nm

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

Ca P Zn S

0.64

0.27

0.51

0.15

Yie

ld

Chemical element

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 500 1000 1500 2000 2500 3000

Regen. freq LowRegen. freq MiddleRegen. freq HighC

um

ula

tive a

sh load [

g/L

]

Oil consumption [g]

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

20 25 30 35 40

Inflow ash Ash after 650°C heating

Inte

nsity(c

ps)

2

★ ●CaCO3

▲Ca19Zn2(PO4)14

■ZnO◆Zn3(PO4)2

★CaSO4

Page 6: ディーゼルパティキュレートフィルタ内の アッシュ …jari.or.jp/Portals/0/resource/JRJ_q/JRJ20181002_q.pdf-2 - JARI Research Journal (2018.10) 2.2. アッシュ発生方法

- 6 -

JARI Research Journal (2018.10)

350℃~500℃の中間温度条件において,流入アッシュと同等

の 108オーダーのスリップ粒子を検出した.これは,強制再生

時の未燃オイルの揮発および燃焼に起因するものと考えられ

る.一方,500℃~600℃程度の温度条件においても粒子数密度

は 105~107オーダーに減少するものの,DPF からのスリップ

粒子は継続的に観察される.ここでは,堆積時にDPF 基材の

表面空孔付近に存在していたアッシュが高温昇温時にシンタ

リングし,一部が DPF からスリップしたと考えられる.

スート介在のない強制再生頻度小では強制再生時に DPF か

らアッシュがスリップしていることが確認できた.以上の結

果より,図 8 および図 9 に示した推定アッシュ輸送メカニズ

ムの妥当性が検証された.

Fig. 16 Transition of Ash in TP Before and After Regeneration for Low Regeneration Frequency

Fig.17 Particle Measurement Result behind DPF by EEPS for Low Regeneration Frequency at Ash 20g/L

5.ス ー ト 堆 積 時 の 圧 力 損 失

図18にアッシュ堆積試験後に行ったスート堆積時の圧力損

失挙動を示す.本試験ではウォールアッシュ主体の強制再生

頻度小サンプルの方がプラグアッシュ主体の強制再生頻度中

および頻度大サンプルよりも圧力損失が小さい結果となった.

これは図 6 に示したように基材表面空孔内部へのアッシュの

侵入がないためと推察される.強制再生頻度小サンプルでは

ウォールアッシュが形成されているため,スートのウォール

層堆積はない.一方,強制再生頻度中および頻度大サンプルで

はウォールアッシュの形成がないため,スートが表面空孔内

部に侵入する際に圧力損失が増大し,ウォールアッシュ主体

のサンプルに比べて圧力損失が高くなると推察される.

Fig.18 Pressure Drop in Soot Loading

6.ま と め

本研究では強制再生頻度をパラメータとしたアッシュ堆積

DPF を作成し,アッシュ輸送および堆積メカニズムについて

検討した.以下に得られた知見を示す.

(1) アッシュ堆積・輸送にはスートの存在が強く影響する.

(2) スート介在のない強制再生頻度小では,再生中のエンド

プラグ側へのアッシュ輸送は生じにくく,ウォールアッ

シュ主体の堆積形態となる.基材表面空孔内部へのアッ

シュ侵入は観察されず,基材壁面に沿ってウォールアッ

シュが形成される.

(3) スート堆積のある強制再生頻度中および頻度大では,再

生時にスートが燃焼することによりスートケーキ層中に

混在していたアッシュがエンドプラグ側へ輸送されると

推察され,堆積形態はプラグアッシュ主体となる.

(4) スート介在のない強制再生頻度小試験において強制再生

時にDPF からの顕著なアッシュすり抜けが示唆された.

DPF 入口温度約 350℃~500℃では未燃オイルに起因する

SOF 分の蒸発および燃焼により,約 500℃~600℃では表

面空孔近傍に付着していたアッシュがシンタリングによ

りスリップすると考えられる.

(5) アッシュを 35g/L 程度堆積させた本試験では,スート堆

積時の深層ろ過の影響により,ウォールアッシュ主体の

場合に比べてプラグアッシュ主体の場合に圧力損失が高

くなると推察される.

謝 辞

本研究は,平成 29 年度に自動車用内燃機関技術研究組合よ

り委託を受けて実施した研究事業の成果です.関係者各位に

深く感謝の意を表します.

参 考 文 献

(1) 薄井陽,草鹿仁,福間孝雄,大橋禅,森本渓,北村高明,松野真由美,武田好央,木下幸一:ディーゼルパティキュレートフィルタ内のアッシュ堆積・輸送に関する研究(第一報) X線CT撮影によるアッシュ堆積密度分布の定量化,2018 年春季大会学術講演会講演予稿集(2018)

(2) Ishizawa T., Yamane H., Satoh H., Sekiguchi K., Arai M.,

Yoshimoto N. and Inoue T.: Investigation into Ash Loading and Its

Relationship to DPF Regeneration Method, SAE Paper 2009-01-

2882 (2009)

(3) Dittler A.: Ash Transport in Diesel Particle Filters, SAE

Paper 2012-01-1732 (2012)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

3 g/L 8 g/L 14 g/L 20 g/L 27 g/L

before regen.after regen.

Ash

est

imate

d b

y X

-ray C

T [

g]

Cumulative ash load

105

106

107

108

109

0

100

200

300

400

500

600

700

0 200 400 600 800 1000

Tota

l conce

ntr

ation [

#/c

c]

DPF in

let te

mp. [

°C]

Time [s]

DPF inlet temp.

Total

concentration

0

5

10

15

20

25

30

0 1 2 3 4 5 6

Pre

ssure

dro

p [

kPa]

Soot loading [g/L]

Regeneration frequency Low (Ash 35g/L)

Regeneration frequency Middle (Ash 35g/L)

Regeneration frequency High (Ash 36g/L)

New (Ash 0)