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平成29年度産業技術調査事業 企業のオープンイノベーション推進における 人材マネジメントに関する調査 報告書 2018330株式会社野村総合研究所 コンサルティング事業本部 代表取締役社長 此本 臣吾 100-0004 東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ

企業のオープンイノベーション推進における 人材マ …OIは、企業の価値創造に向けた手段のひとつである。OI人材と組織インフラを考えるにあたり、経営・人事

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平成29年度産業技術調査事業

企業のオープンイノベーション推進における

人材マネジメントに関する調査

報告書

2018年3月30日

株式会社野村総合研究所コンサルティング事業本部

代表取締役社長 此本 臣吾

〒100-0004

東京都千代田区大手町1-9-2 大手町フィナンシャルシティ グランキューブ

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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1.調査の背景

OIの要求の高まりの背景には、外部環境の変化によってモノづくりへの要求が高まるに伴い、企業の研究・製品開発にかつてないスピードが求められるようになったことがある。

外部環境変化により、基礎研究から製品開発までを自社内で行う自前主義が限界に達してきた。

出所)文部科学省 平成29年度科学技術白書オープンイノベーションの加速~産学官共創によるイノベーションの持続的な創出に向けて~

オープンイノベーションが求められる背景

ICTの急速な発展

経済のグローバル化による競争激化

顧客ニーズの多様化

製品サイクルの短期化

新プレーヤーの参入による競争構造の変化

自前主義の限界

外部環境の変化モノづくりへの

要求水準の高度化

オープンイノベーションの推進

基礎研究から製品開発までを自社で行うことの限界

競争に勝つために求められるスピードに追いつく

新たな市場価値創造

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1.調査の背景

オープンイノベーションとは、“意図的かつ積極的に、内部と外部の資源の流出入を活用する”ことであり、新たな市場価値創造に向けた手段として注目されている。

出所)NEDO オープンイノベーション白書

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1.調査の背景

オープンイノベーションに先駆的に取り組んできた企業では、売上の拡大、新事業の創出など、目に見える成果に繋がったことが示されている。

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(10億米ドル)

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P&GのOI導入と売上高の推移

P&Gは、従来の自前型R&D戦略を見直し、「研究開発やイノベーションのアイデアの50%は社外から調達する」ことを2000年に宣言した結果、研究開発費を維持しつつ、ベンチャー連携を活用し、売上倍増を達成。

自社R&D オープンイノベーション戦略導入

OI導入宣言

フィリップスによるOIの取り組み

フィリップスは、2010年以降、50%の製品についてその差別化の鍵となる技術を 社外組織から取り込むことをR&D活動指針としてオープンイノベーションを推進。

フィリップス社「ノンフライヤー」(油を使わず揚げ物を作る家庭用調理機器)は、油はねや臭い、カロリーを気にする消費者ニーズに対応するため、超小規模の研究所の技術を導入して短期間で開発。世界150以上の国・地域で320万台以上販売。推計1000億円を売上げ 。

研究者2名の開発ベンチャーAPDS社の持つ、ラピッドエアーという熱風循環技術

フィリップスの調理家電における消費者ニーズ、製造技術、販売チャネル等

ノンフライヤーの製品化

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1.調査の背景

オープンイノベーションの成功要素として、人材の重要性が指摘されている。

オープンイノベーション成功要因の分析結果(オープンイノベーション白書)

出所)NEDO オープンイノベーション白書

トップ、ミドル、ボトムの各層で、OI人材として必要な能力・機能(コンピテンシー)が異なると示唆されている

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1.調査の背景

学術界においても、オープンイノベーションと人材の関係について、さらに研究を進めていく必要が言及されている。

オープンイノベーションは、人材を起点にしたビジネスである。

本質的には、オープンイノベーションは、人と人とがどう関わるかということである。

社内また社外の双方において、人材のマネジメントがオープンイノベーションの成功にどのように関わっているか理解することは非常に重要なトピックである。

しかしながら、オープンイノベーションと人材の関わりについて、学術分野での検討は不十分である。

オープンイノベーションを人材の面からさらに研究を進めることが必要である。

カンファレンスにおけるオープンイノベーションと人材に関する言及

‘HR and Open Innovation’

-Prof. Henry Chesbrough, University of California, Berkeley & ESADE

-Prof. Wim Vanhaverbeke, Hasselt University, ESADE & National University of Singapore

-Dr. Nadine Roijakkers, Hasselt University

MOOI community, March 4, 2013

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1.調査の背景

本調査では、“オープンイノベーション”を担うことのできる人材を主たる検討の対象とする。

OI人材を、イノベーション人材のうち、特に組織の枠を越えて他者を巻き込んだ活動の役割を遂行する役割を担う人材と定義する。

人材の定義 役割

新しい価値の発見・実現をすること 既存業務の大幅な改善をすること

OI人材 組織の枠を越えて、他者を巻き込んだ、新しい価値の発見・実現、改善をすること※OI組織の担当者かという所属の有無は問わない

イノベーション人材

本調査における人材の定義と役割

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本調査では、OI活動を支える「人材」と、人材を支える「組織インフラ」。特にOIを推進・実践する人材の要件定義である、スキル・コンピテンシーを明確にする。

本調査結果は、各企業におけるオープンイノベーションの推進に向けた人材の評価や人事制度・組織設計の検討を促すための、具体的な検討に寄与するマニュアルとなることを考えている。

OIは、企業の価値創造に向けた手段のひとつである。OI人材と組織インフラを考えるにあたり、経営・人事の両面において、手段を目的化しないことが重要であることを踏まえ、企業の経営・人事両面から、OI推進に向けた具体的な取り組みについて検討を行う。

本調査でターゲットとする範囲

OI推進・実践人材

OIを支える組織インフラ

OIの取り組み

• 事業計画• 連携の取り組み

• 人材の定義• スキルセット・コンピテンシー

• 人材育成・発掘

• 人材評価• 人材アサイン・配属• 意思決定・予算権限• 組織風土

本調査のターゲット

評価・制度の設計に活用

1.調査の背景

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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2.調査の着眼と課題意識

本調査では、OIにおける基本方針・風土づくりから、事業モデルの具体検討・ビジネスの上市までを担うことのできる人材のコンピテンシー・人事等の取り組みを把握する。

基本方針・風土づくり体制構築

OI推進フローの全体像

OI白書で定義するOI活動のフロー

本調査で定義するOI活動のフロー

協業における双方の役割の明確化

権利関係を含むビジネスモデルの詳細設計

事業化にむけて具体的な活動を推進し、売上を生む活動を行う

事業の継続拡大において責任のある役割を担う

組織全体でとしてOIに取り組むというメッセージの発信

新しいことに取り組もうという企業文化の醸成

OIを担う専門組織・担当者の任命

事業モデル検討PoC~上市

求められる人材の要件・人事の仕組みとは?

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2.調査の着眼と課題意識

OIプロセスを阻害する各段階の「ありがち」な人材・組織の課題が存在。大企業ではOIを下支えする仕組みがなく、OI人材が自身の意思・能力を発揮しにくい。

基本方針・風土 事業モデル検討OI構想・

提携先の発掘PoC~上市体制構築

前向きにOIに取り組むための機運と体制を構築するフェーズ

• OIを「傍流」「お遊び」と見る勢力が社内に多い

• 組織として、OIに本気で取り組み、

まい進する人材を愛でる仕組みがない

• 適正ある人材が萎縮し、活躍し難い・登用されにくい

OIの構想・技術・体制を構築・検証するフェーズ

• 社内の価値観・慣習から脱した考え方や行動様式を取れない

• 社外の技術・組織・リソースを活用するためのネットワークや場、情報へのアンテナが低い

• 事業性・技術の目利きができない

OIを事業化するフェーズ

• 失敗を認めて直すという意思決定ができない

• ミスを恐れず大胆な挑戦をしきれない

人材の課題

OIプロセスを阻害する人材課題

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2.調査の着眼と課題意識

本調査の仮説として、OIプロセスにおける阻害要因を検討のうえ、調査を開始した。

個人のマインドセット

個人の知識・能力

組織方針

基本方針・風土 事業モデル検討OI構想・

提携先の発掘PoC~上市体制構築

OIは傍流・お遊び、というイメージ

OI活動への経営レベルの組織的な支持がない

事業・技術目線からのOIの目標設定ができない

自分がOIをやってもいい、やれる、という機運・モチベーションがない

組織に阿ることなく持っている自己の信念がない

OIの価値、必要性を理解していない

OI活動を評価する仕組みがない

OIを専任でやらず片手

間に兼任・弊任で処理しており、非効率

能力・気質的に適性のない人材が選ばれている

OI適正者が選ばれずに、埋もれている

方針を決めるための意見・視点を社内外から集約することができない

自社の技術的な課題を整理・認識できない

社内の価値観に依存しており、社外情報へのアンテナが低い

海外に弱い。視座が狭く、日本中心

社外の人とのコミュニケーションが苦手

異分野や、最新の技術を理解できない・価値に気づけない

革新的な技術を生かした事業構想を描けない

他社とのマッチングイメージが湧かない

どこに行ったら出会えるのか、イベント情報や人的ネットワークがない

ベンチャーをリスク要因、または大企業に劣るものとして不当に扱う

顧客を想定した粒度で企画ができない

既存概念から脱した独創的・先進的な事業構想ができない

構想をビジネスモデルに落とし込めない

技術的な分解能を持って事業プロセスを描けない

提携すべきパートナー・技術の目利き・評価ができない

プロトタイプを早く作って、壊す、直すという早い意思決定と切り替えができない

失敗・ミスを恐れ、再挑戦してでもやり続けるよりも、ミスのない安易な結論を選択する

技術的なバックアップ・ピボットのプランを想起できない

顧客・ユーザー候補との対話ができない(ニーズ聞き取り・訴求)

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2.調査の着眼と課題意識

“OI人材”を適切に登用し、評価し、活躍できる環境を整えることが必要。

企業の業務・ポジションにおけるミスマッチが生じている。

OI人材の組織におけるポジションのギャップ

OIを担う人材は簡単に見つからない。これから育成をしていく必要がある。(D社:物流)

ひとまず、現業の遂行・改善で成果をあげてきた人材を組織横断で集めたが、思ったような成果が出ない。

(E社:電機メーカー)

「どんな人材をオープンイノベーションの担当とすべきなのかわからない」と、経営者から問われる。(人事コンサルタント)

大企業では、言われたことを忠実にやっているだけで評価される。一方、イノベーターは評価されない。

(A社:サービス業)

人事はどういう人材が適切かわかっていない。(B社:電機メーカー)

失敗を許容する寛容さを醸成しないとOIの推進は難しい。

(C社:OI推進事業者)

GAP

経営者・人事担当者OI担当者

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

人事評価制度の基本的な考え方として、一般に、成果評価、能力評価、情意評価の3要素にて評価が実施される。

職位に応じて重点とされる要素が異なる。

出所)人事評価の教科書(高原暢恭著)等よりNRI作成

人事評価の一般的な考え方

若手 中堅 管理職

評価の中心

評価の中心

評価の中心

部分的に評価

部分的に評価

部分的に評価

(場合によって評価)

(場合によって評価) (場合によって評価)

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

近年は、コンピテンシーマネジメント、プロセス評価、360度評価など、従来の要素に代えて/加えて、新しい人事評価手法の導入が注目されている。

コンピテンシーマネジメント プロセス評価 360度評価

出所)クレイアコンサルティング

上司、同僚、部下など、立場や対象者との関係性が異なる複数の評価者によって、対象者の人物像(実態)を多面的に浮き彫りにする評価手法。

多面評価を活用することで、上司には観察しにくい対象者の特性把握が可能になり、人物評価の信頼性・妥当性を高めることが可能に。

また、複数の評価者の意見を総合することで、対象者にとっての納得感を高められる。

目に見える仕事の結果だけを人事評価の対象にするのではなく、結果に至る途中の見えにくい〝プロセス〟も、評価していくことで、より公正かつ客観的な評価を行おうとするもの。

会社の業績改善や業務効率向上につながるプロセスをまず標準化します。さらに社員が実際行ったプロセスをポイントにする。そしてそれを、人事評価シートに定量的に反映して社員の評価を行っていく。

出所)フリクレア

コンピテンシーとは、実際に成果を上げている人材の実例から抽出された、高業績を生む特定の行動に結びつく、動機、性格、知識を統合的に捉えた能力体系。

そのコンピテンシーの具体性・実践性を活用しながら等級をはじめとした人事制度を設計し運用していく人事マネジメントの手法。

出所)太田隆次 「アメリカを救った人事革命コンピテンシー」クレイアコンサルティング

見積

提案ヒアリングアポ 教育

クレーム

水面下は見えない

見える結果

見えないプロセス

受注

売上

上司から見える姿

部下から見える姿

同僚から見える姿自己イメージ

上司から見える姿が的確であるか確認できる

評価者間の認識ギャップに着目

自己イメージが的確であるか確認できる

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

厚生労働省の人材評価ガイドラインでは、経営戦略職について (A)職務遂行のための基本的能力、(B)技能・技術に関する能力、(C)専門的事項 の3つを評価項目として定義。

出所)厚生労働省 雇用型訓練におけるジョブ・カード

能力ユニット 職 務 遂 行 の た め の 基 準

働く意識と取組(自らの職業意識・勤労観を持ち職務に取り組む能力)

(1) 法令や職場のルール、慣行などを遵守している。

(2) 出勤時間、約束時間などの定刻前に到着している。

(3)上司・先輩などからの業務指示・命令の内容を理解して従っている。

(4) 仕事に対する自身の目的意識や思いを持って、取り組んでいる。

(5) お客様に納得・満足していただけるよう仕事に取り組んでいる。

責任感(社会の一員としての自覚を持って主体的に職務を遂行する能力)

(1)一旦引き受けたことは途中で投げ出さずに、最後までやり遂げている。

(2)上司・先輩の上位者や同僚、お客様などとの約束事は誠実に守っている。

(3)必要な手続きや手間を省くことなく、決められた手順どおり仕事を進めている。

(4)自分が犯した失敗やミスについて、他人に責任を押し付けず自分で受け止めている。

(5)次の課題を見据えながら、手がけている仕事に全力で取り組んでいる。

ビジネスマナー(円滑に職務を遂行するためにマナーの良い対応を行う能力)

(1) 職場において、職務にふさわしい身だしなみを保っている。

(2)職場の上位者や同僚などに対し、日常的な挨拶をきちんと行っている。

(3) 状況に応じて適切な敬語の使い分けをしている。

(4)お客様に対し、礼儀正しい対応(お辞儀、挨拶、言葉遣い)をしている。

(5) 接遇時、訪問時などに基本的なビジネス・マナーを実践している。

コミュニケーション(適切な自己表現・双方向の意思疎通を図る能力)

(1)上司・先輩などの上位者に対し、正確にホウレンソウ(報告・連絡・相談)をしている。

(2) 自分の意見や主張を筋道立てて相手に説明している。

(3)相手の心情に配慮し、適切な態度や言葉遣い、姿勢で依頼や折衝をしている。

(4) 職場の同僚等と本音で話し合える人間関係を構築している。

(5)苦手な上司や同僚とも、仕事上支障がないよう、必要な関係を保っている。

能力ユニット 職 務 遂 行 の た め の 基 準

チームワーク(協調性を発揮して職務を遂行する能力)

(1) 余裕がある場合には、周囲の忙しそうな人の仕事を手伝っている。

(2)チームプレーを行う際には、仲間と仕事や役割を分担して協同で取り組んでいる。

(3)周囲の同僚の立場や状況を考えながら、チームプレーを行っている。

(4)苦手な同僚、考え方の異なる同僚であっても、協力して仕事を進めている。

(5)職場の新人や下位者に対して業務指導や仕事のノウハウ提供をしている。

チャレンジ意欲(行動力・実行力を発揮して職務を遂行する能力)

(1)仕事を効率的に進められるように、作業の工夫や改善に取り組んでいる。

(2) 必要性に気づいたら、人に指摘される前に行動に移している。

(3) よいと思ったことはどんどん上位者に意見を述べている。

(4)未経験の仕事や難しい仕事でも「やらせてほしい」と自ら申し出ている。

(5)新しい仕事に挑戦するため、資格取得や自己啓発などに取り組んでいる。

考える力(向上心・探求心を持って課題を発見しながら職務を遂行する能力)

(1)作業や依頼されたことに対して、完成までの見通しを立てて、とりかかっている。

(2)新しいことに取り組むときには、手順や必要なことを洗い出している。

(3)仕事について工夫や改善を行った内容を再度点検して、さらによいものにしている。

(4)上手くいかない仕事に対しても、原因をつきとめ、再チャレンジしている。

(5)不意の問題やトラブルが発生したときに、解決するための対応をとっている。

(A)職務遂行のための基本的能力

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

厚生労働省の人材評価ガイドラインでは、経営戦略職について (A)職務遂行のための基本的能力、(B)技能・技術に関する能力、(C)専門的事項 の3つを評価項目として定義。

能力ユニット 職 務 遂 行 の た め の 基 準

ビジネス知識の習得

(1)政治経済動向、一般常識などの基本的事項や関係するビジネス分野の知識の習得に取り組んでいる。

(2) 会社の事業領域や組織形態や組織構造について概要を理解している。

(3)会社の経営理念や社是・社訓等の内容を理解し、可能な範囲で実践している。

PCの基本操作

(1) ワープロソフトを用いて基本的な文書を的確に作成している。

(2) 表計算ソフトを用いて基本的な作表やグラフ作成を的確に行っている。

(3)電子メールの活用やインターネットを使った情報検索を支障なく行っている。

企業倫理とコンプライアンス

(1) 日常の職務行動において公私の区別をきちんとつけている

(2)業務上知りえた秘密や情報を正当な理由なく他に開示したり盗用したりしない

(3)担当職務の遂行において従うべき法令上の要請事項を理解し、必ずこれを守っている。

関係者との連携・関係構築

(1) 周囲から質問や助力を求められた場合には快い態度で対応している。

(2) 担当職務と直接関係しない依頼であっても誠実に対応している。

(3) 人的ネットワークを積極的に広げ、周囲に溶け込んでいる。

成果の追求

(1) 困難な状況に直面しても真摯かつ誠実な態度で仕事に取り組んでいる。

(2) 報告書など必要な提出物は期限内に怠りなく提出している。

(3)二つ以上の仕事を抱えている場合、職責を果たすためにまずは何をすべきか適切に判断している。

改善・効率化

(1)書類や机上の整理・整頓・清掃など、効率的に仕事を進めるための環境を整えている。

(2) 一度ミスした事項については、同じ間違いを繰り返さないよう注意している。

(3)自分の裁量の範囲内で工夫しながら仕事を行い、何らかの改善を試みている。

能力ユニット 職 務 遂 行 の た め の 基 準

コンセプト構築

(1)自社の事業に関する自分なりの問題意識や意見、日頃感じること等を上司に提言している。

(2) 自分なりに工夫しながら情報の収集・分析に取り組んでいる。

(3) 複数の情報を相互に関連づけ、的確に整理している。

経営戦略基礎

(1) 経営理念、経営環境、企業の社会的責任等を理解している。

(2)経営戦略と経営計画の関係を理解し、自社の経営戦略の概要を把握している。

(3)経営計画の概要や意義を理解し、中長期計画、年次計画、投資計画等に関する業務の補助を的確に行っている。

(4)経営における外部環境分析の重要性について理解し、資料の収集・整理など関連する補助的業務を適切に行っている。

(5)経営における内部環境(自社能力、自己資源)分析の重要性について理解し、資料の収集・整理など関連する補助的業務を適切に行っている。

出所)厚生労働省 雇用型訓練におけるジョブ・カード

(B)技能・技術に関する能力 (C)専門的事項

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

一方で、“イノベーション人材“の文脈においては、コンピテンシーへの言及が多い。

出所)経済産業省 社会人基礎力http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/

「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を3つの能力/12の能力要素に分解

経済産業省 社会人基礎力 Spencer & Spencer コンピテンシー・ディクショナリー

コンピテンシー(「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」)を6分類/20要素に分解

①達成とアクション

- 達成重視

- 秩序、クオリティー、正確性への関心

- イニシアティブ

- 情報探求

②支援と人的サービス- 対人関係理解

- 顧客サービス重視

③インパクトと影響力

- インパクトと影響力

- 組織の理解

- 関係の構築

④マネジメント・コンピテンシー

- 他の人たちの開発

- 指揮命令

- チームワークと強調

- チーム・リーダーシップ

⑤認知コンピテンシー

- 分析的思考

- 概念化思考

- 技術的/専門的/マネジメント専門能力

⑥個人の効果性

- セルフ・コントロール

- 自己確信

- 柔軟性

- 組織へのコミットメント

①前に踏み出す力(アクション)

- 主体性

- 働きかけ力

- 実行力

②考え抜く力(シンキング)

-課題発見力

- 計画力

- 創造力

③チームで働く力(チームワーク)

- 発信力

- 傾聴力

- 柔軟性

- 状況把握力

- 起立性

- ストレスコントロール力

出所)Spencer & Spencer「コンピテンシー・ディクショナリー」http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

ヤフーでは、密な頻度で上司と部下が対話をする1on1ミーティングを実施し、人材のコンピテンシーの把握と育成を行なっている。

最大の目的は人材育成です。1on1によって学習効果を促進させ、才能と情熱を解き放つことで部下は成長します。

週1回、30分の部下と上司の時間が、組織を強くする。

部下の視点からは、相談や評価をタイムリーに受けることができることがある。

MBO(目標管理制度)では期初に設定した目標を期末に評価するが、1on1を実施していれば、期中に中間評価を得る機会になる。そして、部下と上司がともにゴールを目指すようなイメージを持つことになる。

上司の視点からは、部下について、いろいろなことを知る機会になる。

ヤフーにおける1on1ミーティングの効果

出所)本間浩輔 「ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法」 ダイヤモンド社

出所) 世古詞一 「シリコンバレー式最強の育て方―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―」 かんき出版

「1on1ミーティング」とは、上司(評価者)と部下が、高い頻度で定期的に行う1対1のミーティングのこと。

「コルブの経験学習モデル」を促し、体的な業務の経験を内省し、新しい学びを得て、能動的な行動を促すことに繋げていく。

1on1ミーティングの内容と目的

内省的観察

具体的経験

抽象的概念化

能動的実験

実際の業務をする

1on1で振り返る

1on1で気づきを教訓・学びにする

現場で新たなチャレンジをする

(1on1で計画する)

コルブの経験学習モデル

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

GEでは、人材評価のモデルとして用いていた「ナインブロックス」を廃止。従業員の年次評価を廃止し、人材を相対評価しない「No Ratings」の制度に移行した。

GEでは、人事評価制度における先駆的な企業として、「ナインブロックス」や「バイタリティカーブ」といった制度を運用し、相対評価による人材のポートフォリオ構築や、インセンティブ(報酬)のマネジメントを行なっていた。

2016年より制度を大幅に変更し、人材をレーティングする評価を撤廃。年間を通じた頻繁なコミュニケーションを通じて、上司が部下の成長支援をする仕組みを現場に構築している。

GEにおける人材評価制度の変更

「ナインブロックス」は、人材を達成事項の業績パフォーマンスと、人材の成長バリュ(ポテンシャル)で相対的にクラスタリング。

人材を評価・マネジメントに広く活用されている。

年間を通じた頻繁なコミュニケーションを通じて、上司が部下の成長支援をする仕組みを現場に構築。

「パフォーマンス・マネジメント」から「パフォーマンス・ディベロップメント」への転換を行なった。

出所)日経クロステック 「年次評価」をやめたGEの意図リクルートワークス研究所 Works138

1 Year

【プライオリティ設定タッチポイント】

上司と部下でともに目標を設定

【サマリータッチポイント】

プライオリティへの貢献、インサイトについて年間を通じた総括

【年間を通じた継続的な、タッチポイントの確認】

【360度のフィードバック】

バリュー(ポテンシャル)

業績(パフォーマンス) 高低

バイタリティー・カーブは、管理職が部下を評価し、上位2

割を指導力のある「A」、7割を中間層の「B」、残る1割(ボトム10%)を「C」に位置付ける。

C評価の人には会社を辞めてもらうか、別の部署に配置転換するという仕組み。

評価

高低

人数

A

(20%)

C

(10%)

B

(70%)

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

日産自動車やジョンソン・エンド・ジョンソンといった、事業をグローバル展開する市場のリーディング・カンパニーでは、多様性を尊重する企業風土の醸成を重視している。

企業のCSRではなく、競争力としてのダイバーシティ推進であることを意識している。

日産自動車におけるダイバーシティ推進 J&Jにおけるダイバーシティ推進

出所)日産自動車 グローバル競争に勝つ人づくり ダイバーシティは競争力の源泉(経済産業省 ダイバーシティ経営企業100選 講演資料より)

出所)ジョンソン・エンド・ジョンソンダイバーシティとインクルージョンの推進

ルノーとのアライアンスは日産にとって大きなカルチャーショックであり、本格的にDiversityに取り組むきっかけになった。

経営直下にダイバーシティディベロップメントオフィスを設置し、性別、国籍、ライフスタイル、価値観などの多様性を尊重する経営を推進。

ダイバーシティの推進が日産の競争力の源泉であることを明示。

ジョンソン・エンド・ジョンソングループでは、ダイバーシティとインクルージョン(D&I)を経営の重要課題として位置付けている。

Our People and Value(人材および価値観)」が、ジョンソン・エンド・ジョンソンの財産であり、成長への原動力である。

性別・年齢・民族性・国籍・障害の有無に関わらず、あらゆる多様性を尊重することで豊かな発想や考え方をサポートしていく。

内側の円は性別・障がいの有無・年齢・人種民族・セクシャルオリエンテーションなどの生まれつき身についている違いを表す。

外側の円はワークスタイル・役職・家族状況・業務経験・地域・経験など後天的に形成される違いを表す。

多様性の促進は、組織、プロセス、人事の見える化を促進させる効果がある。

見える化により、異質な「個」が能力を発揮する土壌を生む。

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

インターネット関連事業を多数展開するサイバーエージェントでは、人材の確保と育成のため様々な人事制度改革を実施。新規事業と人材育成を同時に進める取り組みを実施。

若いうちから自分で決めて会社を動かすという決断経験とリーダーシップを重視している。

出所)デジタルネイティブ人材の育て方ダイヤモンド社

人事制度における取り組み事例

ビジョンの明文化

価値観の明文化

新規事業コンテスト「ジギョつく」

社内異動公募制度「キャリチャレ」

家賃補助制度「二駅ルール」

マッサージクーポン配布

部活動支援

懇親会支援

会社全体での表彰、など

オーガニックグロース・フレームワーク

人事制度に関しては「思いついたことをすべてやった」。

社員の定着率を上げるためには時間がかかっても人事を強化するしかないと考え、地道に人材を「採用・育成・活性化」する制度を作ることにした。

新規事業と人材育成を同時に進めるためのフレームワーク。

社内から大量の事業提案を行い、事業化を促す。失敗により撤退したとしても、セカンドチャンスを提供するセーフティネットを設けている。サイクルを回すことを重要視している。

大量の事業提案

経営判断に社員を巻き込む

撤退ルールの明文化

よければ投資を増やす

セカンドチャンスの提供

アイディア 決断 撤退 アイディア

セーフティネット ダメなときは撤退

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

SAPでは、西海岸にイノベーション拠点を設置。企業文化の醸成と人材獲得・育成に力を入れることで、既存の枠にとらわれない新規事業を展開し、大きな成長を実現した。

「デザイン思考」を企業文化として、シリコンバレー拠点に新規事業の研究開発機能を集中。設置から6年(2010-2016)でSAP全体の売上をほぼ倍増、非既存事業(ERPシステム)の売上が6割を占めている。

ドイツの産業構造の中に生まれた創業40年超の老舗企業が、売上高、営業利益、従業員数、時価総額、いずれの経営指標も2倍を超える成長を、6年間という短期に実現している。

SAPシリコンバレーにおける人材育成・評価制度の仕組み

出所)SAPジャパンブログシリコンバレー進出25年のSAPが戦略的に張るスタートアップ支援プログラムの全容

SAP Academy• 従業員の「イノベーションにおける素養」を重視しており、SAP

Academyという企業内大学の運営で新人の素養を高め、イノベーションの再現性を担保しようとしている。

• 2014年より導入しており、20ヶ国以上の大卒入社者がシリコンバレーに集合し、1ヶ月のビジネス研修を1年で3回実施する。

• 内容はMBAコースに近く、ビジネスケーススタディを中心に集中的に学び、イノベーション基礎体力を養っている。

Design Thinking

• デザイナーの発想でイノベーションを推進するフレームワークとされ、シリコンバレーに根付く原理といえる。

• SAPにおいてデザイン思考は「教科書」と位置づけられており、全社員にこの発想を必修させ、自社の中長期戦略の定義、製品開発プロセス、ならびに顧客の問題解決のためのコンサルティングなど、グローバルで幅広く活用を進めている。

SAP.iO イントレプレナーシップ• 社員がデザイン思考を活かしながらイノベーションを起こす場を提供する、社内ベンチャー制度のプログラム。全てのSAP

社員は、所属する組織や業務の区分なく、いつでも自由に新たな事業アイデアを提出することができる。

• Innovation Managementと呼ばれるツールが公開されており、自らのアイデアを提出することに加え、他の同僚が提出したアイデアを参照し、コメントすることが許されている。

SAP Talk&Catalyst

• 定量目標による一斉評価から手法を一新。頻繁にマネージャーと社員が目標を見直す体系がSAP Talk。目標は年度内に何度も変更されるものであり、可変の目標に対するアプローチとプロセスで社員を評価していく。

• 幹部候補の選抜の仕組みであるSAP Catalystでも、短期的な業績評価に基づいていたものを、「イノベーターであるか」という一点で再評価する体系に変更。

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3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

人材のキャリアやスキルをクラウドベースで管理・可視化するタレントマネジメントツール(HRTech)が登場し、人事情報の分析によるマネジメントの高度化が試みられている。

人事情報のマネジメントに関わるITサービス市場は成長領域となっている。

HRTech市場(うち人事情報システムのみ)規模予測(億円)

HRTech市場とは、クラウド上に構築された人事関連システム市場を指す。既存のオンプレミス型システムなどの代替としての市場と、従来なかったソリューションによる市場の双方を含む。※HRTech市場全体では、上記に加え、採用サイト、勤怠管理、労務管理、入退社管理、採用管理、企業情報流通市場が存在している。

97

85

73

62

51

41

32

0

20

40

60

80

100

2020 20222021

+20.5%

2023201920182017

出所)野村総合研究所 IT市場ナビゲータ2018

人事における取り組み事例

人材に関する多様なデータをもとにインサイトを抽出し、経営・マネジメント・社員をサポートしている。

より付加価値の高い人事への変革のために、データ起点で考えていくことは、注力している領域のひとつである。

これまでの人事の経験にデータの視点を加えることで、より個人を理解すること・寄り添うことに繋がる。

人事担当者(製造)

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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4.調査の進め方

本調査事業では、文献調査、国内外ヒアリング調査、有識者による検討会議論によって、OI人材に関する検討を行なった。

文献調査では、国内外の書籍・論文等の文献より、広義にイノベーションを含め、OIに関する人材・組織に関する言及を収集した。

国内・国外について、様々な業界からOI担当者、人事担当者の方々にご協力をいただき、OI

推進における人材・組織の取り組みや課題意識を伺った。

検討会では、産学の有識者に委員として委嘱いただき、座談会形式で議論を実施した。

【1】 文献調査 【2】 ヒアリング調査 【3】 検討会

本調査の全体像

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4.調査の進め方

ヒアリング項目(例)

OIの取り組み状況

企業間連携の状況・成功事例

企業内リソース活用の状況・成功事例

OIを実現するために必用な人材・組織の在り方

OIの推進を実現するために、人材に求められる能力・コンピテンシーについて

OIの推進を実現するために、組織に求められる風土・文化や人事制度について

現状の評価制度と、上記のOIを実現するための評価制度ついて

OIの実現における課題・障壁について

(海外調査の場合)自国と他国ではどのような違いがあるか

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4.調査の進め方

検討会の構成

検討会各会の内容

インプット検討項目

第1回

12月20日(水)16-18時

第2回

2月20日(火)15-17時

• 本調査の全体像

• 文献調査を踏まえた、OI人材要件・課題の仮説

• 検討会#1議論の振り返り

• OI推進に向けたドライビングフォース案

• 経営者・人事担当者へのメッセージ案

• 検討会の目的、進め方の確認

• OI推進における課題と、人材に求められるコンピテンシー

• 組織の人事に制度として浸透させるための課題・工夫

• OI推進にむけたドライビングフォースのブラッシュアップ

• ドライビングフォースを踏まえた企業へのメッセージのブラッシュアップ

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4.調査の進め方

第1回検討会では、OI×人材の視点から、特に課題となる点、重視すべきコンピテンシーを抽出し、具体的に人事の評価・制度として浸透させていくための課題や工夫を議論した。

第1回検討会の検討課題

議論(1)OI推進における課題と、人材に求められるコンピテンシー

議論(2)組織の人事に制度として浸透させるための課題・工夫

OIの推進において、直面した課題にはどのようなものがあったか

OIの推進者、実践者(価値発見人材/価

値実現人材)は、具体的にどのような行動、性格をしている人か

一般的には人材に必要な要素とされながらも、 “OI人材“を考えたときに不要なものはなにか

議論の具体化に向けた問い

組織において、“オープンイノベーション“を促す仕組みにはどのような取り組みがあるか

OIを推進・実践できる若手・中堅人材を登

用、育成、評価するためにはどのような人事制度が必要か

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4.調査の進め方

第2回検討会では、第1回検討会の議論を引き継ぎ、調査アウトプットの活用方法を中心に議論を行った。

第2回検討会の検討課題

議論(1)OI推進にむけたドライビングフォースのブラッシュアップ

議論(2)ドライビングフォースを踏まえた企業へのメッセージのブラッシュアップ

ドライビングフォース案に関して、修正・追加、また表現等に関する違和感はあるか

ドライビングフォースとして入れておくべき、また既存のものをより細かく分類しておくべきという要素はあるか

議論の具体化に向けた問い

企業がドライビングフォースを参考に、OI

の取り組みを進めていくために想定される課題や抵抗にはどのようなものがあるか

実際にOI推進の取り組みを進めるにあた

り、企業がどのようなことを意識・工夫することが求められるか

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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5.OI推進を加速させるドライビングフォース

調査の取りまとめとして、各社の取り組み事例を、「OI推進におけるドライビングフォース」として整理し、OIの実現を加速させる要素として示す。

本調査の目的は、調査結果の活用先として、企業の人事担当者が、OIを推進するために組織・人事制度の改革する際に参考となるもの(どのような人材が必要か、どのような制度が必要か)とすることである。

ヒアリング、検討会の議論を通じ、様々な取り組み事例やあるべき姿の検討が進んでいるが、個社の状況によって取り入れる事項は異なるうえ、各要素をすべて取り組めばOIが必ず成功するというものではない。

調査の通じて得ている情報は、OIに取り組んだ企業の成功要因や、OIの推進に必要な要素として言及されているものであり、同様の取り組みを行うことで、自社のOI推進を加速させる要因であることは間違いないと考えられる。

従って、本調査では、各社の取り組みや議論のポイントを集約しつつ、「OI推進におけるドライビングフォース(推進力)」として整理する。それによって、OIの実現を加速させる要素として企業に示すことを予定している。

ここでは、調査を通じて得た情報を、過度に抽象化してしまうとありきたりな表現に留まってしまうため、匿名性に配慮しつつ、可能な限り具体的な情報を残して取りまとめる。

調査の取りまとめ方針

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5.OI推進を加速させるドライビングフォース

本調査では、ドライビングフォース(DF)を、「企業がOIを実現した”to be”の姿を目指すうえで、“As is“からの変化を起こす鍵となる要因」と定義する。

ドライビングフォースとは、KT法で知られるトリゴー博士とジマーマン博士が戦略的な意思決定において提唱した概念で「企業の未来に対する戦略的ビジョンを決定する最も根本的な因子」とされる。

好川哲人 (2011). 日本実業出版社, 「プロジェクトマネジメントの基本」

不確実な未来を予測し企業の経営戦略を検討するシナリオプランニングの議論にて用いられる。顕在する社会的期待を観察し、その傾向や構造を分析したうえで、その期待を解釈し変化を及ぼす鍵となるものがドライビングフォースである。

科学技術振興機構研究開発戦略センター (2010). 「戦略立案の方法論 」

本調査におけるドライビングフォースの概念

企業の現状(As is)

OI推進を実現した企業の姿(To be)

変化を加速させるドライビングフォース

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5.OI推進を加速させるドライビングフォース

OI推進のドライビングフォース(DF)となる15の要素

人材のスキル・コンピテンシー(10項目)

1. “リーダーシップ”

2. “リベラルアーツ”

3. “新しく出会ったものに気づくことができる力”

4. “事業・研究開発経験”

5. “利他精神・イノベーションへの情熱”

6. “技術目利き力”

7. “シナリオ構築力”

8. “社内力学の理解”

9. “社外力学の理解”

10. “リファレンスを外から得る力“

組織・人事(5項目)

1. “トップの目利き力”

2. “トップの旗振り力”

3. “異文化を経験させ、多様性を許容する土壌”

4. “OI組織を切り離して設置する”

5. “失敗(リスクテイク)を許容する”

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材1

“リーダーシップ”目標に向かってチームを推進することのできる能力と、多様な関係者をまとめ信頼を集める人間性

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OIは内外の関係者を巻き込んで事業を進めていくことが求められる。そこでは、OI担当者は困難に立ち向かっても強力な推進力を発揮し前進する能力と同時に、多様な立場の関係者がいるなかでチームをまとめ同じ方向へ向かうことのできる人間的な魅力が必要になる。

• リーダーシップを重視した採用や育成は既存の人事制度にもあるが、抽象的な要件から具体的なアクションへと落とし込むことが求められる。

• 各種文献においてもリーダーシップの重要性は多数言及されている。

OI担当者(製造)

人事担当者(サービス)

イノベーションは1人のスーパーヒーローがいてもうまくいかない。ある程度の塊感があって、その塊が一つの方向性にむかって一斉に動けることが競争力になる。

互いをリスペクトする精神を持つことも重要。大企業では往々にしてベンチャー企業を下にみがちで、それではWin-Winな関係は築けない。相手をリスペクトするからこそ対等な関係が築け、OIが推進される。

OIはリーダーシップのある人に担当させることが大事。やらせたい人にやらせるという理想論がある。これをオペレーションにまとめることは非常に難しいが、仕組みの中に入れ込んでいくべきだと思う。

自社は必要な情報を探したり、色々な人達をコーディネートしたりする、OIそのものが仕事のようなもの。いかにその機能を発揮できる人材かが、人材選びの肝。

自社のリーダーに求められる要件をまとめたリーダーシップモデルを構築し、それをもとに評価制度、人材育成、採用基準(人材用件)を決めている。

OI推進人材は更に2つに分解して“ジャイアン型”と“軍師型”の2種類があると思う。強烈なリーダーシップで強引に物事を進める人間がジャイアン型で、その裏で社内調整をやる人間が軍師型。

リーダーシップ要件は抽象的なものであるため、一つ一つの要件を具体的な行動として書き下した「キーアクション」を設け、キーアクションの内容を社員に公開している。

キーアクションの達成度は自己と上司で評価を行い、達成度に関わる互いの認識を理解するために面談を実施している。

OI担当者(通信)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

イノベーションリーダーとは、組織のイノベーション能力開発をするために必要な組織内部のプラットフォーム構築を戦略的に行う人材である。(The Open Innovation Revolution:

Essentials, Roadblocks, and Leadership Skills, 2010)

イノベーションが生まれる”しくみ”には、イノベーションを牽引できる創発リーダーとそのリーダーが醸成した創発風土、そして、イノベーションを生み出す創発人材の三つの条件が存在(イノベーションを興す 創発人材をさがせ, 村井啓一, 2011)

人事担当者(サービス)

人事担当者(コンサル)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材2

“リベラルアーツ”専門分野を含めて幅広いテーマで考え、議論することができる力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 社外のネットワークを構築することや新しい着想を得るなど、OIの推進に求められるスキル・コンピテンシーの根幹には、基礎的教養(リベラルアーツ)がある。

• 現段階では社員のリベラルアーツ力を測る定量的な指標はなく、リベラルアーツのあるなしをどう評価していくかは課題である。

• 既存文献では、リベラルアーツを中心的に論じているものは見あたらないが、OIのシーズを生み出すために、専門知識の幅広さや、最新の技術動向に関するアンテナ感度について言及がある。

OI担当者(サービス)

人事担当者(製造)

欧米の経営者と日本の経営者を比べた際に、日本の経営者は基礎的教養(リベラルアーツ)の面で劣っていることがわかった。リベラルアーツの不足したビジネスパーソンとは話していても面白くない。

日本の社会人はリベラルアーツが足りないという問題意識を持っている。一方で人事の観点から、リベラルアーツやフィロソフィーをどう定量化して評価すべきかは課題で、単純にそれらを「もっているか/もっていないか」で判断することも一手である。とはいえ、なかなかリベラルアーツがあるなしの軸で人材を採用することは難しい。社内で身につけさせることも難しいものである。

組織として、基礎的教養を備えた人材を育成することを重視して動き出している。

育成後には経営者になったりOI推進者になってもらいたいと考えている。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

シーズを生み出す上では、研究者、中でも高度な研究能力や豊かな学識を養った博士人材に期待するところが大きく(中略)特に、オープンイノベーション時代においては、より幅広い視点を持って、自らの専門ではない異分野との交流を通じた異分野融合を積極的に進めることが求められる。(平成29年版科学技術白書, 文部科学省, 2017)

「アイデアスカウト」は、組織の研究開発ユニットのアンテナ的存在であり、世界中の新興科学技術や技術開発に関する情報の収集を行う。(Creating Employee Networks that Deliver Open

Innovation, 2011)

人事担当者(製造)

リベラルアーツの議論の中で、特に注目すべきはFacebookへの出資などで著名なシリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストのピーター・ティール氏である。氏はスタンフォード大で哲学を修めており、その著書でも哲学や歴史学を踏まえた深い洞察に満ちた記述が多数みられる。氏をこうした卓越した存在たらしめているのはこの教養というバックボーンであることはもっと注目されてよいと思う。

人事担当者(製造)

OI担当者(通信)

ベンチャー・スタートアップで優秀な人間をみていると、基礎的な能力が一定以上ある上でイノベーティブである人が多い。

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OI担当者(製造)

OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材3

“新しく出会ったものに気づくことができる力”知的好奇心に沿って幅広く情報を収集し、そこから新しいものを見つけ、自ら課題や仕事を設定する力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OIではいまの市場にない新しいものを生み出さなければならない。そのためには既存の業務や課題に縛られず、新たな課題や仕事を設定していく力が求められる。そうしたマインドや姿勢の根底には、常に新たな知識や手法を探求し続ける知的好奇心が必要である。

• 一方で、多くの職務において、社内教育の大きな目的は既存の業務に適合することであり、その中でこうした力は削ぎ落とされていってしまう。知的好奇心を養うには、採用時から一貫した取り組みを行っていくことが望ましい。

• 文献でも、イノベーター人材の用件として、新しいことへの関心の強さに言及している。

人事担当者(製造)

リスクをとって挑戦するということはそれだけ好奇心もあるということ。その意味で「好奇心」、「遊び心」が大切であると考えている。

新しいもの好きな人材はOI推進には適任である。当社では特許や最新の論文のウォッチを心掛けていたり、学会・講演会・展示会等で自らの研究を対外的に発信する人材を評価している。

また、言われたことを言われたとおりやるのではなくて、自分の責任の範囲で、人のせいにしないでやっていける力=自律性が求められる。他者からの教えにのみ頼るのではなく、自分から育つ姿勢をもつことが必要である。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

「社内でイノベーターになりそうな人材とは、新しいことに関心が強く、その上で一定以上の業務経験を持ち、チームのまとめ役を務めることができる人材である。」(実践するオープンイノベーション, トーマツベンチャーサポート, 2017)

OIを行う上で最も重要なコンピテンシーは、課題発見力や課題形成力。そして、市場のニーズや課題は暫定的なものであり、それを所与のものとして受け入れるのではなく、常に疑い続けニーズや課題を再設定する力は、知的好奇心から養われると考えている。

OI担当者(製造)

業務では、既存のオペレーションに適合することが求められてきたため、社内教育によってリフレーミング力(=普通とは違うものの見方をする力)は削ぎ落とされてきている。そのため、こうした力は採用時から一貫して養わなければならないものである。

OIの文脈を踏まえた知的好奇心とは、文化人類学者のように常に異なる他者に自己を同一化せずに理解したいということ。お勉強が好きです、とは違う。他者が持つ文化や価値観に出会ったときに、自分たちの世界観に外部が存在し、それを相対化して冷静に評価できることが重要。OI担当者

(サービス)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材4

“事業・研究開発経験”多様なプロセスからなるOIを実現する土壌となる、既存の事業・研究開発の経験

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• オープンイノベーションを実現する上では、既存事業を理解した上で新たな事業の企画からパートナーの探索、上市にむけたビジネスモデルの構築など様々なプロセスに関与する必要がある。そのため、OI担当者は過去にひと通り事業開発・研究開発を経験していることが望ましい。

• また、オープンイノベーションはリスクを伴う挑戦でもあるため、失敗を恐れず継続的に事業に取り組む上でも研究開発経験は必要なものである。

• 文献でも、シリコンバレーでOIが盛んな要因として、中小企業などで一貫した事業運営経験をもった人材の豊富さに言及している。

OI担当者(製造)

イノベーション戦略を企画する部門では、事業の成功体験をしている人が多い。また、とがっているだけでなく、オペレーションが上手く実現力を有した人間が多い。例えば、ある社員は一度当社を退社しスタートアップで海外企業との交渉・事業化を経験した後、当社に戻り、イノベーションを担当している。

新規事業開発のスキルセットを備えている人材はOI推進に適任だと考える。現在社内でOIを推進している者は社内で新規事業を作ってきた人間が多い傾向がある。

研究開発はリスクをとっている。カットアンドトライをしているので、それをすることに抵抗はない。やり方を考えていって、失敗もあるが、めげずに継続もできる。そのメンタリティがある。そうした研究開発の経験が必要ではないか。提案力だけでなく実践ができないといけない。

OIを担当する人材は、研究開発を少なくとも2つ3つ経験しキャリアが10年以上ある30代中盤以降の人材が好ましい。

OI担当者(製造)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

「(OIが盛んな)シリコンバレーは技術系中小企業が多いため、多くの技術者が中小企業の事業環境を経験している。その中から、技術面のみならず事業運営でも能力を持つ人が、次第にマネージメント・ポジションに就いていく。」(産業技術人材の成長と育成環境に関する調査, 経済産業省未来工学研究所, 2013)

OI担当者(製造)

OI担当者(製造)

研究開発の側面で言うと、思考力・論理力は業務のなかである程度身に付けることができる。実践のなかでどのような経験をしたかがこれらの能力を高める上で大事になる。

OI担当者(IT)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材5

“利他精神・イノベーションへの情熱”社内・社外の仲間を引きつける利他精神。事業や社会課題解決への情熱。

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OIでは社内・社外ネットワークの構築が不可欠であるが、コミュニティに参加し、コミュニティの仲間を引きつけるために最も重要なのは、自分や企業の利益のためではなく(=利他精神)、新規事業そのものや、事業を通じて解決したい社会課題への情熱である。

• 情熱をもった社員をすくい上げる(または選抜する)ためにも、OI担当の候補となる人材が手を挙げられる制度・仕組みの整備が望まれる。

• 文献でも、新規事業創造を構想・実行するフロンティア人材に求められる素養として、利他精神に言及している。

人事担当者(製造)

ネットワーク力を強化する上では、利他精神がもっとも重要。我田引水ばかりをもくろむ人間とはOI以前に付き合いたいと思わない。自分の利益だけを追求せず一旦は奉仕する姿勢が評価される。

特にコーポレート部門で働く人間にとっては利他精神が必要になる。事業部では利他精神の必要性はそこまで高くないが、コーポレート部門やスタッフ部門として働くには利他精神が必要である。

OI人材に特定の専門性は求められないが、事業へのパッション、大義名分、仲間は必須である。新規事業創出したいという強い熱意、人のため・社会のためになにか実現させたいと思う気持ちをもち、自分についてくる仲間をみつける必要がある。そのためには、大義名分を言語化し周りに発信していく能力や、仲間をひきつけるコミュニケーション能力が求められる。

シリコンバレーにおいてもコントリビューションの精神は非常に重要で、利己的なスタンスではコミュニティに参加できない。また、エンジニアリング領域では、たとえばオープンソースへの貢献が自身のスキルアップやネットワーキングに繋がる。

従業員自身の意思で、新しいチャレンジをしたいときに応募する制度がある。

それによって、従業員が自ら手を挙げて環境を変えることができる。

応募によってリストに挙がることが、経営層の目に留まる機会ともなっている。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

「(新規事業創造を構想・実行する)フロンティア人材に求められる素養として、問題発見力(マインド;「義憤」「面白がり」「利他精神」「リスクテイク精神」、スキル;「質問力」「俯瞰力」)とイノベーション実行力(「試行錯誤力」「自己管理力」「商人感覚」「外部の巻き込み」)が挙げられる。」(フロンティア人材研究会報告書, 経済産業省, 2012)

OI担当者(サービス)

OI担当者(製造)

人事担当者(IT)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材6

“技術目利き力”社外の技術やベンチャー企業の技術力・経済価値・自社とのシナジーを評価する能力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 自社のOI戦略に必要な技術やベンチャーを見極めるためには、それらを発見するネットワーク力と合わせて、技術目利き力が必要である。目利きは単なる技術力の高さだけではなく、自社の技術、アセットとのシナジーや、その技術活用により得られる経済的価値も含めた見極めを行う必要がある。

• 技術の見極めには、技術・ビジネス両面に対する理解が必要であるため、優秀な技術を持つ人材をシリコンバレーへ派遣するなど、技術者のビジネス観点育成が求められる。

OI担当者(製造)

自社の技術とシナジーのあるベンチャーや技術を発見する上で、技術目利き力は非常に重要である。ただし、技術の目利きはシリコンバレー等で現地採用した社員だけでは難しく、開発人材の知見も必要。目利きでは、市場ニーズも重要だが、それが本当に技術的に優れたものなのか一次判断することが求められる。

“目利き”の点では、10年後も古びていない技術をおさえることが必要。技術力の高さを評価するだけではなくて、経済的価値を見極める、商才にも近い力が求められる。

OI担当者の適正として、目利き力は大事なポイントである。目利きは、提携先の発見だけでなく、新たな価値発見や、価値実現においても重要である。

当社では、将来有望な人材をシリコンバレーに送り、むこうのエコシステムを実践的に学んでくる取り組み等を行っている。それにより、最新の技術や動向だけでなく、現地のネットワークにふれる機会を提供することができている。

人事担当者(コンサル)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

既存文献で特に重点的に論じられているものは見当たらない。

様々なプロセスで判断を求められる際に、結局つきつめると、技術目利き力が判断を左右することが多い。意思決定者が事業の実施有無を判断するときも、OI担当者の説得力次第で決まる部分も多く、その際に説得の裏付けとなるのは、説得者の熱意や目利き力の高さである。

OI担当者(製造)

OI担当者(大学)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材7

“シナリオ構築力”社内外のイノベーターや価値発見人材の発想・アイデアに共感し、それらを翻訳して社内や社外へと伝える力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 社内外のイノベーターや価値発見人材の発想・アイデアを具体的な事業につなげていくためには、シナリオ構築力が必要になる。シナリオ構築力は、彼らとコミュニケーションを行うための基盤であり、また彼らの発想・アイデアを社内の人間にわかりやすく伝えるためにも必要になる。

• シナリオ構築力を養うには、リーンスタートアップやデザインシンキングなど、アイデアを具現化する手法を学ぶことも有効である。

• 文献でも、イノベーション創出を担う“IT融合人材“には、アイデアを他社に共有できるかたちで構想する力が必要であると論じている。

価値を実現する人材には、バイタリティ、コミュニケーション力、インサイト発掘力が求められる。潜在的なニーズを価値に顕在化する能力が重要。既存の調査をもとにビジネス機会をみつけることはOIの実現ではないと思う。また、OI推進人材、価値発見人材の話に共感できるかが、価値実現人材になれるかの分岐点でもある。

OIを推進する人材にはシナリオ構築力(物語力)が求められる。価値を発見してくる人材の着想をシナリオ化して、価値を実現する人材に渡す能力が重要。ただ一方でこれはセンスに依るところも大きいと感じる。

価値を発見する人材からみて、価値を実現する人材が頼れるようにみえることが重要。そのためには、価値実現人材には傾聴力は当然必要だが、絵をかける力(既存の緻密な事業計画から一個抽象度をあげてビッグピクチャーを描ける力)や、価値発見人材の言っていることを翻訳する力が重要だと思う。

外部と社内の研究者をつなぐコネクターとして、社外の技術を社内へ翻訳し研究者へ伝える能力が必要。翻訳をするためには、新しい技術やトレンドを学ぶ意欲が求められる。

イノベーター人材はベンチャー企業と共通言語で話せる必要があると考えている。その共通言語とは、リーンスタートアップとデザインシンキングの考え方の二つ。当社ではこの二つについて過去3年間徹底的に社員を教育を実施している。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

• 「IT融合人材に特に求められる能力は、「価値実現力」(多様な人材とのダイアログや未来への洞察により、問題の本質や真の価値を発見し、ビジネスや社会に適用できるアイデアとして他の人に共有できる形に構想することができる能力)である」(イノベーション創出を担う「IT融合人材」, ITコーディネータ協会情報処理推進機構, 2014)

従業員はOI活動をする上で自分のアクションがステークホルダーに共感してもらえるものであるかを考えて行動する必要がある。 社外力学を理解し、社内だけの視野で考えるのではなく、社会・マーケットまで視野を広げて考えられているかが重要である。

OI担当者(IT)

OI担当者(製造)

OI担当者(通信)

人事担当者(製造)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材8

“社内力学の理解”OI推進上で関わる企業内のキーパーソンや組織とのネットワークを持ち、彼らと共通言語で話せる力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 関係部署とのネットワーク力と相手の立場に立って説得させる力はOI推進者に必要不可欠なスキルである。

• 社内の課題及びキーパーソンを把握していることで外部からの技術を社内に持ち込みやすくなるため力学の理解は非常に重要である。

• 文献では、技術情報を社内の誰に共有すればよいかを把握しているアイデアコネクターの人材育成にむけた投資を行うべきと言及されている。

OI担当者(サービス)

OI活動で成果がすぐにでないのは当たり前。それをいかに経営層にオーソライズを取るかが大事。社内力学の理解を言い換えると「社内の誰に聞けばわかるか」力であると考える。

関係する部署は多岐に渡るが、OIをやりたい人をきちんと巻き込む、職掌としてやらなければいけないと言われている人を巻き込む、そういったことが大事になる。

社内外の力学を理解することは非常に重要。社内外両面の人材・技術に精通し、社内の課題に対し、スピーディーにキーパーソンをみつけてくる能力が求められている。

研究開発に従事しながら、全社の研究や開発を管理する業務を経験しているエース級人材を各研究所に配置することで、全社をあげてOI推進を行っている。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

アイデアコネクターと呼ばれる社内に幅広いネットワークを構築しており、技術情報を社内に共有する人がOI成功に影響を与える。アイデアコネクターは社内で誰が何をしているのか把握し、外部の情報を内部の人に理解してもらえるよう分かりやすく伝える(Creating Employee Networks that

Deliver Open Innovation, 2011)

人事担当者(製造)

OI担当者(金融)

OI担当者(製造)

ビジネス一般に求められる力かもしれないが、常に相手のインサイトをもつことは非常に重要。特にOIでは、社内で反対派になりかねない法務部等の管理部門のインサイトをもたなければ、社内でOIが立ち行かなくなってしまう。

法務に関する例でいえば、法務の知識を一切もたずに一方的に法務を抵抗勢力扱いしても話は進まない。何のためにコンプライアンスが存在しているのか、その立法趣旨まで踏まえて、法務と議論できる共通言語をもつことが求められる。

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材9

“社外力学の理解”OI推進上で関わる企業外のキーパーソンや組織とのネットワークを持ち、彼らと共通言語で話せる力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 社内の関係者のみでなく、社外の関係者がどのような力学で行動しており、事業を進めるにはどこが要点になっているのかを見極めることは、多様な立場の関係者がともに事業を進めるOIにおいては重要な能力である。

• 担当している事業の関係者のみならず、自身のアクションが社会・マーケットといったマクロな視点でどう評価されるか・共感されるかまで考えたうえで行動できることが求められる。一方で、そのような能力や行動をどのように測り評価するかは議論が十分ではない。

• 既存の文献では、社外力学と明示して記述されているものは見当たらない。

OI担当者(サービス)

意識して、社内力学・社外力学双方の視点をもつようにしている。これは極論すれば、「これを誰に聞けばわかるか」力だと思っている。

そうした力学を理解するためには、正直である、といったある種の精神性が求められる部分でもある。

上場企業である限り、従業員はOI活動をする上で自分のアクションがステークホルダーに共感してもらえるものであるかを考えて行動する必要がある。これはOI人材に求められるある種のコンピテンシーであり、社外力学の理解ともいえる。

自社内だけの視野で考えるのではなく、社会・マーケットまで視野を広げて考えられているかが大事。

大きな組織では、社内力学を理解し、外部の技術と自社の事業をつなげる能力と、外部とのネットワークを構築し、有望なベンチャーを探索してくる能力を一人の人間に同在させることは難しい。しかし、役割を分業して行う場合、互いに相手の立場にたたなければコンフリクトが生じてしまう。そのため、社外ネットワーク担当の人間も頻繁に社内でコミュニケーションをとるなどしながら進めることが望ましい。

社外とのつながり方など社内では見えない部分もあるが、結果的にPJTを推進できる人間は、社外のキーマンとの人脈を広げ、社内でも上層部の了解も取り付けて強力にPJTを進めている。

一方でPJTが停滞しているケースでは、社内外のネットワークが少ないことに原因があるということも多い。

OI担当者(製造)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

既存文献で特に重点的に論じられているものは見当たらない。

人事担当者(製造)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #人材10

“リファレンスを外から得る力”社外の人間とのネットワーク構築を積極的に志向する姿勢と、それによって得た誰に聞けばよいかわかる力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 外部の技術動向や有望なベンチャー企業を発見する上で、ネットワーク力は不可欠であり、そうした社外とのつながりを志向する性格や行動特性が求められる。その結果、社内外のスペシャリストとのコネクションを有しており、誰に聞けばよいかをわかっている存在となることができる。

• ネットワーク構築を支援する上では、シリコンバレー等に拠点を設置し、国内拠点の社員を現地へ派遣するなどの取り組みも有効である。

• 文献でも、オープンイノベーション時代においては、自らの専門ではない異分野との積極的交流が必要であると論じている。

OIを推進する上では、外部の人間と積極的にコミュニケーションをとることを評価する風土を社内に整備する必要がある。受け身な待ちの姿勢で外部の人間の話を聞くことと、自ら外に出て、情報収集することはその存在価値において大きく異なっている。

人と話すことに抵抗がないことはOIに携わる人材の前提条件だと感じる。内向的な性格の人はOIを推進する立場にはあまり適任ではない。

当社では、シリコンバレーにCVC室を設置し、事業部や研究開発部門から公募・引き抜きを行った人間をCVC室に3年間派遣し、現地のベンチャー企業とのネットワーク構築を支援している。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

「特に、オープンイノベーション時代においては、より幅広い視点を持って、自らの専門ではない異分野との交流を通じた異分野融合を積極的に進めることが求められる。」(平成29年版科学技術白書, 文部科学省, 2017)

OIを推進する上では、外部の人間と積極的にコミュニケーションをとることを評価する風土を社内に整備する必要がある。受け身で外部の人間の話を聞くことと、自分から外に出て、話をすることは根本的に異なっている。

OIの必要用件として、外部におけるネットワークの広さがあげられる。転職してきた人間や、商社で事業開発経験のある人材など、ネットワークの広さに強みをもつ人間を積極的に登用していくことも求められている。

当社ではエンジニアであっても技術トレンドを掴むために積極的に学会へ出席したり、スタートアップ企業とコミュニケーションを行っており、社外の人間と自由に交流できる風土が醸成されている。

OI担当者(製造)

OI担当者(繊維)

人事担当者(コンサル)

OI担当者(製造)

OI担当者(製造)

OI担当者(サービス)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #組織1

“トップの目利き力”OIを担当するにあたり、素質のある人材を、社内外から目利きして登用する能力

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OI担当者を選ぶトップの人材(経営層)には、例えば“パッションの強さ”など、OI人材となるべく人材を選ぶ基準を持ち、人材を見極める力が必要である。また、そのためには、自身のデジタルリテラシー等、スキルや情報感度を高く有していることが求められる。

• 人事担当者には、OI担当の候補となる人材が手を挙げられる制度等、人材を拾う仕組みの整備が望まれる。

• 既存文献においては、特に重点的に論じられているものは見当たらない。

人事担当者(製造)

今のOI担当者は、自分が決めた。やりたい人にやらせることが大切。人材の爆発力をうまくコントロールして、構造化し、推進力に変えるのが経営者の仕事である。

自社でOIに適合する人材を育成する仕組みがあるわけではなかった。ある種、いい加減な人事で、権限のある人が制度を無視して人を引っ張るということである。

ただし、そういう文化・カルチャーがあって、然るべき人材に場を提供し、現在のOIへの取り組みが実現したという面はある。

経営層に、デジタルの世界におけるイノベーション×商売のリテラシーのある人がいないと、組織は変わらない。北米の金融業界は、IT企業からシニアバイスプレジデントを連れてくるようなことをしている。

登用したOI人材は、目利きをした本部長によって直接的に評価をしている。OI活動は、権限の許されている人が定性的に評価してあげるほかないと考えている。会社の中のエンジェル投資家という位置付けである。

OIを担ってもらうための“この人が良い”と選ぶ基準は、コミュニケーション力、地頭、英語力などをみて、応答のときの感覚や、パッションがあるかどうかという点。

従業員自身の意思で、新しいチャレンジをしたいときに応募する制度がある。

それによって、従業員が自ら手を挙げて環境を変えることができる。

応募によってリストに挙がることが、経営層の目に留まる機会ともなっている。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

既存文献で特に重点的に論じられているものは見当たらない。

人事担当者(コンサル)

OI担当者(金融)

人事担当者(製造)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #組織2

“トップの旗振り力”「イノベーション活動を全社として積極的に行う」という経営トップの強いメッセージ発信とアクション

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OI活動は短期的成果に結びつきにくく、かつリスクも大きいため、社内での理解が得られにくい活動である。そのため、トップ層の旗振りと支持を明確に発信し、可能であれば、OI活動を既存事業と分離して運営することが望ましい。

• 社内にOIの重要性を認知させる意味で、トップ層(役員)の評価制度にイノベーション活動の実施有無を盛り込むことは有効である。

• 文献でも、企業内にOIを促進するマインド・風土を醸成するための要素として、経営層の理解・実行力に言及している。

人事担当者(製造)

役員がイノベーティブなことをやらなければ評価されないという事実を従業員に示すことで、部長以下のイノベーション活動に対する士気を高めている。改革は上から行わなければならない。

ミドルマネジメントの壁は大きく、数値目標で管理している経理系役員はOI活動は経営貢献がないという認識を持つ。一方で更に上の経営層からは理解されており、稼ぐ部分と種を仕込む部分の2階建てでやることが社内の理解を得る上では重要である。

トップのコミットメントと、それがトップダウンで効きやすい指揮系統を確立することで、既存事業の柵なくOI活動に取り組むことができる。

OIの実践には経営判断が必要。ハイリスク・ハイリターン。これを中間管理職がやるのは難しい。

当社では、まず役員の評価制度を変え、役員自身がどのようなイノベーティブな活動をしているのか報告させる制度をもうけた。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

「オープン・イノベーションの促進に向けては、末端まで含めて企業内のマインド醸成が必要であるが、企業内に浸透させるためには、経営層の理解・実行力が重要」(企業の研究開発投資性向に関する調査, 経済産業省・未来工学研究所, 2016)

当社では、トップ層が旗振り役となり対外的に自社のOI活動について積極的に発信している。それにより、社員のOI認知度も高まり、またOI関連事業に予算もつきやすいため、社員がOI事業に関わりやすい環境も整備されている。

OI担当者(繊維)

人事担当者(製造)

OI担当者(IT)

OI担当者(製造)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #組織3

“異文化を経験させ、多様性を許容する土壌”社員に様々なバッググラウンドの人と関わる経験をさせ、他者を巻き込むマネジメント力を身につけさせる仕組み

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 異文化や多様性を受け入れる組織体制づくりや、外部から人材を採り入れることでイノベーションが生まれやすくなる。

• 異文化や多様性を受け入れることはOIに関係なく社員として当たり前に持つべき能力であり、その能力をつけさせるための経験を積ませるべき。

• 多様性を受け入れることは企業のイノベーション創出を左右する。

人事担当者(サービス)

OIが成功した要因として、自身が様々な領域の事業を経験され、多様なバックグラウンドをもっていたことが好影響した。もともと自社の成り立ちが2社の合併によるものであったことから、異文化や多様性を許容できる土壌があるのではないかと思う。

OI推進を行う・行わないにかかわらず、他者を巻き込んで新しい事業価値創造を行う能力は日々のビジネスで求められるものである、そのため、多様性がある環境やOIを受容する企業文化を社員に提供できているかがOI人材育成上の肝となる。

OI組織の人材は外部から採用し、本社と関わりのないところで革新的なことをトライさせようとしている。

個人の属性(性別、年齢、国籍、LGBT等)にとらわれず、個人の業務に関連する能力が評価される組織風土があれば、組織は多様性豊かな環境になっていき、結果としてイノベーションに繋がりやすくなる。多様性が許容されない環境においてはイノベーションは生まれにくい。

教育も重要なファクター。どんな人と出会ってきたか(親、友人など)が重要ではないか。同じ部門で閉じた人間よりは、ローテーションをしている人間のほうが、自分のやっていることが何なのか考え、説明する能力も培われてくるのではないか。

国内外への出向や海外駐在など、違う文化をもつ社外の人たちとの仕事の進め方を考える経験を積むことを必須としている。これにより、マネジメント能力や他者を巻き込む力を身に着けさせている。

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

企業のイノベーション能力は、信頼でき、文化的に敏感であり、そして多様で持続可能な関係を相手を築く力次第である(Open Innovation-Unveiling the Power of the

Human Element, 2017)

OI担当者(製造)

OI担当者(金融)

人事担当者(サービス)

人事担当者(サービス)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #組織4

“OI組織を切り離して設置する”既存事業からの財務的、物理的に切り離して新規事業を行う

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• OI組織を既存の事業から組織構造的に切り離すことで、既存事業とのしがらみなくOI活動を推進することが可能となる。日本と米国など、物理的に距離を離して設置することで、既存の事業との関連性を敢えて切り離す取り組みを行っている企業もある。

• 人事制度においては、既存の収益性・KPI達成を求められないようにすることや、OIの業務に従事する社員を既存の評価の仕組みから分けて評価するほうがよいという見解もある。※ただし自社内で人材の評価手法を変えることは人事制度の大きな変更となり、実践は簡単ではない。

• 既存文献で特に重点的に論じられているものは見当たらない。

OI担当者(金融)

OI担当者(IT)

OIの取り組みを行うにあたり、本社の一組織とせずに、OIに特化した子会社を設立。本社とのかかわりの無いところに置くことで革新的なことにトライさせようとしている。

実行はできていないが、OIを促す仕組みとしてOI組織を別会社にし、既存の収益性・KPI達成を求められないようにしたほうがいいとも考える。

既存事業で功績を上げてきたマネジメント層はなかなか新規事業をポジティブに評価してくれない。新しい文化のなかで新規創造を行う目的で米国西海岸に拠点を設け、本社から離れた場所で研究活動を行った結果、多くのイノベーションを生み出すことができた。

ハイリスクハイリターンの事業を中間管理職が実行するのは難しい。 OI組織はコーポレート直下に置くべきである。そのうえで、個々の事業体すなわちビジネスユニットごとにOIの担当者を置くことで、実行性が高まる。

既存事業と新規事業を分けることに注力した。

国をまたいで場所を分けて、既存事業は本国に、新規事業はシリコンバレーに置き、既存事業は社長の管轄下、新規事業は会長の管轄下とマネジメントする人を分けた。

OI担当者(研究機関)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

既存文献で特に重点的に論じられているものは見当たらない。

人事担当者(製造)

OI担当者(製造)

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OI推進のドライビングフォースとなる15の要素 #組織5

“失敗(リスクテイク)を許容する”減点法による短期的な評価ではなく、失敗を生かして再チャレンジを促す人事制度の仕組み

OI担当者・人事担当者へのヒアリングにおける言及

• 失敗や新しいことへチャレンジした経験は、多数の困難に直面するOIの推進において大きく役立つ力である。組織としては、失敗を許容し、減点評価とならないようにしたい。失敗をしたとしても、失敗から学び、再び新しいチャレンジに取り組める、それを促すような仕組みが望ましい。

• 短期的な成果だけで評価するだけでなく、長期的な成果やどれくらい新しいことに取り組んでいるかといった指標も組み込んだ評価を検討したい。

• 既存文献でも、企業のトップは、失敗はイノベーションに不可欠であるということを理解し従業員の失敗を受け入れることが必要と記述されている。

OI担当者(IT)

OI担当者(IT)

失敗することや、挑戦することを評価する項目をつくってほしい。ただ“挑戦する能力”と言っても平べったく捉えられてしまうため、具体的に失敗とは何で挑戦とは何か分かり易く評価できるようにユースケースを項目に盛り込むことなどを検討してはどうか。

OI担当者は毎年の評価に向かない部分があると考えるので、一定期間見て評価をし、取組に失敗したとしてもなぜ失敗したのか人事として理解し評価をしたいと考えている。ステークホルダーからはROE等の短期的な成果を求められがちで、失敗が許容できずOI担当者にまで悪影響が及んでしまっている。

トップダウンでOI活動が推奨されていることもあり、失敗を許容する企業文化は根付いている。そのため、少しの失敗で人事評価が下がってしまうということはない。

特に米国では、企業をしたが事業がうまくいかず解散した経験を評価するというように、失敗をしていることがキャリアのプラスに働くようになっている。

OIを進めるためには、新規事業の従事する人がある程度守られ且つ成長できるような環境をつくらないといけない。OIは既存事業とは全く別の活動であるため、R&Dでの失敗を受け入れる等イノベーション事業として評価方法を別に設けるべき。

新規事業部隊のKPIは売上ではなく、どれだけチャレンジングなことをしたのか、新しいことに注目したのかを評価項目にしている。

特に、事業の黎明期には、新規事業部隊は既存事業とのシナジーやコラボレーションを考えずに取り組むようにする。ある程度定着した新規事業は既存事業とシナジーを持たせて相乗効果が生まれるよう、本社に戻して開発を進める。

OI担当者(研究機関)

OI人材の発掘・育成に向けた取り組み例

(参考)既存文献による言及

OI成功には、情熱を持ってアイデアを収益性の高い商品に変えてくれる率直で革新的、企業のリスクをとるイノベーションリーダーとイントレプレナーが必要である(The Open

Innovation Revolution: Essentials, Roadblocks, and

Leadership Skills, 2010)

失敗が学びの機会だと捉え、その努力・意欲を企業のトップが理解することが必要である。イノベーションを追求する企業にとって、失敗は日常茶飯事のことであり、トップが失敗を受け入れるかどうかは将来のプロジェクトに大きな影響を与える(The Open Innovation Revolution: Essentials, Roadblocks,

and Leadership Skills, 2010)人事担当者(製造)

OI担当者(製造)

OI担当者(製造)

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

DFとしてOI推進に向けた要素を整理する一方で、企業では実際にOI推進に向けた取り組みを実行するにあたり、想定される困難や課題は多々生じると考えられる。

様々な人材スキル・コンピテンシーが求められるが、

すべてを兼ね備えるスーパーマンのような人材はどこにいるのだろうか?

OIを推進するにあたり、

経営者としてまずすべきことは何だろうか?

人材の評価や組織のありかたといった会社の制度を

変えるとすれば、

どのようなこと考えていくのが良いだろうか?

OIに対する経営者・人事担当者の疑問・懸念

OI推進を検討する人事担当者

OI推進を検討する経営者

ドライビングフォースそれぞれは確かにあったら良いものだと思うが、自社ではどれから始めたら良いのだろうか?

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6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

DFを踏まえて実際に経営者や人事担当者がOIを加速させる取り組みを始めようとするにあたり、より留意すべきことや導入の工夫を整理した。

企業の経営者・人事担当者の視点から、社内にOIの導入を進めるうえで意識することが望ましいと考えられる要素を整理した。

OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

「柔軟性のある評価の仕組みを整えよう」

「“育てることのできるスキル・コンピテンシー“に注目してOI人材を育成しよう」

「人材をポートフォリオとして捉え、ユニット単位でOI推進にむけたDFを満たそう」

「OIを生み出す組織に意思決定の権限を移譲しよう」

2

5

4

6

育成

評価

スキル

組織

「自社の状況に応じて、OI推進フローにおけるDFの取り組みを始めよう」

3

実行

人事

1 「OIを推進する文化・風土を醸成しよう」経営

経営

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #1

OIを推進する文化・風土を醸成しよう

人材のスキル、コンピテンシー10項目、組織・人事5項目のドライビングフォースでは、OIを加速させる具体的な要素として記述しているが、本質的に必要なのはOIを推進しようという文化・風土を、組織全体で醸成することにある。

例えば、OI組織を切り離して設置する(DF組織#4)とあるが、単にOI担当の組織を設けるのみでは、事業部からは「OI

はOI担当で行うものであるため自分たちとは関係ない」、「OI担当からなにか情報が落ちてくるはず」というマインドになってしまう場合がある。

文化・風土は企業・組織によって様々であり、そのなかでどのようにメッセージを発し、文化・風土を養成していくかを考えていく必要がある。

DFでは、まず「トップの目利き」(DF組織#1)・「旗振り」(DF組織#2)によってメッセージを発し、「異文化を経験させ、多様性を許容する土壌」(DF組織#3)を養う。そのうえで、運用として「OI組織を切り離して設置する」(DF組織#4)ことや、「失敗を許容する」(DF組織#5)ことでOIを推進していきつつ、文化・風土を涵養していくことを想定している。

重要なことはトップがOIを推進するというメッセージを発すること。

トップのメッセージは企業の文化を作ることにつながる。

OI担当者(サービス)

人事担当者(製造)

現場でOIに取り組もうというとき、外と一緒に組もうとすることで手続きなど面倒になる。なかなか一歩を踏み出せないというのが現実の壁としてはある。

それを越えてもOIを実現したい、すなわち、既存事業における危機感や、事業を新しく実現したいという強い情熱、使命感といったものが必要。

人材にこうしたマインドが必要であると同時に、組織そのものでも同様のマインドが必要である。

OIの推進と組織の文化・風土に関する言及

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #2

自社の状況に応じて、OI推進フローにおけるDFの取り組みを始めよう

各DFそれぞれは、各社の状況によって特に重点となるものは異なると想定される。これからOIを推進したいと考える企業もあれば、既にOIの取り組みを進めており、具体的な成果に繋げるところに苦慮している企業もある。

ひとつの整理の案ではあるが、OI推進フローに従って人材・組織のDFをマッピングする。これからOIの取り組みを始めようとする企業ではフェーズ1のDFをもとに重点的に検討し、既にOIの取り組みがある企業ではフェーズ2, 3のDFを参考に検討を進めていくことを考えていく。

OI推進フローと人材・組織によるマッピング

基本方針・風土 事業モデル検討OI構想・

提携先の発掘PoC~上市体制構築

フェーズ1 フェーズ2 フェーズ3

人材

組織

“リーダーシップ(Ph.1-2)”“新しく出会ったものに気づくことができる力”

“トップの目利き力”“トップの旗振り力”

“異文化を経験させ、多様性を許容する土壌”“OI組織を切り離して設置する”

“事業・研究開発経験”“技術目利き力”“シナリオ構築力”

“リファレンスを外から得る力”“利他精神・イノベーションへの情熱(Ph.2-3)”

“リベラルアーツ(Ph.2-3)”

“社内力学の理解”“社外力学の理解”

“失敗(リスクテイク)を許容する(Ph.2-3)”

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #3

“育てることのできるスキル・コンピテンシー“に注目してOI人材を育成しよう

人材に求められるスキル・コンピテンシーは幅広い要素があるが、先天的に必要な素質と、後天的に付与することができるスキルセットがある。

前者の「育てられないスキル」は採用・登用でカバーすることを考え、後者の「育てることができるスキル」は社内における配置や研修等の経験の付与によって養う。社内の育成を考えるうえでは、「育てることができるスキルセット」に着目していく。

OI人材に求められるスキル・コンピテンシーと企業における育て方(例)

OI人材に求められるDF 企業における育て方(例)

先天的に求められる素質(採用において検討すべき要素)

DF3:新しく出会ったものに気づくことができる力

• (個人の興味関心に依存する部分が大きい)

DF5:利他精神・イノベーションへの情熱 • (個人の思想・特性に依存する部分が大きい)

育てることができるスキル(人材開発において検討すべき要素)

DF1:リーダーシップ • PJTマネジメントの経験を蓄積させる

DF2:リベラルアーツ • 留学や研修によって多様な経験を蓄積させる

DF4:事業・研究開発経験 • 技術開発部門への配置や、R&Dの経験を蓄積させる

DF6:技術目利き力 • 技術開発部門への配置や、R&Dの経験を蓄積させる

DF7:シナリオ構築力 • プレゼンテーション・ネゴシエーションの経験を蓄積させる

DF8:社内力学の理解 • 社内の様々な部署との連携を経験させる

DF9:社外力学の理解 • 積極的に外部機関との関係を持つような機会に参加を促す

DF10:リファレンスを外から得る力 • 業務内外のネットワーキングの機会を積極的に設ける

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #4

人材をポートフォリオとして捉え、ユニット単位でOI推進にむけたDFを満たそう

OI人材に求められるスキル・コンピテンシーは、備えていれば備えているほどよいのはその通りではあるが、すべてを兼ね備えたスーパーマンが必ずしも組織にいるわけではない。

OI人材の要件をPJTチームや担当部署における人材ポートフォリオとして考え、組織全体でそのスキル・コンピテンシーを満たすことを考えていくことが望ましい。

必ずしも既存の部署で縦割る必要はなく、業務を通じた目的を同じにする「ユニット」単位で考えればよい。

そのためには、組織がどのような人材が必要なのかを明確にしていることと、人材がどのようなキャリア、スキル、コンピテンシーを持っているのかを把握し、組織全体の設計に反映させる必要がある。

OI人材のDFはひとつの目安ではあるが、個社でどのようなスキル・コンピテンシーが必要な項目なのかという設計が求められる。

人材の登用に関する考え方

ポートフォリオを考えるには、人材そのものが多様性を持つことが求められる。

ジェネラリスト型の人材評価ではなく、特定の能力・スキルに優れた人材を発見・登用する仕組みが必要になる。

ジェネラリスト型単一軸評価モデル

スペシャリスト型多軸評価モデル

人材ポートフォリオのイメージ

目的を同じにするユニット≒PJTチーム(必ずしも部署単位である必要はない)

リーダーシップ利他精神・イノベーションへの情熱

技術目利き力研究開発経験

社内外力学リファレンスを外から得る力

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #5

柔軟性のある評価の仕組みを整えよう

OIは手段であり、その効果は事業への貢献すなわち売上や利益(アウトカム)で評価されるべきという前提がある。

一方で、他者を巻き込み事業を実現するOIのプロセスは、既存事業とは違った新しいアプローチを必要とし、失敗のリスクもあるうえで、その成果が現れるまでには長期の時間を有する場合が多い。

しかも、OI担当者を別の指標で評価するという形(=人事評価におけるOI人材の評価)を制度として導入することは難しい。

人材の評価においては、OIに関するコンピテンシー等を人事考査の観点から査定し、マネージャー(評価者)が、人材のパフォーマンス(アウトプット)を評価をし、組織の裁量の中で処遇に反映させることからまず取り組むことを考えたい。

その場合、マネージャー(評価者)がOIに関する理解を持っていること、また組織全体でOIを推進する風土・文化が必要。

組織の裁量の中で評価ができない場合は、人材評価の制度を設けることから始めることが求められる。

OI推進における評価のありかたに関する言及

OI人材の評価方法 評価を実現する仕組み(例)

• 「新しいことに取り組んだか」といったOIのスキル・コンピテンシーに繋がる要素を組織として把握し評価する。(アウトプットを中心に評価する)

• 例えば、頻度の高い1on1ミーティングなど、マ

ネージャー(評価者)との相互フィードバックの機会を設けるといった取り組みが挙げられる。

柔軟性のある人材評価の仕組みが制度としてある場合

• マネージャー(評価者)の裁量によって、人材の評価・処遇にある程度の差をつけることができる。

• ただし、トップのコミットメントに加え、マネージャー(評価者)が、OIに関する取り組みを前向きに捉え推進する理解者であることが必要。

• 人材の評価において、ある程度の運用の柔軟性が組織のマネージャー(評価者)に与えられること

• 組織全体でOIを推進する風土・文化を持つこと。そのためにはトップの旗振り(DF:組織#2)が重要になる。

柔軟性のある人材評価の仕組みが制度としてない場合

• - (アウトカムを中心で評価する)

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OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ #6

OIを生み出す組織に意思決定の権限を移譲しよう

OIを生み出すための具体的な工夫として、OI組織を切り離して設置する(DF:組織#4)、失敗(リスクテイク)を許容する(DF:組織#5)といった組織・人事のDFを挙げているが、組織やルールがあれば良いということではない。人材のスキル・コンピテンシーで挙げている10のDFについて、そうした人材が活躍できる環境を組織が作ることが重要になる。

“トップの目利き力(DF:組織#1)、トップの旗振り力(DF:組織#2)”は、トップのコミットメントの重要性を示すものであるが、それを踏まえた上で、現場のOI組織が意思決定に関する権限を持ち、柔軟に人材・組織を運用できることが求められる。

OIの風土を作るためにはトップダウンのコミットメントは重要であるが、予算をはじめとする意思決定権をOIの現場が持ち、取り組みが進むことで手段としてのOIが組織に浸透する。

OI推進における組織のありかたに関する言及

人事担当者(製造)

人事担当者(IT)

OIをトップダウンに落として実施するようにするというのではなく、権限委譲をするというのが本質的である。

自社では現場に権限(具体的には予算の執行権など)の移譲を実行している。意思決定のスピードがはやまることで、ビジネスは加速していっている。

OI浸透度とOI推進体制の関係

組織におけるOIの浸透度高

OI推進に向けたコミットメント

手段としてのOIの選択

経営層

現場のビジネス

OI組織への権限移譲

自然発生的なOI

(ボトムアップOIの実現)OI担当者(製造)

OIは、「トップダウンで遂行させることが大事」というより、「トップの理解が大事」ということである。意思決定構造を変えていくことが必要である。

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1.調査の背景

2.調査の着眼と課題意識

3.現行の人事評価制度と人材マネジメントにおける取り組み事例

4.調査の進め方

5.OI推進を加速させるドライビングフォース

6.OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

7.調査のまとめ

目次

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7.調査のまとめ

本調査では、OI人材に求められるスキル・コンピテンシーと、それを支える組織の取り組みをドライビングフォースとして整理した。

人材のスキル・コンピテンシー(10項目)

1. “リーダーシップ”

2. “リベラルアーツ”

3. “新しく出会ったものに気づくことができる力”

4. “事業・研究開発経験”

5. “利他精神・イノベーションへの情熱”

6. “技術目利き力”

7. “シナリオ構築力”

8. “社内力学の理解”

9. “社外力学の理解”

10. “リファレンスを外から得る力“

組織・人事(5項目)

1. “トップの目利き力”

2. “トップの旗振り力”

3. “異文化を経験させ、多様性を許容する土壌”

4. “OI組織を切り離して設置する”

5. “失敗(リスクテイク)を許容する”

OI推進におけるドライビングフォース一覧

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7.調査のまとめ

さらに、ドライビングフォースの企業への導入において想定される懸念・疑問を踏まえ、具体的に導入のTipsとなる形で、経営者・人事担当者へのメッセージをまとめた。

OI推進に向けた経営者・人事担当者へのメッセージ

「柔軟性のある評価の仕組みを整えよう」

「“育てることのできるスキル・コンピテンシー“に注目してOI人材を育成しよう」

「人材をポートフォリオとして捉え、ユニット単位でOI推進にむけたDFを満たそう」

「OIを生み出す組織に意思決定の権限を移譲しよう」

2

5

4

6

育成

評価

スキル

組織

「自社の状況に応じて、OI推進フローにおけるDFの取り組みを始めよう」

3

実行

人事

1 「OIを推進する文化・風土を醸成しよう」経営

経営

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