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財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 産 学 官 共 同 研 究 開 発 事 業 研究成果報告書 ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術 ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術 ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術 ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術 の開発 の開発 の開発 の開発 (平成22年度~平成23年度)

ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

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Page 1: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

財団法人福岡県産業・科学技術振興財団

産 学 官 共 同 研 究 開 発 事 業

研究成果報告書

ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術

の開発の開発の開発の開発

(平成22年度~平成23年度)

Page 2: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

1

目 次

【研究総括】

ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術の開発 ・・・・・・2

研究総括責任者 アスカコーポレーション株式会社 森 浩一

【研究報告】

1. めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 ・・・・・・5

福岡県工業技術センター機械電子研究所 古賀弘毅

2. 回収した水酸化ニッケルからのめっき液調製技術の確立 ・・・・・・10

アスカコーポレーション株式会社 森 浩一

3. ニッケル回収・再生装置の試作 ・・・・・・14

九州エンジニアリング株式会社 砂場 徹

4. ニッケルめっきラインでの実証試験 ・・・・・・19

アスカコーポレーション株式会社 森 浩一

【成果実績】 ・・・・・・24

Page 3: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

2

研究総括研究総括研究総括研究総括

アスカコーポレーション株式会社 開発チーム

リーダー 森 浩一

1 研究開発の背景および目的

めっき工程では必ず水洗工程が存在し、めっき処理後に被めっき物表面などに付着した

めっき液などを洗い流す。この時、ニッケルなど重金属を含んだ排水が発生する。これら

排水は工場内の排水処理施設において重金属を中和沈殿により除去して無害化したのち、

河川や下水道などに放水される。除去された重金属はめっきスラッジと呼ばれ、そのほと

んどが産廃処理されている。一般にめっきでは投入金属のうち約3割が排水に流れると言

われており、多くの有用金属が廃棄処理されている。

一方で、産業廃棄物の最終処分場数

は,年々減り続けている。関東圏など

では域外への産廃流出が問題となって

いる。近年,廃棄物発生量が減少して

いることから残余年数こそ横ばいであ

るが,確実に残余容量は減少を続けて

おり,新規の開設もほとんどないこと

から,将来の処分場枯渇が懸念されて

いる。

こうした処分場不足を受けて産廃受

入に関する基準が厳しくなり,めっき

スラッジの処理コストも高騰している。

めっきスラッジには多くの重金属が含

まれることから,中間処理に多くのコ

ストがかかるためと考えられる。九州

めっき工業組合の2008年の調査で

は平均処理コストは1トン当たり約3

万8千円に上り,年間処理コストは1

社平均で約265万円であった。こう

したコスト上昇は今後も続くと見られ、

めっき事業者の大きな経営負担となる

ことが予想される。

ニッケルはレアメタルに分類され,

資源の確保が極めて重要な金属のひとつである。日本はニッケル消費量で中国に次いで第

二位であり,大量のニッケルを消費している。一方,国際的な資源獲得競争は熾烈を極め,

投機による価格の乱高下もあり,安定供給が非常に困難となってきている。そうした中で,

リサイクルによるニッケルの確保の重要性が増している。

めっき廃棄物中のニッケルは、かねてよりリサイクルニーズが高く、様々な取り組みが

図 1 めっき工 場 における排 水 の流 れ

図 2 めっきスラッジ処 理 コストの推 移

(九 州 めっき工 業 組 合 データを基 に作 成 )

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3

行われてきたが、いずれも製錬原料にリサイクルすることを目的としたものであった。こ

れらの取り組みの場合、非鉄製錬業者が最終的な買い取り条件を決定することから、めっ

き事業者の費用対効果も非鉄製錬業者の決定に大きく影響を受ける。現在のところ、ニッ

ケルを含んだスラッジの買い取り価格は安価であり、かつ不純物に関する制限も多く、め

っき事業者が利益を得ることは困難な場合が多い。

本研究では、ニッケルめっき工程で排出されるニッケルめっき排水から有用なニッケル

成分を分離・回収し,工場内にて再びめっき原料としてリサイクルするための技術開発,

及び低コストかつコンパクトなリサイクル装置の開発を行う。これによりめっき事業者の

原材料コストの削減に寄与するとともに,産業廃棄物(めっきスラッジ)の削減をも実現

する。

2 研究開発体制

アスカコーポレーション株式会社 森浩一を研究統括責任者として、下記「産」「官」の

研究体制で本研究開発事業を実施した。

研究総括責任者 アスカコーポレーション株式会社 森 浩一

〈産〉 アスカコーポレーション株式会社 研究代表者:リーダー 森 浩一

九州エンジニアリング株式会社 研究代表者:取締役 砂場 徹

〈官〉 福岡県工業技術センター機械電子研究所 研究代表者:専門研究員 古賀 弘毅

3 研究成果の概要

ニッケルめっき排水の分別による中和沈殿法を用いたニッケル回収技術、および pH 制御

による回収ニッケルの再溶解技術により、工場内でニッケルめっき排水から不純物を極力

低減しためっき液に再生する技術を開発した。本技術により再生しためっき液は所定のニ

ッケル濃度を満足し、含有する不純物濃度は現行ニッケルめっき液の管理基準以下であっ

図 3 開 発しようとする再 資 源 化 モデル

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た。また、再生しためっき液を用いて製作しためっき品について評価試験を行ったところ、

現行品と遜色ないことがわかった。これにより工場内でニッケルめっき排水からニッケル

を回収し、これをめっき原料としてリサイクルすることが可能となった。

4 研究成果の市場性・優位性

めっき業界において、ニッケル系廃棄物のリサイクルはニーズが高かったが、費用対効

果や技術的課題により実用化されたものが少なかった。本研究成果は、自社工場内でリサ

イクルを完結する技術であり、ニッケル原料の有効活用や産廃の削減効果など直接めっき

事業者の製造コストの改善につながるものである。従来実用化事例のある山元還元による

リサイクルと比較しても、めっき事業者の利益はかなり大きく、多くのめっき事業者に適

用可能と考えられ、市場性は高い。

5 今後の具体的な計画

実めっきラインを用いた長期安定性評価を継続し、めっき製品への影響を調査する。ま

た、ニッケルリサイクル装置の自動化に関する研究開発を行う。また、他のめっき排水へ

の適用についても検討する。

6 研究成果の波及効果

原材料の有効活用、産廃削減などの効果により、めっき事業者の生産コスト改善に大き

く寄与できる。国内めっき事業者のみならず、海外のめっき事業者への波及効果も期待さ

れる。

7 今後の課題と取り組み

本研究成果をめっき事業者に活用してもらうためには、長期的なリサイクルシステムの

安定性評価とニッケルリサイクル装置の自動化が必要不可欠である。実めっきラインを用

いた長期安定性評価を継続して行うとともに、ニッケルリサイクル装置の自動化に関する

研究開発を行う。

Page 6: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

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めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立

福岡県工業技術センター機械電子研究所 専門研究員 古賀弘毅

1―1 はじめ

めっき排水は、めっき各工程の間に設けられた水洗工程から発生し、工場内に設けられ

た総合排水処理施設(図1)に集められ、無害化処理される。ここから発生する重金属汚

泥、すなわちめっきスラッジの組成を分析した結果を表1に示す。あらゆるめっき設備か

らの水洗水が混入するため、様々な金属成分が混在している。これをニッケルの製錬原料

と見立てた場合、ニッケル含有量が低く不純物量が多いため、非鉄製錬業者が提示する受

け入れ条件(表2)を満足することができず、再資源化困難である。再資源化を実現する

ためには、不純物量を大きく低減しニッケル濃度の向上を図る必要がある。しかしながら

従来の総合排水処理はいかに効率的に大量の排水を無害化するかに力点がおかれており、

特定の有用金属を効率的に回収することを想定していない。一方、個々のめっき排水を見

てみると、基本的には前段の処理液が水洗されたものであるから、めっき後の水洗排水で

あればめっき液が希釈されたものであり、不純物の混入が少ないことが想定される。従っ

て、ニッケルめっき後の水洗排水を分別処理すれば、他の不純物の混入を防いでニッケル

が回収できるものと考えられる。以上より、本項ではニッケルめっき水洗排水からの効率

的なニッケル回収方法について検討した。

図1 一般的な総合排水処理設備の概要

表1 総合排水処理で生ずるめっきスラッジの組成分析結果(単位:%)

CaO Cr2O3 CuO Fe2O3 NiO P2O5 SiO2 SnO2 Ig.loss

12.5 < 0.1 3.4 2.5 28.4 15.0 4.1 8.6 23.0

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表2 非鉄製錬業者のニッケル受け入れ基準(単位:%)

Ni Cd Cr Cu Fe Hg P Sn Zn

> 10 < 0.01 < 1 < 2 < 5 N.D. < 1 < 1 < 0.5

出展:めっきスラッジのリサイクルに伴うモデル循環システムの調査研究報告書(九州経済産業局)

1―2 プロジェクト全体における本研究開発部分の位置づけ

本プロジェクトでは、めっき排水からニッケルを回収し、これを原料としてめっき液に

再生する技術を開発するものである。再生めっき液の原料となるニッケルめっき排水から

のニッケル回収物に多くの不純物を含有すれば、再生工程において不純物を除去するため

の機能が必要となり、これにより装置の大型化や高コスト化につながる恐れがある。また、

排水は毎時数百リットルもの流量で発生しており、ここから短時間に効率よくニッケルを

回収する必要がある。こうした観点から、ニッケルめっき排水から効率良くニッケルを回

収する技術は、本プロジェクトにおいて極めて重要であることがわかる。

1―3 目的と目標

めっき排水のうち,ニッケルを高濃度に含有し,他の成分の混入の少ない「ニッケルめ

っき後の水洗排水」のみを分別し,これに水酸化ナトリウム添加による中和沈殿処理を実

施して水酸化ニッケルとしてニッケルを回収する。沈殿物に残留して品位を低下させる凝

集剤や沈殿助剤を使用せずに,水酸化ナトリウムのみで水酸化ニッケルを効率良く回収す

るための処理条件の最適化を検討する。また、混入した不純物の低減技術についても検討

する。

1―4 実験方法及び実験条件

1-4-1 実験方法

ニッケルめっきラインの代表的なフロー図を図2に示す。実験に使用するめっき排水は、

実際のニッケルめっきライン(ワット浴)から、ニッケルめっき後の水洗排水を採水して

使用した。実験に用いためっき排水の組成分析結果の一例を表3に示す。ニッケルめっき

排水からのニッケル回収には、中和沈殿法により水酸化ニッケルとして回収する方法を選

択した。表4に他のニッケル回収方法との比較を示す。中和沈殿法の他にイオン交換法や

溶媒抽出法などがあるが、いずれも処理速度、コスト、不純物分離能などに問題があり、

中和沈殿法が最も有利であると判断した。実験方法は、様々な pH 条件において採水した

ニッケルめっき排水を中和し、含有するニッケルを水酸化物として析出させ、ろ過による

固液分離により回収することとした。

図2 ニッケルめっきライン フロー図

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表3 ニッケルめっき排水の組成分析結果

Ni S B Si Ca Mg Na Fe Cu

め っ き 後 水 洗 排 水 160 72.0 24.0 20.0 32.0 6.0 - < 0.1 < 0.1

実 ラインめ っ き 液 64210 29040 5213 88.8 211 34 - 11 < 0.1

市 水 < 0.1 3.4 0.08 17.0 24.0 3.9 5.2 < 0.1 < 0.1

表4 ニッケル回収方法の比較

方法 原理 長所・短所 コスト

イオン交換

陽 イ オ ン 交 換 樹 脂 で ニ

ッ ケ ル イ オ ン を 捕 集 す

る。

(長所)

・捕集速度が速い。

(短所)

・樹脂からのニッケル回収に大量の酸を使用

・回収ニッケル液は強酸性→めっき液不適。

・不純物分離困難。

・装置が大型化

・イニシャルコスト大

・酸の多量消費

・樹脂再生費用

溶媒抽出

水 - 有 機 溶 媒 系 の 抽 出

を利用した分離

(長所)

・選択的な分離が可能

(短所)

・分離に時間を要する。

・油相から水相への逆抽出が必要

・逆抽出に大量の酸を使用

・装置が煩雑・高価

・水相への油分の溶け込み

・装置が大型化

・イニシャルコスト大

・酸の多量消費

・防爆対策が必要

減圧蒸留

減 圧 に よ り 水 分 を 除 去

し、濃厚液とする。

(長所)

・ランニングコストが軽微。

(短所)

・処理速度が遅い。

・不純物も濃化する。

・装置が大型化

・イニシャルコスト大

・酸の多量消費

・防爆対策が必要

中和沈殿

中 和 に よ る 水 酸 化 物 沈

殿反応を利用

(長所)

・中和反応が迅速で大量の排水を処理可能

・ランニングコストが軽微

・pH 制御により不純物を低減

(短所)

・沈降槽が大きくなる傾向がある。

・処理工程が単純

・シンプルな装置構成

1-4-2 実験条件

中和剤には、水酸化ナトリウム(特級、関東化学製)および硫酸(特級、関東化学製)

を使用した。水酸化ナトリウムおよび硫酸は沈殿物に痕跡が残りにくい特徴があり、回収

ニッケルの純度を向上させるには最適な中和剤である。なお、沈殿粒子の沈降速度を向上

させるための凝集剤は、不純物混入防止の観点から使用しなかった。排水および処理水中

の成分分析には ICP 発光分光分析装置(ULTIMA2C 型、堀場製作所製)を使用した。ま

た、回収ニッケルの分析は蛍光 X 線分析法(RIX3001 型、理学電機工業製)と強熱減量法

を併用して行った。

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1―5 実験結果

1―5―1 pH と水酸化ニッケル生成の関係

ニッケルめっき後の水洗排水 1ℓに対してスターラー攪拌をしながら中和剤を添加し、

pHを 9~11 に変化させて中和した。ニッケルを水酸化物として析出させて沈降させた後、

上澄み液中のニッケル濃度を分析した。上澄み液は 0.45μm のメンブレンフィルターで濾

過したものを分析した。水酸化ニッケル生成率は、元の排水中のニッケル濃度から上澄み

液中のニッケル濃度を差し引いて算出した。分析結果を表5に示す。この結果,水酸化ニ

ッケル生成率は pH = 9 では 95.6%、pH = 10 では 99.2%、pH = 11 では 99.1%以上であ

った。

表5 pH と水酸化ニッケル生成率の関係

そのまま pH=9 pH=10 pH=11

上 澄 み中 ニッケル濃 度 (ppm) 82.2 3.62 0.69 0.78

水 酸 化 ニッケル生 成 率 (%) ― 95.6 99.2 99.1

1―5―2 pH と回収ニッケル濃度の関係

pH と回収ニッケルの組成についての相関を調査した結果を表6に示す。分析結果は乾

燥試料としての値である。pHが低くなるに従い水酸化ニッケルの比率が高くなっている。

これは pH が低いほどカルシウムおよびマグネシウムの不純物の割合が減るためである。

カルシウムやマグネシウムは pH が高いと炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムの沈殿を

生じることが知られており,pH > 10 ではその影響が現れているものと考えられる。なお,

これらの成分は水由来と考えられる。

表6 pH と回収した水酸化ニッケルの組成分析結果(単位:質量%)

pH Ni(OH)2 SiO2 Na2O CaO MgO CuO Fe2O3

pH=9 87.8 7.0 1.6 0.3 0.2 0.5 0.4

pH=10 80.1 8.5 2.0 3.0 1.0 0.2 0.5

pH=11 70.9 8.4 2.3 7.2 3.5 0.2 0.2

1―5―3 水洗による回収ニッケル中不純物の除去効果

回収した水酸化ニッケルはフィルタープレス等により濾過するが,含水率が 70%程度と

多くの水を含んでいる。この水はめっき排水の上澄み液であり、中和剤由来のナトリウム

や硫酸イオンなど可溶性不純物を多く含んでいる。従って,回収ニッケルを水洗して可溶

性不純物を希釈することができれば,さらに水酸化ニッケル濃度が向上する。表7に回収

ニッケル 10g について純水による水洗を行った場合の組成変化を示す。水洗量が増えるご

とに水酸化ニッケルの割合が向上している。これは不純物のナトリウムと塩素が低減して

いるためであり,可溶性のこれらの塩が希釈されたためと考えられる。こうした点から可

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溶性の不純物に対しては水洗が効果的であることがわかった。

表7 回収した水酸化ニッケルの水洗による組成変化(単位:質量%)

洗浄水量 Ni (OH)2 SiO2 Na2O CaO MgO CuO Fe2O3 Cl

0ml 88.2 0.9 1.4 0.1 0.1 < 0.1 0.1 1.1

100ml 90.4 0.9 0.6 < 0.1 < 0.1 < 0.1 0.1 0.4

200ml 91.5 0.9 0.3 < 0.1 < 0.1 < 0.1 0.1 0.2

300ml 92.1 0.9 0.2 < 0.1 < 0.1 < 0.1 0.1 0.2

1―6 研究成果

めっき排水を水酸化ナトリウム溶液で中和し,含有するニッケルを水酸化ニッケルとし

て回収する方法を検討し,pH = 9 で処理することにより不純物の少ない高純度な水酸化ニ

ッケルを得ることができた。また,回収した水酸化ニッケルを濾過器内で水洗することに

より可溶性不純物の濃度を低減できることがわかった。

1―7 今後の課題と取組

本研究において不純物の少ない中和の PH 値の設定や可溶性成分の低減方法等が確認で

きた。これを実際の設備で運用するための問題点等を洗い出し、最も効率の良い設備設計

を行っていかなければならない。中和沈殿における沈降槽の設計等は、めっき事業者にお

いてそれぞれ排水量や設置条件が違うため、事業者の要望に応じた効率の良い設備を設計

出来るよう、設計条件の蓄積を図る必要がある。

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回収した水酸化ニッケルからのめっき液調製技術の確立

アスカコーポレーション(株) 営業開発部開発課 森 浩一

2―1 はじめに

工場内リサイクルを行うには回収したスラッジをめっき液に投入できる状態にしなけれ

ばならない、回収したスラッジは高品位の水酸化ニッケルであるがこれを直接 Ni めっき液

に投入する事は溶解性や不純物の問題で出来ない。

このため、溶解などの方法によりめっき液に容易に投入する事が出来る成分に変化させ

ることが必要が有り、より高品位なめっき液(リサイクル液)を調整する技術について検

討した。

2―2 プロジェクト全体における本研究開発部分の位置づけ

回収で得られためっきスラッジを再生めっき液として利用出来る状態に調整する技術で

あり、工場内のメッキ設備で直接使用出来る再生めっき液を調整する、この調整技術が工

場内ニッケルリサイクル技術のもっとも重要な部分である。

2―3 目的と目標

回収したスラッジを再生めっき液原料として活用するための調製方法の開発を目的とし

た。再生めっき液の調製では,調製時にめっき液成分として不要な成分を持ち込まないこ

とが必要となる。本研究では代表的なニッケルめっき浴(ワット浴)への適用を前提に,

回収ニッケルを硫酸で溶解し,再生めっき液として調製する方法を検討した。

2―4 実験方法及び実験条件

一般的なワット浴の浴組成を表1に示す。主成分は硫酸ニッケル,塩化ニッケル,ホウ

酸であり,中でも硫酸ニッケルの比率が高い。水酸化ニッケルを主成分とする回収ニッケ

ルをワット浴の原料として使用する場合,酸で溶解する必要があるが,その調製方法とし

ては,浴組成として含まれる硫酸あるいは塩酸による溶解が考えられるが,ワット浴とし

ては硫酸イオンのほうが浴濃度として濃いため最終的な濃度調整を行いやすい。このため,

硫酸溶解により硫酸ニッケルを生成することが最も適していると考えられる。回収ニッケ

ルには、不純物の最も少ない pH = 9 で中和処理して得られたものを使用した。水酸化ニ

ッケルの硫酸による溶解反応を次式に示す。

Ni(OH) 2 + H2SO4 → NiSO4↓ + H2O

図1に回収ニッケルの硫酸による溶解方法の概要を示す。硫酸添加により比較的容易に

溶解する。本課題では,硫酸溶解による再生めっき液の不純物混入挙動の調査や pH コン

トロールによる不純物除去方法について検討した。

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表 1 ワット浴 組 成 表

添加成分 添加量

硫酸ニッケル 240~450g / L

塩化ニッケル 38~ 60g / L

ホウ酸 30~ 50g / L

光沢剤 適量(サッカリン,2-ブチン 1.4-ジオール,

他)

その他の条件 pH = 2.8~ 5.5,温度: 40~ 70℃

2―5 実験結果

pH = 9 で調製した回収ニッケルに 70%硫酸を加えて溶解し,得られた液組成を表2

に示す。比較的容易に高濃度な硫酸ニッケル溶液として調製できるものの,ケイ素,

カルシウム,マグネシウムなど少なからず不純物を含んでいることが明らかとなった。

ケイ素,カルシウム,マグネシウムは水由来の不純物で,混入が不可避な成分である。

一方,鉄,銅は被めっき物の素材に由来する成分と考えられる。一般的にそれぞれ

100ppm が不純物の上限と言われているため,これらを低減しなくてはならない。

表 2 回 収 ニッケル溶 解 液(pH 未 調 整 )の組 成 分 析 結 果

Ni S B Si Ca Mg Fe Cu

回 収 ニッケル

溶 解 液 (pH 未 調 整 ) 116,100 75,840 2,662 297 456 310 140 300

単 位 :ppm

ここで,硫酸溶解時した後,強酸となっているスラッジ溶解液を,実際のめっき浴

の pH = 4.5 に設定することを試みた。不純物としての鉄や銅は pH が高くなると水酸

図 1 回 収 ニッケルの溶 解 方 法 の概 要

Page 13: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

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化物の沈殿を生じやすくなるため,pH コントロールによりこれらの不純物を除去する

ことが狙いである。強酸から pH = 4.5 まで pH をコントロールするに際し,例えば,

水酸化ナトリウムなどを利用できれば簡単であるが,これでは回収ニッケル溶解液中

のナトリウム濃度が高くなり過ぎ,めっきに不具合が生じる可能性がある。従って,

ここでは回収した水酸化ニッケルを pH 調製剤として使用する方法を考案した。つま

り回収ニッケルは,再生めっき液原料であるとともに,pH 調整剤としても活用するこ

ととなった。所定量の回収ニッケルを硫酸で溶解した後,再び過剰の水酸化ニッケル

を添加し,強撹拌を行う。これにより pH = 4.5 付近で撹拌を中止し、フィルタープレ

スにより不溶分を濾過して液を回収した。pH 調整を行った回収ニッケル溶解液の分析

結果を表3に示す。この結果,pH = 4.5 に調整した回収ニッケル溶解液では鉄,銅お

よびケイ素の濃度が大幅に低減することが明らかとなった。これはそれぞれの金属イ

オン溶解度と pH の関係(図2参照)から加水分解により沈殿物となり濾過工程で除

去されたことが原因であると考えられる。ケイ素はケイ酸塩として存在していると考

えられるが,水溶液中で不安定であり,pH 変化によりゲル状の不溶性物となると考え

られる。これも濾過工程で除去されるため,最終的に回収ニッケル調製液中の濃度も

低減したものと考えられる。これにより不純物量は現行めっき液程度以下まで低減さ

れ,ホウ酸などの不足成分を添加すれば組成的には再生めっき液として活用できる見

込みが立った。

表 3 回 収 ニッケル溶 解 液(pH=4.5 に調 整 済 み)の組 成 分 析 結 果

Ni S B Si Ca Mg Fe Cu

回 収 ニッケル

溶 解 液 (pH 調 整 済 み) 83,890 43,416 3,923 49.4 103.3 20.8 1.4 0.5

同 上 濃 度 換 算 62,680 23,439 2,931 37.0 77.0 16.0 1.0 0.4

現 行 めっき液 62,680 26,258 5,106 86.7 177.9 27.8 8.0 < 0.1

単 位 :ppm

図 2 金 属 イオン溶 解 度 と pH の関 係

Page 14: ニッケルめっき排水の工場内リサイクル技術5 めっき排水からのニッケルの高効率回収技術の確立 福岡県工業技術センター機械電子研究所

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2―6 研究成果

回収スラッジ (水酸化ニッケル )を硫酸溶解することにより高濃度な硫酸ニッケルを調製

できることがわかった。pH 調製は硫酸と水酸化ニッケル(回収ニッケル)のみで行い最

終的に pH = 4.5 とすることで,溶液中の鉄,銅,ケイ素を大幅に低減できることがわかっ

た。

2―7 今後の課題と取組

回収スラッジ (水酸化ニッケル )に硫酸を添加すると言う、比較的簡単な作業により硫酸

ニッケル溶液の製造が出来る事が判明したが、ケイ素やマグネシウム等の不純物や未溶解

の水酸化ニッケルが溶液中に残留している事も解り、ろ過等の調整手順が必要と成ります。

この溶解・PH 調整・ろ過の工程は Ni リサイクルシステムでの最も重要な所であり、作

製したリサイクル液は分析等に問題なければ、そのまま Ni めっき槽に原料として添加し

ます。

但し、この工程は手動で行うには手間がかかる為、自動化して省力化を図らなければな

らない。

事業化を見据えてのリサイクル設備の装置設計が必要と成ります。

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ニッケル回収・再生装置の試作

九州エンジニアリング㈱ 取締役 砂場 徹

3―1 はじめに

研究報告 1.及び 2.の結果を基に装置を試作し、リサイクル技術の検証を行う。

実際の運用に当たり、試作装置で検証を行い回収及び再生条件をテストし、また運用上

の問題点を確認し、より効率的な装置の設計を行う。

3―2 プロジェクト全体における本研究開発部分の位置づけ

本研究を事業化する為には、ニッケルリサイクルのコストメリットに対する費用対効果

を考えた設備設計が必要であり、設置スペースの問題、イニシャルコストの問題を含め装

置の省力化・コンパクト化を見据えた設計開発を行っていかなければならない。

3―3 目的と目標

めっきラインから発生するニッケルめっき排水を連続的に処理しニッケルを回収し,再

生めっき液に調製するための低コストかつコンパクトなリサイクル装置を開発しなければ

ならない。本課題では研究報告 1.2.の検討結果をもとに,図1に示す小規模なリサイクル

装置を試作した。本試作機は,実機めっきラインへの本研究成果の適用を前に,ミニめっ

きラインへの適用により,その手法が適用可能か否かを判断することを目的として製作し

た。

3―4 実験方法及び実験条件

②の検討結果をもとに,硫酸溶解とフィルターによる不純物除去を備えためっき液再生

装置を試作した。ニッケル回収装置については,先行研究で製作したものを使用した。図

2にニッケル回収装置,図3にめっき液再生装置のフロー図を示す。

図 1 リサイクル装 置 概 略 図

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ニッケル回収装置は 50 リットルの中和槽と 100 リットルの沈降槽,ならびにフィルタ

ープレスから構成されている。一度に大量の排水は処理ができないが,毎分 1 リットル程

度の排水は処理可能である。また,めっき液再生装置は,50 リットルの回収ニッケル溶解

槽とフィルタープレス,そして有機系不純物を除去する活性炭フィルター塔から構成され

ている。これとは別に,リサイクル装置を接続して実機ラインを使用した実証試験前の適

用可能性試験を行うための,100L 規模の小規模な実験用テストめっきラインを製作した。

めっきラインは実機めっきラインの構成を忠実に再現して製作しており,めっき下地を

製作するストライクニッケルめっき工程と仕上げめっきであるブライトニッケルめっき工

程のふたつのめっき工程を有している。各めっき槽後には回収槽を設けており,ここでめ

っき工程で被めっき物に付着しためっき液を回収する。この回収液は濃厚になった時点で

リサイクル装置へ送り込まれる仕組みとなっている。また,回収槽後の水洗水は常に毎分

数リットル程度の排水が発生しており,この排水もリサイクル装置へ導入される。

本課題では,以上の装置を用いて,連続運転によるめっき槽および回収槽の組成変化を

調査した。

図 2 ニッケル回 収 装 置 フロー図

図 3 めっき液 再 生 装 置

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3―5 実験結果

テストラインで 100 バッチまでめっき工程を連続運転させ,その時のめっき浴および

回収槽の組成変化を観察した。分析結果を図4から図7に示す。まず,ニッケルストラ

イクめっき浴とその回収槽について考察する。ニッケルストライクめっき浴では,極端

な組成変化は少ないものの,ニッケル濃度が 100 バッチまでに約1割減少している。こ

れはめっき前の水洗槽からの水の持ち込みと被めっき物へのめっき液付着に伴う持ち出

しの影響である。なお,めっき液は純水で調製しており,カルシウム,ケイ素の増加に

ついてはめっき前水洗槽からの持ち込みの影響である。

一方,回収槽は単純な希塩酸であり,0 バッチ目では基本的に金属イオンは含まれない。

図 4 ニッケルストライクめっき浴 の組 成 変 化

図 5 ニッケルストライクめっき回 収 槽 の組 成 変 化

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処理回数が増えるに従いニッケル濃度は上昇し,100 バッチまでで約 8000ppm に達して

いる。回収槽が 100 リットルであるから,100 バッチで約 800g のニッケルが持ち出され

ていることがわかる。一方,不純物は希塩酸溶液の調製に市水を使用しているため,元か

らある程度のカルシウム,マグネシウムなどを含んでいる。100 バッチ目でも初期と濃度

に大きな差が生じないのは,持ち込まれるめっき液中にこれらの成分が含まれないためで

ある。ニッケルブライトめっきについても同様の傾向が見られた。

なお,100 バッチまでの連続試験で得られた回収ニッケルの組成を分析した結果を表1

に示す。比較的ニッケル濃度も安定しており,不純物の混入も少ない回収ニッケルが得ら

れた。

図 6 ニッケルブライトめっき浴 の組 成 変 化

図 7 ニッケルブライトめっき回 収 槽 の組 成 変 化

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3―6 研究成果

試作装置の運用テストにより、めっき排水から回収したニッケルが組成的に再生めっき

液原料として十分に使用出来る事がわかった。

3―7 今後の課題と取組

試作 装置により、回 収 スラッジの有効 性は確 認 出来た、またこの回収 スラッジからの再 生めっき液

についても問題はなく試作設備の有効性は確認出来た。

この試 作 設 備 を基に実証 設 備 の設 計 及び、事業 化 に向 けての省 力 化・コンパクト化 及 びイニシャ

ルコストの削減を目指す。

表 1 100 バッチ連 続 試 験 で得られた回 収 ニッケル組 成 について

単 位 :質 量 %

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ニッケルめっきラインでの実証試験

アスカコーポレーション(株) 営業開発部開発課 森 浩一

4―1 はじめに

試作したニッケル回収・再生装置について、実際のめっきラインに導入できるか否かを

見極めるためには、実際のめっきラインへ本装置を組み込み、実証試験を行う必要がある。

本章では、試作したニッケル回収・再生装置を実際のニッケルめっきラインへ組み込み、

連続稼働によるめっき液中の不純物の挙動、めっき製品の品質の変化について調査し、実

めっきラインにおける本リサイクル技術の有効性を確認した。

4―2 プロジェクト全体における本研究開発部分の位置づけ

実めっきラインでは様々な操業条件の影響を受けることから、バッチによる試験とは異

なる結果が生じる可能性がある。開発技術を実めっきラインで使用できるかどうかを確認

するためには、実めっきラインに本装置を組み込んでの実証試験が必要不可欠であり、極

めて重要である。

4―3 目的と目標

開発した試作機を実めっきラインに組み込み、再生めっき液を投入する長期のランニン

グテストを実施し、めっき液の組成変動やめっき品質の評価を行い、本技術の有効性を確

認する。めっき液中の不純物濃度は現行めっき液管理基準以下、めっき品質については表

1に示す管理基準を満足することを目標とする。

表 1 めっき品 質 の管 理 基 準

評価項目 試験名 基準

耐食性 塩水噴霧試験 現行品と同等

恒温恒湿試験 48 時間腐食なし

密着性 曲げ試験 剥離なし

濡れ性試験 マーキングテスト ハジキなし

めっき液中の不純物 成分分析 現行めっき液と同等

ハルセルテスト 現行品と同等

外観 目視 変色なし

4―4 実験方法及び実験条件

4―4―1 試作機の設置

実証試験実施のため、開発した試作機を実めっきラインに組み込んだ。めっきラインと

当該装置の組み込みイメージを図1に示す。

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図 1 試 作 装 置 概 略 と実 めっきラインへの試 作 機 組 み込 みイメージ

めっき排水はめっき後の回収槽および第一水洗槽から採取した。回収槽とは水洗効率を

向上させるため、めっき後の被めっき物を一度水などに浸漬し、品物表面に付着しためっ

き液を希釈させるものである。通常、回収槽中の回収液はめっきラインには戻らず、遠濃

度が一定濃度を超えると排水処理される。第一水洗排水は概ね一分間当たり 5ℓ発生してお

り、そのすべてを装置に導入した。また、回収槽の排水については、回収液を交換するタ

イミングで本装置に導入した。試作装置の外観について回収ユニットを図2、めっき液再

生ユニットを図3に示す。回収ユニットは反応槽を 200ℓ、沈降槽を 1000 リットルの大き

さに設定し、最大毎分 20ℓの排水に対応可能なように設計した。

図 2 試 作 装 置 (回 収 ユニット)外 観 (左:反 応 槽 および沈 降 槽 、右:フィルタープレス)

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4―4―2 評価方法

再生めっき液中の不純物の分析は、堀場製作所製の ICP 発光分析装置(ULTIMA2C 型)

を使用して行った。塩水噴霧試験にはスガ試験機製の塩水噴霧試験機(STP-120 型)を使

用し 24 時間での腐食発生状況を評価した。試験方法は JIS Z2371 の中性塩水噴霧試験に

準じた。恒温恒湿試験には、ヤマト科学製の小型恒温恒湿器( IW241 型)を使用し、温度

65℃、湿度 95%で連続 48 時間保持し、腐食発生状況を評価した。ハルセルテストには山

本鍍金試験器製のハルセル試験器(アクリル製、並型水槽)を使用した。

4―5 実験結果

4-5-1 再生めっき液中の不純物濃度について

試作機より再生しためっき液中の不純物を分析した結果を表2に示す。すべての成分に

ついて現行めっき液中の不純物濃度と同程度かあるいはそれを下回っており、かつ安定で

あることがわかった。これより再生めっき液が組成的には十分にめっき原料として使用可

能であることがわかった。

表2 再生めっき液中の不純物濃度分析結果

再生めっき液 No Ca Cu Fe Mg Si

1 64.2 0.43 13.4 21.1 65.8

2 64.8 0.40 12.2 20.2 57.2

3 69.1 0.35 14.4 29.2 63.4

4 61.1 0.42 10.2 17.4 46.8

5 59.4 0.39 10.2 23.7 47.4

現行めっき液 209.8 < 0.1 9.4 32.8 102.2

4―5―2 再生めっき液を使用しためっき皮膜の評価

再生めっき液のみで、ニッケルめっき液を建浴し、このめっき液にてニッケルめっき

の試作を行い、めっき皮膜の評価を行った。めっき皮膜の評価結果を表3に示す。いず

れの試験についても現行品と同等以上の性能を示した。

図 3 試 作 装 置 (めっき液 再 生 ユニット)外 観

(左:回 収 ニッケル溶 解 槽 および不 純 物 除 去 装 置 、右:ろ過 機 および再 生 めっき液 貯 槽 )

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表3 再生めっき液より作製しためっき皮膜の性能評価結果

評価項目 試験名 基準 評価

耐食性 塩水噴霧試験 現行品と同等 ○

恒温恒湿試験 48 時間腐食なし ○

密着性 曲げ試験 剥離なし ○

濡れ性試験 マーキングテスト ハジキなし ○

めっき液中の不純物 成分分析 現行めっき液と同等 ○

ハルセルテスト 現行品と同等 ○

外観 目視 変色なし ○

4―5―3 実ラインでの再生めっき液の補給とめっき皮膜の評価

実証用設備で製造した再生めっき液を、実ラインに投入し実際の製品にてめっき皮膜

の評価を行った。ニッケルめっき槽の硫酸ニッケルの総量(1,205 ㎏)を 1 サイクルと

して、再生めっき液の補給量をサイクル毎に確認し、その時点でのめっき皮膜の評価を

行った。再生めっき液の累積補給量を表4に示す。また、恒温恒湿試験の結果の一例を

図4に示す。

表 4 再 生 めっき液 累 積 補 給 量

図 4 実 証 試 験 にて製 作 しためっき品 の恒 温 恒 湿 試 験 結 果

サイクル数 累 積 補 給 量

(硫 酸 ニッケル換 算 :kg)

累 積 補 給 液 量

(めっき液 換 算:ℓ)

0.05 60 151

0.1 120 301

0.25 301 753

0.5 603 1,506

0.75 904 2,259

1.0 1,205 3,013

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本試験により製作しためっき品について、全てのサイクルで表3と同等の試験を実施し、

いずれにおいても現行の管理基準を十分に満足した。

4―6 研究成果

実証設備の設置に問題無く、当初に予定した性能は確保できている。ニッケル排水の

回収と中和沈降分離についても、PH を 9.0 にする事で効率よく採取出来ており、フィル

タープレスの分離についても問題ない。ニッケルスラッジの再生については、硫酸での

溶解時ニッケルスラッジの投入量の調整が上手くいかず、PH が上がりすぎる事があった

が、これは投入量の最適化で調整できる。また、未溶解物については一度のろ過で取り

除けないものもあり、二度濾過を行うようにして解決した。実証試験の結果、めっき皮

膜の評価に問題無く、めっき製品として適正と判断できる。

4―6 今後の課題と取組

試験結果を踏まえて,実機ラインへスケールアップした実証試験を実施する。実証試

験により実製品に関する品質評価を行うとともに,費用対効果の試算を行い,実用化の

可能性について検討する。

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成果実績成果実績成果実績成果実績

(1) 口頭発表

なし

(2) 論文発表

なし

(3) 雑誌掲載

なし

(4) 特許出願

【発明の名称】 ニッケルめっき排水の再生方法及び再生装置

【出願番号】 特願2012-228237

【出願日】 平成24年10月15日

【出願人】 福岡県工業技術センター

アスカコーポレーション株式会社

九州エンジニアリング株式会社

(5) 商品化

なし

(6) 受賞

なし