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1 チェルノブイリの廃炉への新たな取り組み 平成25620東京大学 岡本 孝司 北海道大学 奈良林 直 原子力安全研究協会 水町 ○ 日本エヌ・ユー・エス 藤井 有蔵

チェルノブイリの廃炉への新たな取り組み2008/02/10  · 1 チェルノブイリの廃炉への新たな取り組み 平成25年6月20日 東京大学 岡本孝司

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チェルノブイリの廃炉への新たな取り組み

平成25年6月20日

東京大学 岡本 孝司北海道大学 奈良林 直原子力安全研究協会 水町 渉

○ 日本エヌ・ユー・エス 藤井 有蔵

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本発表の内容

本発表の内容は以下の活動で得られた内容を中心に関連文献等も参考にまとめたものである。

日本機械学会 動力エネルギーシステム部門「原子力の安全規制の 適化に関する研究会」(主査:東京大学 岡本教授)が昨年実施した○チェルノブイリサイトの訪問調査

○ウクライナの原子力専門家を招いてのシンポジウムでのチェルノブイリ事故の後処理状況に関する講演内容

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チェルノブイリ原子力発電所

○チェルノブイリ市の北西18km、プリピアチに立地。

○1977年から1983年にかけて1号機から4号機が竣工。

○各ユニット電気出力100万kW(熱出力320万kW)

黒鉛減速沸騰軽水

圧力管型原子炉のRBMK-1000型炉

○現在4基とも停止

© Google

プリピアチ

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チェルノブイリ原子力発電所4号機事故

• 1986年4月26日、4号機において炉心の出力が急激に上昇し、 終的に水蒸気爆発により炉心及びその周辺の構築物が破壊され、多量の放射性物質が飛散した。

• 燃料は崩壊熱で溶融し、周辺の構造物と混ざって燃料混合物(FCM)となり原子炉容器から下部に流れ出て固化した。

赤い部分が燃料混合物

爆発後の4号機 燃料混合物の固化位置

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事故後のシェルター(石棺)構築

・事故の後処理のうち4号機を環境から隔離し、内部のFCMや放射性物質が周辺に漏洩しないよう、4号機建屋のうち爆発後も残った壁を利用し、サイトに保管されていた資材を使って、急ごしらえのシェルター(石棺)を構築(事故後約7ヶ月で完成させた。)。

石棺の断面図石棺の概観

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シェルター(石棺)各部の状況

シェルターは、現場資材を利用して補修・補強する形で実施。(屋根部は長いパイプを並べた上に軽量ルーフを設置)

シェルター全容①②建屋の屋根カバー、③カスケード状の壁④⑧バットレス壁、⑤⑥⑦シールド

軽量ルーフ部

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石棺の問題点と対応

○石棺は急ごしらえのため開放部分が多く、外部からの雨水の浸入や内部の浮遊性や液体状の放射性物質等が外部に漏洩する状況であった。

○建設後時間が経つ中で老朽化が進んできている。(本年2月には石棺に隣接するタービン建屋の屋根と壁が約600m2にわたって崩壊)

○ 終的に4号機の解体・廃炉を行う場合に作業を行うための設備等が整っていない。

○放射性物質の漏洩を抑え、作業者・住民・環境の安全を確保して、廃炉を円滑に行える新しい格納施設が必要である。

○新しい格納施設が出来るまで石棺の補強工事を行う。

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石棺の構造補強と安定化工事

構造補強の例:石棺の西側の安定化作業(黄色の部分)は建設・設置作業の範囲、作業者の数及び被ばく量の観点から重要なもの。

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新シェルター(NSC)の建設計画の推進

新シェルターはNSC(New Safety Confinement)は呼ばれ、その建設は、西側諸国の協力で実施。

• 1997年5月:ウクライナ政府とG7およびEU との間で「シェルター実施計画」(SIP : Shelter Implementation Plan)が合意

• 1997年12月:46の国、組織が欧州復興開発銀行(EBRD)に「チェルノブイリ・シェルター基金」(CSF)を開設

• 2004年6月ウクライナ政府が新シェルターの概念設計を承認

• 2007年9月:新シェルターの設計、建設及び運用についてヨーロッパの共同企業体(NOVARKA)が落札し、契約実施

• 2010年4月:建設作業開始(建設費は約10億ユーロの予定)

• 2012年11月:新シェルターの上部構造物の一部が完成

• 2015年:新シェルター完成予定

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新シェルターの仕様

○形状:鉄骨構造のアーチ(蒲鉾)型で屋根部はステンレス板

○寸法:長さ-約150m 幅-約250m 高-約110m

○重量:約3万トン

○新シェルターには2基のブリッジクレーンが設置される。

○廃炉作業の期間を考慮して100年以上の耐久性を考慮上部を空調し、結露による腐食を防止し、保全作業の低減

・新シェルターの建設完了予想図(1)

(4号機の横で建設後4号機側にレール上を移動された状態)

新シェルター4号機建屋(石棺)

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新シェルターの建設工事(1)

○4号機の周りは放射線量が高いため、除染した上で線量が比較的低い4号機から600mはなれたところで新シェルター を建設。

○シェルターは輪切りの半分ずつ製作し、ボルトで繋ぐ方法をとる

輪切りの半分の建設 半分が完成し、移動後、もう半分を建設

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○600m離れた場所でも高所は周辺からの放射線により被曝量が多いため、30m以上の高さで作業を行なわない方法を考案。(新シェルターの上部構築物約1/3をまず製作し、ジャッキ

で、持ち上げ、足となる構築物10基で支持した後、シェルターの下部の構築物を製作する。この方法を何度か繰り返し、シェルター全体を製作。)

新シェルターの建設工事(2)

新シェルターの建設状況-1 新シェルターの建設状況-2

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廃炉に向けての対応

• 新シェルターが完成すると本格的に4号機石棺の解体、FCMの除去作業に向けての現実的な対応が可能となる。

• 4号機のほか1-3号機の廃炉作業を行う必要があり、1-3号機の使用済燃料をプールから搬出するための対応が必要

• 1-4号機の解体廃棄物のほかサイト内の汚染した放射性廃棄物(固体、液体等)の処理・処分のための対応も重要

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• FCMは直接、 終処分施設に貯蔵することとし、貯蔵場所を決めるための調査、設計を2017年までに終える予定。

• 試験的なFCM除去の実施結果を踏まえ、本格的なFCM除去を早ければ2030年に開始

• FCMの除去は新シェルターの使用年限の中で完了するよう行い、その期間は40年~50年。

FCM除去の実施計画

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1-3号機廃炉のスケジュール

-準備段階:使用済燃料中間貯蔵施設、放射性廃棄物関連施設の建設、使用済燃料の搬出等(完了は2013年以降)

-原子炉設備密閉管理(mothballing)段階:重要施設の密閉、安全に影響のない設備の除去等:(2022年まで)

-冷却段階:放射能が許容レベルに低下するまで原子炉設備を冷却、密閉し、監視する。活動で出てきた放射性廃棄物の集約、条件整備:(2045年まで)

-原子炉設備撤去段階:高い放射能レベルの設備の除去、貯蔵施設への搬出。サイトの放射能レベルの調査(2065年まで)

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第2使用済燃料貯蔵施設の建設

1-3号機の使用済燃料プール及び共用のプール(ISF-1)に21000体の使用済燃料が貯蔵されており、廃炉を行った後も使用済燃料貯蔵が100年以上可能になるよう、コンクリート製の第2使用済燃料乾式貯蔵施設(ISF-2)が建設中である(2013年完成予定)。既に一部の燃料はISF-2に移送されている。

使用済燃料乾式貯蔵施設( ISF-2)

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放射性廃棄物関連設備の対応(1)

○現在以下の放射性廃棄物(RAW)管理施設が稼動している。・チェルノブイリ発電所フロアドレン処理施設・固体RAW貯蔵施設・液体RAW貯蔵施設・固体及び液体RAW貯蔵施設・固体RAW中間貯蔵(汚染した機材の管理)・除染施設・汚染した大型機器の中間貯蔵施設・プロセス機材の中間貯蔵施設。

○ただし、以上の施設は運転中プラントを想定した施設であり、廃炉に向けた改造や新たな放射性廃棄物処理・貯蔵施設の建設が必要。

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○以下の施設の建設及び改造が進められており、2011年~2013年にかけて完成の予定

・液体放射性廃棄物処理プラント(液体放射性廃棄物の濃縮減容処理及びコンクリート固化)

・固体放射性廃棄物管理複合施設(既存の固体放射性廃棄物貯蔵施設に貯蔵されている廃棄物の処理、梱包、一時貯蔵)

・放射性廃棄物貯蔵のためのドラム缶および鉄筋コンクリートコンテナー製造施設の建設

・長尺のスクラップに対する施設(改良)

○固体放射性廃棄物の収集、輸送、処理、貯蔵、処分を実施するVektor Complexも建設中

○さらに3基のプラントから出てくる汚染金属等の処理のための施設の建設が検討されている。

放射性廃棄物関連設備の対応(2)

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液体放射性廃棄物処理プラント 固体放射性廃棄物管理複合施設

ドラム缶および鉄筋コンクリートコンテナー製造施設

放射性廃棄物関連施設の例

Vektor Complex

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高放射線箇所における監視及びアクセス

• 炉心付近のモニタリングはコンクリート壁に穴を開けファイバースコープや各種検出器を挿入して実施

• 上部の放射線レベルはよじ登り式のロボットも使用して測定

• コンクリートの解体処理等にはスウェーデン製遠隔操作の重機ロボットも活用

• 高放射線による電子回路の損傷が激しいためケーブルを活用した遠隔駆動装置が必要

• 今後本格的なFCM除去、廃炉作業に向けて技術開発が必要。

スウェーデン製ロボット

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原発作業員、住民、環境の保護(3)

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福島第一廃炉作業への反映

福島第一でも廃炉に向けてのさまざまな対応が行われているが、チェルノブイリの廃炉に向けての以下のような対応が参考になると考えられる。

○チェルノブイリ4号機では福島第一以上に建屋が破壊されており、廃炉に向けての長期的な観点から閉じ込め用の建屋(新シェルター)が建設されている。

○廃炉に必要な使用済燃料貯蔵施設や放射性廃棄物の処理・処分施設の建設計画が進められている。

○4号機の内部は高放射線の状態であり人の立ち入るは不可能なことか

ら、廃炉に向けての遠隔操作のモニタリングやロボット機器が導入されている。

○作業員、住民、環境を放射線のリスクから防護しつつ廃炉に向けての作業を行うための方針の明確化と具体的な実施事項の整理。

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