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1 メード・イン・ オランダ ~ 園芸・ 育苗および種 苗 トラブルフリー種子/環境と健康に配慮/花卉・植物のトレンドをリード インテリジェント温室/世界の人々をより健康に/世界で最もグリーンな大学

メード・イン・ オランダ 園芸・...4 注目を浴びるオランダの園芸産業 安全な食料 8 主要データ 種子から食卓まで 10 インタビュー より多くの食料と健康向上

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メード・イン・オランダ ~

園芸・育苗および種 苗

トラブルフリー種子/環境と健康に配慮/花卉・植物のトレンドをリードインテリジェント温室/世界の人々をより健康に/世界で最もグリーンな大学

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オランダ式

赤と青の太陽の下で

赤や青の光は一見気味が悪いかもしれませんが、これを園芸に活用しているのがコパート・クレス(Koppert Cress)社のロブ・バーン(Rob Baan)社長。同社では、赤色・青色LED光を組み合わせた光でマイクロベジタブル(幼苗)を生産しています。高エネルギー効率温室では、赤色と青色の太陽の下で苗がすくすくと育ち、その品質は本物の太陽で栽培したものをしのぐほど。スペインにある世界的に有名なレストラン「エル・ブジ」の料理長であるフェラン・アドリア氏をはじめ、多くの有名シェフから、その味わいは他の追随を許さないとの評価を得ています。「LED光を組み合わせることにより、最高の味を実現することができるのです。」(バーン社長)この栽培手法により、低エネルギー消費で光害もほとんど引き起こさずに、より良い味のマイクロベジタブルを生産することが可能となっています。http://benelux.koppertcress.com

出所:オランダ・イノベーション機構

(NL Agency)

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4 注目を浴びるオランダの園芸産業  安全な食料

8 主要データ 種子から食卓まで

10 インタビュー より多くの食料と健康向上

12 ベストプラクティス インテリジェント温室

14 未来に向かって 世界で最もグリーンな大学

本出版物について

「メイド・イン・オランダ~園芸・育苗および種苗」2013年8月発行 発行所: オランダ・イノベーション機構(NL Agency)住所:NL Agency, Made in Holland, PO Box 20105, 

2500 EC The Hague, オランダ Email:[email protected] 編集責任者: Carin Bobeldijk 最終編集者:Talitha Vrugt 編集者:Kris Kras Design, Werner Bossmann,

Denkend aan Holland 表紙写真:Hollandse Hoogte/Buiten-beeld 協力:オランダ経済省、重点セクター「園芸・育苗および種苗」事務局 装丁・デザイン:Kris Kras Design(ユトレヒト)

翻訳:Concorde Group(アムステルフェーン)

(C) Made in Holland / NL Agency 無断での複製・転載を禁じます。本出版物の内容について、何らの権利も生ずることはないものとします。

16 イノベーション 斬新なロジスティクスへのアプローチ

18 ビジネス展開 健全な未来を共有

20 世界中で 実現しうる最高の環境

22 Win-Winの関係

オランダの競り時計で売買されるケニアのバラ

24 お問い合わせ先 窓口一覧

はじめに平均的なオランダの園芸産業とはどのようなものかを説明するのはとても難しいです。それは、オラ

ンダの園芸・種苗産業を構成する企業は、球根栽培から苗木生産、種子精製にわたる極めて多様で、

活発なビジネスを展開しているためです。

すべての企業に共通して備わっているのは、新たな方向性へと突き進む意欲といえます。それは、よ

り少ないものでより多くを生産すること、ヒトの健康や環境に貢献すること、少しでも持続可能な社

会へと変えていくことです。オランダの企業は、こうした取り組みを行う中で互いに協力することを

好みます。園芸産業では昔から、一人よりも二人、二人よりも三人と、より多くの人々で取り組んだ

方が経済的に多くのものが得られると考えられています。オランダの園芸産業で具体的なビジネスに

的を絞ったジョイントベンチャーの参入が非常に多く見られるのには、こうした背景があります。隣

人との協力関係や、有名な「グリーンな(環境に優しい)」研究機関であるワーヘニンゲン大学との

産学協働も見られます。本パンフレットでは、イノベーションの活用を通じたオランダ企業の世界展

開やオランダ企業との提携・協業という選択肢についてご紹介します

メード・イン・オランダ~ 園芸・育苗および種苗

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注目を浴びるオランダの園芸産業

出所:インコテック

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より少ないものでより多くを生産:種子の改良

現在も多くの国々で人々が飢餓や栄養不良に苦しんでいます。十分(かつ安全)な食料をすべての人々にいきわたらせることは、国連ミレニアム開発目標の最重要課題となっています。この分野において、オランダの園芸産業は作物生産の拡大や害虫・病害の発見や防除に関する革新的解決策を通じて貢献しているといえます。以前はオランダでも化学農薬や耐性品種を利用していました。今日では、より自然に近い手法の効果を評価するようになってきています。45年前、キュウリの栽培農家を営んでいたヤン・コパート(Jan・Koppert)氏は、自身が農薬アレルギーに悩む一方で、害虫の農薬耐性の問題にも直面していました。そこでコパート氏は小さいが有益な生物を使うことにしました。

利用可能な空間や水資源、エネルギー、ミネラルを最良の形で利用し、77億人の人口に適切な栄養をいきわたらせるには、どうすればよいのでしょうか。つまり、どうすれば、より少ないものでより多くを生産することができるでしょうか。この点についてオランダの園芸産業は、健全な種苗と耐性植物品種や持続可能な栽培手法の研究を通じて、多大な貢献をしています。オランダはより環境に配慮した経済へと大きく移行しつつあるほか、賢いロジスティクスや輸送ソリューションを見出しています。種子テクノロジーの真髄を知るにはオランダの「シードバレー」を訪れ、栽培農家や生産者のために種子の品質改良に取り組むインコテックをはじめとする企業を見てください。こうした企業では、種子の

十分かつ安全な食料:昆虫の力をかりて実現捕食性ダニでハダニ、スズメバチでコナジラミに対抗植物の受粉は人間にとって非常に困難な作業でしたが、現在では自然界の受粉専門家であるマルハナバチが利用されています。これにより、より形のきれいなトマトや唐辛子が生産できるようになりました。コパート(Koppert)社の気候セル(climate-cell)は四季を再現することにより、年間を通じてマルハナバチを確保することができます。また、根圏微生物はもちろん、栄養価の高い植物抽出物(生物活性物質)や有益な菌類など、地下栽培に恩恵をもたらす生物もいます。こうした生物はブラジルの微生物培養土壌の大豆栽培においても活用されています。家族企業であるコパート社は23ヵ国でビジネス展開しており、最近では2013年2月にインドに拠点を設置しました。

内部を確認し、X線検査で一つずつ品質を厳選しています。前葉体を検査することにより、サラダ用野菜の種子が温暖な国で栽培可能かどうかを知ることができます。種子は少量の自然物質による養分を塗布することにより、根をはじめとして植物の生育を促します。このコーティング種子を用いた場合、小麦の収穫率(1ヘクタール当たりキロ)は平均4.5%向上します。また、高温蒸気により種子の表皮を除菌するサーモシードといった新技術もあります。

出所:コパート(Koppert)

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注目を浴びるオランダの園芸産業

出所:ワーヘニンゲン大学研究センター(WUR)

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美味しいだけでなく、体にも良い:安全な代替食品

企業イメージの向上や職業訓練・雇用の促進から、社会的責任のあるビジネス実践や市場に関する専門知識まで、あらゆる分野で連携することで、より多くのものが得られより多くの価値が創造されます。園芸は高価値製品を保証する産業であり、生産者から消費者までのバリューチェーンにおける協力を通じて、製品の市場価値を高めることができます。業界が一体となって取り組むのはそのためです。「オランダの成長の元となるのは品質」です。2013年初めにベルリンで開催された世界有数の農産品・園芸見本市「グリューネ・ヴォッヘ」では、オランダはパートナー国を努めました。同見本市は、国外の顧客に自国の製品やサービスを知ってもらう好機であり、それはオランダの園芸産業にとっても同じで

野菜や果物は美味しいだけでなく、体にも良く、脂肪や砂糖などの不健康な食品に対抗できる健康な食品です。野菜や果物をたっぷり取ることで、糖尿病や肥満、心臓・血管系疾患等豊かさゆえの疾病リスクも低減されます。果樹園や畑、その他の園芸産業の副産物によっても、生活環境が緑化され、幸福度が向上します。しかし、特定の野菜や果実にアレルギーがある場合はどうなるでしょうか。そうした問題についても、現在では(軽度の)アレルギー患者が安心してかじることのできるリンゴが開発されています。このサンタナ種は、リンゴ黒星病に耐性のある品種であることから、リンゴアレルギーのある人も食べることができます。ワーヘニンゲン大学研究センター(WUR)でも研究者たちがより

一体となることにより価値を高める:見本市にてす。ドイツはオランダにとって最大の農産物仕向国であり、輸出額は農産物輸出全体の26%に相当する年間194億ユーロとなっています。「グリューネ・ヴォッヘ」の来場者数は45万人にのぼり、多くのドイツ人消費者がオランダ産のトマトやベジタリアンスナック、リンゴソースなどを試食していきます。多くの人々でにぎわう同見本市(展示面積1,200平方メートル)の展示ホールには、企業とナレッジパートナーの両方が参加しました。オランダ農業園芸組織連合会(LTO)の「ハウス・オブ・テイスト」に訪れた来場者は、オランダ製品を試食するだけだけでなく、オランダが実践していることすべてについて学んでいきました。

安全な作物品種の研究を進めています。研究者や育種事業者は、例えば大麦やライ麦、小麦から生成されるたんぱく質であるグルテン不耐症の人々にとって可能な限り害の少ない品種の開発に努めています。WURは企業との産学協働の下で新製品の開発に取り組んでおり、現在ではグルテン過敏症患者向けのオーツ麦を使った代替食品の入手が可能となっています。この食品はグルテンフリーの生産ライン「オランダ・オーツ麦チェーン」で作られています。

出所:グリューネ・ヴォッヘ(緑の週)

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3e オランダは世界第3位の食用作物輸出国です。小さなオランダが世界中に食べ物を供給しているのです。

イノベーター欧州の企業で最も研究開発(R&D)に投資する上位企業25社のうち4社がオランダの園芸企業(ライクズワーン、Nunhems [ヌンヘムス]、エンザ、キージーン)となっています。

種子から食卓まで

オランダの園芸産業は、遠い昔から新鮮な切花や野菜、種

子を世界中に届けてきました。イノベーションの進展によ

り、生産プロセスは大幅に効率化され持続可能なものとな

っています。

24時間稼動するインテリジェント温室、革新的で持続可能な温室栽培用照明、廃棄物と水資源のリサイクルシステム、消費エネルギーを上回るエネルギー生産ができる温室 。 これらはすべて、オランダの園芸産業が世界を豊かにしてきたイノベーションの一例です。

先駆者

主要データ

写真:Sanne Paul(アムステルダム)

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オランダは世界最大の種子輸出国です。年間輸出額は15億ユーロにのぼります。

オランダの野菜輸出量は数量ベースで46億キロ、市場価格ベースで42億ユーロにのぼりました。オランダが世界最大のタマネギ生産国であることはほとんど知られていません。

46億キロ

種子大国

種苗の生産者は利益の15%をR&Dに再投資し、オランダの知識インフラ形成に貢献しています。これは製薬など他の知識集約型産業と比較しても高い水準にあります。

利益の15%をR&Dに

トレンドをリードオランダは世界有数の切花・植物・樹木の輸出国です。オランダの園芸産業はこれまで何年にもわたり市場をリードし、花卉や植物、球根、種子類のトレンドの火付け役となってきました。

エネルギー生産型温室が広く普及しており、コジェネレーション(熱電併給、CHP)を通じて現在のオランダにおけるエネルギー需要の10%をまかなっています。

10%

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インタビュー

「世界はこれまでよりも多

くの食料と健康の向上を必

要としています。」

写真:Edith Paol(アムステルダム)

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トップセクター「園芸・育苗および種苗」チームの指導者であるルーク・ヘルマンス(Loek Hermans)氏は、閣僚経験があるほか、2011年に発足した園芸業界団体「グリーンポート・ホラント」の会長も務めています。同団体は、国外においてオランダ園芸セクターを代表し、オランダ企業と外国企業の関係構築を任務としています。

オランダの園芸・育苗および種苗産業について熱く語るルーク・ヘルマンス氏。オランダ発のイノベ

ーションには想像以上のポテンシャルがあり、それは従来の「球根、樹木、種子」ビジネスをはるか

に超えたものです。将来的に大きな課題を抱える中、それは好機といえます。オランダ園芸セクター

の意欲は以前と同様に高いままです。

「我々は世界に対して多くの提案があり、世界的問題の解決に貢献できるでしょう。」

付加価値の世界チャンピオン

オランダ園芸産業の強みのカギは?「それは様々なレベルで協力が行われていることです。中でも市場向け園芸業者と園芸家が互いに広く協力している点が重要といえます。彼らは国内だけでなく世界中で膨大な量の情報と成果を交換し合い、企業家は互いを競合相手というよりも同士と見なしています。これにより、園芸セクターにおける知見のレベルが留まるところなく向上してきたのです。この点では「グリーンポート(グリーン園芸産業クラスター)」をベースとした企業グループをはじめとするインフラ開発も重要といえます。知識の共有については、企業家は世界有数のワーヘニンゲン大学研究センター(WUR)と数十年にわたる順調な協働関係を築いています。オランダ人は一人ひとりがより大きな集合体の一部であると認識しており、世界で成功を収めるには一体となって前進する必要があると考えています。」

オランダが世界に対して提案すべきことは? 「たくさんあります。世界では20億人の人々が飢える一方で、10億人が肥満となっています。この大きな傾向に共通しているのは、より少ないものでより多くを生産することです。世界はこれまでよりも多くの食料と健康の向上を必要としています。しかし、空間や水資源、エネルギー、ミネラルには限りがあり、不足しています。気候変動の影響で利用可能な農地面積は減少の一途をたどっています(2000年から2020年の間に年間3,500万のサッカー場に匹敵する面積が消失)。人口一人当たりの飲料水は徐々に減少しているにもかかわらず、世帯当たりの消費量は増加し続けています。ゆくゆくは『より少ないものでより多く』を実践しなければならなくなります。そしてそれは我々オランダ人の特技なのです!オランダの市場向け園芸・育苗業者は、植物保護製品や水資源、ミネラルの消費を減らすことにより、世界最高の土地生産性を実現しました。エネルギー効率化や持続可能なエネルギー生産、二酸化炭素(CO2)削減でも先駆者となっています。オランダの育苗・繁殖業は、病害や干ばつに耐性のある作物の種苗も供給しています。生産量を増加させるだけでなく、味も改良し、保存期間も

長期化しています。オランダの知識や製品、生産手法を活用することにより、開発途上国の農業や市場向け園芸業は自国作物の生産量を拡大させることができるのです。そうして、我々は外国政府が自国の作物のポテンシャルを十分認識できるよう手助けすることが可能です。オランダはこの分野では世界チャンピオンなのです。」

自らを世界チャンピオンと称する所以とは「園芸・育苗および種苗産業は、国内向け生産で125億ユーロ、輸出向けで170億ユーロを稼ぎだしており、45万人以上の雇用を支えています。経済学者マイケル・ポーター氏も指摘しているとおり、園芸産業はオランダが世界的に突出している産業であり、だからこそオランダ政府はトップセクター(重点セクター)と見なしているのです。政府は園芸セクターの開発にさらなる資源を投入していくでしょう。」

今後どのようなイノベーションが行われますか?「例えば、健康に関わるイノベーションなどが挙げられます。オランダの園芸産業は世界の人々の健康向上に貢献できます。近い将来、体の活力向上や正しい方法での減量が可能な園芸製品が市場に出ることでしょう。食料消費と肥満が今後本格的に増加していくことを考慮すると、これは重要なことです。そのために食料は不足するようになります。我々が直面しているのは、できる限り少ない資源で可能な限り多くの収穫を得るという課題です。オランダの種子企業は、この課題を克服するうえで基礎となる要素を供給しているのです。例えば、あるオランダ企業が開発した革新的なコーティング小麦種子により、収穫量を4.5%拡大することが可能です。だからこそ、オランダの環境に配慮した倹約型農業の知見は今後重要性を増していくこととなるでしょう。

[email protected]@greenportholland.com @topsectorTU

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インテリジェント温室 暖かい空気で作物を育てるだけの温室は過去のものとなりました。温室メーカーのファンデル

フーベン社は、持続可能性と極めて賢い経済生産性を組み合わせたインテリジェント温室を

世界中に供給しています。同社が開発した「ModulAIR」という温室コンセプトでは、作物要

件、現地の気候関連規制やコストに合わせた温室を作ることが可能です。顧客が選択可能な基

礎的機能としては加圧機能があります。これは、温室内の環境を一定にし、虫の侵入を防止で

きるほか、脱湿・冷却のための外気吸入が可能となり、換気窓の数を最小限に留めることで、

照明を最大限に活用し、虫の侵入を最小限に留めることができます。温室内の空気をリサイク

ルすることにより、栽培に適したCO2濃度上昇が可能であるほか、効率性の高い脱湿によるエ

ネルギー効率化も実現できます。同システムは、すでにフランスやロシア、オーストラリア、

北米市場で供給されています。

www.vanderhoeven.nl

植物の声を聴く 植物と利益にとって最良な選択を作物自身に決めさせること。これはオランダのプリバ社(従

業員400名、世界に9拠点)が定める壮大な目標です。同社は、「Priva TopCrop」という独

創的なソフトウェアとセンサーを用いて、作物の状態と園芸企業家の経営目標の両者を管理

しています。テクノロジー企業である同社の製品マネージャーであるヨリット・ブディング

(Jorrit Budding)氏によると「目に見える植物の状態から、これまでの発育環境が分かるの

です。」「Priva TopCropはこれを記録するものです。生育や病害リスク、水分摂取をモニタ

リングし継続的に記録することにより、栽培業者は独自の新しい洞察を得ることができるので

す。」

栽培業者は植物と「対話」することが可能となり、それに基づいて自分自身またはPriva

TopCropを用いて植物の生育状態を決めることができるのです。www.priva.nl

米国カリフォルニア州のシリコンバレーは高純度のシリコン抽出をきっかけに生まれましたが、オランダのシードバレーの成功のカギは種子です。エンクハイゼンからワルメンハイゼンにわたる同地域には20社以上の種子や球根、挿し木などの種苗の育成、生産、販売企業が集積しています。シードバレーの企業はシリコンバレーと同様に高付加価値の技術開発に日々取り組んでいます。発芽力の高い種子・種苗のための技術開発を通じて、より効果的な播種や植え付けを可能にし、病原体からの防御力を強めることを目指しています。シードバレー発の革新的で独創的な機械化技術は世界中の種子企業に利用されています。www.seedvalley.nl

種子産業の中心地

ベストプラクティス

オンタイムで持続可能な輸送 オランダは、新鮮な野菜・果実類の世界的栽培、取引、流通で主要な役割を果たしています。

国内生産品や輸入品はすべて南西部を通じて流通経路に流れます。流通のスピードと持続可

能性の向上のため、関連するすべての分野の企業と政府は「フレッシュ・コリドー(Fresh

Corridor:新鮮なルートの意)」の下で連携しています。「フレッシュ・コリドー」では今後

数年間で「AGFコンテナ」を用いた複合輸送の推進し、道路輸送に代わり、内陸水運を主要な

輸送経路とすることを目指しています。マースフラクテII地区の拡張に伴い、道路交通量がさら

に増大することを考慮し、複数の地点に水上輸送コンテナ用の積み替えポイントを設置するこ

とにより、これらのポイントを通じて生鮮商品の輸送が可能となります。現在のロッテルダム

港の果実ターミナルは、生鮮製品の水上輸送ターミナル・積み替えポイントのネットワークか

らなる近代的なクールポートに生まれ変わります。www.freshcorridor.nl

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キノコ類の有益な効果 キノコ類は様々な料理の味を引き立てる食材ですが、なかには、人体に有益な効果をもたら

すものもあります。アガリクス(Agaricus Blazei Murril)には免疫機能を安定させる化学物

質が含まれており、食物アレルギーや抵抗力低下に効用があります。家族企業のシェルタ・

マッシュルーム(Scelta Mushrooms)社は、ある科学者がアガリクスの医学的効用に注目し

て以降、長年にわたりキノコ類を販売しています。同社のヤン・クラーケン・ジュニア(Jan

Klerken Jr)氏によると、「当社はアガリクスに利益を見出すことができました。」

その効用は欧州食品安全機関(EFSA)の科学的報告書でも確認され、シェルタ社は2012年以

降、オランダの自然食品チェーンとネットショップを通じて補助食品としてアガリクスを販売

しています。アガリクスは健康に良いだけでなく味も良いため、近々ドイツのスーパーマーケ

ットでアガリクス入りパンの販売も始める予定です。フランスやベルギーからも引き合いがあ

り、今後さらに多くの市場を視野に入れています。www.sceltamushrooms.com

いつでも、どこでも PlantLab社によると、将来的に食物生産の大部分は都市部や青果物店の地下、レストランの

厨房に設置された多段式、積層型の垂直苗床で事足りるようになるといいます。完全に自動

化された植物生産ユニットで、太陽光ではなく青色、赤色、不可視紫外線LED照明を浴びて

育ったレタスやハーブ、トマト、その他多くの野菜や果実が収穫されるようになるのです。

食物は家庭で育てられ、新鮮で健全かつ味わいの出る食べ頃に収穫されるようになります。

同社は、独特な技術や栽培コンセプト、数学モデルの組み合わせにより、作物栽培に革命を

もたらそうとしています。この正真正銘の「植物の楽園」では、農薬が不要で、使用する水

資源の量も従来の栽培システムと比較して90%減となります。PlantLab社の最終目標は、生

産を最大化し、誰もがいつでもどこでも、安全かつ確実に日常食料のニーズを満たすことが

できる世界へと変えて行くことです。www.plantlab.nl

迅速な診断 すべての野菜・果実栽培業者にとって、伝染病は頭痛の種です。有害な微生物や菌類により、作物全体

が一瞬で廃棄物に変わるなど大損害をまねく恐れがあります。栽培業者の資金繰りにとって打撃となる

だけでなく、環境的視点から見ても持続可能であるとはいえません。迅速な措置を行うことにより、

栽培業者は収穫が増加し、社会にとっては処理すべき廃棄物が減少するため、皆にとって有益といえま

す。したがって、園芸産業にとっては迅速で正確な診断は大いに歓迎されることです。そして、それが

NSure社のコアビジネスでもあります。同社は近年、企業家が生産チェーンにおける品質上の問題をご

く初期に発見するための技術改良を重ねてきました。同社の技術の強みは、診断の対象となる果実や野

菜、植物の内部の生物学的プロセスを見られる点にあります。つまり、品質上の問題が外側に現れる前

にそれを阻止できるということです。www.nsure.eu

「当社は顧客に厨房まで入ってきてもらうのです」と語るのは、シオン・オーキッド(Sion

Orchids)社のエリック・ムーア(Eric Moor)社長。蘭の幼苗のサプライヤーである同氏が心

がけているのは、栽培業者に安心感を与えることです。同社は長年にわたり小売向けの特別な

蘭を開発してきました。花卉・植物セクターが景気後退の打撃を受けた時、同氏は自社を完璧

なサプライヤーへと進化させるべく、新たな方向に経営の舵を切りました。「当社は栽培業者

に対して、どのような形や色の商品がよいか、どのような配送方法を希望するかを尋ねます。

」また、同社は育苗業者にも門戸を開き、希望する育種関係者らと共に年に2回程度アジアを

訪問しています。「当社が気にしているのは注文そのものではなく、ワンランク上の評判を得

ることです。」また、同社は栽培業者の最新のニーズに関する情報にも通じています。シオ

ン・オーキッド社は特別な要請を受け、専門試験所への協力も行っています。「本来なら競争

相手となってしまう企業同士が協力を通じて共に強くなるのです。」www.sion.eu

ワンランク上のサプライヤー

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未来に向かって

世界で最もグリーンな大学

出所:WUR植物科学グループ

オランダ中部にはグリーン発電所があります。ここでは知識と実践が連携し合い、世界的な名声を得

ています。ワーヘニンゲン大学研究センター(WUR)は長年にわたり、園芸・種苗産業のイノベーシ

ョンの源となってきました。その秘密を語るのは、植物科学グループ最高責任者のエルンスト・ファ

ン・デン・エンデ(Ernst van den Ende)氏。「ここでは基礎科学と応用科学の間に分け隔てがあり

ません。」

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球根栽培業者と研究者は、球根を砂地に植えて育てることができるかという命題を何十年間も考えてきました。「できる」場合、球根の栽培可能地域が飛躍的に拡大するためです。栽培業者と科学者は政府の支援の下、この問題の研究をすることを決意しました。この研究には15年もの年月がかかりましたが、オランダで最も良く知られる輸出品にもつながる画期的なイノベーションとなりました。チューリップやユリ、ラッパスイセンの球根を特別なネットに入れて植え込むと、固い粘土質の土壌でも生育するだけでなく、収穫効率もあがることが明らかとなりました。この「ネット栽培」方式の発見以来、栽培可能面積は飛躍的に拡大し、国内の他地方にも広がりました。WURの植物科学グループの最高責任者であるエルンスト・ファン・デン・エンデ氏は、この発見について「いかにもオランダ的」と評しています。「これは企業家や研究者単独では達成しえなかった発見です。開かれた研究体制のもとで一体となって取り組んだからこそ、15年もの年月をかけて研究し、実験し、このイノベーションを商業化することが可能となったのです。」

オランダの典型 同氏によると、「オランダの農業セクターは長年にわたり協調を旨としてきました。互いに協力し合うべきだと。オランダの耕地面積は広くはなく、昔から農園は互いに隣接し合っていました。つまり、農業生産者たちは頻繁に顔を合わせ、狭い耕地から大きな収穫を得るため、相互に協力しなければならなかったのです。これが協同組合や勉強会の組織につながり、こうした組織を通じて共同で農具の購入や最新情報の共有を行うようになったのです。「オランダの農業経営者らの高い組織力と緊密なつきあいが功を奏し、新たな知識が迅速に実用化されるのです。」

知識を活用 今日、イノベーションの方法は以前よりも多様化しています。WURはその好例です。同氏によると、「研究者が企業家に対して知識を一方的に『ばらまいて』いたのは昔の話で、現在ではプロセス全体が相互交流と交換によって成り立つようになっています。今日のイノベーションのための主要手段は官民連携(PPP)です。」これを通じてWURでは一貫して知識の活用(換金)を実現しています。「この『知識活用』はワーヘニンゲン大学の強みです。我々は研究を有形の製品へと昇華させ、イノベーションを創出する技能に長けているといえます。」毎年、23以上の研究ポストと8つの事業部門が恒常的に特許申請や出版物の発行を行い、イノベーションでの成功を収めています。その一例としては、発電型温室が挙げられます。温室は長年の間、電力の一大消費施設と考えられていました。ある時、オランダの企業家が、温室は大型の太陽熱収集器であり、夏

季には必要以上のエネルギーを集めているということに気が付き、WURの研究者や政府からの支援の下で、夏季に集めたエネルギーを地下に貯蔵し、冬季に利用するために放出する技術開発に成功しました。この技術の効果は高く、今や温室はエネルギー生産量が消費量を上回っています。

世界に焦点 ワーヘニンゲンが国際的名声を得るに至った背景には、こうしたイノベーションがあるのです。同氏によると、「園芸分野におけるオランダの知見は海外からも引く手あまたであり、おそらく100ヵ国以上の国の人々が当学に仕事や勉強に来ています。」ワーヘニンゲンの名は国外のどこに行っても通用する一方、オランダ国内での知名度は極めて低いです。「政府の農業・園芸に対する政策的優先度が他国よりも低いからでしょう。オランダには食糧難の問題はありませんから。」ワーヘニンゲン大学は他国政府からの支援要請を頻繁に受けています。「例えば、食料安全保障や健康、栄養についての支援要請などがあります。生産効率化手法に関する我々の知識への要請も高いです。」こうした要請に対応するため、同大学は中国とチリの2ヵ国に海外拠点を設けています。

園芸イノベーションのインキュベーター とはいえ、オランダの独特の知識インフラは、大もとの拠点であるワーヘニンゲンに留まっています。ファン・デン・エンデ氏は、オランダは園芸分野における多数のイノベーションのインキュベーターであり、今後もその役割は変わらないと考えています。毎年、オランダの中枢から数百件の需要主導型研究プロジェクトが実施され、膨大な数の特許が申請され、多数のイノベーションが生まれているのです。「植物育種の分野では、ゲノミクスで目覚ましい進展を遂げており、分子レベルでの遺伝性特徴の研究を通じて、植物の品種改良を図っています。種子コーティングでは、新たな可能性の世界が開かれつつあります。」しかし、同氏は、「我々は世界をリードできるだけの材料を持っているといえるでしょう。少なくとも当面は。」との皮肉も覗かせています。

植物科学グループ最高責任者のエルンスト・ファン・デン・エンデ氏はワーヘニンゲン大学を卒業後、植物病理学の講座を持ち、27年前からワーヘニンゲンで植物研究に活発に取り組んできました。

facebook.com/[email protected] @ErnstvdEnde

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イノベーション

緑の遺伝子革命

活発な知識インフラ

社会問題のソリューション

キージーン社が従事すれば、緑の遺伝子革命は数年以内に本格化するかもしれません。ワーヘニンゲンに拠点のある同社は、農業セクターにおける分子遺伝学の分野で世界トップレベルの企業です。キージーン社は主に食料(家畜向け飼料も含む)、繊維、燃料、装飾花、鑑賞用の作物改良に取り組んでいます。同社の緑の遺伝子革命とは、野菜などの作物の自然な遺伝的差異を研究・活用することを指し、これを通じて、安定した良品質の作物生産を求める世界のニーズに対して持続可能な解決策をもたらしました。同社は世界各国に135名の従業員を擁し、戦略研究と応用研究の両方に取り組んでいます。また、米国のロックビルと中国の上海に海外拠点があります。 www.keygene.com

オランダ企業は、種苗の生産においては世界最高峰に位置しています。この地位を維持するために整備されたのが、官民連携(PPP)基盤です。PPPの下で、参画企業と研究機関、政府機関が一体となってイノベーションと相互連携を推進しています。オランダは年間約15億ユーロにのぼる種苗を輸出しており、同セクターの重要性は明らかです。世界における園芸・耕作農業用種子の輸出の40%近くがオランダ産で占められているほか、種芋についてはその割合は60%に達しています。トップセクター「園芸・育苗および種苗」は、世界的な競争力を維持するために最適な知識インフラを形成しました。知識労働者の養成や研究の継続性はそのための出発点となっています。www.topsectorTU.nl

トップセクター「園芸・育苗および種苗」は、全部で9つの柱からなるオランダの重点セクターの一つです。同セクターでは、2020年までに食料不足や不健全な食習慣といった社会問題の持続可能な解決策の分野で世界市場での主導権を握ることを目的としています。トップセクターは基本戦略から応用研究、商用化までのあらゆる分野に着目し、農業・園芸に焦点を合わせた応用研究の実施について選択します。それぞれの研究プロジェクトは、イノベーションに関わる4つの中心的テーマ(いかにして空間や水資源、エネルギーを節約しつつ高価値の食物生産を行うか、食料安全保障をどう実現するか、健全な食生活や生活・労働環境づくりに園芸製品がどう寄与するか、効率性、収益性および持続可能性を伴った園芸生産チェーンの実現のためにどのような解決策があるか)を指針として進められます。www.topsectorTU.nl

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知識をテコに競合に先んじる

ラッパスイセンの隠れた力

農業分野では、知識の力を活用して最適生産量を得ることができます。ジーン・ツイスター(GeneTwister)社は、ゲノム育種(遺伝特性を活用した作物品種改良)とグリーンバイオテクノロジーの独自技術を開発することにより、農業や市場向け園芸業の企業が競合企業に先んじることができるよう手助けをしています。また、同社はバイオテクノロジー部門も設置しています。今や、潜在的なバイオマーカーや遺伝子(および遺伝子発現の)データベースに関する情報の拡大を考慮することが不可欠となっています。ジーン・ツイスター社が参画するプロジェクトの一つ、「トマト苗立枯病」では、オランダの種子企業ベーヨウ・ザーデン(Bejo Zaden)社とタイのイーストウェスト・シード(East West Seeds)社と共に、立枯病(熱帯地域で広範囲にわたり損害を及ぼしている植物病害)に耐性のあるトマトの開発を進めています。www.genetwister.nl

オランダ産花卉の素晴らしさは見た目だけではありません。ラッパスイセンやスノードロップなどの球根植物には、ガランタミンという物質が含有されています。この物質は、軽度から中等度の認知症の治療にこれまで効果を示しています。ガランタミンの効用についてはライデン大学やナイメーヘン大学が研究を進めており、すでに複数の抗認知症薬で使われています。オランダでは、こうした薬品の原料生産のため、100以上の畑にラッパスイセンが栽培されています。この物質やその他の治療方法についてさらなる研究が必要とされています。アルツハイマー病患者数はオランダ一国だけでも23万5,000人にのぼり、2050年にはその数は倍増すると予測されています。www.umcn.nl

科学と情報通信技術(ICT)の架け橋

最新の科学研究では膨大な量のデータが発生しており、この「ビッグデータ」を有益な情報へと転換することが大きな課題となっています。これは特に、次世代シークエンシングプロジェクト(DNAシークエンシング)のデータを育種関係者にとって有益な知識に変えるという意味で重要です。グリーン遺伝子学先端技術研究所(The Top Technological Institute for Green Genetics)(TTI-GG)と、科学とICTの架け橋的役割を担っているオランダe-サイエンスセンター(Netherlands eScience Centre)(NLeSC)の提携には、こうした背景があります。「育種のための仮想実験室におけるグリーンe-サイエンス」プロジェクトでは、ユーザーが膨大な遺伝子データの保存、統合、分析をするためのインフラの構築が進められています。これは、世界トップレベルにあるオランダの育種家と研究機関の地位を守るうえで重要な貢献を果たすことになるでしょう。www.groenegenetica.nl

写真:iStock

写真:Martijn van Dam fotografie

出所:ジーン・ツイスター(GeneTwister)

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健全な未来を共有

2050年には地球の人口は90億人に達します。すべての人々に食物を行きわたらせるにはどうすればよいの

でしょうか。この点において、オランダの園芸産業は重要な役割を果たすことができると語るのは、野菜の

種苗企業ライクズワーンのマルコ・ファン・レイウェン(Marco van Leeuwen)氏です。世界の食糧供給

を確保するには、アフリカの小規模農家や市場向け園芸業者の関与が不可欠です。また、それは支援ではな

く、地場産業や国際的な産業の振興を通じて行うべきです。タンザニアでは子会社のアフリセム(Afrisem)

社が、イーストウェスト・シード社との協業を通じて初めてアフリカでの栽培に適したナスの交配種の開発

に成功しました。「当社は独占的にならないことを選択しました。」

グローバル問題

出所:ライクズワーン

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取締役としてビジネス面を担当するマルコ・ファン・レイウェン取締役によると、「当社は野菜の種苗ビジネスに特化しています。」「我々は病害や害虫に耐性のある作物づくりに取り組むことにより、アフリカ東部と西部の農業生産者の収穫安定に貢献しています。これにより自国に食料安全保障がもたらされ、将来的には輸出も可能となるかもしれません。これは開発途上地域の人々が自力で実現すべきことなのです。2050年までに世界の食料生産量を倍増させるには、種苗の生産が重要な役割を果たすことになります。面積当たり収量が多く、干ばつ(または反対に)水害に強い作物の開発も必要です。」

最初はローテクから 「当社は、世界の食糧問題の解決策の一部を担っているに過ぎません。アフリカ各地の農業生産者はまず、ノーテクからローテクへと段階を踏む必要があります。我々は開発途上地域の生産者に、進んだ栽培技術や化学肥料の利用、水資源管理、トンネル栽培や温室栽培など、欧州北西部のノウハウを紹介します。しかし、こうしたノウハウ移転の資金が必要となります。食糧問題への協調的取り組みにおいては、こうした要素を把握しておく必要があります。これができるのは国連ですが、オランダのトップセクター「園芸・育苗および種苗」も政府、研究機関、企業が一体となって連携しているため、プロジェクト支援が可能です。その好例がイーストウェスト・シード社、ライクズワーン、応用植物研究所(PPO)によるセビア(Sevia)・プロジェクトです。同プロジェクトではタンザニアに複数の試験場を設置しようとしています。

知識を共有 「試験場をつくり、現地の生産者や市場向け園芸業者のために品種試験をしたいと考えています。また、栽培手法や灌漑、作物保護、肥料の使用について教えるとともに、収穫物の販売においても支援します。対象とするグループは、欧州人が所有する既存の大型農園ではなく、小規模農家です。将来的には、そうした小規模農家を核として、栽培手法、トンネル・温室栽培、灌漑システム、貿易業、マイクロクレジット機関などに関わる他の企業も参画していくことで、地場産業や国際的な産業も形成されていくべきです。現在は資金面の問題がありますが、当社が知る限り、将来的に商業ベースで試験場を運営することに対する障害はありません。我々は皆が健全な未来を共有し、小規模零細企業にもチャンスが与えられるよう、知見を広く提供しています。このセビア・プロジェクトでは、我々は独占的にならないことを選択しました。知識が囲い込まれることなく、アフリカ大陸全体に広く普及していくことを望んでいます。」

アフリカで開発する 「ライクズワーンの子会社アフリセムでは、アフリカの農業生産者や市場向け園芸業者に特に適した品種を開発しています。世界の食糧供給においては企業が中心的な役割を果たすことができると確信しています。ライクズワーン社は、オランダ外務省が統括する官民連携(PPP)の取り組み「栄養不良に対するアムステルダム・イニシアティブ(AIM)」に参加しています。AIMは、DSMやユニリーバといった多国籍企業だけでなく、ワーヘニンゲン大学やラボバンクも参画するイニシアティブで、アフリカ数カ国やインドネシア、バングラデシュなどの国々における家庭菜園の普及を促進しています。また、国連食糧農業機関との間でも密接な関係づくりを行い、アフリカにおける小規模食料生産という目的を共有しています。」

責務「オランダは食料供給の分野で多大な知見を有しています。ライクズワーン社は種苗企業として、世界が直面する数々の課題に取り組むための知識と手段を持っています。だからこそ、我々ができることをすべきとの責務を感じています。それは、健全な野菜によって栄養不良や不健全な食習慣、肥満といった問題に取り組むことであり、新栽培手法の普及を通じた生態系への負荷軽減であり、増加する世界人口に健全な食料を十分に供給することです。これらの目標を、他の企業や研究機関、政府との連携の下で達成すべきと考えています。」

ライクズワーン社(本社:デ・リール)のマルコ・ファン・レイウェン代表取締役ライクズワーン社は世界中で展開している野菜の種苗企業であり、業務用市場向けに高価値野菜の品種開発を行っています。家族企業である同社は、従業員2,000名のうち半数以上が国外拠点で働いています。

[email protected] @RijkZwaanNL

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20 MADE IN HOLLAND

実現しうる最高の環境を

バラは最初地面に植えられ、その後ロックウールに植えかえます。(オランダの)外気に当てられた後、暖かい温室に移し替えるのです。ヴァン・デン・ベルグ・ローズ(Van den Berg Roses)社は1975年から最適な条件下でのバラ栽培に取り組んでいます。アリー・ヴァン・デン・ベルグ(Arie van den Berg)によると、今でも世界最高品質のバラはオランダ産ですが、家族企業の同社は2004年よりケニアで、また2007年にはアジア市場向けに中国でもバラ栽培を始めました。アフリカでは、バラは自然の光と熱で生育するため、低コストで栽培できます。ケニアの従業員とその家族には、住居、交通、医療、教育に関する支援を行っています。www.en.vandenbergroses.com

世界中で

出所:ヴァン・デン・ベルグ・ローズ(Van den Berg Roses)

実現しうる最高の環境を

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オランダの園芸産業に寄り添って成長

マランケプランツ(Maranque Plants)社は、エチオピアにあるオランダ企業です。ここではスウェーデンのスウェンソン・グローバル(Svensson Global)社の温室用スクリーン「ハーモニー」の下で作物が育ち、手入れされています。同社は過去40年間にわたり、オランダの園芸に寄り添って成長してきました。革新的な園芸用スクリーンを使うことで理想的な気象条件が実現でき、省エネや害虫の侵入防止、火災からも保護されます。日中は温室に差す日差しを反射し、室温の過度な上昇を防ぎます。白地の帯模様が施されており、光を最適な形で分散させることができます。このスクリーンに蓄えられた熱を夜間の室温維持に使うことで、結露を防ぎます。 www.svenssonglobal.com

オーダーメイドの温室

典型的なオランダの風景に見えるかもしれませんが、これは地球の裏側、タスマニア島のフラワーデールです。オランダ製の温室は、農地だけでなく砂漠、都市、山岳地帯などあらゆる場所で使われています。ファンデルフーベン・園芸プロジェクト(Van der Hoeven Horticultural Projects)社は、様々な環境や気象条件に合わせた温室を多数建設し、ターンキー・プロジェクトにも応じています。同社は60年前の創業以来、設計から製造まで一手に手がけることで、プロジェクトによって生じる不測のニーズにも迅速に対応してきました。注文があれば、カナダのバンクーバーのプロジェクトのようにビルの屋上(都市型農業)に温室を設置することも可能です。www.vanderhoeven.nl

出所:ファンデルフーベン

出所:スウェンソン・グローバル(Svensson Global)

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Win-Winの関係

インダー・ナイン氏は、初めはバラ栽培を手がけるつもりはありませんでした。以前はケニアのまったく異なるセクターで同郷のインド人らと共に働いていました。しかし、アフリカの土壌で急速に成長する花を見て、良い投資機会だと思い、2007年にエクスプレッションズ・フローラ株式会社を創業しました。ナイン氏によると、「当社は目覚ましい成長を遂げました。読みが当たっていたということでしょう。」「不安定な時期はありました。ケニアのロジスティクスや制度は必ずしもビジネスしやすいとはいえないため、フローラ・ホランドの組合企業になったことで多くの業務負荷が軽減されました。」

最初のコンタクトのきっかけは? インダー氏:「花卉ビジネスに関われば、すぐにオランダについて知ることとなります。当社がやっているのは、結局はオランダのノウハウを真似ることです。フローラ・ホランド社は、世界中の成熟した花卉・植物市場に迅速につないでくれます。同社の支援がなければ、自力で販売網を構築し、輸送を手配しなければなりません。装飾花の栽培ビジネスに参入したばかりの当社にとっては、同社と組むのが最も容易だと考えたのです。」

オランダの協同組合が外国で組合企業を募ることになった経緯は? ファンデルコーイ氏:オランダの組合企業と同様に、外国企業も低い手数料で最適な市場価格を実現することができる上、それと引き換えに共同出資者となり、協同組合の経営会議に加わることができます。例えば、アールスメールとナールトウェイクに所有する建物への投資についても、一見場違いであっても、議論に参加してもらうのです。外国籍の組合企業の中には当社を単なる営利企業と見なしているところもあります。インダー氏のように当社のビジネスに積極的に関与し、多様な視点をもたらしてくれる組合企業は極めて貴重だと思います。」

こうした提携からフローラ・ホランド社が学べる点は? インダー氏:「横から口をはさんでしまいますが、当社は欧州市場を販路と見てフローラ・ホランド社を提携相手として選んだのですが、最近ではアジアやオーストラリアなどの新興市場のバイヤーから引き合いが増えています。」ファンデルコーイ氏:「その点は当社も把握しています。我々はオランダ国外の主要生産地域に事務所を構え、製品である花卉・植物が最良の状態で競りに届くよう配慮しています。将来的にはインターネット競売を通じて、製品が生産地から最終市場に直接

‘The Dutch are famous for integral approach’

ファンデルコーイ氏は、フローラ・ホランド社のナイロビ支社長として4年前からケニアに駐在しています。2013年夏以降、新規市場のバイヤー開拓と国際的に活躍する育種関係者への売り込みを始めました。フローラ・ホランド社は2008年後半より、国外の組合企業にも「競り時計へのアクセス」を許可しており、750台のうち90台がケニアにあります(組合企業数は5,000人)。フローラ・ホランドはその規模において世界有数の花き・園芸植物のセリ市場であり、組合員の多くは以前から同社の前身企業(1901年創業、5ヵ所に拠点)に出荷していた業者です。

オランダの競り時計で売買されるケニアのバラ

フローラ・ホランド(FloraHolland)社(オランダ、アールスメール)、へルト・ヤン・ファンデルコーイ(Geert Jan

van der Kooij)氏

facebook.com/[email protected]

@FloraHolland

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送られることになるかもしれません。当社はそのため、現在オランダでの競りで導入している払い戻し不可システムを調整しているところです。また、我々は常に、育種家とバイヤー間の直接取引が促進されるよう図っています。」インダー氏:「すぐにはそのような変化は起きないと思います。オランダは他国に大きく先んじていますが、国外で何が起こっているかを見失うリスクもあると思います。」

オランダが競りの中心地でいられる理由は? ファンデルコーイ氏:「オランダは依然として世界的な花卉・植物の競売市場であり、日本での競売提携や中国とブラジルの動向注視など、世界的地位を維持するため積極的に取り組んでいます。こうした国々の競売市場はオランダとは比較にならないほど小さいですが、国外市場を通じて世界の花卉市場の変化を感じ取ることができます。我々は、外国組合企業へのヒアリングも行って、その点をフォローしていくつもりです。

インダー氏はフローラ・ホランド協同組合の出資者として、ご自身にオランダ人的なところを感じますか? インダー氏:「いや、それはあまり感じませんね。私はまだインド国籍を保持していますし。その一方で、私はオランダに頻繁に出張しており、オランダ人とは非常に仕事がしやすいと思っています。オランダの高度な流通・競売システムからも多くのことを学びました。それに伴い、ケニアでの観葉植物栽培もより高度になっています。」ファンデルコーイ氏:「当社は常にナイロビ空港到着時の花の温度低下に努めてきました。以前は18度でしたが、輸送委託の際に冷却システムとデータ記録装置を導入、現在では14度まで低下しました。これにより、1週間の『花持ち』を保証できるようになりました。」インダー氏:「フローラ・ホランド社との提携は品質向上の面でも貢献しています。顧客の要求は非常に厳しく、我々は生産供給チェーンの改善に共に取り組んでいかなければなりません。労働環境の改善や持続可能性、また海上コンテナによる輸送の導入といった実用面まで、様々な取り組みがあります。 」

‘The Dutch are famous for integral approach’

ナイン氏によると、ケニアの気候は「空調不要」。平均気温が夜間12度、日中26度と理想的な条件です。エクスプレッションズ・フローラ社は、赤道以南の数ヵ所で標高2000メートルの高さに設置した温室でバラを栽培しています。2007年に「商機」があると思われた観葉植物の栽培を手がけて以来、2013年末までに栽培面積は45ヘクタールから75ヘクタールに拡大しました。これにより、同社は平均的な規模のバラ栽培業者の仲間入りをしました。ケニアの大手バラ栽培業者は約200ヘクタールの栽培面積を有しています。

フローラ・ホランド社の競り時計は1世紀以上前から使われてきました。

非営利の協同組合である同社のビジネス手法はこの間にほとんど変わってはいませんが、昔

と違うのは今ではオランダ国内の5拠点で世界中から集まる切り花や植物が競りにかけられる

という点です。国外の育種家は、フローラ・ホランド社の将来について決定権のある組合企

業として名を連ねています。「経営に意見してくれる組合企業は貴重です。」

エクスプレッションズ・フローラ(Xpressions Flora)株式会社(ケニア、ナイロビ)、インダー・ナイン

(Inder Nain)氏

facebook.com/pages/Xpressions-Flora

[email protected]

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お問い合わせ先

オランダのビジネス環境

オランダのビジネス環境を紹介したポータルサイ

トです。オランダの概況、市場、規則や規制につ

いての情報が閲覧できます。インフォメーショ

ン・センターでは、オランダでのパートナー企業

探しをお手伝いいたします。

www.hollandtrade.com/business-information

オランダ在外公館と企業支援オフィス

グローバルネットワークを通じて、ビジネスのき

っかけや問い合わせ先をご案内いたします。スタ

ッフが輸出入のお問い合わせや貿易支援プログラ

ムに関する情報提供をいたします。

www.minbuza.nl/en/services/trade-

information/trade-information.html

農務参事官ネットワーク

在外公館に在籍する農務参事官が、オランダ・ト

ップセクターとの国際連携における窓口となりま

す。

イノベーション担当官ネットワーク

在外公館に在籍する担当官が、オランダ・トッ

プセクターとの国際連携における窓口となりま

す。www.agentschapnl.nl/en/nost

オランダ経済省企業誘致局(NFIA)

NFIAはオランダでのビジネス展開や、欧州でのビ

ジネス展開の足がかりとしてオランダのビジネス環

境の活用を検討する外国企業にとっての最初の窓口

です。www.nfia.nl

オランダのトップセクター(重点セクター)

政府はオランダが世界的に優位性を持つ以下の産業

を重点分野と位置づけています。

園芸・育苗および種苗、農産物・食品、ハイテク、

エネルギー、ロジスティクス、クリエイティブ産

業、ライフサイエンス、化学、水

www.government.nl/issues/entrepreneurship-

and-innovation/investing-in-top-sectors

トップセクター「園芸・育苗および種苗」

トップセクター 「園芸・育苗および種苗」は、園

芸施設における植物生産チェーン全般、園芸・農業

施設における種苗全般を指します。したがって種苗

産業、生産(温室・露地)、および加工業、サプラ

イヤー、販売・流通業も含まれます。同産業は、野

菜から果実、樹木、花卉、球根まで広い範囲にわた

っているほか、種苗セクターには繁殖材、幼苗、植

え付け用種子などが含まれます。

www.topsectorTU.nl

グリーンポート・ホラント

オランダの園芸クラスターは、栽培会社、競売

業、商社、輸出業者、園芸サプライヤー、金融・

コンサルティングサービス会社など、様々な企業

や機関によって構成されています。「グリーンポ

ート・ホラント」は園芸クラスター全体を示す名

称です。オランダの園芸産業は、6ヵ所のグリー

ンポートとその周辺地域に分散して集積していま

す。 www.greenportholland.com

グリーンポート・ホラント・インターナショナル

グリーンポート・ホラント・インターナショナル

(GHI)

同財団は、グリーンポート・ホラントを母体とし

た、オランダの園芸産業、専門機関、政府の連携

による独立機関です。GHIは、国際的かつ持続可能

な事業を通じてオランダの園芸産業の収益力を向

上させることを使命としています。

www.greenporthollandinternational.com

Source: NL Agency