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日本大学生産工学部研究報告A 2006年12月第39巻第2号 メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作製した アルミニウム-ホウ化物系複合材料の構成相と機械的強度特性 久保田正広 ・金子純一 ・菅又 Constituent Phases and M echanical Properties of Al - BorideCompositeM aterialsProduced by M echanically Alloyed and Spark Plasma Sintering Processes Masahiro KUBOTA , Junichi KANEKO and Makoto SUGAMATA An air-atomized pure aluminium powder was mechanicallyalloyed (M A)with AlB or M gB byusing a vibrational ball mill,and obtained MA powders were consolidated by spark plasma sintering (SPS). Solid-state reactions of MA powders have been examined by X-ray diffraction(XRD),and mechanical properties of the SPS materials have been evaluated byhardness measurements and compression tests. The solid-state reactions in both Al-AlB and Al-M gB systems occurred between the M A powders and process control agent after heating at 573K to 873K for 24h.Formation ofAl BC ternarycompound occurred in both systems.After the heating,γ -Al O was formed in the Al-AlB system whereas MgAl O was formed in Al-M gB system.As theresult ofsolid-statereactions in both systems,hardening was observed in M A powders after heating at 573K to 873K for 24h.When 4h M A or 8hM A powders in both systems were spark plasma sintered byan applied pressure of 49M Pa at 873K for 1h,the full densityof the conpact was obtained.The compressive proof strength of the SPS material ofAl-M gB was higher than that of Al-AlB . The SPS material of Al (MgB ) from 8h M A powder exhibited the highest compressive proof strength of 846MPa at room temperature. Keywords: M echanical alloying, Spark plasma sintering, M echanical properties, X-ray diffraction, Nano-structured materials 1. 緒言 メカニカルアロイング (M echanical Alloying : M A) 法により,金属マトリックス中に種々のセラミックス粒 子を微細一に分散させ,常温および高温での強度向上 を図る研究が数多く行われてきた 。これらの材料で は,セラミックス粒子がマトリックス中に微細一に分 散することで得られる分散強化,強加工によるマトリッ クスの加工硬化と結晶粒微細化による強化などが複合的 に寄与することで優れた機械的性質が導き出されてき た。 MA 法では材料設計の自由度が大きいことから,アル ミニウムに添加するセラミックス粒子は,けい化物 ,酸 化物 ,窒化物 ,炭化物 およびほう化物 など,いずれ も溶解鋳造法によるプロセスでは複合化が困難とされる 合金系がこれまで研究の対象とされてきた。MA 粉末を 固化成形する際の熱処理で,熱力学的に不安定なセラ 7 日本大学生産工学部機械工学科専任講師 日本大学生産工学部機械工学科教授

メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作 …...MA助剤はステアリン酸(C욼웂H욾움COOH)で,その添加量 はMA処理中の焼付きの程度を쬠慮し,4hMAおよび

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論 文 日本大学生産工学部研究報告A2006年 12月 第 39巻 第 2 号

メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作製した

アルミニウム-ホウ化物系複合材料の構成相と機械的強度特性

久保田正広 ・金子純一 ・菅又 信

Constituent Phases and Mechanical Properties of Al-Boride Composite Materials Produced by

Mechanically Alloyed and Spark Plasma Sintering Processes

Masahiro KUBOTA , Junichi KANEKO and Makoto SUGAMATA

An air-atomized pure aluminium powder was mechanically alloyed(MA)with AlB or MgB by using

a vibrational ball mill,and obtained MA powders were consolidated by spark plasma sintering (SPS).

Solid-state reactions of MA powders have been examined by X-ray diffraction(XRD),and mechanical

properties of the SPS materials have been evaluated by hardness measurements and compression tests.

The solid-state reactions in both Al-AlB and Al-MgB systems occurred between the MA powders

and process control agent after heating at 573K to 873K for 24h.Formation of AlBC ternary compound

occurred in both systems.After the heating,γ-AlO was formed in the Al-AlB system whereas MgAl

O was formed in Al-MgB system.As the result of solid-state reactions in both systems,hardening was

observed in MA powders after heating at 573K to 873K for 24h.When 4h MA or 8hMA powders in both

systems were spark plasma sintered by an applied pressure of 49MPa at 873K for 1h,the full density of

the conpact was obtained.The compressive proof strength of the SPS material of Al-MgB was higher

than that of Al-AlB .The SPS material of Al (MgB ) from 8h MA powder exhibited the highest

compressive proof strength of 846MPa at room temperature.

Keywords:Mechanical alloying, Spark plasma sintering, Mechanical properties, X-ray diffraction,

Nano-structured materials

1.緒言

メカニカルアロイング (Mechanical Alloying :MA)

法により,金属マトリックス中に種々のセラミックス粒

子を微細 一に分散させ,常温および高温での強度向上

を図る研究が数多く行われてきた 。これらの材料で

は,セラミックス粒子がマトリックス中に微細 一に分

散することで得られる分散強化,強加工によるマトリッ

クスの加工硬化と結晶粒微細化による強化などが複合的

に寄与することで優れた機械的性質が導き出されてき

た。

MA法では材料設計の自由度が大きいことから,アル

ミニウムに添加するセラミックス粒子は,けい化物 ,酸

化物 ,窒化物 ,炭化物 およびほう化物 など,いずれ

も溶解鋳造法によるプロセスでは複合化が困難とされる

合金系がこれまで研究の対象とされてきた。MA粉末を

固化成形する際の熱処理で,熱力学的に不安定なセラ

― ―7

日本大学生産工学部機械工学科専任講師

日本大学生産工学部機械工学科教授

Page 2: メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作 …...MA助剤はステアリン酸(C욼웂H욾움COOH)で,その添加量 はMA処理中の焼付きの程度を쬠慮し,4hMAおよび

ミックスでは分解反応が生じて,より安定な化合物がin-

situに生成し,マトリックス中に分散することで材料の

高強度化を図ることができる。このようなMA法と熱処

理によって固相反応を誘起させる方法は反応ミリング

(Reaction Milling :RM)法 と呼ばれており,MA粉末

に対して熱間成形と in-situ反応を同時に付与させなが

らバルク材を作製することができる利点を有する。

放電プラズマ焼結 (Spark Plasma Sintering :SPS)

法は,粉末間に放電現象を起こさせて,粉末表面の酸化

膜などの破壊とジュール熱によって粒子間接合を行う方

法で,種々の粉末の焼結体を短時間に製造する方法であ

る 。この方法によればMA法で得られた粉末を短時間

の熱処理によって固化成形できるため,MA粉末の微細

結晶粒組織や微細な分散粒子を粗大化させることなくバ

ルク材に成形できる。

本研究では,軽金属のほう化物,AlB (密度3.17g/

cm)およびMgB(密度2.63g/cm)を純アルミニウム

に添加し,MA処理して,その生成相と粒子硬さを調べ

た。さらに得られたMA粉末をSPS法で固化成形し,処

理中の熱処理により生成相間で固相反応を誘起させ,粒

子がマトリックス中に微細 一に分散させた高比強度ア

ルミニウム複合材料の創製を試みた。なお,MgB は高い

臨界温度の超伝導体として近年注目されている物質であ

る 。粉末の処理から固化成形に至る処理時間を短縮す

るために,MA処理には短時間で粉末に大きなエネル

ギーを投入できる振動型ボールミルを用い,固化成形も

短時間で処理できるSPS法を適用した。MA処理した

Al-AlB 系およびAl-MgB 系粉末を,種々の温度条件下

で熱処理して,それぞれの固相反応過程を調べた。また,

熱処理に対するMA粉末およびSPS材の熱的安定性を

硬さ試験から評価した。SPS材の強度は圧縮試験によっ

て調べた。

2.実験方法

2.1 MA粉末の作製

原料粉末として用いた純アルミニウム粉末は純度

99.9%で,その平 粒径は100μmである(東洋アルミニ

ウム㈱製)。また,AlB とMgB 粉末の純度は99%で,粒

径はそれぞれ74μmおよび149μm以下である。Table 1

に示す配合組成を精密天秤を用いて各粉末が10gにな

るように秤量しMA処理に供した。各粉末と直径6mm

の工具鋼製ボール70個(70g)を直径51mm×高さ64mm

の工具鋼製容器にArガス雰囲気のグローブボックス内

で装入し,SPEX8000振動型ボールミルを用いてMA

処理した。MA時間は14.4ks(4h),28.8ks(8h),

115.2ks(32h),230.4ks(64h)の4条件とし,得られ

た粉末をそれぞれ4hMA,8hMAのように表記した。

MA助剤はステアリン酸 (C H COOH)で,その添加量

はMA処理中の焼付きの程度を 慮し,4hMAおよび

8hMAでは0.25g,32hMAでは0.35g,64hMAでは

0.45gと適宜変化させた。

2.2 SPS材の作製

MA粉末を放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業㈱

製,SPS-1050)で固化成形した。MA粉末7gを直径20

mm×高さ40mmの黒鉛型に装入し,チャンバー内の真

空度を30Pa程度に保ち,黒鉛パンチで圧力を加えて,

高さ約8mmの焼結体を得た。なお,上下パンチとも移

動する複動タイプの加圧方法である。焼結条件は昇温速

度1K/s,温度873K,加圧49MPa,保持時間3.6ks(1h)

とした。

2.3 材料特性の評価

粉末粒子の硬さの測定は,各MA粉末およびそれらを

573Kから873Kまでの温度で86.4ks(24h)大気中で

熱処理し,空冷後,樹脂に埋込み,MA粉末をエメリー

紙およびバフ研磨後,マイクロビッカース硬さ試験機を

用い,荷重10gf,保持時間20sで,15ポイント測定した。

また,SPS材の硬さは,試験片の加圧面をエメリー紙お

よびバフ研磨後,ビッカース硬さ試験機を用いて,荷重

1kgf,保持時間20sで7ポイント測定した。

固相反応による構成相の変化を明らかにするために,

各MA粉末および熱処理した粉末をイソアミルとコロ

ジオンの混合溶液を用いてガラス板に固定し,島津

XRD-610を用いてX線回折を行った。CuK線で,管電

流40mA,管電圧60kVで回折角度2θが20°~80°の範

囲,走査速度1.66×10 deg/sで測定した。また,SPS材

もMA粉末と同様の条件でX線回折を行った。

各SPS材の乾燥ならびに水中での質量を精密天秤で

測定し,アルキメデス法より密度を算出した。水中質量

の測定では水の侵入を防ぐためにSPS材の表面をパラ

フィン処理した。各SPS材の密度を配合組成の重量比か

ら求めた計算密度により相対密度を算出した。

各SPS材から機械加工により,直径6mm,高さ7.7

mmの圧縮試験片を作製し,室温で初期圧縮速度0.06

Table 1 Test materials and designation.

Materials

(at%)

Materials

(mass%)Designation

pure Al pure Al

Al-15AlB Al-9.58AlB Al (AlB )

Al-30AlB Al-20.47AlB Al (AlB )

Al-50AlB Al-37.52AlB Al (AlB )

Al-15MgB Al-9.10MgB Al (MgB )

Al-50MgB Al-36.2MgB Al (MgB )

― ―8

Page 3: メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作 …...MA助剤はステアリン酸(C욼웂H욾움COOH)で,その添加量 はMA処理中の焼付きの程度を쬠慮し,4hMAおよび

mm/minで2本ずつ圧縮試験を行った。また,摩擦の影

響を低減させるために試験片と上下のジグの間にテフロ

ンシートをはさんで試験した。

3.実験結果および 察

3.1 Al-AlB 系

Fig.1にMA時間にともなうAl-AlB 系MA粉末粒

子の硬さの変化を示す。これらのMA粉末の硬さは,

約±10%の範囲内にバラツキをもった測定値の平 値で

ある。MA処理前の純アルミニウム粉末粒子の硬さ

(HV44)と比較して,4hMAで各粒子の硬さはいずれ

もHV100以上の値を示した。8hMA粉末の場合,AlB

量の少ない組成では4hMAの硬さと比較して,わずか

に減少する傾向を示すが,添加量が多いAl (AlB ) で

は増加する傾向を示す。32hMA粉末では,添加量が少な

い組成では粉末の硬さは緩やかに増加しHV150~200

を示したが,添加量が多いAl (AlB ) では粉末の硬さ

は急激に増加しHV300を越える値を示した。MA粉末

の構成相は,MA時間が長くなるにしたがってAlB か

らの回折線強度は低下するが,64hMAの段階でも回折

線は若干認められる。また,添加量が多い組成ほどAlB

の回折線強度は高い。これらの結果は,本実験でのMA

時間では添加したAlB はMA処理中に助剤として添加

したステアリン酸と固相反応しないことを示唆してい

る。以上より,添加量の異なるMA粉末粒子の硬さの差

は,硬いAlB 粒子による複合則に基づく強化と えられ

る。また,MA時間の増加に伴う粉末粒子の硬さ変化の

傾向は,AlB 粒子による分散強化,マトリックスに大き

な塑性ひずみが導入されることによる加工硬化やマト

リックスの結晶粒微細化による強化,ならびにMA中に

生じる摩擦熱による加工硬化の回復が相乗的に寄与した

ためと えられる。

Fig.2にAl-AlB 系の (a)4hMA粉末および (b)

32hMA粉末の熱処理温度と粒子硬さの関係を示す。

4hMA粉末粒子の硬さは (Fig.2(a)),MAしたままの

粉末粒子の硬さと比較して573Kおよび673Kの熱処

理によって緩やかに増加し,773Kの熱処理で最高値に

達する。熱処理に伴う粉末粒子の硬さの増加は,添加量

の多い粉末ほど大きくなる傾向が認められた。一方,

873Kの熱処理ではいずれの添加量のMA粉末も粒子

硬さは773K熱処理した粉末の粒子硬さと比較して低

い値を示した。32hMA粉末粒子の硬さは (Fig.2(b)),

MAしたままの粉末粒子の硬さと比較して,熱処理温度

が上昇するにしたがって緩やかに増加し,873Kの熱処

理でも軟化傾向は認められなかった。熱処理による粉末

粒子の硬さの増加は,MA時間が増すほど大きくなる傾

向が認められた。

Fig.3にAl-AlB 系の4hMA粉末((a),(b))および

32hMA粉末((c),(d))を573Kから873Kで24h熱処

理した粉末のX線回折結果を示す。Al (AlB ) (Fig.3

(a))のMA処理の段階では,アルミニウムとAlB から

の弱い回折線が認められ,熱処理温度673Kまで構成相

Fig.1 Change of Vickers microhardness in pure Al

and Al-AlB powders with mechanical alloy

ing time.

-

Fig.2 Change of Vickers microhardness in Al-AlB

(a)4h and(b)32h MA powders with heating at

various temperatures for 24h.

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Page 4: メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作 …...MA助剤はステアリン酸(C욼웂H욾움COOH)で,その添加量 はMA処理中の焼付きの程度を쬠慮し,4hMAおよび

に変化は認められなかった。しかし,熱処理温度が773K

になると,AlB の一部が分解し助剤から分離した炭素と

の間で固相反応が生じ,AlBCの生成が認められた。ま

た,773Kの熱処理によって回折角2θ=46°および67°付

近に純アルミニウムとは異なる回折線が認められ,それ

らはγ-AlOと同定された。873Kで熱処理すると3元

系化合物AlBCの回折強度が増加し,固相反応が進行

したことを示している。しかし,873Kの熱処理後にお

いてもAlB の一部は残存している。AlB の添加量が

Al (AlB ) より多いAl (AlB ) MA粉末 (Fig.3(b))

では,固相反応により生成するAlBCが熱処理温度873

Kで認められた。また,Fig.2(a)に示した硬さとの対応

では,固相反応によって生成したAlBCやγ-AlOの

影響で,MA粉末の硬さは増加した。

Fig.3(c)にAl (AlB ) の 32hMA粉末の熱処理に

よるX線回折結果を示す。アルミニウムとAlB からの

構成相は熱処理温度573Kまで変化は認められなかっ

た。しかし,熱処理温度673K以上からAlB の一部の分

解が始まり,AlBCの生成が認められた。熱処理温度が

773KになるとAlBCからの回折線が明瞭かつ回折強

度も増加していることから,その結晶の粗大化および生

成量の増加と対応していると えられる。しかし,熱処

理温度を873Kとしても,AlB の固相分解のさらなる

進行は認められなかった。一方,AlB の添加量の多い

Al (AlB ) (Fig.3(d))では,AlBCの生成が熱処理温

度673K以上から明瞭に認められ,MA時間を長くする

ことはAlB の分解反応を促進することが明らかとなっ

た。

以上より,Al-AlB 系ではAlB の添加量ならびにMA

時間や熱処理温度を本実験条件下にすることでAlB の

一部は分解した。熱処理温度が873Kに近づくにつれて

固相反応は進行し,AlBCが生成した。また,AlBCや

γ-AlOの生成によりMA粉末の硬さは増加した。添加

したAlB は炭素の存在するアルミニウム中であれば分

解してAlBCが生成した。しかし,炭素が存在しない場

合については,MA助剤を添加しないでMA処理を行っ

たが,粉末はミル容器やボールに焼き付き,測定に必要

な十分な量の粉末を得ることはできなかった。従って,

炭素が存在しないアルミニウム中でAlB が分解するか

どうかは本実験結果からは不明である。

3.2 Al-MgB 系

Fig.4にMA時間にともなうAl-MgB 系MA粉末

粒子の硬さの変化を示す。MA処理前の純アルミニウム

粉末粒子の硬さ(HV44)と比較して,4hMAで各粉末

粒子の硬さはいずれも約HV150の値を示した。8hMA

粉末の場合,添加量の少ないAl (MgB ) では4hMA

粉末粒子の硬さと比較して一旦低下するが,さらにMA

時間を長くすると粒子硬さは再び増加する。一方,添加

量の多いAl (MgB ) ではMA初期での粉末粒子の硬

さ低下は見られない。32hMAおよび64hMAの粉末粒

子の硬さは8hMAの粒子硬さと比較して,Al (MgB )

では硬さは緩やかに増加しHV150~200を示したが,

Fig.3 X-ray diffraction patterns of MA powders of

Al (AlB ) and Al (AlB ) before and after

isochronal heating for 24h;(a) Al (AlB )

4hMA,(b)Al (AlB ) 4hMA,(c)Al (AlB )

32hMA and (d)Al (AlB ) 32hMA.

― ―10

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Al (MgB ) では硬さは急激に増加しHV350を越える

非常に硬い粉末が得られた。MA処理中の構成相の変化

をX線回折で調べた結果 (Fig.6(a)-(d)),MA処理した

ままの粉末からはアルミニウムと添加したMgB のみが

確認された。従って,添加したMgB はMA処理中には

分解しないこと,助剤として添加したステアリン酸と固

相反応していないことがわかった。

Fig.5にAl-MgB 系の (a)4hMA粉末および (b)

32hMA粉末の熱処理温度と粒子硬さの関係を示す。

4hMA粉末粒子の硬さは (Fig.5(a)),MAしたままの

粉末粒子の硬さと比較して,添加量の多少にかかわらず

573Kおよび673Kの熱処理によって緩やかに増加し

た。熱処理に伴う粉末粒子の硬さの増加は,添加量の多

い粉末ほど大きくなる傾向が認められた。773Kの熱処

理では,添加量が多いAl (MgB ) の粉末粒子の硬さは

著しい硬化を示し,873Kの熱処理では著しく軟化した。

Fig.5(b)に示した32hMA粉末粒子の硬さは,添加量の

多少にかかわらず熱処理温度が上昇するにつれて緩やか

に増加する傾向が認められた。熱処理にともなう粉末粒

子の硬さとMA処理したままの粉末粒子の硬さの差は,

MA時間が短い4hMA粉末の方が32hMA粉末粒子よ

り大きくなる傾向が認められた。

Fig.6にAl-MgB 系の4hMA粉末((a),(b))およ

び32hMA粉末((c),(d))を573Kから873Kで24h

熱処理後のX線回折結果を示す。Fig.6(a)に示した

Al (MgB ) の4hMA粉末では,MA処理の段階でア

ルミニウムとMgB からの強度の低い回折線が認めら

れ,熱処理温度673Kまでは構成相に変化は認められな

かった。しかし,熱処理温度が773Kからはγ-AlOの

回折線と共に2θ=31°および52°付近に新たなピークが

認められ,それらはAlBCと同定された。これは773K

での熱処理中にアルミニウムおよびMgB の一部と助剤

から分離した炭素とが固相で反応し,AlBCを生成した

と えられる。熱処理温度が873KからはAlBCからの

回折線が明瞭に認められるとともに,MgB からの回折

線は消失している。したがって,873Kでの熱処理中に

MgB はほとんど分解し,分離したマグネシウム,酸素,

γ-AlOが反応してスピネル構造のMgAlOを形成し,

一方の分離したホウ素はマトリックスのアルミニウムと

反応してAlB も形成した。また,熱処理温度が773Kで

γ-AlOの生成が認められたが,873KではMgAlOが

生成した。

Fig.6(c)に示したAl (MgB ) の 32hMA粉末では,

アルミニウムとMgB は熱処理温度673Kまで構成相に

変化は認められなかった。しかし,熱処理温度が773K

からはAlBCの生成が認められ,MgB と助剤との反応

が始まった。熱処理温度が873Kからは,AlBCからの

回折線が明瞭に認められた。Fig.6(d)にMgB 添加量を

増加させ,MA時間も長くしたAl (MgB ) の 32hMA

粉末の熱処理に対する構成相の変化を示す。熱処理温度

573Kまでは構成相であるアルミニウムとMgB 以外に

新たな構成相は認められなかった。しかし,熱処理温度

673KからはMgB の一部の分解が始まり,AlBCの生

Fig.4 Change of Vickers microhardness in pure Al

and Al-MgB powders with mechanical alloy

ing time.

-

Fig.5 Change of Vickers microhardness in Al-MgB

(a)4h and(b)32h MA powders with heating at

various temperatures for 24h.

― ―11

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成が認められた。熱処理温度773KからはAlBCの回折

線が明瞭に認められた。

以上より,Al-MgB 系では熱処理温度の上昇によって

MgB からの回折強度が低下し,固相分解が確認された。

また,添加したMgB は炭素の存在するアルミニウム中

では分解してAlBCが生成したが,助剤中に含まれる炭

素が共存しない場合についてはMgB が分解するかどう

かは本実験結果からは不明である。

熱処理に伴うMA粉末の粒子硬さと構成相との対応

では,AlBCやγ-AlOおよびMgAlOの生成により

MA粉末の粒子硬さは増加した。

3.3 SPS材の特性

Al (AlB ) およびAl (MgB ) のMA粉末とそれら

のSPS材の硬さを Fig.7に示す。各系で4hMA,

8hMAおよび32hMA粉末から作製したSPS材の

硬さは,MA粉末と比較していずれも高い値を示して

いる。4hMAおよび8hMA粉末ではAl (MgB ) が

Al (AlB ) より高い硬さを示した。Table 2にSPS材

の硬さとアルキメデス法によって測定した密度,配合組

成の重量比から求めた計算密度およびそれらの相対密度

を示す。各系で4hMAおよび8hMA粉末から作製した

場合,相対密度は100%を越えるSPS材が得られたが,

AlB またはMgB の添加量が増加するにつれて相対密

度の低下が認められた。一部のSPS材で相対密度が

100%を超えた理由として,ステアリン酸と反応して生成

した化合物やMA処理中にボールや容器から混入する

Feが含まれていることが えられる。

Al (AlB ) およびAl (MgB ) SPS材の構成相をX

Fig.6 X-ray diffraction patterns of MA powders of

Al (MgB ) and Al (MgB ) before and after

isochronal heating for 24h;(a) Al (MgB )

4hMA,(b)Al (MgB ) 4hMA,(c)Al (MgB )

32hMA and (d)Al (MgB ) 32hMA.

Fig.7 Comparison of hardness between MA pow

ders and SPS materials in(a)Al (AlB ) and

(b)Al (MgB ) .

-

― ―12

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線回折によって同定した結果をFig.8に示す。それぞ

れの系でSPS中に固相反応が起こり,Al (AlB ) では

AlBCおよびγ-AlOの生成が,Al (MgB ) では

AlBCおよびMgAlOの生成が認められた。Al

(AlB ) SPS材では弱い回折強度を有するAlB からの

回折線が認められたが,Al (MgB ) SPS材ではMgB

からの回折線の消失が認められ,MA粉末の熱処理に対

する構成相の変化(Fig.3および Fig.6)と同様の結果と

なった。

SPS材の0.2%圧縮耐力を各系で比較した結果を

Table 3に示す。また,比較材として同様のプロセスおよ

び条件から作製した純アルミニウムMA-SPS材の圧縮

耐力も示した。Al-MgB 系の圧縮耐力はAl-AlB 系と比

較して,MA4hおよびMA8h粉末から作製したSPS

材でそれぞれ約1.2倍および約1.4倍高い値を示した。

特にAl (MgB ) のMA8h粉末から作製したSPS材

では最も高い圧縮耐力846MPaを示した。いずれの系

も,I/M 法で製造されている実用アルミニウム合金の中

Table 2 Hardness and measured density of SPS materials including calculated density for Al-AlB and

Al-MgB alloys.

Materials

(at%)

Materials

(mass%)

MA time

(h)

SPS

(HV)

Density

(g/cm )

Theoretical density

(g/cm )

Relative density

(%)

0 39 2.6891 99.6

pure Al 4 139 2.7488 2.699 101.8

8 158 2.7599 102.3

4 178 2.7569 100.5

Al-15AlB Al-9.58AlB 2.7443

8 187 2.7898 101.7

4 202 2.8216 100.9

Al-30AlB Al-20.47AlB 2.7958

8 189 2.7194 97.3

4 109 2.4366 84.7

Al-50AlB Al-37.52AlB 2.8764

8 100 2.3773 82.6

4 215 2.7763 103.1

Al-15MgB Al-9.10MgB 2.6928

8 267 2.8033 104.1

4 208 2.4798 92.7

Al-50MgB Al-36.2MgB 2.6743

8 184 2.4089 90.1

Fig.8 X-ray diffraction patterns of SPS materials

in (a)Al (AlB ) and (b)Al (MgB ) alloys

with different MA time.

Table 3 0.2% compressive proof stress at room tem

perature for MA-SPS Al-AlB and Al-

MgB materials together with 7075-T6 alloy

and pure Al.

material 0.2% proof stress

(MPa)HV σ/HV

7075-T6 505

pure Al MA0h SPS 173 39 4.4

pure Al MA8h SPS 440 158 2.78

Al-15AlB MA4h SPS 520 178 2.97

Al-15AlB MA8h SPS 620 187 3.18

Al-15MgB MA4h SPS 628 215 2.92

Al-15MgB MA8h SPS 846 267 3.12

average 2.99

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Page 8: メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法で作 …...MA助剤はステアリン酸(C욼웂H욾움COOH)で,その添加量 はMA処理中の焼付きの程度を쬠慮し,4hMAおよび

で最高強度を示す7075-T6材の引張耐力505MPa よ

り高い値を示した。

アルミニウムMA材の室温における硬さと引張降伏

応力の関係は式⑴のように提案 されている。

σ=HV×2.90 (1)

ここで,HVはビッカース硬さ,σ は引張降伏応力

(MPa)である。Table 2および Table 3に示したビッ

カース硬さと圧縮耐力との関係を平 して,整理すると

(2)式を導くことができる。

σ =HV×2.99 (2)

ここで,HVはビッカース硬さ,σ は圧縮耐力 (MPa)で

ある。両式で示された係数はほぼ等しい値であり,関係

式 (2)において,本実験方法で作製したSPS材において

ビッカース硬さから引張降伏応力が見積もるだけでな

く,圧縮降伏応力に対しても成立する可能性を示唆して

いる。

4.結言

振動型ボールミルを用いてAl-AlB 系およびAl-

MgB 系粉末をMA処理し,得られたMA粉末および熱

処理後の粉末の構成相と粒子硬さおよび各MA粉末か

ら作製した放電プラズマ焼結材の機械的強度特性を調

べ,以下の結論を得た。

(1) MA処理時間を64hまで増加させても,アルミニウ

ムと添加したAlB またはMgB との間で固相反応は

生じなかった。また,添加量が増えてもこの傾向は変

わらなかった。

(2) Al-AlB 系の4hMA粉末では,添加量が少ない場

合は熱処理温度が773Kから固相反応が生じAlBC

およびγ-AlOが生成したが,添加量が多くなると熱

処理温度が873KからAlBCが生成した。32hMA粉

末では,添加量の多少にかかわらず熱処理温度が

673KからAlBCの生成が認められた。

(3) Al-MgB 系の4hMA粉末では,MA時間の長短に

かかわらず熱処理温度773Kからγ-AlOとAlBC

が生成し,873Kからはγ-AlO,AlB ,AlBCと

MgAlOの生成が認められた。添加量を増加させ,MA

時間も長くした32hMA粉末では熱処理温度673K

からはAlBCの生成が認められた。

(4) Al-AlB 系MA粉末の粒子硬さは,熱処理による固

相反応で生成するAlBCおよびγ-AlOによって硬

化し,Al-MgB 系MA粉末の粒子硬さは,熱処理によ

る固相反応で生成するγ-AlO,AlB ,AlBCと

MgAlOによって硬化した。

(5) Al (AlB ) SPS材ではMA時間の長短にかか

わらず AlBCお よ び γ-AlOが 生 成 し た が,

Al (MgB ) SPS材ではMA時間が4h,8h,32hで

はγ-AlO,AlBC,MgAlOの生成が,64hMA粉

末ではAlBCとMgAlOの生成が認められた。

⑹ 室温におけるSPS材の圧縮耐力は,Al-MgB 系

SPS材で生成するMgAlOの寄与により,Al-AlB

系よりAl-MgB 系の方が20~40%高い値を示した。

謝辞

本研究で使用した純アルミニウム粉末は東洋アルミニ

ウム㈱から提供を受けました。本研究の一部は平成16年

度日本大学学術研究の助成を受けて行われました。

参 文献

1) Lu and M.O.Lai:Mechanical Alloying, Kluwer

Academic Publishers,(1998).

2) B.S.Murty and S.Ranganathan:International

Material Reviews,43(1998)101.

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ence,46(2001)1.

4) 金得圭,金子純一,菅又信:軽金属,42(1992)485.

5) 金得圭,金子純一,菅又信:日本金属学会誌,

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6) 金得圭,金子純一,菅又信:日本金属学会誌,

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7) 金得圭:日本大学工学博士学位論文(1993).

8) P.G.McCormick:Material Transactions, JIM,

36(1995)161.

9) 大森守:まてりあ,39(2000),54.

10) J.Nagamatsu, N.Nakagawa, T.Muranaka,

Y.Zenitani and J.Akimitsu:Nature 410 (2001)

63.

11) アルミニウムハンドブック第6版,日本アルミニウ

ム協会,(2001),35.

12) J.A.Hawk, R.E.Franck, and H.G.F.Wilsdorf:

Metallurgical Transactions,19A (1988)2363.

(H18.3.22受理)

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