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パナソニックに見る グローバル・マーケティングの特徴 ──グローバル・サプライ・チェーン・マネジメントを中心に── はじめに 垂直立ち上げと世界同時発売 垂直立ち上げと世界同時発売の成功をささえる先進国向け SCM モデルの構築 先進国 SCM モデルの歴史的形成過程 9 段階のグローバル SCM モデルの構築 結論 はじめに グローバル・マーケティングは,国境を越えて遂行される国際マーケティングの現代 的形態である。国際マーケティングは,一般的には,輸出マーケティングにはじまり, マルチドメスティック・マーケティングの形態を経てグローバル・マーケティングへと 発展する。グローバル・マーケティングについては,近年数多くの研究があるが,その 内容については必ずしも解明されていない。とりわけ,グローバル・マーケティングの 核心を形成しているグローバル Supply Chain Management(以下 SCM と略す)の研究 については遅れている。グローバルな SCM の構築は,国を超えた資材や部品の調達, 製品の仕入れ,製造と販売の関係という複雑で,かつ極めて困難である。そのため構築 の遅れをもたらし,それが研究の遅れにつながっているものといえよう。 本稿では,グローバル・マーケティングの特徴を示す,パナソニックの垂直立ち上げ と世界同時発売の成功を支えるグローバル SCM に焦点をあて分析することによって, グローバル・マーケティングの内容解明の一歩としたい。グローバル SCM は「中村改 革」の中で最重視されている IT 革新の中心的な位置を占めており,その展開の要とな っている。グローバル SCM 推進室が精力的に取り組んできた先進的なグローバル SCM の実態をできるだけ詳細に紹介し,この取り組みの成果と意義について明らかにした い。この作業はグローバル・マーケティングの内容の核心に迫る重要な作業であるもの と思われる。 28 344

パナソニックに見る グローバル・マーケティングの特徴 · 輸出マーケティングやマルチドメスティック・マーケティング時代の戦略は,新製品

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パナソニックに見る

グローバル・マーケティングの特徴──グローバル・サプライ・チェーン・マネジメントを中心に──

近 藤 文 男

Ⅰ はじめにⅡ 垂直立ち上げと世界同時発売Ⅲ 垂直立ち上げと世界同時発売の成功をささえる先進国向け SCM モデルの構築Ⅳ 先進国 SCM モデルの歴史的形成過程Ⅴ 9段階のグローバル SCM モデルの構築Ⅵ 結論

Ⅰ は じ め に

グローバル・マーケティングは,国境を越えて遂行される国際マーケティングの現代

的形態である。国際マーケティングは,一般的には,輸出マーケティングにはじまり,

マルチドメスティック・マーケティングの形態を経てグローバル・マーケティングへと

発展する。グローバル・マーケティングについては,近年数多くの研究があるが,その

内容については必ずしも解明されていない。とりわけ,グローバル・マーケティングの

核心を形成しているグローバル Supply Chain Management(以下 SCM と略す)の研究

については遅れている。グローバルな SCM の構築は,国を超えた資材や部品の調達,

製品の仕入れ,製造と販売の関係という複雑で,かつ極めて困難である。そのため構築

の遅れをもたらし,それが研究の遅れにつながっているものといえよう。

本稿では,グローバル・マーケティングの特徴を示す,パナソニックの垂直立ち上げ

と世界同時発売の成功を支えるグローバル SCM に焦点をあて分析することによって,

グローバル・マーケティングの内容解明の一歩としたい。グローバル SCM は「中村改

革」の中で最重視されている IT 革新の中心的な位置を占めており,その展開の要とな

っている。グローバル SCM 推進室が精力的に取り組んできた先進的なグローバル SCM

の実態をできるだけ詳細に紹介し,この取り組みの成果と意義について明らかにした

い。この作業はグローバル・マーケティングの内容の核心に迫る重要な作業であるもの

と思われる。

28( 344 )

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Ⅱ 垂直立ち上げと世界同時発売

1.垂直立ち上げと世界同時発売

パナソニックはテレビの新製品を中心に 2002年,03年頃から,日本国内で一斉にマ

ーケティングを短期間で立ち上げ,同時に宣伝資源を大量につぎ込み,他社の参入前に

一気にシェアと利益をとるという戦略を実施した。パナソニックではこれを「一夜城作

戦」と命名している。また,一気に立ち上げることから「垂直立ち上げ」とも呼んでい

る。その後,このような国内の経験を日本と欧米の先進国を中心としてグローバルな規

模にまで拡大した。2004年 8月アテネ・オリンピックに照準を合わせて,中村邦夫社

長の時代に牛丸俊三 PM(Panasonic Marketing)本部長の指揮のもとで垂直立ち上げと

同時に世界同時発売を実行した。

「世界同時発売」とは,新製品を複数の国で世界同時に垂直立ち上げ販売し,短期間

で高いシェアを獲得し,一気に売り切る戦略である。垂直立ち上げの戦略が,時間軸の

視点から見た戦略であるのに対して,この戦略は場所的,空間的視点から見た戦略であ

る。

輸出マーケティングやマルチドメスティック・マーケティング時代の戦略は,新製品

をまず本国ないし,ある特定の国での販売から出発し,順次他国での生産,販売へと展

開していくプロダクト・サイクル型の展開を描く。

個別の順次立ち上げを行うプロダクト・ライフサイクル型のマーケティングは,第 1

図の上図が示しているように,販売機会による損失が大きいのに対して,下図が示す世

界の複数地域での同時立ち上げは,販売機会を失うことなく最大の販売を実現できると

いうメリットがある。

テレビの新製品の発売は,アナログ技術が主流の頃は年中行事のように 9月に行われ

ていた。10月,11月,12月と,その売れ行きを見ながら順次増やしていくというやり

方を採用してい1

た。しかし,デジタル商品はライフサイクルが短いため,ライフサイク

ル型の展開をしていたのでは,他社の参入を許し,販売機会の喪失となる。ここに垂直

立ち上げの戦略と世界同時発売戦略を採用する必然性がみられる。

パナソニックの垂直立ち上げと世界同時立ち上げは,2004年と 05年,06年の春に実

施された。その期間は 2ヵ月間で,春の時点で同じ商品の販売がアメリカ,日本,ヨー

ロッパで実施された。2005年の春には,プラズマテレビ 3代目「ビエラ」の最新モデ

ルを,ヨーロッパをスタートに,その後 1ヵ月前後でアメリカ,日本で一斉に販売し

た。2006年には DVD レコーダー,デジタルカメラを加えた。同年春には中国も加え────────────1 大西宏『パナソニック底力の秘密』実業之日本社,2008年,152ページ。

パナソニックに見るグローバル・マーケティングの特徴(近藤) ( 345 )29

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販売

販売

1週目2週目3週目4週目5週目6週目7週目8週目9週目10週目11週目12週目13週目14週目15週目16週目17週目18週目19週目20週目

1週目2週目3週目4週目5週目6週目7週目8週目9週目10週目11週目12週目13週目14週目15週目16週目17週目18週目19週目20週目

個別・順次立ち上げ販売機会損失

世界同時発売販売機会最大化

地域D地域D地域C地域C地域 B地域 B地域 A地域 A

地域D地域D

地域 B地域 B

地域C地域C

地域 A地域 A

販売機会損失他社対抗モデル 展示処分

拡充費支出

パナソニック内部資料

世界同時発売地域を拡大していっ2

た。

ヨーロッパでは,ドイツのハンブルグ,イギリスのロンドン,フランスのパリ,イタ

リアのローマなど 19ヵ国,1500都市で一斉に販売された。当初 1ヵ月間の出荷台数は

数万台,取引相手とした量販店の数は実力のある店だけで 2,500店以上に上った。

世界同時発売には,発売 4ヵ月前から準備にかかるが,その作業には 1ヵ月かかる。

広大なアメリカ市場の場合,パナソニックの販売会社パナソニック・ノース・アメリカ

(Panasonic North America,以下 PNA と略す)の取引先である,ベスト・バイやサーキ

ット・シティ,ウォルマート,ツイーターなど大手量販店の,それぞれの複数のディス

トリビューション・センターに新商品が運び込まれる。それに要する時間が平均 1週

間,そこから更に個々の店舗に届けるのに 1週間,店頭に展示してもらうまでに,更に

時間がかかる。工場から出荷されてから,2,000店舗全てに行き渡るまでに 1ヵ月余り

の日程を要する。これが最終リセットの売り出しの日から逆算して,何月何日までに発

注台数を届けるという計画をたて実行する。工場はそれから逆算して,生産日程を組

む。加えて門真の本社とのやりとりなどが,グローバルな規模で計画的,組織的に実行

されなければならな3

い。

販売の世界同時化と並行して現地適応化のために研究開発や生産も同期化した。ロジ

スティックの同時化と同時に地域による放送方式や電圧の違いに適応するための生産の

整備や開発体制を整備した。

この壮大な活動を支えているのが,後に紹介するパナソニックのグローバル SCM で────────────2 『エコノミスト』2006年 5月 16日号,33ページ。3 河野優元米国 PNA 社長,インタビュー,2006年 9月 1日。

第 1図 世界同時立ち上げ:販売最大化

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)30( 346 )

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ある。

2.先進国での実践結果

パナソニックは AV 製品を中心に大きな成果を勝ち得た。2005年度における PDP

(プラズマ・ディスプレイ・パネル)の各国におけるブランド別占有率状況をみると,

アメリカ,ドイツ,イギリスでそれぞれトップシエアを獲得した。DVD−R のブランド

別占有率においても,アメリカ,イギリス,ドイツでトップシエアを獲得した。

Ⅲ 垂直立ち上げと世界同時発売の成功をささえる先進国向け SCM モデルの構築

1.SCM モデル構築の背景と教訓

パナソニックの垂直立ち上げ,世界同時発売の背景には,アナログ技術からデジタル

技術への移行による,新製品の寿命と製品のライフサイクルの短縮化に加えて,韓国の

サムソン電子,LG グループ,中国メーカーなどの参入によってグローバル競争の激化

と価格の急激な下落があった。パソコンに関しては年 2回から 3回の新製品の発売があ

る。薄型テレビの価格は,半年間で 40から 50%とかつて経験したことのない大幅な下

落があった。さらには,先進国のみならず新興国を中心とした発展途上国においても大

手量販店が急成長を遂げ大きなシェアを占めている。この大きなシェアを占めている大

手型量販店の存在を無視した垂直立ち上げ,世界同時発売は理念がいかに立派であって

も成功しないであろう。

このような状況に直面したパナソニックは,垂直立ち上げと世界同時発売の取り組み

の中で,巨大な販路を有する大手量販店アメリカのベスト・バイ社,フランスのフナッ

ク社,イギリスのディクソン社など先進諸国の大手量販店との間で SCM の構築を重視

した戦略を樹立した。その中で多くの経験と教訓を得ている。

その教訓の注目すべき事例を紹介しよう。例えば,アメリカにおける薄型テレビの需

要が急増していた 2004年 1, 2, 3月には仕入れたテレビが即売れていったが,それが 4,

5, 6月になると薄型テレビの在庫が急増し深刻な経営危機に直面した。その原因の究明

のために,取引先量販店 A の在庫調査をすると,1, 2, 3月には販売店の在庫がほとん

どないにもかかわらず,この取引先の店には旧製品の在庫が急増していることがわかっ

た。このような状況の下で,新製品の導入を図ったため,新製品の立ち上げが鈍い状況

となった。パナソニックの販売会社と取引のある別の量販店 B における同期の旧製品

の在庫状況は,A 量販店より更に深刻で多くの在庫を抱えており,新製品の立ち上げ

はゼロに等しい状況にあった。パナソニックの販売会社と A, B 量販店の間では在庫デ

パナソニックに見るグローバル・マーケティングの特徴(近藤) ( 347 )31

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ータまで共有し,形式的にはコラボレーションの関係を築いていたにも関わらず,SCM

が十分機能していないという問題を抱えていることが明らかになった。このような問題

を総括し,教訓化することによって,SCM の展開に際しては以下のような諸点を重視

することを確認している。

まず,中長期の「販売ターゲット」をパナソニック側と大手量販店側で共有する。

次に,新製品の導入の際には,宣伝資源の集中的な投資を行い,顧客に対して積極的

にメッセージを発信する。従来のやり方は新製品を発売するまでは,販売店や消費者に

対して情報を抑えておいて,発売とともに宣伝を強めていた。しかし,垂直立ち上げと

世界同時発売時には,1ヵ月位前からマス広告をはじめ屋外カンバン,販売店とタイア

ップした宣伝を強め,販売店や消費者に対して情報をオープンにした。また,商品の訴

求を狙い,商品の良さを認知させるためマン・ツー・マンセミナーを開催した。雑誌や

新聞による商品の評価は商品発売後 1ヵ月位して出るのが一般的習わしであるが,垂直

立ち上げの際には商品発売と同時に高評価が出るような活動を強化した。このようなマ

ーケティング活動をパナソニックでは「逆算のマーケティング」とも呼んでいる。

更に,徹底した「間口管理」(店毎の在庫管理)による実需営業を推進する。新製品

導入時には,どこの店にどの商品を何台並べてもらうか,毎週何台販売するか,一店一

店の計画を作成し,旧モデルの在庫一掃を強化する。新製品の導入に向けて,1年位前

から,営業・マーケティング・宣伝/広報・ロジスティクス部門のそれぞれが何をすべ

きか,全社を挙げた取り組みを行う。プル型の補充を目指した新しいモデルづくりを行

うとともに,IT を活用した Win-Win モデルの実現を図る。

2.パナソニックと大手量販店との Win-Win モデルの構築

パナソニックは,共存共栄という創立以来の理念に基づいて,顧客接点の強化を目指

し,大手量販店と一体となったコラボレーションをはかり,Win-Win のビジネスモデ

ル構築に力を注いできた。

現在の量販店との間で進められている CPFR(Collaborative Planning Forecasting and

Replenishment)のビジネスモデルは,実需創造型自動補充と呼ばれ,単に量販店からの

データだけではなく,量販店傘下の各店舗から Daily の POS データを受け取り,店舗

間のアンバランスがないかチェックし,更に,,長期予測にとどまらず事業計画の段階

から計画を共同して行うシステムである。このモデルは,8週先の確定注文から,更に

進んで,売れただけの商品を補充するとともに,販売会社の方から補充提案し出荷する

という,文字度通りの販売会社と量販店が一体となった共存共栄のコラボレーションで

ある。まさに,メーカーと流通業者の Win-Win ビジネスモデルである。従来のビジネ

スモデルが,Weekly なデータの入手に基づいて,26週くらいの長期予測をたて,6~8

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)32( 348 )

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週間先の確定注文を受ける。その上で納期の回答をし,出荷していた。それに対して,

Win-Win のビジネスモデルでは,大手量販店傘下の店単位で繋がったコンピューター

から直接 Daily に入手したデータに基づいて販売計画を策定し,その上で,8週間位前

に量販店側からの確定注文を受けると同時に,販売会社の方からも補充提案し,出荷す

る。こうして,両社が一体になったコラボレーション型の先進的な SCM を構築してい

る。

グローバル SCM 推進室長本田隆一郎氏は,「この Win-Win ビジネスモデルは,組織

の各階層・職能同士の相互の信頼関係に裏付けられて初めて,有効に機能するものであ

る」と強調し,次のように指摘する。まず,トップである社長同士の価値観の共有をは

じめとして,営業責任者,マーケティング責任者,管理責任者の密接な連携と信頼関係

があること,さらには,現場の業務を担当するそれぞれの担当者間の信頼,という 3つ

の組織レベルでの強い信頼関係があって,初めてこの関係は機能し,成功することがで

きる。

販売店と一体になった Win-Win のビジネスモデルは,販売店にとってはキャッシュ

フローの改善とパナソニックからの商品の優先供給を受けるというメリットがあり,パ

ナソニック社にとっては定番商品の維持と店頭展示スペースの確保ができるというメリ

ットがある。

3.大手量販店による SCM の評価

このようなパナソニックの大手量販店とのコラボレーションについて,コラボレーシ

ョンの相手からは,次のような高い評価を得ている。①増販と欠品の削減を同時に達成

することができた。②在庫日数の削減やキャッシュフローの改善によって,内部事務処

理時間の大幅の短縮ができた。③SCM プロセスの実践によるバックオーダー管理業務

が削減できた。④在庫削減により在庫補償費交渉が激減した。⑤何よりも「お客様とベ

ンダー」関係から戦略まで共有する「特権階級的」関係へ変化した。

また,ある量販店からの情報によると,商品の欠品率が他社の場合 9.8%であるのに

対して,パナソニックの場合は 2.5%と非常に少ない。業務管理工数においては,他社

と比較してパナソニックの場合は,40%の時間削減があり,その削減された時間を需

要創造活動に集中できる。在庫日数においても他社 3社の平均が 38日に対して,パナ

ソニックの場合は 24日と少ない。その結果,キャッシュフローが改善し,実需創出活

動に専念することができ,販売台数も 1年前に比べて 326%増大している。定番商品も

2005年に 6モデルであったが,2006年には 9モデルにまで増加している。

イギリスの大手量販店ディクソン社との間で SCM を実施しており,その成果が評価

され,ディクソン社から SCM Award を授与されている。

パナソニックに見るグローバル・マーケティングの特徴(近藤) ( 349 )33

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このモデルがどのような歴史的経過の中で形成されたのか,以下,本田隆一郎室長,

奥田勝彦参事からのインタビューを中心に概略を紹介しよう。

Ⅳ 先進国 SCM モデルの歴史的形成過程

パナソニック社が全社規模で SCM を展開したのは,中村邦夫社長のもとに「創生 21

計画」がスタートした 2001年からである。しかし,SCM はその 2年前に既に社内分社

である AVC 社において開発が開始されていた。中村邦夫社長が,米国法人 PNA の社

長をしていた頃つきあいのあった,アメリカ最大の電気量販店ベスト・バイからの強い

要請が契機であった。1998年の秋,ベストバイの会長と社長が,AVC 社の当時の中村

社長を訪れ,「パナソニックとパートナーシップを作り上げたい。パートナーシップと

は SCM を行うことであり,その最大の効果は”Weekly Delivery”であり,そうすれば

製販ともに在庫を持たなくても良いではないか」と言われた,という。当時のパナソニ

ックは,毎月,販売店から発注を受け,それに基づいて生産し商品を納入していた。こ

の月次管理の SCM を週次管理に変更するには,業務のスピードを 4~5倍に速める必

要があり,それまでの経営のあり方を抜本的に見直すまさに「破壊と創造」を行わなけ

ればならなかった。しかし,中村氏は直ちに実行した。

中村改革の中で最も重視されたのが,IT 革新である。IT 革新の内容は,SCM 関連,

開発プロセス革新,間接業務革新,CRM(Customer Relationship Management)関連など

からなっており,2001年から 06年までの 6年間に,総計 2,012億円が投ぜられてお

り,その中でも SCM が全体の 39%の多額の投資が投ぜられてい4

る。

SCM の構築に当たって,中村邦夫会長,大坪文雄社長が,月一回開催される会議に

は欠かすことなく毎回出席されており,このことに示されているように,パナソニック

が SCM の構築をいかに重要視しているかがわかる。

2001年には北米とイギリスで週次の発注体制を築き,主要工場ではセル生産体制を

導入し,4週生産,2003年には北米を始めとする主要国で週次の取り組みと 2週生産体

制を完了し,2004年に開始する「躍進 21計画」の中核となる「垂直立ち上げ」活動の

基礎となった。

2005年 4月には本社内にグローバル SCM 推進室が設けられ,その室長に本田隆一

郎氏が選ばれ,海外拠点における SCM 展開を支援してきた。SCM は IT 革新との密接

な関係から,2007年には本社情報企画グループの傘下となった。

SCM 構築の,初期段階の改革の第 1のポイントは,どのパートナーとどんなことを

やるのか。次に,ものづくりではセル生産によるリードタイムの短縮,稼働率の重視か────────────4 伊丹敬之他編著『松下電器の経営改革』有斐閣,2007年,169ページ。

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)34( 350 )

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ら変化対応力重視へとシフトした。第 3に,組織としては商品軸で全体を見る「カテゴ

リーオーナー制」を導入し,資材調達まで含めた改革と意思決定の迅速化,グローバル

統合化とローコスト経営を重視した。第 4に,生産プロセスの改革によって,生産計画

を月次から週次に変える意思決定の迅速化。最後に,以上のことを支える IT 改革が,

SCM を支える基盤の構築を図っている。

中村邦夫社長の後任,大坪文雄社長の下で 2007年に開始した「GP 3計画」では,グ

ローバル・エクセレンスを目指した展望が示され,これまでのどの時代よりもグローバ

ル競争が激化する中で,より確実な事業を推進するために,流通とのコラボレーション

を重要視した SCM 成熟度別モデルを完成させた。以下,本田隆一郎グローバル SCM

室長と同参事奥田勝彦氏からのインタビューを中心に紹介する。

Ⅴ 9段階のグローバル SCM モデルの構築

1.9段階のグローバル SCM の構築

2007年中村邦夫社長から経営を受け継いだ大坪文雄社長は,社長就任後 2007年 1

月,向こう 3年間の新たな中期経営計画「GP 3計画」を発表した。この GP 3計画で

は,①海外 2ケタ増販,②4つの事業戦略,③継続的な選択と集中の 3つを重点課題と

している。

①海外 2ケタ増販とは,全世界の地域本部で年平均 2ケタ成長の実現に挑戦する,特

に BRICs を中心とする新興国市場に積極的に取り組み,海外全体の成長を加速する推

進力とする。

②4つの事業戦略には,デジタル AV 事業,カー・エレクトロニクス事業,生活快適

実現事業,半導体・デバイス事業を戦略事業として位置づける,というものである。

③継続的な選択と集中とは,3年間でプラズマ第 5工場をはじめとして研究開発や半

導体を中心とするキーデバイス開発への集中投資を行う,という内容である。

2009年までに「収益を伴った着実な成長」を積み重ね,「グローバルエクセレンス」

企業への挑戦を目指す。具体的な数値目標としては,売上高 10兆円,そのうち 60%以

上は海外での販売を掲げてい5

る。

しかし,2008年 9月に始まる世界的な大不況によって,計画全体を見直さざる得な

くなったとはいえ,2009年 3月現在,パナソニックの海外売上高は 47%で,ソニーや

韓国のサムソン電子の約 80%と比較して低いのが実情である。

パナソニックの垂直立ち上げと世界同時発売は,先進国を中心として展開された。2003

────────────5 松下電器産業株式会社社史室『社史 松下電器・変革の 30年 1978−2007』松下電器産業株式会社,2008年,417−421ページ。

パナソニックに見るグローバル・マーケティングの特徴(近藤) ( 351 )35

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年頃から,グローバルに見たとき,先進国の需要が伸び悩み,逆に BRICs と呼ばれる

新興国の需要の伸びを背景に,パナソニックは「GP 3計画」では新興国 BRICs を中心

とする地域に成長の推進力をおいた戦略を重視している。(注:BRICs という言葉は,

2003年から 04年頃に頻繁に使用されるようになった。)

パナソニックが新興国を本格的に攻めていったのは 2004年から 05年頃である。パナ

ソニックは,これまで先進国を中心として垂直立ち上げと世界同時発売を実践する中

で,先にも紹介したように芸術的とも表現できるような水準の高い精密な SCM のモデ

ルを構築している。この水準の高いモデルは weekly に受発注ができ,市場情報が正確

に把握できて初めて活用できるものである。このモデルが完成したのは,2005年頃で

ある。この水準の高いモデルをいきなり,条件の整っていない新興国を中心とする発展

途上国には直接適応することはできない。このようなモデルは,欧米向けの先進国には

適応できても,新興国には直接適応できないという問題が生じた。そこで,BRICs を

中心とした途上国を攻めるためには,これらの国にも適応可能な SCM モデルの構築が

急務となり,パナソニック独自の 9段階モデルが策定された(第 2図参照)。このモデ

ルを基準として,世界各国に配置している販売会社の SCM の取り組み度合いを評価す

る。世界中に設置されたパナソニックの販売会社がこの尺度によって 9つにクラス分け

されている。

従来は Weekly に実行されている最高段階のトップランナーモデルを示し,これを目

指して全ての販売会社が努力してきた。しかし,各地域の市場内容は文化的違いや経済

発展の度合いによってその成熟度の差があり,発展途上国では現地の販売会社のマーケ

ティング力や現場のマネジメント能力も先進国に比較して弱く,先進国とのギャップが

大きいため,先進国モデルをそのまま発展途上国には横展開できない。そのギャップを

どのようにして埋めるか。どのような順番でレベルアップしていくか。現地のディーラ

ーも欧米の市場を良く研究し熟知しており,欧米の進んだモデルを理想としている。し

かし欧米の進んだレベルまでもって行くにはどうすればよいのか,その具体的なプロセ

スについてのノウハウもマニュアルも存在しなかった。2007年度以降の大きな課題

は,具体的プロセスについてのノウハウのマニュアル化であった。

その一つの成果として,段階別成熟度モデルを作り上げた。それを作るに当たって,

これまで SCM 活動で培ってきたグローバルなビジネス・プロセスのノウハウを整理

し,標準化し,それを文章化しマニュアル化した。

もう一つの成果は,アセスメントに関するもので,各販売会社の活動のアセスメント

を通じて各販売会社の段階のどこに位置するのか,次の階段に登るにはどうすればいい

のか,その販売会社の成熟度に応じた施策を講じることであった。2007年から今日ま

でこの作業をしてきている。これを推進しているのが,本田隆一郎グローバル SCM 推

同志社商学 第61巻 第6号(2010年3月)36( 352 )

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月次Step 2Step 1 Step 3

週次Step 5Step 4 Step 6

日次Step 8Step 7 Step 9

実需創造型自動補充(CPFR)*協働事業計画

実需創造型自動補充(CFR)*協働フォーキャスト在庫削減型

自動補充実需起点PSI 管理 *

ディーラーも含めたweekly 化

社内でのweekly 化

先行商談

ディーラー別販売計画

販社基幹プロセス販売会社の基本業務の構築

ベトナム,タイなど

販売会社在庫・ドメイン在庫削減Cash to Cash サイクルの短縮変化対応力強化マレーシア,スペイン,イタリアなど

販売会社在庫・ドメイン在庫・ディーラー在庫削減増販商品力強化日本,米国,フランスなど

進室長を中心とした総勢 40名の海外経験豊かなメンバーである。ここでは各地域で個

別に経験した成果を集約し,モデル化し,それを他の地域に横展開していく。

第 2図はグローバル SCM 革新推進室によって作成された第 1の成果「販売会社 SCM

プロセスの成熟度レベル」である。この図では販売会社の SCM プロセスを 9つの成熟

度レベルに分け,各地域の SCM 成熟度レベルに応じた課題を示し,それを解決するこ

とにより,SCM のレベルを順次上げていく様子が図式化されている。

第 1から第 3段階までは,月次ベースの段階であり,この段階は,増販を支える販売

会社の基本業務プロセスの構築段階で,その第 1段階では販売会社の基本業務である発

注,仕入,販売,回収がしっかりと管理されている,第 2段階では販売目標が商品別だ

けではなく販売店別に管理されている,第 3段階では POS を用いて販売店別に先行商

談を行い,それが仕入,販売,在庫反映されている。

次の第 4から第 6段階は,週次のレベルであり,第 4段階ではこれまで月次でやった

商談を,まず販売会社内で週別にできるよう社内体制を整備し,受発注管理ができるよ

第 2図 販売会社 SCM プロセスの 9段階成熟度レベル

出所:パナソニック「グローバル SCM 推進室」資料を一部修正注:PSI とは,Purchase, Sale, Inventory の略

CFR とは,Collaborative Forecasting and Replenishment の略CPFR とは,Collaborative Planning Forecasting and Replenishment の略

パナソニックに見るグローバル・マーケティングの特徴(近藤) ( 353 )37

Page 11: パナソニックに見る グローバル・マーケティングの特徴 · 輸出マーケティングやマルチドメスティック・マーケティング時代の戦略は,新製品

うにする。

第 5段階では,POS データを元に週次の先行商談が実施されている。更に第 6段階

では,週次の先行商談が管理され仕入,販売,在庫に反映されている。

第 7から第 9段階は,欧米を中心としたレベルであり,実需創造型自動補充(Collabo-

rative Planning Forecasting and Replenishment)の段階である。第 7段階では「在庫削減

型自動補充」と呼ばれ,販売店の販売実績に応じて必要量を補充するプロセスになって

いる。第 8段階で「実需創造型自動補充(CFR)」の段階で,販売店と販売の予測を共

有し,補充量が中期レベルで管理できる。最後の 9段階では「実需創造型自動補充

(CPFR)」の段階で,販売の予測にとどまらず,販売計画まで共有し,販売店と一緒に

なって商品開発を行う最高のレベルである。

2.アセスメントを中心とした SCM の推進プロセス

第 2の成果であるアセスメントは,「基本診断」と「精密検査」の 2つのプロセスを

経て行われる。まず最初の基本診断では,「クイックアセスメント」と呼ばれ,販売会

社の SCM プロセス全般を対象として,約 40項目の質問によって 1時間位の短時間で

回答させその強み・弱みを明らかにし,業務改善の活動が必要な販売会社を選定すると

ともに,販売会社がどの段階にあるのか診断する。

次いで,クイックアセスメントで選定された販売会社の作業レベルまで踏み込んだ

「精密検査」を行う。ここでは,販売会社の作業レベルの一つ一つにおける強み・弱み

を明らかにした上で,具体的なアクションプランに落とし込む作業を行う。そのため

に,数日かけて詳細な質問をする。その際,販売会社の作業レベルまで落とし込んだ SCM

プロセスに関する質問を,業務担当者毎に行い,アセスメントの結果を総括し,優先取

り組み課題と,推進の方向性を明らかにする。それにも基づいて,SCM 推進計画の策

定,経営トップとの合意の上で,取り組みを実行する。販売会社の評価者は,計画の進

捗状況を見ながら,必要に応じて,実行計画の見直しを行う。

SCM 推進計画の策定に当たっては,本社のマーケティング会社から派遣されたスタ

ッフの援助を得て,現地の担当者と一緒になって,成熟度向上を目指して,SCM 推進

計画を策定する。達成した成果は,成果指標(Key Performance Indication)に表され

る。そこで得られた様々な経験や,知見は,本社にフィードバックされる。本社は,そ

れをブラッシュアップし,他地域の展開に活用していく。本社の役割は,各地域から上

げられてきた様々な経験,知見を,様々な地域に横展開しやすいように標準化し,マニ

ュアルとして形式知化し,文書化していくことである。また,本社は,前年,ベトナム

で経験した人を,近隣のインドネシアに派遣したり,フランスで経験した人を,フラン

スと文化や思考などで比較的類似性のあるロシアに派遣するなど,全体的視点で人材の

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交流を促進し,人材育成を行う。同時に,暗黙知の横展開を図る。

こうして本社は,文字化されたマニュアルのブラッシュアップと,知見のブラッシュ

アップに加え,将来の伝道師の育成と,派遣をあわせて実行している。更にステップ 1

から,ステップ 9のトップランナーに到達するまでの業務プロセス全体を明らかにし,

アセスメントを通して,各販売会社の成熟度に応じた施策を講じる,指導的役割を果た

している。これまでは,主として,AV 製品を対象として垂直立ち上げ,世界同時発売

をグローバル SCM とセットで展開してきたが,今後,パナソニックが得意とする白物

製品のグローバルな展開とともに,グローバル SCM は,一層強力な武器として,その

威力を発揮するものと思われる。

3.SCM 実現の条件

SCM を成功させる鍵としては,次のような条件が不可欠であると同社は強調してい

る。

まず何より,変革への強いニーズに基づいた IT 革新を立ち上げた,中村邦夫前社長

(現会長)と大坪文雄社長を初めとしたトップの強い意志である。それは,毎月開催さ

れる会議には,時間を割いて欠かさず出席しているということに現れている。

次に,SCM を推進していくキーとなるメンバーの確保である。中心となるメンバー

には,通常の業務をできるだけ軽減し,この仕事に専念できるようにしている。

第 3に,パートナーとの連携を強め,パートナーとの間に,トップ同士の信頼にとど

まらず営業,マーケティングなどの責任者との間の信頼関係から,さらには,現場同士

の業務における信頼関係の確立,強化することが,重要である。

第 4に,IT 投資と人材確保によって IT 経営革新を推進し,高速回転経営を実現する

仕組みを構築する。

最後に,経営目標を数値化し,共有化するとともに,誰にでもわかるような成果指標

によって可視化する共に,それを常に継続的に改善する活動を推進化し,強化してい

く。

Ⅵ 結 論

本稿では,グローバル・マーケティングの特徴を示す,パナソニックの垂直立ち上げ

と世界同時発売の成功を支えているグローバル SCM について分析した。パナソニック

はグローバル SCM の構築に先立って,先進国を対象としたパナソニック特有の,精緻

なグローバル SCM を開発している。この先進国を対象としたパナソニックの SCM の

特徴は,パナソニックと大手量販店間で,情報の共有をベースとした Win-Win の取引

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を実行する仕組みを持ち合わせている点にある。Daily な在庫情報のみならずタイムリ

ーな市場情報の共有によって市場のニーズにあった商品をタイムリーに開発,発売する

ことが可能となる最先端の SCM システムである。このモデルは,先進国を中心とした

垂直立ち上げや世界同時発売の成功を支えたことは間違いない。

しかし,このモデルは大手企業間の問題から出発した高度に完成された先進国モデル

であるため,発展途上国をもカバーしたグローバル・マーケティングを展開する場合に

は,問題を抱えていた。本稿でも明らかにしたように,このモデルが,先進国には適用

可能であるとしても,先進国とは経済発展段階や文化の違い,経営能力の未成熟な発展

途上国には,直接適応できない,という問題が発生した。近年,新興国を中心とした経

済発展が急速な中,グローバルな競争優位を実現するためには,先進国のみならず発展

途上国をもカバーするグローバル・マーケティング戦略の展開は不可避である。このグ

ローバル・マーケティング戦略を支える新興国をも包括するグローバル SCM の構築は

大きな意味を持つ。

とはいえ,グローバル SCM モデルが,いかに洗練され精緻なものであったとして

も,あくまで SCM は,グローバル・マーケティングを展開する手段であり,パナソニ

ックが目指す最終的な目的ではないことは,言うまでもない。パナソニックが目指すも

のは,今日のグローバル競争において,いかに消費者に支持される差別化された商品開

発を基礎とした競争優位を実現するかということにある。差別化された商品開発のため

には,流通業者とのコラボレーションにより消費者のニーズを反映した,鮮度の高い情

報が必要である。消費者に支持される革新的商品の提供とこの先進的なグローバル SCM

が結合されたとき,究極的には世界の消費者の生活を豊かにするというパナソニックの

創業以来の理念の実現が可能となるであろう。

最後に,パナソニックのグローバル SCM 構築のマーケティング学説上での評価につ

いて言及しておきたい。国際マーケティングの研究において,マーケティングの出現以

来,標準化すべきか,適応化すべきかという問題が論争の中心となってきた。その論争

の過程で両者は 2者択一の問題ではなく,いかにそれを統合化するか,その統合の具体

的道筋,方法の解明こそが重要である,ということで多くの論者の合意を得ている。パ

ナソニックが具体化したグローバル SCM の 9段階の成熟度別モデルは,この論争の合

意点にみごとに応えたものとして高く評価し得るものである。

本稿の執筆にあたり,パナソニック情報企画グループ・グローバル SCM 推進室室長本田隆一郎氏,同参事奥田勝彦氏には,インタビューに際して懇切丁寧な説明と貴重な資料の提供及び本稿の草稿までチェックいただくなど大変お世話になった。深く感謝の意を示したい。なお,本稿の文責は全て筆者にあることはいうまでもない。

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