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- 103 - デジタルシネマの標準技術に関する研究 者:安田 浩(東京大学国際・産学共同研究 センター) 関:東京大学 I. 研究の全体計画 1. 研究の趣旨 広帯域ネットワークが普及しつつあり,映像の配信が容 易となるため,感性・文化を対象とするコンテンツビジネ スがこれからの基幹産業と想定されている。特に,デジタ ル技術に基づく撮像・編集・表現等の映像技術や配信技術 の進歩は,デジタルシネマの有用性を高め,集合映画館か ら一般家庭での映画上映の普及を促し,新たな文化国家お よび新映像関連産業の形成に大きく貢献するであろう。 我が国を含めた世界の,映画関連技術分野では,フィル ム映像は勿論,デジタル化が進んだ今日においても,米国 主導の業界支配体制は依然として続いているのが現状であ る。 我国が 21 世紀における映像産業で国際的な地位を確保 するためには,こうした影響から脱却した純粋のデジタル 技術に基づく独自の手法を規格化することが急務である。 その為には,特定の大手制作・配給系列社のみでなく, 独立系等零細なコンテンツ制作会社にも容易に映像制作が 出来る環境構築をはかり,映像産業全体の底上げを果たす 事が必要であり,これらの点にも,本事業推進の重要性が ある。 本研究開発では,先ず初めに,デジタルシネマに関して その制作から上映までの各プロセスにおける必須の技術要 素,要求仕様の現状分析から将来予測までの洗い出しを行 う。続いて,標準的な実験場を設計・設置し,ここで先に 抽出された各項目について実証しながら,制作者,鑑賞者 にとって満足が得られるレベルを設定し,これを我国のデ ジタル映像標準規格としてまとめを行う。また,この活動 成果は,次のステップで,日本発の国際標準としての展開 を目指した活動に結び付けてゆくことにより,我が国主導 の標準技術を生みだし,技術標準・マニュアル・品質標準 という知的財産の輸出と,技術標準に基づくデジタルシネ マ制作・鑑賞機器などの製造業,等のデジタルシネマ関連 産業における指導的地位を築き産業発展に貢献する。 2. 研究の概要 a. デジタルシネマの標準映像技術に関する研究 本 WG1 では,デジタルシネマの基本要素である色空間 (色再現範囲),色温度,コントラスト,輝度などの標準仕 様作成を目指して,これらの数値評価に資する標準テスト 画像の制作と各種プロジェクターの 3 次元色空間範囲の精 密測定を行う。さらに,画像品質全体を評価するための標 準動画像の制作を行い,標準デジタルシネマ施設を使用し て感性評価を行いデジタルシネマ統一色空間管理手法の研 究開発を行う。 (1) 色空間と標準映像 デジタルプロジェクターの色空間範囲確定のために HD 解像度 CG テストパターンおよび,測定対象物の色度座標 値,輝度,色温度,分光スペクトルを測定した標準動画像 を作成し,デジタルシネマに要求される広範囲な輝度コン トラスト範囲におけるシアター環境下での 3 次元色空間 (色再現)範囲の精密測定を異なる投影方式(LCD,DLP) のデジタルプロジェクターで実施する。 (2) 標準デジタルシネマ施設の設置運用 デジタルシネマにおける色空間範囲確定の研究におい て,実際のデジタルシネマシアターを想定した環境下での 精密測定および感性評価が必須となるために,標準デジタ ルシネマシアターの整備および設置運用に関わる様々な技 術課題について研究を行うとともに,本プロジェクト全体 にわたる共通実験設備としての運用を行う。 b. コンテンツ制作に関する研究 本WG2における研究の目標は,デジタルシネマの企 画・制作・運用各段階の進捗状況を,制作関係者が常に把 握できる一貫システムの構築である。特に企画段階や,制 作の上流工程である脚本・デザイン・絵コンテなどの諸工 程の情報を一元化し,その進行や内容を容易に把握できる ようなシステムの構築を目指す。そのために次の研究課題 に取り組む。17 年度は,初年度に構造化したマクロラン ゲージと映像化された脚本をベースに,映像シミュレート するコア部分を開発する。引き続き映像化する上で必要な 3DCG モデルや,モーションデータ,カメラアクションな どのデータを制作する。 (1) 映像作品の企画・制作・管理のためのマクロランゲージの開 引き続き映像制作工程や制作管理の調査分析を行い,映 像制作に関わる様々なドキュメントや撮影素材,CG 素材, 音素材などの情報を盛り込んだマクロランゲージを構築 し,ネットワークを利用して閲覧可能にする。マクロラン ゲージは制作途中の段階でも制作内容を閲覧可能にし,早 い段階からコンテンツの全体像を把握できると同時に,制

デジタルシネマの標準技術に関する研究 - JST...の標準技術を生みだし,技術標準・マニュアル・品質標準 という知的財産の輸出と,技術標準に基づくデジタルシネ

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Page 1: デジタルシネマの標準技術に関する研究 - JST...の標準技術を生みだし,技術標準・マニュアル・品質標準 という知的財産の輸出と,技術標準に基づくデジタルシネ

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デジタルシネマの標準技術に関する研究

代 表 者:安田 浩(東京大学国際・産学共同研究

センター)

責 任 機 関:東京大学

I. 研究の全体計画

1. 研究の趣旨

広帯域ネットワークが普及しつつあり,映像の配信が容

易となるため,感性・文化を対象とするコンテンツビジネ

スがこれからの基幹産業と想定されている。特に,デジタ

ル技術に基づく撮像・編集・表現等の映像技術や配信技術

の進歩は,デジタルシネマの有用性を高め,集合映画館か

ら一般家庭での映画上映の普及を促し,新たな文化国家お

よび新映像関連産業の形成に大きく貢献するであろう。

我が国を含めた世界の,映画関連技術分野では,フィル

ム映像は勿論,デジタル化が進んだ今日においても,米国

主導の業界支配体制は依然として続いているのが現状であ

る。

我国が 21 世紀における映像産業で国際的な地位を確保

するためには,こうした影響から脱却した純粋のデジタル

技術に基づく独自の手法を規格化することが急務である。

その為には,特定の大手制作・配給系列社のみでなく,

独立系等零細なコンテンツ制作会社にも容易に映像制作が

出来る環境構築をはかり,映像産業全体の底上げを果たす

事が必要であり,これらの点にも,本事業推進の重要性が

ある。

本研究開発では,先ず初めに,デジタルシネマに関して

その制作から上映までの各プロセスにおける必須の技術要

素,要求仕様の現状分析から将来予測までの洗い出しを行

う。続いて,標準的な実験場を設計・設置し,ここで先に

抽出された各項目について実証しながら,制作者,鑑賞者

にとって満足が得られるレベルを設定し,これを我国のデ

ジタル映像標準規格としてまとめを行う。また,この活動

成果は,次のステップで,日本発の国際標準としての展開

を目指した活動に結び付けてゆくことにより,我が国主導

の標準技術を生みだし,技術標準・マニュアル・品質標準

という知的財産の輸出と,技術標準に基づくデジタルシネ

マ制作・鑑賞機器などの製造業,等のデジタルシネマ関連

産業における指導的地位を築き産業発展に貢献する。

2. 研究の概要

a. デジタルシネマの標準映像技術に関する研究

本 WG1 では,デジタルシネマの基本要素である色空間

(色再現範囲),色温度,コントラスト,輝度などの標準仕

様作成を目指して,これらの数値評価に資する標準テスト

画像の制作と各種プロジェクターの 3 次元色空間範囲の精

密測定を行う。さらに,画像品質全体を評価するための標

準動画像の制作を行い,標準デジタルシネマ施設を使用し

て感性評価を行いデジタルシネマ統一色空間管理手法の研

究開発を行う。

(1) 色空間と標準映像

デジタルプロジェクターの色空間範囲確定のために HD

解像度 CG テストパターンおよび,測定対象物の色度座標

値,輝度,色温度,分光スペクトルを測定した標準動画像

を作成し,デジタルシネマに要求される広範囲な輝度コン

トラスト範囲におけるシアター環境下での 3 次元色空間

(色再現)範囲の精密測定を異なる投影方式(LCD,DLP)

のデジタルプロジェクターで実施する。

(2) 標準デジタルシネマ施設の設置運用

デジタルシネマにおける色空間範囲確定の研究におい

て,実際のデジタルシネマシアターを想定した環境下での

精密測定および感性評価が必須となるために,標準デジタ

ルシネマシアターの整備および設置運用に関わる様々な技

術課題について研究を行うとともに,本プロジェクト全体

にわたる共通実験設備としての運用を行う。

b. コンテンツ制作に関する研究

本 WG2 に お け る 研 究 の 目 標 は, デ ジ タ ル シ ネ マ の 企

画・制作・運用各段階の進捗状況を,制作関係者が常に把

握できる一貫システムの構築である。特に企画段階や,制

作の上流工程である脚本・デザイン・絵コンテなどの諸工

程の情報を一元化し,その進行や内容を容易に把握できる

ようなシステムの構築を目指す。そのために次の研究課題

に取り組む。17 年度は,初年度に構造化したマクロラン

ゲージと映像化された脚本をベースに,映像シミュレート

するコア部分を開発する。引き続き映像化する上で必要な

3DCG モデルや,モーションデータ,カメラアクションな

どのデータを制作する。

(1) 映像作品の企画・制作・管理のためのマクロランゲージの開

引き続き映像制作工程や制作管理の調査分析を行い,映

像制作に関わる様々なドキュメントや撮影素材,CG 素材,

音素材などの情報を盛り込んだマクロランゲージを構築

し,ネットワークを利用して閲覧可能にする。マクロラン

ゲージは制作途中の段階でも制作内容を閲覧可能にし,早

い段階からコンテンツの全体像を把握できると同時に,制

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作工程の管理に有効活用できる。マクロランゲージは拡張

可能でネットワークでの閲覧や管理を想定し,XML をベー

スとする。本年度は(2)のダイナミックシミュレーショ

ンによる映像コンテンツ企画・制作・管理技術で開発する

エディタと連携できる状態にし,公開する。

(2) ダイナミックシュミレーションによる映像コンテンツ企

画・制作・管理技術

本研究では,視覚的に演出者(ディレクター)が映像の

構成要素を設定することで,制作内容の共有や制作管理に

必要な項目を一元化するビジュアルエディタ(ダイナミッ

クシミュレーションシステム)を構築する。具体的には,

脚本や演出家の文字情報を画像情報化し,時間軸に沿って

それらの画像情報を表示し,演出家が画面上のオブジェク

トを操作してシミュレートするビジュアルエディタ技術を

開発する。本年度は(1)のマクロランゲージと連携でき

る状態にし,公開する。

c. デジタルシネマ情報の伝送蓄積に関する研究

本 WG3 では,デジタルシネマ情報を安全確実に伝送ま

たは蓄積する技術,ならびにデジタルシネマ情報の映像を

複数の空間解像度で再生できるよう,圧縮符号化の際に階

層性を持たせる技術の研究開発,ならびに性能確認を行う。

具体的なサブテーマの内容は下記の通りである。

(1) デジタルシネマ情報のセキュア伝送技術

昨年度研究した再撮耐性電子透かし方式に適応処理を追

加して改良し,再撮された映画館,時刻を高信頼度で特定

する技術を開発する。昨年度検討した著作権流通電子透か

し方式のプログラムを完成し,不正コピー流通経路追跡,

蓄積コンテンツ破損部分検出を行う技術を開発する。実証

実験用にデジタルシネマ蓄積,配信のモデルを構築し,上

記 2 種類の電子透かし方式を検証,評価する。

(2) デジタルシネマ情報の階層符号化技術

昨年度実施した既存国際標準方式に階層性を持たせる技

術の開発に関して,学会等に報告を行う。一方,既存標準

方式の枠にとらわれずに階層性の機能を追加してかつ符号

化性能を保持するような代替技術・新規符号化方式の検

討・開発を進め,効果が見られた技術・符号化ツールにつ

いては標準化グループへの提案や学会発表等を行う。また

実証実験を行うための開発・環境整備を進める。

d. デジタルシネマ映像配信に係る DRM に関する研究

本 WG4 では,デジタルシネマ流通においては,デジタ

ルシネマ国際流通のための著作権管理,改変自由なデジタ

ルシネマ再利用許諾管理,デジタルシネマ制作における円

滑な資金調達,デジタルシネマの生産性を向上する制作工

程管理システムを提供するにあたり,国際的相互運用可能

な権利・流通メタデータの管理システム,メタデータ標準

技術に取り組む。

(1) Creative Commons ポータル技術

デジタルシネマ ID による利用・再利用制御を行う検証

システムを開発する。検証実験から,メタデータ群の分析

を行いデジタルシネマの権利メタデータ標準,流通メタ

データ標準,デジタルシネマのビジネスルール標準,デジ

タルシネマ評価メタデータなどデジタルシネマ・メタデー

タの分析,体系化の研究を行いメタデータ標準第 1 版を策

定する。

(2) P2P 映像コンテンツ交換技術

デジタルシネマ人材の育成の援助を目指し,我が国およ

び世界各国のデジタルシネマの人材育成教育機関との連携

を進め,作品メタデータのポータル化,コンテンツ交換シ

ステムの構築を進め,メタデータ共有環境の開発,実証実

験を行い,デジタルシネマ・メタデータの分析,体系化の

研究を行う。

e. デジタルシネマアーカイブ技術の研究開発・国際標準化推

進・検証実験

本 WG5 では,前年度に続き,デジタルシネマアーカイ

ブ技術の研究開発ならびに WG1 から 4 を含めた本プロ

ジェクト全体の国際標準化推進,ならびに検証実験を進め

ている。具体的なサブテーマの内容は下記の通りである。

(1) シナリオ入力デジタルシネマ制作技術

シナリオを入力すると,データベースに用意された CG

キャラクタと舞台(背景)を用いて自動的に最適な演出を

生成し映像化することを目的とする。本年度は,前年度に

検討を進めた動詞合成技術と自立分散キャラクター技術に

ついて開発を進めるとともに,試作システムを用いた実証

実験を行う予定である。

(2) 更新型 DRM 適用技術

更新型セキュアーコンテンツ流通の実現を目標とする

国 際 標 準 化 に,ISO/IEC JTC-1 SC29/WG11(MPEG) が

ある。この他に国際 DRM 標準化団体である DMP(Digital

Media Project) があり,これらの国際標準化団体へ共通仕

様を標準化提案するための技術開発と,その提案内容の訴

求活動として,DRM 共通プラットホーム構築等の諸活動

を行う。本テーマでは,国際標準団体の規格がハイレベル

標準の策定にとどまらず,提案内容をそのまま実装可能な

レベルに高める完成度の高い技術開発を実現する。

(3) デジタルシネマの標準化推進に係る研究

WG5 に加え WG1 ~ 4 を含めた本プロジェクトの研究

開発成果全体について,前年度に続き国際標準,国内標準,

業界標準など成果に目的・用途に合わせた方向で標準策定

作業に取り組む。

(4) 実証実験

WG5 に加え WG1 ~ 4 を含めた本プロジェクトの研究

開発成果全体について,特に感性評価を中心に前年度分を

発展させて実証実験に取り組む。なお映像品質評価特に動

き品質評価について取り組みを強化する。

(5) 研究運営委員会の開催

本プロジェクトの成果の生かし方について戦略的に議論

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するために,前年度と同様,研究運営委員会を開催する。

本委員会は本プロジェクトの WG リーダと外部有識者から

構成されるものとする。

3. 年次計画

II. 平成 17 年度における実施体制

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III. 研究運営委員会

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IV. ミッションステートメント(システム改革により生み出される成果の目標)

デジタル映像によるデジタルシネマコンテンツ上映の優

位性は,フィルム映像(映画)に比較して制作,機器開発,

配信ネットワーク,等が高精度に且つ低廉なコストで実現

できることにあり,将来コンテンツ配給(配信)方法も含

め大幅にデジタル化が進むことが確実視されている。

しかしながら,完全に外光を遮断した環境で上映される

「映画」の観賞スタイルは,白昼や照明の下での TV 受像

器等で視聴する「ビデオ映像」の場合とは,各種仕様にお

いてかなり異なる特性が要求される。業務用映像の世界で

は,制作者の意図した場面を画面で完全に再現するため,

「映画」「ビデオ映像」ともに相当数の調整要素(パラメー

タ)に関して綿密な調整を行って,業務に供しているのが

現状である。また,関連機器や媒体及びその伝達・変換方

法も多種多様にわたり,担当技術者にとって,これらの特

徴を的確に捉えた上での「絵作り」を行うことが,一つの

「技」とされているのも現状である。

こうした「プロのこだわり」も大切なことであるが,一

方では,デジタルシネマを手軽に活用し,広範囲にわたる

展開をはかりたいと言うニーズが,大勢を占めつつあるこ

とも事実である。 このようなニーズに対応する施策とし

て考えられるのは,デジタルシネマ,デジタル映像機器に

関する各種技術要素に関して標準規格を定め,この規格に

準拠したコンテンツ制作,上映を行えば,制作者及び鑑賞

者にとって十分な満足が得られる,相応のクオリティが確

保出来るシステムを開発することである。

デジタルシネマ規格の標準化は,部分的には我が国でも

海外でも試みられているが,いずれも何らかの形で米国映

画業界のフィルム規格の影響を受けており,純粋のデジタ

ルシネマに関する試みは内外ともに初めての試みである。

本事業の本格的な展開によりデジタル映像の制作から上映

は更に容易になり,急速な普及を遂げることにより,コン

テンツ業界をはじめとして関連業界の成長に資する事が期

待できる。

本プロジェクトでは,コンテンツ制作の全工程を,一貫

したデジタル技術の標準規格として統一し,これを日本発

の国際標準として提案,普及実現することにより,デジタ

ルシネマ産業における我が国の国際的地位が大幅に高ま

り,同業界の事業基盤の安定化,規模の拡大に資すると共

にコンテンツ業界,エレクトロニクス業界発展への波及が

期待出来る。また,制作工程管理,著作権管理などの標準

マニュアルを提供でき,本分野への参画を容易とし,かつ

教育手段としての使用も可能となり,デジタルシネマ関連

人口の裾野を広げる効果も大である。

事業完了後,国の援助および映像産業界の出資等で,内

外におけるモデル事業,人材育成事業等の展開を行うこと

で,構築した標準規格の内外への浸透を図る。この結果,

北京オリンピックを起点とする,中国・アジア圏のデジタ

ルシネマブームを日本産業が支える構造を演出し,東京オ

リンピック時のカラー TV ブームによる産業隆盛を,デジ

タルシネマ関連機器で再来させようとするものである。

因みに現在の中国の TV 受像器台数は 3.5 億台で,ア

ジア圏を含めて考えれば,東京オリンピック時の 20 倍を

越える規模の映像産業興隆となるはずであり,本プロジェ

クトによる標準化仕様で,日本産業参入基盤を固めること

が可能である。

また,研究終了後は,以下の事業の推進を考えている。

1. 内外におけるモデル事業の展開

本事業の成果としてまとめた標準規格に準拠した一連の

プロセスに基づいた映像の制作から,セキュア配信,メタ

データサービス,映画上映,までのモデル事業を展開す

る。

2. 標準映像による映像評価システムの構築

本事業の成果物として完成した,ハイビジョン品質の動

画による標準映像は,今後の高精細映像技術分野における

標準として位置づけられるものであるが,本研究の成果を

きっかけとして,将来,我が国初の映画レベル映像の公的

評価機関の設置を目指す。

3. 人材育成

デジタル技術を駆使した簡便で高品質なコンテンツ制作

プログラムを,映像クリエータ及びクリエータを目指す

人々を対象に人材育成セミナー等の事業を実施する。一例

として,映像制作人材育成カリキュラム等に本事業の成果

を盛り込み,現在,払底している映像クリエータの底辺拡

大,プログラムの普及活動を行う。

4. 普及活動

本事業の成果であるデジタルシネマ関連技術の標準規格

は,国際標準化機構に提案・訴求活動を行いうと同時に,

当初国内及びアジア地域においてデファクトスタンダード

として,制作,流通関連企業及び映像機器製造関連企業等

に働きかけ,本規格の周知と活用の勧誘活動を行う。