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アブストラクト集 2018.2.22 さきがけ マテリアルズインフォマティクス 第1回公開シンポジウム AP市ヶ谷

アブストラクト集 - JST · 2018. 7. 26. · 15:40 フェーズフィールドシミュレーションと機械学習 ... る成分のスペクトルとその空間強度分布を自動的に

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アブストラクト集

2018.2.22 さきがけ マテリアルズインフォマティクス第1回公開シンポジウム 於 AP市ヶ谷

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「理論・実験・計算科学とデータ科学が連携・融合した先進的マテリアルズインフォマティクスのための

基盤技術の構築」

第1回公開シンポジウム

2018年2月22日(木)13:00-17:20於 AP市ヶ谷 8階A会議室

プログラム13:00 開会挨拶 東京大学 常行総括

13:10 統計的機械学習によるスペクトルイメージのモデリングと解析法 岐阜大学 志賀元紀13:40 ホール移動過程の直接評価とデータ科学的統計解析 大阪大学 佐伯昭紀14:10 自動反応経路探索を用いる触媒反応の機構解析と機械学習を用いた効率化への試み

奈良先端科学技術大学院大学 畑中美穂14:40 結晶界面インフォマティクス 東京大学 溝口照康

15:10 Break

15:40 フェーズフィールドシミュレーションと機械学習によるミクロ組織形成予測名古屋大学 塚田祐貴

16:10 半導体材料開発のための計算材料データベース開発 東京工業大学 熊谷 悠

16:40 有効模型のデータベース化と物質探索への応用 東北大学 是常 隆

17:10 閉会の辞 物質・材料研究機構 伊藤 聡

17:30 交流会 5階D会議室

■お問い合わせ先:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略研究推進部 ICTグループTel:03-3512-3526 問合せフォーム:https://form.jst.go.jp/enquetes/senryaku_inquiry

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統計的機械学習によるスペクトルイメージのモデリングと解析法

Modeling and analysis of spectrum image data based on statistical machine learning

志賀元紀

岐阜大学/ JST さきがけ

Motoki Shiga

Gifu University / JST PRESTO

1.はじめに

STEM-EELSなどのスペクトルイメージ計測は,試料表面の各点において局所的な成分(元素配

置や電子状態)を反映するスペクトルを網羅的に計測する技術である.その計測 1回で得られるデ

ータ量が膨大であるために,機械学習の技術に基づくデータ解析の自動化が望まれる.ところで,

統計的機械学習で優れた解析精度を達成するには,計測で得られるデータの性質や既知の情報

に応じたモデルおよびアプローチを適切に選択する必要がある.例えば,スペクトルの形状がある

程度分かっている場合には適切な関数モデルによるパラメトリック手法が有効であり,形状が不定

かつデータ数が多い場合には関数モデルを仮定しないノンパラメトリックな手法が有効である. 本

講演では,本プロジェクトの支援を受けて開発した 2 つの研究を紹介する.1 つ目の手法は,スペ

クトルの関数モデルを仮定しない非負値行列分解によって, 評価試料の成分の空間強度分布お

よび成分スペクトルを同定する手法である[1, 2].2つ目の手法は,ガウス基底関数に基づき,3Dラ

マン分光スペクトルの深さ方向の層間の混合信号を分解する手法である.以下に,これら 2つの解

析の問題設定および開発法の概要を述べる.

2.非負値行列分解による構造成分のスペクトルおよび空間分布の自動同定法

スペクトルイメージ計測で得られるデータ量は膨大であるものの,局所構造を同定したい注目領

域に含まれる成分数は比較的少ない.したがって,スペクトルイメージのデータは非常に冗長であ

り,この冗長なデータに潜在する本質的な情報を同定することによって,注目領域中に多く含まれ

る成分のスペクトルとその空間強度分布を自動的に抽出できる.本研究で対象とする STEM-EELS

はスペクトル形状を単純な関数でモデル化し難いため,ノンパラメトリックなアプローチである行列

分解法によって解析法を設計した.行列分解(図 1 参照)には主成分分析(Principal Component

Analysis)等の様々な手法がこれまでも提案されている中で,本研究ではスペクトルと成分濃度の値

に非負値性を仮定する非負値行列分解を採用し,さらに,不自然な空間的な成分の重なりを解消

する拡張機能および成分数を自動決定する拡張機能を加えた拡張法を開発した.本講演では,

STEM-EELS や STEM-EDX によるスペクトルイメージ計測データ解析の解析例を用いて,提案法

と従来法を比較し,提案法で拡張した機能の効果を示す.

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図 1:行列分解による成分スペクトル・分布の同定

あああ

図 2: 3D ラマン分光の計測モデル

3. 混合ガウスモデルよる 3D ラマン分光スペクトルの分解法

共焦点ラマン分光イメージング計測を用いれば,評価したい試料の注目領域の表面だけでなく,

深さのある複数の層ごとにスペクトルイメージ計測できる[3].しかしながら,各層に焦点を絞り計測

されたスペクトルには隣接する層の間のスペクトルの信号成分が含まれているため,計測信号をそ

のまま解析すると誤った解析結果を導く可能性がある(図 2 参照).そこで,この信号の混合を解消

し,各層の純粋なスペクトルを観測データから推定することが重要である.本研究では,ガウス基底

関数でモデル化できる純粋なラマン分光スペクトルが異なる層間で線形に混合されることを仮定し,

この仮定の下で観測信号から純粋なスペクトルを推定する手法を開発した.ただし,線形混合パラ

メータをレーザー減衰と共焦点絞りによるモデルによって得た値に固定し,一方,基底関数のパラ

メータ(平均,分散,ピーク強度)を平均 2乗誤差の最小化によって学習した.人工データを用いた

数値実験をしたところ,開発法が純粋なスペクトル形状を正しく推定できることを確認できた.また,

Si に押し込み傷を加えた材料を実計測したデータに対して,本解析に基づき 3D ストレス分布の推

定したところ,より正確な解析結果を得られた.これらは,物質・材料研究機構のWang博士, Zhang

博士, Da博士,Kitazawa博士, Fujita博士らとの共同研究による成果であり,著者は新規データ解

析法の開発および数値実験を担当した.

4.まとめ

スペクトル計測の状況に合わせた計測データのモデル化および解析法を紹介した.特に,3D ラ

マンスペクトル解析では,ガウス関数モデルを使うことで推定問題を単純化でき,結果としてより精

密な解析を実現できている.本プロジェクトで開発した解析コードの一部は,著者の Github リポジト

リ[4]で順次公開される予定である.

参考文献

[1] Shiga M., et al., Ultramicroscopy, 170, 43-59, 2016.

[2] Shiga M., et al., Trans. of MRSJ, 41(4), 333-336, 2016.

[3] Dieing, T.; Hollricher, O.; Toporski, J. Confocal Raman Microscopy, Springer, 2010.

[4] https://github.com/MotokiShiga

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ホール移動過程の直接評価とデータ科学的統計解析

Direct Evaluation of Hole Transfer Process and Statistical Analysis using Data Science

佐伯 昭紀

大阪大学大学院工学研究科・JST さきがけ

Akinori Saeki

Graduate School of Engineering, Osaka University / JST-PRESTO

近年,ABX3構造を有する有機無機ペロブスカイト太陽電池(PSC)が注目を集めている.代表的

な PSC は A サイトとしてメチルアンモニウムカチオン(CH3NH3+: MA),B サイトとして鉛イオン

(Pb2+),X サイトとしてヨウ素イオン(I-)で構成され,無機太陽電池と比べても開放電圧ロスが小さ

い特徴を持つ.安価な分子と元素からなり,溶液/蒸着プロセスが可能なため,既存太陽電池との

タンデム化による高効率化やフレキシブル基板上での大量生産にも適している.この数年間でそ

の高いキャリア移動度,1 μm以上の長い拡散長,強誘電体効果や Rashba効果による電荷再結合

の抑制,室温エネルギー以下の低い励起子束縛エネルギーなどが次々と明らかになり,また材料

の純化やプロセスの改善により,多くの機関で高性能素子を作製できるようになってきた.

筆者らはこれまで,時間分解マイクロ波伝導度(Time-resolved microwave conductivity: TRMC)

を用いた PSC の研究から,ペロブスカイト中のホール

移動度は有機ホール輸送層(HTL)の移動度よりも 2

桁近く高いため,ペロブスカイト層からホール輸送層

へホールが移動すると TRMC 信号が大きく減少する

ことを報告している 1).したがって,TRMC法の特徴で

ある「デバイスを作製することなく本来の特性を安定

に・正確に評価できる」点に加え 2),パルスエンドでの

減少割合と数 μs 後までの減少速度からホール輸送

効率を直接評価することで,迅速に新規材料の分子

設計とプロセスをスクリーニングできると考えた.

そこで,8 種類の高分子に添加剤を加えた膜・加え

ていない膜をペロブスカイト層に塗布し,TRMC 法を

用いて電荷の時間挙動を評価したところ 3),HTLを塗

布した 2 層膜では,マイクロ波信号は大きく減少し,

減衰速度も速くなることが観測された(図 1a).このマ

イクロ波信号の減少量を解析することで,正孔移動効

図 1. (a) MAPbI3/TiO2 の規格化した TRMC 信号(黒

線)と,さらに HTL 高分子として PTAA(赤線)あるいは FT55(青線)を塗布した試料の TRMC 信号.(b)(a)から得られたホール移動収率の時間挙動.

右に PTAA,FT55 の化学構造式.

+ HTL

時間 (μs)0 1 2 3 4

0

1

規格化した

TRM

C信号

FT55

PTAA

(a)

0.01 0.1 1 100

100

ホール移動収率

:hH

T

( %

)

FT55

h0

hsat

k, b

h0 hsat

k, b

PTAA

MAPbI3/TiO2

時間 (μs)

(b)

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率(ηHT)の時間変化を定量することができ,1 つの正孔輸送層につき,マイクロ波信号ピーク時で

の正孔移動効率 η0,遅い時間領域での飽和正孔移動効率 ηsat,減衰速度 k,および減衰速度の

時間変化に対応する β の 4 つの実験変数値を抽出することができる(図 1b).一方で,8 種類の高

分子に対してペロブスカイト太陽電池素子を作製し,変換効率などの素子性能パラメータを評価し

たところ,ペロブスカイト発電層そのものは同一であるにも関わらず,変換効率は 1%程度から 17%

程度まで大きく変化した.続いて 8 種類の高分子に対して,η0,ηsat,k,β と素子性能の相関を検討

したが,明確な相関関係は不明であった.

そこで,実験変数を個々に扱うだけでなく,複数の和(例えば η0+ηsat)や積(例えば ηsat k)の組合

せを 15 種類抽出し,さらに 8 種類の高分子だけでなく,過去に行った低分子材料での 8 種類の

データを加え 4),素子性能との相関を調べた.このように多数の変数間の相関を調べる手法として,

LASSO 解析(Least Absolute Shrinkage and Selection Operator)という手法がある.この手法は,複

数の変数間同士の相関の中から最も相関が高い変数を抽出できる特徴があり,数千・数万を超え

るビッグデータを扱うデータ科学で有

効な統計的手法として知られている.こ

の LASSO 統計解析を行ったところ,

(η0 k)の対数が太陽電池素子の短絡

電流密度と変換効率に最も相関するこ

とが瞬時に分かり(図 2),さらに,高分

子の HOMO や分子構造と併せて検討

した結果,正孔移動効率を十分高める

には,HOMO がペロブスカイトの価電

子帯準位よりも,0.14 eV以上浅いこと,

高分子骨格中の窒素や硫黄の空間配

置が高効率材料に重要であることが示

唆された.

今回明らかになった(η0 k)の対数という指標を用いることで,今後の新規な正孔輸送材開発と評

価が格段に容易になり,高効率化に向けた研究を加速できる.本研究では高分子の種類によって

正孔移動効率が異なり,その結果,素子性能が大きく変化することを解明しただけでなく,添加剤

の有無と大気への暴露時間が正孔移動効率に影響を与えていることも明らかにした.

参考文献

[1] H. Oga, A. Saeki, Y. Ogomi, S. Hayase, S. Seki, J. Am. Chem. Soc. 136, 13818 (2014).

[2] A. Saeki, S. Yoshikawa, M. Tsuji, Y. Koizumi, M. Ide, C. Vijayakumar, S. Seki, J. Am. Chem. Soc.

134, 19035 (2012).

[3] N. Ishida, A. Wakamiya, A. Saeki, ACS Photonics 3, 1678 (2016).

[4] H. Nishimura, N. Ishida, A. Shimazaki, A. Wakamiya, A. Saeki, L. T. Scott, Y. Murata, J. Am.

Chem. Soc. 137, 15656 (2015).

図 2 (a)LASSO で得られた各説明変数(xn,n=1~15)の回帰係数.(b)説明変数 x1 と短絡電流密度との相関.各シンボルは高分子(カラー)

と低分子(黒)HTL の種類を表す.

0.0

0.5

1.0

説明変数:xn

1.5

説明変数 x1 = ln (h0 k)

0

5

10

15

20

25

8 10 12 14 16

回帰係数

短絡電流密度

(mA

cm

-2)

(a) (b) ◆ PTAA ◆ FT37◆ FT55◆ FT73■ TQ1■ PPV ■ F8T2■ P3HT ●Molecules

1 2 3 15

説明変数

x1 ln(h0 k)

x2 h0

x3 h0 + hsat

x4 h0 k

x5 ln((h0 + hsat )k)

x6 (h0 + hsat )k

x7 h0 + hsat + lnk

x8 ln(hsatk)

x9 hsat k

x10 h0 + lnk

x11 hsat

x12 hsat + lnk

x13 lnk

x14 k

x15 b

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自動反応経路探索を用いる触媒反応の機構解析と

機械学習を用いた効率化への試み

Automated Reaction Path Search for Catalytic Reactions:

Elucidation of Mechanism and Efficient Analysis by Machine Learning

畑中 美穂

奈良先端科学技術大学院大学 研究推進機構, 物質創成科学研究科,

データ駆動型サイエンス創造センター

Miho Hatanaka

Institute for Research Initiatives, Graduate School of Materials Science, Data Science Center,

Nara Institute for Science and Technology

有機化学分野の知識の蓄積により,多くの反応において,反応物から生じ得る生成物を予想する

ことは,比較的容易である.しかし,複数の生成物が得られる反応における主生成物・副生成物の

生成比や,立体異性体の生成比を予想することは困難であり,更に,このような反応において,特

定の生成物の生成比だけを向上させる反応を設計することは,依然として難しい.このような反応

の機構解明や選択性の発現機構の理論的解明に対し,近年大きな成功を収めている方法の一つ

に自動反応経路探索(GRRM)[1] がある.GRRM には,独立した2種の方法:非調和下方歪追跡

(ADDF)法と人工力誘起反応(AFIR)法があり,それぞれ異なる特徴を有する.

ADDF 法は,ポテンシャルエネルギー曲面上における局所安定構造に着目し,そこから遷移状

態に向かう方向を,局所安定構造まわりの非調和下

方歪(ADD)を用いて追跡していく方法である.この方

法は,ある局所安定構造を計算の起点とした追跡は

可能だが,複数の反応物を含む反応の場合,反応の

起点は反応物同士の解離極限にあるため,限られた

反応にしか適用できないという弱点がある.

これに対し,AFIR 法は,分子内または分子間の全

原子(反応に関わる部位が自明な場合は,反応に関

わる原子のみ)の間に人工力を加えることで,局所安

定構造,解離極限のいずれからでも生成物に至る経

路を自動的に探索することを可能にした方法である.

この方法の最大の利点は,反応前の分子の構造の情

報さえあれば,反応物の接近方向やコンフォメーショ

ンが異なる生成物・中間体・TS をほぼ自動的に調べ

Figure1. (a) ADDF 法と(b) AFIR 法

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上げることができることである.特に AFIR 法を用いた TS を網羅的探索は,生成物の立体選択性

を定量的に議論することを可能にし,理論的触媒設計指針の構築も可能にしつつある.[2]

本講演では,Scheme 1 に示す亜鉛錯体を触媒とする不斉アルドール反応[3]を例に挙げ,GRRM

を用いた反応機構解明と機械学習による効率的解析について述べる.まず,亜鉛錯体がどのよう

に生成物の立体を制御しているのか調べ

るため,立体選択性を決める段階である

炭素―炭素結合生成段階に着目し,その

遷移状態を AFIR 法によって網羅的に探

索した.AFIR 法による探索では,反応物

同士の初期配置をランダムに決め,そこか

ら炭素―炭素間に人工力をかけて,結合

生成までの過程を調べた.その結果,480

個の遷移状態が得られた.ここで,AFIR法によるTSの探索は,現実的な計算時間に収めるため,

ユーザーが決めた条件を満たした段階で,探索を終了している.この方法では,全ての TS を探索

できているとは限らないため,得られた TS 構造をユーザーが解析して,重要な構造を見逃してい

ないか判断する必要がある.この作業を効率化するために,教師なし学習の一つである K-

Means++法を用いたクラスタリングを行った.各 TS 構造は,炭素および水素原子を除く全原子間

距離のベクトルによって記述し,5 つのグループに分類した.その結果,配位子の窒素または酸素

原子と 2-クロロベンズアルデヒドの塩素原子の間の距離が,グループ間の差異を表す特徴的な量

となっていた.これらの距離は,2-クロロベンズアルデヒドの亜鉛エノラート錯体に対する配向や接

近方向に大きく依存することから,TS 構造は 2-クロロベンズアルデヒドの配向と接近方向の違いに

よって分類されたことが分かる.

このように,機械学習によって得られた構造の解析を効率化することはできたが,この計算方法自

体は効率的とは言えない.なぜなら,反応物同士の初期配向をランダムに決めているため,不安

定な TS や生成物に繋がる経路や,探索済みの経路を探索してしまうからだ.そこで,反応物同士

の初期配置,そこから繋がる TS や生成物のエネルギーの関係を学習することで,AFIR 法による

探索を効率化し,計算時間を削減する試みについても述べる.

参考文献

[1] (a) S. Maeda, Y. Osada, T. Taketsugu, K. Morokuma, K. Ohno, GRRM14, http://iqce.jp/ GRRM/

index_e.shtml (b) S. Maeda, K. Ohno, K. Morokuma, Phys. Chem. Chem. Phys. 15, 3683 (2013).

[2] (a) M. Hatanaka, S. Maeda, K. Morokuma, J. Chem. Theory Comput. 9, 2882 (2013). (b) M.

Hatanaka, K. Morokuma, J. Am. Chem. Soc. 135, 13972 (2013). (c) M. Hatanaka, K. Morokuma,

ACS Catal. 5, 3731 (2015).

[3] S. Itoh, T. Tokunaga, S. Sonoike, M. Kitamura, A. Yamane, S. Aoki, Chem. Asian J. 8, 2125 (2013).

Scheme 1. 不斉亜鉛錯体を用いるアルドール反応

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結晶界面インフォマティクス

Informatics for crystalline interface

溝口照康

東京大学生産技術研究所

Teruyasu Mizoguchi

Institute of Industrial Science, University of Tokyo

【研究背景】

実用に供されている材料の中には,点欠陥や粒界,表面などの様々な格子欠陥が無数に存在

する.それらはバルクとは異なる原子配列を伴うために,機械的・機能的物性に多大な影響を与え

ることが知られている.また,薄膜法を用いて作成される人工超格子のヘテロ界面では,二次元電

子ガスの形成など特異的な物性の発現も報告されている.これら様々な格子欠陥における機能発

現を理解するためには,格子欠陥の原子構造を明らかにし,その構造と特異的な物性との相関性

を明らかにする必要がある.

一方で,格子欠陥が 0次元(点欠陥),1次元(転位),2次元(表面,界面)の構造を有しており,

その構造を決定するためには欠陥固有の自由度を考慮する必要がある.例えば,モデル化された

結晶粒界,つまり対応格子理論に基づくΣ粒界においては構造の自由度は 3~4 個に減少する

が,それでも考慮しなければならない候補構造は一種類のΣ粒界あたり数百から数万個も存在す

る.Σ粒界の構造決定には,そのような膨大な候補構造の中から,最も安定な構造を探す必要が

ある.その自由度を全て網羅的に計算することは一般的に困難であり,これまでに格子欠陥の研

究は,一種類の欠陥構造を決定するような各個研究がほとんどであった.

そのような中,米国発のマテリアルズインフォマティクスに関する研究が近年注目をあつめている.

日本においても京大や名工大のグループを中心として,マテリアルズインフォマティクスの研究成

果が報告されてきている.それらの研究では,手動では扱うことが出来ないほどの膨大なデータを,

情報科学の手法を用いて解析することで,新しい知見を得たものである.

以上のような様々な背景をふまえ,本発表では機械学習の手法を結晶界面の構造決定に利用

した“結晶界面インフォマティクス”に関する研究内容について報告する.特に仮想スクリーニング

とベイズ最適化,さらに転移学習を用いた界面構造決定に関する成果と,それらを応用して構造

機能相関を調べた結果について発表する.

【仮想スクリーニングによる界面構造探索】

仮想スクリーニングは,全てのデータを網羅的に取得することが困難な場合に一部のデータを用

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いて回帰によって予測モデル(回帰器,Predictor と称す)を作成し,得られた Predictor によって残

りのデータ部分を推定して最適値(ここでは最安定構造)を決定する手法である.今回,FCC-Cuの

[001]軸対称傾角粒界の構造を仮想スクリーニングによって決定した.4 つの粒界で学習(Training)

を実施することで Predictorを作成し,得られた Predictorを用いて他の粒界構造を非常に高速かつ

高精度に決定することに成功した[1].

最近では,仮想スクリーニングをさらに拡張し,様々な物質の粒界構造を決定可能な“Universal”

な Predictor の作成も試みている.

【ベイズ最適化による界面構造探索】

また,ベイズ最適化を用いた界面構造探索も行っている.得られたデータを用いてデータ空間

全体を推定し,予測分散も考慮して次の探索点を決める.次にその探索点で実際に得られたデー

タも用いて空間全体を推定しなおして次の探索点をきめる.そのような探索と推定を繰り返すことで

最適値をいち早く決定する手法である.同手法は資源探索の領域で用いられておりKrigingとも称

される.

Krigingを FCC-Cuや,BCC-Fe,酸化物の対称傾角粒界に利用した.その結果,数百倍効率的

に最安定界面構造を決定することに成功した[2, 3].また,Kriging により得られた推定結果は,構

造と界面エネルギーとの相関性に関する情報が含まれている.その結果を別の新しい粒界に利用

することで新しい粒界をより効率的に探索することが出来る.そのような知識を再利用(転移,

transfer)する転移学習(Transfer learning)と Kriging を組み合わせた結果についても発表する[4].

また,以上のような機械学習を用いた手法は界面における偏析構造を決定したり[5],表面の吸

着サイトを決定したりするにも有用である[6].

本発表では以上のようなマテリアルズインフォマティクス手法を用いた構造探索に加え,界面にお

ける構造機能相関,さらに最近取り組んでいる研究について紹介する予定である[7].

参考文献

[1] S. Kiyohara, H. Oda, T. Miyata, and T. Mizoguchi, Sci. Adv. 2, e1600746 (2016).

[2] S. Kiyohara, H. Oda, K. Tsuda, and T. Mizoguchi, Jpn. J. Appl. Phys. 55, 2 (2016).

[3] S. Kikuchi, H. Oda, S. Kiyohara, and T. Mizoguchi, Physica B: Cond. Matter, in press (2017).

[4] H. Oda, S. Kiyohara, K. Tsuda, and T. Mizoguchi, J. Phys. Soc. Jpn, (Letter) 86, 123601 (2017).

[5] S. Kiyohara and T. Mizoguchi, Physica B: Cond. Matter, in press (2017).

[6] D. M. Packwood and T. Hitosugi, APEX 10, 65502 (2017).

[7] ここで紹介した研究は当研究室の大学院生 清原慎氏,菊地駿氏,小田尋美氏によって実施

された.また,本研究は JST-PRESTO(JPMJPR16NB 16814592)などのサポートを受けて実施され

た.

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フェーズフィールドシミュレーションと機械学習によるミクロ組織形成予測

Prediction of microstructure evolution by phase-field simulation and machine learning

塚田 祐貴 1,2) 1名古屋大学大学院工学研究科,2JST, PRESTO

Yuhki Tsukada1,2)

1Graduate School of Engineering, Nagoya University, 2JST, PRESTO

材料の特性を引き出すためには,組成や熱処理プロセスを最適化してミクロ組織を制御する必

要がある.鉄鋼材料のミクロ組織制御においては,原子拡散を伴う拡散変態や原子拡散を伴わな

い無拡散変態が利用されている.低炭素鋼の無拡散変態では,母相を急冷することによってマル

テンサイト相(α’相)が生じ,変態組織は温度や組成によって大きく異なる.ミクロ組織を構成する

単相の各種材料パラメータが温度・組成によって変化することがミクロ組織の違いを引き起こす要

因であると推察されるが,材料パラメータとミクロ組織の関係を定量的に理解することは難しい.

ミクロ組織形成シミュレーション手法の 1 つにフェーズフィールド(PF)法がある.筆者らは低炭素

鋼における無拡散変態のPFモデルを構築し,ミクロ組織形成過程の再現を試みてきた[1,2].固相

変態についてはミクロ組織形成と弾性場を連成解析することが重要であり,無拡散変態における結

晶構造変化に起因する弾性ひずみエネルギーとそれを緩和するすべり変形を考慮した PFモデル

を構築した結果,低炭素鋼に現れる特徴的なミクロ組織形態形成を再現することに成功している

[1,2].Fe-0.1 mass%C 合金の 600 K における PF シミュレーションの例を図 1 に示す.立方晶(母

相)→正方晶(α’相)の結晶構造変化に起因する 3 つの α’相バリアント(V1~V3)が出現して変

態が進行している.このようなマルチバリアン

ト組織の形成は結晶構造変化に起因する弾

性ひずみエネルギーの緩和に有利であるこ

とが知られている.なお,このシミュレーション

では,組織形態の情報だけでなく,ミクロ組

織の弾性場の情報(塑性ひずみ分布や転位

密度分布など)も得られている[2,3].

PF 法によるミクロ組織シミュレーションに

は,ミクロ組織を構成する単相の各種材料パ

ラメータが必要である.シミュレーションに用

いる材料パラメータの値が異なれば,当然,

シミュレーションで得られるミクロ組織にも違

いが現れる.PF シミュレーションによって材

図 1 無拡散変態の PF シミュレーション結果(Fe-

0.1 mass%C, 600 K).t’は数値解析における時間

ステップ.計算領域は 369×369×369 nm3.

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料パラメータがミクロ組織に及ぼす影響を調査することも

可能であるが,汎用のパソコンを用いた場合,1 μm3程度

の領域の 1 回のシミュレーションに 1 週間程度を要してし

まう.そこで,PF シミュレーションの結果をニューラルネット

ワーク(NN)に学習させ,材料パラメータからミクロ組織の

特徴量の予測を試みた[3].炭素量を 0.1~0.4 mass%に設

定し,温度を無拡散変態完了温度付近に設定して PFシミ

ュレーションを実施し,得られたシミュレーション結果を定

量してミクロ組織の特徴量(バリアントドメインサイズや転位

密度など)を算出した.PF シミュレーションの入力値に用

いた 12の材料パラメータ(格子定数,弾性定数など)とミク

ロ組織の 15 の特徴量の関係を入力層,隠れ層,出力層

からなるフィードフォワード型 NNに学習させた.シミュレー

ションで取得した 4092 のデータのうち,3682 のデータを

NN の訓練データ,410 のデータを学習済み NN のテスト

データとした.図 2 に学習済み NN の予測結果を示す.こ

こでは例として,バリアントドメインの総数(バリアントドメイ

ンサイズと対応する特徴量)[2]と転位密度の予測結果を

示している.図 2の結果から,PFシミュレーション値と学習

済み NNの予測値が近く,テストデータの平均二乗平方根

誤差が小さいことが確認できる.ミクロ組織の他の特徴量

についても高精度の予測が可能であることを確認してい

る.学習済み NN は,材料パラメータからミクロ組織の特徴

量を瞬時に予測するツールにほかならない.このツールを

使えば,材料パラメータがミクロ組織に及ぼす影響を網羅的に解析することができる.フェーズフィ

ールドシミュレーションと機械学習の融合により,ミクロ組織予測にかかる時間が圧倒的に短縮され,

ミクロ組織最適化のための材料パラメータ設計指針の提示が可能になるものと期待される.

謝辞

本研究は JST, PRESTO (Grant Number JPMJPR15NB) の支援を受けて行われた.

参考文献

[1] Y. Tsukada, Y. Kojima, T. Koyama, Y. Murata, ISIJ Int., 55 (2015) 2455.

[2] Y. Tsukada, E. Harata, T. Koyama, Proc. of the 5th International Symposium on Steel Science

(ISSS 2017), accepted.

[3] 塚田祐貴, 小山敏幸, 化学工業, 69 (2018) 65.

図 2 学習済み NN によるミクロ組

織の特徴量の予測結果.RMSE は

テストデータの平均二乗平方根誤

差.

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半導体材料開発のための計算材料データベース開発

Computational materials database toward developing novel semiconductors

熊谷 悠

東京工業大学 元素戦略研究センター,JST さきがけ

Yu Kumagai

Materials Research Center for Element Strategy, Tokyo Institute of Technology

PRESTO, Japan Science and Technology Agency

従来の材料研究は,熟練の研究者が日々の研鑽を積み重ねる中で獲得してきた勘と経験

によってなされてきたが,希少元素の代替など現代社会が求める要求水準に速やかに到達

するためには,従来型の研究は限界になりつつある.一方で,計算機性能や計算技術の大幅

な向上により,電子の振る舞いを量子力学の基本方程式に基づいて数値的に解く,第一原理

計算を用いた研究が活発になってきている.とりわけ最近では,数万規模の既報物質に対し

て系統的・網羅的に第一原理計算を実行し,得られた物性を,大規模,高精度かつ均一な情

報として蓄積し,世界中に公開し利用を促そうとする試みが行われている.すなわち計算材

料データベース(DB)の構築である.

計算材料 DB は,既知物質のスクリーニングや機械学習の学習セット・テストセットに用

いるなど,様々な観点から大変有用であり,主に米国で Materials Project や aflow,OQMD

などの DB が構築されてきた.だがこれらの DB では,次の2点の理由から,半導体材料の

探索及び研究開発には不十分と言わざるをえない.

1点目は,計算精度の不足である.現在までの主要な計算材料 DB はすべて PBE-GGA

汎関数を用いており,d 軌道や f 軌道には,PBE では記述しきれない強いクーロン斥力を補

正した+U項を加える(PBE+U法).しかし一般に,PBE(+U)法で得られた平衡格子定数は,

実験格子定数と比べて過大評価される.また PBE(+U)法で算出されたバンドギャップは,

実験バンドギャップと比べて,半分程度以下に過小評価されてしまう.

2点目は,誘電定数,光吸収係数,点欠陥,イオン化ポテンシャル(IP)等の半導体研究で

重要となる物性値が不足している点である.誘電定数と光吸収係数の計算は,VASP コード

など標準的な第一原理計算プログラムに実装されており,計算の自動化は比較的容易であ

る.しかし点欠陥と IP に関しては,そう単純ではない.点欠陥計算を行う為には,空孔,

格子間,アンチサイトなど多様な種類の欠陥モデルの自動構築,周期的境界条件により生じ

る形成エネルギーの誤差の補正,煩雑な計算結果の処理・解析の一連のプロセスを自動化す

る必要がある.一方,IP の計算では,系の対称性を考慮して適切な表面スラブモデルを自

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動構築する必要がある.

このような背景の元,我々は半導体材料の

研究開発に焦点を当てた計算材料 DB を構築

してきた.本 DB 構築のフローチャートを図

1 に示す.まず結晶構造の情報を ICSD から

抽出し,部分占有原子サイトを持つ物質,ラ

ンタノイド・アクチノイドを含む物質,ユニ

ットセル中に 100 原子以上含む物質を,現段

階では除去した.その後,それぞれの物質の

対称性を確認し,結晶学の定義に従い結晶の

単位格子を構築した.また ICSD には,等価

な物質が多数存在するため,重複する物質を

除去した.この段階での物質数は 46,969 個

である.

図 1 本データベース構築の流れ

次に,PBEsol(+U)法を用いて,粗い条件下で構造緩和を行った.なお第一原理計算は全

て,VASP コード[1]を用いて行った.その後,緩和過程で結晶の対称性が上がる可能性を

考慮し,空間群の再確認を行った.さらに,高温高圧下での構造も含めた全ての実験構造を

絶対零度,無圧の条件下で構造緩和していることから,緩和後に等価とみなせる構造を再度

除去した.そして k 点サンプリング数を系統的に増やすことで,エネルギーの収束性を確認

し,再々度,空間群の確認と重複する構造の除去を行った.ここまでの計算は,33,946 個

の物質について完了している.

その後,バンドギャップがある物質に関しては,精度と計算コストの双方の面で優れた,

電子系誘電率に依存した自己無撞着でないハイブリッド汎関数[2]を用いることで,高精度

のバンドギャップ計算を行っている.また,誘電定数,光吸収係数の計算も随時進めている.

一方,点欠陥および IP の計算に関しては自動化プログラムの構築を行い,前者に関しては

酸化物中の酸素空孔に適用している[3].本講演では,DB 構築の一連の流れの詳細,開発

したプログラム群,計算結果の解析と機械学習への応用,将来展望に関して紹介する.

本研究は主に東京工業大学の大場史康教授,高橋亮研究員,千葉大学の日沼洋陽特任助教

と共同で行われました.また文部科学省元素戦略プロジェクト<研究拠点形成型>東工大

元素戦略拠点(TIES),JSPS 科研費(15H05541),JST さきがけ(JPMJPR16N4)の成果です.

参考文献

[1] G. Kresse and J. Hafner, Phys. Rev. B, 47, 558 (1993).

[2] Y. Hinuma, Y. Kumagai, I. Tanaka, and F. Oba, Phys. Rev. B, 95, 075302 (2017).

[3] Y. Hinuma, Y. Kumagai, F. Oba, and I. Tanaka, Comp. Mat. Sci., 113, 221 (2016).

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有効模型のデータベース化と物質探索への応用

Creating a database of effective models and its application to material design

是常 隆

東北大学 理学研究科

Takashi Koretsune

Department of Physics, Tohoku University

近年,第一原理計算を出発点として様々な物性が定量的に議論可能になってきており,第一原

理計算に基づく理論的な物質探索も幅広く行われるようになっている.例えば,2014年に発見され

た高圧化硫化水素における約 200Kの超伝導は,理論的な予言を基づいたものであった.このよう

な第一原理計算による物質探索を加速させるため,近年,結晶構造のデータベースをもとにした

電子状態計算の結果のデータベースも様々なグループで構築されてきている.さらに,それらのデ

ータベースを活用し,物性を機械学習することによって物質探索を加速させる試みも行われている.

しかし,ここで問題となるのが,物質の記述子をどうするかという問題である.しばしば行われる結晶

構造の情報を記述子として用いた解析は,一部の物性を除けば計算(実験)データが少ないことも

あり,あまりうまくいっていないように思われる.

一方で,電子物性を議論する場合,電子状態計算そのものではなく,その低エネルギー部分を

抜き出して有効模型を構築し解析するといったことがしばしば行われる.これは,電子物性を理解

する上では,バンド構造全体ではなくフェルミ準位近傍に着目し,より精度よく解析することが重要

であるからである.従って,このような有効模型を系統的に構築し,データベース化することができ

れば,様々な物性を系統的に評価することも可能になる.また,それらの情報を記述子とすること

で,結晶構造だけからでは理解が難しい物性の機械学習にも活用することができると期待される.

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そこで,本発表では,現在進めているこの有効模型のデータベース化の状況についてまず紹介す

る.

次に,この有効模型データベースから得られる物理量として,強磁性体におけるジャロシンスキ

ー守谷相互作用や異常ホール係数などの計算結果について紹介する.ジャロシンスキー守谷相

互作用は平衡スピン流を用いて記述できることが分かってきており[1-3],異常ホール係数もバンド

構造がもつベリー曲率で決まることが知られている.したがって,これらの物理量は,有効模型を構

築することで,比較的容易に計算することができるため,有効模型のデータベースからこれらの物

性のデータベースを構築し,物質探索を進めていくことができる.

一方,有効模型で得られたデータベースを用いて記述子を構築し,機械学習を進めている例と

して従来型超伝導体の転移温度の計算の例も紹介する.従来型超伝導体の転移温度の計算に

は,電子格子相互作用の計算が必要となる.この計算は単なる電子状態計算やその有効模型化

よりもはるかに計算コストがかかる.そこで現在,この電子格子相互作用の計算を簡易化し[4],機

械学習に必要な系統的な転移温度の計算データの構築を進めている.さらに,そのデータに対し

て有効模型から得られる記述子を用いて機械学習を進めているのでその状況についても紹介した

い.

参考文献

[1] T. Kikuchi, T. Koretsune, R. Arita, and G. Tatara, Phys. Rev. Lett. 116, 247201 (2016).

[2] 是常隆,菊池徹,有田亮太郎,固体物理 52, 671 (2017)

[3] T. Koretsune, T. Kikuchi, and R. Arita, J. Phys. Soc. Jpn. in press.

[4] T. Koretsune, and R. Arita, Comp. Phys. Comm. 220C 239 (2017)

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