14
アフリカ大陸の南東、インド洋に面した資源大国 モザンビーク(以下「当国」)で、世界が注目するプ ロジェクトが多数動いている。1964~92年まで続い た独立戦争とその後の内戦により、鉄道、道路、電 力などのインフラが破壊された。しかし、内戦の終 結と市場経済の導入により、93年以降は年平均8% の高成長を達成して、「モザンビークの奇跡」と称さ れる。高い経済成長の背景には、天然ガス、石炭開 発など大規模な資源開発プロジェクトなどへの外国 直接投資(FDI)の流入がある。 本特集ではこのような当国の今にスポットをあて、 現地で事業活動を行う日本企業の取り組みを紹介し たい。 1. 経済発展を支える政治の安定 1975年、10年以上にわたるポルトガルからの独立 闘争を経て独立した当国で政権の座についたモザン ビーク解放戦線(FRELIMO)は、マルクス・レー ニン主義を採用したため、社会主義国となった。し かし、社会主義を嫌う勢力が反政府勢力「モザンビ ーク民族抵抗運動(RENAMO)」を結成し、ローデ シアやアパルトヘイト政権下の南アフリカの支援を 受けて1992年まで15年の内戦状態に陥る。この間、 経済は疲弊し、100万人が死亡、170万人が難民とし て隣国へ、さらに数百万人が都市から地方へ逃れた という。政府は83年に社会主義の失敗を認めて改革 に乗り出し、86年にIMF・世銀の指導下に入るとと もに、89年にFRELIMOは社会主義を放棄。92年に は内戦を戦った相手であるRENAMOと和平協定を 結んだ。RENAMOは94年に政党へ改組し、同年、 複数政党制のもとで初の民主主義選挙が実施され、 FRELIMOが勝利した。以降、99年、2004年、09年 の大統領選と国民議会選挙において、いずれもFRE- 2 2013.7 モザンビークの奇跡 海外投融資情報財団 調査部 モザンビーク特 集 首都マプト市内。旧ポルトガル領であったため市内の看板はポルトガル語だ。最近は新車が増えているという

モザンビークの奇跡 - keizaireport.com · たい。 1. 経済発展を支える政治の安定 1975年、10年以上にわたるポルトガルからの独立 闘争を経て独立した当国で政権の座についたモザン

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アフリカ大陸の南東、インド洋に面した資源大国

モザンビーク(以下「当国」)で、世界が注目するプ

ロジェクトが多数動いている。1964~92年まで続い

た独立戦争とその後の内戦により、鉄道、道路、電

力などのインフラが破壊された。しかし、内戦の終

結と市場経済の導入により、93年以降は年平均8%

の高成長を達成して、「モザンビークの奇跡」と称さ

れる。高い経済成長の背景には、天然ガス、石炭開

発など大規模な資源開発プロジェクトなどへの外国

直接投資(FDI)の流入がある。

本特集ではこのような当国の今にスポットをあて、

現地で事業活動を行う日本企業の取り組みを紹介し

たい。

1. 経済発展を支える政治の安定

1975年、10年以上にわたるポルトガルからの独立

闘争を経て独立した当国で政権の座についたモザン

ビーク解放戦線(FRELIMO)は、マルクス・レー

ニン主義を採用したため、社会主義国となった。し

かし、社会主義を嫌う勢力が反政府勢力「モザンビ

ーク民族抵抗運動(RENAMO)」を結成し、ローデ

シアやアパルトヘイト政権下の南アフリカの支援を

受けて1992年まで15年の内戦状態に陥る。この間、

経済は疲弊し、100万人が死亡、170万人が難民とし

て隣国へ、さらに数百万人が都市から地方へ逃れた

という。政府は83年に社会主義の失敗を認めて改革

に乗り出し、86年にIMF・世銀の指導下に入るとと

もに、89年にFRELIMOは社会主義を放棄。92年に

は内戦を戦った相手であるRENAMOと和平協定を

結んだ。RENAMOは94年に政党へ改組し、同年、

複数政党制のもとで初の民主主義選挙が実施され、

FRELIMOが勝利した。以降、99年、2004年、09年

の大統領選と国民議会選挙において、いずれもFRE-

2 2013.7

モザンビークの奇跡海外投融資情報財団調査部

モザンビーク特集

首都マプト市内。旧ポルトガル領であったため市内の看板はポルトガル語だ。最近は新車が増えているという

Page 2: モザンビークの奇跡 - keizaireport.com · たい。 1. 経済発展を支える政治の安定 1975年、10年以上にわたるポルトガルからの独立 闘争を経て独立した当国で政権の座についたモザン

LIMOが勝利している。当国憲法は大統領の3選を

認めておらず、2期目の現ゲブーザ大統領は次回選

挙への不出馬を表明しており、14年の次期国政選挙

が注目される。

外交面では独立以来、非同盟主義を掲げつつ旧社

会主義諸国と親密な関係を保持していたが、1983年

ごろから経済立て直しの必要から英米諸国と関係を

強化し、95年に英国の植民地経験がない国として初

めて英連邦に加盟した。その理由は、同国が旧英国

植民地の国々に囲まれており、それらの国と密接な

関係をもっているためだ。

日本は、貧困削減を支援するための無償資金協力

と技術協力を中心に政府開発援助(ODA)を実施し

ているほか、日本とブラジルが協力して、日本のブ

ラジルにおける農業開発(セラード開発)の経験を

当国で応用するという、日伯モザンビーク「三角協

力」農業開発プログラムを進めている。

2. 高度経済成長と外資流入

政治的安定と市場経済導入により1993年から2010

年にかけて、当国は平均成長率8%という高い経済

成長を遂げた(図表1)。

公共料金の値上げをめぐってデモが発生した2010

年末のインフレ率は16.6%に達したが、その後の引

き締め策が効を奏し、11年末には5.5%まで下がり、

12年には2.4%になったと推計されている。現行の経

済5カ年計画(2010~14年)における目標成長率は

7~8%、インフレ率は4~6%だ。

高い経済成長の背景には、後述する大規模プロジ

ェクトの実施を含む外国直接投資の流入がある(図

表2)。また、1999年に重債務貧困国(HIPC)イニ

シアティブによる債務救済を受けた後、貧困削減を

目的とする先進諸国からのODA流入にも支えられて

いる(図表2)。

3. モザンビーク経済を支えるザンベジ川の水資源とMOZALアルミ製錬所

当国中部に流れるザンベジ川はアフリカ大陸で4

番目の長さを誇り、その豊富な水量を利用した水力

発電は当国のみならず南部アフリカ諸国にとり重要

な電源となっている。Cahora Bassa水力発電所は南

部アフリカでは最大、アフリカで4番目に大きな水

力発電所だ。1975年にポルトガル政府82%、当国政

府18%の出資によりCahora Bassa 水力発電公社が

設立され(現在の出資比率は当国政府92.5%)、発電

量の75%が南アフリカとジンバブエに輸出され、後

述のアルミ地金に次ぐ2番目の外貨獲得源となって

いる。

1998年、同水力発電所の低廉な電力を利用したア

ルミ製錬事業会社MOZALが三菱商事(25%)、BHP

Billiton社(47%)、南ア工業開発公社(IDC、24%)、

当国政府(4%)の出資で設立され、豪州からアル

ミナを輸入して年間56万トンのアルミ地金を生産し

ている。同プロジェクトは、今日では、当国輸出の

6割を稼ぎだし、製錬会社のほか港湾荷役など間接

的な関係者を含めると約1万人の雇用を創出する同

国経済を支える事業となっている[日本企業の取り組

み1]。

2013.7 3

モザンビーク特集

図表1 経済成長率の推移�

出所:IMFデータベース�

(%)�

(年)�1993 94 95 96 97 98 99 2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12

16

14

12

10

8

6

4

2

0

(百万ドル)�2500�

2000�

1500�

1000�

500�

02000 201001 02 03 04 05 06 07 08 09 11

(年)�

図表2 政府開発援助(ODA)とFDIの流入額の推移�

出所:UNCTADおよびIMF

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ザンベジ川では、現在、Cahora Bassa North

Bank(850MW)、Mphadha Nkuwa(第Ⅰフェー

ズ1300MW、第Ⅱフェーズ2400~2600MW)といっ

た新たな水力発電所の建設が計画されているが、大

きな課題は送電網だ。当国のグリッドは南北で分断

されている。家庭電化率は2011年時点で18%にすぎ

ない。上記のMOZALアルミ製錬プロジェクトでも、

Cahora Bassa水力発電所の電力をいったんは南アフ

リカにつながる送電網で南アフリカに輸出し、それ

をプロジェクトサイトのある当国南部に再輸入して

いる。当国は、上記の新規水力発電プロジェクトと

並行してザンベジ川流域と南部にある首都マプトを

結ぶ南北1400kmの高圧送電線の整備を計画している

が、巨額の資金を要する双方を同時並行して進めな

ければいけないという大きな課題を抱えている。

4. 開発が進む巨大天然ガス田

当国南部(オンショア)では1992年より、南アフ

リカのSasol社がPandeおよびTemaneガス田でガス

生産を開始し、2004年には南アフリカ向けに800km

のガスパイプラインを経由してガス輸出が始まった。

10年にPandeおよびTemaneで生産された天然ガス

は1億2500万GJであり、うち9割以上が輸出され、

当国第3の輸出商品となっている。

さらに、2010年ごろより、当国北部とタンザニア

との国境に近い沖合深海で巨大なガス田が発見され

た。三井物産・米Anadarkoなどが手がけるArea1

[日本企業の取り組み2]と伊ENIなどが手がけるArea

4の2鉱区は、いずれも2018年生産開始目標で開発

中である。探査中のほかの鉱区でも今後ガス田が発

見される可能性がある。ガス田開発を手がける各社

および当国政府は、生産したガスを液化して日本を

はじめとするアジア諸国へ輸出することを検討して

おり、カタール、オーストラリアに次ぐLNG輸出国

となる可能性がある。このような巨大なガス資源量

を保有する当国のLNG開発は、日本にとってエネル

ギー調達の多様化・安定化の観点からも意義が大き

い(図表3)。

5. 石炭開発と関連インフラ整備

当国は19世紀より石炭の賦存が確認され、炭質は

灰分が多いものの1級の強粘結炭の特性を有し、鉄

鋼生産に欠かせない原料炭としての期待が高い。図

表4のとおり、新日鐵住金、日鐵商事、伯Vale、豪

Rio Tinto、印Jindalを含む数多くの外資企業が炭鉱

の探査・開発を実施中だ。本年4月に、新日鐵住金

と日鐵商事が参画するRevuboeプロジェクト[日本企

業の取り組み3]も、モザンビーク政府から採掘権を

取得し、今後商業生産へ向けた開発が実施されてい

く見込みである。

石炭開発を行っている外資はいずれも生産した石

炭のほとんどを輸出すると見込まれるが、石炭開発

における最大の課題は輸送インフラの確保である。

現在開発が行われているTete州は最内陸に位置し、

炭鉱から港までの輸送手段が必要であるが、現在、

老朽化した鉄道(Sena線とNakala線)があるものの

生産量の増加に対して輸送能力は著しく不足してお

り、また港湾の拡張も必要とされ、開発各社の課題

4 2013.7

ガス田発見�

��

2010年���

2011年�

推定埋蔵量�

��

35~65Tcf超���

―�

図表3 Rovuma堆積盆地ガス開発�

注:*印がオペレーター。�

開発会社�

Anadarko(米)* 36.5%�三井物産 20.0�ENH(モザンビーク) 15.0�BPRL(インド) 10.0�Videocon (インド) 10.0 �

ENI(伊)* 70.0%�Galp(ポルトガル) 10.0�ENH 10.0�Kogas(韓国) 10.0

液化設備能力(想定)�

当初1,000万t/年�最大5,000万t/年�

当初1,000万t/年�

鉱区�

Area 1

Area 4

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となっている。

このような石炭開発の動きを受けて日立建機は、

伯Valeが進めているMoatize炭鉱への建機販売・メ

ンテナンスなどを目的として2010年に日立建機モザ

ンビーク(HCMQ)を設立した[日本企業の取り組み4]

(図表4)。

6. ポテンシャルの高い農林水産業

当国の土地は肥ひ

沃よく

で就労人口の約8割が農業に従

事するが、現状では農民の多くは生産性の低い自給

農家で、灌かん

漑がい

設備の不足から旱ばつ・洪水の影響を

受けやすい。主な商品作物は、カシューナッツ、綿

花、タバコ、砂糖で、政府はその多様化および加工

業を奨励している。2750kmに及ぶ海岸線に恵まれ、

水産加工業の潜在力も大きい。伝統的にエビの養殖

が行われ、輸出されている。林業では木材の輸出も

増加しており、双日は2010年に100%子会社Sojitz

Maputo Cellulose,Ltda.(SOMACEL)社を設立し、

南アフリカやスワジランドから調達した原料(アカ

シアの原木)を原料に木材チップに加工、日本に輸

出するというプロジェクトを立ち上げた[日本企業の

取り組み5]。

7. おわりに

以上みてきたように、世界的な規模の巨大プロジ

ェクトが多数動き出した当国だが、現在でも1人当

たりGDPは652ドル(2012年、IMF推計値)の貧し

い国だ。つい20年前まで長い内戦にあって多くの国

民は教育機会を奪われ、成人識字率は約50%、中等

学校への進学率は全国平均で20%(2008年)、首都マ

プトも31.5%にとどまるという。

モザンビーク人の穏やかでおおらかな国民性もあ

って、当国で仕事をするにあたっては緩慢なペース

で物事が進むことへの忍耐が必要との声も聞こえる。

次ページ以降では、現地で活動する日本企業5社

の取り組みを、各社からのご寄稿で紹介する。

(廣田、山本、岩見)

2013.7 5

生産量(百万トン/年)�

26(原料/一般)�

探査�

20(原料/一般)�

探査�

探査�

4.5�

2→7.5�

開発中�

FS/Mining申請�

探査�

探査�

探査�

探査�

探査�

FS/Mining申請�

探査(原料/一般)�

探査�

探査�

炭鉱�

Moatize�

Mucanha Vuzi�

Benga�

Zambeze�

Tete East�

Moatize�

Changara�

Revuboe�

Ncondezi�

1315L�

1314L�

Tete West�

Muturara�

Songo�

Estima

投資額(百万ドル)�

1,320�

850

図表4 Tete州の石炭開発の状況�

出所:NEDO、「モザンビークにおける石炭資源の開発状況と輸送インフラの整備状況及び我が国への輸出ポテンシャルの調査」(2011年度海外炭開発高度化等調査)、2012年2月ほかより作成�

開発会社�

Vale(伯)��

Rio Tinto(豪)�

Beacon Hill(英)�

Jindal(インド)�

新日鐵住金・日鐵商事(33.3%)、�Posco(7.8%)、Talbot(58.9%)�

Ncondezi(英)�

Mozambi Coal(豪)�

ENRC(カザフ)�

ETA Star(インド)�

Coal India Ltd.(インド)�

Essar(インド)�

モザンビーク特集

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モザンビーク共和国はアフリカ大陸の南東の海岸

に位置し、6つの国(タンザニア、ザンビア、マラ

ウイ、ジンバブエ、スワジランド、南アフリカ共和

国)と国境を接しており、国土面積は日本の約2倍、

人口は約2200万人(首都マプトには約125万人)を有

する国である。1975年にポルトガルからの独立を果

たしたものの、間もなく内戦に突入。92年の内戦終

結当時のモザンビークは疲弊しきった状態にあった。

モザンビーク政府は国家再建のため、外資を積極的

に導入し、事業を展開していく政策をとり、また南

アフリカ政府は、隣国の経済発展と安定を望んでい

たため、モザンビークに対して自国の電力を供給す

る用意があった。MOZALプロジェクトはこのよう

な外的環境と各当事者の強い意志のもと、モザンビ

ーク初となる大規模な民間主導プロジェクトとして

立ち上がった。

MOZALはBHPビリトン(47%)、南アフリカ開発

公社(24%)、モザンビーク政府(4%)、および三菱

商事(25%)の共同出資、世界銀行グループ、国際

協力銀行をはじめ各国の制度金融機関による総額13

億ドルのプロジェクトファイナンスが組成され、

1998年に設立された。

同社は設立以来、経済発展、人材育成、社会貢献

活動などモザンビークの発展に大きく寄与してきた。

経済の成長率をみると、同社を設

立したことで、内戦中、年平均マ

イナス0.1%であった経済成長率

が、内戦終結後は年平均8%の高

成長を達成して「モザンビークの

奇跡」と呼ばれる目覚ましい成長

を遂げた。建設期間は、約1万人

の現地雇用を産み出し、生産開始

後も直接雇用で約1200人規模の

雇用を創出、協力業者など間接的

な関係者を含めればその影響はさ

らに大きなものとなっている。

また、MOZALは従業員の教

育にも積極的に取り組んできた。

同国では、大学の数が限定的で、

6 2013.7

三菱商事、アルミ製錬プロジェクトMOZAL

三菱商事株式会社アルミ事業部長

羽地 貞彦

MOZAL全景

日本企業の取り組み 1

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高等教育を受けた従業員の一定数の確保

が難しいため、独自に従業員の教育訓練

を実施し、同社の従業員が必要とするス

キルを本格的に教育している。特に熟練

工を育成する機関が不足しているため、

教育訓練用の設備を建設し、各従業員の

技術水準を高めるべく訓練を励行してい

る。また、技術水準を維持、向上させる

施策として、従業員が周りの従業員の作

業内容を監督し、その結果をよい点・悪

い点を含め報告する体制を整えており、

こういった体制が従業員の安全と品質面

への意識を高め、同社全体としての安定

的な操業の追求を可能にしている。こう

した徹底した教育訓練によって、同社は

優秀な労働者を育てる場としても高く評

価されている。

MOZALはCSR活動を重視している。

これはプロジェクト立ち上げ時に、モザ

ンビーク政府から会社に与えられた条件

であり、また、世界銀行グループは資金

融資を行う際、環境と社会問題を考慮し

取り組むことを要請した背景もある。こ

うして同社は社会貢献活動用の基金とし

てMCDT(Mozal Community Devel-

opment Trust)を設立し、毎年資金を

拠出のうえ、MCDTを通して周辺地域

における教育支援、衛生・環境整備、病

院など社会インフラ支援、スポーツ・文

化活動支援、雇用創出のための小規模ビジネスへの

支援を行っている。具体的な活動内容は学校の建設、

マラリア予防のための施策実施、HIV教育の徹底な

ど、周辺地域に根差した活動を心がけている。そう

いった活動は、MCDT理事会で運営されており、三

菱商事もこの理事会のメンバーとなり、地域の持続

的発展に寄与し続けている。

MCDTの代表的なプロジェクトのひとつとして

Nelson Mandela Secondary Schoolがある。校名の

由来は、地域の近隣住民で投票を行った結果、アフ

リカで最も国際的に有名なネルソン・マンデラの名

前が採用されたことによる。本校はMCDTが建設し、

モザンビーク政府が運営する公立の中高等学校(男

女共学)であり、2500人を超える生徒が制服を着用

し通っている。

これらの貢献を通じて、MOZALは、1製造業と

いう枠を超えて、周辺地域に根差した企業へと成長

させ、民間企業主導で始まった本プロジェクトをモ

ザンビークにおける有数のプロジェクトへと進化さ

せている。今後順調な操業維持による地域経済への

貢献、人的育成の継続、地場に根差した社会貢献活

動を通じ、周辺地域の発展とともに今後のさらなる

成長を目指している。

2013.7 7

モザンビーク特集

MCDT設立のNelson Mandela Secondary School

MOZALの従業員向け教育訓練用施設内

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三井物産にとってのモザンビーク

三井物産は、ブラジル、ロシア、インド、中国、

メキシコ、インドネシア、モザンビーク、ミャンマ

ーの8カ国を「全社重点地域」として経営資源を集

中投下し、事業展開の強化を図っている。そのなか

でも、モザンビークは、エネルギーや金属資源の埋

蔵量が豊富で、石炭・天然ガス開発が進められてお

り、輸出拡大による高い経済成長が期待できる。イ

ンフラ分野でも、電力網整備や物流回廊(道路・鉄

道・港湾)、灌かん

漑がい

・ダムなどの大型プロジェクトが実

現に向けて計画中である。

本年5月に国際資源ビジネスサミット(J-SUMIT)

と日阿資源大臣会合が、6月には第5回アフリカ開

発会議(TICAD V)が日本で開催されるとともに、

日モ政府間でサブサハラ初の二国間投資協定が締結

されるなど、官民をあげた支援に対するモザンビー

クの期待は高まっている。

三井物産は、全社一丸となって総合力を発揮し、

資源開発やインフラ開発を通じたモザンビークの国

づくりへの貢献を目指している。

東アフリカ初のLNGプロジェクトへの参画、実現に向けた日本政府支援の必要性

三井物産は、探鉱フロンティアとしての潜在性が

以前より認識されていた東アフリカに着目し、有望

鉱区への参画機会をうかがっていた。そのなかで、

モザンビーク北部沖合Rovuma海上Area1鉱区権益

を保有するAnadarko社より一部権益譲渡を打診さ

れ、2007年12月、石油天然ガス・金属鉱物資源機構

(JOGMEC)の探鉱出資支援を受

けて20%の権益を取得した。

本プロジェクト開発・推進に

当たっては、国際協力銀行

(JBIC)および日本貿易保険

(NEXI)による制度金融を活用、

二国間の政策対話を通じた投資

環境整備の促進を図る方針であ

る。三井物産は、従来、資源エ

ネルギー分野においてJBICなら

びにNEXIの支援を仰ぎつつ案件

実現を図ってきており、本件で

も資金調達面で中核的役割を担

ってくれることを期待している。

8 2013.7

日本企業の取り組み 2

三井物産、モザンビークLNGプロジェクト

三井物産株式会社エネルギー第二本部 モザンビーク事業部部長補佐

平野 文人

モザンビーク北部沖合Rovuma海上Area1鉱区位置図

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新規LNG調達ソースの確保、本邦へのエネルギー安定供給への貢献

現在の権益参画各社は、米国Anadarko社(36.5%)、

三井物産Mitsui E&P Mozambique AREA1 Lim-

ited(20%)、モザンビーク国営石油公社ENH社

(15%)、インド国営Bharat社(10%)、インド財閥

系Videocon社(10%)、タイPTTE&P社(8.5%)

の6社。

本鉱区での可採埋蔵量は、35~65兆立方フィート

超と世界有数の埋蔵量規模が確認されており、モザ

ンビーク政府ならびに権益参画各社は、同鉱区に賦

存するガス資源量の巨大さとその将来性に大いに期

待している。

現在、本邦需要家への販売活動を展開、プラント

建設に関してもFEED(基本設計)を開始し、2018

年の生産開始に向けて開発準備作業中である。

三井物産は、LNG販売・海上輸送・資金調達とい

った商業面での豊富な知見・経験を活かし、本プロ

ジェクト開発においても、その機能とリソースを

Anadarko社とジョイント・ベンチャーに提供してい

る。また、三井物産は、技術とプロジェクト遂行能

力の高いAnadarko社とよき補完関係と強力なパート

ナーシップを築きながら二人三脚でプロジェクト開

発に挑んでいる。本プロジェクトへの当社参画によ

り、東アフリカという新規LNG調達ソースを確保し、

ひいては本邦へのエネルギー安定供給の一翼を担う

ことができるものと確信している。

モザンビークの社会経済発展に貢献、真のパートナーシップ確立に向けて

近年の大規模なガス発見により、本プロジェクト

の早期商業化とそれに伴う関連産業の発展に対する

モザンビーク政府の期待は大きく、三井物産として

も、LNGプロジェクトのみならず、下流産業・イン

フラ開発による地域振興、雇用創出、人材育成など、

モザンビークの国づくりに貢献したいと考えている。

本プロジェクトは、まずは年産1000万トンのLNG

開発(フェーズ1)から始める方針だが、その埋蔵

量規模から世界有数のLNG一大生産拠点となる可能

性を秘めている。

モザンビーク政府との交渉、パートナーとの共同

事業の推進、LNG輸送・販売、資金調達、プラント

建設など、三井物産のもつLNGビジネスのノウハウ

をいかんなく発揮し、同プロジェクトを通じてさら

なる貢献を果たしていきたい。

資源確保や市場開拓のためには、日本とモザンビ

ーク双方の利益と相互協力の視点が不可欠であり、

三井物産としてもモザンビークとの真のパートナー

シップ確立に向けて引き続き尽力していく。

2013.7 9

モザンビーク特集

モザンビーク沖ガス田生産テスト©Anadarko Petroleum Corporation

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レブボー・プロジェクトの推進について

当社は、関係会社である日鐵商事とともに、モザ

ンビークの石炭の中心地域であるテテ(Tete)州で、

原料炭のレブボー(Revuboe)プロジェクトを推

進している。今回は、その取り組みについて紹介し

たい。

これまでの経緯

本プロジェクトは、2004年、日鐵商事が、米国石

炭会社AMCI社と南アフリカ資源関係コントラクタ

ーBroadbase社との間で、3分の1ずつを出資し、

合弁会社NAB Mining Group Africa社を南アフリ

カに設立したことからスタートした。

NAB社は、2004年7月にモザンビーク政府より未

開発原料炭鉱区Revuboeに対する5年間の独占探査

権を取得、それ以降、新エネルギー・産業技術総合

開発機構(NEDO)の支援も受けつつ、探査を推進

してきた。2008年にはNAB社からモザンビーク法人

であるMinas de Revuboe Limitada(Revuboe社)

に探査権の引き継ぎを行い、また、2009年には探査

権の延長も行った。当社(当時は新日本製鐵)も

2010年にこのプロジェクトに直接参画することとな

り、当社23.3%、日鐵商事10%の権益比率となった。

ほかのパートナーの入れ替えもあり、同年末までに

は、Talbot group 58.9%、POSCO 7.8%という現在

の権益比率に至っている。

2010年11月には、探査権から採掘権に切り替える

べく、モザンビーク政府とマイニング・コントラク

トの締結とマイニング・コンセッション(採掘権)

の取得の交渉を開始した。思ったよりも交渉は長引

いたものの、日本政府および関係諸機関の支援もあ

10 2013.7

日本企業の取り組み 3

新日鐵住金、レブボー原料炭開発プロジェクト

新日鐡住金株式会社常務執行役員

藤原 真一

レブボー・プロジェクト地図

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り、本年4月に、無事コントラクトと採掘権を取得

した次第である。

プロジェクトの概要

プロジェクトはTete州に位置しており、鉱区面積

は3860ヘクタール、推定資源量は約14億トン、鉄

道・港のインフラ整備を前提に2016年以降の出炭開

始を計画しており、フル生産時には一級強粘炭500万

トン/年の生産を予定している。Revuboe鉱区は、

ブラジルVale社のMoatize鉱区や、豪・英Rio Tinto

社とインドTata社の合弁会社のBenga鉱区などに隣

接している。両鉱区と比較するとやや小ぶりな印象

を与えるが、鉱量としては十分であり、炭層の賦存

状況からは、採炭上より好ましいエリアであると期

待されている。また、隣接するMoatize鉱区の原料

炭については、当社はバイヤーとしてVale社から昨

年より購入を開始、期待通りの品位が確認できてお

り、Revuboe鉱区での原料品位についても期待がも

てる結果となっている。

プロジェクトの意義

高能率の大型高炉法に欠かせない一級強粘炭は、

地質学上、特定の地域

に偏在している。一級

強粘炭の海上貿易にお

ける主要生産地域であ

る豪州、カナダ、米国

の有望権益は、すでに

海外の大手資源会社の

手中にある。また、日

本は原料炭の70%を豪

州に頼るという、調達

の分散化ができていな

い状況でもある。自国

での使用増から輸出が

望めない中国を除くと、

一級強粘炭の残された

選択肢は、ロシア、モ

ンゴル、モザンビーク

のみという状況の中、

当社は権益の分散確保

のために、本プロジェクトを通じてのモザンビーク

の可能性に大いに期待している。

今後の取り組み

本プロジェクトは、苦労したとはいえ、ようやく

採掘権を取得したにすぎず、商業生産に向けてこれ

から取り組むべき問題は山積している。なかでも大

きな課題は、輸出に向けた鉄道や港湾といったイン

フラ手段の確保の問題である。現在、ベイラ港で石

炭の輸出が行われているが、深度が不十分で大型船

には適していない。そこでVale社は、Tete地区から

内陸の隣国マラウィを横切る鉄道を、深度のある天

然の良港ナカラまで建設・整備するプロジェクトを推

進しているが、実は、各社のTete地区の石炭計画が

すべて立ち上がっていけば、現在計画されている鉄

道の輸送能力では不足することが明白である。この

問題をどう解決していくかが大きな課題となるが、

日本政府、モザンビーク政府、および関係諸機関の

知恵と力も拝借できたらと考えている。

今は何もない広大なアフリカの平原から、日本に

向けた原料炭を満載した一番列車が早く出発する日

を夢見ながら、鋭意諸課題に取り組んでいく所存で

ある。

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モザンビーク特集

採掘権取得が決まり握手を交わす3人。左からモザンビーク共和国政府鉱物資源省ビアス大臣、タルボットグループウッド取締役(Revuboe社議長)、新日鐵住金・原料第一部青木部長

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日立建機モザンビークの概要

日立建機モザンビークは、日立建機アフリカと三

菱商事との合弁会社として、2010年7月に設立され

た。資源メジャーのひとつ、Valeが開発を行う石炭

鉱山Moatizeにおいて、主に日立建機の鉱山機械の

メンテナンスを行っている。

設立後3年がたつ現在、従業員は当初の10名から

70名ほどに、事業規模は設立年度の売上高2億円か

ら2012年度の10億円規模へと拡大した。

今回、会社設立から社長としてテテ(Tete)に勤

務した3年にわたる駐在生活を振り返ってみたい。

赴任決定から会社設立

私のTete赴任は2010年6月。モザンビーク赴任が

知らされたのは、それから3カ月さかのぼる。国内

畑を歩んできた私

が、モザンビークへ

の赴任を通達された

際はさすがに驚い

た。そもそもモザン

ビークという国がど

こにあるかもわから

なかった。私の赴任

には家族も驚き、行

きつけの床屋にまで

同情されたことを覚

えている。

初めてTeteの空

港に降り立ったとき

は、地の果てに来てしまったとの感想を抱いた。昨

今の石炭鉱山開発ブームから現在こそ外国人が多く

滞在しているモザンビークTeteであるが、赴任当時

は外国人もそれほど多くなく、Teteの街を歩くと現

地人が物珍しそうに私の周りに集まってきたもので

ある。

会社設立に際しては、1つひとつのプロセスが複雑

で、1つを終えないと次のステップに進めない。遅々

として手続きが進まないことに、いら立ちを覚えたも

のである。ようやく日立建機モザンビークが営業を開

始できたのが、赴任3カ月目のことであった。

Teteで事業を行うということ

3年前に赴任したときより、Teteは大きく近代化

した。改修工事のため30分ごとに一方通行となるザン

ベジ川に架かる橋も、現在では街のシンボルとなる立

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日本企業の取り組み 4

日立建機、石炭鉱山機械のメンテナンス事業

日立建機モザンビーク(Hitachi Construction Machinery(Mozambique), Ltd.)

前 社長

沢辺 守

超大型油圧ショベルのノウハウを総結集したモンスターマシン、EX8000のアフリカ大陸初号機

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派な橋になった。休日には食料品や日

用雑貨を探し求め、多くの商店を足を

棒にしながら探し回っていたが、現在

ではレバノン系の立派なスーパーマー

ケットができた。

しかし、それでも日立建機の海外

駐在地のなかで最もハードシップが

高いとされていることからわかるよ

うに、生活面では娯楽のなさ、常に

曝さら

されるマラリア・コレラなどの感

染症への恐怖、医療レベルの低さ、

首都から1500kmも離れている辺境

の地(いまだ中華料理屋すらない拠

点は、世界でも珍しいのではないだ

ろうか)、ビジネスの面でも、英語の通じない環境、

種々手続きの煩雑さ、アフリカ特有のプロセスの遅

さなど、残念ながら、Teteへの日系企業進出はいま

だ大きな困難が伴うものと思料する。

弊社は鉱山機械のメンテナンス事業をしているた

め、稼働している鉱山機械の部品・機材を常時手配

していく必要があるが、その手続き1つひとつにも

苦労する。輸入する際の通関にかなりの時間を要し

たり、必要書類が複雑であったりと、先進国では想

像もつかない時間と労力がかかる。

幸いにも私の周りに集まってくれたモザンビーク

人たちは優秀かつ素直な人材である。ただし、これ

は一握りであり、特に石炭活況となっている現状下、

優秀な人員を長期間確保することは非常に困難であ

る。Teteという辺境の地において、よい人材の確保

は、鉱山機械の部品・機材の確保と同様、最重要点

と認識している。

終わりに

しかし、そのような辺境の地で、顧客であるVale

の石炭の安定生産を3年間支え続けてこられたこと

に安堵している。

Valeは世界に名立たる資源会社であるが、Vale

MoatizeサイトはValeとして初めてグリーンフィー

ルドから開発を進めている原料炭鉱山である。昨今

の石炭不況にもかかわらず同社がMoatizeサイトで

の石炭生産を継続していく意向を示しているコア事

業であり、同社保有の石炭鉱山の中で最も生産量が

多い。この生産に大きく寄与しているのが、他社に

比してずば抜けて高い稼働率を誇る、弊社の鉱山機

械およびメンテナンスサービスレベルであるといっ

ても過言ではないだろう。弊社の鉱山機械の高稼働

率はVale本社のFerreira社長も認識しておられ、「鉱

山の効率的操業向上に引き続き貢献してもらいたい」

との発言があった。

日立建機最大の油圧ショベルがアフリカ大陸で初

めて、また、ACモーターを搭載した日立建機最大の

ダンプトラックが世界で初めてMoatizeに追加受注

されたことが、Moatizeサイトにおける弊社の鉱山

機械およびメンテナンスレベルの高さと顧客の満足

度を証明している。

石炭では世界的な大埋蔵量を誇るTete。足元は石

炭不況で開発が当初予定よりも遅れているものの、

今後、Vale Moatize案件だけでなく、新日鐵住金グ

ループが出資するRevuboe案件、Rio Tintoの

Benga・Zambeze案件、ENRCのEstima案件など、

石炭開発は加速されていく方向にある。弊社がTete

で先駆けて築いてきた実績を今後、他案件にも展開

し、Teteでの安定操業を通じて世界の石炭の安定供

給に寄与できる会社となれば、初代社長としてはう

れしい限りであるし、そうなり得るだけの会社基盤

をつくったと自負している。

今後の日立建機モザンビークのさらなる発展を後

任にバトンタッチし、3年間お世話になったTeteを

後にすることとしたい。

※肩書きは執筆当時のもの。2013年4月より日立建機営業本部ライフサイ

クルサポート事業本部カスタマーサポート事業部サービス部部長。

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モザンビーク特集

Vale Moatizeサイト

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経緯・沿革

双日はモザンビークにおいて、製紙原料となる木

材ウッドチップの加工・輸出を行うSojitz Maputo

Cellulose Limitada(本社:マプト市、以下SOMA-

CEL)を2010年7月に設立し、12年10月より生産を

開始した。本プロジェクトは、独立後のモザンビー

クでは初の木材チップ製造事業となる。木材チップ

の原料となるアカシアの原木は南アフリカおよびス

ワジランドから調達している。

日本は製紙用原料である針葉樹・広葉樹チップを

アジアや豪州、アメリカ、チリ、南アフリカからの

輸入に依存しているが、今日、中国をはじめアジア

の需要家の輸入増加など、需給体制の変化が起こる

ことが予想されている。本プロジェクトは当社にと

ってアフリカ地域では初の木材チップ製造事業であ

り、日本の製紙原料の供給源の多様化を図るととも

に、将来的には今後の新興需要国であるアジアへの

供給体制の構築も検討している。

双日は、すでにベトナム、豪州において植林事業

を行っており、特にベトナムでは3つの木材チップ

加工工場を通じ、農民への融資や苗木の無償提供を

行うことにより、約4.6万ヘクタールの森林を造成し、

約70万BDT(絶乾重量:Bone Dry Ton)のチップ

を生産・輸出している。こうした植林および木材チ

ップ製造において双日は20年以上の実績を有してお

り、そこで培った「持続可能な事業経営」をかんが

みたビジネスモデルを、アフリカ地域でも展開して

いく考えで、SOMACELはその第一歩となる。

モザンビークにおける事業環境

モザンビーク共和国は1975年6

月にポルトガルの支配から独立し

た。当時の国家路線は社会主義を

掲げていたが、92年国際通貨基金

(IMF)支援のもと、社会主義政策

を破棄し、国営企業の民営化、外

国資本誘致に着手し、民主化の道

を歩み始めた。2000年代には実質

GDP成長率7%台を記録するまで

に発展した。しかしながら、独立

後すぐに内戦状態に入り、その内

戦が17年間にわたり続いたため、

世代によっては教育が行き届かず、

14 2013.7

日本企業の取り組み 5

双日、アフリカ地域初の木材チップ加工輸出事業

Sojitz Maputo Cellulose Limitada(SOMACEL)Deputy General Director

三宅 幹太

チップミル

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人材の育成が遅れてしまっているのも事実である。

また、内戦により道路・鉄道・港などのインフラ

の保守がなされず老朽化し、大掛かりな改修・補修

が必要になってきている。経済成長率は7%台を維

持しているものの税収はまだ不足しており、国家予

算の多くを海外からの援助で賄っている。国連開発

計画(UNDP)の人材開発指標では187カ国中185位

(2012年)、Corruption Rateは174カ国中123位

(2012年、Transparency International調べ)と、

まだまだ課題の多い国である。KPMGが実施したビ

ジネス環境指数調査によると、モザンビークにおけ

る最大のビジネス障壁として汚職があげられ、次い

で官僚主義、組織犯罪が指摘されている。外資が事

業を進めるうえでのビジネス環境がすべて整ってい

るわけではない。

SOMACELはモザンビーク投資促進庁のサポート

を得ながら当国に進出し、工業省から投資促進のた

めに設けられた特区のうち工業特区として認可され

た。しかし、認可されるまでには、前述した障壁だ

けでなく、制度面での非効率性あるいは不備に多々

直面した。今後は各政府機関に、投資側としての意

見をフィードバックし、モザンビークの成長ととも

に、次の事業展開をしていきたい。

今後の展開

SOMACELの生産規模は現在、

月産1万トン(GMT)ほどだが、

これを2014年までに月産2.5万ト

ンまで増やす計画である。年間30

万トン(GMT)=20万BDTが当

面の計画値である。

また国内の資源開発をも視野に

入れており、マプト近郊の林地視

察を始めている。ベトナムで展開

している苗木の無償配布を当地で

も行い、農家、地主に対し、植林

への協力体制を整えていくことに

努めている。

2013.7 15

モザンビーク特集

マプト港の船積船

SOMACEL工場全景