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Ⅰ コーチングを高めるNLP理論の活用法
1.医療機関でも活用されているコーチング
2.NLP理論の考え方と目的
3.コーチングの弱点とうまくいかないケース
4.NLPはどのように使われているか
Ⅱ 医療現場のコミュニケーション力を向上する
1.患者やその家族とのコミュニケーションに活用
2.院内コミュニケーションに活用する場面
3.日常業務上のストレスに対処するためのNLP
Ⅲ 相手を理解するための「観察力」を磨く
1.五感で知覚し、相手を理解する
2.知覚することで相手の意図を肯定する
3.「観察力」を向上させ、相手の理解プロセスを知る
4.「VAK」言葉を使って、理解しあえる関係を築く
1
近年日本においてもコーチングの有用性が注目され、ビジネスやマネジメントだけではな
く、スポーツや医療機関での活用が広まっています。
1980 年代からコーチングが理論・体系化されたアメリカでは、既にコーチングが広く認
知され、個人が仕事や人生における自己実現を図ることを目的とするパーソナル・コーチ
ングの利用も増えてきています。
コーチングは、相手の個性を尊重しながら意欲と能力を引き出して、抱えている問題の解
決や目標達成につなげるという双方向のコミュニケーションスキルです。様々な切り口の
質問で、相手からの「答え」を引き出す「コーチング」は、個人のモチベーションを高め、
目標を全うする意欲と行動に導く支援を行う役割を果たします。
医療機関では、職員個々の能力の向上を図るために様々な指導・教育を行う必要性と機会
が他業種に比べて多いといえます。さらに、医療職という高度に専門的なスキルとともに、
他職種とのチームによる業務遂行がもとめられる専門職集団であるがために、共通の価値
観に従い、医療機関としての目標を達成することが求められることから、人を育てる立場
の人々にとって、コーチングの有用性が大きいとされています。
【コーチングの主要なスキル ~ 傾聴と質問】
①傾聴のスキル:「耳で聞く」「口で訊く」「心で聴く」
質問により相手の話を訊くとともに、相手の思いも聴く
②質問のスキル:誘導はしない、なぜ?は使わない
効果的な質問を繰り返すことにより、相手が持つ「答え」を引き出す
医療機関に従事する職員にとって、院内だけではなく患者やその家族を含めたコミュニケ
ーションにおいて、その円滑さを維持するためのスキルは非常に重要です。また、医療職
であるがために、自分の精神的ケアは後回しになる傾向もみられ、特に日常業務における
意思疎通をめぐるミスやエラーを原因とするストレスも、コーチングによってある程度の
改善を図ることができるといえます。したがって、より効果的なコーチングを実践できる
ことは、職員個々の目標設定、能力開発とともに心身の健康を守ることにもつながります。
コーチングのポイントは、「答えは本人が持っている」ということにあります。コーチの役
割は、相手(本人)の自発的な行動を促すことによって目的達成への案内をすることです
から、自立した人材の育成にはコーチング的視点が丌可欠だといえるのです。
Ⅰ コーチングを高めるNLP理論の活用法
1 医療機関でも活用されているコーチング
2 NLP理論の考え方と目的
2
一方、NLP(Neuro Linguistic Programming:神経言語プログラミング)とは、五
感を通じて認知された情報がイメージ化されるプロセスを含み、自分自身や他人との関係
において「望む結果を手に入れる方法」を明らかにするコミュニケーション手段です。日
本においては、スポーツ分野などで部分的にNLP理論が導入されてきましたが、近年の
コーチング活用の場の拡大に伴って、NLPの考え方も徐々に認知されつつあります。
【NLP(神経言語プログラミング)の定義】
NLPは、1970 年代、アメリカのリチャード・バンドラーとジョン・グリンダーが心理
学と言語学をもとに体系化した人間のコミュニケーションに関する新しい学問です。創始
者バンドラーとグリンダーは、当時アメリカで非常に優秀だった三人の天才的セラピスト
(心理療法家)ゲシュタルト療法のフリッツ・パールズ、家族療法のバージニア・サティ
ア、そして催眠療法のミルトン・エリクソンの治療を研究し、それをモデル化して創りあ
げたのが、NLPなのです。
つまりNLPは、「五感を通じて脳が物事を理解する」という前提にのっとり、「鋭敏な知
覚を養うためのアプローチ」を身に付ける理論だといえます。また、「自分が知っているこ
とをどのように知っているのか」を学ぶものでもあります。
そして、コーチングはNLP理論を背景に誕生したスキルであり、コミュニケーションス
キルとして独自の発展を遂げてきましたが、双方を区分して捉える必要はありません。コ
ーチングは言語のみを通じ、その範囲で理解し、行動を変革していくツールですが、「五感」
という非言語的な情報を加味することで、より力強いコーチングを実践できます。
コーチングを実践する際に、曖昧さに丌安を抱くことは尐なくありません。コミュニケー
ションにおいて、言語はその一部であることがその理由のひとつです。
Neuro:神経
五感を通じて認知された体験が神経系を通じて処理される
Linguistic:言語
神経系を経由した情報が言語・非言語コミュニケーションシステムを通じて符号
化・秩序づけられ、指令としての意味を不えられる
Programming:プログラミング
神経系と言語を組織化して、思考と行動を組み立てる
望ましい目標や成果を達成するために、自分の思考や行動を
自由に組み立てられるようになる
3 コーチングの弱点とうまくいかないケース
3
「メーラビアンの法則」(A.メーラビアン:米の経済学者)によれば、実際に会話を通じ
たコミュニケーションにおいても、決定的な影響力を持つ要素として言語が占める割合は
7%に過ぎないという分析結果が示されています。つまり、言語を通じたコミュニケーシ
ョンである会話の中でも、言葉が占める割合は非常に低く、逆にその他の要素である話し
方やテンポ、声のトーン、態度や表情による部分が多くを占めているということです。こ
れは、直接的な言葉以外で伝わる情報がどれほど多いかということを意味しています。
つまり、言葉に頼りすぎてしまうコーチングの弱点は、ここにあります。他にもコーチン
グは、次のような問題を生じることがあります。
【不自由なコーチングが生じる場合とその理由】
コーチングでは、質問によって相手の気づきと学びをサポートしますが、コーチが自分の
考えを押し付けたり、説教をしてしまったりすることがあります。こうした状況は、相手
もすぐに気が付きますから、コーチングに失望してしまうことになりかねません。
相手を固定観念や先入観で見ていたり、相手の話を聴きながら答えを想定して質問をして
いたりすると、相手が持っている「答え」を呼び覚ますことはできないのです。コーチは
善悪の判断や、相手の誤りを正すことがその役割ではありません。コーチには、相手に対
して様々な質問を繰り返すことによって、あらゆる角度から検討の機会を提供することが
求められています。
NLPでは、「五感を通じて物事を理解する」という前提に立ち、知覚の鋭敏さを養うアプ
ローチがあります。そして、できた状態を五感で理解できるという「自分にとっての確実
性」があることから、コーチングで生じる曖昧さを排除することができるのです。
① 誘導型コーチング
本人が持っている「答え」とは違う、コーチの意見を押し付ける
② 説得型コーチング
相手の答えではなく、コーチの持つ一般論や価値観から批判する
③ 分類型コーチング
相手の可能性を否定し、予めタイプ分けして質問を投げかける
相手の中に「答え」があることを信じられない
相手を個の存在として見ていない
相手の変化が信じられない
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【NLPで説明する「傾聴」のスキルとプロセス】
NLPには、2つの「アプローチ」の質問があります。
① What do you want ? (成果に焦点をあてる)
あなたはどうなりたいのですか?
② What stops you ? (問題に焦点をあてる)
あなたを妨げているものは何ですか?
NLPでは、「アウトカム(=成果、目標、目的、ゴール)を明確にしていくスキル」と、
そのアウトカムと現状の問題のギャップ、つまり「アウトカムを手に入れたいのに止めて
いるもの=ストッパー(制限)に気づいていくカウンセリング手法」が確立されています。
耳で聞く
口で訊く
心で聴く
●相手の表情 ●声のトーン
●身振り・しぐさ ●話のリズム・スピード
相手をキャリブレート(*第3章で解説)し、
非言語に同調・共感
相手の「感情」を自分の中で再現する
(当事者意識)
どういう状態か
●当事者意識 ●非当事者意識 ●メタポジション
相手の「思い」を知る・受け取る
状態の再現
●何が話したいのか
●話せていることは何か
●話せていないことは何か
非言語キャリ
ブレーション
観察力
ペーシング
共感・共鳴
自分の五感を
用いて観察し、
理解する
言語的質問に
よって相手の
状態を言語化
してもらい、引
き出す
五感で実感
ラポール
4 NLPはどのように使われているか
5
こうして自分を止めていたものに気づくことで、アウトカムを手に入れやすい状態を自分
で創り出すことができます。つまり、NLPは自分がコーチとなり、自分の答えを見つけ
ることである「セルフ・コーチング」の実践を助けるツールになるのです。そしてこれは、
日常の中で抱えるストレスへの対処法としても活用することができます。
そのほかにも、人それぞれが持っているタイプに応じたコミュニケーションスキルや、自
分の立場、相手の立場、そして第三者と3つの異なる立場から物事を認識する、多角的認
識手法、相手との信頼関係を築く方法などを身に付けることができます。つまり、人には
無意識のうちに身に付けているコミュニケーションのタイプがありますが、日常や職場で
の人間関係は、これらのタイプが交差するなかで築かれており、NLPは自分と他者のコ
ミュニケーションを意識化し、これを肯定しようとする支援を提供する理論なのです。
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医療の現場では、医師の言葉が絶対で、医師と患者および家族のコミュニケーションその
ものが、あまり重視されていない傾向にありました。しかし、1980 年代半ばからのイン
フォームド・コンセントや、 近年 ではリスク・コミュニケーションなどが注目されるよ
うになり、改めて医療現場でのコミュニケーションの重要性が認識されています。
「患者個々の状態に合った適切な言葉かけができているだろうか」
「症状からのメッセージやサインに耳を傾けられているだろうか」
日々の業務の中で、上記のような問いかけを繰り返すことは、どの医療従事者も経験して
いると思われますが、医療従事者のコミュニケーションの変化によって、患者の治癒力が
引き出されることがあります。身体だけの治療ではなく、心のケアによって心身共に弱い
立場にある患者の側に寄り添い、患者自身の「治りたい」という意欲を向上することにつ
ながるから、と考えられます。
NLPは、症状が示す身体のサインを受け止めようという考え方を身に付けることができ、
患者との意思疎通を向上させることにつながります。
(1)患者とのコミュニケーションでの活用事例
「長期間通院している外来患者が、処方した薬を指示通り飲み続けていない」
①意欲を高めるコミュニケーション手法
●薬を出すときの声がけのNG例
「薬は必ず飲んでくださいね」といって渡すのみ
「薬を飲まないと、またぶり返してしまいますよ」と丌安をあおって促す
⇒ 患者の意欲は減退してしまう
②アウトカム(目的、目標)を明確にする
●薬を渡す際のよい声がけの例
「この病気が治ったとしたら、Aさん(患者)はどんなことをしたいですか?」
⇒ 人は目的が明確になると、自然とそれに向かって行動するため、「薬を飲む」という行
動が、未来のどんな状態につながるのか、患者本人に理解してもらうことが必要。
Ⅱ 医療現場のコミュニケーション力を向上する
1 患者やその家族とのコミュニケーションに活用
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特に、体の丌調に慣れてしまっている状況の場合、「治ったら」というところに意識がなか
なか向きません。「治ったら」という未来に意識を向ける言葉がけをすることで、やりたい
こと、手に入れたい状態(=アウトカム)が自然と浮かんできます。 そして、アウトカム
が定まったとき、その未来を手に入れるために行動が変化していく可能性があります。
前節で触れたように、人は、「神経」(=五感【視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚】)と、「言
語/非言語」の脳での意味づけによって物事を認識し、体験を記憶しています。NLPで
は、五感を「視覚」「聴覚」「体感覚(味覚・嗅覚・触覚)」と、大きく3つに分けて考えて
います。右利きの人、左利きの人がいるように、人は、無意識のうちに、この「視覚」「聴
覚」「体感覚」の中で 優位に使っている感覚があります。
たとえば、視覚タイプ(=視覚を優位に使いがちな人)と視覚タイプ同士だと、話の内容
に共感できることが多いなど、その人が優位に使っている感覚は、コミュニケーションに
おいて大きな役割を占めています。
同じ話をしていても、思い浮かべているものはその人のタイプによって異なります。相手
のタイプを見分け、聞き分けて話しかけていくことで、形成した「ラポール(相手との信
頼感がある状態)」を深めることができ、コミュニケーションの質がより向上します。
ラポールとは、次のように定義されるものであり、相手と理解し合い、信頼感を持つ関係
づくりの基盤になります。
【「ラポール」の定義】
●共通認識・共感によって、協働関係を築くことができる信頼感がある状態
●相互に理解し合えるような居心地のよい雰囲気の状態
●いかなる人間関係においても意思疎通を図るための基盤
2 院内コミュニケーションに活用する場面
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医療従事者は、専門的な業務に日々緊張を強いられながら取り組んでいるために、自分で
は気づかないストレスが蓄積している場合も尐なくありません。院内でのコミュニケーシ
ョン、あるいはストレスへの簡単な対処法にも、NLPを活用することができます。
NLPの重要な概念のひとつに、「原因と結果」という考え方があります。
【原因と結果(cause and effect)】
院内の人間関係がうまくいかないことを、自分に敵意を持っている同僚や、能力や努力を
求めてくれない上司の責任にしたくなることはないでしょうか。あるいは、患者とのコミ
ュニケーションに問題が起こった際に「相手が自分の話を良く聴いていなかったせいだ」
と思った経験も尐なくないはずです。職場や日常生活で起こった問題で強いストレスを感
じてしまう場合には、「原因は自分にある」と考える方法があります。
これは、リフレーミングというNLPの技術を活用したものです。否定的に思える行動や
振る舞いも、それが発生する状況によって別な意味を持つことを理解し、「フレーム=枠」
を変えて捉えると、自分にとって望む成果を手に入れるのに役立つ「枠」を選ぶことがで
きます。マイナス思考を取り払い、ストレスを軽減する方法を選ぶということです。
ただし、「自分が悪い(責任がある)」と思う必要はありません。つまり、相手の考えや
行動に対して肯定的な意図を見出しながら、「相手は、その人の持ちうる最良のものを提
供している」と認める努力が必要なのです。
日々の業務におけるストレスは、必要な順応力を身につけ、自分の反応を変えることで外
部からの変化を受け入れられるようになります。これによって、特にコミュニケーション
において、自分が受ける強いストレスを回避することもできるのです。
【コミュニケーションの結果とは】
3 日常業務上のストレスに対処するためのNLP
「どのようなことを話したのか
(言語的内容)」ではなく…
「相手は何をどのように受け止めたか」
「どのような反応を引き出したか」
原 因
外的刺激に対して自分自身
の反応に責任を負う姿勢
結 果
自分の置かれた状況を外部
や他者の責任にする姿勢
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五感を使うNLPで、コーチングをより効果的に活用するために最も重要なスキルのひと
つが「キャリブレーション」です。これは、コーチングが機能するベースを作るだけでな
く、五感による観察力を磨く上で非常に有効なツールになります。
【キャリブレーションの定義】
非言語的兆候(言語以外で発信するサイン)を詳細に測り、そこから相手の心理状態や
変化を捉えること ⇒ 観察すること
日常のコミュニケーションにおける「キャリブレーション」は、誰でもある程度は行って
います。相手の表情や顔色、姿勢、足取り、声のトーン・テンポなどの非言語的情報から、
そのとき「どのような心理状態なのか」を推察できることがあります。しかし、このキャ
リブレーションは、多くの場合に自分の「解釈」を加えているのです。
【キャリブレーションの指標】
Ⅲ 相手を理解するための「観察力」を磨く
1 五感で知覚し、相手を理解する
姿勢・動きの変化:顔や手足の動き、動きの停止、身体の使い方
表情の変化:顔色、目(眼球)の動き、まばたき、しわ(額・口元など)
声のトーンの変化:緊張、低い、高い、途切れる
呼吸の変化:深い、浅い、一時停止、胸式呼吸・腹式呼吸
口調の変化:声のテンポや間の速さ、遅さ、間合い
キャリブレーション
(非言語的変化・兆候)
相手が発信する非言語情報を、ただ観察する
⇒ 相手が「何を見て、聴いて、感じているのか」を知覚する
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*日常的コミュニケーションにおけるキャリブレーション
例)部下が出勤時に顔色悪く、力なく小さい声であいさつした
⇒ 「元気がないようだ」(感想)
⇒ 「何かあったのだろうか?」(解釈)
日常においては、これらがコミュニケーションの潤滑油として作用することもありますが、
コーチングでは十分な効果を妨げてしまう場合があります。
相手が発信する非言語情報を観察し、相手が今どのような状態にあるのかをとらえること
がキャリブレーションの目的です。つまり、相手を理解しようと五感を働かせる場合には、
自分の主観的な情報による「解釈」を加えてはいけないということなのです。
NLPには、「知覚のポジション」というツールがあります。
人は誰でも、困難に直面すると感じ方にマイナスの影響、すなわちストレスを受けてしま
いますが、この3つの「知覚のポジション」に自分自身が立つことで、肯定的な意図を見
つけることができ、それにより得られた情報がストレスの原因となっている困難の知覚の
仕方が変わるという考え方です。
【知覚のポジションとは】
第1ポジションでは、自分自身が自分の体験から主観的のみに見ることが求められます。
そして、相手になったつもりで相手もしくは自分を見るのが第2ポジションです。さらに
第3ポジションでは、自分でも相手でもない目で、距離を置いて全体を見渡すことが必要
です。自分の内側と外側に目を向け、自分の外に原因を求めているのか、それとも自分自
身に原因があると考えているのかを区別し、自分と相手を含む全ての当事者にとって、状
況を改善できる方法を見つけることにたどり着けるのです。
このツールは、実際に3つの椅子を用いて、それぞれの席を各ポジションになぞらえて移
動する動作を伴って行うこともありますが、自分の中で3つの立場の考え方の順を追って
思考を進めるだけでも構いません。
2 知覚することで相手の意図を肯定する
自分の主観的な情報で
相手を解釈している
第1のポジション
【自分の要求】
第2のポジション
【相手の動機】
第3のポジション
【分離体験~分析的・再帰的】
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相手の心理状態や変化を知覚するためには、自分の「観察力」を磨くことが重要です。こ
こで注意しなければならないのは、相手の発信する非言語情報を受け取っていると同時に、
自分自身が発している非言語情報も相手に影響を及ぼしているという点です。コーチング
であれば、言語的情報だけでなく「質問」以外に相手に何らかの影響を不えているかも知
れないのです。
前述したラポールを形成するためにも、五感を用いた観察力と、自分が「相手」になって
みるというポジションチェンジ思考は重要です。そしてそれには、相手が取り入れた情報
を脳の中でどのように蓄積し、整理する方法を持っているのかを知ることが有用です。
【相手の「感覚」を知る~理解プロセスで用いられる五感の傾向】
人の「VAK」の違いは、話し方や行動などに特徴として現れますが、これらの特徴はペー
シングを行う際に活かせます。
しかし、「VAK」は人のタイプ別分類ではなく、その人の理解プロセスの傾向を表してい
るに過ぎません。したがって、相手が発信している情報を総合的にとらえ、その脳の中の
処理を瞬時に判断する観察力が重要だということになります。そして同時に、これに応じ
て自分のアプローチを変えてゆく柔軟性も求められます。
五 感 視 覚(Visual) 嗅 覚
聴 覚(Auditory) 味 覚
触 覚(Kinesthetic)
優先的に使われる「VAK」
視覚優位 (V)
映像重視型
頭の中でイメージを描く
聴覚優位 (A)
音に敏感
頭の中で自問自答する
身体感覚優位 (K)
状況に対する感触や身体的
イメージを重視する
「VAK」はタイプ分類ではないことに注意すべき
:話題や相手によって、人が優先して用いる感覚は変化する
常に同一の感覚を使っているわけではない
3 「観察力」を向上させ、相手の理解プロセスを知る
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相手が使う言葉をよく観察すると、どのような表現を用いるかで「VAK」のいずれの感覚
によって形成されたかがわかります。そして、その人の使った言葉によって、「VAK」の
どの感覚で作られているかを峻別し、自分も同じジャンルの言葉を用いれば、言葉による
ペーシングが可能になります。
【相手の優先的感覚を言葉で知る例:上司や同僚の意見に納得できない場合】
●視 覚「V」 ⇒ 「どこかピントがずれているイメージ」
●聴 覚「A」 ⇒ 「どうも同調できない気がする」
●身体感覚「K」 ⇒ 「何となくしっくりこない感触」
相手と同じ「VAK」言葉を使うポイントは、①相手と同じ感覚を使う、②相手の世界を追
体験するつもりになる、という2点です。自分が苦手な感覚がある場合は、それを磨くこ
とによって、豊かな感覚を備え、相手の状態や変化を見抜く観察力につながるのです。
五感と観察によって得られた相手の情報は、自分と相手との間のコミュニケーションを円
滑にするために、非常に重要です。相手と「VAK」が異なれば、日常業務や言葉における
ペースや、処理の速さにも差が生じることがあります。患者との意思疎通に問題を感じた
場合、それは自分と患者の「VAK」が違うために、伝えている言語的情報の認識にずれが
あるのかもしれません。
どんなコミュニケーションも、自分が認識したとおりの意味を持ち、相手がそれを聞いて
理解した内容がそのまま相手の認識、つまり相手自身の体験と五感によって反応している
ことだと受け止めると、自分自身を完全に理解できるだけでなく、上司や同僚のことも理
解できるようになります。確実に変えることができるのは、自分自身の反応です。相手を
理解するために、観察力を磨き、柔軟性を持って相手にアプローチすることが重要なので
す。
■参考文献
■図解 NLPコーチング術 木村佳世子 著 秀和システム 2007年
■医療・看護・ケアスタッフのための実践NLPセルフ・コーチング
スザンヌ・ヘンウッド、ジム・リスター 著 春秋社 2008年
4 「VAK」言葉を使って、理解しあえる関係を築く