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新エネルギーの展望 20073 財団法人 エネルギー総合工学研究所-THE INSTITUTE OF APPLIED ENERGY ガスタービン技術

ガスタービン技術- 2 - 1 ガスタービン開発の歴史と最近の状況 1.1 開発の歴史(2)(3) ガスタービンの開発歴史を見ると,航空用に おいては,イギリスとドイツでほぼ時を同じく

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新エネルギーの展望

2007年 3 月

財団法人 エネルギー総合工学研究所-THE INSTITUTE OF APPLIED ENERGY

ガスタービン技術

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ま え が き

近年の異常気象および気候不順の発生は枚挙に暇がないほどであり,地球温暖化が着実

に進行してきている現実を否定できない状況となってきた。今や,科学技術陣としては,

従来以上に温暖化防止に資するあらゆる手段,とりわけ,新エネルギー,省エネルギー,

さらに燃料転換分野においてより効果的かつ積極的な取組が必要とされている。

本書で取り上げたガスタービン技術は,省エネルギー面で大きな効果をもたらすもので

あるが,その特徴を概括すると装置の大きさの割には大出力が得られることから今や大形

航空機の原動機として圧倒的な地位を占め,また発電用においては,その高効率化特性と

機能性から最近急速に導入が進んできているLNG複合発電(コンバインドサイクル)の

中核技術として採用されてきている。とりわけガスタービンの温度上昇に伴う高効率化特

性は,従来形発電方式を大幅に凌駕しており,例えば,従来形LNG火力発電の効率(発

電端,高位基準)は約42%であるのに対し,最近のコンバインドサイクル(ガスタービン

温度1,500℃級)では,同効率は約54%にも達しており,将来的には更なる高効率化の検討

も行われている。また,LNG以外の燃料におけるガスタービンの利用に関しても,石炭

ガス化複合発電(IGCC),製鉄所の副生ガス利用発電,あるいは将来的には高温形燃

料電池(MCFC,SOFC)組合せによる複合発電等,多方面でのガスタービンの応用

が検討されている。

一方,その背後には,高温化にともなう冷却技術,材料開発,低NOx燃焼技術,運転保

守システム,制御技術の高度化等々,そこには地道ながら最先端技術レベルの導入と総合

技術の発揮が必要とされ,その点地球温暖化に寄与するエネルギーの高度利用面のみでな

く,わが国の科学技術の維持向上にも寄与している面が少なくない。

このように,ガスタービン技術は,エネルギーと環境問題への影響の大きさ等を勘案す

ると極めてわが国の実情に沿う今日的な技術であり,今回当所の「新エネルギー展望」シ

リーズに取り上げ解説を試みたものである。

なお,本編は,当所小川紀一郎専門役が執筆し,エネルギー技術情報センターにて編集

した。

おわりに,このシリーズの刊行は,財団法人電力中央研究所からの委託業務「エネルギ

ー技術情報に関する調査」の一環をなすものであり,同研究所に対して深く謝意を表する。

2007年3月

財団法人 エネルギー総合工学研究所

理事長 秋 山 守

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新エネルギーの展望

ガスタービン技術

目 次

はじめに ································································ 1

1 ガスタービン開発の歴史と最近の状況 ··································· 2

1.1 開発の歴史 ······················································ 2

1.2 LNGコンバインドサイクルの発展経緯 ····························· 2

2 ガスタービンの原理,基本構造および性能 ······························· 4

2.1 ガスタービンの原理と基本構造 ····································· 4

2.2 ガスタービンの種類 ··············································· 5

2.3 ガスタービンの性能と基本サイクル ································· 6

2.4 ガスタービンの諸特性 ············································· 9

2.5 コンバインドサイクルの基本的構成 ································· 9

3 ガスタービンの主要構成技術 ··········································· 11

3.1 圧縮機 ·························································· 12

3.2 燃焼器 ·························································· 12

3.3 タービン ························································ 13

4 ガスタービンの燃料と適用状況 ········································· 16

4.1 概 要 ·························································· 16

4.2 ガスタービンの適用燃料概説 ······································· 16

4.3 高炉ガス焚き発電所 ··············································· 16

4.4 石炭ガス化複合発電 ··············································· 18

5 ガスタービンの開発課題と動向 ········································· 21

5.1 概 要 ·························································· 21

5.2 冷却技術の変遷 ··················································· 21

5.3 耐熱材料技術の変遷 ··············································· 22

5.4 ガスタービンの主要構成要素技術の課題と動向 ······················· 22

6 ガスタービンと運転・保守 ············································· 24

6.1 ガスタービンの運転特性概要 ······································· 24

6.2 保守の概要 ······················································ 25

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7 国内代表メーカの技術概要とその取り組み ······························· 28

7.1 概 要 ·························································· 28

7.2 「川崎重工業-アルストーム型」····································· 28

7.3 日立/東芝-GE型 ··············································· 29

7.4 富士-シーメンス型 ··············································· 30

7.5 三菱重工型 ······················································ 31

8 ガスタービンの将来展望 ··············································· 33

8.1 概 要 ·························································· 33

8.2 超高温(1,700℃級)ガスタービン ·································· 33

8.3 高湿分空気利用ガスタービン(AHAT)····························· 35

8.4 燃料電池とガスタービンサイクル ··································· 36

あとがき ································································ 37

参考資料 ································································ 39

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- 1 -

は じ め に

日本における 近の年間発電電力量(kWh)

(2006年度推定実績)は,火力が約6割を占め,

次に原子力が3割,水力・地熱が約1割,いわ

ゆる新エネルギーは未だ約1%に過ぎない。す

なわち現在の電力の大半は火力に頼っている(1)。

その火力の中でも,現在は発電量としてもっ

とも多いのがLNG火力である。 近は火力発

電による発生電力量の約4割強(全体発電量の

比率で26%)を占め,僅少差ながら石炭火力の

約4割(同24%)を越えるまでになってきた。

石油火力等は約2割(同10%)に低下してきて

いる。1980年ごろのLNG火力の比率が約1割

強,石油が約4割もあった時代からすると,正

に隔世の感がある。LNG火力の中で 近特に

注目を浴び,また実績も伸びてきているのが,

LNG複合発電(略称,コンバインドサイク

ル)である。

そのコンバインドサイクルの発展は,すなわ

ち効率面,運転特性面,さらに経済性面での優

れた特徴に起因するものであり,それはとりも

なおさず大部分ガスタービンの特徴でもあるの

で,いまやガスタービン技術がその中心となっ

ているといっても過言ではない。

そのガスタービンは,第2次世界大戦前後か

ら航空機の動力原として利用され,今や同分野

の大型エンジンはほとんどガスタービンが占め

るほどになった。そして,さらに船艇や戦車等

の軍事用にも利用されてきたが,陸上用として

の利用が近年急速に進展してきたのは,コンバ

インドサイクルとしてガスタービンの特徴が顕

著に発揮され,また発電用としての信頼性も実

証され,主要発電設備として信頼できるとの評

価が定着したからであろう。

さて,コンバインドサイクルは,ガスタービ

ンによる直接発電に加え,後流の熱回収(蒸気

発生)装置および蒸気タービンとを組み合わせ

た発電方式で,詳細は本文中で紹介するが,ガ

スタービンの高温化とともに出力および効率が

敏感に上昇する特性をもったもので,昨今の地

球温暖化問題とエネルギーセキュリティー面か

らも,極めて現代的な発電方式といえる。

そのコンバインドサイクルが今日実用機とし

ての信頼を勝ち得るに至った背景には,前述の

ように研究開発,設計製作および運転面におい

て,関係者(ユーザ,メーカ,研究機関等)が

長い歴史と経験を経て努力してきた成果に他な

らないが,今日の環境とエネルギーを取り巻く

切迫した状況を勘案すると,今後ともさらなる

効率向上と信頼性確保等の性能向上を目指した

一層の努力が必要であろう。

航空用ガスタービンは,人と荷物を満載した

巨大な飛行機を高度約1万mもの高所に押し上

げ,今や地球の半分の距離を無着陸で運行する

迄になった。また,発電用ガスタービンは,コ

ンバインドサイクルとしてわが国発電用電力量

の4分の1を占めるほどの重要な電源となって

いる。

人類は今や陸と空において,ガスタービン技

術から多大の恩恵を受けているといっても過言

ではないだろう。

本書が,そのような現代の重要技術であるガ

スタービン技術について,理解を深められる際

の多少とも参考になることを期待する次第であ

る。

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1 ガスタービン開発の歴史と最近の状況

1.1 開発の歴史(2)(3)

ガスタービンの開発歴史を見ると,航空用に

おいては,イギリスとドイツでほぼ時を同じく

して開発され,例えばイギリスでは,1937年に

英国空軍士官で技術者のフランク・ホイットル

卿がジェットエンジン試験に成功し,ドイツで

は,1939年に当時学生のフォン・オハインが,

ジェットエンジン研究を飛行機に応用し,成功

したことが伝えられている。また,発電用の場

合も,開発開始時期はそれ程変わらず,1939年

にスイスのBBC(現ABB)が,出力4千kW

のガスタービンを試作し,運転に成功したこと

が挙げられている(2)。

もともとガスタービンは,燃料を蒸気等に変

換して蒸気タービン等で発電するいわゆる間接

的な発電(外燃機関)でなく,高温燃焼ガスか

ら直接発電出力を得る内燃機関であり,そのた

め構造がコンパクトで大出力が出ることが知ら

れ,上述のように航空機分野で広く利用されて

きたのであるが,発電用となると年間利用時間

も格段に増大し,その発電用としての信頼性確

保(いわゆるヘビーデューティ型)と高効率化

の特性が求められるため,ガスタービン燃焼ガ

ス温度が比較的低い間は,従来

型と比較して顕著な魅力も認め

られなかったが,同燃焼温度の

向上と運転上の信頼性が認めら

れるに従い,広く採用されるよ

うになってきた。

ちなみにコンバインドサイク

ルは,同ガスタービンによる直

接発電とその排出ガス中の熱回

収により得られた高温の蒸気に

よる蒸気タービンとを組み合わ

せた発電方式で,詳細は第2章

で述べるが,ガスタービンの高

温化に伴い効率が上昇する,負

荷変動特性が良好などの特徴を

持ち,現在の地球温暖化対応と火力発電に課せ

られた中間負荷火力対応のニーズに極めて即し

た発電方式である。

わが国における発電用としての本格的な採用

は,1984年(運転開始)の東北電力東新潟3号

系列発電所が挙げられる。同プラントは,ガス

タービン温度(第1段動翼入口)は,1,154℃

であり,発電効率(発電端,高位発熱量

(HHV)基準)は約44%(低位発熱量(LHV)基

準49%)と当時の最新鋭従来方式火力発電プラ

ントの効率と匹敵するものであった。しかし,

その後のガスタービン温度の上昇とともに同効

率は飛躍的に増大し,最近では,ガスタービン

温度1,300℃級で同効率約50%(LHV基準約

55%)時代を経て,いまや1,500℃級で同効率

約54%(LHV基準約60%)が,建設され実運用

されるようになった。

従来の火力発電効率がせいぜい40%を超える

程度だっただけに,飛躍的な効率の変化といえ

る(3)(30)。

図1-1(3)にコンバインドサイクルの発電効率

の推移を従来形火力との対比で示す。

図1-1 コンバインドサイクルの発電効率推移(発電端,HHV基準)

(出典:特集火力発電所の熱効率向上「3.ガスタービン」火力原子力発電

Vol.54 No.10,2003.10,P1176)

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1.2 LNGコンバインドサイクルの発展経緯(4)

近年の産業および経済の進展にともなうエネ

ルギー消費量の増大,とりわけ電力化率の上昇

により電力消費量は,ほぼ一貫した右上がりの

上昇を続けてきた。

その中で,近年の電源構成を見ると戦後の水

主火従から火主水従へと移行して暫らく経った

石油危機直前の1970年ごろの火力の主要電源は

石油であったが,その後石油危機を契機として

脱石油化が図られ,さらに原子力開発の進展,

天然ガスの導入および石炭の見直し等があり,

近(平成18年度推定実績)の電源構成(電気

事業用)は,年度末電源設備では,原子力約2

割,火力約6割,水力約2割,年間発電電力量

にては,原子力約3割,火力約6割,水力約1

割,新エネルギーは1%未満という構成である

(1)。

さて,その火力の中で 近増加が著しいのが,

LNG(天然ガスを含む)である。同LNG火

力の推移を見ると,先ず年度末電源設備では,

1973年で(全体発電出力中)約3%であったも

のが, 近(平成18年度推定実績)では,25%

に達し,石炭,石油等を凌駕して火力の中で1

位を占めるようになった。また,年間発電電力

量では,1973年は約2%に過ぎなかったものが,

近(上記と同時期)では,全体の中で約26%

にも達し,ベース電源と位置づけられる原子力

(約30%)および石炭火力(24%)に拮抗して,

主要燃料として利用されていることが窺える。

図1-2に年度末電源設備の推移,図1-3に年

間発電電力量構成の推移を示す。

一方,同じLNG火力の中で,コンバインド

サイクルと従来方式との年度末電源設備の推移

を見ると,1990年ごろはLNG火力中のコンバ

インドサイクルの比率は,約1割に過ぎなかっ

たが, 近(2005年度)では約4割にも達する

ようになった。近年の傾向を見ると,例えば

1992年以降は従来方式によるLNG専焼火力は

新設されてなく,今後さらにコンバインドサイ

クルの比率が増すものと予想される(図1-4参

照)。

発電用としてLNGが導入された初期の時代

は,LNGを(ガス焚)ボイラで燃焼し,蒸気

タービンで発電するいわゆる従来型発電方式が

主体であった。特に,高度成長期時代のエネル

ギー消費量の増大により引き起こされる環境問

題に対応して,LNGは,基本的にはSOx,ば

いじん低減のための特別の設備が不要な燃料で

あったし,またそれに応えるガス焚きボイラは,

その環境特性(低NOx特性)面,性能面,ある

いは運用特性面等において十分当時のニーズに

応えるものであった。当時は未だガスタービン

0

5000

10000

15000

20000

25000

1952

1965

1973

1979

1984

1990

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

年度

万kW

水力 石炭 LNG 石油他 地熱 原子力

4526(19%)

3784(16%)

5993(25%)

4688(20%)

52(0.2%)

4712(20%)

23775(100 %)

図1-2 年度末電源設備の推移(電気事業用)

(出典:電源開発の概要(平成17年度),経済産業省資源エネルギー

庁データよりエネルギー総合工学研究所で作成)

0

2000

4000

6000

8000

10000

12000

1952

1965

1973

1979

1984

1990

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

年度

億kW

水力 石炭 LNG 石油他 地熱 原子力 新エネ

970(10%)

2397(25%)

2491(26%)

938(9%)

34(0.5%)

2824(29%)

9705(100 %)

51(0.5%)

図1-3 年間発電電力量構成の推移(電気事業用)

(出典:電源開発の概要(平成17年度),経済産業省資源エネルギー

庁データよりエネルギー総合工学研究所で作成)

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- 4 -

利用のコンバインドサイクルは,性能,実用性,

信頼性等の総合的な評価において従来発電方式

に及ばなかったわけである。しかし,その後ガ

スタービンの温度上昇等による性能と実用性等

の向上により,上記の推移に見られるようにコ

ンバインドサイクルはLNGからの発電方法と

しては今や従来方式を凌駕したと見ることもで

きよう。

2 ガスタービンの原理,

基本構造および性能

2.1 ガスタービンの原理と基本構造(5)

ガスタービンは,燃焼器で燃料を高温高圧下

で燃焼し,その燃焼ガスで後流の羽根車(ター

ビン)を回転させ電気あるいは動力を発生する

装置である。

従来型の発電方式である蒸気発生装置(ボイ

ラー)と蒸気タービンの組合せで発電する方式

が外燃式と呼ばれるのに対し,直接燃焼ガスか

ら動力を得ることから内燃式とも言われる。そ

の燃焼のために高圧の空気が必要であり,一般

にガスタービンで得られた動力を利用して圧縮

機を作動させることにより,高圧空気を製造す

る。従ってガスタービン出力の一部が圧縮動力

に使われるので,正味発生動力(発電出力)と

してはその分を差し引いた動力となる。初期の

ガスタービンは,圧縮に必要な動力が多く発電

出力が低かったが,燃焼温度の高温化,圧縮機

およびタービンの効率向上もあって, 近のガ

スタービンではタービンの正味発生動力と圧縮

器の所要動力とがほぼ拮抗するようになってい

る。換言すると, 近のガスタービンでは,タ

ービンで得られた総出力の約5割が圧縮機駆動

用で使われ,正味出力はタービン総出力の約5

割(将来的には,5割以上の増大が見込まれ

る)となっている。

またガスタービンの主要な構成要素としては,

「圧縮機」,「燃焼器」,「タービン」,およ

び「排気」が挙げられる。それぞれの要素は前

後の要素に密接に関連して特有の働きをなしな

がら全体としての総合性能を発揮する。ガスタ

ービンの主要構成要素とその働きを下記に,ま

た基本形式を図2-1に示す。

① 圧縮機(断熱圧縮)

② 燃焼器(等圧加熱)

③ タービン(断熱膨張)

④ 排気(等圧放熱)

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

1988

1989

1990

1991

1992

1993

1994

1995

1996

1997

1998

1999

2000

2001

2002

2003

2004

2005

西暦

MW

従来方式 コンバインドサイクル

59700(100%)

22800(38%)

36900(62%)

図1-4 日本のLNG火力の建設推移

(出典:電源開発の概要(平成17年度),経済産業省資源エネルギ

ー庁データよりエネルギー総合工学研究所で作成)

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- 5 -

ガスタービンサイクルを従来のピストンエン

ジン等の容積型内燃機関と比較した場合の 大

の長所は,ガスタービンの場合ピストンエンジ

ン等とは異なり,作動流体が連続的に高速で流

れるので,装置の大きさの割には大量の作動流

体を処理でき,そのため(装置サイズの割に

は)大規模出力が得やすいことである。

ここで改めてガスタービンの特徴を列挙する

と,次のとおりである。

① 小規模サイズでも高出力が得やすく,そ

のため省スペース化が図りやすい。

② ディーゼルエンジンなどに比べると窒素

酸化物(NOx)の発生を抑制できる。

③ 冷却水が不要。

④ 機械的な往復運動がない分,振動が少な

い。

⑤ 運転の立ち上がりが早い。

しかし,一方ではガスタービンの問題として

は,高温化とともに燃焼器あるいは高温側ター

ビンの動・静翼などの高温部品・部材は,劣化

あるいは短命化の傾向を有しており,従ってそ

の適正な手入れ(保守)あるいは交換が必要で

あること,またそのための経費が定常的に発生

することが挙げられる。ただし,高温部品の寿

命に関しては,適切な保守・交換基準の設定に

より,その運転上の信頼性が,格段に向上して

きていることもあり,もはや問題点としてあげ

る必要はないという指摘もあるが,本質的な性

格ということで理解しておくべきであろう。

また,航空用あるいは陸用大型ガスタービン

は,その利用する燃料として航空用燃料あるい

はLNGなど高品質燃料が使われており,その

ような燃料の確保上からの制約を懸念する向き

もある。ただし,高品質燃料の確保に関しては,

少なくとも発電用燃料に関する限り製鉄所から

の高炉ガス利用,あるいは石炭からのガス化ガ

スの利用など,適用燃料の拡大に向けた取組み

も行われてきている。

2.2 ガスタービンの種類(5)

ガスタービンは,先ず大別すると「開放サイ

クル」と「密閉サイクル」とがある。

「開放サイクル」は燃焼器で発生した燃焼ガ

スは,タービンで仕事を終えた後,必要に応じ

て熱交換等でそのエネルギーが回収されて煙突

等で大気へ放出されるものである。一方,「密

閉サイクル」は,窒素,ヘリウム,二酸化炭素

などの低沸点流体を循環利用するものである。

現在実用されているものはほとんど開放サイク

ルである。

さらに「開放サイクル」ガスタービンは,ジ

ェットエンジンに見られる「航空機用ガスター

ビン」と発電用あるいは動力用等の陸用原動機

としての「陸用ガスタービン」に大別される。

「陸用ガスタービン」の場合,特に電気事業発

電用は,年間の使用時間が航空機用に比べ格段

に多いこともあり,前にも述べたように「ヘビ

ーデューティ」ガスタービンとも称せられ,航

(a)オープンサイクル,(b)クローズドサイクル

図2-1 ガスタービンサイクルのフロー

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学出版会,2006年3月)

出力

タービン

加熱器

圧縮機

冷却器

出力

タービン

加熱器(燃焼器)

圧縮機

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- 6 -

空機用とは異なる耐久性,効率特性等の評価指

標が適用される。

なお,航空機用の適用の狙いは,原理的にガ

スタービンがコンパクトで大きな出力を得る

(機械重量あたりの出力が他の熱機関より大き

く取れる)特性が注目されたものであった。そ

の種類は,排気を推進エネルギーとして利用す

るターボジェットエンジンから,さらにタービ

ンの出力でファンを駆動するより高効率のター

ボファンエンジンなどが開発されてきた。いず

れにしても航空機用のエンジンは,燃焼ガスを

噴出して,その反動を利用して推進エネルギー

を得るものである。

一方,陸用(発電用)の種類としては,上記

の航空機用を転用したものと,発電用専用とし

て開発されたものに大別される。

航空機転用形は,エンジンは航空機用のジェ

ットエンジンを利用したものであり,一般に圧

縮機駆動用のタービンと動力回収用(発電用)

のタービンとは,別軸にした組合せとなってい

る。一方,発電専用に開発されたガスタービン

は,発電用のニーズである長期運転を前提とし

て構造が簡単で長期運転上の信頼性向上に努め

たもので,一般に一つのガスタービンで圧縮機

駆動と発電を行わせる1軸方式が主流となって

いる。

大型航空機用で採用されるターボファンエン

ジンの基本構造を図2-2(5)に示す。なお,陸用

発電用ガスタービンの構造については,後述

(第3章)で紹介するので,ここでは省略する。

2.3 ガスタービンの性能と基本サイクル(5)(6)(7)

(1) 性能の基準

ガスタービンの性能は,大気状態特に温度と

圧力(大気圧)に大きな影響を受ける。例えば,

大気圧力が高く,また温度が低いほど空気の比

重が大きくなり,容積的(容積流量)には一定

であっても,重量が増える(重量流量が増加す

る)ため,出力が大きくなる。したがって,ガ

スタービンの標準出力を計算する大気条件は,

図2-2 ターボファンエンジンの基本構造

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学

出版会,2006年3月)

JIS(JIS B 0128)で定められている。例え

ば,温度15℃,圧力101.3kPa,相対湿度60%等

が定められている(6)。

(2) ガスタービンサイクル

ガスタービンサイクルの基本は,前図(図2

-1)にても示したが,改めてオープンサイク

ルの単純ガスタービンサイクルのフローとサイ

クルを示したのが,図2-3である。同図右の実

線は全て損失が無い理想サイクル(可逆断熱圧

縮・膨張)であるが,実際のガスタービンは,

圧縮機内部損失,タービン内部損失,圧力損失,

熱損失,機械損失などの影響を受け理想的サイ

クルから外れ(不可逆過程),同図の破線のよ

うな工程を描く。これが,実際のガスタービン

サイクルの基本となる。

一方,ガスタービンサイクルとしては,上記

の単純ガスタービンサイクルが基本となるもの

であるが,サイクルとしてはこれ以外に,再生

ガスタービンサイクル(タービン出口に熱交換

器を設置し燃焼用空気と熱交換を行う方式),

再熱ガスタービンサイクル(燃焼器を一般に高

圧,中圧の2段階に設けた方式),あるいは中

間冷却ガスタービンサイクル(空気圧縮機の中

間に冷却器を設けた方式)等がある。その概念

を,それぞれ図2-4,図2-5および図2-6に示

す。

実際のサイクルは,これらの組み合わせにな

っているものが多い。

ジェットノズル

ファンタービン

燃焼器

タービン

圧縮機ファン

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- 7 -

(a) (b)

図2-3 単純ガスタービンサイクル

(a) 基本構成,(b) T-s線図

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学出版会,2006年3月)

図2-4 再生ガスタービンサイクル

(a) 基本構成,(b) T-s線図

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学出版会,2006年3月)

図2-5 再熱ガスタービンサイクル

(a) 基本構成,(b) T-s線図

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学出版会,2006年3月)

加熱器(燃焼器)

圧縮機 タービン

出力

比エントロピーs

再生熱交換器

圧縮機

出力タービン 比エントロピーs

温度

比エントロピーs

温度

圧縮機

燃焼器 再熱器

高圧タービン

低圧タービン

温度

燃焼器

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(3) ガスタービンサイクルの性能

さて,ガスタービンサイクルの性能は,熱力

学の基礎式,定義式から容易に導かれる。

その基礎となるのが,

① 熱力学の第1法則

② ガスの状態式

③ 可逆断熱変化の式

等である(5)。

これらの詳細は省略するが,実際のガスター

ビンサイクルの性能を考えるときは,出力 大

の条件,サイクル全体としての高効率の条件が

重要な要因となる。以下,単純サイクルの場合

を例にとり説明する。まず,ガスタービンの理

想サイクル(ブレイトンサイクル)における代

表的な性能関連諸指標を次の式で示す(7)。

圧力比 γ=P2/P1

高 低温度比 τ=T3/T1

断熱圧縮温度比 θ=T2ad/T1=γκ-1/κ

無次元比出力 W=(τ-θ)(1-θ-1)

熱効率 η=1-θ-1=1-1/γκ-1/κ

ここで,P2,P1あるいはT3,T1は,サイクル

行程に対応した場所の圧力あるいは温度を示し

(図2-3参照),またκは比熱比(断熱指数)

を意味する。

これらの指標を利用した比出力と熱効率の関

係は,その試算結果をグラフにて整理されたも

のがあるが(例えば,文献(7)),本書ではそ

の詳細は省略する。

実際のガスタービンサイクルでは,上述のよ

うに理想サイクルから外れる(不可逆過程)が,

その経路は上記の理想サイクルに圧縮機効率お

よびタービン効率を加味することにより求めら

れる。そこで,圧縮機効率およびタービン効率

をそれぞれ,ηcおよびηtで示すと実際のガス

タービンの比出力および熱効率は,下記の式で

表される。

比出力=CpT1{ηtτ(1-1/γκ-1/κ)-(γκ-1/κ

-1)/ηc}

熱効率={ηtτ(1-1/γκ-1/κ)-(γκ-1/κ-1)/

ηc}/{(τ-1)-(γκ-1/κ-1)/ηc}

ここに,ηt=タービン効率(実際)

ηc=圧縮機効率(実際)

図2-7は,その関係を示したものである。

理想サイクルの熱効率は,圧力比(γ)の影

響が大きいが,ガスタービンサイクルでは,タ

ービン入口温度と圧縮機入口温度の比( 高

低温度比)(τ)の影響も大きく受けることが

判る。すなわち,τが大きくなれば,換言する

とタービンの入口温度が高くなれば,比出力は

増し,熱効率も上昇するが,圧力比に関しては

熱効率を 大にする圧力比( 適圧力比)が存

図2-6 中間冷却ガスタービンサイクル

(a) 基本構成,(b) T-s線図

(出典:斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大学出版会,2006年3月)

燃焼器

低圧圧縮機 高圧圧縮機

中間冷却器

出力

タービン

比エントロピーs

温度

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- 9 -

在し,その値を超えると逆に熱効率が下がる傾

向がある(5)(7)。

2.4 ガスタービンの諸特性(7)(8)

(1) 熱効率あるいは比出力の相違による適性

ガスタービンを適用する場合,以上の特性を

理解してその特徴を生かすことが必要である。

例えば,航空機用では,ガスタービンサイク

ル単体としての熱効率が最大である点が望まし

く,そのために圧力比(γ)が極力高く,次い

で最高最低温度比(τ)の高い値が求められる。

その結果,現状のガスタービン効率は,約35~

42%程度(LHV基準)といわれる。

一方,発電用は,ほとんどコンバインドサイ

クルとしての適用であるため,ガスタービン単

独性能より後流の蒸気タービンの性能を組み合

わせた総合性能が求められる。

そのためには,ガスタービンの(単体効率が

大きいことより)比出力が大きい方が望ましい

とされている。最近の,大型ガスタービンの例

では,比出力が450kW/kg/s以上のものも出現

し,またコンバインドプラントとしての総合発

電効率も,前述のように60%(LHV基

準)のものも出現してきた(7)。

(2) 大気温度特性

上述のようにガスタービンの効率と

出力においては,最高最低温度比

(τ)の影響が大きいことを述べたが,

これはガスタービン温度と圧縮機入口

温度の比であり,したがって圧縮機入

口温度すなわち大気温度の大小によっ

ても大きな影響を受けることを示す。

一般に,大気温度が1℃上昇すると,

ガスタービンの出力は0.6~0.8%程度

低下し,それに相応して熱効率も低下

するといわわる(7)。図2-8にその概要

を示す。

図2-8 出力と効率の大気温度特性

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11, 2004.11,

P1241)

2.5 コンバインドサイクルの基本的構成

次に,そのLNGコンバインドサイクルの形

式がどのようなものがあるか,さらにガスター

ビン技術開発と出力規模の関係から,その適用

の考え方を述べる。

(1) コンバインドプラントの形式(8)

コンバインドプラントのサイクル形式は,

図2-7 ガスタービンサイクルの無次元化特性

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,火力原子力発

電Vol.55 No.11,2004.11,P1241)

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「排熱回収サイクル」,「排気再燃サイクル」

および「過給(ボイラ)サイクル」等が挙げら

れる。

「排熱回収サイクル」(図2-9参照)は,ガ

スタービン排気をその後流(一般にガスタービ

ン排ガス出口に直結して)に配置された排熱回

収ボイラに導いて蒸気を発生させ,蒸気タービ

ンで動力を回収するとともに,ガスタービン出

力と合わせて全体出力を得る発電方式である。

通常,排熱回収ボイラでは,追い焚きなどの燃

料を利用せず,したがって排熱回収ボイラの蒸

気条件がガスタービン出口ガスの温度条件に左

右されるため,ガスタービンの温度が低い初期

のコンバインドプラントでは次に述べる他の方

式より効率が低かったが,近年のガスタービン

の温度上昇(および同排気ガスの温度上昇)と

ともにガスタービンによる出力も増え,またガ

スタービン排気ガス温度の上昇により蒸気ター

ビンの蒸気条件も向上し全体的に発電効率が上

昇してきていること,さらに系統構成がコンパ

クトであるという特徴もあり, 近のコンバイ

ンドサイクル(特に日本およびアメリカにおい

て)主流となってきているものである。

「排気再燃サイクル」(図2-10参照)は,

ガスタービン排気を(通常従来型の既存ボイラ

に導き)ボイラ燃焼用の空気の一部として利用

するものである。なお,既存ボイラでは,従来

通り燃料を燃焼あるいはガスタービン排気ガス

の導入に伴う燃料の追い焚きが必要なこともあ

り,原理的にガスタービンのみに燃料を投入す

る場合(例えば「排熱回収サイクル」に比べ)

効率は適わない。しかし,既存のLNG燃焼ボ

イラを活用し,さらに出力増強(リパワリン

グ)する場合にはすぐれた方式であり,現在も

条件によって利用されている。

「過給(ボイラ)サイクル」(図2-11参

照)は,(加圧の)過給ボイラを燃焼器と見立

て,そのボイラ排ガス(燃焼器排ガス)をガス

タービンに導いて熱回収する方法である。ガス

タービンの燃焼器が(加圧)ボイラとなってお

り,ガスタービンの温度が比較的低い場合でも

ボイラの蒸気条件(圧力,温度)は高くとれ,

そのため効率面でも(例えば,排熱回収方式よ

り)すぐれていた場合もあった。しかし,上述

のように近年のガスタービン温度の高温化とと

もに排熱回収サイクルの効率が上昇したためそ

の特徴がなくなり,一方では加圧ボイラ構造に

図2-9 排熱回収サイクルのフロー

(出典:火力発電総論「12.ガスタービンコンバイン

ドサイクルの計画・運転・保守」,オーム

社,2002年)

図2-10 排気再燃サイクルのフロー

(出典:火力発電総論「12.ガスタービンコンバイン

ドサイクルの計画・運転・保守」,オーム

社,2002年)

図2-11 過給ボイラサイクルのフロー

(出典:火力発電総論「12.ガスタービンコンバイン

ドサイクルの計画・運転・保守」,オーム

社,2002年)

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よる建設費の増大もあり,現在ではLNGコン

バインドプラントとしては,ほとんど採用され

なくなった。

ただし,石炭とガスタービンとの組合せのひ

とつである加圧流動層式コンバインドサイクル

( P F B C , Pressurized Fluidized Bed

Combustion)は,原理的にこの方式であり,そ

の意味では現在も利用されている方式である。

ガスタービン排気ガスの熱回収の方法として

は,その他に,「排気助燃サイクル」(排熱回

収サイクルにおいて排熱回収ボイラの前に助燃

設備を設けたもの),「給水加熱サイクル」

(ガスタービン排気ガスを既設火力の給水加熱

用として利用),あるいは回収ボイラ等で発生

した蒸気を地域の暖冷房用熱として供給する

「熱併給サイクル」等があるが,紙数の関係も

ありその詳細は省略する。

3 ガスタービンの主要構成技術

ガスタービン技術の発展は,高温化技術にと

もなう性能(特に効率)向上とシステム自体の

実用性(信頼性,運転保守特性,経済性等)向

上の2面からの発展の成果と見ることができる。

高温化技術は,冷却方法の発展と材料開発等に

よるものであり,実用性向上は,とりもなおさ

ずガスタービンシステムおよびその構成機器の

実用性,信頼性向上等を意味する。高温化技術

の内容については,第5章で述べるので,ここ

では実用性関連技術としてガスタービン技術の

中核技術である圧縮機,高温燃焼器,タービン

の3大構成技術を取り上げその概要を紹介する。

まず,全体の構造を把握する意味で図3-1お

よび図3-2に発電用ガスタービンの鳥瞰図と構

造例を示す(6)。

次に各主要構成機器の技術概要を述べるが,

これらはあくまで一般的な技術の紹介であり,

当然のことながらメーカによりその内容は大き

く異なるものであることを付言したい。

図3-1 発電用ガスタービンの鳥瞰図

(出典:火力発電総論「8.ガスタービン発電設備」,オーム社,2002年)

燃焼器 タービン

圧縮機

車軸

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3.1 圧縮機(7)

圧縮機としては一般に,軸流圧縮機や遠心圧

縮機などがあるが,現在一般的に高圧・大容量

のガスタービンにおいては,多段の軸流圧縮機,

小型の圧縮機の場合は,遠心圧縮機が採用され

る。

まず軸流圧縮機の場合を説明する。圧縮機の

構成としては,一般に動翼と静翼が交互に対に

なって配置される。動翼はそれ自体が回転し流

体にエネルギーを与える役割をなし,静翼はこ

の流体を減速して圧力上昇させる役割をなす。

当然のことながら,軸流圧縮機の空気流路サイ

ズは後方に行くにつれ流体の圧力が上昇するの

で小さくなる。軸流圧縮機の場合,一般的に起

動時に中間段での抽気を実施する。これにより

起動時に不足しがちな上流段における吸い込み

空気による軸流速度を確保する。図3-3は,こ

れらの概念を示したものである(7)。

図3-3 圧縮機抽気の概念図

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11, 2004.11,

P1242)

軸流圧縮機で特に高い圧力を要求される場合

には,圧縮空気を途中で抜き外部の冷却器で冷

却したあと,再び流路に戻す方法が採用される

が(これは前章で述べた「中問冷却」方式に相

当),これにより,圧縮動力の低減が図れる。

一方,小型ガスタービンの圧縮機は,一般に

遠心圧縮機が採用される。その主な理由は,上

述のような軸流圧縮機で見られるシステムの煩

雑さを避け装置をよりコンパクトにするためで

ある。

3.2 燃焼器(6)(7)

(1) 燃焼器の基本的形状

燃焼器には,高温で高効率燃焼および安定的

燃焼の役割に加え,NOx排出量の低減,出口温

度の平準化とともに,昨今の高温燃焼に伴う信

頼性,耐久性の確保が必要とされる。

燃焼器には,「アニュラー形」,「キャニュ

ラー形(缶形)」,および「サイロ形」などの

形状がある。図3-4にそれぞれの概要を示す。

アニュラー形は,周囲に燃焼器をドーナツ型

で配した形であり,燃焼ガス分布が均等であり,

重量も低減できるが,一方,そのままの状態で

分解点検が出来ないため,定期的に環状の構成

部品を分解点検することが必要となる。これら

の特徴は,航空機エンジンに向いているといわ

れる。

図3-2 発電用大容量ガスタービンの構造例(F7FA断面図)

(出典:火力原子力発電必携(第7版),火力原子力発電技術協会,平成19年3月(P390))

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図3-4 各種燃焼器の形式

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11, 2004.11,

P1244)

一方,キャニュラー形(缶形)は,(個々

の)筒型燃焼器を周囲に配置したものであり,

燃焼ガスの均一分布性はアニュラ型ほどではな

いにしても良好な特性を有している。一方,燃

焼器部分の重量はアニュラ形より増えるが,燃

焼器単品での分解交換が可能なため,発電用に

適しているといわれる。

サイロ形は,大きなサイロ形状燃焼器を配し

たもので,燃焼ガスの均一分布という点ではも

っとも劣るが,燃焼時間を比較的長く取れるた

め,低カロリーガスなど燃えにくい燃料の燃焼

に向いている。

上述のようにそれぞれの特徴を持っているの

で,ガスタービンの用途,燃料の種類等の条件

に応じ,その特徴を生かした燃焼器の選択が要

求される。

(2) 燃焼器の構造

燃焼器の構造を,発電用として採用が多いキ

ャニュラー形を例にとって紹介する。その構造

は一般に薄い超合金の板金構造が主に用いられ,

燃焼ガス温度の上昇につれ,冷却空気を板金構

造(2重板金構造)の間に導入する等の冷却方

式が採用される(図3-5参照)(6)。一方,大型

のサイロ型またはアニュラー型の一部には,上

述の冷却方式の代わりに燃焼器の内側にセラミ

ック等の耐熱タイルを張ったものもある。

図3-5 燃焼器内部の空気の流れ

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11, 2004.11,

P1244)

(3) 燃焼方式

近年ガスタービンの燃焼器に対する要求とし

ては,高温化にともなう「低NOx化」と「安定

燃焼」の両特性の確保が必要とされる。

燃焼方式に関しては,従来より採用されてき

た「拡散燃焼」と近年の燃焼方式である「予混

合燃焼」がある。「予混合燃焼」方式は,火炎

温度を抑えながら燃焼が可能なため「低NOx

化」に対してすぐれているが,燃焼の安定範囲

の幅が狭く不安定になりやすい問題を抱える。

一方,「拡散燃焼」は可燃範囲が広く火炎は安

定しているが,発生NOxレベルが高い等問題を

抱える。そこで,最近の低NOx燃焼方法として

は,両者の特徴を組み合わせたハイブリッド型

の採用が多く見られるようになって来た。図3

-6に,「拡散燃焼」と「予混合燃焼」方式の

空気比に対するNOx値及び安定燃焼域の概要を

示す。いずれにしても,最近の高温燃焼器にお

いては,火炎温度のピークを極力抑え,燃焼器

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図3-6 空気比に対するNOx値&安定燃焼域

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11, 2004.11,

P1245)

出口の温度分布の平均化が求められる一方,高

温燃焼器特有の空気・燃料の混合比率が限られ

るため不安定燃焼に陥りやすい等の課題があり,

これを如何に解決するかが燃焼上の大きな課題

である。

3.3 タービン(6)(7)

タービンは,前項の燃焼器出口からの高温燃

焼ガスの熱エネルギーを動力に変換するガスタ

ービンの核になる部分である。その発生出力で,

空気圧縮機を駆動するとともに発電機も駆動し

て電気を発生させる。前述のように, 近のガ

スタービンでは総発生出力のうち,おおよそ2

分の1が圧縮機の駆動用に,残りの2分の1が

発電機駆動用に利用される。

タービンは,静止部(静翼とそれを保持する

車室等)と回転部(動翼とそれを保持するター

ビン円板,車軸等。ロータとも称す。)から構

成される。

タービンには圧縮機と同じように軸流式と遠

心式の2種類があり,通常大規模向けには多段

の軸流式が,小規模向けには遠心式が採用され

る。多段軸流式の基本構造は,静翼と動翼から

構成され,前者は,ガスの噴出方向を変換した

り,増速流を作り出す役目,後者は運動エネル

ギーを回転エネルギーに変換する役目を有す。

このようにタービンは燃焼器を出た高温・高

圧のガスを 初に受け,種々の運転条件の基に

終的にエネルギーへの変換をおこなうという

熱的にも機械力学的にも非常に厳しい条件下に

ある。従ってその構造は,次の点からの考慮が

要求される。

① 冷却構造(部品の温度を許容値以下に抑え

るため)

② 強度構造(力学的にガスより受ける力や遠

心力に耐えられるものとするため)

③ フレキシブルな構造(起動停止にともなう

大きな熱的変化を許容できるものとするた

め)

特に,高温燃焼ガスを 初に受けるタービン

入口静翼は,非常な高温に曝されるため,一般

に冷却空気を利用して翼自体を冷却するととも

に翼の内部から染み出させて翼表面を空気の層

で覆い高温ガスが直接翼に当たらないようにし

たり,あるいは熱伝導の低い素材(セラミック

など)を表面にコーティングして熱伝導を抑え,

翼の温度を下げるなどの工夫をしている。図3

-7および図3-8にタービン翼の各種冷却方法

と冷却の効果との関係を示す(7)。

図3-7 タービン翼の各種冷却方法

(出典:第6回ガスタービン学会教育シンポジウム資

料,日本ガスタービン学会,平成12年7月)

拡散燃焼

予混合燃焼 NOx(

ppm)

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冷却効率=(ガス温度-固体壁温度)/(ガス温度-冷却媒体温度)

(固体壁:タービン翼外被,燃焼器壁など)

図3-8 冷却空気流量と冷却効率

(出典:第6回ガスタービン学会教育シンポジウム資

料,日本ガスタービン学会,平成12年7月)

それらの冷却構造特に冷却空気を通せるよう

に翼内部では複雑な形状構造となる(図3-9参

照(6))。これらの冷却空気は,前段の空気圧縮

機の出口または中間段より取り出され利用され

る。それに応じて圧縮機とタービン間を冷却空

気が往復・交差し,また各部の冷却空気の適切

な配分が要求されるので,配管系統は複雑にな

らざるを得ないが,この点各メーカそれぞれの

工夫を凝らした配管設計がなされている。

次に,軸流タービンの概略構造を示す。

まず,回転部の構造であるが,回転部は通常

ディスク(動翼を植え込んだ円板)を重ねてそ

れらをボルトで固定する方法がとられる(図3

-10)(7)。ディスクの外側には圧縮機の場合と

同様に翼を植え込むための翼溝が彫ってあるが,

タービン翼の場合は,圧縮機に比べ重量も重く

また強固であることが求められるので,その固

定のために,通常翼溝はクリスマスツリー状と

し,遠心力を分散して受ける形になっている

(図3-11)(7)。一方,静翼は,内部に冷却空

気通路配置の理由などから円筒形状部分と翼自

体が一体になった構造が一般的である。いずれ

にしても最近では,動翼・静翼共に内部に複雑

な冷却空気の通路確保の重要性が増してきてい

るため,その製作に当たっては精密鋳造が採用

されることが多い。

図3-9 タービン部の冷却構造例

空気冷却方式(GE型-FA型の例)

(出典:火力原子力発電必携(第7版),火力原子力

発電技術協会,平成19年3月(P391))

図3-10 ディスク通しボルト

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火力原子力発電Vol.55 No.11,2004.11,

P1246)

図3-11 クリスマスツリー型の翼根

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」,

火 力 原 子 力 発 電 Vol.55 No.11 , 2004.11 ,

P1247)

締付ボルト

半径方向歯車

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COG

空気吹き

0 2 4 8 20 40 80

ガス化ガス

酸素吹きLPG & B-Bガス

酸素吹き 窒素混合

天然ガス&製油所ガス製油所ガス

&坑内ガス

BFG/LDG/COG 混合ガス

BFG

製鉄所副生ガス

燃料発熱量 MJ/m3N

燃焼

速度

4 ガスタービンの燃料と

適用状況(3)(9)(10)(11)

4.1 概 要(9)

先に紹介したようにガスタービンの歴史は,

航空機用エンジンでの利用を先導として,その

装置規模に対する出力が大きい,高速起動が可

能等により,陸用でも使用されるようになり,

初期の予備機としての役割から,その後長期運

転にも耐える運転信頼性の増加とともに,広く

陸用発電用としても利用されるようになった。

とりわけ,ガスタービンの燃焼器温度の上昇と

ともに,出力および効率も上昇し,今や火力発

電設備の主流を占めるようになった。

それらの燃料は,航空用であるなら航空用燃

料,発電用ならLNGあるいは燃料油等いわゆ

る高品質燃料を使ったものであった。しかし,

ガスタービンの特徴を生かす原動機あるいは発

電方式の拡大から, 近その燃料の対象範囲が

拡大されてきている。そこで本章では,LNG

以外でガスタービン用燃料として 近注目され

ている燃料および同適用技術の動向を紹介する。

4.2 ガスタービンの適用燃料概説

ガスタービンの燃料としては,一般に天然ガ

ス,軽油,灯油等,いわゆる高カロリー燃料が,

一般的に使用されてきた。しかし,近年,製鉄

所副生ガス,石炭ガス化ガスなどいわゆる低カ

ロリーガスも適用燃料の対象とされるようにな

り,既に多くの実績も得られてきた。また,デ

ュアル燃料と称して,例えば製鉄所副生ガスと

重油の混合利用などの利用も行われている。図

4-1は国内メーカの事例ではあるが,ガスター

ビンに適用した燃料ガスの実績を示したもので

ある(11)。

一方,高カロリーあるいは低カロリーであれ,

燃料の性状から高品質,低品質燃料という区分

がある。例えば,同じガスタービン用燃料油と

いっても,航空用燃料と陸用燃料とはその性状

要求値が異なる。例えば,V,Na等の腐食性成

分,S,アンモニア等の環境汚染成分,あるい

は灰分等機器侵食へ影響する成分の大小で,高

品質あるいは低品質燃料に分けられる。特に問

題となるのはV,Na等のよる高温腐食成分とい

われるが,その対策の例としては,Na等のアル

カリ金属は水溶性であることを利用して水洗し,

Vは水溶化困難であるため(油溶性)その方法

では除去が困難であり,添加剤を投入して処理

する方法等が提案されている。

図4-1 燃料ガスの実績

(出典:小森豊明他,BFG焚ガスタービンコンバイ

ンドサイクルプラント,日本ガスタービン学

会誌Vol.34 No.5,2006.9)

4.3 高炉ガス焚き発電所(3)(11)

(1) 概 要

既に何回か出てきているが,ここで改めて高

炉ガス(BFG,Blast Furnace Gas)利用に

おけるガスタービンの説明を行う。BFGは,

製鉄所の高炉から副生燃料として発生するガス

(BFG)で,可燃成分の主体は一酸化炭素で

あり,窒素および炭酸ガス等不活性成分ガスの

割合が多く,その結果単位体積当りの発熱量は,

3.0MJ/m3NとLNGの約10分の1(1/14~1

/8)と低い。また,燃焼速度は遅く,可燃範

囲が狭いという特徴もある。したがって,BF

G焚きガスタービンとしては,燃料制御システ

ム,燃料供給システム,および燃焼器などに

適設計が必要とされる。このためには,空気圧

縮機,燃焼器,およびタービンにおいてBFG

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- 17 -

天然ガス焚(標準機)

空気98%

吸気フィルター

燃料ガス母管

BFG焚

空気

吸気フィルター73%

大容量ガス圧縮機圧縮機 タービン

発電機燃焼器

排ガス量100%

排ガス

燃料量2%

燃料ガス母管

発電機

圧縮機排ガス量100%

排ガスガス冷却器

燃料量27%

翼高さの見直し

タービン

HRSG

空気バイパス弁

増速ギヤ

湿式E/PHRSG

の特性に応じた的確な機器選定と組合せが必要

とされる。図4-2に天然ガス焚き用と比較して

のBFG焚きガスタービンの構成と主要な空気,

BFG及び燃焼ガス流量バランスの概要を示す。

そのような配慮がなされて現在は,次項にて

のべるように既に国内外で多数の実績が得られ

るようになった(11)。

なお,BFGに加え発熱量が高くやはり製鉄

所から副生的に排出されるコークス炉ガス(発

熱量19MJ/m3N)を混合したガス(これを増熱

BFGと称す)にして,より燃焼の安定性を増

す場合もある。

図4-2 天然ガス焚きとBFG焚きのフローバ

ランス

(出典:小森豊明他,BFG焚ガスタービンコンバイ

ンドサイクルプラント,日本ガスタービン学

会誌Vol.34 No.5,2006.9)

(2) 導入普及状況

日本で最初のBFGガスタービンの実用機は,

1958年八幡製鉄所納入の850kW機に始まるとい

われる。しかし,本格的に開発が行われたのは,

1970年代になってからといわれる。その後ガス

タービン温度の上昇(1,000℃,1,150℃等)に

ともない,出力も10MW級,100MW級へと増大し,

1980年初頭に150MW級が実用化され,最新鋭

(例,2004年に運転開始した君津共同火力)ガ

スタービンコンバインドプラントの場合,ガス

タービン温度1,300℃級で同出力180MW(蒸気タ

ービンと合わせた複合発電総出力は,約

300MW)にも達するようになった。なお,同種

技術は,既に国内で多くの実績が得られている

が,近年海外においてもその実績・経験を生か

して製作された機器が納入されている(11)。

(3) BFG焚き用ガスタービン

先ずBFGの圧縮機について概説すると,B

FGの供給圧は高炉の運転圧力の関係から低く,

従ってガスタービンで燃焼用として利用するた

めにはガス圧縮機で圧縮する必要がある。その

ため,高炉ガス焚きガスタービンシステムでは,

ガスの圧縮と空気の圧縮と圧縮機が2台必要と

なる。一般にガス圧縮機,蒸気タービン,発電

機とガスタービン(空気圧縮含む),およびギ

図4-3 BFG焚きガスタービン構成例

(出典:特集火力発電所の熱効率向上,火力原子力発電Vol.54 No.10,2003.10,P1184)

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- 18 -

ア(変速装置)は1軸にて構成される。このた

めには,高速で大容量に対応可能な強度を持っ

たシャフトの設計が重要とされる。図4-3はそ

の構成例を示したものである(3)。

なお,個々の機器の設計に際しては,豊富な

実績を有す天然ガス焚きとの比較の基に,上記

図(図4-2)に示す流量バランスの相違に対応

して変更が加えられてきた。例えば,ガスター

ビンの出口流量を天然ガス焚きガスタービン

(標準機)とあわせた場合,BFG焚きでは,

空気量が少ない分,空気圧縮機部分の翼高さを

その量に応じてカットするなどの変更を加える

ことにより極力標準機を部分的変更により採用

する方向が取られてきた。

なお燃焼器は,開発当初はサイロ型が採用さ

れたが,ガスタービン温度の高温化に伴い燃焼

器の冷却性能の相違から,マルチキャン型燃焼

器のガスタービンヘと進んでいったメーカもあ

る(3)(11)。一方,環境特性,特にNOx特性は,高

炉ガス特有の低カロリーの燃焼特性上一般に低

NOxの達成が容易であり,一例として全負荷範

囲でNOxが1~2ppm(15%O2)以下を実証した

事例も発表されている(3)。

4.4 石炭ガス化複合発電(3)(12)(13)

(1) 石炭ガス化複合発電の狙い

石炭ガス化複合発電プラント(IGCC:

Integrated Coal Gasification Combined

Cycle Power Plant)とは,石炭をガス化させ

ることにより,高効率特性を有すコンバインド

サイクルへの適用を可能とするものである。石

炭は,LNGあるいは重油に比べ格段に埋蔵量

が多く,またその世界の産地も偏在してないこ

ともあり,石油危機当時から将来の有望発電用

燃料の一つとして位置づけられてきた。しかし,

石炭はCO2発生量が多い(単位熱量あたり天然

ガスの1.5倍),さらにSOx,ばいじん量など環

境面における燃料特有の課題を抱えており,高

効率化面と環境特性面から従来方式である微粉

炭直接燃焼方式より優れた特性を有する石炭ガ

ス化方式の開発が期待された。例えば,従来方

式の場合,現在運転中の最新鋭微粉炭火力であ

る超々臨界圧火力発電(USC:Ultra Super

Critical)においても,発電効率(送電端,

LHVベース)は42%程度である。一方,IGC

Cの場合,1,500℃級のガスタービンと組み合

わせた場合を想定すると,同効率は48~50%が

実現可能とされる。このように,石炭を使いな

がら高い発電効率が可能となることは,その分

燃料節減およびCO2低減がはかれ,さらにガス

化方式の種類にもよるが,石炭灰が溶融スラグ

状でとりだせるため,灰の容積面あるいは環境

面でも優れた可能性を秘めている。

また,将来CO2隔離方式が普及すると,従来

型微粉炭火力の燃焼排ガス中よりCO2を回収す

る場合に比べ,IGCCの場合(ガス化ガスか

ら)の回収は,加圧状態である,処理ガス量が

小さい,CO2濃度が高い等の理由からCO2除去に

際しての所要動力が小さく,また経済的にも有

利と考えられている。

(2) 開発状況(12)(13)

先ず海外の開発状況を述べる。上述のように

石油危機を契機として,欧米において各種形式

炉(噴流床,流動床,固定床等)の開発が進め

られた。それらの中で現在,実用化に至った炉

はほとんどが噴流床方式であり,今や数箇所に

おいて300MW級IGCCが商用機として運転さ

れている。ただし,これらのプラントは,高効

率化を余り重視してないためか,その効率は余

り高くなく,また天然ガスを補助燃料として利

用しているにもかかわらず,その運転による利

用率は約60~80%にとどまっている。最近,石

油価格の高騰もさることながら,天然ガス価格

も上昇する傾向を反映し,石炭火力が再び注目

されてきているが,その中でIGCCが高効率

と環境の面から注目されてきている。その規模

も,600MW以上の大型火力発電所として,2010

年頃の運転開始を目指した計画が進められてい

る。

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わが国では,商用化前の実証試験プラントに

よる最終確認段階にきている。同実証試験プラ

ント(IGCC実証プラント)としては,(株)

クリーンコールパワー研究所(電力会社の共同

による設立会社)が,国および電力会社等(9

電力会社,電力中央研究所および電源開発)の

支援・協力を受けて国家プロジェクトとして,

現在発電出力250MW規模のプラントを建設中で

あり,2007年秋から試験が開始される予定とな

っている。なお,石炭をガス化する場合,上述

のように海外の商用規模IGCCはほとんど酸

素を使用しているが,その方がガス化反応自体

は容易であるという特徴を有す一方,機器構成

がやや複雑となることおよび酸素製造に要する

動力が大きくなるという課題を抱える。上記I

GCC実証プラントのガス化炉は,ガス化剤を

空気とし,さらに微粉炭を乾式(水スラリーな

ど流体化せず)加圧供給することにより,高効

率化を狙ったものである。これは,電力中央研

究所と三菱重工業が,1982年度から共同研究に

て開発した,石炭処理量2t/日規模の空気吹

き・加圧ガス化技術が基となり,さらにその次

段階である国家プロジェクトによる200t/日

規模パイロットプラントによる運転研究(1986

~1996年度)を受けて,設計・建設が進められ

ているものである(13)。なお,IGCC実証プ

ラントでは,実証機のためガスタービン温度は

1,250℃が採用されているため,発電効率(送

電端,LHVベース)は42%の計画値となってい

る。これでも,上述のように最新鋭超々臨界圧

石炭火力とほぼ同等のレベルである。IGCC

実証機の概要と完成予想図をそれぞれ,表4-1

および図4-4に示す(12)。

なお,わが国の発電用石炭ガス化としては,

この他さらに高効率を狙った将来の方式として

石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の研

究開発も行われている。石炭ガス化炉からの精

製ガスを燃料電池に投入し直接発電を行うとと

もに,その後流にガスタービンと蒸気タービン

を置き熱回収向上を図り,これにより例えば発

表4-1 IGCC実証機の概要

(出典:太田一広,石炭ガス化複合発電,日本ガスタ

ービン学会誌Vol.34, No.5, 2006,9)

図4-4 IGCC完成予想図

(出典:太田一広,石炭ガス化複合発電,日本ガスタ

ービン学会誌Vol.34, No.5, 2006,9)

電効率(送電端,LHV基準)で55%以上が予想

されている。また,同IGFC用の要素技術と

して多目的石炭ガス化製造技術(EAGLE)

の技術開発が,国およびNEDOの補助を受け

て,電源開発(株)が実施者となり,石炭処理量

150t/日規模にて研究開発が進められている

(1995年~2006年)。

(3) IGCC用ガスタービン

次にIGCCにおけるガスタービンについて

述べると,(空気吹き)石炭ガス化ガスの発熱

量は,LNGに比べ,約10分の1と低く,高炉

ガス(BFG)に比べ約1割高い程度のいわゆ

る低カロリーガスである。またアルカリ金属と

ばいじん含有量は一般に多い。ただし,発熱量

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は低いが,BFGに比べ(またLNGに比べて

も),水素分が多いため可燃範囲が広く,燃焼

の安定性はBFGの場合より得やすい。石炭ガ

ス化ガス(空気吹き)の組成例をLNGおよび

高炉ガスとの対比において表4-2に示す(12)。

この比較からも把握できるように石炭ガス化ガ

ス用ガスタービンとしては,既に多くの実績が

あるBFGガスの経験を有効に活用できる。な

お,燃料性状と環境特性の観点から述べると,

低カロリーであるために,燃焼温度が低く(理

論断熱火炎温度で約1,700℃。これは天然ガス

の場合の約2,200℃に比べ約500℃低い),低

NOx燃焼が比較的容易であるという特徴を有す。

一方,石炭ガス化の生成ガス中には,一般にア

ンモニア成分が含まれるが,ガス精製方式で十

分除去できない時には,ガスタービン燃焼器で

のフュエルNOx低減対策技術がNOx対策上重要と

なるといわれる(14)。

表4-2 ガスタービン燃料ガス性状例

(出典:太田一広,石炭ガス化複合発電,日本ガスタ

ービン学会誌Vol.34, No.5, 2006,9)

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- 21 -

5 ガスタービンの

開発課題と動向(3)(9)(10)(15)

5.1 概 要

先のガスタービンの開発の歴史の概要に触れ

たように,近年特に石油代替エネルギーとして

のガス燃料(主にLNG)の利用が急速に進展

する中で,LNG利用火力発電設備としては,

今やガスタービン技術を中心としたコンバイン

ドプラントが主流となってきた。その主な理由

は,ガスタービン温度の高温化に伴い発電効率

が飛躍的に上昇してきたことがあげられる。も

ちろん,それ以外にも,急速起動・停止が容易,

負荷変化が容易,建設費が安い,建設期間が短

いなどの理由もあげられよう。しかし一方では,

その発展特に高温化発展の背景には,さまざま

な技術課題が発生した。それらの課題は関係者

の努力,協力の結集により,着実に解決,ある

いは実証試験等で検証され,発電用機器として

信頼するに耐える技術として構築されてきた。

しかし,それらの中には,更なる高効率化ある

いは高温部品の長寿命化など今なお開発中の技

術課題もある。

そこで本章では,それらの変遷の中で主要技

術がどのような課題を抱え,開発されてきたか,

さらに現在および将来の取組みの概要を述べる。

5.2 冷却技術の変遷(3)

効率向上に も大きな影響を及ぼすのが燃焼

ガス温度(燃焼器出口ガス温度)で,その上昇

の第1の背景として冷却技術の向上があげられ

る。図5-1(3)に過去の空冷技術の推移を冷却効

率で示す。(注,冷却効率の定義,基礎となる

冷却方法と冷却効率の関係は,前述図3-8参照

されたし。)

なお実際適用される冷却方法は,ガスタービ

ンメーカそれぞれの思想と技術により異なるも

のであるが,ここでは 近一般的に見られる冷

却技術の傾向を示す。

① 静翼:内面に冷却空気を衝突させて冷却効

果を上げたインピンジメント冷却,

対流冷却及びフィルム冷却の組合わ

せ。

② 動翼(内部):数多く折り返した空気通路の

中を対流冷却させる方式(リターン

フロー)とフィルム冷却の組み合わ

せ。

③ 動翼(前縁部): も厳しいところであり,

シャワーヘッドと呼ばれる冷却空気

を噴出させる。さらにフィルム冷却

穴には,フィルムの効果を高めたシ

ェイプトホールを採用する。

なお,これらの複雑な冷却構造は,主として

航空エンジンの技術から派生しているが,本格

図5-1 タービン空気冷却技術の推移

(出典:特集火力発電所の熱効率向上,火力原子力発電Vol.54 No.10,2003.10,P1178)

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- 22 -

的に大型の発電用ガスタービンに適用できるよ

うになったのは,精密鋳造技術の進歩によると

ころが大きいといわれる。

5.3 耐熱材料技術の変遷(3)

耐熱材料の進歩も高温化の進歩には欠かせな

い技術要素である。

一般に耐熱合金といえば,Fe基,Co基,Ni基

のどれを主成分とするかで,その耐熱性,耐腐

食性に相違があるが,ガスタービンに関しては,

現在ではNi基が中心となって,AlやTiなどを添

加した超耐熱合金を精密鋳造で製造する方法が

一般的である。また,鋳造方法に工夫を凝らし

て(結晶制御を行うことにより)一方向凝固,

あるいは単結晶の材料が得られるが,こうする

ことによりクリープ強度,熱疲労強度が普通の

鋳造に比べ大幅に上昇するため単に材料の選択

のみでなくこれらの結晶構造の採用もあわせて

考慮されている。これらは,特にタービンの前

方段動翼に採用されることが多い。さらなる耐

高温化材料として酸化物分散強化型合金が挙げ

られている。これは,酸化イットリウム

(Y2O3)などの酸化物を微細化し,材料に分散

して強度を高めたものであり,Ni基合金よりさ

らに高温特性が優れるといわれる。ただし,微

細素材を均一に材料中に混入することの技術的

な難易もあって,複雑な冷却空隙空気通路を有

す部材には(製造上の制約から)適用困難とい

われるが,静止部への適用が期待される。さら

に将来材料としては,金属間化合物,非金属系

のセラミック材(Ceramic Matrix Composite,

CMC),カーボンカーボン材(Carbon-

Carbon Composite)の適用が検討されている。

図5-2に,耐熱材料の耐用温度の推移を示す。

次に,遮熱コーティング(Thermal Barrier

Coating,TBC)は,耐熱材料とともに高温

化の材料面の重要対策としてあげられる。TB

Cは,ガス温度が上昇してもその熱遮蔽効果に

よりメタル自体の温度上昇が抑えられるもので

ある。その効果の概念を図5-3に示す。その適

図5-2 耐熱材料の耐用温度の推移

(出典:特集火力発電所の熱効率向上,火力原子力発

電Vol.54 No.10,2003.10,P1179)

図5-3 遮熱コーティングの構造模式図と温度

低減効果

(出典:特集火力発電所の熱効率向上,火力原子力発

電Vol.54 No.10,2003.10,P1180)

用に際しては,従来の燃焼器ライナーから,最

近ではタービン前翼への適用が進んでいる。

5.4 ガスタービンの主要構成要素技術の課題

と動向(3)

高効率化の一つの要因として,主要構成機器

の効率向上も挙げられる。ここでは,圧縮器,

タービンおよび燃焼器を取り上げ説明する。圧

縮器およびタービンの効率についても近年改良

Page 27: ガスタービン技術- 2 - 1 ガスタービン開発の歴史と最近の状況 1.1 開発の歴史(2)(3) ガスタービンの開発歴史を見ると,航空用に おいては,イギリスとドイツでほぼ時を同じく

- 23 -

がなされ, 近では両機器とも,その効率は,

90%のレベルには到達しているといわれるが,

更なる改良・改善が行われている。次にその概

要を示す。

1)空気圧縮機

ガスタービンの高温化に伴い,燃焼温度とと

もに燃焼圧力,すなわち圧縮比も上昇し,また

大容量化(高負荷化)も求められる傾向にあり,

したがって空気圧縮機の性能向上への期待は大

きい。その性能向上の方向性は,入口流速増大

と同一回転数における圧縮処理量の増大を狙っ

たものである。そのための具体的な対策はメー

カにより異なるが,方向性としては, 新の流

れ解析手法を利用して(例,従来の2次元流れ

解析から3次元流れ解析手法の採用)翼形状,

段数,あるいは,翼の制御方法(静止翼か可変

翼か等)による解析が用いられている。なお,

新鋭の(1,500℃級)ガスタービンの圧縮比

は約25前後と各メーカともほぼ似たようなレベ

ルであるが,圧縮器の段数は,15~18段とメー

カにより異なる値が採用されている。

2)タービン

近の大容量ガスタービンは負荷変動対応形と

なっているが,その段数は,ほとんどのメーカ

が高負荷・高性能の3段または4段軸流形を採

用している。タービン翼形も,圧縮器同様,従

来機種(例,1,100℃級ガスタービン)の2次

元設計から,1,300℃級ガスタービンでは3次

元設計,さらに1,500℃級では翼型を半径方向

に曲線的に重ね合わせたいわゆる完全3次元設

計といわれる翼型を採用し,より流れが円滑で

流損失の発生が少ない形状へと発展した設計が

なされている。さらに,起動時などの熱伸びに

対する制御(例,動翼チップ部クリアランス制

御)など,高温化に伴うタービン翼等の挙動に

対して運転制御面からも各社各自の 新技術に

よる工夫が凝らされている。

3)燃焼器

燃焼器では,高温化に伴い低NOx化と冷却技

術に対する工夫が必要である。高温化になるに

従い,いわゆるサーマルNOxの発生が増加する

のでその対策が求められる。一般に,方向性と

しては予混合燃焼と拡散燃焼との組合せが中心

となっているが,実際は各社各様の方法が採用

されている。燃焼器の冷却方法も各社各様の工

夫が凝らされているが,ここでは一例として蒸

気を冷却用として使用しながら,使用後の高温

蒸気を蒸気タービンで有効に活用し,耐久性と

発電効率向上を狙った方式も出現してきている

ので,その概念を図5-4に示す(3)。

図5-4 燃焼器技術変遷の例(1,300℃から1,500℃へ)

(出典:特集火力発電所の熱効率向上,火力原子力発電Vol.54 No.10,2003.10,P1184)

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6 ガスタービンと

運転・保守(8)(16)(17)(18)(19)

6.1 ガスタービンの運転特性概要(8)

(1) 起動特性と負荷変化特性

コンバインドサイクルの一つの特徴が,運転

特性が良好なことを前にあげた。それは,ボイ

ラに代表される大きな重量物を抱えた従来方式

の発電方式と比較しても,比較的小さなサイズ

で大きな出力を出すガスタービン発電方式の起

動・負荷変化における優れた特性は容易に理解

されるところであろう。一例として起動時間は,

70~100分,負荷変化の追従性は,毎分5%程

度が十分達成されている。もちろんその間の着

火,負荷上昇等の全ての制御は自動にて行われ

る。また,性能面に関しても部分負荷性能(効

率)は,ガスタービン台数の運転を順次消火す

る台数制御により,極めて低い部分負荷(例え

ば,25%前後)でも,かなりの高効率運転が可

能である点も負荷変化特性の一つの特徴として

挙げられている。

この特性のゆえに,コンバインドサイクルは,

ミドル負荷あるいはピーク負荷に適した火力発

電方式といわれ,ベース電源としての原子力発

電あるいは準ベース電源とされる石炭火力では

対応困難な負荷追随性の要求に応える役割を担

っているものであり,実際の運転結果も十分そ

の期待に応えてきている。

図6-1に負荷の大きさと効率の関係を示す。

なお,同図の特性は,ガスタービンと蒸気ター

ビンの構成により異なる特性を有す。

(2) ガスタービンと蒸気タービンの構成例

前項で起動特性がガスタービンと蒸気タービ

ンの構成により異なると記したが,ここで同構

成上代表的な組合せとして,一軸形および多軸

形につき概略説明を行う。図6-2に両構成例を

示す。

一軸形は,ガスタービン,蒸気タービンと発

電機が同一軸上に配列されたものである。一般

図6-1 ユニット総合発電効率特性例

(1軸形GT3台構成の場合)

(出典:火力発電総論「12.ガスタービンコンバイン

ドサイクルの計画・運転・保守」,オーム

社,2002年)

図6-2 ユニット総合発電効率特性例(1軸形GT3台構成の場合)

(出典:火力発電総論「12.ガスタービンコンバインドサイクルの計画・運転・保守」,オーム社,2002年)

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- 25 -

にこれを複数組み合わせたものとして運用され

る。各軸が独立しているため,軸単位で起動停

止が可能で,したがって部分負荷特性が良好,

頻繁な起動停止に適しているとも言われる。な

お,上記の一軸上に配列された発電設備をユニ

ットと称し,さらに複数ユニットで構成される

1つの発電プラントを系列と称している。

一方,複数のガスタービンに対し,一つの蒸

気タービンと発電機から構成される配置を多軸

形と称している。一軸形に比べ蒸気タービンの

容量が大きいので,蒸気タービン効率も高くな

り,したがって比較的大きな負荷による運転時

間が多い,ベースロード的な運用に適している

といわれる。この場合も,ユニットと系列の呼

称は,上記と同様である。

6.2 保守の概要(16)

(1) 概 要

ガスタービンの高温部品は,高温,高圧,あ

るいは条件によっては腐食性ガス雰囲気等も重

なり,非常に厳しい環境にさらされており,一

般に運転時間の経過とともに,劣化,損傷,あ

るいはそのまま放って置けば 終的には(部材

により定まる)寿命が尽きることになる。そこ

で運転・保守要領(システム)の作成とそれに

もとづく点検・補修あるいは寿命管理が重要と

なる。一般に,高温部品には点検・補修で間に

合わず,部材そのものを交換する期間(交換寿

命)が定められている。したがって,高温部品

の運転・保守要領で重要なことは,材料の劣化,

損傷程度を検知・評価,寿命診断を行い,必要

に応じ補修,取替えるいわゆるメンテナンス技

術を確立することである。しかも,その要領は,

プラントごとの個々の条件で異なり,また常に

改良開発を求められるものである。とりわけ,

高温部品は,金額的に高価なものが多くその取

替え頻度は,プラントの経済性を大きく左右す

る場合もある。したがって高温部品の安全性確

保を前提としての延命化(寿命延伸技術)は,

とりわけ大きな課題である。それは,機器メー

カのみでは作成できない,長い運転経験を生か

したユーザの工夫も織り込まれ,それぞれのプ

ラントの独自状況,特性に応じた固有の要素を

織り込んで纏め上げられるものである。そこで,

本章では,全般的に高温部品の損傷技術全般の

紹介と補修・寿命延伸技術の概要を文献で発表

された範囲において述べる。高温部品の代表で

ある燃焼器,タービン(動翼,静翼)等の具体

的な高温部品の保守要領については,文献等を

参照いただくものとしてここでは省略する。

(2) 高温部品の損傷技術全般(16)

ここで扱うガスタービンの高温部として,燃

焼器,ガスタービン静翼,動翼の3箇所を主な

対象として取り上げる。それらの代表的な劣

化・損傷状況の一例を図6-3に示す。概説する

と,それらの高温部品の使用条件は非常に厳し

いため,劣化・損傷は必然的に発生するものと

はいえ,その種類と程度は,個々の条件に応じ

てさまざまであり,たとえ同じ場所に同じ機種

を設置した場合でもその発生状況は異なる。従

って,各機械,装置ごとの対応が求められると

いっても過言ではない。本来,引き続いてそれ

らの各高温部品ごとの,保守要領の説明が,続

くことになるが,本書では紙面の関係から省略

する。詳細は,関係資料(例えば,参考文献

(16),(17))参照されたい。

(3) 補修・寿命延伸技術の概要(16)(17)

ガスタービンの高温部品は,上述のようにそ

れぞれ場所に応じて損傷の原因があり,またそ

の損傷発生の頻度と損傷の形態が異なる。そこ

で,各部材の損傷状況,特性を踏まえた対策を

とることが必要である。紙面の関係からここで

もその詳細は省略するが,補修・寿命延伸の概

要を把握する意味から 近のガスタービン高温

部の補修方法と補修技術の例を表6-1に示す

(16)。

なお,実際の部品,部材の交換においては,

メーカ各自に推奨する時期が提案されている。

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表6-1 高温部品の損傷と補修技術

(出典:石井潤治,ガスタービンの 新補修・寿命延伸技

術,火力原子力発電Vol.53 No.7,2002.7,P810)

これらの保守管理に関するユーザ,メーカ等関

係者の努力によって過酷な条件下にさらされる

ガスタービンの各部,各部材が健全に保たれ,

ひいてはコンバインドプラントの信頼性向上に

結びついてきているといえよう。

ガスタービンの高温部品推奨点検(取替えで

はない)間隔の一例を表6-2に示す(17)。

(4) 具体的運転保守の事例(19)(18)

具体的な運転保守要領として既に10万時間を

表6-2 ガスタービンの高温部品推奨点検間隔

(出典:入門講座「発電設備の予防保全と余寿命診断

技術-Ⅱ火力発電設備の予防保全と余寿命診

断技術」,火力原子力発電Vol.51 No.11,

2000.11,P1596)

超えて順調に運転が行われている発電プラント

の事例から,その概要を次のとおり紹介する。

① ガスタービンの開放点検を2年おき,燃焼

器点検をその中間年に(やはり2年おきに)

実施し,累積運転時間が5万時間を超えた時

点に,ガスタービンロータの特別点検も実施

図6-3 高温部品の劣化・損傷状況

(出典:石井潤治,ガスタービンの 新補修・寿命延伸技術,火力原子力発電Vol.53 No.7,2002.7,P807)

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し,それとともに未点検場所を極力無くし,

トラブル発生の防止を図る。

② さらに,高温部材に対しては,実運用時の

燃焼ガス雰囲気の変動,冷却効果の変化,あ

るいは材料自体の組織上の変化等いかなる条

件下でも事故等につながらぬよう利用側独自

の工夫による監視が行われている。例えば,

次のような点からの配慮である。

・軽微な欠陥(磨耗,亀裂,酸化,変形等)

に対するきめ細かな管理。

・一方,部品点数が多く,管理が困難である

ことへの対処。

・高温部品は効果であるため,運用コストを

小化する寿命評価と寿命を全うさせる運

用。

③ 保守・管理のシステム化

それらの,運用管理は従来手作業で行われて

いたが,設備の経年化に伴いその管理はより煩

雑,複雑化し,多大な労力を要する結果となっ

ていたので,発電所側はメーカとの共同で高温

部品の保守管理を一元化した「高温部品管理シ

ステム」(例,「高温部品管理支援システム」,

「高温部品管理倉庫」および「高温部品検査

所」の3システムから構成)を開発した。さら

に同システムは同発電所でその後追加として建

設された 新鋭コンバインドプラントの運転開

始とともに完成度を増し,その結果機械による

精度の高い検査や自動化された倉庫による入出

力の効率化,およびシステムによる履歴管理な

ど高度な管理が可能となった。

図6-4に,高温部品管理システムのフロー図

の一例を示す(19)。

以上から全体的にいえることは,近年建設さ

れるようになった大型コンバインドプラントは,

ほとんどが予定通りの運転および機能・性能を

発揮しており,その結果同技術に対する評価の

確立に資するところとなっていると判断される。

図6-4 高温部品管理システムフロー図

(出典:菅原道雄他,東新潟火力3,4号系列の運転・保守実績,日本ガスタービン学会誌Vol.29 No.1,2001.1)

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7 国内代表メーカの

技術概要とその取り組み(7)(20)

7.1 概 要

第1章で世界のガスタービンの開発歴史の概

要について述べたが,ここではわが国における

取組み,開発,実機適用に関する歩みの概要を

述べる。

わが国は,戦中および敗戦による産業停滞の

中でガスタービンに関しても欧米の技術開発の

流れから大きな遅れを取った。

そのような中でわが国のガスタービン開発上

記念すべきものとして,1948年(昭和23年)に

鉄道技術研究所が製造した2,000kWがあげられ

るが,それは大戦中に高速艇のエンジン用とし

て開発着手されたものが,戦後に完成したもの

であり,また研究用としての域を出ないもので

あった(2)。しかし,昭和30年ごろになると,欧

米におけるガスタービンの技術進展とその応用,

とりわけ発電用としての適用が国内でも注目さ

れるようになった。ただし,大半は非常用ある

いはピーク用としてのもので,その形式もガス

タービン単体(オープンサイクル)で,連続運

転を目指した発電用コンバインドサイクルとし

ての適用までにはいたらなかった。しかし,

1980年(昭和55年)ごろからガスタービンの単

機容量(出力)の増大,信頼性の向上などもあ

いまって,コンバインドサイクルとしての適用

が行われるようになった。

以降,例えば産業用としてはJR東日本(当

時国鉄)川崎向け144MW(1981年運開)さらに

事業用としては,東北電力東新潟3号系列

1,090MW(1984年運開)あるいは東京電力富津

火力1,2号系列1,000MW(1985年,1988年運

開)等の運転成功を契機として,今日見られる

ようなコンバインドプラント導入が相次ぐこと

になったことは,第1章でも述べたところであ

る。

さて,これらの設備の設計・製作に関する日

本のメーカの対応であるが,当初これらの設計

製作は,海外メーカからの技術提携よるもので

あったが,その後国内メーカの技術力向上に伴

い,近年では自主技術で開発および実機製作を

行うメーカも出てきた。ここでは,大容量ガス

タービンを手がける国内メーカ数社につきその

ガスタービンの特徴と取組状況を五十音順にて

紹介する。紹介するのは,「川崎重工業-アル

ストーム型」,「日立/東芝-GE型」,「富

士-シーメンス型」,および「三菱重工業型」

であるが,その内容は2004年11月発表(7)(対象

によっては2002年10月発表(20))の文献ベース

によるものである。

7.2 「川崎重工業-アルストーム型」(7)(20)

川崎重工業は,アルストーム社との技術契約

により,大型を含むガスタービンの設計,製作

を行っている。したがって同ガスタービンは,

アルストーム社(Alstom)が開発した技術を基

にしているが,ガスタービンの基本構造として,

先ずロータは溶接製,燃焼器はアニュラー型に

加え,高環境適合形バーナ(EVバーナ)を採

用したものである。また,近年の高温化と高効

率化対策としてタービン入口温度の上昇ととも

に二段燃焼再熱方式を採用している。その初号

機(GT24)は,アメリカのギルバート発電所

に納入(運転開始1995年)され,以降その相似

設計による大型機種(GT26)とともに,多く

の実績が得られて来ている。図7-1に川重-ア

図7-1 川重-アルストーム型ガスタービン

GT24/26断面図

(出典:加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.

複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発電Vol.53

No.10,2002.10,P1254)

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ルストーム形ガスタービンの断面図を,表7-1

に基本性能例を示す(20)。

表7-1 川重-アルストーム型ガスタービンの

基本性能例

(出典:加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.

複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発

電Vol.53 No.10,2002.10,P1254)

なお,アルストーム社の二段燃焼再熱方式の

実機適用は,1940年代から1970年代にかけて20

数台納入しているが,上記形式(GT26)から

はじめてアニュラ方式が採用されている。

以上を含め同社方式の構造上の特徴を整理す

ると次の通りである(20)。

1)二段燃焼再熱方式を採用。

2)ガスタービンの出力軸は,低温軸(コール

ドエンドドライブ),排気は軸流排気とした。

3)圧縮機は22段の軸流圧縮(圧縮比は30)を

採用。入口3段の静翼を可変ピッチ方式とし

て吸気流量の60%までを自由に変更可能とし

た。これにより,ガスタービン負荷40%程度

までの部分負荷効率とともに,ガスタービン

排出NOx濃度の改善も図っている。

4)2段の燃焼器の内,高圧燃焼器は,30個の

アニュラー型燃焼器(EVバーナ)を用いて

予混合燃焼を行い,NOx低減を図っている。

また,低圧燃焼器は,24個の同様なアニュラ

ー型燃焼器(SEVバーナ)を用いて,高温

燃焼器排ガスおよび高温空気(1,000℃級)

利用の低NOx燃焼を行う。

5)タービンは,高圧および低圧とも空気冷却

と適切な材料選定を行い信頼性を確保してい

る。

例えば,高圧タービンの静翼,動翼とも1段

目は,シャワーヘッド冷却,対流冷却,および

インピンジメント冷却を採用し,材料は,静翼

は1方向凝固翼(DS材)とセラミックコーテ

ィング(TBC)の組合せ,動翼は単結晶翼

(SC材)の使用などである。

7.3 日立/東芝-GE型(7)(20)

GE社技術の場合,特に冷却技術は航空機用

エンジンの経験が生かされている。同形式の最

新鋭形式は,1,100℃級ガスタービンをベース

として高温化および出力増加を狙った設計で,

高温部品の耐熱合金の開発,新冷却技術の採用

が基本となっている。国内では既に同方式によ

る1,100℃級のガスタービンを使ったコンバイ

ンドプラントの多くの実績(総出力5,040MW)

(20)を踏まえ,その後1,300℃級採用によるコン

バインドプラントもかなりの数が建設され,順

調に運転(総出力約17,000MW)(20)がなされて

いる。さらに,1,500℃級採用ガスタービンの

計画も行われている。

本形式によるガスタービンの特徴として次の

点が挙げられている(7)。

1)ガスタービンの出力軸は,熱伸びの少ない

圧縮機側の軸端とし,排気側は排気損失が少

ない点で有利な軸流排気,またボイラは横置

き自然循環型を採用している。

2)圧縮機翼列は,高温度適用の場合も,

1,100℃級ガスタービン圧縮機のスケールア

ップであるが,高温化に際しては出力増に伴

う入口部の拡大,圧縮機段数の増加(例,18

段)で対応している。

3)タービンは,軸流3段の動静翼から構成さ

れる。静翼では1~3段が冷却翼,動翼では

1~2段が冷却翼,3段は無冷却翼となって

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いる。なお,冷却に伴う翼構造および材料選

定に特別の配慮がなされている。

例えば,静翼(第1段)は,精密鋳造で内部

はインピンジメント冷却,翼前面はシャワーヘ

ッド冷却,翼面はフィルム冷却等であり,また

材料は,熱疲労に優れたCo基超合金(FSX-

414)を採用している。また,動翼(第1段)

には,内部冷却にリターンフロー,材料にNi基

超合金(GTD-111)使用の一方向凝固翼を

採用している。それと同時に,タービン第1,

2段動翼には翼表面および翼内部に遮熱コーテ

ィングが施している等である。

燃焼器は,希薄予混合燃焼方式によるドライ

低NOx燃焼器を採用し,高温燃焼(温度上昇に

よる容量増加)に対応して,燃焼器本数を増加

している(7)。

図7-2に,GE-9E型(1,100℃級)ガス

タービン,図7-3にGE-9H型(1,500℃

級)ガスタービンの断面図を示す(20)。(注,

なおGE系では,FあるいはFA型と称して

1,300℃級ガスタービンが実用化されているが,

ここでは紙面の都合上省略する。)

同形式の基本性能例(50HZ用)を表7-2に示

す。

7.4 富士-シーメンス型(7)(20)

シーメンス社(ドイツ)は,大戦後から電力

用に特化したガスタービンの開発を行った。そ

の基礎となったのが航空機エンジンであり,ガ

スタービン本体構造はその思想(V型ガスター

ビンと称す)を継承し,さらに,圧縮機とター

ビン翼列には,プラット・アンド・ホイットニ

ー社(Pratt & Whitney,PWA)社の航空機

エンジンからの技術導入による技術が組み合わ

されている。図7-4に典型的なV型ガスタービ

ンの断面図を示す(7)。1,300℃級として,VX

4.3型(初号機1990年運開),1,400℃級として

VX4.3A型が開発されている。次に,富士-

シーメンス型の特徴を概説する。

図7-2 GE-9E型1,100℃級ガスタービン

断面図

(出典:加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.

複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発

電Vol.53 No.10,2002.10,P1251)

図7-3 GE-9H型1,500℃級ガスタービン

断面図

(出典:加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.

複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発

電Vol.53 No.10,2002.10,P1251)

表7-2 GE型ガスタービンの基本性能例

(50HZ)

形 式 MS9001E MS9001FA MS9001H

発 電 端 出 力 (kW) 116,900 255,600 490,000※

発 電 端 効 率 (%LHV) 32 36.9 60※

排 ガ ス 温 度 (℃) 529 602 -

圧 力 比 12.1 17 23.2

空 気 流 量 (kg/s) 401 627 686

圧 縮 機 (段数) 17 18 18

タ ー ビ ン (段数) 3 3 4

燃 焼 器 (個数) 14 18 14

(注)※の出力および効率はコンバインドサイクルでの値を示す。

(出典:文献(20)をもとにGas Turbine World 2006

Handbook他を参考に修正)

1)タービン全体の基本構造は,V型ガスター

ビンの思想にもとづき,2軸受け支持方式,

水平2分割ケーシング,タービンは軸流排気

方式が採用されている。

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図7-4 富士-シーメンスV型ガスタービン

(V84.3/V94.3)の断面図

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」

Ⅳ.ガスタービンの性能と構造,火力原子力

発電Vol.55 No.11,2004.11,P1250)

2)燃焼器は,ハイブリッド(HBR)型燃焼

器と称し,24個のバーナをアニュラー形大型

燃焼室の円周上に配置した形式を採用。気体

および液体燃料にも対応可能で,低負荷領域

では拡散燃焼,高負荷領域では予混合燃焼運

転として切り替え使用される。同燃焼器の例

を図7-5に示す。

図7-5 HBR燃焼室外形図

(出典:入門講座「タービン・発電機及び熱交換器」

Ⅳ.ガスタービンの性能と構造,火力原子力

発電Vol.55 No.11,2004.11,P1251)

3)タービンは,4段で構成されている。冷却

は,第4段以外は空冷翼であり,それぞれの

部分に応じた冷却方式と材料が採用されてい

る。例えば,第1段静翼の冷却は,対流,イ

ンピンジメント・フィルム冷却の組合せ,第

1段動翼は,リターンフロー式対流・フィル

ム冷却の組合せである。また材料面では,第

1,2段動翼にはNi基合金の単結晶翼(SC

翼),第1~3段動静翼には遮蔽コーティン

グ(TBC)を採用しているなどである。

7.5 三菱重工型(20)(7)

戦後,三菱重工業は米国のウエスチング社

(Westinghouse)との技術提携により,設計・

製作していたが,その後同社との契約を終結し,

現在は自社技術により,開発,設計・製作を行

っている。前述の国内事業用の初号機となる東

新潟3号系列の1,150℃級ガスタービン(D

型)の製作に引き続き,1,350℃級(F型),

さらに回収型蒸気冷却燃焼を特徴とした

1,500℃級(G型)ガスタービンを開発してい

る。三菱の設計は,D型が基本となって後継機

へ踏襲されている。G型ガスタービン(M501

G)の基本構造と 新技術を図7-6に示す(20)。

その特徴は,

1)ガスタービン本体構造としては,まずロー

タは2軸受け支持構造としている。さらにロ

ータは組立てディスク式が採用され,圧縮機

側はディスクをボルト結合,タービン側は,

カービックカップリングと称される歯継手を

使っている。また,車室は水平2分割方式で,

組立て保守が容易な構造となっている。

2)圧縮機は,大容量化に伴う大風量,高圧,

高効率化に対応するため,空力学的面からの

適正形状の検討(例,多重円弧翼,拡散制御

翼等),および起動時の旋回失速,サージン

グ防止のため中間段での抽気導入,可変式の

入口案内翼を採用している。

3)燃焼器は,マルチキャン形ドライ低NOx燃

焼器を採用。中心に配したパイロットノズル

の周囲にメインノズル(G型で8個)を配し,

予混合火炎の安定燃焼を図っている。冷却方

式は,空気冷却を基本とするが,1,500℃級

の高温化になると同燃焼温度の向上と同時に

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低NOx化を達成するため回収式蒸気冷却方式

を採用している(前述図5-4参照)。なお冷

却で蒸気が得た熱量は,蒸気サイクル側に回

収され,プラント全体の熱効率向上へ組み込

まれている。

4)タービンは,4段軸流方式である。高温部

の冷却方式は,第1段静翼が,インピンジメ

ント冷却とフイルム冷却,また第1段動翼に

は,リターンフロー冷却方式が採用されてい

る。材料は,第1段静翼は,Ni基超合金の精

密鋳造製であり,第2~4段の静翼も精密鋳

造であるが,材質とセグメント数を変えてい

る。動翼は,全段を精密鋳造翼で構成し,特

に1,2段動翼は,一方向凝固翼を採用して

いる。

表7-3に,三菱ガスタービンの基本性能例を

示す。

図7-6 M501Gガスタービン

(出典:佃 嘉章他,東新潟4号系列1,450℃級ガスタービン複合発電設備の運転実績,火力原子力発電

Vol.51 No.6,2000.6,P686)

表7-3 三菱ガスタービンの基本性能例

(出典:加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発電

Vol.53 No.10,2002.10,P1260)

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8 ガスタービンの

将来展望(10)(21)(22)(23)(24)

8.1 概 要

一昔前は,「果たして1,500℃のガスタービ

ンが実現するだろうか」という言葉が聞かれた

由であるが,現在は同温度レベルのガスタービ

ンが既に商業運転されるまでになった。 近の

ガスタービンの技術進展はこのように顕著なも

のが見られる。

ガスタービンに関連した更なる将来の方向と

しては,ガスタービン自体の高温化を狙う「超

高温ガスタービン(例,1,700℃級ガスタービ

ン)」,ガスタービンに関連した「新システム

(例,AHATサイクル,燃料電池-GT組合

せサイクル)」,将来水素時代が訪れた時に想

定される方式として「水素燃焼タービン」,等

があげられよう(22)(23)。ここでは,その中から

ガスタービン技術そのものの将来展望に関連し

て現在経済産業省(資源エネルギー庁)の補助

事業にて研究開発が行われている「超高温ガス

タービン」および「AHATサイクル」に関連

した研究開発動向を中心として紹介する。

同プロジェクトは,経済産業省(資源エネル

ギー庁)の「平成16年度エネルギー使用合理化

技術開発費補助金-高効率ガスタービン実用化

要素技術開発事業」に対応したもので,2004年

度から4年計画の研究開発プロジェクトである。

その主要テーマは,「1,700℃級ガスタービン

要素技術開発」と「高湿分空気利用ガスタービ

ン(AHAT)」の2テーマから成っている。

なお前者は,大容量機(例えば,ガスタービン

単体25万kW程度,コンバインド出力40万kW程

度),後者は中小容量機(10万kW程度)の高効

率プラントを狙いとしたものである。

なお,実施担当は,前者は三菱重工業,後者

は日立製作所,電力中央研究所および住友精密

工業を主体メンバーとして推進されている。

8.2 超高温(1,700℃級)ガスタービン(10)

(1) 超高温ガスタービンの狙い

ガスタービンを高温化すると,冷却用空気量

の増大,(サーマル)NOx発生量の増加等があ

るため,効率面および経済性面でも頭打ちにな

ることが予想される。その限界がどこにあるの

かは,種々議論されるところであるが,少なく

とも1,700℃級ガスタービンまでは効率面の上

昇が期待されている。同効率の予想を図8-1に

示す。同図に示されるように,1,700℃級が完

成したときのコンバインドプラント予想発電効

率(発電端,LHV)は,62~65%と予想される。

これは,現在の1,500℃級コンバインドプラン

トの発電効率(発電端,LHV)の約60%弱より

(相対値で)約4~8%高く,燃料は異なるが

新鋭微粉炭火力の発電効率(発電端,LHV)

の約44%と比較すると約40%高い。従って,そ

の分CO2発生量も低減する(燃料の差を考慮す

るとさらに大きい)。

図8-1 火力発電における熱効率の推移

(出典:塚越敬三他,大型発電用ガスタービンの 新

技 術動 向 , 三 菱重 工 技 報 Vol.42 No.3 ,

2005.10)

(2) 1,700℃級ガスタービンの要素技術開発

1,700℃級ガスタービンの開発では,高温化

に耐える耐熱材料,冷却材料,およびコーティ

ング材等の高温化対策技術,高温化に応じて発

生量が増えるNOx低減のための低NOx燃焼システ

ム,高温化にともなう高負荷高性能ガスタービ

ン,あるいは高い圧縮比に適合する高圧力・高

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性能圧縮機の開発などである。これらを全てメ

ーカ等民間の研究開発に求めるのは余りにもリ

スクが大きいこともあり,現在その中の一部は,

上述の経済産業省所掌「1,700℃級ガスタービ

ン要素技術開発」プロジェクトにて研究開発が

行われている。

同プロジェクトによる研究課題は,「燃焼技

術」,「タービン冷却技術」,「超耐熱材料技

術」,「コーティング」,あるいは「高圧力

比・高性能圧縮機の開発」などが挙げられてい

る。

以下ここでは,紙面の都合もあり同研究の一

部である「燃焼技術」と「タービン冷却技術」

の概要を示す。

1)「燃焼技術」(10)(21)

1,700℃級の高温燃焼器となると,本来増大

するNOx生成量をいかに必要レベルまで低減す

るかに関して,従来発想を変えた新たな視点か

らの取組みが必要となる。

これにたいして,現在考えられているのが,

排ガス再循環システムの採用である。同システ

ムは,発電用ボイラでは,お馴染みの方法であ

るが,大型ガスタービン利用コンバインドサイ

クルにおいては,今まで採用されなかった。ガ

スタービン出口排ガス(実際には,排ガスボイ

ラ出口排ガス)を燃焼器適正圧力まで昇圧する

際のエネルギー消費量が大きい,またNOx生成

量自体も従来方式(例,予混合燃焼方式等)の

採用で所要レベルまで低減できたためと考えら

れる。しかし,1,700℃級の場合は,排ガス再

循環方式が不可欠と見られている。その適用方

法に関し同要素研究の中では,排ガスを空気圧

縮機の入口に持ってくる方法と別置の(専用)

圧縮機を置く方法が検討されたが,サイクル検

討の結果,前者が効率面で有利となるという検

討結果が示された。また,燃焼方式は,予混合

型燃焼方式(現在ガスタービン低NOxの主流)

と拡散燃焼方式をシミュレーション検討等で比

較検討した結果,燃焼器出口酸素濃度の設定に

もよるが,拡散燃焼方式が有利と見られている。

図8-2に1,700℃級ガスタービンの再循環方式

の概念を示す。

2)タービン冷却技術

高温化に伴い更なる冷却効果の向上が求めら

れ,そのためにはより少ない冷却量で高い冷却

効果が得られる技術の適用が必要とされる。そ

のため,例えば第1段静翼の場合は,翼の内部

冷却には,翼部を冷却能力の高い蒸気(冷却後

の蒸気は,回収し蒸気タービン系へ活用)とし,

また通路の狭い後縁部を空気冷却とするハイブ

リッド冷却構造とする方法が候補として挙げら

れている。

図8-3にタービン1段静翼の冷却構造の概念

図を示す。

図8-2 1,700℃級ガスタービンの再循環方式

(出典:塚越敬三他,大型発電用ガスタービンの最新技術動向,三菱重工技報Vol.42 No.3,2005.10)

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8.3 高湿分空気利用ガスタービン(AHA

T)(24)

高湿分空気利用ガスタービン,略称AHAT

(Advanced Humid Air Turbine)システムは,

その前身のシステムで1980年ごろ提案されたH

AT(Humid Air Turbine)システムの改良型

である。

HATサイクルは,通常のガスタービンコン

バインドプラントのガスタービン後流の排ガス

ボイラによる蒸気発生器に変えて,圧縮機出口

の燃焼用空気に水分を増湿させた増湿湿分空気

を燃焼器に導き,ガスタービン自体の出力上昇

を図る発電システムである。排ガスボイラおよ

び蒸気タービンを必要とせず,ガスタービン燃

焼後の排熱を有効に回収して発電するため,比

較的中規模用の高効率発電プラントとして期待

されている。AHATサイクルは,HATサイ

クルで採用されていた圧縮機の中間冷却機に換

えて圧縮機前に吸気噴霧機を採用したもので,

これによりガスタービンの圧力比や温度上昇に

頼ることなく,発電効率の上昇が得られるとこ

ろに大きな特徴がある。

上述のように,現在2004年からの3年間のス

ケジュールで研究開発が進められているが,そ

の内容は「要素技術開発(例,湿分を多量に含

む燃焼器の開発,湿分制御系の開発等)」と

「検証機によるシステム確認」から成る。検証

機としては,2006年10月より茨城県ひたちなか

市にパイロットプラントが建設され,試験が行

われている。

図8-4に,AHATパイロットプラントのシ

ステム構成を示す。

図8-3 タービン1段静翼冷却構造概念図

(出典:塚越敬三他,大型発電用ガスタービンの 新技術動向,三菱重工技報Vol.42 No.3,2005.10)

図8-4 AHATパイロットプラントのシステム構成

(出典:片桐幸徳,AHAT発電設備の制御,日本ガスタービン学会誌,Vol.35, No.1, 2007.1)

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8.4 燃料電池とガスタービンサイクル(26)(27)(28)

燃料電池とガスタービンサイクルの組み合わ

せも,夢のある将来技術として期待されている。

その場合の考え方は,高温型の燃料電池の反応

後の未反応燃料を含有した高温排ガスをガスタ

ービン(燃焼器)に導き,その未燃成分と高温

排ガスの持つエネルギーをガスタービンで有効

に利用するものである。従って,その場合の燃

料電池としては,高温型の燃料電池である溶融

炭酸塩形(MCFC)と固体酸化物形(SOF

C)の2種類が提案され,それぞれに対し研究

開発が行われている。

以下,それぞれの概要を示す。

(1) 溶融炭酸塩形(MCFC)とガスタービン

の組合せ形(26)

MCFCとガスタービンの組合せ形(ハイブ

リッド形)のフロー案を図8-5に示す。これに

よれば,MCFC単独の(天然ガス利用)発電

効率(LHV基準)は,50~55%であるが,ガス

タービンとの組合せで,発電効率は約5~10ポ

イント上昇するとの試算が得られている。試算

例では,約7MWの比較的小規模の発電プラント

で,発電効率(発電端,LHV)は60%(同送電

端,LHVで57%)が得られている。なお,同構

想は,IHIが1987年(昭和62年)より国家プ

ロジェクト(ニューサンシャイン計画)により

300kW級の加圧発電システム研究を実施してき

た成果を踏まえ事業化検討を行った中で発表さ

れたものである。

(2) 固体酸化物形(SOFC)とガスタービン

の組み合わせ形(27)(28)

SOFCとガスタービンの組合せの例を図8

-6に示す。試算結果によれば,700MW級の大規

模を想定した天然ガス焚き組み合わせ形発電プ

ラントにおいて,全体発電出力に占めるSOF

C出力は約70%,ガスタービン出力は20%,蒸

気タービン出力は10%の構成となっており,同

構成に基づく全体の発電効率(送電端,LHV)

は,71.2%と試算されている。なお,その開発

を目指して,三菱重工業が2004年度のNEDO

受託研究テーマ「円筒型SOFC高効率コンバ

インドシステムの開発」にて200kW級発電シス

テムの研究開発を実施中であるが,上記数値は

その中で将来の構想として試算されたものであ

る。

図8-5 MCFCとガスタービン組合せ複合発電システムフロー案

(出典:伊藤和彦他,溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)ハイブリッドシステム,日本ガスタービン学

会誌Vol.31, No.3, 2003.5)

燃料電池モジュール

カソード

アノード

リサイクルブロワ

燃料 改質室

加熱室

燃焼器

温水回収

排熱回収ボイラ

蒸気

排気

水処理装置

空気

燃料 燃焼器

GT

回収水

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図8-6 SOFCとガスタービン組合せ複合発

電システムフロー案

(出典:久留長生,SOFC複合発電システムの開発

と将来展望,日本ガスタービン学会誌Vol.35.

No.2, 2007.3)

あ と が き

今我々の生活にとって,飛行機の利用はもは

や日常の交通手段と化しているが,しかし誰も

が飛行機に乗るときには,あの大きな機体が多

くの人間と重い荷物を乗せて大空へ飛び立つこ

とに少なからず感動を覚えるのではないだろう

か。その大きな力(原動力)を受け持っている

のがガスタービンに他ならない。

また,飛行機に比べたらそれほど華やかではな

いにしても,現在LNG火力発電は,全体の発電

電力に対し(年間発電電力量ベース,2006年度推

定実績)約26%と,原子力(約30%)に次いで主

要電源として利用されているが,そのLNG火力

の最近の主要構成システムはコンバインドサイク

ルであり,その原動力もガスタービンが中心とな

っている。このように,今やガスタービンの威力

に現代はすっかり,お世話になってきているとい

っても過言ではないであろう。

そのようにお馴染みのガスタービンではあり

ながら,本誌執筆のために今回改めて関連資料,

情報を収集し,読みこんでいくにつれ,ガスタ

ービンの働きと魅力を再発見する思いであった。

その理由は4点に集約されるようである。

その第1は,ガスタービンの普及が着実に進

展してきたことである。

上述のように今日広く使われるように普及し

てきた背景には,性能,経済性および運転性の

全てが,実用機として信頼に足ることが実証さ

れ評価されてきたことに他ならない。しかし一

般に,新しい技術の導入当初は初期トラブルは

つき物であり,それぞれ特に早い時期に同技術

を採用した発電所においては,何らかの問題や

トラブルが発生したことがあるのではないかと

推定されるが,関係者特にユーザの運転・保守

上の改良・改善等の努力により信頼するに足る

技術として完成してきたことは想像するに難く

ないことであろう。

第2点は,技術開発の進歩の速さである。

本技術は,特に技術開発および実用化の速さ

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が注目される。例えば,従来形火力発電技術と

コンバインドサイクルにおいて発電効率の進展

度を比較した場合,従来形火力は戦後急速に効

率が上昇した時期があったが,その後の歩みは,

遅々としたものであり,例えば1960年ごろに効

率(発電端,HHV基準)で約40%に達した後,

約42%に上昇するのに実に約30年(年間上昇率

(絶対値ベース)は0.06%)もかかっている。

ところが,コンバインドサイクルは,その本格

的実用化は随分遅れたが,わが国で大型適用の

初号機とされる東北電力の東新潟3号系列の場

合(1984年運転)開始時点で既に同効率は約

44%であったが,最近の高効率プラント(ガス

タービン温度1,500℃級)では,約54%であり,

これは,20年間で約10%上昇(年間上昇率(絶

対値ベース)は0.5%)で,効率に関する限り

従来形より一桁大きい上昇速度を示している

(第1章参照)。

その第3は,技術そのものの持つ魅力であり,

奥深さである。ガスタービン技術の課題は第5

章でも述べたように,高温化のための「冷却技

術」および「材料技術」に加え低NOx燃焼等の

「燃焼技術」および更なる「信頼性向上技術」

も挙げられる。それらの研究開発の推進には,

基礎から応用技術までの科学技術の総合力が必

要とされ,またとどまるところを知らぬ進展が

なされている。そのため研究・技術陣において

は,競争に遅れをとらぬために常に必死の努力

が続けられている様子である。まさしく科学技

術立国であるわが国の科学技術のレベルとその

維持向上が問われる場ともなっていると思われ

る。

その第4は,このガスタービンの研究開発に

関連した成果発表あるいは情報交換の場が定着

しかなり有効に活用されていることである。戦

後,機械工学関係,特に原動機分野における規

格化,標準化,あるいは研究成果発表の場とし

ては,米国ASME(アメリカ機械学会)が世

界をリードしてきたが,同学会傘下のASME

国際ガスタービン会議も既に2005年にて第50回

(ASME TURBO EXPO50,於米国ネバダ州リノ

市)を数えるほど充実した活動を続けている。

日本でも日本機械学会の傘下にガスタービン学

会が約30年前に設立され活発な活動が行われて

いる。なお,日本ガスタービン学会主催の国際

会議をIGTC(International Gas Turbine

Congress)と称し,4年に1回開催されている

が,更にその中間年に近年では近隣国の韓国,

中国の関連学会と共同でアジアガスタービン会

議も開催されるなど,国内外の関連大学,産業

界が主導して本技術の情報交換と啓蒙が活発に

図られるようになってきている。なお,2007年

のIGTCは,東京で12月に開催されることに

なっている。

さて,そのような魅力を秘め現在非常に活発

な動きを見せているガスタービンであるが将来

はどうであろうか。その将来の方向を陸用に限

定してみるときに,更なる高効率化,高性能化

の動きとしては,本文中にも述べた1,700℃級

ガスタービン,AHATサイクル,石炭とガス

タービンと組合せた石炭ガス化発電(IGC

C),あるいは燃料電池(SOFC)との組み

合わせである超高効率複合発電,さらに水素時

代が到来したときの水素燃焼タービン,更に遠

い将来には宇宙における太陽熱利用のガスター

ビン閉サイクル発電等,超長期的な技術課題が

数多く提案されている。まだまだ,将来発展の

余地は十分ありそうである。

以上のように魅力あるガスタービンの世界を

本誌のような小冊子で,紹介するのは至難の業

であるが,ガスタービンの特徴,動向あるいは

課題を探る一つのヒントになれば幸いである。

最後に、本書中の図表に関しその使用を許諾

いただいた関係先、特に(社)日本ガスタービン

学会、(社)火力原子力発電技術協会、(社)電気

学会、および(財)東京大学出版会に深甚なる謝

意を表します。また、内容に関し内外からコメ

ントあるいはレビューを頂いた。特に一部の電

力およびメーカ関係者には、誌面を借りて衷心

より御礼申し上げます。

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参 考 資 料

1 平成19年度電力供給計画の概要,経済産業

省資源エネルギー庁,平成19年3月

2 大地昭生,火力発電の変遷-大容量化と高

効率化への挑戦,(社)日本学術士会HP

(2001年8月月例資料),2001.8

3 特集火力発電所の熱効率向上「3.ガスタ

ービン」火力原子力発電Vol.54 No.10,

2003.10

4 「電源開発の概要」(昭和63年度~平成17

年度),経済産業省資源エネルギー庁電力・

ガス事業部編

5 斉藤孝基他,新版エネルギー変換,東京大

学出版会,2006年3月

6 電気学会編 火力発電総論「8.ガスター

ビン発電設備」,オーム社,2002年

7 入門講座「タービン・発電機及び熱交換

器」Ⅳ.ガスタービンの性能と構造,火力原

子力発電Vol.55 No.11,2004.11

8 電気学会編 火力発電総論「12.ガスター

ビンコンバインドサイクルの計画・運転・保

守」,オーム社,2002年

9 入門講座「タービン・発電機及び熱交換

器」1.概説,火力原子力発電Vol.55 No.4,

2004.4

10 塚越敬三他,大型発電用ガスタービンの

新技術動向,三菱重工技報Vol.42 No.3,

2005.10

11 小森豊明他,BFG焚ガスタービンコンバ

インドサイクルプラント,日本ガスタービン

学会誌Vol.34 No.5,2006.9

12 太田一広,石炭ガス化複合発電,日本ガス

タービン学会誌Vol.34, No.5,2006.9

13 電中研レビュー(44号),石炭ガス化複合

発電の実現に向けて-実証機開発の支援と将

来への研究展開,2001.10

14 佐藤幹夫,燃料多様化,日本ガスタービン

学会誌Vol.35, No.2,2007.3

15 塚越敬三他, 新の産業用ガスタービンの

冷却技術,日本ガスタービン学会誌,Vol.35

No.3,2007.5

16 石井潤治,ガスタービンの 新補修・寿命

延伸技術,火力原子力発電Vol.53 No.7,

2002.7

17 入門講座「発電設備の予防保全と余寿命診

断技術-Ⅱ火力発電設備の予防保全と余寿命

診断技術」,3.1.コンバインドサイクル発電

設備/ガスタービン本体,火力原子力発電

Vol.51 No.11,2000.11

18 佃 嘉章他,東新潟4号系列1,450℃級ガ

スタービン複合発電設備の運転実績,火力原

子力発電Vol.51 No.6,2000.6

19 菅原道雄他,東新潟火力3,4号系列の運

転・保守実績,日本ガスタービン学会誌

Vol.29 No.1,2001.1

20 加藤誠他,特集発電設備の設計と材料「V.

複合発電設備の設計と材料」,火力原子力発

電Vol.53 No.10,2002.10

21 塚越敬三,川田裕,次世代高温・高効率ガ

スタービンの技術動向,配管技術,2006.6

22 川地和彦,「第6節新しい動き,1高温ガ

スタービン」,エネルギー新技術体系,日本

伝熱学会,エヌ・ティー・エス,1996

23 竹矢一雄,「第6節新しい動き,2複合サ

イクル」,エネルギー新技術体系,日本伝熱

学会,エヌ・ティー・エス,1996

24 片桐幸徳,AHAT発電設備の制御,日本

ガ ス タ ー ビ ン 学 会 誌 , Vol.35, No.1

(2007.1)

25 NEDOホームページ

http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/pamphle

ts/sekitan/cct2006.pdf

26 伊藤和彦他,溶融炭酸塩形燃料電池(MC

FC)ハイブリッドシステム,日本ガスター

ビン学会誌Vol.31, No.3(2003.5)

27 加幡達雄,固体酸化物方燃料電池(SOF

C)複合発電システム,日本ガスタービン学

会誌Vol.31, No.3(2003.5)

28 久留長生,SOFC複合発電システムの開

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発と将来展望,日本ガスタービン学会誌

Vol.35. No.2,2007.3

29 渡辺紀徳,ガスタービンの将来を目指す技

術伝承と人格育成,日本ガスタービン学会誌

Vol.35, No.2(2007.3)

30 松永昌克他,川崎火力発電所1号系列の計

画概要-MACC発電の特徴,火力原子力発

電Vol.57 No.8,2006.8

31 火力原子力発電必携(第7版),火力原子

力発電技術協会,平成19年3月

32 第6回ガスタービン学会教育シンポジウム

資料,日本ガスタービン学会,平成12年7月

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新エネルギーの展望

既刊一覧

燃 料 メ タ ノ ー ル 編 1987年1月発行

太 陽 光 発 電 編 1987年2月発行

燃 料 電 池 編 1987年3月発行

風 力 発 電 編 1988年1月発行

石 炭 ガ ス 化 編 1988年3月発行

自動車用エネルギー編 1988年3月発行

地 球 温 暖 化 編 1989年2月発行

二 次 電 池 編 1989年3月発行

高 温 超 電 導 編 1989年3月発行

地 熱 発 電 編 1990年2月発行

燃 料 電 池 (改訂版) 1990年3月発行

燃料用メタノール(改訂版) 1990年3月発行

太 陽 光 発 電 (改訂版) 1991年3月発行

地 球 温 暖 化 (改訂版) 1991年3月発行

エ ネ ル ギ ー 有 効 利 用 1991年3月発行

水 素 エ ネ ル ギ ー 1992年3月発行

風 力 発 電 (改訂版) 1992年3月発行

電 気 自 動 車 1992年3月発行

非 在 来 型 天 然 ガ ス 1993年3月発行

地 球 温 暖 化 対 応 1993年3月発行

石 炭 の 高 度 利 用 1993年3月発行

水素エネルギー(改訂版) 1995年3月発行

廃 棄 物 発 電 1995年3月発行

石 炭 灰 の 有 効 利 用 1996年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その2) 1996年3月発行

低 品 位 炭 の 改 質 技 術 1997年3月発行

メ タ ノ ー ル 発 電 技 術 1997年3月発行

電 力 負 荷 平 準 化 1998年3月発行

非 在 来 型 天 然 ガ ス 1998年3月発行

(メタンハイドレート編)

石炭ガス化複合発電技術 1999年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その3) 1999年3月発行

原 子 力 発 電 技 術 2000年3月発行

原子燃料サイクル技術 2000年3月発行

固体高分子形燃料電池 2001年3月発行

マイクロガスタービン 2001年3月発行

コージェネレーション技術 2002年3月発行

循 環 型 社 会 の 構 築 2002年3月発行

バ イ オ マ ス 発 電 2003年3月発行

廃 棄 物 発 電 (その4) 2003年3月発行

地 球 温 暖 化(再改訂版) 2004年3月発行

風 力 発 電(再改訂版) 2004年3月発行

省 エ ネ ル ギ ー 技 術 2005年3月発行

太 陽 光 発 電(再改訂版) 2005年3月発行

バイオマスエネルギー 2006年3月発行

燃 料 電 池(再改訂版) 2006年3月発行

ガ ス タ ー ビ ン 技 術 2007年3月発行

自動車用エネルギー(改訂版) 2007年3月発行

2007年3月発行

編集発行 財団法人 エネルギー総合工学研究所

(担当部門:エネルギー技術情報センター)

〒105-0003 東京都港区西新橋1-14-2(新橋SYビル8F)

電話 東京(03)3508-8894(代表)

http://www.iae.or.jp/

備考:上記の各編は,当所のホームページの「定期刊行物」の欄でも御覧

頂けます。

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