カンパチ稚魚のエネルギー要求量

誌名誌名 水産増殖 = The aquiculture

ISSNISSN 03714217

巻/号巻/号 561

掲載ページ掲載ページ p. 113-116

発行年月発行年月 2008年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

水産増殖 (AquacultureSci.) 56 (1) ， 113 -116 (2008)

カンパチ稚魚、のエネルギー要求量

渡辺貢1.山本貞夫1.安藤裕章1 益本俊郎2

Energy Requirement of J uvenile Greater Amberjack

Mitsugu WATANABE1， Sadao Y刷 AMOT01，Hiroaki A:NDOH1

and Toshiro MAsUMOT02

Abstract: This study was conducted to determine the energy requirement of juveni1e greater

amberjack Seriola dumerili， weighing 95.0 g on average， to establish the adequate feeding levels at

23.8 -29.4t of water temperatures. The feeding experiment was conducted in net cages for four

weeks， employing commercial ex仕udeddry pellets. Fish were fed to satiation or at levels between

60 and 80% of出esatiation level once a day. The growth was highest for the satiation group and

decreased proportionally to the feeding levels. The optimum feeding rate， estimated on the basis

of出erelationship between the weight gain and feeding rate， was 2.46% body weight per day and

98.4 kcal!kg body weight/ day.

Key words: Greater amberjack; Feeding rate; Energy requirement; Feeding level

我が国の多くの養殖海水魚産地では，漁場汚染によ

る魚病や赤潮の多発に悩まされており，環境に優しい

エコ養殖への関心が高ま っている。エコ養殖の普及に

当たっては，単に汚染負荷の少ない固形配合飼料を開

発するばかりではなく，効率的な給餌法，すなわち適

正な給餌量，給餌頻度などを確立する必要がある。

給餌法に関しては，淡水魚のニジマス Oncorhynchus

mykissおよびコイ Cyprinuscaゆwでは給餌量算定の

基となるエネルギー要求量が解明されるとともに，そ

れは魚体のサイズや水温の高低の影響を強く受けるこ

とが明らかにされている (Ohtaand Watanabe 1996a，

1996b)。海水魚のブリ Seriolaquinqueradiataでも適

正な給餌頻度や給餌量が報告されているが (原 ・矢田

1997;佐藤 2003)，他の海水魚に関する研究は見当た

らない。

著者らはカンパチ Serioladumeriliを供試魚として，

そのエコ養殖技術の開発を企図し，まず汚染負荷の少

ない給餌法の確立を試みた。養殖カンパチは，種苗導

入から出荷までの聞に，成長段階や水温条件の異なる

いくつかの養殖過程を経て生産される。従って，給餌

2007年12月14日受付:2008年1月24日受理.

方法はそれぞれの過程で確立される必要がある。そこ

で本研究では，適正な給餌法を明らかにする手始めと

して，市販のエクストルーデッドペレ ットを用いて，

初夏期におけるカンパチ稚魚の至適成長に必要なエネ

ルギー量を求めた。

材料および方法

試験飼料

沿岸魚粉を主成分とする市販のブリ類用エクスト

jレーデッドベレット (日清丸紅飼料社製)を使用し

た。その栄養成分組成は Table1に示したとおりであ

る。すなわち，粗タンパク質，粗脂肪および可消化炭

水化物の含量はそれぞれ53.5，14.8およ び14.6%であ

り，可消化エネルギー含量とカロ リー ・タンパク質比

はそれぞれ400kcal!100 gおよび75kcallkg/% protein

であった。なお，エネルギー含量の計算には，タンパ

ク質，脂肪および炭水化物をそれぞれ4.5，8.0およ び

2.8 kcal!gとする可消化エネルギー値を用いた(示野

ら1980)。

1高知県水産試験場 (KochiPrefectural Fisheries Experimental Station， Susaki， Kochi 785-0167， ]apan). 2高知大学農学部 (Facultyof Agriculture， Kochi University， Nankoku， Kochi 783-8502， ]apan).

114 渡辺・山本・安藤 ・益本

Table 1. Proximate composition of experimental diet* 1

Crude protein (%) 53.5 Crudefat 仰 14.8Digestible carbohydrate (児，)*2 14.6

Crude ash 例 13.0Energy (kcal/100 g) *3 400 Calorie to protein ratio (kcal/kg/% protein) 75

*lUmisachi (No. 5) produced by Marubeni Nisshin Feed Co.， Ud. 叫 Carbohydratehydrolized by boiling with 1 N H2S04 for 4 h. 本3Digestibleenergy: protein， 4.5; fat， 8.0;ωrbohydrate， 2.8 kcal/g.

供試魚および飼育

上記の飼料で約 2週間予備飼育した平均体重95.0g

のカンパチ稚魚を200尾ずつ高知県水産試験場海面の

小割網生費 (3.2x 3.2 x 3.2 m)に収容 し， 飽食量，

飽食量の80，70およ び60%量を給与する区(飽食，

80%，70%およびω%区)を設けた。給餌は 1日に 1回，

1週に 6回とした。飼育期間は 6月22日から 4週間と

し，その間の水温は23.8-29.4'C (平均26.2'C)であった。

測定

飼育開始時から 2週間ごとに総体重と尾数を測定し，

成長，飼料効率などを算出すると ともに，開始時と終

了時には各区から 5尾を取り上げて全魚体の一般成分

を， また終了時には各区5尾について血液性状と血清

成分を測定した。また，飼料および魚体成分の分析値

に基づいて各栄養素のみかけの蓄積率を算出した。

一般成分は常法，可消化炭水化物は示野ら (1993)

の方法に より分析した。また， 血液性状は日本光電

社製 Cel1tacα，血清成分は富士フ ィルム社製ドライ

ケム 3500Vを使用して測定した。血液性状と 血清成

分の分析値は Duncanの新多重範囲検定法 (Harter

1960)により統計処理した (P< 0.05)。

結 果

成長および飼料効率

飼育期間を通 して，全区のカンパチは活発に摂餌

して順調に成長 した (Fig.1)。へい死魚は60%区で 1

尾がみられただけで (Table2)，飼料に基因すると思

われる病魚や異常魚は認められなかった。

Table 2の飼育成績から明らかな ように， 4週間に

おける各区の増重量は，飽食区の116gから60%区の

67 gへと，給餌量が少なくなるにつれて低下 した。

日間成長率にも増重量に類似した区間差が認められ

たが，全区の飼料効率，タンパク質効率およびエネル

ギー効率は類似していた。

血液性状および血清成分

Table 3から明らかなように，全区の赤血球数，ヘモ

グロビン濃度およびヘマ トクリッ ト値は類似していた。

他の区に比べて60および80%区では血清グルコース

濃度が多少高かったが，総タンパク質，アルブミン，

トリ グリセリドおよび総コレステロールの各濃度に明

らかな区間差はみられなかった (Table3)。

全魚体成分および栄養素蓄積率

全魚体の一般成分は Table4に示したとおりであ

る。粗脂肪含量は給餌量が少なくなるにつれて多少低

下する傾向にあったが，他の成分に明らかな区間差は

なかった。

各栄養素の摂取量と蓄積量から，タンパク質，脂肪

およびエネルギーのみかけの蓄積率を算出して Table

4に併記した。いずれの蓄積率に も増重量と類似した

区間差が認められ (Table2)，いずれの蓄積率も給餌

220

200トー← 100%

・-80% ぎ180↓す 7倒

急 ---6倒~ 160 〉、πコ..8 140 ω bII

g 120 〉〈

100

80 21-Jun らJul

Feeding period

302 L噌

三間

25邑g s

20包

1与Ju15

Ftg. 1. Changes in averョgebody weight of juvenile greater

amberjack fed an extruded pellet. Symbols indicate feed-

ing levels; (+) 100%; (・)80%; (企)70%; and (・)60% of

satiation.

Table 2. Growth performance of juvenile greater amberjack fed ex仕udedpellets for 4 weeks

Feeding levels * 1

100% 80% 70% 60%

Daily feeding rate (%) * 2 2.56 2.22 2.06 1.83 Av. body weight (g)

lnitial 95 95 95 95 Final 211 187 171 162

Weight gain (g) 116 92 76 67

Daily growth rate C、%*)3 2.70 2.33 2.03 1.86 Feed efficiency (%) 105 105 98.8 102 Protein efficiency ratio 1.97 1.96 1.84 1.90 Energy efficiency (%) 26.4 26.2 24.7 25.4 Survival rate (%) 100 100 100 99.5

ホ1Feeding levels were determined based on the satiation level assumed as 100%.

* 2 For the entire span. 叫 1ndry basis.

カンパチ稚魚のエネルギー要求量 115

T'able 3. Hematological characteristics and several serum ∞mponents at the end of the experiment* 1

Feeding levels叫

100% 80% 70% 60%

Hematologica1 characteristics Red blood cell (x 104/mm3) 389::!:30 363:!: 41 380::!:27 350::!: 14

Hemoglobin (g/100 mの 16.3::!: 1.4 16.1::!: 1.3 15.7::!: 0.6 15.3 ::!:O.8 Hematocrit (%) 59.1::!: 10.1 55.6:!:6.3 63.7士4.1 55.5:!:8.5

Serum components Total protein (g/100 mf) 3.9::!:O.2 3.6::!:O.2 3.6::!:O.2 3.9::!:0.4 Albumin (g/100 mf) 1.3:!: 0.1 1.2:!: 0.1 1.2:!: 0.1 1.2:!: 0.1 Total cholesterol (mg/100 mf) 245:!: 18 225:!: 16 232:!: 16 250::!:33

Triglyceride (mg/100 mf) 101 :!:22 82:!: 15 94:!: 14 79:!: 15

Glucose (mg/100 mf) 1O0::!: 19a 129::!:26ab 103::!: 17a 135::!: 19b

*lValues (Mean::!: SD of 5 fish) in the same line not sharing a common superscript are significantly different (P < 0.05). 叫 Feedinglevels were determined based on the satiation level assumed as 1∞%

Table 4. Pro対matecomposition of whole body and apparent 閃除ntionofnu凶entsat the end of the e叫児巾nent例)

Feeding levels * 1

100% 80% 70% 60%

Proximate composition ofwhole body*2

Moisture 71.8 70.2 71.3 Crude protein 18.7 18.7 18.4 Crude fat 6.7 5.9 4.7 Crude ash 2.7 2.8 3.5

App岨rentrete凶 onof nutrients * 3

Protein 35.5 35.0 31.4 Fat 35.1 33.8 17.1 Energy 44.1 39.5 29.3

71.4 19.6 5.2 3.0

37.5 17.3 36.2

本lFeedinglevels were determined based on the satiation level assumed as 100%.

* 2 A pooled sample of 5 fish. *3Nu甘ientretained x l00/nu甘ientfed.

量が少なくなるにしたがって低下する傾向にあった。

エネルギー要求量

日間摂餌率と成長率との聞には，Fig.2に示すよう

な曲線関係が認められたので， この曲線と原点を通る

直線との接点から (Brettet al. 1969; Reddy and Katre

1979) ，至適 日間給餌率は体重の2.46%であった。こ

の給餌率に基づいてエネルギー要求量を算出すると，

98.4 kcallkg body weight/ dayとなった。

また，飽食区の給餌率に基づいて，最大成長に

必要なエネルギー量を計算する と102kcallkg body

weight/dayとなった。

考 察

本試験に用いた飼料のエネルギーおよ びタンパク質

の含量，ならびにカ ロリー ・タンパク質比はカンパチ

稚魚の要求量をほぼ満たしている(渡辺 2002)。また，

カンパチ飼料の場合，エネルギー含量の計算値と実測

値との聞に大差のないこ とが認められているので(細

5 y = 2.58Ln (x) + 0.255

(r2 = 0.975)

(

語尾)

ヮ“

若』

PE凶h-お凸

1

1 2 3 4 5

Daily feeding rate (%)

Fig. 2. Relationship between daily feeding and growth

rates. Arrow to the tangent between a broken line and a

curve indicates indicating the detined position of optimum

daily feeding rate.

川 2003)，本飼料を用いて求めたエネルギー要求量は

信頼できる値と考えられた。

稚魚の給餌量算定を目的と したエネルギー要求量に

関する研究は少ないが，ニジマスおよびブリの最大成

長に必要なエネルギー量が報告されている (Ohta加 d

Watanabe 1996a; Watanabe et al. 2000)。本研究で求め

たカンパチの最大成長に必要なエネルギー要求量は，

ニジマスの60~70 kcallkg body weight/dayより高い

が，ブリの274kcallkg body weight/ dayより低;い。こ

のようなエネルギー要求量における種間差は，飼育適

水温，成長速度，遊泳活動，栄養素代謝活性などの相

違に基因すると推察される。

市販配合飼料を用いた本研究の結果，適水温期に

おけるカンパチ稚魚への適正な給餌率は2.46%/day，

116 渡辺・山本・安藤・益本

エネルギーに換算すると98.4kcal!kg body weight/ day

と判断される。 また，このエネルギー要求量は飽食

区から求めた最大成長に必要な値と ほぼ同等であるの

で，給餌量は実際には飽食量でよいと考える。今後，

適正な給餌法を確立するためには，給餌頻度について

検討する必要がある。

要約

適水温期 (23.8-29.4t) におけるカンパチ稚魚へ

の適正な給餌量を明らかにするため，平均体重95g

の稚魚に市販エクストルーデッドペレットを飽食量，

ならびにその80-60%量を 1日に l回給餌して 4週

間生費飼育し，エネルギー要求量を求めた。成長は飽

食区が最も優れ，給餌量の減少とともに低下し，至適

給餌率は2.46%/dayと推定された。この給餌率に基づ

いて計算したエネルギー要求量は， 98.4 kcal!kg body

weight/dayとなった。

謝辞

本研究の実施に際し，高知県水産試験場増養殖対策

科の職員にはカンパチの飼育管理にご協力をいただい

た。記 して感謝の意を表する。

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