55
各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー 竹内 理 (1)背景と目的 (Ref. 1) すべての TLR、IL-1R ファミリー分子は細胞質内領域に TIR ドメインを持ち、 細胞質内に存在する TIR ドメインを持つアダプター分子と会合することにより 細胞内シグナル伝達経路を活性化する。これらには MyD88、TIRAP, TRIF があげ られる。このシグナルは NF-κB や IRF といった転写因子を活性化しその結果、 サイトカイン、IFNなどの産生を誘導し、感染防御に重要な役割を果たしている。 このシグナル伝達に関してはこれまでに、MyD88 を介して、IRAK が活性化、次 に TRAF6 を介して UBC13 コンプレックスによる K63 ユビキチンかを介し TGF-β -activated kinase1 (TAK1)が活性化、その下流で転写因子 NF-κB が活性化す るというモデルが考えられていたが (図1)、その分子機構の生体における役割 は十分に明らかにされておらず、また、TLR からの IRF 活性化機構は明らかとな っていなかった。 これまでに我々は TLR シグナル伝達に関わる分子を欠損するマウスを作製、 解析することによりこれらの分子の生体内における機能を解析してきた。中で も MyD88 は様々な TLR のシグナル伝達において必須の役割を果たしていた。 MyD88 欠損細胞は TLR2, 7, 9 刺激に対し、全くサイトカイン産生を示さず、ま た細胞内シグナル伝達経路の活性化も認めなかった。しかしながら、LPS 刺激に 対し MyD88 欠損細胞では野生型よりは10分程度遅れるものの、NF-κB や MAP キナーゼの活性化が認められた。また、TLR3 シグナルは MyD88 欠損マウスにお いて異常を認めなかった。このように TLR3, TLR4 シグナルにおいては MyD88 非 依存性シグナルが存在する。そこで我々はこの MyD88 非依存性シグナル伝達経 路について解析を行ってきた。これまでに、TIRAP 欠損マウスを作製、解析した が、 TIRAP/Mal は MyD88 非依存性経路には関与せず、 TLR2, 4 の下流で TLR と MyD88 の間を橋渡しする役割を果たすことが明らかとなっている。 本研究グループでは更に新規の TIR ドメインを持つアダプター分子群など、TLR シグナルに関わる分子の、生体における役割をこれらの遺伝子群を欠損するマ ウスを作製、解析する事により明らかとしてきた。また、TLR 非依存性に病原体 が認識されるメカニズムを、この認識に関わる分子を欠損するマウスを作製、 解析することにより明らかとした。更に、これら作製された遺伝子欠損マウス 11

各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

各グループの研究目標および成果と今後の展開

4-1 生体機能グループ

グループリーダー 竹内 理

(1)背景と目的 (Ref. 1)

すべての TLR、IL-1R ファミリー分子は細胞質内領域に TIR ドメインを持ち、

細胞質内に存在する TIR ドメインを持つアダプター分子と会合することにより

細胞内シグナル伝達経路を活性化する。これらには MyD88、TIRAP, TRIF があげ

られる。このシグナルは NF-κB や IRF といった転写因子を活性化しその結果、

サイトカイン、IFN などの産生を誘導し、感染防御に重要な役割を果たしている。

このシグナル伝達に関してはこれまでに、MyD88 を介して、IRAK が活性化、次

に TRAF6 を介して UBC13 コンプレックスによる K63 ユビキチンかを介し TGF-β

-activated kinase1 (TAK1)が活性化、その下流で転写因子 NF-κB が活性化す

るというモデルが考えられていたが (図1)、その分子機構の生体における役割

は十分に明らかにされておらず、また、TLR からの IRF 活性化機構は明らかとな

っていなかった。

これまでに我々は TLR シグナル伝達に関わる分子を欠損するマウスを作製、

解析することによりこれらの分子の生体内における機能を解析してきた。中で

も MyD88 は様々な TLR のシグナル伝達において必須の役割を果たしていた。

MyD88 欠損細胞は TLR2, 7, 9 刺激に対し、全くサイトカイン産生を示さず、ま

た細胞内シグナル伝達経路の活性化も認めなかった。しかしながら、LPS 刺激に

対し MyD88 欠損細胞では野生型よりは10分程度遅れるものの、NF-κB や MAP

キナーゼの活性化が認められた。また、TLR3 シグナルは MyD88 欠損マウスにお

いて異常を認めなかった。このように TLR3, TLR4 シグナルにおいては MyD88 非

依存性シグナルが存在する。そこで我々はこの MyD88 非依存性シグナル伝達経

路について解析を行ってきた。これまでに、TIRAP 欠損マウスを作製、解析した

が、TIRAP/MalはMyD88非依存性経路には関与せず、TLR2, 4の下流でTLRとMyD88

の間を橋渡しする役割を果たすことが明らかとなっている。

本研究グループでは更に新規の TIR ドメインを持つアダプター分子群など、TLR

シグナルに関わる分子の、生体における役割をこれらの遺伝子群を欠損するマ

ウスを作製、解析する事により明らかとしてきた。また、TLR 非依存性に病原体

が認識されるメカニズムを、この認識に関わる分子を欠損するマウスを作製、

解析することにより明らかとした。更に、これら作製された遺伝子欠損マウス

11

Page 2: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

を用いて、病原体成分刺激時の遺伝子発現を網羅的に解析した。

(2)成果の要約

1)TIR ドメインを持つアダプター分子群 TRIF、TRAM を欠損するマウスを作製

し、その解析から TLR 間のシグナル伝達経路の特異性、I型 IFN 産生に至る経路

を明らかにした。

2)TLR7 の新規リガンドとして、ウイルス由来一本鎖 RNA を同定した。

3)TLR シグナル伝達に関わる分子群、TBK1, IKK-i, TAK1, IκB-ζ, UBC13,

IRAK-4 を欠損するマウスを作製しその役割を明らかにした。

4)TLR 非依存性にウイルス二本鎖 RNA を認識するヘリカーゼファミリー分子の

生体内における役割を解析し、ウイルス感染認識におけるヘリカーゼファミリ

ー分子と TLR との機能を解析した。また、I型 IFN 発現をモニターするレポータ

ーマウスを作製し、in vivo におけるウイルス感染に対する I型 IFN 産生細胞を

1図1 TLR シグナル伝達経路

TLR と IL-1R は類似した細胞内シグナル伝達経路を活性化させる。MyD88, TIRAP, TRIF,

TRAM といったアダプター分子がそのシグナル伝達の特異性の規定に重要な役割を果た

している。

12

Page 3: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

同定した。

5)MyD88、TRIF欠損マウスを用いてLPS誘導遺伝子群の発現を網羅的に解析し、

TLR4 依存性遺伝子発現におけるアダプター分子の役割を明らかにした。

(3)研究成果

1.TIR ドメインを持つアダプター分子群の生体内における機能解析

1.1.TRIF の TLR3、TLR4 シグナルにおける役割(Ref. 2)

TRIF は TIR ドメイン、及び C末端に RHIM ドメインを持ち、TRAF6 及び RIP1、RIP3

と結合する事がこれまでの研究により明らかとなっていた(図2)(分子間グル

ープ参照)。

TRIF の強制発現は NF-κB や IFN-βプロモーター活性の上昇を促す。従って、

TRIF は TLR シグナル伝達において IFN 誘導遺伝子群の発現活性化に関わる分子

と推測された。我々は更にこの分子の機能を、TRIF 欠損マウスを作製し解析し

た。TRIF 欠損マウスはメンデルの法則にそって生まれ、成体を得ることが出来

た。このマウス由来のマクロファージを、TLR4 リガンドである LPS、TLR3 リガ

2図2 TIR ドメインを持つアダプター分子群

13

Page 4: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

ンドである poly I:C で刺激すると、野生型細胞と比較して TNF、IL-6 と言った

サイトカイン、IFN-β産生が著減していた。また、TRIF 欠損細胞に置いては LPS

刺激時の IRF3 活性化が欠如していた。更に、LPS 刺激に対し初期の NF-κB 活性

化は認めたが、その維持がうまくいかず早期に活性が減弱する事が明らかとな

った。この現象は MyD88 欠損マクロファージにおいて LPS 刺激に対する NF-κB

活性化が刺激早期には認められないが、遅れて活性化するという現象と対比さ

れた。従って、MyD88、TRIF が TLR4 シグナルにおけるアダプター分子として互

いに補完し有っているのでは無いかと推測された。そこで更に MyD88/TRIF 両欠

損マウスを作製すると LPS 刺激に対する NF-κB、MAP キナーゼ活性化も完全に

欠如しており、TLR4 シグナルが MyD88、TRIF の2つのアダプター分子により担

われていることが証明された(図1)。

1.2.TRAM の TLR4 シグナル伝達における役割(Ref. 3)

TIR ドメインを持つ新規タンパク質をデータベースサーチにより同定し、

TRIF-related adaptor molecule (TRAM)と命名した(図2)。TRAM は TRIF と同

様に、強制発現により NF-κB、IFN プロモーターを活性化させた。そこで、我々

はこの分子を欠損するマウスを作製し、解析を行った。このマウスは、LPS に対

するサイトカイン、IFN 誘導遺伝子群の発現が著明に低下していたが、他の TLR

刺激や IL-1βに対する反応性は野生型と変化を認めなかった。また、TRAM 欠損

細胞を用いて細胞内シグナル伝達経路を検討すると、LPS 刺激に対する IRF-3 活

性化が欠如し、NF-κB は初期には活性化するもののその維持が障害されており、

TRIF 欠損細胞と同様の反応を示した。従って、TRAM は LPS による TRIF 依存性

経路の活性化のみに必須であり、また他の解析結果とも総合し、TRAM は TLR4 と

TRIF の間を橋渡しする役割を果たしていると考えられる(図1)。

2.TLR により認識される新規リガンドの探索

2.1.TLR7, TLR8 によるウイルス由来一本鎖 RNA の認識(Ref. 4 and 5)

これまでに、我々は TLR7 が核酸誘導体であるイミダゾキノリンを認識すること

を、TLR7 欠損マウスを用いて同定してきた。しかしながら、TLR7 や TLR8 の自

然界におけるリガンドは明らかとなっていなかった。今回、我々は HIV や

Influenza由来の一本鎖RNA、合成G-UリッチオリゴRNAがマウスにおいてTLR7、

またヒトにおいては TLR8 を介して認識されることを明らかにした。TLR7 欠損マ

ウスは、プラズマサイト様樹状細胞において、ウイルス由来一本鎖 RNA やイン

14

Page 5: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

フルエンザウイルス感染に対する IFN-α産生が欠如していた。従って、プラズ

マサイト様樹状細胞において、RNA ウイルス、及びウイルス由来一本鎖 RNA は

TLR7 を介し認識されていると考えられた。

2.2.TLR5 の粘膜固有層樹状細胞における発現と腸内細菌認識における役割

(Ref. 6)

TLR5 は細菌鞭毛タンパク質フラジェリンの認識に必須であることが知られてい

たがその生体内における役割は明らかとなっていなかった。我々は TLR5 が脾臓

の樹状細胞やマクロファージには発現せず、腸管粘膜固有層樹状細胞(LP-DC)に

多く発現することを明らかにした。TLR5 欠損マウス由来の LP-DC はフラジェリ

ンに対する応答が欠如しており、また鞭毛を持つ腸内細菌に対するサイトカイ

ン産生が低下していた。しかしながら、TLR5 欠損マウスにサルモネラ菌を感染

させると腸管から所属リンパ節への細菌の移行が障害されており、感染に対し

野生型よりも感染抵抗性であった。このように TLR5 が腸管粘膜免疫において重

要な役割果たしていることを明らかにした。

3.TLR シグナル伝達に関わる分子群の機能解析

3.1.TBK1、IKK-i の I 型 IFN 産生誘導における役割(Ref. 7、8)

TBK1、IKK-i は IκB Kinase (IKK)- α, IKK-βと相同性を持つキナーゼである。

In vitro の解析により TBK1、IKK-i が IRF-3,7 のリン酸化、活性化を誘導し、

その結果、I型 IFN 遺伝子、IFN 誘導遺伝子群の発現が誘導されると考えられた。

我々は以前、LPS によって発現が誘導される分子として IKK-i を同定していた。

今回 IKK-i の機能、また IKK-i と相同性を持つ TBK1 の機能を、これらのノック

アウトマウスを作製し、解析を行った。TBK1 欠損マウスは胎生致死であったが、

TBK1 欠損線維芽細胞を用いた解析から TBK1 が poly I:C、LPS からの IFN 誘導遺

伝子の発現に重要な役割を果たして居ることを示した。また、IKK-i 欠損細胞は

単独では野生型と変わらない IFN 反応を示したが、更に TBK1/IKK-i 両欠損細胞

を用いた解析から TBK1/IKK-i の両方が IFN経路の活性化に必須であることが明

らかとなった。従って、TBK1/IKK-i は TLR3、TLR4 シグナルにおいて IRF-3/-7

活性化に必須の役割を果たしている。また、TLR3 非依存性であるウイルス感染

に対する IFN 遺伝子発現も TBK1 欠損細胞で著明に障害されており、TBK1/IKK-i

は TLR 依存性、非依存性 IFN 誘導システムの両方に必須の役割を果たしている

ことが明らかとなった。また、TBK1, IKKi の免疫細胞における役割を樹状細胞

15

Page 6: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

を胎児肝細胞をサイトカイン存在下で培養し調製し検討した。これらの遺伝子

を単独で欠損する細胞では様々なウイルス感染や poly I:C に対する IFN 応答は

欠如しなかったが、TBK1/IKKi を重欠損する細胞においては完全に欠如しており、

これら2つの分子が redundant に働いていることが明らかとなった。また、

plasmacytoid 樹状細胞においては TBK1/IKKi 欠損細胞でも TLR9 刺激に対する

IFN 産生を認め、この細胞が特徴的に TBK1/IKKi 非依存性の機構により IFN 産生

を行っていることが明らかとなった。

3.2.IκB-ζの TLR 刺激による遺伝子発現に対する役割(Ref. 9)

IκB-ζは LPS など TLR 刺激で MyD88 依存性に発現誘導される IκB 様分子で、

核内に存在することが知られている。しかしながら、この分子の役割について

はこれまでよく分かっていなかった。本研究で、我々は IκB-ζ欠損マウスを作

製し解析を行った。IκB-ζ欠損マウス由来マクロファージは TLR 刺激に対する

TNF 産生は正常であったが、IL-6 産生は極端に低下していた(図3A)。また、

In vitro の解析で、IκB-ζが NF-κB p50 と結合し、IL-6 など一連の遺伝子の

発現を制御していることが明らかとなった。また、NF-κBp50 を欠損するマウス

は IκB-ζ欠損マウスと同様に TLR 刺激に対する IL-6 産生が著明に低下してい

た。IκB-ζは TLR 刺激後早期に誘導される遺伝子であり、IL-6 などの遺伝子群

は早期に誘導された IκB-ζによりより後期にその発現が誘導されることが明

らかとなった(図3B)。

16

Page 7: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

図3 IκBζの生体内における役割

IκBζ欠損マウスの IL-6 産生能。野生型及び IκBζ欠損マウス由来マクロファージを LPS で刺激し TNF

及び IL-6 の産生を測定した。(A)IκBζ欠損細胞は TNF 産生は正常であったが IL-6 産生は著明に低下し

ていた。(B)IκBζによる遺伝子発現制御機構。TLR/IL-1R 刺激により早期に TNF、IκBζ等の発現が誘

導される。IκBζはその後、核内で NF-κBp50 と結合し、IL-6 や IL-12p40 などの遺伝子発現を誘導する。

3.3.TAK1 の生体内における機能解析(Ref. 10, 11)

TAK1 は当初、TGF-βシグナルにおいて MAP キナーゼ活性化に必要な分子として

同定された。その後の解析によりこの分子が IL-1βシグナル伝達においてもに

おいて我々は Cre-LoxP システムを用いて組織特異的 TAK1 欠損マウスを作製し、

その役割を解析した。TAK1 を germline で欠損するマウスは胎生 10 日前後で死

亡しそのマウスを使用した解析は不可能であった。従って、In vitro で Cre 遺

伝子を導入して作製した TAK1 欠損線維芽細胞を用いて解析した結果 TAK1 が

IL-1β、TNF 刺激に対する NF-κB、MAP キナーゼの活性化に重要であることが明

らかとなった。更に B細胞特異的 TAK1 欠損マウスを作製すると TAK1 は様々

な TLR 刺激に対する NF-κB、MAP キナーゼの活性化に重要な役割を果たしてい

た。更に TAK1 欠損 B 細胞においては B 細胞受容体(BCR)刺激に対する反応が障

害されていた。細胞内シグナル伝達経路を検討すると、BCR 刺激に対しては TAK1

は NF-κB 活性化には必要でないが、JNK の活性化に必須であることが明らかと

なった。本研究により TAK1 が広範な刺激に対する生体反応に重要な役割を果た

していること、また、TAK1 のシグナル伝達における役割はその刺激により異な

ることが明らかとなった(図1)。

更に T細胞特異的 TAK1 欠損マウスを作製すると、末梢の T細胞の著明な減少を

認めた。また、胸腺 T細胞において T細胞受容体刺激に対する NF-kB、MAP キナ

ーゼ活性化に TAK1 は必須であった。また、TAK1 欠損マウスにおいては

regulatory T 細胞の発生が起こらず、その結果自然発症的に炎症性腸疾患が発

症した。

3.4.UBC13 の生体内における機能解析 (Ref. 12, 13)

UBC13 は E2 ユビキチン結合酵素であり K63 を介したポリユビキチン鎖の付加を

媒介する。この K63 を介したユビキチン化は蛋白分解ではなく NF-kB などのシ

グナル伝達経路の活性化に必要であることが示唆されてきた(図1)。我々は

17

Page 8: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

Cre-LoxP システムを用いて組織特異的 UBC13 欠損マウスを作製し、その役割を

解析した。B細胞特異的 UBC13 欠損マウスを作製するとこのマウスでは marginal

zone B 細胞、及び B-1 細胞の発生が障害されていた。更にこの B 細胞における

TLR や B 細胞受容体刺激に対する反応が障害されており、また、マクロファージ

において UBC13 を欠損させた場合にも TLR 応答が障害されていた。しかしなが

ら、この細胞を用いて細胞内シグナル伝達経路を検討すると、NF-kB の活性化は

正常であり、MAPキナーゼ活性化の著明な低下を認めた。また、IkB kinase-g/NEMO

のユビキチン化は UBC13 欠損細胞で障害を受けており、IkB kinase-g/NEMO 欠損

細胞でMAPキナーゼ活性化が低下していたことから、UBC13はIkB kinase-g/NEMO

のユビキチン化を介して MAP キナーゼ活性化を誘導するものと考えられた。

これに対し、T細胞において UBC13 を欠損するマウスにおいては胸腺における T

細胞分化に異常を認めなかったが末梢の T 細胞の著明な減少を認めた。更に、

この T 細胞は抗原受容体刺激に対する増殖反応が障害されており、更に NF-kB

や MAP キナーゼ活性化も障害されていた。従って、UBC13 は T細胞において NF-kB

経路にも重要な役割を果たしていることが明らかとなった。

3.5.IL-1R-associated kinase-4 (IRAK-4)のキナーゼ活性の生体内のおけ

る役割 (Ref. 14)

TLR シグナルにおいて重要なアダプターMyD88 は IRAK ファミリー分子を活性化

し細胞内にシグナルを伝える。4個の IRAK ファミリー分子のうち IRAK-4 は特に

TLR シグナルに重要であることが分かっている。しかしながら、そのキナーゼ活

性の TLR シグナルにおける意味は明かではなかった。そこで、IRAK-4 のキナー

ゼ活性を不活化する変異を導入したノックインマウスを作製、同時に作製した

IRAK-4 ノックアウトマウスと比較して解析を行った。その結果、IRAK-4 のキナ

ーゼ活性は TLR 刺激に対する細胞の応答に必須であることが明らかとなった。

しかし、細胞内シグナル伝達経路の活性化をこれらのマウス細胞を用いて検討

すると、MyD88 依存性シグナル伝達経路の活性化が IRAK-4 欠損細胞では欠如せ

ず、MyD88 依存性 IRAK-4 非依存性シグナル伝達経路の存在が明らかとなった。

また、T細胞受容体シグナルにも IRAK-4 が関わることが報告されてきたが、我々

の検討ではこの現象を認めることが出来ず、IRAK-4 は TLR/IL-1R に対する応答

に重要であると考えられた。

18

Page 9: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

4.TLR 非依存性病原体認識機構

4.1.Retinoic Acid-Inducible gene I (RIG-I)の生体内における機能解析

(Ref. 15)

RIG-I は藤田らによって同定された Caspase recruit domain (CARD)及びヘリカ

ーゼ領域を持つ細胞質内蛋白である。RIG-I は二本鎖 RNA に結合し、ウイルス感

染における IFN 反応に関わっていることが示唆されていた。我々は、RIG-I の生

体内における役割、及び TLR との関係を調べる目的で RIG-I 欠損マウスを作製

し、解析を行った。RIG-I 欠損マウスはほとんどが胎性致死であるが、胎児線維

芽細胞を用いた解析から RIG-I が、NDV、VSV、Sendai virus などの RNA ウイル

ス感染時の IFN-β遺伝子の発現に必須である事が明らかとなった(図4A, B)。

また、比較的少数ながら生まれてくる個体の樹状細胞を用いた解析から、

conventional 樹状細胞においても RIG-I が RNA ウイルス認識には必須である事

を明らかにした。これに対し、TLR は線維芽細胞やミエロイド樹状細胞において

ウイルス認識に大きな役割を果たしていなかった(図4A)。しかしながら、プ

ラズマサイト様樹状細胞においては RIG-I は必須ではなく、TLR 依存性経路がよ

り重要な役割を果たしている事が明らかとなった。このように RIG-I と TLR シ

ステムは生体において、細胞特異的にその役割を果たしていると考えられた。

4.2.RIG-I ファミリー分子 MDA5 の機能解析 (Ref. 16)

RIG-I を含むヘリカーゼはファミリーを形成する。そのファミリーに属する蛋白

には Melanoma differentiation-associated gene 5 (MDA5)/Helicard、Lgp2 が

挙げられる。MDA5 は RIG-I と同様に CARD とヘリカーゼ領域を持ち、Lgp2 はヘ

リカーゼ領域のみによりなる。しかしながら、MDA5 と RIG-I の機能はよく分か

っていなかった。MDA5欠損マウスを作製し、解析すると、MDA5欠損マウスはRIG-I

欠損マウスと異なりメンデルの法則に従い生まれ、成体を得ることが可能であ

った。また、そのウイルス感染における役割を検討すると MDA5 は RIG-I により

認識される NDV、Sendai virus、VSV などに対する反応はほぼ正常であったが、

Picornavirus 属である EMCV や Theiler’s virus に対する反応性は欠如してお

り、RIG-I と MDA5 が異なったウイルスの認識に重要であることが明らかとなっ

た。更に、MDA5 欠損マウスは in vivo での EMCV 感染に対し易感染性を示し、MDA5

による認識が感染防御において重要な役割を果たしていることが明らかとなっ

た。

19

Page 10: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

5.生体内における I型 IFN 産生細胞の同定 (Ref. 17)

上述のように RNA ウイルス感染に対する IFN 産生はミエロイド樹状細胞や線維

芽細胞などの様々な細胞では RIG-I や MDA5 などのヘリカーゼタンパク質に、

plasmacytoid樹状細胞(pDC)においてはTLRシステムにより担われていることが

明らかとなってきた。しかしながら、実際のウイルス感染時にどのような細胞

から I型 IFN が産生されるのかは明らかになっていなかった。そこで、Ifna6 プ

ロモーター下で green flourescense protein (GFP)を発現するレポーターマウ

スを作製し、ウイルス感染に対する IFN-a 産生細胞を解析した。In vitro にお

いて、GFP の発現はウイルス感染により増強し、その発現は IFN-a 遺伝子発

4図4 RIG-I/MDA5 のウイルス感染認識における機能

((A)線維芽細胞における NDV 感染に対する IFN 反応。野生型、MyD88/TRIF、RIG-I 欠損細

胞に NDV を感染後、IFN 誘導遺伝子群の発現を解析した。MyD88 欠損細胞においては野生型

と同様に IFN 遺伝子発現を認めたが RIG-I 欠損細胞においてはこの発現が欠如していた。

(B)RIG-I を介したシグナル伝達の模式図。RIG-I は細胞質内でウイルス二本鎖 RNA を認

識し、IPS-1 (分子間グループ参照)、TBK1/IKK-i を介して IFN 遺伝子発現を誘導する。

20

Page 11: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

現や、細胞内 IFN-a 染色の結果と一致していた。興味深いことに、GFP 発現は

IFN-a6 のみでなく他の IFN-a 遺伝子の発現とも相関していた。まず、このマウ

スを用いて全身性の Newcastle Disease Virus 感染に対する IFN 産生細胞を検

討すると、pDC が多く GFP を発現し、更に cDC やマクロファージも GFP を発現す

るという結果を得た。これまでの知見の通り pDC における IFN 産生は MyD88、cDC

やマクロファージにおける産生は IPS-1 に依存していた。次に局所ウイルス感

染に対する IFN 産生細胞を呼吸器感染を例として解析した。その結果、全身感

染とは異なり、肺における IFN 産生細胞は肺胞マクロファージと cDC であり、

pDC は IFN を産生しないことが明らかとなった。しかしながら、肺胞マクロファ

ージを deplete したり IPS-1 を欠損させたような場合には、pDC が IFN を産生す

るようになり、pDC は first line の防御機構が破れたような場合にバックアッ

プシステムとして働いているものと考えられた。

5.TIR ドメインを持つアダプター分子欠損マウスを用いた TLR 遺伝子発現の網

羅的解析

5.1.MyD88、TRIF 欠損マウスを用いた LPS 誘導遺伝子群の網羅的解析(Ref.

18)

LPS は TLR4 を介して様々な遺伝子発現を誘導し、生体防御反応を活性化する。

これまでの研究から TLR4 シグナルはアダプター分子 MyD88、TRIF により担われ、

シグナル伝達経路が活性化させることが明らかとなっていた。しかしながら、

MyD88 依存性、TRIF 依存性シグナルの LPS 誘導遺伝子群の発現における役割の

総合的な役割はよく分かっていなかった。本研究において我々は LPS 誘導遺伝

子群の MyD88、TRIF 依存性を、マイクロアレーを用い網羅的に解析した(図5

A)。野生型マクロファージを LPS で刺激すると約 150 の遺伝子が誘導された。

これに対し、MyD88/TRIF 両欠損細胞では全く遺伝子発現が誘導されず、TLR4 シ

グナルは必ず MyD88、TRIF のどちらかを介して伝達されると考えられた。また、

LPS 誘導遺伝子群は MyD88、TRIF 依存性から 4つのクラスターに分類された。こ

のうち、MyD88 のみまたは、MyD88/TRIF 両方に依存するクラスターは主にサイ

トカインやケモカイン遺伝子が占め、TRIF のみに依存するクラスターは IFN 誘

導遺伝子群がその多くを占めた(図5B)。これに対し、100 以上の遺伝子を含

む大きなクラスターは MyD88、TRIF のどちらにも大きく依存せず、これらの遺

21

Page 12: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

伝子群は MyD88、TRIF の両遺伝子により調節されている事が明らかとなった。

図5 LPS 誘導遺伝子群の網羅的解析

(A) LPS 刺激により誘導される遺伝子の MyD88、TRIF、MyD88/TRIF 欠損細胞依存性。それぞれの細胞を

LPS で 0, 1, 4 時間刺激し RNA を回収、microarray 解析を行った。LPS 誘導遺伝子群をクラスター解析

し、そのヒートマップ作製を行った。LPS 誘導遺伝子群は大きく4つのクラスターに分類され、クラス

ターIは MyD88 もしくは TRIF 欠損細胞において発現誘導される群、II は MyD88 のみに依存する群、III

は両方が必要な群、IV は TRIF のみに依存する群と考えられた。(B)クラスターII, III, IV に属する

遺伝子についてその遺伝子名を示す。

22

Page 13: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

6.VP1686, a Vibrio Type III Secretion Protein, Induces Toll-Like Receptor Independent Apoptosis in Macrophage Through NF-kB Inhibition (Ref. 19) Vibrio parahaemolyticus, causative agent of human gastrointestinal diseases, possesses several

virulent machineries including thermostable direct hemolysin (tdh) and type III secretion

systems (TTSS1 and 2). In this report, we establish that TTSS1 dependent secretion and

translocation of a V. parahaemolyticus effector protein VP1686 into the cytosol induces DNA

fragmentation in macrophages. We performed yeast two hybrid screening to identify the

molecules involved in VP1686-mediated cell death pathways and showed that nuclear factor

RelA p65/NF-kB physically interacts with VP1686. To understand the impact of this interaction

on the NF-�B DNA-binding activities in infected-macrophages, we analyzed a series of

deletion mutants for the TTSS and its secreted proteins. Induction of DNA binding activity of

NF-kB was significantly suppressed and increased macrophage apoptosis has been associated

with V. parahaemolyticus strain which contains both VP1686 and TTSS1. Macrophages

lacking Toll-Like Receptor adaptor molecules MyD88 or TRIF showed similar sensitivity to

VP1686.

As a consequence of NF-kB suppression, microarray analysis has revealed that VP1686

translocation alerted the expression of many genes which have known functions in cellular

responses to apoptosis, cell growth, and transcriptional regulation. Our results suggest an

important role for Vibrio effector protein VP1686 that activate a conserved apoptotic pathway in

macrophages through suppression of NF-kB activation independent of TLR signaling.

I II

III

IV

V VI

VII

ΔTTSS-1

ΔTTSS-2

Medium

23

Page 14: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

Table.Signaling pathways modulated in macrophages infected with TTSS1 mutants Gene name Genebank ID ΔTT1/con ΔTT2/con ΔTT2/ ΔTT1 Signaling pathways

7.Translocation of VP1686 upregulates RhoB and accelerates phagocytic activity of

macrophage through actin remodeling

Here we report that Vibrio parahaemolyticus induces a rapid remodeling of macrophage actin

and activates RhoB GTPase. Mutational analysis revealed that the effects depend on Type III

Secretion System 1 regulated translocation of a V. parahaemolyticus effector protein, VP1686,

into the macrophages.

Rgs1 NM_015811 2.54 33.75 13.3 G-protein coupled receptor protein signaling Opn3 NM_010098 7.38 10.46 1.4 G-protein coupled receptor protein signaling Klf6 NM_011803 1.47 4.19 2.9 Cytokine and chemokine mediated signaling Csnk2a1 BB283759 2.45 4.13 1.7 Wnt receptor signaling pathway Rgs2 AF215668 0.58 3.22 5.5 G-protein / Cell cycle signal transduction Cd47 NM_010581 3.05 2.51 0.8 Integrin-mediated signaling pathway Ccr1 AV231648 2.50 19.70 7.9 Myeloid cell differentiation signaling pathway Entpd1 BI151440 14.50 6.75 0.5 Platelet activation signaling pathway Ptger3 D17406 0.23 0.27 1.2 Cytosolic calcium ion regulation pathway Jag2 AV264681 0.42 0.21 0.5 Cell communication/Notch signaling pathway Gria3 BM220576 5.54 6.91 1.2 Potassium ion transport pathway Akt1s1 BF019839 3.72 4.40 1.2 Notch signaling pathway Ltbp3 BB324823 0.19 0.10 0.5 TGF-β receptor signaling pathway 2

24

Page 15: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

Remodeling of actin is shown to be necessary for increased bacterial uptake followed by

initiation of apoptosis in macrophages. This provides evidence for functional association of the

VP1686 in triggering eat-me-and-die signal to the host.

8.Mechanisms that link telomere-mediated genomic instability and inflammation in tumorigenesis Telomere is a repetitive non-coding DNA consists of the sequences TTAGGG which caps the

eukaryotic linear chromosomes at each end and protects chromosomes from being recognized as

damaged DNA and thus confers genomic integrity. Telomerase, a ribonucleoprotein, has been

shown to be critically important for the maintenance of a constant telomere length in vitro and

in vivo. In human cells, telomeres shorten with each cell division due to the incomplete

replication of linear DNA molecules and the absence of telomere-elongating mechanisms which

is related to the concepts of longevity and tumorigenesis. It has been shown that age-dependent

0 20 40 60 80 100

ΔTTSS-1

ΔTTSS-2

ΔVP1686

ΔVP1683

Medium

CFU recovered

A

B

WT PEC

MyD88-/- PEC

Phalloidin

GFP Merge

C

GFP

DIC

25

Page 16: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

telomere shortening and associated chromosomal instability may cause decreased body weight,

reduced capacity to respond to stress such as wound healing, increased incidence of spontaneous

malignancies, and specific skin defects. Importantly, ataxia telangiectasia mutated gene (Atm)

maintains genomic stability by activating a key cell-cycle checkpoint response in response to

DNA damage, telomeric instability or oxidative stress. Chromosomal instability can occur when

the DNA damage response and repair process fail, resulting in syndromes characterized by

growth abnormalities, haematopoietic defects, immunodeficiency, mutagen sensitivity, and

cancer predisposition.

Although there is considerable knowledge of how genomic instability and DNA damage trigger

cell cycle arrest, DNA repair, and apoptosis, little is known about its potential role in immune

responses. By using spleenocytes, peritoneal macrophages and bone marrow-derived

macrophages from wild type and from mice lacking the mouse telomerase RNA (mTERC) gene,

we have found that immune cells derived from mTERC-/- mouse produced significantly higher

amount of inflammatory cytokines and chemokines including TNF� and IL6 in response to

lipopolysaccahraide (LPS) than wild type and mTERC-/+ cells. The aforementioned results

3

WT-MEF mTERC -/-

DIC

Micronucleated

WTWT+LPS

mTERC (+/-)

mTERC (+/-) +LPS

mTERC (-/-)

mTERC (-/-) +LPS

IL-6

(pg/

ml)

0

2000

4000

6000

8000

10000

WT-spleenocyte mTERC-/-spleenocyte

26

Page 17: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

prompted us to study the function of innate immune receptors or Toll-like receptors (TLRs) in

mTER-/- mice. The mammalian innate immune system plays an essential role in recognizing

pathogen associated molecular patterns (PAMPs) on immune cells through TLRs , and in

stimulating the production of cytokines and other proinflammatory mediators. LPS, one of

PAMPs, is recognized by a complex of cell surface receptors composed of CD14, MD-2 and

TLR4. MyD88 is a central adapter shared by almost all TLRs and TRIF is used in TLR4

signaling activated by bacterial LPS independent of MyD88. Another study from Akira’s group

suggests that the expression of IkB� is required for TLR-mediated production of IL6 because

production of IL6 by various TLR ligands including LPS was profoundly inhibited in IkBζ cells.

Given that IkBζ is an inducible protein in TLR signaling pathways, the upregulation of

pro-inflammatory interleukins such as IL6 in mTER-/- mice may be controlled at least by IkBζ.

While clinical and epidemiological studies have suggested a strong association between chronic

inflammation and the development of cancer, mechanisms that link innate immunity and

genomic instability behind the neoplastic processes are yet to be unraveled.

27

Page 18: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

(4)まとめと今後の展開

我々のこれまでの研究により、各 TLR の認識するリガンドはほぼすべて明ら

かとなった。本プロジェクト研究において、TLR のシグナル伝達に関わるアダプ

ター分子の生体内における機能を解析し、TRIF が TLR3、TLR4 刺激に対する IFN

誘導遺伝子群を始めとした生体反応に重要な役割を果たしていること、また

TRAM が TLR4 シグナル伝達において TRIF 活性化に必須であることが明らかとな

った。これに対し、例えば TLR2 シグナルには TRIF は必要ではなく、TLR2 リガ

ンドの刺激によっては野生型の細胞でも IFN 誘導遺伝子群は発現を認めない。

従って、異なった TLR が異なった TIR ドメインを持つアダプター分子を利用す

ることにより、TLR によって特徴的な遺伝子発現を行っていると考えられた。

TLR を介した病原体認識は哺乳類における生体防御に重要な役割を担ってい

るが、TLR 非依存性経路も大きな役割を果たしていることが明らかとなってきた。

我々は、ウイルス感染においてこの TLR 非依存性経路に関わると考えられた

RIG-I や MDA5 に関しても解析を加え、これらの分子が細胞質内において異なっ

たウイルスの認識に関わっていることを示した。しかしながら、これらの分子

のウイルス感染における遺伝子発現に対する包括的な役割は明らかとなってい

ない。RIG-I、MDA5 の欠損マウスを用いた、ウイルス感染に対する遺伝子発現を

網羅的に解析していきたい。また、RIG-I や MDA5 がどのようにウイルス核酸を

認識しているかはまだ十分に明らかとなっていない。今後、これらの分子によ

り認識される各コンポーネントについて詳細な解析を行っていきたい。

また、TBK1/IKK-i はプラズマサイト様樹状細胞をのぞいて、TLR 依存性、非

依存性両方の IFN 遺伝子誘導に必須の役割を果たしていることが明らかとなっ

た。従って、これらの経路は別々に働いているのではなく互いにクロストーク

を行っていることが示された。しかしながら、これらのシステムの、成体の感

染防御における役割、TLR システムの関わりに関してはまだ、十分に明らかでは

ない。今後、in vivo におけるこれらの分子の自然免疫反応や、更には獲得免疫

の活性化における役割を解析していきたい。また、in vivo のウイルス感染に対

する免疫応答を明らかにするために Ifna6 遺伝子発現をモニターするマウスを

作製し解析を行った。その結果、これまで in vitro の解析から得られたものと

は異なる細胞群が IFN-a を産生することが明らかとなり、その産生細胞は感染

経路により異なる事が分かってきた。今後、これらのレポーターマウスを組み

合わせることによりウイルスや細菌感染における免疫応答のダイナミックな変

化を明らかにしていきたい。

28

Page 19: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

(5)文献リスト

1. Akira, S., S. Uematsu, and O. Takeuchi. 2006. Pathogen recognition and

innate immunity. Cell 124:783-801.

2. Yamamoto, M., S. Sato, H. Hemmi, K. Hoshino, T. Kaisho, H. Sanjo, O.

Takeuchi, M. Sugiyama, M. Okabe, K. Takeda, and S. Akira. 2003. Role

of adaptor TRIF in the MyD88-independent toll-like receptor signaling

pathway. Science 301:640-643.

3. Yamamoto, M., S. Sato, H. Hemmi, S. Uematsu, K. Hoshino, T. Kaisho,

O. Takeuchi, K. Takeda, and S. Akira. 2003. TRAM is specifically

involved in the Toll-like receptor 4-mediated MyD88-independent

signaling pathway. Nat Immunol 4:1144-1150.

4. Heil, F., H. Hemmi, H. Hochrein, F. Ampenberger, C. Kirschning, S.

Akira, G. Lipford, H. Wagner, and S. Bauer. 2004. Species-specific

recognition of single-stranded RNA via toll-like receptor 7 and 8.

Science 303:1526-1529.

5. Diebold, S. S., T. Kaisho, H. Hemmi, S. Akira, and C. Reis e Sousa.

2004. Innate antiviral responses by means of TLR7-mediated recognition

of single-stranded RNA. Science 303:1529-1531.

6. Uematsu, S., M. H. Jang, N. Chevrier, Z. Guo, Y. Kumagai, M. Yamamoto,

H. Kato, N. Sougawa, H. Matsui, H. Kuwata, H. Hemmi, C. Coban, T. Kawai,

K. J. Ishii, O. Takeuchi, M. Miyasaka, K. Takeda, and S. Akira. 2006.

Detection of pathogenic intestinal bacteria by Toll-like receptor 5

on intestinal CD11c+ lamina propria cells. Nat Immunol 7:868-874.

7. Hemmi, H., O. Takeuchi, S. Sato, M. Yamamoto, T. Kaisho, H. Sanjo, T.

Kawai, K. Hoshino, K. Takeda, and S. Akira. 2004. The roles of two

IkappaB kinase-related kinases in lipopolysaccharide and double

stranded RNA signaling and viral infection. J Exp Med 199:1641-1650.

8. Matsui, K., Y. Kumagai, H. Kato, S. Sato, T. Kawagoe, S. Uematsu, O.

Takeuchi, and S. Akira. 2006. Cutting edge: Role of TANK-binding kinase

1 and inducible IkappaB kinase in IFN responses against viruses in

innate immune cells. J Immunol 177:5785-5789.

9. Yamamoto, M., S. Yamazaki, S. Uematsu, S. Sato, H. Hemmi, K. Hoshino,

T. Kaisho, H. Kuwata, O. Takeuchi, K. Takeshige, T. Saitoh, S. Yamaoka,

29

Page 20: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

N. Yamamoto, S. Yamamoto, T. Muta, K. Takeda, and S. Akira. 2004.

Regulation of Toll/IL-1-receptor-mediated gene expression by the

inducible nuclear protein IkappaBzeta. Nature 430:218-222.

10. Sato, S., H. Sanjo, K. Takeda, J. Ninomiya-Tsuji, M. Yamamoto, T.

Kawai, K. Matsumoto, O. Takeuchi, and S. Akira. 2005. Essential

function for the kinase TAK1 in innate and adaptive immune responses.

Nat Immunol 6:1087-1095.

11. Sato, S., H. Sanjo, T. Tsujimura, J. Ninomiya-Tsuji, M. Yamamoto, T.

Kawai, O. Takeuchi, and S. Akira. 2006. TAK1 is indispensable for

development of T cells and prevention of colitis by the generation of

regulatory T cells. Int Immunol 18:1405-1411.

12. Yamamoto, M., T. Okamoto, K. Takeda, S. Sato, H. Sanjo, S. Uematsu,

T. Saitoh, N. Yamamoto, H. Sakurai, K. J. Ishii, S. Yamaoka, T. Kawai,

Y. Matsuura, O. Takeuchi, and S. Akira. 2006. Key function for the Ubc13

E2 ubiquitin-conjugating enzyme in immune receptor signaling. Nat

Immunol 7:962-970.

13. Yamamoto, M., S. Sato, T. Saitoh, H. Sakurai, S. Uematsu, T. Kawai,

K. J. Ishii, O. Takeuchi, and S. Akira. 2006. Cutting Edge: Pivotal

function of Ubc13 in thymocyte TCR signaling. J Immunol 177:7520-7524.

14. Kawagoe, T., S. Sato, A. Jung, M. Yamamoto, K. Matsui, H. Kato, S.

Uematsu, O. Takeuchi, and S. Akira. 2007. Essential role of IRAK-4

protein and its kinase activity in Toll-like receptor-mediated immune

responses but not in TCR signaling. J Exp Med 204:1013-1024.

15. Kato, H., S. Sato, M. Yoneyama, M. Yamamoto, S. Uematsu, K. Matsui,

T. Tsujimura, K. Takeda, T. Fujita, O. Takeuchi, and S. Akira. 2005.

Cell type-specific involvement of RIG-I in antiviral response.

Immunity 23:19-28.

16. Kato, H., O. Takeuchi, S. Sato, M. Yoneyama, M. Yamamoto, K. Matsui,

S. Uematsu, A. Jung, T. Kawai, K. J. Ishii, O. Yamaguchi, K. Otsu, T.

Tsujimura, C. S. Koh, C. Reis e Sousa, Y. Matsuura, T. Fujita, and S.

Akira. 2006. Differential roles of MDA5 and RIG-I helicases in the

recognition of RNA viruses. Nature 441:101-105.

17. Yutaro Kumagai, Osamu Takeuchi, Hiroki Kato, Himanshu Kumar, Kosuke

30

Page 21: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

Matsui, Eiichi Morii, Katsuyuki Aozasa, Taro Kawai, and Shizuo Akira.

Alveolar macrophages are the primary interferon-a producer in

pulmonary infection with RNA viruses. Immunity In press

18. Hirotani, T., M. Yamamoto, Y. Kumagai, S. Uematsu, I. Kawase,

O. Takeuchi, and S. Akira. 2005. Regulation of

lipopolysaccharide-inducible genes by MyD88 and Toll/IL-1 domain

containing adaptor inducing IFN-beta. Biochem Biophys Res Commun

328:383-392.

19. Bhattacharjee RN, Park KS, Kumagai Y, Okada K, Yamamoto M, Uematsu S,

Matsui K, Kumar H, Kawai T, Iida T, Honda T, Takeuchi O, Akira S. 2006.

VP1686, a Vibrio type III secretion protein, induces toll-like

receptor-independent apoptosis in macrophage through NF-kappaB

inhibition. J Biol Chem. 281(48):36897-904.

31

Page 22: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

4-2 分子間相互作用グループ

グループリーダー 河合太郎

(1)背景と目的(Ref. 1-6)

各 TLR のリガンドが同定されると共に、そのシグナル伝達経路も明らかにさ

れつつある。すべての TLR からのシグナルは転写因子 NF-κB や MAP キナーゼフ

ァミリーを活性化させ、炎症性サイトカインを誘導する。一方、ある種の TLR

サブセットは IRF ファミリーを活性化し I型 IFN を誘導する。このように各 TLR

の持つ特異的経路の活性化が、各 TLR 特異的機能発揮に繋がっていると考えら

れている。これまでに各 TLR では結合するアダプター分子に違いがあることが

示されているが、これらアダプターの下流でどのような分子が活性化されてい

るかについては未だ不明な点が多い。

一方、TLR ファミリーに属さない分子群による病原体認識機構も報告されてい

る。二重鎖 RNA は TLR3 を介する経路と介さない経路が存在することが我々の作

製した TLR3 欠損マウスの解析から明らかとなっている。特に細胞質内に遊離し

た二重鎖 RNA は TLR3 では認識されず、RNA ヘリカーゼファミリーである RIG-I

およびそのファミリーメンバーであるMda5により認識される。また、TLR3同様、

RIG-I/Mda5 を介するシグナルは I 型 IFN や炎症性サイトカインを誘導するが、

その分子メカニズムは不明である。

従って、これら自然免疫系に関わる受容体群の機能を明らかにする為には、

それらのシグナル伝達経路をより詳細に解析する必要がある。また、TLR や

RIG-I/Mda5 を介するシグナル伝達経路の人為的制御は感染症等の治療へと繋が

る可能性があるため、これら受容体を介するシグナル伝達経路の基礎的な理解

は重要な命題であると考えられる。本研究グループは各 TLR、RIG-I/Mda5 のシ

グナルコンポーネントの同定やシグナル伝達経路の全容の解明を目指し以下の

ような結果を得た。

(2)成果の要約

1)各 TLR を介するシグナル伝達経路の解析

2)TLR 非依存的に誘導されるウィルス感染応答性シグナル伝達の解析

32

Page 23: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

(3)研究成果

1. 各 TLR を介するシグナル伝達経路の解析

1.1. TLR3、TLR4 を介するシグナル伝達経路の解析(Ref. 7)

TLRは細胞質内に存在するTIRと呼ばれる機能ドメインを介してシグナルが伝

達される。まず TLR リガンド刺激に応じて、MyD88 が TLR に結合する。MyD88 は

デスドメイン(DD)と TIR から成る細胞質内アダプター分子であり、TIR を介し

て TLR の TIR と結合する。さらに、IRAK1、IRAK4 キナーゼや TRAF ファミリーに

属する TRAF6 がリクルートされる。TRAF6 は TAK1 キナーゼを介して IKK 複合体

を活性化し、転写因子 NF-κB の活性化を誘導する(図1)。NF-κB は核内で作

用し TNFα、IL-6、IL-1βといった炎症性サイトカイン遺伝子発現誘導を制御し

ている。我々の作製した MyD88 欠損マウスは TLR リガンド刺激に対して炎症性

サイトカイン遺伝子の誘導を認めないことから、MyD88 依存的なこの経路の活性

化が各 TLR における共通のシグナル伝達経路としての役割を果たしているとい

える(Ref. 41, 48)。一方、MyD88 に依存しないシグナル伝達経路の存在も明ら

かとなっている。MyD88 欠損マウス由来マクロファージや樹状細胞を dsRNA

(TLR3 リガンド)や LPS(TLR4 リガンド)で刺激すると、転写因子 IRF3 の活性化

とその標的遺伝子であるIFNβやIFN誘導性遺伝子群が野生型と同程度誘導され

る(図1)。この MyD88 非依存経路の活性化は TIR ドメインを有する別のアダプ

ター分子であるTRIFを介して誘導されることが明らかとなっている(図1)(Ref.

41, 48)。また、TLR4 においては TIR を有するさらに2種類のアダプター

(TIRAP/MAL、TRAM)が結合しており、それぞれ MyD88 依存的経路、TRIF 依存的

経路の活性化に必須の役割を果たしている(図1)。しかしながら、TRIF を介し

てどのようにして NF-κB および IRF3 が活性化するかは不明な点が多かった。

我々は、TRIF を介する細胞質内シグナル伝達経路を明らかにするために、この

分子に会合する分子の同定を試みた。TRIF をベイトとして酵母ツーハイブリッ

ドスクリーニングを行ったところ、TRAF6 が得られた。また、実際に細胞内にお

いて両分子の会合を認めた(図2A)。TRAF6 は NF-κB を活性化する細胞質内分

子であることが知られている。TRIF の N 末端側には TRAF6 結合モチーフが存在

しており、このモチーフに変異を導入した TRIF は TRAF6 と会合できなかった。

また TRIF を細胞株に発現させると NF-κB の活性化と IFNβ プロモーターの活

性化を誘導するが、TRAF6 と結合できない変異型 TRIF を発現させた場合は NF-

κB の活性化のみ減少していた。したがって、TRIF は TRAF6 と直接会合し NF-

κB の活性化を誘導することが明らかとなった。一方、TRIF か

33

Page 24: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

ら I 型 IFN 誘導には転写因子 IRF3 が関与していることが示されているが、TRIF

がどのようにして IRF3 を活性化させるかは不明であった。我々は、IRF3 をリン

酸化する酵素である TBK1 が TRIF と複合体を形成することを明らとした(図2

B)。以上のことから、TRIF は TRAF6 および TBK1 と結合することにより NF-κB

および IRF3 をそれぞれ活性化し、最終的に炎症性サイトカインや I型 IFN の産

生を誘導することが明らかとなった(図2C)。

3 図1 TLR4 を介するシグナル伝達経路。TLR4 には4種のアダプター(MyD88, TIRAP/Mal,

TRIF, TRAM)が結合している。TRAM は TRIF 依存的経路の活性化に必須であり、TIRAP/Mal は MyD88

依存的経路の活性化に必須の役割を果たしている。TRIF 依存的経路は転写因子 NF-κB 及び IRF3

を活性化し、炎症性サイトカインや I型 IFN を誘導する。また、MyD88 依存的経路は IRAK4、TRAF6,

TAB1/2/3, TAK1 複合体を活性化し、NF-κB の活性化と炎症性サイトカインの誘導に関与する。

TLR3 は TRIF のみをアダプターとしているが、TRIF の下流においてどのようにして NF-κB、IRF3

が活性化するのかは不明な点が多い。

34

Page 25: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

1.2.TLR7、TLR9 を介するシグナル伝達経路の解析 (Ref. 8)

TLR7、TLR9 は形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid dendritic cells; pDC)に多

く発現していることが示されている。pDC はウィルス感染に伴って I型 IFN を大

量に産生することができる樹状細胞亜集団であることが知られている。実際、

ウィルス固有成分であるTLR7リガンド(一本鎖RNA)及びTLR9リガンド(CpG DNA)

で pDC を刺激すると I 型 IFN 産生が誘導される。また、遺伝子欠損マウスの解

析から、TLR7、TLR9 を介する I型 IFN 誘導には TRIF ではなく MyD88 に依存する

ことが明らかとなっている(図3)。そこで、MyD88 依存的経路をより詳細に解

析するため、我々は酵母ツーハイブリッドスクリーニングを行い結合分子の同

定を試みた。MyD88 のデスドメインを bait(餌)としてヒト脾臓 cDNA ライブラ

リーをスクリーニングした結果、IRF7 が得られた(図4A)。IRF7 は

図2 HEK293 細胞内における TRIF と TRAF6 の共免疫沈降。

HEK293 細胞内における TRIF と TBK1 キナーゼの共免疫沈降。

TRIF を介するシグナル伝達経路の図。TRIF は TRAF6, TBK1 と複合体を形成することにより

NF-κB, IRF3 を活性化する。

35

Page 26: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

IRF ファミリーに属する転写因子であり、IRF3 と高い相同性を示す。また、IRF7

は IFNβ プロモーターのみならず IFNα プロモーターも活性化することが示さ

れている。さらに IRF7 の発現量は多くの細胞では非常に弱いが、pDC では恒常

的に発現していることが報告されている。これらのことから、MyD88 依存的経路

により誘導される I型 IFN は IRF7 の活性化によるものであると考えられた。

まず、MyD88 が実際に細胞内で IRF7 と結合しているかを共免疫沈降法で調べ

たところ、確かに両者の結合を認めた(図4B)。一方、MyD88 と IRF3 の結合は

認められなかった。興味深いことに、IRF7 を MyD88 と共に発現させた場合に、

IRF7 のリン酸化によるバンドシフトが誘導された。IRF7 は IRF3 同様、ウィル

ス感染によりリン酸化され活性化することが知られていることから、MyD88 に結

合しているキナーゼが IRF7 をリン酸化し活性化させると考えられる。実際に、

MyD88 と IRF7 両分子を同時に発現させたところ、IFNα遺伝子プロモーターの

図3 TLR9 を介するシグナル伝達経路。TLR7、TLR9 は MyD88 依存的経路を活性化すること

により NF-κB を活性化し炎症性サイトカインを誘導する。一方、形質細胞様樹状細胞において

は、これら TLR からのシグナルは MyD88 依存的に I型 IFN を誘導することが知られている。

36

Page 27: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

相乗的な活性化を認めた(図4C)。さらに、実際に IRF7 が TLR のシグナル伝

達分子であるかを調べたところ、確かに CpG DNA 刺激による IRF7 の核内移行が

認められた。MyD88 欠損マウス由来細胞では IRF7 の核内移行は認められず、I

型 IFN 産生も障害されていた。また、MyD88 と結合することが知られている TRAF6

も IRF7 と結合し IFNαプロモーターを活性化させた。これらのことから、IRF7

が MyD88、TRAF6 と複合体を形成し、MyD88 依存的経路からの I 型 IFN 産生誘導

に関与していると結論付けられた。

1.3.TLR7、TLR9 を介する IRF7 活性化のメカニズムの解析 (Ref. 9)

TBK1 欠損マウス由来 pDC では CpG DNA による I 型 IFN 産生は正常であった。

図4 酵母内における MyD88 と IRF7 の結合。

HEK293 細胞内における MyD88 と IRF7 の共免疫沈降。MyD88 は IRF7 と複合体を形成するが IRF

とは形成しない。また、MyD88 の過剰発現は IRF7 のリン酸化(アスタリスク)を誘導する。

MyD88 と IRF7 を HEK293 細胞内に共発現させると IFNα4 および IFNα6 プロモーターを相乗的

活性化させる。また、この相乗的活性化は IRF3 では認められない。

37

Page 28: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

このことから pDC においては TBK1 以外のキナーゼが IRF7 のリン酸化に関与し

ていると考えられる。IRAK1 は MyD88 と結合するキナーゼであるが、その機能に

は不明な点が多かった。そこで、我々は IRAK1 が IRF7 をリン酸化するかどうか

検討した。その結果、IRAK1 が IRF7 と結合すること、また IRF7 の活性化に必須

な C 末端領域を in vitro でリン酸化することが明らかとなった。また、IRAK1

欠損マウス由来pDCでは TLR9リガンド刺激によるI型IFN誘導が顕著に減少し

ていた(図5A)。同様に TLR7 リガンドを投与した場合に誘導される血中の I

型 IFN 産生誘導も IRAK1 欠損マウスでは認められなかった。また、興味深いこ

とに、IRAK1 欠損マウス由来 pDC では TLR9 リガンド刺激による NF-κB の活性

化や、炎症性サイトカイン誘導は正常に誘導されていた(図5B)。このことは、

IRAK1 を介する経路は NF-κB 活性化に関与せず、IRF7 の活性化に特異的に関与

し て い る こ と を 示 し て い る 。 以 上 の こ と か ら 、 pDC に お い て

MyD88-TRAF6-IRAK1-IRF7 は複合体形成しており、TLR7、TLR9 リガンド刺激依存

的に IRAK1 が IRF7 をリン酸化し、リン酸化された IRF7 が核へと移行後、I 型

IFN を誘導することが明らかとなった(図5C)。

2.TLR 非依存的に誘導されるウィルス感染応答性シグナル伝達経路の解析

2.1.新規シグナル伝達分子 IPS-1 の同定 (Ref. 10)

TLR3、TLR7、TLR9 は主にエンドゾームに局在しており、エンドゾーム内に遊

離されたウィルス由来核酸を認識すると考えられている。しかしながら、ウィ

ルスが細胞質内へとエスケープし複製を始めると TLR3 では認識されず、細胞質

内に発現している RNA ヘリカーゼ RIG-I や Mda5 が二重鎖 RNA を認識するセンサ

ーとして機能する(Ref. 48)。RIG-I, Mda5 は CARD と呼ばれる機能ドメインと、

二重鎖 RNA 認識に関わるとされる RNA ヘリカーゼドメインを有している。特に

下流へのシグナル伝達分子の活性化には CARD が必須である。RIG-I、Mda5 から

のシグナルは NF-κB, IRF3, IRF7 を活性化し、I 型 IFN や炎症性サイトカイン

を誘導する。しかしながら、RIG-I、Mda5 がどのようにして IKK 複合体、 TBK1、

IKKi を活性化するのかは不明であった。

我々は IFNβプロモーターを活性化することのできる分子の単離を目的とし、

新たなスクリーニング法を確立した。まず、発現プラスミドに組み込まれた cDNA

ライブラリーを大腸菌にトランスフォームし、LBアンピシリンプレート約2,400

枚に播種した。この時、1プレートあたり 50-100 のコロニーが得られるように

38

Page 29: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

図5

(A)RAK1 欠損マウス由来形質細胞様樹状細胞におけるサイトカイン産生。TLR9 リガンド(D35)刺激による

IFNα産生誘導が IRAK1 欠損細胞では認められない。一方、TNFα産生は正常に誘導される。

(B) IRAK1欠損マウス由来形質細胞様樹状細胞ではTLR9リガンドによるIRF7の核内以降が認められない。

一方、NF-κB (Rel A)の核内以降は正常に認められる。

(C) TLR7, TLR9 を介するシグナル伝達経路。形質細胞様樹状細胞においては MyD88 は IRAK1、 TRAF6、 IRF7

と複合体を形成しており、刺激依存的に核内へと以降した IRF7 が I 型 IFN 誘導に関与する。また、IRAK1

は IRF7 のリン酸化酵素として機能する。

転換効率を計算した。各プレートからコロニーを回収し、プラスミド DNA を抽

出した。1プレート由来の DNA を1プールとして、各プール DNA を IFNβ プロ

モーターを有するルシフェラーゼレポータープラスミドと共にHEK293細胞にト

ランスフェクションし、各プールの持つ活性をルミノメーターにより計測した。

その結果、いくつかの陽性プールが得られた。さらに陽性プールから IFNβプロ

モーターを活性化する単一クローンを単離した。得られた陽性クローンの多く

は IRF ファミリーである IRF1, IRF3, IRF7 であったが、新規分子が1クローン

39

Page 30: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

得られた。この分子は 540 アミノ酸から成り、ホモロジー検索の結果、N末端側

に Mda5 および RIG-I の CARD と相同性を示す CARD が存在することが明らかとな

った。また、C末端には膜貫通領域が存在していた。我々はこの分子を IPS-1 (IFN

β promoter stimulator-1)と名づけ、解析を行った(図6A)。

IPS-1 の過剰発現は IFNβプロモーターに加え NF-κB プロモーターを活性化

した(図6B)。また、IPS-1 を過剰発現させた細胞では IRF3、IRF7 のリン酸化

が誘導されており、恒常的に I型 IFN を産生するようになった。一方、siRNA に

より IPS-1 の発現を抑制した細胞では二重鎖 RNA 刺激や一本鎖 RNA ウィルス感

染に応答した I 型 IFN の産生が有為に減少した(図6C)。また、IPS-1 を

TBK1/IKKi 欠損細胞に発現させても IFNβプロモーターを誘導しないことから、

IPS-1 はこれらキナーゼを介して IRF3、IRF7 を活性化していると考えられた。

IPS-1 の CARD を欠損した変異体は IFNβ、NF-κB プロモーターを活性化するこ

とができないことから、CARD を介してシグナルが伝達されると考えられる。共

免疫沈降の実験により、IPS-1 の CARD は RIG-I と Mda5 の CARD と複合体を形成

することが明らかとなった。従って、IPS-1 は RIG-I/Mda5 のアダプター分子と

して機能していると考えられる(図6D)。

2.2. IPS-1 を介するシグナル伝達経路の解析 (Ref. 11)

FADD は当初 Fas や TNF 受容体を介する細胞死伝達経路に関与する細胞質内ア

ダプター分子として同定された。最近、FADD がこれら受容体のみならず、二重

鎖RNAを介するシグナル伝達経路に必須な役割を果たしていることが示された。

すなわち、FADD 欠損マウス由来胎児繊維芽細胞では、二重鎖 RNA 刺激による I

型 IFN や炎症性サイトカイン誘導が認められない。また、我々の結果より IPS-1

と FADD が複合体を形成することが明らかとなっている(図6D)。しかしなが

ら、FADD がどのようにして下流へとシグナルを伝達しているのかは不明である。

そこで、我々は FADD をベイトとして酵母ツーハイブリッド法を行った。その結

果、Caspase-10 が得られた。Caspase-10 は Caspase-8 と相同性を示すプロテア

ーゼである。また、Caspase-8 は FADD と結合し、Fas や TNF 受容体を介するシ

グナル伝達分子であることが示されている。そこで我々は二重鎖 RNA を介する

シグナル伝達経路にこれら Caspase がどのような役割を果たしているのかを解

40

Page 31: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

析した。Caspase-8、Caspase-10 は二重鎖 RNA 刺激後において自己切断され、

図6 IPS-1 の構造。IPS-1 は N 末端に CARD ドメインを有する。このドメインは Mda5、RIG-I

の CARD と高い相同性を示す。また、C 末端には膜貫通部分が存在している。RIG-I、Mda5 には N

末端側に2つの CARD ドメインが存在し、C 末端には二重鎖 RNA 認識に関与すると考えられる RNA

ヘリカーゼドメインが存在している。

IPS-1 を HEK293 細胞内に過剰発現させると IFNβおよび NF-κB プロモーターを活性化する。

IPS-1 をノックダウンした HEK293 細胞(1, 2)を New Castle Disease Virus (NDV)、Vesicular

Stomatitis Virus (VSV)で刺激した場合に誘導される IFNβは対照細胞(c)と比較して顕著に減弱

している。ウィルス感染後の培養上清を ELISA 法で測定した。

RIG-I/Mda5 を介するシグナル伝達経路。RIG-I/Mda5 は CARD を介してアダプター分子 IPS-1 と結

合する。IPS-1 は TBK1/IKKi を介して IRF3, IRF7 のリン酸化を促し I型 IFN 発現を誘導する。ま

た、IPS-1 は FADD、Caspase-8/10 と複合体を形成するが、この複合体は NF-κB 活性化に必要で

ある。IPS-1 はミトコンドリア膜に局在している。

41

Page 32: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

また切断型 Caspase-8、Caspase-10 を過剰発現させると NF-κB の活性化が誘導

された。一方、siRNA で Caspase-8、Caspase-10 をノックダウンした細胞では

IPS-1 過剰発現や二重鎖 RNA 刺激による NF-κB の活性化ならびに炎症性サイト

カインの誘導が減少していた。同様の結果は Caspase-8 欠損マウス由来胎児繊

維芽細胞でも得られた。これらのことから、Caspase-8、Caspase-10 が IPS-1 の

下流に位置しており、NF-κB の活性化に関与することが明らかとなった(図6

D)。

2.3. IPS-1 の生体内での役割 (Ref. 12)

IPS-1 の役割をさらに解析するために、IPS-1 欠損マウスの作成を常法に沿っ

て作製した。IPS-1 欠損マウスはメンデルの法則に従い誕生し、正常に発育した。

さらに、マクロファージ、DC、B、T リンパ球の表面抗原マーカーの発現も正常

であった。まず、IPS-1 欠損マウス由来 MEF 細胞を用い、ウイルスに対する反応

性を検討した。RIG-I により認識される RNA 型ウイルス(VSV:水疱性口内炎ウ

イルス、NDV:ニューカッスル病ウイルス、SeV:センダイウイルス)の感染に

対する I 型 IFN ならびに炎症性サイトカインの産生誘導が著しく減少していた

(図7A)。また、同様の現象はコンベンショナル DC やマクロファージでも認め

られた。一方、Mda5 により認識される脳心筋炎ウイルス(EMCV)感染によるサイ

トカイン産生もIPS-1欠損マウスから取り出した細胞で顕著な減少を示した(図

7B)。さらに VSV および EMCV をマウスに感染させた場合、IPS-1 欠損マウスは

野生型マウスと比べて臓器でのウイルス量の増加を認めると共に、早期に死亡

した。また、NDV 感染後の NF-・B や IRF3 の活性化も IPS-1 欠損マウスの MEF で

は認められなかった(図7C, D)。以上のことから、IPS-1 は RIG-I と Mda5 に共

通で使用されるアダプター分子であり、下流のシグナル伝達経路の活性化に必

須の役割を果たしていることが明らかとなった。

一方、IPS-1 欠損マウス由来細胞は B型の右巻き DNA 刺激、DNA ウイルスであ

るワクシニアウイルス感染に対してほぼ正常に I 型 IFN を誘導した。また、

MyD88/TRIF 欠損細胞においても、これらに対する反応は正常であることが示さ

れている。したがって、IPS-1、MyD88/TRIF 非依存的な経路を活性化する未知の

二重鎖 DNA 認識センサーの存在が示唆された。

42

Page 33: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

図7

(A)IPS-1 欠損マウス由来 MEF 細胞 RIG-I で認識される RNA ウイルス(NDV, VSV, SeV)感染後のサイトカイ

ン誘導が減弱している。

(B)IPS-1 欠損マウス由来マクロファージは Mda5 で認識される RNA ウイルス(EMCV)感染後のサイトカイン

誘導が顕著に減弱している。

(C)IPS-1 欠損マウス由来 MEF 細胞では、NDV 感染後の NF-kB の活性が認められない。

(D)IPS-1 欠損マウス由来 MEF では、NDV 感染後nIRF3 の活性が認められない。

2.4. poly IC 認識における IPS-1 ならびに TRIF 依存的経路の役割 (Ref. 13)

これまでの研究から、poly IC は TLR3 ならびに Mda5 という二つの異なる分子

により認識されることが明らかとなっている。また、poly IC は、免疫応答を増

強させるアジュバントとしての機能を有することが知られている。しかしなが

ら、poly IC の認識とその後誘導される免疫応答について、両分子がどのように

関与しているのかは分かっていない。そこで、我々は、poly IC 認識における両

分子の役割について TRIF 欠損マウス、IPS-1 欠損マウス、TRIF/IPS-1 二重欠損

マウスを用い、比較を行った。卵白アルブミン(OVA)を poly IC と共に免疫し、

誘導される OVA 特異的 IgG 産生を調べたところ、IPS-1 欠損マウスでは野生型と

43

Page 34: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

比べて減弱していたが、TRIF 欠損マウスはほぼ正常であった。一方、TRIF/IPS-1

二重欠損マウスでは OVA 特異的 IgG 産生が認められなかった。さらに、細胞障

害性 T 細胞の誘導を検討したところ、IPS-1 欠損マウス、TRIF 欠損マウスとも

に減少を示す一方、TRIF/IPS-1 二重欠損マウスでは誘導はまったく認められな

かった。これらのことから、poly IC によるアジュバント効果は TRIF と IPS-1

を介する両経路の活性化により最大限に発揮されることが明らかとなった。

(4)まとめと今後の展開

以上のように、我々は各TLRが持つ特有の機能がいかにして発揮されるかを、

シグナル伝達経路の違いから明らかにしてきた。二重鎖 RNA を認識する TLR3 は

TRIF を介し、TRAF6 をリクルートし NF-κB を活性化させ、炎症性サイトカイン

を誘導することを示した。一方、TRIF は TBK1 をリクルートすることにより IRF3

を活性化し、I 型 IFN を誘導することを明らかにした。また、ウイルス一本鎖

RNA および DNA 認識に関与する TLR7、TLR9 は TRIF ではなく MyD88 を介して I型

IFN を誘導するが、この誘導には MyD88、IRAK1、TRAF6、IRF7 を含む複合体形成

が必須であることを明らかとした。また、二重鎖 RNA 認識には TLR3 非依存的機

構が存在しており、この認識には RNA ヘリカーゼである RIG-I や Mda5 が必須な

役割を果たしていることが示されている。我々は RIG-I/Mda5 を介するシグナル

伝達経路に重要な役割を果たしていると考えられる IPS-1 を同定した。さらに

IPS-1 は TBK1 を介して IRF3 および IRF7 を活性化することにより I 型 IFN を誘

導すること、Caspase-8 を活性化することにより炎症性サイトカインを誘導する

ことも見出した。 また、IPS-1欠損マウスを作成することにより、IPS-1がRIG-I

と Mda5に共通に利用されるアダプター分子であることが示された。さらに、TRIF

欠損、IPS-1 欠損マウスを用いた実験から、TLR3 と Mda5 の両者を介するシグナ

ル伝達経路の活性化が poly IC のもつアジュバント効果発揮に必須であること

が明らかとなった。一方、IPS-1 経路や TLR 経路を使わない新たな二重鎖 DNA 認

識センサーが存在することが我々の実験結果から示唆された。このセンサーの

同定ならびにそのシグナル伝達機構の解明は今後の課題である。

さらに、今後は TLR、RIG-I/Mda5、未知 DNA センサーからのシグナル伝達経路

の詳細を浮き彫りにすることや、誘導されてくる遺伝子群の特徴をすべからく

把握することを目指す。具体的には、我々の発見した TLR の細胞質内アダプタ

ー分子群(MyD88、TRIF、TIRAP、TRAM)や RIG-I/Mda5 の細胞質内アダプター分

44

Page 35: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

子 IPS-1 を中心に、これらと相互作用するシグナルコンポーネントの同定を酵

母ツーハイブリッド法や免疫沈降法を駆使して行っていく。また、各シグナル

コンポーネントを欠損したマウスの作製及び解析を通し、各センサーからの特

異的シグナル伝達経路ならびに特異的に誘導されてくる遺伝子を明らかにして

いくことを目指す。同時に、各センサーが実際にどのような免疫細胞で機能し、

どのような生体防御反応を惹起させるのかを検討し、各センサーからの自然免

疫反応発動メカニズムならびに特異的免疫応答誘導メカニズムの理解を目指し

たい

(5)文献リスト

1. Kawai T, Akira S. Pathogen recognition with Toll-like receptors. Curr.

Opin. Immunol. 17(4):338-344, 2005.

2. Kawai T, Akira S. TLR-signaling. Cell Death Differ. 13(5):816-825,

2006.

3. Kawai T, Akira S. Innate immune recognition of viral infection. Nat.

Immunol. 7(2):131-7,2006.

4. Kawai T, Akira S. SnapShot: Pattern-Recognition Receptors. Cell

129(5):1024, 2007

5. Kawai T, Akira S. TLR signaling. Semin. Immunol. 19(1):24-32, 2007

6. Kawai T, Akira S. Antiviral signaling through pattern recognition

receptors. J. Biochem (Tokyo). 141(2):137-45, 2007

7. Sato S, Sugiyama M, Yamamoto M, Watanabe Y, Kawai T, Takeda K, Akira

S. Toll/IL-1 receptor domain-containing adaptor inducing IFN-β

(TRIF) associates with TNF receptor-associated factor 6 and

TANK-Binding kinase 1, and activates two distinct transcription

Factors NF-κB and IFN-regulatory factor-3 in the Toll-like receptor

signaling. J. Immunol. 171(8):4304-10,2003.

8. Kawai T, Sato S, Ishii KJ, Coban C, Hemmi H, Yamamoto M, Terai K, Matsuda

M, Inoue JI, Uematsu S, Takeuchi O, Akira S. Interferon-alpha induction

through Toll-like receptors involves a direct interaction of IRF7 with

MyD88 and TRAF6. Nat. Immunol. 5(10):1061-8,2004.

45

Page 36: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

9. Uematsu S, Sato S, Yamamoto M, Hirotani T, Kato H, Takeshita F, Matsuda

M, Coban C, Ishii KJ, Kawai T, Takeuchi O, Akira S. Interleukin-1

receptor-associated kinase-1 plays an essential role for Toll-like

receptor (TLR)7- and TLR9-mediated interferon-alpha induction.

J. Exp. Med. 201(6):915-23,2005.

10. Kawai T, Takahashi K, Sato S, Coban C, Kumar H, Kato H, Ishii KJ,

Takeuchi O, Akira S. IPS-1, an adaptor triggering RIG-I- and

Mda5-mediated type I interferon induction. Nat. Immunol. 6(10):981-8,

2005.

11. Takahashi K, Kawai T, Kumar H, Sato S, Yonehara S, Akira S. Cutting

edge: roles of caspase-8 and caspase-10 in innate immune responses to

double-stranded RNA. J. Immunol. 15;176(8):4520-4,2006.

12. Kumar H*, Kawai T*, Kato H, Sato S, Takahashi K, Coban C, Yamamoto M,

Uematsu S, Ishii KJ, Takeuchi O, Akira S (*equal contribution).

Essential role of IPS-1 in innate immune responses against RNA viruses.

J. Exp. Med. 203:1795-803,2006.

13. Kumar H*, Koyama S*, Ishii KJ, Kawai T, Akira S (*equal contribution).

Cooperation of IPS-1- and TRIF-dependent pathways in poly IC-enhanced

antibody production and cytotoxic T cell responses. J. Immunol. in

press

46

Page 37: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

4-3 構造解析グループ

グループリーダー 石井 健

(1)背景と目的

現在までに主な TLR リガンドが同定され、その各 TLR 特異的なシグナル伝達

経路やそれらの免疫学的な意義に関する知見は集積してきた。TLR リガンドのう

ち、アゴニストは各種感染症に対するワクチン(アジュバントを含む)、抗腫瘍

薬、抗アレルギー薬として臨床応用されることが期待されている。また TLR の

アンタゴニスト(またはそのシグナル分子に対するインヒビター)は TLR を介

した自然免疫反応によって増悪すると考えられている敗血症性ショック、自己

免疫疾患、動脈硬化等の疾患に対する治療もしくは予防薬として臨床応用でき

る可能性が示唆されている(2)(図 1)。

しかし新たな TLR リガンドの発見は現在も続いており、更なる新規の TLR リ

ガンドは病原体由来のみならず宿主細胞由来のものや、合成物質も含めその数

は今後増えていくと思われる(3)。特に、構造や生化学的特性のまったく異なる

種々の蛋白、脂質、核酸等のリガンドを TLR がどのように特異的に認識してい

るかという命題は未解決である。今後の臨床応用を考える上でも、特異性がさ

らに高く副作用の少ないリガンドの同定や開発には TLR-リガンドの直接相互作

用の分子レベルでの更なる解明が望まれている。我々はこの命題の解決には TLR

及びそのリガンドとの複合体の立体構造解析、及び TLR とリガンド相互作用の

生化学的解析が必要不可欠であると考えた。

TLR リガンドに加え TLR の下流のシグナル伝達経路にかかわる分子群は、自然

免疫反応の特異性と多様性を決定する因子として重要であることが判明してき

た。これらのシグナル分子群は特異的な免疫抑制剤などの自然免疫制御物質開

発のターゲットとして有望であるが、そのためにはこれらの分子群の細胞内相

互作用の更なる理解が必須である。そこで我々は自然免疫にかかわるシグナル

分子群の相互作用を生細胞にて定性、かつ定量的に解析し最終的にはそれらの

相互作用を立体構造解析の手法にて解明することによって、分子レベルでの自

然免疫シグナル伝達機構に対する理解をさらに深めることが可能になると思わ

れた。

よって当グループの研究は、核酸にフォーカスをあてて、1)その代表的な

47

Page 38: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

受容体の一つであるTLR9の構造機能解析をおこない、2)そのシグナル伝

達経路の分子相互作用、動態の解析、さらには3)免疫制御能を有する、新規

のRNA,DNA及び物質の同定、機能解析をおこない、自然免疫認識、シグ

ナル伝達、そして生体内での作用とその意義を解明することを目的とした。

図1 TLR リガンドの臨床応用の可能性

アゴニストによる自然免疫反応の活性化は点線の下部にあるような免疫反応を介し(矢印)各種

感染症に対する宿主の耐感染性や抗腫瘍自然免疫反応を増強する。また、獲得免疫にも作用し

Th1/Th2 バランスの矯正による抗アレルギー薬(またはアレルゲンに対するワクチン)や細胞性

免疫を誘導するワクチンアジュバントとして有望視されている。しかし TLR アゴニストの中には

点線の上部にあるように動脈硬化、敗血症ショック、自己免疫反応などを誘発または増悪する危

険性もはらんでおりTLRアンタゴニストによるこれらの病態のコントロールも重要であると考え

られる。(参考文献(1))

48

Page 39: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

図2 自然免疫賦活化作用を有する核酸

病原体もしくはダメージを受けた宿主細胞などから核酸が放出されると主に免疫細胞によって取り込まれ

細胞内のエンドソームなどに存在する TLR(3,7,8,9)によってその核酸の特殊な塩基配列、構造、修飾な

どが認識される。また、TLR を介さない核酸の認識機構も最近明らかにされつつある。それぞれの受容体

は特異的なアダプター分子やキナーゼを介し炎症性サイトカインやインターフェロンなどの遺伝子発現を

誘導する。(参考文献(4-6))

49

Page 40: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

(2)重点研究項目とその成果の要約

1)自然免疫系に関与する分子群の蛋白質結晶化及び三次元構造解析

TLR9 蛋白を動物細胞培養系にて大量精製し、TLR9 蛋白単独およびそのリガン

ドとの複合体の結晶化に成功した。また、精製 TLR9 蛋白を用いてそのリガンド

との結合の生化学的な解析を可能にする実験系を確立し、TLR9 とリガンドとの

pH依存性の直接の会合を証明し、その可視化、定量化にも成功した。

2)自然免疫系に関与する分子群の細胞内動態の解析

蛍光共鳴エネルギー移動(fluoresecence resonance energy transfer、FRET)

の原理を利用した TLR 関連シグナル分子の生細胞での 2 分子間相互作用を顕微

鏡下にて可視化し、さらに大量の生細胞での FRET 反応を FACS にて定量化する

ことに成功した。この手法を用い TLR 関連シグナル分子群の動態、相互作用の

解析を行うことに成功した。

3)核酸による自然免疫制御機構の機序解明及びその臨床応用に向けた基礎研

TLR9 の初の非核酸リガンドとしてマラリア原虫代謝産物であるヘモゾインを

同定し、その生態学的意義を動物モデルで示すことに成功した。

TLR 非依存性に自然免疫を賦活化する非メチル化 CpG 配列を持った一本鎖 RNA

の同定、TLR 非依存性に抗ウイルス作用を特徴とする自然免疫賦活化作用を持つ

二本鎖B型(右巻き螺旋)DNAの同定とその新規のシグナル伝達経路を解明した。

これらの核酸による内因性アジュバント効果及びその必須の自然免疫シグナル

伝達経路の役割をウイルス感染、ウイルスワクチン、核酸ワクチンの動物実験

系にて解明した。

(3)研究経過および成果

1.自然免疫系に関与する分子群の細胞内動態の解析(7-10)

自然免疫反応における細胞内の2分子間相互作用を視覚化しさらにそれらの

反応を定量的に解析するため、我々は蛍光共鳴エネルギー移動という原理

50

Page 41: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

(fluoresecence resonance energy transfer、FRET と略す。緑色蛍光蛋白(GFP)

の黄色変異体である YFP とシアン色変異体である CFP をごく近傍に置き、CFP を

励起すると、そのエネルギーが YFP へ遷移され YFP の蛍光が観察できるという

現象)を利用した実験系を確立した。まず、HEK293 細胞に N 末端もしくは C 末

端に YFP もしくは CFP を持った 2 つの融合蛋白遺伝子を導入し、計時的にそれ

らの融合蛋白質の細胞内局在と2分子間の相互作用を顕微鏡下にて計測し、FRET

反応を計算値にて画像化した(図4-1、4-3)。また、顕微鏡下では多

4図4 FRET(fluoresecence resonance energy transfer)の原理を用いた

細胞内1分子相互作用の顕微鏡的解析(a)と定量的 Flowcytometry 解析

1:HEK293 細胞に IRF7-CFP もしくは IRF3-CFP と MyD88-YFP を発現させ蛍光顕微鏡下にて IRF7 と

MyD88 の細胞内局在の変化とその会合(FRET)反応を観察した。

2:293-F 細胞に IRF7-CFP もしくは IRF3-CFP と MyD88-YFP を発現させ Flow Cytometry を用いた

IRF7 と MyD88 の会合(FRET)反応を定量、定性しグラフ化した。(赤色-CFP(+)FRET(+)細胞、紫色

-CFP(+)FRET(-)細胞、緑色-CFP(-)FRET(-)細胞)

3:TLR9 刺激による TRAF4 と TRAF6 の細胞内局在の変化とその会合(FRET)の経時的変化を4-1

と同様の方法にて観察した。

51

Page 42: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

くの細胞を同時にかつ定量的に観察してFRET反応を計測することが今まで困難

であったが、シアンレーザーを搭載できる BD 社の FACSAria を用いた Flow

Cytometry 法にて多量(1万個)の細胞内の 2分子の FRET(会合)反応を定量す

るシステムを新たに開発した(図4-2)。これにより客観的に全細胞数のうち

何パーセントの細胞が FRET 反応を起こし、かつその細胞ごとの FRET 反応の強

さを数値化し表記することが可能になり、顕微鏡下での観察とあわせ細胞内の 2

分子間相互作用の有用な解析方法であると考えられた。具体的にはMyD88とIRF7、

IRAK1 と IRF7、IRAK4 が細胞質内会合(FRET)を起こす事を見出し、TLR7,9 を

介したIFNアルファ産生に重要な役割を担っていることが判明した(7,8)。また、

TRAF6 とその抑制性の類似分子である TRAF4 が TLR9 の CpG DNA による刺激で強

く FRET を起こす事も判明した(9)。さらに IPS-1 とオートファジーの必須分子

である Atg5 が会合することも FRET 反応により示した(10)。

2.核酸による自然免疫制御機構の機序解明及びその臨床応用に向けた基礎研

2.1.新規の TLR9 リガンドの同定(11-13)(図5):

マラリア感染症の症状の代表的なものに周期的な発熱が上げられるが、マラ

リア感染赤血球が破裂し原虫が血中に放出されるときに一致して起こるのが特

徴である。しかしその発熱(炎症反応、ここでは自然免疫反応)のトリガーと

なる炎症性サイトカインなど産生させると思われる原虫由来の成分やそれらに

対する詳細な免疫反応のメカニズムは大部分不明である。マラリア原虫はその

赤血球内分裂期においてヘモグロビンを消費し、遊離ヘムをポリマーの状態に

したヘモゾインという代謝産物を産生する。ヘモゾインは赤血球内にて合成さ

れ原虫(シゾント)と共に血中に放出され、その後網内系で主にマクロファー

ジなどに貪食され細胞内に蓄積する。われわれは以前よりそのヘモゾインが自

然免疫賦活化作用を有することを見出しており、これらの自然免疫賦活化作用

の詳細な機序解明のため、熱帯熱マラリア原虫より精製したヘモゾインが TLR

を介して自然免疫反応を誘導するかマウスの実験系で検討した。

ヘモゾインはマウスの脾臓細胞や樹状細胞を強く刺激し TNF アルファ、IL-6

などの炎症性サイトカインやケモカインなどを産生した。この結果は化学的に

合成したヘモゾインでも同様であり、原虫由来の他の侠雑物による反応である

ことは否定された。これらのヘモゾインによる自然免疫賦活化作用は TLR の主

52

Page 43: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

要シグナル分子である MyD88 を欠損したマウス、また驚くことにそれまで病原

体の核酸のみを認識すると思われていたTLR9の欠損マウスでヘモゾインによる

炎症反応が In vitro でも In vivo でも消失していた。他の TLR2, 3, 4, 7KO マ

ウスの細胞はヘモゾインに正常に反応した。これらの結果よりマラリア感染症

においてマラリア原虫が原虫の代謝産物であるヘモゾインという物質が従来核

酸、特に DNA を認識すると考えられている TLR9 を介した自然免疫賦活作用を有

していることが示唆された(11)。

その後ヘモゾインを含めたマラリア原虫成分による自然免疫制御が実際のマ

ラリア感染においてどのような役割を担っているか動物モデルを用いて解析し

た。マウスマラリア原虫感染で中枢神経系の症状を呈する脳マラリアのモデル

において TLR9 と TLR2 を介した自然免疫反応がその致死性誘導に重要な役割を

果たしていることが判明した。特にそれらのシグナル分子である MyD88 を欠損

したマウスでは脳マラリアの発症率、死亡率が軽減したが、それに伴って脳内

のヘモゾイン集積、及び CD8T 細胞、NK 細胞、DC の集積が有意に低下しており、

これらが脳病変の形成に重要な役割を担っていることが示唆された(12)。今後

マラリア原虫成分の詳細な解析によってその自然免疫制御機構と病態へのかか

わりが今後さらに明らかになると期待される(13)。

図5

マラリア原虫によるヘム代謝産物であるヘモゾインは TLR9 を介して自然免疫を活性化する。

53

Page 44: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

2.2.自然免疫賦活作用を有する新規の一本鎖 RNA(CpG RNA)の同定 (4,5,14)

(図6):

TLR9 のリガンドである CpG DNA は非メチル化 CpG モチーフといわれる特異的

な塩基配列に特異的に免疫賦活化作用を有する。一方 RNA は二本鎖 RNA や一本

鎖 RNA が TLR3 や TLR7/8 のリガンドとなることが最近報告された。しかし RNA

の特殊な塩基配列やメチル化などの修飾が RNA の自然免疫賦活化作用に関与し

ているかは不明であった。我々は 1 本鎖 RNA が塩基配列特異的に自然免疫賦活

化作用を有するかスクリーニングを行ったところ非メチル化 CpG 配列を持った

一本鎖オリゴ RNA がヒト単球に特異的に活性化することを発見した。非メチル

化 CpG 配列および Poly-G 末端を有する一本鎖 RNA(CpG RNA)を合成しヒト PBMC

と In vitro で共培養したところ CD14+,CD11c+の単球の分画を特異的に作用し

NF-κB や MAP キナーゼを活性化し IL-6 や IL-12 を産生させた。TLR9 を介して

CpG DNA に反応する B細胞や形質細胞様樹上細胞などは活性化しなかった。興味

深いことに CpG の 5’-C メチル化のみならずその他の塩基の 2’-O メチル化で

もこの CpG RNA による単球活性化は消失した。TLR3,7,8,9 を強制発現させた

293 細胞は CpG RNA によって NF-κB が活性化されなかったことから CpG RNA は

これらの TLR とは異なる受容体を介することが示唆された。今まで知られてい

図6 非メチル化 CpG Motif を有する自然免疫賦活化 RNA の同定

54

Page 45: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

る自然免疫賦活化作用を有する核酸とは一線を画した作用を持つこの一本鎖

CpG RNA は新たな核酸医薬品として有用であることが示唆された。

2.3.TLR 非依存性に抗ウイルス作用などの自然免疫賦活化作用を有する二重

鎖 B 型右巻き DNA の同定とその新規のシグナル伝達経路の解明 (4,6,15)(図

7):

自然免疫賦活化作用を有する DNA は TLR9 を受容体とする CpG DNA が知られて

いるが、近年 DNA のなかには TLR と無関係に自然免疫を活性化する作用がある

ことが明らかになってきた。しかしこれらの DNA のいったい何が(塩基配列、

化学修飾もしくは構造など)その誘因なのか、またその活性化の分子メカニズ

ム、生物学的意義などは不明のままであった。

我々は、数多くの核酸のスクリーニングから、ある種の二本鎖 DNA は細胞内

に注入すると強いインターフェロン誘導作用があることを見出していたが、今

回二本鎖 DNA の中でも右巻き螺旋をとる二本鎖 B-DNA が最も強い活性(インタ

ーフェロン誘導能)を示すことを発見した。これと対照的に左巻き螺旋(Z-DNA)

二本鎖は活性が弱かった。この B-DNA は病原体だけでなく宿主の細胞にも見ら

れる DNA の構造であるが、宿主の細胞の DNA つまり B-DNA は普段は細胞内オル

ガネラである核やミトコンドリアに包まれているためこのような免疫システム

には認識されない。さらには細胞にはアポトーシスという静かな細胞死といわ

れる現象でわざわざ DNA を小さな断片に分断するため DNA がオルガネラや細胞

の外に放出されることはないとされる。しかしウイルスなどの病原体が細胞内

に進入したり宿主細胞の DNA が異常な状態で放出されたりした場合には今回の

研究で示したような DNA によるインターフェロン誘導が起きたりするのではな

いかと推測された。

そこでその B-DNA がどのようなシグナル伝達経路を介しているか、今まで知

られている核酸受容体、シグナル伝達分子を欠損している細胞や RNA 干渉の実

験系を用いて解析したところ、今まで知られている TLR や RIG-I, Mda5 といっ

た核酸受容体は介さないが、IPS-1、TBK1、IRF3 といったウイルス感染時のイン

ターフェロン産生に重要なシグナル伝達分子が B-DNA によるインターフェロン

誘導にも必須である事が判明した。そこで B-DNA を細胞内に注入し刺激した細

胞に各種ウイルスを感染させたところ、B-DNA を注入していない細胞ではウイル

スが増殖したのに対し、B-DNA を注入した細胞ではウイルスの増殖が著しく抑制

されていた。これはウイルスから抽出した B-DNA でも同様であった。従ってこ

55

Page 46: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

の B-DNA による新たな自然免疫賦活化作用はウイルス感染時の感染防御反応に

重要な役割を担っていると考えられた。

本研究成果により、この知見はウイルス感染症のみならず、DNA をベースにし

たワクチンや遺伝子治療にも深く関わっていることが示唆され、また、核酸に

よるインターフェロン産生等が病原性に深く関わっているとされる全身性エリ

テマトーデス(SLE)(自己の DNA に対する抗体ができる原因不明の疾患)やリウ

マチなどの自己免疫疾患の病因解明にも貢献する事が期待される(6)。

2.4.ウイルス感染や、核酸をベースとしたワクチン免疫における、TLR 依存

性及び TLR 非依存性の核酸に対する自然免疫認識、シグナル伝達経路の役割

(16,17):

自然免疫システムにおける核酸を認識機構が明らかになるにつれ、病原体感

染時、核酸をベースにしたワクチン、遺伝子治療、自己免疫疾患において核酸

による TLR 依存性及び TLR 非依存性の自然免疫反応がその後の獲得免疫に対し

てどのような役割を担っているかは不明であった。この命題を動物モデルで検

図7 二本鎖右巻き(B型)DNA の自然免疫賦活化作用(赤:今回の知見)

56

Page 47: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

証するため、当プロジェクトで得られた知見をもとに、ウイルス感染、ウイル

スワクチンのモデルとして 1 本鎖 RNA をゲノムにもつインフルエンザウイルス

を用いた。ウイルスの経気道感染、またその非活化ワクチンの経鼻投与をおこ

ない、TLR 依存性及び TLR 非依存性の核酸に対する獲得免疫誘導に対する役割を

検討したところ、自然免疫腑活化経路が防御抗原(HA,NP)に対する CD4 陽性 T

細胞とB細胞の誘導には TLR(7)が重要な役割を担っていることが分かった。こ

れに対し、ウイルス抗原特異的な CD8 陽性 T 細胞誘導には TLR 依存性及び TLR

非依存性の核酸に対する認識機構は関与していないことが判明した。驚くこと

にこの知見は非活化したウイルスワクチンでも同様であり、インフルエンザワ

クチンの感染防御効果は TLR(7)を介した防御抗原(HA,NP)に対する CD4 陽性 T

細胞とB細胞の誘導が重要であることも明らかになった(16)。

インフルエンザ感染、ワクチン投与の場合とは対照的に、二本鎖(ds)

RNA(Poly-IC)をアジュバントとして用いたときのタンパクワクチンに対するア

ジュバント効果(抗原特異的 CD4,CD8 陽性 T細胞, B 細胞)は TLR 非依存性のシ

グナル(IPS-1)経路が重要であることや、DNA ワクチンの場合でも TLR 依存性

の自然免疫反応よりも TLR 非依存性の TBK-1 を介したシグナル経路が抗原特異

的な CD4,CD8 陽性 T 細胞, B 細胞をコントロールしていることが判明した(18)。

こららの知見はワクチンや遺伝子治療の免疫制御に直接影響するため、これ

らの今後の臨床応用に重要であると考えられる(17)。

2.5. 自然免疫賦活化作用を有する核酸の臨床応用に向けた基礎研究:CpG DNA

とナノビークルの複合体の臨床応用への可能性の探索:

TLR9 リガンドの CpG DNA の臨床応用に向けた基礎実験として CpG DNA の作用

を増幅しつつ副作用を減弱させる技術の開発に取り組んだ。特に危惧されてい

る CpG DNA の合成オリゴ核酸の S 化修飾が動物実験等で肝障害を引き起こすと

いう副作用を鑑み、S化修飾をせず、かつ生体内での DNase による分解を防ぐ意

味で修飾のない CpG DNA を用い新たな技術の導入を行った。そこで我々が用い

たのは DNA と3重鎖をとりうるナノビークルであるベータグルカンの一種

(物質名:シゾフィラン)である。このナノビークルは修飾のない CpG DNA と

pH依存性に 3重鎖として結合体を形成し S化した CpG DNA に匹敵する強い自然

免疫活性を示した。この活性は TLR9 に依存しておりかつ In vivo で抗原と同時

投与すると非常に強いアジュバント効果を示す事が判明した(19,20)。

57

Page 48: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

現在この CpG DNA-ナノビークル結合体の In vivo での効果をアレルギー実験

動物モデルを用いてその抗アレルギー効果の解析中である。さらにこれらの詳

細な免疫学的解析及び他のアプリケーションへの応用を検討中である。

(4)まとめと今後の展開

我々は TLR9 の哺乳動物細胞系での大量精製及び結晶化に成功し、TLR9 とリガ

ンドの直接の会合を生化学的に解析し、可視化することに成功した。また、自

然免疫関連シグナル分子群の2分子間相互作用を生細胞にて可視化し、定量化

することに成功した。また、新規の TLR9 リガンドの同定、TLR 非依存的に自然

免疫賦活化作用を有する新規の RNA や DNAを同定し、その作用機序を解明した。

TLR 関連分子の結晶化、最終的には各種リガンドとの結合体の結晶構造解析を

継続し、これら構造生物学的手法に加え新たに開発したインビトロの TLR-リガ

ンド結合の解析法及び生細胞での2分子間相互作用解析法、さらにはインシリ

コ解析により TLR による病原体認識の機構解明および新たなリガンドのスクリ

ーニングおよび創薬を最終目標としたい。

また、今回新規に発見した TLR9 のアゴニスト、TLR 非依存性に自然免疫賦活

作用のある核酸などのメカニズム解明や生理的意義の解析、そしてそれらを臨

床応用に結びつける基礎研究、技術開発を進めていきたい。

(5)文献リスト

Reference List

1. Ishii, K. J., S. Uematsu, and S. Akira. 2006. 'Toll' gates for future

immunotherapy. Curr.Pharm.Des 12:4135-4142.

2. Ishii, K. J. and S. Akira. 2004. Toll-like Receptors and Sepsis.

Curr.Infect.Dis.Rep. 6:361-366.

3. Ishii, K. J., C. Coban, and S. Akira. 2005. Manifold mechanisms of

toll-like receptor-ligand recognition. J.Clin.Immunol. 25:511-521.

58

Page 49: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

4. Ishii, K. J. and S. Akira. 2005. Innate immune recognition of nucleic

acids: Beyond toll-like receptors. Int.J.Cancer 117:517-523.

5. Ishii, K. J. and S. Akira. 2005. TLR Ignores Methylated RNA? Immunity

23:111-113.

6. Ishii, K. J. and S. Akira. 2006. Innate immune recognition of, and

regulation by, DNA. Trends Immunol. 27:525-532.

7. Kawai, T., S. Sato, K. J. Ishii, C. Coban, H. Hemmi, M. Yamamoto,

K. Terai, M. Matsuda, J. Inoue, S. Uematsu, O. Takeuchi, and S. Akira.

2004. Interferon-alpha induction through Toll-like receptors

involves a direct interaction of IRF7 with MyD88 and TRAF6.

Nat.Immunol. 5:1061-1068.

8. Uematsu, S., S. Sato, M. Yamamoto, T. Hirotani, H. Kato, F. Takeshita,

M. Matsuda, C. Coban, K. J. Ishii, T. Kawai, O. Takeuchi, and S. Akira.

2005. Interleukin-1 receptor-associated kinase-1 plays an essential

role for Toll-like receptor (TLR)7- and TLR9-mediated

interferon-{alpha} induction. J.Exp.Med. 201:915-923.

9. Takeshita, F., K. J. Ishii, K. Kobiyama, Y. Kojima, C. Coban, S.

Sasaki, N. Ishii, D. M. Klinman, K. Okuda, S. Akira, and K. Suzuki.

2005. TRAF4 acts as a silencer in TLR-mediated signaling through the

association with TRAF6 and TRIF. Eur.J.Immunol. 35:2477-2485.

10. Jounai, N., F. Takeshita, K. Kobiyama, A. Sawano, A. Miyawaki, K.

Q. Xin, K. J. Ishii, T. Kawai, S. Akira, K. Suzuki, and K. Okuda.

2007. The Atg5-Atg12 conjugate associates with innate antiviral

immune responses. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A In press.

11. Coban, C., K. J. Ishii, T. Kawai, H. Hemmi, S. Sato, S. Uematsu, M.

Yamamoto, O. Takeuchi, S. Itagaki, N. Kumar, T. Horii, and S. Akira.

2005. Toll-like receptor 9 mediates innate immune activation by the

malaria pigment hemozoin. J.Exp.Med. 201:19-25.

59

Page 50: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

12. Coban, C., K. J. Ishii, S. Uematsu, N. Arisue, S. Sato, M. Yamamoto,

T. Kawai, O. Takeuchi, H. Hisaeda, T. Horii, and S. Akira. 2007.

Pathological role of Toll-like receptor signaling in cerebral

malaria. Int.Immunol. 19:67-79.

13. Coban, C., K. J. Ishii, T. Horii, and S. Akira. 2007. Manipulation

of host innate immune responses by the malaria parasite. Trends

Microbiol. 15:271-278.

14. Sugiyama, T., M. Gursel, F. Takeshita, C. Coban, J. Conover, T. Kaisho,

S. Akira, D. M. Klinman, and K. J. Ishii. 2005. CpG RNA:

identification of novel single-stranded RNA that stimulates human

CD14+CD11c+ monocytes. J.Immunol. 174:2273-2279.

15. Ishii, K. J., C. Coban, H. Kato, K. Takahashi, Y. Torii, F. Takeshita,

H. Ludwig, G. Sutter, K. Suzuki, H. Hemmi, S. Sato, M. Yamamoto, S.

Uematsu, T. Kawai, O. Takeuchi, and S. Akira. 2006. A Toll-like

receptor-independent antiviral response induced by double-stranded

B-form DNA. Nat.Immunol. 7:40-48.

16. Koyama, S., K. J. Ishii, H. Kumar, T. Tanimoto, C. Coban, S. Uematsu,

T. Kawai, and S. Akira. 2007. Differential role of TLR- and

RLR-signaling in the immune responses to influenza A virus infection

and vaccination. J.Immunol. In press.

17. Ishii, K. J. and S. Akira. 2007. Toll or Toll-Free Adjuvant Path

Toward the Optimal Vaccine Development. J.Clin.Immunol.

18. Ishii, K. J., T. Kawagoe, S. Koyama, K. Matsui, H. Kumar, T. Kawai,

S. Uematsu, O. Takeuchi, F. Takeshita, C. Coban, and S. Akira. 2008.

Tank-binding kinase-1 delineates innate and adaptive immune

responses to DNA vaccines . Nature In press.

19. Shimada, N., K. J. Ishii, Y. Takeda, C. Coban, Y. Torii, S. Shinkai,

S. Akira, and K. Sakurai. 2006. Synthesis and in vitro

characterization of antigen-conjugated polysaccharide as a CpG DNA

60

Page 51: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

carrier. Bioconjug.Chem. 17:1136-1140.

20. Shimada, N., C. Coban, Y. Takeda, M. Mizu, J. Minari, T. Anada, Y.

Torii, S. Shinkai, S. Akira, K. J. Ishii, and K. Sakurai. 2007. A

Polysaccharide Carrier to Effectively Deliver Native Phosphodiester

CpG DNA to Antigen-Presenting Cells. Bioconjug.Chem.

61

Page 52: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

全体のまとめ

5-1 ERATO の 5 年間で得られた成果等のアピール

これまでにヒトまたはマウスにおいて 13の TLR の存在が明らかになりそのリガ

ンドの多くが我々を含めたグループにより解明されてきた。その過程で異なる

TLR が異なる病原体成分を認識し、病原体ごとに適応した反応を惹起することが

明らかとなってきたが、そのメカニズムは分かっていなかった。審良自然免疫

プロジェクトでの研究により、新規TLRリガンドの同定に成功するのみでなく、

TLR と細胞質内で結合する TIR 領域を持つアダプタータンパク質が複数存在し、

そのアダプターが TLR ごとに使い分けられることにより TLR ごとの反応の特異

性が規定されることを明らかにした。また、TLR シグナルは細胞特異的に制御さ

れており、特にウイルス感染に対し多量の I 型 IFN を産生するプラズマサイト

様樹状細胞においては他の細胞種と異なるTLRシグナル伝達経路が活性化され、

I型 IFN を産生させることを明らかにしてきた。

更に自然免疫における病原体認識における TLR 非依存性経路の存在が、このプ

ロジェクト進行期間中に我々の研究により明らかとなってきた。我々は、TLR 非

依存性病原体認識経路にも解析を加え、細胞質内ヘリカーゼタンパク質である

RIG-I 及び MDA5 はそれぞれ異なる RNA ウイルス感染を認識し、I 型 IFN 産生を

誘導し、感染防御において重要な役割を果たしていることを明らかにした。更

に、RIG-I、MDA5 シグナル伝達に必須のアダプター分子 IPS-1 を同定し、その

in vivo における役割を解明した。また、RNA のみではなく DNA も細胞質内で認

識され I型 IFN が産生されることを明らかにした。

さらに、DNA による自然免疫活性化の新たなメカニズムとして、右巻きの二本鎖

B 型 DNA が TLR 非依存性に I 型 IFN を産生させる作用機序を明らかにし、その

TBK1 を介したシグナル伝達経路が生体内において DNA の自然免疫反応のみなら

ず、獲得免疫反応にも必須であることを明らかにした。TLR の結晶構造解析は大

変難しくこれまで世界的にも TLR3 以外の TLR の構造解析は成功していない。し

かしながらこれまでの構造解析グループの研究でTLR9の結晶化に成功しており、

X線結晶構造の解明も間近となっている。

この一連の研究は、自然免疫研究における新しい流れを作ってきたものと自負

しているが、客観的にも、トムソン・サイエンティフィック社による論文被引

用回数の統計に寄れば、過去 10 年間の審良の被引用回数は 2004 年以降免疫学

分野で世界一位になっている。また、2004-2005、2005-2006 年の間に発表され

62

Page 53: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

た論文のなかで著しく高い被引用回数(上位 0.1%)を持つ論文数(Hot Paper

数)(2004-2005:11 編、2005-2006:7 編)においても全分野で二年連続で世界一に

選ばれている。

5-2 今後の展開として目指すこと、期待すること

これまでの我々の研究により TLR ごとのシグナル伝達経路の活性化におけるア

ダプター分子群の役割、細胞特異的シグナル伝達経路、その I 型 IFN 反応にお

ける役割について明らかとなってきた。しかしながら、特に、RIG-I/MDA5 によ

るシグナル伝達経路は、IPS-1 は同定されたが、その下流においてどのように

TBK1 や IKK-i が活性化されるかはよく分かっていない。更に、細胞内において

二本鎖 DNA が認識されることが明かとなったが、その受容体は十分に解明され

ておらず、その探索を行っていく。結晶構造解析による各 TLR、シグナル伝達分

子の構造解析はこれからの実際のシグナルの分子メカニズムや、その創薬への

応用を行っていく上で必須である。現在のところ、TLR9 の結晶化に成功してお

り、これから X 線結晶構造解析を行っていく予定である。他の TLR や RIG-I フ

ァミリーシグナル分子群に関しても今後重点的に構造解析を進めていく。

また、自然免疫シグナル伝達に関わる分子群の多くが同定されてきたが、その

分子群の活性化のメカニズムや、そのシグナル伝達分子間のネットワークに関

しては明らかとなっていない。今後、これらの分子群の TLR シグナルによる遺

伝子発現における関係を包括的に解析し、その機構のヒエラルキーを明らかに

していく。具体的にはこれらのシグナル分子群のノックアウトマウス由来の細

胞の TLR 刺激や、病原体感染時に対する遺伝子発現を、microarray を用いて網

羅的に時系列を追って解析し、野生型と比較する。この網羅的なアプローチか

ら更に、シグナルに関わる新規分子の同定にも挑戦する。最終的には、病原体

認識から獲得免疫成立までの過程の全体像を分子レベルで、あきらかにしたい。

更に、免疫応答の in vivo における動的解析は今後益々重要になっていくと思

われる。実際、I型 IFN 産生をモニターするマウスを作製することにより in vivo

においてはこれまで in vitro の実権から得られたいたものとは異なる IFN 産生

細胞が同定された。このように、今後免疫応答を in vivo でモニタリングして

いくことにより、自然免疫のみならず免疫全般の包括的な理解につながってい

くものと思われる。

TLR の活性を調節することは敗血症性ショックの治療や、ワクチンアジュバント、

63

Page 54: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

さらには癌やアレルギーの免疫療法の開発に重要である。グラム陰性菌による

敗血症ショックは、細菌成分に対する生体の過剰反応が原因である。LPS 受容体

としての TLR4 の同定は、TLR4 の LPS 認識過程やシグナル伝達経路においての阻

害剤の開発を通じて、敗血症性ショックのコントロールにつながるものと期待

されている。これに対し、TLR を介して免疫を賦活化させることにより感染症の

治療に役立てようという試みも始まっている。例えば前述の TLR7 リガンドであ

る Imiquimod は、現在、免疫反応調整剤 Aldala という商品名で、1997 年からヒ

トパピローマウイルスによって引きおこされる尖型コンジロームの治療薬とし

て使われている。また、Imiquimod より 100 倍活性の強い R-848 (Resiquimod)

は、性器ヘルペスの治療薬として第3相試験がおこなわれている。また、現在、

臨床応用に近いと考えられるのは、ワクチンアジュバントとしての TLR リガン

ドの利用である。現在、様々な TLR リガンド、合成物の臨床応用が治験レベル

で始まっている。また、これまで、非特異的癌免疫療法としてもちいられてい

た各種の細菌死菌やその構成成分は、TLR を介して癌に対する免疫応答を誘導し

ていたことが明らかとなっている。さらに、花粉症をはじめとするアレルギー

疾患の治療に CpG DNA を用いた治験が現在進行中であるが、その原理も TLR9 を

活性化することに起因することが明らかなっている。CpG DNA は、単に、微生物

やウイルスの DNA の成分であるというだけでなく、多くのアジュバントのなか

でとりわけ副作用がなく Th1 反応を強く誘導することから、その臨床応用が期

待され、現在、癌、アレルギー、感染症を対象としての臨床治験が進行してい

る。このように、我々の研究はこれらの臨床応用の試みに対し論理的基盤を与

えるとともにその臨床応用にさらなる拍車をかける結果となっている。また、

我々も CpG-DNA を感染症に対するワクチンアジュバントとして使用する計画を

進めている。今後、更に感染症、免疫疾患治療へ TLR 調節が利用されていくこ

とが期待される。

5-3 「戦略目標」に対する自己評価

【戦略目標】 先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出

TLR を始めとした自然免疫系をコントロールすることは、前述のように、感染症

を始めとした様々な疾患の治療、予防に有効であると考えられる。従って、本

プロジェクトによる研究は、これらの新しい治療法を開発していく上で重要な

論理的基盤を与え、その基盤技術の創出に資する十分な成果が得られた。

64

Page 55: 各グループの研究目標および成果と今後の展開各グループの研究目標および成果と今後の展開 4-1 生体機能グループ グループリーダー

5-4 総括によるプロジェクトの自己評価

本プロジェクトは、自然免疫のシグナル伝達機構を明らかにする上で非常に有

効であり、研究全体の方向性は研究成果やその被引用回数から正しかったもの

と考える。生体機能グループ、分子間相互作用グループ、構造解析グループの

3グループをおき研究を進めたが、この3グループは独立、かつ密接に連携し

研究を進めた。当初目標が完全に達成されていない部分に関しても進展が見ら

れ今後の発展につながっていくものと思われる。従って、本プロジェクトは非

常に高い評価に値するものと思われる。

65