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インタビュー 日本バナナ輸入組合 54 日本貿易会 月報 バナナとともに65年 みず のぶ つぐ 輸入自由化を機に誕生した日本バナナ輸入組合 日清戦争後、台湾が日本の統治下に置かれ9 年が経った1903年(明治36年)に、同国から7 かごのバナナを積み込み、神戸港に向けて出港 したのが、バナナの商業的輸入(当時、台湾は 国内扱いだったので、正式には「移入」)の始 まりといわれています。当初、バナナはめった に食べられない高級なものでしたが、大正時代 後半には輸入量が多少増加し、一般の消費者に もわずかながら手が届くようになりました。そ の後、太平洋戦争の開始とともに輸入量は激減 し、一時期は途絶えましたが、終戦後は進駐軍 へ納めるため輸入が再開されました。しかし、 不要不急の物資であるバナナには輸入制限が設 けられていたために、当時のサラリーマンの月 給約1万円に対してバナナ4、5本で250円と、と ても高価な果物でした。 1960年代に入ると、国際経済のすう勢にした がい、日本でも産業自由化への気運が高まって いきました。そのような中、私たちは農林水産 省、通商産業省(現経済産業省)等の関係省庁 にバナナの自由化について熱心に働き掛けを行 い、ついに1963年、バナナ輸入自由化の実現に 至りました。同時に、自由化にともなう混乱を 避けるために、私たちは当時の三木武夫通商産 業大臣などと何度も話し合いを重ねながら、当 組合を発足させることができました。発足当初、 当組合は、秩序あるバナナの輸入と、安定供給 などを目的としており、初代理事長にはバナナ 輸入会社砂田産業の砂田勝次郎氏が就任し、私 は理事として総務業務を担当していました。そ の後、情勢の変化に即応していくために、業務 内容を変化させ、現在は主にバナナの通関速報、 輸入調査統計の収集・発行、バナナの安全性と 知識の普及、バナナの消費普及に関する広告宣 伝活動に、22社の会員企業と協力しながら取り 組んでいます。 日本は世界第3位の輸入国 世界全体のバナナの生産量は年間約8,000万 トンで、バナナベルト地帯と呼ばれる赤道をは さんだ南緯30度から北緯30度までの間で栽培さ れています。そのうち貿易量は約1,600万トン です。インド、中国、ブラジルなどの国々は、 高い生産量を誇りながらも、ほとんど国内で消 費される一方で、エクアドル、コスタリカ、コ ロンビアなどの中 南米諸国およびフ ィリピンは、高い 輸出量を誇ります (図1)。 日本では、気候 的条件から沖縄な どでしか栽培され ていないため、消 費されるバナナの 日本バナナ輸入組合 理事長 株式会社ライフコーポレーション 会長 収穫直前のバナナ

バナナとともに65年 - JFTC2009年2月号 No.667 55うち99.9%以上を輸入に依存しています。現在、 日本のバナナの輸入量は年間約100万トンで、

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54 日本貿易会 月報

バナナとともに65年

清し

水みず

 信のぶ

次つぐ

輸入自由化を機に誕生した日本バナナ輸入組合 日清戦争後、台湾が日本の統治下に置かれ9年が経った1903年(明治36年)に、同国から7かごのバナナを積み込み、神戸港に向けて出港したのが、バナナの商業的輸入(当時、台湾は国内扱いだったので、正式には「移入」)の始まりといわれています。当初、バナナはめったに食べられない高級なものでしたが、大正時代後半には輸入量が多少増加し、一般の消費者にもわずかながら手が届くようになりました。その後、太平洋戦争の開始とともに輸入量は激減し、一時期は途絶えましたが、終戦後は進駐軍へ納めるため輸入が再開されました。しかし、不要不急の物資であるバナナには輸入制限が設けられていたために、当時のサラリーマンの月給約1万円に対してバナナ4、5本で250円と、とても高価な果物でした。 1960年代に入ると、国際経済のすう勢にしたがい、日本でも産業自由化への気運が高まっていきました。そのような中、私たちは農林水産省、通商産業省(現経済産業省)等の関係省庁にバナナの自由化について熱心に働き掛けを行い、ついに1963年、バナナ輸入自由化の実現に至りました。同時に、自由化にともなう混乱を避けるために、私たちは当時の三木武夫通商産業大臣などと何度も話し合いを重ねながら、当組合を発足させることができました。発足当初、当組合は、秩序あるバナナの輸入と、安定供給

などを目的としており、初代理事長にはバナナ輸入会社砂田産業の砂田勝次郎氏が就任し、私は理事として総務業務を担当していました。その後、情勢の変化に即応していくために、業務内容を変化させ、現在は主にバナナの通関速報、輸入調査統計の収集・発行、バナナの安全性と知識の普及、バナナの消費普及に関する広告宣伝活動に、22社の会員企業と協力しながら取り組んでいます。

日本は世界第3位の輸入国 世界全体のバナナの生産量は年間約8,000万トンで、バナナベルト地帯と呼ばれる赤道をはさんだ南緯30度から北緯30度までの間で栽培されています。そのうち貿易量は約1,600万トンです。インド、中国、ブラジルなどの国々は、高い生産量を誇りながらも、ほとんど国内で消費される一方で、エクアドル、コスタリカ、コロンビアなどの中南米諸国およびフィリピンは、高い輸出量を誇ります(図1)。 日本では、気候的条件から沖縄などでしか栽培されていないため、消費されるバナナの

日本バナナ輸入組合 理事長株式会社ライフコーポレーション 会長

収穫直前のバナナ

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2009年2月号 No.667 55

うち99.9%以上を輸入に依存しています。現在、日本のバナナの輸入量は年間約100万トンで、米国やドイツとともに輸入量が多い国となっており、日本に輸入される果実の中で最も多い輸入量です。

台湾からフィリピンへシフトした日本の輸入先 戦前から1963年の輸入自由化まで、日本のバナナの輸入先は台湾に限定されていました。しかし、台湾産バナナのシーズンが3〜6月に集中しているため、年間を通して収穫できるフィリピンやエクアドルなどに拡大していきました。

現在(2008年11月時点)は、フィリピンが全輸入量の93.3%と圧倒的シェアを誇り、続いてエクアドルと、過去に独占していた台湾はわずか0.9%となっています(図2)。

日本への輸出条件に恵まれているフィリピン フィリピンからの輸入量が非常に多いのは、上記の理由に加え、輸送距離が短いことが第1に挙げられます。エクアドルからの輸送が20日間かかるのに比べ、フィリピンからは6日間で輸送できるので、鮮度管理面、コスト面などで有利であることが考えられます。第2に、近年、

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

(万トン)

(出所)国際連合食糧農業機関(FAO)資料より作成

インド中国フィリピン

ブラジル

エクアドル

インドネシア

コスタリカ

メキシコ

タイコロンビア

ブルンジ

ベトナム

グアテマラ

ホンジュラス

エジプト

パプアニューギニア

バングラデシュ

カメルーン

ウガンダ

ケニア

図1 バナナの国別生産量(2007年)

合計99.8万トン

その他 0.5%

(注)2008年1~11月累計(出所)財務省「通関統計」より作成

メキシコ 0.5%ペルー 0.6%台湾 0.9%

エクアドル4.2%

フィリピン93.3%

図2 日本のバナナ(生鮮)の国別輸入構成

フィリピン台湾 メキシコ

ペルー

エクアドル赤道

南緯30

北緯30 バナナベルト地帯

64

557

4558

図3 バナナベルト地帯

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56 日本貿易会 月報

フィリピンでは日本企業によって日本の消費者に好まれる商品開発が行われており、豊富な商品をそろえています。中でも、海抜500〜800mの高地で寒暖の差を利用して栽培しているバナナは、クリーミーな果肉とコクのある濃厚な甘さが特徴で、人気があります。また、工業化の進展にともない、大規模農園が減少していった台湾とは異なり、フィリピンでは大規模農園が増加したことも大きいと思います。

バナナの品質安全対策 日本では、海外からの病原虫の侵入を防ぐ目的で、植物防疫法により青い(緑色の)バナナ以外を輸入することが禁止されており、まだ青く固いうちに収穫され、原産地で3回に及ぶ品質・害虫検査を受けた後、定温輸送船などで日

本に輸送されます。日本に到着したバナナは、輸入申告時に植物防疫法に基づく検査、次に食品衛生法に基づく残留農薬検査を受けるなど、

厳重に管理されます。これらの検査に合格したバナナは、温度、湿度が管理されたムロと呼ばれる熟成室で少量のエチレンガスで熟した後、スーパーマーケットなどの小売店に出荷されます。

始めよう、朝食1本果チャレンジ! 当組合では、事務局と会員各社のマーケティング担当者が集まって、広告宣伝委員会を組織し、毎月、バナナの消費喚起を促すためのPR活動について検討しています。朝食の欠食率が増加する中、2008年度は「朝食にバナナを食べて健康で快適な1日をスタート!」をテーマに、朝食を軸にバナナを食の一部として習慣化していくことをめざ

表1 可食部100gあたりの栄養成分含有量

単位バナナ(1本)

みかん(2個)

りんご(1/2個)

いちご(7個)

エネルギー kcal 86 46 54 34水分 g 75.4 86.9 84.9 90.0たんぱく質 g 1.1 0.7 0.2 0.9脂質 g 0.2 0.1 0.1 0.1炭水化物 g 22.5 12.0 14.6 8.5灰分 g 0.8 0.3 0.2 0.5ナトリウム mg Tr 1 Tr Trカリウム mg 360 150 110 170カルシウム mg 6 21 3 17マグネシウム mg 32 11 3 13リン mg 27 15 10 31鉄 mg 0.3 0.2 Tr 0.3亜鉛 mg 0.2 0.1 Tr 0.2銅 mg 0.09 0.03 0.04 0.05マンガン mg 0.26 0.07 0.03 0.20カロテン µg 56 1,000 21 18ビタミンB1 mg 0.05 0.10 0.02 0.03ビタミンB2 mg 0.04 0.03 0.01 0.02ナイアシン mg 0.7 0.3 0.1 0.4ビタミンB6 mg 0.38 0.06 0.03 0.04ビタミンC mg 16 32 4 62ビタミンE mg 0.5 0.4 0.2 0.4葉酸 µg 26 22 5 90バントテン酸 mg 0.44 0.23 0.09 0.33食物繊維総量 g 1.1 1.0 1.5 1.4水溶性食物繊維 g 0.1 0.5 0.3 0.5不溶性食物繊維 g 1.0 0.5 1.2 0.9

(注)Tr=微量(出所)五訂食品成分表

6050403020100

(%)

バナナ

パパイヤ

サクランボ

マンゴー

カキ

桃メロン

すいか

ブドウ

ナシ

パイナップル

キウイフルーツ

オレンジ

グレープフルーツ

いちご

みかん

りんご

その他

(注)複数回答(出所)日本バナナ輸入組合「第4回バナナ・果物消費動向    調査」(2008年5月)

図4 よく食べる果物

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2009年2月号 No.667 57

しています。また、消化に良い点や手軽に食べられる点で、運動する人や受験生にとってバナナは最適な食べ物であるということも積極的にPRしています。 さらに、バナナの消費実態、果物の消費実態を多方面から把握するために、2005年から「バナナ・果物消費動向調査」を実施しています。2008年で4回目を迎えた本調査では、手ごろな価格、優れた栄養バランス、食べやすさなどの理由から、バナナが初めて「よく食べる果実」の第1位に輝きました(図4)。果物の消費が減少していく中で、今後もバナナおよび果物の地位を計る重要な手段として調査を継続して実施していきます。

栄養満点、効能抜群 バナナに含まれる糖質には、ブドウ糖、果糖、ショ糖などのさまざまな種類があり、体内でエネルギーに変わる速さが異なるので、エネルギーを絶え間なく供給し、長時間持続させることができます。また、高血圧症の原因になるナトリウムの排せつを促すカリウムや、神経の興奮を抑える働きを果たすマグネシウムなどのミネラルを豊富に含むため、体力が落ちるのを防ぐ効果もあります。さらに、ウィルスや細菌を殺して体を守ってくれる働きをする一方で、過剰に発生するとガン、動脈硬化などの原因になる活性酸素を抑制する効果を持つポリフェノールを、他の果物と比較して、バナナは特に多く含んでいます。 近年、年間約100万トンのバナナが安定して消費されていることは、バナナの効能が社会にしっかりと浸透してきていることの表れであると実感しています。上記で紹介した以外にも、さまざまな栄養素がバナナには含まれているので(表1)、健康のためにもぜひ毎日摂取してい

ただければと思います。

プラス思考が健康の秘訣 健康法は、何事に関してもくよくよせず、前向きにとらえ、挑戦していくことです。難しいことに直面しても、常に良い方向に考えるようにしているため、自然と血の巡りも良くなっているように感じます。体、精神、理知の3つがそろってはじめて健康であるといえると思うので、このバランスを大切にして、いつまでも健康であり続けたいです。 趣味は、小学校6年生のころから続けている剣道です。教師号を取得しており、日本武道館、衆議院議員会館、学習院などのさまざまな道場で教えた経験があります。

日本貿易会の貿易関連データを活用 日本貿易会の「わが国貿易収支、経常収支の見通し」や「日本貿易の現状」などの貿易に関する詳細なデータを参考にさせていただいています。これらのデータをまとめるには、相当な労力を必要とすると思いますが、役に立つので今後も継続していただきたいと思います。

 (2008年12月8日� 聞き手:広報グループ部長 西川裕治)