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1 ノロウイルスについて HACCP実践研究会 第24回フォローアップ研修 日本細菌検査株式会社 戸ヶ崎惠一 細菌, 8,719人, 食中毒発生状況(厚生労働省平成22年度) 1 34% ウイルス, 14,700人, 57% NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com 食品・調理従事者を介した汚染の拡大 有効な消毒方法が不明確 空気・水・施設などを介した汚染拡大 調理作業などの工程別にリスク分析 消毒法などの科学的知見を整理・評価 食品取扱施設での取組例の評価 流行要因 調理従事者を介したノロウイル ス食中毒の情報の分析・評価 東京都食品安全情報評価委員会 平成19年 吐物の不適切な処理による汚染拡大 迅速かつ検出感度の高い検査法がない ノロウイルス対策緊急タスクフォース 平成22年 集団感染事例の疫学的検討 事例検証を踏まえた感染防止策の提案 流行ウイルスの遺伝子解析 流行傾向を含めた発生動向の把握 感染経路の解明 感染拡大のメカニズムを解析 消毒法の検討 施設別・目的別消毒マニュアルの作成 検査法の改良・開発 迅速検査システムの構築 2 NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

ノロウイルスについて HACCP実践研究会第24回 …4 手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

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ノロウイルスについてHACCP実践研究会 第24回フォローアップ研修

日本細菌検査株式会社 戸ヶ崎惠一

細菌,8,719人,

34%

食中毒発生状況(厚生労働省平成22年度)

1

34%ウイルス, 14,700人,

57%

NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

食品・調理従事者を介した汚染の拡大

有効な消毒方法が不明確

空気・水・施設などを介した汚染拡大

調理作業などの工程別にリスク分析

消毒法などの科学的知見を整理・評価

食品取扱施設での取組例の評価

流行要因調理従事者を介したノロウイルス食中毒の情報の分析・評価

東京都食品安全情報評価委員会 平成19年

吐物の不適切な処理による汚染拡大

迅速かつ検出感度の高い検査法がない

ノロウイルス対策緊急タスクフォース 平成22年

集団感染事例の疫学的検討 事例検証を踏まえた感染防止策の提案

流行ウイルスの遺伝子解析 流行傾向を含めた発生動向の把握

感染経路の解明 感染拡大のメカニズムを解析

消毒法の検討 施設別・目的別消毒マニュアルの作成

検査法の改良・開発 迅速検査システムの構築

2NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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ノロウイルスとは

直径 30~38 nm(ナノメーター)(1 nm = 0.000001 mm)の正 20 面体の小型の粒子状ウイルス(インフルエンザウイルスの1/3程度の大きさ)です

ノロウイルスは、ウイルスで汚染された食品、手指などを介してヒトの口から入り、小腸の細胞に感染します。感染はごく少量(10~100 個程度)のウイルス量で起こります

ノロウイルス

山本耕一郎教授岡山県立大学保健福祉学部微生物の世界(WEB講義室)

食品内では増殖することはありません

ウイルスの有無はカキの鮮度とも関係なし

個程度)のウイルス量で起こります

いくつもの遺伝子型に分かれており、遺伝子型で分類されます

ノロウイルスに感染すると

急なおう吐、下痢、腹痛、発熱がおもな症状で、ふん便1gあたり100 万個から 10 億個程度のウイルスが排泄されます発症後 3 週間程度はウイルスが排泄されます。おう吐物にも1gあたり100 万個程度のノロウイルスが含まれ、感染源になります。

治療薬はありませんが、通常 2、3 日で自然治癒し、後遺症はありませんウイルスの有無はカキの鮮度とも関係なし

ノロウイルスは人の腸内でのみ増殖する

野菜サラダでノロウイルス中毒が起こる

食品中のノロウイルスは検査できない

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ません

感染しても症状が出ない場合(不顕性感染)がありますが、このような場合でもウイルスはふん便に排泄されるので、自分で気付かないで感染源となってしまうことがあります

東京都で検査した検体のうち、年間約 2 割程度が不顕性感染によるものと推定されます

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4NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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This video is from: Essential Cell Biology, 3rd EditionAlberts, Bray, Hopkin, Johnson, Lewis, Raff, Roberts, & Walter ISBN: 978-0-8153-4129-1

5NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

【実験】代替ウイルス(ノロウイルスは培養できないので同等の特性を持つネコカリシウイルス)液を樹脂状のまな板の上におき 市販のミシン目カットダブルタイプウイルス)液を樹脂状のまな板の上におき、市販のミシン目カットダブルタイプのトイレットペーパーを1、3、5及び10枚重ねてたものでふき取り、その手指を培養細胞につけて培養

【結果】人差し指から小指では5枚重ねた(シングルでは10枚相当)場合でもウイルスが検出され、中指と小指では10枚重ねでも検出されました

①ウイルス液をまな板におきトイレ トペ パ でふきとるトイレットペーパーでふきとる

②細胞プレートの穴に各指をつける

③どの指にウイルスがついたかを培養で判定

6NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

【実験】手指に代替ウイルス液を付着させてドアノブを操作した後、他者がそのドアノブを操作した際に手指からウイルスが回収されるか(水平感染)

【結果】ドアノブ汚染後2名が開閉操作したところ、2名ともウイルスが検出

【実験】手指に代替ウイルス液を付着させた後、千切りキャベツの山に触り、ウイルス汚染した手指から食品汚染が起こるかを検討

【結果】20山の千切りキャベツ試料の内、18試料からウイルスが検出

【実験】手指に代替ウイルス液を付着させてドアノブを操作、そのドアノブを操作した他者が千切りキャベツを取り分ける

【結果】ドアノブ操作後の手指で10回取り分けたところ6試料からウイルス検出

7NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

8NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

消毒用EtOH:エチルアルコール

消毒剤用語

クロルヘキシジン:グルコン酸クロルヘキシジン

第四級アンモニウム塩:ベンザルコニウムクロライド

トリクロサン:トリクロサン

ヨード化合物:ポピドンヨード

フェノール誘導体:

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フェノール誘導体:イソプロピールメチルフェノール

安息香酸:安息香酸

PHMB:ポリヘキサメチレンバイガナイジン

NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

ウイルスの大きさは20~300nm(10-9m)でその粒子をビリオンと呼びます。ビリオンはカプシドタンパク(殻)で囲まれたゲノムで構成されますが、更にその外周をエンベロープという2重リン脂質で覆われたウイルスがあります。エンベロープは人の細胞膜に似た構造で、ウイルスの感染性を高める役目を果たしていると言われています

エンベロープなし

東京都医学総合研究所から引用

• ノロウイルス・サポウイルス・口蹄疫ウイルス・A型肝炎ウイルス

エンベロープあり

• インフルエンザウイルスなど

10NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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ヤクハン製薬株式会社Q&A65から引用

11NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

15秒の流水すすぎでウイルス量は1/100に減少

石鹸(薬用石鹸)で泡立てた場合のウイルス量は1/1000に減少

石鹸(薬用石鹸)10秒+流水すすぎ15秒を2回で1/50000に減少

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速乾性の消毒剤は便利であるが、ウイルス量の減少は余り望めない

殺菌剤配合のウエットティッシーは効果が認められるが、限定的

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トイレマナーの悪さから糞便が手に1mgが付着するとした場合ウイルス量は10万個と見積もれる

流水すすぎ15秒 10万/100=1000

手洗い方法と手に残るウイルス数の試算

No

ウイルス数/1g糞便中=1億個

吐物処理の悪さから吐物が手に10mgが付着するとした場合ウイルス量は1万個と見積

薬用石鹸泡立て10秒 10万/1000=100

薬用石鹸泡立て10秒+すすぎ2回15秒x210万/50000=2

流水すすぎ 15秒 1万/100=100

?

OK

?

ウイルス数/1g糞便中=100万個

もれる

薬用石鹸泡立て10秒 1万/1000=10

薬用石鹸泡立て10秒+すすぎ2回15秒x21万/50000=0.2

?

OK

OK

13NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

手洗い指導が定着しない理由は手洗いの前のトイレ

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清潔なトイレではじめて手洗いが清潔となる

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手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

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製造施設作業者が全員、保菌(ウイルス)者であることを前提としての対策

• 吐気・嘔吐・腹痛・下痢の申告と確認

• 作業所で嘔吐した場合はホールド&クリーン個人衛生

• 検便の検査項目にノロウイルス検便

• HACCPはノロウイルス対策とならない

• PP・GMPなど衛生管理でしか対応できないHACCP

● 10人に数人はいるといわれる健康保菌者(不顕性感染者)は検便によ て発見できる● 10人に数人はいるといわれる健康保菌者(不顕性感染者)は検便によって発見できる

● しかし、検便当日では陰性であってもその後に感染すると数日後にはウイルスを排出

● 製造施設作業者が全員、保菌者であることを前提とした対策が必要

16NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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製造施設作業者が全員、保菌(ウイルス)者であることを前提としての対策

平成21年食中毒統計資料(厚生労働省)原因 件数 %

内訳 件数 %二枚貝 29 10原因 件数 %

ノロウイルス 290 28その他 760 72

二枚貝 29 10その他 261 90

施設内と手に触れるドアノブなどを次亜塩素酸Naで1日3回以上の消毒

使い捨て手袋の正しい着用特にRTE食品の場合

薬用石鹸で水洗を15秒x2回

17NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

製造施設作業者が全員、保菌(ウイルス)者であることを前提としての対策

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

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予防 起こらないようにする = 危害要因分析 HA

予防 起こらないようにする = 重要(必須)管理点(法) CCP

予防 起こらないようにする = モニタリング

欠けているかも知れない視点

ノロウイルスでの事故例では施設内での嘔吐が事故拡大の原因の一つ

おう吐物処理の状況:「おう吐した人のケアをする際に、手袋・マスク・エプロンを身につけた」(45%)「おう吐物処理の際に手袋・マスク・エプロンを身につけた(57%)が約半数と、手袋、マスク、エプロン着用など個人防護の実施率の低い傾向が見られました

平常時の感染症予防対策:実施率8 割以下の項目は、「排泄のケアの際に手袋を着用し、1回ごとに交換している」、「新人職員に対して、標準予防策に関する研修を行っている」、「職員はケアや場面に合わせて手袋・マスク・エプロンを着用している」等、標準予防策に関する項目が多くみられました

感染症対策委員会の状況:「感染症に関する話し合いの場があり、かつ機能している」と回答したのは24 施設(49%)であり、高齢者施設においては13 施設(76%)が上記の回答であったのに対し、保育施設では、7 施設(30%)でした

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施設内での嘔吐

模擬嘔吐物を1mの高さから落下 模擬嘔吐物を0.8mの高さから落下

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

カーペットで半径1.6~1.8m

塩ビ床で半径2.3m

水様擬似嘔吐物で高さ1.6m

固形様擬似嘔吐物で床上のみ

落下後、5分で悲惨が確認滞留時間は1時間程度

歩行による乾燥嘔吐物の舞上り

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歩行による乾燥嘔吐物の舞上り

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施設内での嘔吐 感染拡大を防止するためのポイント

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

感染拡大要因

• 嘔吐物中には100万/gのウイルス

• 嘔吐物が感染源の集団感染事例からは「初期段階での消毒」が完全でなかった

不十分な消毒処理

• 嘔吐物処理の際、手指が汚染されたり消毒が不十分な汚物が通路に残っていたりする場合がある。また、汚染された場所に接触した人の靴底や手指を介して施設内やドアノブが汚染され拡大する

接触による感染

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• 不完全な消毒では嘔吐物が塵埃となって飛散し、空気を介して感染する例がある。また、換気の悪い室内や利用者の多い通路ではウイルスを含んだ飛沫が滞留している。カーペットでは手や足に付着

空気を介した感染

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施設内での嘔吐 感染拡大を防止するためのポイント

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

対応策 具体的な方法はhttp://idsc.tokyo-eiken.go.jp/noro/digest/ohto.pdf

• 施設内で嘔吐したらノロウイルス感染を疑い、迅速かつ確実に

• ウイルスは広く、高く舞上るので広い範囲

• 消毒薬は次亜塩素酸ナトリウム0.1%を常備

嘔吐物の消毒処理

• 手袋・マスク・ガウン(エプロン)の着用=汚物処理パックの常備

• 十分な消毒が済むまで立ち入り禁止

• 十分な手洗い

接触による感染防止

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• 嘔吐物からはウイルスを含んだ飛沫や塵埃が空気中に浮遊するので感染防止にはこの浮遊物を速やかに減少させるため換気十分な換気

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次亜塩素酸ナトリウム

家庭用に市販されている次亜塩素酸ナトリウム溶液の濃度は約6%です。水で60 倍に希釈すれば0.1%に調整できます。(次亜塩素酸ナトリウム溶液100mLを6Lの水に加えます)

0.1%次亜塩素酸ナトリウム溶液は光の当たらない場所に保管すれば半年間使用可能です

二酸化塩素

塩素濃度(0.06%=600ppm)であれば嘔吐物の消毒剤として有効です

オゾン水

一般に入手可能なオゾン水の濃度は0.003%=30ppm程度とされます。この濃度では嘔吐物との接触で全て消費されるますので、嘔吐物の消毒剤としては不向きでしょう

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手指を介したノロウイルス汚染の拡大と手洗いなど手指衛生によるノロウイルス除去効果

東京都ノロウイルス対策緊急タスクフォース 終報告(平成22年9月)から引用

【実験】スチームクリーナー(吐出圧力0.25MPa、吐出口蒸気温度約100℃)に、付属のブラシ及びクロスを装着し、カーペット上の温度計の上にあてて蒸気を噴霧して表面温度を測定した。また同時にカーペット裏面の温度を測定した

【結果】【結果】カーペット表面は30~40 秒のスチーム噴霧により、85℃以上に到達した。スチームアイロンと同様に85℃を1 分間維持するためには1 ヶ所に2 分間ほど蒸気を噴霧する必要があった。裏面は、180 秒の加熱でも60~75℃程度しか上昇しなかった

24NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

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25NBT:日本細菌検査 http://www.bacct.com

ご清聴 ありがとうございました 日本細菌検査㈱ HACCP実践研究会・HJA会員

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