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ユークリッド幾何学、ニュートン力学から、相対論、量子論、素粒子論、宇宙論、そして超ひも理論まで、理論物理学を簡潔にかつ幅広く網羅したノートです。TOP へは下の URL をクリックして行けます。専用の画像掲示板で、ご意見、ご質問等も受け付けております。

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目 次

第2章 関数論と応用数学 3

2.1 指数関数と対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 双曲線関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.3 複素数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.4 複素関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.5 複素微分と正則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.6 マクローリン展開とテイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.7 複素積分とコーシーの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.8 留数定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12

2.9 複素共役とエルミート共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14

2.10 行列式の性質 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

2.11 行列の固有方程式と対角化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

2.12 行列の指数関数とトレース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

2.13 1階の微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

2.14 定係数線形微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

2.15 ガウス積分とガンマ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24

2.16 n次元球の体積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

2.17 スターリングの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

2.18 正規分布と誤差関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27

2.19 二項分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28

2.20 標本と区間推定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29

2.21 デルタ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30

2.22 フーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31

2.23 有限区間のフーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32

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第2章 関数論と応用数学

複素関数論やこれを応用した数学は物理においてよく用いられ、重要です。ここに手短にまとめておきます。関数論の簡単な説明の後、行列の対角化、微分方程式の解法、ガンマ関数、正規分布、デルタ関数、フーリエ変換について説明し、理論物理学の準備とします。

2.1 指数関数と対数関数

極限値、e = lim

h→0(1 + h)1/h ∼ 2.7182818

を自然対数の底、あるいはネイピア数といいます。実数 x に対し、

exp x = ex

を指数関数といいます。指数関数の逆関数を対数関数 (log)といいます :

y = log x ⇔ x = ey.

対数関数の定義域は x > 0 です。

log(xy) = log x + log y, log(xy) = y log x

という性質が確かめられるでしょう。また、

limh→0

log(1 + h)

h= lim

h→0log

((1 + h)1/h

)= log e = 1

に注意すると、微分公式、

d

dxlog x =

1

x,

d

dxex = ex

を得ます。

(余談) 特に工学の方面においては、自然対数を ln と表すことがあります。この場合、log は常用対数を意味することが多く、すなわち、y = log x ⇔ x = 10 y です。例えば Excel ではこのような用法になっています。一方、Excel に付属されている VBA では log は自然対数を意味します。ややこしいですね。傾向として、理論方面に行けば行くほど、常用対数を使うことがなく、log は自然対数を意味するようです。

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図 2.1: 指数対数関数

2.2 双曲線関数

特に応用数学や物理では、

cosh x =ex + e−x

2,sinh x =

ex − e−x

2,tanh x =

sinh x

cosh x

で定義される双曲線関数 (hyperbolic functions)もよく登場します。

cosh2 x− sinh2 x = 1

という性質が簡単に確かめられるでしょう。曲線 { (cosh θ, sinh θ) | θは実数 } が双曲線になるため、この名前で呼ばれます。三角関数 cos θ, sin θ は、この意味で、円関数 (circular functions)であり、そう呼ばれることもあります。

微分公式は、

d

dxcosh x = sinh x,

d

dxsinh x = cosh x,

d

dxtanh x =

1

cosh2 x.

加法定理は、

cosh(α + β) = cosh α cosh β + sinh α sinh β,

sinh(α + β) = sinh α cosh β + cosh α sinh β,

tanh(α + β) =tanh α + tanh β

1 + tanh α tanh β

のようになります。

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図 2.2: 双曲線関数

三角関数、指数関数、対数関数、双曲線関数を、ひっくるめて初等関数といいます。初等関数は関数電卓やプログラミング言語に最初から備わっていることが多いです。

[例題] 不定積分 I(t) =

∫dt

√1 + t2 を実行せよ。

[解] t = sinh θ で積分変数を θ に置換して (∗)、

I(t) =

∫dθ

d sinh θ

√1 + sinh2 θ =

∫dθ cosh2 θ

ですが、双曲線関数の倍角公式が、cosh(2θ) = cosh2 θ + sinh2 θ = 2 cosh2 θ − 1,

sinh(2θ) = 2 sinh θ cosh θ となることに注意すると、

I(t) =

∫dθ

cosh(2θ) + 1

2=

sinh(2θ)

4+

θ

2+ C =

sinh θ cosh θ

2+

θ

2+ C

=1

2t√

1 + t2 +1

2arcsinh t + C.

arcsinh は sinh の逆関数、C は積分定数です。[解終]

(*注) 高校数学では例えば t = tan θ と置換し、それでも不定積分を実行できるのですが、かなり面倒なことになります。ちなみに、

arcsinh t = log(t +

√t2 + 1

), arccosh t = log

(t +

√t2 − 1

)

という関係があります。これらを確かめるのは容易でしょう。

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2.3 複素数

実数 x, y に対し、z = x + iy

で与えられる数を複素数といいます。ここで i は虚数単位と呼ばれる代数で、

i2 = −1

を満たすものとします。複素数の集合は加減乗除の演算において閉じていて、実数と同様、結合法則、交換法則、分配法則を持ちます。すなわち体 (たい)の構造を保ちます。

[例題] 1 + 2i を 3− 4i で除算せよ。

[解]

1 + 2i

3− 4i=

(1 + 2i)(3 + 4i)

(3− 4i)(3 + 4i)=

3 + 4i + 6i + 8i2

32 − (4i)2

=3 + 4i + 6i− 8

9− (−16)=−5 + 10i

25= − 1

5+

2

5i. [解終]

z = x + iy に対し、x を z の実部といい、Re z と書きます。y を z の虚部といい、Im z と書きます。y 6= 0 の複素数、すなわち実数でない複素数を虚数といい、x = 0 の複素数、すなわち実部が 0 の複素数を純虚数といいます。

z = x + iy に対し、(x, y) が作る 2次元空間は複素平面と呼ばれます。実数が数直線上の点として表されるのに対し、複素数は複素平面上の点として表されることになります。

2.4 複素関数

複素数 z = x + iy の指数関数を、

ez = ex (cos y + i sin y)

で定義します。このとき、2つの複素数 z, z′ に対し、

ezez′ = ez+z′

であることが以下のように示されます。

[証明] z = x + iy, z′ = x′ + iy′ とすると、

ezez′ = ex(cos y + i sin y) ex′(cos y′ + i sin y′)

= ex+x′(cos y cos y′ − sin y sin y′ + i(sin y cos y′ + cos y sin y′))

= ex+x′(cos(y + y′) + i sin(y + y′))

= ex+x′+i(y+y′) = ez+z′.

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途中、三角関数の加法定理を用いました。[証明終]

特に、実数 θ に対し、

eiθ = cos θ + i sin θ

ですが、これはオイラーの式と呼ばれます。複素数 z = x + iy は、

x = r cos θ, y = r sin θ

で極座標 r, θ を導入すると、オイラーの式により、

z = reiθ

と表せます。これを複素数の極形式といいます (図 2.3)。

図 2.3: 複素数の極形式

z = reiθ に対し、r を z の大きさ (ノルム) といい、|z| と書きます。θ を z の偏角といい、arg z と書きます :

∣∣reiθ∣∣ = r, arg

(reiθ

)= θ.

複素数においても、指数関数の逆関数として対数関数を定義します :

w = log z ⇔ z = ew.

一般に n を整数としたとき、ei2πn = 1 であることに注意すると、r, θ を実数として reiθ = elog r+iθ+i2πn なので、

log(reiθ) = log r + iθ + i2πn (nは整数).

複素数の対数関数は多価であり、その値には 2πi を加減する不定性があるというわけです。

複素数 z の三角関数は、

cos z =eiz + e−iz

2,sin z =

eiz − e−iz

2i

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で定義されます。双曲線関数の定義は実数の場合と同じで、

cosh z =ez + e−z

2,sinh z =

ez − e−z

2

です。

また、複素数によるべきは、az = ez log a

で定義されます。a, z は複素数です。このとき、

azaz′ = az+z′, (az)z′ = azz′, log(zz′) = log z + log z′, log(az) = z log a

が確かめられます。指数法則や対数関数の性質が、複素数の世界においても保持されるわけです。あるいは、そうなるように考慮し関数の定義域を複素数に拡張したともいえます。

[例題] log(−2) の値を求めよ。

[解] log(−2) = log(2 eiπ) = log 2 + iπ + i2πn = log 2 + iπ(2n + 1). ここで n は整数。[解終]

[例題] i1/2 の値を求めよ。

[解] i1/2 = e(1/2) log i = e(1/2) log eiπ/2

= e(1/2)(iπ/2+i2πn) = eiπ/4+iπn = ± 1 + i√2.

[解終]

2.5 複素微分と正則

複素数から複素数への写像 f , および複素平面の領域 S に対し、

∀z ∈ S(

lim∆z→0

f(z + ∆z) = f(z))

のとき、f は S において連続であるといいます。∆z は複素数で、上式は ∆z を任意の方向から0 に近づけ、その極限が全て関数の値 f(z) に一致するという意味です。このときさらに、

∀z ∈ S

(lim

∆z→0

f(z + ∆z)− f(z)

∆z= f ′(z)

)

を満たす関数 f ′ が存在するとき、f は S において正則 (微分可能)であるといい、f ′ を f の導関数といいます。

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いま、u + iv = f(x + iy) とおくと、実数 u, v は共に、実数 x, y の 2変数関数とみなせますが、∆z = h ( h は実数)のとき、

lim∆z→0

f(z + ∆z)− f(z)

∆z= lim

h→0

f(x + iy + h)− f(x + iy)

h

= limh→0

u(x + h, y) + iv(x + h, y)− u(x, y)− iv(x, y)

h=

∂u

∂x+ i

∂v

∂x.

同様に、∆z = ih のとき、

lim∆z→0

f(z + ∆z)− f(z)

∆z=

∂v

∂y− i

∂u

∂y

を示せるので、考えている領域において f が正則である条件は、

∂u

∂x=

∂v

∂yかつ

∂u

∂y= −∂v

∂x

となり、これをコーシー・リーマン方程式といいます。

実数の場合と同様に、次の微分公式を証明できます。

d

dzza = aza−1,

d

dzaz = az log a,

d

dzlog z =

1

z,

d

dzsin z = cos z,

d

dzcos z = − sin z,

d

dztan z =

1

cos2 z,

d

dzsinh z = cosh z,

d

dzcosh z = sinh z,

d

dztanh z =

1

cosh2 z.

(余談) コーシー・リーマン方程式から、実 2変数関数 u, v は、それぞれ、4u = 0, 4v = 0 を満たします。ここで 4 = (∂/∂x)2 + (∂/∂y)2 は 2次元ラプラシアンです。一般に 4φ = 0 を満たす 2変数関数 φ は調和関数と呼ばれます。よって u, v は調和関数ということになります。

2.6 マクローリン展開とテイラー展開

正則な関数 f を次のように多項式展開したとしましょう :

f(z) = c0 + c1z + c2z2 + · · · =

∞∑

k=0

ckzk.

ここで ck (k = 0, 1, 2, · · · ) は複素数の定数です。この式を n回微分し z = 0 とおけば、f のn階導関数を f (n) として、f (n)(0) = cnn! を得るので、

f(z) =∞∑

k=0

f (k)(0)

k!zk.

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これを f のマクローリン展開といいます。

例えば f(z) = ez とすると、f (k)(z) = ez ∴ f (k)(0) = 1 なので、

ez =∞∑

k=0

1

k!zk = 1 + z +

1

2!z2 +

1

3!z3 + · · · .

また、f(z) = sin z とすると、

f (k)(z) =

sin z (k = 0 mod 4)

cos z (k = 1 mod 4)

− sin z (k = 2 mod 4)

− cos z (k = 3 mod 4)

∴ f (k)(0) =

0 (k = 0, 2 mod 4)

1 (k = 1 mod 4)

−1 (k = 3 mod 4)

がわかるので、

sin z = z − 1

3!z3 +

1

5!z5 − 1

7!z7 + · · · .

同様に考えて、

cos z = 1− 1

2!z2 +

1

4!z4 − 1

6!z6 + · · ·

を得るでしょう。

一方、マクローリン展開の式において g(z) = f(z − a) とおくと、

g(z) =∞∑

k=0

g(k)(a)

k!(z − a)k

を得ますが、これを関数 g の a におけるテイラー展開といいます。

2.7 複素積分とコーシーの定理

複素数による積分は一般に複素平面上の経路に依存した概念であり、関数 f の経路 C における複素積分は、 ∫

C

dz f(z)

のように書かれます。

[例題] C を 1 から 1 + i に向かう直線経路としたとき、複素積分 I =

C

dz z2

の値を求めよ。

[解] 経路 C は、C = { z | z = 1 + it, 0 ≤ t ≤ 1 } と表すことができ、この経路上で、dz = d(1 + it) = idt, z2 = (1 + it)2 = 1 + 2it− t2 なので、

I =

C

dz z2 = i

∫ 1

0dt (1 + 2it− t2) = i

(1 + i− 1

3

)= −1 +

2

3i. [解終]

10

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複素平面のある領域 S において関数 f が正則であるとき、∫

∂S

dz f(z) = 0

です。これをコーシーの定理といいます。∂S は S の境界を成す閉曲線で、反時計周りの向きを持つものとします。

[証明] z = x + iy, f(z) = u + iv とすると、

d(dz f(z)) = −dz ∧ df(z) = −(dx + idy) ∧ (du + idv)

= −(dx + idy) ∧(

∂u

∂xdx +

∂u

∂ydy + i

∂v

∂xdx + i

∂v

∂ydy

)

= dx ∧ dy

(i∂u

∂x− ∂v

∂x− ∂u

∂y− i

∂v

∂y

)

ですが、コーシー・リーマン方程式からこれは S のどの点においても 0です。よってストークスの定理 :

∫∂S α =

∫S dα において α = dzf(z) とおくことにより与題

を得ます。[証明終]

コーシーの定理から、領域 S において関数 f が正則なら、図 2.4に示す 2つの経路 C, C ′ における f の積分値は同じです。このことから一般に、複素積分の値は、積分経路を被積分関数が正則な領域を掃くよう変形しても変わらないことになります。

図 2.4: 積分経路の変形

領域 S において関数 g が正則のとき、∫

∂S

dzg(z)

(z − a)n=

2πi

(n−1)!g(n−1)(a) (a ∈ S, n = 1, 2, · · · )

がいえます。これをコーシーの積分定理、あるいはグルサの公式といいます。

[証明] まず∫

∂S dz g(z)/(z − a) という積分を考えると、被積分関数は領域 S においては点 a を除き正則なので、積分経路を a の周りの小さな円にすることができます。そこで、積分変数を z = a + reiθ (r → 0) とおいて、

∂S

dzg(z)

z − a= lim

r→0

∫ 2π

0ireiθdθ

g(a + reiθ)

reiθ= 2πi g(a).

この式を a で (n−1) 回微分して与題を得ます。[証明終]

11

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2.8 留数定理

複素数 z の (1価の)関数 f(z) が z = a で発散し、整数 n に対し、

limz→a

(z − a)nf(z)

が 0 でない値に収束するとき、複素数 a を関数 f の n 位の極といいます。例えば、

f(z) =z

(z − i)3(z + 2)2

のとき、f は i に 3位の極、−2 に 2位の極を持つというわけです。

関数 f が領域 S においていくつかの極 ai (i = 1, 2, · · · , N) を持ち、その他の点において正則なら、

∂S

dz f(z) = 2πi

N∑i=1

Res(ai),

Res(a) =1

(n−1)!limz→a

(d

dz

)n−1

(z − a)nf(z) ( nは極 aの位数)

です。Res(a) を留数といい、この定理を留数定理といいます。

[証明] コーシーの定理から積分∫

∂S dz f(z) は S 内で f が持つ極の周りの積分の和になります (図 2.5参照。×印は極を意味します)。特に極 a の周りの積分はf(z) = g(z)/(z − a)n とおけば g(z) は a の近傍で正則とみなされるため、ちょうどグルサの公式に帰着し、よって与題が得られます。[証明終]

図 2.5: 留数定理

留数定理により、閉曲線における複素積分は、閉曲線内部にある極の情報だけから求められるわけです。またその応用により、通常計算が困難とされる実積分を計算することもできます。以下に例を 2つあげます。

[例題] 広義積分 : I =

∫ ∞

0

dx

x4 + 1の値を求めよ。

12

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[解] まず、十分大きな実数 R に対し図 2.6のような周回経路 C を考え、

I ′ =∫

C

dz

z4 + 1

とおきます。

図 2.6: 閉曲線C

C の内部における極は、eiπ/4, ei3π/4 にあり、共に位数は 1です。留数は、

Res(eiπ/4) = limz→ eiπ/4

z − eiπ/4

z4 + 1= lim

z→ eiπ/4

1

4z3 =e−i3π/4

4.

途中、計算を手早く行うためロピタルの定理を用いました。同様に Res(ei3π/4) =

e−iπ/4/4 がわかるので、留数定理から、

I ′ = 2πi

(e−i3π/4

4+

e−iπ/4

4

)=

π√2.

一方、

I ′ =∫ R

−R

dx

x4 + 1+

∫ π

0

iReiθdθ

(Reiθ)4 + 1

ですが、R →∞ で前の項は 2I, 後ろの項は 0 になるので、I ′ = 2I. よって、

I =I ′

2=

π

2√

2.[解終]

[例題] 定積分 : I =

∫ 2π

0

(1 + ε cos φ)2 の値を求めよ。ただし 0 < ε < 1.

[解] z = eiφ とおくと、dφ = dz/(iz), cos φ = (z + z−1)/2 に注意して、

I =

C

dz

iz

1(1 + ε

z + z−1

2

)2 =4

iε2

C

dzz(

z2 +2

εz + 1

)2

.

13

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ここで C は 0 を中心とする単位円です。2次方程式 z2 + (2/ε)z + 1 = 0 の解が、α± = (−1 ± √1− ε2)/ε で、このうち α+ のみが C の内部にあるとわかるので、留数定理を用いて、

I =4

iε2

C

dzz

(z − α+)2(z − α−)2 =4

iε2 2πi limz→α+

d

dz

z

(z − α−)2

=8π

ε2 limz→α+

−z − α−(z − α−)3 =

ε2

−α+ − α−(α+ − α−)3 =

ε2

2/ε(2√

1− ε2/ε)3

=2π

(1− ε2)3/2.[解終]

2.9 複素共役とエルミート共役

複素数 z = x + iy に対し、z∗ = x− iy

で z の複素共役を定義します。このとき、

z∗z = x2 + y2 = |z|2 ≥ 0 (等号成立は z = 0 ).

一方、複素数を成分とする行列 A に対して、

(A∗)ij = A∗ij

で複素共役 A∗ を定義します。すなわち行列の複素共役は、その各成分を複素共役とした行列です。また、複素共役の転置、

A† = A∗T

でエルミート共役を定義します。性質、

(A + B)† = A† + B†, (cA)† = c∗A†, (AB)† = B†A†

が確かめられるでしょう。ここで c は複素数です。

複素数を成分とするベクトル (N行 1列の行列) a, b に対して、

< a, b > = a†b =(a∗1 a∗2 · · · a∗N

)

b1

b2...

bN

= a∗i bi

で内積を定義します。そうすると、

< a, b >∗= < b, a >, < a, a > ≥ 0 (等号成立は a = 0 )

14

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が確かめられます。0 は全ての成分が 0 のベクトルで、零ベクトルと呼ばれます。ベクトルの大きさ (ノルム)は、

|a| = √< a, a >

で定義されます。

A† = A を満たす行列 A はエルミート行列と呼ばれます。A†A = δ を満たす行列 A はユニタリ行列と呼ばれます ( δ は単位行列)。ユニタリ行列による線形変換(ユニタリ変換)はベクトルの内積を保存することが確かめられるでしょう :

( a′ = Aa かつ b′ = Ab かつ A†A = δ ) ⇒ < a′, b′ > = < a, b > .

エルミート行列は対称行列 (AT = Aを満たす実行列 A)の複素数版、ユニタリ行列は直交行列 (ATA = δ を満たす実行列 A)の複素数版と考えることができます。

[例題] U =1√2

(1 1

−i i

)がユニタリ行列であることを確かめよ。

[解] U †U =1√2

(1 i

1 −i

)1√2

(1 1

−i i

)=

(1 0

0 1

)= δ. [解終]

2.10 行列式の性質

N個のベクトル v1, v2, · · · , vN を横に並べて作った行列を (v1, v2, · · · , vN) と書きます。すなわち、

(v1, v2, · · · , vN)ij = (vj)i.

もし各々のベクトルがN次なら、この行列は正方行列となり、その行列式は、

det(v1, v2, · · · , vN) = εi1i2···iN (v1)i1(v2)i2 · · · (vN)iN

で与えられるでしょう。そうすると、次の性質を示すことができます :

det(· · · , cv, · · · ) = c det(· · · , v, · · · ),

det(· · · , v, · · · , u, · · · ) = − det(· · · , u, · · · , v, · · · ),det(· · · , v, · · · , u + cv, · · · ) = det(· · · , v, · · · , u, · · · ).

c は複素数です。最後の式は、正方行列の任意の列に別の列の定数倍を加えてもその行列式は変わらないということで、多重線形性と呼ばれます。これら性質は行列の列に関するものですが、det AT = det A に注意すると、行に関しても同様に成り立ちます。

15

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以上の性質を上手く利用すると、行列式を比較的速く計算することができます。例えば、

det

1 3 4

2 5 8

6 7 9

= det

1 0 0

2 −1 0

6 −11 −15

= 1× det

( −1 0

−11 −15

)= 15.

最初の変形で、2列目から 1列目の 3倍を、3列目から 1列目の 4倍を引いています。そうして 1行目の成分に 0 を増やすことで、後の余因子展開が簡単になるというわけです。(余因子展開についてはユークリッド幾何学の章を参照。)

2.11 行列の固有方程式と対角化

N次正方行列 A に対し、方程式、

Av = λv (v 6= 0)

を A の固有方程式といい、複素数 λ を固有値、v をその固有値に関する固有ベクトルといいます。

いま、行列 A の固有値が N 個求まり、固有値 λk に関する固有ベクトルを vk

とすると、

A(v1, v2, · · · , vN) = (λ1v1, λ2v2, · · · , λNvN)

= (v1, v2, · · · , vN) diag(λ1, λ2, · · · , λN).

ここで diag(λ1, λ2, · · · , λN) は λ1, λ2, · · · , λN を対角成分とする対角行列です (非対角成分が全て0の行列)。よってもし (v1, v2, · · · , vN) の逆行列が存在するなら、

A = B diag(λ1, λ2, · · · , λN)B−1, B = (v1, v2, · · · , vN)

を得ますが、この変形を行列Aの対角化といいます。

行列が対角化されれば、

(BDB−1)n = BDnB−1, diag(λ1, λ2, · · · , λN)n = diag(λn1 , λ

n2 , · · · , λn

N)

に注意して、そのn乗を求めることができます。

[例題] 行列 A =

(2 3

4 1

)を対角化せよ。また An を求めよ。

[解] 固有方程式は、

Av = λv ∴(

2 3

4 1

)v =

(λ 0

0 λ

)v ∴

(2− λ 3

4 1− λ

)v = 0.

16

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v 6= 0 より、

det

(2− λ 3

4 1− λ

)= 0 ∴ λ2 − 3λ− 10 = 0 ∴ λ = 5, −2.

λ = 5のとき、(−3 3

4 −4

)v = 0 ∴ v =

(1

1

).

λ = −2のとき、(

4 3

4 3

)v = 0 ∴ v =

(−3

4

).

よって A の対角化は、

A = B diag(5,−2)B−1, B =

(1 −3

1 4

)

となり、

An = B diag(5n, (−2)n)B−1 =

(1 −3

1 4

)(5n 0

0 (−2)n

)1

7

(4 3

−1 1

)

=1

7

(4·5n + 3(−2)n 3·5n − 3(−2)n

4·5n − 4(−2)n 3·5n + 4(−2)n

). [解終]

固有ベクトル v にはそれぞれ定数倍の不定性があるため、行列 B にもこれに関連した不定性があることに注意してください。

2.12 行列の指数関数とトレース

正方行列 A の指数関数は、

eA =∞∑

n=0

1

n!An

のように定義されます。すなわち形式的に指数関数のマクローリン展開を行列に適用し定義するわけです。

二項定理 :

(a + b)s =s∑

n=0sCna

nbs−n =s∑

n=0

s!

n!(s−n)!anbs−n

に注意すると、正方行列 A, B が互いに可換なとき、

eAeB =∞∑

n=0

∞∑m=0

1

n!m!AnBm =

∞∑s=0

s∑n=0

1

n!(s−n)!AnBs−n

=∞∑

s=0

1

s!(A + B)s = eA+B

17

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がわかります。よって eA の逆行列は e−A です。また、A がエルミート行列のとき eiA がユニタリ行列になることもわかるでしょう。

[例題] A =

(0 −1

1 0

)のとき eθA を求めよ。

[解] 2次の単位行列を δ として、

An =

δ (n = 0 mod 4)

A (n = 1 mod 4)

−δ (n = 2 mod 4)

−A (n = 3 mod 4)

となることに注意して、

eθA =∞∑

n=0

1

n!(θA)n = δ + θA− 1

2!θ2δ − 1

3!θ3A +

1

4!θ4δ +

1

5!θ5A + · · ·

= cos θ δ + sin θ A =

(cos θ − sin θ

sin θ cos θ

). [解終]

[例題] A =

(2 3

4 1

)のとき exA を求めよ。

[解] An は先の例題で求めました。その結果を用いて、

exA =∞∑

n=0

1

n!(xA)n =

∞∑n=0

1

n!xn · 1

7

(4·5n + 3(−2)n 3·5n − 3(−2)n

4·5n − 4(−2)n 3·5n + 4(−2)n

)

=1

7

(4e5x + 3e−2x 3e5x − 3e−2x

4e5x − 4e−2x 3e5x + 4e−2x

). [解終]

正方行列 A の対角成分の和を trA と書いて、A のトレース (跡)といいます :

trA = Aii.

このとき、

tr(A + B) = trA + trB, tr(cA) = c trA, tr(AB) = tr(BA)

という性質が簡単に確かめられるでしょう ( c は複素数)。また、

det eA = etrA

が次のように証明されます。

18

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[証明] N次正方行列 A, N次単位行列 δ, 無限小量 ε に対して、

det(δ + εA) = εi1i2···iN (δ1i1 + εA1i1)(δ2i2 + εA2i2) · · · (δNiN + εANiN )

= ε12···N + εi12···N εA1i1 + ε1i2···N εA2i2 + · · ·+ ε12···iN εANiN

= 1 + ε(A11 + A22 + · · ·ANN) = 1 + ε trA.

よって、det eεA = eεtrA ですが、両辺n乗し n を無限に大きく取り nε = 1 とおけば与題を得ます。[証明終]

行列の対角化や指数関数は、後に群論や量子論を学ぶ際に特に重要になってきます。

(余談) det eA = etrA の証明は、もし行列 A が A = BHB−1 のように対角化できるなら ( H は対角行列)、

det eBHB−1

= det(BeHB−1) = det eH , tr(BHB−1) = tr(B−1BH) = trH

に注意して簡単です。しかし行列 B が正則とは限らず、A が対角化可能とは限りません。A が対角化可能でない場合を別に考察して証明を完成させることもできるでしょうが、上のように無限小量を導入して証明するのが簡単です。

2.13 1階の微分方程式

微分方程式は、微分を含んだ方程式のことで、それを満たす関数を求めることを、その微分方程式を解くといいます。物理では微分方程式を解くことが必要になってきます。代表的な形と解き方について、ここで簡単に説明します。

1階の微分方程式は、1階微分だけを含んだ微分方程式のことで、

dy

dx= f(x, y)

という形です。これを一般に解析的に解くことは難しいですが、

dy

dx= p(x)q(y)

のように、右辺が x, y それぞれの関数の積に分離する場合は、変数分離形と呼ばれ、基本的に、

∫dy

q(y)=

∫dx p(x)

と変形され、不定積分に帰着します。不定積分はそれ自体解析的とみなされるので、これで微分方程式が解けたと考えられます。変数分離形は容易に解けます。

19

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[例題] 微分方程式dy

dx= 3x2y を解け。

[解] y = 0 (∀x) は解。y 6= 0 のときは、∫

dy

y= 3

∫dx x2 ∴ log y = x3 + A ∴ y = ex3+A = Bex3

.

ここで A, B = eA は定数。このとき y = 0 は B = 0 において実現されるので、一般解は y = Bex3

. [解終]

また、変数分離形でない場合でも、

y = u(x)v(x)

とおき関数 v(x) を都合よく選ぶことで、変数分離形に帰着して解けることがあります。

[例題] 微分方程式dy

dx=

2y

x+ x を解け。

[解] y = uv とおくと、

du

dxv + u

dv

dx=

2uv

x+ x ∴ du

dxv + u

(dv

dx− 2v

x

)= x.

左辺の括弧内が 0 になるように v を選ぶことにすると、

dv

dx=

2v

x∴

∫dv

v= 2

∫dx

x∴ log v = 2 log x + A ∴ v = e2 log x+A = Bx2.

特に B = 1 として v = x2 に選びます。そうすると、

du

dxx2 = x ∴ du

dx=

1

x∴ u = log x + C ∴ y = uv = x2 log x + Cx2.

ここで C は任意定数です。[解終]

(余談) 特に、dy

dx= f

(y

x

)

という形の微分方程式は、y = xu(x) とおくことで変数分離形に帰着することが確かめられるでしょう。このような微分方程式は同次形と呼ばれます。

2.14 定係数線形微分方程式

x による微分演算子を D = d/dx とし、また、φ をN次の多項式としたとき、

φ(D)y = f(x)

20

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という形の微分方程式は、N階の定係数線形微分方程式と呼ばれ、容易に解くことができます。ここで f は任意の関数です。もう少し具体的に書けば、N次多項式 φ の n次の係数を an として、

(aNDN + aN−1DN−1 + · · ·+ a1D + a0) y = f(x)

という形です。an が x に依存せず定数なので、定係数といい、微分方程式が y について 1次なので、線形というわけです。特に f(x) = 0 のときは斉次 (同次)であるといい、このため右辺の f(x) は非斉次項と呼ばれます。

上の微分方程式の解が 1つ見つかると、線形性から、それに φ(D)y = 0 の解を加えてもやはり解になっています。よって、上の微分方程式の一般解は、特殊解(特解) 1つと、斉次方程式 φ(D)y = 0 の一般解を加えたものになります。

斉次方程式 φ(D)y = 0の一般解は y = eλx とおくことで得られます。このとき、

φ(λ) = 0

ですが、これを特性方程式といいます。特性方程式はN次方程式で、これを解くことで N 個の解 λ1, λ2, · · · , λN が得られ、このとき y = eλnx (n = 1, 2, · · · , N)

は全て解なので、これらの線形結合、

y = C1 eλ1x + C2 eλ2x + · · ·+ CN eλNx

も解です。ここで Cn は任意の定数ですが、これらが N 個あって自由に選べるので、これは一般解といえます。

ただし、特性方程式が重解を持つときは注意が必要です。例えば、λ がm重解のときは、

(D − λ)f(x)eλx = f ′(x)eλx ∴ (D − λ)mf(x)eλx = f (m)(x)eλx

に注意し、eλx, x eλx, · · · , xm−1 eλx がそれぞれ独立な解であることがわかります。よってこれらの線形結合により、やはり一般解を構成できることになります。

例を見るのが早いでしょう。

[例題] 微分方程式 y(4)− y(3)− 3y(2) + 5y(1)− 2y = 0 を解け。ただし y(n) は x による y のn階微分を意味する。

[解] 与式は (D4 −D3 − 3D2 + 5D − 2)y = 0 ∴ (D − 1)3(D + 2)y = 0 なので、特性方程式は (λ − 1)3(λ + 2) = 0 で、その解は λ = 1 (3重解) および λ = −2

です。よって一般解は、

y = C1 ex + C2 x ex + C3 x2 ex + C4 e−2x

と書けます。ここで、C1, C2, C3, C4 は任意定数です。[解終]

21

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[例題] 微分方程式 y′′ − 5y′ + 6y = x2 + 1 を解け。

[解] 右辺が 0 のときは、(D2 − 5D + 6)y = 0 ∴ (D − 2)(D − 3)y = 0 なので、斉次一般解は、y = C1 e2x + C2 e3x. 一方、特解は、

y =1

D2 − 5D + 6(x2 + 1) =

1

6x2 +

5

18x +

37

108

なので、一般解は、

y =18x2 + 30x + 37

108+ C1 e2x + C2 e3x

です。[解終]

ここで (D2− 5D + 6)−1(x2 + 1) は、(D2− 5D + 6) を演算すると (x2 + 1) になる式という意味で、図 2.7のように割り算と同様な逆算により導出できます。

図 2.7: 微分演算子による割り算

一方、非斉次項に指数関数や三角関数が含まれる場合は、

1

φ(D)eαxf(x) = eαx 1

φ(D + α)f(x)

という公式が有用になります。

[証明] D eαxf(x) = eαx(D + α)f(x) が簡単に確かめられるので、これにより、任意の多項式 φ について、

φ(D)eαxf(x) = eαxφ(D + α)f(x)

22

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がわかります。よって、

φ(D)eαx 1

φ(D + α)f(x) = eαxφ(D + α)

1

φ(D + α)f(x) = eαxf(x)

ですが、これは与題と等価です。[証明終]

三角関数を非斉次項に持つ例を見ておきましょう。

[例題] 微分方程式 y′′ + y = cos(Ax) を解け。ただし A は正の実数とする。

[解] 右辺が 0 のときは、(D2 + 1)y = 0 で、λ2 + 1 = 0 の解は λ = ±i なので、斉次一般解は、y = C1 eix + C2 e−ix. これはオイラーの式に注意すると、

y = B1 cos x + B2 sin x

と書くこともできます。B1, B2 は任意定数です。一方、特解は、cos(Ax) = Re eiAx

に注意して、

y =1

D2 + 1Re eiAx = Re eiAx 1

(D + iA)2 + 11

= Re eiAx 1

1− A2 + 2iAD + D2 1

=

Re eiAx 1

1− A2 =cos(Ax)

1− A2 (A 6= 1)

Re eix x

2i=

x sin x

2(A = 1)

と計算されるので、一般解は、

y = B1 cos x + B2 sin x +

cos(Ax)

1− A2 (A 6= 1)

x sin x

2(A = 1)

となります。[解終]

微分方程式の解き方は以上です。特に物理においては、これくらい知っていれば基礎知識として十分です。

(余談) 物理においては対称性から保存則が得られるので、対称性が十分ある系は 1階の微分方程式に帰着し、多くの場合それは変数分離形です。そうでない場合でも線形近似と摂動論により計算することが多く、非線形で高階な微分方程式の解を知ることはそれ自体が 1つの数理的分野となっていて、非線形物理などと呼ばれます。例えばカオスは一部の非線形微分方程式の解が有する数理現象で、その振る舞いは非常に複雑なものになります。

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2.15 ガウス積分とガンマ関数

広義積分、

I =

∫ ∞

−∞dx e−x2

をガウス積分といいます。自乗を作ると、

I2 =

∫ ∞

−∞dx e−x2

∫ ∞

−∞dy e−y2

=

∫ ∞

−∞dx

∫ ∞

−∞dy e−x2−y2

ですが、積分変数を極座標に変換し、

I2 =

∫ ∞

0dr

∫ 2π

0dθ r e−r2

= 2π

∫ ∞

0dr r e−r2

.

この積分は積分変数を s = r2 に置換すれば実行できて、結果、I2 = π を得ます。よって、 ∫ ∞

−∞dx e−x2

=√

π.

あるいはここから、 ∫ ∞

−∞dx e−ax2

=

√π

a(a > 0)

という公式を得ます。

一方、x > 0 に対して、

Γ(x) =

∫ ∞

0dt tx−1e−t

でガンマ関数を定義します。容易に、

Γ(1) = 1, Γ(x + 1) = xΓ(x)

が確かめられるので、正の整数 n に対して、

Γ(n) = (n− 1)!

です。すなわちガンマ関数は階乗の定義域を正の実数にまで拡張した関数になっています。Γ(1/2) はガウス積分に帰着することがわかり、

Γ(1

2

)=√

π.

また、Γ(1 + ε) = ε Γ(ε) ∴ lim

ε→0ε Γ(ε) = 1.

すなわち Γ(x) は x → 0 において発散し、その留数は 1 です。

(余談) “x > 0” のように定義域を不等式で表したときは、暗黙に x は実数と考えます。複素数には大小関係 (順序関係)がないことに注意。

24

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2.16 n次元球の体積

ガウス積分およびガンマ関数の風変わりな応用として、n次元球の体積の問題があります。

I =

∫ ∞

−∞dx1

∫ ∞

−∞dx2 · · ·

∫ ∞

−∞dxn e−(x2

1+x22+···+x2

n)

というn重積分を考えると、ガウス積分の結果から、

I = πn/2.

一方、半径 R のn次元球の体積を、

Vn(R) = CnRn

とすると、半径 R の (n− 1)次元球面の表面積が、

Sn−1(R) =d

dRVn(R) = nCnR

n−1

となるはずなので、I は、

I =

∫ ∞

0dr n Cnr

n−1e−r2

=nCn

2

∫ ∞

0ds sn/2−1e−s

=n Cn

(n

2

)= Cn Γ

(n

2+ 1

)

と評価することもできます。2つの I の結果を比較して、

Cn =πn/2

Γ(n

2+ 1

) ∴ Vn(R) =πn/2Rn

Γ(n

2+ 1

).

V2(R) = πR2, V3(R) = (4/3) πR3 が得られることを確認してみてください。また、半径 R の 4次元球の体積は V4(R) = (1/2) π2R4 となることがわかります。

(余談) 4次元デカルト座標 xi ( i = 1, 2, 3, 4 )に対し、

x1 = r cos ψ, x2 = r sin ψ cos θ, x3 = r sin ψ sin θ cos φ, x4 = r sin ψ sin θ sin φ

( 0 ≤ r < ∞, 0 ≤ ψ < π, 0 ≤ θ < π, 0 ≤ φ < 2π )

で 4次元極座標を定義すると、これは原点を除き 4次元ユークリッド空間の全領域を 1対 1に覆います。この極座標 ξi = (r, θ, φ, ψ)i におけるヤコビアン det ∂x/∂ξ を計算すると、r3 sin2 ψ sin θ となるので、半径 R の 4次元球の体積は、

V4(R) =

∫ R

0

dr r3

∫ π

0

dψ sin2 ψ

∫ π

0

dθ sin θ

∫ 2π

0

dφ =R4

4· π

2· 2 · 2π =

1

2π2R4.

これはもちろん上の結果と一致しています。

25

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2.17 スターリングの式

ガンマ関数は、

Γ(x + 1) =

∫ ∞

0dt txe−t =

∫ ∞

0dt e−f(t), f(t) = t− x log t

と表せますが、この積分で特に効くのは f(t) の最小値を与える t の近辺だけのはずなので、他の区間の積分を無視するという近似が考えられます (漸近展開)。f(t)

は t = x で最小値を持つことがわかり、f(t) を t = x のまわりでテイラー展開すると、

f(t) = x− x log x +1

2x(t−x)2 + · · · .

よって、

Γ(x + 1) ∼ e−x+x log x

xの周辺dt e−(t−x)2/(2x)

∼ e−x+x log x

∫ ∞

−∞dt e−(t−x)2/(2x) =

√2πx xxe−x

という近似式を得ます。これをスターリングの式といい、非常に精度のよい近似式として知られています。

x Γ(x + 1)√

2πx xxe−x 比

2 2 1.9190044 1.0422071

4 24 23.506175 1.0210083

6 720 710.07818 1.0139728

8 40320 39902.395 1.0104657

10 3628800 3598695.6 1.0083654

スターリングの式から、正の整数 n に対して、

log n!

n∼ log n− 1− log(2πn)

2n

ですが、n が十分大きいときは最後の項を無視でき、

log n! ∼ n log n− n

と評価されます。

26

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2.18 正規分布と誤差関数

2つのパラメータを持つ関数、

N(x; µ, σ2) =1√

2πσ2exp

(− (x− µ)2

2σ2

)

を、正規分布、あるいはガウス分布といい、これは確率分布関数として代表的なものです。∫ ∞

−∞dxN(x; µ, σ2) = 1, < x > =

∫ ∞

−∞dx x N(x; µ, σ2) = µ,

< (x− < x >)2 > =

∫ ∞

−∞dx (x− µ)2 N(x; µ, σ2) = σ2

が確かめられるので、変数 x の期待値 (平均値)は µ, 分散は σ2 ということになります。σ =

√σ2 は標準偏差と呼ばれます (図 2.8)。

図 2.8: 正規分布

変数 x の確率分布が正規分布 N(x; µ, σ2) に従う場合、|x− µ| < sσ が満たされる確率 P は、

P =

∫ µ+sσ

µ−sσ

dxN(x; µ, σ2) = erf

(s√2

), erf(z) =

2√π

∫ z

0dt e−t2.

erf(z) は誤差関数 (error function)と呼ばれる特殊関数で、数値計算により次の表が確かめられます。

s 0 .6745 1.036 1.282 1.645 1.960 2.170 2.576 ∞erf(s/

√2) 0 0.5 0.7 0.8 0.9 0.95 0.97 0.99 1

条件 A が満たされる確率を Prob(A) と書けば、

Prob ( |x− µ| < sσ ) = erf

(s√2

)

ということになります。

27

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2.19 二項分布

1回の試行で事象 A が起こる確率が p であるとき、n回の試行で A が k回起こる確率は、

B(k; p, n) = nCk pk(1− p)n−k =n!

k!(n−k)!pk(1− p)n−k

と書けます。これを二項分布といいます。二項分布は、n, k, n− k が十分大きいとき、期待値 µ = np, 分散 σ2 = np(1− p) の正規分布に漸近します。

[証明] q = 1− p とし、スターリングの式に注意すると、

log B(k; p, n) ∼ n log n− n− k log k + k − (n−k) log(n−k) + (n−k)

+ k log p + (n−k) log q

= −k log k − (n−k) log(n−k) + k log p− k log q + (定数).

ですが、k = np + x で変数を x に変えると、

log B(k; p, n) ∼ −(np + x) log

(1 +

x

np

)− (nq − x) log

(1− x

nq

)+ (定数)

と整理されます。ここで log(1 + x) = x− (1/2)x2 + · · · に注意すると、1/n の高次を無視して、

log B(k; p, n) ∼ − x2

2npq+ (定数) ∴ B(k; p, n) ∝ exp

(− (k − np)2

2npq

).

比例因子は全確率が 1 となることから定まり、与題を得ます。[証明終]

そうすると、二項分布 B(k; p, n) において、特にいまの近似が適用できる場合、

Prob(| k − np | < s

√np(1− p)

)∼ erf

(s√2

)

が成り立つことになります。

[例題] サイコロを 1000 回振ったときに 1 の目が出る回数の範囲を、5% の危険率で求めよ。

[解] n = 1000, p = 1/6, 1 の目が出る回数を k として、およそ 95% の確率で、

| k − np | < 1.96√

np(1− p) ∴ | k − 166.7 | < 23.1.

よって 5% の危険率で (144 ∼ 189) 回。[解終]

28

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2.20 標本と区間推定

ある母集団があり、そこでは変数 x の期待値が µ, 分散が σ2 であるとします。この母集団から大きさ (データ数) n の標本を取り出し、標本における変数 x の各値 xi (i = 1, 2, · · · , n) の平均値を、

x̄ =1

n

n∑i=1

xi

と表します。このとき x̄ の期待値、および分散は、それぞれ、

< x̄ > = µ, < (x̄− < x̄ >)2 > =σ2

n

となります。

[証明] < xi > = µ に注意して、

< x̄ > =1

n

n∑i=1

< xi > = µ,

< (x̄− < x̄ >)2 > = < x̄2 > − < x̄ >2 =1

n2

n∑i=1

n∑j=1

< xixj > −µ2

ですが、< x2i > = µ2 + σ2. また、i 6= j のとき、< xixj > =< xi >< xj > = µ2

であることに注意して、

< (x̄− < x̄ >)2 > =1

n2

(n(µ2 + σ2) + (n2 − n)µ2)− µ2 =

σ2

n.[証明終]

そうすると、特に nが大きい場合、標本平均 x̄の分布を正規分布で近似して (∗)、

Prob

(|x̄− µ| < sσ√

n

)∼ erf

(s√2

)

を得ます。

[例題] ある量を 100 回測定したところ、その平均値は 27.3, 標準偏差が 1.1 であった。この量の真の値があり得る区間を危険率 5% で推定せよ。

[解] 真の値は母集団 (無限回測定)における期待値 µ と考えられる。測定回数n = 100 は十分大きいので、母集団と標本における標準偏差はおおよそ等しいと考えることができ、σ = 1.1, x̄ = 27.3 として、およそ 95% の確率で、

|x̄− µ| < 1.96 σ√n

∴ |µ− 27.3| < 0.2.

よって 5% の危険率で 27.3± 0.2. [解終]

(*注) 母集団の分布がどんなものであれ、標本の大きさ n を大きくしていくと標本平均 x̄ の分布が正規分布に近づくことは実際に証明されていて、中心極限定理と呼ばれています。

29

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2.21 デルタ関数

実数 x に対して、

δ(x) = N(x; 0, 0) = limε→+0

1√πε

e−x2/ε2

でディラックのデルタ関数を定義します。このとき、

δ(x) = 0 (x 6= 0), δ(0) →∞.

すなわちデルタ関数は x = 0 で無限に尖った関数です。

デルタ関数は明らかに偶関数です :

δ(−x) = δ(x).

また、0 でない実数 a に対して、

δ(ax) =1

|a| δ(x)

が確かめられるでしょう。

0 以上の整数 n に対して、∫∞−∞ dx xnδ(x) という積分を考えてみると、n が奇数

のときは奇関数の積分となるため明らかに 0 で、偶数のときは、∫ ∞

−∞dx xnδ(x) = lim

ε→+02

∫ ∞

0dx xn 1√

πεe−x2/ε2 = lim

ε→+0

εn

√π

Γ

(n + 1

2

)

と評価されます。よって、∫ ∞

−∞dx xnδ(x) = δn0

を得ます。ここで δnm はクロネッカーデルタです。この性質を用いると、任意の微分可能な関数 f(x), 任意の実数 y に対して、

∫ ∞

−∞dx f(x)δ(x−y) =

∫ ∞

−∞dx

∞∑n=0

f (n)(y)

n!(x−y)nδ(x−y) =

∞∑n=0

f (n)(y)

n!δn0

= f(y)

がわかります。この式はクロネッカーデルタの性質 :∑

x fxδxy = fy の連続変数版と捉えることができ、すなわちデルタ関数 δ(x−y) は δxy の連続版とみなせます。

次の積分表示があります :

δ(x) = limε→+0

∫ ∞

−∞

dk

2πeikx−ε2k2

.

30

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これは指数関数の中を k に関して平方完成し、ガウス積分として実行すれば確かめられるでしょう。形式的に ε → +0 の極限をとれば、

δ(x) =

∫ ∞

−∞

dk

2πeikx

と表現されることになります。

2.22 フーリエ変換

実数 k, x に対して、

φk(x) =1√2π

eikx

で定義される関数は、規格直交性および完全性 :∫ ∞

−∞dx φ∗k(x)φk′(x) = δ(k−k′),

∫ ∞

−∞dk φk(x)φ∗k(x

′) = δ(x−x′)

を満たします (∗)。このため、

f̃(k) =

∫ ∞

−∞dx φ∗k(x)f(x)

により、関数 f(x) のフーリエ変換を定義すると、∫ ∞

−∞dk f̃(k)φk(x) =

∫ ∞

−∞dk φk(x)

∫ ∞

−∞dx′ φ∗k(x

′)f(x′)

=

∫ ∞

−∞dx′ δ(x−x′)f(x′) = f(x).

すなわち、もとの関数は、

f(x) =

∫ ∞

−∞dk f̃(k)φk(x)

と展開されることがわかります。

このとき、 ∫ ∞

−∞dx |f(x)|2 =

∫ ∞

−∞dk |f̃(k)|2

が確かめられますが、これをパーセバルの等式といいます。

(*注) ベクトルの系 vk (k = 1, 2, · · · ) に対し、規格直交性は、

v†kvk′ = δkk′ ∴∑

x

(v∗k)x(vk′)x = δkk′ .

31

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完全性は、 ∑

k

vkv†k = δ ∴

k

(vk)x(v∗k)x′ = δxx′

です。関数における規格直交性および完全性はこれの連続版と捉えることができます。完全性は任意のベクトルがその系 (基底)によって展開できることを意味し、実際上式が成り立つなら、任意のベクトル a は、

a = δa =∑

k

vkv†ka =

k

ckvk, ck = v†ka

と展開されます。

2.23 有限区間のフーリエ変換

整数全体の集合を Z と書きます。実数 x に対して、

D(x) =1

n∈Z

einx

という関数を考えると、∫ π

−π

dxD(x) = 1, D(x + 2π) = D(x)

が簡単にわかります。また、少しテクニカルですが、

2πD(x) = 1 + 2∞∑

n=1

cos(nx) = 1 + 2∞∑

n=1

cos(nx) sin(x/2)

sin(x/2)

= 1 + limΛ→∞

Λ∑n=1

sin((n+1/2)x)− sin((n−1/2)x)

sin(x/2)

= limΛ→∞

sin((Λ+1/2)x)

sin(x/2)

と展開され、これは x = 2πn (n ∈ Z) に特異性を持ち、他で無限に高周波な関数であることがわかります。すなわち超関数論的 (∗)に、

D(x) = 0 (x 6= 2πn).

以上の事柄から、D(x) =

n∈Z

δ(x−2πn)

とみなせます。また、∞∑

n=1

cos(nx) = π∑

n∈Z

δ(x−2πn)− 1

2

32

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という公式を得ます。

そうすると、n ∈ Z および x ∈ (−π, π) に対して、

φn(x) =1√2π

einx

で定義される関数は、規格直交性および完全性 :∫ π

−π

dx φ∗n(x)φn′(x) = δnn′,∑

n∈Z

φn(x)φ∗n(x′) = δ(x−x′)

を満たすことがわかります。このため、

f̃n =

∫ π

−π

dx φ∗n(x)f(x)

で関数 f(x) のフーリエ変換 (フーリエ係数)を定義すると、もとの関数は、

f(x) =∑

n∈Z

f̃nφn(x)

と展開されます。このとき、∫ π

−π

dx |f(x)|2 =∑

n∈Z

|f̃n|2

が確かめられ、やはりパーセバルの等式と呼ばれます。

こちらのパーセバルの等式は右辺が級数のため、級数に関する面白い式を生じることがあります。例えば f(x) = x (−π < x < π)とすると、フーリエ係数は、

f̃n =1√2π

∫ π

−π

dx x e−inx =

i√

2π (−1)n

n(n 6= 0)

0 (n = 0)

と計算されますが、これをパーセバルの等式に入れると、∞∑

n=1

1

n2 =π2

6

を得ます。これは初等的には評価の難しい級数です (バーゼル問題)。

ちなみに、n = 1, 2, · · · に対し、ユニタリ変換、(

φ′n(x)

φ′−n(x)

)=

1√2

(1 1

−i i

)(φn(x)

φ−n(x)

)=

1√π

(cos(nx)

sin(nx)

)

33

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を行っても規格直交性は保たれます。よって、

φ′0(x) = φ0(x) =1√2π

として、{φ′n(x) |n ∈ Z} もまた x ∈ (−π, π) における完全規格直交系です。こちらの系は実関数を展開するときに便利です。

また、x ∈ (0, π) においては、仮想的に偶関数もしくは奇関数であることを仮定して、{cos(nx) |n = 0, 1, 2, · · · } および {sin(nx) |n = 1, 2, · · · } がそれぞれ完全直交系とみなせることになります。

[例題] 区間 (0, L) における任意の関数 f(x) は、

f(x) = a +∞∑

n=1

an cosπnx

L

と展開できるはずである。フーリエ係数 a, an を与える式を求めよ。

[解] 与式の両辺を区間 (0, L) で積分し、正の整数 n に対して、∫ L

0dx cos

πnx

L=

[L

πnsin

πnx

L

]L

0= 0

であることに注意すると、∫ L

0dx f(x) = aL ∴ a =

1

L

∫ L

0dx f(x).

一方、m を正の整数として、両辺 cosπmx

Lを乗じてから積分すると、

∫ L

0dx cos

πnx

Lcos

πmx

L=

1

2

∫ L

0dx

(cos

π(n+m)x

L+ cos

π(n−m)x

L

)=

L

2δnm

に注意して、

an =2

L

∫ L

0dx f(x) cos

πnx

L

を得ます。[解終]

(*注) 区間 (a, b) で連続な任意の関数 φ(x) に対して∫ b

adxφ(x)f(x) = 0 のとき、区間 (a, b) で

f(x) = 0 であることを容認 (仮定)する数学は、超関数論と呼ばれます。超関数論は通常の解析学を拡張したやや荒っぽい数学と考えられますが、理論物理学では広く用いられます。

34

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索 引

n次元球の体積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25エルミート共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .14エルミート行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .15オイラーの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

ガウス積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24ガウス分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27カオス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23関数論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .3完全性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31ガンマ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24規格直交性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31期待値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27極 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12極形式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .7虚数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6虚数単位 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6虚部 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6グルサの公式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11コーシーの積分定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11コーシーの定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .11コーシー・リーマン方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . .9誤差関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27固有値 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16固有ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16固有方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

三角関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7指数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3, 6, 17自然対数の底 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3実部 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6純虚数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .6初等関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5スターリングの式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26正規分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27斉次 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21正則 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8零ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15漸近展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26

線形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21双曲線関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

対角化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16対角行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16対称行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15対数関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3, 7多価 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7多重線形性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15中心極限定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29超関数論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34調和関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9定係数線形微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21テイラー展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10デルタ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 30導関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .8同次形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20特性方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21トレース . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

内積 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14二項分布 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 28ネイピア数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3ノルム . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7, 15

パーセバルの等式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31, 33バーゼル問題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33非斉次項 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21非線形物理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 23微分可能 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8微分方程式 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19標準偏差 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27標本 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 29フーリエ係数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33フーリエ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 31, 33複素関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6複素共役 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14複素数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .6複素積分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

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複素微分 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8複素平面 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6分散 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27べき . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8ベクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14偏角 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7変数分離形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 19

マクローリン展開 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

ユニタリ行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15ユニタリ変換 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 154次元極座標 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 25

留数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12留数定理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 12連続 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 8

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