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低コスト・高性能な全熱交換素子用シートとその製造方法
北海道大学 大学院工学研究院
環境システム工学研究室
教授 長野 克則
4.新技術説明会について(実施後フォローアップ、来年度の実施) 【産連展開部(産学連携支援G)】
2
社会的背景、従来技術とその問題点1980年代から住宅の高断熱・高気密化が進みシックハウス症候群と呼ばれる健康被害が大きな社会問題となった。平成15年建築基準法の改正において居室を有する全ての建築物に24時間機械換気装置設置が義務付けられた。計画的な換気を常時、行うことになった。
しかし、屋内外の温度差が大きい季節では、換気に伴い屋内の熱が屋外に放出されて熱ロスが大きくなる。そこで、排気と給気との間で熱交換を行い熱ロスを抑制する熱交換器が商品化されている。
熱交換には温度差による熱移動による顕熱交換と、水蒸気を移動させる潜熱交換も同時に行う全熱交換がある。冷房時や暖房時には熱ロスの抑制と共に、屋内の湿度管理や過乾燥防止の観点から水蒸気移動を伴う全熱交換が望ましい。
しかし、従来の全熱交換素子用シートは、水蒸気とともにアンモニア等の水溶性臭気物質を一緒に交換してしまうため、これらの成分を換気により室外に排出することが難しくなるという問題がある。
本発明は、高い透湿性を有し、かつ、CO2や水溶性臭気物質の臭気移行を抑制できる全熱交換素子用シート及び全熱交換素子用シート製造方法を提供することを目的とする
熱と水蒸気の高い交換性能を有し、且つ、CO2や臭気の移行抑制が要求される。
全熱交換エレメント
3
高い透湿性を有しCO2や水溶性臭気物質に対して高い遮断性をもつ全熱交換素子用シートの実現
今回使用したゼラチン架橋剤は、一般的なビスビニルスルホン化合物であり一般的な使用量で塩化リチウムによるゲル化阻害に対して十分な効果があることを明らかにした。
ゼラチンとメチルセルロース(MC)を塗工した紙は、ビスコース塗工紙に比べて、CO2移行率は▲60~80%減少したが、透湿率は▲30~34%小さい値となった。
透湿率をビスコース塗工紙以上に増加させるためには吸湿剤を表面に含有させることが有効
しかし、吸湿剤として塩化リチウムをゼラチン水溶液に混合するとゼラチンがゲル化をしなくなり、塗工層が形成できない状態になった。これは、ゼラチン分子同士を結びつけるネットワークが何らかのダメージを受けるためと考えられる
そこで、塩化リチウムに対してゼラチン分子の網目構造を強固にすることが有効と考え、ゼラチン水溶液に架橋剤を添加したものを塗工し、シート表面に架橋ゼラチン塗工層が形成された後に、表面から塩化リチウム水溶液を噴霧して必要吸湿剤量を担持させる方法をとった。
さらに、この使用量で空気(CO2)、水溶性臭気物質(NH3)のいずれに対しても、非常に高い遮断性を示すことを明らかにした。
4
性能評価指標: 透湿性(透湿率)と空気(CO2)遮断性
恒温恒湿器(W1,300×H1,965×D1,385mm)
温度:25℃相対湿度:90%RH
精密内庫(W700×H1,000×D700mm)
温湿度センサ
透湿カップ
不織布
塩化カルシウム
φ90φ60
15 15
33
透湿膜パッキン
電子天秤
PC
透湿カップ(右)と試験装置(下)
CO2移行率の評価
C(1h):CO2導入から1時間後の濃度[ppm]C(0):CO2導入直後の初期濃度[ppm]COA:外気のCO2濃度[ppm]
塗工膜
CO2センサ
温湿度センサ
データロガー
アクリル容器(W300×H60×D114mm)
ガス注入口
開放
開放
恒温恒湿庫(W1,300×H1,965×D1,385mm)
P=(m2-m1)/AP :透湿度[g/(m2・h)]
(m2-m1) : 透湿カップ質量変化量[g/h]A :透湿膜面積[m2]
【 透湿度の算出式 】
透湿度の評価 カップ法 JIS 1099 A-1法準拠透湿度の評価 カップ法 JIS 1099 A-1法準拠
【 CO2移行率の算出式 】
【温湿度条件】・温度25℃,相対湿度90%RH【注入ガス量】・初期CO2ガス:約2000ppm
【試験用密閉容器】
透湿フィルム初期CO2濃度:
約2000ppm温度25℃,相対湿度90%RH
透湿フィルム
5
性能評価指標として水溶性臭気物質遮断性(NH3移行率)
NH3 (アンモニア) 移行率の評価
NH3移行率の算出式
【試験用密閉容器】
透湿膜
温湿度センサ
ガス注入口
データロガー
排気口アクリル容器(W300×H60×D114mm)
恒温恒湿庫(W1,300×H1,965×D1,385mm)
NH3センサ1 NH3センサ2
吸着剤
パーミエーター
F流量ポンプ
【温湿度条件】温度25℃,相対湿度90%RH【導入ガス】NH3濃度:約25ppm流量:100mL/min
CSensor1:センサ1の導入2時間経過後のNH3濃度CSensor2:センサ2の導入2時間経過後のNH3濃度
1) パーミエーターでアンモニアガスを発生させ、容器①側に濃度約25ppm一定のア
ンモニアを導入し続けたとき、容器②の濃度の時間変化からガスバリア性を評価
2) このとき、容器②側は、流量ポンプでアクリル容器内の空気を循環
3)測定対象はビスコース塗工紙とNo.7の架橋ゼラチン塗工膜とし、アンモニア導入後から2時間のセンサ電圧値を測定
[ 測定方法 ]
透湿フィルム
6
名称No.
紙基材3-0
ゼラチン+MC塗工
ビスコース塗工紙0
ゼラチン+MC+LiCl塗工
架橋ゼラチン+MC+LiCl塗工3-3
3-2
3-1
透湿性 通気遮断性(CO2) NH3ガスバリア性
透湿度[g/(m2・h)] CO2移行率[%] NH3移行率[%]
○ ○ ○
104 12 36○ × ×88 99 18△ ◎ ◎
67 2 0○ × ◎
100 88 0○ ○ ◎
108 9 0
62
68
81
98
81
[μm]紙厚
1
2
3
4
No.2, No.3の吸着等温線No.0の吸着等温線 CO2 移行試験結果
0100200300400500600700800
0 20 40 60 80 100
水蒸
気吸着量
[mg/
g]
相対湿度[%]
No.0
1700
1750
1800
1850
1900
1950
2000
0 10 20 30 40 50 60
CO2ガ
ス濃
度[p
pm]
時間[min]
No.0No.1No.2No.3
0100200300400500600700800
0 20 40 60 80 100
水蒸
気吸着量
[mg/
g]
相対湿度[%]
No.2No.3
No.4
性能のまとめ: 透湿性、空気(CO2)・水溶性臭気物質(NH3)遮断性
7
耐久試験
10日間、吸湿・放湿を繰り返したNo.4’の架橋ゼラチン塗工シートは、初期のNo.4と同等の透湿性、CO2ガスバリア性を示した。また、 No.4’はアンモニア移行試験においても全く移行は見られなかった。
架橋ゼラチン塗工膜(No.4)を恒温恒湿庫内に設置し、室内想定条件(26℃・60%RH)と高温高湿条件(40℃・80%RH)を1時間半ごとに変更を繰り返して、10日後に透湿度及びガスバリア性(CO2移行率、アンモニア移行率)の評価試験を行った。
0
10
20
30
40
50
60
70
0 10 20 30 40 50 60
アンモニアセンサ濃度
[ppm
]
経過時間[min]
センサ1センサ2
測定結果:透湿度及びCO2ガスバリア性
0 ビスコース塗工紙7 架橋ゼラチン塗工膜
8 架橋ゼラチン塗工膜(10日後)
No. 名称[g/(m2
・h)] [%]104 12108 9108 10
透湿度 CO2移行率
4
4’
8
新技術の特徴・従来技術との比較
・架橋ゼラチン塗工シートは従来のビスコース塗工シートに比べて、同等の高い透湿性と通気遮断性能を有し、且つ、より優れた水溶性臭気物質(アンモニア)の移行抑制効果をもつ。
・また、耐久性も確認している。
・製造方法については、ビスコース塗工は国内では極、限られた工場でのみで生産が可能であるが、架橋ゼラチン塗工は確立された製造方法なので、印画紙やインクジェット紙を製造している工場で非常に安価に生産可能
・塗工には、インクジェットなど簡易で大量生産が可能な技術が適用できる
・非常に高い水溶性臭気(NH3)物質のバリア性
・従来技術・競合技術との比較
・新技術の特徴
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想定される用途
・全熱交換素子・保存、梱包、輸送用のフィルム・生理用品や医療用品のフィルム
など、高い透湿性を有し、且つ、空気(CO2)、アンモニアなどの水溶性臭気物質に対して、高い遮断性を要求するシート
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実用化に向けた課題1)より長い期間における耐久性評価
・ 全熱交換素子用シートに要求される強度、歪の評価、特に高湿・乾燥時の伸び・縮み、凍結・融解の繰り返し
• カビ:適した防カビ剤、高湿環境下で評価
• 大量生産の実証
• より安全な吸湿材の検討
2)実際の対向流型熱交換換気エレメントへの装着し、
• 熱交換効率(全熱、潜熱・顕熱)
• 高温・高湿空気と低温空気交換時の内部結露発生による悪影響の有無
• 氷点下10℃以下の空気取り入れ時の評価:凍結・融解の繰り返し
などを評価する
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企業への期待
• ゼラチン塗工の技術を持つ企業
• 臭い移行性のない全熱交換エレメントを開発したい企業
• 高性能全熱交換器を開発したい企業
• トイレ・脱衣所・キッチンの排気も同じ排気系統に混入できる全館高効率換気システムを開発したい企業
• 本架橋ゼラチン塗工シートの水溶性臭気物質の遮断性を活用した新しい商品展開を行いたい企業
共同研究希望先:
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称 :全熱交素子換用シートおよび全熱交換素子用シート製造方法
• 出願番号 :特願2017-4796• 出願人 :北海道大学
• 発明者 :長野 克則
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産学連携の経歴• 2011年~2013年 NEDO 省エネルギー革新技術開発事業(先導研究フェーズ)
「稚内層珪質頁岩デシカント換気空調・統合型ヒートポンプシステムの研究開発」(研究代表)
• 2013年~2015年 NEDO 省エネルギー革新技術開発事業(実用化開発フェーズ)「稚内層珪質頁岩デシカント換気空調・統合型ヒートポンプシステムの研究開発」(研究代表)
• 2013年~2015年 農林水産省 施設園芸における熱エネルギーの効率的利用技術の開発
(施設園芸における地中熱の効率的提供方法の開発)「寒冷地園芸施設向けの低コストで実用的な地中熱提供方法の開発」(研究代表)
• 2015年~2016年 NEDO 戦略的省エネルギー技術革新プログラム(実証開発フェーズ)に採択「家庭用デシカント換気空調・冷暖房給湯ヒートポンプシステムの研究開発」
• 2015年~2016年 NEDO 戦略的省エネルギー技術革新プログラム(インキュベーション研究開発フェーズ)「天然メソポーラス材料を用いた低コスト吸着式ヒートポンプの開発」(研究代表)
• 2015年~2016年 NEDO 戦略的省エネルギー技術革新プログラム(実用化開発フェーズ)「天然メソポーラス材料を用いた低コスト吸着式ヒートポンプの開発」(研究代表)
• 2016年~2018年 NEDO 再生可能エネルギー熱利用開発事業
「低コスト・高効率を実現する間接型地中熱ヒートポンプシステムの開発と地理地盤情報を利用した設計・性能予測シミュレーションツール・ポテンシャル評価システムの開発」(研究代表)
• 2017年~2018年 NEDO 再生可能エネルギー熱利用開発事業「地中熱利用を含む空調熱源トータルシステムシミュレーションの開発」 など
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お問い合わせ先
北海道大学
産学協働マネージャー 小野寺 晃一http://www.mcip.hokudai.ac.jp/cms/cgi-bin/index.pl?page=contents&view_category_lang=1&view_category=1043
TEL 011-706-9561
FAX 011-706-9550
e-mail [email protected]