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Media, English and Communication, No.5
1
基調講演 MEDIA, ENGLISH AND COMMUNICATION , No.5
(c ) 2015 The Japan Assoc ia t i on fo r Med ia Eng l i sh S tud ies
⽇本メディア英語学会 第 4 回年次⼤会基調講演
2014 年 10 ⽉ 26 ⽇ (⽇)
愛知淑徳⼤学星が丘キャンパス
メディア英語研究の新たな地平
第 1 部 基調講演
染⾕泰正(⽇本メディア英語学会代表理事・関⻄⼤学)
第2部 ミニ・シンポジウム
相⽥洋明 (⼤阪府⽴⼤学)・河原清志 (⾦城学院⼤学)・染⾕泰正 (関⻄⼤学)
はじめに
本学会が正式に「⼀般社団法⼈⽇本メディア英語学会」として再スタートしてから4年が過
ぎ去ろうとしています。この4年間、さまざまな出来事がありました。このうち、学会活動に
ついて思いつくままに挙げれば、例えば『メディア英語研究への招待』(河原他 2014)の出
版、「学会賞」の設⽴、『時事英語学研究』電⼦アーカイブの設置、学会誌の充実、合同研究
会の開催および他学会との交流、新たな研究分科会の設⽴、学会新ウェブサイトの設置、など
があります。学会運営については、学会名称変更に伴なう本学会の研究対象の⾒直しや世代交
代等の影響を受けた会員数の減少、および法⼈法の変更に伴って本会に求められた多⼤な義務
的財政⽀出に伴う財政危機問題、あるいは複数の理事の⼊院による実務的な混乱等の問題があ
りました。
本講演では、まず、これらの出来事を中⼼に、この4年間の主な歩みを振り返るとともに、
本会の基本理念、およびその研究対象分野を規定した「4つの柱」モデル(染⾕ 2011)を参
照しながら、本学会の課題や今後の⽅向性について議論したいと思います。なお、講演に引き
続いて⾏われるミニ・シンポジウムでは、相⽥洋明会員および河原清志会員に加わっていただ
き、相⽥会員には主として批判的談話分析の視点から、河原会員にはメディア意識論の⽴場か
ら、「メディア英語研究」の在り⽅や⽅向性について、それぞれ提⾔を⾏っていただく予定です。
1 この4年間の主な成果
本⼤会のテーマは 「メディア英語研究の新たな地平」となっていますが、新たな地平がどこ
にあるかという話の前に、まず⾃分たちの⽴ち位置を確認する必要があります。ということで、
とりあえず本学会が再スタートしてから現在までの4年間を振り返って⾒たいと思うわけで
すが、先ほど簡単に⾔及したこと以外にも、この4年の間に実にさまざまなことがありました。
ここで、そのすべてについて語るというわけにもいきませんので、ここでは、そのうち『メデ
ィア英語研究への招待』の出版、「学会賞」の設⽴、および『時事英語学研究』電⼦アーカイ
基調講演︓メディア英語研究の新たな地平
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ブの設置の 3 点のみについて簡単に紹介しながら、記録にとどめておきたいと思います。
まず、『メディア英語研究への招待』の出版ですが、これは本学会の再出発を記念する特別
事業として⾏われたもので、全体は以下の5章からなり、会員有志による 11 本の論⽂と7本
のコラムが収録されています。
第1章 メディアとコミュニケーション
第2章 メディア英語教育
第3章 メディア英語の⾔語学
第4章 メディアと英語をめぐる学際的研究
第5章 メディア英語とマスメディア
この章構成からも明らかなとおり、本書は全体として本学会の研究活動の現時点での概要と
⽅向性を⽰すという編集⽅針のもとに編纂されており、内容的にも充実した格好の signature
publication に仕上がっています。また、各論⽂の末尾には、それぞれのトピックについてさ
らに理解を深めるための参考⽂献紹介に加え、⼤学等の授業での議論のためディスカッション
トピックや卒業論⽂や修⼠論⽂のテーマとして取り組むのにふさわしいトピックの紹介など
があり、教科書としても⼗分に使えるような⼯夫が凝らされています。会員諸⽒には、ぜひと
も本書を関連授業の教科書または副読本として採⽤していただけると幸いです。なお、本書の
編集に当たっては、河原清志会員を編集主幹に、⾦井啓⼦、中⻄恭⼦、南津佳広各会員に編集
の労をとっていただきました。この場を借りて改めてお礼を申し述べたいと思います。
次に、「学会賞」の設⽴について、その経緯を簡単にご説明しておきます。本会では従来か
ら会員の研究活動を積極的に奨励してきましたが、これまで、会員諸⽒によるすぐれた研究業
績を顕彰する仕組みや制度がありませんでした。平成 24 年度期第2回理事会 (2012 年 12 ⽉
2⽇) においてこのことが話題となり、同第3回理事会(2013 年3⽉ 16 ⽇)で改めて議題
として提案され、審議を経て、「会員のすぐれた研究業績を顕彰することを⽬的に、「⽇本メ
ディア英語学会 学会賞」を制定する」(「⽇本メディア英語学会学会賞の制定に関する規定」
2013 年 4 ⽉ 1 ⽇)ことが正式に決定しました。当初は若⼿研究者を⽀援するということが
学会賞設⽴の⼤きな⽬的のひとつとして意識されていましたが、最終的には若⼿かどうかには
こだわらず、「⽇本メディア英語学会の研究対象領域である「メディアとコミュニケーション」
「メディア英語教育」「メディア英語の⾔語学」「その他の隣接研究諸分野」のいずれかに係
わる内容の著書(翻訳を含む)および学術論⽂を対象」(同第3条)に、すぐれた研究業績を
広く顕彰することとしました。
その後、学会ウェブページ上での告知および推薦受付が開始され、樗⽊勇作会員を審査委
員⻑とする審査委員会による厳正な審査の結果、第1回⽇本メディア英語学会学会賞は、本会
の談話分析研究分科会有志による翻訳書『ディスコースを分析する︓社会研究のためのテクス
ト分析』(くろしお出版/原著 Analysing Discourse: Textual analysis for social research,
Norman Fairclough)に授与されることが決定されました。受賞理由については本学会のウェ
ブページにも掲載されていますので、ここでは繰り返しませんが、学術的な翻訳書としての評
価の他に、この訳業が⾼⽊佐知⼦会員を代表とする「メディア英語談話分析研究分科会」メン
バーによる地道な共同研究活動の成果としてまとめられたものであることも⾼く評価されま
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した。なお、授賞式は 2013 年 11 ⽉ 10 ⽇に開催された第 3 回⽇本メディア英語学会年次⼤
会における社員総会の冒頭で⾏われ、受賞者を代表して⾼⽊佐知⼦会員に賞状および副賞が授
与されています。
もうひとつ、この場を借りてぜひともお伝えしておきたいことに、本学会の前⾝である時事
英語学会の機関紙として 1962 年からおよそ半世紀にわたって発⾏してきた『時事英語学研究』
誌の全⽂電⼦アーカイブ化があります。これは、我が国の学術的な研究成果を世界に向けて発
信することを⽬的に、国⽴研究開発法⼈科学技術振興機構が中⼼となって開発した総合電⼦ジ
ャーナルプラットフォーム(正式名︓科学技術情報発信・流通総合システム、通称︓J-STAGE)
を経由した電⼦ジャーナル公開⽀援サービスを利⽤したもので、現在のところ、『時事英語学
研究』誌の第1号 (1962) から第 47 号 (2008) までの全⽂が電⼦データとして収録されて
います (https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jaces1962/-char/ja/) 。
これまで、本会会誌に掲載された論⽂のうち、とくに発⾏年度の古いものについては事実上
ほぼ⼊⼿が不可能な状態でしたが、今回の全⽂アーカイブ化によって、新旧会員はもちろん、
それ以外の研究者も含めて、いつでも簡単にすべてのバックナンバーにアクセスできるように
なりました。バックナンバーの⽬次をざっと⾒るだけでも、60 年代以降、どのようなトピッ
クに関⼼が集中し、それが年代に応じてどのように変化してきたかがよくわかります。ぜひ⼀
度、アクセスしてみてください。なお、『時事英語学研究』誌は通巻 50 号から現在の Media,
English and Communication 誌に移⾏していますが、準備ができ次第、すべてのデータを順
次 J-STAGE 上に掲載していく予定です。
このほかにも、学会新ウェブサイトの設置、合同研究会の開催および他学会との交流、新た
な研究分科会の設⽴など、この4年間における特筆すべき出来事としてご報告しておくべきこ
とはたくさんありますが、時間的な制約もありますので、このあたりで次のトピックに移りた
いと思います。
2 「4つの柱」の妥当性――学会誌への投稿論⽂と⼤会発表の内容から
前段の話は、今⼤会のテーマである 「メディア英語研究の新たな地平」について議論を進め
る前に、まずは⾃分たちの現在の⽴ち位置を確認するという趣旨から、この数年間の学会活動
のうちの主なイベント(のうちのいくつか)についてざっと振り返ってみたわけですが、学会
活動の中核は何かといえば、やはり学会誌および年次⼤会における研究発表ということになる
だろうと思います。そこで、以下、この2つの観点から本学会の現状について分析し、それが
前述の「4つの柱」モデルとどのように関連しているか、いないかという点について議論を進
めていきたいと思います
2.1 「4つの柱」とは
その前に、まずこの「4つの柱」とはどういうものであったか、簡単に確認しておきます。
みなさんご承知のとおり、我々は学会の名称変更に当たって、本学会の基本理念および研究対
象分野の⾒直しも⾏いました。その結果、まず本学会の基本理念を以下のように定義しました。
基調講演︓メディア英語研究の新たな地平
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「⽇本メディア英語学会は、英語とメディアに関わる学際的・総合的な研究および教育活動
を⾏うとともに、その成果を社会に発信し、もって学術⽂化の発展に寄与するとともに、社
会的な貢献を積極的に果たしていくことを⽬的とする。」(⽇本メディア英語学会定款第3
条)
ここでは、本学会は「英語とメディアに関わる学際的・総合的な研究および教育活動を⾏う」
と明確に定義しています。ここから、本会が対象とする研究分野・領域は、必然的に以下の4
つに集約されることになるであろうと考えました。これが、いわゆる「4 つの柱」ということ
になります。
メディアとコミュニケーション
メディア英語教育
メディア英語の⾔語学
その他の学際的研究諸分野
以下の図は、それぞれの柱について具体的にどのような研究テーマや研究領域が考えられる
かを、記述したものです。もちろん、これはあくまでも可能性について⾔及したもので、網羅
的でもなければ、これに限定するわけでもありません。あくまでも議論のための出発点という
位置づけです。
前記の図は、本学会の前⾝である時事英語学会の活動および『時事英語学研究』誌への投稿
内容にみられるよき「伝統」を維持しながら、現在の会員諸⽒の専⾨分野や関⼼の所在等を考
図1 ⽇本メディア英語学会の研究対象分野・領域(染⾕ 2011)
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慮に⼊れて作成したものですが、実態が伴っているかはどうかについては今後の検証を待つ必
要があります。
ということで、ここではまず現在の学会誌である Media, English and Communication の
第1号から第4号に投稿された総数 59 の論⽂、および第1回から第4回までの年次⼤会にお
ける研究発表の内容についてそれぞれ分析し、「4つの柱」モデルの実態的妥当性について検
証してみたいと思います。
2.2 学会誌への投稿内容からみた「4つの柱」の妥当性
まず、第1号から第4号までの Media, English and Communication 誌に投稿された総数
59 の論⽂のジャンル分布について⾒てみます。第 1 号への投稿数は全部で 12 本(うち2本
は依頼原稿)、第2号への投稿数は 18 本、第3号は 10 本、第 4 号は 19 本でした。なお、こ
のうちおよそ 21 パーセントが結果的に不採択となっています。平均投稿数は 14.7 というこ
とになりますが、全体として投稿数は少しづつ増加傾向にあると⾔っていいと思います。先ほ
ど、この4年間の成果のひとつとして学会誌の充実というのを挙げましたが、2000 年以降の
9年間の年間平均掲載論⽂数が約5本ですから、採択論⽂の数からみても、2倍を少し超える
数字になっていることがわかります。
図2のパイチャートは、全 59 本の論⽂のジャ
ンル分布を⽰しています。もっとも多いのは「メ
ディアと英語教育」に分類される論⽂および実
践報告で、これが全体の 45 パーセント (N=25)
を占めています。次に多いのが「メディア英語の
⾔語学」に分類されるもので、具体的にはメディ
アテクストの語彙分析、語法分析、対照⾔語学的
分析、通訳翻訳論、語⽤論、意味論といった内容
の論⽂が、全体の 25 パーセント (N=14) を占
めています。このほか、「メディアとコミュニケ
ーション」というジャンルに分類可能な論⽂(具
体的にはレトリック分析、CDA、メタファー、異
⽂化コミュニケーション、リーガルコミュニケ
ーションなど)が全体の 16 パーセント (N=9)、
残りが「その他の学際的研究分野」(⾔語政策論、記号論 [記号論的メディア翻訳論]、⾔語⽂
化論など)で、これが全体の 14 パーセント (N=8) となっています。
この分類を⾒る限り、学会誌への投稿論⽂については前述の4つの柱で⽰された研究分野・
領域にほぼ収まっているように思われます。なお、全体の 45 パーセントを占める「メディア
と英語教育」関連の論⽂のうちの約半数 (N=13) は、広義または狭義の「メディア」との関
連付けが考慮されていない英語教育プロパーのものでした。本会は伝統的に英語教育と深いか
かわりを持ち、会員には英語教育の専⾨家も多いことから、英語教育関連の論⽂が多くなるの
はむしろ当然のことと思われますが、今後は、本会の前会⻑である⽯上⽂正会員が「学会名改
図 2 学 会 誌 第 1 号 か ら 4 号 の 投
稿論⽂のジャンル分布
基調講演︓メディア英語研究の新たな地平
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称に関する趣意書」(2007 年 3 ⽉ 31 ⽇) の中で述べたような「広義のメディア」つまり、コ
ミュニケーションを媒介し、成⽴させる⼿段としてのメディア、という視点から英語または英
語教育を論じた論考へと発展させていくことが望まれます。
図 3 は、全 59 本の論⽂に含まれるキーワードの頻度を Word Clouds と呼ばれる⼿法を使
って視覚的に表現したもので (http://www.wordle.net/)、論⽂執筆者の具体的な関⼼の所在
が、キーワードの相対的な関係としてよく⽰されています。
この Word Clouds の核をなしている概念=キーワード=は、English, Media, Language の
3つで、その次に Analysis, Education, Translation, Corpus などのキーワードが続いていま
す。Analysis と Education はそれぞれ Critical Discourse Analysis および English Education
という枠組みで使⽤されており、この2つの分野への関⼼の⾼さが伺われます。また、Corpus
というキーワードの相対的な⼤きさは、メディア英語研究の⼿法としてのコーパス⾔語学的ア
プローチが、本会会員の間にも広く浸透してきていることをよく⽰しているように思われます。
英語教育系のキーワードでは、English → Education という上位キーワードの下に Learning
というサブキーワードがあり、さらにその下に Writing, Reading, Dictogloss, Acquisition,
Self-adjusting といった概念からなるクラスターが⾒られます。もうひとつ特徴的な概念とし
て、図の左上に⾒られる Awareness があります。これは最新の潮流である「メディア意識論」
に関連するキーワードで、主として中部地区分科会のメンバーを中⼼に活発な議論が⾏われて
います。
2.3 年次⼤会での発表内容から⾒た「4つの柱」の妥当性
次に、第1回から第4回までの年次⼤会での研究発表の内容を⾒てみます。図 4 は第1回⼤
会から第 4 回⼤会までの研究発表を、それぞれジャンル別に分類・⽐較したもので、図 5 は全
体をジャンル別にまとめて集計したものです。
図3 投稿論⽂キーワードの Word Clouds
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図 4 年 次 ⼤ 会 で の 研 究発 表 ― ジ ャ ン ル 別⽐較
図 5 第1回〜第4回⼤会 の研究発表ジャンル 集計
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第1回⼤会での研究発表件数は 12 本、第2回⼤会では 14 本、第3回と第4回はそれぞれ
16 本となっています(図 4)。年次⼤会は1⽇で⾏うことになっていますので、発表可能な件
数は限られています。4 つの発表(各 30 分)を並⾏して⾏った場合、午前中に 12 本、午後に
8 本、合計 20 本の発表が可能ですが、本会の場合は分科会セッションが 60 分の枠で⾏われ
るケースが多いですから、実際には 16 本程度が限度ということになります。この 16 本の発
表というのは、JACET のような巨⼤な組織の⼤会と⽐較するとごく⼩さな数ですが、会員数に
対する⽐率という意味では、負けていません。メディア英語学会は、会員数 300 程度のごく⼩
規模な学会ですが、その分、アクティブなメンバーが多いということだろうと思います。
なお、第2回⼤会からは学部⽣による研究発表が毎回、1件ないし 2 件含まれています。通
例、学部⽣による学会での研究発表というのはあまり聞いたことがありませんが、本会では、
会員である教員の教育実践の成果発表という観点から、学部⽣による研究発表もむしろ積極的
に受け⼊れています。ただし、指導教員を発表代表者とし、教員の指導・監督の下で発表を⾏
うという条件付です。
それから、第 4 回⼤会では2本のポスターセッションがありました。本会では従来、ポスタ
ーセッションというのはほとんどありませんでしたが、限られた枠の中でできるだけ多く研究
発表の機会を与えるという意味でも、今後、ポスターセッションを積極的に推奨していくべき
だろうと考えています。
次に、発表の内容について⾒てみます。これは、あまり細かく⾒るとかえって煩雑になりま
すので、図 5 を使って全体の傾向を⾒てみます。図5の縦軸は発表件数を、横軸は研究発表の
ジャンルをそれぞれ⽰します。第1回から第4回⼤会の区別は棒グラフの⾊分けで⽰していま
すが、この原稿では⽩⿊になってしまいますので、少しわかりにくくなっているかと思います。
各ジャンルごとに、左から順番に第1回、第2回、第3回、第4回の発表件数が棒グラフと数
字で⽰されています。該当するジャンルの発表がなかった回は空⽩になっています。
これを⾒ると、全体を通じて「メディア英語教育」と「英語教育」(後者は英語教育プロパ
ーの研究発表)が最も多く、それぞれ全体の 24 パーセントおよび 29 パーセントを占めてい
ます(図5の①)。この2つを合わせると、全体の 53 パーセント (N=31) になります。
次に多いのが、「メディアディスコース分析」「CDA」「メディア分析/メディア [意識]
論」「レトリック分析」で、これは「メディアディスコース分析」というカテゴリーに⼀括で
きるかと思います(図5の②)。
3つ⽬は「翻訳教育」「メディア翻訳」「通訳プロセス分析」からなるクラスターで、これ
は「翻訳」というカテゴリーに⼀括していいかと思います(表5の③)。なお、「翻訳教育」
には「字幕翻訳」に関する発表が複数含まれています。いずれも翻訳論プロパーの研究という
よりは、TILT (Translation in Language Teaching) という観点からの論考です。
4 つ⽬のクラスターは、「⾔語分析(対照⾔語学)」と「⾔語分析(翻訳コーパス)」、そ
れに少し離れて「メタファー分析」がありますが、この3つからなるクラスターです(表5の
④)。この図では明⽰的には出てきていませんが、「認知⾔語学的アプローチ」もこのカテゴ
リーに⼊ります。
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最後に、「⾔語⽂化研究」と「⾔語政策」の2つのカテゴリーが残りますが、これは「⾔語
⽂化論および社会⾔語学的研究」ということで、ひとつにまとめることができると思います(図
5の⑤)。
以上をまとめますと、具体的な研究分野・領域については、年次⼤会での研究発表を⾒る限
り、本会の会員の関⼼は現在のところ以下の5つのジャンルに集中している、ということがで
きるのではないかと思います。
① 英語教育・メディア英語教育
② メディアディスコース分析(CDA、レトリック分析、メディア [意識] 論を含む)
③ 翻訳(翻訳教育、字幕翻訳、メディア翻訳)
④ ⾔語分析(対照⾔語学、コーパス⾔語学、および認知⾔語学的アプローチ)
⑤ ⾔語⽂化論および社会⾔語学的研究
これを、前述の「4つの柱」に対応させてみると、おおよそ次のようになります。
メディアとコミュニケーション -- ②
メディア英語教育 -- ① (③)
メディア英語の⾔語学 -- (②) ③ ④
その他の学際的研究諸分野 -- ⑤
⼤枠としては 「4つの柱」モデルはそれなりに機能しているようにも思われますが、どうも
スッキリしないところもあります。4つと限定せずに、もう少し柱を増やすか、あるいは実態
に合わせて細分化したほうがいいのかもしれません。このあたりは、もう少し突っ込んだ議論
が必要なところですが、とりあえず今後の課題として、次期理事会の先⽣⽅にお任せしたいと
思います。
3 本学会の課題と今後の⽅向性――ミニ・シンポジウム
さて、最後に本学会の課題と今後の⽅向性ということでこの講演を締め括らないといけない
のですが、これについては第2部のミニ・シンポジウムのほうで議論したいと思います。ミニ・
シンポジウムでは、次期理事会の中⼼となって活躍されることが期待される相⽥洋明会員およ
び河原清志会員に加わっていただき、関連諸分野の学問的展開を踏まえながら、「メディア英
語研究」とは何か――あるいは、メディア英語研究の新たな地平をどこに求めるか――という
点について改めて問い直すとともに、河原会員にはメディア意識論の⽴場から、相⽥会員には
主として批判的談話分析の視点から、それぞれ学会の今後の⽅向性について提⾔を⾏っていた
だきます。それでは、まず河原会員からお願いします。
3.1 「メディア意識論の提案」―― 河原 清志 (⾦城学院⼤学)
メディア英語研究は学際性に富んだ多分野にわたる研究をカバーしていく必要があるとい
うのが新たな地平での最も重要なポイントだろうと思います。そこで既存の類似概念である
「メディアリテラシー」「情報リテラシー」などといった枠組みを超えて、新機軸を提案しつ
つ学際性に富む概念装置として、「メディア意識」を提唱します。
この「メディア意識」とは、英語の持つメディア(性)に対する意識変⾰をマクロおよびミ
基調講演︓メディア英語研究の新たな地平
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クロなレベルで引き起こす概念で、権⼒と⾔語の関係性、社会⽂化史的コンテクストおよび間
テクスト性を重視することが特徴です。概念定義は次のとおりです。
メディア意識とは、「コミュニケーションの媒介になっている記号(主に⾔語)」に注⽬し、
それをとりまくさまざまな事象(ディスコース)をクリティカル(批判的・分析的)に⾒つ
めることで、(1)メディアそのもの、(2)メディアが内包する事柄(⼒関係やイデオロギ
ー)、(3)メディアをとりまく社会⽂化的コンテクスト、(4)多様なメディアとの関係(間
テクスト性︔intertextuality)の4つに対する鋭い観察眼と分析⼒を育成することを⽬的と
する概念装置である。
これには具体的な例として、以下の下位分野が考えられます。
1)CDA、⾔語意識論、動態的社会⾔語学︓「メディア意識」概念の⼀要素である「意識」を
「⾔語意識論」から考察する。また、「メディア意識」を前提とした⾔語学的分析アプロー
チとして、CDA と動態的社会⾔語学を⽤いた研究を⾏う。最終的にはメディア意識を⾼め
るための教育的アプローチを確⽴する。
2)英語学、統語論︓英語学は現代⾔語学の⽅法論によって英語の特徴などを理論的に記述す
る学問で、⾳声・⾳韻学、形態論、統語論、⾔語機能論、語⽤論その他の下位分野がある。
英語をひとつのグローバルメディアとして捉え、⾔語学の切り⼝からメディア英語の実態を
解明し、それに対する意識を⾼めていく研究を模索する。
3)英語教育学、批判的思考(学)︓英語教育の⽂脈では、とりわけ読むことの指導の中で、
書かれている情報の真偽や背後にある意図を疑う、別の観点から考える、⾃分の考えを深め
るなど、批判的な読みの態度を育成することを主眼とし、この能⼒をいかに伸ばすか、また
それをどう測定し、評価するかという点について、実証的なデータを蓄積する。
4)国際英語論、コーパス⾔語学、英語教育学︓国際的に使⽤されている英語、とりわけメデ
ィアの英語のコーパス分析を通して、さまざまな英語使⽤者の社会⽂化的コンテクストにお
ける⾃⾝のアイデンティティの表出、および他者である世界との折衝について思索を深める。
5)⾔語接触論、社会⾔語学︓⾔語接触によって⽣まれた⾔語であるピジン・クレオール⾔語
は常に語彙供給⾔語である⼤⾔語との併存関係の中で存在意義を問われることが多い。それ
ぞれの⾔語が話されているコミュニティにおける⾔語意識を⾼めることが存続の鍵を握っ
ている。グローバル化された現代社会ではどの少数⾔語・危機⾔語の存続に関しても同じこ
とが⾔えるであろう。このような⾔語状況下で、最⼤の⼤⾔語である英語について多⾓的に
分析を⾏う。
6)ファシリテーション研究、コミュニケーション学︓メディア意識を⾼めるための1つの⼿
法として、ファシリテーション技術の可能性を探求する。ファシリテーションとは、問題や
課題を抱えた個⼈やグループに対して、外部者として⼿助けし意識の変化を促すものである。
特にファシリテーションの対話術は認識の歪みへの気づきを促す⼿法として有効であると
考える。
7)(異⽂化)コミュニケーション学、集合的記憶論︓直接戦争体験のない世代が多くを占め
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11
る現代の⽇本社会において、⾃分⾃⾝の歴史史観がどのように社会から影響を受け、その特
性や偏りを意識し、そこから⾃⾝の視点を相対化させ異なる⽂化背景の⼈々と対峙しようと
するマインドを培う授業や研究を、英語のメディア状況を視野に⼊れながら⽬指す。
8)認知科学、コーパス⾔語学︓我々を取り巻く「実世界」は、メディア上に⾔語によって<
世界>として再現されると考える。そうした<世界>における「実世界」の再現性(の⼀端)
を分析対象とし、定量的なコーパス⾔語学的⼿法の援⽤、定性的な翻訳モデルの参照、認知
科学的評価の適⽤による(メディア上の)⽤例分析や(⽤例中の)意味成分解析等は、社会
的実践としての⾔語分析[(批判的)ディスコース分析]であり、前述の基本概念のひとつ
である “社会⽂化的コンテクスト” からの「メディア意識モデル」の構築につながるものと
考えられる。
9)認知⾔語学、⾔語⼈類学系社会記号論︓⼈が無意識に習慣的に遂⾏している実践⾏為が「意
識化」(意識的な概念化や合理的解釈など)されたとき、歪んだ「合理化」を伴って認識さ
れ、この歪んだ認識が習慣的な実践⾏為を徐々に変容させるように働く。これをイデオロギ
ー化と位置づけ、⼈の意識の限界(近代合理主義)を認知科学と社会記号論から分析し、メ
ディア記号と社会の関係を論じる(社会メディア記号論の構築)。
以上のような多分野にわたる視点や視座から「メディア英語」を「メディア意識論」の⽴場
で論じていくことが、メディア英語研究の新たな地平のひとつであると⾔えるでしょう。
*
どうもありがとうございました。それでは最後に相⽥会員からのご提⾔をいただき、ミニ・
シンポジウムのまとめとしたいと思います。
3.2 「批判的ディスコース分析の2つの特徴とメディア英語学会の研究領域」――相⽥ 洋明
(⼤阪府⽴⼤学)
批判的ディスコース分析の第1の特徴は、ディスコースに含まれる権⼒関係を、中⽴的で客
観的な⽴場からというよりも、むしろ参与的に分析者⾃⾝の⽴場も問う形で分析するというこ
とです。
「ディスコースに含まれる権⼒関係の分析」という点は、私たちの学会名に含まれている「メ
ディア」というものの分析と強い親和性があります。メディアを分析するときには、広い意味
での権⼒関係の考察は⽋かせないものだからです。
「中⽴的で客観的な⽴場ではなく、分析者⾃⾝の⽴場も問う形で分析」という点は議論があ
るところです。学問には何よりも客観性が重要だと考える研究者からは、批判を受ける点です。
ですが、象⽛の塔にこもる研究ではなく、具体的な教育活動も含めて、現実社会とのかかわり
を重視する学会――実際にメディアで働いている会員の⽅もおられるわけですし――その現
実社会で実践的に活動することを重視する学会としては、この点でも実は親和性があると考え
ています。
批判的ディスコース分析の2つ⽬の特徴は、学際的であることです。批判的ディスコース分
析の発想の仕⽅は課題解決型です。あるテクストを分析するとして、そのテクストを分析する
基調講演︓メディア英語研究の新たな地平
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ためのツールとして、いわゆる談話分析の⽅法だけではなく、そのテクストの分析にもっとも
適当と思われる学問の⽅法を⽤います。歴史的な展望が必要だと思えば歴史学を⽤いるし、政
治学の知⾒が必要だと思えば政治学を利⽤します。ナラティヴの分析が必要だと判断すれば⽂
学研究のナラトロジーを援⽤します。この意味で批判的ディスコース分析はとても学際的な発
想の学問です。
そして、それはメディア英語学会が 4 つの研究領域のひとつとして挙げている「その他の学
際的研究諸分野」と直結します。学会の研究領域として「学際的研究諸分野」を挙げている学
会は珍しいと思いますが、その点でも批判的ディスコース分析とメディア英語学会は強い親和
性があると考えます。
以上のように、批判的ディスコース分析はメディア英語学会においても有⼒な研究⽅法であ
ると考えます。
基調講演で染⾕会員がこの 4 年間の歩みを振り返ってくださいました。次の⾶躍へ向けての
充実した年⽉だったと⾔えるのではないでしょうか。とりわけ『時事英語学研究』の電⼦アー
カイブは私たちにとってそこから⾶び⽴つための堅固なスプリングボードになってくれると
思います。私たちも先輩に負けず、新学会誌 Media, English and Communication を充実さ
せていきましょう。
参考⽂献
河原清志・⾦井啓⼦・中⻄恭⼦・南津佳広 (編著) (2014)『メディア英語研究への招待』⾦星堂
染⾕泰正 (2011), 「Media, English and Communication 第1号発刊に寄せて」Media, English
and Communication, No. 1 (pp. 1-4). ⽇本メディア英語学会
⽇本メディア英語学会 (2011), Media, English and Communication, No. 1, ⽇本メディア英語
学会
--------- (2012), Media, English and Communication, No. 2, ⽇本メディア英語学会
--------- (2013), Media, English and Communication, No. 3, ⽇本メディア英語学会
--------- (2014), Media, English and Communication, No. 4, ⽇本メディア英語学会 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
染⾕ 泰正(そめや やすまさ)
関⻄⼤学教授、⽇本メディア英語学会代表理事 ・会⻑ (2011.10-2014.10)。専⾨は通訳翻訳学、
⾔語情報科学、コーパス⾔語学、英語教育。この 10 年ほどは、通訳翻訳学の研究成果を外国語教
育に応⽤するための理論と⽅法論の探求を⽬的とする応⽤通訳翻訳学 (Applied T&I Studies)
の普及と深化に取り組んでいる。
河原 清志 (かわはら きよし)
⾦ 城 学 院 ⼤ 学 ⽂ 学 部 准 教 授 、 ⽇ 本 メ デ ィ ア 英 語 学 会 業 務 執 ⾏ 理 事 ( 副 会 ⻑ ) ・ 本 部 事 務 局 ⻑
(2014.10-現在)。専⾨は通訳翻訳学、認知⾔語学、社会記号論、⾔語思想論、英語教育。博⼠
論⽂は「翻訳等価性再考―社会記号論による翻訳学のメタ理論研究―」(2015 年)。学問語⽤論
Media, English and Communication, No.5
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の観点から、通訳・翻訳・⾔語・法律・メディアなどに関する理論⾔説や⾔語思想のメタ理論研究
に取り組む。近時はキリスト教と仏教を⽐較⾔語思想の観点から研究する。
相⽥ 洋明 (そうだ ひろあき)
⼤阪府⽴⼤学教授、⽇本メディア英語学会代表理事・会⻑(2014.10-現在)。専⾨はアメリカ⽂
学(特にアメリカ南部⽂学とウィリアム・フォークナー)、批判的ディスコース分析。⽂学研究
と批判的ディスコース分析を2つの別の研究領域ではなく、テクスト分析のための⽅法として統
⼀的に把握することを⽬指している。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------