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58 ■特集:風力発電と電力系統との融和 ドイツにおける風力発電の給電データ開示制度と 系統運用の現状 立命館大学 産業社会学部 教授 竹濱 朝美 はじめに 本報告は、ドイツにおける再生可能エネルギ ー電源の給電データ(grid data)開示制度、風 力発電と太陽光発電を含めた需給運用の現状 を紹介する(以下、再生可能エネルギー電源は 再エネ、固定価格買取制度は買取制度と略す)。 今回は 50Hertz 送電区域の給電データをも とに系統運用の現状を要約する。50Hertz 送電 区域は、2013 6 月時点で、12.9GW の風力 発電の連系に対し、域内の需要電力は 5.1GW13.9GW と小さい。旧東ドイツ地域と旧西ドイ ツ地域とをつなぐ連系線が脆弱であるため、ド イツの 4 つの送電区域( 50Hertz, TenneT, TransnetBW, Amprion)の中で最も系統運用が 厳しい。50Hertz の現状は、北海道など風力発 電の系統連系と送電網増強を進めねばならな い日本にとって、参考になるであろう。 1.給電データの開示制度 1.1 データ開示の法的根拠 電力需給および風力発電と太陽光発電の給 電データの開示をめぐるドイツの法規制を示 す(表1)。風力給電と太陽光給電について、 15 分単位で 24 時間前予測とリアルタイム給電 出力[MW]を送電区域単位で、送電業者が開示 する。リアルタイム出力は実績ではなく、モニ ター・データによる推定値である。 電力系統の安定性を維持するための市場介 入について、非再エネ電源と再エネ電源の別に 15 分単位で、調整された出力[MW]、時刻、継 続時間、介入理由、介入種類(発電量交換、 Redispatch、出力抑制の別)、調整をうけた変 電所、配電業者名を開示する。 需給バランスに関しては、需要電力、垂直ロ ード、輸出入を 15 分単位で開示する。垂直ロ ードは、 380kV または 220kV 送電網から 110kV 配電網への降圧・配電を正で、配電網か ら送電網への昇圧・送電(Negative vertical load: 逆垂直ロード)を負の値で示す。逆垂直 ロードは、送電区域全体として、配電網から送 電網に逆潮流したことを示す。50Hertz 区域の 風力設備容量の 9 割は配電網(110kV 以下)に 連系しているため、逆垂直ロードは、風力給電 が配電網から送電網に逆潮流されたことを意 味する。 1.2 差別のない系統アクセスと優先給電に対 する説明責任 法律が送電業者、配電業者に給電データの開 示を義務付けるのは、以下の説明責任と透明性 transparency)を確保するためである。 第一に、電力網は系統運用者の資産であると 同時に、他の設備では代替できない社会の共通 インフラでもある。このため、再エネを含む全 ての電源に対して、差別のない公平な系統アク セスを与えることが送電業者、配電業者の義務 であり、その説明責任がある。 1 第二に、ドイツの系統運用者は、再生可能エ ネルギー法( Erneuerbare-Energien-Gesetz: EEG)により、再エネ電源を在来型電源よりも 「優先接続、優先給電する」義務、再エネ電源 から「技術的に可能な最大量の電気を給電する」 義務、「再エネ電源の接続のために遅滞なく電 力系統を拡張する義務」を課されている。 2 第三に、出力抑制に関する透明性の確保であ る。送電業者は系統安定性を維持するために、 必要に応じて、需給調整の介入を行う権限を認 められている。 3 送電業者はこの出力抑制の適 正さ公平さを問われるため、出力抑制の量(MW および MWh)を 15 分単位で開示している。 第四に、買取制度は消費者に分担金を課して いるため、AusglMechAV(買取制度費用負担に かかる全国平準化メカニズム実行規則)は、送電 業者、配電業者に風力発電、太陽光発電の給電 MW)、電力市場での再エネ電源の当日取引量、 出力抑制について情報開示を義務づけている。 第五に、EU 市場では電力小売りが自由化さ れ、再エネは優先接続であるため、風力発電、 太陽光発電の出力状況が在来電源の電力取引 量を左右する。火力発電設備の出力上昇速度に

ドイツにおける風力発電の給電データ開示制度と …jwpa.jp/2013_pdf/88-26tokushu.pdf電力需給および風力発電と太陽光発電の給 電データの開示をめぐるドイツの法規制を示

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■特集:風力発電と電力系統との融和

ドイツにおける風力発電の給電データ開示制度と

系統運用の現状 立命館大学 産業社会学部 教授 竹濱 朝美

はじめに

本報告は、ドイツにおける再生可能エネルギ

ー電源の給電データ(grid data)開示制度、風

力発電と太陽光発電を含めた需給運用の現状

を紹介する(以下、再生可能エネルギー電源は

再エネ、固定価格買取制度は買取制度と略す)。 今回は 50Hertz 送電区域の給電データをも

とに系統運用の現状を要約する。50Hertz 送電

区域は、2013 年 6 月時点で、12.9GW の風力

発電の連系に対し、域内の需要電力は 5.1GW~

13.9GW と小さい。旧東ドイツ地域と旧西ドイ

ツ地域とをつなぐ連系線が脆弱であるため、ド

イツの 4 つの送電区域(50Hertz, TenneT, TransnetBW, Amprion)の中で も系統運用が

厳しい。50Hertz の現状は、北海道など風力発

電の系統連系と送電網増強を進めねばならな

い日本にとって、参考になるであろう。 1.給電データの開示制度

1.1 データ開示の法的根拠

電力需給および風力発電と太陽光発電の給

電データの開示をめぐるドイツの法規制を示

す(表1)。風力給電と太陽光給電について、

15 分単位で 24 時間前予測とリアルタイム給電

出力[MW]を送電区域単位で、送電業者が開示

する。リアルタイム出力は実績ではなく、モニ

ター・データによる推定値である。 電力系統の安定性を維持するための市場介

入について、非再エネ電源と再エネ電源の別に

15 分単位で、調整された出力[MW]、時刻、継

続時間、介入理由、介入種類(発電量交換、

Redispatch、出力抑制の別)、調整をうけた変

電所、配電業者名を開示する。 需給バランスに関しては、需要電力、垂直ロ

ード、輸出入を 15 分単位で開示する。垂直ロ

ードは、380kV または 220kV 送電網から

110kV 配電網への降圧・配電を正で、配電網か

ら送電網への昇圧・送電(Negative vertical load: 逆垂直ロード)を負の値で示す。逆垂直

ロードは、送電区域全体として、配電網から送

電網に逆潮流したことを示す。50Hertz 区域の

風力設備容量の 9 割は配電網(110kV 以下)に

連系しているため、逆垂直ロードは、風力給電

が配電網から送電網に逆潮流されたことを意

味する。 1.2 差別のない系統アクセスと優先給電に対

する説明責任

法律が送電業者、配電業者に給電データの開

示を義務付けるのは、以下の説明責任と透明性

(transparency)を確保するためである。 第一に、電力網は系統運用者の資産であると

同時に、他の設備では代替できない社会の共通

インフラでもある。このため、再エネを含む全

ての電源に対して、差別のない公平な系統アク

セスを与えることが送電業者、配電業者の義務

であり、その説明責任がある。1 第二に、ドイツの系統運用者は、再生可能エ

ネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz: EEG)により、再エネ電源を在来型電源よりも

「優先接続、優先給電する」義務、再エネ電源

から「技術的に可能な 大量の電気を給電する」

義務、「再エネ電源の接続のために遅滞なく電

力系統を拡張する義務」を課されている。2 第三に、出力抑制に関する透明性の確保であ

る。送電業者は系統安定性を維持するために、

必要に応じて、需給調整の介入を行う権限を認

められている。3 送電業者はこの出力抑制の適

正さ公平さを問われるため、出力抑制の量(MWおよび MWh)を 15 分単位で開示している。

第四に、買取制度は消費者に分担金を課して

いるため、AusglMechAV(買取制度費用負担に

かかる全国平準化メカニズム実行規則)は、送電

業者、配電業者に風力発電、太陽光発電の給電

(MW)、電力市場での再エネ電源の当日取引量、

出力抑制について情報開示を義務づけている。 第五に、EU 市場では電力小売りが自由化さ

れ、再エネは優先接続であるため、風力発電、

太陽光発電の出力状況が在来電源の電力取引

量を左右する。火力発電設備の出力上昇速度に

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は、技術上の制約があるため、24 時間前に風力

給電および太陽光給電の予測を公表して、火力

発電所の稼働計画に見通しを与え、電力市場の

供給を安定させることが必要である。このため、

送電業者に 24 時間前に風力発電と太陽光発電

の給電予測を開示させている。

表1 電力需給、風力発電および太陽光発電にかかる主要な給電データ開示制度

情報開示項目 開示方法、備考

風力給電予測(24時間前)、風力給電リアルタイム推定。太陽光給

電予測(24時間前)、太陽光給電リアルタイム推定。送電区域ごと、

15分単位、[MW]http://www.eeg-kwk.net

法律の開示義務は「1時間単位」出力。現状は、15分単位で開示。

リアルタイム推定は発電実績ではなく、モニター機器からの推定グラフ、エクセル・データ、CSVデータ

EEX(欧州電力取引市場)Spot市場の当日取引における再エネ電

力取引量。1時間単位。送電区域ごと。全ての種類の再エネ電力の

合算値 [MW]

グラフ、エクセル・データ、CSVデー

タ. http://www.eeg-kwk.net/de/Strommengen.htm。

全ての再エネ電力の24時間前の給電予測値と、EEX-Spot市場で

の取引実績値(前日取引量+当日取引量)の乖離量。EEG流動性

準備金の利用の有無。1時間単位、送電区域ごと。全ての再エネ電

力の合算表示 [MW]。

http://www.eeg-kwk.net/de/Einspeiseprognose.htm. グラフ、エクセル・データ、CSVデータ

EEG(再生可能エネルギー法)による再エネ電力の認定設備の登

録データ (EEG-Anlagenstammdaten)。CSVデータ、インターネット開示

再生可能エネルギー電源が連系する配電業者または送電業者の名前。風力、太陽光など電源種類、 設備容量 [kW]。連系する電

圧水準。コンバインド・サイクル併設の有無。系統運用者から出力抑制の指示を実施するためのリモート・コントロール設備の有無。発電開始日。発電設備の所在地。

http://www.eeg-kwk.net/de/Anlagenstammdaten.htm

送電網から配電網への垂直ロード (Vertical load) [MW/hour]、年

間 大需要 [MW/15分]、ロードカーブ[MW/15分]、域内送電線に

連系する発電所と配電網からの給電電力[MW/15分]、風力給電

[MW/hour]、停電回数と停電継続時間。

数値表形式、およびCSVデータでイ

ンターネット開示が義務。送電会社各社のウエブサイトで開示義務

国際送電線の負荷と送電容量[MW]、連結点等の概要。送電区域

ごと。

電力系統の安定性を維持するたの市場介入データ。非再エネ電源に対する送電変更(redispatch)と出力抑制の量。再エネを含む

すべての電源に対する出力抑制の量。介入した場所(送電設備)、介入の種類(送電変更または出力抑制など)、影響を受けた配電業者、介入により需給調整を受けた出力[MW], 介入の時刻と

継続時間(15分単位)、リスクのタイプ(隘路回避等)、介入された

配電網設備の開示。

§ 13(1),§13(2), EnWG(Energiewirtschaftsgesetz、エネルギー事業法).

Redistach(送電先変更)のデータ。実施日、実施時刻と継続時間、

対象送電区域、実施理由(電流制御など)、方針(有効電力削減ま

たは有効電力増加など)、電圧別(中圧、高圧)に制御した出力[MW]、制御した総電力量[MWh]、Redispatch を実施した送電業者

とこれを要請した送電業者、Redispatchの影響を受けた発電所名。

EEG/KWK-G (送電業者4社の共通情

報開示ポータル)に開示。CSVデー

タ。 http://www.eeg-kwk.net/de/Redispatch.htm.

バランシング市場(Balancing Energy、またはRegelleistung )の入札

結果。リアルタイムの需給の過不足に対応するための予備力の入札結果のうち、2次予備力、3次予備力の入札結果と投入量。

送電業者の共通情報開示ポータルで開示を義務をづけ。(www.regelleistung.net)

開示を規定する根拠法規

送電業者には、系統安定性を維持するため、必要な需給調整のための市場介入の権限が認められている。1)電力網の一部で隘路の発生を回避するために、非再エネ電源に対する送電変更(redispatch)や出力抑制(§13(1)EnWG)。これらの方法によっても電力系統の安定性に危険がある場合、2)再エネ電源を含むすべての電源に対する出力抑制措置(§13(2)EnWG)。

§ 17 Absatz 1, Stromnetzzugangs-verordnung (StromNZV)

注)主に、電力の同時同量の需給バランスに関連する情報項目に絞って、筆者がまとめた。法的開示義務の項目は、これ以外にも、電力市場の取引データ(価格と量)、EEG会計(電力量[MWh]、集計費用、価格)、電気料金の表示方法等の開示義務があるが、ここでは省略した。

電力データの公表にかかる法的義務の全体については、下記参照。Bundesnetzagentur für Elektrizität, Gas, Telekommunikation, Post und Eisenbahnen(2008)

Leitfaden für die Internet-Veröffentlichungspflichten der Stromnetzbetreiber.

§ 2, AusglMechAV(Ausgleichsmechanismus-Ausführungsverordnung: バランシン

グ・メカニズム実施規則)。再エネ電力買取費用負担を全国平準化する実施規則。§45-49, EEG。

§ 2, AusglMechAV

§ 2, AusglMechAV

§45-49, EEG (Erneuerbare-Energien-Gesetz: 再生可能エネル

ギー法). 固定価格買取制の法律)

§ 17 Stromnetzzugangsverordnung(StromNZV, 電力ネットワーク接続

規則)

Bundesnetzagentur (連邦ネットワー

ク規制庁)による指示

§ 9 Stromnetzzugangsverordnung(StromNZV)

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1.3 自主的情報開示

ドイツの送電業者は法定の情報開示に加え

て、再エネ電源の給電について自主開示に努力

している。50Hertz社の自主開示を示す(表2)。

50Hertz 社では、送電線 1 本 1 本について、1時間単位で load、送電容量に対する load の比

率を開示していることが注目される。これは出

力抑制に対する説明の一環である。

表2 50Hertz 社の給電データ自主開示

2.50Hertz 区域の基礎データ

50Hertz 送電系統の概要を示す(表3)。ド

イツには 4 つの送電業者が存在し、50Hertz は、

旧東ドイツ地域の 380kV と 220kV の送電系統、

150kV の洋上風力連系線を運用する。110kV 以

下の電圧レベルは配電網で、高圧、中圧、低圧

の配電網を多数の配電会社が運用する。域内の

大需要 13,963MW、 少需要 5,164MW に対

し、風力発電 12.4GW、太陽光発電 7.2GW を

連系し、風力発電の 9 割が 110kV 以下の配電

網に連系している(2012 年末)。4 欧州では EU 指令(Directive 2009/72/EC)

により、発電業と送電業が分離されているため、

送電業者は発電事業を行わない。5 域内の送電

網、配電網に連系する石炭発電は 12,428MW で、

原子力発電は存在しない。 4 つの送電業者は再エネ電源を受け入れるた

め、地域間連系線を 大限に活用して広域系統

運用を行っている。風力発電を大量連系するに

は、リアルタイム需給バランス用調整力を十分

に確保することが重要である。4 社は、需給調

整用調整力(Balancing Energy: Regelleistung)の調達(入札市場での調達)と投入に関する基

本的な安全制御システムを統合している。統合

された運行システムでドイツ全体の 2 次調整力、

3 次調整力の調達と投入を制御している。6

表3 50Hertz 送電区域の概要(2012 年末)

再エネ電源風力、洋上風力、太陽光、バイオマス、水力、地熱の給電電力、15分単位、

[MW]。風力および太陽光は、給電予測とリアルタイム給電推定値。

風力と太陽光は法定開示。再エネ電源の給電のインターフェース、グラフ、CSVデータ

各送電線のロード

送電線1本ごとのload。50hertz区域の176本の各1本について、ケーブル番号、

連結する変電所、隣接区域との連結点(Tennet、および国際送電線)、load[MW]、送電容量に対する load の割合(%)、1時間単位、送電地図上に表示

自主開示。送電線地図のインターフェース。CSVデータ

送電容量に対するload の割合を、50%以下=緑色、50~70%=黄色、70%以上

=赤色で表示。1時間単位。

http://www.50hertz.com/de/lastflussdaten.htm

基本データ

発電量予測と実績[MW]。 垂直ロード (vertical load)[MW]、管内給電電力

[MW]、,負荷[MW]、市場介入措置(13(1)EnWGによる措置、13(2)EnWG によ

る措置の別に、Redispatch, 出力抑制の量[MW, MWh], 15分単位。

法定開示項目。CSVデータ

設備容量 [MW] 1) 380/220kV送電網連系 [MW] 110kV以下配電網連系 [MW] 参考) ドイツ設備容量 [MW] 4)

風力 12,420 1,110 11,260 31,315

太陽光 7,220 4 7,216 32,643

バイオマス 1,530 22 1,508 7,179

水力 160 4 156 4,401

再エネ電源小計 21,410 1,190 20,220 75,546

褐炭 10,608 9,948 660

ハードコール 1,820 1,153 667

天然ガス 4,038 - 4,038

揚水貯水 2,808 2,430 378

在来電源小計 21,513 13,787 378

Max [MW] Mini [MW]

13,963 5,164

9,942 -3,370

10,208 0

4,631 0

13,369 -2,070

3,887 -1,891

ロード   2)

50hertz 区域

50hertz 区域

風力給電   2)

太陽光給電  2)

残余需要  3)

純輸出    2)

出所) 1) 50hertz(2013), Almanach. 2) 50hertz(2012),Kennzahlenより算出. 3) 残余需要=ロード-(風力 +太陽光).50hertz, Kennzahlenより算出. 4)ドイツの風力, 太陽光はBMU(2013), Erneuerbare Energien 2012 Daten. ドイツのバイオマス, 水力はBMU(2012), Zeitreihen zur Entwicklung dererneuerbaren Energien in Deutschland 2011. ドイツ再エネ容量は, 風力, 太陽光の2012年分を2011年に上積み. 注)風力設備容量のうち50MWは洋上風力で全て380kV/220kV送電網連系.

垂直ロード 2)

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3.使用したデータ

今回使用したデータは、50Hertz 区域の風力

給電予測(24 時間前)、風力給電リアルタイム

(Windenergie Hochrechnung)、太陽光給電予

測(24 時間前)、太陽光給電リアルタイム

(Photovoltaik Hochrechnung) 、 ロ ー ド

(Regelzonenlast) 、 垂 直 ロ ー ド (Vertikale Netzlast)、輸出入、需給調整のための介入

(Anpassungen nach §13 EnWG:エネルギー

事業法 13 条適用)である。 いずれも 15 分単位の出力[MW]、送電区域単

位、2011 年と 2012 年の 2 年間のデータである。

全てのデータは 50Hertz 社ウエブサイトから

ダウンロード可能である。データ欠損値につい

ては、欠損が 1 時間以内で前後の状況から延長

可能な場合は、直前の 15 分単位の出力データ

を延長し、1 時間以上の欠損値についてはゼロ

とした。再エネ設備容量は、EEG の登録原簿

データを使用した。7 4.風力給電、残余需要の ramp、輸出の関係

ロードが低く、風力給電が多かった 2012 年

1 月 2 日、1 月 9 日について、風力給電と輸出

の状況(図1)、残余需要と輸出を示す(図2)。

残余需要(Residual Load)はロードから太陽光

と風力の給電を差し引いた残りを示す。8 輸出

/輸入の負の値は、純(net)の輸出である。

系統運用は、ロードから風力給電と太陽光給

電を差し引いた残余需要を、他の再エネ電源(優先接続)と在来電源で満たすことになる。

2012 年の風力給電の ramp と残余需要の

ramp を示す(表4)。12GW を上回る風力発電

を連系するため、残余需要の変動は非常に大き

い。9 2012 年 1 月 2 日には 7.75 時間に

10,443MW の増加を経験した。残余需要の

ramp のほうが風力給電の ramp よりも変動が

大きい。これは、需要それ自体の変動に加えて、

風力発電の出力変動が重なるためと考える。24時間のうちに経験した風力出力の 大値と

小値の差は、 大 8,353MW であった(4 月 2日)。表4の per unit (定格出力あたり ramp)の比率%は、買取制登録データの設備容量に基

づく算出で、実際に稼働中の設備容量とは異な

る。このため、表4の per unit の ramp は若干

の誤差を含んでいる。 残余需要の増加に対応する火力設備の出力

増加速度は、電源ごとに技術上の制約を受ける

(unit ramp)。しかし自由化された電力市場では、

当日取引(1 時間取引、15 分取引)において多

数の発電業者から調達することで、残余需要の

急増を調整できる部分がある。この点で、風力

と太陽光給電の 24 時間前予測を市場参加者に

開示することが安定供給にとって重要である。

図1 風力給電、ロード、残余需要、輸出の状況 (2012 年 1 月 1 日~10 日)

図 2 残余需要と輸出の変動状況 (2012 年 1 月 1 日~1 月 10 日)

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表 4 風力給電と残余需要の ramp (50Hertz 送電区域、15 分単位、2012 年)

5 風力給電、太陽光給電と輸出依存度

マスコミ誌上には、しばしば次のような日本

島国論が登場する。「ドイツが大量の風力と太

陽光を系統連系できるのは、隣国への輸出入で

需給調整できるからである。日本は島国で、輸

出入による調整はできないため、欧州のような

風力発電の大量連系は不可能である」。50Hertz区域が風力給電をどの程度、輸出で調整してい

るか、輸出依存度を確認する。 輸出の多い順に並び替えて、風力給電と比較

した(図3、図4)。風力給電が多い時に輸出

も多くなり、 2012 年には輸出の 大値

3,887MW の時、風力給電は 5,440MW であっ

た。しかし全体としては、輸出は、風力給電よ

りはるかに少ない。風力給電のうち、同一時刻

の輸出分を上回る部分(Wind-Net Export)をドイツ国内需要に向けられた部分とみれば、

風力給電の 70%、太陽光給電の 88%、風力給

電と太陽光給電の合計の 75%が国内需要に向

けられたと推定する(表5)。これは 15 分単位

データによる推定である。50Hertz が国内に受

け入れた風力給電の 70%部分については、日本

にも努力をすべき余地があると考える。 なお、風力給電のうち 50Hertz の域内需要を

超える部分は TenneT 区域に送電され、その一

部は TenneT から国際送電線を経て、オースト

リーの揚水発電所に貯水されている。 10

50Hertz域内の風力給電と輸出依存度の分析は、

ドイツ全域の輸出入との丁寧な照合が必要で、

今後の課題としたい。 輸入については、50Hertz 区域と TenneT 区

域の間の連系線容量が限られているため、風力

給電が少ない時には、50Hertz 区域は輸入が必

要である。ただし輸入の規模は小さい。輸出の

大値 3,887MW に対して、輸入の 大値は

1,891MW、年間輸出量 6TWh に対して輸入量

1TWh である。輸入の総時間数は、年間総時間

の 27%である(2012 年)。輸入量は電力価格に

よっても変動するため、単純に輸入イコール供

給不足を意味しない。50Hertz 社によれば、年

間 430 時間程度は、風力給電の不足により、輸

入が必要になるという。11

図 3 風力給電と輸出(2011 年、輸出をプラス表示)

図 4 風力給電と輸出(2012 年。輸出をプラス表示)

Residual Load Ramp in 50hertz 2012

[MW]in 15min per unit in 1 hour per unit

in 6hours per unit

in 8hours per unit

in 12hours per unit

in 24hours per unit

Wind max up-ramp 1,006 8.7% 2,229 19.3% 6,698 58.0% 7,247 62.7% 8,031 69.5% 9,007 77.9%

Wind max down-ramp -975 -8.4% -2,147 -18.6% -6,397 -55.4% -7,145 -61.8% -8,034 -69.5% -8,572 -74.2%

Residual load, max up-ramp 2,026 2,751 10,263 10,828 11,199 11,260

Actual load change, of which 1,960 1,543 3,950 4,404 4,723 3,166

Wind feed-in change, of which -66 -429 -6,373 -6,551 -6,538 -8,095

Solar feed-in change, of which 0 -779 60 127 62 1

Residual load, max down-ramp -2,111 -2,807 -8,696 -9,822 -11,170 -9,528

1) Wind power capacity in 50hertz, end of 2011: 11,557 MW. 2) 風力給電の24時間 大値は50hertz社ウエブサイトによれば9,007MW。

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表 5 ドイツ国内需要に向けられた風力発電と太陽光発電の給電量の推定(50Hertz 区域、2012 年)

太陽光給電と輸出の相関は、ほとんど見られ

ない(図5、図6)。ドイツ北東部の 50Hertz区域ですら、2011~2012 年の 2 年間で、太陽

光発電の設備容量は 3.6GWから 7.2GWに増加

し、太陽光給電の 大値が 1,831MW から

4,631MW に急増したことは、驚くべきである。

図 5 太陽光給電と輸出(2011 年。輸出をプラス表示) 図 6 太陽光給電と輸出(2012 年。輸出をプラス表示)

6.逆垂直ロードと風力給電の関係

50Hertz域内の 12.4GWの風力発電設備のう

ち、9 割は 110kV 以下の配電網に連系する。風

力給電が増加すると、送電網から配電網への垂

直ロードが減少する。残余需要がきわめて少な

い時あるいはマイナスの時には、配電網から送

電網への逆垂直ロード(昇圧・逆潮流)が発生

する。垂直ロードがマイナスの時は、域内全体

が配電網から送電網へ逆垂直ロードされたこ

とを示す。逆垂直ロードによる電力は TenneT区域への送電と輸出に向かう(図7)。

図 7 クリスマス休暇中の風力給電、残余需要、垂直ロード、輸出(50hertz、2011)

風力給電量 [MWh] 18,511,758 太陽光給電量 [MWh] 5,128,782 (風力+太陽光)給電量 [MWh] 23,640,540

風力国内給電量 [MWh] 13,026,279 太陽光国内給電量 [MWh] 4,527,183 (風力+太陽光)国内給電量 [MWh] 17,735,923

風力国内給電比率 [%] 70.4% 太陽光国内給電率 [%] 88.3% (風力+太陽光)国内給電率 [%] 75.0%

注)風力国内給電=(風力発電出力―純輸出)。太陽光国内給電=(太陽光発電出力-純輸出)。15分単位時刻における風力・太陽光発電、純輸出の出力値により積算電力量を算出。

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逆垂直ロードと風力給電を比較した。逆垂直

ロードは風力給電に対してごく一部であるの

で、配電網に給電された風力給電の大部分が

110kV 配電網域内で消費されたことを示す(図

8、図9)。垂直ロードの減少および逆垂直ロ

ードの発生は、配電業者、送電業者が風力給電

の受け入れに努力していることを示している。

ドイツ送電網における変電所、および送電網

と配電網をつなぐ変電設備(配電業者所有を含

む)のほとんどには、電圧調整可能な tap changer が装備されている。12 こうした送電

網システムへの地道なインフラ投資が、逆垂直

ロードの受け入れを可能にしている。逆垂直ロ

ードの発生状況を示す。(表6)

図 8 逆垂直ロードと風力給電(逆垂直ロード並び替え) 図 9 逆垂直ロードと風力給電(逆垂直ロード並び替え)

(50Hertz、2011 年、逆垂直ロードを正で表示) (50Hertz、2012 年、逆垂直ロードを正で表示)

表6 逆垂直ロードの発生状況 (50Hertz 送電区域)

7.風力給電予測の精度

ドイツの送電業者は、送電区域の風力給電と

太陽光給電の 24 時間前予測とリアルタイム給

電を 15 分単位で開示している。2012 年の給電

データから計算すると、風力給電予測の平均誤

差(root mean square error)は、名目出力に

対して 3.71%であった。名目出力の 10%以上

の誤差が発生した時間は、年間 603 時間であっ

た(表 7、図 10、図 11)。全体として風力予測の

誤差は非常に小さい。

表7 風力給電の予測誤差

(24 時間前、2012 年、50Hertz 送電区域)

2011年 2012年 増減率

垂直ロード電力量 (送電網→配電網) [MWh] 48,241,250 45,560,017 -5.6%

逆垂直ロード電力量 (配電網→送電網) [MWh] -159,375 -288,941 81.3%

送電網・配電網の取引量 (a) [MWh] 48,400,625 45,848,959 -5.3%

送電網・配電網の取引量 (a) に対する 逆垂直ロー

ド電力量の割合 [%] 0.3% 0.6%

逆垂直ロード発生時間  [時間] 174 260

逆垂直ロード 大値 [MW] 2,631 3,370

逆垂直ロードが 大の時の風力給電   [MW] 7,474 7,875

Root meansquare error

Max Min

風力予測誤差  [MW] 429 4,031 -3,404

予測誤差/名目出力 [%] 3.7% 34.9% -29.5%

大きい誤差の時間(名目出力の10%以上の誤差 )[時間]

603大きい誤差の時間/年[%]

6.9%

注) 2011年末の風力発電設備容量: 11,557 [MW]

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予測誤差の 大値が 34.9%、 小値がマイナ

ス 29.5%と誤差の幅が大きいのは、24 時間前

予測のためである。実際には、送電会社内部で

は実時間の直前まで、絶えず予測を更新してい

る(非公開)。送電会社へのヒアリングによれ

ば、24 時間前予測では一定の誤差が残るが、1時間前予測では誤差はきわめて小さく、風力予

測は信頼性が高いという。13 新の風力予測

に基づいて、24 時間前予測の誤差を当日市場の

電力取引で調整し、当日市場の締切後は、リア

ルタイムの調整力(Regelleistung)で調整する。

50Hertz 社によれば、24 時間以下の予測精度

は、風力給電予測で 2~4%(root mean square error)程度という。14

50Hertz 社によれば、風力給電予測は、IWES、Eurowind など 5つの外部組織から提供される

予測を 50Hertz が経験に基づき加重平均して

利用する。これら 5 社による予測は、①空間的

にはドイツ全土、50Hertz 区域、配電業者地域

の別、②予測期間で 120 分、8 時間、③予測更

新は、1 日 2 回更新、15 分更新、毎分更新など

の各種の予測がある。

図 10 風力給電予測の誤差率 図 11 風力給電予測の誤差

(24 時間前、root mean square error、50Hertz 区域、2012 年) (24 時間前、50Hertz 区域、2012 年)

8.系統安定性維持のための介入、出力制限

8.1 需給調整のための介入、出力抑制の順序、

経済補償

風力給電が多い時には、電力網の地域的混雑

や過負荷リスクを回避するため、需給調整が必

要になる。重要な問題であるので、需給調整の

条件、出力抑制の順序、経済的補償の条件につ

いて、法規定を要約する。 各々の管理区域において、電力系統の安全性

と信頼性に危険がある場合、送電業者は、送電

網に直接・間接に連系する発電設備、蓄電設備

等に対して介入を行う権限を認められている

(§13, EnWG)。 介入は、次の順序に従い実施する。

① 系統運用措置。例えば Redispatch(給電発

電所の変更)(§13(1)-1,EnWG)。 ② 市場的措置。例えば、需給調整用調整力

(Regelleistung)の投入。事前の契約に基づ

く切り離し可能または接続可能な負荷の活

用。契約に基づく在来電源に対する出力抑

制(§13(1)-2,EnWG)。この場合、在来電

源に対する出力抑制には、契約に基づく補

償を行う。上記の方法で系統の混雑や過負

荷リスクを除去できない場合、全電源に対

する出力抑制(下記③と④)を行う。 ③ 在来電源に対する出力抑制。ただし系統安

定性を維持する必要 低限の出力(must run capacity)は維持したうえで、それ以

外の在来電源を 低限まで抑制する(§

13(2),EnWG)。この場合、在来電源に対す

る出力抑制には経済的補償は無い。 ④ 再エネ電源(名目出力 100kW 以上)に対す

る出力抑制。系統の過負荷(grid overload)の場合、隘路リスク(grid bottleneck また

は Netzengpass)を回避するために、再エ

ネ電源に対しても出力抑制を行う (§13(2),EnWG と§11(1), EEG の連結運用)。この場合も、送電・配電業者は、再エネ電

源から 大限の給電をしなければならない

が、系統安定性に必要な 低限の在来電源

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の出力は維持する(§11(1), EEG)。 前記④の再エネ電源への出力抑制が、隘路

(Netzengpass)リスクを回避するための場合、

系統運用者は再エネ電源事業者の損失収入の

95%を補償する。隘路リスクを理由としない出

力抑制には、経済補償は無い。再エネ電源事業

者の損失収入が年間収入の 1%を超える場合は、

損失収入の 100%を補償する(§12(1),EEG)。 系統運用者は、再エネ電源に対する出力抑制

ついて、データによる説明責任がある。具体的

には、出力抑制の日時、範囲、継続時間、理由、

出力抑制の必要性の証明について、説明する責

任がある(§11(3),EEG)。 50Hertz 社 で は 、 § 13(2),EnWG と §

11(1),EEGの連結運用による再エネ電源に対す

る出力抑制の 1 件ごとに、調整を受けた変電設

備と配電業者名、調整を受けた出力[MW]、開

始時刻と終了時刻、危険の種類(隘路リスク等)、

影響を受けた送電業者設備、配電業者設備の場

所と電圧レベルのデータを開示している

(Maßnahmen nach §13 EnWG)。 8.2 Redispatch (給電発電所の変更)

風力給電が多く、かつ需要が少ない時には、

電力網の混雑と隘路発生のリスクが高くなる。

域内送電網と地域間連系線の過負荷を緩和す

るために、Redispatch(給電発電所の変更、ま

たは給電場所変更)が必要になる。Redispatchとは、送電系統の一部に隘路リスクがある場合、

その送電線の負荷を軽減するために、一方では、

一つあるいは複数の発電所から投入する有効

電力の量を抑制し、同時に他方では、別の場所

の一つあるいは複数の発電所から投入する有

効電力の量を増大させることで、系統全体の有

効電力を同じ水準に維持したまま、隘路リスク

を解消する系統運用である。 Redispatch は、火力発電設備の変更(出力抑

制する発電所と出力増加させる発電所)を要求

するため、発電所の経済に与える影響が大きく、

実施のタイミングと規模について適切性を問

われる。このため、送電業者の共通のウエブサ

イトで詳細情報を開示している。15

8.3 需給調整および出力抑制の状況

50Hertz域内の需給調整措置を示す(表8)。

表8のうち、§13(1)EnWG による介入のほと

んどは、在来電源(天然ガスとハードコール石

炭発電)に対する Redispatch として行われて

いる。Redispatch 等は、風力給電量の 15%、

域内発電量の 2.6%、年間 262 日に達する。 これに対して、§13(2)EnWG による介入の

ほとんどは風力発電に対する出力抑制である。

これは、年間の風力給電量の 0.6%である。 需給調整の介入が大規模に行われた日の状

況を示す(図 12)。16 風力給電が多い時、火

力電源の Redispatch と風力発電の給電制限 [MW]は合わせて、風力給電 [MW]の半分以上

に達している。風力給電が多い時には、非優先

の火力電源が頻繁に Redispatch されているこ

と、反対に、風力発電の優先給電は確実に実行

されているため、風力発電の出力抑制はわずか

である。

表8 風力給電量および系統安定性の維持のための介入(50hertz 送電区域、2012 年)

電力量[MWh]

風力給電量に占める比率

[%]

域内発電量(MWh)に占め

る比率[%]

日数

[日]時間数[時間]

大出力

[MW]

風力給電 18,511,758 100% - 365 8,775 10,208

EnWG 13条(1) による介入 (在来電源に

対するRedispatch + 契約合意に基づく出

力抑制) a)2,824,454 15.3% 2.6% 262 2,481 5,111

EnWG 13条(2)およびEEG11条の連結適

用による緊急介入 (在来電源の出力抑

制+再生可能電源の出力抑制) b)119,846 0.6% - 77 630 4,925

系統安定性のための介入の合計 a) +b) 2,944,300 15.9% -

出所)給電データより筆者計算.データは, 50hertz, Maßnahmen nach §13.1EnWG; Maßnahmen nach§13.2EnWG).2012年は366日.

2012年の域内の全電源の発電量合計は,108,070GWh.

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図12 系統安定性の維持のための市場介入(50hertz 送電区域、2012 年 2 月 14 日~2 月 25 日)

注)風力、太陽光は積み上げグラフ。他は積み上げのないグラフである。

まとめ

要約しよう。 ① 法規定により、15 分単位の詳細な給電デー

タの開示が義務付けられている。これによ

り風力の給電状況を詳細に把握できる。 ② 12GW もの風力発電の連系により、風力給

電と残余需要の変動はかなり大きい。 ③ 残余需要は、マイナスに転じる時がある。 ④ 風力給電が多く、残余需要の少ない時に輸

出依存度が高くなる。輸出依存度は風力給

電量の 3 割程度で、7 割程度はドイツ国内

に送電されている。 ⑤ 大量の風力給電に伴い、垂直ロードが減少

する。風力給電の大部分は、配電網レベル

で域内消費される。さらに風力給電が極め

て高い時に、逆垂直ロードが発生している。 ⑥ 風力給電予測の誤差は定格出力の 4%以下

である。風力予測の精度は非常に高い。 ⑦ 風力発電の連系の増加に伴い、需給調整措

置では、火力電源(おもに天然ガス)に対す

る Redispatch が頻繁に発生している。 ⑧ 以上に示した給電データから、50Hertz の

系統運用は、限られた送電容量で風力給電

を 大限に受け入れてきたことがわかる。

給電状況に関する透明性は、きわめて高い。

50Hertz域内の送電線負荷は限界に達してい

るため、火力電源に対する Redispatch と出力

抑制が発生しているが、それは 12GW の大量の

風力を連系する当然の結果である。ドイツ送電

業者 4社による共同の電力網拡張構想の予測に

よれば、再エネ電源の設備容量は 2023 年まで

に、50Hertz 域内で風力発電 19.6GW、太陽光

発電 12.1GW、ドイツ全体で風力発電 63.4GW、

太陽光発電 61.3GW に達すると予測する(電力

網拡張構想シナリオ B)(表9)。17 50Hertz社はさらなる風力発電の増大に対応するため、

Windsammelschene (Schwerin-Hamburg 間

の風力給電用基幹送電線)、Uckermark 送電線、

Südwest-Kuppelleitung (Thüringen における

50Hertz 南西部から TenneT への連系線)、380kV-Nordring Berlin(ベルリン北環状送電

線)など、数本の 380kV 送電線の拡張工事を

積極的に進めている。2011 年の同社の総投資額

2.96 億ユーロのうち、陸上風力連系にかかる投

資が 1.15 億ユーロ、洋上風力連系にかかる投資

が 1.31 億ユーロであった。18 50Hertz は、風力給電の増加に単に後追い対

応するのではなく、将来の風力給電の増大に備

えて積極的な系統拡張を進めている。それが送

電会社が電力市場で生き残る道だからである。 表9 50Hertz 区域の風力と太陽光の累積容量の予測

(2023 年時点、電力網拡張構想、シナリオ B)

[GW] Onshore Wind Offshore Wind PVBerlin 0 0 0.2Brandenburg 5.9 0 3.1Hamburg 0.1 0.1 0.1Mecklenburg-Vorpommern

4.1 1.3 2.9

Sachsen 1.1 0 2.1Sachsen-Anhalt 4.3 0 1.4Thübingen 2.7 0 2.350hertz, Total 18.2 1.4 12.1

Germany, Total 49.3 14.1 61.3Source: Übertragungsnetzbetreiber (2013), Netzentwicklungsplan, Strom2013. p.41, Chart 6 (Scenario B by 2023) by German 4 TSOs.

Wind and solar energy installed capacity, Scenario B by2023

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謝辞:

本報告の作成にあたり、斉藤哲夫氏(日本風

力発電協会)、安田陽准教授(関西大学)、50Hertz社、Amprion 社、Bundesnetzagentur の担当

者からは、貴重なアドバイスをいただいた。深

く感謝致します。 注

1. European Council (2009), Directive 2009/72/EC, Concerning common rules for the internal market in electricity and repealing Directive 2003/54/EC.

2. Erneuerbare-Energien-Gesetz (EEG), §5, §8, §9. 系統運用者が系統拡張義務を

免れることができるのは、系統拡張費用が

「経済的に非合理的」な場合に限定される

(§9(3),EEG)。その場合、「経済的に合理的」

な水準とは、「系統拡張費用が再エネ電源の

新規建設費用の 25%を超えない」ことが一

つの目安とされる(Deutscher Bundestag Drucksache 15/2864, 15. Wahlperiode 01. 04. 2004:ドイツ連邦議会環境委員会文書、

第 15 期 2004 年)。 3. §13,EnWG (電気ガス供給に関するエネ

ルギー事業法 13 条)。 4. 50Hertz (2013), 50Hertz Almanach 2012. 5. European Council (2009). op,cit. 6. 50Hertz, Amprion, TenneT and

TransnetBW, ‘Grid control cooperation’. Regelleistung.net. https://www.regelleistung.net/ip/action/static/gcc

7. EEG-Anlagenstammdaten http://www.eeg-kwk.net/de/Anlagenstammdaten.htm

8. 日本風力発電協会・系統部会(2013)、「広

域運用による平滑化効果と系統連系可能量

拡大策」。加藤丈佳(2012)、電気学会、電

力・エネルギー部門大会、発表資料。片岡、

池上、宇田川、荻本、斉藤(2012)、電気

学会、全国大会講演論文集「風力発電なら

びに残余需要のランプの予備的分析」。 9. 24 時間の風力 up-ramp は、15 分単位給電

データでは 8,962MW となったが 50Hertz社の開示によれば 9,007MW とされている。

http://www.50hertz.com/de/151.htm (visited on 2013.6.30)

10. 輸出量は電力価格に従い、市場的に決定さ

れる。ドイツの風力給電が多い時には、オ

ーストリーの貯水池への給電が増加し、こ

れが Tennet 区域の送電線の負荷軽減に効

果を上げている。Bundesnetzagentur (2012), Bericht zum Zustand der leitungsgebundenen Energieversorgung im Winter 2011/12.

11. 50Hertz社へのヒアリング(2013年6月)。

輸入依存度については、ドイツ全体と

50hertz を分けて考える必要がある。2011年 5 月時点で、ドイツには確実な供給力と

見なされる発電設備が 93.1GW 存在する。

ドイツの年間 大需要は 80.6GW、供給予

備力は 12.5GW であった(BDEW, 2011, Auswirkungen des Moratoriums auf die Elektrizitätswirtschaft)。2013 年 7 月時点

でドイツには、石炭、流込水力、貯水式水

力、原子力、天然ガスの発電設備で合計

97.58GW を保有する(Bundesnetzagentur, Kraftwerksliste der Bundesnetzagentur, 22. Juli 2013)。ドイツ全体では、 大電力

需要をまかなうだけの十分な供給力が存在

する。風力給電が無い場合でも供給不足の

リスクは無い(Entso-E, Summer outlook report 2013 and winter review 2012/2013)。ドイツ全体として、風力給電およ

び太陽光給電が無い場合に輸入が発生する

のは、供給力不足の故ではなく、輸入電力

が低価格であることが影響している。 12. Amprion社へのヒアリング、2013年 8月。 13. 前掲、50Hertz 社へのヒアリング。

Amprion社へのヒアリング(2012年 10月)。 14. 前掲、50Hertz 社へのヒアリング。 15. EEG/KWK-G, Redispatch-Maßnahmen.

http://www.eeg-kwk.net/de/Redispatch.htm (visited on 2013.7.23).

16. 2012 年の需給調整ための介入が 大であ

ったのは、実際には 3 月 28~29 日であっ

た。ただし 50Hertz 社によれば、これは

TenneT 変電所の故障に伴う出力制限の発

動であって、過剰な風力給電を要因とする

出力制限とは言えないという。

http://www.50hertz.com/transmission/files/sync/Netzkennzahlen/Berichte-13(2)_EnWG/Information_13-2_EnWG_vom_28.03.2012_bis_29.03.2012.pdf

17. Übertragungsnetzbetreiber (2013), Netzentwicklungsplan, Strom 2013 (ドイ

ツ 4 送電業者による送電網拡張構想、第二

版). 18. 50Hertz, Geschäftsbericht 2011.