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-1- ■論文■ デジタル革命の歴史的性格と物質的性格 野口 《要旨》 デジタル革命は成熟段階である第 4 ステージに入り、ようやく全体像を展望できるようになった。 そこで本稿ではデジタル革命を歴史的視点から概観し、そのパースペクティブを示す。すなわち成 熟段階の特徴を吟味し、ポスト機械制大工業としてのデジタル生産様式の特質を示し、それに立脚 するデジタル資本主義の歴史的意味について考察する。またデジタル革命の物質的性格を明らかに するために理論的な考察を行う。それは従来、理論的に曖昧であった論点を補正する内容をもつ。 はじめに 前稿「情報通信技術革命の史的展開」(野口 [2011])ではデジタル革命の歴史的諸段階を 総括し、21世紀初頭から第 3 ステージに入っ たことを示した。だが21世紀もすでに 6 分の 1 を過ぎた今日では、そこで予測として述べ た第 4 ステージにすでに移行している。 前世紀とは様相を異にする生産様式が姿を 現しつつある。自動運転に代表される高度な AI(人工知能)やロボットが社会的にインパ クトを与えている。ドイツを中心に「第 4 の 産業革命」というスローガンも現実味を増し ている (1) 。他方で、福島原発事故は20世紀型 はじめに Ⅰ.デジタル革命の歴史的性格 1.デジタル革命の成熟段階 2.デジタル生産様式 3.デジタル資本主義 Ⅱ.デジタル革命の物質的性格 4.サービスの物質的性格 5.ソフトウェアの物質的性格 おわりに 工業文明の歴史的限界を強く印象づけた。日 本でなお支配的な重厚長大産業の黄昏はもは や覆い難い。 デジタル革命は、第 4 ステージに至って、 成熟期を迎えようとしており、旧産業の淘汰 や再編が進む一方で、ポスト資本主義=脱成 長経済が忍び寄る時代となろう。 本稿は、デジタル革命の第 4 ステージを視 野に入れ、従来、理論的に曖昧であった点を 補正し、拙稿の総括編としたものである。本 稿はⅠ部とⅡ部より構成され、Ⅰ部ではデジ タル革命の歴史的なパースペクティブを示す。 すなわち 1 章でデジタル革命の成熟段階の特 徴を解明し、今日の中心テーマとされるビッ グデータ等の位置づけを述べる。 2 章では、 姿を明瞭にしつつあるポスト機械制大工業= デジタル生産様式の特質を論ずる。 3 章では、 デジタル生産様式を基礎とするデジタル資本 主義の主要な特徴を考察する。 今日、デジタル革命は経済学の視野から遠 ざかっている観がある。情報化、サービス化、 ネットワーク化など物質的性格が曖昧に捉え られ、事態の直視を妨げているように思われ る。そこでⅡ部ではデジタル革命の物質的性 格を明確にするための理論的な考察を行う。 その観点から本稿では、ブリニョルフソン '16.10.25 政経107 版下校正

デジタル革命の歴史的性格と物質的性格grebe.my.coocan.jp/nh/Bibliography_files/デジタル革命の... · れ、やがてニューラル・ネット(多層神経回

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  • - 1 -

    ■論文■

    デジタル革命の歴史的性格と物質的性格

    野 口 宏

    《要旨》 デジタル革命は成熟段階である第 4 ステージに入り、ようやく全体像を展望できるようになった。

    そこで本稿ではデジタル革命を歴史的視点から概観し、そのパースペクティブを示す。すなわち成

    熟段階の特徴を吟味し、ポスト機械制大工業としてのデジタル生産様式の特質を示し、それに立脚

    するデジタル資本主義の歴史的意味について考察する。またデジタル革命の物質的性格を明らかに

    するために理論的な考察を行う。それは従来、理論的に曖昧であった論点を補正する内容をもつ。

    はじめに

    前稿「情報通信技術革命の史的展開」(野口

    [2011])ではデジタル革命の歴史的諸段階を

    総括し、21世紀初頭から第 3 ステージに入っ

    たことを示した。だが21世紀もすでに 6 分の

    1 を過ぎた今日では、そこで予測として述べ

    た第 4ステージにすでに移行している。

    前世紀とは様相を異にする生産様式が姿を

    現しつつある。自動運転に代表される高度な

    AI(人工知能)やロボットが社会的にインパクトを与えている。ドイツを中心に「第 4 の

    産業革命」というスローガンも現実味を増し

    ている(1)。他方で、福島原発事故は20世紀型

    はじめに

    Ⅰ.デジタル革命の歴史的性格

    1.デジタル革命の成熟段階

    2.デジタル生産様式

    3.デジタル資本主義

    Ⅱ.デジタル革命の物質的性格

    4.サービスの物質的性格

    5.ソフトウェアの物質的性格

    おわりに

    目 次 工業文明の歴史的限界を強く印象づけた。日

    本でなお支配的な重厚長大産業の黄昏はもは

    や覆い難い。

    デジタル革命は、第 4 ステージに至って、

    成熟期を迎えようとしており、旧産業の淘汰

    や再編が進む一方で、ポスト資本主義=脱成

    長経済が忍び寄る時代となろう。

    本稿は、デジタル革命の第 4 ステージを視

    野に入れ、従来、理論的に曖昧であった点を

    補正し、拙稿の総括編としたものである。本

    稿はⅠ部とⅡ部より構成され、Ⅰ部ではデジ

    タル革命の歴史的なパースペクティブを示す。

    すなわち 1 章でデジタル革命の成熟段階の特

    徴を解明し、今日の中心テーマとされるビッ

    グデータ等の位置づけを述べる。 2 章では、

    姿を明瞭にしつつあるポスト機械制大工業=

    デジタル生産様式の特質を論ずる。 3 章では、

    デジタル生産様式を基礎とするデジタル資本

    主義の主要な特徴を考察する。

    今日、デジタル革命は経済学の視野から遠

    ざかっている観がある。情報化、サービス化、

    ネットワーク化など物質的性格が曖昧に捉え

    られ、事態の直視を妨げているように思われ

    る。そこでⅡ部ではデジタル革命の物質的性

    格を明確にするための理論的な考察を行う。

    その観点から本稿では、ブリニョルフソン

    '16.10.25政経107

    版下校正

  • - 2 -

    ら[2011]にならい、これまでのICT(情報通信技術)革命との呼称に代えて、デジタル技

    術革命またはたんにデジタル革命と呼ぶ( 5

    章参照)。本稿の主要な結論は「おわりに」に

    まとめてある。

    Ⅰ.デジタル革命の歴史的性格

    1.デジタル革命の成熟段階

    1.1 デジタル化の段階区分

    前稿において、企業のデジタル技術利用の

    進展(デジタル化)は、経営環境の変容にと

    もなう経営戦略の展開、およびその帰結とし

    ての経営変革と深く結びつくこと、デジタル

    化は時代を追って方向を変えながら、段階的

    に進むことを解明した。

    そして企業のデジタル化の全体を概観でき

    るように、経営環境、関連する制度、技術の

    成熟度、経営改革を踏まえ、デジタル化の段

    階区分を表(以下、前表という)にして説明

    した。そこでは各ステージはほぼ15年ごとの

    スパンをもって区切られることを示した。

    前稿を書いたのは第 3 ステージの後半の時

    期であるが、そこでは来るべき第 4 ステージ

    の特徴についても前表の中で予測していた。

    今日ではすでに第 4ステージに入っているが、

    十分な展開はまだこれからである。その限り

    で前表で示した予測を手直しし、新たに修正

    した表1を掲げる。太字は前表から変化した

    部分である。各欄の意味は表中下部に示した。

    第 4 ステージでは以前と何が変わったか。

    デジタル化のターゲットは、新たなプラット

    フォームをベースに、これまでにないビジネ

    スやビジネス結合を内発的に生み出す意味で、

    ネットワーク創発(Emergence)と改めた。またデジタル化のシナリオを企業間DN(デジタル・ネットワーク)連係と改めた。たん

    に企業同士が繋がるだけではなく、企業の個

    々のプロセスのレベルで、更には機器のレベ

    ルで、企業間の新たな結合ができるという意

    味である。

    コアテクノロジーは、第 3 ステージではイ

    ンターネットであったが、第 4 ステージでは

    IoT(Internet of Things)である(詳細は 2

    表1 企業のデジタル技術利用の段階区分(筆者作成)

    プロローグ 第1ステージ 第2ステージ 第3ステージ 第4ステージ

    時 期 1955~ 1970~ 1985~ 2000~ 2015~

    ターゲット 作業効率 業務改革 競争戦略 事業創 ネットワーク創発

    半導体 LSI デジタル通信 光ファイバ回線ビッグデータ

    キーテクノロジープログラム言語 OS NA SNS/スマホ

    ニューラルネット3Dプリンタ

    コアテクノロジー スタンドアロンオンライン・シ クローズト・ネッ

    インターネット IoT/クラウド・コステム トワーク ンピューティング

    シナリオ データ処理業務オートメー 組織ネットワーク 企業間コラボ 企業間DN連係

    ション

    コア組織 個別作業者 ビジネスチーム 企業グループ アライアンス ビジネス・ウェブ

    労働特性 単純労働 多能工 ホワイトカラー クリエータ コーディネータ

    経済傾向 規模の経済 範囲の経済 スピードの経済 ネットワークの経済プラットフォームの

    経済

    経済環境 国内成長 国際競争 グローバル化 金融危機 資本の世界再編

    市場特性 マス市場 セグメント市場 ワンツーワン市場 リレーショナル市場 オンデマンド市場

    ブレークスルーコンピュータ商用化 回線開放 ネットワーク開放 ブロードバンド 無線ブロードバンド

    戦後復興開始 ドル石油ショック プラザ合意・円高 ITバブル崩壊 アジア生産基地化ターゲット:デジタル化の目標、キーテクノロジー:成立のカギをなす基礎技術、コアテクノロジー:ネットワークの

    進化、シナリオ:業務連係の進化、コア組織:組織単位の進化、労働特性:その段階に特徴的な労働の特徴、経済傾向

    :経営戦略の基礎=競争優位の原理、経済環境:企業環境のトレンド、市場特性:市場構 の進化、ブレークスルー:

    新段階への飛躍の契機(技術、経済)

  • - 3 -

    章)。いずれもオープン・ネットワークであっ

    て、DNと総称する。IoTはインターネットの発展形であって、人間相互だけでなく、あら

    ゆる機材を含めてアクセスできることとクラ

    ウド・コンピューティングが特徴である。

    クラウドの実体は、インターネット上の雲

    (クラウド)に例えられ、地球のどこかで実

    質的な処理を担うDC(データ・センター)群である。今日では、スマホやPCのアプリは操作画面に過ぎず、要求された処理のほとんど

    は、クラウドの機能を呼び出して実行される。

    1.2 成熟段階のキーテクノロジー

    新設したキーテクノロジーの欄は、各ステ

    ージにおいてカギとなる要素技術を表す。第

    4 ステージのキーテクノロジーはビッグデー

    タ、ニューラル・ネット、 3 Dプリンタである。通常のデータ処理ソフトでは扱えないよ

    うな大量データ集積をビッグデータと呼ぶ。

    長期取引記録、各種センサの出力、長期観測、

    書誌文献などの累積データが代表的なもので

    ある。

    ビッグデータ処理は、複雑な変化の動態を

    広範囲に分析することにより、システム開発

    や戦略立案に役立てるのが狙いである。ケプ

    ラーは膨大な天体観測データを分析して、近

    代物理学の暁を告げるケプラーの法則を発見

    したという。そうした故事を想起させるビッ

    グデータ解析は、論理的演繹的な処理よりも

    統計的帰納的な処理が大きな役割を果たす。

    帰納的処理としては機械学習(マシンラー

    ニング)や文字認識、音声認識などのパター

    ン認識が早くから研究されてきた。そのため

    に神経回路をモデルにした並列処理が研究さ

    れ、やがてニューラル・ネット(多層神経回

    路網)に発展した(甘利[2016])。

    AI(人工知能)分野では、かつては巨大かつ詳細な実用百科事典ともいうべきエキスパ

    ート・システムが目指されたが、今日ではニ

    ューラル・ネットによる深層学習が中心であ

    る。それによってさまざまな状況への対応能

    力を学習するのである。このようなAIの動向はビッグデータの帰納的処理に沿ったもので

    ある。複雑で多岐にわたる道路状況を瞬時に

    判別する自動運転はその好例である(2 )

    。こう

    したニューラル・ネットを軸とするAIは、それ自身、ネットワークであり、単体で機能す

    るように見えても、クラウド上のAIにバックアップされている

    (3 )。

    3 Dプリンタでは、プラスチックや金属の成形・切削加工が、インクジェットプリンタ

    のようなコンピュータ制御の積層加工に置き

    換えられる。高度な 3 Dプリンタを提供するセンターがあれば、誰でも遠方からデータを

    送って、必要な部品や好みの製品を加工する

    ことができる。少数で独創的な製品を生み出

    すマイクロ工場も可能になる。

    以上に見たデジタル革命の第 4 ステージが

    成熟段階と言える理由は、第 1 に、デジタル

    革命が始まってから今日まで、世紀を跨ぎ、

    60年を超える歴史を積み重ねていることであ

    る。第 2 に、デジタル革命の中で生まれた主

    要なアイデアの多くがすでに実用化されてい

    ることである。第 3に、生産過程のみならず、

    流通過程、消費生活過程に至るまで、ポスト

    機械制大工業としてのデジタル生産様式の特

    徴が浸透したことである。第 4 に、脱経済成

    長社会としてのポスト資本主義が視野に入っ

    てきたことである。

    もとより第 4 ステージは始まったばかりで

    あり、以上の特質が誰の目にも明瞭になるま

    でには、おそらく今後 5 ~10年の時間が必要

    であろう。

    2.デジタル生産様式

    2.1 神経系労働手段と労働の社会化

    18世紀、世界貿易が呼び起こした需要逼迫

    に対処すべく、産業革命がスタートした(野

    口[2008])。新たに登場した機械式生産は、蒸

    気機関や電力網によって高度化され、発達し

  • - 4 -

    た機械制大工業となった。その生産単位は機

    械式の工場という生産有機体(システム)で

    あり、そこでの生産諸器官(サブシステム)

    は、労働力を前提に、筋骨系労働手段(機

    械)と脈管系労働手段(装置)などの生産設

    備から成る。有機体とは環境に適応して成長

    発展する組織体(システム)を意味する。

    20世紀後半、激化する販売競争を背景に、

    デジタル革命が始まった。それは産業革命と

    は逆に、大量一括生産に基づく過剰生産を背

    景としていた。新たに神経系労働手段(コン

    ピュータ)が登場し、生産有機体の末梢神経、

    運動神経、知覚神経、中枢神経として機能し

    た。すべての生産諸器官はソフトウェアの制

    御下に置かれ、広域で緻密で素早い制御が可

    能になった。生産における設備制約はそれだ

    け小さくなり、選択範囲が拡大した。

    労働は単純協業からマニュファクチュア型

    分業へ変化したが、機械式工場では「直接に

    社会化された労働すなわち共同的な労働によ

    ってのみ機能する。だから労働過程の協業的

    性格は、今では、労働手段そのものの性質に

    よって銘ぜられた技術的必然となる」(K-I,s.407)。そうした共同的な労働の範囲は 1 つの工場内からさまざまな分枝工場の総体に拡

    大され、それを通じて生産諸部門の社会的結

    合が強められる。これが労働の社会化または

    生産の社会化である。

    デジタル革命の第 4 ステージの今日、ドイ

    ツは官民あげて、第 4 次産業革命(Industrie4.0)に邁進している(日本経済新聞2014年 1

    月27日)。第 4次とは機械、マスプロダクショ

    ン、オートメーションに次ぐIoTの時代を意味している。そこではスマート工場(4 )を中心

    に交通、物流、建設、製品、エネルギー分野

    が一体的に結合される。これは労働の社会化

    の著しい進展である。

    それによって消費者の個性に即したオーダ

    ー生産というかつてのクラフト的伝統を復活

    させ、ドイツ製 業のリーダーシップを回復

    するのだという。他方、米国では最新テクノ

    ロジーの産業活用を産業インターネットと呼

    ぶ(GE社のサイト;http://www.ge.com/jp/industrial-internet)。そこでは製 業のみならず農業、流通、運輸、金融、医療、サービ

    ス等を幅広くターゲットにしている。

    2.2 インターネットの発展形:IoT

    その根幹に位置づけられているのが IoT(Internet of Things)である。インターネットは人間同士の通信手段に始まり、第 3 ス

    テージ後半には、社会生活のあらゆる場面が

    接続されるユビキタス・ネットワークが目指

    された。その接続ポイントが場面に登場する

    個々の諸要素(物)にまで細分化された、い

    わばインターネットの究極の発展形がIoTである

    (5)。

    そこでは人や組織だけでなく、あらゆるプ

    ロセスと機器と製品が、電子タグやセンサを

    通じてデジタル・ネットワーク(DN)に接続され、クラウドに支援されつつ相互に連係動

    作する。その範囲は分枝工場を超えて、地球

    規模にわたる工場間の統合制御に至る。医療

    における遠隔手術のように、遠隔の工程同士

    が工場内のように一体となって機能する。

    これが企業間DN連係である。DNはそれだけ接続数が増え、高密度化し、大量の映像を

    送受できるように大容量化される。さらに金

    融、流通、エネルギー、交通、行政のあらゆ

    る要素が、国境も資本所有も超えて、IoTによって相互にリンクされる。学校や病院でも

    生活過程でも、あらゆる家電、自動車、さら

    には家具、建物に至るまで、多数のセンサが

    埋め込まれIoTに接続される。そこから得られるビッグデータをAIで分析し、企業や行政の戦略立案に役立てようというのである。

    IoTの経済的意味を考えると、それは生産諸器官が神経器官に媒介されて地球的規模で

    相互に連係しあうという労働の社会化の新た

    な段階を画するものである。生産諸器官のみ

    ならず、社会的諸器官、さらには消費生活の

    諸器官も連係のネットワークに包摂される。

  • - 5 -

    それはポスト機械制大工業の新

    たな生産様式であり、デジタル

    生産様式と呼ぶことができる(6 )

    2.3 プラットフォームの経済

    デジタル生産様式における産

    業組織において重要な特性は、

    プラットフォームの経済であ

    る。今日ではDNを媒介に各種のプラットフォーム(社会的な

    諸活動を支えるための共通基盤、以下PFと略す)が比重を増している。

    PFの例を表2に示す。下位層から説明すると、ネットワーク・アーキテクチャ(NA)はインターネットの通信規約(プロトコル)

    の体系であり、国際機関またはNGOによって定められる。それより上位層のPFは主導企業によって提供される。OSやブラウザは言うに及ばず、ネットサービスではフェイスブック

    やユーチューブが覇権的な地位にある。

    ネットビジネスは以前からあったサービス

    がDNと結合し寡占化したものである。電子ショップのアマゾンはリテールPFとして、書籍に始まり宅配便で配達可能なあらゆる品目

    の流通を担い、流通しにくい商品をも市場化

    (ロングテール)している。

    さらに重要なのが産業PFであり、生産、流通、金融など経済の根幹部分に関わる。もと

    より流通、金融システムはPFとしての性格をもつ。今日では多くの商品取引がインターネ

    ット市場で行われ、インターネット・バンキ

    ングが一般化し、有価証券取引所もネット上

    に移行している。それによって市場は地球規

    模に拡大し、取引は瞬時に行えるように加

    されている。

    企業が、何らかのPFを基盤として、活動しようとすれば、そのPFが決めたルールにロックインされる。有力なルールはデファクト・

    スタンダード(事実上の標準)となり、高度

    の公共性が求められる一方で、それを支配す

    るPFは独占ないし寡占状態となり、ルールに従わせるPFの影響力は一種の権力として立ち現れる可能性を持つ。これがPFの経済である。

    2.4 EMSの意義

    生産PFとしてのEMS(Electronic Manu-facturing Service;電子組立受託)に注目すべきである。電子製品の組立工程は低付加価

    値であり、変動の激しい市場環境の下では、

    固定的な設備は、メーカにとって、生産能力

    の不足(機会損失)や過剰(廃棄損失)のリ

    スクが大きい。リスクを回避するため、多く

    のメーカは電子製品の組み立てをEMSに委託する。

    台湾の鴻海集団を筆頭に、EMSはメーカの組立工場を数多く買収し、地球規模で寡占化

    している。EMSは独自の商品を持たず、組立受託に徹しているが、多数の電子製品の組み

    立てを受託するため、各地の組立工場を柔軟

    に運用することでリスクを回避できる。

    また新開発が相次ぐ電子部品の調達におい

    ても有利な立場を占める。こうしてEMSは電子製品組み立ての生産PFとなり、電子部品市場をも支配するようになる。その影響力は規

    模を活かしたコスト効果という以上に、市場

    変動のリスクを相殺する能力にある。

    こうして電子機器業界は市場に向けて最終

    製品を企画開発・販売する製品メーカーと、

    製品組立を受託するEMSと、電子部品メーカーとに地球規模で再編された。この構 は、

    表2 プラットフォーム(PF)の階層 (筆者作成)ネット市場:電子モールPF:宅配便PF;

    産業PF 電子金融市場;EMS(電子組立受託); AIAI/PF; 適用ネットゲーム;電子ショップ;映像アー 領域

    ネットビジネス カイブ;クラウド;グループウェア;

    SaaS検索(ウェブ,地図,ニュース,画像;

    ネットサービス 文献;Wiki); SNS;動画共有;LINE;電子ブック;文書作成;翻訳;カレンダ

    ー基本ソフト・標準 OS(PC,スマホ,ゲーム);ブラウザ;ソフト Microsoft Office;Adobeシリーズ

    電子メール;ファイル転送;ウェブ アプリ

    ネットワーク・ア ZIP(ファイル); jpeg,TIFF(画像); 圧縮ーキテクチャ(NA) mp3,AAC(音声);mpeg(動画)

    IPv4(TCP/IP);IPv6 基本

  • - 6 -

    今後、電子機器以外の領域(例えば自動車)

    にも広がるだろう。薬品業界でも、新薬を開

    発・販売するメーカーと、もっぱら薬品の製

    を受託するメーカーに分かれている。

    今日、中国は世界の工場とされ、世界のブ

    ランド製品にもメイド・イン・チャイナが増

    えている。世界から製 受託する中国の工業

    基盤は、グローバルな生産PFとして機能していると言える。表 1 で第 4 ステージの経済的

    ブレークスルーをアジア生産基地化とした所

    以である。

    以上、PFの諸相を検討したが、いずれにしてもPFはどこからでもアクセス可能でなければならないので、それ自身ネットワークの形

    をとるか、少なくともDN上で事業を展開する。

    3.デジタル資本主義

    3.1 資本主義の再編

    21世紀の今日でも、資本主義経済が支配的

    であることに変わりはないが、その内実は大

    きく変化している。半世紀前にD.ベル[1973]がポスト工業社会論を唱えたように、機械制

    大工業が支配的な資本主義は過去のものとな

    った(7 )。

    需要逼迫を背景にした産業革命とは逆に、

    デジタル革命は過剰生産を背景として起きた。

    生産有機体の神経器官が発達し、労働の社会

    化に新たな段階を画した。労働生産性は全般

    的かつ短期間に上昇し、全体として資本の有

    機的構成は高められた。それは一方では利潤

    率を全般的に引き下げ、資本蓄積=拡大再生

    産(経済成長)にブレーキをかける方向に作

    用した。他方では、相対的過剰人口の増大を

    背景に、剰余価値率を引き上げ、格差と貧困

    を拡大するテコともなった。

    今日ではポスト機械制大工業すなわちデジ

    タル生産様式に向け、資本のグローバルな再

    編過程が進行している。それは新自由主義=

    市場原理主義を押し立てて、重厚長大産業を

    土台とした旧経済秩序(工業資本主義)を容

    赦なく淘汰し、グローバルに分散化した新経

    済秩序(デジタル資本主義)を生み出す過程

    である。

    その変化の本質を捉えるには、生産様式の

    変化とともに資本の行動様式の変化に着目す

    る必要がある。ここでは幾つかの特徴的な側

    面から見ていく。

    3.2 知的生産物の経済

    低成長経済では相対的に少ない利潤をめぐ

    る争奪戦が激しくなり、企業間競争が激化す

    る。生き残りを図る資本はグローバル市場へ

    の進出や新製品開発競争に駆り立てられる。

    デジタル化はグローバル化を支え、知識労働

    を支援する働きをもつ。

    新製品開発競争が激しくなれば、知識労働

    と知的生産物の比重が高まる。知識労働が生

    み出す知的生産物は、商品そのものに体化し

    ている場合もあれば、知的財産として独立し

    て保護される場合もある。いずれにせよ知的

    生産物は個性を持ち、新規性がなければ価値

    が認められない。それゆえ知的生産物をめぐ

    る競争は、先手必勝のスピード競争の法則が

    働く。

    知的生産物の総価値は、知識労働全体が生

    み出す総価値に等しいと考えられる。知識労

    働は多くの失敗を積み重ねた末に、ようやく

    結実する場合が少なくない。失敗も成功の糧

    として貢献しているのであるが、失敗した努

    力が市場で評価される可能性は小さい。

    勝者は開発費を償却して余りある超過利潤

    を獲得するが、敗者の開発費は水泡に帰す。

    勝者は業界全体が生み出した総価値を手に入

    れる。これは勝者総取り(The winner takesall)と呼ばれる。こうした勝ち組と負け組の落差は経済の投機性を際立たせる。

    知的生産物の経済では、勝ち組の資本が負

    け組資本とその傘下の労働者を収奪すること

    によって資本を集中させる。知的生産物をめ

  • - 7 -

    ぐる競争は、めまぐるしく変転し、先行き不

    透明でリスキーな市場になり、生産もまた市

    場に合わせて変動する。そこでは競争力の決

    め手はコスト管理からリスク管理に変わる。

    知識労働は自律的性格が強く、その働きは、

    知識労働者個人または企業を超えた職能グル

    ープの創 性、主体的能力形成に強く依存す

    る。また知識労働者は労働手段を持たない存

    在ではなく、インターネットなど公共的な手

    段を幅広く利用できる。反面、設計技術者は

    資本に属する企業のデータベースやビッグデ

    ータ / AIにアクセスできなければ、仕事が進められない。資本と知識労働の関係は、今後、

    理論と実態の両面から究明すべき課題が多い。

    3.3 生産能力の外部調達

    今日の企業には長期的な生産計画を立てる

    余裕はない。市場を睨んで新製品開発をすば

    やく行い、迅 に製 ラインを組まねばなら

    ない。しかも製品の販売予測は不透明で、大

    ヒットになるか不発に終わるか予測できない。

    ここでは従来のような設備投資は時間がかか

    りすぎるだけでなく、前述のように、ヒット

    した場合の生産能力不足による機会損失リス

    ク、不発の場合の設備不稼働リスクが大きい。

    そこでこうした投資リスクを避け、必要に

    応じて他企業の生産能力の一時的な調達が追

    求される。他方では、自らの生産能力の一時

    的な供与が増える。生産過程再編のための生

    産能力の取り引きが一般化する。これは部分

    的な生産委託と言えるが、デジタル化によっ

    て遠隔地の生産設備の監視制御が円滑に行え

    るようになり、生産過程の連係が容易になっ

    たことが、こうした協業を誘導する。

    従来は、グループ内下請け企業との間だけ

    で行われていた協業が、今や資本系列を越え、

    国境を越えて行われる。これは生産のグロー

    バルな分散であり、労働の社会化の新たな進

    展を意味する。反面でそれは設備投資の停滞

    となって現れる。

    消費過程では、サービス形態で供給される

    消費財( 4 章)、消費者の部分的な生産への参

    加、共有(share)による消費形態が増える。消費者のニーズに合わせた小規模生産の条件

    も拡大する。

    他企業の生産能力の調達は、しばしばVB企業の買収や、M&Aによる生産能力の買収に転ずる。今日では企業買収はもとより、大企業

    間における従業員もろともの事業所の売買も

    日常化している。東芝の医療機器部門のキャ

    ノンへの売却、白物家電部門の美的集団への

    売却はまだ記憶に新しい。

    またR&Dは不確実でリスキーであるから、有望なVBを探索して買収した方が確実性が高いと考えられる。他方では上場して高値で売

    るためにVBを設立育成するケースも多い。財やサービスだけでなく、企業や事業そのもの

    が商品化されるのである。

    3.4 デジタル化とリスク経済

    低成長経済では、先行き不透明で投資リス

    クが高まるから遊休資本が増え、有価証券な

    どの金融市場に流れ込む。加えて知的生産物

    の市場はコスト以上にリスクに左右される。

    こうしたリスキーな環境は経済の金融化ない

    し投機化(カジノ化)を促進する。金融デジ

    タル化は資金決済のスピードを めることに

    よって、経済金融化の土壌を作り出す(8 )。金

    融工学は金融投機化の手の込んだ手段を市場

    に持ち込む。

    市場経済にリスクと投機性は付き物であり、

    リスクの増大と投機化は裏腹な関係にあるが、

    株式市場における企業の売買は、その傾向を

    著しく強める。企業の売買は一般に先行きの

    期待に基づく不確実なものであるから、それ

    が盛んになれば経済の投機化を促進する要因

    になる。

    言い換えれば、経済金融化には遊休資本に

    よる実体経済から離れた投機的金融活動とと

    もに、企業売買による生産過程の社会的再編

    という実体経済の契機が隠れている。今日の

    金融の肥大化はこうした資本市場の性格の変

  • - 8 -

    化が背景にあり、そのことがさらに投機的金

    融を加 する。他方ではリスク回避が広がり、

    そのことが新たなリスク源を生み出す(井村

    [2016])。

    3.5 脱経済成長へ

    ブリニュルフソン他[2011]は、デジタル化

    は加 度を増し、中間層の労働が代替されて

    急 に雇用が失われ、その 度に雇用創出は

    追いつかず、所得格差が拡大し、社会的安定

    が損なわれると警告している。

    こうした状況は労働者の交渉力を相対的に

    弱める方向に作用する。また激しい市場変動

    は、労働過程の頻繁な組み換えに連動し、安

    定した雇用を阻害する方向に作用する。加え

    てきびしい利潤争奪戦は、資本間の利潤の争

    奪とともに、労働条件を引き下げて、剰余価

    値率を上げるという労働者からの収奪に向け

    られる。

    労働者が対抗する力を持たない場合、平均

    賃金は下げられ、平均労働時間は長くなり、

    市場変動に連動した著しい不定期の労働を強

    いられる。必然的に格差が拡大し、貧困が広

    がる(9 )

    。それによって剰余価値率が全体とし

    てかさ上げされ、労働者は生活を維持するの

    が困難になる。

    ブリニョルフソンの警告は杞憂どころか、

    日々我々が眼前にしている現実である。こう

    した状況は、適切な社会保障がなければ、社

    会の安定を脅かす。これを解決するには、労

    働生産性の上昇に見合った労働時間の大幅な

    短縮と自由時間の拡大が不可欠である。

    利潤率の全般的低下は脱経済成長の到来を

    意味する。人類社会において経済成長は無限

    に続くものではないから、いつかはゼロ成長

    の定常状態になる(広井[2015]、橘木[2016])。

    定常状態の経済の目標は量的拡大ではなく、

    環境問題を含む生活の質的改善に向けられる

    べきものである。

    もとより事態の進行は不均等であるから、

    利潤を独占する寡占企業もあるが、他方では

    コミュニティ経済の活動分野の広がりが展望

    される。デジタル経済はそうした状況にこそ

    適合的と言えよう。脱経済成長はあくなき資

    本蓄積を本性とする資本にとって自己否定的

    な状況である。具体的な道筋は未だ明らかで

    ないとはいえ、それはポスト資本主義への移

    行過程にほかならない。

    Ⅱ.デジタル革命の物質的性格

    4.サービスの物質的性格

    4.1 サービスに関するスミスの無形規定

    デジタル技術はサービス形態で供与される

    場合が多い。だがサービスを非物質的なもの

    とする通念に災いされて、デジタル化の物質

    的性格が不明確になり、産業革命に比すべき

    デジタル革命の意義も正しく理解されない傾

    向がある。

    そこでサービス経済学論争(ドゥロネ他

    [1992]、金子[1998]、飯盛[2014])を踏まえ、

    サービス概念を再検討し、その物質的性格を

    明らかにする。

    経済学ではサービスを無形生産物とする説

    が有力であるが、その端緒はA.スミス[1789]にある。スミスは家事使用人の労働が生産的

    労働か否かを問い、「人は多数の製 工を使用

    することによって富み、多数の家事使用人を

    維持することによって貧しくなる」と述べた。

    スミスは家事使用人、官吏、牧師、法律家、

    医師、文筆家、俳優などの仕事(サービス)

    を不生産的労働とし、それらは「俳優の朗読

    や演説家の熱弁や音楽家の楽曲のように」「生

    産されたまさにその瞬間に消滅」し、貯蔵や

    交換ができる商品をあとに残すことがないと

    述べた。

    つまりサービスは無形であり、それゆえに

    不生産的労働であるというのである。本稿で

  • - 9 -

    はこれをサービスに関するスミスの無形規定

    と呼ぶ。

    J-B・セイはスミスに反対し、サービスは不生産的ではなく「非物質的生産物」を生産

    すると主張した(MEGA II / 3.2, s.587)。セイのいう非物質的生産物とは有用効果のこと

    であろうが、有用効果も少なからず物質的な

    効果であるから、それを非物質的生産物と呼

    ぶのは適切でない。そうした言説はサービス

    を物財と対立させ、物財以外の生産物はすべ

    てサービス=非物質的生産物とみなす混乱を

    生じた。もとより無形生産物と呼んでも同じ

    ことである。

    やがて経済統計の基礎として産業分類に関

    心が集まり、生産物を物質的か非物質的かで

    区分するセイ説は第 3 次産業論として再登場

    した。C.クラークによれば、全産業は 3 部門に分割され、第 1 次産業(農林水産業)およ

    び第 2 次産業(鉱工業)が物質的生産部門で

    ある(ドゥロネ他〔1992〕)。そして第 3 次産

    業は非物質的生産部門すなわちサービス生産

    部門とされた。こうしてサービス=非物質的

    (無形)生産物であるという混乱した見地が

    定着した。

    4.2 マルクスのサービス論

    マルクスは「剰余価値学説史」で次のよう

    にス ミ ス を批 判した (MEGA II / 3.2,s.439-446)。第 1 に、生産的労働か不生産的労働かは価値を生産するか否かではなく、資

    本を生産するか否かの問題である。第 2 に、

    生産的労働か不生産的労働かは労働の素材的

    規定からではなく、労働が行われる生産関係

    から決まる。

    マルクスはサービスを「使用価値としての

    労働」とし、資本と交換されるのではなく収

    入と交換されると強調する(10)

    。そして「サー

    ビス供与(Dienstleistung)」が商品となるだけでなく、資本主義的に生産されうることも

    認めている。もとより資本主義的なサービス

    供与も、収入と交換される(消費者に売られ

    る)ことに変わりはない。

    マルクスはまた「生産されたまさにその瞬

    間に消滅」するというスミスの副次的規定に

    しがみついているとセイを批判する(ibid.,s.587)。スミスの無形規定が副次的だとはいかなる意味であろうか。

    マルクスは「資本論第 1 部」で「サービス

    (Dienst)というのは、商品にせよ労働にせよ、ある使用価値の有用な作用(Wirkung)にほかならない」と規定する(K-I, s.207)。これはサービスに関する一般規定であり、そ

    こからつぎの諸規定が導かれる。

    (1)サービスは使用価値に属し、それ自身は

    社会関係を含まないが、サービス(使用価値

    の有用な作用)の発見は歴史的な行為である

    (K-I, s.49)。また使用価値でないもの(例えば商業や金融)はサービスではない。

    (2)サービスは使用価値の作用であり、言い

    換えれば使用価値の実現である。サービスの

    供与は、使用価値それ自身を供与するのでは

    なく、使用価値の作用または実現(有用効

    果)を供与することである。言い換えれば使

    用価値を物としてでなく活動として供与する

    ことである(MEGA II / 3.6, s.2175)。(3)使用価値の作用がサービスであると言う

    場合、サービスの基体である使用価値(サー

    ビス財)には商品のみならず労働も含まれる。

    こうした「使用価値としての労働」は(奴隷

    でない限り)つねに活動(サービス)として

    供与される。

    ここで(2)について補足しておく。「物では

    なく活動」ということを外見的に見たものが

    スミスの無形規定である。だが活動として供

    与するといっても、あくまで有形な使用価値

    を前提とし、その作用を及ぼすのである。物

    財であれ、活動(有用効果)であれ、使用価

    値を供与して欲望を満たすことに変わりはな

    く、ただその供与の仕方が異なるだけである。

    自動車は財として売られ、鉄道は活動とし

    て売られる。使用価値が活動として、すなわ

    ちサービス形態で供与されるかどうかは、使

  • - 10 -

    用価値の供与という本質から見れば、副次的

    な問題である。だからサービスを、その基体

    である有形の使用価値から切り離し、無形の

    サービスそれ自身と規定するのは適切でない

    (この点では拙稿[2012]も反省すべき点があ

    る)。

    4.3 サービスの経済的形態

    「剰余価値学説史」では、サービスはもっ

    ぱら収入と交換される消費的サービスであっ

    た。だがサービスの一般規定によれば、サー

    ビスの基体としての使用価値(サービス財)

    は消費財か生産財かを問わない。実際マルク

    スは「資本論第 2 部草稿」で「鉄道によって

    たえず売られているものは、それが供与する

    生産的サービス(productive Dienst)であって、それはたとえば賃貸しされている原動機

    の場合と同様である」と述べている(MEGAII / 4.1, s.363)。ここで注目されるのは、鉄道など運輸と並

    び賃貸しされる生産財が生産的サービスに数

    えられていることである。原動機を使用する

    上では賃貸しも直買も変わりない。だが賃貸

    しでは原動機それ自身が売られるのではなく、

    その活動(サービス)のみが売られる。この

    ことはサービスの供与が使用価値の流通形態

    であることを示している。

    マルクスは運輸業についてあらまし次のよ

    うに述べる(K-II, s.60)。運輸業が売るものは「場所を変える」という有用効果であって、

    それは運輸過程=運輸の生産過程と不可分で

    ある。その有用効果の生産と消費は同時であ

    る。……ここでは生産過程から分離されうる

    生産物ではなく、生産過程そのものが売られ、

    消費される。

    これは運輸がサービス形態で売られること

    に他ならない。使用価値の生産よりも流通の

    問題であるという意味でサービスは副次的で

    ある。だがもとより資本の再生産過程におけ

    る流通過程の重要性は論を俟たない。流通形

    態としてのサービスは、それ自身の独自な形

    態を展開することになる。

    サービスの一般規定によれば、サービスは

    使用価値の作用、実現であるが、使用価値の

    実現は他方では使用価値の消費であり、両者

    は同一の過程である。使用価値を物として供

    与すれば生産と消費は分離される。使用価値

    を活動(サービス)として供与すれば、商品

    として売られるのは使用価値それ自身ではな

    く、サービスである。サービスの生産と消費

    は分離されず、同一の過程である(11)

    。すなわ

    ち生産者にとっては生産過程、消費者にとっ

    ては消費過程である。

    使用価値には専用財(専用に適した財)と

    共用財(共同利用に適した財)がある。共用

    財は一般にサービス形態で供与される。運輸

    業、情報通信業、エネルギー供給業、リサイ

    クル業、メンテナンス業の生産システムはそ

    うした共用財と考えられる。共用財において

    は多様な財を組み合わせて利用する過程が社

    会化され、その上にサービスの諸形態が展開

    される。

    サービス経済化とは、結局のところ、サー

    ビス形態で供与される使用価値が、その社会

    的比重を高めることである。それは非物質的

    どころか、基本はあくまで使用価値(財)で

    あって、物質的性格のものである(12)

    。マルク

    スは「(形式的な)統一性のために、本質的な

    差異を忘れないように」と戒めている

    (MEGA II / 1.1, s.23)。無形規定が共通だからといって、本質的に異なる内容を、サー

    ビス労働やサービス業という空疎な概念に一

    括する議論の誤りはそこにあった。

    5.ソフトウェアの物質的性格

    5.1 ソフトの経済的本質

    デジタル革命の核をなすテクノロジーはソ

    フトウェア(以下、ソフトと略す)である。

    ソフト生産業は日本標準産業分類では情報処

    理・提供サービス業とともに情報通信業の中

  • - 11 -

    の情報サービス業とされる(13)。だがソフトを

    情報サービスと捉えると、ソフトの物質的性

    格は明らかにならない。

    ソフトが容易に複製できること、デジタル

    情報と同じくデジタル回線で伝送できること

    などから、ソフトは情報の一種とみなされが

    ちである。だがそれは形式的な見方であって、

    本質を外れている。ソフトは情報ではなく、

    ハードウェア(コンピュータの「金物」部分;以下ハードと略す)とセットとなる物質的存

    在である(石沢[1987])。

    ソフトの経済学的本質は、何よりも生産過

    程において、ソフトが機能している状態にお

    いて捉えなければならない。ソフトの流通や

    蓄積の過程における性質は副次的なものであ

    る。生産過程において、ソフトはハードやデ

    ジタル回線とともに神経系労働手段の細胞を

    なす。神経系労働手段は社会の生産組織とし

    ての生産有機体の構成部分であり、環境変化

    に対応して、生産有機体の統合的な制御を担

    う(14)

    マルクスは「たった一本の糸が切れても紡

    績機をひとりでに止める装置や、梭の糸巻き

    の横糸がなくなればすぐに改良蒸気織機を止

    めてしまう自動停止器は、まったく近代的な

    発明である」(K-I, s.402)と指摘している。これらの発明は神経系労働手段の萌芽である。

    5.2 ソフトの物質性

    ソフトの原初形態は機械器具への組み込み

    ソフトであり、その実体はメモリに刻された

    ビット配列である。それは神経系労働手段の

    働きを担う電子部品の一種であり、マイクロ

    コンピュータと組み合わされて制御信号を送

    受する。

    生産有機体の制御信号は生物の神経細胞を

    行き来する生体反応のようなもので、人と人

    とがやり取りするコミュニケーションとして

    の情報とは本質的に異なる。ソフトのビット

    配列は、文字や音声のデジタル情報(デー

    タ)と形式は同じだが、デジタル情報と違っ

    て人(プログラマ)が読むものではない。

    ではソフトとハードは何がちがうか。神経

    系労働手段としての働きは共通であるが、両

    者の役割は異なる。ハードが舞台(ステー

    ジ)だとすれば、ソフトは演技(パフォーマ

    ンス)に相当する。ソフトは設計の自由度と

    機能の拡張性が大きく、さらに周囲環境との

    相互作用に基いて、ソフト自身の構 を変え

    ていく「学習機能」を備えることもできる。

    ハードは固定的だが、ソフトは可変的であ

    り、容易に改良できる柔軟性がある。このよ

    うなソフトをハードと組み合わせた神経系労

    働手段は、生産システムを時空を超えて広域

    に制御しうる。それは固定的で局在的な筋骨

    系や脈管系の労働手段と著しい対照をなす。

    他方では、ソフトの設計には大きな制約が

    ある。それはソフトの働きが完全(エラーが

    起こらない)であることを保障できないこと

    である(不完全性定理)。そのためさまざまな

    条件下でテストを繰り返して品質を保証する

    必要がある。

    またソフトの設計が柔軟であるのは単体と

    してだけで、インターネットの世界では必ず

    しもそう言えない。現実のソフトはDNを通じて相互に連係している。たとえば書き手の

    Word(ワープロソフト)で書かれた文書ファイルは読み手のWordによって読まれるが、双方のWordのバージョンが違うだけで齟齬が生じる。だからソフトの一部を改良する際には、

    それと連係している無数のソフトとの整合性

    が問われる。さらに現実に稼働しているおび

    ただしいソフトに改良を行き渡らせることも

    困難である。

    さらにソフトの設計はゼロから始めるので

    はなく、多くの部分に既成のソフトが複製流

    用されて組み込まれる。ソフトは数年以内に

    世代交替で更新されるのが普通であるが、こ

    うした基幹細胞ソフトは世代を超えて生き延

    びる。

    こうして社会におけるソフトの全体は、都

    市のような歴史的構 物ないしはある種の生

  • - 12 -

    態系として現れる。それは今や人間生活のす

    べてを絡め取る社会的制度であり、かつ歴史

    的に形成された物質的構 をなす。IoTの時代には、こうした社会的構 としてのソフト

    がますます高度化し、かつ濃密化することに

    なる。

    5.3 ソフトの経済的諸問題

    流通過程から見れば、ハードと異なり、ソ

    フトは容易に複製できることが問題の核心を

    なす。ソフトがハードと一体であればあまり

    問題にならないが、ソフトを独立した商品と

    して市場取引する場合には、複製の規制が必

    要になる。そこでソフトは知的財産権保護の

    対象にされ、著作権(複製権)が適用される。

    だがソフトのメーカー自身による複製は制限

    されない。詳細は省略するが、これらは商品

    としてのソフトの価値規定に影響する。

    ソフトは容易に複製できるから、物理的な

    損耗は無視できる。だがソフトは様々なソフ

    トやハードと組み合わされて用いられるから、

    そうした組み合わせの適合性が失われれば、

    使用に耐えなくなる。つまりソフトには社会

    的な損耗がある。そこでソフトは、商品また

    は資本としては、無形固定資産として扱われ、

    3年ないし 5 年で減価償却される。

    ソフトの取り引きは、生産されたオリジナ

    ルのソフト(使用価値)それ自身が引き渡さ

    れるのではなく、そのコピーと使用ライセン

    ス(権利)が供与される。すなわちソフトは

    原則としてサービス形態で取り引きされる。

    サービスとは使用価値すなわちオリジナルの

    ソフトの作用である。ソフトのサービスの供

    与は、ユーザーがライセンスを得たことでは

    なく、ソフトがコンピュータに実装されて動

    作することである。したがってライセンス期

    間中は繰り返し供与されるのである。

    こうして見れば、オリジナルのソフトは多

    くの利用者に使われる共用財であると言うこ

    とができる。特定の顧客の注文で作成される

    ソフトであっても共用財であることに変わり

    はない。オリジナルのソフトの各部分は、メ

    ーカー内で他のソフトに流用され、また他の

    ソフトからの流用を含んでいるからである。

    ソフトの経済学上の位置づけは、生産過程

    におけるソフトの役割によって規定される。

    すなわち神経系労働手段の構成部分である。

    したがってハード生産業が機械器具製 業で

    あるなら、ソフト生産業も同じ分類とすべき

    である。実際、ソフト生産業以外でも、多く

    の機械器具製 業でソフトは部品として生産

    されている。

    ソフトはゲームなど個人用途に見えても、

    ゲームセンター等商業目的でも利用できる。

    また生産システムのソフトならば文字通り生

    産手段である。このようにソフト生産業は再

    生産表式における部門Ⅰに属する。

    まとめれば、複製や伝送ができることが共

    通だからといって、ソフトを情報に含めて、

    その独自の意義を見失わせる議論は誤りであ

    る。ここでも「(形式的な)統一性のために、

    本質的な差異を忘れないように」とのマルク

    スの戒め(前出)を想起すべきである。

    デジタル革命の核をなすソフトは情報では

    なく、物的なメカニズムであり、歴史的に高

    度の物質性を持つ。それゆえソフトを含めて

    ICT(情報通信技術)と呼ぶのは適切でない。情報化とソフト化は異なるものであり、両者

    を併せてデジタル化と呼ぶのが適切である。

    これまでのICT革命の表記に代えて、本稿では、デジタル革命やデジタル資本主義と表記

    する所以である。

    おわりに

    本稿の結論を要約する。

    (1)デジタル革命は第 4 ステージに入った。デ

    ジタル・ネットワーク(DN)は、インターネットからクラウド・コンピューティン

  • - 13 -

    グに支えられたIoTに進化する。クラウドにはビッグデータやニューラルネットなど

    高度機能が組み込まれる。 3 Dプリンタもキーテクノロジーである。第 4 ステージは

    デジタル革命の成熟段階であり、ポスト機

    械制大工業としてのデジタル生産様式が広

    く浸透する。

    (2)デジタル生産様式は神経系労働手段の発展

    を基礎として成立し、労働の社会化の新段

    階を画す。その根幹に位置づけられるのが

    インターネットの進化形としてのIoTであり、企業間DN連係を拡大深化させ、生産のグローバル分散化を進める。デジタル生

    産様式ではPFの経済が支配的な位置を占め、生産能力の他者からの調達(ないしは他者

    への生産委託)が一般化する。EMSなど生産PFは、今後のグローバルな産業再編の礎石をなす。

    (3)デジタル生産様式のもとで労働生産性は短

    期に上昇し、資本の有機的構成が高まり、

    平均利潤率は低落する。余剰労働力の一部

    は知識労働として吸収されるが、相対的過

    剰人口の増大は不可避である。これがポス

    ト産業資本主義としてのデジタル資本主義

    であり、勝者総取り、企業の商品化、経済

    の金融化、不安定雇用などが資本の新たな

    行動様式となる。資本蓄積は停滞し、脱経

    済成長=ポスト資本主義へ、量的発展から

    質的充実を図る定常状態の経済に移行する。

    労働時間の大幅短縮、自由時間の増大に基

    づくコミュニティ経済が課題となる。

    (4)サービスとは使用価値を物(財)としてで

    なく活動(有用効果)として供与すること

    である。個人の所有に適さないような使用

    価値はサービスとして供与されるほかはな

    い。経済サービス化の内実はサービス形態

    で供与される使用価値が比重を高めること

    である。サービス形態で供与される使用価

    値は、生産と消費が同時かつ同一の過程で

    あるところから、独自な流通形態をもつ。

    デジタル化は商品の流通形態としてのサー

    ビス化を促進する。

    (5)情報化はデジタル化の一面でしかない。神

    経系労働手段の核はソフトである。それは

    メモリに刻されたビット配列であって、制

    御信号の塊であり、情報のように人と人と

    を媒介するものではなく、機械の制御関係

    を媒介するものである。ソフトの全体は歴

    史的に形成された物質的構 をなす。情報

    化とソフト化は異なり、両者を併せたもの

    がデジタル化である。

    以上に加えてテクノロジー論(技術論)と

    情報論についても総括が必要であるが、紙数

    の都合上、他日を期すことにする。

    ( 1 ) 安倍内閣の成長戦略である「日本再興戦略2016」

    のサブタイトルは「第 4 次産業革命に向けて」

    としている。

    (2 ) 囲碁の世界名人を破ったAIソフト(アルファ碁)は大量のコンピュータから成るニューラル・

    ネットの深層学習により、蓄積された棋譜を可

    能な限り記憶し、さらにAIソフト同士の対戦で鍛え、膨大な棋譜を新たに生み出す。そうした

    装備に支えられたアルファ碁ソフトを多数のコ

    ンピュータの集積体の上で走らせるのである。

    (3 ) AIが自己学習により成長発展し、やがて人間の制御が及ばなくなる特異点(シンギュラリテ

    ィ)を超えるという主張がある(Vingeら)。だがAIはDNAに基づく生物ではなく、自ら環境に適応して生き延びる能力は動物以下である。経済

    学的にはAIも生産手段や生活手段以上のものではない。

    (4 ) 工場の諸要素がIoTに包摂され、クラウド・コンピューティングをベースに高機能化した工場。

    (5 ) NHKテレビ、クローズアップ現代「新・産業革命?“モノのインターネット”の行方」2015

    年 5 月28日。IoTの軍事的側面については内閣の

    「サイバーセキュリティ戦略」参照。

    (6 ) 生産様式(Produktionsweise)とは社会的生産の仕組みを総括する概念である。最も総括的

    に表せば、資本主義的生産様式や封建的生産様

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    式などがある。またマニュファクチュアや機械

    制大工業もまた生産過程の組織の仕方から見た

    生産様式である。

    (7) ベルが予測したポスト工業社会の特徴は、サー

    ビス経済化、知識労働の比重増大、革新の源泉

    としての知識中心性、テクノロジー指向、意思

    決定のコンピュータ化であった。だが半世紀後

    の今日の状況は、むしろデジタル経済化、格差

    と貧困の増大、知的財産権の支配、自然環境破

    壊、リスク重視の意思決定であろう。

    (8) 中央の管理者のいない分散型のデジタル仮想通

    貨(ビットコイン)の利用も拡大している。

    (9 ) T.ピケティは資本収益率が経済成長率を上回ることから、富の集中と格差拡大を根拠づけた。

    経済成長ゼロでは拡大再生産が行われず、剰余

    価値はもっぱら資本家の資産形成に向けられる。

    だがそれだけでは貧困の拡大は説明できない。

    (10) サービス経済学ではサービス労働という概念

    が(筆者を含め)無批判に使われてきたが、サー

    ビス労働とは使用価値としての労働なのか、サ

    ービス生産労働なのか曖昧である。マルクスに

    サービス労働の語はない。

    (11) このことからサービスは流通しないという説

    があるが、需要と供給があり、市場がある以上、

    そのようなことはなく、さまざまな手段を媒介

    にして流通する。

    (12) いわゆる「モノからコトへ」とは、モノのサ

    ービス形態がコトだということである。

    (13) 北米産業分類では、ソフトウェア業は情報サ

    ービスではなく、新聞・雑誌・書籍・データベ

    ースとともに、情報業の中の出版業に位置づけ

    られている。

    (14) ソフトの物質的性格を正しく理解せず、その

    ためソフトの研究開発を軽視したことが、日本

    製 業の衰退の一因と言ってよい。

    文献

    A.スミス[1989]; Smith, A. AN INQUIRY INTOTHE NATURE AND CAUSES OF THEWEALTH OF NATION, THE FIFTHEDITION(邦訳[2000]『国富論』岩波文庫)

    マルクス; Marx, K. 引用にはMEGAの部門・巻番号とページを付すが、資本論に限り下記。

    Marx, K. [1867] DAS KAPITAL, Dietz Verlag.引用にはKと表示し巻番号(Ⅰ~Ⅲ)と原著ページを付す。

    D.ベル[1973]; Bell, D. THE COMING OFPOST-INDUSTRIAL SOCIETY(邦訳[1975]『脱工業社会の到来(上・下)』ダイヤモンド

    社)

    石沢篤郎(野口宏)[1987]『コンピュータ科学と社

    会科学』大月書店

    ドゥロネ他[1992]; Delauney, J-C. and Gadrey, J.SERVICES IN ECONOMIC THOUGHT(邦訳[2000]『サービス経済学説史』桜井書店)

    金子ハルオ[1998]『サービス論研究』創風社

    野口宏[1998]『情報社会の理論的研究』関西大学出

    版部

    野口宏[2008]「産業革命と情報通信技術革命」基礎

    経済科学研究所編『時代はまるで資本論』昭和

    ブリニョルフソン他[2011]; Brynjolfsson, E. andMaAfee, A. RACE AGAINST MACHINE(邦訳[2013]『機械との闘争』日経BP社)

    野口宏[2011]「情報通信技術革命の史的展開」『政

    経研究』No.96野口宏[2012]「固有価値としての情報財の理論」

    『季刊経済理論』第48巻第 4 号

    野口宏[2012]「サービス財の経済理論―情報サー

    ビス分析のための準備として」『商学論纂』第53

    巻第 5・ 6 号

    飯盛信男[2014]『日本経済の再生とサービス産業』

    青木書店

    広井良典[2015]『ポスト資本主義―科学・人間・

    社会の未来』岩波新書

    橘木俊詔[2016]『新しい幸福論』岩波新書

    井村喜代子[2016]『大戦後資本主義の変質と展開

    ―米国の世界経済戦略のもとで』有斐閣

    甘利俊一[2016]『脳・心・人工知能』講談社

    (のぐち ひろし 元関西大学教授)