11
シラン系表面含浸材によるコンクリートのスケーリング抑制対策に関する研究 -試験施工1年目の評価- Study on Scaling Resistance of Concrete with Surface Penetrate Materials (Silane Type) - Evaluation of Field Test the First Year - 遠藤 裕丈 田口 史雄 ** 谷本 俊充 *** 小野 俊博 **** Hirotake ENDOH, Fumio TAGUCHI, Toshimitsu TANIMOTO and Toshihiro ONO 厳しい財政事情の下、冬期間、苛酷な環境下に曝され、凍害や凍害と塩害による複合劣化(スケー リングなど)の進行が懸念される寒冷地のコンクリート構造物の耐久性をいかに効率的かつ経済的に 保持するかが課題となっている。劣化対策技術の一つとして、近年、劣化を受けやすいコンクリート 表層の品質を集中的に高める表面含浸工法が注目されている。本報は、シラン系表面含浸材の効果を 検証する目的で行った試験施工、室内試験の中間報告である。打換え直後の地覆に施工した場合はス ケーリング抑制効果が認められた。一方、スケーリングが生じている既設の地覆や、コンクリート面 が常時、水中に浸るような室内試験環境ではスケーリングの進行を抑える効果が見受けられなかった。 さらに、遮塩性は、表層に形成される吸水防止層の品質に加え、吸水防止層が形成されている深さも 大きく影響することが明らかとなった。 《キーワード:スケーリング;塩害;シラン系表面含浸材;試験施工;地覆》 Under the tight financial condition, efficient and economical maintenance to ensure the durability of concrete structures is required in cold regions, which are exposed to severe environmental conditions and are susceptible to frost damage and combined deterioration (scaling etc.) due to frost and salt injury in winter. The surface penetrative method, which intensively improves the quality of the surface layer of concrete susceptible to deterioration, is recently attracting attention as a measure to control deterioration. This paper is an interim report on field and laboratory tests conducted for the purpose of verifying the effectiveness of a surface penetrate materials (silane type). The scale controlling effect was observed when the silane type was used on a wheel guard concrete immediately after it was replaced. It was also found that the scale controlling effect was not observed when the silane type was used on existing wheel guards with scaling, and members constantly submerged under water on laboratory test. It was also clarified that the salt-preventive property is affected greatly by the quality and depth of the anti-absorption layer formed on the surface. 《Keywords:scaling; salt injury; surface penetrate materials (silane type); field test; wheel guard》 報 文 10 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

シラン系表面含浸材によるコンクリートのスケーリング抑制 ...シラン系表面含浸材によるコンクリートのスケーリング抑制対策に関する研究

  • Upload
    others

  • View
    4

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • シラン系表面含浸材によるコンクリートのスケーリング抑制対策に関する研究-試験施工1年目の評価-

    Study on Scaling Resistance of Concrete with Surface Penetrate Materials (Silane Type)- Evaluation of Field Test the First Year -

    遠藤 裕丈* 田口 史雄** 谷本 俊充*** 小野 俊博****

    Hirotake ENDOH, Fumio TAGUCHI, Toshimitsu TANIMOTO and Toshihiro ONO

     厳しい財政事情の下、冬期間、苛酷な環境下に曝され、凍害や凍害と塩害による複合劣化(スケーリングなど)の進行が懸念される寒冷地のコンクリート構造物の耐久性をいかに効率的かつ経済的に保持するかが課題となっている。劣化対策技術の一つとして、近年、劣化を受けやすいコンクリート表層の品質を集中的に高める表面含浸工法が注目されている。本報は、シラン系表面含浸材の効果を検証する目的で行った試験施工、室内試験の中間報告である。打換え直後の地覆に施工した場合はスケーリング抑制効果が認められた。一方、スケーリングが生じている既設の地覆や、コンクリート面が常時、水中に浸るような室内試験環境ではスケーリングの進行を抑える効果が見受けられなかった。さらに、遮塩性は、表層に形成される吸水防止層の品質に加え、吸水防止層が形成されている深さも大きく影響することが明らかとなった。《キーワード:スケーリング;塩害;シラン系表面含浸材;試験施工;地覆》

     Under the tight financial condition, efficient and economical maintenance to ensure the durability of concrete structures is required in cold regions, which are exposed to severe environmental conditions and are susceptible to frost damage and combined deterioration (scaling etc.) due to frost and salt injury in winter. The surface penetrative method, which intensively improves the quality of the surface layer of concrete susceptible to deterioration, is recently attracting attention as a measure to control deterioration. This paper is an interim report on field and laboratory tests conducted for the purpose of verifying the effectiveness of a surface penetrate materials (silane type). The scale controlling effect was observed when the silane type was used on a wheel guard concrete immediately after it was replaced. It was also found that the scale controlling effect was not observed when the silane type was used on existing wheel guards with scaling, and members constantly submerged under water on laboratory test. It was also clarified that the salt-preventive property is affected greatly by the quality and depth of the anti-absorption layer formed on the surface.《Keywords:scaling; salt injury; surface penetrate materials (silane type); field test; wheel guard》

    報 文

    10 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

  • 1.はじめに

     凍害および凍害と塩害による複合劣化は、寒冷地のコンクリート構造物における特徴的な劣化現象の一つである。凍害は、スケーリングによるかぶりの減少や、微細ひびわれの発生を引き起こす。このため、コンクリートそのものの材料性能の低下、塩化物イオンの拡散促進、鉄筋腐食の加速化が危惧される1)。コンクリート構造物の耐久性に対する社会的関心は全国的に高まっているが、厳しい財政事情の下、いかに効率的かつ経済的に構造物の耐久性を保持し、ライフサイクルコスト縮減に努めていくかが課題となっている。 筆者らはこれまで、塩害の進展速度に影響を及ぼす凍害のうち、塩分環境下で生じやすいスケーリングの挙動について検討してきた。水セメント比25 ~ 65%を配合水準とし、セメントに普通ポルトと高炉 B種を用いた実験結果を整理して図-1を導き出し、図-2のプロセスを提唱した2)。透水係数の増加は、表層に生ずる凍結水圧の緩和に対して有効な反面、コンクリート自体の機能低下をもたらす。このことから、スケーリング対策の根本は、プルオフ強度の確保と外部からの吸水の抑制と言える。 これを実現させる実用的な技術の一つとして近年、コンクリートの表層を改質する浸透性の保護材(表面含浸材)を用いる対策工が注目されている。これは、打設を終えた通常のコンクリートの表層に吸水抑制機能もしくは細孔充填機能を付与し、劣化を受けやすい表層の品質を集中的に高める工法である。施工費が安価で工期も短く、既存のコンクリート材料や配合を変更することなく品質を高められる利点がある。さらには、かぶり不足といった施工不良への対応策としても有効と考えられる。しかし、表面含浸材の選定方法や性能、特に寒冷地での耐久性を評価する手法については言及されていない。 そこで、評価手法の構築に向けた試験施工と室内試験に着手した。本報は、吸水抑制機能を付与するシラン系表面含浸材の試験施工1年目の結果および室内試験で得た結果との関係について述べるものである。

    2.試験施工

    2.1 施工概要

     試験施工は、一般国道238号M橋、一般国道39号 B橋、一般国道274号 K橋にて行った。試験対象部位は地覆とし、M橋とB橋は打換え2~3ヶ月後の地覆、K橋は打換えから2冬経過している地覆に施工した。地覆コンクリートの配合は表-1の通りである。

    SC=0.258×e-0.697σ×e-0.0371k×e0.00394t

    Scσ

    : スケーリング量(g/cm2): プルオフ強度(N/mm2): 透水係数(×10‑10cm/s): 凍結融解サイクル数(ここでは t=300)

    kt

    05

    1 0

    1 5

    2 0

    01

    23

    45

    6

    0

    0 . 2

    0 . 4

    0 . 6

    0 . 8

    1

    0

    0 . 2

    0 . 4

    0 . 6

    0 . 8

    1

    012345

    67

    0 510

    1520

    25

    透水係数(×10 -10cm/s) プルオフ強

    度(N/

    mm2 )

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    0.0

    300サイクルのスケーリング量(g/cm

    2 )

    スケーリング試験はASTM‑C‑672 に準拠試験水はCaCl23%水溶液

      図-1 スケーリングに及ぼす表面プルオフ

          強度と透水係数の関係(0

  •  表面含浸材は、既往の実験3)で使用された28種類の製品から含浸性と撥水性が良好な5種類を選び、それに北海道内での実績を有する1種類を加えた計6種類を採用した(表-2)。いずれもシラン系で水系3種類(No. 1~3)、溶剤系2種類(No. 4、5)、無溶剤系1種類(No. 6)である。成分はカタログ値もしくはメーカーから掲載の承諾を得た範囲の値を示した。 施工範囲は地覆を6ブロックに区分けし、メーカー1社に1ブロックを割り当てた。1ブロックの区間長はM、B橋は4mで K橋は5m、施工面積は天端と道路側をあわせてM、B橋は3.6㎡、K橋は4.5㎡である。材料ではなく工法として評価したい理由から統一の仕様は設けず、各メーカー推奨仕様に基づいて各メーカーの担当者が施工を行った。写真-1~3に施工状況を示す。施工のペースは各メーカーによって異なるが、最短で5.2㎡ /h、最長で約0.9㎡ /h であった(ただし、静置時間を含む)。施工はローラーや刷毛で行われ、

    塗布前に入念な清掃を行ったメーカーもあり、各社の独自性がみられた。2.2 冬期環境

     冬期の環境を把握するため、各橋を管理する道路事務所に凍結防止剤の散布量と地覆の雪の堆積状況について調査を依頼した。図-3に結果を示す。温度は近傍のアメダスを用いた。 凍結防止剤の種類は各橋で異なり、B橋は塩化カルシウム水溶液(塩カル液)、K橋は塩化ナトリウム粒子(塩ナト粒子)と塩化ナトリウム水溶液(塩ナト液)であった。M橋では焼き砂が撒かれていた。溶液の飽和濃度を塩カル液39.6%4)、塩ナト液23.8%4)として散布量を塩化物イオン量(Cl 総量)に換算すると、散布回数は交通量が多い B橋が多いが、Cl 総量は山間部のカーブに位置するK橋が多い傾向にあった。 雪の堆積状況は、M橋が12月~3月中旬、B橋は1月~2月末の間、地覆全体が積雪状態にあった。K橋は天端が12月~2月は積雪状態だが、道路側はコン

    表 -1 地覆コンクリートの配合

    写真-1 施工状況(M橋) 写真-2 施工状況(B橋) 写真-3 施工状況(K橋)

    表-2 試験施工に用いた表面含浸材と施工工程

    骨材最大径 W/P スランプ 空気量(mm) (%) (cm) (%) 水 セメント 膨脹材 細骨材 粗骨材

    M橋 20 43.2 8 6.0 BB 149 315 30 731 1069B橋 40 51.4 8 4.5 N 145 252 30 713 1144K橋 25 46.5 8 5.0 H 138 267 30 778 1111

    【備考】 セメント記号は、BB…高炉セメントB種,N…普通ポルトランドセメント,H…早強ポルトランドセメント

    単位量(kg/m3)セメント記号

    シラン類 他成分

    1 20 22 581)  開始 → 塗布0.10kg/m2 → 3h静置 → 塗布0.10kg/m2 → 終了 0.202 32 11 57  開始 → 塗布0.15kg/m2 → 4h静置 → 塗布0.15kg/m2 → 終了 0.303 80 - -  開始 → 塗布0.20kg/m2 → 終了 0.204 11.5 - -  開始 → 塗布0.15kg/m2 → 4h静置 → 塗布0.15kg/m2 → 終了 0.305 74  開始 → 塗布0.20kg/m2 → 終了 0.206 無溶剤系3) -  開始 → 塗布0.40kg/m2 → 終了 0.40

    【備考】 1) 表示は特殊無機溶液, 2) フッ素を含有, 3) 溶剤にアルコール使用, 有効成分(%)の欄における「-」印は非公表

    施工工程塗布量(kg/m2)

    溶剤系

    水系

    系別No.有効成分(%) 水または

    溶剤(%)

    90262)

    12 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

  • クリートが露出する頻度が高かった。積雪期間を省いて凍結融解日数を調べたところ、M橋は24日、B橋は51日、K橋は天端48日、道路側78日であった。また、それらは11月と3月に集中していることもわかった。これらのことから、M橋は凍害単独、B、K橋は凍害と塩害の複合劣化を受けやすい環境にあると言える。環境の苛酷さは、K、B、M橋の順に厳しいことも併せて読みとれる。2.3 調査概要

     調査は、非破壊で行える①撥水性、②透水比、③スケーリング面積率、④超音波伝播速度、⑤シュミットハンマー測定は1年おき、コア採取を伴う⑥凍害深さ測定、⑦塩分量測定、⑧中性化深さ測定は5年おきに行う計画である。調査期間は、既報5)のコスト試算

    結果をふまえて最低5年、最長15年を予定している。 本報では、試験施工から1冬経過した地覆の撥水性、透水比、スケーリング面積率の測定結果について報告する。2.4調査結果

    (1)撥水性

     撥水性は、食紅水を噴霧し、その撥水状況から目視で判定した。表-3に評価グレード、表-4に結果を示す。初期は撥水が確認され、水弾きが極めて良好なものもあった。1年後、M橋は変化がなかったが、B、K橋は撥水効果の低下が一部みられ、中には撥水しないものもあった。B、K橋は、凍結防止剤が散布されていることから、地覆に凍結防止剤が付着し、撥水面が覆われていた可能性がある。

    11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

    32日      19日     

    8

    4

    11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

    最低温度

    最高温度

    7日      17日    

    -25-20-15-10-505101520

    )℃(

    度温

    A

    B

    C

    A

    B

    C

    )端

    天(

    況状

    積堆

    の雪

    )側

    路道(

    況状

    積堆

    の雪

    凍結融解日数(露出時のみカウント)     

    A…完全露出B…うっすら露出    もしくはシャーベット状C…積雪状態

    0

    12量布散

    剤止

    防結

    凍 塩ナト液 26.4㍑     

    ※M橋は、防滑材(砂)散布。凍結防止剤は使用されていない

    11/1 12/1 1/1 2/1 3/1 4/1

    78日(道路側)     24日(天端)      24日(天端)     

    16(㍑)

    (㍑)

    02460

    1020304050

    (kg) Cl総量 65kg Cl総量 277kg

    塩カル液 460㍑      塩ナト粒子 449.8kg

    K橋     M橋      B橋     

    図-3 各橋の冬期環境(2004.11.1 ~ 2005.3.31)

    寒地土木研究所月報 №640 2006年9月 13

  • (2)透水比

     写真-4に示すように、JSCE-K 571に準じた漏斗を地覆に据付け、水頭高さ250mmまで注水し、1日後の水頭高さを読み取り、透水量を調べた。透水比は、無塗布面の透水量を1とした場合の塗布面の透水量で定義される。 図-4は有効成分と透水比の関係である。1年後、透水比は全体的に増加傾向を示し、中には1を上回ったものもあった。水系は有効成分が高い表面含浸材で効果の持続が認められ、有効成分は製品を選定する上で有用なバロメーターの一つと言える。溶剤系は一部の製品で、有効成分は水系よりも小さいが透水比は良好な結果を示している。希釈に使用された溶剤の影響も考えられるが、原因の特定には至らなかった。 B橋の No. 3、No. 6では、1年後の透水比は小さくなっている。調査では、1年後の無塗布面の透水量は初期よりもやや高く、No. 3と No. 6の吸水抑制効果が持続しているデータを得ている。すなわち、この結果は無塗布面の品質低下に伴うものである。

    (3)スケーリング面積率

     a)M橋

     1年後の地覆のスケッチを図-5に示す。ここに、スケーリング面積率(図には SC面積率と標記)は、施工面積に占めるスケーリング面積の割合である。無

    評価○ 評価△ 評価×

    極めて良好

    (完全な水玉状)

    撥水効果が

    見受けられる撥水せず

    表-4 撥水性評価写真-4 透水比測定状況

    図-4 有効成分と透水比の関係

    表 -3 撥水性の評価グレード

    橋梁 地覆面 年数 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6 無初期 △ △ △ △ △ △ ×1年後 △ △ △ △ △ △ ×

    初期 △ △ △ △ △ △ ×1年後 △ △ △ △ △ △ ×

    初期 △ △ △ △ - △ ×1年後 × △ × △ - △ ×

    初期 △ △ △ △ - △ ×1年後 × △ × △ - × ×

    初期 ○ △ ○ ○ ○ △ ×1年後 △ △ ○ △ × △ ×

    初期 ○ △ ○ △ ○ △ ×1年後 △ △ △ △ △ △ ×

    【備考】 無は無塗布を示す

    は、撥水性能は低下しているが、撥水性は持続

    は、撥水性が見受けられなかったもの

    B橋では「No.5」の表面含浸材は施工されていない

    垂直

    水平

    垂直

    水平

    垂直

    水平

    B橋

    K橋

    M橋

    10

    1

    0.1

    0.01

    比水

    10

    1

    0.1

    0.01

    比水

    10

    1

    0.1

    0.01

    比水

    M橋   

    3.oN

    初期1年後

    ※No.5は未施工

    0 20 40 60 80 100有効成分(%)

    K橋   

    B橋   

    1.oN

    2. oN

    4.oN

    5. oN

    6.oN

    1.oN

    2. oN

    4.oN

    3.oN

    6.oN

    3.oN

    1. oN

    2 .oN

    4.oN

    5.oN

    6.oN

    14 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

  • 塗布区間、塗布区間、いずれも著しいスケーリングは認められなかった。このため、スケーリング抑制に対する表面含浸材の貢献度を評価することは現時点では難しいが、図-4より No. 3、No. 5、No. 6は吸水抑制機能が持続していることから、トータル的に無塗布よりもコンクリート保護効果は得られていると言える。 b)B橋 1年後の地覆のスケッチを図-6に示す。No. 2塗布区間では道路側の一部に損傷痕が確認されたが、被害の形態から物体間接触による摩耗と思われる。そのため、これについては凍害でないと判断し、スケーリング面積率から除外している。環境の苛酷さはK橋の次に厳しく、無塗布区間では斑点状のスケーリング痕が道路側に発生していた。しかし、塗布区間ではこのような劣化はあまり見受けられず、未だ1年と短期ではあるが、スケーリング抑制効果が認められた。

     c)K橋 K橋は、写真-5に示すように、ASTM C 6726)

    の評価1(粗骨材の露出がみられず、スケーリング深さが3㎜未満)に相当する劣化が生じている地覆に施工している。図-7に施工前、図-8に施工1年後の地覆のスケッチを示す。スケーリング面積率は全体的に増加傾向を示した。施工前のスケーリング面積率が一様でなく、一概に比較することは難しいが、この結

    天端

    道路側

    無塗布区間 SC面積率=0.03%

    No.1区間 SC面積率=0.01%

    No.2区間 SC面積率=0.00%

    No.3区間 SC面積率=0.02%

    No.4区間 SC面積率=0.02%

    No.5区間 SC面積率=0.09%

    No.6区間 SC面積率=0.00%

    無塗布区間 SC面積率=0.43%

    No.1区間 SC面積率=0.00%

    No.2区間 SC面積率=0.06% (摩耗部除く)

    No.3区間 SC面積率=0.05%

    No.4区間 SC面積率=0.17%

    No.6区間 SC面積率=0.01%

    物体間接触による摩耗の痕

    図-5 施工1年後の地覆スケッチ(M橋) 図-6 施工1年後の地覆スケッチ(B橋、No.5未施工)

    写真-5 施工前の K橋の地覆状況

    寒地土木研究所月報 №640 2006年9月 15

  • 果はシラン系の表面含浸材は劣化が生じていない部材への施工が望ましいことを示唆する。また、スケーリングは道路側の地覆に多く見受けられた。このことは、K橋の地覆の露出期間が天端より道路側の方が長い図-3の調査結果とも一致する。

    3.室内試験

     室内試験は、試験施工の結果との相関を明らかにし、評価手法について検討する目的で行った。ここでは、スケーリング試験と遮塩性試験の結果について述べる。3.1 試験概要

     表-5に配合を示す。水セメント比は試験施工地覆の平均をとって45%とした。セメントには、スケーリングが比較的生じやすい品質条件とするため、過年度の実験結果2)をふまえて高炉セメントB種を用いた。細骨材には苫小牧市錦岡産の除塩処理済みの海砂(密

    度2.70g/ ㎝3)、粗骨材には小樽市見晴産の砕石(密度2.67g ㎝3)を使用した。供試体の寸法は22×22×10㎝とした。材齢14日に表-2で示した表面含浸材を打設面に塗布し、材齢28日に試験を開始した。塗布作業は、各メーカーが示した仕様に準じて行った。 スケーリング試験は、ASTM C 6726)に準じ、塩化ナトリウム3%水溶液(以下、塩水と記)を深さ6㎜張った状態で-18℃で16時間、23℃で8時間の1面凍結融解試験(1日1サイクル)を行い、5~ 20サイクル毎にスケーリング量を測定した。遮塩性試験は、打設面に塩水を張って90日間、温度20℃、湿度60%の

    図-7 施工前の地覆スケッチ(K橋) 図-8 施工1年後の地覆スケッチ(K橋)

    表-5 コンクリート配合

    無塗布区間(施工前) SC面積率=1.22%

    No.1区間(施工前) SC面積率=2.87%

    No.2区間(施工前) SC面積率=2.49%

    No.3区間(施工前) SC面積率=1.62%

    No.4区間(施工前) SC面積率=3.76%

    No.5区間(施工前) SC面積率=1.88%

    No.6区間(施工前) SC面積率=2.17%

    無塗布区間 SC面積率=3.63%

    No.1区間 SC面積率=4.42%

    No.2区間 SC面積率=14.5%

    No.3区間 SC面積率=2.29%

    No.4区間 SC面積率=6.76%

    No.5区間 SC面積率=4.36%

    No.6区間 SC面積率=3.95%

    水セメント比 スランプ 空気量

    (%) (cm) (%) 水 セメント 細骨材

    粗骨

    材45.0 8 4.5 144 320 820 1073

    骨材最大径=25mm、セメントは高炉セメントB種

    単位量(kg/m3)

    16 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

  • 恒温恒湿室に静置し、塩化物イオン浸透深さと塩分量を求めた。3.2試験結果

    (1) スケーリング試験

     図-9にスケーリング試験の結果を示す。無塗布の供試体は30サイクルでスケーリングが発生し、それ以降、概ね一定の割合でスケーリング量が増加した。一方、表面含浸材を塗布した供試体は、スケーリング抑制効果が持続したサイクル数は製品によってまちまちだが、No. 5を除くと、スケーリングが顕在化した直後のスケーリング量の増加の割合は、無塗布に比べると明らかに大きい。 写真-6は製品No. 3を塗布した供試体の90サイクル目の状況である。表層に形成されている深さ数㎜(図-14参照)の吸水防止層(表面含浸材の浸透範囲)が下から押し出される形で薄板状に大きく剥がれている様子が伺える。この現象は、図-9から短期間で急速に生じていることがわかる。それ以外のコンクリート面は概ね健全であった。

     このメカニズムについては、以下のことが考えられる。シラン系の表面含浸材は、コンクリートに撥水性は付与するが、コンクリートの細孔を充填する機能は持ち合わせていないため、コンクリート面に塩水を張った状態で凍結作用を与えると、外部からの凍結水圧によって塩水がコンクリートへ押し込まれることになる。吸水防止層には疎水基が固着しており、塩水は拡散しにくいため、圧入された塩水は吸水防止層の下面に滞留する。この実験では、透水性が小さい高炉セメントB種を使用しているため、図-2を応用すると、下面に滞留している塩水に発生する凍結余剰水はその場に蓄積される形となる。凍結融解を繰返し与えると、塩水がさらに圧入されて負荷も増大し、やがて、負荷が許容値を越え、上方の吸水防止層を押し出した、と推察される。図-10は、これらのイメージを図にまと

    吸水防止層が薄板状に剥離

    0 30 60 90 120 150 1800.0

    0.1

    0.2

    0.3

    無塗布 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

    サイクル  

    グン

    リー

    ケス

    量m c/g(

    2 )

    図-9 スケーリング試験結果

       写真-6 表面含浸材 No.3を塗布した

            供試体の90サイクル目の状況

    図 -10 スケーリングの発生メカニズムのイメージ

    コンクリートは透水性が小さい高炉B種のため、吸水防止層の下面に生ずる凍結余剰水の流動は上層方向、下層方向とも阻害される形となる。その結果、塩水の圧入と凍結作用の更なる繰り返しによって負荷が増大。

    負荷が許容値を超えた瞬間、過大な凍結水圧が生じ、吸水防止層が剥離

    シラン系表面含浸材の塗布によって表層には撥水性が付与されるが、表層の細孔は充填されない。そのため、上面から過剰な氷結圧がかかると塩水は圧入され、吸水防止層の下面に滞留。

    表面含浸材を塗布

    塗布により、表層に吸水防止層が形成

    コンクリート面に塩水を張り、凍結させる

    寒地土木研究所月報 №640 2006年9月 17

  • めたものである。 室内試験における各試験体ごとのスケーリング抵抗性や供試体の状況は前述の通りであるが、凍結防止剤の影響を受けている、新設地覆の B橋では、無塗布面でスケーリング面積率が多い結果となっている。このことは、塩水の圧入を伴う過剰な凍結水圧が作用する現行の試験法と、今回、想定の対象部位に選定した地覆の自然環境下との間には、環境の苛酷さに違いが存在することを示唆し、評価に際しては環境外力の差を勘案する必要があると言える。これについては、継続して検討を進めたい。 また、過剰な水圧が作用する環境下では適用が厳しいことも併せてわかった。

    (2)遮塩性試験

     図-11に塩分浸漬後のコンクリート断面の EPMA画像を示す。無塗布の供試体は塩分の浸透深さが11.5㎜であるのに対し、塗布した供試体はそれより小さく、

    No. 6は浸透が殆ど確認されなかった。 また、先ほど述べたスケーリング試験で得られたスケーリング抑制持続サイクルと遮塩性試験で求めた塩分浸透深さの関係を図-12に示す。両者の相関は良好であった。このことは、スケーリングの要因の一つである塩水の浸透を抑えることで、高いスケーリング抑制効果が得られることを示唆している。

    (3)塩化物イオン拡散係数

     浸漬試験では、深さ方向に1㎝間隔で試料をスライスして塩分量を求め、各深さの塩分量をグラフで表示し、拡散係数を算出するのが一般的である。しかし、塩分の浸透深さは数ミリと極めて浅く、この方法を適用するのは困難である。 そこで、本報では、図-13に示す要領で体積あたりの塩分量の算出を行い、簡易法7)に準じて拡散係数の算出を行った。なお、含浸部と非含浸部では拡散係数が異なる8)ことに考慮し、無塗布コンクリートの拡散係数は非含浸部、No. 1~ No. 6の拡散係数は含浸部の値とした。 図-14に結果を示す。No. 6は塩分の浸透深さ0㎜では拡散係数が算出できないため便宜上1㎜として計算している。吸水防止層の拡散係数は、No. 6はベースコンクリートの0.01倍、No. 3、4は0.04 ~ 0.05倍、それ以外は0.70 ~ 0.85倍であった。この図を用いて、コンクリート標準示方書「維持管理編」9)に準じ、鉄筋位置の塩化物イオン濃度が1.2kg/ ㎥に達するまでの年数を試算した。コンクリート表面の塩化物イオン濃度(Co)は13kg/ ㎥とした。かぶりは7㎝、9㎝の2ケースとした。なお、表面含浸材の耐候性による劣化やスケーリングによるかぶり厚減少の影響は考慮していない。

    無塗布 (11.5mm)

     (   )は、塩化物イオン 浸透深さを表す

    No.1 (9.2mm) No.2 (8.8mm)

    No.3 (2.3mm) No.4 (1.9mm)

    No.5 (8.4mm) No.6 (≒0mm)

    5mm

    塗布面側

    図-11 遮塩性試験結果(EPMA、凡例の濃度単位は%)

      図-12 スケーリング抑制効果持続サイクルと

          塩分浸透深さの関係

    0 25 50 75 1000

    3

    6

    9No.1 No.2

    No.3 No.4

    No.5

    No.6

    スケーリング抑制効果持続サイクル  

    さ深

    透浸

    分塩

    )m

    m(

    12

    18 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月

  •  表-6に試算結果を示す。腐食限界濃度に達するまでの年数を遅らせる効果は No. 6が最も大きい。No. 3、4は、拡散係数がベースコンクリートの0.04~ 0.05倍、吸水防止層の深さは2~3㎜程度で、遅延効果は2~6年という結果であった。このことから、吸水防止層の品質に加え、吸水防止層の深さも遮塩効果に影響することが明らかとなった。 しかしながら、これは室内試験をもとに算出した初期性能の値である。実際は、表面含浸材の耐候性など、経年的な性能低下を勘案した評価が必要である。そこで現在、増毛暴露実験場においても調査を実施している。この成果については、別の機会に報告する。

    4.まとめ

     寒冷地における表面含浸材の適用性について、本調査および試験の範囲で得られた結果をまとめると、次のとおりである。(1)凍結防止剤が散布されている橋梁では、撥水性

    が低下している地覆があった。(2)施工1年後における透水比は施工初期に比べ全

    体的に増加傾向にあったが、有効成分が高い表面含浸材を施工した地覆では効果の持続が認められた。

    (3)打換え直後の地覆に施工した場合、スケーリング抑制効果が認められた。

    (4)ASTM C 672の評価1に相当するスケーリングが生じている既設の地覆に施工したところ、スケ

    mmd

    ただし、d<10mm

    試料を採取し、塩分浸透深さdmmを測定(図‑11参照)

    mm01

    ここで、塩分量の値をC(kg/m3)とする。

    10mmにスライスし、スライス片の塩分量をJCI‑ SC4に準じて測定

    C

    (d/10)C'=

    計算上では、C(kg/m3)はスライス片1枚あたりの塩分量である。しかし、実際は、スライス片に塩分が万遍なく浸透している訳ではなく、深さ0~dmmに集中的に凝縮されている。(深さd~10mmに塩分は存在しない)

    ここで、深さ0~dmmにおける体積あたりの塩分量(C')を求めると、以下のようになる。

    すると、以下のグラフが得られ、算出が可能となる。(C'は、0~dの平均にプロット)

    C'塩分量(kg/m3)

    d

    0

    深の

    らか

    面ト

    ーリ

    クン

    コ)

    mm (

    2d

    3d

    4d

    0

    無塗布 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

    ■ 標記の数値は、塩化物イオンの拡散係数(×10-8cm2/s)を表す。■ は、表面含浸材の浸透範囲。網掛けの範囲は、表面含浸材が浸透していない未改質層。

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m9 .2=

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m6.1=

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m9.2=

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m4.2=

    0.10

    2.7

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m5.1=

    さ深

    透浸

    材浸

    含面

    表m

    m6.6 =

    2.7

    2.7

    1.9

    0.03

    コンクリート表面

    さ深

    のら

    か面

    表)

    mm(

    2.7

    2.7891011

    12

    7

    2.32.1

    0.14

    2.72.7

    3456

    環境 Co かぶり 無塗布 No.1 No.2 No.3 No.4 No.5 No.6

    7cm 10 10 10 12 12 10 25

    9cm 17 17 17 19 19 17 33

    7cm 13 13 13 15 15 13 32

    9cm 21 21 21 23 24 21 42

    7cm 24 24 24 28 29 24 62

    9cm 39 39 39 44 45 39 82

    ■ Coは、コンクリート表面における塩化物イオン濃度(kg/m3)

    かぶり位置の塩分が1.2kg/m3に到達する年数計算条件

    4.5

    飛沫帯

    汀線付近

    海岸から100m

    13.0

    9.0

    図-13 本報での体積あたりの塩分量の算出フロー

    図-14 拡散係数算出結果

    表-6 塩化物イオン濃度1.2kg/m3到達年数試算結果

    写真-7 増毛暴露実験場での暴露状況

    寒地土木研究所月報 №640 2006年9月 19

  • ーリングの進行を抑える効果は見受けられなかった。

    (5)室内試験にてスケーリング抵抗性を評価する際は、室内促進試験と自然環境下との間に存在する環境の苛酷さの違いに対する配慮が必要である。

    (6)室内試験より、水中に常時浸っている部材、過剰な凍結水圧によって外部から水が圧入される環境にある部材については、その影響により表層に形成されている吸水防止層が薄板状に剥がれる恐れのあることがわかった。

    (7)室内試験では、スケーリング抵抗性と遮塩性との間に密接な関係があった。

    (8)塩分の含浸深さが極めて浅い、表面含浸材を施工したコンクリートの塩化物イオン拡散係数を算出する方法を提案した。

    (9)遮塩性は、吸水防止層の品質に加え、吸水防止層が形成されている深さも大きく影響する。

    謝辞:本調査、試験に際して、アトミックス㈱、荒井建設㈱、カジマリノベイト㈱、住友精化㈱、ダイキン工業㈱、日本ペイント㈱(50音順)からは表面含浸材の提供、施工でご協力いただきました。また、試験フィールドの現場の提供、冬期環境の調査にあたっては、釧路開発建設部釧路道路事務所、網走開発建設部網走道路事務所、稚内開発建設部枝幸道路維持事業所の関係各位に大変お世話になりました。末筆ではありますが、ここに謝意を表します。

    参考文献

    1)例えば、北海道土木技術会コンクリート研究委員会:北海道におけるコンクリート構造物維持管理

    の手引き(案)、コンクリート維持管理小委員会報告書、pp. 9-15(2章)、2006. 3

    2)遠藤裕丈、田口史雄、嶋田久俊:スケーリング劣化の予測に関する基礎的研究、コンクリート工学年次論文集、Vol.27、No. 1、pp.733-738、2005

    3)林大介、守屋進、杉田好春:各種浸透性コンクリート保護材の性能に関する実験的検討、土木学会コンクリートの表面被覆および表面含浸に関するシンポジウム論文集、pp.45-54、2004. 2

    4)凍結防止剤の基礎知識、p. 3、開発土木研究所交通研究室、1994.11

    5)コンクリートの表面含浸材について(Q&A)、北海道開発土木研究所月報、No.632、pp.34-41、2006. 1

    6)American Society for Testing and Materials:Standard test method for scaling resistance of concrete surfaces exposed to deicing chemicals, ASTM Standard C 672

    7)小林豊治、米澤敏男、出頭圭三:コンクリート構造物の耐久性診断シリーズ3「鉄筋腐食の診断」、pp.181、森北出版、1993. 5

    8)土木学会:コンクリート表面被覆および表面改質技術研究小委員会報告、コンクリート技術シリーズ68、pp.176、2006. 4

    9)土木学会:コンクリート標準示方書維持管理編、pp.99、2001. 1

    遠藤 裕丈*

    寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ耐寒材料チーム研究員

    田口 史雄**

    寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ耐寒材料チーム上席研究員技術士(建設)

    谷本 俊充***

    国土交通省北海道開発局旭川開発建設部道路第2課課長(前 建設部道路維持課開発専門官)

    小野 俊博****

    国土交通省北海道開発局建設部道路維持課開発専門官

    20 寒地土木研究所月報 №640 2006年9月