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修士論文 ウイリアムズ症候群の発達特徴と視空間認知特徴 に対する調査 Study of developmental characteristics and visuospatial cognition in patients with Williams syndrome 札幌医科大学大学院保健医療学研究科 博士課程前期 理学療法学・作業療法学専攻 発達障害科学分野 本間 朋恵 Honma Tomoe

ウイリアムズ症候群の発達特徴と視空間認知特徴 に …FISH(fluorescence in situ hybridization)法を用いた遺伝子欠失の同 定によって診断が確定される.

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修士論文

ウイリアムズ症候群の発達特徴と視空間認知特徴

に対する調査

Study of developmental characteristics and visuospatial

cognition in patients with Williams syndrome

札幌医科大学大学院保健医療学研究科 博士課程前期

理学療法学・作業療法学専攻 発達障害科学分野

本間 朋恵 Honma Tomoe

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1 . はじめ に

1-1 . 研 究 背 景

ウイリアムズ症候群(以下,WS)は,1961 年に Williams らが報告し

た症候群で,臨床症状は幼児期からの成長障害,精神発達遅滞,特有の

顔貌,社交的な性格,大動脈弁上部狭窄症などである.1993 年には第7

染色体長腕 11.23 領域に位置するエラスチン遺伝子を含む約 20 の遺伝子

欠失が原因の隣接遺伝子症候群であることが判明し 1),出生率は 2 万人

に 1 人であるとされる.診断に至る経緯としては,新生児期に心雑音が

聴取され,1 歳前後で精神発達遅滞を主訴に受診することが多く 1) 2),

FISH(fluorescence in situ hybridization)法を用いた遺伝子欠失の同

定によって診断が確定される.

本邦における自然歴の調査では,森本ら 3) は 2 歳から 21 歳の 36 名に

対し医学的所見や発達歴,行動特徴などについて質問紙を用いて保護者

からの回答を得ている.その結果,共通する臨床症状は低身長,特徴的

な顔貌,心血管系異常であり,乳児期早期には筋緊張低下や物音に過敏

であることが多く,独歩や初語の開始が遅れ,知能指数(以下,IQ)また

は発達指数(DQ)は平均 60 であることが示された.この調査は医学的所見

のみならず,療育・教育状況を含めた広範囲にわたる本邦唯一の報告で

ある.これによりWSのおおよその発達経過がとらえられたため,次の

段階として諸能力の発達を詳細に評価することが課題として考えられた.

WSの認知特徴について Bellugi ら 4 )は,知的能力にかかわらず模写

や自由描画,積木構成などの視空間認知課題の成績が低く,言語表出や

相貌認知の成績は高いといった特徴的なパターンを示めすと報告してい

る.特に「なぞり書きができても模写はできない」 5 ),「書けないひらが

なや漢字がある」6 )などの視空間認知障害を示し,学習面で不利益を引き

起こすことが明らかとなっているため早期から作業療法による評価・治

療的介入が必要とされる.

このような視 空間認知 障害を引 き起こす 原因とな っているの は約 20

の遺伝子欠失であるが,これらの遺伝子のうち表現型と一致しているの

はエラスチン遺伝子のみである.このエラスチン遺伝子は,結合組織の

タンパク質に関わっており,WSの症状である大動脈弁上部狭窄症,成

長障害,特有の顔貌の原因と考えられている 7 ).一方,視空間認知障害

に関する遺伝子についてはいくつかの遺伝子 が推定 8 , 9 , 1 0 )されているが

同定されていない.そのため,WSの視空間認知機能の特徴を明確にす

ることは遺伝学的にも有用な示唆を提供するものであると考える.

1-2 . 先 行 研 究

1-2-1 . ウイリアム ズ症 候 群 の乳 ・幼 児 期 発 達 に関 する研 究

発達特徴について Carrasco ら 1 1 )は乳・幼児期および青年期の 32 名(1

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カ月から 15 歳 11 カ月)を対象に両親からの情報をもとに発達状況の調査

を行った.その結果,独歩や有意味語の獲得が顕著に遅れることや見知

らぬ人に対する警戒心のなさ,鉛筆の使用やパズルを好まないなどの特

徴を示すことを報告した.また,Plissart ら 1 2 )は生後 5 カ月から 48 カ

月までの発達指標の調査を 14 名の対象者に行い,両親からの情報や観察

による評価から,積木の積み上げやなぐり書きなどの巧緻運動発達が,

座位や歩行などの粗大運動発達よりも顕著に遅れることを報告した.し

かし,これらの発達に関する報告は健常児との比較において運動や言語

能力の遅れがあることを指摘しているが,WS児の各個人内での能力間

を比較しているものではない.個人内での能力において得手不得手があ

るのかを調査することにより,遅れのある領域に応じた援助につなげる

ことができると考える.また,WSの認知特徴とされている視空間認知

機能の低さがいつごろから顕在化するのかについては明らかではないが,

これらの先行研究で指摘されている運動や言語能力の遅れと関連する可

能性はあると考える.したがって,早期から適切な支援を行うためには

発達の偏りの程度や視空間認知機能の低さが顕在化する時期について指

標を立てる必要があると考える.

1-2-2 . ウイリアム ズ症 候 群 の視 空 間 認 知 機 能 に関 する研 究

視空間認知機能の評価法としては,視空間短期記憶課題や構成課題に

よる検討がなされている.Nakamura ら 1 3 )は K‐ABC 心理・教育アセスメ

ントバッテリー 1 4 )(以下,K‐ABC)を 5 名(6 歳 3 カ月から 10 歳 8 カ月)に

行い,視空間情報の短期記憶にかかわる下位項目である「位置さがし」の

成績が有意に低いことを報告した.さらに短期記憶課題の検討について

Vicari ら 1 5 )は 13 名 (5 歳 3 カ月から 10 歳 4 カ月)を対象に位置記憶と形

態記憶の成績を比較し,その結果,形態記憶は精神年齢を一致させた健

常児と同程度の成績であるが,位置記憶の成績は明らかに低いことを報

告した.これらのことによりWSの視空間短期記憶には障害があると考

えられている.構成課題による検討からは, WISC-R の下位項目である

「積木模様」において,各々の積木の色はモデルと同じであるが,積木

を全体のまとまりとして構成することはできず断片的であることが指摘

されている 1 6 ).また,図形模写課題を用いた検討でも各々の幾何学図形

を模写することはできるが,それらを組み合わせた図形を模写すること

はできないと指摘されている 1 7 ).これらの積木や図形をモデルと同じく

構成する課題では,部分的な構成はできるがそれらの関連された配置は

困難であると考えられている.

このような視空間認知障害を引き起こしている脳の構造または機能の

異常について,核磁気共鳴機能画像法(functional magnetic resonance

imaging ; fMRI)による検討が行われている.Meyer-Lindenberg ら 18 )

は知能の遅れがない 13 名(年齢 28.32±9.6 歳)に対して,図形の形態と

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位置を判別する課題を行い健常者と比較している.その結果,頭頂部の

活動性の低下と灰白質の減少が示され,この領域の構造変化のために機

能異常が生じていることが示唆された.視覚情報の処理経路は霊長類で

は後頭葉から側頭葉に向かう形態情報の経路(視覚腹側経路)と,後頭葉

から頭頂葉に向かう位置情報の経路(視覚背側経路)があると推定されて

いる 1 9 ).WSの視覚腹側経路は健常者と同程度の活性化を示すが,視覚

背側経路には明らかな活性化の低下がある 1 8 )ことから空間内での位置

を処理する過程に機能異常が生じていると推定されている.また,錯視

図を用いた事象関連電位による検討からもWSの視覚処理機能の異常が

指摘されている.Grice ら 2 0 )はWSが錯覚四角形の輪郭を知覚でき指で

なぞることもできるが健常者の振幅とは明らかに異なることを示してい

る.これらの先行研究によりWSは視空間情報を記憶する能力や構成部

品を空間内に配置する能力が障害を受けており,その背景に脳機能の異

常の関与が推定された.しかし,すべてのWSが同程度の知的能力を示

すわけではなく,全般的な IQ には 40 から 90 の幅があることが報告され

ている 1 6 ).したがって個々の知的能力に合わせた教示方法を提供するた

めには障害程度を適切に評価する方法が必要になると考える.

1-3 . 研 究 目 的

本研究の目的は,1)WSの日常生活場面での発達状態の特徴を分析す

ること,2)視空間認知障害の特徴を本邦で標準化された検査を用いて追

試すること,3)先行研究を参考にして我々が考案した検査課題を用いて

視空間認知障害の特徴を分類することとした.

1-4 . 研 究 の意 義

本研究では,WSの発達特徴と視空間認知特徴の分類により障害像を

明確にすることができ,支援方法を確立する上で有用な知見が明らかに

なると考える.

1-5 . 研 究 の内 訳

上記の研究目的に対応する 4 つの研究を以下に述べる(図 1).研究 1では日常生活場面での発達状態の特徴を分析するために,KIDS 乳幼児発

達スケール 2 1 )(Kinder Infant Development Scale 以下,KIDS)と両親に

対する質問紙による発達状態の調査を行った.研究 2 では本邦で標準化

され,認知能力を把握する尺度として広く使用されている日本版 WISC‐

Ⅲ知能検査法 2 2 ) (以下,WISC-Ⅲ)と,認知処理過程の発達的特性を評価

できるとされる K‐ABC を用い,WSにおける認知障害の共通性を分析し

た.研究 3,研究 4 では先行研究で障害特性が検出されている視空間短

期記憶と構成能力の問題に対しての検討を行った.研究 3 では,考案し

た視空間短期記憶の課題を用いて視空間情報の判別と記憶についての検

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討を行った.研究 4 では 3 種類の標準化された検査に含まれている積木

構成課題を用いて積木モデルの再生能力について比較検討を行った.

2 . 対 象

臨床的にWSが疑われ,FISH 法にて第7染色体長腕 11.23 領域に欠失

を示し,WSと診断された症例を対象とした.対象者は筆者が作業療法

を実施している症例,札幌医科大学小児科から紹介していただいた症例,

親の会を通じて紹介していただいた症例である.研究への協力依頼は,

保護者に直接連絡した後,研究内容についての説明文(添付資料 1「ウイ

リアムズ症候群の視知覚に関する評価」について)を郵送し依頼した.ま

た,評価実施日に再度研究の目的や内容について説明し,保護者から評

価に対する同意をいただき,同意書(添付資料 2)に記載していただいた.

研究 1 の対象者(表 1-1)は 3 歳 8 カ月から 6 歳 0 カ月の未就学児 6 名(男

児 2 名,女児 4 名)で,心血管系異常は全症例に認められた.また,心血

管系の検査や発育状況については全症例が定期的に小児科医または遺伝

専門医による診察を受けていた.WSの特徴の一つとされている聴覚過

敏は 2 名で認められ,1 名では過去はみられたが現在は認められていな

かった.療育状況については 5 名が運動発達の遅れなどを改善する目的

で各種療法を受けていた.そのうち,作業療法を受けている者は 4 名で

あった.教育状況については全症例が保育園または幼稚園に通園してお

り,同年代の子どもとのかかわりをもっていた. 研究 2~4 の対象者(表 1-2)は 6 歳 0 カ月から 12 歳 8 カ月の 6 名(男児

1 名,女児 5 名)で,就学状況については 5 名が通常学級または特殊学級

に在籍して教育的支援を受けており,1 名は保育園に通園していた.ま

た,医療的支援では全症例が定期的に小児科医または遺伝専門医による

診察を受けていた.療育状況については作業療法を受けている者は 2 名,

過去受けていた者は 1 名であった.作業療法以外に継続して療育指導を

受けている者はいなかった.明らかな肢体不自由を伴う者はなく,全症

例が机上検査の実施が可能であった.

なお,倫理的配慮として対象者の保護者に対し,研究の目的,方法,

個人情報の保護,同意の撤回に関する事項を文書および口頭にて説明し,

同意書に署名が得られた者のみを対象者とした.(添付資料 1,2)

3 . 使 用 検 査 および分 析 方 法

3-1 . 研究 1:K IDS 乳 幼 児 発 達 スケールと両 親 に対 する質 問 紙 による発 達 状

態 の調 査

3-1-1 . K IDS 乳 幼 児 発 達 スケール

日常生活場面から子どもの行動や発達状態をスクリーニングできると

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される KIDS のタイプC(3 歳 0 カ月~6 歳 11 カ月用)を用いて発達状態の

評価を行った.質問領域は①運動,②操作,③言語理解,④言語表出,

⑤概念,⑥対子どもとの社会性,⑦対成人との社会性,⑧しつけの 8 領

域である.各領域における評価内容は,運動領域は粗大運動,操作領域

は手指の巧緻動作,言語領域は理解と表出に分けて質問項目が構成され

ている.また,概念領域は事物の共通性や異質性を言語によって表現す

る能力,社会性領域は親子関係と子ども同士の関係,しつけ領域は身辺

動作の自立や規則に従い生活する能力についての質問項目である.評価

の仕方については,両親に○×式で回答していただき,KIDS マニュアル

に従い○の数から総合発達年齢と領域別発達年齢を算出した.また,両

親が質問項目に対して○×の判断を決めかねた場合は著者が子どもの動

作観察を行い判断した.さらに,本研究では症例ごとの KIDS の領域間で

の能力差を分析対象とした.具体的には症例ごとに総合発達年齢を基準

として,総合発達年齢と領域別発達年齢との差(以下,個人内差)を算

出し,この個人内差が総合発達年齢よりも高く示されるか低く示される

かを判定した(図 2-1).このようにして領域間での得手不得手を調査し

た.

3-1-2 . 行 動 発 達 状 況 に関 する質 問 紙 対象者の両親に対し,著者が作成した質問紙を用いて,子どもの行動

発達や得意または苦手なことについて自由に記載していただいた.さら

に,寝返り,座位,四つ這い,立位,独歩の獲得時期についても回答を

いただいた(添付資料 3).質問紙の記載内容については著者が面接し具

体的状況の確認を行った. 3-2 . 研 究 2:W IS C ‐Ⅲと K ‐ABC による認 知 障 害 の共 通 性 の分 析

3-2-1 . W IS C ‐Ⅲによる知 的 能 力 の評 価

WISC‐Ⅲはすべての下位検査を実施し,得点をマニュアルに従い評価

点に変換し,全 IQ,言語性 IQ,動作性 IQ および言語理解,知覚統合,

注意記憶,処理速度の 4 つの群指数を算出した.全 IQ は全体的知的水準

を示す指標であり,言語性 IQ は言語を通して発揮される能力,動作性

IQ は非言語的な活動を通して発揮される能力である.また,群指数は下

位検査を因子により分類したもので 4 つの因子で構成される.言語理解

因子は知識,類似,単語,理解の 4 項目,知覚統合因子は絵画完成,絵

画配列,積木模様,組合せの 4 項目,注意記憶因子は数唱,算数の 2 項

目,処理速度因子は符号,記号探しの 2 項目である.これらの IQ および

群指数の値は対象者が属する年齢における相対的な位置を示している.

本研究では症例ごとの下位検査間での能力差を分析対象とした.具体的

には症例ごとに下位検査の評価点から平均値(以下,評価点平均)を算

出し,その値を基準として各下位検査の評価点との差(以下,個人内差)

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を算出した.この個人内差が評価点平均よりも高く示されるか低く示さ

れるかを判定(図 2-2)することで,下位検査間での得手不得手を調査し

た.

3-2-2 . K ‐ABC による情 報 処 理 過 程 の評 価

K‐ABC の下位検査は 14 項目であるが,本研究では認知処理過程尺度

に分類される継次処理尺度の「手の動作」「数唱」「語の配列」の 3 項目,

同時処理尺度の「絵の統合」「積木の模様」「視覚類推」「位置さがし」の

4 項目,計 7 項目を行った.同時処理尺度には他に「魔法の窓」「顔さが

し」が含まれるが検査適用年齢を超えているため実施していない.下位

検査の得点はマニュアルに従い評価点に変換し,継次処理尺度と同時処

理尺度のそれぞれの標準得点を算出した.さらに本研究では WISC-Ⅲと

同様に個人内差を算出し,下位検査間での得手不得手を調査した.

3-3 . 研究 3:視 空 間 短 期 記 憶 の課 題 を 用 いた視 空 間 情 報 の判 別 と記 憶 につ

いての検 討

視空間情報の処理能力を短期記憶の有無により比較検討するために 2 種

類の課題を設定した(図 2-3).短期記憶を必要とする課題として K‐ABC

「位置さがし」を用いた.この課題は絵の位置を記憶し,次ページのマ

ス目のうちどこに絵があったかを指差しで再生する課題である.また,

短期記憶を必要としない課題として K‐ABC「位置さがし」を参考に,絵

を○印に代えて作成した課題(以下,図形位置判別課題) を用いた.この

課題はマス目の中の○印がどの位置にあるか判別する能力をみるために

作成したものである.そこで K‐ABC「位置さがし」で用いられている絵

柄では各々の絵が異なり注意が不均等になると考え,絵を○印に代える

ことで視空間情報を等質にした.また,図形位置のモデルを見ながら課

題を行ってもよいことを対象者に説明した.これら 2 種類の課題は絵ま

たは○印の位置が同じ各 8 項目とし,課題正答数を個人内で比較した.

3-4 . 研 究 4:3 種 類 の積 木 構 成 課 題 による再 生 能 力 の比 較

3 種類の標準化された検査に含まれている積木構成課題(図 2-4)を用い

て,構成部品を配置し再生する能力の比較を行った.用いた課題は 1)デ

ザイン構成として WISC‐Ⅲ「積木模様」を用いた.この課題は赤面,白

面,赤と白が斜めに色分けされた面をそれぞれ 2 面ずつもつ積木を用い

て,モデルと同じデザインに構成する課題である.また,2)三角形構成

として K-ABC「模様の構成」を用い,両面の色が異なる三角形のピース

をモデルと同じに構成する課題を行なった.さらに,3)立体構成として

日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査 2 3 ) (以下,JMAP)の「積み木構

成」を用い,木製積木をモデルと同じに立体的に積み上げる課題を行っ

た.これら 3 種類の課題における構成の仕方を症例間で比較した.

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4 . 結 果

4-1 . K IDS による発 達 状 態 の調 査 結 果 について

KIDS の総合発達年齢では,症例1は暦年齢相応であったが,他の 5 名

は暦年齢から1歳以上の遅れがあった.領域別発達年齢は,暦年齢から

の遅れが「運動」は平均 16 カ月,「操作」は平均 15 カ月,「言語理解」

と「言語表出」は平均 18 カ月,「概念」は平均 19 カ月,「対子どもとの

社会性」は平均 13 カ月,「対成人との社会性」は平均 9 カ月,「しつけ」

は平均 6 カ月であった (表 2-1).

症例ごとの総合発達年齢を基準とした個人内差のパターン(図 3-1)で

は,「概念」は全症例で総合発達年齢よりも領域別発達年齢が低く,「運

動」,「言語理解」は 6 名中 5 名で,「操作」,「言語表出」は 6 名中 4 名で,

総合発達年齢よりも領域別発達年齢が低かった.一方,「しつけ」は 6 名

中 5 名で,「対成人との社会性」は 6 名中 4 名で総合発達年齢よりも領域

別発達年齢が高かった.「対子どもとの社会性」は総合発達年齢よりも高

い者と低い者がそれぞれ 3 名ずつであった.また,症例間での個人内差

を比較すると 3・4 歳の症例(症例 1,2,3) は個人内差の幅が狭く,5 歳の

症例(症例 4)は「しつけ」だけが高かった.さらに,6 歳の症例(症例 5,6)

では個人内差の幅が広く,「対成人との社会性」と「しつけ」の領域は総

合発達年齢よりも高く,「言語理解」,「言語表出」,「概念」の領域は総合

発達年齢よりも低いことが示された.

KIDS の質問項目に対する達成度(表 2-2)では,「運動」領域において,

全症例が「転がっているボールを捕まえること」ができるが,「片足ケン

ケン」は 6 歳の症例 5 のみが,「5 秒間片足立ち」は 5・6 歳の 2 名(症例

4,5)が獲得していた.「操作」領域では「ハサミで紙を直線に切る」こと

は 3 歳(症例 1)と 5・6 歳(症例 4,5,6)の 4 名,「十字の模写」は 5・6 歳

の 3 名(症例 4,5,6),「人物画」は 6 歳の 2 名(症例 5,6)が獲得していた.

「言語」領域は「物品の用途の理解」「童謡の一文を記憶」はそれぞれ 5

名が獲得しており,「自分の名前の文字理解」は 6 歳の 2 名(症例 5,6)が

獲得していた.また,「遊びながらよくしゃべる」,「絵本を見ながらよく

しゃべる」ことが全症例に認められたが, 4・5 歳の 3 名(症例 2,3,4)

では同年齢の子どもとの会話に困難を示した.「概念」領域では「汚 い ・

きれい」「良い・悪い」の理解ができないものが 3・4 歳の各 2 名(症例

1,2,3)に示された.「社会性」領域では「自分で作ったものをみせたがる」

ことや「ほめられようとする行動」をすることが症例 3 以外の 5 名,「初

対面の人に自分から挨拶」することが症例 4 以外の 5 名に示された.ま

た,「順番待ち」,「ごっこ遊び」は 5・6 歳の 3 名(症例 4,5,6)が獲得し

ていた.「しつけ」領域では「パジャマへの着替え」が自立している者は

4・5・6 歳の 4 名(症例 2,4,5,6),「歯磨きの自立」,「入浴後に体を自分

で拭く」ことができる者は 3 歳(症例 1)と 5・6 歳(症例 4,5,6)の 4 名で

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あった.また,「食後の後かたづけを手伝う」者は症例 3 以外の 5 名であ

った.

4-2 . 行 動 発 達 に関 する質 問 紙 の結 果 について

両親により回答された対象者の行動を,粗大運動に関すること,巧緻

動作に関すること,言葉の理解や会話に関することに分類した(表 2-3).

粗大運動に関することについては,4 名(症例 1,2,5,6)は階段や平均台の

ような姿勢保持を必要とする歩行に困難を示した.巧緻動作に関するこ

とについては,年齢の低い 4 名(症例 1,2,3,4)は積木やはさみ,スプー

ンのような物品を操作することに困難を示した.言葉の理解や会話に関

することについては,年齢の低い 3 名(症例 1,2,3)は大小や色名を理解

しておらず,他者との会話を成立させることに困難を示した.

粗大運動の発達歴(表 2-4)では,寝返り 5~9 カ月,坐位 10~ 12 カ月,

四つ這い 8~14 カ月,立位 12~24 カ月,独歩 22~ 28 カ月でそれぞれの

発達課題を獲得していた.座位以降の遅れが顕著であり,立位の獲得に

20 カ月以上要する者は 4 名(症例 1,2,3,5)であった.また,症例 4.6 は

立位を獲得する時期は他の症例と比較すると早いが,その後独歩を獲得

するまでに症例 4 は 8 カ月,症例 6 は 15 カ月も要していた.

4-3 . W IS C -Ⅲによる知 的 能 力 の特 徴 について

WISC-Ⅲの各 IQ および群指数の値(表 2-5)は,全 IQ は 40 未満から 70

で症例間の幅があり,全症例において言語性 IQ よりも動作性 IQ の方が

低値であった.特に,症例 9,10,11 の 3 名では WISC-Ⅲマニュアルを参

照とした結果,言語性 IQ と動作性 IQ の差が有意であった(p<0.05).ま

た,群指数では症例 7,9,10,11 の 4 名は知覚統合指数が最も低いが,症

例 8 は群指数間の差はみられず,症例 12 では数値が低すぎることにより

判定が不可能であった.

WISC-Ⅲの各下位検査の評価点(表 2-6)では-3 標準偏差にあたる 1 点

が全体の約 3 分の 1 を占めていた.また,評価点平均は症例 11 が最も高

い 6.2 で,症例 12 が最も低い 1.5 であった.

症例ごとの評価点平均を基準とした個人内差のパターン(図 3-2)では,

動作性課題である「絵画配列」で全症例が,同じく動作性課題の「積木

模様」「符号」で症例 7 以外の 5 名が評価点平均よりも評価点が低かった.

一方,言語性課題である「理解」は症例 12 以外の 5 名が評価点平均より

も評価点が高かった.

4-4 . K -ABC による情 報 処 理 過 程 の特 徴 について

K-ABC の各下位検査の評価点(表 2-7)は-2 標準偏差にあたる 4 点未満

が多く,特に症例 7,10,12 の 3 名では 7 項目中 6 項目が 4 点未満であっ

た.また,評価点平均は症例 11 が最も高い 7.1 で,症例 12 が最も低い

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1.9 であった.継次処理尺度と同時処理尺度の尺度間比較を K-ABC マニ

ュアルを参照に行ったところ,症例 7 と症例 10 の 2 名は継次処理尺度が

有意に高かった(p<0.05).

症例ごとの評価点平均を基準とした個人内差のパターン(図 3-3)では,

同時処理尺度である「位置さがし」で全症例が,「絵の統合」で症例 11

以外の 5 名が評価点平均よりも評価点が低かった. 4-5 . 視 空 間 短 期 記 憶 の有 無 による課 題 正 答 数 の比 較 について

K‐ ABC「位置さがし」と図形位置判別課題の正答数の比較 (図 3-4)で

は,症例 11 は両課題とも全 8 項目正解であったが,症例 8 は両課題とも

課題内容の理解が困難であり,その他の 4 名では「位置さがし」の正答

数の方が少なかった.図形位置判別課題では症例 8 以外は全 8 項目また

は 7 項目が正解であった.図形位置判別課題の正誤(図 3-5)では各々

のモデルに対して正しく再生できたものは○印で,間違えたものは×印

で示した.症例 7,10,12 の 3 名は 1 項目ずつ間違えており,図形の数は

正しかったがそれらの位置関係を正確に再生することはできなかった.

また,間違いを示したモデルは図形同士の関係が斜めに位置し,縦また

は横に隣接していない配置であった.

4-6 . 3 種 類 の積 木 構 成 課 題 における再 生 能 力 の比 較 について

各積木構成課題のうち 5 項目における症例ごとの構成の仕方(図 3-6)

では,各々のモデルに対して正しく構成できたものは○印で,全く構成

できなかったものは×印で示した.年齢の低い症例 6,7 は特に構成が困

難であり,症例 10 はまとまった形にならず断片的な構成の仕方であった.

3 種類の課題を比較すると三角形構成は比較的構成できていたが,デザ

イン構成では最も多く間違いが示され,特に症例 9,11,12 は赤と白が斜

めに色分けされている積木で方向の間違いを示していた.また,立体構

成では構成が可能な者と困難である者の差が示された. 5 . 考 察

5-1 . ウイリアム ズ症 候 群 における発 達 の偏 りについて

WSの発達の偏りについて KIDS を用いて調査したところ,総合発達年

齢が暦年齢から1歳以上遅れている者は 5 名認められ,対象者の全般的

な発達には遅れが認められた.しかし,領域間での能力差では,「運動」

「操作」「言語」「概念」の領域の低さに比べ,「対成人との社会性」「し

つけ」の領域は高い傾向を示したことから,運動発達や言語発達の遅れ

が大きいにもかかわらず,社会性や身辺動作の自立は比較的保たれると

いう発達の偏りが示された.また,症例間での能力差については 6 歳ご

ろに能力間の開きが大きくなり,社会性や身辺動作の自立の高さと言語

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10

発達の低さが顕著になる可能性が推測された.このような運動発達や言

語発達の遅れを示すことは Plssart ら 1 2 )と同様の結果であったが,さら

に本研究では 3・4 歳の症例の中には姿勢保持能力の未熟さやはさみ,ス

プーンなどの物品操作に困難性を示しながらも着替え,歯磨き,洗体な

ど協調した動作を行っており,自立心の高さを示す者もいた.また,言

語 発 達 に 遅 れ を 示 す が 社 会 性 が 比 較 的 保 た れ て い る こ と に つ い て は

Carrasco ら 1 1 ) や Mervis ら 2 4 )も同様の指摘をしており,本研究でも積

極的に他者へ働きかけるという社会的場面への関心の高さが伺えた.し

かし,対成人との社会性においては自分からかかわろうとする行動を多

く示すのに対し,対子どもとの社会性では同年齢の子どもとの相互交渉

に困難を示す者がいた.このことから,自分の意思を伝え,相手の行動

を解釈する能力が未熟で,対等な子ども同士の関係を築くことが困難で

あると考えられた.また,言語発達を阻害している要因について Philips

ら 2 5 )は空間を表す言葉(大きい,高いなど)の理解が劣ることを報告し,

視空間認知機能が言語理解と相互に関係していることを指摘している.

これより,言語発達の顕著な低さが示された 6 歳ごろでは,WSの認知

特徴である視空間認知障害が表面化してくる可能性が推測された.また,

言語発達以外の諸機能とも視空間認知機能は相互関係があると考えられ,

運動発達との関連について次に考察する.

5-2 . 運 動 発 達 の遅 れと視 空 間 認 知 機 能 との関 連 について

粗大運動発達では座位,立位,独歩の獲得時期が遅れることから姿勢

保持能力の未熟さが示された.このような遅れを生じさせる原因として

乳幼児期に示される筋緊張低下 3 , 2 6 )が抗重力活動の発達に影響している

と推測された.さらに,片足ケンケン,片足立ち,階段昇降,平均台歩

行のような狭い支持基底面に重心移動をして姿勢を保持する動作で困難

を示 す者 が多 くみ られ た. 特 に階 段昇 降に 困難 を示 すこ と につ いて は

Atkinson ら 2 7 )や Withers2 8 )も報告しており,さらに凹凸のある地面の歩

行,地面の色や模様に過剰な反応を示すことも指摘されている.このこ

とから地面の視覚的情報が粗大運動の発達に関与しており,WSでは視

覚的情報を適切に処理できないことが姿勢保持や移動能力の遅れを引き

起こしていると推測された.

巧緻運動発達では年齢の低い症例は積木,はさみなどの物品操作が困

難で,それにより鉛筆を操作することができず,描画の発達に遅れが生

じたと推測された.また,年齢の高い 6 歳の症例では模写,人物画など

の描画が獲得されており,物品操作の困難性も示されなくなったことか

ら,手指の巧緻動作は年齢の上昇とともに向上し,描画能力も向上を示

すと考えられた.しかし,Bertrand ら 1 7 )は幾何学図形の模写において 9・

10 歳のWSは 4・5 歳の健常児と同程度の図形模写能力を示すとしてお

り , 描 画 能 力 は 極 め て 低 い レ ベ ル に と ど ま る と 考 え ら れ た . ま た ,

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11

Nakamura ら 6 )は 9 歳の男児の漢字模写について,読むことができても正

しい配置で書くことは困難な形態があったことを報告しており,たとえ

運筆能力が向上しても図形同士の配置を正しく認知することは困難であ

ると考えられた.これらのことから粗大および巧緻運動発達の遅れと視

空間情報の認知とは相互関係があり,WSの視空間認知機能の低さが運

動発達に影響していると考えられた.

今後は同一症例の経年変化をみることにより,年齢の上昇と領域間で

の能力差の関係を確認する必要があると考える.また,作業療法を含む

各種療法士,保育・教育機関からもWSの行動発達や支援上の工夫など

について情報提供していただき,照合することも必要であると考えられ

た.

5-3 . W IS C ‐Ⅲと K ‐ABC による認 知 障 害 の共 通 性 について

WISC-Ⅲと K-ABC の下位検査の評価点は全体的に低く,対象者の知的能

力や情報処理能力の低さが示された.また,WISC-Ⅲの全 IQ に症例間の

能力差が示されことは Bellugi ら 4 )と同様であり,言語性 IQ よりも動作

性 IQ の方が低値であることは Searcy ら 2 9 )と同様であった.このことか

ら,先行研究で示されたWSの認知特徴を本研究で追認することが可能

であると考えられた.

下位検査間での能力差については,WISC-Ⅲでは「絵画配列」「積木模

様」「符号」の低さが示され,「積木模様」の低さは Bellugi ら 1 6 )と同様

であった.このうちの「絵画配列」「積木模様」は群指数では知覚統合指

数に含まれていることから,複数の断片を一つのまとまりに構成する能

力 3 0 )の低さを示すと推測された.また,「絵画配列」の低さは検査場面

で絵カードの並べ替えをせず強引に物語を作る者がいたことから,時間

的な順序の認識が困難であるだけでなく,登場人物の心理状態を推測す

る能力が劣る 1 6 )ことも影響していると考えられた.「符号」については

見本図形の頻回な確認やゆっくり丁寧に書く様子がみられ,課題処理に

時間を要したことで得点につながらなかったと考えられた.一方,「理解」

は高いことから社会的なルールの理解や言葉で表現する能力は比較的保

たれていると考えられた.これらのことから構成能力の低さが動作性 IQ

の低さに,言語理解の高さが言語性 IQ の高さに反映されたと考えられた.

K-ABC の下位検査間での能力差では「位置さがし」「絵の統合」の低さ

が示され,「位置さがし」の低さは Nakamura ら 1 3 )と同様であった.「位

置さがし」は絵の位置を記憶し再生する課題であるため,この項目の低

さは視空間情報を記憶する能力の低さを示すと考えられた.また,「絵の

統合」は部分的に欠けた絵を見てその絵の名称を答える課題であるため,

この項目の低さは断片をまとまりに統合する能力の低さを示すと考えら

れた.

これらのことから WISC-Ⅲ,K-ABC によって共通した認知パターンを評

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12

価できると考えられた.特に WISC-Ⅲ「積木模様」,K-ABC「位置さがし」

の低さは先行研究同様であることからWSの視空間認知機能の評価に有

効であると考えられた.

5-4 . 視 空 間 情 報 の判 別 と記 憶 について

K‐ ABC「位置さがし 」と図形 位置判別 課題の正 答数の比 較で,K-ABC

「位置さがし」の方の正答数が少ない 4 名は,位置情報を一時的に記憶

して再生することが困難であると推測された.このような短期記憶の問

題に対しては Vicari ら 1 5 )も位置記憶の成績が明らかに低いことを報告

している.また,図形位置判別課題での正答数の方が多いことから位置

情報の判別能力は位置記憶よりも保たれていると考えられた.これらの

ことから空間内での位置を一時的に記憶することは困難であるが,判別

する能力は比較的保たれていると推測された.しかし,モデルを見なが

ら課題を行っても図形の配置によっては間違いを示す者がいたことから

課題の難易度により判別が困難になる者もいると考えられた.このよう

な視空間情報の判別や記憶の困難性は視覚背側経路の機能異常と関係し

ていると推定されており 1 5 , 1 8 ),本研究でもこれを支持する結果であった.

しかし,両課題とも全項目正解する者と全項目不正解である者がおり,

症 例 間 の 能 力 に は 差 が あ る と 考 え ら れ た . こ の 能 力 差 の 背 景 と し て

Hirota ら 8 )は遺伝子の欠失領域の幅が狭い症例は課題成績が高いとして

おり,我々の症例においても欠失領域の幅の違いが成績に影響している

可能性があると推測された.

5-5 . 積 木 モデルの再 生 能 力 について

3 種類の積木構成課題の結果,Bellugi ら 1 6 )が報告しているような全

体を構成することができず断片的構成であるという特徴を示していたの

は症例 10 のみであった.また,デザイン構成が特に困難であることが示

され,全体を構成しつつ,内部のデザインにも注意を向けることは困難

であると推測された.これらのことから積木構成課題において断片的構

成の仕方を示すということは共通した特徴とは言い難いと考えられ,む

しろ内部のデザインを構成するための各部品の配置や方向に間違いを示

す傾向があると考えられた.このような内部のデザインの間違いについ

ては Hirota ら 8 )も遺伝子の欠失領域の幅が狭い症例で認められたとして

いる.また,Reiss ら 3 1 )は背景と前景を分離してとらえることが困難で

あることを,Farran3 2 )は斜線の知覚が困難であることを報告しており,

これらが構成課題の成績に影響すると指摘している.つまり,デザイン

内の赤と白の面積を分離してとらえることや,赤と白で斜めに色分けさ

れている積木の方向を判別することが困難であると推測された.これま

でに積木構成課題の成績が低いことは先行研究 4 , 3 3 , 3 4 )で報告されてきた

が,その原因について一致した見解は得られていない.本研究結果から,

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13

積木構成課題における構成の仕方として断片的構成をする者や,全体的

構成ができても内部のデザインには間違いを示す者など症例間の能力に

は幅があることが示された.

6 . まとめ

本研究結果からWSの発達特徴については,運動発達や言語発達の遅

れが大きいにもかかわらず,社会性や身辺動作の自立は比較的保たれる

という発達の偏りが示された.特に 6 歳ごろにはそれらの能力間の開き

が大きくなり,社会性や自律的生活能力の高さと言語発達の低さが顕著

になる可能性が推測された.視空間認知特徴については先行研究と同様

に WISC-Ⅲ「積木模様」,K-ABC「位置さがし」が低いという共通した認

知パターンが示された.さらに,これらの項目に関与する視空間短期記

憶と構成能力に対する検討では位置情報の記憶が困難であることや,構

成部品の配置や方向の間違いが示されたが,同時に症例間の能力差も認

められた.

7 . 今 後 の課 題

WSに対する作業療法としては,社会的行動に対する関心の高さや視

空間認知機能との相互関係を十分に考慮して,発達評価や粗大および巧

緻運動発達の促進を進めることが重要であると考えられた.また,6 歳

ごろに発達の偏りが大きくなる可能性が推測されたことから,同一症例

の経年変化を調査し,検証していくことが今後必要であると考える.視

空間認知特徴については WISC-Ⅲ,K-ABC などの標準化された検査により

共通した認知パターンが示されたが,症例間の能力には幅があると考え

られた.そのため,症例の能力に合わせた適切な支援につなげることが

できるよう,障害程度を評価する方法を確立する必要があると考える.

また,症例の能力に応じた教材が選択されるよう,保育・教育機関と連

携をとることが重要であると考えられた.

謝 辞

本研究を実施するにあたり,快く御協力していただいた対象者の方,

ご家族の方,対象者を紹介していただいた札幌医科大学医学部小児学講

座の富田英先生,北海道ウイリアムズ症候群家族会の皆様に心から感謝

致します.本論文を作成するにあたり,御指導を賜りました主任指導教

員の舘延忠助教授,副指導教員の仙石泰仁助教授に謹んで感謝致します.

また,研究遂行に際し,貴重な御助言をいただきました中島そのみ助手

に深く感謝致します.

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14

文 献

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目的1日常生活場面での発達状態の特徴を分析すること

研究1 KIDSと両親に対する質問紙による発達状態の調査

研究2 WISC-ⅢとK‐ABCによる認知障害の共通性の分析

研究3 視空間短期記憶の課題を用いた視空間情報の判別と記憶についての検討

研究43種類の積木構成課題による再生能力の比較

目的2視空間認知障害の特徴を標準化された検査を用いて追試すること

目的3考案した検査課題を用いて視空間認知障害の特徴を分類すること

発達特徴について

視空間認知特徴について

対象年齢3歳8カ月から6歳0カ月

対象年齢6歳0カ月から12歳8カ月

図1 研究の目的と方法

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1

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

運動

操作

言語理解

言語表出

概念

社会性対

ども

社会性対

成人

つけ

総合発達年齢よりも低い

総合発達年齢よりも高い

図 2-1 KIDS による個人内差の表し方

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2

-5

-4

-3

-2

-1

01

2

3

4

5

6

知識

類似

算数

単語

理解

数唱

符号

絵画完成

絵画配列

積木模様

組合

記号探

迷路

評価点の平均よりも低い

評価点の平均よりも高い

図 2-2 WISC-Ⅲの個人内差の表し方

症例ごとに下位検査の評価点から平均値(以下,評価点平均)を算出し,その値

を基準として各下位検査の評価点との差(以下,個人内差)を算出した.この個人

内差が評価点平均よりも高く示されるか低く示されるかを判定した.

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3

短期記憶を必要とする課題K-ABC 「位置さがし」

短期記憶を必要としない課題図形位置判別課題

図 2-3 視空間短期記憶の有無による課題設定

K‐ABC「位置さがし」は絵の位置を記憶し,次ページのマス目の

うちどこに絵があったかを指差しで再生する.図形位置判別課題は

マス目の中の○印がどの位置にあるかを指差しで再生する.

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4

WISC-Ⅲ 「積木模様」

デザイン構成 三角形構成

K-ABC 「模様の構成」

立体構成

日本版ミラー幼児発達スクリーニング検査

「積み木構成」裏

図 2-4 3 種類の積木構成課題

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5

総合

発達

年齢

と領

域別

発達

年齢

との

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

25

ども

の社

会性

の社

つけ

症例1:3歳8カ月

症例2:4歳8カ月

症例3:4歳11カ月

症例4:5歳10カ月

症例5:6歳0カ月

症例6:6歳0カ月

図 3-1 KIDS の個人内差

3・4歳の症例(症例 1,2,3) は個人内差の開きが小さいが,5歳の症例(症例 4)は「し

つけ」だけが高く,6歳の症例(症例 5,6)では個人内差の開きが大きいことが示された.

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6

-6

-5

-4-3

-2

-1

01

2

3

45

6

7

知識

類似

算数

単語

理解

数唱

符号

絵画完

絵画配

積木模

組合

記号探

迷路

症例7

症例8

症例9

症例10

症例11

症例12

言語性検査 動作性検査

評価

点平

均と

各評

価点

の差

図 3-2 WISC-Ⅲの個人内差

「絵画配列」が全症例で,「積木模様」「符号」が 5 名で評価点平均よりも

評価点が低かった.一方,「理解」は 5名が評価点平均よりも評価点が高かった.

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7

-4

-3

-2

-1

0

1

2

3

4

5

の動

の配

の統

の構

覚類

がし

症例7

症例8

症例9

症例10

症例11

症例12

平均

評価

点と

各評

価点

の差

図 3-3 K-ABC の個人内差

「位置さがし」が全症例で,「絵の統合」が 5 名で

評価点平均よりも評価点が低かった.

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8

0

1

2

3

4

5

6

7

8

位置さがし 図形位置判別課題

症例7

症例8

症例9

症例10

症例11

症例12

正答

(短期記憶が必要) (短期記憶を必要としない)

図 3-4 K‐ABC「位置さがし」と図形位置判別課題の正答数

症例 11 は両課題とも全 8 項目正解であるが,症例 8 は両課題とも課

題内容の理解が困難であった.その他の 4名は「位置さがし」の正答

数の方が少なかった.

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9

モデル

症例7 6歳0カ月 ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○

症例8 6歳6カ月 × × × × × × × ×

症例9 7歳8カ月 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

症例10 8歳8カ月 ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ○

症例11 8歳11カ月 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

症例12 12歳8カ月 ○ ○ ○ × ○ ○ ○ ○

図 3-5 図形位置判別課題の正誤

正しく再生できたものは○印で,間違えたものは×印で示した.

症例 7,10,12 の 3 名は 1 項目ずつ間違いを示した.

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10

モデル

症例7 6歳0カ月 ○ ○ × ○ ○ × × × ○ ○ ×

症例8 6歳6カ月 × × × × × ○ ○ × × × × ×

症例9 7歳8カ月 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

症例10 8歳8カ月 ○ ○ × ○

症例11 8歳11カ月 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

症例12 12歳8カ月 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

デザイン構成 三角形構成 立体構成

WISC-Ⅲ「積木模様」 K-ABC「模様の構成」 JMAP「積み木構成」

図 3-6 3 種類の積木構成課題における構成の仕方 正しく構成できたものを○,全く構成できなかったものを×で示した. 症例 10はまとまった形にならず断片的な構成の仕方であった.また、症

例 9,11,12 は赤と白が斜めに色分けされている積木で方向の間違いを示

していた.

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11

性別 年齢 心血管系異常 聴覚過敏 療育状況 教育状況

症例1 男 3歳8ヶ月 あり なし 過去に理学療法 保育園症例2 女 4歳8カ月 あり なし 作業療法,言語療法 幼稚園症例3 男 4歳11カ月 あり あり 作業療法 保育園症例4 女 5歳10カ月 あり なし 作業療法 保育園症例5 女 6歳0カ月 あり 過去にあり なし 保育園症例6 女 6歳0カ月 あり あり 作業療法 幼稚園

表1-1 研究1の対象者

性別 年齢 就学状況 療育状況症例7 女 6歳0カ月 保育園 なし症例8 女 6歳6カ月 特殊学級 作業療法

症例9 女 7歳8カ月 通常学級 作業療法症例10 女 8歳8カ月 通常学級 なし症例11 女 8歳11カ月 通常学級 過去に作業療法

症例12 男 12歳8カ月 特殊学級 なし

表1-2 研究2~4の対象者

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12

暦年齢 総合発達年齢 運動 操作 言語理解 言語表出 概念 対子どもとの社会性

対成人との社会性

しつけ

症例1 3歳8カ月 3歳6カ月 3歳2カ月 3歳2カ月 3歳4カ月 3歳7カ月 3歳3カ月 3歳9カ月 3歳7カ月 3歳9カ月

症例2 4歳8カ月 3歳3カ月 3歳2カ月 3歳0カ月 3歳4カ月 3歳1カ月 3歳1カ月 3歳2カ月 3歳3カ月 3歳7カ月

症例3 4歳11カ月 3歳3カ月 3歳1カ月 3歳0カ月 3歳2カ月 3歳3カ月 3歳0カ月 3歳9カ月 3歳5カ月 3歳3カ月

症例4 5歳10カ月 3歳11カ月 3歳6カ月 3歳10カ月 3歳7カ月 3歳4カ月 3歳6カ月 4歳0カ月 3歳9カ月 5歳8カ月

症例5 6歳0カ月 4歳11カ月 5歳0カ月 5歳0カ月 4歳3カ月 4歳3カ月 3歳11カ月 4歳10カ月 5歳8カ月 6歳2カ月

症例6 6歳0カ月 5歳0カ月 5歳0カ月 5歳4カ月 4歳5カ月 4歳6カ月 4歳5カ月 5歳1カ月 6歳8カ月 5歳8カ月

平均16カ月 平均15カ月 平均18カ月 平均18カ月 平均19カ月 平均13カ月 平均9カ月 平均6カ月

表2-1 KIDSの総合発達年齢と領域別発達年齢

暦年齢からの遅れ

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13

症例1 症例2 症例3 症例4 症例5 症例6

運動領域 3歳8ヶ月 4歳8カ月 4歳11カ月 5歳10カ月 6歳0カ月 6歳0カ月

・転がって動いているボールを捕まえることができる ○ ○ ○ ○ ○ ○

・片足ケンケンができる × × × × ○ ×

・片足で5秒間くらい立っていられる(動いてもよい) × × × ○ ○ ×

・ブランコに立ち乗りができる × × × ○ ○ ○

・スキップができる × × × × ○ ×

・ボールを3回ぐらいドリブルできる × × × × × ○

操作領域・ハサミで紙を直線に切る ○ × × ○ ○ ○

・まねて十字が書ける × × × ○ ○ ○

・人などを描く × × × × ○ ○

・自動車、花など思ったものを絵にする(それらしく見えればよい) × × × × ○ ○

・20ピースのジグソーパズルができる × × × × ○ ○

・経験したことを絵にする(それらしく見えればよい) × × × × ○ ○

言語理解領域・次の品物の用途がすべてわかる(くし・帽子・鏡・カップ・鉛筆) ○ ○ × ○ ○ ○

・何度も聞いた童謡などの一文を覚えている ○ ○ ○ × ○ ○

・10まで数えられる × ○ × ○ ○ ○

・ひらがなで書かれた自分の名前が読める × × × × ○ ○

・わからない字があるとたずねる × × × × ○ ○

言語表出領域・同年齢の子どもとふたりで会話ができる ○ × × × ○ ○

・見聞きしたことを親に話す × × ○ ○ ○ ○

・遊びながらよくしゃべる ○ ○ ○ ○ ○ ○

・絵本を見ながら楽しそうに一人でしゃべる ○ ○ ○ ○ ○ ○

・同年齢の子ども何人かで会話ができる ○ × × × ○ ○

概念領域・「汚い・きれい」 がわかる × ○ × ○ ○ ○

・「良い・悪い」 がわかる ○ × × ○ ○ ○

・「強い・弱い」 がわかる × × × × ○ ×

・「勝ち・負け」 がわかる × × × ○ ○ ○

・「右・左」 がわかる × × × × ○ ○

社会性(対子ども)領域・ブランコなど自分から順番を待つ × × × ○ ○ ○

・グループがひとつとなって、ごっこ遊びができる × × × ○ ○ ○

・小さい子の世話をする ○ × × × ○ ○

・おにごっこのルールがわかる × × × ○ ○ ○

・2~3人でないしょ話をする × × × × × ○

・ジャンケンで順番を決める × × × × ○ ○

社会性(対成人)領域・自分が作ったものを見せたがる ○ ○ × ○ ○ ○

・ほめられると、もっとほめられようとする ○ ○ × ○ ○ ○

・幼稚園や保育園の先生の指示に従う × × ○ ○ ○ ○

・いたずらをして叱られると次からやらない × × × × × ○

・初対面の人に自分からあいさつができる ○ ○ ○ × ○ ○

しつけ領域・自分でパジャマが着られる × ○ × ○ ○ ○

・自分で体を簡単に洗える × × × ○ ○ ○

・ジャンパーなどの上着を自分で着る × × × ○ ○ ○

・歯みがきを自分からやる ○ × × ○ ○ ○

・入浴後、体を自分で拭く ○ × × ○ ○ ○

・食器を洗い場へ持って行くなど、食事の後かたづけを手伝う ○ ○ × ○ ○ ○

表2-2 KIDSの質問項目の達成度 (一部のみ示す)

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症例1 3歳8ヶ月

症例2 4歳8カ月

症例3 4歳11カ月症例4 5歳10カ月症例5 6歳0カ月症例6 6歳0カ月

症例1 3歳8ヶ月

症例2 4歳8カ月

症例3 4歳11カ月

症例4 5歳10カ月症例5 6歳0カ月

症例6 6歳0カ月

症例1 3歳8ヶ月

症例2 4歳8カ月

症例3 4歳11カ月症例4 5歳10カ月

症例5 6歳0カ月症例6 6歳0カ月

人と会話することを好む。人との関わりが良く、他者と会話が成立する。他の子どもとしりとり遊びができる。

同じことを何度も繰り返し言う。会話の内容を理解しているようでいて理解していないことがある。大-小や色名の理解はできていない。

大-小、多い-少ないや色名の理解はできていない。歌うことは得意である。気分により答えられる時と答えられない時がある。

手先を使う細かな作業は苦手である。

階段の上り下りができない。転びやすい。最近になり手すりをつたいながら階段を上れるようになったが降りる時は臀部をついて降りる。足や肘の動きに硬さがある。ジャンプすることは得意である。

巧緻動作に関することなぐりがきであり、筆圧は弱く、顔は描けない。色ぬりやはさみも苦手である。

食事はスプーンと手づかみである。なぐりがきであるが○は描ける。食事が手づかみであり、スプーンをすぐ手から離す。なぐりがきをする。

ブロックやパズルは好きでよく遊んでいる。

表2-3 両親により回答された対象者の行動

パズルが好きで得意である。文字はほとんど読めるが書字はできない。

粗大運動に関すること

折り紙を折ることが得意である。

言葉の理解や会話に関すること

ゴロゴロ寝転んでいることが多い。平均台や足元の悪い所を歩くことは苦手である。平均台は横歩きであればできる。

絵を描くことや積木の操作は苦手である。

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全IQ 言語性IQ 動作性IQ 言語理解 知覚統合 注意記憶 処理速度症例7 6歳0カ月 63 71 62 74 61 71 80症例8 6歳6カ月 45 53 47 58 53 59 50症例9 7歳8カ月 54 70 47 74 50 65 64症例10 8歳8カ月 54 74 41 76 50未満 65 55症例11 8歳11カ月 70 84 61 83 61 91 80症例12 12歳8カ月 40未満 46 41 50未満 50未満 50未満 50

表2-5 WISC-ⅢのIQ、群指数の値

寝返り 坐位 四つ這い 立位 独歩症例1 9 10 12 24 28症例2 不明 不明 不明 22 24症例3 7 11 14 20 22症例4 不明 12 不明 15 23症例5 5 10 14 22 24症例6 8 不明 8 12 27

表2-4 粗大運動の発達歴

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知識 類似 単語 理解 算数 数唱 絵画完成 絵画配列 積木模様 組合せ 符号 記号探し 迷路 評価点平均

症例7 6歳0カ月 5 1 7 10 4 6 2 4 5 5 7 6 1 4.8症例8 6歳6カ月 5 1 1 5 1 5 8 1 1 1 1 1 1 2.5症例9 7歳8カ月 4 7 6 6 3 5 5 1 2 1 3 4 5 4症例10 8歳8カ月 3 6 8 7 5 3 1 2 1 1 3 1 2 3.3症例11 8歳11カ月 9 7 5 8 8 9 6 4 1 5 6 7 5 6.2症例12 12歳8カ月 1 3 1 1 1 1 1 1 1 4 1 1 2 1.5

表2-6 WISC‐Ⅲの評価点

言語理解 注意記憶

言語性検査 動作性検査

知覚統合 処理速度

手の動作 数唱 語の配列 絵の統合 模様の構成 視覚類推 位置さがし 評価点平均

症例7 6歳0カ月 7 4 4 2 4 3 3 3.9 70 55症例8 6歳6カ月 3 5 2 3 4 8 2 3.9 60 63症例9 7歳8カ月 6 4 5 2 6 5 3 4.4 70 61症例10 8歳8カ月 5 4 4 1 3 3 2 3.1 66 50症例11 8歳11カ月 4 11 9 7 5 8 6 7.1 88 78症例12 12歳8カ月 5 1 1 1 3 1 1 1.9 54 45

表2-7 K-ABCの評価点と各尺度の標準得点

継次処理課題 同時処理課題継次処理尺度の標準得点

同時処理尺度の標準得点