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システム制御工学【第 2版】―フィードバック制御の考え方―
徐 粒
秋田県立大学 知能メカトロニクス学科
1
1.2 制御工学で用いられる関数
制御工学には信号を表す様々な時間関数や、複素数を変数とする複素関数が多用される。
(a)デルタ関数 (インパルス関数)
δ(t)と表記され、かなり特殊な時間関数である。
制御工学では単位インパルス関数とも呼び、物理的には存在しないが、理論上重要な関数である。
δ(t)は、数学的には図 1に示すように、時刻 t = 0において、幅 h、高さ 1/h、面積は 1(= h× 1/h)となるパルスで、かつ hを限りなく0に近くとった関数である。
1.2 制御工学で用いられる関数 2
)(tδ)( τδ -t
τ t
h h/1
0
Figure 1: 単位インパルス関数
具体的には次のような性質を持つ。
δ(t) =
∞ t = 0
0 t = 0(1)
∫ ∞
−∞δ(t)dt = 1 (2)
1.2 制御工学で用いられる関数 3
t = τ 時刻のインパルスは、t′ = t− τ = 0のときのインパルス δ(t′)
と考えられるので、
δ(t− τ) =
∞ t = τ
0 t = τ(3)
と表せる。また時間関数 f(t)と δ(t)をかけた関数を時間積分すると∫ ∞
−∞f(t)δ(t)dt = f(0) (4)
であり、さらに δ(t− τ)は t = τ でインパルスが発生するので、∫ ∞
−∞f(t)δ(t− τ)dt = f(τ) (5)
となる。つまり、インパルス関数を使って、与えられた時間関数 f(t)
の任意の特定時刻 τ での値を”取り出す"ことができる。
1.2 制御工学で用いられる関数 4
(b)ステップ関数
単位ステッ関数 I(t)は図 2に示す様に、t < 0で 0,t ≥ 0で高さ 1
となる階段状の関数である。高さが 1でない場合は単にステップ関数という。
I(t) =
0 t < 0
1 t ≥ 0(6)
0 t
1
)(tI
Figure 2: 単位ステップ関数
1.2 制御工学で用いられる関数 5
(c)ランプ (1次)関数とパラボラ (2次)関数
tに関して 1次と 2次の関数
f(t) = at (7)
f(t) = at2 (8)
をそれぞれランプ関数とパラボラ関数と呼ぶ。
ランプ
パラボラ
)(tf
tFigure 3: ランプ関数とパラボラ関数
1.2 制御工学で用いられる関数 6
(d)多項式関数
t0 = 1であるので (6)式のステップ関数は、I(t) = t0, (t ≥ 0)と見なせる。すると (6)式~ (8)式までは
fi(t) = aiti, i = 0, 1, 2 (9)
とまとめて表すことができる。これを一般的にすれば
fi(t) = aiti, i = 0, 1, 2, . . . , n (10)
となる。(10)式の右辺を巾乗式、この関数を巾乗関数という。さらに(10)式の各々を加えた式
f(t) = a0 + a1t+ a2t2 + · · ·+ ant
n, (11)
を多項式関数という。an = 0のとき、nを多項式 f(t)の次数といい、deg f(t)で表す。0も多項式と見なすが、次数がないものとする。aiは f(t)の (i次の)係数という。また、ait
i を f(t)の i次の項、特にa0 を定数項とよぶ。an = 1のとき、f(t)をモニック多項式という。
1.2 制御工学で用いられる関数 7
(e)指数関数
次によく用いられ得る関数は、指数関数 eat である。指数関数は図 4に示すような単調関数で aの符号により単調減少、単調増加関数になる。また指数関数はそれを微分しても積分しても
deat
dt= aeat,
∫eatdt =
1
aeat (12)
と、やはり指数関数になるといった都合の良い性質を持つ関数である。
0
1
単調減少
単調増加
0>a
0<a
)(tf
t
Figure 4: 指数関数
1.2 制御工学で用いられる関数 8
(f)三角波関数
正弦関数 sinϕの変数 ϕは角度である。この ϕが ϕ = ωtのように一定の割合 ω(角速度)で時間 tとともに変化 (回転)するとき、sinϕ = sinωtの値も時間とともに変化する。このような時間関数である正弦関数のことを正弦波関数と呼び、
f(t) = A sin(ωt+ θ) (13)
と表現される。ここで Aは振幅、ωは角周波数または角速度、θは位相角という。
θ
ωt
T=2π/ω
2ππ
A
0
Figure 5: 正弦波関数
1.2 制御工学で用いられる関数 9
正弦波関数は図 5に示されるように T = 2π/ω秒ごとに同じ波形が繰り返される、つまり周期を T とする周期関数である。また波形が 1秒間に繰り返される回数を周波数 f といい、周波数 f と周期 T の間に、
f =1
T[Hz] (14)
なる関係がある。
正弦関数 sinϕは 2πを周期とする周期関数であるので、ϕ = ωtにϕ = 2π、t =
T を代入すると ωT = 2πとなる。したがって角周波数 ωとは、1秒当たりに回転する角度であり
ω =2π
T= 2πf (15)
と定義される。
1.2 制御工学で用いられる関数 10
(g)指数関数重み付き三角波関数
指数関数の重みがついている正弦波関数
f(t) = eat sin(ωt+ θ) (16)
は図 6に示すように振幅が eat (a < 0)で減衰する正弦波関数である。
t
)sin( +teatω θ
ate
Figure 6: 指数関数重み付き正弦波関数
1.2 制御工学で用いられる関数 11
(h)複素指数関数
指数関数重み付き正弦波関数 eξt sinωtと余弦波関数 eξt cosωtの両者を虚数単位 j を用いて一つにすると
eξt(cosωt+ j sinωt) = eξtejωt = e(ξ+jω)t = est, s = ξ+ jω (17)
となる。est は複素指数関数である。余弦波関数の部分だけを取り出したいときは関数 Reを用いれば
eξt cosωt = Re(e(ξ+jω)t) (18)
正弦波関数の部分を取り出したいときは関数 Imを用いて
eξt sinωt = Im(e(ξ+jω)t) (19)
となる
1.2 制御工学で用いられる関数 12
(i)複素多項式関数
複素変数 sを変数、実数 an, . . . , a0 を係数とする多項式
p(s) = ansn + · · ·+ a1s+ a0 (20)
を複素多項式関数という。次数、モニック多項式などは (11)式の多項式と同じように定義される。
(j)複素有理関数
(21)式のように複素多項式の比として与えられる関数を複素有理関数という。
F (s) =bmsm + bm−1s
m−1 + · · ·+ b1s+ b0ansn + an−1sn−1 + · · ·+ a1s+ a0
(21)
ここで、分母多項式の次数 nと分子多項式の次数mの差 r = n−m
を有理関数 F (s)の相対次数という。r ≥ 0 (n ≥ m)のとき、F (s)がプロパーである、また、r > 0 (n > m)のとき、F (s)が厳密にプロパーであるという。
1.2 制御工学で用いられる関数 13
1.3 ラプラス変換
ラプラス変換は信号を意味する時間関数 f(t)に、時間的重み e−st を掛けて積分した次式で定義される。
F (s) =
∫ ∞
0
f(t)e−stdt (22)
ここで, s = α+ jβ は複素数で、F (s)は sを変数とする複素関数となる。
すなわち時間関数 f(t)はラプラス変換により複素関数 F (s)に変換(写像)される。
これ以降、時間関数 f(t)にラプラス変換を施すことを
F (s) = L[f(t)] (23)
と表記する。
1.3 ラプラス変換 14
ここで、いくつかの典型な時間関数のラプラス変換の例を挙げる。
(a)単位インパルスのラプラス変換
F (s) =
∫ ∞
0
δ(t)e−stdt = 1 (24)
(b)単位ステップ関数のラプラス変換
F (s) =
∫ ∞
0
I(t)e−stdt = −1
se−st
∣∣∣∣∞0
=1
s(25)
(c)指数関数 e−at のラプラス変換
F (s) =
∫ ∞
0
e−ate−stdt =
∫ ∞
0
e−(s+a)tdt
=1
s+ ae−(s+a)t
∣∣∣∣∞0
=1
s+ a(26)
1.3 ラプラス変換 15
Table 1: ラプラス変換対表
f(t) F (s) f(t) F (s)
δ(t) 1 I(t)1
s
t1
s2tn
n!
sn+1
e−at 1
s+ ae−attn
n!
(s+ a)n+1
sinωtω
s2 + ω2e−at sinωt
ω
(s+ a)2 + ω2
cosωts
s2 + ω2e−at cosωt
s+ a
(s+ a)2 + ω2
1.3 ラプラス変換 16
ラプラス変換の諸性質:
a) 線形性
f1(t)および f2(t)のラプラス変換をそれぞれ F1(s)、F2(s)とすると、
L[af1(t) + bf2(t)] = aF1(s) + bF2(s) (27)
である。ここで a、bは任意の実数である。
b) 微分
時間関数 f(t)の導関数 df(t)/dtのラプラス変換は
L[df(t)
dt
]= sF (s)− f(0) (28)
となる。さらに n階の導関数 dnf(t)/dtn の場合は、
L[dnf(t)
dtn
]= snF (s)−
n∑k=1
sn−kf (k−1)(0) (29)
1.3 ラプラス変換 17
となる。ただし
f (k−1)(0) =dk−1
dtk−1f(t)
∣∣∣∣t=0
(30)
である。
c) 積分
f(t)の時間積分のラプラス変換は
L[∫ t
0
f(τ)dτ
]=
F (s)
s(31)
となる。
以上より、初期条件 fk−1(0)を全て 0とすれば、時間領域での微分と積分演算は、s領域においてはそれぞれ s、1/sを F (s)に掛ける単純な代数演算に置き換えられるので、面倒な微分や積分操作をしなくても済む。
1.3 ラプラス変換 18
d) 最終値定理
時間関数 f(t)の t→∞のときの値 f(∞)は、f(t)の最終値と呼ばれ、
f(∞) = limt→∞
f(t) = lims→0
sF (s) (32)
となる。これより F (s)から簡単に f(∞)の値を求めることができる。これは制御系の定常特性の解析に必要不可欠の定理である。
e) 畳み込み積分
二つの時間関数 f1(t)、f2(t)があり、∫ t
0
f1(t− τ)f2(t)dτ (33)
のような積分は畳み込み積分と呼ばれる。そのラプラス変換はf1(t)と f2(t)のラプラス変換 F1(s)と F2(s)を用いれば次式のよ
1.3 ラプラス変換 19
うに簡単に求めることができる。
L[∫ t
0
f1(t− τ)f2(τ)dτ
]= L
[∫ t
0
f1(τ)f2(t− τ)dτ
]= F1(s)F2(s) (34)
これは逆の見方をすれば、二つの複素有理関数の積 F1(s)F2(s)
は二つの時間関数 f1(t), f2(t)の畳み込み積分を意味する。畳み込み積分は時間関数として実行するには複雑な計算が必要となるが、ラプラス変換を用いれば複素関数の積となり容易に求めることができる。
1.3 ラプラス変換 20
1.4 逆ラプラス変換
時間関数 f(t)から複素関数 F (s)を求めるラプラス変換と逆に、与えられた F (s)から元の f(t)を求めることは逆ラプラス変換という。
数学的に逆ラプラス変換は、t > 0として
f(t) =
∫ c+j∞
c−j∞F (s)estds (35)
と、複素積分で定義され、今後これを
f(t) = L−1[F (s)] (36)
と表示する。逆ラプラス変換も次のような線形性を持つ。
L−1[aF1(s) + bF2(s)] = aL−1[F1(s)] + bL−1[F2(s)]
= af1(t) + bf2(t) (37)
直接 (35)式の定義式で逆ラプラス変換を計算することが難しく、実
1.4 逆ラプラス変換 21
際には線形性を利用して次の部分分数展開により計算するのが普通であり、これは簡単に実行できる。
制御工学で扱うラプラス関数 F (s)は全て sの有理式、すなわち
F (s) =bmsm + · · ·+ b1s+ b0
sn + an−1sn−1 + · · ·+ a1s+ a0=
n(s)
d(s)(38)
のようになることに注目する。ただし、一般性を失わずに an = 1とした。また、n(s), d(s)はそれぞれ F (s)の分子、分母多項式を表す。
1.4 逆ラプラス変換 22
部分分数展開による逆ラプラス変換の基本はラプラス変換表を利用することである。
例えば F (s) = 1/(s+ 1)は、表 1から f(t) = e−t のラプラス変換であることがわかるので、その逆ラプラス変換は、
L−1
[1
s+ 1
]= e−t (39)
とすればよい。
この考えかたを以下のように拡張する。
L−1
[3s+ 4
s2 + 3s+ 2
](40)
は表 1に対応する関数が見あたらない。そこで分母多項式を
s2 + 3s+ 2 = (s+ 1)(s+ 2)
1.4 逆ラプラス変換 23
と因数分解し、これをもとに部分分数展開を行う。このとき分子の実数値を c1, c2とし、通分して未定係数法で決めてやれば次のように求まる。
3s+ 4
s2 + 3s+ 2=
c1s+ 1
+c2
s+ 2=
(c1 + c2)s+ (2c1 + c2)
s2 + 3s+ 2
=1
s+ 1+
2
s+ 2(41)
ここで表 1より第 1項は e−t、第 2項は 2e−2t と対応しているので、逆ラプラス変換は
f(t) = L−1
[3s+ 4
s2 + 3s+ 2
]= L−1
[1
s+ 1
]+ L−1
[2
s+ 2
]= e−t + 2e−2t (42)
となる。
上の未定係数法による部分分数展開は次数が小さいときは有効であるが、一般的には以下の留数を用いて行う。
1.4 逆ラプラス変換 24
【F (s)の分母多項式 d(s)の根 p1, . . . , pn が、全て異なる場合】
F (s)はその分母を因数分解して部分分数に展開すれば
F (s) =n(s)
(s− p1)(s− p2) · · · (s− pn)
=c1
s− p1+
c2s− p2
+ · · ·+ cns− pn
(43)
となる。係数 c1, c2, . . . , cnは p1, . . . , pnにおける留数と呼ばれ、次の方法で簡単に求められる。
ci = (s− pi)F (s)|s=pi, i = 1, 2, . . . , n (44)
(43)式と表 1を用いれば F (s)の逆ラプラス変換は次式となる。
f(t) = L−1
[c1
s− p1+
c2s− p2
+ · · ·+ cns− pn
]= c1e
p1t + c2ep2t + · · ·+ cne
pnt (45)
1.4 逆ラプラス変換 25
【F (s)の分母多項式 d(s)が重根を持つ場合】
根 p1が k重根、他は単根の場合、F (s)は次のような部分分数に展開される。
F (s) =n(s)
(s− p1)k(s− pk+1) · · · (s− pn)
=c11
(s− p1)k+
c12(s− p1)k−1
+ · · ·+ c1k(s− p1)
(重根の部分)
+ck+1
s− pk+1+ · · ·+ cn
s− pn(46)
1.4 逆ラプラス変換 26
ここで s = p1 における留数 c11, c12, . . . , c1k は
c11 = F (s)(s− p1)k∣∣s=p1
,
c12 =d(F (s)(s− p1)
k)
ds
∣∣∣∣s=p1
,
...
c1i =1
(i− 1)!
di−1(F (s)(s− p1)k)
dsi−1
∣∣∣∣s=p1
,
...
c1k =1
(k − 1)!
dk−1(F (s)(s− p1)k)
dsk−1
∣∣∣∣s=p1
(47)
で求められる。s = pk+1, . . . , pn における留数 ck+1, . . . , cn は (44)式の方法で求められる。
1.4 逆ラプラス変換 27
表 1の結果を用いれば F (s)の逆ラプラス変換
f(t) =c11
(k − 1)!t(k−1)ep1t +
c12(k − 2)!
t(k−2)ep1t + · · ·+ c1i(k − i)!
t(k−i)ep1t
+ · · ·+ c1kep1t + ck+1e
pk+1t + · · ·+ cnepnt (48)
が得られる。
【例題 1-3】次の関数の逆ラプラス変換を求めよ。
(a) F1(s) =s+ 1
s(s+ 2); (b) F2(s) =
s− 1
(s+ 3)2(s+ 1)
(c) F3(s) =4s2 + 13s+ 15
s(s+ 2)(s2 + 4s+ 5)
1.4 逆ラプラス変換 28
【解】 (a) F1(s)を次の部分分数に展開する。
F1(s) =c1s
+c2
s+ 2(49)
ここで係数 c1, c2 を留数として求めれば、
c1 =s+ 1
s(s+ 2)s
∣∣∣∣s=0
=s+ 1
s+ 2
∣∣∣∣s=0
=1
2,
c2 =s+ 1
s(s+ 2)(s+ 2)
∣∣∣∣s=−2
=s+ 1
s
∣∣∣∣s=−2
=1
2
となり、
f1(t) = L−1
[1
2s+
1
2(s+ 2)
]=
1
2+
1
2e−2t (50)
である。
1.4 逆ラプラス変換 29
(b) F2(s)は重根をもつので、部分分数展開すると
F2(s) =c11
(s+ 3)2+
c12(s+ 3)
+c3
(s+ 1)(51)
となり、各係数
c11 =
[s− 1
s+ 1
]s=−3
= 2,
c12 =
[d
ds
(s− 1
s+ 1
)=
2
(s+ 1)2
]s=−3
=1
2,
c3 =
[s− 1
(s+ 3)2
]s=−1
= −1
2
と求まる。これより逆ラプラス変換は
f2(t) = (2t+1
2)e−3t − 1
2e−t (52)
である。
1.4 逆ラプラス変換 30
(c) 上と同じように F3(s)を 1次因子の部分分数に展開してその逆ラプラス変換を求める一般的な方法を用いてもよいが、この場合は以下の方法でより簡単に求められる。
2次因子を因数分解しないでそのまま用いれば、F3 は次式のように展開できる。
F3(s) =4s2 + 13s+ 15
s(s+ 3)(s2 + 4s+ 5)
=c1s
+c2
s+ 3+
c31s+ c32s2 + 4s+ 5
(53)
係数 c1, c2 は留数として次のように求められる。
c1 = sF3(s)|s=0 =4s2 + 13s+ 15
(s+ 3)(s2 + 4s+ 5)
∣∣∣∣s=0
= 1
c2 = (s+ 3)F3(s)|s=−3 =4s2 + 13s+ 15
s(s2 + 4s+ 5)
∣∣∣∣s=−3
= −2
1.4 逆ラプラス変換 31
c1, c2 を (53)に代入すれば、次の結果を得られる。
F3(s) =1
s− 2
s+ 3+
c31s+ c32s2 + 4s+ 5
=(c31 − 1)s3 + (3c31 + c32 − 1)s2 + (3c32 + 7)s+ 15
s(s+ 3)(s2 + 4s+ 5)(54)
各項の係数を比較すると、c31 − 1 = 0
3c31 + c32 − 1 = 4
3c32 + 7 = 13
(55)
となる。(55)式の方程式を解くと、c31 = 1, c32 = 2が得られる。
1.4 逆ラプラス変換 32
従って、
F3(s) =1
s− 2
s+ 3+
s+ 2
s2 + 4s+ 5
=1
s− 2
s+ 3+
s+ 2
(s+ 2)2 + 1(56)
となる。これより逆ラプラス変換は
f3(t) = 1− 2e−3t + e−2t cos t (57)
である。
以上制御工学を学ぶための数学的準備として、複素数とその演算、制御工学でよく使う時間関数と複素関数、および時間関数のラプラス変換とその逆変換などを説明した。
1.4 逆ラプラス変換 33
ラプラス変換は図 7に示すように、時間関数である信号の集合を複素関数の集合に変換する。これより信号 f(t)をそのまま時間の関数として取り扱うことを時間領域で取り扱う、一方 f(t)のかわりにそのラプラス変換 F (s)を取り扱うことを複素領域ないしは周波数領域で取り扱うという。
)(1 tf)(2 tf
ate
)(1 sF
)(2 sF
)/(1 as +
時間関数(信号)の集合 複素関数の集合
Figure 7: ラプラス変換・逆変換
1.4 逆ラプラス変換 34
古典制御理論は、直接信号の時間関数 f(t)の集合を対象とするのではなく、それを一旦ラプラス変換し、主として F (s)の集合の上で組み立てられ、必要に応じて逆変換を用いて時間関数に変換する仕組みになっている。
その理由は、F (s)が次章以降明らかにするが様々な都合のよい性質を持っているからである。
1.4 逆ラプラス変換 35
§2 動的システムと数式モデル
—制御対象が持つ入力と出力の時間的関係—
Ü 本書を学ぶ最終目的は制御対象を自在に操る制御系を設計する事であ
る。そのための第一歩として
制御対象や制御系となるシステムとはどのようなものであるか
を知る必要がある。
Ü 本章では、動的システムの挙動は微分方程式として表現されることを説
明する。ついで微分方程式はどのように導かれるか具体的な例を示しな
がら学ぶ。
⇒ このようにシステムの挙動を数式で表すことをモデル化といい、制御工学の技術体系は基本的にこの数式モデルをもとに構築されている。
§2 動的システムと数式モデル 36
第2章において理解すべき基本事項
1. 静的システムと動的システム
2. システムの入出力関係
3. 微分方程式
4. 3基本要素とその入出力関係(エネルギー蓄積要素 エネルギー消散要素)
5. 数式モデルの必要性と利点 (等価性 統一性)
6. 動的システムの微分方程式の一般形
§2 動的システムと数式モデル 37
§2.1 動的システムとモデル
要素
入力 出力
要 素 1 要 素 2
要 素 3 要 素 4
出力
入力 +
+
Figure 8: 動的システムの入出力関係
• 制御対象や制御系は、より幅広くとらえればシステムと呼ばれることが多い。
• システムとは簡単な機能を備えた要素が複数個複雑に相互結合したものである。
§2.1 動的システムとモデル 38
• システムは図 8に示すように、一つの要素の出力を他の要素の入力、時として複数の要素への入力として次々と結合して構成され、システムの機能に応じた入出力関係を持つ。
• この入出力関係を数学的に表現したのが数式モデルで、システムが持つ特徴や性質を表し、制御技術者にとって最も重要な情報である。
§2.1 動的システムとモデル 39
図は単なる水道栓の蛇口であるが、ノブの握りの回転角 θが入力、排出される水量 yを出力と見なすことができる。この入出力関係の数式モデルは、
y = Kθ (58)
であり、ノブの回転角が大きくなるほど排出水量が多くなるといった簡単な入出力関係をもつ。K は比例定数で、蛇口の口が大きければ値は大きくなる。
§2.1 動的システムとモデル 40
上の図に示すポテンショメータの回転角 θを入力とすると、出力としての端子電圧 V は θに比例して大きくなり、V と θの比例定数をK
で表せば、この間の入出力関係の数式モデルは
V = Kθ (59)
となる。
§2.1 動的システムとモデル 41
• (58)と (59)式の入出力関係の数式モデルは共に比例関係である。
• このように蛇口とポテンショメータは、物理的構造は異なるが入出力関係の数式モデルは同じになる。
• この事実はシステム工学ないしは制御工学においてきわめて重要である。すなわち物理的に全く異なるシステムも、数式モデルを用いて入出力関係を表せば同じになり、両者を同一視でき、統一的な理論が確立できる。
• これがこののち、全て数式モデルで理論を展開する理由の一つである。
§2.1 動的システムとモデル 42
§2.2 動的システムと数式モデル ―微分方程式―
• システムには、静的システムと動的システムがあるが、制御工学が動的システムを対象とする。
ここでは動的システムとは何か、具体的な例を挙げながら説明し、動的システムの入出力関係の数式モデルが微分方程式で表せることを示す。
• 制御の対象とするものは、電気冷蔵庫などの家電製品から、自動車、産業用ロボット、原子力発電プラントやジャンボジェット機などのハイテクシステムまで、我々の生活に非常に密着したものである。
これらの制御対象は電気、機械、化学など様々な工業分野の部品から構成されている。電気機器あるいは、機械機器など特定の分野の部品 (要素)のみからなることはなく、様々な部品の複合体で構成される。しかし簡単のため、先ず単純な制御対象を考える。
§2.2 動的システムと数式モデル ―微分方程式― 43
§2.2.1電気系の動的システム
• まず図 9に示す電気回路の 3つの基本要素 (部品)の入出力関係について整理しておく。3要素はそれぞれ入力に対する比例、微分および積分動作を持ち、これらは動的システムの基本機能である。電気回路の動的システムはこの 3要素の機能の集合体であり、3要素の入出力関係を理解することが動的システム理解の第一歩である。
• 電気回路の基本要素に現れる物理量は電圧 v(t)と電流 i(t)であるが、v(t)と i(t)の間の入出力関係を示すには、まず入出力をどちらにとるかを決めなくてはならない。ここでは後の機械系との対応が容易ということで、v(t)を入力、i(t)を出力とする。
§2.2.1 電気系の動的システム 44
抵抗 キャパシタ インダクタ(a) (b) (c)
)(tv )(tv )(tv
)(ti )(ti )(ti
R C L
Figure 9: 電気回路の 3基本要素
a)基本要素1: 抵抗
抵抗 Rの両端の電圧 v(t)と Rに流れる電流 i(t)の間にオームの法則
i(t) =1
Rv(t) (60)
が成り立つ。またここでは毎秒次式で示すエネルギーが消費される。
E(t) = Ri2(t) (61)
§2.2.1 電気系の動的システム 45
b)基本要素 2: インダクタ
インダクタ Lに流れる電流 i(t)と端子間電圧 v(t)の間には、
di(t)
dt=
1
Lv(t) (62)
が成り立つ。ここで (62)式を積分すると、
i(t) =1
L
∫v(t)dt (63)
となる。このときインダクタには電磁界エネルギーとして
E(t) =1
2Li2(t) (64)
が蓄えられる。
§2.2.1 電気系の動的システム 46
c)基本要素 3: キャパシタ
キャパシタ C に流れ込む電流 i(t)と端子間電圧 v(t)の間に
i(t) = Cdv(t)
dt(65)
が成り立つ。ここでキャパシタ C に貯まる電荷を q(t)とすると、
q(t) =
∫ t
0
i(t)dt = Cv(t) (66)
であり、C には静電エネルギーとして
E(t) =1
2Cq2(t) (67)
が蓄えられる。
§2.2.1 電気系の動的システム 47
以上 3基本要素は、それぞれ比例、積分、微分機能を持つことを明らかにしたが、次に複数の基本要素からなる電気回路のシステムに対し、その入出力関係を考えてみる。
先ず図 10の2つの抵抗からなる簡単な電気回路を考える。
(出力)(入力)
)(tvi
R
)(ti'R
)(tvo
Figure 10: 抵抗からなる回路
§2.2.1 電気系の動的システム 48
回路の左端に印加する電圧 vi(t)を入力 (電圧)、抵抗R′の両端間の電圧 vo(t)を出力 (電圧)とすると、その vi-vo 入出力関係は、分圧の法則により
vo(t) =R′
R+R′ vi(t) (68)
となる。すなわち、図 10の入出力関係は (60)式と同様、比例関係である。
抵抗要素は微分・積分動作を含まないので、時刻 tの出力値が、同時刻 tの入力値だけから定まり、入力が 0になると出力もただちに 0になる。このような入出力関係を持つシステムを静的システムという。
§2.2.1 電気系の動的システム 49
図 10において、抵抗 R′ の代わりにキャパシタ C を挿入した図 11の R-C回路を考えてみる。
(出力)(入力)C
)(tvi
R
)(ti )(tvo
Figure 11: R-C回路の入出力関係
回路の左端に印加する電圧 vi(t)を入力 (電圧)、キャパシタ C の両端の電圧 vo(t)を出力 (電圧)として vi-v0 入出力関係を求める。
回路に流れる電流を i(t)とし、回路全体にキルヒホッフの法則を用いれば、入出力関係は次のようになる。
vi(t) = Ri(t) + vo(t) (69)
§2.2.1 電気系の動的システム 50
(69)式には入出力変数 vi(t)、vo(t)以外の変数 i(t)が含まれている。
このような変数を中間変数といって入出力関係を求めるために便宜的に導入した変数である。中間変数である電流 i(t)を消去するには 2つの方法がある。
第一の方法は、C の両端の電圧 vo(t)と電流 i(t)との関係は (65)式より
i(t) = Cdvo(t)
dt(70)
であるので、これを (69)式に代入すると中間変数 i(t)が消去され、vi(t)と vo(t)を関係づける一階の微分方程式
RCdvo(t)
dt+ vo(t) = vi(t) (71)
が得られる。ただし初期条件は、キャパシタの初期電圧である。
vo(0) = Vo (72)
§2.2.1 電気系の動的システム 51
第二の方法は、vo(t)の代わりにキャパシタの電極に蓄えられた電荷q(t)を新たな出力変数とし、vi-q入出力関係を以下のように求める。
C の両端電圧 vo(t)と蓄積される電荷 q(t)の間には、(66)式により
Cvo(t) = q(t) (73)
なる関係が成立し、電流 i(t)と q(t)の間には、(65)と (66)式より
i(t) =dq(t)
dt(74)
が成り立つ。両式を (69)式に代入すれば、q(t)の1階微分方程式
Rdq(t)
dt+
1
Cq(t) = vi(t) (75)
が得られる。初期条件は C に蓄えられている初期電荷である。
q(0) = Qo = CV0 (76)
§2.2.1 電気系の動的システム 52
• 以上 R-C回路の入出力関係の数式モデルは、1階の微分方程式と、それに伴う初期条件で与えられる。
• R-C回路は、入力エネルギーがキャパシタ C に蓄積され、それがエネルギー消散要素 Rで消費される仕組みになっている。
• その結果,時刻 tの出力電圧値は時刻 tの入力値だけでなく、t以前の入力の履歴にも依存する。つまり、時刻 tの入力値が 0となっても、過去の入力によって蓄積されたエネルギーを消費し切るまで出力電圧は時々刻々変化し続ける。
• このような入出力関係をもつシステムを動的システムという。
• 逆に言えば、過去の入力が現在の出力値に反映する動的システムには必ずどこかにエネルギー蓄積要素が存在する。この性質の数式的な意味合いは第 3章で因果律として明らかにする。
§2.2.1 電気系の動的システム 53
以上のことをふまえて、図 12のように抵抗とキャパシタとの間にさらにエネルギー蓄積要素であるインダクタ Lを挿入した R-L-C回路を考えてみる。
(出力)(入力)C
L
)(tvo)(tvi )(ti
R
Figure 12: R-L-C回路の入出力関係
Lは入力の微分動作を持つが、これを挿入したとき微分方程式はどのように変わるであろうか。R-C回路と同様、印加電圧 vi(t)を入力、C の両端の電圧 vo(t)を出力として入出力関係を求める。
§2.2.1 電気系の動的システム 54
回路に流れる電流を i(t)とすると、キルヒホッフの法則より、
Ri(t) + Ldi(t)
dt+ vo(t) = vi(t) (77)
となる。まず、(77)式に含まれる中間変数 i(t)を第 1の方法に従って消去する。
(65)式を用いると、
i(t) = Cdvo(t)
dt(78)
であり、さらにこれを時間微分すれば、
di(t)
dt= C
d2vo(t)
dt2(79)
となる。
§2.2.1 電気系の動的システム 55
(77)式に上の関係式を代入し、整理すると
LCd2vo(t)
dt2+RC
dvo(t)
dt+ vo(t) = vi(t) (80)
なる 2階の微分方程式が得られる。また初期条件は、
vo(0) = V0,dvo(t)
dt
∣∣∣∣t=0
= V0 =1
CI0 (81)
とする。V0, I0 はそれぞれ C の初期電圧と、回路に流れる初期電流である。
§2.2.1 電気系の動的システム 56
一方第 2の方法では、(73)式と同様に、vo(t)の代わりにq(t) = Cvo(t)を出力として用いれば、
Ld2q(t)
dt2+R
dq(t)
dt+
1
Cq(t) = vi(t) (82)
となる。このとき、初期条件は
q(0) = Q0 = CV0,dq(t)
dt
∣∣∣∣ = Q0 = I0 (83)
である。(77)式から (82)式の導出は省略する。
このように R-L-C回路の場合は、その入出力関係の数式モデルは 2階の微分方程式になる。回路中のエネルギー蓄積要素が増えるほど動的システムの入出力関係を表す微分方程式の階数は増すことになる。
§2.2.1 電気系の動的システム 57
演習問題
2.1 次の各電気回路の入出力関係の微分方程式を求めよ。vi(t)とvo(t)はそれぞれ入力と出力電圧である。
1R
2R)(tvi )(tvo
(a)
)(tvi )(tvo
(b)
C L
R
)(tvi )(tvo
(c)
C C
1R
2R )(tvi )(tvo
(d)
1R 2R
1C
2C
§2.2.1 電気系の動的システム 58
§2.2.2 機械系の動的システム
機械系の動的システムも電気系と同様、図 13に示す 3つの基本要素からなる。各要素において、力 f(t)を入力、位置 x(t)の微分である速度 v(t)を出力とする。
(a) ダンパー
)(tx
)(tf
(c) バネ
)(tx
)(tf
(b) 質量
)(tx
)(tfM
壁 壁
Figure 13: 直動機械系の 3要素
§2.2.2 機械系の動的システム 59
a) 基本要素 1: ダンパー
図 13(a)はダンパーといい、油が満たされたシリンダに、可動ピストンがある。ピストンの移動速度 v(t) = dx(t)/dtと、外部から加えられる水平方向の力 f(t)の間には、
v(t) =1
Bf(t) (84)
なる関係が成り立つ。ただし B は油の粘性抵抗係数である。
またダンパーで消費されるエネルギーは毎秒
E(t) = Bv2(t) (85)
である。
§2.2.2 機械系の動的システム 60
b) 基本要素 2: 質量
図 13(b)に示すの質量M [kg]の水平方法の位置を x(t)とし、速度をv(t) = dx(t)/dt、加速度を dv/dt = d2x(t)/dt2とする。水平方向の力f(t)が物体にかかると、ニュートンの第3法則により、
f(t) = Md2x(t)
dt2(86)
が成り立つ。これより、力 f(t)と速度 v(t)との入出力関係は
dv(t)
dt=
1
Mf(t) (87)
すなわち、
v(t) =1
M
∫ t
0
f(t)dt (88)
§2.2.2 機械系の動的システム 61
となる。また質量には速度に応じて
E(t) =1
2Mv2(t) (89)
なる運動エネルギーが蓄積される。
c) 基本要素 3: バネ
図 13(c)のバネの伸び縮みする距離 x(t)と力 f(t)の間には、バネ係数をK とすると、
f(t) = Kx(t) (90)
が成り立つ。この式の両辺を時間微分し整理すると、次の力 f(t)と速度 v(t)との入出力関係が得られる。
v(t) =1
K
df(t)
dt(91)
§2.2.2 機械系の動的システム 62
またバネには位置エネルギーが蓄積され、その値は
E(t) =1
2Kx2(t) (92)
である。
それでは複数の基本要素から構成される簡単な機械系の動的システムの入出力関係を調べてみよう。
§2.2.2 機械系の動的システム 63
【質量‐ダンパー‐バネ力学系】
壁 M)(tf
)(tx
)(tKx
dttBdx /)(
Figure 14: 直動機械系
図 14のように、質量M の物体にダンパーとバネが並列に接続され、物体は水平に往復運動できるものとする。なおダンパーとバネの左端は壁に固定されている。
質量に加える力 f(t)を入力、質量M の変位 x(t)を出力とする微分方程式を求める。
§2.2.2 機械系の動的システム 64
この力学系において、
質量M に加わる力 =(外力)−(ダンパーの抗力)−(バネの引力)
となる。これにニュートンの第 3法則を適用すれば、
Md2x(t)
dt2= f(t)−B
dx(t)
dt−Kx(t) (93)
または
Md2x(t)
dt2+B
dx(t)
dt+Kx(t) = f(t) (94)
なる 2階の微分方程式が得られる。ただし初期条件は時刻 t = 0での質量の位置と速度により、次のように与えられる。
x(0) = x0,dx(0)
dt= x0 (95)
この動的システムは、2つのエネルギー蓄積要素であるバネと質量があるため、R-L-C回路と同様に、2階の微分方程式となる。
§2.2.2 機械系の動的システム 65
以上は水平方向の直動運動を考えたが、機械系ではモータやエンジンのような回転運動体が実用上のシステムに多くみられる。
粘性抵抗(a)
D
ねじりバネ(c)
KJ
慣性(b)
θ )(t θ )(t θ )(t
Figure 15: 回転機械系の 3基本要素
直動機械系の 3要素に対応する回転機械系の基本要素は図 15になる。
ここで、位置 x(t)に回転角度 θ(t)、速度 v(t)に回転角速度ω(t) = dθ(t)/dt、外力 f(t)にトルク τ(t)とそれぞれ対応させれば、各要素の入出力関係等は同じように導かれる。ただし、回転角速度ω(t)を出力、トルク τ(t)を入力としている。
§2.2.2 機械系の動的システム 66
a) 基本要素 1: 粘性抵抗 (回転ダンパー)
回転体には空気などの粘性抵抗により回転速度に比例したトルク (ブレーキ)が生じ、その間に
ω(t) =1
Dτ(t) (96)
が成り立つ。ただしDは粘性抵抗係数である。また粘性抵抗で毎秒消散されるエネルギーは
E(t) = Dω2(t) (97)
である。
§2.2.2 機械系の動的システム 67
b) 基本要素 2: 慣性
慣性モーメント J にトルク τ が加えられると、回転角加速度 ωとの間に
dω(t)
dt=
1
Jτ(t) (98)
すなわち、
ω(t) =1
J
∫τ(t)dt (99)
が成り立ち、J には回転運動エネルギー
E(t) =1
2Jω2(t) (100)
が蓄えられる。
§2.2.2 機械系の動的システム 68
c) 基本要素 3 ねじりバネ
ねじりバネの回転角度と外から加えるトルク間には、ねじりバネのバネ係数をK とすれば、
θ(t) =1
Kτ(t) (101)
が成り立つ。その両辺を時間微分すると、
ω(t) =1
K
dτ(t)
dt(102)
を得る。ねじりバネには位置エネルギー
E(t) =1
2Kθ(t)2 (103)
が蓄えられる。
§2.2.2 機械系の動的システム 69
以上回転機械系の 3基本要素の入出力関係やエネルギー消散、蓄積の関係式は、直動機械系の変数やパラメータ間に表 2に示すような対応をとれば同一になる。
Table 2: 直動と回転機械系の変数対応関係
直動機械系 回転機械系
力 f(t) トルク τ(t)
質量M 慣性モーメント J
伸縮バネ係数K ねじりバネ係数K
粘性抵抗係数 B 粘性抵抗係数D
位置 x(t) 回転角度 θ(t)
速度 v(t) 回転角速度 ω(t)
§2.2.2 機械系の動的システム 70
K
D Jθ )(t
τ )(t
壁
Figure 16: 回転機械系
図 14の直動機械系に対応する回転機械系の構造は図 16のように、ねじりバネ、粘性抵抗、慣性からなる。この回転機械系において入力をトルク τ(t)、出力を回転角 θ(t)として、入出力関係を求めてみよう。
§2.2.2 機械系の動的システム 71
上で示した直動機械系と回転機械系の対応をとれば、その入出力関係は
Jd2θ(t)
dt2+D
dθ(t)
dt+Kθ(t) = τ(t) (104)
θ(0) = θ0,dθ(t)
dt
∣∣∣∣t=0
= θ0 (105)
と、(93)式と同様、2階の微分方程式及び初期条件からなる。
この場合も、加えられた回転トルクは、慣性モーメント、ねじりバネの 2つのエネルギー蓄積要素に蓄えられ、粘性抵抗によりエネルギー消散が行われ、その結果、回転角度 θ(t)は動的な挙動をとる。
§2.2.2 機械系の動的システム 72
演習問題
2.2 次の機械系の入出力関係の微分方程式を求めよ。xi(t), fi(t)はそれぞれ位置と力入力であり、xo(t)は位置出力である。
MK
)(txo
)(tfi
(a)
)(txi
)(txo
(b)
M
)(txo
M
K
B
(c)
)(tfi
§2.2.2 機械系の動的システム 73
1K
B
2K
)(txi
)(txo
(d)
B
)(txi
)(txo
1K
2K
(e)
§2.2.2 機械系の動的システム 74
§2.3 数式モデルの利点
§2.2節では、制御対象として電気回路、直動機械系、回転機械系を取り上げ、それぞれの入出力関係は微分方程式としてモデル化できることを示した。それでは制御対象を数式でモデル化する利点は何かを整理しておこう。
§2.3 数式モデルの利点 75
§2.3.1 数式モデルの等価性
前節で R-L-C回路、直動機械系、回転機械系において 2つのエネルギー蓄積要素と1つのエネルギー消散要素からなる動的システムは、2階の微分方程式になることを示した。そこでこの三者間に、蛇口とポテンショメータと同様の関係があるか調べてみよう。
R-L-C電気回路、直動機械系と回転機械系の微分方程式を再掲すると
Ld2q(t)
dt2+R
dq(t)
dt+
1
Cq(t) = vi(t) (106)
md2x(t)
dt2+B
dx(t)
dt+Kx(t) = f(t) (107)
Jd2θ(t)
dt2+D
dθ(t)
dt+Kθ(t) = τ(t) (108)
となる。三式を比較すれば、変数やパラメータを読み換えれば三者の数式モデルは全く等価 (同じ形の式)であることが容易に分かる。
§2.3.1 数式モデルの等価性 76
Ü 制御対象が電気系、機械系と変わっても、数式モデルとして取り扱えば
三者は全く同じである。
Ü このことは制御工学だけではなく他の技術の体系化にも大変重要な考え
方である。電気回路の数式モデルをもとに得られた知識や結果は、それ
と等価な機械系の制御対象にもそのまま転用でき、これは大変な利点で
ある。
Ü さらに数式モデル化すれば、様々な制御対象間の等価の要素、変数、パ
ラメータ、機能を見分けることもできる。
上で示した電気回路、直動機械系、回転機械系の等価関係を表 3にまとめておいた。表 3は電気回路と機械系だけの数式モデルの等価関係を示したが、この考えは本書では取り扱えなかった化学プロセス系や熱力学系などあらゆる分野の対象に適用できる。
§2.3.1 数式モデルの等価性 77
Table 3: 電気—機械系の等価関係
変数 電気回路系 直動機械系 回転機械系
出力変数 電流 i(t) 速度 v(t) 回転角速度 ω(t)
入力変数 電圧 v(t) 力 f(t) トルク τ(t)
基本要素 1 抵抗 ダンパー 粘性抵抗
パラメータ R L D
入出力関係 i(t) =1
Rv(t) v(t) =
1
Bf(t) ω(t) =
1
Dτ(t)
(エネルギー消散) E(t) = Ri2(t) E(t) = Bv2(t) E(t) = Dω2(t)
基本要素 2 インダクタ 質量 慣性
パラメータ 1/L 1/M 1/J
入出力関係di(t)
dt=
1
Lv(t)
dv(t)
dt=
1
Mf(t)
dω(t)
dt=
1
Jτ(t)
または i(t) =1
L
∫v(t)dt v(t) =
1
M
∫f(t)dt ω(t) =
1
J
∫τ(t)dt
(速度エネルギー) E(t) =1
2Li2(t) E(t) =
1
2Mv2(t) E(t) =
1
2Jω2(t)
§2.3.1 数式モデルの等価性 78
変数 電気回路系 直動機械系 回転機械系
基本要素 3 コンデンサ バネ ねじりバネ
パラメータ C1
K
1
K
入出力関係 i(t) = Cdv(t)
dtv(t) =
1
K
df(t)
dtω(t) =
1
K
dτ(t)
dt
(位置エネルギー) E(t) =1
2Cq2(t) E(t) =
1
2Kx2(t) E(t) =
1
2Kθ2(t)
§2.3.1 数式モデルの等価性 79
§2.3.1 複合系の統一モデル
数式モデルの第 2の利点は、複合的な動的システムも統一して取り扱えることである。すなわち制御対象が電気系や機械系など異なる技術分野の部品から構成されていても、数式モデルにすればその境は何ら意識する必要がない。具体的な例を見てみよう。
【電気‐機械複合系の動的システム —DCサーボシステム—】
D
J
電気系 インターフェイス 機械系
aR aL
)(tvi
θ )(t
τ )(t
)(tia
)(tvb
Figure 17: DCサーボモータ
§2.3.1 複合系の統一モデル 80
Ü 図 17の DCサーボシステムは直流 (DC)モータを用いて、回転角度θ(t)を自在に変化させる装置で、ロボットアームの関節をはじめとする
多くの産業機器に応用されている。
Ü このシステムは、§2.2で説明した電気系システムである DCモータと回転機械系の複合システムである。ここで、
• Ra、 La は DCモータの電機子の抵抗とインダクタンス、• vi(t)、ia(t)は電機子への印加電圧と電流、
• vb(t)はモータの逆起電力、
• τ(t)、θ(t)はモータの発生トルクと回転角度
である。
Ü このシステムは印加電圧 vi(t)を入力、軸の回転角 θ(t)を出力とする動
的システムである。
この複合系の vi-θ入出力関係を表す微分方程式を求めてみよう。電気系と機械系の複合系であるので、先ず§2.2の例に従ってそれぞれについて微分方程式を求める。
§2.3.1 複合系の統一モデル 81
【電気系サブシステム】 La の値はきわめて小さいとし、電機子に印加する電圧を vi(t)、電機子回路に流れる電流を ia(t)として微分方程式を求めると、次式の結果が得られる。
Ladia(t)
dt+Raia(t) = vi(t)− vb(t) (109)
モータは見方を変えれば発電機であるので、モータの回転に応じて起電力 vb(t)が生じる。vb(t)は印加電圧 vi(t)と極性 (電圧の正負の方向)が逆になるので、符号が負になることより逆起電力と呼ばれる。
【機械系サブシステム】モータの発生トルクを τ(t)とすると、これを機械系の入力としたときすでに導いた回転体の運動方程式 (104)式より次の結果を得る。ただしねじりバネはないので、K = 0である。
Jd2θ(t)
dt2+D
dθ(t)
dt= τ(t) (110)
§2.3.1 複合系の統一モデル 82
【インターフェイス】電気系と機械系とを結びつける関係は、発生トルク (機械系)と電流 (電気系)、および逆起電力 (電気系)と回転速度 (機械系)の間に
τ(t) = Kaia(t) (111)
vb(t) = Kbdθ(t)
dt(112)
が成り立つ。ただしKa、Kb はモータ定数といい、モータにより決まった値である。
以上をもとに電機子電圧 vi を入力、モータの回転角度 θを出力とする複合系の入出力関係の微分方程式を導く。(111)式に (110)式を代入して電流 ia(t)を求めると、
ia(t) =J
Ka
d2θ(t)
dt2+
D
Ka
dθ(t)
dt(113)
§2.3.1 複合系の統一モデル 83
さらに、もう一度時間微分すると
dia(t)
dt=
J
Ka
d3θ(t)
dt3+
D
Ka
d2θ(t)
dt2(114)
である。両式と (112)式を、(109)式に代入すると、入出力関係の微分方程式
LaJd3θ(t)
dt3+(LaD+RaJ)
d2θ(t)
dt2+(RaD+KaKb)
dθ(t)
dt= Kavi(t)
(115)
を得る。
• 以上複合系の微分方程式は、インターフェイスの関係を使って両者を統合することによって得られた。
• 一旦得られた微分方程式は電気系、機械系の区別はない。
§2.3.1 複合系の統一モデル 84
§2.4 数式モデルの一般形
• 動的システムの具体的な例を挙げながら、入出力関係はすべて線形微分方程式で表されることを示した。
• また微分方程式になる理由は、それぞれのシステムには何らかのエネルギー蓄積要素が存在することに起因することを示した。
ここでは一般的な数式モデルはどのような微分方程式の形になるか説明する。
§2.4 数式モデルの一般形 85
その前に今までの入出力微分方程式とは少し異なるケースを見よう。
【R-R-C回路】図 18の R-R-C回路において図中の vi(t), vo(t)を入出力とする微分方程式を導いてみる。
C
1R
2R
)(tvi
)(tvo
)(ti
Figure 18: R-R-C回路
§2.4 数式モデルの一般形 86
C の初期電圧 V0 = 0とすると、キルヒホッフの法則により、印加電圧 vi(t)と回路中に流れる電流 i(t)に
vi(t) = R1i(t) + vo(t) (116)
vo(t) = R2i(t) +1
C
∫ t
0
i(σ)dσ (117)
が成り立つ。
(117)式の中間変数 i(t)を消去して整理すると、次の入出力関係の微分方程式が得られる。
C(R1 +R2)dvo(t)
dt+ vo(t) = CR2
dvi(t)
dt+ vi(t) (118)
• この数式モデルには入力 vi(t)の時間微分が現れている。つまり、動的システムの構造によっては上の式のように出力の微分だけでなく、入力の微分も出現することがある。
§2.4 数式モデルの一般形 87
以上より一般的に、動的システムの入出力関係の微分方程式は、入力を u(t)、出力を y(t)とすれば
andny(t)
dtn+ an−1
dn−1y(t)
dtn−1+ · · ·+ a1
dy(t)
dt+ a0y(t) =
bmdmu(t)
dtm+ bm−1
dm−1u(t)
dtm−1+ · · ·+ b1
du(t)
dt+ b0u(t)(119)
なる n階の線形微分方程式と、初期条件
diy(t)
dti
∣∣∣∣t=0
= yi, i = 0, 1, . . . , n− 1 (120)
dku(t)
dtk
∣∣∣∣t=0
= uk, k = 0, 1, . . . ,m− 1 (121)
で与えられる。
ここで nは動的システムの次数と呼ばれる。また実際のシステムは理想微分要素が存在していないため、右辺に出現する入力の微分の次数mは、m ≤ nを満たさなければならない。
§2.4 数式モデルの一般形 88
本章では、制御対象は動的システムであり、その挙動は微分方程式でモデル化できることを示した。
入出力関係の微分方程式を求める基本手順は、次のようになる。
1. 複雑な制御対象を分析し、いくつかの基本要素ないしはそれらの複合体である部分システム (サブシステム)に分解する。
2. 各部分システムの入出力関係に物理法則を適用し、入出力関係(微分方程式)をたてる。方程式中に積分が含まれる場合は式の両辺を時間微分するなどの方法で微分のみの式に変形する。
3. 部分システム間のインターフェイスを見つけ、関連の微分方程式を結合する。
4. 3の操作を繰り返し全体の微分方程式をたてる。この過程において、入出力変数以外の中間変数が現れる場合、変数変換ないしは時間微分等を施すなどの方法で中間変数を消去し、最終的に入出力変数のみからなる微分方程式を求める。
§2.4 数式モデルの一般形 89
• 複雑な力学系は直接微分方程式を求めるのではなく、ラグランジアンを用いた解析力学による手法が一般的であるが、詳細は省略する。
• また、実際のシステムには物理法則が分からない制御対象もある。そのときは入出力データから入出力関係を導く方法もあるが、その方法は第 5章で説明する。
§2.4 数式モデルの一般形 90
§3 伝達関数
第 2章で動的システムの入出力関係を微分方程式で表せることを示した。本章では微分方程式にラプラス変換を施し、入出力関係を伝達関数として表すこともできることを示し、伝達関数の持つ利点や性質について説明する。また部分 (サブ)システムを一つのブロックと見なし、制御対象を複数のブロックの結合として表現する方法にも言及する。
§3 伝達関数 91
§3.1 微分方程式とラプラス変換
ラプラス変換は時間関数だけでなく、微分方程式に対しても有効である。
R-L-C回路の微分方程式 (80)式と初期条件 (81)式を再度示すと
LCd2vo(t)
dt2+RC
dvo(t)
dt+ vo(t) = vi(t) (122)
vo(0) = V0,dvo(t)
dt
∣∣∣∣t=0
= V0 (123)
であり、これにラプラス変換を適用してみる。先ず (122)式の両辺をラプラス変換すると、
L[LC
d2vo(t)
dt2+RC
dvo(t)
dt+ vo(t)
]= L [vi(t)] (124)
となる。
§3.1 微分方程式とラプラス変換 92
ここで入出力電圧 vi(t), vo(t)のラプラス変換を
L [vi(t)] = Vi(s) (125)
L [vo(t)] = Vo(s) (126)
とする。(124)式の左辺に対して、(29)式の微分に関するラプラス変換を適用すると
L[dvo(t)
dt
]= sVo(s)− vo(0) = sVo(s)− V0 (127)
L[d2vo(t)
dt2
]= s2Vo(s)− svo(0)−
dvo(t)
dt
∣∣∣∣t=0
= s2Vo(s)− sV0 − V0 (128)
が得られる。これらを (124)式に代入し、ラプラス変換の線形性を考
§3.1 微分方程式とラプラス変換 93
慮して整理すれば、次式を得る。
(LCs2 +RCs+ 1)Vo(s) = Vi(s)︸ ︷︷ ︸(微分方程式部分)
+ (sV0 + V0)︸ ︷︷ ︸(初期条件部分)
(129)
同様な操作を一般的な動的システムの微分方程式と初期条件
andny(t)
dtn+ an−1
dn−1y(t)
dtn−1+ · · ·+ a1
dy(t)
dt+ a0y(t) =
bmdmu(t)
dtm+ bm−1
dm−1u(t)
dtm−1+ · · ·+ b1
du(t)
dt+ b0u(t) (130)
diy(t)
dti
∣∣∣∣t=0
= yi, i = 0, 1, . . . , n− 1 (131)
dku(t)
dtk
∣∣∣∣t=0
= uk, k = 0, 1, . . . ,m− 1 (132)
に施してみよう。
§3.1 微分方程式とラプラス変換 94
(130)式をラプラス変換すると、
snY (s)−n∑
k=1
sn−kyk−1 + an−1
(sn−1Y (s)−
n−1∑k=1
sn−k−1yk−1
)+ · · ·+ a0Y (s)
= bm
(smU(s)−
m∑k=1
sm−kuk−1
)+ bm−1
(sm−1U(s)−
m−1∑k=1
sm−k−1uk−1
)+ · · ·+ b0U(s) (133)
となる。
§3.1 微分方程式とラプラス変換 95
上式を整理し (129)式にならって微分方程式部分と初期値部分に分けて表すと
(sn + an−1sn−1 + · · ·+ a0)Y (s) = (bmsm + bm−1s
m−1 + · · ·+ b0)U(s)︸ ︷︷ ︸(微分方程式部分)
+n∑
k=1
sn−kyk−1 + an−1
n−1∑k=1
sn−k−1yk−1 + · · ·+ a1y0
−bmm∑
k=1
sm−kuk−1 − bm−1
m−1∑k=1
sm−k−1uk−1 − · · · − b1u0︸ ︷︷ ︸(初期値部分)
(134)
となる。
§3.1 微分方程式とラプラス変換 96
• このように微分方程式をラプラス変換すれば、微分方程式と初期条件を一つの式として表すことができる。
• さらに (134)式に示すように、微分方式部分のラプラス変換は、単に y(t)→ Y (s)、u(t)→ U(s)とし、1階微分は d
dt → s、2階微分 d2
dt2 → s2、n階微分は dn
dtn → sn と置き換えてやればよい。
• なお (129)、(134)式を用いて微分方程式の解を求める方法は第 4章で明らかにする。
§3.1 微分方程式とラプラス変換 97
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数
§3.1の結果を基に、動的システムの数式モデルとして微分方程式とは別に、伝達関数を導入する。
出力電流入力電圧V G
I
Figure 19: 抵抗要素の入出力関係
図 19のように抵抗をシステムと見なし、抵抗に流れる直流電流 I
を出力信号、端子間の直流電圧 V を入力信号としよう。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 98
その入出力関係として有名なオームの法則
I = GV (135)
が成り立つ。Gはコンダクタンスと呼ばれ、G = 1/Rである。
ここで抵抗の機能を特徴付ける値 Gは、出力電流 I と入力電圧 V
の比として次のように与えられる。
G =I
V(136)
• (136)式に準じ、動的システムの特徴を入力と出力の比として表せないだろうか。
• すでに述べたように動的システムの入出力 u(t)、y(t)は微分方程式で関係づけられていて、単純に時刻 tにおける入出力比y(t)/u(t)ではその入出力関係を表すことができない。
• そこで入力関数のラプラス変換 U(s)と出力関数 Y (s)を用いて考えた場合はどうであろう。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 99
動的システムの入出力関係は一般的に (130)式の微分方程式と(131)式の初期条件で与えられていることを示した。
ところが多くの実際の場合はシステムの初期値は 0である。例えば電気回路の場合は、コンデンサーに蓄えられている初期電荷は 0、機械振動系では平衡状態 0に静止しているような状況はよくある。
従って、動的システムの全ての入出力信号に関する初期条件を 0、すなわち、
diy(t)
dti
∣∣∣∣t=0
= yi = 0, i = 0, 1, . . . , n− 1 (137)
dku(t)
dtk
∣∣∣∣t=0
= uk = 0, k = 0, 1, . . . ,m− 1 (138)
と仮定した上で、動的システムの入出力関係を考える。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 100
このとき、(134)式の初期値部分は 0となり、
(sn + an−1sn−1 + an−2s
n−1 + · · ·+ a0)Y (s)
= (bmsm + bm−1sm−1 + · · · b0)U(s) (139)
となる。(139)式の両辺を (sn + an−1sn−1 + · · ·+ a0)と U(s)で割れ
ば、Y (s)と U(s)の比 G(s)が
G(s) =Y (s)
U(s)=
bmsm + bm−1sm−1 + · · · b0
sn + an−1sn−1 + an−2sn−1 + · · ·+ a0(140)
と得られる。
すなわち、初期条件が 0であるときの U(s)、Y (s)の入出力関係は
G(s) =Y (s)
U(s)あるいは Y (s) = G(s)U(s) (141)
と定義できる。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 101
• 上式は、形式上入力 U(s)が動的システムによりG(s)倍され、出力 Y (s)になると解釈でき、G(s)は図 3.1に示すコンダクタンスGに準じるものといえる。
• 入力 U(s)が G(s)を介して出力 Y (s)に伝達されるという意味でG(s)を伝達関数と呼ぶ。
• このように微分方程式で記述された動的システムは、全ての初期状態を 0とし、微分方程式をラプラス変換して得られる伝達関数としてもモデル化できる。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 102
時間関数
(時間領域)
動的システム
(微分方程式)
入力 出力
伝達関数
複素関数
(周波数領域)
)(tu
)]([ tuL )]([ tyL
)(ty
)(sY)(sU
=)(sG)(sY
)(sU
Figure 20: 伝達関数による入出力関係
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 103
伝達関数G(s)はつぎの特徴を持つ:
1. G(s)は、sを変数とする有理複素関数となる。すなわち次のように分母多項式 d(s)と分子多項式 n(s)の比となる。
d(s) = sn + an−1sn−1 + an−2s
n−1 + · · ·+ a0 (142)
n(s) = bmsm + bm−1sm−1 + · · · b0 (143)
G(s) =n(s)
d(s)(144)
2. 分母多項式の次数 nを伝達関数の次数と呼び、伝達関数においては必ず n ≥ mである。この性質を持つ伝達関数はプロパー、n > mならば厳密にプロパーであるという。
3. ただし、G(s)は微分方程式に現われる初期条件は全て 0としたときの結果である。
§3.2 伝達関数の定義と簡単な伝達関数 104
§3.3 基本的な伝達関数
本節では、制御工学で用いられる基本的な伝達関数を、実例として電気回路をあげながら説明しよう。
a)比例要素
一般的に、時刻 tの出力信号 y(t)が、時刻 tの入力信号 u(t)のみで決まる入出力関係
y(t) = Ku(t) (145)
を持つ要素は比例要素と呼ばれ、その伝達関数は
G(s) =Y (s)
U(s)= K : 定数 (146)
と表される。比例要素においては、入力信号は変形、遅延なしに一定の倍率で拡大または縮小され、出力される。
§3.3 基本的な伝達関数 105
b)積分要素
一般的に、入力 u(t)と出力 y(t)には
y(t) =1
TI
∫u(t)dt (147)
との関係を持つ積分要素の伝達関数は次のようになる。
G(s) =Y (s)
U(s)=
1
TIs(148)
入力が単位ステップ信号 I(t)であるとき、積分要素の出力は
y(t) =1
TI
∫ t
0
1dt =1
TIt (149)
となり、図 21に実線で示すように時間の増加と共に直線的に増加する。増加の速度が 1/TI によって決められ、TI が小さいほど増加は速い。従って、TI は積分時定数と呼ばれる。
§3.3 基本的な伝達関数 106
ある時刻 (t1)で入力を除去しても、すなわち u(t) ≡ 0 (t > t1)としても、積分は停止するが、出力が太い破線で示すようにその時刻の値のまま持続される。従って、積分要素は過去の入力に対する記憶機能を持つ。
1
t
)(ty
1tφ
IT
φ1tan -= 1
IT
Figure 21: 積分要素の出力
§3.3 基本的な伝達関数 107
c) 微分要素
(65)式のキャパシタ C の入力電圧と出力電流との微分関係に対しラプラス変換を行うと、伝達関数
G(s) =I(s)
V (s)= Cs (150)
が得られる。一般的に、入出力関係
y(t) = TDdu(t)
dt(151)
を持つ微分要素の伝達関数は
G(s) =Y (s)
U(s)= TDs (152)
となる。微分要素の出力は入力の一階微分に比例する。
§3.3 基本的な伝達関数 108
d) 1次遅れ系の伝達関数
(71)式に示す R-C回路の微分方程式 (65)式において vo(t)→ y(t),CR→ T , vi(t)→ u(t)と置き換えると,
Tdy(t)
dt+ y(t) = u(t) (153)
となる。初期条件を y(0) = 0とし、(153)式の両辺を (122)式に見習ってラプラス変換すれば
(Ts+ 1)Y (s) = U(s) (154)
を得る。これより 1次遅れ系の伝達関数 G(s)は
G(s) =1
1 + sT(155)
となる。
§3.3 基本的な伝達関数 109
入力にゲインK を持たせてより一般的な一階の微分方程式を
Tdy(t)
dt+ y(t) = Ku(t) (156)
とすれば、その伝達関数は
G(s) =K
1 + sT(157)
となる。
e) 2次遅れ系の伝達関数
(80)式の R-L-C回路の微分方程式は、入力にゲインK を持たせて一般的に書き換えると
d2y(t)
dt2+ a
dy(t)
dt+ by(t) = K ′u(t) (158)
となる。ただし、a = R/L, b = 1/(LC), K ′ = K/(LC)である.
§3.3 基本的な伝達関数 110
ここで初期条件を全て 0としてラプラス変換すると、
(s2 + as+ b)Y (s) = K ′U(s) (159)
となり、2次の伝達関数
G(s) =K ′
s2 + as+ b(160)
が得られる。
ここで a > 0, b > 0の場合、a = 2ζωn、b = ω2n、K ′ = Kω2
n と置き換えると、(160)式はつぎの 2次遅れ系の標準形として表現される。
G(s) = Kω2n
s2 + 2ζωns+ ω2n
(161)
ここで ζ を減衰係数、ωn を自然角周波数と呼ぶ。(161)式が標準形と呼ばれる意味は第 4章で明らかにする。
§3.3 基本的な伝達関数 111
以上伝達関数の基本要素を電気回路を中心に説明したが、これをまとめると表 4のようになる。§2.3で等価システムについて説明したように、力学系においても同様な基本要素が存在する。
Table 4: 伝達関数の基本要素
伝達関数要素名 伝達関数
比例要素 G(s) = K
微分要素 G(s) = TDs
積分要素 G(s) =1
TIs
1次遅れ系 G(s) =K
1 + Ts
2次遅れ系 G(s) =K ′
s2 + as+ b
(標準形) G(s) =Kω2
n
s2 + 2ζωns+ ω2n
§3.3 基本的な伝達関数 112
さて n次の項の係数が 1であるモニックな n次多項式を実数係数多項式に因数分解すると
sn+an−1sn−1+· · ·+a1s+a0 =
r1∏i=1
(s+ αi)
r2∏k=1
(s2+βks+δk) (162)
のように、1次と 2次の因子に分解される。ただし、r1 + 2r2 = nである。
αi = 0になる場合も考慮すれば、n次の分母多項式とm次の分子多項式からなる (140)式の一般の伝達関数は、分子分母をそれぞれ因数分解すれば、
G(s) = K
m1∏i=1
(s+ ai)m2∏k=1
(s2 + bks+ ck)
sln1∏i=1
(s+ di)n2∏k=1
(s2 + eks+ fk)
(163)
となる。ここで、m1 + 2m2 = m, l + n1 + 2n2 = n, l ≥ 0である。
§3.3 基本的な伝達関数 113
これより伝達関数は比例、積分、1次遅れ、逆伝達関数と呼ばれる1次遅れの逆数、2次遅れ及びその逆伝達関数の積に分解できる。
これは、任意の伝達関数は、基本要素を直列に結合した複合系と見なせることを意味する。このことが上の要素を基本要素と呼ぶ理由の1つである。
【例題 3.1】次の伝達関数を基本伝達関数の積に分解せよ。
G(s) =s2 + 2s− 3
s4 + 3s3 + 4s2 + 2s
【解】
G(s) =(s+ 3)(s− 1)
s(s+ 1)(s2 + 2s+ 2)
§3.3 基本的な伝達関数 114
§3.4 ブロック線図とシステムの結合
前節で動的システムの入出力関係は伝達関数で表現できることを示した。制御対象が複雑になると、対象をいくつかのサブシステムに分割し、各サブシステムの伝達関数を求め、特性を解析する方法が良く用いられる。
サブシステムの伝達関数をブッロク (塊)、各ブロック間の信号の結合を結線で表したものをブロック線図と呼ぶ。ブロック線図は、制御対象全体の構造と信号の流れを把握しやすくするためにしばしば用いられる。
§3.4 ブロック線図とシステムの結合 115
ブロック線図は、図 22に示すような (a)伝達ブロック、(b)信号の加え合わせ点、(c)信号の引き出し点、の 3つの部品から構成される。
+
(b) 加え合わせ点 (c) 引き出し点(a) 伝達ブロック
)(sU )(sY)(sG
)()()( sUsGsY = )()()( sZsXsY ±=
)(sX )(sY )(sX )(sX
)(sX)(sZ±
Figure 22: ブロック線図の基本部品
ブロック線図には信号の伝達を矢印で示してあるが、これは矢印の一方向にのみ信号が伝達されることを意味し、後ろ方向には何ら影響を与えないことに注意を要する。
§3.4 ブロック線図とシステムの結合 116
• 各部品の入出力関係は図の下段に示す式のとおりである。
• 伝達ブロックは入力を伝達関数 G(s)により出力に変換する機能を持つ。
• 加え合わせ点は図中に示した符号±に応じて信号X(s)、Z(s)の加減算が実行される。引き出し点は、同じ信号X(s)がブロックや加え合わせ点に供給される。
§3.4 ブロック線図とシステムの結合 117
§3.4.1 ブロックの結合と簡約化
制御系のブロック線図には 2つの伝達ブロックの結合法として図 23に示す 3つのケースがあり、それらは右の図に示すように一つのブッロクに統合される。
§3.4.1 ブロックの結合と簡約化 118
)(sU )(sX )(sY )(sU )(sY)()( 21 sGsG)(1 sG )(2 sG
(a)直列結合
)(sY)(1 sG
)(2 sG
)(sU )(sY)(sU
)(21 sGG ±±+
(b)並列結合
+)(sU )(sY
)(sG
)(sH-
)(sU )(sY)(sG)()(1 sHsG+
±
)(sX
(c)フィードバック結合
図 23: 伝達ブロックの結合法
§3.4.1 ブロックの結合と簡約化 119
ケース 1: 直列結合
図 23 (a)のように 2つのブロックが直列に結合された場合は、
G(s) =Y (s)
U(s)=
Y (s)
X(s)
X(s)
U(s)= G1(s)G2(s) (164)
となり、2つの伝達関数の積になる。
ケース 2: 並列接続
図 23 (b)のように 2つのブロックが並列に結合された場合は、
G(s) =Y (s)
U(s)=
G1(s)U(s)±G2(s)U(s)
U(s)= G1(s)±G2(s) (165)
となり、2つの伝達関数の加減算になる。
§3.4.1 ブロックの結合と簡約化 120
ケース 3: フィードバック結合
図 23 (c)のような 2つの伝達関数の結合をフィードバック結合といい、その伝達関数は次のように求められる。ここで
X(s) = U(s)±H(s)Y (s), Y (s) = G(s)X(s) (166)
より、X(s)を消去し、Y (s)/U(S)を求めると、
G(s) =Y (s)
U(s)=
G(s)
1∓G(s)H(s)(167)
となる。(167)式の分母における符号が反転していることに注意が必要である。
以上で示したように、動的モデルを伝達関数で表現した利点:
1) 2つの伝達関数の加減乗除算が自由に行える、
2) 様々な演算とブロック線図の構図が対応できる。
§3.4.1 ブロックの結合と簡約化 121
§3.4.2 ブロック線図の等価変換
§3.4.1で 2つのブロックの結合とその統合の結果を示したが、複雑なブロック線図を簡略化するには上の操作に加えて、図 24 (a)∼(e)の等価変換の法則を理解する必要がある。
+ + )(sY)(sY)(sG )(sG
±±)(1 sX )(1 sX
)(2 sX)(2 sX
)(/1 sG
(a)加え合わせ点の移動 1
)(1 sX)(1 sX)(sY )(sY
)(2 sX)(2 sX
)(sG )(sG
)(sG± ±
++
(b)加え合わせ点の移動 2
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 122
)(sG )(sG)(sY )(sY
)(/1 sG)(sX
)(sX )(sX
)(sX
(c)引き出し点の移動 1
)(sX)(sX
)(sY
)(sY
)(sY
)(sY)(sG
)(sG
)(sG
(d)引き出し点の移動 2
)(sX )(sX)(sY )(sY)(1 sG )(1 sG)(2 sG )(2 sG
(e)伝達ブロックの互換
図 24: ブロック線図の等価変換
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 123
【例題 3.2】以上の簡約化と等価変換規則を用いて 2.3.2節の DCサーボシステムの電機子電圧 vi(t)(入力)から回転角 θ(t)(出力)までの伝達関数を求めよう。
【解】先ず各部品の伝達ブッロクを作成する。電気系の伝達ブロックは (109)式にラプラス変換を施し入出力関係を整理すれば図 25 (a)になる。
同様に機械系の伝達ブロックは (110)式より図 25 (b)のようになる。
さらに、(111)、(112)式で与えられるインターフェイス部をブッロック化すれば、図 25 (c)のように求まる。これらの部品を Ia(s)はIa(s)どおし、Θ(s)は Θ(s)どおし逐次結線していけば DCサーボシステムのブッロック線図が図 20 (a)のように得られる。
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 124
+-
)(sVi
)(sVb
)(sIa
aa RsL +
1 1s1)(sT
DJs +Θ )(s Θ )(s
(a)電気系の伝達ブロック (b)機械系の伝達ブロック
)(sIa)(sVb)(sT
aK sKbΘ )(s
図 25: (c)電流‐トルク関係・逆起電力の伝達ブロック
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 125
+ 1-
1s1
)(sVi
aa RsL + aK DJs +
sKb
直列結合
Θ )(s
図 26: (a) DCサーボシステムのブロック線図
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 126
さらにこれをブロック線図の簡約化を適用すれば、Vi(s)からΘ(s)までの伝達関数を次のように求めることができる。まず上段の直列結合のブロックを一つのブロックにすれば図 20 (b)となり、さらにフィードバック結合を一つにすれば図 20 (c)に示す伝達関数が求まる。
+
- ))(( DJsRsLs aa ++aK
sKb
)(sVi Θ )(s
]))([( baaa KKDJsRsLs +++aK)(sVi Θ )(s
図 20: (b)直結結合の簡約化 (c)フィードバック結合の簡約化
§3.4.2 ブロック線図の等価変換 127
§4 動的システムの時間応答と安定性
• 第 2、3章において動的システムの入出力モデルとして微分方程式と伝達関数を示した。
• それでは動的システムに u(t)を入力したとき出力 y(t)は時間的にどのような応答をするであろうか。
• ここでは微分方程式と伝達関数から、動的システムの応答をいかに求めるかを考え、求めた応答をもとに、様々な動的システムが持つ時間応答の特性を説明する。
• さらに動的システムの時間応答の中で最も重要な性質である安定性を判別する方法について説明する。
§4 動的システムの時間応答と安定性 128
§4.1 動的システムの時間応答
動的システムに入力 u(t)を加えたとき、出力 y(t)は時間とともに変化する。その時間応答を見極めることは制御工学では重要である。
u(t)から y(t)を求めるには、2つの方法がある:
1. 図 21 (a)に示すように実システムに実入力を加え、その出力応答を実験的に観察する方法である。
2. 図 21 (b)に示すように、数式モデルを基に y(t)を計算で求める方法である。
§4.1 動的システムの時間応答 129
実システム実入力 実出力
実験による応答(a)
入力関数数式モデル
出力関数
数式モデルによる応答(b)
)(tu
)(tu )(ty
)(ty
Figure 21: 時間応答を見つける方法
§4.1 動的システムの時間応答 130
• 方法 1には次の問題点と特徴を持つ。
– 経済性の問題:実システムを稼働させることは、一般にコストがかさむ。加えて様々な入力に対する応答を調べるには、複数回の実験を必要とするため、さらに多くの費用や労力を必要とする。
– 安全性の問題:対象とするシステムが後に説明する不安定な場合、実験に爆発や暴走などの危険が伴う。
– ただし実験で得られた応答はまさしく実システムの応答であり、多くの情報が得られる。
実際の現場では、第 II部で説明するフィードバック制御系を構成した後、出力応答を実験的に確認することは必ず行われる。制御対象単体で応答を求める実験は不安定な場合もあるので慎重の行わなくてはならない。
§4.1 動的システムの時間応答 131
• 方法 2は次の特徴を持つ。
– 様々な入力に対する時間応答を容易に求めることができ、コストもかからず、危険も伴わない。
– ただし数式モデルが実システムの挙動を十分反映していないと正しい応答を求められない。
実際の場合は、数式モデルを十分検討し、正確なモデルを得ることにより、方法 2を用いるのが一般的である。
以下では数式モデルは実システムを正確に反映していると仮定する。
§4.1 動的システムの時間応答 132
§4.2 微分方程式の解法
ここでは微分方程式モデルから出力応答を求めてみる。入力に対する出力の時間的変化の様子を微分方程式から求めることを、微分方程式を解くという。
次の最も簡単な R-C回路の一階微分方程式を解いてみる。
dvo(t)
dt= − 1
CRvo(t) +
1
CRvi(t) (168)
vo(0) = V0 (169)
先ず、入力を零とした微分方程式
dvo(t)
dt= − 1
CRvo(t) (170)
の解を見つける。
§4.2 微分方程式の解法 133
(170)式において、2つの変数 vo、tを、左辺に vo、右辺に tと分離するように変形すると、
dvo(t)
vo(t)= − 1
CRdt (171)
となる。上のような微分方程式は、変数を分離できるので、変数分離型と呼ばれる。さて (171)式の両辺をそれぞれの変数で積分すれば、
左辺:∫
1
vo(t)dvo(t) = log |vo(t)| (172)
右辺:∫− 1
CRdt = − 1
CRt+ c (173)
となる。これを等しいとおいて変形すれば、
vo(t) = c′e−1
CR t (174)
となり、入力を 0としたときの出力 vo(t)が求まる。ただし、cは積分定数であり、c′ は c′ = ec なる定数である。
§4.2 微分方程式の解法 134
次に入力が零でない場合を、定数変化法を用いて解いてみよう。
(174)式の c′ を定数でなく、tの関数として考え、
vo(t) = c′(t)e−1
CR t (175)
とおく。両辺を tで微分すれば、次の結果を得る。
dvo(t)
dt=
dc′(t)
dte−
1CR t − 1
CRc′(t)e−
1CR t (176)
(175)、(176)式の結果を (168)式に代入すると次式を得る。
dc′(t)
dt=
1
CRe
1CR tvi(t) (177)
さらに (177)式を区間 [0, t]で積分すれば、
c′(t) =1
CR
∫ t
0
vi(τ)e1
CR τdτ + c′′ (178)
となる。ただし、c′′ は積分定数である。
§4.2 微分方程式の解法 135
上の結果を (175)式に代入して整理すれば、
vo(t) =1
CR
∫ t
0
e−1
CR (t−τ)vi(τ)dτ + e−1
CR tc′′ (179)
となる。このとき、(179)式は、初期値 vo(0) = V0を満たす必要があるので、積分定数 c′′ は c′′ = V0 となる。
以上により、任意の入力 vi(t)が t = 0で加えられたとき、微分方程式 (168)式の解は、
vo(t) =1
CR
∫ t
0
e−1
CR (t−τ)vi(τ)dτ + e−1
CR tV0 (180)
となる。右辺第 1項は入力 vi(τ), (0 < τ ≤ t)、第 2項は初期値に対する応答である。
§4.2 微分方程式の解法 136
ここで具体的な入力 vi(t)として、単位インパルス信号 δ(t)と単位ステップ信号 I(t)を用いて、それぞれに対応する出力を求めてみよう。
(a) (単位)インパルス応答: 初期条件を V0 = 0とする。(180)式にvi(t) = δ(t)を代入し、インパルス関数の積分の性質を使うと、
vo(t) =1
CRe−
1CR t (181)
となる。CR > 0なので、その出力は図 22に示す指数関数になる。
0 t
)(tvo
CRte /-CR
1
Figure 22: 単位インパルス応答
§4.2 微分方程式の解法 137
(b)単位ステップ応答:初期条件を V0 = 0、vi(t) = I(t)としたときの出力は単位ステップ応答と呼ばれ、その解は (180)式より
vo(t) = 1− e−1
CR t (182)
となる。(182)式のステップ応答の時間的変化を図 23に示す。
0 t
)(tvo
1CRte /-1-
Figure 23: 単位ステップ応答
§4.2 微分方程式の解法 138
• 以上 R-C回路の入出力関係を表す微分方程式を解いて、出力の時間応答を求めてみた。
• これは 1階の変数分離型の微分方程式であるので比較的簡単に解けるが、それでも積分など煩雑な手続きを必要とする。
• 2階以上の微分方程式を解くこともできるが、本講義ではこれ以上微分方程式の解法には立ち入らない。
• 伝達関数の逆ラプラス変換を用いてより簡単に出力応答を求める方法を 4.4節で明らかにする。
§4.2 微分方程式の解法 139
§4.3 インパルス応答と伝達関数
前節の R-C回路の例では、(180)式の第 1項の入力による出力応答
1
CR
∫ t
0
e−1
CR (t−τ)vi(τ)dτ
は、(181)式のインパルス応答
1
CRe−
1CR t
の変数 tを t− τ に置き換えた重み関数 1CRe−
1CR (t−τ)を入力 vi(τ)に
掛け、τ を区間 [0, t]で積分した値と見なせる。
このような時間関数の重みを掛けた積分を畳み込み積分と呼ぶ。この考えを一般的なシステムに拡張すると、次のようになる。
§4.3 インパルス応答と伝達関数 140
図 24のように、一般的な動的システムにおいて、初期値を 0、単位インパルス δ(t)を入力としたときのインパルス応答を g(t)としよう。
動的システム
t t
δ )(t g )(t
)(sG
Figure 24: 動的システムのインパルス応答
このとき、任意の入力 u(t)に対する初期値 0の動的システムの出力y(t)は、g(t)を用いて
y(t) =
∫ t
0
g(t− τ)u(τ)dτ (183)
と、畳み込み積分として与えられる。(証明略)
§4.3 インパルス応答と伝達関数 141
(183)式は、時刻 tの出力値 y(t)は、同時刻の入力だけでなく、過去の入力 (u(τ), 0 ≤ τ ≤ t)にも依存していることを示している。
すなわち時刻 tの出力 y(t)は、区間 [0, t]の入力とインパルス応答との畳み込み積分で決まり、決して未来の入力には依存しない。
この性質を因果律といい、動的システムに関する重要な概念である。
§4.3 インパルス応答と伝達関数 142
以上動的システムの入出力関係はインパルス応答 g(t)と入力 u(τ)
(0 ≤ τ ≤ t)の畳み込み積分としても表せることを説明した。
それでは g(t)と伝達関数 G(s)とはどのような関係があるのか?
(183)式に畳み込み積分のラプラス変換の公式を適用すると、
Y (s) = L [y(t)] = L[∫ t
0
g(t− τ)u(τ)
]= G(s)U(s) (184)
が得られる。これより伝達関数 G(s)とインパルス応答 g(t)の間には
G(s) = L [g(t)] (185)
なる関係が成り立つ。
ここまで伝達関数 G(s)は、微分方程式から定義してきたが、インパルス応答 g(t)をラプラス変換したものでもある。
§4.3 インパルス応答と伝達関数 143
【例題 4.1】 (181)式の R-C回路のインパルス応答をラプラス変換し、(170)式の微分方程式から導いた伝達関数と一致するかを確かめよ。
【解】表 1.1のラプラス変換表を用いて、(181)式の単位インパルス応答をラプラス変換すると、
G(s) = L[
1
CRe−
1CR t
]=
1
CRs+ 1
となる。一方、(170)式の微分方程式の初期条件は零、すなわちV0 = 0、とすれば、そのラプラス変換は
sVo(s) = −1
CRVo(s) +
1
CRVi(s)
となる。従って、
G(s) =Vo(s)
Vi(s)=
1
CRs+ 1
と得られ、両者の結果は一致する。
§4.3 インパルス応答と伝達関数 144
§4.4 伝達関数を用いた出力応答の計算法
以上示すように、微分方程式の求解やインパルス応答の畳み込み積分で出力を求めるには、積分など煩雑な計算を必要とする。
ここでは入力が与えられたときの出力を、伝達関数の逆ラプラス変換を用いて簡単に求める方法を説明する。
なお本節以降、断りがない限り入力は u(t)ないしは U(s)、出力はy(t)、Y (s)と表すこととする。
§4.4 伝達関数を用いた出力応答の計算法 145
(184)式より、y(t)は G(s)U(s)のラプラス逆変換
y(t) = L−1 [G(s)U(s)] (186)
でも求められることがわかる。
第 2章で、逆ラプラス変換は部分分数展開を用いるのが実用的であることを説明した。
(186)式を部分分数展開で求めるには、伝達関数 G(s)の分母多項式の因数分解が必要である。
伝達関数の分母及び分子多項式を因数分解することは動的システムにおいてどのような意味があるのであろうか。
§4.4 伝達関数を用いた出力応答の計算法 146
§4.4.1 伝達関数の極と零点
伝達関数G(s)の n次分母多項式 d(s)及びm次分子多項式 n(s)を因数分解すると
G(s) =n(s)
d(s)=
bm(s− z1)(s− z2) · · · (s− zm)
(s− p1)(s− p2) · · · (s− pn)(187)
となる。n(s)、d(s)の多項式の係数は実数であるが、zi、pj は複素数でもよい。
ここで伝達関数G(s)の分母多項式 d(s)を特性多項式、d(s) = 0とした次式を特性方程式と呼ぶ。
d(s) = (s− p1)(s− p2) · · · (s− pn) = 0 (188)
(188)式を満たす n個の根、p1, p2, . . . , pn を伝達関数 G(s)の特性根という。特性根は伝達関数 G(s)の極とも呼ばれ、動的システムの特性を示す重要なパラメータである。
§4.4.1 伝達関数の極と零点 147
また分子多項式 n(s)のm個の根 z1, z2, . . . , zm
n(s) = (s− z1)(s− z2) · · · (s− zm) = 0 (189)
を伝達関数 G(s)の零点と呼び、これも動的システムの特徴を表す重要なパラメータである。
【例題 4.2】次の伝達関数の零点と極を求めよ。
G(s) =s2 − 2s− 3
s4 + 5s3 + 10s2 + 10s+ 4
【解】G(s)を次のように因数分解し
G(s) =(s+ 1)(s− 3)
(s+ 1)(s+ 2)(s2 + 2s+ 2)
さらに s2 + 2s+ 2の2根を求めれば、零点は−1、3,極は−1、−2、−1± j となる。
§4.4.1 伝達関数の極と零点 148
§4.4.2 極とインパルス応答
インパルス応答を、逆ラプラス変換を用いて求めてみる。
まずもっとも簡単な伝達関数である 1次遅れ系
G(s) = K1
Ts+ 1(190)
のインパルス応答 g(t)を求める。ただし、K = 1とする。(190)式の極は p = −1/T である。
単位インパルス信号のラプラス変換は U(s) = 1であるので、g(t)はG(s)をそのまま逆ラプラス変換すればよく、
g(t) = L−1
[1
Ts+ 1
]= L−1
[1
T
1
s+ 1/T
](191)
となる。
§4.4.2 極とインパルス応答 149
ラプラス変換対表を用いて逆ラプラス変換をすれば、1次遅れ系のインパルス応答は、次のようになる。
g(t) =1
Te−
1T t (192)
ここで、
• 極 pを指数係数とする指数関数 ept をシステムのモードという。
• p < 0の場合、t→∞のときモード ept は 0に収束する。
• p > 0の場合、モード ept、そして g(t)は無限大に発散する。
§4.4.2 極とインパルス応答 150
それでは一般の伝達関数のインパルス応答を求めてみよう。
a)特性方程式が異なる実数根を持つ場合
(187)式の伝達関数の分母多項式 d(s)が全て異なる実数根 p1, . . . , pn
を持つとする。これより G(s)を部分分数展開し、逆ラプラス変換すれば、
g(t) = L−1
[A1
(s− p1)+
A2
(s− p2)+ · · ·+ An
(s− pn)
]= A1e
p1t +A2ep2t + · · ·+Ane
pnt (193)
となる。すなわちインパルス応答は、特性根 (極)pi (i = 1, 2, . . . , n)
を指数係数とする n個のモード epitに、係数 Aiをかけて和をとったものである。
§4.4.2 極とインパルス応答 151
ここで各係数 Ai は留数であり、
Ai = lims→pi
(s− pi)G(s)
=n(s)
(s− p1) · · · (s− pi−1)(s− pi+1) · · · (s− pn)
∣∣∣∣s=pi
(194)
i = 1, 2, · · · , n
と計算される。
1次遅れ系の場合と同様、pi > 0のモード epit は発散し、pj < 0のモード epjt は 0に収束する。
§4.4.2 極とインパルス応答 152
b)特性方程式が共役複素根を持つ場合
(187)式の特性根 pi、pi+1 が共役複素根、つまり pi = αi + jβi、pi+1 = p∗i = αi − jβi で、他の特性根は実数根であるとしよう。
このとき、pi、pi+1 に対応する G(s)の部分分数の係数 Ai、Ai+1 も共役複素数となり、Ai = σi − jµi とすれば、Ai+1 = A∗
i = σi + jµi
となる。このときのインパルス応答は次のようになる。
g(t)=A1ep1t+· · ·+Aie
pit+A∗i e
p∗i t+Ai+2e
pi+2t+· · ·+Anepnt (195)
ここで、pi、p∗i に対する 2つのモードを単振動合成すれば、
Aiepit +A∗
i ep∗i t = 2eαit(σi cosβit+ µi sinβit)
= 2√σ2i + µ2
i eαit sin(βit+ θi) (196)
となる。ただし、θi = tan−1(−σi/µi)である。
§4.4.2 極とインパルス応答 153
この共役複素数根に対応するモードは第 1章で示した指数関数重み付き正弦波関数で、αi < 0ならば振動しながら 0に指数減衰する。また αi = 0ならば e0 = 1なので、持続的振動し、αi > 0ならば振動しながら発散する。
他の実数根のモードは a)と同様の応答を示す。
§4.4.2 極とインパルス応答 154
c)特性方程式が重根を持つ場合
d(s)が k重根 p1、単根 pk+1, . . . , pnを持つとすれば、(187)式の伝達関数 G(s)は次のようになる。
G(s) =n(s)
(s− p1)k(s− pk+1) · · · (s− pn)(197)
この場合のインパルス応答は次のように求まる。重根を持つ場合の部分分数展開に注意すると
g(t) = L−1
[A11
(s− p1)k+
A12
(s− p1)k−1+ · · ·+ A1k
(s− p1)+
Ak+1
(s− pk+1)
+ · · ·+ An
(s− pn)
]=
A11
(k − 1)!tk−1ep1t +
A12
(k − 2)!tk−2ep1t + · · ·+A1ke
p1t
+Ak+1epk+1t + · · ·+Ane
pnt (198)
§4.4.2 極とインパルス応答 155
ここで重根 p1 に対応する係数 A1i は、留数の計算式より
A1i =1
(i− 1)!
[di−1
dsi−1
((s− p1)
k n(s)
d(s)
)]s=p1
i = 1, 2, . . . , k (199)
である。
その他の単根に対応する係数 Ak+1, . . . , An は、(195)式で求められる。
§4.4.2 極とインパルス応答 156
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答)
インパルス応答は数式の上では取り扱いやすいが、インパルス信号は実現しにくい。制御工学で一番用いられる応答は入力に単位ステップ信号を用いた単位ステップ応答である。
単位ステップ信号 u(t) = I(t)のラプラス変換は U(s) = 1/sである。これを (186)式に代入すると出力は
y(t) = L−1 [Y (s)] = L−1
[G(s) · 1
s
]= L−1
[1
s· bm(s− z1)(s− z2) · · · (s− zm)
(s− p1)(s− p2) · · · (s− pn)
]= L−1
[B0
s+
B1
(s− p1)+
B2
(s− p2)+ · · ·+ Bn
(s− pn)
]= B0 +B1e
p1t + · · ·+Bnepnt (200)
となる。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 157
従って,
• 全ての特性根 (極)pi (i = 1, . . . , n)が異なる負の実数根の場合は、モード epit (i = 1, . . . , n)は単調に減衰するので、(200)式の右辺第 2項以降は時間がたてば 0に収束し、y(t)は一定値 B0 に収束する。
• pi, pi+1 = p∗i が共役複素数で、その実部が負、虚数部が非零であるとき、モード epit、ep
∗i t を合成した応答は振動的に収束するの
で、y(t)は図 25に示すように振動的に一定値 B0 に収束する。
t
)(ty
0B
Figure 25: 振動的なステップ応答
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 158
• もし一つでも極の実部が正であると、その極に対応するモードが発散し、従って y(t)は、t→∞のとき、y(t)→∞と発散してしまう。
ここで G(s)に掛けた 1/sは単位ステップ応答のラプラス変換であるが、見方を変えれば G(s)に 1/sの伝達関数を持つブロックを直列に接続しているとも見なせる。
1/sは積分機能であるので単位ステップ応答はインパルス応答L−1[G(s)] = g(t)を積分した値
y(t) =
∫ t
0
g(τ)dτ (201)
と考えることもできる。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 159
【例題 4.3】1次遅れ系のインパルス応答 (195)式を積分して一次遅れ系のステップ応答を求めよ。
【解】結果は次のようになり、(182)式と次で求める (206)式の結果に一致する。
y(t) =
∫ t
0
1
Te−
1T τdτ = −e− 1
T τ∣∣∣t0= 1− e−
1T t (202)
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 160
それでは 2つの基本的伝達関数のステップ応答を求めてみよう。
a) 1次遅れ系の単位ステップ応答
K = 1とする。U(s) = 1/sであるので、出力 y(t)は逆ラプラス変換によって、次のように求まる。
y(t) = L−1
[1
Ts+ 1· 1s
]= L−1
[A1
s+
A2
s+ 1/T
](203)
ここで A1、A2 はそれぞれ
A1 =1
Ts+ 1· 1s· s∣∣∣∣s=0
= 1 (204)
A2 =1
Ts+ 1· 1s·(s+
1
T
)∣∣∣∣s=− 1
T
= −1 (205)
である。よって、
y(t) = 1− e−1T t (206)
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 161
となる。T = 2、T = 5としたときの応答の概形を図 26に示す。
0 t
1)(ty
2=T
5=T
0.633
Figure 26: 1次遅れ系のステップ応答
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 162
1次遅れ系の単位ステップ応答 y(t)は、振動的振る舞いは見せずに単調に増加し、やがて 1に収束する。時刻 t = T で
y(T ) = 1− e−1 ∼= 0.633
となり、およそ定常値の 63.3%に達する。また、
dy(t)
dt
∣∣∣∣t=0
=1
T(207)
であるので、1/T は応答の t = 0における接線となる。
T は時定数と呼ばれる。T が小さければステップ応答は早く、逆に大きければ遅くなる。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 163
(b) 2次遅れ系の単位ステップ応答
2次遅れ系の伝達関数
G(s) = K1
s2 + as+ b(208)
において a > 0、b > 0なるときは、(161)式で示されたように、減衰係数 ζ、自然角周波数 ωn を用いた標準形
G(s) = K ′ ω2n
s2 + 2ζωns+ ω2n
(209)
に書き直すことができる。まずこの標準形においてK ′ = 1としたときの単位ステップ応答を求める。特性方程式
s2 + 2ζωns+ ω2n = 0 (210)
の 2根は次のようになる。
p1, p2 = −ωnζ ± ωn
√ζ2 − 1 (211)
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 164
2根のタイプを√ζ2 − 1の値に応じて次の 3つのケースに分け、そ
の単位ステップ応答を調べてみよう。
(I) ζ > 1、すなわち√ζ2 − 1 > 0の場合は、2根
p1 = −ωn(ζ −√ζ2 − 1), p2 = −ωn(ζ +
√ζ2 − 1)は相異なる負の実
数根となる。このとき、y(t)は
y(t) = L−1
[1
(s− p1)(s− p2)· 1s
]= L−1
[A1
s+
A2
s− p1+
A3
s− p2
](212)
である。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 165
A1, A2, A3 は留数の計算式により、次のように計算される。
A1 =ω2n
(s− p1)(s− p2)· 1s· s∣∣∣∣s=0
= 1 (213)
A2 =ω2n
(s− p1)(s− p2)· 1s· (s− p1)
∣∣∣∣s=p1
=ω2n
(p1 − p2)p1= −
√ζ2 − 1 + ζ
2√
ζ2 − 1(214)
A3 =ω2n
(s− p1)(s− p2)· 1s· (s− p2)
∣∣∣∣s=p2
=ω2n
(p2 − p1)p2= −
√ζ2 − 1− ζ
2√
ζ2 − 1(215)
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 166
よって、y(t)は
y(t) = A1 +A2ep1t +A3e
p2t
= 1−√ζ2 − 1 + ζ
2√ζ2 − 1
ep1t −√ζ2 − 1− ζ
2√ζ2 − 1
ep2t (216)
となり、非振動的な応答をする。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 167
(II) ζ = 1の場合,√
ζ2 − 1 = 0となり重根 p1 = p2 = −ωn を持つ。従って表 1.1より
y(t) = L−1
[ω2n
(s+ ωn)2· 1s
]= L−1
[1
s− ωn
(s+ ωn)2− 1
s+ ω
]= 1− (1 + ωnt)e
−ωnt (217)
となる。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 168
(III) 0 ≤ ζ < 1の場合,√ζ2 − 1 < 0となり 2根は複素共役根
p1 = −ωn(ζ − j√1− ζ2), p2 = −ωn(ζ + j
√1− ζ2)
となる。この場合は少し複雑になる。まず次式が得られる。
y(t) = L−1
[ω2n
(s− p1)(s− p2)· 1s
]= L−1
[ω2n
(s+ ωnζ − jωn
√1− ζ2)(s+ ωnζ + jωn
√1− ζ2)
· 1s
]
= L−1
[1
s− s+ 2ζωn
(s+ ζωn)2 + (√1− ζ2ωn)2
]
= L−1
[1
s− s+ ζωn
(s+ ζωn)2 + (√1− ζ2ωn)2
− ζ√1− ζ2
√1− ζ2ωn
(s+ ζωn)2 + (√1− ζ2ωn)2
](218)
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 169
表 1.1を用いて逆ラプラス変換すれば y(t)は次のようになる。
y(t) = 1− e−ζωnt cosβt− ζ√1− ζ2
e−ζωnt sinβt (219)
さらにこれを単振動合成し、整理すれば
y(t) = 1− 1√1− ζ2
e−ζωnt sin(βt+ φ) (220)
となり、ステップ応答は振動的な応答を示す。
ここでβ =
√1− ζ2ωn, φ = tan−1(
√1− ζ2/ζ).
(220)式において、ζ = 0とすると、
y(t) = 1− sin(ωnt+π
2) = 1− cosωnt (221)
となり、自然角周波数 ωn での振動が持続する。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 170
以上 2次遅れ系のステップ応答は、
• 減衰係数 ζ が 0 ≤ ζ < 1のとき振動的、
• ζ ≥ 1のとき 1次遅れ系に似た非振動的応答を示す。
• ζ を ζ = 0.1, 0.5, 0.7, 1, 1.5と変化させたときの具体的なステップ応答を図 27に示す。
0 5 10 15
0.2
0.6
1
1.4
ζ=0.1
ζ=1.5
ζ=0.5
ζ=0.7
ζ=1
)(ty
tnω
Figure 27: ζ に対応するステップ応答
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 171
(208)式の伝達関数において、a, bの一方でも負になると、特性根
p1, p2 =−a±
√a2 − 4b
2(222)
のどちらか一方または両方の実数部の値は正となり、対応するモードは発散し、結果的にステップ応答も発散することになる。
以上インパルス及びステップ入力に対する応答を求め、1次遅れ系と 2次遅れ系の応答の特徴を説明した。
一般の入力に対しても部分分数展開に対するラプラス逆変換を用いれば、微分方程式を解くことなく出力の時間応答を求めることができる。
§4.4.3 極と単位ステップ応答 (インディシャル応答) 172
§4.5 動的システムの安定性と安定判別
ここで、システムの一番重要な性質となる安定性とその判別について説明する。
§4.5.1 安定性の定義
前節では、システムの極の実部が負ならば、インパルス応答 g(t)
は 0に、ステップ応答は一定値に収束し、極の実部が正のときインパルス応答もステップ応答も発散すると説明してきた。
現実の制御系では、応答が発散するということは正常の稼動ができず、場合によってシステムの暴走や破壊を意味し大変なことである。
このように出力が収束する、逆に発散することをシステムの安定性といい、大変重要な概念である。
§4.5.1 安定性の定義 173
安定性の定義は見方によっていくつかあるが、ここでは以下のように定義されている BIBO(有界入力有界出力)安定性を考える。
動的システムは、いかなる有界な入力信号 u(t)に対してもその出力 y(t)が有界になるならば、BIBO安定であるという。
BIBO安定であるための必要十分条件はシステムのインパルス応答g(t)が、 ∫ ∞
0
|g(t)|dt <∞ (223)
を満たすことである。
§4.5.1 安定性の定義 174
伝達関数 G(s)の全ての特性根 (G(s)の極)の実部が
Re[pi] < 0, (i = 1, 2, . . . , n)
ならば、g(t)は図 28 (a)のようになる。
このとき、|g(t)|の積分は図 28 (b)の斜線の部分となり、(223)式の条件を満たすので、BIBO安定となる。
§4.5.1 安定性の定義 175
0 5 10 15
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
(a)
t
)(tg
(b)
0 5 10 15
-0.2
0
0.2
0.4
0.6
t
)(tg
Figure 28: 安定なシステムのインパルス応答と |g(t)|の積分
§4.5.1 安定性の定義 176
一方、一つでも特性根 (極)の実部 Re[pi] > 0ならば、g(t)は図 29のようになり、このとき |g(t)|の積分は明らかに発散し、上の条件を満たさないので、BIBO不安定となる。
0 5 10 15 20 25-2000
-1000
0
1000
2000
3000
4000
t
)(tg
Figure 29: 不安定なシステムのインパルス応答
§4.5.1 安定性の定義 177
よって、伝達関数 G(s)の (BIBO)安定性は、特性根 (極)が次の性質を満たせばよいと言い換えることができる。
伝達関数の特性根、すなわち極の実数部が全て負であれば、安定である。また 1つでも実数部が正の極を持つ場合は出力が発散し、不安定になる。
§4.5.1 安定性の定義 178
制御工学では複素平面のことをしばしば s平面と呼び、s平面上の安定根 (極)と不安定根 (極)の配置を図 30に示す。以後実数部が負の複素平面を左半平面あるいは安定領域、実数部が正の複素平面を右半平面あるいは不安定領域と呼ぶ。
jb
a
x
x
x
xx
不安定根安定根
右(不安定)半平面左(安定)半平面
x
Figure 30: 安定根と不安定根
§4.5.1 安定性の定義 179
前節でインパルス応答と極の関係を述べてきた。その結果を安定性の視点からまとめ、図 31に極 p, p∗ = a± jbの配置とインパルス応答の慨形の関係を示しておいた。
左半平面(安定領域) 右半平面(不安定領域)
a
jb
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
X
Figure 31: 極の位置とインパルス応答の関係
§4.5.1 安定性の定義 180
図より明らかなように、極の実数部が負 (a < 0)の場合は、インパルス応答は 0に収束し安定である。
安定な応答を詳細に見ると、虚軸から遠くなる (a << 0)ほど収束のスピードは速い。また虚数部 bが大きくなると振動的応答の周波数が増す。極が虚軸上 (a = 0)にあるときは持続的な振動をする。
極の実数部が正 (a > 0)になると応答は振動しながら発散する。このとき虚数部の値 bが大きいほど振動数が増す。極が実軸上 (b = 0)
にあるときは、a < 0ならば非振動的に 0に収束し、a = 0ならばステップ状の応答になり、a > 0ならば非振動的に発散する。
§4.5.1 安定性の定義 181
§4.5.2 安定性の判別
伝達関数 G(s)の安定性を調べるには、特性方程式 d(s) = 0の (特性)根の実数部が全て負であるか否かを調べればよい。
1次遅れ系の場合は、d(s)が 1次式
d(s) = s+ a (224)
であるので、d(s) = 0の根は s = −aであり、a > 0ならば、安定であると簡単に判別できる。 また 2次系の d(s)は
d(s) = s2 + a1s+ a0 (225)
となるので、d(s) = 0の特性根 p1, p2 は根と係数の関係より
p1, p2 =−a1 ±
√a21 − 4a02
(226)
である。これより a1, a0 > 0ならば G(s)は安定、どちら一方が負、あるいは両方が負ならば不安定と判別できる。
§4.5.2 安定性の判別 182
d(s)が 3次以上になると根を見つけるのは極端に難しくなる。さらに 5次以上の多項式には根と係数の解析的な関係がないことは数学的に証明されている。
しかし根の具体的な値を求めることはできなくても、根の実部が全て負であるかどうかを、与えられた特性方程式の係数から判定する手法はいろいろ考案されている。
ここでは2つの有名な安定判別の手法を紹介する。
§4.5.2 安定性の判別 183
a)ラウスの安定判別法
ステップ 1 n次の特性方程式
a0sn + a1s
n−1 + · · · an−1s+ an = 0 (227)
の係数 a0, a1, . . . , anが全て非零でその符号が正ならば次に進む。ただし符号が全て負ならば −を掛けて正符号にする。ここで係数が異なる符号を持ったり 0であったりするときはただちに不安定と判定する。
ステップ 2 係数 ai をもとに、次のような n+ 1行からなるラウス表と呼ばれる係数の配列表を作成する。
§4.5.2 安定性の判別 184
Table 5: ラウス表
第 1行 (sn) a0 a2 a4 a6 · · ·
第 2行 (sn−1) a1 a3 a5 a7 · · ·
第 3行 (sn−2) b1 b2 b3 b4 · · ·
第 4行 (sn−3) c1 c2 c3 · · · · · ·
第 5行 (sn−4) d1 d2 d3 · · · · · ·...
...
第 n行 (s1) p1
第 n+ 1行 (s0) an
§4.5.2 安定性の判別 185
表中の係数は、次に与える 2× 2行列式を用いて逐次求められる。
bi = − 1
a1
∣∣∣∣∣∣ a0 a2i
a1 a2i+1
∣∣∣∣∣∣ , ci = −1
b1
∣∣∣∣∣∣ a1 a2i+1
b1 bi+1
∣∣∣∣∣∣ ,di = − 1
c1
∣∣∣∣∣∣ b1 bi+1
c1 ci+1
∣∣∣∣∣∣ , · · · , i = 1, 2, . . .
ステップ 3 ラウス表の左端の列の係数
a0, a1, b1, c1, d1, · · · , p1, an
が全て正のとき、特性根の実数部は全て負になり安定、一つでも負の値を持つときは不安定と判定する。不安定となったときは、係数の符号の反転する回数に等しい個数の不安定根を持つ。
§4.5.2 安定性の判別 186
【例題 4.4】特性方程式が、d(s) = s4 + s3 − s2 + 5s+ 6 = 0で与えられたときの安定性をラウスの安定判別法を用いて判別せよ。不安定の場合は不安定特性根の数を見つけよ。
【解】d(s)の係数は異符号なので明らかに不安定である。不安定根の個数を調べるためにラウス表を作成すると、次のようになる。
第 1行 (s4) 1 −1 6
第 2行 (s3) 1 5 0
第 3行 (s2) −6 6
第 4行 (s1) 6
第 5行 (s0) 6
§4.5.2 安定性の判別 187
これより左端の係数列は 1, 1, −6, 6, 6となり、2度符号が変化しているので不安定根は2つあることになる。
実際
d(s) = (s+ 1)(s+ 2)(s− (1 + j√2))(s− (1− j
√2))
となり,安定な根 −1, −2,不安定根 1± j√2を持つ。
b)フルビッツの安定判別法
ステップ 1 特性方程式
a0sn + a1s
n−1 + · · · an−1s+ an = 0 (228)
の係数 a0, a1, . . . , an が全て非零で正ならば次に進む。ただし全てが負ならば −を掛けて正符号にする。ここで係数が異なる符号を持ったり 0であったりするときは不安定と判定する。
§4.5.2 安定性の判別 188
ステップ 2 n× n(nは特性方程式の次数)フルビッツ行列を作る。
H =
a1... a3
... a5... · · · · · · 0
· · ·...
......
a0 a2... a4
... · · · · · · 0. . . . . . . . . .
......
0 a1 a3... · · · · · · · · ·
. . . . . . . . . . . . . . . . . ....
0 a0 a2 · · · · · · · · ·0 0 a1 a3 · · · · · ·0 0 a0 a1 · · · · · ·· · · · · · · · · · · ·· · · · · · · · · an
(229)
§4.5.2 安定性の判別 189
ステップ 3 以下の n個の行列式を求め、すべてが正であれば安定、一つでも負の場合は不安定と判定する。
H の下添え字は正方行列のサイズを意味する。
H1 = a1, H2 =
∣∣∣∣∣∣ a1 a3
a0 a2
∣∣∣∣∣∣ , H3 =
∣∣∣∣∣∣∣∣a1 a3 a5
a0 a2 a4
0 a1 a3
∣∣∣∣∣∣∣∣· · · · · · , Hn =
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣
a1 a3 · · · 0
a0 a2 · · · 0...
......
...
0 0 · · · an
∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣∣
§4.5.2 安定性の判別 190
【例題 4.5】パラメータK を含む特性方程式が次式となるとき、特性根が安定であるK の範囲をフルビッツの判別法を用いて求めよ。
d(s) = s3 + 5s2 + 6s+K
【解】フルビッツ行列を作ると
H =
5 K 0
1 6 0
0 5 K
(230)
となる。
§4.5.2 安定性の判別 191
係数がすべて正である条件よりK > 0,次にステップ 2の条件より
H1 = 5 > 0, H2 =
∣∣∣∣∣∣ 5 K
1 6
∣∣∣∣∣∣ = 30−K > 0,
H3 = H =
5 K 0
1 6 0
0 5 K
= K
∣∣∣∣∣∣ 5 K
1 6
∣∣∣∣∣∣ = K(30−K) > 0
これより安定となるK の範囲は、0 < K < 30と得られる。
§4.5.2 安定性の判別 192
演習問題
4.1 次の伝達関数 G(s)を (187)式の形に因子分解せよ。その零点と極を示せ。
(a) G(s) =5
s2 + 3s+ 2(b) G(s) =
2s+ 1
s2 + 3s+ 4
(c) G(s) =s2 + 6s+ 8
s3 + 2s2 − 5s+ 6(d) G(s) =
s+ 1
s2 + 5s+ 4
4.2 問 4.1で与えられている G(s)を持つシステムのインパルス応答とステップ応答を求めよ。
§4.5.2 安定性の判別 193
4.3 図示のフィードバック制御系に対し、
(a) 自然角周波数 ωn と減衰係数 ζ を求めよ。
(b) K = 40、T = 0.1のときのステップ応答を求めよ。
+ -
)(sy)(sr K)1( +Tss
4.4 図示のフィードバック制御系に対し、自然角周波数 ωn = 2
[sec/s]、減衰係数 ζ = 0.8となるときのパラメータK と aの値を求めよ。
+ -
)(sy)(sr )1( +sK12)1( 2 +++ ssa
4.5 次の特性方程式を持つシステムの安定性をラウスの安定判別法で判別せよ。不安定な場合、不安定特性根の数を求めよ。
§4.5.2 安定性の判別 194
(a) s2 + s+ 1 = 0
(b) s3 + 2s2 + s+ 1 = 0
(c) s4 + 2s3 + s2 + 2s+ 1 = 0
(d) s5 + 2s4 + s3 + 3s2 + 4s+ 5 = 0
(e) s5 + 2s4 + 3s3 + 6s2 − 4s− 8 = 0
(f) s5 + 2s4 + 3s3 + 2s2 + s+ 1 = 0
§4.5.2 安定性の判別 195
4.6 図示のフィードバック制御系が安定になるためのパラメータ T
の範囲を求めよ。
+ -
)(sy)(sr 11+Ts )1( +ss
2
4.7 図示のフィーダバック制御系に対し、
(a) 制御系が安定となるためのK と ζ の範囲を求めよ。
(b) ζ = 2のとき、制御系の極はすべて s = −1より左側の平面にあるためのK の値を求めよ。
+ -
)(sy)(sr K)102( 2 ++ sss ζ
§4.5.2 安定性の判別 196
ラウスの安定判別法に関する追加説明
2つの特殊ケースにおけるラウス表の作成法:
I. ラウス表のある行において、その 1番先頭の要素が零、それ以外の要素は非零であるケース。このとき、十分小さい正の数 ϵでこの先頭の零を置き換えた上、引き続きラウス表を完成する。
例えば、演習問題 4.5、(c)において、特性方程式
s4 + 2s3 + s2 + 2s+ 1 = 0
に対し、そのラウス表は次のように、第 3行の先頭の要素が 0となり、計算が続けられない。
§4.5.2 安定性の判別 197
第 1行 (s4) 1 1 1
第 2行(s3) 2 2 0
第 3行(s2) 0 1
第 4行(s1) ?
第 5行(s0)
⇒
第 1行 (s4) 1 1 1
第 2行(s3) 2 2 0
第 3行(s2) ϵ 1
第 4行(s1) 2− 2ϵ
第 5行(s0) 1
ϵは十分小さいので、2− 2ϵ < 0となる。従って、不安定である。
しかも、第 1列の数値の符号は 2回反転するので、右半平面に2つの(不安定)根があることがわかる。
§4.5.2 安定性の判別 198
II. ラウス表の第 k行の要素がすべて零であるケース。この現象は、特性方程式は、原点に対称する実根、共役複素根を持っていることを意味している。このとき、以下の方法で判別する。
(a) 第 k − 1行の係数を利用して新たな補助多項式を構築する。その次数は常に偶数である。
(b) 構築した補助多項式の sに対する微分を求め、得られた多項式の係数を第 k行に置く。
(c) ラウス表の計算を続ける。
(d) 原点に対称する根は、補助方程式から求める。
§4.5.2 安定性の判別 199
例えば、演習問題 4.5 (e)において、特性方程式
s5 + 2s4 + 3s3 + 6s2 − 4s− 8 = 0
に対し、次の結果を得る。
第 1行 (s5) 1 3 −4
第 2行(s4) 2 6 −8 →補助多項式 2s4 + 6s2 − 8
第 3行(s3) 8 12 ←その微分:8s3 + 12s
第 4行(s2) 3 -8
第 5行(s1) 1003
第 6行(s0) -8
§4.5.2 安定性の判別 200
以上に作成したラウス表の第1列は、符号が1回反転しているので、1個の右半平面の根があることがわかる。
また、補助多項式
2s4 + 6s2 − 8
より、原点に対称する根を次のように求められる。
s4 + 3s2 − 4 = (s2 − 1)(s2 + 4) = 0
⇓
s2 − 1 = 0, s2 + 4 = 0
⇓
s = ±1, s = ±2j
§4.5.2 安定性の判別 201
§5 システムの周波数応答
• 時間信号に含まれる様々な周波数の正弦波成分を抽出し、その信号の特徴を見つけることを、信号を周波数領域で解析するといい、きわめて有効な手法である。
• 動的システムの入出力関係も周波数領域で解析できる。
– 先ず、伝達関数の持つ特徴は周波数領域でもとらえることができることを説明する。
– ついでその特徴を周波数領域で如何に把握するかを示す。
伝達関数の周波数領域での解釈は制御理論の根幹を成す
もので是非とも習得して欲しい。
§5 システムの周波数応答 202
§5.1 正弦波入力と正弦波出力
正弦波関数
u(t) = A sin(ωt+ θ) (231)
は、
振幅 A、角周波数 ω [rad/s]、位相 θ [deg]
の 3つのパラメータにより決定される。
ここで、様々な正弦波信号を入力としたときの、動的システムの出力信号の波形を観測してみよう。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 203
G(s) = 1/(1 + s)であるシステムに、振幅 A = 1,位相 θ = 0と固定した上で、角周波数 ωをいろいろ変えて正弦波信号を入力したときの出力の観測結果である。
入力 出力
6 7 8 9-1-0.5
0
0.5
1
6 7 8 9-1
-0.500.51
6 7 8 9-1-0.5
0
0.51
1=)(sGs+1
6 7 8 9-1
0
1
6 7 8 9-1
0
1
1
6 7 8 9-1
0
t t
入力信号 出力信号
Figure 32: 1次遅れ系の正弦波応答
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 204
図 32より正弦波信号を 1次遅れ系に入力したとき、その出力も正弦波信号になることがわかる。さらに異なる周波数に対する応答について、次のことがいえる。
1. 出力信号の角周波数は、入力の正弦波信号の角周波数 ωと同じ。
2. 出力信号の振幅は、入力信号の振幅と異なる。1次遅れ系の場合、概ね高い周波数に対して振幅比は小さくなる。
3. 出力信号の位相も、入力信号の位相と異なり、その位相のずれは周波数の変化に伴って変化する。1次遅れ系の場合、周波数が高くなるにつれて位相はより遅れる傾向にある。
1の性質は、動的システムの線形性によるものである。2、3の性質は、入出力信号の振幅比と位相差の関係を示すものであり、各周波数に対して振幅比と位相差を調べる必要があることを意味している。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 205
以上は例による定性的な説明であるが、以下で正弦波信号を動的システムに入力したとき、出力も正弦波信号になることを理論的に示す。
位相 θを θ = 0とした正弦波信号
u(t) = A sinωt (232)
を安定な動的システムに入力したときの出力 y(t)を求めてみる。
簡単のため伝達関数 G(s)の極 (特性根)が全て異なり、
G(s) =bmsm + bm−1s
m−1 + · · · b1s+ b0(s− p1)(s− p2) · · · (s− pn)
(233)
で与えられるとする。システムは安定としたので極 pi (i = 1, . . . , n)
の実数部は全て負である。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 206
出力 y(t)を逆ラプラス変換を用いて求める。
(232)式の u(t)をラプラス変換すると、
U(s) =Aω
s2 + ω2(234)
である。
出力信号 y(t)のラプラス変換 Y (s)は、G(s)と U(s)の積であり、
Y (s) =bmsm + bm−1s
m−1 + · · · b1s+ b0(s− p1)(s− p2) · · · (s− pn)
Aω
(s+ jω)(s− jω)(235)
となる。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 207
(235)式の右辺を部分分数展開すると、
Y (s) = Aω
G(jω)
2j(s− jω)+
G(−jω)−2j(s+ jω)
+
n∑i=1
ci(s− pi)
(236)
となる。ただし、ci は (44)式を用いて、
ci = (s− pi)G(s)Aω
(s2 + ω2)
∣∣∣∣s=pi
=bmsm + bm−1s
m−1 + · · · b1s+ b0(s− p1) · · · (s− pi−1)(s− pi+1) · · · (s− pn)
Aω
(s2 + ω2)
∣∣∣∣s=pi
と求まる。
G(jω), G(−jω)は、それぞれ G(s)に s2 + ω2 = 0の 2根、s = jω,s = −jωを代入したときの複素数である。G(jω), G(−jω)は次節で説明するが互いに共役複素 G∗(jω) = G(−jω)の関係にある。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 208
共役複素である G(jω), G(−jω)を指数関数型式で表示すれば、
G(jω) = |G(jω)| ejϕ, G(−jω) = |G(jω)| e−jϕ, ϕ = argG(jω)
となる。これを (236)式に代入すると、
Y (s) = A |G(jω)|
ejϕ
2j(s− jω)+
e−jϕ
−2j(s+ jω)
+
n∑i=1
ci(s− pi)
(237)
となる。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 209
L−1[1/(s+ jω)] = e−jωt により、(237)式の逆ラプラス変換は
y(t) = A |G(jω)|[ejϕejωt − e−jϕe−jωt
2j
]+
n∑i=1
ciepit
= A |G(jω)|[ej(ωt+ϕ) − e−j(ωt+ϕ)
2j
]+
n∑i=1
ciepit
= A |G(jω)| sin(ωt+ ϕ) +n∑
i=1
ciepit (238)
となる。ただし公式 (ejθ − e−jθ)/(2j) = sin θを適用している。
pi の実数部は負であるので十分時間が経つと ciepit の項は全て 0
に収束し、出力 y(t)は
y(t) = A |G(jω)| sin(ωt+ϕ) = A |G(jω)| sin(ωt+argG(jω)) (239)
と,正弦波信号となる。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 210
(239)式より、出力の振幅は入力の振幅の |G(jω)|倍、位相は 0からϕ = argG(jω)に変化し、ωの関数になっていることがわかる。なお位相 ϕが正ならば、入力信号に比べ出力信号は位相が進み、負ならば位相が遅れていることになる。
正弦波信号は角周波数、位相、振幅の 3つのパラメータで決まるので,伝達関数 G(s)と入力の正弦波信号が与えられれば、十分時間が経過したときの出力の正弦波信号は (239)式から G(jω)を用いて一意に決定できる。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 211
【例題 5.1】伝達関数 G(s) = 1/(1 + 0.5s)のシステムに正弦波信号u(t) = 3 sin 2tを入力し、十分時間が経過した後の出力 y(t)を求めよ。
【解】 ω = 2と (239)式を用いれば、時間が十分経ったときの出力は
y(t) = 3 |G(2j)| sin(2t+ argG(2j)) (240)
である。ここで
G(2j) =1
1 + 0.5(2j)=
1
2− j
1
2= |G(jω| e−j π
4 =1√2e−j π
4 (241)
であるので、
y(t) = 3 · 1√2sin(2t− π
4) (242)
となる。これより出力信号は入力信号と比べて、振幅は 1/√2倍、位
相は π/4 = 45 遅れることになる。
§5.1 正弦波入力と正弦波出力 212
§5.2 周波数伝達関数
• 前節で、正弦波信号を安定なシステムに入力したとき、時間が十分経過したときの出力は、(239)式により求まることを示した。
• このとき正弦波出力信号を決定するのに大きな役割をなすのがG(jω)である。G(jω)は伝達関数 G(s)に s = jωを代入した複素数である。
G(jω)は周波数 ωの正弦波信号を入力したときの正弦波出力を決定するのに必要な情報を与えることにより、周波数伝達関数あるいは周波数応答関数という。
§5.2 周波数伝達関数 213
ある周波数 ωに対する G(jω)は複素数であり、その実数部を a(ω)、虚数部を b(ω)とすれば
G(jω) = a(ω) + jb(ω) (243)
となり、図 33に示すように複素平面の点 sとして表せる。
sb ω( )
a ω( ) Re
Im
|)(|ωjG
)(arg ωjG
Figure 33: 複素平面上での G(jω)
§5.2 周波数伝達関数 214
G(jω)の絶対値 |G(jω)|と偏角 argG(jω)は、a(ω)、b(ω)を用いて
|G(jω)| =√a2(ω) + b2(ω) (244)
argG(jω) = tan−1 b(ω)
a(ω)= ϕ(ω) (245)
と求められる。さらに G(jω)を次のように指数関数で表示できる。
G(jω) = |G(jω)| ejϕ(ω) (246)
(239)式に示すように、
• |G(jω)|は入出力信号の振幅比を与えるので、周波数 ωにおける伝達関数のゲイン、
• argG(jω)は、入出力信号の位相差を与えるので、周波数 ωにおける伝達関数の位相
という。
§5.2 周波数伝達関数 215
|G(jω)|、argG(jω)の値は、入力信号の角周波数 ωの値に大きく依存する。ωが変化するときの |G(jω)|をゲイン特性、argG(jω)を位相特性と呼ぶ。
ここで G(s) = n(s)/d(s)に s = −jωを代入したときの G(−jω)とG(jω)の関係を整理しておく。
分母多項式 d(s)と分子多項式 n(s)の係数はともに実数であるので、d(jω)と d(−jω)、n(jω)と n(−jω)は互いに共役複素の関係にある。従って、関係式
G(jω)∗ =n(jω)∗
d(jω)∗=
n(−jω)d(−jω)
= G(−jω) (247)
が成立つ。この関係を指数関数で表示したものが (237)式であり、ゲインと位相で見るならば次のようになる。
|G(jω)| = |G(−jω)| (248)
argG(jω) = − argG(−jω) (249)
§5.2 周波数伝達関数 216
表 6は、G(s) = 4/(s2 + s+ 4)に対し、ωを変化させたときの具体的なゲインと位相を求めたものである。
Table 6: G(s) = 4/(s2 + s+ 4)のゲインと位相
ω 点 sの番号 G(jω) |G(jω)| 20 log |G(jω)| dB argG(jω)
0 s0 1.00 + 0.00j 1.00 0.00 0.0
1 s1 1.20− 0.40j 1.26 4.70 −18.4
2 s2 0.00− 2.00j 2.00 13.90 −90.0
3 s3 −0.59− 0.35j 0.69 −7.50 −149.0
10 s4 −0.04− 0.00j 0.04 −63.7 −174.0
§5.2 周波数伝達関数 217
【例題 5.2】 d(s) = s3 + 2s2 + 4s+ 1としたとき、d∗(jω) = d(−jω)なることを確かめよ。
【解】
d(jω) = (jω)3 + 2(jω)2 + 4(jω) + 1
= (1− 2ω2) + j(4ω − ω3)
d(−jω) = (−jω)3 + 2(−jω)2 + 4(−jω) + 1
= (1− 2ω2)− j(4ω − ω3)
となり、d(jω) = d∗(−jω)である。
§5.2 周波数伝達関数 218
§5.3 周波数伝達関数の図式表現
• 周波数伝達関数 G(jω)には動的システムが持つ特徴が色濃く反映されている。表 5.1の例が示すように、ωを変えるとG(jω)はさまざまな値をとるがその特徴は表では読み取りにくい。
• G(jω)がもつ特性を解析したり、視覚的に特徴をとらえる方法として周波数伝達関数の図式的表現法がいくつか開発されている。
• ここではその代表的な方法であるベクトル軌跡とボード線図について説明する。それぞれの表現法の長所・短所を理解し、制御系の解析・設計に的確に利用できるようになることが必要である。
§5.3 周波数伝達関数の図式表現 219
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡
• ある ωに対するG(jω)は、図 33に示すように複素平面上の一点sとして、またこの点 sは、原点を起点とする位置ベクトルとして表現できる。
• ωを 0から +∞まで変化させたとき、ベクトル G(jω)の先端の点 sは複素平面上で軌跡を描く。この軌跡をベクトル軌跡という。
• また ωを −∞から +∞まで変化させたときの軌跡をナイキスト軌跡という。
ナイキスト軌跡は (247)式の関係より、−∞ < ω < 0と 0 < ω <∞の軌跡が実軸に対して対称であるので、ω = 0 ∼ +∞までの軌跡を描けば、その実軸対称の点として ω = −∞ ∼ 0までの軌跡が描ける。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 220
ベクトル軌跡を精確に描くためには、ω = 0 ∼ +∞までの全ての周波数に対するG(jω)の複素数値を知らなくてはならないが、適当な周波数を選びそれらの点を結べば概ねベクトル線図を描くことができる。
表 6で求めた点 s0 ∼ s4を用いて、G(s) = 4/(s2 + s+ 4)のベクトル軌跡は次のように描ける。
0s
1s2s
3s
虚軸
実軸
4s
-1.5-1
-0.5
0.5
11.5
-1 -0.5 0.5 1
Figure 34: G(s) = 4/(s2 + s+ 4)のベクトル軌跡とナイキスト軌跡
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 221
次は基本的な伝達関数のベクトル軌跡とナイキスト軌跡を描く。(実線がベクトル軌跡、破線がナイキスト軌跡の −∞ ≤ ω < 0の部分で
ある。)
a)積分要素のベクトル軌跡とナイスキト軌跡
積分要素 G(s) = 1/sに s = jωを代入すると、
G(jω) =1
jω= −j 1
ω(250)
となり、G(jω)は純虚数となる。これよりゲインと位相は
|G(jω)| = 1
ω(251)
argG(jω) = −90 (252)
となる。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 222
ω= 0
0
ω= -∞ ω=∞ 実軸
虚軸ω= - 0
Figure 35: 積分要素のベクトル・ナイキスト軌跡
ωを 0から +∞まで変化させると、ベクトル軌跡は図 35の実線で示すように虚軸上を −∞から 0に近づく。
ナイキスト軌跡では ωを −∞から 0に変化させたときの部分は破線で示すように、虚軸上を 0から∞遠方に遠ざかる。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 223
b) 1次遅れ系のベクトル軌跡とナイキスト軌跡
1次遅れ系 G(s) = 1/(1 + sT )に s = jωを代入すると、
G(jω) =1
1 + (ωT )2− j
ωT
1 + (ωT )2= U(ω) + jV (ω) (253)
となる。これより、G(jω)のゲインと位相はそれぞれ
|G(jω)| = 1√1 + (ωT )2
(254)
argG(jω) = − tan−1(ωT ) (255)
である。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 224
次に、1次遅れ系のナイキスト線図の技巧的な描き方を紹介しよう。
U(ω) =1
1 + (ωT )2(256)
V (ω) =−ωT
1 + (ωT )2(257)
であり、これらは次式を満たす。
(U(ω)− 1
2)2 + V (ω)2 =
[1− ω2T 2
2(1 + ω2T 2)
]2+
[−ωT
1 + ω2T 2
]2= (
1
2)2 (258)
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 225
ω=0
実軸10 ω=∞ω= -∞
虚軸
ωT=1
°45
Figure 36: 1次遅れ系のベクトル・ナイキスト軌跡
G(jω)の実部 U(ω)と虚数部 V (ω)が (258)式を満たし、V (ω) < 0
であるので、0 ≤ ω ≤ ∞に対応するベクトル軌跡は、実線で示す、中心が (0.5, j0)、半径が 1/2である円の下半円となる。
破線で示す上半円はナイキスト軌跡の −∞ ≤ ω < 0に対応する部分である。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 226
c) 2次遅れ系のベクトル軌跡とナイキスト軌跡
2次系の標準形であるG(s) = ω2n/(s
2 + 2ζωns+ ω2n)のナイキスト線
図を描く。s = jωを代入して整理すると、次の結果が得られる。
G(jω) =1
(1− ( ωωn
)2) + j2ζ ωωn
= U(ω) + jV (ω) (259)
ただし、
U(ω) =1− ( ω
ωn)2
(1− ω2
ω2n)2 + (2ζ ω
ωn)2
(260)
V (ω) =−2ζ ω
ωn
(1− ω2
ω2n)2 + (2ζ ω
ωn)2
(261)
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 227
以上より、次の結果が得られる。
|G(jω)| =1√
(1− ω2
ω2n)2 + (2ζ ω
ωn)2
(262)
argG(jω) = − tan−12ζ ω
ωn
1− ( ωωn
)2(263)
2次遅れ系のベクトル軌跡は減衰係数 ζ の値と密接な関係がある。
• ω = 0のとき、|G(j0)| = 1、argG(j0) = 0となり、ベクトル軌跡は点 (1, j0)から出発する。
• 0 < ζ < 1の場合は、ω = ωn のとき、|G(jωn)| = 1/(2ζ)、argG(jωn) = −π/2で、ベクトル軌跡は虚軸と交わる。
• ω → +∞のとき、|G(jω)| → 0、argG(jω)→ −πであり、ベクトル軌跡は負の実軸の方向から 0へ近づく。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 228
全体的に、2次遅れ系のベクトル軌跡は、第 IV象限から始まり、負の虚軸を横切って第 III象限に入り、最後に原点で終わる。
0 実軸
虚軸
ω=∞ ω=0
nω
nωnωnω ζ:小
ζ:大
1
Figure 37: 2次遅れ系のベクトル・ナイキスト軌跡
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 229
また、図に示すように、|G(jω)|は 1より大きなピーク値を持っている。このピーク値をとる角周波数は共振角周波数と呼び、一般的にωr で表記される。
さらに、ω = ωr と ω = 0のときの |G(jω)|の比 |G(jωr)|/|G(j0)|は共振ピーク値といい、Mp で表記される。
(262)式を ωに関して微分し、その結果を 0にすることで、ωr と減数係数 ζ との関係
ωr = ωn
√1− 2ζ2 (264)
が求められる。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 230
(264)式より、
• ζ = 1/√2 = 0.707の場合、ωr = 0である。すなわち、ζ = 0.707
のとき、ω = 0で |G(jω)|はピーク値をとる。
• ζ > 0.707の場合、ωr は虚数となり、共振周波数は存在せず、ω
の増大に伴って、|G(jω)|は単調減少する。
• 0 ≤ ζ < 0.707の場合、|G(jω)|のピーク値は、ω = ωr を (262)式に代入すると
|G(jωr)| =1
2ζ√
1− ζ2(265)
となる。これより、ζ → 0のとき、|G(jωr)| → ∞となり、インパルス応答は自然角周波数で振動する。
• 一方、ζ > 1の場合、ベクトル軌跡は近似的に半円となる。これは、このとき 2次遅れ系は 1次遅れ系に近い挙動をすることを意味する。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 231
以上より、ζ が変われば、4.4節で示したようにステップ応答も変わるが、そのベクトル軌跡ないしはナイキスト線図も大きく変わる。熟達してくるとベクトル軌跡を見れば制御系の特徴を視覚的に把握できるようになる。
それでは一般的な伝達関数
G(s) =bmsm + bm−1s
m−1 + · · ·+ b1s+ b0sn + an−1sn−1 + · · ·+ a1s+ a0
(266)
において、ベクトル軌跡はどのような特徴を持つか考察してみよう。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 232
(i) ω → +0の点
limω→+0
G(jω)はベクトル軌跡の始点であり、ω = 0、すなわち直流信号
が入力されたときの出力信号のゲインと位相を与えもので重要な情報である。G(s)が s = 0に極を持たない場合は
limω→+0
G(jω) = G(0) =b0a0
(267)
と、有限の実数となり、実軸上に始点を持つ。G(0) = b0/a0 はDC(直流)ゲインで、位相は 0 である。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 233
G(s)が
G(s) =b0 + b1s+ · · ·
sl(1 + a1s+ · · · )(268)
と s = 0に l位の極 (l重根)を持つ場合は、
limω→+0
G(jω) = limω→+0
b0(jω)l
(269)
となるので、b0 > 0の場合は ω → +0におけるナイキスト線図は複素平面上 −(π/2)lの方向の無限遠方からスタートすることになる。また b0 < 0の場合は π/2− (π/2)(l − 1)の方向の無限遠方からスタートする。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 234
(ii) ω → +∞の点
(266)式において、分母多項式の次数 nと分子多項式の次数mの差r = n−m > 0、すなわち伝達関数が厳密にプロパーであるとき、分母分子を sm で割り、jωを代入後 ω → +∞とすればベクトル軌跡は複素平面の原点に近づく。そのときの原点への近づき方は、
limω→+∞
G(jω) =bm
(jω)r(270)
であるので、 bm > 0ならば −(π/2)rの方向から、bm < 0ならば−(π/2)(r − 2)の方向から原点に近づく。
単なるプロパーの場合は
limω→+∞
G(jω) = bm (271)
と、実軸上の確定値 bm に近づく。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 235
(i)、(ii)はベクトル軌跡を描くための性質であるが、ベクトル軌跡より G(s)の特徴を読みとる方法でもある。
【例題 5.3】伝達関数 G(s) = 2/(s(s+ 1)(s+ 4))のベクトル軌跡の始点と終点の慨形をイメージせよ。
【解】G(s)は原点に 1位の極を持ち、b0 = 2 > 0であるので、−π/2の無限遠方すなわち −jωから出発する。また相対次数 r = 3であるので、(−π/2)× 3の方向から原点に近づく。
§5.3.1 ベクトル軌跡とナイキスト軌跡 236
§5.3.2 ボード線図
• ベクトル軌跡はゲイン特性と位相特性を同時に把握できるが、周波数を媒介変数として描いているので、周波数に関する情報を正確に得ることは出来ない。
• そこでゲイン曲線と呼ばれる周波数―ゲイン特性、位相曲線と呼ばれる周波数―位相特性の 2つのグラフを別々描けばゲインと周波数、位相と周波数の関係が読みとれる。これが次に示すボード線図である。
§5.3.2 ボード線図 237
先ずゲイン曲線であるが、横軸を角周波数 ωの対数目盛にとる。従って ωが 1 ∼ 10 [rad/sec]の間隔と、10 ∼ 100 [rad/sec]の間隔は等しくなる。このように ωが 10倍になる間隔を 1デカード [1 dec]と呼ぶ。
縦軸はゲインにとるが、次に定義するデシベルゲイン gとする。
g = 20 log10 |G(jω)| dB (272)
デシベル表示を用いると、ゲインが 1倍 (入出力の振幅比が 1)の場合、デシベルゲインは g = 0 dB、10倍の場合は g = 20 dB、100倍の場合は g = 40 dB、また 1/10倍の場合は −20 dB、1/100倍の場合は −40 dBになる。
次に位相曲線であるが、これは横軸をゲイン曲線と同様、ωの対数目盛、縦軸を位相角とし度 [deg]ととる。
§5.3.2 ボード線図 238
それでは基本要素のボード線図を描いてみよう。
a)積分と 1次遅れ系
積分要素のゲインと位相特性は (251)、(252)式より
20 log |G(jω)| = 20 log
∣∣∣∣ 1ω∣∣∣∣ = −20 logω (273)
argG(jω) = −90 (274)
であるので、ボード線図は図 38(a)のようになる。ゲイン線図は−20 dB/decの勾配を持つ直線になり、位相線図は −90 と一定である。−20 dB/decとは ωが 10倍、すなわち 1 dec大きくなると、ゲインが 1/10になることを意味する。
§5.3.2 ボード線図 239
ω (rad/sec)
位相(deg)
-91-90.5
-90
-89.5
-89
ゲイン (dB)
-40
-20
0
20
110- 210110010
Figure 38: (a)積分要素のボード線図
§5.3.2 ボード線図 240
また 1次遅れ系は、(253)式より
20 log |G(jω)| = −20 log√1 + (ωT )
2 (275)
argG(jω) = − tan−1(ωT ) (276)
となり、ボード線図は図 38(b)になる。ただし横軸は ωでなく ωT で正規化してある。ゲイン曲線、位相曲線は概ね
ωT << 1 : −20 log√1 + (ωT )
2 ∼= 0 dB, − tan−1(ωT ) ∼= 0
ωT = 1 : −20 log√2 = −3.01 dB, − tan−1(1) ∼= −45
ωT >> 1 :−20 log
√1 + (ωT )
2
∼= −20 log(ωT ) dB,− tan−1(1) ∼= −90
となる。
§5.3.2 ボード線図 241
ωT
-30
-20
-10
0
-90
-45
0
ωT=1
-20 dB/dec-3 dB
ωT=1/5
ωT=5
110110 - 010210-
Figure 39: (b) 1次遅れ系のボード線図
§5.3.2 ボード線図 242
1次遅れ系のゲイン線図と位相線図は、(277)~(277)式より図中に破線で示すような直線で近似できる。
• 先ずゲイン線図であるが、0 < ωT ≤ 1においては、概ね 0 dBの水平線で、ωT > 1においては、勾配が −20 dB/decの直線で近似できる。この 2本の直線の交点は ωT = 1である。時定数 T の逆数である角周波数 ωb = 1/T を折点角周波数といい、ωbでゲインは −3 dB、すなわち 1/
√2になる。折点角周波数 ωb は周波数
特性を表すのにしばしば用いられるパラメータ値である。
• 次に位相線図であるが、0 < ωT ≤ 1/5で 0、5 < ωT で −90,1 < ωT ≤ 5で −90/decの直線になり、ωb = 1/T で −45 となる。
§5.3.2 ボード線図 243
ボード線図より、1次遅れ系の様々な周波数応答の特徴を読み取れる。
• ωT > 1においては、ゲインの勾配が −20 dB/decの直線、位相は −90 となり、ほぼ積分要素と同じ特性を持つ。従って 1次遅れ系のことを不完全積分と呼ぶこともある。
• また ωb 以上の周波数の正弦波を入力したとき、出力振幅は周波数が高くなるほど小さくなり、高い周波数の信号は伝達しにくい特性を持つ。このように高周波帯域でゲインが減衰する要素を低域フィルタと呼ぶ。
ただし電子回路の折点角周波数は数百 kHzとか数メガ Hzのオーダであるが、制御系の場合はせいぜい数 Hzから 10 Hz程度である。
§5.3.2 ボード線図 244
b) 2次遅れ系のボード線図
2次遅れ系 G(s) = ω2n/(s
2 + 2ζωns+ ω2n)のボード線図を、周波数を
Ω = ω/ωn と規格化して描いてみよう。ゲイン特性と位相特性は、(262)、(263)式より
20 log |G(jω)| = 20 log
∣∣∣∣∣ 1√(1− Ω2)2 + 4ζ2Ω2
∣∣∣∣∣= −20 log
√(1− Ω2)2 + 4ζ2Ω2 (277)
argG(jω) = − tan−1
(2ζ
1− Ω2
)(278)
となる。これより、次の結果が得られる。
Ω << 1 : 20 log |G(jω)| ∼= 0 dB, argG(jω) ∼= 0
Ω = 1 : 20 log |G(jω)| = −20 log(2ζ) dB, argG(jω) ∼= −90
Ω >> 1 : 20 log |G(jω)| ∼= −40 log Ω dB, argG(jω) ∼= −180
§5.3.2 ボード線図 245
横軸を Ωの対数目盛にとり、ζ を変化させたボード線図を示す。
-40
-20
0
20
10-1 100 10 1-180
-135
-90
-45
0
位相 (deg)
ゲイン (dB)
Ω
Ω=1ζ=0.05
0.10.2
0.30.4
0.50.6
0.8ζ=1 -40 dB/dec
ζ=0.050.10.2
0.5 0.30.4
0.60.8
ζ=1
Figure 40: 2次遅れ系のボード線図
§5.3.2 ボード線図 246
これより以下のような 2次遅れ系のボード線図の特徴をつかむことができる。
(1) ゲイン特性は、Ω(= ω/ωn) >> 1で −40 dB/decの直線に漸近する。またこの漸近線は 0 dBの直線と Ω = 1すなわち自然角周波数 ωn で交わる。
(2) 位相特性は 0 から始まり, Ω(= ω/ωn) >> 1で 180 遅れる。
(3) 0 < ζ < 1/√2のとき、ゲイン特性は Ω =
√1− 2ζ2
(ω = ωn
√1− 2ζ2)において 1より大きいピーク値Mp
Mp =1
2ζ√1− ζ2
> 1 (279)
をとる。これは 98ページで説明したように出力が入力に共振する現象である。
§5.3.2 ボード線図 247
(4) ζ が 0に近くなるほどピーク値Mp は大きなり、一方 ζ ≥ 1/√2
ではピークは表れずゲイン曲線は単調減少となる。
(5) 2次遅れ系も低域フィルタの特性を持ち、ゲインが 1/√2(デシベ
ルでおよそ−3 dB)より大きい値を持つ周波数帯域をバンド幅 ωb
といい、これは
ωb = ωn
√1− 2ζ2 +
√(1− 2ζ2)2 + 1 (280)
で与えられる。
§5.3.2 ボード線図 248
c)一般的な伝達関数のボード線図
一般的な伝達関数のボード線図はどのようになるであろうか。その前にボード線図が持つ 2つの性質を明らかにしておこう。
(1)直列結合のボード線図
2つの伝達関数の積 G(jω) = G1(jω)G2(jω)で与えられるとき、これを極座標表示すれば
G(jω) = |G1(jω)| ej argG1(ω) |G2(jω)| ej argG2(ω)
= |G1(jω)| |G2(jω)| ej(argG1(ω)+argG2(ω)) (281)
となる。
§5.3.2 ボード線図 249
ejθ のゲインはいかなる θに対しても |ejθ| = 1であるので、G(jω)のゲインは
20 log |G(jω)| = 20 log |G1(jω)|+ 20 log |G2(jω)| (282)
と、2つの伝達関数のデシベルゲインの和となる。さらに位相も
argG(jω) = argG1(jω) + argG2(jω) (283)
のように 2つの位相角を加えればよい。
§5.3.2 ボード線図 250
(2)逆伝達関数のボード線図
伝達関数H(s)がH(s) = G−1(s)で与えられたとき、H(s)を G(s)
の逆伝達関数と呼ぶ。H(jω)のボード線図は、G(jω)のボード線図より次のように求めることができる。
H(jω) =1
G(jω)= |G(jω)|−1
e−j argG(jω) (284)
であるので、
20 log |H(jω)| = −20 log |G(jω)| (285)
argH(jω) = − argG(jω) (286)
である。すなわち G(jω)とH(jω)のゲイン線図、位相線図はそれぞれ 0 dB、0 を軸として上下対称となる。
§5.3.2 ボード線図 251
これより微分要素H(s) = s、不完全微分要素H(s) = 1 + sT や,H(s) = (s2 + 2ζωns+ ω2
n)/ω2n のボード線図は上で求めた積分要素、
1次遅れ系、2次遅れ系のボード線図を、対称軸を基に反転させることより簡単に求めることができる。
§5.3.2 ボード線図 252
一般的な伝達関数は、
G(s) =K∏
(1 + sTi)∏
(s2 + 2ζjωnjs+ ω2nj)
sm∏
(1 + sTk)∏
(s2 + 2ζℓωℓs+ ω2ℓj)
(287)
と、積分要素、1次遅れ要素、2次遅れ要素など基本的要素ないしはそれらの逆伝達関数の積として与えられる。
従ってボード線図は (1), (2)の性質を用いて、基本要素かその逆伝達関数それぞれのゲイン曲線、位相曲線を図的に加え会わせれば得られる。またそれぞれは a), b)で説明したように直線で近似できるので、その概形は容易に描くことが出来る。
§5.3.2 ボード線図 253
【例題 5.4】不完全微分 G(s) = 1 + sT のボード線図を描け。
【解】ボード線図の性質 (1)を用いれば、図 38 (b)の 1次遅れ要素G(s) = 1/(1 + sT )のボード線図を 0 dB及び 0 degを軸に反転させれば図 41に示すように得られる。
ωT
0
5
10
15
20
10
-1
10
0
10
1
0
45
90
ゲイン (dB)
位相(deg)
ωT=1
ωT=1/5
ωT=5
Figure 41: G(s) = 1 + sT のボード線図
§5.3.2 ボード線図 254
【例題 5.5】伝達関数
G(s) = 101 + 2s
s(s2 + s+ 1)
のボード線図の慨形を描け。
【解】G1 = 10, G2 = 1/s, G3 = 1+ 2s, G4 = 1/(s2 + s+ 1)のボード線図を図に示すように直線で近似する。それらを図的に加え合わせると、G(s)のボード線図の慨形が描ける。
§5.3.2 ボード線図 255
-50
0
50
10
-2
10
-1
10
0
10
1
10
2
-180
-90
0
90
3argG
|| 4G
Garg
4argG
|| 1G
|| 2G
|| 3G||G
1argG
2argG
ゲイン (dB)
位相(deg)
ω (rad/sec)
Figure 42: G(s) = 10(1 + 2s)/(s(s2 + s+ 1))のボード線図
§5.3.2 ボード線図 256
§5.4 右半平面に零点を持つ伝達関数の周波数応答— 非最小位相系 —
• 伝達関数の分母多項式の根である極が、右半平面にある場合を不安定極、左半平面にある場合を安定極とよび、システムの安定性は、極の実数部の正負に大きく依存する事を説明してきた。
• それでは分子多項式の根である零点が右半平面と左半平面に位置することで、系の特性は大きく変わるであろうか。この疑問に対する答はイエスである。
安定な伝達関数で、全ての零点が左半平面に位置するシステムを最小位相系、一つでも右半平面に零点をもつシステムを非最小位相系と呼ぶ。
最小位相系はボード線図で同じゲインを持つ伝達関数のうちで、位相遅れが最小となる伝達関数を持つ。
— 非最小位相系 — 257
それでは最小位相系と非最小位相系の応答の違いを具体例で示そう。2つの伝達関数
G1(s) =1 + s
s2 + s+ 1(288)
G2(s) =1− s
s2 + s+ 1(289)
を取り上げてみると、(288)式の零点は−1なので最小位相系である。一方 (289)式は、零点が 1で右半平面に位置するので、非最小位相系である。両者の単位ステップ応答を比較したものが図 43である。
— 非最小位相系 — 258
0 5 10
0
0.5
1
t
)(ty
Figure 43: 最小と非最小位相系のステップ応答
実線が最小位相系、破線が非最小位相系の応答である。
— 非最小位相系 — 259
非最小位相系の立ち上がりを注目して欲しい。スタート時、応答は正方向に向かうのではなく、負方向に向かっている。このような現象はオーバーシュートに対してアンダーシュートと呼ばれいる。
アンダーシュートは制御系の応答として好ましいものではない。例えば直流モータが組み込まれた系が非最小位相系とするなら、アンダーシュートはモータの逆回転を意味し、時によっては危険なことである。
— 非最小位相系 — 260
次に両者の周波数応答を見てみよう。図 44は、G1(s)、G2(s)のボード線図を、前者を実線、後者を破線で描いたものである。ゲイン特性は両者とも同じであるが、位相特性は非最小位相系であるG2(s)の遅れが G1(s)に比べて大きいことが分かる。このことが G1(s)が最小位相系と呼ばれる意味である。
— 非最小位相系 — 261
位相 (deg)
ゲイン(dB)
-20
-10
0
10-1
100
101
-200
-100
0
ω
Figure 44: 最小と非最小位相系のボード線図
§5.5 実験による周波数応答を求める
前節までは、与えられた伝達関数を用いて周波数応答を求める方法を説明してきた。しかし伝達関数がわからなくても、正弦波入出力信号
§5.5 実験による周波数応答を求める 262
を観測することにより、周波数応答を実験的に求める方法がある。伝達関数が分からない制御対象を暗箱 (ブラックボックス)と呼ぶ。、ブラックボックスである制御対象に正弦波信号
u(t) = A1 sin(ω1t+ ϕ1) (290)
をテスト信号として入力すると、同じ周波数 ω1 の正弦波信号の出力
y(t) = B1 sin(ω1t+ φ1) (291)
が観測されるはずである。このとき制御対象の周波数 ω1 に対するゲイン、位相は
|G(jω1)| =A1
B1(292)
argG(jω1) = φ1 − ϕ1 (293)
と実験的に求めることができる。異なる周波数 ω1,ω2, . . . , ωk, . . . , ωn のテスト信号を用いて順次同様な実験を行えば、
§5.5 実験による周波数応答を求める 263
各周波数に対するゲイン、位相の値が求まる。これを複素数ベクトルとして描けばベクトル軌跡が、ゲインー周波数、位相―周波数として描けばボード線図が得られる。
このように伝達関数がわからない制御対象でも実験的に周波数応答を把握でき、ボード線図を描けば、制御対象の伝達関数を推測することができる。この考え方は、モデルの同定へと発展していく。
実制御対象の多くは、あらかじめ伝達関数がわかることは希である。古典的制御理論は、ここに示すように伝達関数がわからなくても周波数応答実験を繰り返すことで制御対象の特徴 (周波数応答特性)を掌握でき、解析・設計技法を適用できる。それ故、古典的制御技術はときに周波数応答法とも呼ばれ、きわめて実用的な方法であり、現在に至るまで産業界で多用されている要因である。ただし不安定な制御対象にはこの方法は有効でなく注意を要する。
§5.5 実験による周波数応答を求める 264
演習問題
5.1 伝達関数 G(s)に,入力 u(t)を t = 0で印可し,十分時間が経過したときの出力 y(t)を求めよ.
(1) G(s) =1
4s2 + 2s+ 1u = 2 sin t
(2) G(s) =s
s2 + 3s+ 2u(t) = I(t)
(3) G(s) =s2 + 4
(s+ 1)(s+ 2)(s+ 3)u(t) = 6 sin 2t
(4) G(s) =s+ 1
s2 + 5s+ 4u(t) = e−t
5.2 G(s) =2
s(1 + 0.1s)において,ω = 0、ω = 1、ω = 5、ω = 10、
ω = 50に対し、表 5.1と同じ表を作成し,それをもとに G(s)のナイキスト線図とボード線図を描け.
§5.5 実験による周波数応答を求める 265
5.3 ナイキスト線図が図のように与えられている.G(s)の形を推測せよ.
-2 -1 0 1 2
-3
-2
-1
0
1
2
3
(a)
実軸
虚軸
-1 -0.5 0 0.5 1 1.5
-0.8
-0.4
0
0.4
0.8
実軸
虚軸
(b)
§5.5 実験による周波数応答を求める 266
5.4 次の伝達関数のボード線図を描け。
(1) G(s) = K(Ts± 1) (K = 10 T = 0.1)
(2) G(s) =K
Ts± 1(K = 10 T = 0.1)
(3) G(s) = Ksl (K = 10, l = 1, 2, 3)
(4) G(s) =K
sl(K = 10, l = 1, 2, 3)
(5) G(s) =T1s+ 1
T2s+ 1(1 > T1 > T2 > 0)
(6) G(s) =T1s− 1
T2s+ 1(T1 > T2 > 0)
§5.5 実験による周波数応答を求める 267
5.5 次の伝達関数のボード線図を直線で近似して慨形を描け.
(a) G(s) =2
s(1 + 3s)(b) G(s) =
s+ 1
s2 + 1.4s+ 1
(c) G(s) =2s+ 1
(5s+ 1)(3s+ 1)
§5.5 実験による周波数応答を求める 268