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21 ドイツにおける 青少年教育施設等の調査報告

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ドイツにおける

青少年教育施設等の調査報告

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ドイツにおける青少年教育施設等の調査報告

1. 青少年教育施設の全体像

青少年教育施設(Jugendbildungsstätte)は、教育を志向したユースワークの施設であ

る。施設は、宿泊設備を有し、青少年ならびにボランティア、青少年活動(ユースワーク、

Jugendarbeit)関係職員が講座、研修や週末セミナーなどや数日あるいは数週間にわたる

プログラムや集会などにおいて、社会的・文化的・政治的な課題に向かうことに貢献して

いる。これらの取組は、多くの場合、関係者による教育的サポートを受けて実施されてい

る。

ドイツの青少年教育施設は、「民主的社会の基礎的な前提としての教育」の場として重視

されており、とりわけ民主主義や多様性、連帯について考え合う政治教育(politische

Bildung)が重視されている。体験教育の意味合いも、単なる自然体験や社会性の育成では

なく、その目的が民主主義、エコロジー、異文化理解に方向付けられている。つまり、施

設での体験や宿泊を通して、生活と学習の統一、つまり共同の学習と日常の形成が図られ、

その中に教育的な効果があること、そして教育施設として実験と革新の場であることが期

待されている。

なお、先にも述べた通り、青少年向けだけではなく、ユースワークの常勤職員の研修の

実施も行っている。

連邦統計局の統計によれば、ドイツ国内には 269 施設(2010 年)ある(巻末 表 1)。そ

の内訳は、設置者別では地方自治体などの公共団体が 17 施設(6.3%)、福祉団体や青少年

団体などの民間団体が 252 施設(93.7%)で、民間団体が圧倒的である。なお、国立の施設

は存在しない。

収容定員は、18,668 名で、公共団体が 1,019 名(5.5%)、民間団体が 17,649 名(94.5%)

である。内数として、障害者向けの定員が計 1,291 名(全体の 6.9%)設けられている点が

特徴的である。

施設の職員数は、2,610 名で、公共団体が 116 名(4.4%)、民間団体が 2,494 名(95.6%)

である。39 時間勤務の常勤者は、837 名(全体の 32.1%)である。また、教育・管理事務職

員の数は、1,107 名である(巻末 表 2)。教育関係職員の修了資格の主な内訳は、専門大学

(Fachhochschule)修了の社会教育士・社会福祉士 171 名(15.4%)、総合大学(Universität)

修了の教育士・社会教育士 102 名(9.2%)、保育士 47 名(4.2%)、教員 40 名(3.6%)とな

っており、全体の 25%程度が青少年援助関係の専門職である社会教育士・社会福祉士で占

められている。

州別の設置状況(巻末 表 3)は、旧西ドイツの各州に比較的多く、ベルリンを除く旧東

ドイツの州(ブランデンブルク州、メクレンブルク・フォアポメルン州、ザクセン州、ザ

クセン・アンハルト州、チューリンゲン州、人口比 16.3%)にはほぼ人口比に相当する 47

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施設(17.5%)が存在している。

青少年教育施設の施設数等の経年変化(巻末 表 4)を見ると、ドイツが再統合した 1990

年以降、施設数(ほぼ半減)、職員数(4割減)、収容定員ともに減少している。なお、全体

的には、青少年援助関連施設(保育所などの児童昼間施設は除く)は、1998 年 31,557 箇所

であったのが、2010 年では 32,676 箇所と若干ながら増加している。増加しているのは、乳

児院・養護施設などの施設教育(Heimerziehung)に関わる領域、困難を抱える家庭へのグ

ループ支援、就労支援の施設、ストリートワークの支援施設、教育・家庭カウンセリング

施設などである。地域の青少年センターなどの数は変動ないものの、青少年余暇・休養施

設、青少年キャンプ場、冒険遊び場などは減少傾向にある。

なお、今回の現地インタビュー1を通して、上記の統計的な数値が、実態を反映している

かどうかについては検討の余地がある。

2. 選定した組織の概要

(1) 全体像

国立青少年教育施設がないため、公共団体の多くは、表 1 の通り公的青少年援助の担当

団体(地方公共団体)である。青少年局(Jugendamt)を中心に青少年援助の一環としての

青少年教育に取り組んでいる。

民間団体の場合、児童・青年援助法(74 条~78 条)に規定があり、教会、民間福祉連盟、

青少年団体をあげることができる。それらは、行政側の委任や指示で活動するのではなく、

その課題を自己委任、自己責任で行なう。公・民間の関係は、パートナーシップ的協同(4条)とされ、公の責任は、民間の提供に対する全体的な計画化責任がある。 74 条第 3 項に規定されている、連邦レベルの連盟は、次のそれぞれの連盟や全国組織で

ある。 (a)民間福祉連盟は、ドイツ・カリタス協会、キリスト教会救済事業団(ディアコニー)、

ドイツ無宗派社会福祉協議会、連邦労働者福祉委員会(AWO)、ドイツ赤十字社、ドイツ・

ユダヤ人中央社会福祉協議会の頂上6団体が中心となっており、さらにこれらの団体がそ

の活動調整のため、「連邦民間社会福祉事業研究協会」を組織している。 (b)青少年団体の中央組織は、ドイツ連邦青少年連合(Deutscher Bundesjugendring: DBJR)、スポーツ青少年団(Deutscher Sportjugend: DSJ)、青少年政治連合(Ring politischer Jugend: RPJ)に大きく分かれる。 ドイツ連邦青少年連合に属しているのは、宗教団体(新教青年団事業団、カトリック青

年団)、労働組合(ドイツ労働総同盟 DGW 傘下の各組合の 25 才未満の青年で組織する組

合青年部 DGWJ など)、政治団体(社会民主党に近いドイツ社会主義青年団 SJD など)、

余暇関連団体(ドイツ・アルプス会青年団 DAVJ など)である。

1 2013 年 2 月 28 日(木)バイエルン州青少年連合(ケーニッヒスドルフ青少年教育施設館長 Josef Birzele

氏、連合事務局 Martina Liebe 氏)、3月 1 日(金)ドイツ教育施設協会(代表 Ulrich Ballhausen 氏)

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スポーツ青少年団は、各専門団体(例えばドイツ・サッカー協会 DFB 、ドイツ陸上競技

連盟 DLV)の上部組織であり、数的にはドイツ最大の青少年団体である。 青少年政治連合は、若者の政治教育やシチズンシップ教育を重要な課題としており、様々

な教育プログラムの実施・開発を行っている。メンバーは、キリスト教民主同盟系の若者

ユニオン(Junge Union)、社会民主党系の青少年社会主義者(Jusos)、緑の党青年部(Grüne Jugend)、自由民主党系の若者自由主義者(Junge Liberale)、無党派の青年民主主義・左

翼(die JungdemokratInnen/ Junge Linke)である。 これらの青少年団体の連合組織は、青少年助成政策、青少年政策立法にあって青少年団

体の共通の利益を代表し、また重要な政治的テーマへの態度決定を行なっている。

(2) バイエルン州青少年連合(Bayerischer Jugendring)の例

①概要

バイエルン州青少年連合は、バイエルン州の各種青少年団体の連合体であり、組織的に

は、7つの地域連合(Bezirksjugendring)と 96 の市・郡連合(Stadt- und Kreisjugendring)に区分される。地域の活動は、地域ユースワーク、地域青少年育成、オープン・ユースワ

ーク、ストリートワークである。これらのユースワークの教育・研修で重要となるのが 12

の青少年教育施設である。これら 12 の施設は、バイエルン州文部省により認可されている。

バイエルン州の青少年教育施設は、年間約 30 万日の宿泊数(利用者数×宿泊日数)を数

えている(表 1)。また、教育プログラムについても、約 3 万 4 千人の若者、約 8 千人のグ

ループ指導者や職員が関わっている。特徴的な点として、学校と連携したセミナーによる

利用が多く、全体の件数と比較して利用者数では半分、利用宿泊日数では 3 分の 1 に上っ

ている。

表 1 バイエルン州青少年連合傘下の青少年教育施設利用状況(2010 年) 利用者数 利用者宿泊日数

全利用数 97,997 273,744

一日利用のみ 8,408 6,823

青少年教育 35,004 86,745

職員研修 9,936 30,951

学校種 学校数 クラス数 児童・生徒数 利用宿泊日数

小学校 71 110 2,554 4,971

中学校・基幹学校 260 355 8,213 22,462

実科学校 149 342 9,744 22,004

ギムナジウム 178 466 14,096 31,750

継続教育学校 75 106 2,182 4,151

支援学校 25 35 532 1,890

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その他の学校 62 68 2,060 6,011

未区分の学校 12 0 9,298 10,674

計 832 1,482 48,679 103,913

(出典:2013 年 2 月 28 日バイエルン州青少年連合インタビューの際の提示資料) ②評価基準

青少年教育施設の質を高める基準として、以下の点が定められている

(Qualita tsstandards der bayerischen Jugenbildungssta tten2)。

・ 質と専門性の保証のため、相互にネットワークを築く。 ・ 青少年にとって鍵となる資格付与の教育研修を行い、人格的・職業的な可能性を広げる

機会を提供する。 ・ 社会的、政治的発展に対応し、青少年に方向付けの支援を行う。 ・ 学校外青少年教育とユースワークの専門的な場であり、こうした活動領域を更に発展さ

せる。 ・ 専任職員やボランティアの研修を行う。青少年指導者研修については、連邦青少年連合

の青少年指導者カード(Juleica)の付与の基準と共通の概念に従い実施する。 ・ 教育行事の指導、グループの相談・支援のため現場に専門職員を配置する。 ・ セミナー・会議・宿泊の機会を、とりわけ魅力的な状況で、学習が促進される施設環境

を伴って提供する。 ・ 教育活動、施設経営、管理運営の領域において共同して質保証を行う。 さらに、2008 年には施設の認証制度として、12 館の青少年教育施設の職員間でのピアレ

ビューによる認証の定期的実施が始まった(参照:巻末資料 1)。青少年にふさわしい設備

基準、共同の質基準、検証可能な管理基準、教育過程の支援などが中心になる。これらの

基準は、他の青少年施設のモデルともなっている。目下、青少年教育施設は、共通のマー

ケティング戦略に即して活動するとともに、ユースホステル事業会、バイエルン州学校宿

泊事業会と協働して、学校宿泊研修の質基準の改善に取り組んでいる。

③バイエルン州の特色

バイエルン州の特色は、次の点にある。これらの点は、他の州と異なっている点である。

・各館 2名の社会教育士の配置

州青少年援助の規定として、青少年教育施設に対して各館 2名の社会教育士の配置を定

め人件費を補助していることである。かたや、インタビュー対象であるワイマール青少年

教育施設の前館長バルハウゼン氏(ドイツ教育施設協会代表)によれば、ワイマール青少

年教育施設が位置するチューリンゲン州の場合、全体で 15 名の配置枠のみ(ワイマール

青少年教育施設の 5名を除く)であり、各館からの申請により配置を決める状況にある。

2 http://www.jugendbildungsstaetten.de/qualitaet.php

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・バイエルン青少年連合が州政府と緊密な関係にあり、助成が得やすい環境にある。

しかしながら、運営費の 5割から7割を宿泊費やゼミナール費などで自己調達している。

この点は、バルハウゼン氏(ドイツ教育施設協会代表)も、同館でも同様に 7割を自己負

担していると述べている3。利用者 1 人あたり平均、1泊約 30 ユーロ(約 3,600 円)の負

担となっている。

例えば、ケーニッヒスドルフ高原青少年教育施設の場合、次のような状況となっている。

全体の経費 2,400,000 ユーロ(約 3億円)

補助金 650,000 ユーロ(約 8千万円)

バイエルン青少年連合 100,000 2 人の社会教育士の人件費など

セミナー実施補助 25,000

上バイエルン地区補助金 100,000 人件費など

欧州連合からの補助金 300,000 職業指導などの援助

環境補助金 120,000

自己収入 1,750,000 ユーロ(約 2億 2千万円)

④青少年施設 バイエルン青少年連合の場合、下記の通り所属の 12 施設がホームページ4上で紹介され、

Web 上で予約受付ができるようになっている5。 a. 活動センター—サレジオ会ドン・ボスコス青少年教育施設ベネディクトボイエルン

( Aktionszentrum - Jugendbildungsstätte der Salesianer Don Boscos in Benediktbeuern) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(×)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(○)、

完全な給仕(○)、車いす(×) ・ベッド数:103(個室 1 室、2 人部屋 16 室、3 人部屋 21 室、7 人部屋 1 室) ・セミナー室:12 室(100 人収容 2 室、50 人収容 1 室、25 人収容 3 室、20 人収容

3 室、15 人収容 3 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、28 ユーロ~40 ユーロ(約 3,500~5,000 円) *1ユーロ= 約 125 円

3 総経費 180 万ユーロの内、補助金 40 万ユーロ、自己財源 140 万ユーロ。 4 http://www.gruppenunterkunft-bayern.de/uebersicht.php?sid=311b0b83f646b81296198cf407 ed67c7&typ=jubi 5 12 施設以外に、青少年活動研究所(Institut für Jugendarbeit)も宿泊施設としての機能を有している。 ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(○)、完全な給仕(○)、

車いす(○) ・ベッド数:54(個室 34 室、2 人部屋 10 室) ・セミナー室:8 室(150 人収容 1 室、40 人収容 2 室、20 人収容 3 室、12 人収容 2 室) ・キャンプ場:なし

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・設置年:1969 年

b. カトリック労働者運動(KAB)・キリスト教労働青年団(CAJ)ヴァルト・ミュンヘン青少年

教育施設(Jugendbildungsstätte Waldmünchen der KAB & CAJ gGmbH) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(○)、 完全な給仕(○)、車いす(○)

・ベッド数:155(個室 15 室、2 人部屋 21 室、4 人部屋 11 室、6 人部屋 9 室) ・セミナー室:10 室 ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、26.60 ユーロ~37.50 ユーロ ・設置年:1988 年、登録年:1995 年

c. 新教ルター派コーブルク教区ノイキルヒェン青少年の家(Jugendhaus Neukirchen Jubi des Evang. Luth. Dekanats Coburg) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(○)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:155(個室 15 室、2 人部屋 21 室、4 人部屋 11 室、6 人部屋 9 室) ・セミナー室:10 室 ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、26.60 ユーロ~37.50 ユーロ

d. ドイツアルプス青少年団ヒンデランク青少年教育施設(Jugendbildungsstätte der JDAV Hindelang) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(×) ・ベッド数:104(個室 1 室、2 人部屋 19 室、3 人部屋 4 室、4 人部屋 9 室、6 人部屋

2 室) ・セミナー室:7 室(50 人収容 2 室、30 人収容 2 室、25 人収容 1 室、20 人収容 1 室、

10 人収容 1 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、21.00 ユーロ~40.60 ユーロ ・設置年:1977 年、登録年:1992 年

e. “フォイアーシュタイン城”青少年の家(Burg Feuerstein Jugendhaus in Ebermannstadt) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

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完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:189(個室 1 室、2 人部屋 12 室、3 人部屋 6 室、4 人部屋 20 室、5 人部屋 6

室、6 人部屋 6 室)・セミナー室:16 室(200 人収容 1 室、50 人収容 2 室、40 人収容

1 室、20 人収容 6 室、8 人収容 4 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、22.00 ユーロ~33.00 ユーロ ・登録年:1979 年

f. 下フランケン地方青少年教育施設(Jugendbildungsstätte Unterfranken in Würzburg) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:63(個室 15 室、2 人部屋 3 室、3 人部屋 1 室、4 人部屋 6 室) ・セミナー室:6 室(150 人収容 1 室、90 人収容 1 室、40 人収容 1 室、30 人収容 2 室、

16 人収容 1 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付き、24.75 ユーロ~63.80 ユーロ

g. “ホーエネック城”青少年教育施設(Burg Hoheneck Jugendbildungsstätte in Ipsheim) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(×) ・ベッド数:77(個室 19 室、2 人部屋 7 室、4 人部屋 2 室、5 人部屋 1 室、6 人部屋 4室、7 人部屋 1 室)

・セミナー室:8 室(100 人収容 1 室、25 人収容 1 室、20 人収容 2 室、15 人収容 1 室) ・キャンプ場:30 テント ・利用料金は、1 泊食事付き、24.00 ユーロ~42.84 ユーロ ・登録年:1984 年

h. ケ ー ニ ッ ヒ ス ド ル フ 青 少 年 教 育 施 設 ( Jugendbildungsstätte Königsdorf,

Jugendsiedlung Hochland) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:95(個室 9 室、2 人部屋 9 室、3 人部屋 11 室、4 人部屋 6 室、5 人部屋 2室)

・セミナー室:8 室(100 人収容 1 室、60 人収容 1 室、30 人収容 2 室、20 人収容 1 室、 10 人収容 3 室)

・キャンプ場:600 テント分

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・利用料金は、1 泊食事付きで、29.50 ユーロ~40.00 ユーロ ・登録年:1996 年

i. シ ュ バ ー ベ ン 地 方 バ ー ベ ン ハ ウ ゼ ン 青 少 年 教 育 施 設 ( Schwäbische Jugendbildungsstätte Babenhausen) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:82(個室 12 室、2 人部屋 19 室、4 人部屋 8 室) ・セミナー室:12 室(120 人収容 1 室、40 人収容 1 室、25 人収容 2 室、20 人収容

4 室、10 人収容 4 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付きで、29.80 ユーロ~43.20 ユーロ ・設置年:1986 年、登録年:1986 年

j. ヴィンデベルク青少年教育施設(Jugendbildungsstätte Windberg) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:100(個室 16 室、2 人部屋 14 室、4 人部屋 9 室、5 人部屋 4 室) ・セミナー室:10 室(120 人収容 1 室、25 人収容 3 室、15 人収容 1 室、10 人収容

2 室) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付きで、30.00 ユーロ~40.00 ユーロ ・設置年:1971 年、登録年:1975 年

k.“シュヴァーネック城”教育センター・ドイツユースホステル(Bildungszentrum Burg Schwaneck DJH Jugendherberge in Pullach) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(○)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(○) ・ベッド数:131(2 人部屋 2 室、4 人部屋 23 室、6 人部屋 2 室、10 人部屋 2 室) ・セミナー室:8 室(150 人収容、80 人収容、50 人収容、40 人収容、30 人収容) ・キャンプ場:なし ・利用料金は、1 泊食事付きで、30.50 ユーロ~35.50 ユーロ ・設置年:1955 年

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l. ドイツ金属労働組合シュリーアゼー青少年教育施設(Jugendbildungsstätte der IG Metall Schliersee) ・利用:休暇期間(○)、学校での利用(×)、会議(○)、週末の行事(×)、自炊(×)、

完全な給仕(○)、車いす(×) ・ベッド数:54 ・セミナー室:6 室 ・キャンプ場:なし ・1 泊食事付きの利用料金は、資料に記載なし ・設置年:1955 年、登録年:1985 年

3.選定した組織の現地調査

(1) バイエルン州:“ホーエネック城”青少年教育施設(Burg Hoheneck Jugendbildungsstätte)

ニュルンベルク市の北西 50 ㎞(中部フランケン地方)に位置する中世の古城であるホー

エネック城は、1984 年に青少年教育施設として登録され、バイエルン青少年連合・ニュル

ンベルク市地域連合の施設( Kreisjugendrings Nürnberg-Stadt des Bayerischen Jugendrings)となっている。

① 利用者数

表 2 バイエルン州“ホーエネック城”青少年教育施設利用状況(2010 年) 利用者数 利用者宿泊数

全利用数 6,866 16,581

一日利用のみ 141 -

青少年教育 1,046 4,197

職員研修 156 461

学校種 学校数 クラス数 児童・生徒数 利用宿泊数

小学校 11 16 383 -

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中学校・基幹学校 30 33 652 -

実科学校 6 9 208 -

ギムナジウム 13 21 542 -

継続教育学校 32 40 794 -

支援学校 6 6 74 -

その他の学校 7 - 461 -

未区分の学校

計 105 125 3,114 -

重点領域 職業方向付け、集団訓練(Teamtrainings)、“学びを学ぶ”

(出典:2013 年 2 月 28 日バイエルン州青少年連合インタビューの際の提示資料)

②雇用の状況6(2011 年)

職員は、下記の 20 名が働いている。3人がフルタイムであり、他の 17 名は時間雇用とな

っている。

・ 指導部 1 名:館長 1(社会教育士を兼ねる)

・ 教育部 2 名:社会教育士 2

・ 総務部 3 名:帳簿係 1、人事係 1、宿泊受付係 1

・ 財務部 12 名:財務部長 1、財務係 1、清掃・給仕係 8、職業訓練生 1、補佐 1

・ 施設部 3 名:施設管理係 1、用務員 1、非軍事的役務者 1

③青少年教育を目的とした事業の内容

この施設のセミナーは、3つのルーブリックから構成されている7。

○職員研修(18 セミナー)……以下例示

・青少年指導者カード所有者のグループ指導者研修:2013 年 1 月 11 日~13 日、

45 ユーロ

・子どもたちとともに映像を作る:2013 年 2 月 23 日~24 日、20 ユーロ

・話はどこにでもある―文学・本の工房:児童・青年との活動:2013 年 3 月 4 日~8 日、

170 ユーロ;青少年指導者カード保持者 110 ユーロ

○休暇期間中のセミナー(8セミナー)……以下例

・ハリウッド—ショウタイム(12〜15 歳対象):2013 年 2 月 10 日~15 日、115 ユーロ

・南海の魔法(8~11 歳対象):2013 年 8 月 11 日~16 日、150 ユーロ

○学校の生徒対象の青少年教育……学校からの問い合わせに応じて実施

テーマ:職業選択・申請、チーム活動、創造的な問題解決、学びを学ぶ、青少年は援助を

6 Jugendbildungsstätte Burg Hoheneck (2009): Das Pädagogische Konzept der Jugendbildungsstätte Burg Hoheneck. 7 Jugendbildungsstätte Burg Hoheneck (2013): Jahresprogramm 2013.

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求めている、性教育、暴力への対応について

④現代的課題に対応した事業の内容

民主主義を学ぶ、多様性を知る、学ぶ楽しさを知る、自己肯定感を高めるという観点か

ら集団訓練がなされている。例えば、筆者が見学したケースでは、上記の「学校の生徒対

象の青少年教育」の一環として、ニュルンベルク市内のギムナジウム 6 年生の 5 日間の宿

泊研修「公正—生活—学習」が展開された。表 3 がその際のプログラムである。ギムナジウ

ム教員の話では、これらの活動を通じて、民主的な集団形成を図るとともに、各生徒の自

立につなげることをねらいとしている。また、ニュルンベルク市は人権都市の宣言をして

いることもあり、これらの取り組みは民主的シチズンシップ教育・人権教育の一環として

の位置づけも持っている。

表 3 タイムテーブル:ギムナジウム 6 年生宿泊研修「公正—生活—学習」 月曜

午前 到着、部屋割り、規則、城の紹介、ブドウ畑散策

午後のコーヒーブレイク前 「自己紹介しよう!」名札を作り紹介する

午後(2 時間) 「自信の三脚の椅子」能力—承認—責任:「私の長所」

夕方 共同の促進のためのゲーム(参照:It’s Team Time*)

火曜

午前 博物館見学(行動日)

午後(2 時間) 「承認を経験する—傾聴する」君は私の言うことをよく聞いてる?(Lion)、

傾聴への援助(It’s Team Time, 154 頁)

夕方(1 時間) 実践的試み「自画像」(Lion)—2 クラス一緒(参照:It’s Team Time、75 頁)

夜 夜の散策

水曜

午前 青い城

午後(1 時間) 「責任」他人をやっつけるのを終わりにする!“関係を築く者と終わり

にする者”、“終わりにする者”をやめる

夕方(2 時間) 「子どもの権利—私たちのクラスでも!」子どもの権利の学校での実現

(参照:Lion);「ストップは最終である!」規則が破られたとき、

どうする?

夜 ゲーム 100 の質問

木曜

午前 市内散策(バード・ウィンドハイム)

午後(2 時間) 「“コパク”プロジェクト」グループで活動。プレゼンテーションの

準備と実施(グループワークでのビジュアル化とプレゼンテーション:

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参照 It’s Team Time、204 頁)

夕方(2〜3 時間) プロジェクトの準備と実施;終了祭(ゲーム:参照 It’s Team Time、

163 頁)

金曜

午前 片付け;「君のことをすばらしく思う」—トレーニングの終了

(参照 Lion あるいは It’s Team Time、219 頁)

11 時 30 分 終了

朝食:8時 15 分、昼食:12 時 30 分、コーヒーブレイク:14 時 30 分、夕食:18 時

* Stein, Robert (2001): It’s Team Time. Ein Teamtraining für Schüler- ein Praxisbuch

für Lehrer. basp profil. Band 4.

(出典:生田周二(2007)『人権と教育—人権教育の国際的動向と日本的性格—』部落問題研

究所、80 頁)

(2) バイエルン州:ケーニッヒスドルフ高原青少年教育施設(Jugendsiedlung Hochland Jugendbildungsstätte)

①利用者数

表 4 バイエルン州ケーニッヒスドルフ高原青少年教育施設利用状況(2010 年) 利用者数 利用者宿泊数

全利用数 13,220 56,124

一日利用のみ 570 570

青少年教育 10,740 28,174

職員研修 1,780 4,810

学校種 学校数 クラス数 児童・生徒数 利用宿泊数

小学校 16 17 422 1,624

中学校・基幹学校 59 35 1,359 5,477

実科学校 18 37 1,076 3,730

ギムナジウム 18 39 1,620 6,244

継続教育学校 9 15 266 890

支援学校 5 9 133 846

その他の学校 28 38 980 4,876

未区分の学校

計 153 190 5,856 23,687

重点領域 専任職員・ボランティアの職業訓練・研修、社会的管理の継続教育、職業方向付け、

集団形成のためのクラスゼミナー、学校における情報伝達者、キャンプ、ロッジ利

用、環境・体験エクスカーション、持続発展教育

(出典:2013 年 2 月 28 日バイエルン州青少年連合インタビューの際の提示資料)

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② 用の状況8(2011 年)

指導部 2名 :館長 1(社会教育士を兼ねる)、財務・人事担当 1

教育部 14 名:社会教育士 3、保育士 1、環境問題担当 1、家族問題の相談 2(学生)、文化

教育担当 1、家族問題のプロジェクト指導者 1、父母の時間担当 2、実習生 3

総務部 9名 :受付・秘書 1、セミナー管理 1,施設保守 3、職業訓練生 1

非軍事的役務者 1、連邦ボランティア活動実施者 1、その他 1

財務部 25 名:財務部長 1、食堂担当 1、食堂・清掃担当 6、清掃担当 4、実習生 1、

職業訓練生 5、キャンプ援助 1、食堂・清掃担当援助 6

③青少年教育を目的とした事業の内容

主に、3つの領域でのセミナーの実施が行われている9。

○職員研修

・基礎コース:ボランティアのための講習・研修

青少年指導者カード講習、青少年センターでの活動、ユースワークの基礎など

・専任職員・ボランティアのための研修

対立処理・調停、機会としての多様性(異文化間学習)など

○学校関連青少年教育

・チューター、相談員などの研修

・学校のクラス対象のセミナー

コミュニケーション・共同トレーニング、プロジェクト・プレゼンテーションなど

○職業関連教育

・学校から職業への移行期にある青年のためのセミナー

ステップセミナー、自己の経歴を考えるなど

・職場で職業訓練をしている青年や労働青年のためのセミナー

④現代的課題に対応したモデル事業の内容

欧州連合からの補助金を得て、先の職業志向的なセミナーを展開している。この点は、

青少年ソーシャルワーク的な側面があり、近年の学校から職業訓練へ、職業訓練から就職

への関門の克服が大きな課題となっているからである10。

8 Jugendsiedlung Hochland Königsdorf (2011): Jahresbericht 2011. 9 Jugendsiedlung Hochland Königsdorf: Jugendbildungsstätte Königsdorf für den Bezirk Oberbayern. 10 参照:生田周二・大串隆吉・吉岡真佐樹(2011)『青少年育成・援助と教育』有信堂、69−76 ページ

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4. 制度的背景 (1) 青少年教育に関する法律、政策の整備状況、及び予算

①法的背景

青少年援助の根拠となるのは、1990 年制定の児童・青年援助法(Kinder- und Jugendhilfegesetz、略称 KJHG;Youth Aid Law)である。 その連邦基本法上の基礎は、次の通りである。 ・ 人格の自由な展開への権利(2 条) ・ 法の下での平等(3 条) ・ 親の教育権の保護(6 条 2,3 項) ・ 民主主義国家、社会福祉国家規定(20、28 条)

ここから、青少年の発達への支援、社会的公正の実現、家庭における親権の尊重、民主

的社会観が基盤になっていることがうかがえる。

より具体的に青少年援助活動を例示すると、児童・青年援助法によって設置されるドイ

ツ社会教育施設は、次の 5つのタイプに分けられる(Uhlendorff, 2009, 657-8)。宿泊型の青

少年教育施設は、最後の 5番目に位置する。

1) 児童のための通所施設……幼稚園、保育所、学童保育所

2)「教育(しつけ)への援助」のための拠点型・訪問型施設……入所施設(児童養護施

設、自立支援施設など)・住居グループ、通所型グループ、社会教育的家族支援

3) 青年職業援助と青少年社会福祉援助活動(ユース・ソーシャルワーク)の施設……青

年作業所、移民的背景を持つ青少年のための共同事業・統合事業

4) 家庭教育の相談所と施設

5) 学校外青少年活動(ユースワーク)と青少年教育の施設……青少年センター、青少年

教育施設(文化、美術、音楽、冒険遊び場など)

②児童・青年援助法のもとでの組織……青少年局—州青少年局—連邦家族・高齢者・女性・

青少年省 図 1「ドイツ連邦共和国における児童・青年援助の構造」にみられるように、地方自治体

(市、郡)、州、連邦における構造と法との関わりについて解説する。 青少年局(Jugendamt)は都市(Stadt)と郡(Landkreis)にそれぞれ置かれることに

なっている(69 条)。行政の一部であるが、次のような特殊性を示している。組織は、事務

局(Verwaltung)と、民間担当団体と青少年援助の経験ある市民から構成される青少年援

助委員会(Jugendhilfeausschuss)とからなる。前者の事務局は、青少年援助委員会に対

して専門的観点からの提案を行う役割を持つ。後者は、一定の権限を持つ行政の一部であ

って、委員会を通して青少年局の活動の形成に関わることになる。 各自治体の青少年援助委員会の役割(71 条(2))は、「若者とその家族の緊急の問題状況

の究明及び青少年援助の更なる展開のための示唆と提案」、「青少年援助計画」、「民間の青

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少年援助の助成」の 3 点である。特に「青少年援助計画」の策定は、計画—実施—評価の

一連の流れが重視されていることの反映である。 この青少年局の上に州青少年局(Landesjugendamt)が位置し、同様に事務局と委員会

に区分されている。この州青少年局は、最高州機関(Landesbehörde)に属すことになる

が、大多数の州では、社会・文部省が、2、3 の州では様々の省で分担されている。 また当然のことながら、青少年局の構造の規定、管理の分割は、それぞれの地方公共団

体の組織主権に任されている(70 条)。 連邦政府内では、連邦家族・高齢者・女性・青少年省が直接の管轄省となっている。

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図1

ドイ

ツ連

邦共

和国

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ける

児童

・青

少年

援助

の構

38

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(2) 各施設に対する評価制度……青少年援助計画(Jugendhilfeplanung)の策定

青少年援助計画(Jugendhilfeplanung)の策定は、児童・青年援助法の第 4 節「全体責

任、青少年援助計画」に明記されている。第 80 条(青少年援助計画)の規定は次の通りで

ある。 (1)公的青少年援助の団体(地方公共団体)は、その計画化責任の枠内で、 1) 施設と業務の現状を確認しなければならない。 2) 若者と監護権者の願望、要求、関心を考慮しつつ、中期的なスパンで、必要を算出しな

ければならない。 3) 必要を満たすために必要な予定を適宜かつ十分に計画しなければならない;その際、予

期されない必要も満たされうる準備がされなければならない。 (2)施設と業務は、とりわけ次のように計画されるべきである。 1) 家族内と社会的環境における接触が保たれ、大切にされる。 2) できる限り効果的で、多様で、相互に意見調整された提供が、青少年援助業務によって

保証されている。 3) 危険にさらされた生活・住居領域にある若者と家族がとりわけ助成される。 4) 母親と父親が、家族内の課題と就業とをうまく相互に折り合いを付けることができる。

(3)公的青少年援助の団体は、民間青少年援助の認可団体をその計画化のあらゆる段階で早

期に参加させなければならない。この目的のために、その団体は青少年援助委員会によ

って、地域を越えて活動している限りにおいては、地域を越えた団体の青少年援助計画

の枠内で州青少年援助委員会によって、聴聞されなければならない。詳細は州法が規定

する。 とりわけ、第 80 条第 3 項において「民間青少年援助の認可団体をその計画化のあらゆる

段階で早期に参加させなければならない」点を明記していることは公と民間の「パートナ

ーシップ」の具体化として重要である。 また、青少年援助計画の策定やそれに基づく評価を実施する上で、青少年局の職員の専

門職性に関わる規定も重要である。72 条(職員、研修)では、専門職の配置を義務的課題

として位置づけている。 1) 公的青少年援助の団体は、青少年局と州青少年局のもとに、専任で、それぞれの課題に

対して人格に応じてふさわしく、この課題に対応した職業訓練を受けた者(専門職

Fachkräfte)、あるいは社会的活動における特別の経験に基づいて課題を履行できる者

だけを雇用すべきである。(後略) 2) 青少年局や州青少年局の指導的機能は、一般的に、専門職だけに付与されるべきである。 3) 公的青少年援助の団体は、青少年局と州青少年局の職員の研修と実践相談を確保しなけ

ればならない。 さらに、79 条では、「青少年局と州青少年局の十分な装備の配慮」「必要に応じた専門職

の数の確保」が定められており、専門職性の重視の傾向をうかがうことができる。

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こうした法的背景から、「社会教育士」などの専門職の総数が増えているとともに、各施

設・団体・官庁における社会教育的専門職の比率も高まってきている。

(3) 政府による管轄の方法……民間優位の補完性原則( Subsidiaritätsprinzip; subsidiarity principle)

補完性原則とは、NPO などの民間の社会的団体が提供可能な仕事を政府はすべきではな

く、むしろ政府の責務はサービスが円滑に実施されるために、非営利組織を支援すること

である。 ドイツでは一般的に、非営利組織は、登録団体(eingetragener Verein, 略称 e.V.。最少

7 名を要する)、もしくは民法に定めるところの財団法人となっている。非営利組織は利益

を得る権利がない民間公益慈善団体であるため、その財源は、自らの手段で集めた資金(会

費、寄付、賞金の収入、懲罰的損害賠償金または宝くじからの収益など)のほか、大部分

は公共の資金が投入されている。例えば、ドイツの青少年団体の連合組織であるドイツ連

邦青少年連合は、ほとんど 100%が連邦の家族・高齢者・女性・青少年省からの資金で賄わ

れている。 よって、ドイツの非営利組織は、市民が関与する自発性と多様性に依拠しており、それ

を支援する公的部門とのパートナーシップが大切になっている。 こうした民間優位の背景には、キリスト教会や労働運動の社会事業の取組、1900 年前後

に隆盛したドイツの青年運動(Jugendbewegung; Youth Movement)などの歴史がある。

とりわけ、青年運動からは、ワンダーフォーゲル(Wandervogel)、ユースホステル

(Jugendherberge; Youth Hostel)などが生まれ、日本にもなじみのある存在となっている。

5. 文化的背景

(1) 青少年教育についての歴史的変遷

①青少年教護と青少年育成 青少年教育は、青少年援助の中の青少年育成の一環として発展してきている。 青少年援助は、青少年の福祉の増進の為の措置全体をさし、これまで大きく青少年教護

(Jugendfürsorge)と青少年育成(Jugendpflege)に分けて整理されてきた。 青少年教護は、非行少年、非行に陥る恐れのある少年、虚弱な少年、病気の少年、放置

された少年を教育し、健康を維持し、病気を治療する官庁及び団体の措置全体をいう。こ

れに対して、青少年育成は、前者と異なり、特別な問題を抱えない青少年を対象としてそ

の健康の増進をはかったり、スポーツの機会を与えたり、青少年の宿泊施設を作ったり、

その福祉の増進をはかる措置をいう。 この青少年援助の2部門は、歴史的にはまったく違った形で生成してきた。すなわち、

青少年教護は、基本的には、世紀転換期(1900 年前後)に、青少年対策として国家の側か

ら社会政策の一環として行われたものであり、対象となる青少年は当然労働者階級を中心

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とする下層階級所属者であった。青少年育成は教会、労働組合、自主青年組織などによっ

て行われた社会批判、文明批判を傾向として持つ下からの社会運動を根として持っている。

この中心的勢力は、中産階級であり学歴的にも比較的高いものであった。そのため青少年

援助は、上からと下からとの矛盾体として存在し、社会状況の変化に対応して様々な様相

を呈してきた。 ②1922 年ドイツ国青少年福祉法 以上の青少年教護をめぐる動向と青少年育成をめぐる動向とが、第一次世界大戦の敗北

を受けて、ワイマール期にドイツ国青少年福祉法(Reichsjugendwohlfahrtsgesetz: RJWG)

という形で集大成する。この法では、青少年局が設置され、市町村、市町村組合による青

少年援助の公的担当組織とすることが明記される。また州青少年局、ドイツ国青少年局も、

州及び全国的な課題実現の保障のために設置されることになる。しかし、財政的負担の観

点から、早くも 1924 年 2 月 14 日に緊急令が出され、青少年局の設立義務が中止になるな

ど、青少年援助の発展が妨げられることになる。 ③ナチス時代(1933 年から 1945 年) 1933 年から 1945 年までのナチス時代には、ドイツ国青少年福祉法の条文は本質的には

変えられなかった。しかし、自由青年運動団体、民間福祉団体の解散の後、青少年育成の

全課題は 1934 年ヒットラー青少年団によって接収され、民族的・政治的観点および「民族

共同体のための業績」が個人の助成と援助の為の判断基準となった(生田 1983;生田 1985;生田 1988)。 ④青少年福祉法(1961 年)から児童・青年援助法(1990 年)への経緯と概要 a. 青少年福祉法に至る経緯 戦後、青少年の新しいタイプの活動となったのが青少年施設であった。西側の占領軍が、

1945~47 年に「ドイツ青少年活動 German Youth Activities (GYA)」の取り組みとして青

少年施設を設立したことに始まる。それは、生活の困窮や青少年の意識の政治的急進化へ

の対抗という意味合いを持っていた。先進的な特徴として指摘できるのは、すべての青少

年を対象にメンバーシップや宗教・信条を問わないという世界観的オープンさであり、ま

た決定プロセスへの青少年の参加などにより民主的技術を伝えるという目標であった。 旧西ドイツでは、1953 年 8 月 28 日に法への新規条項追加により、州青少年局の設立義

務が再導入された。また、青少年育成的課題が青少年局の義務課題となった。さらに 1961年に青少年福祉法(Jugendwohlfahrtsgesetz, 略称 JWG)が制定されたが、従来のドイツ

国青少年福祉法が内容的にほとんど変更なく受け継がれることになった11。

11 後年、新条項追加が行われているが、青少年福祉法を新法である非嫡出法、成人年令変更(20 歳から

18 歳へ、1975 年)などに対応させるためのものであった。

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b. 新しい傾向……「青少年空間」(Jugendraum)と多文化化 50 年代末、自由時間の増大と商業的余暇提供の増加傾向の中で、「意味ある」余暇提供だ

けでは魅力的ではなくなり、新しいダンス・社交形態(ジャズ、ロックンロールなど)を

取り入れて魅力の減退に対抗しようとする動きや、オープン・ユースワークへの模索が始

まった。 青少年福祉法の制定後、さらに 60 年代末の学生運動の帰結として、ユースワークの「青

少年空間」としての役割が強調される。その背景には、60、70 年代の青少年心理学、青少

年社会学の発展があった。すなわち、青年期の課題である自立は、従来のように親の家か

らの離脱行動、ならびに離脱に伴う葛藤・対立、家庭に代わる親密なピアグループを通し

てだけではなく、「青少年空間」というより公共的な独自空間を必要とすることへの注目で

ある(Böhnisch/ Münchmeier, 1993, 117)。こうした流れの中で、青少年センター運動を

主流とする自主管理や運営参加が焦点となってきた(Klawe, 1996, 14)。 青少年援助の分野においても、60 年代末に政治化・社会化を経験し、理念・方法・志向

性・専門職性において一定の改革が進んだ。専門大学の創設(1969 年)と「社会教育士」

の専門大学や総合大学における履修規定創設(1967 年)などの大学教育の改革への動きが

見られる。 c. マイノリティ化と多文化化に伴う「差異化した提供構造」の問題意識化 オイル・ショック後の 1975 年以降の青年失業問題の顕在化の中で、カウンセリング、ソ

ーシャルワーク(Sozialarbeit)、ストリートワークなどと結合し、地域の状況に即した「差

異化した提供構造」が問題意識にのぼる(Klawe, 1996, 14)。とりわけ、80 年代後半から

顕在化してくるのは、ユースワークの対象のマイノリティ化と多文化化である。つまり、

関係志向的な青少年余暇施設には比較的低階層の労働者、基幹学校生、職業訓練生、外国

人の占める比率が高く、他方、目的志向的な団体活動、コース・講座などには中間層、ギ

ムナジウムの青少年が比較的多く集まる傾向にあることが指摘される(Hamburger, 1992, 62; Klawe, 1996, 14-15)。その結果、職員が前者の関係志向的な青少年の問題と関わること

が多くなる。 この傾向は、青少年援助の改革論議と絡んで進行している。1980 年に、社会民主党

(SPD)・自由民主党(FDP)連立政権が新たな青少年援助法の法案を提出したが、野党の

キリスト教民主同盟・社会同盟が多数の連邦参議院で否決されている(Münder, 2001, 1001f)。しかし、1990 年、キリスト教民主同盟・社会同盟と自由民主党の連立政権下で、

社会法典第 8 部として位置づけられる「児童・青年援助法」が制定されるに至る。その特

徴は、青少年の発達への支援と青少年自身の参加・意見表明の重視、専門職性の明記など

であった。

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(2) 青

①日本

ドイ

第一

る。つ

行しつ

職業訓

等教育

第二

あり、

日は学

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終了後

就職先

第三

「半

めざす

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現実が

青少年教育を

本と異なる学

イツの学校の

一に、図 2つまり、大学

つつある)、

訓練コースに

育学校である

出典:文

二に、15、6、一般的にデ

学校での学習

めには事業所

後に正式な就

先の確保とい

三に、ドイツ

日学校」と言

す動向もある

ているととも

がある。

を支える背景

学校制度と職

の特徴は次の

「ドイツの学

学進学を主に

卒業後専門

に入る基幹学

る。なお、こ

文部科学省『

6 歳から 18デュアルシス

習、3 日は職

所などと職業

就職先を探す

いう 2 つの関

ツの学校は多

言われる。し

る。この背景

もに、家庭環

職業訓練の歴

の点にある。

学校制度」の

に目指すギム

学校などを

学校(ハウプ

これらを統合

図2

『諸外国の教育

歳までの職

ステム(二元

職場実習と大

業訓練契約を

すことになる

関門があり、

多くの場合、

しかし、日本

景には、PIS環境の変化に

43

歴史 通り、小学校

ムナジウム

目指す実科学

プトシューレ

合した総合制

ドイツの学

育の動向 20

業訓練コース

元制度)と呼

大きく 2 つに

を結び職業訓

る。このよう

若者にとっ

基本的に午

本のように午

SA(国際学力

により帰宅後

校は 4 年間で

(Gymnasiu学校(Realsレ:Hauptsc制学校(Ges

学校制度

07 年度版』

スは、国家に

呼ばれている

ブロック化

訓練の場の確

うに就職まで

っていずれも

午後 1 時頃ま

午後 3 時ある

力調査)の結

後 1 人になる

で、中等教育

m、9 年制、

schule、6 年

hule、5 年制

amtschule)

( 部分は、

(明石書店,2

による教育機

。二元制度で

されている。

確保が必要と

でに、職業訓

も大きな壁に

までには授業

るいは 4 時ま

結果の悪さが

る子どもが増

育学校は 3 分

近年 8 年制

年制)、卒業後

制)の 3 種類

も存在する

全日制学校義

2008.8)

機会保障の制

では、週のう

。職業訓練を

となる。職業

訓練の場の確

になっている

業が終了する

までの終日学

が大きな影響

増えていると

分岐す

制に移

後主に

類の中

る。

義務)

制度で

うち 2を受け

業訓練

確保と

。 るため

学校を

響を及

という

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また、日本のような部活動が基本的になく、地域のボランティアが指導するサッカーな

どのクラブ活動が中心となっている点も日本の中高生の生活とは相当の違いがある。 さらに、塾といったものもほとんどない。そのため、青少年施設における宿題援助が存

在し、また 90 年代から授業後や放課後の支援を行う学校ソーシャルワークの導入が図られ

ている。 第四に、日本と異なるのは、EU 基準との整合性を図る必要性がある点である。例えば、

ボローニャ宣言に対応して 2010 年までに学校制度の欧州基準化がめざされている。大学入

学前の初等中等教育 12 年間(従来 13 年間)、学士・修士制度の導入、大学の授業のモジュ

ール化(単元化)、単位の共通化のため欧州単位互換制度(ECTS= European Credit Transfer System)の採用などの検討が進んでいる。 ②ボランティア活動(Freiwilligendiesnt; volunteer service)の場面の多様さ ボランティア活動の主なものは、以下の通りである。 ◎法に規定されたボランティア活動……2009 年 9 月開始に計 37,500 人が参加

・ ボランティア社会年(文化)(政治)(スポーツ)(Freiwilliges Soziales Jahr: FSJ):全日制就学義務修了(15 才)から 27 才、6~18 ヶ月間

・ ボランティア環境年(Freiwilliges Ökologisches Jahr: FÖJ):全日制就学義務修

了から 27 才、6~18 ヶ月間…2004 年度 1,800 人12 ◎上記以外のボランティア活動

・ 欧州ボランティア活動(Europäischer Freiwilligendienst (EFD); European Voluntary Service (EVS)):18 才~30 才、6~12 ヶ月間13

参加申し込みは、各種の福祉団体(カリタスやディアコニーなどの教会系の団体など)

の窓口を通して行われている。 これらの非営利的な部門への多くの青年の参加動機は、次のようなものがあげられる14:

・ 関心のある職業が自分にとって夢の職業かどうか経験し発見できる機会となる。 ・ 参加を通して、他の都市や国を知り、結果的に他の言語を知ることを望む。 ・ 新規学卒者で教育訓練の場を見つけられなかった者、何を学びたいのかがはっきり

しない者、のちに大学での勉強を始めようと思っている者などの場合、社会にとって

意味ある活動をする中で、自分の目標を再確認する機会となる。 ③外国からの移住者受け入れ 外国人比率の高さを先に指摘したが、外国人労働者、難民、ドイツ系帰還者という移住

者の 3 大グループが存在する。外国人労働者とは、ガスト・アルバイター(Gastarbeiter; guest worker)と呼ばれ、50 年代半ばから 70 年代始めの西ドイツの高度経済成長期にト

12 参照 http://www.foej.de/ 13 参照 http://ec.europa.eu/youth/youth-in-action-programme/doc74_en.htm 14 参照 Jugendserver Dresden(http://www.hotfrog.de/Firmen/Jugendserver-Dresden)

Page 25: ドイツにおける 青少年教育施設等の調査報告 - niye.go.jp23 ドイツにおける青少年教育施設等の調査報告 1. 青少年教育施設の全体像 青少年教育施設(Jugendbildungsstätte)は、教育を志向したユースワークの施設であ

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ルコ、イタリアなど 8 カ国と締結した労働者受け入れ協定によってドイツ国内へ移住した

人々と家族ならびにその二世、三世である。難民については、1989 年ベルリンの壁崩壊後、

東西冷戦終結後のユーゴ紛争などに伴う難民認定申請者の多くがドイツを希望し1992年以

降毎年 1 万人から 3 万人を受け入れている。ドイツ系帰還者(Aussiedler)とは、第二次

世界大戦中にドイツの東部に居住していた人々とその子孫を中心とし、ベルリンの壁崩壊

後、旧ソ連やポーランドなど東欧圏から帰国したドイツ系の人々である。総数は約 450 万

人にのぼる。 以上のように、移民的背景を持つ人々は多様であり、2005 年に「移民を背景に持つ人

(Personen mit Migrationshintergrund)」という概念が初めて採用された。それによれば、

移民を背景に持つ人は約 1,530 万人、全人口の約 18.6%を占める。そのうち 8.9%にあた

る約 730 万人が外国人、9.7%にあたる 800 万人がドイツ人である。また出身国別では、最

も多いのがトルコで、その他旧ユーゴスラビア、旧ソ連、ポーランド、イタリアが高い割

合を占める。 日本的な表現で言えば、多文化共生、すなわち出入国管理、社会政策、異文化間教育な

どによる社会的統合が大きな課題となっており、青少年援助もその一環である。

6. 指導者養成システム及び資格制度の概要

(1) 青少年援助職

①社会教育士(Sozialpädagoge)、社会福祉士(Sozialarbeiter)、保育士(Erzieher)など

青少年援助の専門職は、大まかには次の 3 つのルートを経て養成され、資格取得される。

すなわち①専門学校、②専門大学:社会教育学/社会福祉援助活動(ゾツィアール・アル

バイト)学専攻、③総合大学:教育学部である。①は保育士(Erzieher)などを養成する課程

で、通常 2 年間の学修と 1 年間の実習勤務からなっている。②は 3 年間の学修で「社会教

育学/ゾツィアール・アルバイト・ディプロム(FH)」学位を取得し、その後 1 年間の実習

勤務を経て「社会教育士」ないし「社会福祉士」の国家資格を取得するものである。③は 3年の学士課程あるいはそれに続くさらに 1 年ないし 2 年間の修士課程を経て、社会教育関

係の学士号(バチェラー)および修士号(マスター)を取得し、関係分野の職業に就職す

るものである。 ②フランクフルト専門大学のカリキュラム この大学では、すべての学生に対して、6 ゼメスター(学期)3 年間の統一カリキュラムを

設定するとともに、それぞれの学生が次の 4 つの重点領域から 1 つを選択することになっ

ている。 [4 つの重点領域(選択)] 1) 「陶冶と訓育」−児童、青年、家族 2) 「排斥と統合」−一定の生活条件における介入

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3 4 現在

位に分

この

[23 そ

a b c d e f

3) 「計画と

4) 「文化と

在、ドイツの

分けて構成す

23 のモジュ

3 のモジュー

それぞれのモ

a)基礎論(1-4b)方法論モジ

c)実習(17、d)総合社会活

e)一般教養(f)学士論文作

表 5 フラ

制御」 メディア」

の大学では一

するようにな

ュールからな

ール] モジュールの

4)、中心的理

ジュール(5、18) 活動の横断的

21) 作成、コロキ

ンクフルト専

一般に、カリ

なっている。

なっている。

の内容は、次

理論(7-10)、6、11、16

的テーマ(19、

キウム(22)

専門大学の学

46

リキュラムを

表 5 がこの大

次の通りであ

深化理論(16、23)

、20)

学習プログラ

を「モジュー

大学の学習プ

ある。 2-15)モジュ

ラム (推奨学

ール」という

プログラムの

ュール

学習モデル)

う学習上の基

の全体像であ

基礎単

あり、

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これらは、必修モジュール(1~4、7、5、6、11、23、19、20、22)と選択モジュール(それ以外)に分けられている。 なお、12、13、14、15、17、18 モジュールが、重点領域別の選択科目である。 1 ゼメスターは、総計 900 時間、30 単位(ECTS:ヨーロッパ統一単位)であり、6 ゼメス

ターでは総計 5400 時間、180 単位の学習量となる。 このように、全国 60 以上の専門大学で、新たなカリキュラム制度のもとに「社会教育士」

の系統的な養成が行われている15。 さらに注目すべきは、この 6 ゼメスターの学習の後、社会教育士(ないし社会福祉士)

としての国家認定を受けるためには、1 年間の現場実習が求められることである。実習期間

中には現場の職員から指導を受けるのみならず、専門大学の教員・スタッフからも定期的

に指導を受け、実習の修了の後には関係者による職業能力の確認試験が行われる。それに

合格して初めて、国家資格としての「社会教育士」資格が与えられるのである。

③ ボランティア活動の支援と青少年指導者カードの発行(Jugendleitercard: Juleica) 青少年指導者カード(Juleica ユライカ)は、青少年援助の分野において積極的に関与し

ようとするボランティアの立場を強化し、ボランティアに様々な課題に対して全州で認め

られる公的な合法性を与えるために、1998 年 11 月 12、13 日の最高青少年官庁の合意に基

づき発行されることになった。 根拠法として、児童・青少年援助法第 73 条(ボランティア活動 ehrenamtliche Tätigkeit)の規定「青少年援助においてボランティアとして活動する者は、その活動の際に、指導さ

れ、助言を受け、支援されるべきである」に基づいている。

1999年 1 月から年平均 3万 2千枚のペースで発行され、70%は 16~25才の若者である。

2008 年 9 月までに、約 32 万枚発行されている。 カードを得られる資格は、16 才以上で、継続的に青少年

組織に関与し、規定による研修コースと「救助法」を修了

することである。有効期間は 3 年間となっている。 規定による研修コースは、40 科目(グループ論、法と保

険、グループワーク・遊び指導、実践的なユースワークの

知識、青少年団体の役割・方向性の知識)からなっている。

15 「社会教育士」は、25 万 5 千人(2005 年)登録されており、毎年、専門大学 65 校(毎年約 8~9 千人)

あるいは総合大学の教育学部など(毎年約 3~4 千人)で養成されている。

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参考資料・文献

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頁。

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Böhm,W./ Ladenthin, V. (Hrsg.): Handbuch der Erziehungswissenschaft. Bd. 3/1:

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Zürich.

(生田 周二)