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島根大学地球資源環境学研究報告 21,17~29ページ(2002年12月)Geoscience Rept.Shimane Univ.,21,p.17~29(2002)
モム ら員冊 又
堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
道前 香緒里*・石賀 裕明**
Evaluationofsedimentary envimnmentsf止omcompositionsofsediments
fromthe Kumaand KawabeRivers,Kyushu,Japan
Kaori Dozen*and Hiroaki Ishiga**
Abstract Sedimentary environments of the fluvial systems of the Kum&and Kawabe Rivers were evaluated using geochemical
parameters which are sensitive to redox conditions and accumulation oforganic matter.Zn-Fe20蓄(total Fe),As-P20,and
Br-Zn discrimination diagrams were applied to disclose variations in geochemical compositions of dam lake bottom
deposits(from the Ichifusa,Arase and Youhai dams and dyke),and nuvial and tidal flat sediments ofthe Yatushiro Sea.
The dam lake sediments are characterized by greaterZn concentrations relative to Fe20蓄.However,samples from Ichifusa
dam show compositions similar to those of common lagoon sediments,probably due to variation in the sedimentary
sequence ofthe lake deposits.This variation resulted from changing water levels in the dam.These changes are probably
seasonaL Arsenic concentrations in Ichifusa dam are greater than in the other sediments,suggesting As adso甲tion on
buried organic matter such as woods,branches and leafs oftrees transported by debris flows.The concentrations ofBr and
Zn show good correlation in the sediments of the Arase dam,suggesting the abundance of these elements are related to
accumulation ofalgae and preservation in the sediments underreducing conditions.
REEpattems and Th/Sc ratios were utilized to examine the provenance ofthe fluvial sediments&nd to examine modes
ofmixing ofpotential source materials.The results indicate that the sediment ofthe Ichifusa dam have evolved so皿ce and
that of the Kawabe River has similar one.The compositions ofthe Youhai dyke sediments in the lower part ofthe Kuma
River can be modeled by mixing Ichifusa dam sediments(upper Kum&River)and Kawabe River sediments in a mixing
ratio of60to40%.Composition ofYatsushiro Sea sediments at the mouth ofthe Kuma River is characterized by lower Eu
/Eu*values.This suggests more evolved so皿ce material in that area,derived from the wider region sumunding the
Yatsushiro Sea,such as Paleogene-Cretaceous sediments of the Amakusa Islands.The variation of composition in the
Yatushiro Sea sediments from the representative Kuma River may indicate decreased supply of detritus from the Kuma
River systems.
Key words:Kuma River,Kawabe River,bottom sediments,environment,geochemistry,REE,
は じ め に一
近年ダム湖とその下流域の環境に対する影響について議論
されることが多くなった.それは主に次の2点の問題による.
第1はダム湖は水塊に顕著な成層構造(温度躍層)が発達し
易い.また,温度躍層以下の水は低い溶存酸素を持つように
なる.ダムの排水溝はダム堤のほぼ中部に設置されているこ
とが多くこのような水温の低い水が排水される.それにより
河川の生態系に影響を与えると考えられる.第2はダム湖の
底質の問題である.この問題を最もクローズアップさせたの
は富山県の黒部川の“出し平ダム”の土砂排出とその流域及
び富山湾の生態系への影響であった.もともとダム湖の中心
* 特殊プラント工業(株)
556-0015大阪市浪速区敷津西2-1-8
Tokushu Plant Industry Co.Ltd.
** ㍾ェ大学総合理工学部地球資源環境学科
DepartmentofGeoscience,Shimane University,Matsue690-8504,Japan
部には泥質堆積物が懸濁物として運搬される.そして表層で
発生する植物プランクトンの遺骸とともに堆積して底質には
有機質泥質堆積物が形成される.また,上流から流入する植
物片(葉や枝,木片)が有機物の起源となっていることもあ
る.さらに,近年の林業の衰退に伴って放置された森林から
は腐植や朽ちた木材が豪雨時の土石流の発生に伴ってダム湖
へ運ばれることが多くなった.このようにしてダム湖の底質
は有機物に富み,それらの分解によって還元的環境を生み出
す.さらに幹や根幹のように比較的比重の高い木質はやがて
沈積して湖底に留まる.これらは無酸素水塊中で腐食が進行
し,腐食酸を発生したりイオンの吸着を行なう可能性がある.
湖底に堆積したこのような“ヘドロ化”した堆積物が排出さ
れると下流域に限らず最終的に流入する海洋域の生態系や環
境におよぼす影響は大きいと言える.もともと土砂排出ダム
はこのような堆積物表面に水の流れを作り土砂の変質を抑止
するものであった.しかし,湖底のヘドロを腐植とともに排
出することとなった.
17
18 堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
今回調査した球磨川には上流域では一房ダム,幸野ダムや
その他の堰,そして下流域では荒瀬ダム,遥拝堰をはじめ多
数のダムと堰が設置されている.そのためこれらのダムや堰
の底質は川辺川や球磨川上流の粗粒の河川堆積物に比較して
泥質で有機質であると予想される.そこで球磨川,八代海,
川辺川の堆積物を採取し地球化学的検討を行ない,堆積環境
の評価を行う.また,元素組成の解析をもとに球磨川上流域
と川辺川の砕屑物の混合状況を球磨川下流域との比較から検
討する.
堆積物の元素組成の示すもの
堆積物の元素組成の研究は本邦では比較的新しく,デー
ターの蓄積はそれほど多くない.しかし,次に示すような様々
な堆積作用を識別して評価できるため著しく研究が進んでき
た.今回は特に従来対象として用いていた地球化学的パラ
メータ以外に臭素(Br)およびヨウ素(1)を用いた検討を加
え生物活動の影響をあわせて評価している.
はじめに堆積物の元素組成について簡単に触れる.堆積物
の元素組成は,1)その後背地を構成する岩石(源岩)の組成,
2)風化・侵食作用,3)運搬作用,4)続成作用(堆積環境),
5)その他の様々な要素の総和によって決定される.そのた
め分析によって得られる元素はそれぞれの地球化学的特性を
もとに,1)~4)の要素を評価することが重要である.とく
に環境評価で用いる因子元素の多くは粘土鉱物に吸着された
り,有機物と結びついて堆積物中に濃縮する可能性が高い.
そのため粒度組成による元素の濃縮率の変化に留意すること
が重要である.
1.源岩組成:この作用は酸やアルカリにより溶解しにく
く(溶解度が低く),水中での滞留時間の短い元素を用いて
評価される.その代表は希土類の元素組成のパターンである.
これは軽希土から重希土までのそれぞれの元素の濃縮率を標
準試料(例えばコンドライトのような始原的な組成)で規格
化して表現したパターンである.花崗岩などを源岩に持つ堆
積岩の組成は希土類の中では軽希土に富み,中希土ではEu
が乏しく,パターンでは負の異常を示す特徴を持つ.Euの
異常はEu/Eu*=Eu.1(Sm.x Gd.)112(N:Chondriteによる規格
化)によって与えられる(Condie,1993).これに対して玄武
岩質岩石を後背地に持つ堆積岩では軽希土から重希土への傾
きは緩やかでEuの負異常は見られなく滑らかなパターンを
持つ.
また,Th/Sc比は両元素が風化侵食によっても変化しにく
い元素であり,要素が比較的様々な鉱物に含まれている点で
後背地の推定によく用いられる(McLennan et aL,1993).そ
してEu/Eu*一Th/Sc判別図は後背地の推定に良く用いられる.
さらにこれらの組成をもとに源岩の組成をミキシングモデル
によって求めることも多い(FedoetaL,1996;HassanetaL,
1999;山崎ほか,2000a,b).
2.風化・侵食作用 この作用はアルカリ金属やアルカリ
土類の含有率をA1やTiと言った元素に対比して評価され
る.その中でNa/K,(Na+Ca)K,(Na+Ca+K)/Al比などはこ
の作用の評価に有効である.しかし,本論ではこの作用につ
いては議論しない.
3.運搬作用:堆積作用の中でもっとも重要な元素組成の
変化は分級作用によるものである.河川がゆったりと流れる
時,懸濁物として泥質堆積物は遠くまで運搬される.しかし,
砂や粗粒堆積物の運搬距離は長くない.したがって堆積物の
粒度組成により元素組成も変化する.特にAl,Ti,Fe(酸化鉄
や酸化水酸化鉄)は細粒堆積物に含まれやすい.そして,Zr
はジルコンなどの重鉱物に含まれるためにシルトから細粒砂
に濃縮しやすい.ここで重要なことはAlで代表される粘土
やFeには堆積環境を反映する重金属元素が吸着されたり,含
有されたりすることである.従って様々な試料の分析値をそ
のまま比較したのでは粒度組成による元素組成の変化を評価
したことにはならない.そこで,A1,Ti,Feによる規格化す
ることが重要である.
4.続成作用(堆積環境):この作用は酸化還元電位やpH
に影響を受ける.重金属の多くは2価鉄と化学的な挙動が類
似する.また,Asは鉄の酸化物,水酸化物に吸着されるこ
と(PriceandMoore,1982)など特別な濃縮の過程を持つ.ま
た,還元的環境で硫酸イオンが存在するところでは硫酸還元
反応によって硫化物としても濃縮する可能性がある(例えば
CalvertandPedersen,1993).さらに,AsやZn,Cu,Pbなどの
重金属は有機物に吸着されたりする.
5.その他:最も評価が難しいのは生体濃縮であり,プラ
ンクトンにどれほどの重金属が濃縮されるかと言った問題で
ある.そして生態系の中でより高位のものへと濃縮される.
藻類や植物プランクトンにはある程度のFe,Zn,As,Cuと
いった元素が濃縮される.あわせてBr,1といった元素は藻
類に濃縮するので堆積物の記録から基礎生産量の変化やこれ
らの保存量を評価できる.生体濃縮ではP,O,とBr,1との関
係により評価が可能であるかもしれない.堆積物の記録から
河川環境での生物生産量の推定を行なう研究は重要であり今
後の研究課題でもある.
球磨川流域の地質概略
堆積物の後背地の地質は堆積物の元素組成に影響を与える
ため以下に簡単に説明する(第1図).球磨川流域は地質学
的な地帯構造区分上は四万十帯(村田・坂井,1992;九州地
方土木地質図編纂委員会,1985)に属する.四万十帯とは白
亜紀から古第三紀の付加体であり,堆積岩(砂岩,泥岩)等
からなる.球磨川上流の一房山の北西部ではこれらの地層に
貫入して第三紀の花崗岩質岩石(一房山花歯閃緑岩体,半径
約10km)が存在する.球磨川は川辺川との合流点までは四
万十帯の中を流下する.四万十帯の堆積岩は泥質岩を主とす
る.そして,砂岩や層状チャート,緑色岩(玄武岩質),石
道前 香緒里・石賀 裕明 19
八代市 ノ代IC
、,Yわ1一〆
y拝堰秩父帯
~一Yh4,5,6 Ku1 !iiiilii毒………繍楚
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瀬戸石ダム 田浦町 鯵・一
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球磨村\\ \、 A { A 轟 A 」」 轟 A A J㌧ ’
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仰烏帽子山
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▲
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川辺川ダム
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ロコ秩父帯
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出ヨ市房山岩体
團肥薩火山顯!
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第1図 球磨川,川辺川および八代海における試料採取地点および地質概要.
灰岩などが含まれる.全体では中性ないし酸性岩の組成を持
つと考えられる.一方,川辺川上流域は秩父帯(村田,1992)
に属しジュラ紀の付加体を主とする地帯である.これらは泥
質岩を主として石灰岩,チャート,緑色岩を含む.秩父帯に
挟まれて存在する黒瀬川構造帯は蛇紋岩メランジであり,花
崗岩質岩石,変成岩,堆積岩などの岩体を含む.川辺川下流
域は四万十帯の堆積岩から成り,全体では同じく中性ないし
酸性岩の組成を持つ.川辺川との合流点より下流の球磨川流
域は,河川の南北で地表に分布する岩石が大きく異なる.す
なわち,ほぼ東西方向に直線的に伸びる境界により北側は四
万十帯,南側は第四紀の肥薩火山岩類に区分される.肥薩火
山岩類(大木ほか,1992)は安山岩溶岩を主としているので,
球磨川の下流域の堆積物はこの岩石に由来するものの寄与が
大きいと言える.
試料採取地点
試料は粒度組成による元素組成の変化への影響をできる限
り小さくするために泥質堆積物を採集するようにした.しか
し,川辺川や球磨川では泥質堆積物は堆積していないためシ
ルト,細粒~中粒砂を採集した.一房ダム,荒瀬ダム,球磨
川河口の干潟では柱状採泥を行い,堆積物のORP(酸化還元
電位)の垂直変化を測定した.
試料採取地点を第1図に示した.
一房ダム:2001年10月13,14日に底質を採集した.柱状
図を第2図に示す.ダム東側にのびるIc1地点ではいくつか
の堆積サイクルが識別される.それらは下位より,1)極め
て不淘汰で木片(数cmから1mをこえるものまである)や
レキを含む粗粒砂層,2)平行葉理やトラフ型斜層理の発達
した砂層,3)暗灰色ないし暗青灰色のシルトおよび粘土層
からなる.1)は土石流堆積物と考えられ,2)はダム湖の低
水位時の河川堆積物,3)は湛水時の懸濁物に由来する堆積
物と考えられる.試料の採集層準を第2図に示している.Ic
2,Ic3はダム湖の北にのびる谷筋で採取した.これらは比較
的均質なシルトで構成され,淡灰色ないし淡黄色を呈する.Ic
1-1~7およびIc3-1~15は柱状試料を2~4cm間隔で分割
した連続試料である.
荒瀬ダム:2002年2月のダム水位低下時に柱状試料とし
て採取した.表層の2~4cmは淡灰色~淡黄色のシルトから
なりこれより下位は灰色ないし灰黄色の細粒砂からなる.Ar
2では表層部(0~15cm)でORP(酸化還元電位)は+6~+10
であるが,これより下位では一50~一120と低下し,変化に
富む(第3図).Ar3では表層部からORPは一45であり,こ
れより下位では一35~一100と変化するが低い値を示す.
川辺川,球磨川の河床:両方の河川の河床には泥質堆積物
は認められない.河川の変曲点や渕に堆積している細~中粒
砂を採取した(第1図).諸元素の生体濃縮の影響を比較検討
するため球磨川河床において藻類を採取した(試料215-3).
20 堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
lC1
(cm)
280
240
脚
㎜
180
160
140
120
100
80
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直 ロ ~ ~ ロ ~ 尊 ロ ~ ほ ヤ :
諜 (samp短籍。.)
市房ダムにおける湖底堆積物の柱状図.試料採取
粒砂および粘土からなるが深度27~30cmに木片が含まれ
る.Ya2同様にORPは表層から低下して深度25cmでは一
270mVに達する.Ya1およびYa5はともに粘土からなる.
Ya1では14~22cmに貝殻片が含まれる.ORPはYa2およ
びYa3と比べればそれほど低くなくYa lでは一50~一150
mV,Ya5では0~一100mVの範囲にある.これらを総合す
ると河口中心部の沖合いに位置するYa3に木片が認められ
ることや堆積物のORP値が一200mV以下であることは特徴
的である.
第2図 層準を示す.
遥拝堰:堰の上部の河岸の泥質堆積物(Yh1),やや上流
の河川の屈曲部の内側(Yh2,3)およびさらに上流部(Yh4,
5,6)において採取した.Yh2~6はシルトないし細粒砂であ
る.
球磨川河口干潟および八代海:鼠蔵(そぞう)干潟(Ku1),
河口(Ya4,Ya2)および八代海(Ya3,Ya1,Ya5)において
柱状試料を採取した.Ku1では極細粒砂およびシルトを主
として深さ10~15cmには淘汰の悪い粗粒砂が含まれる.
ORPは一100mV前後で変化する(第4図).Ya4は同様に
極細粒砂~シルトからなる.ORPは1点を除いてKu1と同
様に一100mV前後である.深さ約12cmに木片が含まれる.
Ya2は灰色~黒色粘土からなる.ORPは表層(一50mV)か
ら次第に低下して25cmで一200mVに達する.Ya3は極細
分 析 方 法
採集した試料は110℃,24時間乾燥後,自動メノウ乳ばち
により粉砕した.そして蛍光X線分析装置(リガクRIX2000)
を用いて粉末プレス法(小笠原,1987)により微量元素組成
(As,pb,Cu,Zn,Cr,V,Sr,Zr,Th,Sc,U,Br,1[ppm]),主元素
組成(TiO,,Fe,O夢,CaO,P205[wt%])およびTS(全イオウ[wt
%])を求めた(Fe,O夢は全鉄を示す).分析結果を第1表に示
す.希土類元素およびいくつかの微量元素は放射化分析(京
都大学原子炉研究所の共同利用による)により求めた(第2表).
なお希土類についてのEu/Eu*異常,Ce*異常は次式によっ
て計算した.
Eu1Eu*=EuN/(SmN X Gd.)1/2;where Gd=(Sm X Tb2)1/3
(Condie,1993)
Ce*=5CeN/(4La.十Sm.)(Musashino,1990)
堆積環境の評価
1.Zn-Fe203判別図
微量元素のうち環境因子として用いられる代表的元素は
As,Pb,Cu,Zn,Cr,V,U,Br,1である.このうちAs,Pb,Cu,Zn,
Cr,Vは還元的な環境下では硫酸イオンの存在下で硫酸還元
バクテリアにより硫化物として堆積物中に濃縮する可能性が
ある.また,粘土鉱物に吸着されるほか,生体に濃縮したり,
有機物とも結合して化合物を作る.特に湖沼堆積物ではAs,
Cu,Zn,Vは有機物と結びつき濃縮しやすい(Tribovillardetal.,
1994;Huerta-Diaz andMorse,1992etc.).Uは一般にはU4+は,
u6+にくらべて水に対する溶解度が低く還元的な環境で濃縮
しやすい(Jones and Manning,1994).分析した試料ではAs,
Cu,Zn,Vの中ではZnの濃縮率に顕著な変化が認められる.
ここではZn濃度を用いて球磨川流域のそれぞれの堆積環境
を評価する.ここで考慮すべきはZnは親鉄元素であり一般
には塩基性岩石に濃縮しやすいので,後背地の組成を反映し
て堆積物中での濃縮率が変化すると予想される.また,先に
述べたように粘土鉱物に吸着されて濃縮する傾向がある.そ
こでFe,O,との相関を検討することによってZnの濃縮率の
異常を評価することとする.
第5図に各地点の堆積物のZn-Fe,0,クロスプロットを示
した.この図には一般の干潟の堆積物組成の回帰直線もあわ
せて示し比較している.一般の干潟堆積物はZn-Fe203の間
道前 香緒里・石賀 裕明 21
0
10
20
30
40
cm Ak2
淡褐色
シルト
砂
色粒
灰細
暗灰色
細粒砂
Br P205
450 -100 -50 0 50嘘OO 120 140 1600 5 10 15 200.1 0.2 0.3
0RP(mV) Zn(PPm) Br(PPm) P205(wt%)
第3図 荒瀬ダム堆積物(Ak2)の柱状試料.ORP(酸化還元電位),Zn,Br,P20,値を示す.
(cm)
0
5
10
15
20
25
Ya4・300
Ku1ORP(mv)
.200.1000(cm)
0
ORP(mv)嚇300 -200 -100 0
ORP(mv)(cm}.300.200、1000(cm)O i O
Ya2 Ya3 ORP(mv)・300 ・200 ・100 0
■ ・畢
■ ■ 一
・ 一 層
’噸 ・ ・
一 齢 ●
■ 輯 癖
。 ● ■
一 書 ●
一 ■ ●
, ●
章 . 鼎
口 書 .
● 畢 『
● ● “
5
10
15
20
25
30
35
40
盤鱗
105
↓51
↓02
25
5
10
15
20
25
30
35
Yal Ya5 0RP(mv) ORP(mv)
(cm).300.2∞.1000(cm).200、1000400 00
5
10
15
20
25
30
35
5
10
15
20
口淡褐色粘土醗翻灰~黒色粘土
圃シルト圏極細粒砂圃細粒砂
團中粒砂國ペレット(底棲 生物の糞
臼木片凹貝殻片駆1 貝殻片(細粒)
第4図 八代海(球磨川河口)干潟(潟)の堆積物の柱状試料とORP(酸化還元電位)を示す図.
に正の強い相関をもち,明瞭なトレンドを持っている(石賀
ほか,2002).これは堆積物の組成を代表すると言える.一
房ダムの堆積物の組成は良く集中してプロットされる.Zn-
Fe,O,の間には良い相関が見られ,一般の堆積物のZn-Fe203
組成線に近くやや下方に位置する.球磨川,川辺川の試料も
ほぼ同様にプロットされる.これに対して八代海の試料はこ
の組成線の上方にプロットされる.河口の干潟の試料に比べ
やや沖合いの堆積物はよりZnに富んでいる.遥拝堰の試料
は八代海の試料の範囲の左側に位置する.また,遥拝堰の上
流の試料は八代海河口の試料の領域の中にプロットされる.
一方,荒瀬ダムの試料はZn-Fe、03に良い相関を持ち,広い
範囲に分布する.そして一般の堆積物のZn-Fe、O,組成線よ
りは大きな傾きをもつ.以上をまとめると一房ダム,川辺川,
球磨川の試料は一般の堆積物のZn-Fe,O,組成線上もしくは
22
sqmple
no.
堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
第1表 球磨川,
ppmAs Pb Zn Cu Ni Cr V
川辺川,八代海の堆積物の元素組成.
Sr Y Nb Zr Th U Br l
w†%
Fe203τiO2CqC P205 TSlchlfusα
e
4恰2nゆ b。 0-2姶45 Gb 書4娼・ 123㎞
聞翻駄麗隣鵠騰關騰隣翻蹴聯麟鵬麟畑矧矧鵬贈麗雛%鶴舞鴛藩麗麗漏
属U桝▽拶裕%)桝稔U幡朽給720レHU垢幡絡拓四24桝嬉娼路M属鱒招応8ぬ 7677殉9 m777腱 899677
25
Q5
Q5
Q6
R0
Q6
Q6
R0
Q6
Q5Q8
Q8
Q8
Q5
ナ282923252626262425282625272625242523262025 17蔦蔦朽2320 B朽恰拓鈴 鍛必24田)レ
73
U9
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V8
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モ
菊373442463938瑚373134373633釦42潮解37373637353437333437333335鈎33382733 353634葡ハ69 28釦242026 34383934訓解
お36354345嚇455243お43464741224543373937393637⑳393738363737383735382738 2832卸263938 30釦ぶ2432 3830斜262728
属0807秒28揖20230802恰レレ腱77302407狛属掲B腰09080707給沁0607控09伯93怖 引引80引腰06 %75878795 042432020508
で11{一1111111111 11「一1 11111111111111毒 1 1 1 111111
乃66碍82印72747759引636765引28 例引58砺 76醇68乃6469麟6268645965765776 5258 飢20B235649 29引窮菊29 2627343228”
4馨 1 1 1 1 篭
1 1 1 1 1 1 1 ↑5 1 1 1 1 1
1 1 1 1 1 璽
璽 -
董 -
簾 璽
1 1 1
1 1
1 璽
1 1 璽 1 1 1 1 1
1 璽
-
肇
1 1
35R2
R2
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R6
R5
R5
R7
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R2
R4
R5
R6R3
Q4
R7
R7
a343334333334363333343434343534362632 釦20飢釦30鈴 27レ櫓糟26 24242622烈20
斜痢弔拓0823362842釧3835汐5230ぬ鎖323636葡窮明43斜5452釧45494634⑳325846 鈴2425η沁06 餌60餌74弔 56464554餌47
晶一-1111131111111 11璽一 -遷111璽-1「一1111璽1 11 1111簾1 11董1 111璽11
555555565456662 5433 444445443444434 45 888021 06789 999988
11111111--篭-111
1簾11 111111¶{111書篭111
1一一 -薯- 遷
朽ぬ
p増齢認㎜第㌶散覆櫨”B團悌搬鴇瑠捌概擶嬬麗麗叢桝謬胴鳴援麓混鴇
30
R7
�R348衿43203535痢325839333830娼263038 30 23 旧 30 252937ぬ2737 25283058 24 2930
777995405168791 簾244 2 1 7 2 8 5 111300 1116 2 21
11121馨篭11 1111111
12
31
09929099889999。4 jj32 99990』999990323 7β 2jjj4憐 9」489 33鴻jjO
433434333333333 4444 333344333334444 33 333333 32222 333333
433666664245659 7653 544556444445556 14 899921 28780 911990
1「一111111111111
等肇-哩一 -111113111遷1111 1醜一 11
1
1 11 1
7.840.750.980.150.06
7.390.77
7.360.77
8.400.78
8.59 0.79
7.920.76
7.700.79
8.340.86
7.280.79
6.950.74
7.700.79
7.81 0.81
7.860.81
7.170.78
5.950.65
8.590,76
7.680.71
8.440.79
7.860.76
7.750.76
8.240.77
7.390.78
7.440.80
7.870.79
7.61 0.74
8.01
9.140.760,900.200.07
7.330.700.870.130.04
8.450.780.940.190.09
7.960.750.960.180.08
7.570.760.960.180.08
7.550.760.91
0.770.930.160.07
7.480.770.900.140、05
7.930.720.81 0.140.05
6.670.72 1.71 0.130.05
7.31 0,78 1.790.230.10
6.080.550.980.l l O.04
6.150.550.920.100.04
5.850.550.960.篭1 0.04
5.900.58 1.100.12 0
7.190.73 1.170.20 0.1
6.970.71 1.180.18 0.1
6.520.560.780.090.04
5.等60.41 1,370.090.04
7.580.60 1.81 0.10 0
6.140.64 1.430.Ol O
6.940.59 1.690.39 0.2
5.94 0.59 1.340.150.09
6.190.62 1.250.200.10
6.280.59 1.140.21 0.13
5.960.61 1.290.筆30.08
6.090.60 1.290.130,08
6.300.59 1。240.130.10
1.290.190.09
1.31 0.190.09
1.010.160.06
1.130.260.10
1.090.190.07
1.320.240.10
1.41 0.250.10
1.490.220.08
1.620.21 0.08
1.530.230.09
1.520.250.10
1.320.230.09
1.470.200.08
1.490.11 0.04
1.020.200.07
0.830.140。04
1,11 0.210.09
1.070.190.08
1.160.21 0.08
筆.060.200.07
1.030.190.08
1.040.190.08
1.040.、90.09
1.030.170.08
0.150.06
道前 香緒里・石賀 裕明 23
第1表つづき
sαmple ppm no. As Pb Zn Cu Ni Cr V Sr Y Nb Zr Th U Br l
W†%
Fe203 TIO2CGCP205TSYq†sushiro
YqNYql-3
Yqト5Yq1-7
Yqレ9
YqレUYd-13
Yoト15
YqN7Yq2講
Yq2-3
Yq2-5
Yq2-7
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Yq2一事1
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Yq34YG3-3
Yq3-5
Yα3-7
Yo3-9
Yo3一”
YG343Yα3イ5
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Yq4-3
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YG4-7
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Yq4一”
YG443
Yq5一璽
YG5-3
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Yq5-7
Yq5-9
Yo541
10 22 120 33
” 21 115 33
H 23 肇19 36
” 22 U9 33
“ 23 12璽 31
璽3 24 122 38H 23 109 33
U 23 U7 3玉
垂2 23 、等8 35
10 20 104 29
H 21 108 34
11 22 η0 33
n 22 U O 33
10 21 108 33
10 21 107 34
10 19 102 32
9 20 95 279 18 93 26
葦2 21 董2璽 34
9 19 104 28
9 19 101 26
9 葦9 92 28“ 20 97 32
口 20 103 32
10 20 等03 3遷
10 24 99 26
8 18 98 288 20 104 30
10 20 108 37
B 2璽 105 33
8 22 董03 34
9 2馨 306 36
9 20 103 36
363436
3737
3937
3838
3437
37
3634
37
34
3329
3233
3332
3331
31
31
36
3841
3939
4039
68 129 157 26
73 壽31 肇60 26
71 璽42 151 28
69 133 16蓄 28
67 129 璽72 28
71 148 148 29
66 131 150 28
68 142 璽52 27
70 著35 等55 28
69 123 154 26
74 137 149 27
72 133 147 27
7肇 140 蕃48 27
70 133 149 27
71 肇38 茎48 26
69 131 149 25
77 123 155 24
71 遷21 157 24
64 126 肇49 27
68 董27 154 26
71 127 152 2564 璽22 等56 25
65 璽27 154 26
62 B6 157 26
64 120 152 26
7董 126 153 24
79 127 149 24
87 131 153 25
73 131 154 26
72 等36 肇49 26
76 130 152 27
75 138 凄53 27
77 127 153 27
“ 2肇 肇31 29 38 69 135 肇60 25
” 2} 126 30
璽2 22 簾30 30
” 22 131 29
12 21 129 29n 23 126 26
404篭
393939
72 128 159 26
73 131 157 25
75 131 160 26
70 127 166 25
73 事24 162 25
10 169 “
10 178 ”
11 172 12
11 169 12
11 164 12
11 τ64 12
H 174 1211 174 10
U 171 13
3.487
3.476
3.574
3.570
3.473
3.576
3.558
3.564
3.563
45
№T852引5032斜34
η 182 10 3.448 39
H 177 11 3.450 44
11 173 10 3.455 44
肇1 176 1簾 3.454 42
η 183 10 3.453 36
11 176 狩 3.454 39
璽0 176 10 3.345 47
9 183 93.39 175 10 3.3
10 176 1璽 3.3
10 178 薯0 3。3
10 173 103.29 168 10 3.3
茎0 176 η 3.3
10170 93.410 172 1肇 3.3
9 159 雪0 3.3
9 179 93.2
10 181 11 3.3
董0 書81 10 3.3
10 182 妻0 3.4
10 璽83 10 3.4
” 191 n 3.4
1璽 194 遷1 3.4
10 篭56 n 3.3
” 159 123.410 等60 篭2 3.4
10 曜61 H 3.4
10 158 11 3.3
10 16! 12 3.3
6.360.65
6.3灘0.63
6.640量68
6.580.66
6.560.67
7.000.71
6.500.68
6.540.67
6.650.68
6.110.67
6.540.70
6.640。67
6.5董0.69
6.390.68
6.500.69
6.240.64
5.770.61
5.620.61
6.140.64
5.890.62
5.920.62
5.700.63
1.540.160.36
1.550.150.39
1.380.140.41
1.700。140,42
1.990,茎40.44
1.330.150.49
1.{90.150.47
1.370,140.47
1.440.140.53
1.170.140.34
1.150.150.37
1.モ00.160.40
1.120.150.44
璽.130.150.44
1.140.140.42
董.120.150.44
1.210.140.47
1.2遷 0.130.53
1.遷70.160.92
1.170.140.56
1.180.140.47
1.330.130.51
5.960.621.280,}40.84
5.930.65
6.030.64
5.950.61
5.670.63
5.880.65
5.900.64
6.090.67
6.040.63
6.030.63
6.060寿65
6.510.65
6.530.68
6.580.68
6.520.67
1.300.T40.95
1.140.150.67
1.210.140.63
1.120.150.32
璽.130.150.46
1.垂30.150.56
1.1董0.150.62
1.100.150.50
馨,璽00.150.56
1.080.150.52
1.650.150.34
1.600.150.35
1.560.140.36
1.630.140.39
6.470.651.700.140.38
6.460.671.630.150.35
KuHKuト2κu1-3
Ku1-4
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Arqse
Ad4An-3
Arレ5
Ad-7
Ar2-1
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Ar2一“
Ar243Ar3-1
Ar3-3
Ar3-5
Ar3-7
8 17 86 22 30 76
9 18 89 24 31 68
書0 20 99 30 3董 67
10 18 96 27 33 66
12 2ヨ 110 35 37 69
223023002020702
書葦簾肇1111肇11- 11
668567222131793
222222222222等璽2
48S8
T8
ヨ395822掲n㎝05掲89ぬ掲
璽 1 1 1 1 - 1 1 肇 茎 肇 1
1 驚
璽95670535354084
434334333333334
36R5
R3
コ釧323330292932322833項
63
U5
U2
U7
U0
U3
U8U5
ррU567766873
99 肇49 20 896 152 22 8
U5 147 23 9
112 148 22 8
126 143 26 10
770071871658283
335444334333345
璽-一-1111茎屡-璽111
おおぶ554433505450酬4550493842
蓄 璽 葦 1 1 1 肇 1 1 1 遷 1 1 1 1
29Q9
R0Q7
Q9R0
Q8Q7
Q8
Q7
R0Q7
Q2
Q4
R0
馨一11董11璽董121902
1 董
1 1 1 1 一 一 1 1 1- 1 1 1
141 8 2.920 37
147 83.1 19 22
154 9 3.123 28
147 93.021 31
168 n 3.332 35
90
X0
X4
�唐X2898695780790ω甜94
11玉璽1一璽11肇21111
784260187455245
1葉璽2蓄ハ∠1
4453854555741τ5
づ む ぜ し ゆ り づ う ロ ず
333333333333333
23323222213馨0-3
11馨-謹一-一-確確肇1111
638982128944165
333234233遷2232璽
5.310.57
5.260.55
5.720.59
5.670.57
葦.150,140.24
1.璽50.120.37
1.“0.120.42
1.120.110.60
6、570。66港.080.130.77
6.750。68
6.850.71
7.080.69
6.760.68
7.030.68
7.080.71
6.580.65
6.270.67
6.560.68
6.250.65
6.550.69
6.520,68
1.350.25
1.320.26
肇.310.27
1.520.23
1.310.27
屡.230.29
1.240.22
1.2璽0.2董
1、150.19
1.120.16
璽.080.遷8
1.妻90.T7
6.120.621,、70.13
6.660.681.230.16
6.990.73篭.170.璽8
2112111111璽1、茎1
つ り り ロ ロ し ぐ じ ゆ
000000000000000
24 堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
第2表 球磨川,川辺川,八代海の堆積物の希土類元素組成.
sample no.Ic1-7 1c1-8 1c1-101c2-4 kX3-1 kX3-9 1d3・15KmU KmL Kwl Kw2 Kw3 Yh3 Yh6 Ya1-1 Ya2-1 Ya3-1 Ya4-1 Ya5-1 Ku1-1
ppm La
Ce
Sm
Eu
Gd
Tb
Yb
Lu
44.1 43.8
88.0 87.1
8.7 8,5
1.7 1.4
2.8 2.2
1.0 0.9
3.8 3.7
0.5 0.5
45.5
89.6
8,9
1.6
3.9
1.1
3.7
0、5
43.1
94.0
8.7
1,7
3.1
葉.0
3.6
0.5
39,6
76.4
7.7
1.5
1.7
0.8
3.0
0.5
44.7
87.4
8,4
1,7
2,1
0.9
3.2
0.5
46.5
94.6
8.0
1.5
2.3
0,9
3.3
0.5
30.0
55.1
5.0
0、9
0.5
0.6
1.9
0、4
15.3
28.6
2.9
0.7
0.1
0.3
1.3
0.2
18.8
32.7
3.7
0.7
0.1
0.3
1.7
0.3
18.1
31、9
3.6
0.8
0.2
0.4
1.8
0.3
20.2
32.6
3.7
0.7
0.2
0.4
1.7
0.3
27.9
54.3
5.ア
1.1
0,8
0.6
2,7
0.4
21.2 32.9
41.2 41.8
4.0 6.4
0.9 0.8
0.3 0.6
0.4 0.5
2.3 2.4
0.3 0.4
33.3
43.5
6.5
0.8
0.5
0.5
2.5
0,4
31.4 27.5 31.7
58,1 50.5 59.3
6.1 5,3 6.1
0.9 0.9 1.0
0.9 0,6 1.1
0.7 0.6 0.7
2.4 2.5 2.4
0.4 0,4 0.4
23.0
40.4
4.3
0.7
0.3
0.4
1.8
0.3
Chondrlte-normalized
aemudbbu
LCSEGTYL
120.2
91.9
37、7
19.0
22.0
16.8
15.3
14.2
119.2
91.0
36.8
16、6
20、3
15.1
14,8
14,2
Eu涯…u鳶 O.66 0,61
Ce責 0.96 0.97
しaN侶mN 3.18 3.24
GdN/YbN 1.43 1.38
LaNIYbN 7.84 8.08
Th畿 0,94 0.95
ppm Sc
Hf
Ta
Th
u Sb
Rb
Cs
Ba
16.7
6.2
1.3
15.7
3.8
1.8
14010.5
457
15.8
6.7
1.3
15.0
3,5
1.4
1309.4
435
123.9
93,6
38,7
18.4
24.6
19.6
14.8
13.9
0.60
0,95
3,20
1.66
8,35
0.96
16.2
6.7
1.4
15,5
3,8
1、8
15411,1
395
117.6
98.2
37.7
19,4
22.8
17.7
14.3
13.3
0、66
1.05
3、12
1.59
8.20
0.89
18.0
5.2
1.1
16.0
4.0
2.0
15912.0
512
107.9
79.9
33.2
16.7
18.6
13.9
12.0
13.1
0.67
0.94
3.26
1.56
9.02
0、79
16,4
5.9
1.1
13.0
3,5
1.5
1429.9
536
121.8
91,4
36.2
19.8
20、1
15、0
13.0
12.3
0.73
0.96
3,37
1,55
9.37
0,87
15.9
6.9
1.1
13.8
3.4
1.6
1319.3
522
126.7
98.9
34.6
17.5
20.8
16.1
13.3
12,7
0.65
1,01
3.66
1.57
9.56
0,89
17.3
5.7
1.1
15.5
3、4
1.6
1719,9
522
81.8
57.6
21.8
10.2
12、8
9.8
7.6
9.3
0.61
0.92
3.75
1.68
10.72
0.87
12.6
4.5
0.8
”,0
2.5
1.4
1467.5
476
41、6
29.9
12.7
8.1
6.9
5.1
5,1
6.2
0.86
0.91
3.28
1.35
8.09
0.60
10.2
2.9
0.6
6.2
1,7
0.9
91
4,4
324
51.3
34.2
15.9
8.4
8.1
5.7
6.9
7.1
0.74
0.84
3.22
1.17
7.42
0.74
11、1
3.8
0.7
8.3
2.3
0.9
1036.1
411
49.3 55.1
33.4 34,1
15,5 16,1
8.9 8.0
8.9 9.3
6.7 7.1
7、2 6.9
6,6 7.3
0,76 0,65
0,85 0.79
3.18 3,41
1.24 1.35
6.89 7.96
0,81 0.76
11.2 10.5
3,9 3.4
0.7 0.7
9.1 8,0
2、1 2.3
0,8 0.9
105 1085.7 5.6
395 394
76.1
56、7
24.5
12.1
14.5
”.2
11.0
9.9
0、64
0,93
3,10
1,32
6.94
0,77
14,1
5.6
0.8
10.9
2.6
1,5
1137.8
487
57.6 89.6
43.0 43.7
17.5 27.7
10.1 8.7
10,1 13.2
7.7 9.1
9.1 9.5
7,0 10.9
0,76 0.45
0,95 0.62
3.29 3,23
1.11 1.39
6.34 9.41
0.70 0.87
13,0 10.1
4.7 4.1
0.7 0.6
9.1 8.8
2、5 3.2
0.9 1.0
106 1106.1 5.5
356 386
90.8
45.4
28.0
9.1
12.3
8.1
9.9
10.9
0.49
0.63
3,25
1,24
9.16
0.88
9.9
4.6
0.7
8.7
3.4
0.9
1105.3
383
85.7 74、9 86,4
60.7 52.8 62.0
26.3 23.0 26.6
10.6 10、2 11,4
15.1 13.3 16,0
”.4 10.2 12.4
9.6 9.9 9.9
10.0 9.5 9.9
0.53 0.58 0.55
0.90 0、89 0.91
3.26 3.25 3.25
1.57 1.35 1,62
8.94 7,57 8.75
0.83 0.85 0.88
12.1 12.3 13、4
6.3 5,3 4.6
0.8 0.7 0.8
10,1 10,4 11.8
3.1 3.0 3.2
0,9 1.0 0.9
121 117 128
6.3 6.3 7.1
410 382 319
62.7
42.2
18,7
8.2
9、9
7.2
7.2
7.5
0.60
0、86
3.36
1.38
8、72
0.76
10,4
4.3
0.6
7.9
2.3
0,7
974.5
331
140
130
璽20
倉α”0
9⊆100N
90
80
70
キも .! 唖1
ノ 荒瀬
..1!驚代海
ノ 1 」 ♂
球磨川下流
名
“辺川
組成線
%簿
川上流
○《
○◇
市房ダム
八代海
○口◇×十△
YalYa2Ya3Ya4Ya5Ku1
荒瀬ダム
凸 Arase
市房ダム
5
UL ,
11234
CCCCC
重彗董看1
0口◇△×川辺川
團Kw球磨川
ロUpKm
O LowKm
遥拝堰
◆Yh
5 6 7 8
Fe203(wt%)
9 10
第5図 球磨川(市房ダム,荒瀬ダム,遥拝堰を含む),川辺川,八代海(十潟)の堆積物のZn-Fe,O,相関図.一般の堆積物の
Zn-Fe,0,相関を示す組成線を表した.荒瀬ダム,遥拝堰,八代海の堆積物ではこの組成線よりもZnが高い領域にプロットさ れる.
道前 香緒里・石賀 裕明 25
0.4
0.3
P205(wt%)α2
0.1
・市房ダム ヘ藻類(球磨川下流〉
◇騰川上流 〆。球磨川下流 生体濃縮
▲荒瀬ダム ム+遥拝堰 ▲ ▲ ム のx八代海(干潟〉 ▲ も o
ム の の の口川辺川 @詮・。0・ 。 。 ▲ ⑰ □ 有機物への吸着 ▲ 0 0 0 )翼 X OO OO O 十 慢x ロ8 ◇
0 5 10 15 20 25
As(ppm)
第6図 球磨川(市房ダム,荒瀬ダム,遥拝堰を含む), 川辺川,八代海(干潟)の堆積物のP,05-As相関図.球
磨川の川辺川と合流地点の下流の藻類の組成を参考のた
めに示す.荒瀬ダムの試料はやや明瞭な正の相関を示し,
生体濃縮による両元素の濃縮を示唆する.市房ダムの試
料はAsの濃縮を示し,これらは湖底堆積物中の木片(腐 植)や泥炭に吸着されている可能性がある.
0
40
35
30
25Br
(ppm)20
15
10
5
×
}藷
メ ロ一
藻類一■(球磨川下流)
▲
▲
ろから自然環境でも生体や堆積物への濃縮過程は類似すると
言える(FurgusonandGavis,1972).そこでAs_P,O,を作成し
た(第6図).一房ダムの試料は分散しているが,荒瀬ダム
の試料を除いて他の試料に比べAs,P、0,ともに高い領域にプ
ロットされる.As-P,05共にもっとも低い値をもつ川辺川や
球磨川の試料の位置から右上方に八代海の試料が分布して,
このさらに右上方に川辺川の試料がプロットされる.一方,
荒瀬ダムの試料はAs-P,O,の間に正の良い相関を示し,これ
らは一房ダムの試料よりもP、O,に対して高い領域にある.参
考に示した球磨川の藻類の値(As=12ppm,P205=0.39wt%)
はこれらの値よりもはるかに高い位置にプロットされ,遥拝
堰のP、0,の高い試料を結ぶ直線の延長上に位置する.これ
らのことを総合すると一房ダムの試料は堆積物に含まれる高
等植物片がAsを吸着している可能性がある.荒瀬ダムの試
料は藻類が生体濃縮するAsとP,O,の相関関係に近似する
が,藻類の組成よりもやや低くなっていることは,堆積物に
含まれる有機物に関係するAs含有量がAs-P,0,の相関直線
の傾きを緩くしていると考えられる.SbはAsと化学的挙動
が類似している.一房ダム及び球磨川上流の試料では含有量
は1.4~2.Oppmと他の試料に比べて高くなっている.ただ
し,遥拝堰の試料(Yh3)は15ppmである.このようなSb
の濃縮は堆積環境もしくは有機物への吸着に関連するものと
考えられる.
o市房ダム
◇球磨川上流
▲荒瀬ダム
+遥拝堰
X八代海(Ku1〉
□川辺川
050 100
Zn(ppm)
150 200
第7図 球磨川(市房ダム,荒瀬ダム,遥拝堰を含む),
川辺川,八代海(干潟)の堆積物のBr_Zn相関図.球磨 川の川辺川と合流地点の下流の藻類の組成を参考のため
に示す.荒瀬ダムの試料は明瞭な正の相関を示し,生体 濃縮による両元素の濃縮を示唆する.市房ダムの試料は
相関を示さずBrが増加する傾向をもつ.八代海の試料 は海水中にBrが高濃度で含まれることと,藻類への濃 縮によりBrは高い値を示す.
これに近い位置にプロットされるが,荒瀬ダム,遥拝堰,八
代海の試料はこれよりもZnに富んだ領域にプロットされる.
2.As-P,05半Ij別図
Asは堆積環境や有機物の蓄積などに関係して,堆積物中
の含有率は変化する.
特に今回検討した試料の中では一房ダムの試料でAs含有
率は他の試料に比べて高くなっている(多くが12ppm以
上).また,これらの試料ではP,O,の含有率も高いものがあ
る.AsとPは同族元素であり,化学的挙動が類似するとこ
3.Br-Zn判別図
Br,1は藻類に濃縮しやすく,とくに海棲藻類には極めて
高い濃度(いずれの元素も数百ppm~3000ppm程度)で濃縮
するとされている(Bowen,1979).従って藻類のクロロフィ
ルは堆積物中では容易に分解するが,Brおよび1は堆積物
に保存される可能性はある.しかし,Brは水に良く溶解す
るので堆積物中のBr濃度は堆積環境(間隙水の交換の程度)
を反映する可能性がある.そこで先に述べたZn濃度との比
較検討(Br-Zn判別図:第7図)を行うこととする.
この判別図で特徴的であることは荒瀬ダムの試料でBr-Zn
両者に明瞭な相関が見られることである.球磨川の河床の藻
類の試料はこのトレンドの延長上に位置している(Br=36
ppm,Zn=195ppm).一房ダムの試料はこのトレンドの左下
の低い位置(Br=5ppm,Zn=llOppm)から垂直に分散して
分布する.川辺川および球磨川の試料は2試料を除いて低い
Br値をもつ.そして荒瀬ダムの試料の分布域よりも低い位
置で,左方にプロットされる.例外となっている2試料のう
ち球磨川の試料は荒瀬ダム試料の領域のほぼ中央部に,球磨
川の試料は一房ダムの試料の分布域の上位にプロットされ
る.八代海の干潟の試料は河口のKu1(Ya6)について分析
を行ったが,海成堆積物であるため高いBr値で特徴付けら
れ,その他の試料に比べBrについてより上位のトレンドを
もつ.これは海水中のBrは非常に高い値(Br=67ppm)を示
し,堆積物の間隙水となっていることによる.また,堆積物
に含まれる海成プランクトンにも高いBrが含まれているた
めであろう.
26 堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
確00
唯0
一一�|lc1一嘩0
←lc確一8十ld-7
LaCe SmEuGdτb Ybしu
壌00
10
肇00 100
Laく)e
一一�黶EKw3
寺Kw2十Kw蕃
葉0
しaCe SmEuG(πb YbL縫
40
SmEuGdTb Ybしu
LaCe
→一Yh6尋Yh3
SmEuGdτb YbLu
璽oo
肇0
十lc3一≦十1(β・9十lc3-15
遷00
10
一令一一Ya4一唾
十K“4十一Ya2-1
LaCe SmE“GdTb Ybしu LaCe SmEuGdTb Ybしu
壌00
10
→一KmU一→ヨー一K溢し 葉00
璽。
略一Ya3周十Ya1一≦十Ya54
LaCe SmEuGdTb Ybし赫 LaCe SmEuGdτb Ybしu
第8図 球磨川(市房ダム,荒瀬ダム,遥拝堰を含む),川辺川,八代海(干潟)の堆積物の希土類元素組成(標準試料コンドラ
イトで規格化している).八代海の試料は強いEu/Eu*の負異常が認められ他の試料とは起源が異なることを示す.
道前 香緒里・石賀 裕明 27
1
0.9
00.8ω、二← 0.7
0.6
花崗岩組成へ
飾球磨川上流
×x\凝市房ダム × X
八代海
グ川辺川
遥拝堰 @ プ 花崗閃緑岩 遥拝堰 /ρ
球磨川下流
0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9
Eu/Eu★
第9図 球磨川(市房ダム,荒瀬ダム,遥拝堰を含む), 川辺川,八代海(干潟)の堆積物のTh/Sc_Eu/Eu*判別図
(堆積物の源岩の組成を推定する図).川辺川の組成は一
般的な花崗閃緑岩の組成に近い.市房ダムの堆積物は市 房花崗岩体に由来するためEu/Eu*値はより低くなる.八
代海の組成は最もEu/Eu*値が低いものがあり,球磨川,
川辺川のもたらす堆積物以外の物質の関与が大きい.
0.5
REE,Th/Sc比から見た堆積物のミキシングモデル
REEは一般には+3の価数をもち重希土類から軽希土類ま
での元素はそれぞれ化学的な挙動が類似する.しかし,Eu(+
3,+2)およびCe(+3,+4)は価数が変化することがあり,
源岩や堆積環境の評価を行なう重要なパラメーターである.
Ce4+はCe3+に比べて水に対する溶解度が低い.Ce4+は酸化物
として濃縮しやすく,Ce*値は堆積環境を反映する(Liuetal.,
1988;Elderfieldetal.,1990).そのため一般に還元的な堆積環
境で形成された堆積物についてはCe*値に負の異常が認めら
れる.八代海の試料(Ya1-1,Ya2-1)はCe*二〇.62,0.63を
示し,やや還元的環境で形成されたと言える.しかし,その
他の試料は明瞭な負異常が認められないので,強い還元環境
で堆積したことを示唆するものはないといえる.これまで
As,Zn,P,05,Br,1などをもちいて堆積環境を議論したが八代
海の試料を除いて極めて還元的な環境で堆積したことを示唆
する試料はなく,多くの元素の濃縮が有機物への吸着に関係
する可能性がある.
次に源岩の組成について考察する.球磨川上流域および川
辺川からもたらされる砕屑物がどのような割り合いで混合し
て八代海へ運搬されているかをミキシングモデルを用いて評
価する.検討する試料として一房ダム,川辺川,遥拝堰,八
代海の試料と球磨川の上流と下流の試料を用いた.
Th/Sc比ではこれらの試料は球磨川下流のものを除いて,
0.7~LOの範囲にあり有意な差異は認められない.しかし,Eu
/Eu*は0.45~0.75の範囲で分散しており,それぞれの地域の
試料はあるまとまりのある範囲にプロットされる.Eu/Eu*の
平均値は一房ダムの試料(0.65),川辺川(0.72),遥拝堰
(0.70),八代海(0.53)であり,八代海の試料はもっとも低い
値をもち一房ダム,川辺川,球磨川など,どの地域の試料と
も組成はもっとも花崗岩質岩石に由来する可能性が高い.川
辺川上流の試料(1試料であるが)は一房ダムの試料の組成
の範囲に近い位置にプロットされる.
遥拝堰の試料は川辺川の試料と類似のEu/Eu*をもつ.一
房ダムの試料と川辺川の試料とのミキシングモデルではEu/
Eu*値については60:40のモデル(Eu/Eu*=0.68)は遥拝堰
の平均値(Eu/Eu*二〇.70)に近似するが,わずかに低い.こ
のことは一房ダムの試料の示す組成により塩基性の組成をも
つ起源物質が寄与している可能性がある.
球磨川下流の試料は最も高いEu/Eu*値と低いTh1Sc比を
もっており堆積物の起源は全く異なる.球磨川の川辺川との
合流点以下では安山岩質火山岩,火砕岩からなる肥薩火山岩
類が広く分布する.そのため後背地の組成が地域的な岩石の
組成に影響されている可能性がある.川辺川下流の試料はこ
のような安山岩質の物質の混合によって組成が他の試料とは
異なったものとなっている可能性がある.事実,遥拝堰,八
代海などの組成はこのような安山岩質岩石の組成とは全く異
なるものである.遥拝堰の試料(Eu/Eu*=0.70)が一房ダム
の試料(Eu/Eu*=0.0.65)に比較してEu/Eu*値が高くなるの
は,このような安山岩質の組成が多少関与していることが考
えられる.しかし,一房ダムの試料に示されるような花崗閃
緑岩起源の明瞭なEu/Eu*の負異常は遥拝堰の試料では認め
られない.
ここでREEパターについて別の指標を検討する.La。/Yb。
値はREEは軽希土類と重希土類の比を示し,REEパターン
の傾きを示す.花崗岩質の岩石を後背地にもつ程この値は高
くなり,塩基性のそれでは逆に低くなる.平均値では一房ダ
ムの試料(8.63),川辺川(7.42),遥拝堰(6.64)の順に低く
なる.このことは一房ダムの試料がもっとも発達した組成を
もち,遥拝堰の試料には前述のように肥薩火山岩類に由来す
る物質の寄与があることを示す.八代海の試料(8.76)はこ
れらのいずれよりも高く球磨川の流域の岩石以外の組成の寄
与が大きい.そこでもう一度Eu1Eu*の負異常について検討
することとする.八代海の試料の組成が球磨川や川辺川流域
に堆積する物質からはその組成が説明できないことは,干潟
の堆積物は潮流に乗って運ばれる堆積物の寄与が大きいもの
と考えられる.これらは懸濁物として運ばれるため,より広
範囲の後背地からもたらされている可能性がある.八代海は
地質学的には東は秩父帯のジュラ紀の付加体を主とする地帯
であり,西は天草諸島により囲まれている.ジュラ紀の付加
体についてはそれらを構成する泥質岩の組成は非常に発達し
た後背地からもたらされたものとされている(道前・石賀,
2000a,b).しかし,川辺川の底質の試料が示すように,ジュ
ラ紀付加体中には緑色岩,砂岩その他様々な岩石が含まれて
おり,総和としてはそれほど発達した組成にはならない.し
たがって八代海の干潟の試料が非常に低いEu/Eu*値を持つ
ことの説明としては付加体以外の地質体からの物質の供給を
考える必要がある.天草諸島には白亜紀から古第三紀にかけ
ての堆積物が広く分布しており,これらは低いEu/Eu*値(ニ
0.39)により特徴付けられる(山崎ほか,2000a,b;第3表).
これらはTh/Sc値(1.67)は高い.ここで遥拝堰の試料(Yh)
28 堆積物の元素組成から見た球磨川,川辺川流域の環境評価
第3表 球磨川,川辺川,八代海の堆積物の希土類元素組成を用いたミキシングモデル.八代海の低いEu/Eu*値は球磨川,川 辺川の組成のみでは説明できない.そこで天草諸島の古第三系一白亜系の組成(Pal-Cret)と遥拝堰の堆積物の組成を混合し
たモデルを示した.
Obser》ed Mode11
sample no.
ppm La
Ce
Sm Eu
Gd
Tb
Yb
Lu
Mode12
1c av Kw av Yh av
43.9 19.0
88,2 32.4
8.4 3.7
1.6 0.7
2.6 0.2
0.9 0.4
3.5 1.7
0.5 0.3
24.5
47.7
4.9
1.0
0.5
0.5
2.5
0.3
Yaav
30.0
48,9
5.8
0.8
0.6
0.6
2.3
0.4
60:40
34.0
65.9
6.5
1.2
1.6
0.7
2.8
0.4
1C:KW Pa卜Cret
70:30 80:20 60:40
36.4
71.4
7.0
1.3
1.8
0.8
2.9
0.4
38.9
77,0
7.5
1.4
2.1
0.8
3.1
0.5
YhlP・C
50:50 40:60
27.2 25.6 25.9 26.1
55.5 50.8
4.7 4.8
0.9 0.9
0.5 0.5
0.6 0.6
1.9 2.3
0.3 0.3
51.6 52.4
4,8 4.7
0.9 0.9
0.5 0.5
0.6 0。6
2.2 2.1
0.3 0。3
Chondrlte・norma鍼zed
aemudbbu
LCSEGTYし
Eu/Eu★
Ce★
しaN!SmN
GdN/YbNLaNハrbN Th/Sc
119.6
92.1
36.4
18,2
21.3
16.3
13.9
13.4
0.65
0.98
3.29
1.53
8.63
0,90
51.9
33.9
15,9
8,4
8.8
6.5
7.0
7.0
0.72
0.83
3.27
1.25
7.42
0.77
66.9
49.9
21.0
”,1
12.3
9.4
10.0
8.4
0.70
0.94
3.20
1.22
6.64
0.73
81.7
51.1
25.0
9.7
13.3
9.7
9.3
9.8
0.53
0.80
3.27
1.42
8.76
0,84
92,5
68.8
28.2
14.3
16.3
12.4
”.2
10.8
0.68
0.92
3.28
1.42
8.15
0.85
99.3 106.1
74.7 80.5
30.3 32,3
15.3 16.2
17,5 18.8
13.4 14.4
11.8 12.5
11.5 12.1
0.67
0.93
3.28
1.45
8.27
0.86
0.67
0.95
3.28
1.48
8.39
0,87
70.8 68.5
54.1 51.6
22.1 21.4
7.8 9.8
15.4 13.6
12.9 10.8
11.3 10.5
12.1 9.9
0,39 0,58
0.97 0,95
3.32 3.24
1,30 1.25
6.28 6.50
1.67 1,11
68,9 69.3
52.0 52.4
21.5 21.6
9.5 9.1
13.9 14.2
11,2 11.5
10,7 10.8
10.3 10,7
0.55 0.52
0.96 0.96
3.26 3.27
1.26 1.27
6.46 6.42
1.20 1.30
の組成と白亜紀から古第三紀にかけての試料の組成の平均値
(P-C値;Eu/Eu*=0.39,第3表)を用いて八代海の試料の
モデルを考察する.Yh:P-C=60:40,50:50,40:60を求
めるとそれぞれ058,0.55,0.52となり八代海の試料について
のEu/Eu*=0.53を満たす値が得られる.したがって八代海
には球磨川から運搬されている堆積物の組成に匹敵する,も
しくはそれ以上の物質が潮流によってもたらされていること
となる.このモデル(Yh:P-C=50:50)により得られる高
いTh/Sc二L20は八代海の組成(Th/Sc=0.84)とは異なって
いる.これは懸濁物が重鉱物に対して分級作用を及ぼすため
であろう.すなわちThを含むジルコンをはじめとする重鉱
物は懸濁物から取り除かれやすい.いずれにしても八代海の
堆積物が球磨川や川辺川の堆積物とは有意に異なる組成を示
すことは球磨川水系に存在する多数のダムや堰のために堆積
物の供給が稀少であることによるかもしれない.
ま と め
1.一房ダムは水位の変化に対応して泥質堆積物から土石流
に由来するれき質堆積物まで堆積層は変化する.しかし,
堆積物に含まれる植物片(様々な木片や葉)などは湖底に
おいて泥炭化してP、O,に比較してAsを吸着している.
2.荒瀬ダムではBr-Znに明瞭な正の相関があり,藻類の
濃縮するBr-Znの値に向かうトレンドを示す.一房ダム
の試料はZnの含有率に無関係にBr含有率が高くなる.川
辺川,球磨川の試料ではBr-Zn共に低い.
3.荒瀬ダム,遥拝堰の試料はZn-Fe,O,図では一房ダムや
川辺川,球磨川の試料のなす正の相関(トレンド)よりも
Znについて高い領域にプロットされる.これはより停滞
した環境での Fe,O,に対するZnの濃縮を示す.
4.REEパターンから計算されるEu/Eu*とTh/Sc比からの
ミキシングモデルおよびLa。/Yb.値による源岩の評価を
行った.球磨川下流の遥拝堰の組成(Yh)は一房ダムの試
料に示される球磨川の組成と川辺川のそれとの60:40の
割り合いの混合物に比較的近似する.しかし,Th/Sc比で
は十分に説明できないため,球磨川下流に分布する肥薩火
山岩類(安山岩質岩石)に由来する物質の寄与があると考
えられる.八代海の干潟の堆積物の組成は球磨川水系の岩
石の組成とは異なる.その堆積物は八代海のより広範囲の
発達した組成を起源とする可能性がある.すなわちこれら
の起源として八代海西岸の天草諸島の白亜紀一古第三紀の
堆積物(P-C)に由来し,潮流により運ばれる懸濁物の寄
道前 香緒里・石賀 裕明 29
与が大きい可能性がある.Eu/Eu*についてのミキシングモ
デルではYh:P-C=50:50もしくは40:60により説明さ
れる.
5.このように八代海の堆積物が球磨川や川辺川の堆積物と
は有意に異なる組成を示すことは,球磨川水系に存在する
多数のダムや堰のために堆積物の供給が稀少であることに
よるもしれない.
謝 辞
本調査研究を行うにあたり野外調査に協力いただいた方お
よび情報提供を下さった多くの方々に感謝致します.日本自
然保護協会の程木義邦博士はじめ協会の方々,名古屋女子大
学村上哲生先生,須田ひろ実女史には日頃より研究討論をい
ただいた.現地調査では吉村勝徳氏,つる詳子氏,八代漁業
協同組合,川辺川漁業協同組合のみなさんにお世話になった.
また,本調査に快く協力を下さったボランティアの方々に記
して感謝致します.
引 用 文 献
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(受付:2002年10月1日,受理:2002年10月28日)