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広島県立肢体不自由特別支援学校 自立活動実践事例集 第6版 平成31年3月 広島特別支援学校 教育支援部 福山特別支援学校 教育研究部 西条特別支援学校 自立活動部

広島県立肢体不自由特別支援学校 自立活動実践事例集 · はじめに 平成30 年8月10 日(金)に広島県立西条特別支援学校を会場として,第6回の自立活

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広島県立肢体不自由特別支援学校

自立活動実践事例集

第6版

平成31年3月

広島特別支援学校 教育支援部

福山特別支援学校 教育研究部

西条特別支援学校 自立活動部

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はじめに

平成 30 年8月 10 日(金)に広島県立西条特別支援学校を会場として,第6回の自立活

動研究会を開催しました。本研究会は,肢体不自由特別支援学校3校(広島特別支援学校,

西条特別支援学校,福山特別支援学校)が中心となって,現在取り組んでいる自立活動につ

いて,各校の具体的な実践を共有し,専門性を向上させるとともに,広島県全域における特

別支援教育の充実を図ることを目的に行っています。今年は,23 名の県外の方の参加や,

市町の小学校から3名の参加がありました。

当日は,「児童生徒の主体的な取組を促す自立活動の指導の在り方 ~新学習指導要領に

おける『指導すべき課題』の整理に着目して~」を研究テーマとして,講演,実践報告,研

究協議を行いました。講演では,「~「指導すべき課題」をどのように発見するか~」とい

うテーマで広島大学大学院 教育学研究科 特別支援教育学講座 船橋篤彦様に御講話いただ

きました。その後3校から各々1例ずつ実践報告があり,それをもとに熱心な研究協議が展

開されました。3校学校企画では,各校の特色に応じた発表等を行い,取組等について活発

な意見交流を行いました。その後,広島県教育委員会 事務局 教育部 特別支援教育課の山

田裕一指導主事様から貴重な指導や助言をしていただき,大変有意義な研究会となりました。

いうまでもなく,肢体不自由特別支援学校においては,特に児童生徒の障害の重度・重複・

多様化に対応した魅力ある教育内容の創造は緊急の課題です。児童生徒の学習時の姿勢や認

知の特性等に応じて,効果的な学習を進めることができるように指導内容の工夫をすること

や,意思の表出や事物の理解が困難な児童生徒に対して適切な補助用具や手段等を工夫して,

指導の効果を高めることが重要です。

この度発刊いたしました3校による事例集第6版は,昨年度の第5版に引き続き,新たな

事例を 22 例紹介しています。自立活動研究会で発表された3例の他,これまで各校で取り

組まれた 19 例を追加して編集したものです。取組内容も様々で,取組が半ばという事例も

ありますが,各校における自立活動の発展,深化に少しでも貢献できれば幸いです。

今後も,さらに充実した研究や実践を進めていく所存です。皆様から忌憚のない御意見や

御指導を賜りますようお願いいたします。

平成 31 年3月

広島県立西条特別支援学校

校 長 立 石 均

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平成30年度広島県内の肢体不自由特別支援学校で取り組まれてきた自立活動の実践を

学部別に区分し掲載しています。

※太字・罫線は平成30年度広島県肢体不自由特別支援学校自立活動研究会にて各校より報告さ

れた実践例です。

中学部実践例

11 自ら話しかけよう【福山 中1】

12 自分の気持ちを伝えよう【西条 中2】

13 握って鳴らそう・動かそう【福山 中2】

14 しっかり起きて,心地よい感触に触れて,両手を上方に動かそう【広島 中3】

15 目指せ!パニック 0回!心理的に安定した学校生活!【広島 中3】

16 人や物に,はたらきかけてみよう ~注意の持続に注目して~【福山 中3】

高等部実践例

16 起きて生活リズムを整えよう!!【西条 高1】

17 見つけて手を伸ばそう【福山 高1】

18 リラックスして体の柔軟性を高めよう【西条 高2】

19 音声パソコンで連絡帳を書こう【西条 高2】

20 体を休めよう【広島 高3】

21 自分の気持ちをコントロールしよう!【広島 高3】

22 色々な物に興味を持ち,手元を使った活動に取り組もう【福山 高3】

小学部実践例

1 さまざまな感触にさわってみよう!【福山 小1】

2 自分から立ってみよう【西条 小2】

3 いろいろな味を楽しもう【福山 小2】

4 しっかりみくらべてみよう!【西条 小2】

5 目で追いながら読んだり書いたりしよう!【西条 小4】

6 人や物に,積極的に働き掛けてみよう【福山 小4】

7 両手を使おう【広島 小5】

8 自分の思いを伝えよう【福山 小5】

9 声や音の方向性に気付いて,自ら視線や顔を向けよう【福山 小5】

10 誰にでも伝わるように伝えよう。【広島 小6】

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実 践 名 さまざまな感触にさわってみよう!

小学部1年 脳性麻痺,てんかん,知的障害,目と手の協応

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・体温調節が難し

く,手足が冷たくな

りやすい。

・腹臥位だと首を

しっかりあげてい

る。

・発作は,早朝と

夜や,雨・曇りの日

に出やすい。

・水分はとろみが

ないとむせやす

い。

・周りの状況が変

わっても,変化に

対応することがで

きる。

・歌を聴いたり絵

本を読んだりご飯

を食べたりしてい

る時に気分がよく

なる。

・活動がない時に

指を口に入れる自

己刺激等の行動

がある。(指噛み)

・人の動きや状況

をよく見て,行動し

ようとしている。

・集団の中にいて

も落ち着いた行動

をとる。

・声掛けには顔を

向けて反応する。

・初めて会った人

や,あまりなじみの

ない人には無表

情になる。特定の

支援者の前では

笑顔や声を出した

りする。

・手は,握手やマ

ッサージなど支援

者の手が触れるこ

とは問題ないが,

物を持つと離そう

とする行動をとる。

・物や人の行動を

注視・追視したり,

人の声に反応し,

声のする方を見た

りすることができ

る。

・物を触る時に,手

元を見続けること

が難しい。

・後方からの支援

を受けての座位は

可能だが,頭部の

保持が難しく倒れ

こみ,体幹も合わ

せて傾く。

・手を動かして玩

具等に触ることは

できるが,自分か

らものを握ることは

ない。

・頭が左右に傾き

やすく,右手が車

椅子から出やす

い。

・嬉しいことや楽しい

ことがあると笑い声を

出したり,腕や足が

伸びたりする。

・嫌なことがあると,

嫌な顔をして表現す

る。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・成長に伴い,足首が固くなっている。また,発作が増えて座位をとれる時間が短くなっている。(身,健)

・物に興味を持っているが,手を使った感覚遊びが少ない。(環,身)

・指を口に入れている時は,外部からの関わりにほとんど興味を示さず,反応もほとんど見られない。(心,コ)

・物や人の行動をよく見ることができるが,自分が触っているものを注視する時間は短い。(人,環)

・見て楽しむことはできるので,自分で触って楽しめるものが増えてほしい。(心,環,身)

収集した情報を 3年後の姿の観点から整理する段階 ・健康な状態を維持して,座位を取りながら一定時間頭部を保持することができる。

・視覚情報に基づいて対象に注意を向けて,自ら手を伸ばし触ることができる。さらには操作を伴う活動が可能とな

る。

・様々なことに興味・関心を持ち対象に触れる力をつけて,スイッチ等の因果関係を伴う遊びの領域が拡大してほし

い。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・目と手の協応をすることで,物で遊ぶ楽しさを知ることができる。(環) ・視覚情報を活用することで,対象へ向かった自発的な動作を増やす。(環,身) ・指を口腔内に入れる自己刺激が,人とのかかわりが少なくなったときや,好きではない活動をしたときに起きやすい。(心,人,環,コ)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 興味関心の持てるものを見つけ,自己刺激(指を口に入れる)を減らしていく。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)情緒の安定

に関すること。

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

と。

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

と。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 児童の手を触る。 イ 児童と一緒に様々な感触の物

を触る。

ウ 支援者が児童の後ろから一緒

に座位を取り,体幹を保てるように

する。

項目間の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 児童の手を触る。

・手の指 1本 1本を児童の目の前で見せながら触る。

・どこの指か確認しながら行う。

イ 児童と一緒に様々な感触の物を触る。

・玩具や使うものを登場させる。「見て」と声掛けをする。

・「触ってみる?」と聞き,返事をしたら一緒に触る。(その際,児童の手の動きを少しでも活用できるようにする。)

・感触を共有する。(「柔らかいね」等)

<①様々な感触のボール>

・イガイガ,つるつる,むにむに等,手に収まりやすいサイズのボールや玩具を用いて,一緒に遊ぶ。

<②小麦粉粘土>

・さらさらした感触から,水の冷たさ,粉がまとまっていくまでのべとべとした感触を一緒に触りながら造形活動を行う。

ウ 支援者が児童の後ろから一緒に座位を取り,体幹を保てるようにする。

・ピーナッツボールの上に座り,左右に体幹を傾け,自分自身で起き上がってくるのを待つ。また,胡坐座位を取ってい

る時も体幹が傾いたら自分自身で起きれるように声を掛ける。骨盤のあたりを支えておく。

指導の状況

ア 児童の手を触る。

・指一本一本に視線を向けて手を意識しているように感じる。左手を見続けることが難しかったのだが,左手も見続けるこ

とができるようになっている。

イ 児童と一緒に様々な感触の物を触る。

・一緒にボールを触ると手元をよく見てボールを触っている。

ウ 支援者が児童の後ろから一緒に座位を取り,体幹を保てるようにする。

・左右に倒れると,自力で戻そうとする動きがよく見られるようになった。前に倒れると,自分で起き上がるのは難しそうだ

った。

成果

ア 児童の手を触る。

・右手と左手があり,手の存在に気付くことができている。さらに、右手をテーブルの上でグーパーに動かしたり,近くに

いる支援者の手を持ち続けるようになったりした。

イ 児童と一緒に様々な感触の物を触る。

・様々な感触のボールでは,片手のひらでボールを左右に動かす仕草が見られた。また,手元を見ながら触った感触に

対して声を出し表現することも見られた。

・小麦粉粘土では,さらさらした感触からはすぐに手をひっこめたが,だんだんとまとまっていくにつれて手のひらで触り

続けることができた。

ウ 支援者が児童の後ろから一緒に座位を取り,体幹を保てるようにする。

・自力座位は,15秒程度とれるようになった。また,胡坐座位を取っている時に自分自身で体を戻そうとする動きもみら

れる。

今後の展望

・左手の感覚を広げるために,左手への刺激を意識して入れるように指導していく。

・身近にある玩具や,感触が変わっていく教材を用いて,より幅広い感触の物に触れられるように指導

していく。

・好きなことや物を増やし,意欲的に活動できる場面を増やしていきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 自分から立ってみよう

小学部 2年 (キーワード)知的障害,体幹機能障害,意欲

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・気管支の機能が

弱く,薬は服用し

ているが,よく咳を

している。

・見通しをもつこと

ができると意欲的

に取り組むことが

できる。

・場面転換時な

ど,自分が思って

いることと違う時に

情緒が不安定に

なる。

・人が好きで目が

合うと軽く会釈す

る。

・刺激に対して

反応しやすく,

注意が持続しに

くい。

・体幹が弱く足で

踏みしめることが

難しいため,座位

や介助歩行,つか

まり立ちが安定し

ない。

・主に指さしや発声

で伝えることができる

が,動作が安定せず

伝わりにくいことが多

い。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・体幹が弱く立位が安定しない。(身)

・伝えようとする意欲はあるが,伝えようとしていることが伝わりにくい。(心,人,コ)

・状況の変化に弱い。(心,環)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階 ・支えを利用して自分で立つことができる。(身)

・写真,絵カード,簡単な手話やサインを使い,自分の気持ちを伝えることができる。(心,人,コ)

・課題に集中することができる。(環)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・支えを利用して自分で立位を維持することが困難。(身)

・自分の気持ちや要求を身振りで表現することすることはあるが,伝わりにくい。(心,人,コ)

・自分の思うことと異なると気持ちが不安定になる。(心)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 立つことに意欲をもち自分から立ち上がることができるとともに伝い歩きができるようになる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (5)健康状態

の維持・改善

に 関 す る こ

と。

(3)障害による学習

上の困難を改善・克

服する意欲に関する

こと。

(2)感覚の認知

の特性について

の理解と対応に

関すること。

(1)姿勢と運動・動作の基

本技能に関すること。

(4)身体の移動能力に関す

ること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

日常生活の中で自

分から立ち上がる場

面を設定する。

掴まり立ちや伝い

歩きができる。

車いすを操作するこ

とができ,行きたい場

所へ移動できる。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 日常生活の中で自分から立ち上がる場面を設定する。

・トイレを済ませた後,オマルから早く降ろしてもらいたい気持ちがあるので,ほんの少し足を踏みしめることがある。こ

のことを利用して介助の時に正面に座り,教員の肩に手をかけさせて,徐々に距離を取ったり,介助する力を抜いたりし

て,自分だけで立ち上がるようにしていく。

・車いすに乗ることに意欲がある。介助しながら自分で乗ることを覚えさせるとともに,立ち上がるための筋力をつけて

いく。

イ 掴まり立ちや伝い歩きができる。

・アで踏みしめるための動作を習得して力もついてきた時期から,廊下の手すりを使って掴まり立ちや伝い歩きの練習

をする。

・足の裏に感覚の過敏があるため,足の裏のマッサージをして慣らしていく。

ウ 車いすを操作することができ,行きたい場所へ移動できる。

・車いすで自由に移動できる時間を設定する。かくれんぼ等本人の好きな遊びをする。

・課題の時間の最後に車いすでの活動をすることにより,一連の活動(トイレ→マッサージ→掴まり立ち→伝い歩き→

車いす)に見通しをもたせる。

指導の状況

ア 徐々に踏みしめる力が上がってきている。トイレが終わると,なんとかして自分一人で立ち上がろうとする。

イ 最初は掴まり立ちを続けることが 40秒しかできなかったが,徐々に続ける時間も長くなってきた。廊下で行っているた

め通りかかる人に興味をもち,片方の手で手すりを持ち,もう片方の手で手を振って楽しんでいる。隣の教室の友だちや

教室入口にある蛍光灯のスイッチなど興味がある方向に自分から移動している。教室では高さの違うものへ伝い歩きの

練習をするために電子ピアノや机などを使っている。また,椅子を押しながら歩行の練習も行っている。

ウ 本人の行きたい方向へ行かせたり,一緒に遊んだりすることで車いすの操作が上手になってきた。坂道や戸が閉ま

っているなどの負荷があっても自分でなんとかしようとしている。

成果

ア 立ち上がるための動きや体力が向上した。車いすに乗りたい意欲があるので,自分で乗る為の工夫をし始めた。ア

ームサポートでは,高低差で立ち上がる力がかなり必要になるので,シートに手を置き立ち上がることを自分で見つけ

た。シートに手を置き立ち上がった後の動き(アームサポートに利き手をもっていくこと)を具体的に教えると,次からは一

人で乗る手順が本人の中で決まり,介助なしで乗ることができるようになった。

イ 掴まり立ちは,片方の手を振ったり,操作したりすることに使うことで足に重心が乗る様になった。頼りない動きだが伝

い歩きができるようになってきた。歩行は後ろで介助するとすがってくるので,正面から手を取って足を前に出して足に

体重を乗せる練習をしていたが,OT と連携して椅子を歩行器の代わりに用いる方法に切り替えたことで,より効果的に

できるようになった。

ウ 車いすの操作が上手になるとともに腕の力もついてきた。漕ぐときの動作は PTに褒められた。

今後の展望

・意欲を基にして色々な運動や動作ができるようになる。

・足の運び方や体重移動の仕方を工夫して,より安全に伝い歩きができるようになるとともに,介助歩行

ができるようになる。

(平成30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 いろいろな味を楽しもう

小学部2年 (キーワード) 筋ジストロフィー,知的障害,摂食指導,発語

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・食事形態は,硬

がゆと普通食であ

る。普通食は小さ

くカットする。

・障害の特性によ

り,筋力が低下す

る。

・第1学年の9月中旬

まで口からの食事は

一切しておらず,経

管栄養の注入のみで

あった。徐々に食事

が習慣付き,食に興

味関心を持つように

なった。食物の見た

目により難色を示す。

・自力座位ができない

ことから,不安定な状

態に置かれることを不

安に思っている。

・慣れた人とは,

進んで関わること

ができるが,初め

ての人や見慣れ

ない人には人見

知りをしがちであ

り,恥ずかしがっ

たり,声を出しにく

くなったりすること

がある。

・数の概念は未

確立である。

・教科名やよく

目にする言葉

は読み上げる

ことができる。

・視力は 1.0 程

度で,注視,追

視等問題なく

行うことができ

るが,外斜視に

なることがある。

・摂食時,口唇を

閉じることができ

る。

・自力での座位は

困難である。また,

筋力低下に伴って

腕の挙上や寝返り

が難しくなってきて

いる。

・移動は電動車椅

子を使用してい

る。

・発音は不明瞭であ

る場合があるが,簡

単な単語および2語

文をいうことができ

る。

・指示や説明はある

程度理解しており,2

往復ほど会話でやり

とりをすることができ

る。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・自力座位は困難で,筋力低下に伴い,腕の挙上や寝返りが難しくなってきている。(健)

・障害の特性により,筋力低下は進行していく。また,不安定な状態に置かれることに不安を感じる。(身,環)

・第1学年の9月中旬まで口から食物を食べる経験がなかった。次第に食べることが習慣付き,3学期のほとんどは,

注入が必要ないくらいの量を食べることができるようになっていた。第2学年になってからも,注入が必要な日は数え

るほどである。食物の見た目によっては食べることに難色を示すことがある。(心)

・慣れない人には人見知りをして,自ら積極的に関わることが難しい。(人)

・簡単な単語および2語文を話すことができるが,発音が不明瞭である場合がある。(コ)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階 ・筋力の低下に伴い,現在と比べて,より動きは小さくなってしまっているが,限られた範囲で出来ることを行なってい

る。給食においては,ほとんど自らの操作で食べることができるようになる。

・支援者との会話のやりとりを長くし,より多くの話題について話すことができるようになる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・手指の操作性を高めることで,活動の幅を広げる。(身)

・会話のやり取りを増やすことで,表現の幅を広げたり,知っている物の名前を増やしたりする。(コ,人)

・会話の経験を積むことで,慣れない人とコミュニケーションをとる。(コ,人)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 ・摂食の際,自力でスプーンを使い,食べることができる。

・支援者と食物の名前を確認したり,給食の感想を支援者に伝えたりすることができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (3)障害による学

習上または生活

上の困難 を改

善・克服する意

欲に関すること。

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

と。

(3)日常生活に必

要な基本動作に関

すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア どの料理についても一口は

食べるようにする。

イ 小さいスプーンを用いて,ほとんど

自力で食べることができる。

ウ 大きいスプーンを用いて,ほと

んど自力で食べることができる。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア どの料理についても一口は食べるようにする。

・給食を目の前にした状態で,献立を紹介する。 ・料理に使用されている素材を紹介しながら,摂食支援をする。

・形が特徴的な料理(焼売,卵焼きなど)は,カットされる前の普通食を見せて,全体像がわかるようにする。

・「ごちそうさまでした」を言って終わる前に,今日の給食の感想を聞く。

※体調によって,あまり食べることができず,注入が必要であった時でも,「よく噛んで食べることができたね」「どれがおい

しかったかな?」など肯定的な言葉かけをし,十分な量食べることができないことが罪悪感や自己否定につながらないよう

に留意する。また,経管栄養の注入も生きていくためには必要な食事であるように意識づけられるような言葉かけを行う。

イ 小さいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・指導初期段階では,好きな食物をスプーンですくって食べることから始め,次第に食べる量を増やしていく。

・児童の筋力の関係で,すくうことが難しい料理を食べる際には,支援を行なう。

・自立活動(給食)の時間内に,児童に必要な量を食べきることができるよう,児童が自力で食べる時間と支援をされなが

ら食べる時間を毎時間配分する。

ウ 大きいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・小さいスプーンも使用できるようにしておき,心理的負担にならないように留意する。

指導の状況

ア どの料理についても一口は食べるようにする。

・達成できてからも,自立活動(給食)の時間では意識するようにしている。

イ 小さいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・家庭での家族の食事の様子や,他児や支援者の食事の様子を見て,スプーンの使い方は学習していたため,スプーン

を手渡すと,ぎこちない様子ではあるが,食物を口元に運ぶことはできていた。

・小さいスプーンは対象児童の力でも操作することができたため,支援器具などを使う必要はなかった。

ウ 大きいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・給食の時間に配膳される大きなスプーンは,児童の筋力の関係で支援器具なしでは重かったため,握りやすいグリップ

を支援者が自作し,装用することで,操作して食物をすくい上げることができるようになった。

成果

ア どの料理についても一口は食べるようにする。

・黒い色の食物を食べることには難色を示していたが,どの料理も一口は食べることができるようになった。

・児童の好む人参や汁物については,言葉を覚え,「にんじん」等言いながら食べる時もある。

・現在の段階では,やりとりの回数が増加したとはいえないが,継続して取り組むことで,食べ終えての感想についての語

彙ややりとりの回数を増やしていきたい。

イ 小さいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・自力で食べる経験をすることで,より食べることへの意欲が増加した。

ウ 大きいスプーンを用いて,ほとんど自力で食べることができる。

・大きいスプーンを用いることで,一口で食べる食物の量が増加した。

・硬がゆと合わせておかずを食べるときは大きいスプーン,細かい食物は小さいスプーンといったように,食べるものに応

じて使うスプーンを選べるようになった。

・汁物の汁をすくって飲むことにも挑戦するようになり,スプーンの傾きにより汁が流れていくことが経験的に理解できた。

今後の展望

・病状の進行による筋力低下に伴い,現在できている動作ができなくなることや食べることのできる量が少なく

なることが想定される。今後も,食べることのできた量を目標にするのではなく,いろいろな味を経験することや

他者と食事を楽しむことを目標に,生活経験をより豊かにしていきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 しっかりみくらべてよう!

小学部 2年 (キーワード) 脳性麻痺 てんかん 両麻痺 知的障害 視覚認知

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・発作があり服

薬をしている。

・右股関節亜脱

・睡眠薬を服用

することで睡眠

をとることができ

生活リズムが安

定している。

・体温調節が苦

手である。

・回数を重ねた

り,具体物や友

だちの様子から

見通しがもてる

と積極的に活動

に取り組むこと

ができる。

・人への関心が

高く,様々な人

に手を振り笑顔

でかかわること

ができる。

・特定の写真カ

ードやジェスチ

ャーを介してい

くつかやりとりを

することができ

る。

・視覚・聴覚刺

激を限定し,四

角柱や円柱のプ

ットインや具体

物の弁別などの

活動に取り組む

ことができる。

・教師の動きを

見て積極的に模

倣することがで

きる。

・不安定なもの

の座位・膝立ち

姿勢がとれ,い

ざり・膝立ちで自

力移動ができ,

支持歩行ができ

る。

・右麻痺が強く,

右の手は握りこ

み,肘・手首は

屈曲した状態で

ある。また,右の

足首に硬さが見

られる。

・表情・発声・動作

で要求や拒否,喜

怒哀楽の気持ち

を表現することが

できる。

・動作とともに意図

的な発声が増えて

きた。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・言葉かけで右手・右足を自身で前方に動かすなど麻痺側の手足の意識が高まってきた。(環,身)

・一対一の関係が苦手だが,個別課題の時間を通して一対一の関係に取り組める時間が増えてきた。(心,人)

・両麻痺のため集中すればするほど姿勢が傾き,姿勢の傾きに気付きづらい。(環,身)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階 ・右手の活用を増やすことができる。(環,身)

・課題に集中して取り組むことができる。(心,環)

・使える手話やサイン等を増やし,自分の気持ちを伝えることができる。(人,コ)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・手元を見ながら操作することはできるが,注意が長く続かない。(身,心)

・麻痺があり,手先を使った操作が苦手である。(身,環)

・集中して作業するほど姿勢が傾く、また自身で姿勢の傾きに気付き,直すことが難しい。(身,環)

・体温の調節が難しく,熱がこもりやすい。(健)

・支持歩行はできるが,つま先歩きで足底に体重をかけて歩くことができていない。(身,環,健)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 絵カードを注視し,正しい場所を選んで貼りつけることができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)情緒の安定に

関すること。

(2)状況の理解

変化への対応に

関すること。

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること。

(1)保有する感覚の

活用に関すること。

(4)感覚を総合的

に活用した周囲の

状況の把握と状況

に応じた行動に関

すること。

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること。

(4)身体の移動能

力に関すること。

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

対象への注意を持続させる。

目と手の協応動作や手指の機能を

高める。

膝立ちやつかまり立ち等の運動に

取り組み,姿勢保持・運動に関す

る力を伸ばす。

項目間

の関連

付け

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- 9 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 対象への注意を持続させる。

・1分程度で終えられる課題に数多く取り組み,始点終点の理解を深める。

・視覚・聴覚刺激を限定し,興味・関心が移ることを防ぐ。

イ 目と手の協応動作や手指の機能を高める。

・直方体や平面丸型のプットインや球と輪,球と直方体の弁別,色の弁別等を行い,目と手の協応を高めるとともに物の

違いを見分ける。

ウ 姿勢保持・運動に関する力を伸ばす。

・手足等全身の各部位に触れ,ボディーイメージを高める。

・ベンチ椅子で教師が後ろから支援し,足裏をつけて姿勢を保つ。

・ピーナッツボールにまたがって座り,自分で身体を戻せる範囲内の大きさで揺らし,身体を支えたり姿勢を変えたりす

る。

・教師が後方または前方からの支援で立位を取り,足裏へ荷重と体幹の伸展を促す。

指導の状況

ア 対象への注意を持続させる。

・視覚・聴覚刺激を少なくし環境を整えることで,対象の物を注視し,同じ絵が描いてあるところを選んで貼り付けることが

できるようになりつつある。しかしまだ教師の促しが必要である。

イ 目と手の協応動作や手指の機能を高める。

・おはじきのプットイン マジックテープはがし 色別マッチング 絵カード合わせ 等

ウ 姿勢保持・運動に関する力を伸ばす。

・教師の促しを受けて,身体の各部位に視線を向けながら自らも触れて意識することができた。

・ベンチ椅子での座位の姿勢が安定してとれている。

・ピーナッツボールで教師の促しを受けて倒れる向きとは逆に身体を傾け,重心を戻そうとすることができつつある。

成果

ア 対象への注意を持続させる。

・見通しがもてると3つのカードを全て貼り終えるまで気が逸れることなく集

中して取り組むことができた。

・自ら絵カードを持って顔に近づけ注視した後,考えてカードを貼る様子が

みられるようになった。

イ 目と手の協応動作や手指の機能を高める。

・おはじきを親指と人差し指中指等を使ってつまんで穴に入れることができた。

・右手への支援はいるものの,右手を開いて対象物を押さえながら左手でマジックテープをはがすことができた。

ウ 姿勢保持・運動に関する力を伸ばす。

・急傾斜の三角マットを座位の姿勢を崩すことなく姿勢を維持したまま滑りきることができた。

・両足を地面につけて,左手を支えにしながらピーナッツボールに座り,落ちないように姿勢を変えたりしてバランスを保

つことが 15秒程度できた。

今後の展望

・手を使う活動を継続していくことで目と手の協応や手指の機能を高めていきたい。

・集中して取り組める時間をのばしていきたい。

・介助度を減らし,手すりを持っての自力歩行が数メートルできるようにしたい。

(平成 30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 目で追いながら読んだり書いたりしよう!

小学部4年 (キーワード)脳性麻痺,目と手の協応

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・身長が急に伸

び,身体を支え

続けることが難し

くなってきてい

る。

・難しくてできな

いと判断すると

やる気をなくし,

最後はパニック

状態になる。

・教師や他の児

童との話し合い

で自分の考えを

伝えることができ

る。

・相手がどのよう

な気持ちになる

のか想像せずに

行動することが

ある。

・聞いたことを文

字で書くことが

できる。

・リコーダーなど

の指先を細かく

動かす活動をや

りたがらない。

・追視が難しく,

首も動いてしま

う。

・自分がやりたい

ことや思っている

ことを言葉で表現

できないときがあ

る。

・指示されたことを

頭の中で整理でき

ず集中力が途切

れることがある。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

(学習上又は生活上の困難)

・ホワイトボードに書かれたことをノートにとることが難しく,文字の大きさもバラバラで行も斜めになっている。(環・身)

(これまでの学習の習得状況)

・1つずつ頭の中で整理していくようになってきており,パニックになることは少なくなってきた。(心,コ)

・教師に対して正しい言葉遣いをすることができるようになってきており,自分の言いたいことも伝えられるようになっ

てきた(人・コ)

収集した情報を3年後の姿の観点から整理する段階 ・多くの人とコミュニケーションをとることができるようになってほしい。(コ)

・自分の考えや言いたいことを頭の中でまとめて伝えることができるようになってほしい。(コ)

・学習に対して前向きに取り組んでほしい。(心)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・身体を支えることが難しく,前のめりになっている。(健・身)

・追視が難しいため,教科書をスムーズに読めない。(環・身)

・ホワイトボードに書かれてある文字をノートに書くことが難しい。(環・身)

・学習意欲が低下すると集中力が切れて左斜め下を見ている。(心・環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 短い文章を目で追いながら読んだり,聞いたことを書いたりすることができるようになる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (5)健康状態の

維持・改善に関

すること

(1)情緒の安定

に関すること

(3)障害による学

習上または生活

上の困難 を改

善・克服する意

欲に関すること

(2)感覚や認知の

特性についての理

解と対応に関するこ

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

(3)日常生活に必

要な基本動作に関

すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

(3~6個程度)

ア 膝立ちをさせて身

体を支える訓練をさせ

る。

イ 2~3文程度の短

い文章を読む練習を

させる。

ウ 聞いたことをノートに

書く練習をさせる。

エ 学習意欲をもち活

動に参加させる。

・・・

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 膝立ちをさせて身体を支える訓練をさせる

・マットを敷いて,膝立ちしやすいようにする。

・膝立ちをさせながら,キャッチボールやバスケットボールなどの児童が楽しいと思う活動をさせる。

イ 2~3文程度の短い文章を読む練習をさせる

・支援シートを用いて,ゆっくり読む練習をさせる。

・背筋を伸ばさせたり,背中にタオルを入れてはさんだりさせて,上体を支える補助をする。

ウ 聞いたことをノートに書く練習をさせる

・児童の書くスピードに応じて,書くべき内容を精選したり,1回に伝える内容を決めたりする。

・マス目のあるノートを使い,書く場所を意識させながら書くようにさせる。

エ 学習意欲を持って活動に参加させる

・指導者からの発問等をホワイトボードに書いておく。

・教科書にルビを打っておいたり,読み方を教えたりする。

指導の状況

ア 膝立ちをすることは元々できていたが,体幹が弱かったこと,身長が急に伸びたことから維持できる時間が短かった

ため,膝立ちに慣れるところから始めた。その後,キャッチボールや,バスケットボール,バランスボールなど児童の好

きな活動を取り組んだ。

イ 指導開始時は,教科書を読むことができなかった。そのため,支援シートを用いて目に入る情報量を制限しながらゆ

っくり読む練習を行った。また,前のめりになったり,他のところを見ていたりする傾向にあったため,背筋を伸ばして教

科書を見るよう言葉掛けをした。

ウ 聴覚優位であることから,指導者が伝えた内容をノートに書くようにさせた。その際,ゆっくり書かせたり,鉛筆の持ち

方を直させたりした。また,マス目のあるノートを用いて,どこに書けばいいのか目で見て分かるようにした。

エ 発問等をホワイトボードに書いておくことで,何を問われているのか見通しをもてるようにした。また,教科書の漢字に

ルビを打っておいたり読み方を教えたりすることで,漢字が読めないことから生じる学習意欲の低下を防いだ。

成果

ア 体幹が少しずつ強くなったことで,5~10 分程度背筋を伸ばしたまま身体を支えつつボールを使った活動に取り組

むことができるようになった。

イ 支援シートを自分で動かしながら,目で文字を追って教科書を読むことができるようになった。繰り返し取り組んでい

った結果,支援シートなしでもゆっくり教科書を読んだり,絵本の短文を声に出して読んだりすることができるようになっ

た。教科書を読むためには,背筋を伸ばす必要性があることに自分で気がつき,言葉掛けなしでも背筋を伸ばして教

科書を読むようになった。

ウ 最初は指導者から聞いた4~5文字を書いていたが,次第に整理して記憶できる文字数が増え,7~8文字程度聞い

たことをノートに書くことができるようになった。また,鉛筆の持ち方を変えたり,マス目を見ながら書かせたりしたこと

で,少しずつ目で見ながら文字を書くことができるようになってきている。

エ 以前と比べて,左斜め下を見る回数も少なくなり,正しい姿勢のまま学習意欲をもって活動に参加することができるよ

うになった。このことに伴い,教科書を読んだりノートをとったりすることを自発的に行うようになった。

今後の展望

・体幹を保持する力を付けていくこと,目で見て教科書を読んだり,文字を書いたりできるようになった。

・頭の中で情報を整理する力や,はさみなどの様々な道具類を怪我なく使うなど日常生活で必要とされ

る能力の向上に努めていきたい。

(平成 30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 人や物に,積極的に働き掛けてみよう

小学部4年 脳性麻痺による体幹機能障害

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・季節の変わり

目に体調を崩し

やすい。鼻炎ア

レルギーによる

体調不良もあ

る。

・苦手な食べ物

の匂いや味によ

り,嘔吐をするこ

とがある。疲れ

が出ている時

は,吐き戻しが

多い。

・睡眠のリズムが

崩れやすかった

り,疲れがとれ

にくかったりする

日が続くことか

ら,情緒が不安

定になり,泣くこ

とが多々ある。

連休や長期の

休み等は昼夜

逆転生活になる

こともある。

・人との関わりに

は課題があり,

自分から人と関

ろうとすることは

少ない。

・挨拶は,他者

の言葉の拍子に

合わせて手を叩

きながら挨拶を

することができ

る。

・動いているもの

に目を向けるこ

とはあるが,追

視をすることは

ほとんどない。た

だし,興味のあ

る物に対しては

追視する。

・手に取ったも

のを口に入れ

て,感触を確か

めることが多い

ため,飲み込ん

でしまわないよう

に注意が必要で

ある。

・児童椅子に一

人で座位保持が

できる。

・車いすの座位

では姿勢が前傾

姿勢になりやす

い。

・主に両手両膝

を付いて,座位

のずり這いで移

動する。小学部

3年3学期から,

手と足を左右交

互に動かして移

動をする場面も

増えてきた。

・欲しいものがある

時ややりたいこと

がある時には,手

を叩いたり,教師

に近づき手を引い

たりして伝えること

がある。

・「かして」「おしま

い」「ブランコ」「も

う1回」「おねがい」

「スイッチオン」「し

っこ」等は伝えら

れる。適切な場面

で適切な言葉を

表出することも少

しできている。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・様々な座位の保持ができてきたが,活動を行う際にバランスを崩すことがある。(健,身)

・挨拶をする際に頭が下がったままだが,声を感じて手を叩いたり,上げたりなどの場面が増えている。(人,コ)

・興味のある物や,教師の動き等には追視することが多い。興味のないことへの注視,追視は少ない。(心,環)

・車いすの座位では,前傾姿勢になりやすく,机があるとうつ伏せてしまい頭の拳上が難しい。(心,身)

・苦手な食べ物が多いが,好きな食べ物は自らスプーンやフォークを使って摂食を行うことが多い。(健,身)

収集した情報を2年後の姿の観点から整理する段階 ・様々な座位の保持を行い,活動を行うことができる。

・困った時や,もう一度したい時に教師の問いかけに対して言葉や動作等で自らの意思を表現できる。

・摂食の際に,コップやスプーンを用いて自ら摂食を行うことができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・様々な食べ物への興味関心を拡げることで,食生活を豊かにする。(健,心) ・支援者とのコミュニケーション方法の確立を行うことで,自らの意思を簡単に表現する。(心,コ) ・視覚を主体的に活用することで,外界への興味を拡げる。(環,身) ・頭の拳上を行うための筋力をつけることで,人や物への注意を向ける。(身,コ)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 対象(人や物)に注意を向け,積極的に自ら関わろうとする。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)情緒の安定

に関すること

(1)他者の関わりの

基礎に関すること

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 児童椅子で安定して座位

を保持し,手を用いた活動に取

り組ませる。

イ 車いすに乗った状態で,頭の拳上を

させる。

ウ 挨拶や行きたい場所,やりたい

こと等を他者に伝えさせる。

項目間

の関連

付け

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- 13 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 児童椅子で安定して座位を保持し,手を用いた活動に取り組ませる。

・児童椅子で,深く座らせ股関節や膝を90度に曲げ,身体が背もたれや床等に触れる面積を増やし安定させる。

・出させたい腕の肩の後ろに支援者の手を当てて,手を前に伸ばしやすいよう促す。

イ 車いすに乗った状態で,頭の拳上をさせる。

・好きなDVDを提示して,注視するために頭の拳上を行うことを待つ。

・挨拶を行う際に,頭の拳上を行い挨拶するように促す。

ウ 挨拶や行きたい場所,やりたいこと等を他者に伝えさせる。

・ブランコ,図書室,エレベーター等の行きたい場所を伝えられるように促す。

・やりたい玩具の電源をオフにして渡し,支援者に玩具の電源を入れる支援を要求するよう促す。

指導の状況

ア 児童椅子で安定して座位を保持し,手を用いた活動に取り組ませる。

・嫌な活動で落ち着きが保てず精神的に不安定になってくると,安定した座位が難しくなることがあった。(深く座ってい

る状態から,腰が浅い方へずれ,近くの支援者に身を預けてしまう等。)少し腰が浅くなってくる際に,身体を元に戻すよ

う声掛けを行うと姿勢を戻そうと動きは出るが,脚の踏ん張りが弱く難しいので,踏ん張れるように支援を行った。

・手を前に伸ばすことや,何かを掴む等の操作はできてきたが,バランスを崩すことが時折ある。まずは安定した活動が

行えるように手元から行うよう促した。

イ 車いすに乗った状態で,頭の拳上をさせる。

・頭の拳上は数秒のみを行う。継続した頭の拳上ではない。好きな場面を何度も提示することで,頭の拳上を促した。

・挨拶を行う際に,頭は下がったまま手を伸ばして挨拶を行うことが多かった。頭の拳上は,少し待つとあがってくることも

あるが頻度は多くなかった。頭の拳上をし易いよう,後方から肩の支援を行うようにした。

ウ 挨拶や行きたい場所,やりたいこと等を他者に伝えさせる。

・ブランコ,図書室,エレベーター等の行きたい場所を通り過ぎると不快を示す表現を声等で伝えることが増えた。その

際に,「ブランコ」,「図書室」,「エレベーター」と名称を覚えられるように促した。

・電源が入っていない玩具を持って支援者に近づき「スイッチオン」と支援を求めることができてきた。スイッチを入れる動

作の支援を行い,自らスイッチが入れられるように促した。

成果

ア 児童椅子で安定して座位を保持し,手を用いた活動に取り組ませる。

・1時間の勉強を安定した姿勢で取り組むことができてきた。

・姿勢が安定することで,活動も継続して行う時間が長くなったが,まだバランスを崩した際には,自ら元の姿勢に戻るの

は難しいので,引き続き指導支援を行っていく必要がある。

イ 車いすに乗った状態で,頭の拳上をさせる。

・好きなDVDを見る際には,頭を拳上する時間も長くなってきて,注視して楽しむ時間も増えてきた。

・挨拶を行う際に,少し待っていると頭の拳上を行うことができ挨拶も手を伸ばしてすることができた。

ウ 挨拶や行きたい場所,やりたいこと等を他者に伝えさせる。

・ブランコ,図書室,エレベーター等の行きたい場所を支援者にはわかるよう伝えることができた。

・やりたい玩具の電源が入っていないと,電源を入れてほしいという意思表示で支援者に近づき「スイッチオン」と支援を

求め,少しの支援を受けると自ら電源を入れられることが増えた。

今後の展望

様々な対象(人や物)に,注意を向け自ら積極的に働き掛けを行う力が養われてくると,人とのコミュ

ニケーション,物や環境の認知,主体的に身体を動かす意欲に繋がるため,今後も多くの経験を積め

るよう継続して指導していきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 両手を使おう

小学部5年 (キーワード)脳性麻痺による体幹機能障害 知的障害 車椅子の自走

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

体温調節が難しく,熱がこもりやすい。

改まった場において,挨拶や気持ちを伝えようとすると,声が出なかったり,耳を澄ませないと聞こえない程度の小さい声を出したりする。

友だちが学校を休むと「一人だから寂しいね」と気持ちを伝えることができる。

空間における自分と物との位置関係は理解し,目の前にある具体物を上下左右に,操作しようとすることができる。

右優位。連合反応がでやすい。左手を固定保持しないと,右手の動きが不安定になる。 刺激に対して筋緊張が入りやすい。

相手の言葉をよく聞き,反応することができる。 教師の簡単な指示を理解し,行動を起こすことができる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

右手が優位であり,左手を意識して使おうとすると,体幹がずれたり筋緊張が強まったりする。(心,身)

身体全体に力が入ると,左腕が上がる。(身)

収集した情報を8年後の姿の観点から整理する段階 将来,施設等で自立した生活を送ることができるよう,自分でできることを増やす。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・左手を使うことを様々な活動で意識させ,両手を使っての活動ができるようにする。(健,環)

・姿勢を正して,車椅子を自走する。(心,身)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 両手を使ってこぐことを意識して,車椅子を自走することができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (2)病気の状態

の理解と生活管

理に関すること。

(3)身体各部の

状態の理解と養

護に関すること。

(2)状況の理解と

変化への対応に

関すること。

(3)障害による学

習上又は生活上

の困難を改善・

克服する意欲に

関すること。

(3)自己の理解と行

動の調整に関する

こと。

(1)保有する感覚の

活用に関すること。

(2)姿勢保持と運

動・動作の補助的

手段の活用に関す

ること。

(4)身体の移動能

力に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア ボールを右手か

ら左手へ移し替える

活動や左手に持った

ボールをかごに入れ

る活動を設定する。

イ 鞄や袋の出し

入れは両手を使う

ように,鞄の置き方

を工夫したり左手

を意識する言葉掛

けをしたりする。

ウ 休憩時間でお茶

を飲む際は,両手で

水筒を支えて飲むこ

とを意識できるような

言葉掛けを行う。

エ 車椅子の自走時

は,両手でタイヤをこ

ぐように事前に伝え

たり,左手を一緒に

動かすように言葉掛

けで促したりする。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ボールを右手から左手へ移し替える活動や左手にもったボールをかごに入れる活動を設定する。

鞄や袋の出し入れは両手を使うように指導する。右手のみで鞄から荷物を出そうとしたり,袋のチャックを開けようとしたり

する際は左手で支えながら行うことを指示する。

休憩時間でお茶を飲む際は,両手で水筒を支えて飲むように言葉掛けを行う。

児童が車椅子を自走する際は,自走する前に左手を一緒に動かすことを伝え,自走中も左手が動いていなければ,左

手を動かすことを促していく。

顔が左下に向き,左側に身体がどんどん倒れていくことがある。その時は顔を上げるように言葉掛けを行う。

指導の状況

左手の近くにボールを持っていくと,右手でボールを受け取ろうとする。

左手に持ったボールをかごに入れる時に,手が思うように開かずかごの中に入れるまでの時間がかかった。

右手で荷物を出したり,袋のチャックを開けようとしたりすると,左手に力が加わり左手が机から離れる。

ランドセルは,左手で押さえられるような向きにして,机に置く。

今の自分の姿勢を気を付け,本人の意欲を高められるような言葉掛けを行うと,両手を使って飲むことを意識するように

なった。

短い距離を自走することから始め,授業内で自走する場面を作った。

左を意識しすぎて左側に身体が倒れたり,下を向いて自走したりすることがあるため,随時言葉掛けを行った。

成果

左手で受け取る事が増えた。かごにボールを入れる活動では,左手を開くようになってきたため,ボールを掴めばすぐに

入れられることができるようになってきた。

右手のみで鞄から荷物を出したり,袋のチャックを開けようとしたりするが,自分から気づいて左手で押さえて活動を行う

ことができてきた。

言葉掛けを行わなくても,両手で飲むことが増えた。左手を意識して使おうとしている。

右手で後ろに下がって,方向転換をすることが減ってきた。

直進で移動できるようになり,車椅子を自走する速さが速くなってきた。

左側に傾くことが減り,顔をあげて自走することが増えた。

今後の展望

・日常生活でも,両手を使う動作が増える。

・両手を使っての車椅子の自走がスムーズになり,後ろに下がって方向転換をする回数が減る。

・身体が左側に傾くことが減る。

・次に行う活動がわかり,その活動に向けて車椅子で移動することができる。

(平成 30年 広島県立広島特別支援学校)

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実 践 名 自分の思いを伝えよう

小学部 5年 (キーワード)ダウン症,コミュニケーション

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・排尿時には活動

に集中していると

尿意を伝えること

ができないが,排

便前にはいつで

も,便意を支援者

に伝え,便所に行

くことができる。

・声掛けが必要な

時があるが,排泄

後や給食前の手

洗いの習慣はつ

いている。

・気に入らないこと

があった時には,

相手に息を吹きか

けたり,つばを吐

いたり,叩く・つね

る等の粗暴な振る

舞いをする。

・活動を終え,達

成感を得た時には

拍手をし,近くの

支援者に親指と人

差し指で丸を作っ

て見せたり,親指

を立てて見せたり

する。

・担任の教員につ

いての認識はあ

り,他の教員に比

べて担任の教員

への愛着が強い。

・朝の会や帰りの

会では,司会のよ

うに振る舞い,友

達に問いかけをす

る。

・支援者が泣いて

いると,支援者の

前に留まり,泣き

終わるまで様子を

伺う。

・書字は殴り書き

で,円や波のよう

に描く。

・行先や足元を確

認せず,見たいと

ころを見ながら歩

く。

・言葉掛けの内容

を理解できていな

くても,頷いて賛

同する。

・絵カード選出の

際に目移りするの

で,絵カードによる

表出は難しい。

・膝をあまり曲げ

ず,足裏をベタベ

タと床につけて歩

く。

・座位姿勢では,

背中を丸めること

が多い。

・両腕で物を抱え

る際には,掌を浮

かせ手首で物を支

える。

・手の五指の筋力

が弱く,とることが

難しい手の形があ

る。

・発声はあるが明瞭

ではない。

・自分の思いが伝わ

らない時に,相手の

耳元に近づき声で

伝えようとする。

・児童自身からの要

求では, 1語文であ

る。

・身近な内容であれ

ば,2 語文までの声

掛けを理解すること

ができる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・動きや形の細かい手話や身振りなどのサインを身につけ,今後更に多くの表現を行っていく上での手指の巧緻性

が未熟である。(身,コ)

・手話や簡単な身振りを伴って理解したり表したりすることができる言葉が増えているが,1語文での表現が多く,相

手に伝わりにくい。(人,身,コ)

収集した情報を2年後の姿の観点から整理する段階 ・他者に自分の考えや思いを正確に伝えることができる。

・日常生活に必要な生活習慣を身につけ,日々の活動に見通しを持って取り組むことができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・相手が読み取ることができなかったり本人が手話表現をすることに苦手意識を持ったりするので,多

様な手形をとり表現できる手話の語数を増やすために,手指動作を拡大する。(身,コ)

・相手に確実に自分の気持ちを伝えるために,2語文で相手に伝える方法を身につける。(人,コ,環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 ・言葉の理解を深め,知っている言葉を発声と共にサインで表す。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (2)状況の理解

と変化への対応

に関すること

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

(3)感覚の補助及

び代行手段の活用

に関すること

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

に関すること

(2)言語の受容と

表出に関すること

選定した項目を関連付けて具

体的な指導内容を設定

ア 身近なもの(食べ物や乗り

物等)の名称を理解する。

イ 理解しているものの写真カ

ードを見て,手話を基にしたサ

インを模倣する。

ウ 日常の会話の中で写真カ

ードを使わず音声言語でサイ

ンを理解する。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 身近なもの(食べ物や乗り物等)の名称を理解する。

・コミュニケーションの手段として,写真カードを使い,写真カードが実物の物を示していることを確かめる。

・「りんご」「バイク」など同じ語数のカードを数枚用意し,「バイクはどれ?」等と音声で理解できているかどうか尋ねる。

・提示するカードの数を徐々に増やしていき,選択肢を困難にして定着を図っていく。

イ 理解しているものの写真カードを見て,手話を基にしたサインを模倣する。

・「りんご」「バイク」など同じ語数のカードを数枚用意し,「バイクはどれ?」等と音声と共にサインを見せて尋ねる。

・サインを模倣するように伝え,手の形や腕の動きを模倣させる。手を支える等して腕の動きを支援してボディイメージを

持たせる。

・写真カードを見せ,「これは何?」と尋ね,サイン表出を促す。

ウ 日常の会話の中で写真カードを使わず,音声言語でサインを理解する。

・サイン表出ができるようになった後に対して,音声言語のみで「みかんは?」と尋ねる。

・絵本の内容や給食等,日常の会話の中で,「これは何?」「何が欲しいの?」等と尋ね,適切なサイン表出ができたら,

実際に欲しい物を渡す等の称賛を行い,「そうだね,これが○○だね。」とサインと音声言語を伴わせてフィードバックを

する。

指導の状況

ア 身近なもの(食べ物や乗り物等)の名称を理解する。

・前年度から名称理解の学習として扱っているカードを用いたため,スムーズに答えることができた。

イ 理解しているものの写真カードを見て,手話を基にしたサインを模倣する。

・理解している名称の中から,児童の手指の巧緻性を考慮して取得が可能なサインを精選した。

・音声言語のみで覚えているものもあったため,写真カードにして実物と写真とのマッチングの定着を行った。

ウ 日常の会話の中で写真カードを使わず音声言語のみでサインを理解する。

・「○○はどこ?」と音声言語+サインの問いかけで物を選択できるようになったら,椅子を片付ける際に「椅子」のサイン

だけを提示して動作を促し,音声言語とサインのどの組み合わせの提示方法でも確実に答えられるように会話を重ねて

いった。

成果

ア 身近なもの(食べ物や乗り物等)の名称を理解する。

・生活に身近なものから名称の理解が増えていっている。

・意思疎通が進むにつれ,興味関心の幅も広がってきている。

イ 理解しているものの写真カードを見て,手話を基にしたサインを模倣する。

・写真カードの中でも,興味のあるものや模倣が簡易なものから習得していった。最も興味のあるものであれば,2,3回

で習得ができた。

ウ 日常の会話の中で写真カードを使わず音声言語でサインを理解する。

・1か月に3語以上習得ができた。

・興味関心の強い物や,毎日行うこと等であれば,知っているサインを組み合わせて2語文の表出ができ始めてきた。

今後の展望

・手指の巧緻性を高める活動を並行して行い,より多様な手形をとりサインを表現する姿を目指してい

く。

・音声言語からサインへの変換が難しい単語があったため,語音弁別検査等,聴覚及び言語認知のさ

らなるアセスメントが必要である。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 声や音の方向性に気付いて,自ら視線や顔を向けよう

小学部5年 (キーワード) 脳性麻痺,知的障害,視覚障害(光覚),聴覚障害,外界への気付き

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・日中の覚醒が不

安定である。

・気管支軟化症,

咽頭軟化症があ

り,仰臥位を続け

ると陥没呼吸にな

ることがある。

・側彎の進行を防

ぐため ,一定時

間,コルセットを付

けている。

・不快は表情や身

体の緊張具合で

表すが,快の表出

は限定的で不安

定である。

・急に触れたり大

きな音を聞いたり

すると,過敏反応

を誘発しやすい。

・人からの働き掛

けに反応すること

はあるが,他人へ

の意識が未形成

である。

・教員の声掛けに

気付いて反応する

ことはあるが,視線

や顔を向けること

はほとんどない。

・周囲との関わりは

受容的である。

・聴覚は注意を向

けられるが,持続

することが困難で

ある。

・視覚は彩度の高

い色がわかる程度

で,外部の関わり

として活用すること

が困難である。

・外界への興味・

関心を向けに く

い。

・右凸彎,未定頸

で,頭部は右に傾

きやすい。

・関節各部の変形

や拘縮で可動域

制限があり,随意

的な身体の動きが

困難である。

・支援を受けての

姿勢保持は可能

だが,筋緊張が高

まって崩れやす

い。

・好きな遊びをする

前の合図で稀に反

応することがあるが,

不安定である。

・教員の決まった働

き掛けや言葉掛けに

対して,ほとんど反

応がない。

・響きのある音やホ

ースを通した声等,

聴覚刺激に快を表

出することがある。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・生活時間の大部分を後傾座位と仰臥位で過ごし,頭部の保持が困難である。また,成長に伴い,側彎や拘縮が進

んでいる。(健,身)

・全般的に快は表情に表れにくいが,特定の人からの声掛けで笑顔になることが以前より増えてきた。(心,人)

・急に触れたり,大きな音を聞いたりすると過敏反応が起きやすいが,今まで不快だった高い音や大きな音を少しず

つ受け入れられるようになってきている。(心,コ)

・声や音に注意を向けられるが,音源の方に視線や顔を向けることはほとんどない。(環,人)

・関節各部の変形や拘縮で可動域制限があり,随意的な身体の動きが困難である。(身)

収集した情報を2年後の姿の観点から整理する段階 ・適度に身体の力を抜いて抗重力姿勢をとり,覚醒状態を高めて活動することができる。

・過敏がほとんどなく,安定した状態で様々な刺激を受け入れることができる。

・身近な人に親しみ,声に反応する,視線や顔を向ける等,興味・関心を持って関わることができる。

・様々なことに興味・関心を持ち,遊びの領域を拡大することができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・刺激を過敏なく受け入れ,様々な感覚に対する受容性や快を表出する力を高める。(心,環,コ) ・声や音の方向性に気付き,人や音への興味・関心を広げる。(人,環) ・随意的に身体を動かし,ボディイメージや操作性を獲得する。(環,身)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 声や音の方向性に気付いて,自ら視線や顔を向ける。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(1)姿勢と運動・動

作の基本技能に関

すること

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 声の方に視線を向けさせる。 イ 音の方に視線を向けさせる。 ウ 声の方に顔を向けさせる。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 声の方に視線を向けさせる。 ①児童にとって聴覚刺激を受容しやすい,クッションチェアによる座位姿勢をとらせる。

②児童が視線を向けにくい左耳を中心にホースを近づけて,明瞭にゆっくり絵本を読む。

イ 音の方に視線を向けさせる。 ①児童にとって聴覚刺激を受容しやすい,クッションチェアによる座位姿勢をとらせる。

②児童が視線を向けにくい左耳を中心に,好反応を示しやすい低音や響きのある音を聴かせる。

③最初は耳元から,徐々に離して音を聴かせ,視線を向けられる距離を延ばしていく。

ウ 声の方に顔を向けさせる。 ①側臥位をとらせ,頭部の回旋運動を促す。

②児童の背後から「○○ちゃん,こっちだよー。」等と歌うような口調で声掛けをし,声の方に顔を向けさせる。

③顔を向けることが安定してきたら,「ゴロン」と声掛けをし,声の方に顔を向ける勢いで,側臥位から仰臥位に転がさせる。

指導の状況

成果

ア 声の方に視線を向けさせる。

児童が好む絵本の読み聞かせに対しては,視線を向ける頻度が1冊につき 10 回程度になった。

イ 音の方に視線を向けさせる。 1m程度離れた音に対しても,その都度1秒後に視線を向けることができるようになった。

ウ 声の方に顔を向けさせる。 側臥位の状態で,声の方に顔を向けることができるようになった。また,顔を向けた勢いで,側臥位から仰臥位に転がれ

るようになってきている。

上記の取組の中で,6月頃から笑顔等の表出が増えていった。最も表出の多い「ウ」の活動の中で「もう1回する?」の言

葉掛けで期待反応を促す取組も併せて行ったところ,口を動かす仕草で反応できるようになってきている。

今後の展望

・児童が好む絵本の読み聞かせを継続し,特定の言葉やフレーズへの気づきを促す。

・数メートル離れた声や音に対しても,視線を向けられるよう,徐々に距離を延ばしていく。

・声の方に顔を向け,側臥位から仰臥位に転がる頻度を8割まで高められるようにする。

・教員からの決まった言葉掛けに対し,身振り等で応答できるようにする。(期待反応から応答に繋げていく。)

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

時期 4月 9月 1月

指導内容及び児童の様子

指導開始時は,視線を左に向ける頻度が1冊につき1回程度であった。同じ絵本を毎日読み聞かせたところ,6月頃に2,3回程度になった。

決まった絵本の読み聞かせは慣化されたのか,視線を向ける頻度が1回程度になった。新しい本を読んだり,音を聞かせたりすると反応が良くなった。そのため,9月から音を聞く活動

も併せて行った。

様々な絵本の読み聞かせを行ったところ,笑顔の表出等から,好みの絵本を見出すことができた。数冊の好みの絵本を繰り返し読み聞かせたところ,視線を向ける頻度が10回程度

になった。

時期 4月 9月 1月

指導内

容及び児童の様子

指導開始時は,音を鳴らすと稀に視線を向けることがあった。児童が好反応を示しやすい音叉や太鼓の音を繰り返し聞かせたところ,音を鳴らして2,3秒後に,時々視線を向けることができるようになってきた。

1m程度離れた場所から音を鳴らしても,その都度1秒後に視線を向けることができるようになった。また,大きい音だけでなく,小さい音も捉えられるようになってきている。

時期 4月 9月 1月

指導内

容及び児童の様子

指導開始時は,「こっちだよー。」と声掛けをすると,ハッとする表情になることが多かった。稀に視線を向けたり,顔を向けようとしたりすることがあった。

声掛けをすると,笑顔で顔を向ける頻度が4割程度になった。児童の表出が最も多い活動になったため,活動中に「もう1回する?」の言葉掛けをして,期待反応を促す取組みも併せて行った。

声掛けをすると,笑顔で顔を向ける頻度が8割程度になった。また,「ゴロン」と声掛けをすると,顔を向けた勢いで,側臥位から仰臥位に転がれるようになってきている。

ア 声の方に視線を向けさせる。

ウ 声の方に顔を向けさせる。

イ 音の方に視線を向けさせる。

ア イ ウ(側臥位) ウ(仰臥位)

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実 践 名 誰にでも伝わるように伝えよう。

肢体小学部6

年 (キーワード)肢体不自由(脳性まひによる体幹機能障害)知的障害,広汎性発達障

害 要求

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・小学部入学以

降大きな発作

は起きていな

いが,脳波にて

んかん波が出

ている。大きな

発作が起きた

場合は,ダイア

ップ 10mg を挿

入する。(健)て

んかん薬を服

用しているが,

去年は2回,学

校で約 30 秒の

発作が起きて

いる。

緊張したり自

信がなかった

りすると,声が

小さくなり出

にくくなる。

・最初は緊張す

る面もあるが,

どの集団にも

溶け込むこと

ができる。

・音に敏感で,騒がしいと気になってイライラし,集中できない。たくさんの物が目に入るのも苦手で,どこを見たらよいかわからなくなり,集中できない。

・舌や唇の動き

が悪いため,発

音がやや不明

瞭。舌が左右に

動きにくく,唇

が閉じにくい

ので,食べ物を

口の中でまと

めることが難

しい。

・文で話し,敬語や挨拶も場面に応じて教師と一緒に少しは言うことができる。困っている時は,「これ」「ちょっと」等の言葉で頼むことがほとんど。促せば「お願いします。」と頼むことはできる。

・ゆっくり説明

し,理由や方法が

わかれば,納得し

て自ら動くこと

ができる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・要求を伝える際,単語や指示語で伝える,または相手に近づいて触って知らせるという行動はあるが,相手に分かりやすく伝える力が不足している。 (心,コ)

収集した情報を7年後の姿の観点から整理する段階 ・ 生活のあらゆる場面の中,家族と離れた場所で,難しい時は,手伝ってほしい内容を上手に伝わるように伝え,手伝ってもらいながら 1 人でも暮らせるよう生活力を高める。(心,コ)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき課

題の整理

・ 生活の中で,1 人でするのが難しい時は,手伝ってほしい内容を相手に上手に伝わるように伝えることができる。(心,コ)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 ・ 手伝ってほしい内容を,誰にでも伝わるように伝えることができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(4)

障害に基づく

種々の困難を

改善・克服する

意欲の向上に

関すること。

(3)

自己の理解と行

動の調整に関す

ること。

(4)

コミュニケーショ

ン手段の選択と

活用に関するこ

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 思いをしっかり

聞いて受け止め,ど

う伝えると伝わる

かを教える。伝わら

ず,もどかしい場面

を設定して,必要性

を自覚させる。

イ 場面に応じた

丁寧な言葉づか

い,話し方を教え

て,模倣させる。

ウ 自ら丁寧な頼み

方や挨拶を行うよう

に意識させ,様々な

場面で経験を積ませ

る。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 思いをしっかり聞いて受け止め,どう伝えると伝わるかを教える。伝わらず,もどかしい場面を設定して,必要性を自覚させる。

・要求や思いを知っている単語や動作で伝える時には,よく聞いて伝えたい内容を理解し,言葉を補って文章で,誰にでも伝わる

伝え方を教える。 自分でもう一度正しく言い直すよう促し,単語や指示語だけを示してうまく伝えられない時は,聞き返して,「○○

をどうしますか?」等と言葉をかけ,引き出し,自ら丁寧に伝えることができるまで待つ。名称が分からない場合は,教える。

イ 場面に応じた丁寧な言葉づかい,話し方を教えて,模倣させる。

・お願いする時には,丁寧語を使ってお願いするように見本を示して伝える。「○○してください。」等。尋ねる時に「何してんの?」

と言った時には穏やかに「何をしていますか?」と言い換え,丁寧な質問の方法についてその都度,気付かせる。また,挨拶でも,

「おはようございます。」等,丁寧語で話すように実際の場面で一緒に言えるようにする。

ウ 自ら丁寧な頼み方や挨拶を行うように意識させ,様々な場面で経験を積ませる。

・様々な場面の中で,習ってきた丁寧な伝え方から自ら考え,伝える経験を積ませる。丁寧な言葉で伝えられた時はその場で褒め

て自信をつけさせ,さらに実践を重ねさせる。

指導の状況

4月 5月 6月

・何か伝えたい時,教師の顔を

じっと見て,「これ」「そこ」等

の指示語,「髪」等の単語を言

う。→「髪がどうしたの」等と尋

ねると「髪,直して。」と言う。

→内容を確かめ,正しい伝え

方を丁寧語でゆっくり話して

手本を示す。

・名前が分からない時など,教

師を直接引っ張って手を取っ

てジェスチャーや指さしで伝

える。→場面に応じて,名前

や名称を教える。

・挨拶は自らはしない。された

ら,小さな声でオウム返し

する。→挨拶の場面で一

緒に大きな声で挨拶するこ

とを重ねる。

・ 「何してんの!」「早くして

よ!」と責めるような口調で

話す。→オウム返しをして,

このように言われたらどんな

気持ちになるか考えさせる。

・「あれとって」と指差したり,「髪,やっ

てって言ってんの!」等の言い方で

分かってほしいという態度や,伝わ

らないとイライラしてそっぽを向く。

→「あれ?」と聞き返し,自ら気付く

まで考えさせる。すぐに察して要求

を呑んで動くのではなく,言い直す

のを待つ。

・名前がわからず,言葉を選んで

伝えようとし,困っている様子

が見られる。→名前が分から

ない時は,名称を教え,復唱さ

せる。

・少しずつ自ら挨拶をする場面が

見られるようになる。→毎日,

教師と一緒に元気に挨拶をす

る。こちらから挨拶することを

習慣にしていく。

・休み明けの月曜など,忘れてし

まうのか,責めるような口調で

話す様子が見られる。

→責めるような口調で話す時は,黙

って児童の顔を見つめ,どう伝え

たら良いかを自分で考えさせる。

・「○○が落ちました。拾ってく

ださい。」「○○が欲しいで

す。取ってください。」と具体

的で,分かりやすく,丁寧語

で伝えられる場面が増える。

→直ぐに褒めると照れ笑いを

し,様々な場面で丁寧に話

すことが増える。

・名称や,分からないことを自ら

尋ね,その言葉を復唱して伝

える場面が増える。

・「おはようございます。」「お願

いします。」と自ら挨拶する場

面が増える。→友達やほかの

教員の前で褒めると,表情が

生き生きとし,その後も自ら大

きな声で挨拶ができる。

・質問する時も,「何をしていま

すか?」「少し急いでくださ

い。」と自分で考えて言うこと

が増える。

成果

ア 単語や指示語を言って,察してほしいという以前の態度から,要求を伝えたい時に,自ら考え,具体的にわかりやす

く,誰にでも伝わるように丁寧に話そうとする様子が見られるようになった。

イ 場面に応じて考え,自ら丁寧な言葉で尋ねたり,挨拶したりする場面が増えた。

ウ 命令口調や,責めるような言い方から,自然に,自ら丁寧な言葉でお願いする場面が増えた。お互いに気持ちの良

いコミュニケーションの取り方を意識して話せるようになった。

・・・中学生にむけて,その後の将来に向けて,言葉づかいを意識して話すこと,また,誰にでも伝わるように伝えようとす

ることの必要性を自覚し,実践し,生活の中でコミュニケーションの幅を広げている。

今後の展

・言葉遣いと誰にでも伝わる伝え方を意識し,担任間で指導・支援を統一したり,OT の先生と連携したりして継続して取

り組んでいく。

・将来,人間関係の幅が広がることを想定し,誰にでも気持ちよく伝わるコミュニケーションの方法を身につけ,良い人間

関係を作ることや,手助けが必要な時に,快く手伝ってもらうことができるように,自ら考え言葉を発して,行動できる力

を身に着けていく。

(平成 30年 広島県立広島特別支援学校)

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実 践 名 自ら話しかけよう

中学部1年 (キーワード)筋ジストロフィー,知的障害,言語理解,電動車椅子

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・発作があり,医療

的ケア(吸引,坐

薬挿入)を必要と

する。

・筋力の低下に伴

い,代償運動が大

きくなっている。

・上肢装具を学習

時や給食時に活

用していくことにな

ったが,あまり使い

たくないと首を振る

ことが多い。

・場面緘黙の傾向

があり,声が出な

かったり,表情が

固まったりする。

・初めての物に対

しては,「嫌」と拒

否反応を示す。

・流れや順番を自

分で確認すること

ができる。

・拒否の行動とし

て,後ろに倒れよ

うとすることがあ

る。

・友だちや教員に

対して興味があ

り,言葉や行動の

模倣をする。

・初対面の人に対

して,「せーの」の

合図で,一緒に挨

拶をする。

・不快や嫌なこと

があると,電動車

椅子で物にぶつ

かったり,クラクシ

ョンを鳴らしたりす

る。

・視覚聴覚良好だ

が,物音等は気が

散ってしまい,集

中力が持続しにく

い。

・電動車椅子の操

作時に,左右の判

断が曖昧なことが

ある。

・友だちに近づこう

とするあまり,車椅

子や障害物にぶ

つかることがある。

・自力座位が可

能。

・座位姿勢の状態

で,両腕を動かす

ことが可能。指先

で物を把持するこ

とも可能。右手腕

の運動操作が優

位である。

・ 学校での移動

は,電動車椅子を

使用。周囲の状況

を見て,操作可

能。

・2~3語文を日常的

に使用している。

・日常的に使用して

いる言葉は理解して

いる様子であり,分

からないことは「なん

で?」「どこ?」等と

質問することもある。

・平仮名の習得状況

は,40 字程度。拾い

読みやトーキングエ

イド等で入力ができ

る文字がいくつかあ

る。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・筋力の低下によって,両腕の動きが身体全体での動きになりつつある。指先の操作が可能である。(健,身)

・初対面の人に対しても挨拶できるようになったが,小さい声であったり,目を逸らしたりしてしまう。(心,人)

・嫌・不快・拒否等の反応行動が,身体を後傾させたり,障害物にぶつかったりする。(心,人)

・電動車椅子の操作時,相手や障害物との距離を考えて停止することが難しい。(環,身)

・8割程度の平仮名を読んだりすることができている。(環,コ)

収集した情報を中学部3年(中学部卒業)後の姿の観点から整理する段階 ・上肢装具を給食の時間をメインとして活用し,自分の力でできるものをひとつでも多く持つ。

・どの場面でも,どの人に対しても挨拶をしたり,言葉でのやり取りをしたりすることができる。

・トーキングエイド等の支援機器を用いて,自己意思を伝える手段を獲得する。

・前後左右の環境をよく見て判断し,電動車椅子を操作し移動する。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・どの場面でも,どの人に対しても会話ができるように,挨拶をしたり,簡単な受け答えをしたりする。(心,人)

・嫌・不快の拒否等の反応行動を改善し,2~3語文で自分の気持ちを相手に伝える方法を身に付ける。(心,人,コ)

・前後左右の概念を理解し,相手や障害物との距離を考えながら,電動車椅子を安全に操作する。(環,身)

・五十音全ての平仮名を定着させ,表出語彙を増やす。(環,コ)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 相手との距離感を考えて,出会う人と会話でのやりとりをすることができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (2)状況の理解と

変化への対応に

関すること

(3)自己の理解と行

動の調整に関する

こと

(5)認知や行動の

手掛かりとなる概念

の形成に関すること

(4)身体の移動能

力に関すること

(2)言語の受容と

表出に関すること

(5)状況に応じたコ

ミュニケーションに

関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

相手や障害物との距離を考えなが

ら,電動車椅子を安全に操作させ

る。

廊下や他教室で会った人に対し

て,自発的に挨拶をさせる。

自分の気持ちを2~3語文で相手

に伝えさせる。

項目間

の関連

付け

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- 23 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 相手や障害物との距離を考えながら,電動車椅子を安全に操作させる。

・三角コーンやライン等で障害物や目印を作成し,ゲーム性(障害物競争)を持たせて繰り返し練習をする。

・安全な電動車椅子の操作を行うように,事前にルールを説明する。(例:人や物との距離の取り方等)

イ 廊下や他教室で会った人に対して,自発的に挨拶をさせる。

・登下校時に廊下や他教室への移動の時に,出会った先生や友だちに対して,言葉掛けにより注意を向けさせる。

・目を合わせていなかったり,そのまま通り過ぎてしまったりした場合,言葉掛けをして再度挨拶を行うようにする。

・言葉が出てこない場合は,言葉によるヒントを伝える。(例:「おはよう」の「お」,一緒に言う際の「せーの」)

ウ 自分の気持ちを2~3語文で相手に伝えさせる。

・生徒が気持ちをスムーズに言葉として表出できる場合は,自発的な発言を待つ。

・なかなか言葉が出ない場合は,質問をして引き出す。

・単語のみを発した場合,「○○が△△ね」の形にして2~3語文にして伝え確認する。

・日常的によく使う言葉は,会話の中で繰り返し使用し,定着を図る。

指導の状況

ア 相手や障害物との距離を考えながら,電動車椅子を安全に操作させる。

・障害物競争では,障害物に当たらないようにゆっくりと慎重に電動車椅子を操作している。

・「近すぎるよ」の言葉掛けで止まったり,後退したりすることができている。

イ 廊下や他教室で会った人に対して,自発的に挨拶をさせる。

・登下校時は,「おはよう」「さようなら」を自発的に言うことができている。

・そのまま通りすぎることは減ったが,目を合わせて挨拶することは難しい。

ウ 自分の気持ちを2~3語文で相手に伝えさせる。

・触りたくない,したくないことに対しては,「嫌」と伝えることができ,物にぶつかる等の拒否の行動は見られなくなった。

・答えにくい質問であった場合,表情や動きが固まってしまうことがある。また,質問に関しては,単語で返答してしまうた

め,2~3語文として会話をすることは難しい。

・他学部の友だちや先生にも,自ら話し掛け,会話でのやり取りをすることができた。

(例:「雲,いっぱいね。」と話し掛け,「本当だね。今日の天気は?」の言葉を聞いて,「曇りね。」等と返答する。)

成果

ア 相手や障害物との距離を考えながら,電動車椅子を安全に操作させる。

・他の友だちと一緒に障害物競争を行うことで,継続する意欲が高まった。

・普段の学校内の移動時には,周囲の状況を見て物にぶつからないように操作する様子はあるが,人との距離感が近か

ったり,スピードが上がると急な停止が難しかったりする。

イ 廊下や他教室で会った人に対して,自発的に挨拶をさせる。

・廊下や他教室で会う友だちには,「おはよう」以外にも「○○くん,元気?」等と尋ねるようになっている。同学年の友だ

ちの教室には,自ら行って挨拶や会話をする様子もあり,自発的な行動が顕著に表れている。

ウ 自分の気持ちを2~3語文で相手に伝えさせる。

・生徒がリラックスした状態であれば,友だちや先生に対しても2~3語文で伝えることができている。

・単語のみを発した場合,「何が?」と聞くと,質問に対して主語部分を答えられるようになってきたが,「○○が△△だ」

等の文章化した返答には難しさがある。

今後の展望

・生徒自ら周囲の状況を確認し,人や物との距離感を取りながら,電動車椅子を安全に操作するととも

に,行った先で活発に言葉でのやり取りができるような環境整備を行いたい。

・生徒の理解語彙を増やすとともに,負担にならないような質問を行い,「○○が△△だ」の話型を定着

させ,発言の広がりに努めたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 自分の気持ちを伝えよう

中学部2年 肢体不自由,知的障害,姿勢保持,絵カード

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・健康面は良好

で,体調は安定

している。

・物へのこだわり

がある。

・作業にすぐに

飽きてしまう。

・物を口に入れ

・気持ちの切り

替えが難しい。

・やらないといけ

ないことは分か

っているが,どき

どきしてできな

いときがある。

・人によって役

割を決めてい

る。

・サインで謝るこ

とができるが,自

分のしたことと相

手の表情や行

動のつながりが

あるかは不明。

・特定の音が苦

手である。

・人が多くいる場

所が苦手であ

る。

・普段と異なる環

境が苦手である

・見通しがもてな

いことが苦手で

ある。

・体幹が弱く姿

勢が崩れやす

い。

・下肢に軽度の

けいせい麻痺が

あり,前傾姿勢

で小走りに歩く。

・両面テープを

はがす,ペグを

さす等の細かい

指先の動きがで

きる。

・両手で作業す

ることが難しい。

・サインや絵カー

ド,表情で自分の

思いを伝える。

・自分の気持ちを

伝えてほしいとき,

指を2本立てて問

う。

・「オー」や「クッ」と

発声し,気持ちを

伝えようとする。

・気持ちを伝える

ことが難しい。

・指示を理解して

いる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・言いたいことが伝わらない,活動に飽きた,驚いた等のきっかけで,衝動的行動をしてしまい,活動に取り組むこと

ができなくなる。(心,環)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階 ・落ち着いて学習に取り組む時間が長くなる。(心)

・気持ちを切り替えたいとき,自分でその場を離れることができる。(心・コ)

・教師の促しがある場面で,担任に,絵カードやサイン等で自分の欲しいものやしてほしいことの要求を伝えることが

できる。(コ)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・ピクチャーカード,サインで自分の気持ちを伝えられるようにする。(コ) ・見通しをもつことができるようになる。(環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 気持ちの切り替えが早くできるようになる。(心)

周りの人に,カードやサインを活用して,自分の要求を伝えることができる。(コ)

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)情緒の安定

に関すること。

(2)状況の理解

を変化への対応

に関すること

(1)他者との関わり

の基礎に関すること

(3)自己の理解と

行動の調整に関す

ること

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(2)感覚や認知の

特性についての理

解と対応に関するこ

(1)姿勢と運動動

作の基本的技能に

関すること

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

(2)言語の受容と

表出に関すること

(3)言語の形成と

活用に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 不適切な行動があった

とき,ポジティブな言葉か

けで自分からやめさせる。

イ 「うれしい」「悲しい」とい

った感情を教師と共有す

る。

ウ いつも使わない手

に好きな色である青い

手袋をはめ,机の上に

置くよう声かけをする。

エ 絵カードやサインを適切に用い,

要求場面で絵カードを渡したりサイン

をしたりすることで気持ちを伝える。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 不適切な行動があったとき,ポジティブな言葉かけで自分からやめさせる。

・お茶をわざとこぼす,物を散らかす,机の上に立つ等の行動があったとき,「○○さんは片づけが上手だよね~。○

○さんが上手に片づけるところを見たいな~。」「手伝ってくれたら助かるな」等のポジティブな声かけをし,自分から

片づけるのを待つ。

イ 「うれしい」「悲しい」といった感情を教師と共有する。

・悲しくて涙を流したり,悲しい表情をしたりしているとき,「○○で悲しかったね。次は○○したら悲しくならないね」と

言葉かけすることで,感情を教師と共有する。

・言葉かけに対して生徒が「違う」と反応した場合,「悔しいの?」「辛いの?」と声かけし,「悲しい」以外の感情にも名

前があることを繰り返し伝える。

ウ いつも使わない手に手袋をはめ,机上に置くよう言葉かけをする。

・体が傾いたり,左肩が下がっていることがある。大好きな青色の手袋を,いつも机の下にある手にはめることで,左手

を意識させ,机上に出したり使ったりするように促す。そうすることで,姿勢が安定する。

エ 絵カードやサインを適切に用い,要求場面で絵カードを渡したりサインをしたりすることで気持ちを伝える。

・1人でできず支援を求めたいときは,「お願いします」のサインを出してから行うようにさせる。

・自分から絵カードやサインを用いることができたときは静かに褒める。

指導の状況

ア ・片づけ始めるまで時間がかかるときもあるが,しばらく待つことで自分からできることが増えた。できたときに褒めるこ

とで,自分から賞賛を求めるようになった。

イ ・ポジティブな気持ちは,自分から絵カードで伝える場面がみられた。

・言葉かけに対して,うなずくが,泣き止まないことが多い。

ウ ・その日の体調や気分によっては,指示が通らなかったり,姿勢が崩れたりすることもあるが,できたときには静かに褒

めるようにしている。

エ ・行きたい場所やしたい遊びの絵カードを渡したりサインをしたりする場面が多くみられるようになった。

・1人ですることが難しいことがあると,サインで要求する場面もあれば,泣いたり怒ったりしてしまう場面もある。

しかし,その都度声かけをすることにより,「お願いします」というサインをする場面も増えてきている。

成果

ア ・言葉かけの回数を減らし,しばらく無言で本人のタイミングを待つことで自分からできることが増えた。また,声かけ

をしてから動き始めるまでの時間が以前よりも短くなったように感じる。その日の気分によって,しばらく待っても難し

いときは,タイマーやカウントダウンを活用している。

イ ・言葉かけに対して,うなずいて,泣き止み,気持ちを切り替えて次の活動に移ることができる場面が増えた。

・自分から「かなしい」「うれしい」「すき」「びっくりした」「おこっている」等の絵カードを見せる場面が増えた。今後は,

絵カードの種類を増やし,活用できるようにしたい。

ウ ・姿勢が崩れてしまうことは少なくなったが,「姿勢」という言葉かけも合わせて,引き続き取り組みを続けていく。

エ ・サインや絵カードで要求できる場面が増えた。今後は,2種類以上の絵カードやサインを組み合わせて,「難しいか

らヒントをください」「疲れたからしたくない」等「○○だから○○」と伝えることができるように支援していきたい。

今後の展望

・言葉かけなしで,自分の思いを伝えられるようになってほしい。その中で,自分から相手に伝えること

のできるサインをもっと増やすことによって,周囲の関わる人とのコミュニケーション力を育てたい。

(平成 30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 握って鳴らそう・動かそう

中学部2年 (キーワード)脳性麻痺,知的障害

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・正午に覚醒が下

がりやすい。

・体温調節が難し

く,熱がこもりやす

い。

・摂食が苦手で食

べることに時間が

かかる。

・活動を行ってい

ても指を口に入れ

る,頭を触るなど

の自己刺激が多

い。

・好きな活動を行

っていても急に怒

ったり,泣いたり,

騒いだりすること

がある。

・言葉掛けに応答

することもあるが不

安定である。

・人に向けて声を

出したり手を伸ば

したりする様子も

見られるが,自発

的に働き掛けるこ

とは少ない。

・指先だけで物を

触ることが多く,手

全体を使って触る

ことがない。

・探索の動きが見

られるが,手が届

きやすい左側だけ

など,広範囲を探

索する動きは見ら

れない。

・意図的に物を握

ることは難しい。

・左手でしか物を

触らない。

・頭が下がってい

ると手が前に出に

くい。

・手が伸びにくい。

・左手での突っ張

る力が弱い。

・半寝返りには意

欲的に取り組もうと

するが,長時間の

腹臥位は苦手で

ある。途中であきら

めるときもある。

・好きな活動をすると

要求するように声を

出すことがあるが,

反応が見られない時

や,急に笑わなくな

る時がある。

・日常的に使用する

言葉でも反応がない

ことの方が多く,理

解があまり進んでい

ない。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・左手での探索はできるが,右手は自己刺激をしていることが多い。(心,環)

・右手を使った探索や活動は難しい。(身・環)

・右側に置いた玩具を見つけることができないため,諦めてしまうことが多い。(身・環)

・擬音などには反応を示すが,日常的に使用する特定の言葉には反応がないことが多い。(人,コ)

・左手の突っ張る力が弱いため,両手を使って身体のバランスがとりにくい。(身,環)

・玩具など積極的に触ろうとするが,指先で撫でるような動きが多く,手の動作は限定的である。(身,環)

収集した情報を2年(中学部卒業)後の姿の観点から整理する段階 ・特定のフレーズなどを聞き,表情や声で反応を示すことができる。

・玩具等を用いて一人遊びができる。

・両手を活用した遊びや活動ができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・右手を自発的に使うことで,探索できる範囲を広げる。(身,環)

・手全体を使って物を触ることで,手のひらへの意識を付ける。(身,環) ・日常的に使う言葉の中で,理解できる特定フレーズを増やす。(人,コ) ・両手のひらを床に付けることで,身体のバランスを保持する。(身) ・手の動作が限られており,活動の幅を広げるため,手の動作を拡大する。(身,環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 手全体を使い,物を握ったり操作したりすることができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア あぐら座位で両手のひらを床に

つけ,腕を突っ張ってバランスを保

持させる。

イ 感触教材を握り,握ったら音が

なることに気付かせる。

ウ 棒スイッチを握り,マッサージ器

を操作させる。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア あぐら座位で両手のひらを床につけ,腕を突っ張ってバランスを保持させる。

※あぐら座位は手全体を使って自分の身体を支えることで手のひらの意識を高め,指先だけでなく手全体を使った操作

性の向上に繋げることをねらいとして行う。

・手のひらをしっかり床につけることに重点を置き,しっかり床に手がつけられるように上肢を支える。

・股関節が固く,前傾姿勢が取りにくいので,少しずつ股関節を緩め,姿勢を倒していく。

イ 感触教材を握り,握ったら音がなることに気付かせる。

※手のひらの意識の弱さが握る力の弱さにも繋がっていると考えられるため,把持ができるように

なることをねらいとして行う。

・握るものに関しては,生徒が興味を持ちやすい,握ったら音がするものを用意する。

・一人では握りにくいため,最初は一緒に握ったり,言葉掛けをしたりして,活動しやすい雰囲気を作る。

・左手が優位で触ろうとするが,左手で握った後は右手でも同じように握るようにする。手が開きにくい場合は手を開いて

刺激を受け止めやすくする。

ウ 棒スイッチを握り,マッサージ器を操作させる。

・生徒の好きな振動が伝わるマッサージ器を,棒スイッチを操作して動かす。

・意図的な把持が難しいため,棒を握りやすい太さに変更したり凹凸をつけたりすることで,把持を促す。

指導の状況

ア あぐら座位で両手のひらを床につけ,腕を突っ張ってバランスを保持させる。

・生徒の通う校外のPTと連携し,あぐら座位のとり方,方法を教えていただいた。

・股関節の硬さと,側弯の影響でうまく座ることが難しかった。また右手では突っ張ることができるが,左手は自己刺激を

するため,短時間でも床に付けておくことが難しかった。

イ 感触教材を握り,握ったら音がなることに気付かせる。

・玩具を手に持たせてもすぐに落としてしまうため,握って音を鳴らすことがなかなかできなかった。両面テープを用い,

生徒の手から玩具が離れないようにすることで,落とすことがなくなり,軽く握ることができるようになった。

ウ 棒スイッチを握り,マッサージ器を操作させる。

・棒スイッチを握って操作するのではなく,倒して操作する場面が多かった。

そのため生徒が握りやすいように,棒部分をスティック糊の容器,チューブ,

梱包材等,様々な素材を使用して生徒の手に合うように工夫した。

成果

ア あぐら座位で両手のひらを床につけ,腕を突っ張ってバランスを保持させる。

・繰り返しあぐら座位をとらせることで股関節が以前に比べて柔らかくなり,前に倒れやすくなった。左手も床に付け,両

手で突っ張った状態をとれる時間が増えた。

イ 感触教材を握り,握ったら音がなることに気付かせる。

・手から離れないようにすることで,自分で握って音を鳴らすことができるようになった。あぐら座位で手のひらをつけるよう

にしたことで,右手の意識が拡大し,左手だけでなく,右手でもしっかり握ることができるようになった。

ウ 棒スイッチを握り,マッサージ器を操作させる。

・棒部分を生徒が好きな感触のものに変更したことや,握ったら音が鳴る玩具の指導を一緒に行うことで,握って操作す

ることが多くなった。

今後の展望

あぐら座位は両手をしっかり付けることができるようになってきたので,自分でバランスをとって座ること

ができるようにしてきたい。また,握る活動と並行して右手を使った探索活動も行っているため,両手の

動作の拡大も図っていきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

握ると音が鳴る教材

梱包材 スティック糊 チューブ

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実 践 名 しっかり起きて,心地よい感触に触れて,両手を上方に動かそう

中学部3年 (キーワード)脳性麻痺,知的障害,身体の動き,触覚

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・日中でも覚醒

レベルが下が

り,眠ってしまう

ことがある。

・円背及び側弯

がある。

・親しい人から

話しかけられた

り,触れられたり

すると,安心した

表情をする。

・触覚では,布

のような感触は

全般に好むが,

砂などザラザラ

した感触はあま

り好まない。

・気分が高まっ

てくると,上肢や

下肢の動きが大

きくなる。

・上肢の動きは,

平泳ぎのような

水平方向が多

く,垂直方向の

動きは少ない。

・全体的に屈筋

優位で,腰背部

周辺をはじめと

した伸筋に硬さ

がある。

・安心できる環境

下で,好きな感触

に触れると,気分

が高まってくる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

上肢の動きのバリエーションが少なく,また,受け入れられる感触も少ないので,学習活動に制約が出やすい。

収集した情報を 10年後の姿の観点から整理する段階 将来,福祉施設等で生活する上で,自分から身体を動かして周囲の人や物と関わり,楽しめるもの(こと)をもっと増

やすことができれば,生活がもっと豊かになる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき課

題の整理

・日中覚醒レベルが下がり,眠ってしまうことがあるため,覚醒レベルを高める工夫を行う。(健)

・上肢の動きは水平方向に限られるので,可動域を拡大していく。(身)

・好きな感触は掌で触れ続けるが,嫌いな感触だとすぐに上肢を引っ込めるので,適度な緊張で様々

な物に触れることができる指導内容の工夫。(環,身)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 日中の覚醒度を高め,上肢を上方(垂直方向)に動かすことができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)生活のリズム

や生活習慣の形

成に関すること

(3)身体各部の

状態の理解と養

護に関すること

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(2)感覚や認知の

特性への対応に関

すること

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 学校内での生活

に規則性を持たせ,

次の活動への予測

や心構えができるよう

にする。

イ 座位を安定して

とれるよう,側弯や

円背に留意しなが

ら,腰椎部分をは

じめとした伸筋をほ

ぐし,意識を高め

る。

ウ 身体の末梢部分

に,強弱や早い遅い

など変化を加えなが

ら様々な刺激を与

え,刺激に対する受

容性を高める。

エ 好きな感触を中

心に掌で触れさせ,

意欲が高まったら

徐々に垂直方向へ

の動きを促す。

・・・

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 登校時から朝の会までの流れを共通にする。教室に入ったら,トイレに入る→座位保持式便座に

座って用を足す→ベンチ椅子に座って足湯を行う→腹臥位でマッサージ→あぐら座位で手の学習(ウ

を参照)→水分補給。

イ 腹臥位やあぐら座位にしたり,ベンチ椅子に教師と一緒に座ったりして,腰椎部分をはじめとした伸

筋をほぐし,座位を安定してとれるよう,意識を高める。

ウ NMBP(横浜市立中村特別支援学校が開発した運動プログラム)を参考にして,手の学習に取り

組む。掌を広げる,指1本1本や親指と他の指の先をくっつける,指の付け根を刺激して握らせるなど,

感覚器としての手・指の意識を高められるようにする。

エ 座位保持椅子などで生徒に座位をとらせ,さまざまな感触のある物を貼り付けた板を生徒に提示

し,手の動きなどを見ながら,気に入ったものを探す。特に気に入った感触について,斜面台を利用す

るなどして徐々に垂直方向に板を傾けて,上肢の動きが垂直方向になるようにする。

指導の状況

ア 生徒は登校時,寝ていることが多かったが,一連の流れをしているうちに起きることがほとんどであ

った。

イ 眠そうなときであっても,上半身を少し前に倒して腰椎をマッサージしていると,身体が起きることが

あった。さらに続けていると,眼の開き具合が大きくなり,上肢や下肢の動きが出てきて,覚醒度が高ま

ってくることがわかった。

ウ 取り組み中であるが,特に指を広げたり,掌で握ったりする動きは,まだ増えてきたとは言えない。

エ 基本的には平泳ぎのような動きをするが,感触によっては,ひっかかる指をよく動かしていることが

あった。最初は,少し傾けるだけでも手を動かすのをやめることが多かった。

成果

ア 生活のリズムを持たせることができた。4月は眠ってしまうことが多かったが,5月に入ってからは寝る

ことはだいぶ減った。日中寝てしまった日は,4月は4日/出席日数 15 日で約 27%,5月は 3/18 で約

16%,6月は 3/16 で約 19%と,一定の改善がみられる。そのおかげで,学習にもよりよく取り組めるように

なり,ウ,エの活動に取り組めることが増えた。

イ あぐら座位では,日によって変動があるものの,自分で姿勢を維持できる時間が長くなった。また,

アと同様に覚醒度の向上につながり,ウ,エの活動に取り組めることが増えた。

ウ 目に見える成果,というものは今のところ見いだせなかったが,今後も続けることで,手の感覚を育

てていきたい。

エ 指導を続けるうちに,垂直方向への動きは,45 度ぐらいの角度まで,両手を動かし続けるようになっ

た。

今後の展望

・生徒にとって苦手な感触も含めて,さまざまな感触に触れさせることで,刺激への受容性を向上させ

たい。また,上肢を伸ばすことと組み合わせて,壁の物に触れて落とすなど,できるようになってほしい。

・左右に異なる感触の物を置いて,どちらの感触が好きか,という活動にも発展できる。左右で異なる動

きをするということによる動作の機能向上にもなるし,周囲とのコミュニケーションをとる手段にもなる。

(平成 30年 広島県立広島特別支援学校)

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- 30 -

実 践 名 目指せ!パニック0回!心理的に安定した学校生活!

知的障害部門

中学部3年 (キーワード)知的障害 自閉症

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・食事排泄等は

自力でおこなう

ことができる反

面,自ら感染予

防したり,病気

にかかった際の

自己管理をする

ことは困難。

・情緒の安定を

図ることが困難

で,生活環境な

ど様々な要因か

ら,心理的に緊

張したり不安に

なったりする状

態が継続して,

集団に参加する

ことが難しくなる

ことがある。

・環境の変化,

状況を理解でき

ない等から突発

的に不安定にな

ることが多い

・他者から発せ

られた簡単な情

報であれば理解

して受け止める

ことができるが,

他者の気持ちや

場に応じた適切

な行動をするこ

とは困難であり,

集団の中で状況

に応じた行動を

取ることは著しく

困難。

・保有する感覚

を活用すること

ができるが,自

分に入ってくる

情報を適切に処

理することは困

難。

・日常生活を送

る中で何不自由

がない。高い所

から飛び降りて

もけがなく着地

したり,きき足で

は無い方の足で

もタイミングを合

わせてボールを

蹴ることができ

る。また,手先の

巧緻性も高く細

かい作業でも一

人で行うことが

できる。

・「できました」など

の言葉を自分から

発することができ

たり自分が要求す

るものを単語で要

求することができ

たりるが,場や相

手の状況に応じ

て,主体的なコミュ

ニケーションを図

ることは著しく困

難。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・学校生活を落ち着いて過ごすことができず,自分の意にそぐわないことが起きると,自傷,他傷,物損を行うことで

自分の気持ちを表現する。(心,コ)

収集した情報を4年後の姿の観点から整理する段階 最低限の社会のルールや決まりを守りながら生活し,ある程度の変化にも対応できる力を身に付ける。(心,人,環,

コ)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・学校生活を落ち着いて過ごすための指導の工夫。(心・環) ・変化に対応できる力を持つための指導の工夫。(心・環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 教師が提示したスケジュールに沿って見通しを持って活動することができる。(環,人,心)

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)情緒の安定

に関すること。

(3)障害による学

習上又は生活上

の困難を改善・

克服する意欲に

関すること。

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

と。

(3)自己の理解と

行動の調整に関す

ること。

(5)認知や行動の

手がかりとなる概念

の形成に関するこ

と。

(4)コミュニケーション手

段の選択と圧用に

関すること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 外部からの情報

を遮断し,落ち着い

て活動できるようにす

る。

イ 自立教材具を

複数用意してお

き,自分でスケジュ

ールボードと照らし

合わせながら活動

させる。

ウ 見通しを持ちにく

い活動には,タイマ

ーを活用する。

エ 居場所の明確化

をさせる。

オ 一人でできる活

動 の 提 示 か ら ,

徐々に他者を含め

ての活動を提示す

る。

項目間

の関連

付け

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- 31 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 空き教室の活用,また集団での活動をなくすことで,外部からの情報を極力遮断し,落ち着いて活動できるように

する。

空き教室の活用,また集団での活動をなくす。

イ 自立教材具を用意しておき,自分でスケジュールボードと照らし合わせながら活動させる。

20種類程度の自立教材具を用意しておき,ランダムにスケジュールボードに提示する。

ウ 見通しをもちにくい活動には,タイマーを活用する。

休憩時間,全校集会,避難訓練等,見通しが持ちにくい活動にはミニホワイトボードにスケジュールカード(①活動②

生徒が好きな活動)とタイマーを提示(長くても 15分程度)し,見通しを持たせるようにする。

エ 居場所の明確化をさせる。

「活動場所」「休憩場所」等,居場所の明確化をさせる。

オ 一人でできる活動の提示から,徐々に他者を含めての活動。

活動をする際に,他者(指導者)と関わると他傷が起きる可能性があるので,一人で活動できる教材を提示し,落ち着

いて活動できるようになると,他者との関わりも含めて活動を行っていく。

指導の状況

ア 空き教室や集団での活動を制限したことで,活動に落ち着いて参加することができたので,現在は同じ教室で個

別課題を行っている。時折大きな声で叫ぶことはあるが,概ね落ち着いて活動に参加することができている。

イ スケジュールカードを自分で外し,次の活動に自分で移れるように指導を行っている。

ウ 教室から出て活動を行う際は,ミニホワイトボードにスケジュールカードとタイマーを提示し,見通しを持たせてい

る。

エ 居場所を明確化していることで,イライラし始めたら自分から休憩場所に行く様子が見られている。

オ 一人での活動を行い続けることで安定して活動に参加することができた。今では,一人では難しい活動にもチャレ

ンジしている。

成果

ア 空き教室の活用,また集団での活動をなくすことで,外部からの情報を極力遮断し,落ち着いて活動できるように

する。

同じ教室で個別課題を行っているが,時折大きな声で叫ぶことはあものの,概ね落ち着いて活動に参加することがで

きるようになりつつある。

イ 自立教材具を複数用意しておき,自分でスケジュールボードと照らし合わせながら活動させる。

当初は指導者の言葉掛けを受けてスケジュールカードを外すことが多かったが,今では自分でスケジュールカードを

外し,次の活動に移ることができるようになりつつある。

ウ 見通しを持ちにくい活動には,タイマーを活用する。

全ての活動に見通しを持たせた結果,本人が苦手だった全校集会等にも参加できるようになっている。

エ 居場所の明確化をさせる。

居場所を明確化していることで,イライラし始めたら自分から休憩場所に行く様子が見られている。

オ 一人でできる活動の提示から,徐々に他者を含めての活動。

一人での活動を行い続けることで安定して活動に参加することができた。今では,一人では難しい活動にも指導者に

教えてもらいながら,落ち着いて参加することができている。

今後の展望

スケジュールカードをもとに,ある程度の変化にも対応できるようになり,学校生活,家庭生活を安心・

安定に送ることができ,一人ではできないことにも他者の力を借りて挑戦することができるようになって

欲しい。

(平成30年 広島県立広島特別支援学校)

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実 践 名 人や物に,はたらきかけてみよう ~注意の持続に注目して~

中学部3年 疾病による体幹機能障害,知的障害,左片麻痺,左視野欠損,てんかん,側わん

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分

に即して整理する段階

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・てんかんの影響

で,眼振が続くこ

とがあり,学習の

継続が難しいこと

がある。

・口唇閉鎖が難し

く,食べる時やス

トローを咥えて飲

む時にこぼれるこ

とが多い。

・側わんの進行を

防ぐため,コルセ

ットをつけたり,う

つ伏せ姿勢を取

ったりしている。

・成長に伴い,自

ら寝返りすること

が少なくなってき

た。

・不快の時は,人と

関わったり,歌を聞

いたりすると気持ち

が安定しやすい。

・座位保持椅子での

活動よりも,あぐら座

位での活動の方が,

意欲的に取り組むこ

とができる。

・触られることには慣

れてきたが,身体的

な支援や介入を嫌

がることが多い。

・周囲の関わりが少

ない時に,服の袖を

噛む等の自己刺激

がある。

・近くにいる支援者

へ寝返りで近づ

き,身体に触れよう

とする。

・支援者が声を掛

けると,顔を向けた

り,声を出したりす

る。

・人との関わりは好

きだが,人と物を介

した遊びが成立し

にくい。

・他者の表情,意

図に気付くことが難

しい。

・見えにくさはある

が,大まかな輪郭

や音をたよりに,手

を伸ばしている。

・物を持った時,す

ぐに手を離すこと

が多い。

・一人で遊べる物

が,マラカスなど振

って音が出る物に

限られている。

・人のやりとりや玩

具での遊びに必要

な因果関係の理解

が十分ではない。

・手元を見ず,操

作することが多い。

・対象に注意を向

け,持続することが

難しい。

・左片麻痺がある

が,右方向への寝

返りやあぐら座位を

とることができる。

・寝返りでうつ伏せ

になった時に,右

腕が抜けず,途中

で諦めてしまう時が

ある。

・右手で振る,叩く,

つかむ,ひっかく,

ひっぱる等の簡単

な操作に限られて

おり,操作が広がり

にくい。

・左片麻痺や側わ

んがあり,身体が

左に傾きやすく,

安定した座位がと

りにくい。

・好きな活動に,期待

を示すことができる。

・場面を伴った特定

の単語(終わり,給

食,コルセットとる,お

茶)に,反応を示すこ

とができる。

・決まった働きかけ,

特定の単語に対し,

身振りや発声での応

答が概ねでき,要求

行動も芽生えつつあ

る。

・言葉のみの提示だ

と,意味を理解できな

いまま,応答すること

がある。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・身体に触れられることには慣れてはきたが,上肢操作や姿勢支援の介入は嫌がることが多い。(心,身,環)

・側わんや左片麻痺があり,安定した座位がとりにくい。(身,心)

・自ら寝返りをすることが少なくなってきている。(健,環,身)

・周囲の関わりが少ない時に,自己刺激に陥ることが多く,外界に気付きにくい。(環,心)

・遊べる玩具や操作が限定的で,物との二項関係の構築が十分ではない。(環,身,コ)

・言葉のみの提示だと,意味を理解できないまま,応答してしまうことが多い。(コ,人,環)

収集した情報を3年後の姿の観点から整理する段階 ・寝返りや座位を取る力を維持し,健康に過ごすことができる。

・周囲の関わりのない時に,少しの時間だけでも,玩具などで遊ぶことができる。

・他者からの働き掛けや言葉掛けに対して,特定のサインで応じたり,要求したりすることができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・視覚に基づいた外部への気付き,注意の持続を持続し,外界への興味を広げて自己刺激を減らす。(環,人,コ,心,身)

・因果関係の理解を深め,人や物との遊びを広げる。(身,環)

・安定した座位をとり,右手の操作性を高めて,玩具での遊びを広げる。(身,環)

・特定のフレーズを理解して応答や要求できる力を身に付け,コミュニケーションの手段を増やす。(コ,環,人)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 対象(人や物)に注意を向け,一定時間(1分程度)注意を持続することができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねらい)を

達成するために必要

な項目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1 )情緒の安

定に関すること

(1)他者の関わり

の基礎に関するこ

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

(1)姿勢と運動・

動作の基本的技

能に関すること

(1)コミュニケー

ションの基礎的能

力に関すること

選定した項目を関

連付けて具体的な

指導内容を設定

ア 教師が援助したり,自分で

バランスを取らせたりすること

で,安定した座位を保持する。

イ 対象(人や物)に注意を向けさせ,5秒程

度注視する。

(※リスト視覚Ⅱ-9,Ⅲ-20,聴覚Ⅲ-21,

要求表出Ⅲ-28,人間関係Ⅲ―17が関連)

ウ 玩具で遊ぶ時に,手元を30

秒~1分程度見て操作する。

(※リスト視覚Ⅲ-20,Ⅲ-22,

触覚Ⅲ-19が関連)

項目間

の関連

付け

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- 33 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 教師が援助したり,自分でバランスを取らせたりすることで,安定した座位を保持する。 ・あぐら座位で,教師が後ろから身体を密着させて骨盤を支えたり,前方から手を添えたりする。

・あぐら座位で,姿勢反射を誘発し,元へ戻そうという動作の学習をさせる。正中の姿勢から,左右,前方,後

方にわずかに傾け,頭部や体幹を垂直(正中)に戻す動きを促す。

イ 対象(人や物)に注意を向けさせ,5秒程度注視する。 ・教師の顔や手,コントラストがはっきりとした絵本や光る玩具,iPad,好きな食べ物を刺したフォーク,何も刺していないフ

ォーク等を,見えやすさに配慮して提示する。

・提示の際には,「見て」と合図を出し,注意を促した後,5秒程度正面で対象を提示し,視認させる。

・難しい場合は,右から左へ提示し,追視を促して視認させる。追視でも難しい場合は,音を手がかりとさせる。

ウ 玩具で遊ぶ時に,手元を 1分程度見て操作する。 ・提示の際には,上記イと同様に,「見て」と合図を出し,注意を促した後,5秒程度正面で玩具を

提示し,視認させる。

・手元に注意を向ける必然性を作り出すために・・・

〈① スイッチ(押し続けると音が鳴るスイッチ,振動スイッチ) *本校支援機器〉

・押し続ける動作と好きな刺激(聴覚,固有感覚)を伴わせることで,手元に注意

を向けさせ,注意を持続させる。

〈② 引っぱりチェーン *自作教材 〉

・チェーンの穴に引っかかりを作っておき,引いた時にチェーンが一旦止まることで,

「あれ?」と思わせ,操作している手元に注意を向けさせ,注意を持続させる。

・引っぱりチェーンの素材を,音の出る素材から,音が鳴らない素材(毛糸や光る紐)などに変え,

聴覚や固有感覚刺激の程度を調整して,視覚の活用を促していく。

指導の状況

ア 教師が援助したり,自分でバランスを取らせたりすることで,安定した座位を保持する。 ・援助を嫌がる時は,生徒のお尻の下にクッションを入れ,骨盤をやや前傾させ,自分でバランスを取らせるようにした。

・身体が左に傾いた時,姿勢反射を利用して身体を元に戻そうとする動きがでてきた。

イ 対象(人や物)に注意を向けさせ,10秒程度注視する。 ・聴覚をたよりに注意を向けることは安定的にできているが,反射的に手を伸ばすことがある。そのため,教師が5秒程度

生徒の手を添えておき,見たら手を離すようにした。

ウ 玩具で遊ぶ時に,手元を 30秒~1分秒程度見て操作する。 ・感覚系のスイッチは,音や振動の応答性に面白さを感じて手元を見る時があるが,刺激を感じ始めると,見て操作するこ

とが少なかった。

・引っぱりチェーンは,ひっかかって抜けにくい時に,一度確認するように手元を見ていた。(7月終了時点)その後,30秒

程度手元を見て操作することができた。(9月終了時点)

・引っぱりチェーンの素材を,音の出る素材から,音が鳴らない素材(毛糸や光る紐)などに変え,指導を継続した。

成果

ア 教師が援助したり,自分でバランスを取らせることで,座位を保持する。 ・あぐら座位では,自分でバランスを保とうと左右,前方,後方に傾ける動きが多く見られるようになってきている。

・頭部や体幹を垂直(正中)に戻す動きは,今後も継続して指導していく必要がある。

イ 対象(人や物)に注意を向けさせ,10秒程度注視する。 ・以前は,反射的に手を伸ばしたり,手探りで探索することが多かったが,見て判断して手を伸ばすことが増えてきた。

ウ 玩具で遊ぶ時に,手元を1分秒程度見て操作する。 ・感覚系のスイッチは,聴覚や固有感覚などの刺激に注意が集中しやすく,手元を見る必然性が少なかった。

・引っぱりチェーンは,1分程度手元を見て操作できるようになってきた。

・教材を変えていったことで,視覚の活用を促すことができた。

今後の展望

・注意を向ける力と注意を持続できる力は,コミュニケーション,物との遊びの形成(因果関係の理解),

主体的に身体を動かす意欲の土台になるため,継続して指導していきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 起きて生活リズムを整えよう!!

高等部 1年 キーワード(覚醒・五感・感覚刺激・拘縮)

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・体温調節が難

しく常に手足が

冷たい。

・自力での排痰

は難しい。

・覚醒が下がる

時間がある(不

定)

・読み聞かせ・

好きな音楽や雨

の音・鳥の声を

聴いていると落

ち着く。

・話しかけられた

り,頬や髪を触

られると快の表

情になる。

・音や声のする

方を向くが,注

視の時間は短

い。

・小さな音であっ

ても,不意の音

に気付き過敏に

反応する。

・人の話に興味

があり,じっと耳

を傾け起きてい

る。

・座位保持車椅

子使用。

・日常生活は全

介助。

・常に肩が上が

り,手足の指が

拘縮している。

・首は自力で動

かすことができ

る。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・常に肩が上がり,手足が冷たい。体温調節が難しい。手足の指が拘縮している。(健・身)

・覚醒が下がる時間がある。不定である。(健)

・音のする方を向くが,注視の時間が短い。不意の音に過敏に反応する。(環)

収集した情報を3年後の姿の観点から整理する段階 ・自分の好きなことをみつけてほしい。(心)

・多くの人と関わり,色々な経験をしてほしい。(人)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・肩が上がり,手足の指が冷たく,拘縮している。(健・身)

・覚醒が下がる時間がある(不定)。(健) ・自分の意志で動かすことができるのは首と口のみである(身)

・人が話をしていると起きていることが多いが,静かな環境では寝てしまうことが多い(環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 身体の色々な感覚を刺激して覚醒を促す。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)生活のリズム

や生活習慣の形

成に関すること

(5)健康状態の

維持・改善に関

すること

(1)情緒の安定

に関すること

(1)他者とのかかわ

りの基礎に関するこ

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

( )

( )

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

(3~6個程度)

ア 手足肩顔のマッ

サージで血流をよく

し,冷えを緩和する。

イ 一日の生活リズ

ムを確立し,生徒

同士で関わる時間

をもつ。

ウ 五感を刺激する

活動で,学校生活の

2/3 程度の覚醒を促

す。

エ ・・・

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 手足肩顔のマッサージで血流をよくし,冷えを緩和する

・冷えの緩和と,手足肩や指の拘縮を予防するため,マッサージに取り組む。

・足湯やタッピング,支援具を使用して,血流をよくする。

イ 一日の生活リズムを確立し,生徒同士で関わる時間をもつ

・朝のあいさつで,高等部の教室をまわり生徒同士の関わりをもつことを日々の日課とする。

・自立活動の内容を曜日で固定化し,同じ指導を継続することで見通しをもつ。

ウ さまざまな感覚を刺激する活動で,覚醒を促す

・トランポリンや,ブランコ,スクーターボードなど揺れを感じる活動を行う。

・アロマオイルで嗅覚を刺激し,そのオイルでマッサージを行う。

・活動の様子を動画撮影しふりかえることで,視覚・聴覚を刺激し覚醒を促す。

指導の状況

・手指の拘縮予防でマッサージに取り組み,その後支援具を活用して,指を広げることを

意識した指導を行った。支援具に香りを付け,覚醒を上げることへつなげた。

・朝の登校時に,必ず高等部の教室を回り挨拶を行った。教員だけでなく,生徒同士の

関わりが増えた。聞きなれた声に反応する姿が見られた。

・月・木曜はマッサージ。火曜日はプレイルームでの活動。水曜日は読み聞かせや音楽

鑑賞。金曜日は散歩と活動内容を固定した。見通しを持たせる意図がある。

・火曜日の自立活動では,好きな音楽を聴きながらトランポリン・ブランコで揺れを感じる活動を行った。また,スクーター

ボードで校内を回り,揺れや明暗を感じた。排痰を促すだけではなく,楽しいという感情を引き出すよう意識して指導し

た。

・マッサージするときには,覚醒をあげるために香りのあるものを使用した。足湯にも入浴剤を使用した。

・タブレットを常時携帯し,活動の様子を写真や動画で撮影し,ふりかえりに活用した。

成果

・支援具を使うことで,マッサージ後の手指の冷えが緩和され,覚醒が上がった。日々のマッサージも拘縮予防として効

果があると思われる。

・朝の挨拶を介して人と関わることで,表情が豊かになりつつある。特に「かわいいね」という言葉には,笑顔で反応する

ことがあった。自立活動の内容を曜日で固定することで,見通しを持たせたかったが,効果があるか検証にまで至らなか

った。

・毎週火曜日の自立活動で,揺れを感じる活動を行い,起きている時間が増えた。特にスクーターボードで校内を回る

と,明暗を感じ快の表情をみせた。また,溜まっていた痰が動き,取りやすくなった。教材にタブレットを取り入れること

で,視覚・聴覚を刺激し覚醒を上げることへとつながった。

今後の展望

・支援具を改良することで,より覚醒が上がるのではないかと考える。嗅覚を刺激できるよう,もっと香り

がするものを用いたり,振動するものに改良して,引き続き指導を継続していきたい。また,覚醒のリズ

ムなど実態把握も継続して行っていきたい。

(平成30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 見つけて手を伸ばそう

高等部1年 体幹機能障害,知的障害,緑内障,水頭症

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に

即して整理する段階

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・大まかな生活リズ

ムはできている。

・夜眠りが浅かった

り,日中眠くなったり

することがある。

・ヘッドコントロール

はできているが,頭

部が大きくて重たい

ため,頸椎を痛めな

いよう配慮が必要。

・便秘がちである。

・水分補給,食事共

に積極的である。

・自己刺激が多い。

・不快感を発声や

泣くことで訴える。

・気持ちが落ち着か

ない場合,大きな声

が出ることが多い。

・体をさすったり声

を掛けたりすること

で落ち着くことがあ

る。

・外出先で落ち着か

ないことが多い。

・自己刺激様の発

声が多いが,気分

により声色が変わ

る。

・興味の幅が狭い。

・慣れてくると,ハイ

タッチで挨拶や意

思表示をすることが

ある。

・慣れない環境に置

かれると不安にな

り,泣くことがある。

・他人への興味や

気づきが薄い。

・自ら人に働きかけ

ようとすることは少な

い。

・近くで名前を呼

び,言葉掛けをする

と静かになったり応

答したりしようとする

ことがある。

・主に聴覚や触覚を

活用して周囲の状

況を把握している。

・音の方向に気づ

いている。

・視力は右 0.03~

0.01,左は光覚程

度であり,自ら活用

しようとすることは少

ない。

・目から 30cm程度

の距離に物があると

視認しやすい。

・下方向や右方向

に視線を向けるの

が難しい。

・床上で寝た状態か

ら自力で座位をと

り,一定時間保持で

きる。

・姿勢変換としての

寝返りができる。

・移動を目的とした

動作を自ら行うこと

はほぼない。

・視認できる範囲の

ものに手を伸ばすこ

とができる。

・叩く,握る,指の腹

でつまむ等の動作

ができる。

・離したり長押しした

りする外方向への

操作方法が広がら

ない。

・慣れてくると,ハイ

タッチで挨拶や意

思表示をすることが

ある。

・問いかけに対して

YESの場合にタッチ

で意思表示をしよう

とすることがある。

・NO や問いかけの

意味が分からない

場合は無反応のこ

とが多い。

・日常でよく聞くフレ

ーズや働きかけに

ついて意味を理解

しつつあるが,不確

かである。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・睡眠不足,便秘,慣れない環境などで不機嫌になることが多く,自己刺激や発声が増える傾向にある。(健,心,コ)

・視力が弱いことで外の刺激に興味が向きにくく,手が伸びにくいため,自己刺激を楽しむことが多い。(心,環)

・興味を引くものが視界に入ると,対象物に対して積極的に手を伸ばそうとする。(環,身)

・よく聞くフレーズと働きかけを合わせて意味を理解しつつあり,応答したり,適した行動をとろうとしたりする。(環,コ)

収集した情報を3年後の姿の観点から整理する段階 ・自己刺激を減らし,スイッチや音の出るおもちゃ等を見て確認し,手を伸ばし,安全に一人遊びをすることができる。

・気持ちを伝えるような,支援者とのやりとりを獲得する。

・状況の変化を受け入れ,静かにする,声を小さくするなど,自分の気持ちや行動をコントロールできる。

・挨拶をする場面で,差し出された手にタッチすることができる相手を増やす。

・日常よく耳にする,また毎日行うことについて特定のフレーズを覚え,活動に見通しを持つことができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・視覚を主体的に活用し,外界への興味を広げる。(心,環)

・活動を広げるための手の操作方法や範囲の拡大。(心,環,身)

・よく聞くフレーズや働きかけについて,意味が理解できるものを増やす。(人,環,コ)

・様々な感覚を受け入れるための経験不足の解消。(人,心,環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 視覚を活用して物の場所を把握し,対象に手を伸ばすことができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねらい)

を達成するために

必要な項目の選

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (2)状況の理解と

変化への対応に関

すること

(1)他者とのかか

わりの基礎に関す

ること

(1)保有する感覚

の活用に関するこ

(1)姿勢と運動・動

作の基本的技能に

関すること

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

に関すること

選定した項目を関

連付けて具体的な

指導内容を設定

ア おもちゃや給食を一番視認しや

すい位置(右目前 15cm程度)に提

示し,手を伸ばさせる。距離を少し

ずつ伸ばす。

イ 様々な方向から給食を差し出

し,視線を動かして探索させる。

ウ 机上のスプーンや皿を見て食事

したり,作業に興味を持ったりして取

り組む。

関連付

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- 37 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア おもちゃや給食を一番視認しやすい位置(右目前 15cm程度)に 提示し,手を伸ばさせる。

・車椅子のティルトを調節して前傾姿勢をとりやすく,手を伸ばしやすい

状態にする。

・給食のおかずの名称を伝えながら,手に取りやすい位置に提示する。

・遊びの場合は,床上でカットテーブル(座卓)を使用して前傾姿勢の座位を

とらせ,おもちゃを提示する。

イ 様々な方向から給食を差し出し,視線を動かして探索させる。 ・給食のおかずの名称を伝えて眼前に提示した後,少し視線を動かさないと視認

できない位置にスプーンを動かす。

・生徒の様子を見て,少しずつ距離を伸ばしたり,見えにくい範囲に移動したりして

視認できる範囲を広げる。

ウ 机上のスプーンや皿を見て食事したり,作業に興味を持ったりして

取り組む。 ・車椅子テーブルの上に皿の位置を決めて置き,その上にスプーンを乗せ,見るよう

促す。

・生徒自身に視認させ,スプーンを掴ませる。

・食べた後は,元の位置にスプーンを戻すよう支援する。

・作業を行う際は,黒いボックスに使用する道具や素材を入れ,視認しやすく,作業範囲

を分かりやすくする。

指導の状況

ア おもちゃや給食を一番視認しやすい位置(右目前 15cm程度)に提示し,手を伸ばさせる。 ・給食は小学部から継続していることもあり,スムーズにスプーンを受け取れた。

・おもちゃについては,手を伸ばせるようになったが,口に入れて感覚を楽しむことが多かった。

イ 様々な方向から給食を差し出し,視線を動かして探索させる。 ・指導し始めは視界からスプーンが無くなったことに戸惑い,当てずっぽうに手を動かしたり,うなって不快感を訴えたりす

ることが多かったが,次第に落ち着いて視線や頭を動かして正確にスプーンを掴むことができるようになった。

ウ 机上のスプーンや皿を見て食事したり,作業に興味を持ったりして取り組む。 ・机上は視線が向けにくいため,目で見られるようになるのに多少時間を要したが,目で確認できるようになってきた。

・活動を繰り返すうち,皿やスプーンの位置を覚えて目で見て確認するのを省くことが多くなったため,少しずつ場所を変

えながら指導を継続した。

成果

ア おもちゃや給食を一番視認しやすい位置(右目前 15cm程度)に提示し,手を伸ばさせる。 ・視認しやすい範囲で,対象物に対して正確に手を伸ばせるようになってきた。

イ 様々な方向から給食を差し出し,視線を動かして探索させる。 ・給食は,支援者の手の位置等スプーンその物以外を頼りに視線を動かすことも多いが,自ら視覚を活用して物を捉えよ

うとする様子が見られるようになった。

ウ 机上のスプーンや皿を見て食事したり,作業に興味を持ったりして取り組む。 ・見え方について,柄が太く赤色で見やすいフォークはその物のみで視認可能であるが,柄が細く銀色のスプーンはその

物だけでは視認が難しく,支援者の手の位置を手掛かりにしていることが分かった。

・指導前,机上での創作活動等は見えにくいため興味を持つことができず,覚醒が低くなることが多かったが,机上に教

材や素材がある時でも興味を持ち,視線を向け,覚醒して活動を継続できることが増えた。

・食べた後に,スプーンを離すことを徹底することで,おもちゃや素材を扱う場面でもむやみに口に入れることなく,手を離

せることが増えた。

今後の展望

・視覚が「自ら活用できる感覚である」と意識できるようになってきたため,注視や追視の力をより伸ばし,

興味を持てる範囲,目を向けられる範囲を拡大していきたい。

・おもちゃに関しては,視界から外れるとすぐにあきらめることが多いので,給食以外でも興味を持続して

探索活動ができるよう,活動の工夫をしていきたい。

・見る力を伸ばすことで,安全に遊びを楽しめる操作方法を増やしたい。

・外界に興味を向けられるようになることで,他者とコミュニケーションをとる力につなげていきたい。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)

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実 践 名 リラックスして体の柔軟性を高めよう

高等部 2年 (キーワード)疾病による体幹機能障害 筋緊張 姿勢

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

日中の覚醒が不

安定である。

天候に体調を左

右される。

体調を崩しやす

く長引く。

手足が冷たい。

快の時,表情が

やわらぎ笑顔が

見られ力が抜け

る。

関わる人を目で

追う。

抱きかかえるとリ

ラックスできる。

周囲の大きな音

で緊張が入った

ことがある。

力が入ると首が

反り,足が伸展

する。

車椅子で力が入

ってしまうと,そ

の度に姿勢が崩

れる。

言葉かけに対する

応答の表情は少

ないが,傾聴して

いるときもある。

しんどい時は表情

や声で不快を伝

える。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

手術により車椅子を調整中のため姿勢が安定できず,体が緊張している。(健・身)

しんどいと活動に集中できず,泣いて伝える。(コ)

収集した情報を2年後の姿の観点から整理する段階 ・車椅子に長く乗っていても安定し力が抜ける。(健・身)

・興味のあるものを見つけ,自発的に首を動かし見ようとする。(健・心・身)

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・姿勢が安定しないため力が入り体が緊張して首が反り活動に集中できない。(身・健)

・体の関節が硬くなり拘縮し可動域が減る。(身)

・体が疲れると覚醒する時間が短くなる。(健)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 支援をしながら緊張を緩め体の拘縮を防ぐ。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)生活リズムや

生活習慣の形成

に関すること

(5)健康状態の

維持・改善に関

すること

(1)他者とのかかわ

る基礎に関すること

(1)保有する感覚

の活用に関すること

(1)姿勢と運動動

作の基本的技能に

関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

(3~6個程度)

毎朝同じリズムで体

の緊張を取りリラック

スできる時間を作る。

いろいろな姿勢を

取り,関節を動かし

可動域の維持向上

に取り組む。

さまざまな五感に働

きかける活動を確保

していく。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 毎朝同じリズムで体の緊張を取りリラックスできる時間を作る。

・朝の会の後,ベッドで仰臥位を取りゆっくり関節を動かしていく。

・同じ順番で体の部位に触れていき,次に触れる場所や流れのイメージを持たせる。

・両肩が前方に力が入っているので,ほぐすことを意識する。

イ いろいろな姿勢を取り,関節を動かし可動域の維持向上に取り組む。

・車椅子ばかりでなく,活動内容により姿勢を変えていく。

・ベッド上でも仰臥位・側臥位・腹臥位など姿勢を変えていく。ベンチ椅子での座位・ニーリングアクション・トランポリンな

ども利用する。

・同じ姿勢でも,その日の体調により力の入り方が変わるのでポジショニングには留意する。

ウ さまざまな五感に働きかける活動を確保していく

・表情や体の動き,覚醒の状況などを見ながらゆっくり水分補給をする時間を作る。

・給食が好きなので,匂ったり,味わったりする時間を楽しめるようにしていく。

・いろいろな素材を教材に取り入れる。

指導の状況

ア・声かけをしてベッドに移乗し朝の自立活動が始まったことを意識する。

・仰臥位で体の中心を意識して姿勢を直し,深呼吸を数回促してからストレッチをはじめている。

・同じように体に触れていくことで流れを意識している時もある。両肩をほぐすと力が抜けやすい。

・PTにも関節の動かし方を指導してもらい,取り組めている。

イ ・いろいろな姿勢の安定感が増している。

・ベッド上での姿勢を変える時にはクッションの位置や大きさなど楽な姿勢を考え

ていった

・ベンチ椅子は腰の角度を見ながら教員の体でしっかり支えられている。腰を教

員の両足で挟むと安定しやすいことがわかった。前面の机上での作業が見え

やすく集中できていた。

・ニーリングアクションを使いうつぶせをすると力が抜けやすい。初めはうつぶせ

て脱力して眠くなっていくことが多かったが,最近は顔を上げて首を動かし周り

をしっかり見ている。

ウ ・素材の違うものを教材に使用した。

・いろいろな教員と関わる時間が増え,相手の顔をよく見ている。

・STより摂食の指導の助言をもらう。

成果

ア 学校時間がスタートする 1日の生活リズムが身についた。

体調が崩れることがなく,覚醒できる時間が増え元気に過ごせた。(1学期2h/1日→3学期 0.5h/2日)

イ いろいろな姿勢を取る時に力が抜けやすくなった。どの姿勢も楽そうな表情をしていることが多い。

ウ 外部関係者の先生から「表情が豊かになりましたね。」と言われた。

口の動きがよく,力が抜けて食事を楽しんでいる。給食時間が年度初めよりスムーズに行えている。

多くの教員が関わることで刺激にもなった。

今後の展望

・学校の生活リズムの形成を図り,覚醒時間を増やしていけるようになる。

・いろいろな姿勢をとりながら活動の内容を広げていけるようになる。

(平成30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 音声パソコンで連絡帳を書こう

高等部2年 (キーワード)脳性麻痺,知的障害,視覚障害,音声パソコン

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・未熟児網膜症に

よる視力障害。小

学校6年生の6

月に起きた網膜

剥離により,視覚

から情報を得る

ことが困難にな

っている。

・気になること,

不安なことがあ

ると,泣いたり,

嘔吐したりする。

・できないことが

いけないと思っ

ているところが

ある。

・好きな音楽を聴

いたり,好きなア

ニメを視聴した

りすることで気

分転換ができる。

・慣れてくれば声

を手掛かりに話者

を判断できる。話

しかけられれば答

えることができる。

・授業では,積極

的に発言する。

・自分の気持ちを

簡単な言葉で表

現できる。

・初めてのことや人

と関わるのは不安

である。優しい言

葉かけがあると安

心する。

・覚えている文字

(ひらがな,カタカ

ナ,漢字,アルフ

ァベット)を書くこと

ができる。

・パソコンのロー

マ字入力を習得

している。

・点字の触読の練

習をしている。

・聴覚をたよりにい

ろいろな情報を得

ている。

・車椅子を利用し

ている。短い距離

を教員が手を引

いて歩いたり,車

椅子を自走した

りする取組をし

ている。

・上肢に軽度の麻

痺がある。手指の

動きがぎこちな

い。

・挨拶やお礼等,適

切な言葉を使うこと

ができる。

・自分の気持ち・思

いを「楽しかった」

「おもしろかった」等

簡単な言葉で表現

するが,バリエーショ

ンが少ない。

・困ったらすぐ言うこ

とを場面ごとで繰り

返し言葉かけするこ

とで,依頼の言葉が

自分から言えるよう

になってきた。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・パソコンのローマ字入力を習得している。タッチタイピングで入力できる。(環)

・手指を動かす活動や手探りによる学習の経験を積むことが必要である。(環,身)

・記録したり,情報を得たりするための手段を広げる必要性がある。(心,環)

・気になることや不安なことがあると,気分が落ち込み,活動に集中できなくなる。(心,環)

・自分の気持ちや思いを伝えることが難しい。(心,コ)

・身体を動かす場面を確保する必要がある。(身)

収集した情報を2年後の姿の観点から整理する段階 ・様々なことを経験するとともに,一人でできることを増やして,自信を高める。

・嫌な気持ち,他者にしてもらいたいこと,自分がやりたいことなど,自分の気持ちを人に伝えることができる。

・ショートステイ前の不安な気持ちを切り替えることができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき課題の

整理

・手指の動きにぎこちなさが見られる。

・嫌な感情などを表に出すことが難しい。また,相手が求めている答えを言おうとする。

・ショートステイ等の不安な予定の前になると精神的に不安定になる。

・やりたい気持ちはあるが,誰かが言葉かけしてくれるのを待つことがある。

・自分から依頼することが難しい。

・視覚から情報を得ることが困難である。

・下肢の柔軟性が低い。

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 ・学習内容や給食の感想を自分の言葉で表現し,音声パソコンを用いて記録することができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)状況の理解

と変化への対応

に関すること

(3 ) 自己の理解と

行動の調整に関す

ること

(3)感覚の補助及

び代行手段の活用

に関すること

(4)身体の移動能

力に関すること

(4)コミュニケーシ

ョン手段の選択と

活用に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア.手指を動かした

り,手指で探ったりす

る学習を通して,状

況を把握できるように

する。

イ.一人で音声パ

ソコンを操作できる

場面を増やす。

ウ.授業で学習した

ことや給食の感想

を,自分の言葉で表

現する。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア.手指を動かしたり,手指で探ったりする学習を通して,状況を把握できるようにする。

・教室内の生徒の机の位置を工夫する。

・手で触って分かる印を教室に付ける。それをたよりに,限られた空間をスムーズに一人で移動できるようにする。

・机に向かう時の車いすの位置を意識できるように机上の両手を置く位置に凹凸のあるシールを貼る。

イ.一人で音声パソコンを操作できる場面を増やす。

・ショートカットキーを活用する等して,一人でできる操作を増やす。

・操作の起点となるキーにシールを貼り操作しやすくする。

・連絡帳(エクセル)は入力する時に混乱しないように,使いやすい構成にする。

ウ.授業で学習したことや給食の感想を,自分の言葉で表現する。

・日付・曜日,授業名だけでなく,学習の内容や振り返りを記録するようにする。

・できるだけ自分で文を考えられるように時間を確保する。

指導の状況

ア.手指を動かしたり,手指で探ったりする学習を通して,状況を把握できるようにする。

・移動の手掛かりとなる場所に手で触って分かるような印をつけ,自分のいる位置を確認するように促した。

・机と車いすの適切な位置関係を意識できるように言葉かけしたり,時間をかけて練習したりした。

イ.一人で音声パソコンを操作できる場面を増やす。

・一人でできる操作を増やすため,上書き保存のショートカットキーについて指導した。

・シールを手掛かりに,入力操作するように促した。

・入力しやすいようにシートの構成を工夫した。

・音声パソコンの開け閉め等,自分でできることは自分でするように促した。

ウ.授業で学習したことや給食の感想を,自分の言葉で表現する。

・できるだけ自分で文を考えるように促した。わかりにくい表現になっていた時は,「~のほうがわかりやすいよ」と別の表現

を提案するようにした。

・教師が近くにいると,入力する文が適切かどうか自信がなく確認することが多かった。そのため,できるだけ一人で考えら

れるように距離を置いて見守るようにした。

成果

ア.手指を動かしたり,手指で探ったりする活動を通して,状況を把握できるようにする。

・限られた空間(教室の入り口,手洗い場,自分の席等)は自分で移動できるようになった。

・机に向かうときの適切な車いすの位置を理解し,自分で机の端にアームレストが当たっていることを確認し,調節できるよ

うになった。

イ.一人で音声パソコンを操作できる場面を増やす。

・自分で音声パソコンを開けてログインし,操作する準備ができるようになった。

・連絡帳の構成やセルの動きを理解し,ほぼ一人で入力できるようになった。上書き保存のショートカットキーを覚え,入力

を終えると上書き保存し,パソコンを閉じるようになった。

ウ.授業で学習したことや給食の感想を,自分の言葉で表現する。

・短い文ではあるが,学習した内容や給食の感想を自分で考え記録できるようになった。

【保護者とのやりとりから】

保護者から,コミュニケーションがスムーズになっている,大好きなパソコンで褒めてもらえ,自信が持てるようになった

んだと思う,と評価された。いろいろな要因が考えられるが,この活動には,自分で文を作る場面,一日の学習を話題に教

師と話をする場面があり,それらの場面を確保してきたことも成長につながった要因の一つであると考えられる。また,パソ

コンに入力する姿を見た他学年や他学級の教師から「すごいね」「キーの場所覚えてるんだね」「早く打てるね」と言葉をか

けてもらえる場面が多くあった。他者から褒められたことが自信につながっていると考えられる。

【授業での変化】

高等部 1年の最初の頃,書く活動では,手で鉛筆を握って書くことを選んでいた。1年生の後半頃からパソコンで書くこ

とを選ぶことも多くなってきた。

【課題】

一人で入力した時に同音異義語の間違いが見られた。文脈に応じて適切な漢字を選ぶことや変換時の音声ガイドを聞

くことについては十分に指導することができなかった。

今後の展望

・エクセルでセルを移動する時の誤入力を避けるため,今年度の 5 月からはワードで連絡帳を入力するようにした。また,

起動と同時に連絡帳のファイルが立ち上がるように設定した。ショートカットキーを使ってシャットダウンまでを練習し,一

人でできるようになった。以前よりも教師の支援が少ない状況で連絡帳の入力ができている。

・自分のペースで記録し,その記録を振り返ることができるため,音声パソコンについては今後も継続して自立活動や各

教科の指導の中に取り入れていく。文脈に応じた漢字についても理解が深まるように指導していきたい。

・自分の気持ちや思いを伝える表現のバリエーションはまだ多いとは言えない。文を作る活動や会話する場面を通して表

現が増えるように,また自信をもって気持ちや思いを伝えられるように指導していきたい。

・生徒は視覚から情報を得ることが困難である。現在,音声図書や音声録音等の機能があるリンクポケットの活用を試行し

ているところである。記録したり,情報を得たりするための手段を広げられるように指導していきたい。

(平成30年 広島県立西条特別支援学校)

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実 践 名 体を休めよう

高等部3年 脳性麻痺,社会参加,心理的な安定,自己理解,環境の把握

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・学校生活にお

いて体力,体調

の大きな崩れは

ない。

・就業体験で,

作業をハイペー

スに行い,体調

を崩したことがあ

る。

・日程や活動の

変更等に対応す

ることができる。

・心身ともに安定

した活動ができ

るよう,その環境

作りに主体的に

取り組むことがで

きる。

・自分の気持ち

を言葉で表現で

きる。

・友だちの気持

ちを高めようと考

えることができ

る。

・大きな集団の

中で自分のペー

スを作るという経

験が少なく,社

会参加に消極的

な面もある。

・周りの人との話

を通して,求めら

れる行動・取り組

みをイメージする

ことができる。

・計画的に時間

を使うことができ

る。

・自分と物や人と

の空間関係を理

解することが難し

い。

・右手首と手指

の緊張が強く,

指先を使った作

業は難しい。

・下肢の筋が固

く上肢の筋緊張

が低い。

・活動内容・量に

対する,自分の

身体の動きや体

力を知る必要が

ある。

・日常会話がで

き,自分から話

を始めることもで

きる。自分の話

を広げていくだ

けでなく,友だち

の話から会話を

膨らませることが

できる。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・進路について,地域の中で,心身ともに安定した活動ができる生活(福祉就労)を,本人・保護者ともに望んでい

る。(健,心)

・進路選択・決定に向け,就業体験を通して,学校生活(準ずる教育課程)との生活リズムや活動内容の違いを知っ

た。「新生活を続けられなかったらどうしよう」と体力への不安に直面したことを,経験として活かし,身体の理解を深

め,体勢や環境を整え自己管理していく視点を持つことで,将来の生活設計に前向きに取り組む力を付ける。(身,

環,心)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階 ・自分の身体のことを知り,様々なことに挑戦して主体的な進路選択,進路決定ができるようになる。

・福祉サービス等を活用し,積極的に社会に関わる力を付ける。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・休息の重要性を意識し,筋緊張をコントロールすることを習慣付け,安定した状態で活動できる力を付ける。(健,心,

人,身)

・トイレの自立や学習中の姿勢の改善等,身体の動きの可能性を模索しながら,その取組の過程や成果を自己評価さ

せ,自分に自信を持ち,積極的に社会に関わる力を付ける。(心,人,身)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 休息の重要性を意識し,筋緊張をコントロールすることを習慣づけ,安定した状態で活動できる力を付ける。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (4)障害の特性の

理解と生活環境の

調整に関すること

(3)障害による学

習上又は生活の

困難を改善・克服

する意慾に関する

こと

(3)自己の理解と

行動の調整に関す

ること

(4)集団への参加

の基礎に関するこ

(2)姿勢保持と運

動・動作の補助的

手段の活用に関

すること

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

に関すること

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア ストレッチやトレ

ーニングの目的を意

識させ,自分に必要

な休息と体力づくり

を整理させる。

イ 活動内容と体力

の関連性を把握さ

せるとともに,休息の

確保・調整を図る。

ウ 様々な集団の中

で,お互いのペース

を意識しながら取り

組む経験を積ませ

る。

項目間

の関連

付け

Page 46: 広島県立肢体不自由特別支援学校 自立活動実践事例集 · はじめに 平成30 年8月10 日(金)に広島県立西条特別支援学校を会場として,第6回の自立活

- 43 -

指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア ストレッチやトレーニングの目的を意識させ,自分に必要な休息と体力づくりを整理させる。

保護者や PT と身体の状態や体力維持・改善方法についての情報を共有し,活用していく。その中で,日々の体調に

ついて,生徒自身に確認することで,生徒とともに身体の理解を深めていく。

イ 活動内容と体力の関連性を把握させるとともに,休息の確保・調整を図る。

表情や体の動き,言葉遣いを日々観察しながら,疲れのサインをとらえる。体力の低下による疲れについて,生徒に

自ら発信しているサインを意識させ,その理由(活動内容の変化等)を考えさせる。

休憩時間を利用して休息(ストレッチ)するよう言葉掛けを行う。また,休息の効果を本人,保護者,PT と確認する。

ウ 様々な集団の中で,お互いのペースを意識しながら取り組む経験を積ませる。

学級を始めとする様々な集団での活動の中で,周りの人がそれぞれのペースをどのように調整しながら取り組んでい

るか言葉掛けして意識させる。必要に応じて,相手に支援を依頼する言葉を具体的に伝えていく。

指導の状況

ア ストレッチやトレーニングの目的を意識させ,自分に必要な休息と体力づくりを整理させる。

保護者や PTから身体の状態とともにストレッチの方法を聞き,生徒とストレッチの必要性について確認した。

生徒自身,家庭での取組から身体を伸ばす時間を持つ方が筋緊張を緩めることができると感じている。学校生活の中

では,体調良好という現状から,ベッドで休息する時間を定期的に持つまでに至っていない。しかし,卒業後の生活を踏

まえて,休息を含めた体調管理の意識,特に休息することへの肯定感を持たせたいと考えている。

イ 活動内容と体力の関連性を把握させるとともに,休息の確保・調整を図る。

日々,体調について生徒と確認している。疲れのサインがあれば,体調確認とあわせて疲れの自覚を促す。

進路に関わって,年度当初に保護者と連携し,休息方法について模索していくことを確認した。6月の就業体験で

は,打ち合わせ時に不安な表情を見せていたこともあり,体調の変化に主体的に対応できる力を付ける前段階として,

休息を確保し活動できる体力を維持することを優先し,休憩時間を設定し,言葉掛けを依頼した。

同時期に,まずは一人でできる休息方法をと,「5分休憩の授業準備等の間に上肢をひねるストレッチ」を提示し,

日々言葉掛けを行っている。また,上肢の操作性を高める目的で,机上での学習中のみ腰ベルトをはずすことにした。

ウ 様々な集団の中で,お互いのペースを意識しながら取り組む経験を積ませる。

就業体験先での協働作業において,困ったときに「教えてください」「待ってください」「もう大丈夫です」等の言葉を自

分から発信すること,周りの人のアドバイスや配慮に気付くことができれば,心理的にも落ち着いた状態で自分の力を発

揮したり挑戦したりすることができると感じる場面があり,言葉掛けを行った。

成果

ア ストレッチやトレーニングの目的を意識させ,自分に必要な休息と体力づくりを整理させる。

6月の就業体験では,休息(仰臥位,座位のストレッチ)による身体の変化(筋緊張の緩み)と体力維持を生徒自身が

実感することができた。

イ 活動内容と体力の関連性を把握させるとともに,休息の確保・調整を図る。

就業体験を通して,普段と違う活動内容(指先を使った作業)においても,疲れのサインを生徒と確認し,休息のタイミ

ングについて考えることができた。また,作業に慣れると,物の配置や操作の工夫,体勢作りをできることが分かった。

上肢のストレッチによる,劇的な変化は現れていない。

ウ 様々な集団の中で,お互いのペースを意識しながら取り組む経験を積ませる。

機会を逃さず,具体例を模倣させながら1つ1つの経験を深めていく必要があることが分かった。

今後の展望

・上肢のストレッチについては,保護者や PT と連携をとりながら長期的に取り組む。小さな変化(または体力維持してい

る状態)が明らかになれば,生徒に提示して取組の定着を図りたい。また時期をみて,ベッドで身体を伸ばす時間(給食

後)を確保し,体力の回復具合や身体の変化(筋緊張の緩み)を確かめる。

・休息による身体の感覚を積み重ね,自ら体調管理していく力を付けさせたい。ひいては新たな生活に柔軟に対応する

力を付けていくことができると期待する。将来,生徒が充実した社会生活を送ることができるよう,取組を続けていきたい。

(平成30年 広島県立広島特別支援学校)

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実 践 名 自分の気持ちをコントロールしよう!

知的障害部門

高等部3年 (キーワード)知的障害 自閉症

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・自分の体調や

体重をよく理解

しており,食べる

量や食べる物を

調節しながら自

分で管理してい

る。

・パニックになっ

てしまった時に

物を投げてしま

ったり,涙が止

まらなかったり

する。

・イライラした時

に自分で「落ち

着き」と言うこと

もある。

・人と関わること

が好きで,名前

を覚えて話かけ

たり関わりをもと

うとしたりする。

・気を引きたい

時に不適切行

動(叩く,不適切

発言をするなど)

がみられることが

ある。

・イラストや写真

を見て指示や状

況を理解するこ

とができる。

・音楽に合わせ

て身体を動かす

ことが好きで,リ

ズムをとることが

得意である。

・アイロンビーズ

刺繍など,細か

い作業が得意で

ある。

・自分のやりたい

事ややりたくない

事をはっきり伝え

られる時もあるが,

自分の気持ちを

自覚できずに伝え

られず,後でパニ

ックになってしまう

ことがある。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・自分の気持ちを正しく認識し,他者に伝える力が十分ではない。(心,コ)

・注意獲得行動として不適切行動をしてしまう。(適切な行動ができない)(人,コ)

収集した情報を1年後の姿の観点から整理する段階

自分の気持ちを自分で認識し,コントロールできるようになる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・自分の感情の動きを自覚させる。(心,コ) ・注意獲得行動での不適切行動を,適切な行動に変える。(人,コ)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 自分の気持ちをコントロールし,落ち着いて生活することができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション (1)情緒の安定

に関すること。

(3)障害による学

習上又は生活上

の困難を改善・

克服する意欲に

関すること。

(1)他者との関わり

の基礎に関するこ

と。

(3)自己の理解と

行動の調整に関す

ること。

(5)認知や行動の

手がかりとなる概念

の形成に関するこ

と。

(4)コミュニケーション手

段の選択と活用に

関すること。

(5)状況に応じたコ

ミュニケーションに関す

ること。

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア イライラや楽しさ

の程度を,イラストや

メーターを使用して

振り返る。

イ 感情の動きが

見てわかる際に

は,表情を写真で

撮り,振り返られる

ようにする。

ウ 不適切行動をし

ないと約束し,それを

視覚的に示し,守れ

たらカレンダーに印

をつける。

エ 「やりたくないで

す」「がんばります」の

カードを用意し,無

理なく活動ができるよ

うにする。

オ 感情が抑えられ

ない時や手持無沙

汰で不適切行動を

してしまいそうな時

にする活動を選択

できるようにする。

項目間

の関連

付け

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア イライラや楽しさの程度を,イラストやメーターを使用して振り返る。

感情を表すイラストを用意し,活動ごとに振り返る。

イ 感情の動きが見てわかる際には,表情を写真で撮り,振り返られるようにする。

本人所有の iPodで撮影する。自分の顔を写真で振り返り,具体的に振り返って見られるようにする。

ウ 不適切行動をしないと約束し,それを視覚的に示し,守れたらカレンダーに印をつける。

毎日毎時間の表を用意し,不適切行動をしないとの約束が守れたら印をつける。

エ 「やりたくないです」「がんばります」のカードを用意し,無理なく活動ができるようにする。

イラスト付きで用意し,課題学習や作業学習など,無理して活動してしまうことの多い場面で使用し,自分からどうする

か選択できるようにする。

オ 感情が抑えられない時や手持無沙汰で不適切行動をしてしまいそうな時にできる活動を選択できるようにする。

イラストで,本人の興味のあること,クールダウンできることを複数用意し,イライラした際のクールダウンや,余暇での活

動を自分で選択してできるようにする。

指導の状況

ア 担当 OT のアドバイスから,「楽しい」「イライラする」には段階を設け,メーターをつけてどのレベルの感情にあるの

か自分で確認できるようにした。イライラした時にはどのレベルのイライラだったのか選択できる場面も出てきている。

イ 明らかにイライラしている時などの表情を撮影し,後で振り返るのに使用した。

ウ 毎朝,促さずとも自分で約束(「人をたたかない」「ポーンしない」など)を言って確認している。一日の行動表には,

本人が今一番好きな「おしゃれカレーパン」の写真を貼ることにし,取り組んだ。

エ 「やりたくないです」「がんばります」のカードを用いて,昨年度末から取り組むことができている。

オ 本人のブームが変化していくので,余暇活動表に適宜書き足して使用している。

成果

ア イライラや楽しさの程度を,イラストやメーターを使用して振り返る。

明らかにイライラしたり,パニックになったりした際には「イライラした」表情を選択できるようになってきている。しかし,本

人の正確な感情を表現する選択肢がないのか,黙々と作業ができた時に「イライラした」を選択したり,イライラして活動

が難しかった時に「楽しかった」を選択したりする時もある。継続して取り組む必要がある。

イ 感情の動きが見てわかる際には,表情を写真で撮り,振り返られるようにする。

写真で振り返ると,自分の姿を客観的に捉えられるのか,自分の顔を見て「イライラしたねー」と自覚できるようになって

きた。細かく記録し,イライラの原因理解にも結び付けたい。また,少し気持ちがソワソワしている時に撮影すると,気持

ちを落ち着かせる効果もあった(写真が好きであるため)。

ウ 不適切行動をしないと約束し,それを視覚的に示し,守れたらカレンダーに印をつける。

本人の好きなものを毎時間貼ることで,本人との関わりの時間が増えた。注意獲得行動として行っていた人を叩く行為

は無くなった。

エ 「やりたくないです」「がんばります」のカードを用意し,無理なく活動ができるようにする。

カードを用いて伝えることで,本当にやりたくないことは自分で伝えれば回避でき,無理せず過ごすことができるのだ,

と認識できているように思える。全ての活動において実践できているわけではないので,今後も実践していきたい。

オ 感情が抑えられない時や手持無沙汰で不適切行動をしてしまいそうな時にできる活動を選択できるようにする。

どうしてもイライラしてしまった時や,課題が早く終わった時に自分で表を見て選ぶことができた。最近では,表を見ず

に「〇〇する」とクールダウンの方法を選んで伝えることができている。

今後の展望

イライラした時や,感情が抑えられなくなった時に,自分で落ち着こうとする場面が増えてきている。高

等部卒業まであと約7か月であるが,その間にも引き続き取り組み,自分の気持ちと向き合う時間を作

っていきたい。本人が,気持ちを自覚した上で伝えることで過ごしやすくなるように,今後も取り組んで

いく。

(平成30年 広島県立広島特別支援学校)

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実 践 名 色々な物に興味を持ち,手先を使った活動に取り組もう

高等部3年 疾病による体幹機能障害,ダウン症,聴覚障害

障害の状態,発達や経験の程度,興味・関心,学習や生活の中で見られる長所やよさ,課題等について情報収集し自立活動の区分に即して整理する段階 健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

・健康状態は良

好。発作やアレル

ギー,服薬等はな

く,毎日ほぼ休ま

ず登校している。

・食べることが好き

で,給食は残さず

食べる。

・基本的には穏や

かな性格である。

・やりたくない作業

をしなければなら

ない時や気分が

乗らない時は意固

地になって作業や

行動することを嫌

がる。

・他者に自ら働き

かけて関わりを持

とうとすることがで

きる。

・他者の意図や感

情,集団生活にお

ける決まり等の理

解は不十分であ

る。

・聴覚障害がある

ため,聴覚による

環境の把握が困

難であるが,視覚

による環境の把握

は良好とみられ

る。

・平坦な道では独

歩が可能。坂道や

畑等の不安定な

場所では,四つ這

いになったり歩く

のを嫌がったりす

ることがある。

・手先の巧緻性は

低い。

・音声によるコミュニ

ケーションは困難で

ある。

・・大人の手や腕を引

っ張って自分の要求

を伝えることができ

る。

収集した情報を学習上又は生活上の困難,これまでの学習の習得状況の視点(学びの履歴)から整理する段階

・会話でのコミュニケーションに困難があるが,具体物やイラストを提示することで活動の内容が伝わることがある。(環・コ)

・いろいろな場所の写真カードとその場所のつながりを理解しつつある。(環・コ)

・平坦な道の歩行や階段の上り下りは比較的スムーズに行うことができるが,不安定な場所になると困難があるようである。(心・身)

・取り組む作業に対する理解と作業に取り組むだけの集中力の持続が難しい。(身・環)

・食べ物以外のものを口に入れて確かめることがあり,口に入れるものでないことを教えていかなければならない。(人・環)

・自分が好きなものに対する興味は深いが,それ以外に興味を示すことが少ない。(心・環)

収集した情報を卒業後の姿の観点から整理する段階 ・イラストや写真のカードを活用してコミュニケーションを取ることができる。

・平坦な道だけでなく,様々な状況の場所を確実に歩くことができる。

・手を使うことを意識し,手先の巧緻性を高める。

・物の用途を理解し,適切に扱うことができる。

課題を抽出し,課題同士がどのように関連しているかを整理し,中心的な課題を導き出す段階

指導すべき

課題の整理

・手,絵カード,特定の合図等で意思疎通を図り,支援者とのコミュニケーション方法を確立させる。(心,コ) ・体幹機能が向上することで,安定した独歩と不安定な場所での活動をしやすくする。(心,身) ・手指の操作性が向上することで,手先を使った動きを身に付ける。(環,身) ・様々な作業・活動に参加することで,周囲の対象物への興味を広げる。(心,環)

課題同士の関係を整理する中で今指導すべき指導目標として

指導目標 対象物への興味を養うとともに,手先を使った活動に取り組むことができる。

指導目標(ねらい)を達成するために必要な項目の選定

指導目標(ねら

い)を達成する

ために必要な項

目の選定

健康の保持 心理的な安定 人間関係の形成 環境の把握 身体の動き コミュニケーション

(2)状況の理解

と変化への対応

(1)他者とのかかわ

りの基礎

(2)他者の意図や

感情の理解

(3)自己の理解と

行動の調整

(4)感覚を総合的

に活用した周囲の

状況についての把

握と状況に応じた

行動

(5)認知や行動の

手掛かりとなる概念

の形成

(5)作業に必要な

動作と円滑な遂行

(1)コミュニケーシ

ョンの基礎的能力

選定した項目を

関連付けて具

体的な指導内

容を設定

ア 活動や作業の内容を写真や絵

カード等で提示し,知らせる。

イ 支援者の見本に注目させ,活

動の手順を知らせる。

ウ 支援者の支援を受けて作業に

取り組み,その後一人でも作業に

取り組ませる。

項目間

の関連

付け

Page 50: 広島県立肢体不自由特別支援学校 自立活動実践事例集 · はじめに 平成30 年8月10 日(金)に広島県立西条特別支援学校を会場として,第6回の自立活

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指導する際の指導法,具体的手だて,児童生徒の状況,成果について

具体的手立て

ア 活動や作業の内容を写真や絵カード等で提示し,知らせる。

・実際に使用する道具や場所の写真を利用してカードを作成し,提示する。

・活動を行うタイミングでカードを提示し,活動とそのカードの意味や内容をリンクさせる。

イ 興味のありそうな素材のものを使用し,手に取って感触を確かめさせる。

・生徒の見やすい所に材料を提示し,生徒が手を伸ばすのを待つ。手に取った材料を用いて創作活動に取り組む

ウ 支援者の支援を受けて作業に取り組み,その後一人でも作業に取り組ませる。

・絵カードの提示,見本の提示の後で,行う活動や作業に関する動作を,支援者が生徒の手を取って実際に体験させ,

活動に対する見通しを持たせる。

エ 指先でつまめる程度のものを容器に入れる。

・ビー玉やおはじき,デコレーションボール等をペットボトル等の入り口がやや小さくなっている容器に入れることで手指

の巧緻性を向上させる。

指導の状況

ア 活動や作業の内容を写真や絵カード等で提示し,知らせる。

・カードを提示すると,カードを手に取って凝視する様子がある。

イ 興味のありそうな素材のものを使用し,手に取って感触を確かめさせる。

・目についたものの中で,自分の手に取りやすい大きさのものにはよく手を伸ばしている印象であった。注視した後はほ

ぼ対象物を自分の口に運んで,自分が手に取ったものが何かを確かめるようなしぐさを見せている。

ウ 支援者の支援を受けて作業に取り組み,その後一人でも取り組ませる。

・基本的に作業に対する興味は薄く,自分自身で取り組もうとすることは少ないが,自分が好きな刺激(振動刺激)が得ら

れる作業(やすりがけ等)には興味を示し,支援者が支援しなくても継続する様子が見られた。

エ 指先でつまめる程度のものを容器に入れる。

・右手(利き手)でビー玉やおはじき等をペットボトルに入れることはできたが,左手を容器に添えるという意識がないとみ

られるため,支援者の支援が必要であった。

成果

ア 活動や作業の内容を写真や絵カード等で示し,知らせる。

・カードを提示することで活動や作業に対する見通しを持てる場合もあったが,絵や写真が何を示しているか理解してい

るかどうかは不明である。カードが示すものと自分が行う活動や作業をリンクさせて見通しを持たせるためには,継続して

指導を行う必要がある。

イ 興味のありそうな素材のものを使用し,手に取って感触を確かめさせる。

・所見のものについては興味を持って手を伸ばす様子が見られる。口に入れるものでないものでも口に運んでしまうこと

が多いため,区別をつける練習をする必要があると思われる。

ウ 支援者の支援を受けて作業に取り組み,その後一人でも取り組ませる。

・作業に対する興味や意欲はあまり見られなかったが,自分の好きな刺激が得られる作業に対しては興味を持てるよう

で,このような作業に繰り返し取り組むことができれば,作業に対する意欲を伸ばすことができると考えられる。

エ 指先でつまめる程度のものを容器に入れる。

・「ものをつまんで容器に入れる」という動作自体は理解しているが,スムーズにその動作を行う方法についての理解はま

だ不十分である。利き手と反対の手に対する意識が弱いと考えられるため,積極的に左手を使う必要がある。

今後の展望

・様々な活動や作業に多く取り組み,経験を積むことで事業所でも作業に参加できる姿を目指す。

・絵や写真を用いて対象の場面や作業,活動,場所に対する知識を増やし,提示されたものとの関連性を持てるように

繰り返し指導することで,自分が取り組む作業・活動に見通しを持つことができる姿を目指す。

・「楽しい」と思えるような活動や題材の設定と教材を工夫することで,意欲的に活動に参加できる姿を目指す。

(平成 30年 広島県立福山特別支援学校)